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特許7227844バッテリ監視装置及び電動車両の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】バッテリ監視装置及び電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 58/10 20190101AFI20230215BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20230215BHJP
   G01K 7/25 20060101ALI20230215BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
B60L58/10
B60L3/00 S
G01K7/25 Z
H01M10/48 301
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019089515
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020188528
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-27713(JP,A)
【文献】特開2007-93592(JP,A)
【文献】特開2004-325110(JP,A)
【文献】特開2010-130827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 58/10
B60L 3/00
G01K 7/25
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両のバッテリの状態を監視するバッテリ監視装置であって、
前記バッテリを構成する複数の電池要素の温度をそれぞれ検出する複数の温度検出部を備え、
前記複数の温度検出部の各々は、
第1レンジの温度を検出する第1検出回路と、
前記第1レンジとは異なる第2レンジの温度を検出する第2検出回路と、
温度の検出信号と異常を示す閾値とを比較する比較回路と、
温度の検出信号が出力される第1出力端子と、
前記比較回路から異常の有無を示す信号が出力される第2出力端子と、
を含み、
前記第1出力端子の検出信号が、前記第2出力端子の信号に連動して、前記第1検出回路の検出信号から前記第2検出回路の検出信号へ切り替わるように構成されていることを特徴とするバッテリ監視装置。
【請求項2】
前記第1検出回路は、第1サーミスタ及び抵抗が直列接続された分圧回路であり、第1電源電圧を受けて動作するように構成され、
前記第2検出回路は、第2サーミスタ及び抵抗が直列接続された分圧回路であり、前記第1電源電圧よりも大きな第2電源電圧を受けて動作するように構成され、
前記複数の温度検出部の各々は、
前記比較回路から出力された異常を示す信号に基づいて、前記第2検出回路へ前記第2電源電圧を供給する電源スイッチを、更に含むことを特徴とする請求項1記載のバッテリ監視装置。
【請求項3】
前記第1検出回路の出力点と前記第2検出回路の出力点とが第1ダイオードを介して接続され、
前記第2検出回路と前記電源スイッチとが第2ダイオードを介して接続されていることを特徴とする請求項2記載のバッテリ監視装置。
【請求項4】
前記バッテリの管理を行うバッテリ管理部を、更に備え、
前記バッテリ管理部は、前記第2出力端子から異常を示す信号が出力された場合に、前記第1出力端子の検出信号に基づいて、前記バッテリの異常発熱か前記温度検出部の異常かを判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のバッテリ監視装置。
【請求項5】
前記バッテリ管理部は、前記第2出力端子から異常を示す信号が出力された場合に、前記第1出力端子の検出信号の時間変化率に基づいて、前記バッテリの使用可否を判定することを特徴とする請求項4記載のバッテリ監視装置。
【請求項6】
請求項4から請求項5のいずれか一項に記載のバッテリ監視装置と、
前記バッテリ監視装置の出力を受けて電動車両の制御を行う車両制御部と、
を備え、
前記車両制御部は、前記バッテリ管理部が前記温度検出部の異常と判定した場合に搭乗者に故障の警告を行い、前記バッテリ管理部が前記バッテリの異常発熱と判定した場合に搭乗者に異常発熱に関する警告を行うことを特徴とする電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両のバッテリの状態を監視するバッテリ監視装置及び電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動車両においては、走行用の電力を蓄積するバッテリの状態の監視が行われている。特許文献1には、バッテリに含まれる異なる電池スタックの温度をそれぞれ検出する複数の温度センサを備えた車両システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-27713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行用の電力を蓄積するバッテリは、多数の電池セルが直列接続されて構成される。このようなバッテリの状態を高い信頼性を持って監視するには、個々の電池セルごとに温度センサを設け、電池セルごとに状態の検出を行う必要がある。
【0005】
一方、1つの温度センサで低温から異常発熱までの広い範囲をカバーすることは困難である。このため、例えば1つの温度センサを用いて、常用の温度範囲に検出レンジを合わせた場合、温度センサから異常な出力があったときに、電池セルが異常発熱しているのか、温度センサの異常なのか判別が困難になるという課題がある。
【0006】
そこで、1つの電池セルに、検出レンジの異なる複数の温度センサを適用することを検討できる。しかし、バッテリは多数の電池セルを含むため、1つの電池セルに複数の温度センサを設けると、電池セルの数に温度センサの増加分が乗算されて、バッテリ監視装置が扱うバッテリの状態信号の数が非常に多くなるという課題がある。
【0007】
本発明は、バッテリの状態を高い信頼性を持って監視することができ、かつ、バッテリの状態信号の増加を抑制できるバッテリ監視装置、並びに、このようなバッテリ監視装置の監視に基づき適切に電動車両の制御を行える電動車両の制御部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、
電動車両のバッテリの状態を監視するバッテリ監視装置であって、
前記バッテリを構成する複数の電池要素の温度をそれぞれ検出する複数の温度検出部を備え、
前記複数の温度検出部の各々は、
第1レンジの温度を検出する第1検出回路と、
前記第1レンジとは異なる第2レンジの温度を検出する第2検出回路と、
温度の検出信号と異常を示す閾値とを比較する比較回路と、
温度の検出信号が出力される第1出力端子と、
前記比較回路から異常の有無を示す信号が出力される第2出力端子と、
を含み、
前記第1出力端子の検出信号が、前記第2出力端子の信号に連動して、前記第1検出回路の検出信号から前記第2検出回路の検出信号へ切り替わるように構成されていることを特徴とするバッテリ監視装置である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のバッテリ監視装置において、
前記第1検出回路は、第1サーミスタ及び抵抗が直列接続された分圧回路であり、第1電源電圧を受けて動作するように構成され、
前記第2検出回路は、第2サーミスタ及び抵抗が直列接続された分圧回路であり、前記第1電源電圧よりも大きな第2電源電圧を受けて動作するように構成され、
前記複数の温度検出部の各々は、
前記比較回路から出力された異常を示す信号に基づいて、前記第2検出回路へ前記第2電源電圧を供給する電源スイッチを、更に含むことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のバッテリ監視装置において、
前記第1検出回路の出力点と前記第2検出回路の出力点とが第1ダイオードを介して接続され、
前記第2検出回路と前記電源スイッチとが第2ダイオードを介して接続されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のバッテリ監視装置において、
前記バッテリの管理を行うバッテリ管理部を、更に備え、
前記バッテリ管理部は、前記第2出力端子から異常を示す信号が出力された場合に、前記第1出力端子の検出信号に基づいて、前記バッテリの異常発熱か前記温度検出部の異常かを判定することを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の電動車両の制御装置において、
前記バッテリ管理部は、前記第2出力端子から異常を示す信号が出力された場合に、前記第1出力端子の検出信号の時間変化率に基づいて、前記バッテリの使用可否を判定することを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、
請求項4から請求項5のいずれか一項に記載のバッテリ監視装置と、
前記バッテリ監視装置の出力を受けて電動車両の制御を行う車両制御部と、
を備え、
前記車両制御部は、前記バッテリ管理部が前記温度検出部の異常と判定した場合に搭乗者に故障の警告を行い、前記バッテリ管理部が前記バッテリの異常発熱と判定した場合に搭乗者に異常発熱に関する警告を行うことを特徴とする電動車両の制御装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るバッテリ監視装置によれば、複数の電池要素に対応した複数の温度検出部を備え、かつ、各温度検出部に温度の検出レンジが異なる第1検出回路と第2検出回路とが含まれる。これらの構成により、個々の電池要素ごとに、その温度、異常発熱、並びに、検出回路の異常等の検出が可能となり、高い信頼性を持ってバッテリの監視を行うことができる。さらに、本発明に係るバッテリ監視装置によれば、比較回路により第2出力端子から異常を示す信号を出力することができ、加えて、第2出力端子の信号に連動して、第2出力端子から出力される検出信号が、第1検出回路の検出信号から第2検出回路の検出信号へと切り替えられる。したがって、各温度検出部から出力される温度の検出信号を、第1出力端子の1つの検出信号に集約することができ、バッテリの状態信号の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る電動車両を示すブロック図である。
図2】温度検出部を示す回路図である。
図3】第1検出回路の検出信号Vout1と第2検出回路の検出信号Vout2と温度の関係を示すグラフである。
図4】BCUと車両制御部とにより実行される異常検出時処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電動車両を示すブロック図である。
【0017】
本実施形態の電動車両1は、EV(Electric Vehicle)又はHEV(Hybrid Electric Vehicle)などであり、駆動輪2と、駆動輪2の動力を発生する走行モータ3と、走行モータ3を駆動する電力を蓄積するバッテリ4と、バッテリ4の電力を変換して走行モータ3を駆動するインバータ5とを備える。さらに、電動車両1は、搭乗者から操作指令が入力される操作部11と、搭乗者に情報を出力可能な表示パネル12と、電動車両1を制御する制御装置20とを備える。操作部11は、ハンドル、ペダル及びシフトレバーなどの運転操作部が含まれていてもよい。
【0018】
制御装置20は、電動車両1の制御を行う車両制御部21と、バッテリ4の状態を監視するバッテリ監視装置22とを含む。バッテリ監視装置22は、バッテリ4の状態を検出する監視回路23と、監視回路23の検出結果に基づいてバッテリ4の管理を行うバッテリ管理部としてのBCU(Battery Control Unit)24とを含む。車両制御部21とBCU24の各々は、1つのECU(Electronic Control Unit)から構成されるが、これらは互いに連携して動作する複数のECUから構成されてもよい。車両制御部21とBCU24とが1つのECUから構成されてもよい。
【0019】
バッテリ4は、例えばリチウムイオン二次電池又はニッケル水素二次電池などであり、複数の電池セルCEが直列に接続されて構成される。なお、複数の電池セルCEは直列に接続されてバッテリユニットを構成し、バッテリ4は、複数のバッテリユニットが直列及び並列に接続された構成であってもよい。
【0020】
監視回路23は、バッテリ4を構成する個々の電池セルCEの温度及び電圧を検出する複数の温度検出部231及び複数の電圧検出部(図示略)を有する。監視回路23には、バッテリ4の全体の電圧、放電電流及び充電電流を検出する電圧センサ及び電流センサが含まれていてもよい。監視回路23の検出結果である状態信号には、複数の電池セルCEの各々の温度の検出信号、各々の電圧の検出信号、各々の異常又は正常の状態を示すエラー信号が含まれ、これらがBCU24へ伝送される。
【0021】
図2は、温度検出部を示す回路図である。図3は、第1検出回路の検出信号Vout1と第2検出回路の検出信号Vout2と温度の関係を示すグラフである。
【0022】
温度検出部231は、第1レンジの温度を検出する第1検出回路51と、第1レンジとは異なる第2レンジの温度を検出する第2検出回路52と、検出された温度の異常を判別する比較回路53と、第2検出回路52への第2電源電圧V2(例えば12V)の供給と非供給とを切り替える電源スイッチ54と、第1検出回路51と第2検出回路52との干渉を抑制する第1ダイオードD1及び第2ダイオードD2とを備える。さらに、温度検出部231は、温度を示す検出信号Voutが出力される第1出力端子t1と、温度の検出結果が正常か異常かを示すエラー信号Seが出力される第2出力端子t2と、接地電位と接続される接地端子GNDとを備える。エラー信号Seは、例えば二値信号であり、ハイレベルである場合に異常を示し、ローレベルである場合に正常を示す。
【0023】
第1検出回路51は、第1サーミスタTH1と分圧抵抗R1とが直列に接続された分圧回路である。第1検出回路51は、分圧回路の両端間に低い第1電源電圧V1(例えば5V)が加えられて動作し、温度の検出信号Vout1として、出力点N1から第1電源電圧V1を分圧した電圧を出力する。第1サーミスタTH1は、常用の温度範囲(例えば-20℃~80℃)に適合された特性、すなわち、その温度範囲でその他の温度範囲よりも抵抗を大きく変化させる特性を有する。第1サーミスタTH1は、対応する電池セルCEの熱が伝導される箇所に配置されている。検出信号Vout1は、図3に示すように、常用の温度範囲の温度に応じて第1電源電圧V1の範囲内で変化する電圧信号である。
【0024】
第2検出回路52は、第2サーミスタTH2と分圧抵抗R2とが直列に接続された分圧回路である。第2検出回路52は、分圧回路の両端間に高い第2電源電圧V2(例えば12V)が加えられて動作し、温度の検出信号Vout2として、出力点N1から第2電源電圧V2を分圧した電圧を出力する。第2サーミスタTH2は、常用の温度範囲を一部含む異常発熱の温度範囲に適合された特性、すなわち、この温度範囲でその他の温度範囲よりも抵抗を大きく変化させる特性を有する。第2サーミスタTH2は、対応する電池セルCEの熱が伝導される箇所に配置されている。検出信号Vout2は、図3に示すように、常用の温度範囲を一部含む異常発熱の温度範囲の温度に応じて第2電源電圧V2の範囲内で変化する電圧信号である。
【0025】
第1検出回路51の出力点N1と、第2検出回路52の出力点N2とは、第1ダイオードD1を介して接続され、第2検出回路52の出力点N2は、第1出力端子t1に直結されている。第1ダイオードD1は、出力点N1から出力点N2へ電流を流す向きに接続されている。第1ダイオードD1は、異常発熱の温度範囲で第2検出回路52が動作しているときに、第1検出回路51と第1出力端子t1とを遮る機能を果たす。
【0026】
第2検出回路52と電源スイッチ54とは第2ダイオードD2を介して接続されている。第2ダイオードD2は、電源スイッチ54から第2検出回路52へ電流を流す向きに接続されている。第2ダイオードD2は、第2検出回路52が動作していないときに、第1検出回路51の電流が第2検出回路52の第2サーミスタTH2に流れないように機能する。
【0027】
なお、簡略化のため、本実施形態では、第1ダイオードD1及び第2ダイオードD2の電圧降下の作用を省略して説明する。電圧降下の作用を省略した場合と、省略しない場合とでは、比較回路53の閾値電圧、第1サーミスタTH1、第2サーミスタTH2の特性値を適宜ずらすことで、温度検出部231は同様に動作する。
【0028】
比較回路53は、第1出力端子t1に出力される検出信号Vout(第1検出回路51の検出信号Vout1又は第2検出回路52の検出信号Vout2)と、異常を示す閾値電圧Vth(例えば4.7V)とを比較するコンパレータである。比較回路53は、比較結果の信号をエラー信号Seとして第2出力端子t2に出力する。エラー信号Seは、前述のように、例えば、ハイレベルであれば異常を示し、ローレベルであれば正常を示す二値信号である。
【0029】
電源スイッチ54は、第2出力端子t2のエラー信号Seが制御端子に入力され、エラー信号Seが異常を示す値である場合に、第2電源電圧V2を第2検出回路52へ供給し、エラー信号Seが正常を示す値である場合に、第2電源電圧V2の供給を停止する。
【0030】
<温度検出部の動作>
温度検出部231は、第1出力端子t1から電池セルCEの温度を示す検出信号Voutを出力し、第2出力端子t2から異常の有無を示すエラー信号Seを出力する。
【0031】
電池セルCEが常用の温度範囲(例えば-30℃~80℃)にある場合、第1検出回路51の動作により、第1検出回路51の出力点N1から第1出力端子t1へ電池セルCEの温度に応じた検出信号Vout1が出力される。このとき、比較回路53からのエラー信号Seは正常の値を示し、電源スイッチ54はオフされ、第2検出回路52は動作しない。このとき、第2ダイオードD2があることで、第1検出回路51に流れる電流の一部が、第2サーミスタTH2に流れることが回避され、第2検出回路52の干渉なく、第1検出回路51の検出信号Vout1が第1出力端子t1から出力される。
【0032】
電池セルCEが異常発熱の温度範囲(例えば100℃~250℃)になると、第1検出回路51の検出信号Vout1が高くなり、比較回路53から異常を示すエラー信号Seが出力される。さらに、エラー信号Seにより、電源スイッチ54がオンされて第2検出回路52が動作し、第2検出回路52から電池セルCEの温度に応じた検出信号Vout2が出力される。異常発熱の温度範囲では、第1検出回路51の検出信号Vout1は飽和し、第2検出回路52の検出信号Vout2の方が大きくなる。これにより、第1検出回路51の出力点N1は第1ダイオードD1により第1出力端子t1から遮断される。そして、第1検出回路51の干渉なく、第2検出回路52の検出信号Vout2が第1出力端子t1から出力される。BCU24は、第2出力端子t2のエラー信号Seに基づき、第2出力端子t2の検出信号Voutが第2検出回路52の検出信号Vout2に切り替えられたことを認識できる。
【0033】
電池セルCEが常用の温度範囲にある一方、第1検出回路51に異常が生じた場合、例えば第1サーミスタTH1が短絡故障した場合、第1検出回路51の検出信号Vout1は高くなり、比較回路53から異常を示すエラー信号Seが出力される。異常を示すエラー信号Seが出力されると、電源スイッチ54がオンされて第2検出回路52が動作し、第2検出回路52から電池セルCEの温度に応じた検出信号Vout2が出力される。常用の温度範囲では、第2検出回路52の検出信号Vout2は、異常を来した第1検出回路51の検出信号Vout1と同等かそれよりも低くなる。このため、第1出力端子t1からは、短絡故障した第1検出回路51の検出信号Vout1が継続的に出力される。BCU24は、第2出力端子t2のエラー信号Seに基づき、異常の発生を検出でき、第1出力端子t1の検出信号Voutが常用の温度範囲内の高い温度を示す値で変化しないことに基づき、温度検出部231の異常であることを判定できる。
【0034】
<制御処理>
図4は、BCUと車両制御部とにより実行される異常検出時処理の一例を示すフローチャートである。続いて、BCU24及び車両制御部21によって実行される、バッテリ4の異常検出時処理について説明する。以下では、BCU24と車両制御部21とがデータ通信を介して連携して異常検出時処理を行う例を説明するが、BCU24又は車両制御部21が単体で異常検出時処理を行ってもよい。
【0035】
異常検出時処理は、電動車両1の起動時に開始される。異常検出時処理が開始されると、先ず、BCU24は、監視回路23から状態信号をサンプリングし、必要なデータを計算する(ステップS1)。入力される状態信号には、複数の温度検出部231の各出力信号(検出信号Vout、エラー信号Se)が含まれる。また、入力される状態信号には、バッテリ4が密封されたパッケージの内部圧力P1と大気圧(パッケージ外の圧力)P2のデータとが含まれてもよい。計算されるデータには、検出信号Voutの時間変化率δVoutが含まれる。時間変化率δVoutは、前回と今回の検出信号Voutとサンプリング間隔とから計算できる。
【0036】
次に、BCU24は、複数の温度検出部231から取り込んだ複数のエラー信号Seの中に異常を示すハイレベルの信号が含まれているか判別する(ステップS2)。そして、含まれていなければ、BCU24は、バッテリ4の温度が正常であると判断し、ステップS1へ戻り、ステップS1、S2のループ処理を繰り返す。
【0037】
一方、ステップS2で含まれていると判別されたら、BCU24は、異常が示された温度検出部231の信号を対象とし、検出信号Voutが閾値電圧Vthに誤差分αを加えた電圧(Vth+α)よりも大きいか判別する(ステップS3)。判別の結果がNOであれば、BCU24は、温度検出部231の異常(具体的には、第1検出回路51の第1サーミスタTH1の短絡故障)と判定し、制御用の変数“TH1_short_err”に判定値“1”を代入する(ステップS4)。そして、この変数“TH1_short_err”の値が車両制御部21に伝送されることで、車両制御部21は、走行の継続を許可しつつ、表示パネル12の故障灯を点灯させる制御を行う(ステップS5)。そして、異常検出時処理が終了される。この変数“TH1_short_err”の値は、電動車両1のシステムが一旦終了し、再度起動した場合にも残される。
【0038】
一方、ステップS3の判別結果がYESであれば、BCU24は、検出信号Voutの時間変化率δVout[V/秒]が、緊急高熱異常の可能性を示す閾値β[V/秒]以上であるか判別する(ステップS6)。さらに、ここで、BCU24は、併せて、バッテリ4のパッケージの内部圧力P1と大気圧P2との差(P1-P2)が、緊急高熱異常の可能性を示す閾値γ以上であるか判別する(ステップS6)。緊急高熱異常とは、バッテリ4の使用禁止を要する異常発熱を意味する。緊急高熱異常に至らない単なる異常発熱は、バッテリ4の放電電流の制限を要するが、バッテリ4の使用の継続が可能な異常発熱を意味する。
【0039】
なお、時間変化率δVoutの非線形特性により、時間変化率δVout×検出信号Voutの値に応じた係数が、温度の時間変化率に相当する場合等には、ステップS6の判別処理において、時間変化率δVoutに係数を乗じて閾値βと比較してもよい。また、温度の高さに応じて閾値βが変動する場合には、ステップS6の判別処理において、この変動を考慮した比較を行ってもよい。
【0040】
そして、ステップS6の両比較結果がNOであれば、BCU24は、バッテリ4の一時的な異常発熱と判断し、バッテリ4の管理データである放電可能電力の値を低下させ、一時的な異常発熱の情報を車両制御部21へ通知する(ステップS7)。この通知により、車両制御部21は、表示パネル12のバッテリ高温異常警告灯を点灯させる。さらに、車両制御部21は、搭乗者の運転操作に応じてインバータ5を駆動してバッテリ4の電力を走行モータ3へ出力する際、BCU24から放電可能電力の制限された値を受け取ることで、この放電可能電力を超えないようにインバータ5を駆動し、これにより、電動車両1の走行パワーが制限される。ステップS7の後、BCU24は、処理をステップS3に戻す。
【0041】
一方、ステップS6の比較の結果、いずれかの比較結果がYESであれば、BCU24は、バッテリ4の緊急高熱異常と判定し、制御用の変数“Batt_em_overheat”に判定値“1”を代入する(ステップS8)。そして、この変数“Batt_em_overheat”の値が車両制御部21に伝送されることで、車両制御部21は、例えば、電動車両1の緊急停止とバッテリ4をシステムから強制遮断する処理を行うなど、電動車両1の走行を禁止する制御を行う(ステップS9)。加えて、車両制御部21は、表示パネル12の乗員車外退避要求灯を点灯させる制御を行う(ステップS9)。そして、異常検出時処理が終了される。この変数“Batt_em_overheat”の値は、電動車両1のシステムが一旦終了し、再度起動した場合にも残される。
【0042】
なお、ステップS6の判別処理では、BCU24は、上述の2つの比較のいずれか一方のみ行うようにしてもよい。さらに、上記のステップS6の判別処理では、BCU24は、2つの比較結果の両方がYESの場合に、バッテリ緊急高熱異常と判別し、いずれかの比較結果がNOの場合に、一時的な高温異常と判別するようにしてもよい。
【0043】
以上のように、本実施形態のバッテリ監視装置22によれば、温度検出部231が、第1レンジの温度を検出する第1検出回路51と、第1レンジとは異なる第2レンジの温度を検出する第2検出回路と、異常の信号を出力する比較回路53とを備える。そして、これらが出力する信号により、対応する電池セルCEの常用の温度範囲の温度、異常発熱時の温度、温度検出部231の異常の発生等を識別することができる。さらに、各温度検出部231は、温度の検出信号Voutが出力される第1出力端子t1と、異常又は正常を示すエラー信号Seが出力される第2出力端子t2とを有する。さらに、第2出力端子t2のエラー信号Seが異常を示す信号に切り替わることに連動して、第1出力端子t1から出力される検出信号Voutが、第1検出回路51から出力される検出信号Vout1から、第2検出回路52から出力される検出信号Vout2に切り替わる。したがって、多数の電池セルCEに対応して多数の温度検出部231が含まれる場合でも、1つの温度検出部231から出力される信号数が抑制されるので、バッテリ4の状態信号の総数が非常に多くなってしまうことを回避できる。
【0044】
さらに、本実施形態のバッテリ監視装置22によれば、第1検出回路51と第2検出回路52とが、電圧値の異なる第1電源電圧V1と第2電源電圧V2とで動作する分圧回路により構成されている。このような構成によれば、常用の温度範囲では、第1検出回路51の検出信号Vout1と、第2検出回路52の検出信号Vout2との差異を比較的に小さくし、異常発熱の温度範囲では、第2検出回路52の検出信号Vout2を第1検出回路51の検出信号Vout1よりも大きい電圧にできる。そして、このような設定によれば、電池セルCEが異常発熱の温度まで上昇して、第1出力端子t1の検出信号Voutが第1検出回路51の検出信号Vout1から第2検出回路52の検出信号Vout2へ切り替わる場合に、その切り替わりの前後で、検出信号Voutの変化幅を小さくすることができ、温度に応じてほぼ連続して変化するという検出信号Voutの性質を担保できる。これにより、BCU24での検出信号Voutの取り扱いが容易になる。
【0045】
さらに、本実施形態のバッテリ監視装置22によれば、異常を示すエラー信号Seにより、第2検出回路52に第2電源電圧V2が供給されることで、第1出力端子t1の検出信号Voutの切り替えが行われるように構成されている。したがって、常用の温度範囲で、温度検出部231に異常が生じていない場合には、第2検出回路52を非動作状態とすることができ、消費電力を低減できる。さらに、本実施形態では、異常発熱の温度範囲においては、第2検出回路52の検出信号Vout2が、第1検出回路51の検出信号Vout1よりも大きな電圧になる。したがって、第2検出回路52が動作することで、受動的な信号の切替え手段(例えば第1ダイオードD1)を用いて、第1出力端子t1の検出信号Voutを、第2検出回路52の検出信号Vout2に切り替えることができる。これにより、第1出力端子t1の検出信号Voutの切替制御が容易になる。
【0046】
さらに、本実施形態のバッテリ監視装置22によれば、第1検出回路51の出力点N1と、第2検出回路52の出力点N2との間に、第1ダイオードD1を有する。したがって、第2検出回路52に第2電源電圧V2が供給され、その検出信号Vout2が第1検出回路51の検出信号Vout1よりも大きくなった場合に、第1ダイオードD1によって、第1検出回路51と第2検出回路52との干渉を回避して、第2検出回路52の検出信号Vout2を第1出力端子t1へ導くことができる。
【0047】
さらに、本実施形態のバッテリ監視装置22によれば、第2検出回路52と電源スイッチ54との間に第2ダイオードD2を有する。これにより、第2電源電圧V2が供給されずに、第2検出回路52が動作していない状態で、第1検出回路51と第2検出回路52との干渉を抑制して、第1検出回路51の検出信号Vout2を第1出力端子t1へ導くことができる。具体的には、第2ダイオードD2により、第1検出回路51から第2検出回路52の第2サーミスタTH2に電流が流れてしまうことを回避することができ、第2検出回路52と第1検出回路51との干渉を抑制できる。
【0048】
さらに、本実施形態のバッテリ監視装置22によれば、BCU24は、第2出力端子t2から異常を示すエラー信号Seが出力された場合に、第1出力端子t1の検出信号Voutに基づいて、バッテリ4の異常発熱であるか、温度検出部231の異常であるかを判別する(図4のステップS3)。異常のエラー信号Seが出力されているとき、温度検出部231が正常であれば、第1出力端子t1の検出信号Voutは、第2検出回路52の検出信号Vout2に切り替わって、温度に応じて変化する信号となる。一方、温度検出部231の異常でエラー信号Seが出力されていれば、第1出力端子t1の検出信号Voutは、第1電源電圧V1(例えば5V)より少し小さい電圧で維持される。したがって、このような検出信号Voutを用いることで、BCU24は、上記の判定を高い信頼性を持って行うことができる。
【0049】
さらに、本実施形態のバッテリ監視装置22によれば、BCU24は、第2出力端子t2から異常を示すエラー信号Seが出力された場合に、第1出力端子t1の検出信号の時間変化率δVoutに基づいて、バッテリ4の使用可否を判定する(図4のステップS6)。すなわち、BUC24は、時間変化率δVoutに基づいて、電池セルCEが単なる異常発熱で出力制限に留めて継続使用可能とするのか、緊急高熱異常で使用禁止とするのか判定する。異常を示すエラー信号Seの出力時には、温度検出部231からは第2検出回路52の検出信号Vout2(=Vout)が出力されており、BCU24は、異常発熱の温度範囲でも高い分解能で電池セルCEの温度を認識できる。したがって、このような検出信号Voutの時間変化率δVoutを用いることで、BCU24は、上記の判定を高い信頼性を持って行うことができる。
【0050】
さらに、本実施形態の電動車両1の制御装置20によれば、車両制御部21は、BCU24がバッテリ4の異常発熱を判定したときには、搭乗者に異常発熱に関する警告(バッテリ高温異常警告灯の点灯又は乗員車外退避要求灯の点灯)を行う。さらに、車両制御部21は、BCU24が温度検出部231の異常の判定したときには、搭乗者に温度検出部231の故障の警告(故障灯の点灯)を行う。このような、信頼性の高い判定に基づく警告により、搭乗者は異常の種別に応じた適切な対処を採ることができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、エラー信号Seに連動して第1出力端子t1の検出信号Voutが切り替わる構成の一例が図2に示されたが、例えば第1検出回路と第2検出回路とを選択可能に第1出力端子t1へ接続する半導体スイッチを備え、エラー信号Seに基づいて半導体スイッチを切り替える構成が採用されてもよい。また、上記実施形態では、第1検出回路51の第1電源電圧V1と第2検出回路52の第2電源電圧V2とを異ならせた例を示したが、両方の電源電圧を同一とした構成が採用されてもよい。また、上記実施形態では、個々の電池セルを温度検出部が設けられる電池要素とした例を示したが、例えばn個の電池セルを一組にしたものを1つの電池要素として、複数の電池要素と複数の温度検出部とが対応づけられる構成としてもよい。また、上記実施形態では、比較回路として、第1検出回路51の検出信号及び第2検出回路52の検出信号のうち第1出力端子t1に出力された方の検出信号と閾値電圧Vthとを比較する構成を示した。しかし、比較回路は、第1検出回路の検出信号のみと所定の閾値とを比較してもよいし、第2検出回路の検出信号のみと所定の閾値とを比較してもよいし、第1検出回路又は第2検出回路とは別の手段により検出された温度の検出信号と所定の閾値とを比較してもよい。その他、第1検出回路及び第2検出回路の具体的な回路構成、温度検出部231の信号を用いた電動車両1の制御手順など、実施形態に示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 電動車両
2 駆動輪
3 走行モータ
4 バッテリ
CE 電池セル(電池要素)
5 インバータ
20 制御装置
22 バッテリ監視装置
23 監視回路
24 BCU(バッテリ管理部)
51 第1検出回路
52 第2検出回路
53 比較回路
54 電源スイッチ
TH1 第1サーミスタ
TH2 第2サーミスタ
t1 第1出力端子
t2 第2出力端子
231 温度検出部
図1
図2
図3
図4