(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】ポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート
(51)【国際特許分類】
B32B 5/18 20060101AFI20230215BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20230215BHJP
B29C 48/16 20190101ALI20230215BHJP
B65D 57/00 20060101ALI20230215BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230215BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
B32B5/18
B29C48/08
B29C48/16
B65D57/00 B
B32B27/18 D
B32B27/32 E
(21)【出願番号】P 2019099688
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(72)【発明者】
【氏名】谷口隆一
(72)【発明者】
【氏名】角田博俊
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-135582(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133354(WO,A1)
【文献】特開2011-162761(JP,A)
【文献】特開2016-204227(JP,A)
【文献】特開2015-180534(JP,A)
【文献】特開2013-209577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 5/18
B29C 48/08
B29C 48/16
B65D 57/00
B32B 27/18
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂発泡層と、該発泡層の少なくとも片面に積層接着されたポリエチレン系樹脂層とを有するポリエチレン系樹脂積層押出発泡シートにおいて、
該樹脂層が、ポリエチレン系樹脂(B)と高分子型帯電防止剤とを含む樹脂組成物から形成されており、
該高分子型帯電防止剤がアイオノマー樹脂であり、
該樹脂組成物中に、該ポリエチレン系樹脂(B)から構成される連続相と、該連続相中に分散する該高分子型帯電防止剤から構成される分散相とが形成されており、
該積層押出発泡シートの幅方向と直交する垂直断面において、該分散相の個数基準による分散面積の中央値が1×10
2~1×10
6nm
2であると共に、
該分散相の個数基準による厚み方向の分散径の中央値Aに対する、該分散相の個数基準による厚み方向と直交する方向の分散径の中央値Bの比(B/A)が2以上であり、
該積層押出発泡シートの樹脂層側の表面抵抗率が1×10
12Ω以下であ
り、
該樹脂層中のポリスチレン系樹脂の含有量が5重量%未満であることを特徴とするポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
【請求項2】
前記樹脂層において、前記高分子型帯電防止剤の含有割合が5~30重量%である、請求項1に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
【請求項3】
前記アイオノマー樹脂が、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体のカリウムアイオノマーである、請求項1又は2に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
【請求項4】
前記アイオノマー樹脂のメルトフローレイトが、3g/10分以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
【請求項5】
前記ポリエチレン系樹脂(B)の融点Tmpが100~120℃であり、
該ポリエチレン系樹脂(B)の融点Tmpと前記アイオノマー樹脂の融点Tmiとの差(Tmp-Tmi)が5~30℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
【請求項6】
前記積層押出発泡シートの全体見掛け密度が20~200kg/m
3である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
【請求項7】
前記樹脂層の片面あたりの坪量が1~20g/m
2である、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
【請求項8】
前記垂直断面において、厚み方向に沿った直線上に前記分散相が平均1個以上存在している、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂押出積層発泡シートに関し、詳しくは、帯電防止性能に優れると共に、被包装物等への低分子量成分等の移行量が少ないポリエチレン系樹脂積層押出発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン系樹脂からなる発泡シートにポリエチレン系樹脂からなる樹脂層が積層された積層押出発泡シート(以下、単に積層発泡シートともいう。)は、軽量であると共に、緩衝性に優れるため、液晶パネルに使用されるガラス板の間に介在させて梱包する間紙等、エレクトロニクス機器やその素材の包装分野等で広く使用されている。
【0003】
このような用途においては、通常、積層発泡シートへの埃や塵等の付着を抑制するために、積層発泡シートへの帯電防止性能の付与が行われる。積層発泡シートに帯電防止性能を付与する方法としては、例えば、共押出法により積層発泡シートを製造する際に、樹脂層を形成するための樹脂溶融物に高分子型帯電防止剤を配合して共押出を行い、高分子型帯電防止剤を含有する樹脂層を形成する方法が挙げられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記間紙は、帯電防止性に優れていることに加え、ガラス板等の被包装物を汚染しないことを要求されるものである。加えて、近年、エレクトロニクス機器用のガラス板用間紙などに使用される積層発泡シートにおいては、被包装物の汚染を防ぐために、被包装物への高分子型帯電防止剤に由来する低分子量成分等の移行がさらに抑制された積層発泡シートが求められている。
【0006】
低分子量成分等の移行量を低減するためには、低分子量成分の含有量が少ない高分子型帯電防止剤を用いることが好ましい。低分子量成分の含有量が少ない高分子型帯電防止剤としては、アイオノマー樹脂が挙げられる。
【0007】
しかし、従来においては、共押出により、アイオノマー樹脂を含有するポリエチレン系樹脂層をポリエチレン系樹脂発泡層に積層して、積層発泡シートを製造すると、所望される帯電防止性を安定して発現させることが難しく、良好な帯電防止性能を有する積層発泡シートを安定して製造することが困難であった。
【0008】
本発明は、前記問題を解決し、被包装物等への低分子量成分等の移行が抑制されると共に、帯電防止性能に優れる積層発泡シートを提供することを課題とする。
【0009】
本発明によれば、以下に示すポリエチレン系樹脂積層押出発泡シートが提供される。
[1]ポリエチレン系樹脂発泡層と、該発泡層の少なくとも片面に積層接着されたポリエチレン系樹脂層とを有するポリエチレン系樹脂積層押出発泡シートにおいて、該樹脂層が、ポリエチレン系樹脂(B)と高分子型帯電防止剤とを含む樹脂組成物から形成されており、
該高分子型帯電防止剤がアイオノマー樹脂であり、該樹脂組成物中に、該ポリエチレン系樹脂から構成される連続相と、該連続相中に分散する該高分子型帯電防止剤から構成される分散相とが形成されており、該積層押出発泡シートの幅方向と直交する垂直断面において、該分散相の個数基準による分散面積の中央値が1×102~1×106nm2であると共に、該分散相の個数基準による厚み方向の分散径の中央値Aに対する、該分散相の個数基準による厚み方向と直交する方向の分散径の中央値Bの比(B/A)が2以上であり、該積層押出発泡シートの樹脂層側の表面抵抗率が1×1012Ω以下であり、該樹脂層中のポリスチレン系樹脂の含有量が5重量%未満であることを特徴とするポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
[2]前記樹脂層において、前記高分子型帯電防止剤の含有割合が5~30重量%である、前記1に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
[3]前記アイオノマー樹脂が、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体のカリウムアイオノマーである、前記1又は2に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
[4]前記アイオノマー樹脂のメルトフローレイトが、3g/10分以下である、前記1~4のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
[5]前記ポリエチレン系樹脂(B)の融点Tmpが100~120℃であり、
該ポリエチレン系樹脂の融点Tmpと前記アイオノマー樹脂の融点Tmiとの差(Tmp-Tmi)が5~30℃である、前記1~3のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
[6]前記積層押出発泡シートの見掛け密度が20~200kg/m3である、前記1~5のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
[7]前記樹脂層の片面あたりの坪量が1~20g/m2である、前記1~6のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
[8]前記垂直断面において、厚み方向に沿った直線上に前記分散相が平均1個以上存在している、前記1~7のいずれか一項に記載のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層押出発泡シートは、高分子型帯電防止剤としてアイオノマー樹脂を用いることにより、被包装物等への低分子量成分等の移行が抑制されたものであり、さらにアイオノマー樹脂を樹脂層中に特定の状態で分散させることにより、優れた帯電防止性能を安定して発現できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた積層押出発泡シートについて撮影された断面写真である(倍率:7000倍)。
【
図2】
図2は、実施例1で得られた積層押出発泡シートについて撮影された断面写真である(倍率:70000倍)。
【
図3】
図3は、比較例1で得られた積層押出発泡シートについて撮影された断面写真である(倍率:7000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリエチレン系樹脂積層押出発泡シート(以下、単に積層発泡シートともいう。)について詳細に説明する。
本発明の積層押出発泡シートは、押出発泡方法により製造されたものである。該積層発泡シートは、ポリエチレン系樹脂発泡層(以下、単に発泡層ともいう。)とポリエチレン系樹脂層(以下、単に樹脂層ともいう。)とを有し、該樹脂層は該発泡層の少なくとも片面に積層接着されている。埃や塵等の付着をより防ぐために、該樹脂層は該発泡層の両面に積層接着されていることが好ましい。
なお、該積層発泡シートは、後述するように、共押出発泡方法により効率よく製造することができる。
【0013】
次に、該発泡層を構成するポリエチレン系樹脂、該樹脂層を構成する樹脂組成物について、この順で説明する。
本発明において、該発泡層はポリエチレン系樹脂(A)により構成される。該ポリエチレン系樹脂(A)としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレンとコモノマーとの共重合体でエチレン成分が50モル%を超えるものや、これら2種以上の混合物が挙げられる。
これらのポリエチレン系樹脂(A)の中でも、押出発泡性に優れ、緩衝性に優れた積層発泡シートとなることから、低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0014】
本明細書において、「低密度ポリエチレンを主成分とする」とは、低密度ポリエチレンがポリエチレン系樹脂中に50重量%以上含有されていることをいう。また、低密度ポリエチレンは、密度0.91g/cm3以上0.93g/cm3未満のポリエチレン系樹脂であることが好ましい。
【0015】
なお、ポリエチレン系樹脂(A)は、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、ポリエチレン系樹脂以外の合成樹脂やエラストマー等の他の成分を含んでいてもよい。この場合、他の成分の含有量は、ポリエチレン系樹脂(A)100重量%に対して、20重量%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0016】
該ポリエチレン系樹脂(A)中の低密度ポリエチレンの含有量は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。なお、該ポリエチレン系樹脂(A)が低密度ポリエチレンのみから構成されることが最も好ましい。
【0017】
発泡層を形成するポリエチレン系樹脂(A)には、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、気泡調整剤、造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、抗菌剤、収縮防止剤、無機充填剤等の添加剤を添加することができる。
【0018】
次に、該樹脂層を構成する樹脂組成物について説明する。
本発明における樹脂層は、ポリエチレン系樹脂(B)と高分子型帯電防止剤とを含む樹脂組成物から構成される。
【0019】
ポリエチレン系樹脂(B)としては、前記ポリエチレン系樹脂(A)として例示した樹脂を用いることができる。これらのポリエチレン系樹脂の中でも、帯電防止性能に優れた積層発泡シートを安定して製造できることから、ポリエチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂を用いること好ましく、低密度ポリエチレンを用いることがより好ましい。
なお、ポリエチレン系樹脂(B)として、低密度ポリエチレンを用いる場合、前記ポリエチレン系樹脂(A)として、低密度ポリエチレンを用いることが、樹脂層と発泡層との接着性に優れることから好ましい。
【0020】
該樹脂層中のポリエチレン系樹脂(B)の含有量は50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
なお、該樹脂組成物は、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールを含んでいてもよい。
【0022】
該樹脂層は、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、ポリエチレン系樹脂以外の合成樹脂やエラストマー等の他の成分を含んでいてもよい。
なお、該樹脂層は、ポリスチレン系樹脂を実質的に含有しないことが好ましい。具体的には、前記樹脂層中のポリスチレン系樹脂の含有量が5重量%未満であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、該含有量が0であることが最も好ましい。樹脂層中のポリスチレン系樹脂の含有量を少なくすることで、積層発泡シートの緩衝性や、リサイクル性を高めることができる。
【0023】
ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(汎用ポリスチレン)、ゴム変性ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン)、スチレンに由来する成分を50%以上含む、スチレンと、スチレンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体等が挙げられる。
【0024】
前記樹脂層を構成する樹脂組成物に含まれる高分子型帯電防止剤は、アイオノマー樹脂である。
該アイオノマー樹脂は、表面抵抗率が小さく、積層発泡シートに良好な帯電防止性能を付与することができることに加え、低分子量成分の含有量が少ないため、被包装物への低分子量成分の移行による、被包装物の汚染を抑制することができる。
【0025】
該アイオノマー樹脂は、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体の分子間を、金属イオンで分子間架橋した樹脂である。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。また、金属イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム等が挙げられる。
アイオノマー樹脂の中では、積層発泡シートに良好な帯電防止性能を付与できることから、金属イオンとしてカリウムを用いた、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体のカリウムアイオノマーが好ましい。
なお、市販されているアイオノマー樹脂としては、三井・デュポンポリケミカル株式会社製「エンティラSD100」、「エンティラMK400」などが挙げられる。
【0026】
該アイオノマー樹脂の表面抵抗率は、1×1012Ω未満であることが好ましい。表面抵抗率1×1012Ω未満のアイオノマー樹脂を用いて樹脂層を形成することにより、帯電防止性能に優れる積層発泡シートを安定して得ることができる。かかる理由により、該表面抵抗率は1×1011Ω以下であることがより好ましく、さらに好ましくは1×1010Ω以下であり、特に好ましくは1×109Ω以下である。
なお、アイオノマー樹脂の表面抵抗率は、後述するように、JIS K6271(2001年)の方法に準じて測定することができる。
【0027】
該樹脂層において、前記高分子型帯電防止剤の含有割合は5~30重量%であることが好ましい。該含有割合がこの範囲内であれば、高分子型帯電防止剤に由来する低分子量成分の移行を抑制しつつ、該樹脂層表面の帯電防止性能を安定して発現させることができる。
従って、該含有割合の下限は6重量%であることがより好ましく、さらに好ましくは8重量%であり、特に好ましくは10重量%である。一方、該含有割合の上限は25重量%であることがより好ましく、さらに好ましくは20重量%である。
なお、前記高分子型帯電防止剤の含有割合は、ポリエチレン系樹脂(B)の含有量と、高分子型帯電防止剤の含有量との合計100重量%に対する割合である。
【0028】
本発明において、前記樹脂層を構成する樹脂組成物中に、連続相と該連続相中に分散する分散相とが存在し、該連続相は前記ポリエチレン系樹脂(B)から構成され、該分散相は前記高分子型帯電防止剤から構成されている。該ポリエチレン系樹脂(B)が連続相を形成することにより、該樹脂層は柔軟性に優れ、緩衝性に優れるものである。さらに、高分子型帯電防止剤として、アイオノマー樹脂を用いているにもかかわらず、優れた帯電防止性が発現している。その理由としては、次に説明するように、高分子型帯電防止剤が分散相を形成し、該分散相が、筋状に延伸されていることにより、高分子型帯電防止剤のネットワークが形成されていることが考えられる。
【0029】
本発明におけるアイオノマー樹脂の分散相は、小さいと共に延伸されていることに特徴があり、分散相が小さい程度は特定の分散面積の中央値により表され、延伸されている程度は、特定の比(B/A)で表される。次に、分散面積の中央値の範囲と意味、比(B/A)の範囲と意味についてこの順で説明する。
【0030】
本発明においては、該積層発泡シートの幅方向と直交する垂直断面における、該分散相の個数基準による分散面積の中央値は1×102~1×106nm2である。
該中央値は、積層発泡シートの幅方向と直交する垂直断面における分散相の個数と各分散相の断面積(分散面積)を測定し、測定された分散相の断面積を大きさ順に並べたときの、分散相の総数の中央(分散相の個数の累計の50%)に位置する値である。中央値を採用することで、連続相中において存在率が高く、帯電防止性能に寄与する分散相の分散状態を適切に評価することができる。
該分散面積の中央値が前記範囲にあることは、アイオノマー樹脂(高分子型帯電防止剤)からなる分散径の小さい分散相が、ポリエチレン系樹脂(B)からなる連続相中に多く分散して存在していることを意味する。該中央値は、従来の樹脂層における中央値より小さく、従来においては実現することができなかった値である。
該中央値が小さすぎる場合、良好な帯電防止性能が発現しないおそれがある。また、前記中央値が大きすぎる場合、樹脂組成物中で高分子型帯電防止剤が良好に分散しておらず、良好な帯電防止性能が発現しないおそれがある。
積層発泡シートの帯電防止性能をより高めるためには、該中央値の下限は、5×102であることが好ましく、より好ましくは1×103である。該中央値の上限は1×105nm2であることが好ましく、より好ましくは5×104nm2であることがより好ましい。
なお、積層発泡シートの幅方向とは、積層発泡シートの押出方向及び厚み方向に直交する方向である。
【0031】
本発明の積層発泡シートは、樹脂層が高分子型帯電防止剤としてアイオノマー樹脂を含有しているにもかかわらず、優れた帯電防止性を有している。
本発明における樹脂層が帯電防止性を発現する理由としては、アイオノマー樹脂からなる分散径の小さい分散相が連続相中に多く分散して存在する(分散面積の中央値が小さい)ことに加え、分散相が引き延ばされて筋状に存在することにより、ポリエチレン系樹脂中にアイオノマー樹脂の導電性ネットワーク構造が形成されていることが考えられる。具体的には、積層発泡シートの幅方向と直交する垂直断面における、分散相の個数基準による厚み方向の分散径の中央値Aに対する、分散相の個数基準による厚み方向と直交する方向の分散径の中央値Bの比(B/A)が2以上であることを要する。
ここで、各分散径の中央値は、積層発泡シートの幅方向と直交する垂直断面における分散相の個数と各垂直フェレ径及び各水平フェレ径を測定し、測定された各フェレ径を大きさ順に並べたときの、分散相の総数の中央(分散相の個数の累計の50%)に位置する値を意味する。なお、垂直フェレ径は樹脂層の厚み方向における分散相の長さに相当し、水平フェレ径は前記厚み方向と直交する方向における分散相の長さに相当する。
該比(B/A)が大きいことは、分散相が一方向に延伸されており、アイオノマー樹脂の分散相が引き伸ばされた状態で存在していることを意味する。これにより、アイオノマー樹脂(高分子型帯電防止剤)の導電性ネットワーク構造が形成されやすくなり、より優れた帯電防止性が発現すると考えられる。
該比(B/A)が小さすぎると、樹脂組成物中で高分子型帯電防止剤が良好に引き伸ばされた状態で存在していないので、良好な帯電防止性能が発現しないおそれがある。
かかる観点から、垂直断面において、分散相の個数基準による厚み方向の分散径の中央値Aに対する、分散相の個数基準による厚み方向と直交する方向の分散径の中央値Bの比(B/A)が3以上であることが好ましい。また、該比(B/A)の上限は、概ね20であることが好ましく、10であることがより好ましく、6であることがさらに好ましい。
なお、前記分散相の厚み方向は、積層発泡シートの厚み方向(樹脂層の厚み方向)と一致する方向である。
【0032】
本発明の樹脂層においては、前記したように、分散面積の中央値が特定範囲であることにより、アイオノマー樹脂がポリエチレン系樹脂(B)中に細かく分散し、分散径の中央値の比(B/A)が特定範囲内であることにより、アイオノマー樹脂が引き伸ばされており、後述するように、表面抵抗率が1×1012Ω以下であるという良好な帯電防止性を発現することができる。さらに、アイオノマー樹脂は、低分子量成分の含有量が少ないので、該樹脂層が積層された積層発泡シートは、被包装物を汚染する可能性が小さいものである。
【0033】
前記垂直断面において、分散相の個数基準による厚み方向の分散径の中央値Aは、10~1000nmであることが好ましく、15~600nmであることがより好ましく、20~500nmであることがさらに好ましく、30~300nmであることが特に好ましい。該中央値Aがこの範囲内であれば、帯電防止性能に優れる積層発泡シートをより安定して得ることができる。
【0034】
本発明においては、前記垂直断面において、厚み方向に沿った直線上に前記分散相が平均1個以上存在していることが好ましい。該範囲で分散相が存在していれば、所望される帯電防止性能が安定して発現する積層発泡シートが得られやすくなる。
かかる観点から、前記分散相が平均2個以上存在していることがより好ましく、5個以上存在していることがさらに好ましい。また、前記分散相は、概ね平均100個以下存在していることが好ましく、平均30個以下存在していることがより好ましく、平均20個以下存在していることがさらに好ましい。
前記分散相の個数の平均は、無作為に選択された6箇所以上の積層発泡シートの幅方向と直交する垂直断面において、樹脂層の厚み方向に沿った直線を、樹脂層全体にわたって、2μm間隔で5本引き、この直線と交差する分散相の個数を計測した後、計測された分散相の個数の合計を、直線の本数の合計で除することで求められた値である。
【0035】
前記分散面積の個数基準における中央値、前記分散相の個数基準による厚み方向の分散径の中央値A、前記分散相の個数基準による厚み方向と直交する方向の分散径の中央値B及び厚み方向に沿った直線上に存在する分散相の個数の平均値については、積層発泡シートの幅方向と直交する垂直断面を切り出して、樹脂層部分を含む超薄切片を作製し、これを染色した後、透過型電子顕微鏡を用いて、染色した超薄切片を撮像することで得られる写真を基に測定することができる。具体的な測定方法については、実施例において詳細に説明する。
【0036】
次に、本発明の積層発泡シートの物性について説明する。
本発明の積層発泡シートの前記樹脂層側の表面抵抗率は1×1012Ω以下である。該表面抵抗率が前記範囲内であれば、帯電防止性能が十分に発現された積層発泡シートとなり、埃等の付着を抑制することができる。
かかる理由により、該表面抵抗率は5×1011Ω以下であることがより好ましく、1×1011Ω以下であることがさらに好ましい。
なお、積層発泡シートの両面に樹脂層が積層されている場合、積層発泡シートの両面の夫々の表面抵抗率が1×1012Ω以下である。
なお、表面抵抗率が前記範囲であれば、樹脂層の表面に高分子型帯電防止剤を実質的に含まない表面樹脂層をさらに積層してもよい。
【0037】
本明細書において、表面抵抗率の測定は次のように行う。
積層発泡シートから所定寸法(例えば、縦100mm×横100mm×厚み:シート厚み)の複数の試験片を切り出し、この試験片の樹脂層に対して、JIS K6271(2001年)の方法に準じて印加電圧500Vで印加してから1分後の表面抵抗値を測定し、得られた測定値の平均値から表面抵抗率を求めることができる。なお、高分子型帯電防止剤(アイオノマー樹脂)の表面抵抗率についても、アイオノマー樹脂が平板状に成形された試料に対して、JIS K6271(2001年)の方法に基づき、印加電圧500Vで印加してから1分後の表面抵抗値を測定し、得られた測定値の平均値から求めることができる。
表面抵抗率の測定装置として、例えばタケダ理研工業(株)製、型式:TR8601等を用いることができる。
【0038】
本発明の積層発泡シートの全体見掛け密度は、20~200kg/m3であることが好ましく、より好ましくは30~150kg/m3、さらに好ましくは50~120kg/m3である。該見掛け密度が、前記範囲内の積層発泡シートは、軽量性、取扱い性、緩衝性のバランスに優れるものである。また、同様の理由で、積層発泡シートの全体坪量は、10~200g/m2であることが好ましく、より好ましくは15~100g/m2、さらに好ましくは20~80g/m2である。
【0039】
本明細書において、積層発泡シートの坪量の測定は次のように行う。まず、積層発泡シートの全幅にわたって所定寸法(例えば、長さ10cm)の試験片を切り出し、試験片の重量(g)を測定した後、試験片の面積でその重量を割り算することで積層発泡シートの坪量を求める。
また、積層発泡シートの全体見掛け密度は、前記積層発泡シートの坪量(g/m2)を積層発泡シートの全体厚み(mm)で除し、単位換算することで求められる。
【0040】
該積層発泡シートの全体厚みは0.05~2mmであることが好ましい。全体厚みが前記範囲であれば、緩衝性を高めることができると共に、ガラス板等の板状物用の間紙として用いる際に、ガラス板を積み重ねて輸送する際の積載効率を高めることができる。
かかる観点から、その上限は、1.5mmが好ましく、より好ましくは1.2mm、さらに好ましくは1.0mmである。一方、その下限は、より高い緩衝性を確保するために、0.1mmが好ましく、より好ましくは0.2mm、さらに好ましくは0.3mmである。
【0041】
前記樹脂層の片面あたりの坪量の上限は、20g/m2であることが好ましく、15g/m2であることがより好ましく、更に好ましくは10g/m2、特に好ましくは5g/m2である。該厚みの上限が前記範囲内であれば、所望される帯電防止性能を発現させつつ、コスト性や軽量性を高めることもできる。一方、その下限は、概ね1g/m2である。該下限が前記範囲内であれば、樹脂層を形成するのに必要な成膜性を確保することができる。
【0042】
樹脂層の坪量[g/m2]は、積層発泡シートの製造時における、樹脂層の吐出量X[kg/時]と、得られる積層発泡シートの幅W[m]と、単位時間あたりに押出される積層発泡シートの長さL[m/時]とを、下記(1)式に代入することにより求めることができる。なお、発泡層の両面に樹脂層が積層されている場合には、それぞれの樹脂層の吐出量から、各面の樹脂層の坪量を求めることができる。
樹脂層全体の坪量[g/m2]=〔1000X/(L×W)〕・・・(1)
【0043】
次に、本発明の積層発泡シートの製造方法について詳細に説明する。
本発明の積層発泡シートは、ポリエチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡層形成用樹脂溶融物と、ポリエチレン系樹脂と高分子型帯電防止剤と揮発性可塑剤とを混練してなる樹脂層形成用樹脂溶融物とを共押出することにより製造することができる。
具体的には、発泡層形成用押出機にポリエチレン系樹脂(A)を供給し、加熱溶融して溶融樹脂とした後、物理発泡剤を圧入し、さらに混練して発泡層形成用樹脂溶融物とする。
他方、樹脂層形成用押出機に、ポリエチレン系樹脂(B)と高分子型帯電防止剤(アイオノマー樹脂)とを供給し、加熱溶融して溶融樹脂とした後、揮発性可塑剤を圧入し、さらに混練して樹脂層形成用樹脂溶融物とする。得られた該発泡層形成用樹脂溶融物と該樹脂層形成用樹脂溶融物とを共押出用ダイに導入して積層し、低圧下(通常、大気圧)に共押出する。このように、樹脂層形成用樹脂溶融物と発泡層形成用樹脂溶融物とを積層し、発泡層形成用樹脂溶融物を発泡させることにより、樹脂層が発泡層に積層接着された積層発泡シートが得られる。
【0044】
前記した共押出発泡方法は、発泡層の形成と、発泡層への樹脂層の積層とが共押出用ダイを用いて行われるため、生産性に優れると共に、樹脂層と発泡層との間の接着力が高い積層発泡シートを得ることができる方法である。
【0045】
共押出発泡法により積層発泡シートを製造する方法には、共押出用フラットダイを用いて、発泡性樹脂溶融物をシート状に押出し、積層発泡シートとする方法や、共押出用環状ダイを用いて、発泡性樹脂溶融物を筒状に押出して筒状積層発泡体を得て、次いで該筒状積層発泡体を切り開くことで積層発泡シートとする方法等がある。これらの中では、共押出用環状ダイを用いる方法が、幅が1000mm以上の幅広の積層発泡シートを容易に製造することができるので、好ましい。
【0046】
前記環状ダイを用いて共押出法により積層発泡シートを製造する場合、まず、前記ポリエチレン系樹脂(A)と、必要に応じて添加される気泡調整剤などの添加剤とを発泡層形成用押出機に供給し、加熱溶融混練してから物理発泡剤を圧入し、さらに混練して発泡層形成用樹脂溶融物とする。他方、前記ポリエチレン系樹脂(B)と、前記高分子型帯電防止剤(アイオノマー樹脂)とを樹脂層形成用押出機に供給し、加熱溶融混練してから揮発性可塑剤を圧入し、さらに混練して樹脂層形成用樹脂溶融物とする。次に、発泡層形成用樹脂溶融物と樹脂層形成用樹脂溶融物とを共押出用環状ダイに導入する。
【0047】
該ポリエチレン系樹脂(A)としては、190℃におけるメルトフローレイト(MFR)が0.5~15g/10分、更に1~12g/10分のポリエチレン系樹脂であることが、目的とする見掛け密度の発泡層を得る上で好ましい。なお、本明細書におけるメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210-1(2004)A法に準拠して、試験温度190℃、荷重2.16kgで測定される値である。
【0048】
該ポリエチレン系樹脂(A)の融点Tmpは100~135℃であることが好ましい。該融点Tmpが前記範囲のポリエチレン系樹脂(A)は、押出発泡性に優れるので、緩衝性に優れる発泡層を安定して形成することができる。かかる理由により、ポリエチレン系樹脂(A)の融点Tmpは100~130℃であることが好ましく、より好ましくは100~120℃であり、さらに好ましくは100~115℃である。
【0049】
本明細書におけるポリエチレン系樹脂(A)の融点は、JIS K7121-1987に準拠して、熱流束示差走査熱量測定により求められる値である。該測定においてはJIS K7121-1987、3.試験片の状態調節(2)の条件(但し、冷却速度10℃/分。)により状態調整した試験片を使用して、10℃/分にて昇温することにより融解ピークを得ることとし、得られた融解ピークの頂点の温度を融点とする。但し、融解ピークが2つ以上現れる場合は、最も面積の大きな融解ピークの頂点の温度を融点とする。
【0050】
該発泡層形成用樹脂溶融物に添加される物理発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2-テトラフロロエタン、1,1-ジフロロエタン等のフッ化炭化水素等の有機系物理発泡剤、窒素、二酸化炭素、空気、水等の無機系物理発泡剤が挙げられる。場合によっては、アゾジカルボンアミド等の分解型発泡剤を使用することもできる。前記した物理発泡剤は、2種以上を混合して併用することが可能である。これらのうち、特にポリエチレン系樹脂との相溶性、発泡性の観点から有機系物理発泡剤が好ましく、中でもノルマルブタン、イソブタン、又はこれらの混合物を主成分とするものが好適である。
【0051】
物理発泡剤の添加量は、発泡剤の種類、目的とする見掛け密度に応じて調整する。また気泡調整剤の添加量は、目的とする気泡径に応じて調節する。例えば、発泡剤としてイソブタン35重量%とノルマルブタン65重量%とのブタン混合物を用いて前記全体見掛け密度範囲の積層発泡シートを得るためには、ブタン混合物の添加量は、ポリエチレン系樹脂(A)100重量部当たり概ね3~30重量部であることが好ましく、より好ましくは4~20重量部であり、さらに好ましくは6~18重量部である。
【0052】
該発泡層形成用樹脂溶融物には、通常、気泡調整剤が添加される。気泡調整剤としては有機系のもの、無機系のもののいずれも使用することができる。無機系気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。また有機系気泡調整剤としては、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。またクエン酸と重炭酸ナトリウム、クエン酸のアルカリ塩と重炭酸ナトリウム等を組み合わせた重曹-クエン酸系化学発泡剤等も気泡調整剤として用いることができる。これらの気泡調整剤は2種以上を混合して用いることもできる。
【0053】
前記ポリエチレン系樹脂(B)のメルトフローレイト(MFR)は、1~20g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)であることが好ましく、5~15g/10分であることがより好ましい。MFRがこの範囲内であれば、共押出発泡法により良好な樹脂層を安定して効率よく製膜することができる。
ポリエチレン系樹脂(B)のMFRは、前記ポリエチレン系樹脂(A)のMFRと同じか、ポリエチレン系樹脂(A)のMFRよりも高いことが好ましい。
【0054】
該アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、10g/10分以下(温度190℃、荷重2.16kg)であることが好ましく、より好ましくは7g/10分以下であり、さらに好ましくは3g/10分以下である。一方、その下限は、概ね1g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)である。
特に、メルトフローレイト(MFR)が3g/10分以下のアイオノマー樹脂は、高分子型帯電防止剤中に含まれる低分子量成分の量が少ない傾向にあるため、より好ましい。
【0055】
前記ポリエチレン系樹脂のMFR(MFRE)と、前記アイオノマー樹脂のMFR(MFRI)との差(MFRE―MFRI)は5~20g/10分であることが好ましく、6~15g/10分であることがより好ましく、6~12g/10分であることがさらに好ましい。
共押出により積層発泡シートを得る場合において、連続相を構成するポリエチレン系樹脂のMFRと、分散相を構成するアイオノマー樹脂のMFRとの差が大きくなると、樹脂層形成用樹脂溶融物を押出する際の温度条件が比較的低い温度に設定された際に、ポリエチレン系樹脂中にアイオノマー樹脂を分散させにくくなる。一方、本発明においては、後述するように、押出時に揮発性可塑剤を用いることによって、該差が前記範囲にある場合であっても、アイオノマー樹脂をポリエチレン系樹脂中に分散させることでき、樹脂層全体にわたって帯電防止性能に優れる積層発泡シートを安定して得ることができる。
【0056】
ポリエチレン系樹脂(B)の融点Tmpは100~120℃であることが好ましい。該融点Tmpを前記範囲内とすることで、樹脂層と発泡層との積層状態が良好となると共に、均質な樹脂層が形成され、積層発泡シート全体にわたって良好な帯電防止性能が発現する積層発泡シートが得られやすくなる。かかる理由で、該融点Tmpは102~115℃であることがより好ましい。
【0057】
該ポリエチレン系樹脂(B)の融点Tmpと、前記アイオノマー樹脂の融点Tmiとの差(Tmp-Tmi)は5~30℃であることが好ましく、8~28℃であることが好ましく、10~25℃であることがより好ましい。
共押出により積層発泡シートを得る場合においては、通常、樹脂層形成用樹脂溶融物を押出する際の温度条件を十分に高い温度に設定することで、連続相を構成する樹脂中に高分子型帯電防止剤を分散させやすくなる。しかし、発泡層の気泡構造を良好な状態に維持するために、樹脂層形成用樹脂溶融物の温度は過度に高温にできないことに加え、比較的低い温度条件下では、アイオノマー樹脂の溶融粘度が増加しやすいことから、従来、樹脂層を構成する樹脂組成物として、一定の融点差を有するような、ポリエチレン系樹脂とアイオノマー樹脂とを用いた場合には、ポリエチレン系樹脂中にアイオノマー樹脂を分散させることが難しかった。
一方、本発明においては、後述するように、押出時に揮発性可塑剤を用いることによって、前記範囲のような融点の差がある場合であっても、アイオノマー樹脂をポリエチレン系樹脂中に分散させることができ、樹脂層全体にわたって帯電防止性能に優れる積層発泡シートを安定して得ることができる。
なお、前記アイオノマー樹脂の融点Tmiは、概ね80~110℃であることが好ましく、85~100℃であることがより好ましい。
【0058】
本明細書におけるポリエチレン系樹脂(B)及びアイオノマー樹脂の融点は、ポリエチレン系樹脂(A)の融点と同様に測定される値であり、JIS K7121-1987に準拠して、熱流束示差走査熱量測定により求められる値である。
【0059】
前記樹脂層形成用樹脂溶融物を形成するために、溶融した前記混合樹脂に揮発性可塑剤を添加することが好ましい。ポリエチレン系樹脂及び高分子型帯電防止剤と共に混練される揮発性可塑剤としては、沸点が120℃以下のアルコール(A)、炭素数が3~5の飽和炭化水素及び/又はアルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル(B)から選択される1種または2種以上を用いることができる。揮発性可塑剤は沸点が120℃以下のアルコール(A)を含むことが好ましく、沸点が120℃以下のアルコール(A)と、炭素数が3~5の飽和炭化水素及び/又はアルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル(B)とを含むことがより好ましい。
【0060】
前記アイオノマー樹脂は、金属イオンとカルボン酸との結合・解離が繰り返し生じることにより、樹脂中で疑似的な架橋構造が形成される樹脂である。このようなアイオノマー樹脂は、溶融樹脂温度が高い場合には、前記結合・解離が生じて溶融粘度が低下するが、ポリエチレン系樹脂の発泡温度条件程度まで溶融樹脂温度が低くなると、前記結合・解離が生じにくくなり、溶融粘度が大きくなってしまう。そのため、アイオノマー樹脂を含有する樹脂層が発泡層に積層された積層発泡シートを共押出により製造しようとすると、共押出時における押出温度を発泡層形成用樹脂溶融物の発泡に適した温度に調整する必要があることから、アイオノマー樹脂を含む樹脂層の溶融樹脂温度が低くなり、アイオノマー樹脂の溶融粘度が増大しやすい。その結果、アイオノマー樹脂がポリエチレン系樹脂中に良好に分散しにくくなり、良好な帯電防止性能を有する積層発泡シートを安定して製造することが困難になる。特に、MFRが低いアイオノマー樹脂を使用した場合、この傾向が顕著になる。
【0061】
しかし、アイオノマー樹脂に対する可塑化効果が大きいアルコール(A)が含まれる揮発性可塑剤を用いることにより、樹脂層形成用樹脂溶融物の押出温度を発泡層形成用樹脂溶融物の押出温度にあわせて低くした場合であっても、アイオノマー樹脂の溶融粘度を低く維持することができる。この効果は、MFRが小さいアイオノマー樹脂を使用した場合であっても、有効に発現する。
この効果により、アイオノマー樹脂が前記ポリエチレン系樹脂中に良好に分散した樹脂層が形成され、帯電防止性能に優れる積層発泡シートが得られるものと考えられる。
【0062】
加えて、ポリエチレン系樹脂に対する可塑化効果が大きい、炭素数3~5の飽和炭化水素及び/又はジアルキルエーテルが含まれる揮発性可塑剤を用いると、ポリエチレン系樹脂(A)の溶融粘度を安定して低く維持することができる。そのため、発泡層形成用樹脂溶融物の押出発泡温度(100~140℃)に対応して比較的低い温度に設定された樹脂層形成用樹脂溶融物の押出温度条件においても、樹脂層形成用樹脂溶融物全体の溶融粘度を低く維持しやすくなる。この効果により、厚みが均一で、アイオノマー樹脂が前記樹脂組成物中に良好に分散し、延伸された樹脂層が形成されやすくなり、帯電防止性能に優れる積層発泡シートがより安定して得られるようになるものと考えられる。
【0063】
前記沸点が120℃以下のアルコール(A)としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル2-プロパノール等が挙げられる。
これらの中では、アイオノマー樹脂の溶融粘度を十分に下げることができると共に、積層発泡シート製造時に取扱いが容易であることから、エタノールを用いることが好ましく、少なくともエタノールを含むアルコールを用いることが好ましい。
【0064】
アルコール(A)にエタノールが含まれる場合、アルコール(A)中のエタノールの割合は50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは60重量%、さらに好ましくは70重量%、特に好ましくは80重量%以上である。
【0065】
該アルコール(A)の沸点が120℃以下であれば、積層発泡シート製造後、添加したアルコールが樹脂層から速やかに逸散し、樹脂層にアルコールが残留することを効果的に防止できる。この効果を有効ならしめるために、アルコールの沸点は100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、85℃以下がさらに好ましい。一方、アルコールの沸点の下限は、概ね40℃であることが好ましく、より好ましくは50℃である。アルコールの沸点が前記範囲内であれば、積層発泡シートの製造時において取り扱いやすいものとなる。
【0066】
前記炭素数3~5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタンが挙げられる。これらの中でも、ポリエチレン系樹脂に対する可塑化効果が大きく、押出時のポリエチレン系樹脂の溶融粘度を効率的に低下させることができることから、ブタン(ノルマルブタン、イソブタン)を用いることが好ましい。
【0067】
前記アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレン系樹脂に対する可塑化効果が大きく、押出時の樹脂の溶融粘度を効率的に低下させることができることから、ジメチルエーテルを用いることが好ましい。
【0068】
該揮発性可塑剤の配合量は、前記ポリエチレン系樹脂(B)と前記アイオノマー樹脂との合計1kgあたり、0.1~10molであることが好ましい。前記範囲とすることで、均質な樹脂層を成膜しやすくなると共に、樹脂層と発泡層の積層状態を良化させることができる。
かかる理由により、該配合量は、前記ポリエチレン系樹脂(B)と前記アイオノマー樹脂との合計1kgあたり、0.5~9molであることが好ましく、1~8molであることがより好ましく、2~7molであることがさらに好ましい。
【0069】
また、該揮発性可塑剤が前記アルコール(A)と前記飽和炭化水素及び/又はジアルキルエーテル(B)を含む場合、該アルコール(A)と、該飽和炭化水素及び/又はジアルキルエーテル(B)とのモル比率は、5:95~95:5であることが好ましく、6:94~80:20であることがより好ましく、10:90~70:30であることがさらに好ましく、20:80~60:40であることがさらに好ましい。
該モル比率がこの範囲内であれば、ポリエチレン系樹脂とアイオノマー樹脂を共に可塑化することができ、均質な樹脂層を形成することができる。
【0070】
前記アルコール(A)の配合量は、アイオノマー樹脂1kgあたり、1~25molであることが好ましい。この範囲の量のアルコール(A)をアイオノマー樹脂に加えることにより、アイオノマー樹脂が適度に可塑化され、共押出時の温度条件においても、アイオノマー樹脂の溶融粘度を、押出成形に適する範囲に調整しやくなる。また、得られた樹脂層においては、アイオノマー樹脂がポリエチレン系樹脂中に良好に分散すると共に、適度に延伸されるので、所望される帯電防止性能が発現しやすくなる。
かかる観点から、該配合量の下限は2molであることが好ましく、より好ましくは3molであり、さらに好ましくは4molであり、特に好ましくは6molである。一方、該配合量の上限は24molであることがより好ましく、さらに好ましくは20mol、特に好ましくは16molである。
【0071】
本発明の積層発泡シートは、板状物の間紙として好ましく用いることができ、特に、液晶ディスプレー、プラズマディスプレー、エレクトロルミネッセンスディスプレー等の各種の画像表示機器用のガラスパネルに用いられるガラス基板間に挿入して使用される、ガラス基板を保護するためのガラス板用間紙として、好適に使用することができる。
【実施例1】
【0072】
以下、実施例、比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例、比較例で使用したポリエチレン系樹脂、アイオノマー樹脂(高分子型帯電防止剤)、気泡調整剤、並びに評価方法を以下に記載する。
【0073】
ポリエチレン系樹脂(低密度ポリエチレン)
(1)略称「LDPE1」:NUC株式会社製「低密度ポリエチレン:商品名NUC8009」(密度0.917g/cm3、MFR9.0g/10分、融点107℃)
【0074】
アイオノマー樹脂(高分子型帯電防止剤)
(1)略称「MK400」:三井・デュポンポリケミカル株式会社製エチレン系カリウムアイオノマー樹脂「エンティラMK400」(密度970kg/m3、MFR1.5g/10分、融点93℃、表面抵抗率1.0×107Ω)
【0075】
物理発泡剤
混合ブタン(ノルマルブタン35重量%とイソブタン65重量%との混合物)
【0076】
揮発性可塑剤
(1)エタノール:関東化学株式会社製「エタノール」:商品名エタノール(99.5)鹿1級
(2)ミックスエタノール:山一化学工業株式会社製「混合アルコール」:商品名ミックスエタノールNP
(エタノール:85.5wt%、イソプロピルアルコール4.9wt%、ノルマルプロピルアルコール9.6wt%)
(3)混合ブタン(ノルマルブタン35重量%とイソブタン65重量%との混合物)
(4)ジメチルエーテル
【0077】
気泡調整剤
大日精化工業製:PO-217K(クエン酸-炭酸水素ナトリウム系化学発泡剤)
【0078】
装置
発泡層形成用の押出機として直径90mmの第一押出機と直径120mmの第二押出機2台の押出機が直列に接続されたタンデム押出機を使用し、樹脂層形成用の押出機として直径50mmの第三押出機を使用し、第二押出機の出口と第三押出機の出口が共押出用環状ダイに接続された装置を用いた。共押出用環状ダイは、ダイ中間部で樹脂層形成用樹脂溶融物が、筒状に流れる発泡層形成用樹脂溶融物の内側及び外側に合流積層される構造を有し、ダイ出口のリップの直径は94mmである。
【0079】
実施例1
ポリエチレン系樹脂(LDPE1)100重量部と、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して、2重量部の前記気泡調整剤とを第一押出機の原料投入口に供給し、加熱溶融混練して約200℃に調整し、溶融樹脂とした。該溶融樹脂に物理発泡剤として、混合ブタンを12重量部圧入し、さらに混錬し、次いで第一押出機の下流側に連結された第二押出機に移送して、樹脂温度を約112℃に調整して発泡層形成用樹脂溶融物を得た。
【0080】
他方、表1に示すポリエチレン系樹脂と、表1に示すアイオノマー樹脂(高分子型帯電防止剤)とを第三押出機の原料投入口に供給し、加熱溶融混錬して約200℃に調整し、溶融樹脂混合物とした。次いで、該溶融樹脂混合物に揮発性可塑剤として表1に示す種類、量の揮発性可塑剤を圧入し、さらに混練した後、約120℃に樹脂温度を調整して樹脂層形成用樹脂溶融物を得た。
【0081】
前記帯電防止形成用樹脂溶融物及び前記発泡層形成用樹脂溶融物のそれぞれを表1に示す吐出量で共押出用環状ダイ中へ導入し、樹脂層形成用樹脂溶融物を、筒状に流れる発泡層形成用樹脂溶融物の内側及び外側に合流積層させて環状ダイから筒状に共押出し、筒状発泡層の内外面に樹脂層が積層された筒状積層発泡体を形成した。押出された筒状積層発泡体を直径350mmの筒状拡幅装置(マンドレル)にて拡幅すると共に、表2に示した全体坪量となるよう引き取り速度を調整しつつ、切り開くことで、発泡層の両面に樹脂層が積層されたポリエチレン系樹脂積層発泡シートを得た。
【0082】
【0083】
実施例2、3、比較例1、2
揮発性可塑剤を、表1に示す種類、配合量に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエチレン系樹脂積層発泡シートを得た。
【0084】
実施例、比較例で得られた積層発泡シートの物性、帯電防止性、移行性を表2に示す。
【0085】
【0086】
表2中の積層発泡シートの全体厚み、全体坪量、全体見掛け密度、樹脂層の片面あたりの坪量、表面抵抗率は、前記のように測定した。
【0087】
(分散相の個数基準による分散面積の中央値の測定方法)
まず、積層発泡シートの幅方向中央部及び幅方向両端部付近において、積層発泡シートの厚み方向及び押出方向に沿って、積層発泡シートを切断し、押出方向に沿った断面(押出方向垂直断面)を有する試料を3つ切り出した。
次に、切り出した3つの試料のそれぞれの断面から、樹脂層部分(マンドレルに面せずに引き取られた積層発泡シートの面側)を含む、超薄切片を作製した。次に、超薄切片を四酸化ルテニウムを用いて染色し、ポリエチレン系樹脂と高分子型帯電防止剤とを濃淡により区別できるようにした。次に、透過型電子顕微鏡(JEOL製JEM-1400Plus)を用い、加速電圧100kVにて染色した切片を観察し、拡大倍率7000倍及び70000倍の条件下で、樹脂層の断面写真を撮影した。なお、撮影した断面写真においては、より黒色度が高い部分が分散相(高分子型帯電防止剤)となる。
図1、2に、実施例1で得られた積層発泡シートの断面写真(倍率:7000倍、70000倍)を、
図3に、比較例1で得られた積層発泡シートの断面写真(倍率:7000倍)を示す。
【0088】
得られた断面写真に対して、分散相と分散相以外の部分とを白黒に色分けする下処理を行った。ここで、分散相と分散相以外(連続相)とは、断面写真の濃淡やラメラ構造の有無等を基準にして両者を判断し、写真の色分けを行った。なお、通常、アイオノマー樹脂は、ポリエチレン系樹脂に対して非晶部分が多いため、断面写真における連続相よりもラメラ構造が少ない部分として判断することができる。また、分散相と連続相との界面は、分散相として色分けを行った。
その後、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフト「NS2K-pro」を用いて、下処理した断面写真に対して、以下の条件で画像処理及び測定を行った。
(1)モノクロ変換
(2)平滑化フィルタ(処理回数1~10回)
(3)NS法二値化(鮮明度41、感度10、ノイズ除去、濃度範囲45~255)
(4)フェレ径、面積計測
【0089】
前記(1)~(4)の条件における測定においては、分散相が存在する前記樹脂層の断面部分に対して、無作為に測定範囲を選択し、測定範囲の合計面積が100μm2以上となるように測定を行い、測定範囲に含まれる全ての分散相の個数と断面積(分散面積)とを測定した。なお、測定範囲の境界部と交差する分散相については測定対象とし、その分散相の断面積を測定した。また、断面積が1nm2以下である分散相については、測定対象としなかった。さらに、断面写真における、超薄切片作成時に生じた切片のシワ部分や、樹脂層最表面部分等、分散相とは区別される黒色部分については、測定範囲に含めないようにした。この測定を上記3つの試験片に対して行い、3つの試験片で測定されたすべての分散相の個数と各分散相の断面積から、分散相の断面積の個数基準における中央値を算出した。なお、中央値は、分散相の断面積を大きさ順に並べたとき、分散相の総数の中央(分散相の個数の累計の50%)に位置する値である。
【0090】
(分散相の個数基準による厚み方向の分散径の中央値A、分散相の個数基準による厚み方向と直交する方向の分散径の中央値Bの測定方法)
前記(1)~(4)の条件における測定により、全ての分散相の垂直フェレ径と水平フェレ径とを測定した。ここで、垂直フェレ径は樹脂層の厚み方向における分散相の長さに相当し、水平フェレ径は前記厚み方向と直交する方向における分散相の長さに相当する。
なお、測定範囲の境界部と交差する分散相については測定対象とし、その分散相の垂直フェレ径と水平フェレ径とを測定した。
この測定を上記3つの試験片に対して行い、3つの試験片で測定されたすべての分散相の垂直フェレ径あるいは水平フェレ径から、それぞれのフェレ径の個数基準における中央値を求めた。得られた垂直フェレ径の中央値を分散相の個数基準による厚み方向の分散径の中央値A、得られた水平フェレ径の中央値を分散相の個数基準による厚み方向と直交する方向の分散径の中央値Bとした。
なお、中央値は、分散相の各フェレ径を大きさ順に並べたとき、分散相の総数の中央(分散相の個数の累計の50%)に位置する値を意味する。
【0091】
(厚み方向に沿った直線上に存在する分散相の個数の平均値の測定方法)
分散相が存在する樹脂層断面(積層発泡シートの幅方向と直交する垂直断面)の断面写真において、樹脂層の厚み方向に沿った直線を、樹脂層全体にわたって、2μm間隔で5本引き、この直線と交差する分散相の個数を計測した。この測定を異なる6つの断面写真に対して行い、計測された分散相の個数の合計を、直線の本数の合計で除することで、厚み方向に沿った直線上に存在する、厚み方向の分散相の個数の平均値を算出した。
【0092】
(積層発泡シートの表面抵抗率の測定方法)
積層発泡シート各面の表面抵抗率は、具体的には次のように測定した。得られた積層発泡シートから試験片(縦100mm×横100mm×厚み:試験片厚み)を無作為に3片切り出した。試験片の状態調節後、測定装置としてタケダ理研工業株式会社製「TR8601」を用い、印加電圧500Vで試験片に印加を開始してから1分後の表面抵抗率を3つの試験片に対して測定した。表面抵抗率の測定は試験片の両面に対して行ない、得られた測定値の算術平均を積層発泡シート各面の表面抵抗率とした。なお、表2中、M面はマンドレルに面して引き取られた積層発泡シートの面であり、S面はマンドレルに面せずに引き取られた積層発泡シートの面である。
【0093】
(帯電防止性)
表2中の帯電防止性は次の基準で評価した。
◎:積層発泡シートの各面の表面抵抗率が1×1011Ω以下である。
○:積層発泡シートの各面の表面抵抗率が1×1012Ω以下であり、かつ積層発泡シートの少なくとも一方の面の表面抵抗率が1×1011Ωを超える。
×:積層発泡シートの少なくとも一方の面の表面抵抗率が1×1012Ωを超える。
【0094】
(移行性の試験方法)
移行性の試験として、次のようなヘーズの測定を実施例1~3で得られた積層発泡シートに対して行った。
まず、被包装物として、松浪ガラス工業株式会社製プレクリンスライドガラスを10枚重ねてガラス積層体とした。次に、日本電飾工業(株)社製の「NDH2000」を用いて、ガラス積層体の厚み方向(ガラス積層方向)に対するヘーズ(1)を測定した。次に、サンプル(実施例で得られた積層発泡シート)11枚と、ガラス10枚とを交互に積層して積層体とし、この積層体を3.8g/cm2の圧力下及び温度60℃、相対湿度90%の条件下で24時間静置した。その後、サンプルを積層体から取り除き、ガラスを10枚重ねてガラス積層体として、(1)と同様にガラス積層体の厚み方向に対するヘーズ(2)を測定した。ヘーズ(2)の値(%)からヘーズ(1)の値(%)を引き算してヘーズの変化量(%)を求め、以下の基準で移行性を評価した。ヘーズの変化量が小さいほど、ガラスへの高分子型帯電防止剤に含まれる低分子量成分の移行が少ない積層発泡シートであることを意味する。
〇:ヘーズ変化量(%)が1.5以下
×:ヘーズ変化量(%)が1.5を超える