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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】抗腫瘍剤及び腫瘍治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4545 20060101AFI20230215BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230215BHJP
   A61K 31/337 20060101ALN20230215BHJP
【FI】
A61K31/4545 ZMD
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K31/337
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020522194
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2019020992
(87)【国際公開番号】W WO2019230679
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-11-11
(31)【優先権主張番号】62/677,379
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 洋
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0065479(US,A1)
【文献】特表2016-539942(JP,A)
【文献】国際公開第2013/129443(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を有効成分とする、ヒト悪性腫瘍患者にタキサン系抗腫瘍剤と併用投与するための抗腫瘍剤であって、併用投与が、1サイクル7日間として、タキサン系抗腫瘍剤を1サイクルに1回、サイクルの第1日目に投与し、化合物I又はその塩をサイクルの第2日目から3日間、化合物Iの量として150mg/dayで毎日投与した後に4日間投与しないことを1回以上繰り返すスケジュールであることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項2】
タキサン系抗腫瘍剤がパクリタキセルである請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
パクリタキセルが70~80mg/m/dayで投与される、請求項2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
タキサン系抗腫瘍剤がドセタキセルである請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
タキサン系抗腫瘍剤がカバジタキセルである請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
化合物Iが塩酸塩の形態である、請求項1~のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
対象となる悪性腫瘍が、中皮腫、血液癌、頭頸部癌、直腸癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌、子宮頸癌、前立腺癌、及び脳腫瘍のいずれかである、請求項1~のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項8】
タキサン系抗腫瘍剤を投与されたヒト悪性腫瘍患者を治療するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤であって、1サイクル7日間として、タキサン系抗腫瘍剤を1サイクルに1回、サイクルの第1日目に投与し、化合物I又はその塩をサイクルの第2日目から3日間、化合物Iの量として150mg/dayで連続投与して、残りの4日間連続休薬することを1回以上繰り返すスケジュールで使用されることを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項9】
ヒト悪性腫瘍患者に対するタキサン系抗腫瘍剤の抗腫瘍効果を増強するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を有効成分とする抗腫瘍効果増強剤であって、1サイクル7日間として、タキサン系抗腫瘍剤を1サイクルに1回、サイクルの第1日目に投与し、化合物I又はその塩をサイクルの第2日目から3日間、化合物Iの量として150mg/dayで連続投与し、残りの4日間連続休薬することを1回以上繰り返すスケジュールで使用されることを特徴とする抗腫瘍効果増強剤。
【請求項10】
請求項1もしくはに記載の抗腫瘍剤、又は請求項に記載の抗腫瘍効果増強剤を含有する、ヒトにおける腫瘍の治療及び/又はタキサン系抗腫瘍剤の抗腫瘍効果の増強のための製剤又は医薬組成物であって、1サイクル7日間として、タキサン系抗腫瘍剤を1サイクルに1回、サイクルの第1日目に投与し、化合物I又はその塩をサイクルの第2日目から3日間、化合物Iの量として150mg/dayで連続投与して、残りの4日間連続休薬することを1回以上繰り返すスケジュールで使用されることを特徴とする製剤又は医薬組成物。
【請求項11】
1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を含む抗腫瘍剤と使用説明書を含むキット製剤であって、ヒト悪性腫瘍患者に対して、1サイクル7日間として、タキサン系抗腫瘍剤を1サイクルに1回、サイクルの第1日目に投与し、化合物I又はその塩をサイクルの第2日目から3日間、化合物Iの量として150mg/dayで連続投与して、その後4日間連続休薬することを1回以上繰り返すスケジュールで使用されることを特徴とするキット製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小管作動薬とオーロラA選択的阻害剤の組み合わせによる腫瘍治療方法、更には、オーロラA選択的阻害剤を用いた微小管作動薬の抗腫瘍効果増強方法に関する。本発明はまた、特定の投与レジメンで投与される、オーロラA選択的阻害剤を含有する抗腫瘍剤及び抗腫瘍効果増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
オーロラAは、セリン・スレオニンキナーゼの1つである。これは細胞周期の分裂期(M期)において、中心体形成や成熟、紡錘体動態、染色体整列等に関与しており、また有糸分裂の進行を調節していると報告されている(非特許文献1)。これまでにオーロラAの過剰発現及び/又は増幅が幅広い種類の癌種で確認されている(非特許文献2)。また、腫瘍細胞におけるオーロラAキナーゼの阻害は、有糸分裂の停止とアポトーシスを誘導することから、オーロラAは癌治療の重要な標的分子の1つである。
【0003】
タキサン系抗腫瘍剤(taxanes)やビンカアルカロイド等の微小管作動薬(microtubule-targeting drug)は、癌化学療剤として広く用いられている。しかし、薬剤への不応性や耐性化により十分な治療効果が得られていないことがある。従って、タキサン系抗腫瘍剤の抗腫瘍効果を増強できる薬剤は、より効果的に癌を治療できると期待される。タキサン系抗腫瘍剤の殺細胞効果には、細胞周期の紡錘体形成チェックポイントの活性化が必要である。この活性が低下した腫瘍細胞においては、タキサン系抗腫瘍剤に対する感受性が低下し(非特許文献3)、加えて、オーロラAを過剰発現した細胞株はパクリタキセルに対して耐性となる(非特許文献4)。従って、オーロラAの阻害がパクリタキセル又はドセタキセルの作用を増強することが報告されている(非特許文献5)。
【0004】
一方、オーロラAのサブタイプであるオーロラBは、オーロラAとともに細胞周期の分裂期(M期)に作用する。しかし、その阻害により紡錘体チェックポイントの活性を低下させることが報告されている(非特許文献6)。そのため、オーロラBの阻害はタキサン系抗腫瘍剤の効果を減弱させる可能性がある。以上のことから、オーロラAキナーゼを選択的に阻害する薬剤は、タキサン系抗腫瘍剤と併用することで、その抗腫瘍効果を増強し、より高い治療効果を可能にすると期待されている。
【0005】
オーロラA選択的阻害剤として、MK-5108が報告されている(非特許文献7)。非特許文献7では、MK-5108とドセタキセルをラットに投与して、抗腫瘍効果を評価している。具体的には、ドセタキセルを投与した24時間後に、MK-5108を2日間にわたって1日2回経口投与している。その結果、ドセタキセルの腫瘍縮小効果を増強させ、かつドセタキセルの副作用を増幅させないことが判明している。
【0006】
また、オーロラA阻害剤とタキサン系抗腫瘍剤を併用する臨床試験において、Alisertib(MLN8237)とパクリタキセルとの併用による小細胞肺癌(SCLC)に対する効果が報告されている(非特許文献8)。この文献では、パクリタキセルを週1回投与し、同時にMLN8237を1日2回投与で3日間投与した後4日間休薬し、抗腫瘍効果を測定している。この臨床試験は無増悪生存期間の延長等の効果は見られたが、好中球減少などの重篤な有害事象情報が見られたため中止された。
【0007】
一方、本発明者等のグループは、特定の構造を有するピペリジン化合物及びその塩がオーロラA阻害作用を有することを報告しており(特許文献1)、ラットを用いたin vivo試験で当該ピペリジン化合物の塩酸塩が2から4日間連続投与で最大の抗腫瘍効果を示すことを報告している(非特許文献9)。また、これらの化合物を週1回のパクリタキセル投与と併用して、1日2回投与で4日間投与した後3日休薬する投与レジメンの効果についても報告している(特許文献2)。特定の構造を有するピペリジン化合物及びその塩の1つである1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(以下、化合物Iとする)を悪性腫瘍患者に単剤及びドセタキセル、又はパクリタキセルと併用投与する臨床試験が米国で行われている(clinicalTrials. gov. NCT02448589、NCT02134067)。さらに、当該化合物の塩酸塩の結晶についても報告がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2013/129443号
【文献】米国公開第2015/0065479号
【文献】国際公開第2018/117267号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Nat. Rev. Drug Discov., 8, p547-566(2009)
【文献】Cancer Treat. Rev., 34, p175-182(2008)
【文献】Mol. Cancer Ther., 5, p2963-2969(2006)
【文献】Cancer Cell, 3, p51-62(2003)
【文献】Cancer Res., 65, p2899-2905(2005)
【文献】Mol, Cancer Ther., 8, p2046-2056(2009)
【文献】Mol. Cancer Ther., 9, p157-166(2010)
【文献】Journal of Thoracic Oncology Volume12, Issue 1, Supplement, Pages S261-S262(2017)
【文献】Molecular Targets and Cancer Therapeutics Volume12, Issue 11, Supplement, Abstract A269(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、経口投与可能なオーロラA選択的阻害剤と微小管作動薬(特にタキサン系抗腫瘍剤)の組み合わせにおいて、顕著に優れた抗腫瘍効果を示し、副作用が少ないという新規な腫瘍治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、特定の構造を有するピリミジン化合物と微小管作動薬との併用投与において、特定の用量及びスケジュールで投与した場合に、特に優れた抗腫瘍効果及び抗腫瘍増強効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、次の[1]~[58]を提供するものである。
[1] 1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を有効成分とする、悪性腫瘍患者に微小管作動薬と併用投与するための抗腫瘍剤であって、併用投与が、1サイクル7日間以上として、化合物I又はその塩をサイクル中3日間毎日投与した後に4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルに1回投与するスケジュールであることを特徴とする抗腫瘍剤。
[2] 微小管作動薬が、タキサン系抗腫瘍剤である、上記[1]に記載の抗腫瘍剤。
[3] タキサン系抗腫瘍剤がパクリタキセルであり、1サイクルは7日間とする上記[2]に記載の抗腫瘍剤。
[4] パクリタキセルが70~80mg/m/dayで投与される、上記[3]に記載の抗腫瘍剤。
[5] タキサン系抗腫瘍剤がドセタキセルであり、1サイクルは21または28日間とする上記[2]に記載の抗腫瘍剤。
[6] タキサン系抗腫瘍剤がカバジタキセルであり、1サイクルは21日間とする上記[2]に記載の抗腫瘍剤。
[7] 化合物Iの量として50~150mg/day投与する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[8] 化合物Iが150mg/dayで投与される、上記[1]~[6]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[9] 化合物Iが塩酸塩の形態である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[10] 対象となる悪性腫瘍が、中皮腫、血液癌、頭頸部癌、直腸癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌、子宮頸癌、前立腺癌、及び脳腫瘍のいずれかである、上記[1]~[9]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[11] 微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者を治療するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤であって、1サイクル7日間以上として、化合物I又はその塩をサイクル中3日間毎日投与した後に4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルごとに1回投与するスケジュールで使用されることを特徴とする抗腫瘍剤。
[12] 悪性腫瘍患者に対する微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を有効成分とする抗腫瘍効果増強剤であって、1サイクル7日間以上として化合物I又はその塩をサイクル中3日間毎日投与し、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルごとに1回投与するスケジュールで使用されることを特徴とする抗腫瘍効果増強剤。
[13] 上記[1]~[11]のいずれかに記載の抗腫瘍剤、又は上記[12]に記載の抗腫瘍効果増強剤を含有する、腫瘍の治療及び/又は微小管作動薬の抗腫瘍効果の増強のための製剤又は医薬組成物。
[14] 1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を含む抗腫瘍剤と使用説明書を含むキット製剤であって、悪性腫瘍患者に対して、1サイクル7日間以上として化合物I又はその塩をサイクル中3日間毎日投与して、その後4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルごとに1回投与するスケジュールであることが使用説明書に記載されていることを特徴とするキット製剤。
[15] 悪性腫瘍患者に対して、1サイクル7日間以上として1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を3日間毎日投与した後に4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルに1回投与するスケジュールであることを特徴とする、悪性腫瘍に対する治療方法。
[16] 微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者に対する治療方法であって、1サイクル7日間以上として1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を3日間毎日投与し、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルに1回投与するスケジュールであることを特徴とする、上記方法。
[17] 悪性腫瘍患者に対する微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するための治療方法であって、1サイクル7日間以上として1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を3日間毎日投与して、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルに1回投与するスケジュールであることを特徴とする、上記方法。
[18] 悪性腫瘍患者を治療するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩からなる抗腫瘍剤の使用であって、化合物I又はその塩を1サイクル7日間以上として3日間毎日投与して、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルに1回投与するスケジュールで使用されることを特徴とする、上記使用。
[19] 微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者を治療するため、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩の使用であって、1サイクル7日間以上として、化合物I又はその塩を3日間毎日投与して残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルに1回投与するスケジュールで使用されることを特徴とする、上記使用。
[20] 微小管作動薬が、タキサン系抗腫瘍剤である、上記[19]に記載の使用。
[21] タキサン系抗腫瘍剤がパクリタキセルであり、1サイクルは7日間とする上記[20]に記載の使用。
[22] パクリタキセルが70~80mg/m/dayで投与される、上記[21]に記載の使用。
[23] タキサン系抗腫瘍剤がドセタキセルであり、1サイクルは21または28日間とする上記[20]に記載の使用。
[24] タキサン系抗腫瘍剤がカバジタキセルであり、1サイクルは21日間とする上記[20]に記載の使用。
[25] 化合物Iの量として50~150mg/day投与する、上記[19]~[24]のいずれかに記載の使用。
[26] 化合物Iが150mg/dayで投与される、上記[19]~[24]のいずれかに記載の使用。
[27] 化合物Iが塩酸塩の形態である、上記[19]~[26]のいずれかに記載の使用。
[28] 対象となる悪性腫瘍が、中皮腫、血液癌、頭頸部癌、直腸癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌、子宮頸癌、前立腺癌、及び脳腫瘍のいずれかである、上記[19]~[27]のいずれかに記載の使用。
[29] 悪性腫瘍患者に対する微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を含有する抗腫瘍効果増強剤の使用であって、1サイクル7日間以上として、化合物I又はその塩を3日間毎日投与して残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクルに1回投与するスケジュールで使用されることを特徴とする、上記使用。
[30] 抗腫瘍剤の製造のための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩の使用であって、当該抗腫瘍剤が化合物I又はその塩を有効成分として含み、かつ微小管作動薬と併用されるものであり、投与スケジュールが、1サイクル7日間以上として当該化合物I又はその塩を3日間毎日投与し、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクル中1回投与するものであることを特徴とする、上記使用。
[31] 微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者に対する抗腫瘍剤の製造のための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩の使用であって、当該抗腫瘍剤が化合物I又はその塩を有効成分として含み、かつ微小管作動薬と併用されるものであり、投与スケジュールが、1サイクル7日間以上として当該化合物I又はその塩を3日間毎日投与し、残りの4日間投与せず、微小管作動薬を1サイクル中1回投与するものであることを特徴とする、上記使用。
[32] 微小管作動薬の抗腫瘍効果増強剤の製造のための、化合物I又はその塩の使用であって、当該抗腫瘍効果増強剤が化合物I又はその塩を有効成分として含み、微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するために、投与スケジュールが、1サイクル7日間以上として当該化合物I又はその塩を3日間毎日投与し、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクル中1回投与するものであることを特徴とする、上記使用。
[33] 1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピぺリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を有効成分とする、悪性腫瘍患者に微小管作動薬と併用投与するための抗腫瘍剤であって、併用投与が、化合物I又はその塩を1サイクル7日間として3日間連続して化合物Iの量として50~150mg/dayを投与して、残りの4日間休薬し、微小管作動薬を7日間の内1日、微小管作動薬の量として70~90mg/m/day投与するスケジュールであることを特徴とする抗腫瘍剤。
[34] 投与スケジュールが、1サイクル7日間として、第2日目から第4日目まで3日間連続して化合物I又はその塩を投与し、第1日目に微小管作動薬を投与する、上記[33]に記載の抗腫瘍剤。
[35] 投与スケジュールを28日間として、第2日目から第4日目まで、第9日目から第11日目まで、第16日目から第18日目までに3日間連続して化合物I又はその塩を投与し、第1日目、第8日目、第15日目に微小管作動薬を投与し、第22日目から第28日目まで休薬する、上記[34]に記載の抗腫瘍剤。
[36] 微小管作動薬が、タキサン系抗腫瘍剤である、上記[33]~[35]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[37] タキサン系抗腫瘍剤がパクリタキセルである、上記[36]に記載の抗腫瘍剤。
[38] 微小管作動薬が70~80mg/m/dayで投与される、上記[34]~[37]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[39] 化合物Iが150mg/dayで投与される、上記[33]~[38]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[40] 化合物Iが塩酸塩の形態である、上記[33]~[39]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[41] 対象となる悪性腫瘍が、中皮腫、血液癌、頭頸部癌、直腸癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌、子宮頸癌、前立腺癌、及び脳腫瘍のいずれかである、上記[33]~[40]のいずれかに記載の抗腫瘍剤。
[42] 微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者を治療するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を有効成分とする抗腫瘍剤であって、化合物I又はその塩を、1サイクル7日間として3日間連続して化合物Iの量として50~150mg/dayを投与して、残りの4日間休薬し、微小管作動薬を7日間の内1日、微小管作動薬の量として70~90mg/m/day投与するスケジュールで使用されることを特徴とする抗腫瘍剤。
[43] 悪性腫瘍患者に対する微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を有効成分とする抗腫瘍効果増強剤であって、化合物I又はその塩を1サイクル7日間として3日間連続して化合物Iの量として50~150mg/dayを投与して、残りの4日間休薬し、微小管作動薬を7日間の内1日、微小管作動薬の量として70~90mg/m/day投与するスケジュールで使用されることを特徴とする抗腫瘍効果増強剤。
[44] 上記[33]~[42]のいずれかに記載の抗腫瘍剤、又は上記[43]に記載の抗腫瘍効果増強剤を含有する、腫瘍の治療及び/又は微小管作動薬の抗腫瘍効果の増強のための製剤又は医薬組成物。
[45] 1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を含む抗腫瘍剤と使用説明書を含むキット製剤であって、悪性腫瘍患者に対して、1サイクル7日間として化合物I又はその塩を3日間連続して化合物Iの量として50~150mg/dayを投与して、残りの4日間休薬し、微小管作動薬を7日間の内1日、微小管作動薬の量として70~90mg/m/day投与するスケジュールであることが使用説明書に記載されていることを特徴とするキット製剤。
[46] 悪性腫瘍患者に対して、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を1サイクル7日間として、3日間連続して化合物Iの量で50~150mg/dayを投与して、残りの4日間休薬し、微小管作動薬を7日間の内1日、微小管作動薬の量として70~90mg/m/dayで投与するスケジュールであることを特徴とする、悪性腫瘍に対する治療方法。
[47] 投与スケジュールが、1サイクル7日間として、第2日目から第4日目まで3日間連続して化合物I又はその塩を投与し、第1日目に微小管作動薬を投与する、上記[46]記載の治療方法。
[48] 投与スケジュールを28日間として、第2日目から第4日目まで、第9日目から第11日目まで、第16日目から第18日目までに3日間連続して化合物I又はその塩を投与し、第1日目、第8日目、第15日目に微小管作動薬を投与し、第22日目から第28日目まで休薬する、上記[47]記載の治療方法。
[49] 微小管作動薬が、タキサン系抗腫瘍剤である、上記[46]~[48]のいずれかに記載の治療方法。
[50] タキサン系抗腫瘍剤がパクリタキセルである、上記[49]に記載の治療方法。
[51] 微小管作動薬が70~80mg/m/dayで投与される、上記[46]~[50]のいずれかに記載の治療方法。
[52] 化合物Iが150mg/dayで投与される、上記[46]~[50]のいずれかに記載の治療方法。
[53] 化合物Iが塩酸塩の形態である、上記[46]~[52]のいずれかに記載の治療方法。
[54] 対象となる悪性腫瘍が、中皮腫、血液癌、頭頸部癌、直腸癌、結腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌、子宮頸癌、前立腺癌、及び脳腫瘍のいずれかである、上記[46]~[53]のいずれかに記載の治療方法。
[55] 微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者を治療するための方法であって、1サイクル7日間として微小管作動薬を7日間の内1日、微小管作動薬の量として70~90mg/m/dayで投与された後に、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を3日間連続して化合物Iの量として50~150mg/day投与し、残りの4日間休薬するスケジュールであることを特徴とする、上記方法。
[56] 悪性腫瘍患者に対する微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するための方法であって、1サイクル7日間として微小管作動薬をその内1日に微小管作動薬の量として70~90mg/m/day投与し、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を3日間連続して化合物Iの量として50~150mg/dayを投与して、残りの4日間休薬するスケジュールであることを特徴とする、上記方法。
[57] 悪性腫瘍患者を治療するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩からなる抗腫瘍剤の使用であって、化合物I又はその塩を1サイクル7日間として3日間連続して化合物Iの量として50~150mg/day投与して、残りの4日間休薬し、別個に微小管作動薬が7日間の内1日、微小管作動薬の量として70~90mg/m/day投与されるスケジュールで使用されることを特徴とする、上記使用。
[58] 悪性腫瘍患者に対する微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するための、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)又はその塩を含有する抗腫瘍効果増強剤の使用であって、1サイクル7日間として、その内の1日微小管作動薬をその量として70~90mg/m/day投与された後に、化合物I又はその塩を3日間連続して化合物Iの量として50~150mg/dayで投与して残りの4日間休薬するスケジュールで使用されることを特徴とする、上記使用。
【0013】
本明細書は本願の優先権の基礎となる米国仮特許出願第62/677,379号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の投与スケジュールによれば、微小管作動薬と当該化合物I又はその塩との相乗作用により、優れた抗腫瘍効果が得られ、治療及び抗腫瘍効果増強の対象となる癌の体積の縮小効果が顕著である。また、本発明の投与スケジュールによれば、微小管作動薬および化合物Iまたはその塩の副作用を最小限に抑えることができる。更には、微小管作動薬の投与により耐性化した癌に対しても、当該化合物I又はその塩を併用することにより微小管作動薬の継続投与が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ヒト由来子宮がん細胞株HeLa-luc細胞を移植したヌードラットにおける移植腫瘍に対するパクリタキセル(PTX)と化合物I塩酸塩(compound I)の逐次投与による治療スケジュール及びその効果を示す。グループ1には1日目(day1)にパクリタキセル(10mg/kg)単独を静脈内投与し、グループ2~5にはパクリタキセル投与(day1)の翌日から1日間、2日間、3日間または4日間(day1~day5)、化合物Iの塩酸塩(30mg/kg、フリー体換算)を1日2回経口投与した。T/Cは治療群と対照群の平均相対腫瘍体積の比(%)を、CRは5匹中の完全寛解したラットの数を示す。
図2】ヒト癌患者に対するパクリタキセルと化合物I塩酸塩の併用による用量漸増治療スケジュール、効果及び副作用を示す。7日間を1サイクルとして、第1~第3週の1日目にパクリタキセルを静脈内投与し、パクリタキセル投与と同日(DL1)又はパクリタキセル投与の翌日(DL2~DL7)から化合物I塩酸塩を1日2回、腹腔内投与し、第4週は休薬期間とした。Pts#:各ドーズレベルで投与された患者数、DLT#:用量制限毒性が観察された患者数。尚、図中の矢印はDL6及びDL7でのパクリタキセルと化合物Iの投与を例示するものである。
図3】化合物Iの腫瘍縮小効果をウォーターフォールプロットで示す。縦軸はベースラインからの腫瘍変化率を示し、横軸には患者毎の結果を示す。urothelial:尿路上皮癌、adrenal:副腎癌、pancreas(NE;neuroendocrine):膵臓癌、colon:結腸癌、cervical:子宮頸癌、cholangio:胆管癌、HCC:肝細胞癌、prostate:前立腺癌、HN:頭頚部癌、ovary:卵巣癌、gallbladder:胆のう癌、NSCLC:非小細胞肺癌、HN(parotid):耳下腺癌、breast:乳癌、fallopian tube:卵管癌。DL1~DL7は各患者に対して行ったドーズレベルを示し、○は化合物Iの投与が1サイクル中2日間(DL2~DL5)、●は化合物Iの投与が1サイクル中3日間(DL6~DL7)、■は化合物Iの投与が1サイクル中4日間(DL1)であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において微小管作動薬と組み合わせて投与することが意図されるオーロラA選択的阻害剤は、以下の構造を有し、1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(以下、本明細書において化合物Iと表記する):
【0017】
【化1】

の化学名を有する。化合物Iは、オーロラA選択的阻害活性に優れており、化合物I又はその塩と微小管作動薬との併用は、抗腫瘍効果の増強をもたらすことが見出された。
【0018】
従って本発明は、上記の構造を有する化合物I又はその塩を有効成分とする、微小管作動薬と併用投与される抗腫瘍剤であって、併用投与が、化合物I又はその塩を1サイクル7日間以上として、3日間毎日連続投与し、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクル中1回投与するスケジュールであることを特徴とする抗腫瘍剤を提供する。
本発明はまた、微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者を治療するための、上記のスケジュールで投与されることを特徴とする、化合物I又はその塩を含有する抗腫瘍剤を提供する。
本発明はまた、悪性腫瘍患者に対する微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するための、化合物I又はその塩を含有する、上記スケジュールで使用されることを特徴とする抗腫瘍効果増強剤を提供する。
【0019】
本発明は更に、上記の抗腫瘍剤又は抗腫瘍効果増強剤を含有する、腫瘍の治療及び/又は微小管作動薬の抗腫瘍効果の増強のための製剤又は医薬組成物を提供する。
本発明はまた、化合物I又はその塩を含む抗腫瘍剤と使用説明書を含むキット製剤であって、悪性腫瘍患者に対して上記スケジュールで使用されるものであって、使用方法が使用説明書に記載されていることを特徴とするキット製剤を提供する。
【0020】
本発明は更に、悪性腫瘍患者に対して、化合物I又はその塩を1サイクル7日間以上として、3日間毎日投与し、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクル中1回投与することを特徴とする、悪性腫瘍に対する治療方法を提供する。
本発明は更に、微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者を治療するための方法であって、微小管作動薬及び化合物I又はその塩を上記スケジュールで投与することを含むことを特徴とする、上記方法を提供する。
本発明は更に、悪性腫瘍患者に対する微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するための方法であって、微小管作動薬及び化合物I又はその塩を上記スケジュールで投与することを特徴とする、上記方法を提供する。
【0021】
本発明はまた、悪性腫瘍患者を治療するための、化合物I又はその塩からなる抗腫瘍剤の使用であって、化合物I又はその塩を1サイクル7日間以上として3日間連続投与し、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、別個に微小管作動薬を1サイクル中1回投与されることを特徴とする、上記使用を提供する。
本発明はまた、微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者を治療するための、化合物I又はその塩の使用であって、微小管作動薬及び化合物I又はその塩を上記スケジュールで使用することを特徴とする、上記使用を提供する。
本発明はまた、悪性腫瘍患者に対する微小管作動薬の抗腫瘍効果を増強するための、化合物I又はその塩を含有する抗腫瘍効果増強剤の使用であって、微小管作動薬及び化合物I又はその塩を上記スケジュールで投与することを特徴とする、上記使用を提供する。
【0022】
本発明はまた、抗腫瘍剤の製造のための化合物I又はその塩の使用であって、当該抗腫瘍剤が化合物I又はその塩を有効成分として含み、かつ微小管作動薬と併用されるものであり、投与スケジュールが、1サイクル7日間以上として当該化合物I又はその塩を3日間毎日投与し、残りの4日間投与しないことを1回以上繰り返し、微小管作動薬を1サイクル中1回投与するものであることを特徴とする、上記使用を提供する。
本発明はまた、微小管作動薬を投与された悪性腫瘍患者に対する抗腫瘍剤の製造のための、化合物I又はその塩の使用であって、当該抗腫瘍剤が上記の投与スケジュール微小管作動薬と併用されることを特徴とする、上記使用も提供する。
本発明はまた、微小管作動薬の抗腫瘍効果増強剤の製造のための、化合物I又はその塩の使用であって、微小管作動薬及び化合物I又はその塩を上記投与スケジュールで投与することを特徴とする、上記使用も提供する。
【0023】
化合物Iは、国際公開第2013/129443号及び米国公開第2015/0065479号に記載されたピペリジン化合物の1種であり、国際公開第2013/129443号に記載の方法に準じて合成することができる。この化合物は経口吸収性に優れ、微小管作動薬の抗腫瘍効果増強作用の点で重要である。
化合物Iは、白色固体として得られ、結晶として存在し得る。化合物Iはまた、薬学的に許容される塩として利用することもできる。化合物Iの塩酸塩の結晶は、国際公開第2018/117267号に従って合成できる。
【0024】
化合物Iの薬学的に許容される塩としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、マンデル酸、フマル酸、アスパラギン酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、馬尿酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸(メシル酸)、p-トルエンスルホン酸(p-トシル酸)、グルタミン酸等の有機酸との塩、及びアルカリ金属、アルカリ土類金属、その他の塩基との塩、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、メチルアンモニウム塩、ジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0025】
本発明において好適に使用される塩として、特に化合物Iの塩酸塩を挙げることができる。化合物Iの塩酸塩としては、塩酸と化合物Iのモル比が1:1の塩を使用することができ、これは、単一の結晶、2以上の結晶多形の混合物、非晶質、又はこれらの混合物のいずれかの形態で存在し得る。
【0026】
例えば、化合物Iの塩酸塩またはその結晶は、例えば化合物Iと塩酸を特定の溶媒に添加し、攪拌して析出させることにより得ることができる。より具体的には
(1)1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸(化合物I)及び塩酸を溶媒に添加する工程、及び
(2)前記工程(1)で得られた溶媒を攪拌して、化合物Iの塩酸塩を析出させる工程
を含む方法により得ることができる。
【0027】
化合物Iの塩酸塩またはその結晶を製造するために使用できる上記溶媒としては、水、C1-6アルコール(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール)、C1-6エステル(例えばギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル)、C1-6ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、C1-6エーテル(例えばジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン)、炭化水素(例えばn-ヘキサン、n-ペンタン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、石油エーテル)、非プロトン性極性溶媒(例えばアセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド)、又はこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0028】
本発明において、化合物I又はその塩と併用投与され得る微小管作動薬としては、タキサン系抗腫瘍剤、エポチロン系抗腫瘍剤等の微小管安定化薬と、ビンカアルカロイド類、エリブリン、ハリコンドリンB等の微小管阻害薬が挙げられる。好ましくは、微小管作動薬は微小管安定化薬であり、より好ましくはタキサン系抗腫瘍剤である。タキサン系抗腫瘍剤としては、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル等が挙げられ、パクリタキセル、ドセタキセルが好ましく、最も好ましいのは、パクリタキセルである。また、パクリタキセルとしてアルブミン結合パクリタキセル、ドコサヘキサエン酸結合パクリタキセル、ポリグルタメート化パクリタキセル、ペプチド結合パクリタキセル等を使用しても良く、ドセタキセルとしてアルブミン結合ドセタキセル等を使用しても良い。エポチロン系抗腫瘍剤は、エポチロンB、エポチロンD等である。ビンカアルカロイド類は、ビンブラスチン、ビンクリスチン等である。
本発明において、化合物I又はその塩と併用投与され得る微小管作動薬と一緒に、化合物Iもしくはその塩、又は微小管作動薬以外の抗腫瘍剤をさらに投与することができる。
【0029】
化合物I又はその塩は、上記の微小管作動薬と併用することで、相乗的な優れた抗腫瘍効果が得られる。化合物I又はその塩の1日あたりの使用モル比は、微小管作動薬1モルに対して、0.1~20モルがよく、0.1~10モルがより好ましく、1~5モルがより好ましく、1~4モルがさらに好ましく、最も好ましくは1~3モルである。化合物Iの1日あたりの使用重量比は、微小管作動薬1に対して、0.1~3が好ましく、0.5~2がより好ましく、1~3がさらに好ましく、最も好ましいのは1~1.5である。ここで、微小管作動薬として、アルブミン結合パクリタキセル、アルブミン結合ドセタキセル、ドコサヘキサエン酸結合パクリタキセル、ポリグルタメート化パクリタキセル、ペプチド結合パクリタキセル等の複合体型の薬剤を使用する場合、上記のモル比及び重量比は、複合体中のパクリタキセル又はドセタキセルに換算した値である。
【0030】
本発明において治療及び抗腫瘍効果増強の対象となる悪性腫瘍は、例えば、上皮癌(呼吸器系癌、消化器系癌、生殖器系癌、分泌系癌等)、肉腫、造血細胞系腫瘍(B細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病、末梢性T細胞性リンパ腫、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病等)、中枢神経系腫瘍、末梢神経系腫瘍、多発性骨髄腫等が挙げられる。対象となる癌種は、上皮性癌、造血細胞系腫瘍が好ましく、呼吸器系癌、消化器系癌、生殖器系癌、造血細胞系腫瘍がより好ましい。
【0031】
また、腫瘍の発生臓器の種類も特に制限されず、例えば、腫瘍としては耳下腺癌等の頭頚部癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌、子宮頸癌、子宮体癌、腎癌、副腎癌、膀胱癌、前立腺癌、尿路上皮癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、血液癌、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍、及び中皮腫が挙げられる。好ましくは治療対象となる腫瘍は中皮腫、血液癌、頭頸部癌、尿路上皮癌、副腎癌、膵臓癌、肝細胞癌、耳下腺癌、直腸癌、結腸癌、胆嚢・胆管癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌、子宮頸癌、前立腺癌、及び脳腫瘍であり、より好ましくは、中皮腫、血液癌、頭頸部癌、直腸癌、結腸癌、卵巣癌、卵管癌、肺癌、乳癌、脳腫瘍及び前立腺癌であり、特に好ましくは頭頸部癌、卵巣癌、卵管癌である。
【0032】
また、本発明の抗腫瘍剤、抗腫瘍効果増強剤、腫瘍治療方法及び抗腫瘍効果増強方法は抗腫瘍剤の耐性癌又は不応答の癌にも適用できる。ここで言う抗腫瘍剤の耐性癌又は不応答の癌とは、例えば、微小管作動薬(タキサン系抗腫瘍剤、エポチロン系抗癌剤等)、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、ホルモン類似薬、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害薬、サイトカイン、分子標的治療薬、非特異的免疫賦活薬等の耐性癌又は不応答の癌であり、これらの併用に対して耐性又は不応答の癌も含まれる。好ましくは、微小管作動薬の耐性癌であり、より好ましくはタキサン系抗腫瘍剤の耐性癌である。特に好ましくは、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル耐性の癌であり、最も好ましくはパクリタキセル耐性の癌である。
【0033】
本発明における投与日の1日あたりの投与回数は、微小管作動薬は1日あたり1回以上であり、好ましくは1日1回である。化合物Iの1日あたりの投与回数は1日1回以上であり、好ましくは1日2回である。
【0034】
本発明において見出された腫瘍の治療及び抗腫瘍効果増強のための投与スケジュールは、1サイクル7日間以上で微小管作動薬1サイクル中1回投与し、化合物I又はその塩を、3日間連日投与しその後4日間投与しないスケジュールであることを特徴とし、この「〇日間連日投与しその後△日間投与しない」スケジュールは別の言い方で〇投△休ということができる。例えば、「3日間連日投与しその後4日間投与しない」スケジュールは3投4休ということができ、「2日間連日投与しその後5日間投与しない」スケジュールは2投5休ということができる。サイクル間は適宜休薬期間を入れることができ、例えば、3回のサイクル後に1週間休薬したり、1回のサイクル後に3週間休薬したりできる。1サイクルは1回~3回又はそれ以上連続であってよく、癌の種類や癌患者の症状などを考慮して適宜選択することができる。
【0035】
本発明の腫瘍治療方法及び抗腫瘍効果増強方法の1サイクルの日数は、1サイクル7~28日間であり、微小管作動薬がパクリタキセルの場合、1サイクル7日間、14日間もしくは21日間が好ましく、より好ましくは7日間であり、微小管作動薬がドセタキセルの場合1サイクル21日間もしくは28日間が好ましく、微小管作動薬がカバジタキセルの場合1サイクル21日間が好ましい。
【0036】
1サイクル中における当該化合物I又はその塩の連続投与日数については、日数が短いと抗腫瘍効果の増強が不十分であり、日数が長いと副作用の発症が懸念され、医療経済的にも望ましくない。1サイクルを7日間以上で化合物I又はその塩の連続投与日数を3日間とし、残りの4日間投与しないことが好ましく、1サイクルは連続して繰り返して良く、またサイクル間で適宜休薬期間を設けても良い。
【0037】
1サイクル中における微小管作動薬と化合物I又はその塩の投与順序は、抗腫瘍効果の増強及び副作用の抑制の観点から、微小管作動薬の投与と同日又は1~4日後に化合物I又はその塩が投与開始されるものが好ましく、微小管作動薬の投与と同日又は1日後に化合物I又はその塩が投与開始されるものがより好ましく、微小管作動薬の投与の1日後に化合物I又はその塩が投与開始されるのが最も好ましい。
【0038】
化合物Iの連続投与日数と微小管作動薬との投与順序を踏まえた、より具体的な本発明に従う投与スケジュールは、1サイクル7日間以上として微小管作動薬を1サイクルに1回投与し、化合物I又はその塩を微小管作動薬と同日または次の日から1日1回以上、3日間連日投与し、残りの4日間投与しないのが好ましい。また、サイクル間及びサイクル終了後には適宜休薬期間を入れることができる。また、サイクルが連続し、微小管作動薬の投与の次の日に化合物I又はその塩を投与を開始する場合、最後の化合物I又はその塩を投与しない期間の4日目が、次のサイクルの初日と同日となる。
【0039】
詳細な投与スケジュールとしては、
(i)7日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目に投与し、化合物I又はその塩の投与開始が微小管作動薬を投与した同日か次の日であり、その連日投与する期間を3日間とするものであり得る。
(ii)あるいは、14日間に7日間のサイクルを2回繰り返して微小管作動薬を第1日目と第8日目に投与し、化合物I又はその塩の投与開始が微小管作動薬を投与した同日か次の日であり、その連日投与する期間をそれぞれ3日間とし、その後4日間投与しないものであり得る。
(iii)あるいは、21日間に7日間のサイクルを3回繰り返して微小管作動薬を第1日目と第8日目と第15日目に投与し、化合物I又はその塩の投与開始が微小管作動薬を投与した同日か次の日であり、その連日投与する期間をそれぞれ3日間とし、その後4日間投与しないものであり得る。
(iv)また、28日間に7日間のサイクルを3回繰り返して微小管作動薬を第1日目と第8日目と第15日に投与し、化合物I又はその塩の投与開始が微小管作動薬を投与した同日か次の日であり、その連日投与期間を3日間で、その後4日間投与しない3回のサイクル後に7日間の休薬期間を入れることができる。また、サイクル間の間隔を更に空けて適宜休薬期間を入れることができるし、さらに連続してサイクルを繰り返すこともできる。
【0040】
より好ましい投与スケジュールとしては、7日間を1サイクルとし、微小管作動薬の投与が1回の場合は7日間のうちの第1日目に、投与が2回の場合は14日間のうちの第1日目と第8日目に、投与が3回の場合は21日間のうちの第1日目と第8日目と第15日目に1回投与し、化合物I又はその塩の投与を1日2回以上、3日間連日して、微小管作動薬の投与が1回の場合は7日間のうちの第2日目から、投与が2回の場合は14日間のうちの第2日目と第9日目から、投与が3回の場合は21日間の場合は第2日目と第9日目と第16日目からそれぞれ行い、またサイクル終了後に7日間又はそれ以上の休薬期間を入れることができ、サイクル終了後には適宜休薬期間を入れることができるものである。
【0041】
別の実施形態では、1サイクル中における微小管作動薬と化合物I又はその塩の微小管作動薬が第1日目に投与され、次の日に化合物I又はその塩が投与開始され、投与スケジュールは、
(i)7日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目のみに投与し、化合物I又はその塩を第2日目から3日間連日投与し、4日間投与しないものであるか、
(ii)14日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目のみに投与し、化合物I又はその塩を第2日目から3日間連日投与し、4日間投与しないものであるか、
(iii)21日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目のみに投与し、化合物I又はその塩を第2日目から3日間連日投与し、その後4日間連日投与しないことを3回繰り返すものであるか、
(iv)28日間を1サイクルとして、微小管作動薬を第1日目に投与し、化合物I又はその塩を第2日目から3日間連日投与し、その後4日間連日投与しないことを4回繰り返すものである。また、
(v)7日間を1サイクルとして3サイクル繰り返し、サイクル間及び終了後には適宜休薬期間を入れることもできる。つまり、微小管作動薬を第1日目と第8日目と第15日に投与し、化合物I又はその塩を、微小管作動薬の投与の次の日から3日間毎日投与した後4日間投与しないことを3回繰り返し、サイクル終了後には適宜休薬期間を入れることができるものである。
【0042】
ここで、微小管作動薬の投与経路は、各薬剤の種類に依存し、例えば静脈内投与、腹腔内投与、坐剤による投与、経口投与等であって良いが、一般的には静脈内投与、あるいは腹腔内投与である。一方、化合物I又はその塩の投与経路は、経口投与が好ましい。
【0043】
化合物I又はその塩は、これらを有効成分として含有する製剤又は医薬組成物として提供することができる。微小管作動薬又はその塩も、これらを有効成分として含有する製剤又は医薬組成物として提供することができる。また、微小管作動薬及び化合物I又はその塩は、これらを単独で含む別々の製剤とするキット製剤として提供することができる。キット製剤の場合は、例えば化合物I又はその塩を含む抗腫瘍剤と使用説明書を含むキット製剤であって、使用説明書には癌患者に対して、化合物I又はその塩を1日1回以上、3日間投与し、微小管作動薬を第1日目に投与することが記載されていることを特徴とする。
【0044】
被験者への投与量(mg/body)は下記の通り算出する。
投与量(mg/body)=投与量(mg/m)×体表面積(m
体表面積(BSA)は例えば、以下のDuBoisの公式を用いて求めることができる。得た値は小数第三位を四捨五入し、小数第二位まで計算する。
BSA=([体重(kg)]0.425×[身長(cm)]0.725)×0.007184
【0045】
上記のそれぞれの投与方法で投与される微小管作動薬の量は、経口剤では0.05~1000mg/m/dayである。注射剤では0.01~500mg/m/day、坐剤では1~1000mg/m/dayである。より好ましくは、経口剤では1~500mg/m/day、注射剤では1~250mg/m/day、坐剤では1~500mg/m/dayである。さらに好ましくは、注射剤で20~200mg/m/dayである。ただし、患者の症状やその剤形等により量を増やすことができる。
【0046】
微小管作動薬の投与日における1日あたりの投与量は、薬剤の種類、癌の種類、ステージ等により相違するが、例えば微小管作動薬がパクリタキセルの場合、その1日あたりの投与量は、パクリタキセルの換算量として1~200mg/m/dayである。より好ましくは50~100mg/m/dayであり、さらに好ましくは70~90mg/m/dayであり、最も好ましくは70~80/m/dayである。投与回数は1日1回が好ましい。ただし、患者の症状、体重、年齢、性別等によって投与量、投与回数を変えることができる。
【0047】
また、微小管作動薬がパクリタキセルである場合、アルブミン結合パクリタキセルを投与するときは、その1日あたりの投与量は、パクリタキセルの換算量として0.1~500mg/m/dayであり、1~300mg/m/dayが好ましく、40~300mg/m/dayが好ましい。投与回数は1日1回が好ましい。ただし、患者の症状、体重、年齢、性別等によって投与量、投与回数を変えることができる。
【0048】
また、微小管作動薬がドセタキセルである場合、その1日あたりの投与量は、0.1~500mg/m/dayであり、1~100mg/m/dayが好ましく、50~100mg/m/dayが好ましい。投与回数は1日1回が好ましい。ただし、患者の症状、体重、年齢、性別等によって投与量、投与回数を変えることができる。
【0049】
また、微小管作動薬がカバジタキセルである場合、その1日あたりの投与量は、0.1~100mg/m/dayであり、1~25mg/m/dayが好ましい。投与回数は1日1回が好ましい。ただし、患者の症状、体重、年齢、性別等によって投与量、投与回数を変えることができる。
【0050】
上記投与形態で投与される化合物I又はその塩の投与量は化合物Iの重量換算で、1~500mg/dayで、より好ましくは50~200mg/dayで、特に好ましくは50~150mg/dayで、最も好ましくは150mg/dayである。これらを通常1日2回に分けて投与するが、適宜1日1回~3回に分けても良い。好ましくは1日投与する回数は1日2回である。ただし、患者の症状、体重、年齢、性別等によって投与量、投与回数を変えることができる。
【0051】
化合物I又はその塩を含む製剤(医薬組成物)に含まれる薬学的担体としては、製剤素材として慣用の各種有機或いは無機担体物質が用いられる。賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤が固形製剤において配合できる。溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤が液状製剤において配合できる。必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、甘味剤、安定化剤等の製剤添加物を用いることができる。
【0052】
経口用固形製剤を調製する場合は、最初に化合物I又はその塩に賦形剤、必要に応じて別の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を加える。その後、通常の方法で錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。注射剤を調製する場合は、最初に当該化合物にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加する。
【0053】
化合物I又はその塩を投与できる動物種としては哺乳類が挙げられ、好ましくは治療対象の哺乳類に加えて、薬物動態もしくは薬効試験等の動物実験で一般的に用いられる哺乳類であり、具体的にはヒト、ラット、マウス、ウサギ、イヌが挙げられ、好ましくはヒトである。
【0054】
本発明の腫瘍治療方法及び抗腫瘍効果増強方法の1サイクルの日数は、1サイクル7~28日間とすることができ、例えば1サイクル7日間として微小管作動薬を週に1回投与し、化合物I又はその塩を微小管作動薬の投与と同日又は1~4日後に1日1回以上、3日間連日投与する。3日間連日投与(連続投与)とは、1日1回から3回の投与を3日間続けることであり、3日間毎日投与とも言える。サイクルを例えば3回繰り返して、その後に例えば7日間の休薬期間を入れることもできる。上記投与形態で投与される化合物I又はその塩の投与量は、通常成人(体重50kg)1日あたり0.05~5000mg/dayで、投与回数は1日1回から3回であり、微小管作動薬の投与日における1回あたりの投与量は、薬剤の種類、癌の種類、ステージ等により相違するが、例えばパクリタキセルの場合、0.1~300mg/m/dayが好ましい。
【0055】
より好ましくは、1サイクル中における微小管作動薬と化合物I又はその塩の投与順序が微小管作動薬の投与と同日又は1日後に化合物I又はその塩が投与開始されるもので、具体的な本発明の腫瘍治療方法及び抗腫瘍効果増強方法の投与スケジュールは、
(i)7日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目に投与し、化合物I又はその塩の投与開始が微小管作動薬の投与1日目又は2日目であり、3日間連日投与するものであるか、
(ii)7日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目と第8日目に投与し、化合物I又はその塩の投与開始が微小管作動薬の投与1日目又は2日目であり、3日間連日投与するものであるか、
(iii)7日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目と第8日目と第15日目に投与し、化合物I又はその塩の投与開始が微小管作動薬の投与後1日目又は2日目であり、3日間連日投与するものであるか、
(iv)7日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目と第8日目と第15日に投与し、化合物I又はその塩の投与開始が微小管作動薬の投与1日目又は2日目であり、3日間連続投与するものであり得る。また、サイクル間及びサイクル終了後には適宜休薬期間を入れることができる。
【0056】
上記投与形態を有する薬剤の投与日における1日あたりの化合物I又はその塩の投与量は、50~200mg/dayで、投与回数は1日2回である。微小管作動薬の投与日における1回あたりの投与量は、例えばパクリタキセルの場合、50~100mg/m/dayである。
【0057】
さらに好ましくは、1サイクル中における微小管作動薬と化合物I又はその塩の投与順序は、微小管作動薬を第1日目に投与し、化合物I又はその塩を微小管作動薬の投与の1日後に投与開始されるものである。具体的な本発明の腫瘍治療方法及び抗腫瘍効果増強方法の投与スケジュールは、1サイクル7日間の場合は微小管作動薬の投与を第1日目、2サイクル連続する14日間の場合は第1日目と第8日目、3サイクル連続する21日間の場合は第1日目と第8日目と第15日目に1回投与し、化合物I又はその塩の投与を1日2回、7日間の場合は第2日目から、14日間の場合は第2日目と第9日目から、21日間の場合は第2日目と第9日目と第16日目から3日連日投与するものであり得る。また、サイクル間及びサイクル終了後には適宜休薬期間を入れることができる。上記投与形態を有する薬剤の投与日における1日あたりの化合物I又はその塩の投与量は、150mg/dayで、投与回数は1日2回である。微小管作動薬の投与日における1回あたりの投与量は、例えばパクリタキセルの場合、70~80mg/m/dayである。
【0058】
また別の実施形態では、1サイクル中における微小管作動薬と化合物I又はその塩の微小管作動薬が第1日目に投与され、次の日に化合物I又はその塩が投与開始され、投与スケジュールは、
(i)7日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目のみに投与し、化合物I又はその塩を第2日目から3日間連日投与し、4日間投与しないものであるか、
(ii)14日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目のみに投与し、化合物I又はその塩を第2日目から3日間連日投与し、4日間投与しないものであるか、
(iii)21日間を1サイクルとして微小管作動薬を第1日目のみに投与し、化合物I又はその塩を第2日目から3日間連日投与し、その後4日間連日投与しないことを3回繰り返すものであるか、
(iv)28日間を1サイクルとして、微小管作動薬を第1日目に投与し、化合物I又はその塩を第2日目から3日間連日投与し、その後4日間連日投与しないことを4回繰り返すものである。また、
(v)7日間を1サイクルとして3サイクル繰り返し、サイクル間及び終了後には適宜休薬期間を入れることもできる。つまり、微小管作動薬を第1日目と第8日目と第15日に投与し、化合物I又はその塩を、微小管作動薬の投与の次の日から3日間毎日投与した後4日間投与しないことを3回繰り返し、サイクル終了後には適宜休薬期間を入れることができるものである。上記投与形態で投与される化合物I又はその塩の投与量は、通常成人(体重50kg)あたり、50~200mg/dayで、投与回数は1日2回である。微小管作動薬の投与日における1回あたりの投与量は、例えばパクリタキセルの場合、50~100mg/m/dayである。
【0059】
尚、本明細書中において、微小管作動薬、及び化合物I又はその塩の投与量、並びにこれらの薬剤間の比率等について言及された数値は、記載された数値に対して±20%、あるいは±10%の変動を有する範囲内の値を含み得ることが意図される。当業者であれば、そのような範囲内の投与量又は比率であれば、記載された投与量又は比率と類似の効果をもたらし得ることを認識するであろう。
【実施例
【0060】
以下に実施例及び参考例を示し、本発明の化合物I又はその塩と微小管作動薬との併用についてより詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0061】
<参考例1 化合物Iの塩酸塩の合成>
特許文献1に記載の方法によって得られた化合物I(1-(2,3-ジクロロベンゾイル)-4-[5-フルオロ-6-(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イルアミノ)ピリジン-2-イル]メチル-4-ピペリジンカルボン酸、250mg)を、エタノール(2.0mL)に懸濁し、4M塩酸-酢酸エチル溶液(0.18mL)、酢酸エチル(2.8mL)を順次加え、85℃にて6時間撹拌した。得られた懸濁液を室温まで冷却後、固体を濾取し、酢酸エチルにて洗浄した。得られた固体を100℃にて減圧乾燥し、化合物Iの塩酸塩(190mg)を結晶として得た。
【0062】
特許文献1に記載の方法によって得られた化合物IのNMRスペクトルは以下の通りであった。H-NMR(DMSO-D)δ:10.34(2/2H,brs),7.70-7.59(4/2H,m),7.46-7.37(3/2H,m),7.32-7.29(1/2H,m),6.78-6.73(2/2H,m),6.32(1/2H,s),6.30(1/2H,s),4.24-4.20(2/2H,m),3.25-3.21(2/2H,m),3.09-2.97(8/2H,m),2.31(3/2H,s),2.29(3/2H,s),2.05-2.00(2/2H,m),1.91-1.81(2/2H,m),1.68-1.52(4/2H,m)が観測された。また質量はESI-MS m/z506,508(MH+)であった。
【0063】
<参考例2 化合物Iとパクリタキセルとの併用スケジュールの検討>
ルシフェラーゼ遺伝子を導入したヒト由来子宮がん細胞株HeLa-luc(パーキンエルマー社)細胞を、ヌードラット(系統;F344/NJcl-rnu/rnu,雌 入手先;日本クレア)の右脇腹皮下に1×10個で移植した。移植腫瘍の体積が約200mmとなった時点で、各群の腫瘍体積が均一となるように、無作為層別化法により1群5匹に群分けした。
【0064】
グループ1は、パクリタキセル(10mg/kg)単独を1日目に静脈内投与した。グループ2~5は、パクリタキセルを投与した翌日に、参考例1で得られた化合物Iの塩酸塩(30mg/kg、フリー体換算)を1日間、2日間、3日間または4日間、1日2回経口投与した(逐次投与、Sequential treatment、図1参照)。
【0065】
化合物Iの塩酸塩は、0.5%(w/v)ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)に懸濁または溶解させた。パクリタキセルは、クレモホール EL(Cremophor EL)と無水エタノールを用いて溶解後、生理食塩水を加えて所定濃度になるように希釈し使用した。尚、対照群にはベヒクルだけ、具体的には0.5%(w/v)ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)とクレモホール EL(Cremophor EL)と無水エタノールを投与した。
【0066】
治療効果の有無の判定は、腫瘍の長径と短径を経時的に測定し、以下の式に従い腫瘍体積(TV)、相対的腫瘍体積(RTV)および投与開始後10日目でのT/C(%)値(治療群と対照群の平均相対腫瘍体積の比)を求めることで行った。
腫瘍体積(TV)= {(長径)×(短径)}/2
測定日(n)での相対的腫瘍体積(RTV)= TV/TV
T/C(%)= {(治療群の平均RTV)/(対照群の平均RTV)}×100
TVは投与開始時の腫瘍体積
また、腫瘍の消失が認められた個体については、CR(完全寛解・著効)と規定し、その例数を求めた。
【0067】
その結果、グループ1、2ではCR例が認められなかったが、グループ3ではCR例は3例、グループ4では2例、グループ5では2例であった。また、全てのグループにおいて死亡例等の重篤な毒性は見られず、副作用は許容であった。
これらから明らかなように、逐次投与では化合物Iの投与期間が2日以上でCR例が認められた。このことから、化合物Iの投与期間を2日以上とすることでより高い抗腫瘍効果が期待出来ることが分かった。
【0068】
<実施例 パクリタキセルとの併用投与試験における投与スケジュール検討>
癌患者にパクリタキセルと塩酸塩の形態の化合物Iを投与し、安全性と有効性を評価した。本試験は、標準的な治療法が無効または治療法のない固形癌患者を対象に実施され、患者が罹患している癌は判明しているもので図3に示した癌腫であった(尿路上皮癌、副腎癌、膵臓癌、結腸癌、子宮頸癌、胆管癌、肝細胞癌、前立腺癌、頭頚部癌、卵巣癌、胆のう癌、非小細胞肺癌、耳下腺癌、乳癌、卵管癌)。本試験はまた、安全性を主として評価し、各癌腫別に行われる臨床第1相拡大コホート試験で副作用を問題とすることなく安全に投与出来る至適投与量(RD)を決定するための臨床第1相用量漸増試験に相当する。
【0069】
安全性の評価と併せて、評価可能な場合には、腫瘍に対する治療効果も評価することとした。腫瘍に対する治療効果は、RECISTの評価法(Journal of the National Cancer Institute,2000,Vol 92,No3,205-216J)を参考に、標的病変(CT等でスライス幅に応じた測定可能なサイズ以上の病変)と非標的病変(標的病変以外のすべての病変)との総合的な評価で腫瘍への縮小効果を判定した。なお、化合物Iの投与量はフリー体換算時の重量である。
【0070】
当該試験において、PR(部分奏功)とは、各標的病変の長径の総和が投与前の総和の30%以上の縮小を示した場合を指す。PD(進行)とは、試験開始以降に記録された最小の長径和と比較して標的病変の長径和が相対的に20%以上増加かつ、長径和が絶対的に5mm以上増加するか、または既存の非標的病変の明らかな増悪または新病変を認めた場合を指す。SD(安定)は、試験開始以降に記録された最小の長径和と比較して、PRとするには腫瘍の縮小が十分では無いがPDとするには不十分であり、腫瘍の進行が止まり、悪化が認められない場合を指す。
【0071】
図2に第1相用量漸増試験における化合物Iの投与スケジュールと用量、パクリタキセル用量を記載した。パクリタキセルは1週間に1回投与を3週間繰り返し、その後1週間休薬する毎週投与レジメンを採用した。この投与法は標準的なパクリタキセル投与レジメンの1つとして、臨床で広く使われている。一方、化合物Iは1日2回、パクリタキセル投与と同日、またはパクリタキセル投与の1日後から2または3または4日間投与する。これを毎週のパクリタキセル投与に合わせて3週間投与し、4週目はパクリタキセル休薬に合わせて、化合物I投与も休薬するレジメンで投与した。各投与スケジュール(ドーズレベル)について、2~7名の患者に投与した結果を評価した。
【0072】
ドーズレベル1(DL1)ではパクリタキセルを毎週90mg/m/dayずつ、化合物Iは1回25mgをパクリタキセル投与同日から1日2回で4日間投与し、これを3週間続けた。その結果、3例中2例の患者において、用量制限毒性(DLT)が認められた。用量制限毒性の内容は、1症例目はグレード4の発熱を伴う好中球減少及びそれに続く敗血症、2例目は血液生化学検査でのグレード3のアスパルテート アミノトランスフェラーゼ(AST)値の上昇であった。従ってこのドーズレベルは最大耐量を超えていると判断された。
【0073】
そのため、ドーズレベル2としてパクリタキセル用量を70mg/m/dayに下げ、化合物I投与レジメンを、パクリタキセル投与1日後から開始し、投与日数を2日に変更したところ、DLTは3症例のいずれでも確認されず、このレベルは認容性ありと判断された。そこでドーズレベル3以降では、図2のようにパクリタキセル投与量、化合物Iの1回あたりの投与量、および化合物Iの投与日数を漸増する方法で、試験を続けた。
【0074】
その結果、ドーズレベル7(パクリタキセル投与量80mg/m/day、化合物Iの1回あたりの投与量100mg、1日2回、パクリタキセル投与翌日から3日間の投与)で、3例中2例で用量制限毒性が見られた。1症例ではグレード3の粘膜炎および下痢を、2症例目では血液生化学検査でのグレード3のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)上昇であった。従ってドーズレベル7は最大耐量を超えていると判断された。
【0075】
一方、ドーズレベル6(パクリタキセル投与量80mg/m/day、化合物Iの1回あたりの投与量75mg、1日2回、パクリタキセル投与翌日から3日間の投与)のレジメンでは、7症例の全てでグレード3以上の用量制限毒性は見られなかった。従って、このレベルが最大耐性量として最適であることが分かった。
【0076】
本用量漸増試験に参加した様々な癌腫の患者24症例中、試験中止などの評価不可能な要因がなく、腫瘍縮小評価が実行できた22症例について、腫瘍縮小効果の評価を行った。その結果、図3に示すように、5例の患者、頭頸部癌(HN)、乳癌(breast)、卵巣癌(ovary)、卵管癌(fallopian tube、2症例)でPRが認められた。
【0077】
腫瘍縮小効果を化合物Iの投与スケジュールとの関係で見ると、22症例中8症例は化合物Iを3日間連続投与し、その後4日間休薬(3投4休、3on4off)で投薬され(ドーズレベル6、7)、そのうち3症例でPRが認められた(38%)。一方、化合物Iの投与スケジュールが2日間連続投与し、その後5日間休薬(2投5休、2on5off)のスケジュールではPR例は12人中1例だけであった(8.3%)。PRには至らなかったが腫瘍の縮小効果が見られた症例数でも、3投4休スケジュールでは8人中7人に縮小効果(88%)が見られたのに対し、2投5休スケジュールでは12人中6人だけであった(50%)。
【0078】
また、1日あたりの投与量をそろえ、投与日数のみ変更した比較(ドーズレベル5、6)では、3投4休のスケジュールで、腫瘍の縮小効果が5例中4例(80%)で見られたのに対し、2投5休のスケジュールでは、腫瘍の縮小効果が3例中1例(33%)にとどまった。以上の結果から、化合物Iの3投4休スケジュールは2投5休に比べて顕著な腫瘍縮小効果をもたらすことが分かった。
【0079】
化合物Iとパクリタキセル併用の臨床データでは、耐性面では化合物Iの投与スケジュールが4日間連続では、化合物Iの1回あたり投与量が25mg、1週間あたりの総投与量が200mgでも毒性が出ることが分かった。一方、化合物Iを2日連続投与では、1回あたり75mg、1週間あたりの総投与量が300mgでも上記のような用量制限毒性が見られず、耐性であることが分かった。また、化合物Iを3日連続投与では、1回あたり75mg、1週間あたりの総投与量が450mgでも上記のような用量制限毒性が見られず、耐性であることが分かった。
【0080】
薬効面では、動物試験とは異なり、臨床では化合物Iの連続する投与日数が2日間に比べて、3日間又は4日間の方がより強い臨床効果が得られることが分かった。
【0081】
以上より、臨床の抗腫瘍効果と毒性バランスを考えると、化合物Iを、3投4休スケジュールで投与することが、化合物Iのパクリタキセル併用での投与スケジュールとして最適であることが分かった。
【0082】
上記のように投与日数と投与量を調整することで深刻な副作用を抑えつつ腫瘍縮小効果が得られたという結果は、参考例に示したラットにおける抗腫瘍効果の確認試験からは予想できなかったことであり、ヒトに対して化合物Iとパクリタキセルとを併用投与する場合、パクリタキセルを週1回投与とすると同時に、化合物I又はその塩をパクリタキセル投与の翌日から1日2回、3日間連続で投与し、その後4日休薬するレジメンで、血中球減少等の重篤な副作用がなく、抗腫瘍効果を示せることが判明した。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3