(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20230215BHJP
H01T 13/32 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T13/32
(21)【出願番号】P 2020023208
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 寛治
(72)【発明者】
【氏名】西尾 直樹
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/076966(WO,A1)
【文献】特開2004-134209(JP,A)
【文献】特開2015-197066(JP,A)
【文献】特開2002-237366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に第1放電面を有し、軸線に沿って延びる中心電極と、
前記中心電極を外周から保持する絶縁体と、
前記絶縁体を外周から保持する保持部材と、
接地電極と、を備え、
前記接地電極が、
棒状の電極母材と、
前記電極母材に中間部材を介して接合され、軸線方向において前記中心電極
の前記第1放電面との間に間隙を形成する
第2放電面を有する貴金属チップと、を有し、
前記電極母材が
前記保持部材側の端部である一端部と前記貴金属チップ側の端部である他端部とを備え、前記保持部材から前記貴金属チップに向けて延設されているスパークプラグであって、
前記電極母材の前記他端部は、前記軸線方向において前記第1放電面と対向するチップ保持面を有し、前記中間部材は前記チップ保持面に接合されており、
前記中間部材の少なくとも一部が、前記電極母材から、前記電極母材の延設方向および前記軸線方向に対して垂直な方向に突出する突出部を有し、
前記貴金属チップの少なくとも一部は、前記突出部に接合されている、スパークプラグ。
【請求項2】
前記貴金属チップと前記中間部材との接合強度よりも、前記中間部材と前記電極母材との接合強度の方が大きい、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記中間部材が、前記電極母材の延設方向および前記軸線方向に対して垂直な2方向のうち一方にのみ突出している、請求項1または請求項2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関には、燃焼室内の混合気に着火するためのスパークプラグが備えられる。スパークプラグは、中心電極と、中心電極を保持する絶縁体と、絶縁体を保持する主体金具と、主体金具から延びる接地電極とを備えている。接地電極と中心電極との間で火花放電を生じさせると、電極間で火炎核が形成され、この火炎核が成長することで、混合気への着火が行われる。
【0003】
ここで、接地電極の電極母材上に中間部材を介して貴金属チップを取り付けたスパークプラグが知られている(特許文献1参照)。中間部材は、貴金属チップを電極母材に直接に取り付ける場合に生じ得る不具合の発生を低減するために用いられる。例えば、電極母材と貴金属チップとの熱膨張係数の差が大きい場合には、熱履歴によって電極母材から貴金属チップが剥がれてしまうことが懸念される。このような場合に、電極母材の熱膨張係数と貴金属チップの熱膨張係数の中間程度の熱膨張係数を有する中間部材を介在させることによって、貴金属チップの剥がれを避けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなスパークプラグは、接地電極の主体金具からの延設方向が、燃焼室内の混合気の気流の流れる方向と交わるように、スパークプラグを燃焼室に取り付けているような場合がある。スパークプラグでは、燃焼室内の混合気の気流の影響により、接地電極と中心電極との間で生じる火花放電の経路が、接地電極と中心電極とを結ぶ最短経路から混合気の気流の流れる方向に大きく湾曲してしまうことがある。このような場合には、放電経路が長くなるために、火炎核の形成や成長のために比較的大きなエネルギーが必要となってしまい、着火性が低下することが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のスパークプラグは、軸線に沿って延びる中心電極と、前記中心電極を外周から保持する絶縁体と、前記絶縁体を外周から保持する保持部材と、接地電極と、を備え、前記接地電極が、棒状の電極母材と、前記電極母材に中間部材を介して接合され、軸線方向において前記中心電極との間に間隙を形成する放電面を有する貴金属チップと、を有し、前記電極母材が前記保持部材から前記貴金属チップに向けて延設されているスパークプラグであって、前記中間部材の少なくとも一部が、前記電極母材から、前記電極母材の延設方向および前記軸線方向に対して垂直な方向に突出する突出部を有し、前記貴金属チップの少なくとも一部は、前記突出部に接合されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、スパークプラグの着火性の低下を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態のスパークプラグの断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態のスパークプラグの部分拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の接地電極の先端部を示す部分拡大斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態の接地電極の先端部を示す部分拡大正面図である。
【
図5】
図5は、実施形態の接地電極の先端部を示す部分拡大平面図である。
【
図6】
図6は、電極母材と中間部材、および中間部材と貴金属チップの接合強度の試験方法を示す概略側面図である。
【
図7】
図7は、従来のスパークプラグにおいて、中心電極チップと貴金属チップとの間で生じる火花放電の経路を示す部分拡正面図である。
【
図8】
図8は、実施形態のスパークプラグにおいて、中心電極チップと貴金属チップとの間で生じる火花放電の経路を示す部分拡大正面図である。
【
図9】
図9は、実施形態2の接地電極の先端部を示す部分拡大斜視図である。
【
図10】
図10は、実施形態2の接地電極の先端部を示す部分拡大平面図である。
【
図11】
図11は、実施形態3の接地電極の先端部を示す部分拡大斜視図である。
【
図12】
図12は、実施形態3の接地電極の先端部を示す部分拡大平面図である。
【
図13】
図13は、実施形態4の接地電極の先端部を示す部分拡大斜視図である。
【
図14】
図14は、実施形態4の接地電極の先端部を示す部分拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
(1)本開示のスパークプラグは、軸線に沿って延びる中心電極と、前記中心電極を外周から保持する絶縁体と、前記絶縁体を外周から保持する保持部材と、接地電極と、を備え、前記接地電極が、棒状の電極母材と、前記電極母材に中間部材を介して接合され、軸線方向において前記中心電極との間に間隙を形成する放電面を有する貴金属チップと、を有し、前記電極母材が前記保持部材から前記貴金属チップに向けて延設されているスパークプラグであって、前記中間部材の少なくとも一部が、前記電極母材から、前記電極母材の延設方向および前記軸線方向に対して垂直な方向に突出する突出部を有し、前記貴金属チップの少なくとも一部は、前記突出部に接合されている。
【0010】
上記構成によれば、放電経路が混合気の気流の流れる方向(下流側)に湾曲した場合に、中間部材および貴金属チップの突出方向が放電経路の湾曲方向に沿うようにスパークプラグを設置することにより、中間部材および貴金属チップが突出していない場合と比較して、放電経路を短くすることができる。これにより、着火性の低下を回避することができる。
【0011】
(2)前記貴金属チップと前記中間部材との接合強度よりも、前記中間部材と前記電極母材との接合強度の方が大きくても構わない。
【0012】
貴金属チップに対して外力が加えられた場合には、電極母材との接合界面から中間部材が剥離し、貴金属チップが脱落することが懸念される。貴金属チップと中間部材との接合強度よりも、中間部材と電極母材との接合強度の方を大きくすることで、電極母材との接合界面から中間部材が剥離することを回避できる。
【0013】
(3)前記中間部材が、前記電極母材の延設方向および前記軸線方向に対して垂直な2方向のうち一方にのみ突出していても構わない。
【0014】
上記構成によれば、中間部材が電極母材の延設方向および前記軸線方向に対して垂直な2方向の双方に突出している場合と比較して、中間部材を小さくできる。これにより、発生した火炎核の成長エネルギーを、温度の低い中間部材が奪ってしまうことにより火炎核が消滅してしまう作用(消炎作用)を低減することができる。
【0015】
なお、本開示において、「前記電極母材の延設方向および前記軸線方向に対して垂直な方向」とは、電極母材の延設方向および軸線方向に対して90°をなす方向のみならず、90°から多少傾いた方向も含む意である。
【0016】
[本開示の実施形態1の詳細]
本開示のスパークプラグの具体例を、図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0017】
<スパークプラグの全体構成>
スパークプラグ1は内燃機関に取り付けられ、内燃機関の燃焼室内の混合気に着火するために用いられる。スパークプラグ1は、
図1に示すように、中心電極20と、絶縁体10と、主体金具50(保持部材の一例)と、端子電極40と、抵抗体70と、導電性のシール部材60、80と、接地電極30と、を備える。
図1の一点破線は、スパークプラグ1の軸線AXを示している。以下の説明では、軸線AXと平行な方向(
図1のZ軸方向)を軸線方向という。また、
図1における下側をスパークプラグ1の先端側といい、
図1における上側をスパークプラグ1の後端側という。
【0018】
<中心電極>
中心電極20は、
図1に示すように、軸線AXに沿って延びる棒状の中心電極本体21と、中心電極チップ29と、を備えている。中心電極本体21は、耐腐食性と耐熱性が高い金属、例えば、ニッケル(Ni)製またはニッケル(Ni)が一番多く含まれる合金(例えば、NCF600、NCF601等のNi合金)製とされている。中心電極本体21は、NiまたはNi合金で形成された母材と、その母材の内部に埋設された芯部と、を含む2層構造を有してもよい。この場合には、芯部は、例えば、母材よりも熱伝導性に優れる銅(Cu)製または銅(Cu)が一番多く含まれる合金で形成される。
【0019】
中心電極本体21は、軸線方向の所定の位置に設けられた鍔部24と、鍔部24よりも後端側の部分である頭部23と、鍔部24よりも先端側の部分である脚部25と、を備えている。
【0020】
中心電極チップ29は、例えば、略円柱形状を有する部材であり、中心電極本体21の先端(脚部25の先端)に、例えば、レーザ溶接等の溶接によって接合されている。中心電極チップ29は、
図2に示すように、後述する貴金属チップ33との間で火花ギャップを形成する第1放電面295を先端に有する。中心電極チップ29は、例えば、イリジウム(Ir)や白金(Pt)などの高融点の貴金属または貴金属が一番多く含まれる合金で形成された中心電極チップとされている。中心電極チップ29は、軸線AX上に位置している。
【0021】
<絶縁体>
絶縁体10は、
図1に示すように、軸線AXに沿って延び、絶縁体10を貫通する貫通孔である軸孔12を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、例えば、アルミナ等のセラミックスを用いて形成されている。絶縁体10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、縮外径部15と、脚長部13と、を備えている。
【0022】
鍔部19は、絶縁体10における軸線方向の略中央に位置する部分である。後端側胴部18は、鍔部19よりも後端側に位置し、鍔部19の外径よりも小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19よりも先端側に位置し、後端側胴部18の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17よりも先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13の外径は、先端側ほど縮径され、スパークプラグ1が内燃機関(図示せず)に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。縮外径部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成され、後端側から先端側に向かって外径が縮径した部分である。
【0023】
絶縁体10の内周側の構成は、後端側に位置する大内径部12Lと、大内径部12Lよりも先端側に位置し、大内径部12Lよりも内径が小さな小内径部12Sと、縮内径部16と、を備えている。縮内径部16は、大内径部12Lと小内径部12Sとの間に形成され、後端側から先端側に向かって内径が縮径した部分である。縮内径部16の軸線方向の位置は、本実施形態では、先端側胴部17の先端側の部分の位置である。
【0024】
絶縁体10は、中心電極20を外周から保持している。具体的には、中心電極本体21は、絶縁体10の軸孔12の内部の先端側の部分に挿入されている。鍔部24は、絶縁体10の縮内径部16によって、先端側から支持されている。すなわち、中心電極本体21は、縮内径部16に係止されている。脚部25の先端側、すなわち、中心電極本体21の先端側は、絶縁体10の先端よりも先端側に突出している。
【0025】
<主体金具>
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成され、内燃機関のエンジンヘッド(図示省略)にスパークプラグ1を固定するための円筒状の金具である。主体金具50には、
図1に示すように、軸線AXに沿って貫通する貫通孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁体10を外周から保持している。すなわち、主体金具50の貫通孔59内に、絶縁体10が挿入されている。絶縁体10の後端は、主体金具50の後端よりも後端側に突出している。
【0026】
主体金具50は全体として、軸線AXを中心として円筒状をなすように設けられている。主体金具50の内部には、中心電極20が絶縁保持されている。主体金具50は、プラグレンチ等の工具が係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている。取付ネジ部52の呼び径は、例えば、M8~M14である。
【0027】
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、
図1に示すように、金属製の環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられた際に、スパークプラグ1と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
【0028】
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁体10の後端側胴部18の外周面と、の間に形成される環状の領域には、環状の線パッキン6、7が配置されている。当該領域における2つの線パッキン6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁体10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁体10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、線パッキン6、7およびタルク9を介し、絶縁体10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。主体金具50における取付ネジ部52の内周側の位置に段部56が形成されている。絶縁体10の縮外径部15は、環状の板パッキン8を介して段部56によって押圧される。すなわち、板パッキン8は縮外径部15と段部56の間に挟持される。この結果、内燃機関の燃焼室内の混合気が、主体金具50の絶縁体10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。
【0029】
<端子電極>
端子電極40は、
図1に示すように、軸線方向に延びる棒状の部材である。端子電極40は、絶縁体10の軸孔12に後端側から挿通され、軸孔12内において、中心電極20よりも後端側に位置している。端子電極40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、端子電極40の表面には、例えば、防食のために、Niなどのめっきが形成されている。
【0030】
端子電極40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42と、鍔部42よりも後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42よりも先端側の脚部43と、を備えている。端子電極40のキャップ装着部41は、絶縁体10よりも後端側に露出している。端子電極40の脚部43は、絶縁体10の軸孔12に挿入されている。キャップ装着部41には、図示しない高圧ケーブルが接続された図示しないプラグキャップが装着され、放電を発生するための高電圧が印加される。
【0031】
<抵抗体およびシール部材>
抵抗体70は、
図1に示すように、絶縁体10の軸孔12において端子電極40の先端と中心電極20の後端との間に配置されている。抵抗体70は、例えば、1KΩ以上の抵抗値(例えば、5KΩ)を有し、火花発生時の電波ノイズを低減する機能を有する。抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料と、を含む組成物で形成されている。
【0032】
軸孔12における抵抗体70の先端と中心電極20の後端部との間には隙間が設定されており、この隙間は導電性のシール部材60によって埋められている。一方、軸孔12における抵抗体70の後端と端子電極40の先端部との間には隙間が設定されており、この隙間は導電性のシール部材80によって埋められている。すなわち、シール部材60は、中心電極20と抵抗体70とにそれぞれ接触し、中心電極20と抵抗体70とを離間している。シール部材80は、抵抗体70と端子電極40とにそれぞれ接触し、抵抗体70と端子電極40とを離間している。このように、シール部材60、80は、中心電極20と端子電極40とを抵抗体70を介して電気的、かつ、物理的に接続している。シール部材60、80は、導電性を有する材料、例えば、B2O3-SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
【0033】
<接地電極>
接地電極30は、
図2に示すように、主体金具50から延設された棒状の電極母材31と、この電極母材31に中間部材32を介して接合された貴金属チップ33とを備えている。
【0034】
電極母材31は、耐腐食性と耐熱性が高い金属、例えば、ニッケル(Ni)製またはニッケル(Ni)が一番多く含まれる合金(例えば、NCF600、NCF601等のNi合金)製とされている。電極母材31は、NiまたはNi合金で形成された母材と、その母材の内部に埋設された芯部と、を含む複層構造を有してもよい。この場合には、芯部は、例えば、母材よりも熱伝導性に優れる銅(Cu)製または銅(Cu)が一番多く含まれる合金で形成される。
【0035】
中間部材32は、
図3に示すように、円板状であって、例えば、ニッケル(Ni)を主成分とした合金、例えば、ニッケル(Ni)にアルミニウム(Al)やケイ素(Si)を添加した合金により形成されている。
【0036】
貴金属チップ33は、例えば、イリジウム(Ir)や白金(Pt)などの高融点の貴金属または貴金属が一番多く含まれる合金で形成されている。
【0037】
貴金属チップ33は、
図2、
図4および
図8に示すように、軸線AXの近傍に位置しており、中心電極チップ29に対して、軸線方向にやや離れた位置に配置されている。貴金属チップ33は、
図3に示すように、中間部材32よりも直径が一回り小さな円柱状であって、
図2に示すように、第2放電面335(放電面の一例)を有している。第1放電面295と第2放電面335との間には、
図2および
図8に示すように、軸線方向において間隙Gが形成されている。間隙Gは、放電が発生するいわゆる火花ギャップである。
【0038】
電極母材31は、
図2に示すように、主体金具50に連なる一端部31Aと、貴金属チップ33が中間部材32を介して接合される他端部31Bと、一端部31Aと他端部31Bとを繋ぐ湾曲部31Cとを備えている。一端部31Aは、主体金具50の先端から軸線方向に沿って延びている。湾曲部31Cは、一端部31Aの先端から、中心電極チップ29の方を向く面が凹となるアーチ状に湾曲しつつ延びている。他端部31Bは、湾曲部31Cの先端から、軸線AXに向かって延びている。他端部31Bは、中心電極チップ29の第1放電面295と対向するチップ保持面315を有している。
【0039】
中間部材32は、チップ保持面315に例えば溶接によって接合されている。中間部材32の一部は、
図4および
図5に示すように、電極母材31から、この電極母材31の延設方向(一端部31Aから他端部31Bに向かう方向)、および軸線方向の双方に対して垂直な方向(
図4のY軸方向)に突出する突出部32Aとなっている。なお、「垂直な方向」とは、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して90°をなす方向のみならず、90°から多少傾いた方向も含む意である。
図4に示すように、中間部材32は、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な2方向(
図4のY1方向およびY2方向)のうち一方向にのみ突出していることが好ましい。本実施形態では、中間部材32がY1方向に突出している例を示したが、中間部材32がY2方向に突出していても構わない。
【0040】
貴金属チップ33は、中間部材32に、例えば溶接によって接合されている。貴金属チップ33の一部は、
図4および
図5に示すように、突出部32Aに接合されている。これにより、貴金属チップ33は、電極母材31から、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な方向に突出している。但し、貴金属チップ33は、主体金具50における取付ネジ部52の外周面を貴金属チップ33の周囲まで延長した仮想面52V(
図1参照)よりも内側にあることを要する。貴金属チップ33が仮想面52Vよりも外側に位置していると、スパークプラグ1の内燃機関へのねじ付けに支障をきたすためである。
【0041】
混合気に着火する際には接地電極30が高温状態となるため、貴金属チップ33は、レーザ溶接によって接合されることが好ましい。レーザ溶接によって貴金属チップ33の接合面を溶融することで、耐剥離性を向上させることができるためである。レーザ溶接を実施するためには、貴金属チップ33の全周へのレーザ照射が必要となる。しかし、電極母材31は上記したような湾曲形状を有しているため、一端部31Aおよび湾曲部31Cが存在している側からは、貴金属チップ33に対してレーザ照射を行うことが困難である。このため、まず中間部材32に対して貴金属チップ33をレーザ溶接によって接合し、その後、中間部材32と電極母材31とを例えば抵抗溶接によって接合することが好ましい。
【0042】
貴金属チップ33と中間部材32との接合強度の下限値は50Nであることが好ましい。また、貴金属チップ33と中間部材32との接合強度よりも、中間部材32と電極母材31との接合強度の方が大きいことが好ましい。貴金属チップ33に対して外力が加えられた場合には、電極母材31との接合界面から中間部材32が剥離し、貴金属チップ33が脱落することが懸念される。貴金属チップ33と中間部材32との接合強度よりも、中間部材32と電極母材31との接合強度の方を大きくすることで、電極母材31との接合界面から中間部材32が剥離することを回避し、貴金属チップ33が脱落することを回避できる。
【0043】
<接合強度の試験方法>
次に、貴金属チップ33と中間部材32との接合強度と、中間部材32と電極母材31との接合強度とを比較する試験方法について説明する。
図6に示すように、貴金属チップ33が中間部材32を介して電極母材31に接合された試験用の接地電極40Tを準備する。治工具Jを貴金属チップ33の側面(中間部材32との接合面と垂直な面)に当接させる。この状態で、治工具Jを定速で、貴金属チップ33と中間部材32との接合面に平行な方向(
図6の太矢印方向)に移動させる。貴金属チップ33と中間部材32との間、または、中間部材32と電極母材31との間で破断が生じた場合に、破断した瞬間の治工具Jから貴金属チップ33に加えられていた力を接合強度とする。貴金属チップ33と中間部材32との間で破断が生じた時に、中間部材32と電極母材31との間で破断が生じていなければ、「貴金属チップ33と中間部材32との接合強度よりも、中間部材32と電極母材31との接合強度の方が大きい」と判断される。
【0044】
<実施形態1の作用効果>
上記のように本実施形態のスパークプラグ1は、軸線AXに沿って延びる中心電極20と、中心電極20を外周から保持する絶縁体10と、絶縁体10を外周から保持する主体金具50と、接地電極30と、を備え、接地電極30が、棒状の電極母材31と、電極母材31に中間部材32を介して接合され、軸線方向において中心電極20との間に間隙Gを形成する第2放電面335を有する貴金属チップ33と、を有し、電極母材31が主体金具50から貴金属チップ33に向けて延設されている。中間部材32の少なくとも一部が、電極母材31から、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な方向に突出する突出部32Aを有し、貴金属チップ33の少なくとも一部は、突出部32Aに接合されている。
【0045】
上記のようなスパークプラグ1において、端子電極40に高電圧が印加されると、第1放電面295と第2放電面335との間で火花放電が起こり、混合気が着火される。
【0046】
ここで、従来のスパークプラグ100では、
図7に示すように、中心電極チップ101と貴金属チップ102とが互いに対向し、共に軸線AX上に配置されていた。このようなスパークプラグ100を用いて混合気への着火を行う際に、燃焼室内の混合気の流動によって、放電経路P1が、混合気の気流の下流側(
図7の左側)に膨らむように湾曲されることがあった。このような事態が生じると、湾曲が生じない場合と比較して放電経路P1が長くなることによって、混合気への着火性が低下することが懸念された。
【0047】
本実施形態では、中間部材32の少なくとも一部が、電極母材31から、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な方向に突出する突出部32Aを有し、貴金属チップ33の一部が突出部32Aに接合されている。このような構成によれば、
図8に示すように、中間部材32および貴金属チップ33の突出方向が放電経路P2の膨らむ方向、すなわち混合気の気流の下流側(
図9の左方向)と一致するようにスパークプラグ1を設置することにより、従来のスパークプラグ100を使用した場合と比較して、放電経路P2を短くすることができる。これにより、着火性の低下を回避することができる。
【0048】
また、貴金属チップ33と中間部材32との接合強度よりも、中間部材32と電極母材31との接合強度の方が大きい。貴金属チップ33に対して外力が加えられた場合には、電極母材31との接合界面から中間部材32が剥離し、貴金属チップ33が脱落することが懸念される。貴金属チップ33と中間部材32との接合強度よりも、中間部材32と電極母材31との接合強度の方を大きくすることで、電極母材31との接合界面から中間部材32が剥離することを回避でき、貴金属チップ33の脱落を回避できる。
【0049】
また、火花放電によって発生した火炎核の成長エネルギーを、温度の低い中心電極20および接地電極30が奪ってしまうために、火炎核が消滅してしまうことがある(消炎作用)。消炎作用をできるだけ小さくして、火炎核を早く大きく成長させることが、着火性能の向上につながる。本実施形態では、中間部材32が、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な2方向のうち一方にのみ突出している。このような構成によれば、上記2方向の双方に突出している場合と比較して、中間部材32を小さくできる。これにより、消炎作用を低減することができる。
【0050】
[本開示の実施形態2の詳細]
次に、実施形態1の接地電極30の構成を変更した実施形態2について
図9および
図10を参照しつつ説明する。実施形態1と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。実施形態2の接地電極110は、電極母材31と、中間部材111と、貴金属チップ33とを備えている。
【0051】
中間部材111は、実施形態1と同様の材質を有する円板状の部材であって、電極母材31のチップ保持面315に例えば溶接によって接合されている。中間部材111の一部は、電極母材31から、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な方向(
図10のY軸方向)に突出するとともに、電極母材31における他端部31Bの延設方向(
図10のX軸方向)にも突出する突出部111Aとなっている。貴金属チップ33は、中間部材32に、例えば溶接によって接合されている。貴金属チップ33の一部は、突出部111Aに接合されており、これにより、貴金属チップ33は、電極母材31から、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な方向に突出するとともに、電極母材31における他端部31Bの延設方向にも突出している。
【0052】
[本開示の実施形態3の詳細]
次に、実施形態1の接地電極30の構成を一部変更した実施形態3について、
図11および
図12を参照しつつ説明する。実施形態1と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。実施形態3の接地電極120は、電極母材31と、中間部材121と、2つの貴金属チップ33A、33Bとを備えている。
【0053】
中間部材121は、実施形態1と同様の材質を有しており、略楕円形の板状をなしている。中間部材121は、電極母材31のチップ保持面315に例えば溶接によって接合されている。中間部材121の一部は、電極母材31から、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な方向(
図12のY軸方向)に突出する突出部121Aとなっている。
【0054】
2つの貴金属チップ33A、33Bのそれぞれは、中間部材121に、例えば溶接によって接合されている。一方の貴金属チップ33Aは、突出部121Aに接合されている。これにより、貴金属チップ33Aは、電極母材31から、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な方向(
図11のY軸方向)に突出している。他方の貴金属チップ33Bは、全体が、中間部材121において突出部121Aではない部分に接合されており、電極母材31から突出していない。他方の貴金属チップ33Bは、軸線AX上に、中心電極チップ29と対向して配置されている。
【0055】
このような構成の接地電極120を備えるスパークプラグは、中間部材121および一方の貴金属チップ33Aの突出方向が放電経路の湾曲方向と一致するように設置される。燃焼室内の混合気の流動によって、放電経路が湾曲される場合には、一方の貴金属チップ33Aと中心電極チップ29との間で火花放電を発生させる。これにより、放電経路を短くし、着火性の低下を回避することができる。また、燃焼室内の混合気の流動が弱く、放電経路があまり湾曲しない場合には、他方の貴金属チップ33Bと中心電極チップ29との間で火花放電を発生させればよい。このように、混合気の流動の状態によって、2つの貴金属チップ33A、33Bを使い分けることにより、放電経路が湾曲する場合、あまり湾曲しない場合の双方において、良好な着火性が得られる。
【0056】
[本開示の実施形態4の詳細]
次に、実施形態1の接地電極30の構成を一部変更した実施形態4について、
図13および
図14を参照しつつ説明する。実施形態1と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。実施形態4の接地電極130は、電極母材31と、中間部材131と、貴金属チップ33とを備えている。
【0057】
中間部材131は、実施形態1と同様の材質を有しており、略楕円形の板状をなしている。中間部材131は、電極母材31のチップ保持面315に例えば溶接によって接合されている。中間部材131の一部は、電極母材31から、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な2方向(
図14のY1方向およびY2方向)のうち一方に突出する第1突出部131A(突出部の一例)となっている。また他の一部は、電極母材31から、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な2方向のうち他方に突出する第2突出部131B(突出部の一例)となっている。このように、中間部材32が、電極母材31の延設方向および軸線方向に対して垂直な2方向の双方に突出していても構わない。
【0058】
貴金属チップ33は、中間部材131に、例えば溶接によって接合されている。貴金属チップ33の一部は、第1突出部131Aおよび第2突出部131Bのいずれかに接合されていればよい。本実施形態では、貴金属チップ33の一部は、第1突出部131Aに接合されている。また、
図14に示すように、貴金属チップ33の一部が、中間部材131から突出していても構わない。
【0059】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態では、貴金属チップの一部が突出部に接合されていたが、貴金属チップの全体が突出部に接合されていても構わない。
【0060】
(2)実施形態3では、1つの中間部材に2つの貴金属チップが接合されていたが、例えば、電極母材に複数の中間部材が接合され、各中間部材に1つずつの貴金属チップが接合されていても構わない。
【0061】
(3)上記実施形態では、中間部材32と貴金属チップ33とをレーザ溶接によって接合し、中間部材32と電極母材31とを抵抗溶接によって接合する例を示したが、部材間の接合方法は上記の方法に限るものではなく、例えば中間部材と貴金属チップとを抵抗溶接によって接合し、中間部材と電極母材とをレーザ溶接によって接合しても構わない。あるいは、中間部材と貴金属チップ、中間部材と電極母材をともにレーザ溶接によって接合してもよく、ともに抵抗溶接によって接合しても構わない。あるいは、レーザ溶接および抵抗溶接以外の接合方法によって接合を行っても構わない。
【符号の説明】
【0062】
1…スパークプラグ
5…ガスケット、6、7…線パッキン、8…板パッキン、9…タルク
10…絶縁体、12…軸孔、12L…大内径部、12S…小内径部、13…脚長部、15…縮外径部、16…縮内径部、17…先端側胴部、18…後端側胴部、19…鍔部
20…中心電極、21…中心電極本体、23…頭部、24…鍔部、25…脚部、29…中心電極チップ
30…接地電極、31…電極母材、31A…一端部、31B…他端部、31C…湾曲部、32…中間部材、32A…突出部、33…貴金属チップ、33A…一方の貴金属チップ、33B…他方の貴金属チップ
40…端子電極、41…キャップ装着部、42…鍔部、43…脚部
50…主体金具(保持部材)、51…工具係合部、52…取付ネジ部、52V…仮想面、53…加締部、54…座部、56…段部、58…圧縮変形部、59…貫通孔
60…シール部材
70…抵抗体
80…シール部材
AX…軸線
G…間隙
P1、P2…放電経路