(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】磁力回転装置
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20230215BHJP
H02K 21/16 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K21/16 M
(21)【出願番号】P 2019036517
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】505001063
【氏名又は名称】小松 康▲広▼
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】小松 康廣
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-051801(JP,A)
【文献】特開平09-233872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に沿って等間隔となるように複数の電磁石が設けられた固定子と、
回転軸を中心に回転可能に構成され、回転方向に沿って等間隔となるように複数の界磁部が設けられた回転子と、を有し、前記電磁石が前記界磁部に作用することによって前記回転子を回転させる磁力回転装置であって、
前記複数の界磁部それぞれは、
前記回転方向に隣接し且つ回転中に前記電磁石の磁極に対向するように配置された一対の永久磁石を含み、前記一対の永久磁石のうちの一方の永久磁石における前記固定子側の磁極は前記電磁石の磁極と同極性であり、他方の永久磁石における前記固定子側の磁極は前記電磁石の磁極と異極性であり、
前記回転子に設けられ、前記一対の永久磁石それぞれの前記回転軸側の裏面に近接又は接触するように配置され、前記一方の永久磁石の前記裏面と前記他方の永久磁石の前記裏面との間の磁路を構成する磁性体を更に備えることを特徴とする磁力回転装置。
【請求項2】
前記一対の永久磁石それぞれは、直方体形状であり、前記回転軸の軸方向から見た場合にそれぞれの磁極面の組がV字形状を成すように配置され、且つ、所定の対称面を基準にして面対称となるように配置されている、請求項1に記載の磁力回転装置。
【請求項3】
前記対称面は、前記回転軸の中心線を含まない、請求項2に記載の磁力回転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子に設けられた電磁石が回転子に設けられた界磁部に作用することによって前記回転子を回転させる磁力回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石が配置された回転体(回転子)と、この回転体の永久磁石の磁極に対して回転方向の磁力を生じさせる電磁石とを備えた磁力回転装置が広く知られている(特許文献1及び2参照)。この種の磁力回転装置において、前記回転体は、円盤状に形成されており、回転軸を中心に回転可能に設けられている。前記回転体には磁極が外向きとなるように永久磁石が取り付けられている。また、固定子には、前記回転軸と平行な磁束線を発生するように電磁石が設けられている。回転体が回転することによって電磁石に接近する位置に永久磁石が到達すると、電磁石が通電されて電磁石に磁束が発生し、電磁石の鉄心の磁極の表面に磁荷が生じる。これにより、電磁石の磁極の磁荷と永久磁石による磁場即ち磁力線との作用により電磁力が発生する。なお、磁力線は磁場の様子を表すものである。磁束密度は透磁率と磁場との積であるから、電磁力は、磁化と磁束線との作用によって発生するとも言える。なお、磁束線は、磁束密度を表す曲線である。この力が回転体を回転させる方向に作用することによって回転体に回転トルクが発生し、回転体の回転軸から所望の回転力が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-187080号公報
【文献】特許第5792411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の磁力回転装置は、周方向に配置された各永久磁石のいずれかの永久磁石が形成する磁束線によって、電磁石の通電状態において逆回転方向に作用する磁力が生じるおそれがある。この逆回転方向の磁力は、磁力回転装置の回転効率を低下させ、回転出力も低下させる。
【0005】
本発明の目的は、回転駆動状態において逆回転方向に作用する磁力を弱めることが可能であり、長い円弧状(ドーム状)の磁束線を生じさせることにより、回転効率を向上させ、且つ、回転出力を増大させることが可能な磁力回転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明は、円周方向に沿って等間隔となるように複数の電磁石が設けられた固定子と、回転軸を中心に回転可能に構成され、回転方向に沿って等間隔となるように複数の界磁部が設けられた回転子と、を備え、前記電磁石が前記界磁部に作用することによって前記回転子を回転させる磁力回転装置である。本発明の磁力回転装置において、前記複数の界磁部それぞれは、前記回転方向に隣接し且つ回転中に前記電磁石の磁極に対向するように配置された一対の永久磁石を含み、前記一対の永久磁石のうちの一方の永久磁石における前記固定子側の磁極は前記電磁石の磁極と同極性であり、他方の永久磁石における前記固定子側の磁極は前記電磁石の磁極と異極性である。また、本発明の磁力回転装置は、前記回転子に設けられ、前記一対の永久磁石それぞれの前記回転軸側の裏面に近接又は接触するように配置され、前記一方の永久磁石の前記裏面と前記他方の永久磁石の前記裏面との間の磁路を構成する磁性体を更に備える。
【0007】
このように本発明が構成されているため、非通電時に電磁石の鉄心と一対の永久磁石それぞれに作用する吸引力に加え、通電時に電磁石の磁極に生じた磁荷が一方の永久磁石に作用する磁極間反発力(磁力)と、他方の永久磁石に作用する磁極間吸引力(磁力)とが生じる。また、磁性体が設けられることによって、一対の永久磁石の裏面側の空間に磁束が生じない。つまり、一対の永久磁石の裏面側の二つの磁極が実質的に消滅する。これにより、一対の永久磁石の裏面の磁束が電磁石に作用することによって逆回転方向の磁力が生じることを防止できる。また、一対の永久磁石の表側の面(径方向外側の面)の二つの磁極間には円弧状(又はドーム状)の磁束線だけが形成される。このため、各表側の面の磁極から裏面の磁極に磁束が回り込むことが防止される。また、通電時に電磁石の磁極に磁荷が生じ、これが前記磁束線と作用することにより磁力が増加し、磁力回転装置の回転効率が向上する。また、通電時間を長くすることができるので、回転出力も増大する。
【0008】
(2) また、前記一対の永久磁石の二つの磁極面の組がV字形状を成すように配置されている。より詳細には、前記一対の永久磁石それぞれは、直方体形状であり、前記回転軸の軸方向から見た場合にそれぞれの磁極面の組がV字形状を成すように配置され、且つ、所定の対称面を基準にして面対称となるように配置されている。この対称面は、回転軸中心と平行である。例えば、前記一対の永久磁石それぞれの外側の各磁極面が成す角度θが、90°<θ<180°に定められており、より好ましくは、120°<θ<150°に定められている。
【0009】
これにより、一対の永久磁石において、一方の磁極面から他方の磁極面に至る空間の磁束密度が大きくなり、接する他の一対の永久磁石との間で磁束線の回り込みが軽減する。その結果、回転駆動状態におけるトルク定数を大きくすることができる。
【0010】
(3) また、前記対称面は、前記回転軸の中心線を含まないことが好ましい。
【0011】
これにより、電磁石が通電されていない状態、つまり、磁力回転装置が停止した状態では、仮に、前記一対の永久磁石が前記電磁石に対向した位置に配置された場合、前記一対の永久磁石のそれぞれと電磁石の鉄心との距離に差が生じる。即ち、この場合、前記一対の永久磁石のうちの一方の永久磁石は、他方の永久磁石よりも電磁石の鉄心に近くなる。したがって、このような構成であれば、前記一対の永久磁石のうち、前記鉄心に近いほうの特定の永久磁石と前記鉄心との吸引力が他方との吸引力よりも勝る。これにより、適切な向きの始動トルクを得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回転駆動状態において逆回転方向に作用する磁力を無くすことが可能であり、長い円弧状(又はドーム状)の多数の磁束線を生じさせることにより、回転効率を向上させ、且つ、回転出力を増大させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る磁力回転装置10の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、磁力回転装置10の概略構成を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、一対の永久磁石19及び電磁石17の配置を示す図であり、
図2における切断線III-IIIの模式断面図である。
【
図4】
図4は、電磁石17が非通電時の永久磁石19の静止姿勢を示す部分拡大図である。
【
図5】
図5は、一対の永久磁石19及び電磁石17の配置と磁束の影響を説明するための部分拡大図である。
【
図6】
図6は、一対の永久磁石19の他の構成、及び電磁石17の配置と磁束の影響を説明するための部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明を具体化した一例にすぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0015】
[磁力回転装置10]
図1及び
図2に示すように、本発明の実施形態に係る磁力回転装置10は、単相式であり、主として、複数の電磁石17を有する固定子12と、一対の永久磁石19(19A,19B)等を含む電磁石17と同数の複数の界磁部18を有する回転体14(回転子の一例)と、を備えている。磁力回転装置10は制御装置21(
図2参照)に電気的に接続されており、制御装置21によって磁力回転装置10の回転駆動が制御される。
【0016】
電磁石17は、二つの磁極34(34A,34B、
図2参照)を有する。制御装置21は、回転体14の回転軸37(回転軸の一例)に取り付けられたロータリーエンコーダーなどの位置検出センサー46(
図2参照)からの信号に基づいて、回転軸37の回転角度を算出し、後述の永久磁石19が電磁石17の磁極34に接近したタイミングでコイル32に電流を一時的に供給する。このように構成された磁力回転装置10では、磁極34の磁荷と永久磁石19の磁束線との作用による力が生じる。そして、この電磁力が回転体14の回転方向D10へ作用することによって、回転体14が回転する。
【0017】
本実施形態では、磁力回転装置10は、直流電源からの駆動電圧が供給されることによって電動機(モーター)として動作する。以下、磁力回転装置10の各構成要素について詳細に説明する。
【0018】
[回転体14]
図2に示すように、回転体14は、回転軸37と、回転軸37が中心を貫通する二つの支持円盤39(39A,39B)とを備えている。それぞれの支持円盤39は同形同大に形成されており、これらは回転軸37に固定されている。それぞれの支持円盤39は、スペーサー41(
図1,
図3参照)を介して所定間隔を隔てて、互いに平行を維持した状態で回転軸37に固定されている。回転軸37は、後述する一対の側板25によって回転可能に支持されており、これにより、回転体14は、回転軸37を中心に回転可能となる。なお、各支持円盤39の間隔は、電磁石17の各磁極34(34A,34B)の間隔や永久磁石19(19A,19B)のサイズなどによって決定される。
【0019】
支持円盤39は、合成樹脂材料によって一定厚みの円盤状に形成された部材である。具体的には、支持円盤39は、エンジニアリングプラスチックの一種であるポリアセタール(POM)で形成されている。なお、支持円盤39の材質はポリアセタールに限られず、エンジニアリングプラスチックであるポリカーボネートなどを用いることも可能である。
【0020】
図3は、支持円盤39Aに設けられた界磁部18と固定子12(
図1及び
図2参照)に設けられた電磁石17との位置関係を示す図である。
図3は、通電された電磁石17と界磁部18との間で回転方向D10に最大のトルクが生じている状態を示す。
図3に示すように、支持円盤39Aの一方(片方)の側面外縁部391に複数の界磁部18が取り付けられている。界磁部18は、一対の永久磁石19A,19Bと、これらを支持する磁性体からなる板状の磁性体43と、を有する。なお、界磁部18については後述する。各界磁部18は、側面外縁部391付近に取り付けられている。本実施形態では、それぞれの支持円盤39の側面外縁部391に4つの界磁部18が取り付けられている。4つの界磁部18は、支持円盤39の一方の側面外縁部391のみに配置されている。
【0021】
全ての支持円盤39において、4つの界磁部18は、回転軸37の円周に沿う周方向に沿って等角度で且つ等間隔に配置されている。言い換えると、4つの界磁部18は、回転方向D10に沿って等角度で且つ等間隔に配置されている。具体的には、界磁部18は、回転軸37を中心にして支持円盤39を周方向に4分割した角度間隔α(=90度)で取り付けられている。
【0022】
図1乃至
図3に示すように、界磁部18は、一対の永久磁石19A,19Bと、板状の磁性体43と、を有する。
【0023】
一対の永久磁石19A,19Bは、それぞれ、表面及び裏面に磁極が形成された概ね正方形の平板状のものである。言い換えると、永久磁石19A,19Bは平板状の直方体形状に形成されたものである。永久磁石19A,19Bは、その一方の側端部が支持円盤39の外周縁において数mm程度埋め込まれることにより支持円盤39に固定されている。
【0024】
永久磁石19A,19Bそれぞれの一辺のサイズは、電磁石17の磁極34の長さと同等のサイズに定められている。
【0025】
永久磁石19A,19Bは、回転方向D10に沿う周方向に互いに隣接しており、前記周方向に近接する端部同士が接触している。また、永久磁石19A,19Bは、回転体14の回転中に電磁石17の磁極34に対向するように配置されている。なお、
図3に示すように、支持円盤39Aに設けられた一対の永久磁石19A,19Bは、回転体14の回転中に電磁石17の一方の磁極34A(N極)に対向する。また、支持円盤39Bに設けられた一対の永久磁石19A,19Bは、回転体14の回転中に電磁石17の他方の磁極34B(S極)に対向する。なお、本実施形態では、
図3乃至
図5に示すように永久磁石19A,19Bにおいて前記周方向に近接する端部同士が接触した構成を例示するが、各端部同士が微小な間隙を隔てて離間していてもよい。
【0026】
図3に示すように、支持円盤39Aの側面外縁部391においては、一対の永久磁石19A,19Bのうち、回転方向D10の下流側に位置する一方の永久磁石19Aの外側の磁極はN極であり、電磁石17の磁極34(N極)と同極性である。一方、回転方向D10の上流側に位置する他方の永久磁石19Bの外側の磁極はS極であり、電磁石17の磁極34(N極)とは異なる極性(異極性)である。
【0027】
また、支持円盤39Bの側面外縁部392においては、一対の永久磁石19A,19Bは、支持円盤39Aの一対の永久磁石19A,19Bの配置位置とは逆の位置に配置されている。つまり、支持円盤39Bの側面外縁部392においては、一対の永久磁石19A,19Bのうち、永久磁石19Bが回転方向D10の下流側の位置に配置されており、この永久磁石19Bは、電磁石17の磁極34B(S極)と同極性である。また、永久磁石19Aが回転方向D10の上流側の位置に配置されており、この永久磁石19Aは、電磁石17の磁極34B(S極)とは異なる極性(異極性)である。
【0028】
図1に示すように、各支持円盤39A,39Bに設けられた永久磁石19A,19Bは、回転軸37の軸方向に並んで配置されている。回転体14が所定の回転角度になると、支持円盤39Aの永久磁石19Aの外側の磁極(N極)が電磁石17の磁極34A(N極)に対向し、支持円盤39Bの永久磁石19Bの外側の磁極(S極)が電磁石17の磁極34B(S極)に対向する。
【0029】
界磁部18は、永久磁石19A,19Bそれぞれの回転軸37側の裏面に近接又は接触するように板状の磁性体43が設けられたものである。磁性体43は、軟鉄などの強磁性体で構成されており、永久磁石19A,19Bの裏面側に設けられることによって、永久磁石19Aの裏面と永久磁石19Bの裏面との間の磁路を構成する。永久磁石19A,19Bは、磁性体43によって裏面側で互いに連結されている。界磁部18は、各支持円盤39上に設置されている。なお、支持円盤39は、回転軸37に直交している。磁性体43の一端は支持円盤39に埋め込まれることによって支持円盤39に支持されている。各支持円盤39には四つの磁性体43が支持されており、一つの磁性体43に一対の永久磁石19(19A,19B)の裏面が結合されている。
【0030】
図3に示すように、本実施形態では、互いに隣接する永久磁石19A,19Bは、回転軸37の軸方向から見た場合に、互いの外側の磁極面がV字形状を成すように配置されている。より詳細には、
図3の拡大図に示すように、本実施形態では、一対の永久磁石19A,19Bそれぞれは、回転軸37の軸方向から見た場合に、それぞれの磁極面がV字形状を成すように配置されており、且つ、後述する所定の対称面P2に対して面対称となるように配置されている。永久磁石19A,19Bの各磁極面が成す角度θは、磁力回転装置10において要する電磁石17の磁力や永久磁石19A,19Bの磁束分布などに応じて適宜定められるが、90°<θ<180°の範囲内で選択された任意の角度に定められており、より好ましくは、120°<θ<150°の範囲内で選択された任意の角度に定められている。
【0031】
本実施形態では、前記対称面P2は、界磁部18の重心点Q(
図3の拡大図参照)を含み、支持円盤39に垂直な面であって、且つ、所定の垂直面P1(
図3の拡大図参照)に対して所定の角度δで交差する面であって、
図3の拡大図において、前記垂直面P1に対して前記角度δだけ回転方向D10とは反対側へ前記重心点Qを中心として回転した面である。ここで、前記垂直面P1は、回転軸37の中心線、及び界磁部18の重心点Qを含み、支持円盤39に垂直な面である。
【0032】
一対の永久磁石19A,19Bそれぞれは、この対称面P2に対して面対称となるように配置されている。ここで、前記角度δは、永久磁石19A,19Bの磁力や、永久磁石19A,19Bと電磁石17との距離などによって定められる角度であり、1度から5度の範囲で定められる角度である。本実施形態では、前記角度δは、1度または2度である。なお、前記角度δは微小であるため、各図において、永久磁石19A,19Bに傾倒状態及び前記角度δの図示を省略している場合がある。
【0033】
このような対称面P2に対して面対称となるように一対の永久磁石19(19A,19B)が配置されているため、仮に、永久磁石19A,19Bそれぞれが電磁石17の鉄心30に対向した位置に配置された場合、永久磁石19A,19Bそれぞれと電磁石17の鉄心30との距離に差が生じる。即ち、
図3の拡大図に示す例の場合、永久磁石19A,19Bのうちの一方の永久磁石19Aは、他方の永久磁石19Bよりも電磁石17の鉄心30に近くなる(
図4参照)。したがって、このような構成であれば、電磁石17が通電されていない状態、つまり、磁力回転装置10が停止している状態では、電磁石17と永久磁石19とが
図4に示す位置関係となり、鉄心30に近いほうの特定の永久磁石19Aと鉄心30との吸引力が、他方の永久磁石19Bと鉄心30との吸引力よりも勝る。したがって、
図4に示す状態で停止する。
【0034】
磁力回転装置10において、
図4に示す停止状態でコイル32が通電されると、鉄心30の磁極がN極になり、回転方向D10の始動トルクが生じ、回転体14が回転方向D10へ回転する。コイル32への通電は、一対の永久磁石19が電磁石17を離れるまで継続し、一対の永久磁石19が電磁石17から離れるとコイル32が非通電となり、慣性によって回転体14が回転方向D10へ回転する。そして、一対の永久磁石19が回転方向D10下流側の他の電磁石17に近づくと、その電磁石17のコイル32が再び通電される。磁力回転装置10はこのようにして運転可能となる。
【0035】
なお、磁性体43も、永久磁石19A,19BのV字状の配置位置に対応して、周方向の中央が前記角度θとなるように屈曲している。
【0036】
本実施形態では、二つの支持円盤39それぞれに界磁部18が取り付けられた回転体14を例示するが、回転体14は、上述の構成のものに限られない。例えば、両端に回転軸を有する円柱体又は筒状体を備え、その外周面に回転軸の周方向に沿って4つの界磁部18が取り付けられた構成の回転体(回転子)であってもかまわない。また、本実施形態では、各支持円盤39において回転軸37の周方向に4つの界磁部18が配置されているが、各支持円盤39における界磁部18の配置数は4つ以上でも4つ未満でもよく、少なくとも1つの界磁部18が設けられていればよい。ただし、支持円盤39に界磁部18が1つだけ取り付けられた構成の場合は、回転体14の重量バランスを保つべく、回転軸37を挟んで反対側に同質量のバランサーを設けることが望ましい。また、例えば、各支持円盤39に4つの界磁部18が設けられ、各界磁部18に対応する8つの磁極34が設けられた二相式の磁力回転装置10に対しても、本発明は適用可能である。
【0037】
[固定子12]
図1及び
図2に示されるように、固定子12は、回転体14の外側に設けられている。言い換えると、回転体14が固定子12の内側に設けられている。つまり、本実施形態の磁力回転装置10は、所謂インナーロータタイプの回転装置である。なお、本発明は、インナーロータタイプのものに限られず、アウターロータタイプのものやフラットロータタイプのものにも適用可能である。
【0038】
固定子12は、フレーム23と、フレーム23に保持された電磁石17とを備えている。フレーム23は、各支持円盤39それぞれの更に外側に設けられた互いに平行な一対の側板25と、一対の側板25間に架け渡されて側板25同士を回転軸37の軸方向に固定する四つの支持板31とを有する。回転軸37は、各側板25それぞれの中央に形成された軸孔(不図示)にベアリング(不図示)を介して支持されており、これにより、回転体14が回転可能となる。
【0039】
フレーム23には、全部で4つの電磁石17が取り付けられている。後述するように、電磁石17は、側板25間に架け渡された4つの支持板31に固定されている。
【0040】
図2に示されるように、回転軸37の一方端には、ロータリーエンコーダーなどの位置検出センサー46が設けられている。位置検出センサー46によって、回転体14の永久磁石19の回転位置が制御装置21に通知される。制御装置21は、この回転位置に基づいて電磁石17のコイル32に通電する。具体的には、支持円盤39Aの永久磁石19A(N極)が後述する磁極34Aに最接近し、支持円盤39Bの永久磁石19B(S極)が後述する磁極34Bに最接近する位置に到達すると、電磁石17を通電し、電磁石17の磁極34AにN極を生じさせ、磁極34BにS極を生じさせて、各磁極34に磁束を発生させる。
【0041】
[電磁石17]
図2に示されるように、各電磁石17は、回転軸37の軸方向に沿って二つの磁極34が一列に並ぶように配置されている。本実施形態では、4つの支持板31のそれぞれに1つの電磁石17が固定されている。支持板31は、樹脂や非磁性金属などで形成された厚みのある長尺状の板状部材であり、その長手方向の両端は、一対の側板25それぞれにネジ等の連結具によって固定されている。
図3に示されるように、4つの電磁石17は、回転軸37の周方向(円周方向)に沿って、角度間隔90度のピッチで等角度に取り付けられている。なお、各電磁石17は、配置位置が異なる以外は全て同じ構成である。
【0042】
電磁石17は、鉄心30を有する。鉄心30は強磁性体で構成されており、本実施形態では、板状のケイ素鋼板が複数枚重ね合わされたものが用いられている。各ケイ素鋼板には、通電時に渦電流が発生し難いように絶縁塗料が塗布されている。鉄心30は、一方の側方から見た形状がアルファベットのC字形状、U字形状、又は片仮名のコの字状に形成されたものであり、C型コア又はU型コアとも称されている。鉄心30は、回転軸37の軸方向に隔てた二つの脚部を有しており、各脚部それぞれには、電線が巻回されてなるコイル32が設けられている。各脚部には、同じ巻回数(ターン数)のコイル32が設けられている。このコイル32が通電されると、鉄心30の一方側の脚部の端面に磁極34A(N極)が現れ、鉄心30の他方側の脚部の端面に磁極34B(S極)が現れる。
【0043】
なお、本実施形態では、フレーム23に4つの電磁石17が取り付けられた固定子12を例示するが、固定子12はこのような構成に限られず、少なくとも一つの電磁石17がフレーム23に設けられていればよい。また、電磁石17の数は、上述した界磁部18と同数でもよく、また、界磁部18の数の整数倍の数の電磁石17が周方向に等角度で且つ等間隔に設けられていてもよい。
【0044】
[実施形態の作用・効果]
上述したように、磁力回転装置10においては、各支持円盤39に、回転方向D10に隣接し且つ回転中に電磁石17の磁極34に対向するように配置された一対の永久磁石19(19A,19B)が設けられており、一対の永久磁石19のうちの一方の永久磁石の外側の磁極は電磁石17の磁極34と同極性であり、他方の永久磁石19の外側の磁極は電磁石17の磁極34と異極性である。また、一対の永久磁石19それぞれの裏面に近接又は接触するように磁性体43が設けられている。このため、非通電時に電磁石17の鉄心30と一対の永久磁石19それぞれに作用する吸引力に加え、通電時に電磁石17の磁極34(例えば磁極34A)に生じた磁荷が一方の永久磁石19(例えば永久磁石19A)に作用する磁極間反発力(磁力)と、他方の永久磁石(例えば永久磁石19B)に作用する磁極間吸引力(磁力)とが生じる。
【0045】
図5は、永久磁石19及び電磁石17の配置と磁束の影響を説明するための部分拡大図である。
図5(A)は、電磁石17の通電中に界磁部18との間で回転方向D10に最大のトルクが生じている状態を示す。また、
図5(B)は、
図5(A)の状態から回転方向D10へ回転体14が所定角度だけ回転して永久磁石19Bと磁極34Aとが接近した状態を示す。
図5に示すように、磁性体43が設けられることによって、一対の永久磁石19の裏面側の空間に磁束が生じずにその磁束は磁性体43の内部を通過する。したがって、一対の永久磁石19の裏面の磁極は実質的に消滅する。一対の永久磁石19の裏面からの磁束が表側の磁極に回り込み、それが電磁石17作用して逆回転方向の磁力が生じるということを防止できる。また、一対の永久磁石19の外面側の空間181には、円弧状(又はドーム状)の磁束線G11(破線参照)が形成されて、一対の永久磁石19の各外面の磁極から裏面の磁極に磁束が回り込むことが防止される。すなわち、各外面の磁極から裏面の磁極に回り込むような磁束線が生じない。これにより、空間181における磁束密度が大きくなり、通電時に電磁石17の各磁極に磁荷が生じ、これが前記磁束線G11に作用することにより磁力が増加し、磁力回転装置10の回転効率が向上する。
【0046】
また、
図5において、一対の永久磁石19は、それぞれの外側の磁極面がV字形状を成すように配置されており、且つ、前記対称面P2に対して面対称となるように配置されている。そのため、一対の永久磁石19において、一方の磁極面から他方の磁極面に至る磁路だけが主に形成されることになり、空間181の磁束密度がより大きくなる。その結果、回転方向D10に隣接する他の界磁部18の他の永久磁石19との間で形成される磁束線G12(点線参照)を通る磁束の回り込みが軽減する。その結果、磁力回転装置10が回転駆動状態であるときに、磁束線G12による磁束と通電時の電磁石17の磁極34とによって生じる逆回転方向に作用する磁力を無くすことができる。その結果、回転効率を向上させることができる。また、通電時間を長くすることができるので、回転出力を増大させることも可能となる。
【0047】
更にまた、永久磁石19A,19Bが、垂直面P1に対して所定の角度δだけ回転方向D10とは反対の逆回転方向側へ回転した対称面P2に対して面対称に配置されているため、上述したように、特定の永久磁石19Aと鉄心30との吸引力が、他方の永久磁石19Bと鉄心30との吸引力よりも勝り、その結果、磁力回転装置10が単相の電動機であったとしても、電磁石17が通電されることにより回転方向D10の始動トルクを得ることができる。
【0048】
なお、上述の実施形態では、互いに隣接する永久磁石19A,19Bの外側の磁極面がV字形状を成すように永久磁石19A,19Bが配置された構成を例示したが、本発明は、この構成に限られない。例えば、
図6に示すように、互いに隣接する永久磁石19A,19Bの外側の磁極面が同一面状に配置されていてもよい。この構成の場合も、上述したように、一対の永久磁石19A,19Bそれぞれは、上述した対称面P2(
図3の拡大図を参照)に対して面対称となるように配置されている。ここで、
図6は、永久磁石19及び電磁石17の他の配置例と磁束の影響を説明するための部分拡大図である。
図6(A)は、電磁石17の通電中に界磁部18との間で回転方向D10に最大のトルクが生じている状態を示す。また、
図6(B)は、
図6(A)の状態から回転方向D10へ回転体14が所定角度だけ回転して永久磁石19Bと磁極34Aとが接近した状態を示す。なお、
図6では、永久磁石19A,19Bにおいて前記周方向に近接する端部同士が微小な間隔を隔てて離間した構成を例示するが、各端部同士が接触していてもよい。
【0049】
ここで、
図6に示す例では、回転方向D10に隣接する他の界磁部18の他の永久磁石19との間で形成される磁束線G12(点線参照)を通る磁束の磁路長がV字形状の場合と比べてやや長くなり、磁束線G12の磁束と通電時の電磁石17の磁極34とによって生じる逆回転方向に作用する電磁力もやや増加する。そのため、このような課題を解消するためにも、
図3に示すように、一対の永久磁石19は、それぞれの表側の磁極面がV字形状を成すように配置されていることがより好ましい。この構成であれば、回転駆動状態において磁束線G12による磁束と通電時の電磁石17の磁極34とによって生じる逆回転方向に作用する磁力を弱めることができ、回転効率を向上させ、且つ回転出力を増大させることが可能となる。なお、隣接する界磁部18同士が近くに配置された構成の場合に上述した逆回転方向に作用する磁力の影響が大きくなるため、このような構成において本発明は好適である。
【0050】
また、上述の実施形態では、一対の永久磁石19A,19Bそれぞれが、上述した対称面P2(
図3の拡大図を参照)に対して面対称となるように配置された構成を例示したが、本発明はこの構成に限られない。つまり、一対の永久磁石19A,19Bそれぞれが、上述した垂直面P1(
図3の拡大図参照)に対して面対称となるように配置されていてもよい。この構成において、磁力回転装置10が単相の構成である場合は、上述したような回転方向D10の始動トルクを確実に得ることができないが、磁力回転装置10が二相以上の多相の構成である場合は、各相の電磁石17の通電タイミングを適宜制御することにより、回転方向D10の始動トルクを得ることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10:磁力回転装置
12:固定子
14:回転体
17:電磁石
18:界磁部
19,19A,19B:永久磁石
21:制御装置
23:フレーム
25:側板
30:鉄心
31:支持板
32:コイル
34,34A,34B:磁極
37:回転軸
39,39A,39B:支持円盤
41:スペーサー
43:磁性体
46:位置検出センサー