(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】透過型砂防ダムおよびその構築方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/02 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
E02B7/02 B
(21)【出願番号】P 2019052146
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】391010183
【氏名又は名称】極東興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】山根 隆志
(72)【発明者】
【氏名】村上 力也
【審査官】大塚 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079700(JP,A)
【文献】特開平05-187010(JP,A)
【文献】特開2003-239281(JP,A)
【文献】特開2009-127280(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149560(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型砂防ダムの構築方法であって、
地盤の定着層に対し直接または間接的に一体となるように底版を構築する工程と、
前記底
版に上下方向に連結材を設置する工程と、
前記連結材を介して複数のプレキャストコンクリートブロックを段方向に連結して、プレストレスを導入することにより、上流側と下流側とを連通する透過部を有する本体部を構築する工程と、
を少なくとも有
し、
前記複数のプレキャストコンクリートブロックは、何れも六面体であり、かつ、
左右方向に所定間隔を設けて配置する、第1のブロックと、
左右方向に対向する前記第1のブロック間を跨ぐように積み上げ配置する、第2のブロックと、の組み合わせからなり、
前記連結材は、前記第1のブロックおよび前記第2のブロックを串刺し状に連結し、
前記透過部が、左右方向に対向する前記第1のブロック間の隙間からなることを特徴とする、
透過型砂防ダムの構築方法。
【請求項2】
前記定着層にグラウンドアンカーを設置し、該グラウンドアンカーを介して前記定着層と前記底版を接続することを特徴とする、
請求項1に記載の透過型砂防ダムの構築方法。
【請求項3】
前記底版を、現場打ちコンクリートで構築することを特徴とする、
請求項1または2に記載の透過型砂防ダムの構築方法。
【請求項4】
透過型砂防ダムであって、
地盤の定着層に対し、直接または間接的に一体化してある底版と、
前記底
版から上方に伸びる、連結材と、
前記連結材を差し込む開口部を設けた、複数のプレキャストコンクリートブロックからなる本体部と、からなり、
前記本体部は、
複数のプレキャストコンクリートブロックを、連結材を介して連結されつつ、プレストレスが導入されており、
前記本体部には、
上流側と下流側とを連通する透過部が形成されて
おり、
前記複数のプレキャストコンクリートブロックは、何れも六面体であり、かつ、
左右方向に所定間隔を設けて配置する、第1のブロックと、
左右方向に対向する前記第1のブロック間を跨ぐように積み上げ配置する、第2のブロックと、の組み合わせからなり、
前記連結材は、前記第1のブロックおよび前記第2のブロックを串刺し状に連結し、
前記透過部が、左右方向に対向する前記第1のブロック間の隙間からなることを特徴とする、
透過型砂防ダム。
【請求項5】
前記底
版に、前記連結材を接続するための接続部を埋設してあることを特徴とする、
請求項4に記載の透過型砂防ダ
ム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型砂防ダムおよびその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然災害が甚大化し、その中でも豪雨による土石流の発生などが深刻である。そのため、砂防ダムの整備が喫緊の課題となっており、透過型の砂防ダムの需要が高まっている。
透過型の砂防ダムは、上流側と下流側との間を連通する透過部を形成しておくことによって水の流れを残しつつ、上流から流れてくる流木などの大きな漂流物を捕捉するための構造体である。
透過型の砂防ダムは市場が限定的であるため、製造・施工者側が需要スピードに対応できていないのが現状である。
【0003】
従来の透過型砂防ダムは、以下の非特許文献1に示すように、鋼製部材を格子形に構築してなる鋼製タイプが一般的であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】グリッドネット(格子形の鋼製スリット)http://www.kobelco.co.jp/products/sand/2000c.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した非特許文献1に係る透過型砂防ダムの場合、鋼製部材を現地で運搬するために大型のクレーンを用いる必要があり、当該クレーンの搬入が困難な狭隘な現場での適用が困難である、という問題を有していた。
また、運搬性を確保するために、鋼製部材を分割したり、予め小型化したりする対策を講ずると、構築現場での組立作業が増える点で手間を要する問題が新たに生じていた。
【0006】
よって、本発明は、鋼製部材に代わる部材を用いて、施工性に優れる透過型砂防ダムを提供することを少なくとも目的の一つとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべくなされた本願発明は、透過型砂防ダムの構築方法であって、地盤の定着層に対し直接または間接的に一体となるように底版を構築する工程と、前記底版に上下方向に連結材を設置する工程と、前記連結材を介して複数のプレキャストコンクリートブロックを段方向に連結して、プレストレスを導入することにより、上流側と下流側とを連通する透過部を有する本体部を構築する工程と、を少なくとも有し、前記複数のプレキャストコンクリートブロックは、何れも六面体であり、かつ、左右方向に所定間隔を設けて配置する、第1のブロックと、
左右方向に対向する前記第1のブロック間を跨ぐように積み上げ配置する、第2のブロックと、の組み合わせからなり、前記連結材は、前記第1のブロックおよび前記第2のブロックを串刺し状に連結し、前記透過部が、左右方向に対向する前記第1のブロック間の隙間からなることを特徴とする。
また、本願発明は、前記発明において、前記定着層にグラウンドアンカーを設置し、該グラウンドアンカーを介して前記定着層と前記底版を接続してもよい。
また、本願発明は、前記発明において、前記底版を、現場打ちコンクリートで構築してもよい。
また、本願発明は、透過型砂防ダムであって、地盤の定着層に対し、直接または間接的に一体化してある底版と、前記底版から上方に伸びる、連結材と、前記連結材を差し込む開口部を設けた、複数のプレキャストコンクリートブロックからなる本体部と、からなり、前記本体部は、複数のプレキャストコンクリートブロックを、連結材を介して連結されつつ、プレストレスが導入されており、前記本体部には、上流側と下流側とを連通する透過部が形成されており、前記複数のプレキャストコンクリートブロックは、何れも六面体であり、かつ、左右方向に所定間隔を設けて配置する、第1のブロックと、左右方向に対向する前記第1のブロック間を跨ぐように積み上げ配置する、第2のブロックと、の組み合わせからなり、前記連結材は、前記第1のブロックおよび前記第2のブロックを串刺し状に連結し、前記透過部が、左右方向に対向する前記第1のブロック間の隙間からなることを特徴とするものである。
また、本願発明は、前記発明において、前記底版に、前記連結材を接続するための接続部を埋設しておいてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくとも何れか1つの効果を奏する。
(1)コンクリート工場で製作できるため、増大する需要に対して対応可能な市場が拡大する。
(2)プレキャストコンクリートブロックを用いることで、現場施工の省力化に繋がる。
(3)連結材によるプレストレスの導入によって地盤の定着部に対し、底版や本体部を一体化するため、スリムな部材寸法で構造を成立させることができる。よって、比較的スリムな構造を呈する透過型ダムを構築することができる。
(4)プレキャストコンクリートブロックを小型のクレーンでも運搬可能な程度のサイズで形成することで、大型クレーンの搬入が困難な狭隘な条件での施工も可能となる。
(5)複数のプレキャストコンクリートブロックを連結した構造とすることで、ダムの一部が損傷した場合にも、損傷箇所のプレキャストコンクリートブロックのみを部分的に交換することが可能なため、ライフサイクルコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施例に係る透過型砂防ダムの概略側面図。
【
図2】第1実施例に係る透過型砂防ダムの概略正面図。
【
図3】第2実施例に係る透過型砂防ダムの概略側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
<1>全体構成
図1、2は、本実施例に係る透過型砂防ダムの概略図である。
本実施例では、透過型の砂防ダムを、地盤の定着層Aの直上に構築した底版10と、該底版10に立設した連結材20と、該連結材20を介して複数のプレキャストコンクリートブロック40を連結して構築した本体部30と、を少なくとも有して構成する。
以下、各構成要素の詳細等について説明する。
【0012】
<2>底版(
図1)
底版10は、地盤の定着層Aと直接または間接的に一体化した状態で構築することで、透過型砂防ダムの荷重を負担する基礎部材である。
本実施例では、地盤の定着層Aが比較的浅い位置にあるため、該定着層Aの直上に底版10を構築し、砂防ダムを定着層Aが直接支持可能な状態を呈している。
底版10は、該底版10の上方に構築する本体部30を支持する部材であるため、鉄筋コンクリート製とすることが一般的である。
本発明において、底版10の構築方法は特段限定しないが、本実施例では、現場打ちによる鉄筋コンクリートでもって底版10を構築している。
【0013】
<2.1>接続部(
図1)
底版10には、後述する連結材20を上方から接続するための接続部11を予め埋設して形成することができる。
接続部11は、上端にカプラーを設けた鋼棒などを用いることができる。
カプラーは、部材ごと底版10の上面から露出するように設けてもよいし、開口部のみが底版10の上面から露出するように設けても良い。
この接続部11を、現場打ちでの底版10の構築作業時に、鉄筋とともに配置しておくことで、底版10の完成後に連結材20を差し込んで接続することができる。
また、接続部11を設けておけば、後述する連結材20が損傷した場合にも交換が容易となる。
【0014】
<3>連結材(
図1)
連結材20は、
図1に示すように、積層配置したプレキャストコンクリートブロック40を上下方向(ダムの高さ方向)に連結して一体化するための部材である。
また、
図2に示すように、連結材20は、砂防ダムの左右方向(ダムの幅方向)に間隔を設けて複数立設する状態を呈している
本発明では、連結材20の種類は特段限定しないが、最終的に複数のプレキャストコンクリートブロック40の集合体を強固に一体化するために、プレストレスの導入が可能なものを用いることが好ましい。
【0015】
<3.1>PC鋼棒の使用
本実施例では、プレストレスの導入に適する部材として、連結材20にアンボンド用のPC鋼棒を使用する。
このPC鋼棒を、前記した接続部11に差し込むことにより、底版10上で連結材20が立設した状態とすることができる。
。
また、アンボンド用のPC鋼棒は、高い防錆効果を確保しつつ緊張力除荷・再緊張が実施できるため、将来、本体部30を構成するプレキャストコンクリートブロック40が損傷した場合に、緊張力の除荷を行って本体部30の一体化を解放すれば、損傷したプレキャストコンクリートブロック40の交換が可能となる。
【0016】
<4>本体部(
図1)
本体部30は、砂防ダムの堰堤部分となる構造物である。
本体部30は、工場製作した複数のプレキャストコンクリートブロック40を、前後、左右および上下方向に並べて配置して構成する。
本体部30の形状は、砂防ダムの堰堤部分として要する強度が確保される範囲で、任意の形状を選択することができる。
【0017】
<4.1>貫通孔(
図1)
本体部30を構成する一部のプレキャストコンクリートブロック40には、上下方向に貫通する貫通孔41を形成しておき、この貫通孔41に連結材20を挿通していくことで、上下方向に、プレキャストコンクリートブロック40を串刺し状に積層配置していくことができる。
また、この貫通孔41を設ける位置は、漂流物の衝突に際し、本体部30に引張が生じる、上流側の面の近傍とする。
【0018】
<4.2>プレストレスの導入(
図1)
積み上げたプレキャストコンクリートブロック40は、前記した連結材20を介して、プレストレスを導入することにより、強固に一体化する。
なお、プレストレスの導入前には、左右方向および前後方向に並べて配置したプレキャストコンクリートブロック40を公知の方法で互いに連結しておいてもよい。
連結部の上端近傍に設けたプレストレス導入のための定着部は、別途カバーを被せるなどして保護しておく。
このプレストレスの導入により、地盤の定着層Aと、該定着層Aの上に構築した底版10と、該底版10との間でプレストレスを導入した本体部30とを強固に一体化して、漂流物の捕捉に耐えうる透過型砂防ダムを構築することができる。
【0019】
<4.3>透過部(
図2)
本体部30には、複数のプレキャストコンクリートブロック40の配置の組合せでもって、上流側と下流側とが連通する透過部50を設ける。
本発明において、プレキャストコンクリートブロック40の配置の組合せや、透過部50のレイアウト例は特段限定しない。
本実施例では、
図2に示すように、左右方向に所定間隔を設けて配置する第1のブロック40aと、左右方向に対向する第1のブロック40a間を跨ぐように積み上げ配置する第2のブロック40bとを、上下方向に順番に配置していくことで、矩形の透過部50を等間隔に有する、格子状の本体部30が形成されている。
【実施例2】
【0020】
図3は、実施例2に係る透過型砂防ダムを構築した場合の完成イメージ図である。
本実施例では、透過型砂防ダムを、地盤の定着層Aに設置したグラウンドアンカー60と、前記定着層Aから離隔しつつ、グラウンドアンカー60を介して前記定着層Aと一体化するように構築した底版10と、該底版10に立設した連結材20と、該連結材20を介して複数のプレキャストコンクリートブロック40を連結して構築した本体部30と、を少なくとも有して構成する。
実施例1と異なる点は、底版10を定着層Aの直上に構築せずに、グラウンドアンカー60を介して底版10と定着層Aとを間接的に一体化させた点である。
このように、施工現場で地盤の深い箇所に定着層Aが存在する場合であっても、砂防ダムを定着層Aで確実に支持することができる。
【符号の説明】
【0021】
A 定着層
10 底版
11 接続部
20 連結材
30 本体部
40 プレキャストコンクリートブロック
40a 第1のブロック
40b 第2のブロック
41 貫通孔
50 透過部
60 グラウンドアンカー