(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/021 20120101AFI20230215BHJP
F16H 57/029 20120101ALI20230215BHJP
F16J 15/34 20060101ALI20230215BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20230215BHJP
F16C 35/07 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
F16H57/021
F16H57/029
F16J15/34 A
F16C33/76 Z
F16C35/07
(21)【出願番号】P 2019059165
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健司
(72)【発明者】
【氏名】松阪 慶太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-002310(JP,A)
【文献】特開2015-045398(JP,A)
【文献】特開2005-233358(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015201310(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/021
F16H 57/029
F16J 15/34
F16C 33/76
F16C 35/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達装置であって、
駆動源を収容する固定ハウジングと、
前記駆動源の出力回転が伝達されて回転する回転ハウジングと、
前記固定ハウジングに取り付けられ、前記固定ハウジングに対して前記回転ハウジングを回転自在に支持する一対のベアリングと、
前記ベアリングと前記回転ハウジングの軸方向の相対移動を規制する断面円形状の止め輪と、を備え、
前記一対のベアリング
は、互いに同様の構成であり、外輪
が互いに当接
してそれぞれの前記外輪における他方のベアリング側の外周角部に面取り部が形成され、
前記回転ハウジングの内周に形成される第1凹部と、前記一対のベアリングの外輪同士が当接
してそれぞれの前記面取り部により形成される第2凹部と、によって囲まれる空間に前記止め輪が配置される
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
前記回転ハウジングに収容され、前記駆動源の出力回転を変速して前記回転ハウジングに伝達する変速機構と、
前記固定ハウジングと前記回転ハウジングとの間の隙間をシールするフローティングシールと、をさらに備え、
前記フローティングシールは、
前記固定ハウジングに設けられる第1弾性リングと、
前記第1弾性リングを介して前記固定ハウジングに支持される第1シールリングと、
前記回転ハウジングに設けられる第2弾性リングと、
前記第2弾性リングを介して前記回転ハウジングに支持され、前記第1シールリングに摺接する第2シールリングと、を有することを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クローラ式走行装置を駆動するための油圧モータの回転を減速させて出力する動力伝達装置が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の動力伝達装置は、油圧モータ47を収容するモータハウジング61と、モータハウジング61に回転自在に支持された回転ドラム62と、回転ドラム62内に収容され油圧モータ47の回転出力を減速して回転ドラム62に伝達する減速装置63と、を備えている。回転ドラム62は、ベアリング91を介してモータハウジング61に回転自在に支持されている(特許文献1の段落[0042]、
図1参照)。
【0004】
特許文献2に記載の動力伝達装置は、内歯歯車29が形成される減速機本体16が、油圧モータ11のケーシング14の外壁にベアリング15で回転自在に支持されている(特許文献2の段落[0008]、
図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-299531号公報
【文献】特開2016-164423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の動力伝達装置では、特許文献1の
図1に示されているように、ベアリング91の外周に設けられた環状の凹部に複数の球体を嵌合させることにより、ベアリング91に対する回転ドラム62の軸方向の移動を規制している。しかしながら、特許文献1に記載の構成では、回転ドラム62のドラム本体89の外側から球体を投入するための投入口を形成するための孔加工が必要になり、また、球体を投入孔から一つ一つ投入するとともに球体の数を適正に管理する必要があるので、製造に手間がかかるという問題がある。
【0007】
特許文献2に記載の動力伝達装置では、特許文献2の
図1に示されているように、一対のベアリング15の間に矩形断面形状の環状部材が介在されており、この環状部材によってベアリング15に対する減速機本体16の軸方向の移動を規制している。しかしながら、一対のベアリング15に環状部材を当接させる構成では、環状部材の厚み(軸方向の長さ)の製造誤差が大きいと、ベアリング15においてガタが生じるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、製造コストの増加を招くことなく、ベアリングのガタを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、動力伝達装置であって、駆動源を収容する固定ハウジングと、駆動源の出力回転が伝達されて回転する回転ハウジングと、固定ハウジングに取り付けられ、固定ハウジングに対して回転ハウジングを回転自在に支持する一対のベアリングと、ベアリングと回転ハウジングの軸方向の相対移動を規制する断面円形状の止め輪と、を備え、一対のベアリングは、互いに同様の構成であり、外輪が互いに当接してそれぞれの外輪における他方のベアリング側の外周角部に面取り部が形成され、回転ハウジングの内周に形成される第1凹部と、一対のベアリングの外輪同士が当接してそれぞれの面取り部により形成される第2凹部と、によって囲まれる空間に止め輪が配置されることを特徴とする。
【0010】
この発明では、回転ハウジングの内周に形成される第1凹部と、一対のベアリングの外輪同士が当接することにより形成される第2凹部と、によって囲まれる空間に止め輪が配置されるため、製造コストの増加を招くことなく、固定ハウジングから回転ハウジングが脱落することを防止できる。また、一対のベアリングの外輪が互いに当接するため、一対のベアリングの外輪間に別部材を介在させる場合に比べて、累積公差を小さくすることができ、ガタを抑制することができる。つまり、この発明では、製造コストの増加を招くことなく、ベアリングのガタを抑制することができる。
【0011】
本発明は、回転ハウジングに収容され、駆動源の出力回転を変速して回転ハウジングに伝達する変速機構と、固定ハウジングと回転ハウジングとの間の隙間をシールするフローティングシールと、をさらに備え、フローティングシールが、固定ハウジングに設けられる第1弾性リングと、第1弾性リングを介して固定ハウジングに支持される第1シールリングと、回転ハウジングに設けられる第2弾性リングと、第2弾性リングを介して回転ハウジングに支持され、第1シールリングに摺接する第2シールリングと、を有することを特徴とする。
【0012】
この発明では、固定ハウジングと回転ハウジングとの位置ずれが抑制されることにより、フローティングシールの第1シールリングと第2シールリングとの間のシール性が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造コストの増加を招くことなく、ベアリングのガタを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達装置を備える駆動装置の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のII部を拡大して示す部分断面図である。
【
図3】
図3は、軸受ユニットの組み付け手順について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る動力伝達装置について説明する。本実施形態では、油圧ショベルなどのクローラ式作業機の走行用の駆動源である油圧モータの動力をクローラベルトに伝達する動力伝達装置を一例に説明する。
図1は、動力伝達装置100を備える駆動装置1の断面図であり、
図2は、
図1のII部を拡大して示す部分断面図である。
【0016】
図1に示すように、駆動装置1は、駆動源としての油圧モータ9と、油圧モータ9の動力をクローラベルト(図示せず)に伝達する動力伝達装置100と、を備える。動力伝達装置100は、油圧モータ9を収容する固定ハウジング10と、固定ハウジング10に対して回転自在に設けられる回転ハウジング20と、油圧モータ9のシャフト31の出力回転を変速して回転ハウジング20に伝達する変速機構30と、を備える。
【0017】
回転ハウジング20は、円筒状の部材であり、その内部には変速機構30が収容されている。回転ハウジング20は、変速機構30を介して油圧モータ9の出力回転が伝達されて回転する。
【0018】
固定ハウジング10及び回転ハウジング20は、クローラベルトが循環する経路の内側に配置される。回転ハウジング20には、外周面22から径方向外方に突出する環状の回転フランジ29が形成される。回転フランジ29には、ボルトによってスプロケット(図示せず)が締結される。スプロケットにはクローラベルトが噛み合う。回転ハウジング20とスプロケットとが共に回転することで、スプロケットに噛み合うクローラベルトが循環してクローラ式作業機が走行する。
【0019】
動力伝達装置100は、固定ハウジング10の外周と回転ハウジング20の内周との間に設けられる軸受ユニット40を備える。軸受ユニット40は、固定ハウジング10に対して回転ハウジング20を回転自在に支持する一対のベアリング41と、ベアリング41と回転ハウジング20の軸方向の相対移動を規制する断面円形状の止め輪49と、を有する。
【0020】
回転ハウジング20は、外部部材としての車体6に固定される固定ハウジング10に対して、一対のベアリング41を介して回転自在に支持され、回転中心軸Oを中心として回転する。一対のベアリング41及び止め輪49により構成される軸受ユニット40の取り付け構造の詳細については、後述する。
【0021】
油圧モータ9は、固定ハウジング10の本体部11の内部に収容される。油圧モータ9は、例えば、斜板式ピストンモータである。なお、駆動源は油圧モータ以外であってもよく、例えば、駆動源は電動モータとしてもよい。固定ハウジング10には、本体部11の外周面から突出するように固定フランジ12が形成される。固定フランジ12がボルトによって車体6に取り付けられることにより、固定ハウジング10が車体6に固定される。
【0022】
本実施形態に係る変速機構30は、油圧モータ9のシャフト31の出力回転を減速して回転ハウジング20に伝達する遊星歯車減速機構である。変速機構30は、油圧モータ9のシャフト31に設けられるサンギヤ32と、回転ハウジング20の内壁に設けられるインナーギヤ33と、サンギヤ32とインナーギヤ33との双方に噛み合う複数のプラネタリギヤ34と、各プラネタリギヤ34を支持するプラネタリキャリア35と、プラネタリキャリア35と噛み合う2段目のサンギヤ36と、サンギヤ36とインナーギヤ33との双方に噛み合う複数のプラネタリギヤ37と、を備える。
【0023】
回転ハウジング20の開口端部20aの内周には、開口端部20aを閉塞する円盤状のカバー2が着脱可能に取り付けられる。
【0024】
回転ハウジング20の内面と、固定ハウジング10の本体部11の外面と、カバー2と、によって変速機構30を収容するギヤ室4が形成される。ギヤ室4には、変速機構30を潤滑する潤滑剤(潤滑油)が充填される。
【0025】
固定フランジ12には、回転ハウジング20に向かって延びる環状の固定側突起部13が形成される。回転ハウジング20の回転フランジ29の基端側には、固定側突起部13の径方向内側において固定ハウジング10に向かって延びる環状の回転側突起部23が形成される。
【0026】
固定ハウジング10と回転ハウジング20の間には、固定ハウジング10と回転ハウジング20との間の隙間をシールするフローティングシール50が設けられる。フローティングシール50は、固定ハウジング10に設けられる第1弾性リング51と、第1弾性リング51を介して固定ハウジング10に支持される第1シールリング53と、回転ハウジング20に設けられる第2弾性リング52と、第2弾性リング52を介して回転ハウジング20に支持される第2シールリング54と、を有する。
【0027】
第1弾性リング51は、固定ハウジング10の固定フランジ12に形成されたシール面14に装着されるOリングである。第2弾性リング52は、回転ハウジング20の回転側突起部23の内周面21に装着されるOリングである。第1シールリング53と第2シールリング54とは互いに摺接するように配置される。
【0028】
フローティングシール50は、回転ハウジング20の回転時に、第1シールリング53及び第2シールリング54が互いに摺接することによって、動力伝達装置100内の油が外部に漏出しないように密封するとともに、外部から泥等の異物が動力伝達装置100内に侵入することを防止する。
【0029】
なお、フローティングシール50の外側における固定ハウジング10と回転ハウジング20との間には、外部から異物が侵入することを防止するラビリンスシール5が形成される。ラビリンスシール5は、固定ハウジング10と回転ハウジング20の互いに対向する面同士の隙間によって形成される。これにより、フローティングシール50が異物によって損傷することを防止できる。
【0030】
図2を参照して、軸受ユニット40の取り付け構造について詳しく説明する。止め輪49は、環状部材の一部が切除されたC字状の部材であって、両端部を近づけるように変形させることで縮径可能に構成されている。
【0031】
一対のベアリング41(第1ベアリング41a及び第2ベアリング41b)は、それぞれ、内輪42と、外輪43と、内輪42と外輪43との間に配置される複数の転動体としてのボール44と、ボール44を保持する保持器45と、を有する。第1ベアリング41aと第2ベアリング41bは、同様の構成であり、左右対称に配置される。ベアリング41は、ボール44と内輪42との接触点及びボール44と外輪43との接触点を結ぶ直線がラジアル方向に対して所定の角度(接触角)をもっている単列型のアンギュラボールベアリングである。
【0032】
本実施形態では、ベアリング41の内輪42と固定ハウジング10とのはめあいは「しまりばめ」であり、ベアリング41の外輪43と回転ハウジング20とのはめあいは「すきまばめ」である。
【0033】
一対のベアリング41a,41bは、固定ハウジング10の外周に取り付けられる。一対のベアリング41a,41bは、固定ハウジング10の外周に設けられる段部16と、ナット60との間で挟持される。ナット60は、固定ハウジング10の外周に形成されたネジ部17に螺合される。回転ハウジング20の内周には、第2ベアリング41bの外輪43の軸方向移動を規制する段部26と、止め輪49が嵌合する第1凹部25が形成される。第1凹部25は、断面が半円弧状であり、回転ハウジング20の内周に沿って形成される。
【0034】
第1ベアリング41aの外輪43における第2ベアリング41b側の外周角部には略45度の面取り部46aが形成される。同様に、第2ベアリング41bの外輪43における第1ベアリング41a側の外周角部には略45度の面取り部46bが形成される。第1ベアリング41aの外輪43と第2ベアリング41bの外輪43とが当接すると、面取り部45a及び面取り部46aによって、断面が三角形形状の第2凹部47が形成される。第2凹部47は、ベアリング41の外周に沿って形成される。
【0035】
一対のベアリング41a,41bがナット60と段部16との間で挟持されている状態では、第2凹部47と第1凹部25とが互いに対向するように位置決めされる。回転ハウジング20の内周に形成される第1凹部25と一対のベアリング41a,41bの外輪43同士が当接することにより形成される第2凹部47とによって囲まれる環状の空間に、止め輪49が配置される。
【0036】
一対のベアリング41及び止め輪49によって構成される軸受ユニット40は、次のようにして固定ハウジング10の外周と回転ハウジング20の内周との間に装着される。
【0037】
図3に示すように、先ず、第1ベアリング41aを固定ハウジング10に装着する。第1ベアリング41aの内輪42が段部16に当接するまで、第1ベアリング41aを固定ハウジング10の外周に嵌め込む。
【0038】
次に、第2ベアリング41bを回転ハウジング20に装着する。第2ベアリング41bの外輪43が段部26に当接するまで、第2ベアリング41bを回転ハウジング20の内周に嵌め込む。その後、環状の第1凹部25にC字状の止め輪49を嵌め込み、止め輪49によって第2ベアリング41bが回転ハウジング20から脱落することを防止する。なお、止め輪49は、縮径可能な構成であるので、回転ハウジング20の内周に容易に挿入することができる。止め輪49は、第1凹部25に位置すると、その弾性により拡径され、第1凹部25に嵌め込まれる。
【0039】
また、第2ベアリング41bの外輪43に面取り部46bが形成されているため、止め輪49を第1凹部25に嵌め込む際、面取り部46bに沿って止め輪49が第1凹部25に向かって案内される。したがって、止め輪49を容易に第1凹部25に嵌め込むことができる。
【0040】
次に、固定ハウジング10に回転ハウジング20を近づけ、第1ベアリング41aの外輪43に第2ベアリング41bの外輪43を当接させる。その後、
図2に示すように、ナット60が第2ベアリング41bの内輪42に当接するように、ナット60を固定ハウジング10のネジ部17に締結することにより、軸受ユニット40が完成する。
【0041】
上述したように、第2凹部47と第1凹部25とによって囲まれる空間に止め輪49が配置されているため、固定ハウジング10に締結されるベアリング41に対する回転ハウジング20の軸方向の移動が規制される。つまり、止め輪49によって、固定ハウジング10から回転ハウジング20が脱落してしまうことが防止される。
【0042】
ここで、止め輪49に代えて、複数の球体を第1凹部25と第2凹部47とによって囲まれる空間に配置させる場合、回転ハウジング20の外側から球体を投入するための投入口を形成するための孔加工が必要になり、また、球体を投入孔から一つ一つ投入するとともに球体の数を適正に管理する必要があるので、製造に手間がかかるという問題がある。
【0043】
これに対して、本実施形態では、回転ハウジング20の内周に形成される第1凹部25と、一対のベアリング41a,41bの外輪43同士が当接することにより形成される第2凹部47と、によって囲まれる空間に止め輪49が配置されるため、製造コストの増加を招くことなく、固定ハウジング10から回転ハウジング20が脱落することを防止できる。
【0044】
また、本実施形態では、一対のベアリング41a,41bの外輪43が互いに当接する構成である。このため、一対のベアリング41a,41b同士を当接させず、一対のベアリング41a,41bの外輪43間に別部材を介在させる場合に比べて、累積公差を小さくすることができる。これにより、止め輪49が配置される第1凹部25の軸方向の幅の公差を小さく設定することができるので、ベアリング41における軸方向のガタを抑制することができる。
【0045】
上述したように、フローティングシール50の第2シールリング54は、第2弾性リング52を介して回転ハウジング20の内周面21に支持されている。ここで、固定ハウジング10に対する回転ハウジング20の軸方向に位置ずれが生じると、第2シールリング54に対する第2弾性リング52の押圧力が変化する。このため、第1凹部25の軸方向の幅の公差が大きすぎると、固定ハウジング10に対する回転ハウジング20の軸方向の位置ずれが生じたときに、第1シールリング53と第2シールリング54との間から油が外部に漏れ出てしまうおそれがある。
【0046】
これに対して本実施形態では、軸受ユニット40の累積公差を小さくすることができ、止め輪49が配置される第1凹部25の軸方向の幅の公差を小さく設定することができるので、固定ハウジング10と回転ハウジング20との位置ずれを抑制できる。その結果、フローティングシール50の第1シールリング53と第2シールリング54との間のシール性が低下することを抑制することができる。
【0047】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0048】
本実施形態に係る動力伝達装置100では、回転ハウジング20の内周に形成される第1凹部25と、一対のベアリング41aの外輪43同士が当接することにより形成される第2凹部47と、によって囲まれる空間に止め輪49が配置されるため、製造コストの増加を招くことなく、固定ハウジング10から回転ハウジング20が脱落することを防止できる。また、一対のベアリング41a,41bの外輪43が互いに当接するため、一対のベアリング41a,41bの外輪43間に別部材を介在させる場合に比べて、累積公差を小さくすることができ、ガタを抑制することができる。つまり、本実施形態によれば、製造コストの増加を招くことなく、ベアリング41のガタを抑制することができる。
【0049】
さらに、固定ハウジング10と回転ハウジング20との位置ずれが抑制されることになるので、フローティングシール50の第1シールリング53と第2シールリング54との間のシール性が低下することを抑制することができる。
【0050】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0051】
<変形例1>
上記実施形態では、第1凹部25の断面形状が半円弧状である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。第1凹部25の断面形状は、種々の形状とすることができる。例えば、第1凹部25の断面形状は、矩形状、または三角形形状であってもよい。
【0052】
<変形例2>
上記実施形態では、第2凹部47の断面形状が三角形形状である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。第2凹部47の断面形状は、種々の形状とすることができる。例えば、第2凹部47の断面形状は、半円弧状、または矩形状であってもよい。
【0053】
<変形例3>
上記実施形態では、止め輪49が、切れ目を有するC字状に形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。止め輪49は、切れ目の無い円環状部材であってもよい。
【0054】
<変形例4>
上記実施形態では、ナット60をネジ部17に螺合し、固定ハウジング10の段部16とナット60で一対のベアリング41a,41bを挟持する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。ネジ部17にナット60を螺合することに代えて、固定ハウジング10の外周に沿う環状の溝を設け、この溝にシムを嵌合し、固定ハウジング10の段部16とシムで一対のベアリング41a,41bを挟持するようにしてもよい。
【0055】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、および効果をまとめて説明する。
【0056】
動力伝達装置100は、駆動源(油圧モータ9、電動モータ)を収容する固定ハウジング10と、駆動源(油圧モータ9、電動モータ)の出力回転が伝達されて回転する回転ハウジング20と、固定ハウジング10に取り付けられ、固定ハウジング10に対して回転ハウジング20を回転自在に支持する一対のベアリング41と、ベアリング41と回転ハウジング20の軸方向の相対移動を規制する断面円形状の止め輪49と、を備え、一対のベアリング41の外輪43は、互いに当接し、回転ハウジング20の内周に形成される第1凹部25と、一対のベアリング41の外輪43同士が当接することにより形成される第2凹部47と、によって囲まれる空間に止め輪49が配置される。
【0057】
この構成では、回転ハウジング20の内周に形成される第1凹部25と、一対のベアリング41の外輪43同士が当接することにより形成される第2凹部47と、によって囲まれる空間に止め輪49が配置されるため、製造コストの増加を招くことなく、固定ハウジング10から回転ハウジング20が脱落することを防止できる。また、一対のベアリング41の外輪43が互いに当接するため、一対のベアリング41の外輪43間に別部材を介在させる場合に比べて、累積公差を小さくすることができ、ガタを抑制することができる。つまり、この構成では、製造コストの増加を招くことなく、ベアリング41のガタを抑制することができる。
【0058】
動力伝達装置100は、回転ハウジング20に収容され、駆動源(油圧モータ9、電動モータ)の出力回転を変速して回転ハウジング20に伝達する変速機構30と、固定ハウジング10と回転ハウジング20との間の隙間をシールするフローティングシール50と、をさらに備え、フローティングシール50が、固定ハウジング10に設けられる第1弾性リング51と、第1弾性リング51を介して固定ハウジング10に支持される第1シールリング53と、回転ハウジング20に設けられる第2弾性リング52と、第2弾性リング52を介して回転ハウジング20に支持され、第1シールリング53に摺接する第2シールリング54と、を有する。
【0059】
この構成では、固定ハウジング10と回転ハウジング20との位置ずれが抑制されることにより、フローティングシール50の第1シールリング53と第2シールリング54との間のシール性が低下することを抑制することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0061】
1・・・駆動装置、9・・・油圧モータ(駆動源)、10・・・固定ハウジング、20・・・回転ハウジング、25・・・第1凹部、30・・・変速機構、40・・・軸受ユニット、41・・・ベアリング、43・・・外輪、47・・・第2凹部、49・・・止め輪、50・・・フローティングシール、51・・・第1弾性リング、52・・・第2弾性リング、53・・・第1シールリング、54・・・第2シールリング、100・・・動力伝達装置