(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】釣用リール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/015 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
A01K89/015 E
(21)【出願番号】P 2019049844
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】503230070
【氏名又は名称】シマノコンポネンツ マレーシア エスディーエヌ.ビーエッチディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チョウ チュン ウィ
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-284458(JP,A)
【文献】特開2009-278915(JP,A)
【文献】特開2014-226071(JP,A)
【文献】特開2009-82027(JP,A)
【文献】特開2010-110256(JP,A)
【文献】特開2015-84712(JP,A)
【文献】特開2013-162761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣用リールであって、
軸受収容部を有するリール本体と、
前記リール本体に支持されたスプール軸と、
ギア本体と、前記ギア本体の中間部の外周面に形成された歯部を有し、前記スプール軸の軸周りに回転可能なピニオンギアと、
前記ピニオンギアの外周面に装着され、前記ピニオンギアの前記歯部と軸方向に隣接して配置された大径部と、前記大径部の外径よりも小径の小径部と、を有する筒状のカラー部材と、
前記リール本体の前記軸受収容部に配置され、前記カラー部材の前記小径部の外周面に接触する内輪を有し、前記カラー部材を介して前記ピニオンギアを回転可能に支持する軸受と、
前記リール本体の前記軸受収容部の内周面と前記カラー部材の前記大径部の外周面に接触して配置された環状のシール部材と、
を備えた、釣用リール。
【請求項2】
前記カラー部材の前記大径部の外径は、前記ピニオンギアの前記歯部の歯底の径よりも大きい、
請求項1に記載の釣用リール。
【請求項3】
前記ピニオンギアは、前記ギア本体に形成され前記カラー部材が装着される装着部を有し、
前記装着部の外径は、前記ピニオンギアの前記歯部の外径よりも小さい、
請求項1又は2に記載の釣用リール。
【請求項4】
前記シール部材は、前記カラー部材の前記大径部に近づくにつれて厚みが薄くなるリップ部を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の釣用リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣用リール、特に、スプール軸とその軸周りに回転可能なピニオンギアを支持する軸受を有する釣用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえばスプール軸の軸周りに配置され、スプールの糸繰り出し方向の回転を制動するレバードラグ機構を有する釣用リールが知られている。レバードラグ機構の一部は、リール本体のハンドル側を覆うカバー部材の内部に配置されている。カバー部材は、筒状のボス部を有しており、ボス部の内部には、ピニオンギアを回転可能に支持する軸受が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の釣用リールでは、海水がリール本体の内部に浸入したときにピニオンギアを支持する軸受に海水が付着して、軸受の腐食や、軸受の回転性能が低下するおそれがある。また、リール本体の内部に塗布したグリスが軸受内部に浸入して回転性能が損なわれるおそれがある。このため、シール部材等を軸受に隣接して配置することが考えられるが、ピニオンギアの歯部の凹凸が防水の妨げになり、十分な効果が得られない。
【0005】
本発明の課題は、釣用リールにおいて、ピニオンギアを支持する軸受に海水が付着することやグリスが浸入することを抑制できる釣用リールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る釣用リールは、リール本体と、スプール軸と、ピニオンギアと、カラー部材と、軸受と、シール部材と、を備える。リール本体は、軸受収容部を有する。スプール軸は、リール本体に回転可能に支持されている。ピニオンギアは、スプール軸の軸周りに回転可能である。ピニオンギアは、ギア本体と、ギア本体の中間部の外周面に形成された歯部と、を有する。カラー部材は、筒状であり、ピニオンギアの外周面に装着される。カラー部材は、ピニオンギアの歯部と軸方向に隣接して配置された大径部と、大径部の外径よりも小径の小径部と、を有する。軸受は、リール本体の軸受収容部に配置され、カラー部材を介してピニオンギアを回転可能に支持する。軸受は、カラー部材の小径部の外周面に接触する内輪を有する。シール部材は、環状であり、リール本体の軸受収容部の内周面とカラー部材の大径部の外周面に接触して配置される。
【0007】
この釣用リールでは、ピニオンギアの歯部に隣接して配置されたカラー部材の大径部にシール部材が接触して配置されるので、リール本体の内部に海水が浸入したときに、海水が軸受に付着することをシール部材によって効果的に抑制することができる。また、リール本体に塗布したグリスが軸受内部に浸入することをシール部材によって効果的に抑制することができる。また、ピニオンギアがカラー部材を介して軸受に支持されるので、ピニオンギアを軸受で精度よく支持することができる。
【0008】
好ましくは、カラー部材の大径部の外径は、ピニオンギアの歯部の歯底の径よりも大きい。この場合は、海水やグリスがピニオンギアの歯部を伝ってきたときに、大径部とシール部材とによって海水が軸受に付着することをさらに効果的に抑制することができる。
【0009】
好ましくは、ピニオンギアは、ギア本体に形成されカラー部材が装着される装着部を有し、装着部の外径は、ピニオンギアの歯部の外径よりも小さい。この場合は、ピニオンギアの装着部にカラー部材を装着したときに、ピニオンギアの歯部の端面でカラー部材の軸方向の移動を規制することができる。
【0010】
好ましくは、シール部材は、カラー部材の大径部に近づくにつれて厚みが薄くなるリップ部を有する。この場合は、カラー部材に接触するシール部材の接触面積が小さくなるので、カラー部材の回転性能の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、釣用リールにおいて、ピニオンギアを支持する軸受に海水が付着することやグリスが浸入することを抑制できる釣用リールを提供することができる。
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】スピニングリールの軸受収容部周辺の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態が採用された両軸受リール(釣用リールの一例)100の斜視図である。
図2は、両軸受リール100の断面図である。両軸受リール100は、リール本体2と、スプール軸3と、スプール4と、ハンドル5と、回転伝達機構6と、レバードラグ機構7と、カラー部材8と、軸受9と、シール部材10と、を備えている。
【0014】
なお、以下の説明において、釣りを行うときに、釣糸が繰り出される方向を前、その反対方向を後という。また、左右とは、両軸受リール100を後方から見たときの左右をいう。また、スプール軸3が延びる方向を「軸方向」、スプール軸3と直交する方向を「径方向」、スプール軸3の軸回りの方向を「周方向」という。
【0015】
リール本体2は、フレーム11と、フレーム11の右側方を覆う右側カバー12と、フレーム11の左側方を覆う左側カバー13と、を有している。フレーム11は、第1側板11aと、第1側板11aと軸方向に間隔を隔てて配置された第2側板11bと、第1側板11aと第2側板11bとを連結する複数の連結部11cと、を有している。第1側板11a及び第2側板11bは、円板状に形成されており、スプール4が通過可能な開口を有している。第2側板11bは、左側カバー13と一体に形成されているが、左側カバー13と別体であってもよい。
【0016】
右側カバー12は、膨出部15と、ボス部16と、ボス部17と、を有している。膨出部15は、第1側板11aから径方向及び軸方向に膨出するように形成されている。膨出部15は、第1側板11aよりも前方かつ下方に膨出して形成されている。
【0017】
ボス部16は、円筒状であり、膨出部15から軸方向外側に突出している。ボス部17は、円筒状であり、ボス部16よりも下方で膨出部15から軸方向外側に突出している。
【0018】
図3は、ボス部16周辺の拡大断面図である。ボス部16は、軸受9が配置される軸受収容部16aを有している。軸受収容部16aは、軸受9の外輪9aに接触する支持部16bを有している。軸受9は、支持部16bによって軸方向外側への移動が規制されている。また、軸受収容部16aの内周面には、シール部材10を装着するための装着溝16cが形成されている。
【0019】
スプール軸3は、軸方向に移動可能かつ回転不能にリール本体2に支持されている。スプール軸3は、スプール4及びボス部16を軸方向に貫通するようにリール本体2に配置されている。
【0020】
スプール4は、スプール軸3の外周に配置された軸受18a,18bを介してスプール軸3に回転自在に支持されている。軸受18a,18bは、スプール軸3の軸周りに装着された付勢部材19a,19bとスプール4とによって軸方向の移動が規制されている。スプール軸3とスプール4は、軸受18a,18bとともに軸方向に一体的に移動可能である。
【0021】
ハンドル5は、リール本体2の側部に回転可能に装着されている。本実施形態では、ハンドル5は、リール本体2の右側カバー12に回転可能に装着されている。ハンドル5は、ボス部17の内部に配置されるワンウェイクラッチ20によって糸繰り出し方向の回転が禁止されている。なお、ハンドル5がリール本体2の左側に配置される場合は、左側カバー13に膨出部15が形成される。
【0022】
回転伝達機構6は、ハンドル5の回転をスプール4に伝達する。回転伝達機構6は、周知の変速操作機構22を有している。変速操作機構22は、高速巻き取り用のメインギア23と、低速巻き取り用の第2メインギア24と、メインギア23にかみ合うピニオンギア25と、第2メインギア24にかみ合う第2ピニオンギア26と、係合片27と、操作軸28と、付勢部材29a,29bと、を主に有している。
図2では、係合片27がメインギア23に係合している状態を図示している。変速操作機構22の構成は従来と同様の構成であるため、詳細な説明を省略する。
【0023】
ピニオンギア25は、スプール軸3の軸周りに回転可能である。
図3に示すように、ピニオンギア25は、ギア本体25aと、歯部25bと、装着部25cと、を有している。
【0024】
ギア本体25aは、筒状であり、軸方向に延びている。ギア本体25aの内部は、スプール軸3が軸方向に貫通している。歯部25bは、ギア本体25aの中間部の外周面に形成されており、メインギア23にかみ合う。装着部25cは、ギア本体25aの一端に円筒状に形成されている。本実施形態では、装着部25cは、ギア本体25aの右端に形成されており、装着部25cにはカラー部材8が装着される。装着部25cの外径は、歯部25bの歯先25dの外径よりも小さいことが好ましい。これにより、歯部25bによってカラー部材8のスプール4に近づく方向への移動を規制することができる。
【0025】
レバードラグ機構7は、スプール4の糸繰り出し方向の回転を制動する。レバードラグ機構7の構成は従来と同様の構成であるため、簡略に説明する。レバードラグ機構7は、摩擦ディスク31と、ドラグディスク32と、移動機構33と、を有している。摩擦ディスク31は、円板状であり、スプール4のフランジの外側面に固定されている。
【0026】
ドラグディスク32は、ピニオンギア25に一体回転可能に連結されている。ドラグディスク32は、スプール軸3に装着される軸受34によってスプール軸3に回転可能に支持されている。ドラグディスク32は、右側カバー12の内部に配置された図示しない逆転防止機構によって糸繰り出し方向の回転が禁止されている。ドラグディスク32は、摩擦ディスク31と軸方向に対向して配置される制動ディスク32aを有している。
【0027】
移動機構33は、ボス部16の外周部に揺動可能に配置されるドラグレバー43aの操作に応じて、スプール軸3を軸方向に移動させるための機構である。ドラグレバー43aが操作されると、ドラグレバー43aの揺動に応じて、スプール軸3がスプール4とともに軸方向に移動する。このスプール4の移動に伴い摩擦ディスク31が軸方向に移動して、ドラグディスク32の制動ディスク32aと摩擦ディスク31との間の摩擦力が変化する。これにより、スプール4に作用する制動力が調整される。なお
図2では、ドラグディスク32の制動ディスク32aと摩擦ディスク31とが互いに接触していない状態、すなわちレバードラグ機構7によってスプール4の回転が制動されていない状態を示している。
【0028】
カラー部材8は、筒状であり、ピニオンギア25の外周面に装着される。本実施形態では、カラー部材8は、ピニオンギア25の装着部25cに装着される。カラー部材8は、ピニオンギア25の装着部25cに嵌合して、ピニオンギア25と一体回転する。カラー部材8は、
図3に示すように、大径部8aと、小径部8bと、段差部8cと、を有している。
【0029】
大径部8aは、環状であり、ピニオンギア25の歯部25bと軸方向に隣接して配置される。本実施形態では、大径部8aは、ピニオンギア25の歯部25bと軸方向に接触している。大径部8aは、ピニオンギア25の歯部25bと軸受9の内輪9bとの間に配置されている。大径部8aの外径は、軸受9の外輪9aの内径よりも小さい。好ましくは、大径部8aの外径は、ピニオンギア25の歯部25bの歯底25eの径よりも大きい。より好ましくは、大径部8aの外径は、ピニオンギア25の歯部25bの歯先25dの外形よりも大きい。これにより、海水がピニオンギア25の歯部25bを伝ってきたときに、大径部8aによって海水が軸受9に近づく方向に流れることを抑制することができる。
【0030】
小径部8bは、環状であり、大径部8aの外径よりも小径である。段差部8cは、大径部8aと小径部8bとの間で径方向に延びている。
【0031】
軸受9は、軸受収容部16aの内部に配置され、カラー部材8を介してピニオンギア25を回転可能に支持する。軸受9は、軸受収容部16aの内部に例えば圧入により固定されている。軸受9の内輪9bは、カラー部材8の小径部8bの外周面に接触して配置される。すなわち、カラー部材8の小径部8bは、軸受9の内輪9bに嵌合して、内輪9bと一体回転する。内輪9bは、カラー部材8の段差部8cに接触している。
【0032】
シール部材10は、弾性変形可能な例えばゴム製の部材である。シール部材10は、軸受収容部16aの内周面とカラー部材8の大径部8aの外周面との間をシールする。詳細には、シール部材10は、環状であり、軸受収容部16aの内周面とカラー部材8の大径部8aの外周面に接触して配置されている。シール部材10は、底部が軸受9の外輪9aの端面に接触して配置されている。シール部材10は、軸受収容部16aの装着溝16cに着脱可能に装着されている。
【0033】
シール部材10は、好ましくは、カラー部材8の大径部8aに近づくにつれて厚みが薄くなるリップ部10aを有している。リップ部10aは、カラー部材8の大径部8aに近づくにつれてスプール4に近づく方向に傾斜しており、先端がカラー部材8の大径部8aに接触して配置されている。これにより、カラー部材8に接触するシール部材10の接触面積が小さくなるので、カラー部材8の回転性能の低下を抑制することができる。
【0034】
上記構成の両軸受リール100では、シール部材10が軸受収容部16aの内周面とカラー部材8の大径部8aの外周面に接触して配置されているので、右側カバー12の内部に海水が浸入したときに、海水が軸受9に付着することをシール部材10によって効果的に抑制することができる。また、リール本体2に塗布したグリスが軸受9の内部に浸入することをシール部材10によって効果的に抑制することができる。また、ピニオンギア25がカラー部材8を介して軸受9に支持されるので、ピニオンギア25を軸受9で精度よく支持することができる。
【0035】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態及びその変形例について説明したが、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた実施形態及び複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0036】
前記実施形態では、回転伝達機構6が変速操作機構22を有していたが、変速操作機構22は省略されてもよい。すなわち、第2メインギア24及び第2ピニオンギア26が省略されてもよい。
【0037】
前記実施形態では、レバードラグ機構を有する両軸受リールに本発明を採用していたが、その他の両軸受リールや、スピニングリールなどの釣用リールに上記発明を適用してもよい。例えば、
図4に示すように、スピニングリール200のリール本体102の軸受収容部116にカラー部材8を介してピニオンギア25を回転可能に支持する軸受9を配置して、シール部材10で軸受収容部161の内周面とカラー部材8の大径部8aの外周面との間をシールしてもよい。なお、軸受収容部16a,161などの位置は特に限定されるものではない。例えば、スピニングリール200において、ピニオンギア25の後端を支持する軸受をシール部材10でシールしてもよい。
【符号の説明】
【0038】
2 リール本体
3 スプール軸
4 スプール
7 レバードラグ機構
8 カラー部材
8a 大径部
8b 小径部
9 軸受
9b 内輪
10 シール部材
10a リップ部
16a 軸受収容部
25 ピニオンギア
25a ギア本体
25b 歯部
25c 装着部
100 両軸受リール(釣用リールの一例)