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特許7227870アルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】アルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
H01G9/00 290A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019142910
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021027120
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南山 真一
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-279017(JP,A)
【文献】特開昭60-197896(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101425389(CN,A)
【文献】米国特許第06197184(US,B1)
【文献】米国特許第07175676(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッチングされたアルミニウム箔を純水中で1~20分間ボイルを行う第1工程と、
サリチル酸を0.01~0.2重量%添加した60~95℃の熱水中で3~15分間ボイルを行う第2工程と、
純水中で再度1~20分間ボイルを行う第3工程と
を含むことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程後に、リン酸とホウ酸の混合化成液中で所定電圧まで化成を行うことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルミニウム電解コンデンサに対する特性面での要求が高まってきている。それに伴い、アルミニウム電解コンデンサ用電極箔も高容量・低漏れ電流・低等価直列抵抗の要求が高まってきており、諸特性の水準の向上が急務となっている。
現在、化成工程では化成の効率を上げ、高い静電容量を得るために、アルミニウム電解コンデンサ用陽極エッチング箔を化成直前に熱水ボイル処理し、多段方式にて誘電体となる酸化皮膜を生成している。化成直前に熱水ボイル処理を行うと、水和皮膜が生成され、化成工程でこの水和皮膜を脱水することによって陽極酸化皮膜の効率的な生成を行っている。しかし、このような方法では、内部密度が低い皮膜が多くなるために、高容量の電極箔を製造することは困難であった。
【0003】
そこで、密度が低い皮膜を除去するため、化成工程中に薬液浸漬処理を実行している。これにより、ある程度、密度の低い水和皮膜を溶解することは可能であるが、一度化成を実施すると密度の低い皮膜は薬液浸漬処理のみでは溶解され難くなり、十分に取り除くことができず、密度の低い皮膜のみを選択的に溶解することもできない。ここで、無理に皮膜を溶解しようとすると、必要とする陽極酸化皮膜の溶解に起因すると考えられる特性の悪化が生じてしまう。
【0004】
そこで、比較的高い静電容量を得るために、化成直前の熱水ボイル処理に組み合わせて、リン酸やアジピン酸などの有機酸で化成したのちにホウ酸化成を実施する方法も検討されている。この方法によれば、ある程度までの高容量化を図ることができるものの、高容量化には限度があった。
この他、例えば特許文献1には、エッチングされたアルミニウム箔を高温純水中に所定時間浸漬する純水ボイル工程と、アジピン酸系化成液で陽極酸化皮膜を形成する工程と、ケイ酸系化成液で陽極酸化皮膜を形成する工程からなり、異なる酸化皮膜を形成するアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法が開示されているが、このような方法を用いても充分に高い静電容量を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-348984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の従来法における問題点を解決し、化成前段階のボイル工程によって生じる密度の低い皮膜(水和皮膜)を取り除いた後に化成工程に入ることで、化成後の静電容量を高くすることが可能な、アルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決可能な本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法は、エッチングされたアルミニウム箔を純水中で1~20分間ボイルを行う第1工程と、サリチル酸を0.01~0.2重量%添加した60~95℃の熱水中で3~15分間ボイルを行う第2工程と、純水中で再度1~20分間ボイルを行う第3工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法は、前記第3工程後に、リン酸とホウ酸の混合化成液中で所定電圧まで化成を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、純水ボイルを行った後の箔を一度、サリチル酸を所定量添加した熱水を用いてボイルすることによって、純水ボイルを行った後の皮膜表層に多く存在する密度の低い部分を効果的に取り除くことができ、再度、純水ボイルすることで、密度の高い皮膜の割合を多くすることができる。その結果、化成後の静電容量を高くすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電解コンデンサ用電極箔の製造方法における最初の工程では、エッチングされたアルミニウム箔を純水中で1~20分間、85~95℃の温度にて、より好ましくは5~10分間90~95℃の温度にてボイルする(第1工程)。このような純水ボイル工程を行うと、密度の低い水和皮膜が生じることになるが、この皮膜は、後述するように化成工程を実施する前に取り除かれる。
【0011】
本発明では、純水ボイルにより生成する密度の低い水和皮膜を取り除くために、純水ボイル工程を行った後に、サリチル酸を0.01~0.2重量%添加した60~95℃の熱水中で3~15分間ボイルするサリチル酸ボイル工程(第2工程)が実施される。より好ましくは、80~90℃の熱水中にて5~8分間、サリチル酸ボイルを行う。この工程において、サリチル酸の添加量が上記の範囲に限定されるのは、0.01重量%未満では密度の低い水和皮膜を充分に取り除くことが難しく、0.2重量%を超えた場合には水和皮膜の過度な溶解により特性が悪化する傾向がみられるからである。
【0012】
本発明の製造方法においては、上記のサリチル酸ボイル工程を行った後に、再度、純水中で1~20分間、より好ましくは2~5分間ボイルが行われ(第3工程)、この純水ボイル工程の条件(ボイル温度、ボイル時間)は、最初の純水ボイル工程の条件と同じであっても異なっていてもよい。
本発明では、純水中で再度ボイルを実施することによって、密度の高い皮膜の割合を多くすることができ、これにより、化成後の静電容量を高めることができる。
【0013】
さらに、本発明の電解コンデンサ用電極箔の製造方法では、純水中で再度ボイルを行った後(第3工程後)に、リン酸とホウ酸の混合化成液中で所定電圧(例えば200V)まで化成を行う。続いて、熱処理、修復化成、薬液浸漬のデポラリゼーション(減極)処理を行うことで、欠陥部分及びボイド部分が除去される。
【0014】
本発明の製造方法における化成工程で使用される化成液としては、アンモニア水でpH5.5~7.5に調整されたリン酸(リン酸またはその塩を含む)とホウ酸の混合化成液が好ましく、アンモニア水でpH3.5~4.8に調整されたホウ酸(ホウ酸またはその塩を含む)化成液であってもよい。リン酸の単独液では、静電容量は高くなるが漏れ電流特性が悪化する。リン酸とホウ酸の混合液系は、ホウ酸の単独液と比較すると静電容量も高くなり、本発明の効果が得られやすい。このような観点から、リン酸‐ホウ酸の混合化成液で所定電圧まで化成した後にホウ酸の単独液で最終印加電圧まで化成することが好ましい。印加される電流密度、電圧および電圧印加時間については適宜選択することができる。
本発明における上記熱処理は通常、450~570℃の温度で行われ、上記修復化成は、アンモニア水でpH調整された、80℃以上のホウ酸溶液を用いて約20mA/cmの電流密度で所定の電圧まで化成を行い、所定時間、その電圧を維持する。薬液浸漬は、リン酸を薬液として用い、50~75℃の温度にて、3~10分間浸漬を行うのが一般的である。
以下、実施例に基づいて、本発明の製造方法を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例
【0015】
〔本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造例〕
高圧用電極箔に使用されるエッチングされたアルミニウム箔(厚さ:120μm)を準備し、純水中で5分間ボイル(90℃)を行い(第1工程)、その後、サリチル酸を0.1重量%添加した90℃の熱水中で5分間ボイルした(第2工程)。そして、上記のサリチル酸ボイルを行った後のアルミニウム箔を、更に純水中で2分間ボイル(90℃)した(第3工程)。
上記の純水ボイル→サリチル酸ボイル→純水ボイルを行って得られたアルミニウム箔を、アンモニア水でpH6.5に調整されたリン酸とホウ酸の混合化成液で200Vまで化成し、その後、アンモニア水でpH3.8に調整されたホウ酸化成液中で540Vまで電圧上昇を行った後、40分間、当該電圧を維持した。
その後、熱処理・修復化成・薬液浸漬・熱処理・修復化成・熱処理・修復化成を実施し、乾燥を行い、アルミニウム電解コンデンサ用電極箔(実施例)を製造した。なお、上記の熱処理は550℃、5分間の条件にて行い、修復化成は、pH3.8に調整されたホウ酸化成液中にて行い、薬液浸漬は、リン酸水溶液中に70℃にて7分間浸漬することにより行った。
【0016】
〔従来例:サリチル酸ボイルを実施しない場合のアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造例I〕
上記のエッチングされたアルミニウム箔を純水中で10分間ボイル(90℃)し、その後、アンモニア水でpH3.8に調整されたホウ酸化成液中で所定の電圧(540V)まで電圧上昇を行った後、40分間、当該電圧を維持し、上記実施例と同様に、熱処理・修復化成・薬液浸漬・熱処理・修復化成・熱処理・修復化成を実施し、乾燥を行ってアルミニウム電解コンデンサ用電極箔(従来例)を製造した。
【0017】
〔比較例:サリチル酸ボイルを実施しない場合のアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造例II〕
上記のエッチングされたアルミニウム箔を純水中で10分間ボイル(90℃)し、得られたアルミニウム箔を、アンモニア水でpH6.5に調整されたリン酸とホウ酸の混合化成液で200Vまで化成し、その後、アンモニア水でpH3.8に調整されたホウ酸化成液中で540Vまで電圧上昇を行った後、40分間、当該電圧を維持した。
その後、上記実施例と同様に、熱処理・修復化成・薬液浸漬・熱処理・修復化成・熱処理・修復化成を実施し、乾燥を行い、アルミニウム電解コンデンサ用電極箔(比較例)を製造した。
以下の表1には、上記実施例、従来例,比較例における各ボイル処理の概要が要約されている。
【0018】
【表1】
【0019】
〔評価方法〕
上記で得られた実施例、従来例,比較例のアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の評価については、EIAJ法(EIAJ RC-2364A「アルミニウム電解コンデンサ用電極はくの試験方法」)に従って行った。
・VT曲線の測定
・静電容量(Cap.)の測定
・CV積(静電容量と印加電圧の積)
上記で測定された静電容量と印加電圧の値から、それぞれの電極箔についてのCV積を算出した。
また、比較例と実施例の電極箔について、従来例の電極箔に対するCV積の増加割合(百分率)を算出した。
以下の表2には、上記の測定結果が要約されている。
【0020】
【表2】
【0021】
上記表2の結果から、化成工程前に、純水ボイル工程→サリチル酸ボイル工程→純水ボイル工程を実施する本発明の製造方法を用いて得られた電解コンデンサ用電極箔(実施例)は、比較例を超える静電容量、CV積の向上(従来例に対し7.7%の増加)を図れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の製造方法は、化成後の容量が大きいアルミニウム電解コンデンサ用電極箔を生産性良く製造するのに有用である。