(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】イオン交換材料を有するシリンジアセンブリ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/19 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
A61M5/19
(21)【出願番号】P 2020526246
(86)(22)【出願日】2018-11-16
(86)【国際出願番号】 EP2018081588
(87)【国際公開番号】W WO2019097003
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-10-11
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516291103
【氏名又は名称】スウェディッシュ オーファン バイオビトラム アクティエボラーグ (ペーウーベーエル)
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】フランソン,ヨナス
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0115569(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0225378(US,A1)
【文献】特開2004-256545(JP,A)
【文献】国際公開第2013/188931(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バレル(103、203)と、プランジャ(105、205)と、を備えるプレフィルドシリンジ(101、201)であって、前記バレルが出口(109、209)を有し、前記バレルが非生理的pHを有する薬学的に許容される溶液(113、213)を含み、前記シリンジが、イオン交換材料(111、211、221)であって、前記薬学的に許容される溶液が、前記バレル内に含まれているときに、前記イオン交換材料と接触しないように提供されている、イオン交換材料をさらに含み、前記イオン交換材料が、前記薬学的に許容される溶液が前記バレルから前記出口を介して排出される
時又はその直前に、前記薬学的に許容される溶液との接触を可能にする位置に提供され、前記イオン交換材料が、前記薬学的に許容される溶液との接触時に、前記薬学的に許容される溶液のpHを第1の非生理的pHから第2のpHに調整するように適合され、前記第1の非生理的pHが3~6.6の範囲であり、かつ/または、前記第2のpHが6.6~8.0の範囲であ
り、
前記イオン交換材料が固体多孔性材料を含み、前記固体多孔性材料が、ゼオライト材料及びメソポーラスシリカからなるリストから選択される少なくとも1つの材料を含み、前記薬学的に許容される溶液が薬物を含む、プレフィルドシリンジ。
【請求項2】
前記第2のpHが7.0~8.0の範囲である、請求項1に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項3】
前記第2のpHが7.1~8.0の範囲である、請求項2に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項4】
前記プレフィルドシリンジが、前記バレルからの排出経路に沿った位置に配されたセパレータ(115、215)を備え、前記薬学的に許容される溶液が前記排出経路に沿って前記セパレータの上流に存在し、前記イオン交換材料が、前記排出経路に沿って前記セパレータの下流に提供され、前記セパレータが、第1の状態では、前記薬学的に許容される溶液が前記イオン交換材料と接触するのを防ぐように適合され、第2の状態では、前記薬学的に許容される溶液と前記イオン交換材料との間の流体連通を可能にし、例えば、それらの間の接触を可能にするように適合される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項5】
前記セパレータが、折り畳み可能な液体不透過膜、超疎水性材料、バルブ、ダンパおよびエアポケットから成る群から選択される、請求項4に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項6】
前記シリンジが、前記出口と流体連通して取り付けられた注射針(107、207)を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項7】
前記イオン交換材料(111、221)が、前記針内に含まれる、請求項6に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項8】
前記ゼオライト
材料が、1.5を超えるSiO
2/Al
2O
3モル比、および/または、全ゼオライト重量の10重量%未満のNa
2O含有量を有する、Na
+、H
+および/または
Ca2+が負荷されたアルミノケイ酸塩ゼオライト材料である、請求項
1に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項9】
前記薬学的に許容される溶液が、酸性緩衝溶液を
さらに含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項10】
前記酸性緩衝溶液が、クエン酸緩衝液である、請求項
9に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項11】
前記
薬物が、タンパク質薬物またはペプチド薬物を含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項12】
前記タンパク質
薬物またはペプチド薬物が、IL-1受容体拮抗薬である、請求項
11に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項13】
前記IL-1受容体拮抗薬が、アナキンラである、請求項
12に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項14】
シリンジと流体連通して取り付けられるように適合された針ユニット(222、322)であって、前記針ユニットが、ヒトまたは動物の体内への薬学的に許容される溶液の注射に適合された注射針(207、307)と、イオン交換材料(221、321)と、を備え、前記イオン交換材料が、前記針内に含まれ、前記イオン交換材料が、薬学的に許容される溶液との接触時に、前記薬学的に許容される溶液のpHを第1の非生理的pHから第2のpHに調整するように適合され、前記第1の非生理的pHが、3~6.6の範囲であり、かつ/または、前記第2のpHが、例えば7.0~8.0の範囲、好ましくは7.1~8.0などの、6.6~8.0の範囲であ
り、
前記イオン交換材料が固体多孔性材料を含み、前記固体多孔性材料が、ゼオライト材料及びメソポーラスシリカからなるリストから選択される少なくとも1つの材料を含み、前記薬学的に許容される溶液が薬物を含む、針ユニット。
【請求項15】
前記ゼオライト材料が、1.5を超えるSiO2/Al2O3モル比、および/または、全ゼオライト重量の10重量%未満のNa2O含有量を有する、Na+、H+および/またはCa2+が負荷されたアルミノケイ酸塩ゼオライト材料である、請求項
14に記載の針ユニット。
【請求項16】
請求項1~
13のいずれか一項に記載のプレフィルドシリンジを製造するための方法であって、
a)プランジャ(105、205)およびバレル(103、203)を有するシリンジ(101、201)を提供することであって、前記バレルが内部容積を有する、提供するステップと、
b)前記シリンジに、前記バレルの前記内部容積と流体連通していない位置にイオン交換材料(111、211、221)を提供するステップと、
c)薬学的に許容される溶液(113、213)を前記バレル内に配置するステップと、を含む、方法。
【請求項17】
前記イオン交換材料(111、211)が、前記バレル内に提供されている、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記イオン交換材料(221)が、前記針ユニット(222)内に含まれ、前記ステップb)が、前記針ユニットを前記バレルに接続することを含む、請求項
16に記載の方法。
【請求項19】
前記イオン交換材料が、微粒子状ゼオライト材料であり、ステップb)が、
b-i)前記ゼオライト材料を前記針ユニットの針(207)の内部形状に一致するような形状に焼結することと、
b-ii)前記焼結ゼオライト材料を前記針内に配置することと、を含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記イオン交換材料が、微粒子状ゼオライト材料であり、ステップb)が、
b-i)ゼオライト材料を前記バレルの内部形状に一致するような形状に焼結することと、
b-ii)前記焼結ゼオライト材料を前記バレル内に配置することと、を含む、請求項
17に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、前記バレル内にセパレータ(115、215)を提供するステップをさらに含む、請求項
17~
20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
バレル(303)と、プランジャ(305)と、を備えるシリンジ(301)であって、前記バレルが、非生理的pHを有する薬学的に許容される溶液を含むように適合された内部容積(314)を有し、前記シリンジが、前記バレルの前記内部容積と流体連通しないように前記シリンジ内に提供されたイオン交換材料(311、321)をさらに含み、前記イオン交換材料が、使用時に、前記薬学的に許容される溶液が前記バレルから排出される
時又はその直前に、前記薬学的に許容される溶液との接触を可能にする位置に提供され、前記イオン交換材料が、前記薬学的に許容される溶液との接触時に、前記溶液のpHを第1の非生理的pHから第2のpHに調整するように適合され、前記第1の非生理的pHが、3~6.6の範囲であり、かつ/または、前記第2のpHが、6.6~8.0の範囲であ
り、
前記イオン交換材料が固体多孔性材料を含み、前記固体多孔性材料が、ゼオライト材料及びメソポーラスシリカからなるリストから選択される少なくとも1つの材料を含む、シリンジ。
【請求項23】
前記第2のpHが、7.0~8.0の範囲である、請求項
22に記載のシリンジ。
【請求項24】
前記第2のpHが、7.1~8.0の範囲である、請求項
23に記載のシリンジ。
【請求項25】
前記バレルの出口と流体連通して取り付けられた注射針(307)をさらに備える、請求項
22~
24のいずれか一項に記載のシリンジ。
【請求項26】
前記イオン交換材料(321)が、前記注射針内に提供されている、請求項
25に記載のシリンジ。
【請求項27】
前記ゼオライト材料が、1.5を超えるSiO
2
/Al
2
O
3
モル比、および/または、全ゼオライト重量の10重量%未満のNa
2
O含有量を有する、Na
+
、H
+
および/または
Ca2+
が負荷されたアルミノケイ酸塩ゼオライト材料である、請求項
22~
26のいずれか一項に記載のシリンジ。
【請求項28】
i)請求項1~5または8~12のいずれか一項に記載のプレフィルドシリンジ(201)と、
ii)請求項
14~
15のいずれか一項において定義される針ユニット(222)と、を備える、キット(200’)。
【請求項29】
前記プレフィルドシリンジが、
前記プレフィルドシリンジの前記バレルからの排出経路に沿った位置に配されたセパレータを含
み、
前記薬学的に許容される溶液が前記排出経路に沿って前記セパレータの上流に存在し、前記イオン交換材料が、前記排出経路に沿って前記セパレータの下流に提供され、前記セパレータが、第1の状態では、前記薬学的に許容される溶液が前記イオン交換材料と接触するのを防ぐように適合され、第2の状態では、前記薬学的に許容される溶液と前記イオン交換材料との間の流体連通を可能にし、例えば、それらの間の接触を可能にするように適合される、請求項
28に記載のキット。
【請求項30】
前記薬学的に許容される溶液が、
酸性緩衝溶液および/またはタンパク質薬物あるいはペプチド薬物を含む、請求項
28または
29に記載のキット。
【請求項31】
i)請求項
22~
26のいずれか一項に記載のシリンジ(301)と、
ii)請求項
14~
15のいずれか一項において定義される針ユニット(322)と、を備える、キット(300’)。
【請求項32】
前記シリンジが、
前記バレルからの排出経路に沿った位置に配されたセパレータを備え
、前記薬学的に許容される溶液が前記排出経路に沿って前記セパレータの上流に存在し、前記イオン交換材料が、前記排出経路に沿って前記セパレータの下流に提供され、前記セパレータが、第1の状態では、前記薬学的に許容される溶液が前記イオン交換材料と接触するのを防ぐように適合され、第2の状態では、前記薬学的に許容される溶液と前記イオン交換材料との間の流体連通を可能にし、例えば、それらの間の接触を可能にするように適合される、請求項
31に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジ、特に、薬学的に許容される溶液のpHを調整するためのイオン交換材料と、針ユニットと、プレフィルドシリンジを製造するための方法と、薬学的に許容される溶液のpHを調整するためのイオン交換材料を備えるシリンジと、薬学的溶液の非経口投与のための方法と、薬学的に許容される溶液の非経口投与に関連する痛みを予防するか、回避するか、または軽減するための方法と、プレフィルド針ユニットを備える部品のキットと、シリンジおよび針ユニットを備える部品のキットと、を含む、プレフィルドシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
米国自己免疫関連疾患協会によると、米国だけでおよそ5,000万人が自己免疫疾患を患っている。自己免疫疾患は、正常な体の部位に対する異常な免疫反応から生じる状態として定義され、これらの状態に苦しむ患者の生活に深刻な影響を与える可能性がある。
【0003】
関節リウマチなどのいくつかの自己免疫疾患は、通常、皮下投与されるタンパク質ベースの薬物を使用して治療される。このような薬物は、通常、少なくとも毎日の投与を必要とする。このような薬物の一例は、関節リウマチの治療に使用されるキネレット(登録商標)(アナキンラ)である。このような薬物の皮下投与に関連する1つの一般的な問題は、投与が注射部位での不快感、さらには痛み、および/または患者の皮膚の刺激に関連する可能性があることである。注射の不快感や痛みの原因は数多くあり、複雑である。張度、pH、緩衝液の種類、および緩衝液の強度などの溶液の特性は、注射の不快感に影響を与えることが知られている(例えば、Fransson and Espander-Jansson、1996年、Laursen、2006年)。キネレット(登録商標)(注射用アナキンラ)は、10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6~7)と塩化ナトリウム(140mM)を等張化剤として150mg/mlで配合されている。pH範囲の選択は、長期保存中のアナキンラの最適な安定性を発見することによって推進された。ヒトの体液は、通常、約7.4のpHを有し、より低い非生理的pHを有する溶液の注射は、患者に不快感および、さらには痛みを引き起こし得る。
【0004】
より高い非生理的pHを有する溶液を注射すると、同様に不快感または痛みが生じる可能性がある。
【0005】
したがって、今日の当技術分野では、薬物の注射に関連する痛みを回避するか、または軽減する治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、従来技術の問題のいくつかを緩和するのに有用な注射器具を提供することである。
【0007】
本開示によれば、この目的および他の目的は、本明細書の異なる態様で定義される本発明によって満たされる。
【0008】
したがって、第1の態様によれば、バレルおよびプランジャを備えたプレフィルドシリンジが提供され、バレルは、溶液がバレルから排出され得る出口を有し、バレルは、非生理的pHを有する薬学的に許容される溶液を含む。シリンジは、バレル内に含まれているときに、薬学的に許容される溶液がイオン交換材料と接触しないように提供されている、イオン交換材料をさらに含み、イオン交換材料は、薬学的に許容される溶液がバレルから出口を介して排出されると、薬学的に許容される溶液との接触を可能にする位置に提供されている。
【0009】
本発明は、イオン交換材料を含むプレフィルドシリンジを使用することにより、非生理的pHを有する、薬学的に許容される溶液の注射中に患者が経験する不快感および/または痛みを軽減するか、さらには取り除くことが可能であるという認識に基づいている。イオン交換材料は、許容される保存期間を確保するために薬学的に許容される溶液が保存される第1の非生理的pHから、注射中に発生する不快感および/または痛みが少なくとも緩和される第2のより生理的なpHまで調整することができる。非生理的pHは3~6.6の範囲であり、かつ/または第2のpHは6.6~8.0の範囲である。
【0010】
本明細書で使用するとき、「プレフィルドシリンジ(pre-filled syringe)」は、注射針の有無に関わらず、バレル内に含まれ、薬物または有効成分を任意に含む、薬物または薬学的に許容される溶液を有したシリンジを意味すると理解される。本発明によるプレフィルドシリンジは、患者に注射される溶液を含むためのバレルと、注射される溶液を出口から排出するためのプランジャと、を備える。シリンジは、出口と流体連通している注射針を任意に備える。薬物または薬学的に許容される溶液の例えば皮下、筋肉内または静脈内投与を可能にするために、注射針を患者の体内に挿入することができる。プレフィルドシリンジが針を備えていない場合、バレルは、針が接続され得る接続部を備えてよい。このような接続部が、当業者には知られている。
【0011】
本明細書では、「薬学的に許容される溶液(pharmaceutically acceptable solution)」という用語は、薬学的目的で体内に注射することができる溶液を示す。それは、薬学的溶液を指す場合がある。薬学的に許容される溶液は、タンパク質薬物またはペプチド薬物などの薬物、および任意には、クエン酸緩衝液などの緩衝溶液を含み得る。薬学的に許容される溶液は、薬学的溶液の分野で一般的に使用されるアジュバントをさらに含み得る。このようなアジュバントは当業者に知られている。
【0012】
いくつかの例では、シリンジは任意には、上記出口と流体連通している注射針をさらに含む。本明細書で使用される「注射針(injection needle)」という用語は、患者の組織への薬物の注射または注入での使用に適した任意の針として理解されるものとする。このような針が、当業者には知られている。
【0013】
「非生理的pH(non-physiological pH)」は、本発明によれば、人体内で最も一般的なpH範囲外のpHとして理解される。生理学的pHは、一般的に、7.0~7.8の範囲にあるような、約7.4のpHとして示される。タンパク質薬物またはペプチド含有溶液などのいくつかの薬学的に許容される溶液は、多くの場合、保存期間溶液または薬物自体を増加させるために、薬学的に許容される溶液に非生理的pH、通常、酸性pHを提供する緩衝液を含む。薬学的に許容される溶液は、通常、水溶液である。キネレット(登録商標)(アナキンラ)は、このような薬物の1つである。キネレット(登録商標)は、その保存期間を延ばすために酸性pHを有するクエン酸緩衝液中に提供されている。酸性溶液を患者に注射することは、通常、患者の痛みおよび/または不快感に関連する。
【0014】
本発明による「イオン交換材料(ion exchange material)」は、薬学的に許容される溶液とイオンを交換することができる材料である。好ましくは、イオン交換材料は、イオン交換材料との接触時に溶液のpHを上げるために、薬学的に許容される溶液とH+の陽イオンを交換することができる。例えば、イオン交換材料は、薬学的に許容される溶液のpHを上げるために、溶液からのヒドロニウムまたは水素イオンを、イオン交換材料からのナトリウムイオンまたはカルシウムイオンなどの他の陽イオンに交換することができてもよい。イオン交換材料は、通常、例えばゼオライトなどの多孔性有機または無機材料などの多孔性固体材料である。特に、本発明者は、対イオンとしてCa2+、Na+またはH+を有するゼオライト材料が、薬学的に許容される溶液の望ましいpH変化を生成し得ることを見出した。
【0015】
イオン交換材料は、注射の直前まで薬学的に許容される溶液と接触しないような位置でシリンジ内に提供されている。イオン交換材料は、薬学的に許容される溶液がバレルから出口を介して排出されると、薬学的に許容される溶液との接触を可能にする位置、すなわち、シリンジの操作者(例えば、患者または医学的訓練を受けたスタッフ)が、プランジャをバレルの下方へ押して溶液を排出するときに、薬学的に許容される溶液が、シリンジから排出される前にイオン交換材料に接触するような位置に提供されている。いくつかの例では、イオン交換材料は、バレルからの排出経路に沿った位置に提供されている。
【0016】
薬学的に許容される溶液は、好ましくは、イオン交換材料の上流側のシリンジに提供されている。イオン交換材料は、操作者がシリンジから溶液を排出するのにかかる時間の間、通常、例えば、20~60秒の範囲といった、15~100秒の範囲にあるような、10~120秒の範囲でpHを調整できる必要がある。
【0017】
「接触(contact)」という用語は、イオン交換材料と溶液との間の物理的接触を示すことを意図している。好ましくは、イオン交換材料は多孔性材料である。したがって、例えば、それは、薬学的に許容される溶液が多孔性材料を通って流れることを可能にし、したがって、溶液が多孔性イオン交換材料を通って流れるとき、薬学的に許容される溶液とイオン交換材料との間の接触を提供する。いくつかの例では、薬学的に許容される溶液とイオン交換材料との間に物理的接触が提供されているような方法で、薬学的に許容される溶液がイオン交換材料の横を流れるという接触も提供され得る。
【0018】
本発明の利点は、患者への注射の直前にpHを生理的pHに調整することにより、非生理的pHで溶液を保存し、それを生理的pHで患者に注射することにより得られる利点を組み合わせることができることである。このように、薬学的に許容される溶液の保存期間を延ばすために、シリンジ内に、または後でシリンジを満たすための別の容器内に、低pHで薬学的に許容される溶液を保存すること、および、薬学的に許容される溶液を、非生理的pHを有する溶液の注射に関連する不快感/痛みを緩和することができる調整されたpHで注射することの両方を可能にする投与手段が提供されている。
したがって、本開示によるプレフィルドシリンジは、薬学的に許容される溶液を劣化させることなく、使用前に保存することができる。
【0019】
プレフィルドシリンジは、含まれている薬学的製品を大幅に劣化させることなく、例えば2~8℃程度といった、2~15℃程度の温度などの、2~30℃の温度で、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、16週間、20週間、25週間、30週間、35週間、40週間、45週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、または、1~5年など、それ以上の期間にわたって保存することができる。プレフィルドシリンジは、含まれる薬学的製品を大幅に劣化させることなく、例えば15~30℃といった、例えば10~30℃などの、10℃を超える温度で、少なくとも1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、16週間、20週間、25週間、30週間、35週間、40週間、45週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、または、1~5年もしくは2~5年など、それ以上の期間にわたって保存することもできる。
【0020】
本発明の実施形態では、イオン交換材料は、溶液と接触すると、溶液のpHを第1の酸性pHから第2のpHに調整するように適合され、第2のpHは第1のpHより高い。第1のpHは、通常、より長い保存期間を有する、薬学的に許容される溶液を提供するために、酸性である。第2のpHは、好ましくは生理学的pHか、または少なくとも非生理的溶液の注射に関連する痛みが少なくとも緩和されるpHであり得る。
【0021】
実施形態では、第2のpHは、例えば少なくとも6.7、好ましくは少なくとも6.8、より好ましくは少なくとも6.9など、少なくとも6.6である。溶液のpHを人体の生理学的pHに近い、より高いpHに調整することにより、患者が経験する不快感および/または痛みを緩和することができる。
【0022】
実施形態では、第1の非生理的pHは3~6.6の範囲であり、かつ/または第2のpHは、7.0~8.0、好ましくは7.1~8.0の範囲にあるような、6.6~8.0の範囲である。一例では、薬学的に許容される溶液がキネレット(登録商標)である場合、第1のpHは、6.5であってもよく、第2のpHは、7.0~8.0か、または7.1~8.0の範囲にあるような、少なくとも6.6か、または少なくとも7.0である。より高く、より生理学的なpHでは、低pHを有する溶液の注射に関連する痛みが緩和される。
【0023】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、バレルからの排出経路に沿った位置に提供されている。好ましくは、イオン交換材料は、バレルの出口に隣接する排出経路に沿って提供されている。排出経路は、薬学的に許容される溶液がバレルから排出される間に取る経路として定義される。イオン交換材料が排出経路に提供されている場合、シリンジから出口を介して排出中に、溶液は必然的にイオン交換材料と接触する。イオン交換材料は、好ましくは、プランジャがバレルの下方へ押されるまで溶液と接触しないように、排出経路に沿って提供されている。
【0024】
溶液が時期尚早に、つまり、操作者がプランジャをバレルの下方へ押す前に、イオン交換材料と接触しないことを保証する1つの方法は、薬学的に許容される溶液とイオン交換材料との間の位置にセパレータを提供することである。
【0025】
実施形態では、プレフィルドシリンジは、バレルからの排出経路に沿った位置に配されたセパレータを備え、薬学的に許容される溶液は、上記排出経路に沿って上記セパレータの上流に存在し、イオン交換材料は、上記排出経路に沿ってセパレータの下流に提供されている。セパレータは、第1の状態では、薬学的に許容される溶液がイオン交換材料に接触するのを防ぎ、第2の状態では、薬学的に許容される溶液とイオン交換材料との間の流体連通を可能にして、その間での接触を可能にするなどする。セパレータは、操作者が例えばプランジャをバレルの下方へ押すことによってセパレータを非アクティブ化するまで、実質的に溶液がセパレータを通過できないように構成されるべきである。セパレータは、好ましくは、プランジャがバレルの下方へ押されているときに第2の状態に入ることができる。次に、プランジャは、セパレータに圧力を加えるように、溶液を圧縮する。圧力が臨界レベルに達すると、セパレータは第2の状態に入り、溶液を通過させて、pHを調整してシリンジから溶液を排出できるように、イオン交換材料に接触させる。セパレータの一例は、超疎水性膜または折り畳み可能な膜などの圧力応答膜である。バレルの外側から操作できるバルブ、好ましくはボールバルブなどの他の機構も企図され得る。したがって、プレフィルドシリンジの操作者は、注射の直前にバルブを開くことができる。いくつかの例では、バルブは、特定の圧力閾値が得られた後にのみ、薬学的に許容される溶液とイオン交換材料との間の流体連通を提供する圧力応答バルブである。
【0026】
実施形態では、セパレータは、折り畳み可能な液体不透過膜、超疎水性材料、バルブ、ダンパおよびエアポケットから成る群から選択される。折り畳み可能な液体不透過膜は、溶液に対して不透過性である第1の状態と、膜が折りたたまれ、液体不透過膜が折りたたまれることにより、薬学的に許容される溶液がイオン交換材料と流体連通することを可能にする第2の状態を有し得る。折り畳み可能な液体不透過膜の折り畳みは、バレル内のプランジャの作動により膜に作用する、増大した圧力によって導入される可能性がある。膜が閾値圧力を受けると、膜は折り畳まれる。
【0027】
超疎水性材料は、閾値圧力を受けるまで水性液体に対して不透過性である可能性があり、その時点で水性液体は膜に浸透して、薬学的に許容される溶液と膜の反対側に提供されているイオン交換材料との間の物理的接触を可能にしてもよい。
【0028】
ダンパおよびバルブが、当業者に知られている。ダンパおよびバルブは、シリンジの外側から操作者が操作できる。
【0029】
エアポケットは、バレルの内部形状に適合するバッグまたはバルーン内に含まれてもよい。薬学的に許容される溶液からの圧力が閾値に達するとき、バッグまたはバルーンは壊れ、溶液は薬学的に許容される溶液と流体連通することができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、薬学的に許容される溶液と出口との間のバレルに提供されている。イオン交換材料は、好ましくは、円形断面のシリンジで使用するためのシリンダまたはディスクの形状を有することができる。シリンダまたはディスクの直径は、通常、シリンダまたはディスクがバレルの内周に適合するように選択される。好ましくは、シリンダまたはディスクの直径を含む寸法が、薬学的に許容される溶液の実質的にすべてが、シリンジからの薬学的に許容される溶液の排出中に、イオン交換材料を通過するように選択され得る。シリンダの高さは、例えば3~10mmの範囲にあるような、10mm未満などの15mm未満であり得る。
【0031】
「シリンダ(cylinder)」という用語は、実質的に円筒形の物体も示すものとする。
【0032】
いくつかの実施形態では、シリンジは、上記出口と流体連通して取り付けられた注射針を備える。
【0033】
本明細書に開示される実施形態では、イオン交換材料は、上記針内に含まれている。イオン交換材料は、針の内部形状に適合するような形状を有することができる。イオン交換材料は、この形状を達成し、かつ/または維持するために焼結されてもよい。好ましくは、イオン交換材料は、放電プラズマ焼結され得る。
【0034】
いくつかの例では、イオン交換材料は、雌ルアーコーンカニューレハブに含まれている。イオン交換材料は、雌ルアーカニューレハブの内部形状に適合するような形状を有することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料はゼオライト材料を含む。イオン交換材料として作用することができる多くのゼオライト材料が当業者に知られている。ゼオライト材料はマイクロポーラス細孔系を有している。メソポーラスおよびマイクロポーラス細孔系ならびに階層的細孔系も企図され得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、ゼオライト材料は、1.5を超えるSiO2/Al2O3モル比、および/または、全ゼオライト重量の10重量%未満のNa2O含有量を有するNa+、H+および/またはCa2+などの陽イオンが負荷されたアルミノケイ酸塩ゼオライト材料である。好ましくは、アルミノケイ酸塩ゼオライト材料は、Na+および/またはCa2+を負荷され得る。ゼオライト材料には、複数の種類の対イオンが負荷されている場合がある。本開示において、ゼオライト材料は、好ましくは、陽イオンを負荷される。本発明者らは、意外なことに、Na+、H+および/またはCa2+イオン、好ましくはNa+および/またはCa2+を負荷したゼオライト材料を使用して、非生理的pHを有する、薬学的に許容される溶液のpHを注射により痛みが少なくなるpHに迅速に調整した。本発明者らはさらに、好ましくは、1.5~100など、1.5~1000の範囲にあるような、1.5を超えるなどの、1を超えるSiO2/Al2O3のモル比が、特に有利であることを見出した。また、ゼオライト材料中のナトリウム含有量は、例えば全ゼオライト重量の10重量%未満など、全ゼオライト重量の15重量%未満であることが、薬学的に許容される溶液のpHの迅速な調整を提供するという点で有利であることが見出された。特に、本発明者は、対イオンとしてCa2+、Na+またはH+を有するゼオライト材料が、薬学的に許容される溶液の望ましいpH変化を生成し得ることを見出した。
【0037】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料はメソポーラスシリカを含む。メソポーラスシリカは、メソポーラス二酸化ケイ素である。メソポーラスシリカは、そのイオン交換特性を向上させるために、官能化することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料はポリスチレン材料を含む。ポリスチレン材料は、好ましくは、薬学的に許容される溶液のpHを調整することができるように官能化され得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、メソポーラスシリカおよびポリスチレン材料から選択される材料を含む。
【0040】
薬学的に許容される溶液は、水溶液であってもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される溶液は、クエン酸緩衝液などの酸性緩衝溶液を含む。クエン酸緩衝液は、許容される保存期間を提供するために、薬学的に許容される溶液のpHを低下させることができる。例えばキネレット(登録商標)などのいくつかの薬学的溶液は、生理学的pHと比較して、酸性環境においてより長い保存期間を示す。
【0042】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される溶液は、タンパク質薬物またはペプチド薬物を含む。タンパク質薬物は、一般的に、有効成分として少なくとも1つのタンパク質を含む薬物として理解されるべきである。ペプチド薬は、一般的に、有効成分として少なくとも1つのペプチドを含む薬として理解されるべきである。タンパク質薬物およびペプチド薬物は自己免疫疾患の治療に一般的に使用される。タンパク質薬物およびペプチド薬物は、生理的pHでの保存期間が短い場合がある。したがって、それらの保存期間を延ばすために、それらを低pHで保存することが有利である。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態では、タンパク質またはペプチド薬物は、アナキンラなどのIL-1受容体拮抗薬である。IL-1受容体拮抗薬、特にキネレット(登録商標)(アナキンラ)は、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療に有用であることが示されている。キネレット(登録商標)は、その保存期間を延ばすためにクエン酸緩衝液中に提供されている。キネレット(登録商標)のpHは6.5程度である。したがって、キネレット(登録商標)の皮下注射は、一般的に、患者の不快感や痛みに関連している。本発明のプレフィルドシリンジの1つの利点は、患者への注射の直前にキネレット(登録商標)のpHを上げて、このような不快感および/または痛みを緩和できることである。
【0044】
さらなる態様によれば、非生理的pHを有する薬学的に許容される溶液のpHを調整するための方法が提供され、この方法は、
a)薬学的に許容される溶液およびイオン交換材料を含む、本発明の第1の態様によるシリンジを提供するステップと、
b)薬学的に許容される溶液をイオン交換材料と接触させることにより、溶液のpHを第1の酸性pHから第2のpHに上げるステップと、を含む。
【0045】
本発明者らは、本発明のこの態様の方法を使用することにより、プレフィルドシリンジの保存寿命を延ばすために、薬学的に許容される溶液のpHをシリンジ内の第1のpHに維持できることを見出した。薬学的に許容される溶液をイオン交換材料と接触させると、薬学的に許容される溶液のpHを第2のpHに上げることができる。例えばキネレット(登録商標)などの薬学的に許容される溶液を、保持することによって、保存中の低pHでそれらの保存期間を数回延長することができる。しかしながら、低いpHを有する薬学的に許容される溶液を患者に注射することは、通常、患者の不快感および/または痛みと関連している。本発明の第2の態様による方法は、注射の直前に溶液のpHを第2のpHに上げることを可能にする。第2のpHは第1のpHよりも高く、第1のpHよりも生理的pHに近いはずである。したがって、酸性pHの溶液の注射によって引き起こされる痛みおよび/または不快感に関連する問題を緩和することができる。同時に、第1の酸性pHで薬学的に許容される溶液を保存することの利点を維持できる。薬学的に許容される溶液をイオン交換材料と接触させるステップは、薬学的に許容される溶液がシリンジから排出される直前に行なわれてもよい。イオン交換材料は、操作者がシリンジから溶液を排出するのにかかる時間の間にpHを調整できる必要があるが、これは通常、20~60秒の範囲といった、15~100秒の範囲にあるような、10~120秒の範囲である。場合によっては、5~15秒かかることがある。
【0046】
この方法を実行するために使用されるシリンジは、本発明の第1の態様で開示されたシリンジである。シリンジは、そこに開示されている実施形態のいずれか1つによって定義されてもよい。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、ステップb)は、プランジャをシリンジのバレルの下方へ押すことをさらに含む。プランジャをバレルの下方へ押すことにより、薬学的に許容される溶液がイオン交換材料と接触する。ステップb)は、患者自身または医師または親などの別の操作者によって行なわれてもよい。
【0048】
本発明の実施形態では、方法は、c)シリンジから薬学的に許容される溶液を排出するさらなるステップを含む。
バレルをプランジャの下方へ押すと、薬学的に許容される溶液がシリンジ出口に向かって押し出され、シリンジから排出される。
【0049】
さらなる態様では、非経口投与を必要とする患者への薬学的に許容される溶液を非経口投与する方法が提供され、この方法は、
a)薬学的に許容される溶液およびイオン交換材料を含む本発明によるシリンジを提供するステップと、
b)例えば、プランジャをバレルの下方へ押すことにより、溶液をイオン交換材料と接触させ、それにより溶液のpHを第1の非生理的pHから第2のpHに上げるステップと、
c)患者に溶液を注射するか、または注入するこステップと、を含む。
【0050】
いくつかの例では、ステップb)は、イオン交換材料を溶液と接触させることを含む。
【0051】
この方法には、いくつかの利点がある。第一に、それにより、患者への注射または注入前に、非生理的pHを有する、薬学的に許容される注射に関連する不快感および/または痛みを緩和することができるように、薬理学的に許容される溶液のpHを非生理的pHから第2の生理的pHに上げることが可能になる。第二に、それにより、溶液の保存期間を延ばすために、薬学的に許容される溶液が非生理的pHで保存されることが可能になる。
【0052】
「非経口投与(parental administration)」という用語が、当業者に知られている。好ましくは、非経口投与は、皮下注射である。非経口投与はまた、筋肉内または静脈内であってもよい。
【0053】
この方法は、好ましくは、患者自身によって、または、医師もしくは他の医学的訓練を受けた人によって行なわれる。この方法は、非生理的pHを有する溶液を体内に注射するときに通常経験される不快感を緩和することによって、自己投与を容易にするため、患者によって行われる場合に特に有利であり得る。不快感が少ないと、患者は投与を中断するか、または治療を中止する気になりにくくなる。
【0054】
「注射(injecting)」および「注入(infusion)」という用語は、本開示では互換的に使用され得る。両方とも、患者の体内への薬学的に許容される溶液の導入を示すことを意図している。
【0055】
別の態様では、患者において、非生理的pHを有する緩衝液を含む薬学的に許容される溶液の非経口投与に関連する痛みを予防するか、回避するか、または軽減する方法が提供され、この方法は、
a)薬学的に許容される溶液およびイオン交換材料を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載のシリンジを提供するステップと、
b)プランジャをバレルの下方へ押すことにより、溶液をイオン交換材料と接触させ、それにより、溶液のpHを非生理的pHから第2のpHに上げるステップと、
c)患者に溶液を注射するか、または注入するステップと、を含む。
【0056】
さらに別の態様では、本発明によるプレフィルドシリンジを製造する方法であって、
a)プランジャおよびバレルを有するシリンジを提供することであって、バレルが内部容積を有する、提供するステップと、
b)シリンジにバレルの内部容積と流体連通していない位置でイオン交換材料を提供するステップと、
c)上記バレル内に薬学的に許容される溶液を配置するステップと、を含む方法が提供されている。
【0057】
プランジャおよびバレルを備えたシリンジが、当業者に知られている。シリンジは、出口、および任意には針をさらに含み得る。
シリンジにバレルの内部容積と流体連通していない位置でイオン交換材料を提供するステップは、いくつかの方法で達成することができる。一例では、それは、シリンジの出口付近で、シリンジのバレル内にイオン交換材料を提供し、イオン交換材料の上流でバレル内にセパレータを配置することによって達成され得る。イオン交換材料は、シリンジの内部形状に適合するような形状を有してもよく、バレルの断面積の少なくとも実質的な部分を満たすプラグを形成してもよい。好ましくは、イオン交換材料は実質的に円筒形の形状を有する。さらに、セパレータは、プランジャがバレルの下方へ押される前に、流体がイオン交換体材料に接触するのを防ぐように配置される。セパレータは、通常、バレルの内部形状に適合し、バレルの断面積を満たすプラグを形成して、セパレータによって互いに密閉された2つの区画を形成するような形状を有する。好ましくは、製造中、薬学的に許容される溶液を含むように意図されたバレルの区画または部分から、イオン交換材料を密閉するようにセパレータが位置付けられる前に、イオン交換材料がバレル内に配される。イオン交換材料をシリンジ内に配するステップ、および、セパレータをシリンジ内に配するステップの両方は、当業者に知られている従来の手段によって、手動で、または自動プロセスで行うことができる。
【0058】
続いて、薬学的に許容される溶液が、イオン交換材料の上流でバレル内に配置され、セパレータが提供されている場合は、セパレータの上流に配置される。薬学的に許容される溶液は、プレフィルドシリンジの操作者がプランジャをバレルの下方へ押すまで、イオン交換材料と接触しないように配置される。
【0059】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、針ユニット内に含まれ、ステップb)は、上記針ユニットをバレルに接続することを含む。好ましくは、イオン交換材料は、針ユニットの内部形状に適合するような形状を有する。イオン交換材料は、手動手段または自動手段などの当業者に知られている手段によって針内に配置することができる。
【0060】
実施形態において、イオン交換材料は、微粒子状ゼオライト材料であり、ステップb)は、b-i)ゼオライト材料を、針ユニットの針の内部形状に一致するような形状に焼結するステップと、b-ii)焼結ゼオライト材料を針内に配置するステップと、を含む。ゼオライト材料を特定の形状に焼結することが、当業者に知られている。
【0061】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、微粒子状ゼオライト材料であり、ステップb)は、b-1)ゼオライト材料をバレルの内部形状に適合するような形状に焼結することと、b-ii)焼結ゼオライト材料をバレル内に配置することと、を含む。
【0062】
焼結ゼオライト材料の形状がバレルおよび/または針の内部形状「に適合する(conforms to)」ことは、焼結ゼオライト材料の形状が、バレルおよび/または針の内部形状と一致し、その中に位置付けられ、本明細書に開示されるようなイオン交換材料として機能することを示す。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態では、方法は、b1)バレル内にセパレータを提供するステップをさらに含む。セパレータは、好ましくは、本発明の第1の態様に関連して上に開示されたセパレータなどのセパレータであり得る。
【0064】
さらなる態様において、バレルおよびプランジャを備えたシリンジが提供され、バレルは、非生理的pHを有する薬学的に許容される溶液を含むように適合された内部容積を有し、シリンジは、薬学的に許容される溶液を含むように適合されたバレルの内部容積と流体連通しないように、シリンジ内に提供されているイオン交換材料をさらに含み、イオン交換材料は、使用時に、薬学的に許容される溶液がバレルから出口を介して排出されると、薬学的に許容される溶液との接触を可能にする位置に、提供されている。
【0065】
本発明者らは、バレルの内部容積と流体連通しないようにイオン交換材料を含むシリンジを提供し、イオン交換材料が、薬学的に許容される溶液がバレルから出口を介して排出されると、薬学的に許容される溶液との接触を可能にする位置に提供されていることにより、シリンジを使用して、薬学的に許容される溶液のpHを第1の非生理的pHから第2の生理学的pHに調整することができることを認識した。第1のpHは3~6.6の範囲であり、かつ/または、第2のpHは6.6~8.0の範囲である。
【0066】
シリンジは、そのバレル内に薬学的に許容される溶液を収容するように適合されている。シリンジを使用して患者に溶液を注射する前に、シリンジを操作する患者または医師は、イオン交換材料の上流にある薬学的に許容される溶液でバレルを満たす。プランジャがバレルの下方へ押されると、薬学的に許容される溶液がバレルの下流に押し出され、イオン交換材料に接触する。イオン交換材料と接触すると、溶液のpHは、第1の非生理的pHから第2の生理学的pHに調整され得る。
【0067】
実施形態では、シリンジは、本明細書に記載されるようなセパレータをさらに含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、シリンジは、バレルの出口と流体連通して取り付けられた注射針をさらに含む。注射針は、例えば皮膚組織に貫通することによる、患者への薬学的に許容される溶液の注射に使用するのに適した任意の針であってもよい。このような針が、当業者に知られている。いくつかの例では、イオン交換材料が針内に提供されている。
【0069】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、薬学的に許容される溶液と接触すると、本明細書に記載されるように溶液のpHを調整するように適合される。
【0070】
実施形態では、薬学的に許容される溶液は、本明細書に記載されるような薬学的に許容される溶液である。
【0071】
本発明のさらなる態様では、
i)バレルおよびプランジャを備えたプレフィルドシリンジであって、バレルが出口を有し、非生理的pHの薬学的に許容される溶液を含む、プレフィルドシリンジと、
ii)注射針およびイオン交換材料を備えた針ユニットであって、針ユニットが、プレフィルドシリンジに取り付けられて、上記出口と流体連通し、針を介して薬学的に許容される溶液の排出を可能にするように適合され、イオン交換材料が、針を介して薬学的に許容される溶液が排出されると、薬学的に許容される溶液と接触するように配されている、針ユニットと、を備える、キットが提供されている。
【0072】
キットは、部品で提供され、注射の直前に、針ユニットをプレフィルドシリンジに装着することにより、操作者が組み立てることができる。キットが注射の直前に組み立てられるように適合されている場合、プレフィルドシリンジは、薬学的に許容される溶液を時期尚早に防ぐためにセパレータを必要としない。針ユニットがシリンジに取り付けられるとすぐに、シリンジは、その中に含まれる薬学的に許容される溶液を注射するために使用される準備ができる。キットは、好ましくは、患者または医師によって組み立てられる。針ユニットは、好ましくは、バレルの出口での接続部によってシリンジに取り付けられてもよく、バヨネットマウントまたはねじマウントなど、当業者に知られている任意の接続部であり得る。
【0073】
しかしながら、いくつかの実施形態では、プレフィルドシリンジは、本明細書で説明されるようなセパレータなどのセパレータをさらに備え得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、薬学的に許容される溶液と接触すると、本明細書に記載されるように溶液のpHを調整するように適合されている。
【0075】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される溶液は、本明細書に記載されるとおりである。
【0076】
さらに別の態様では、
i)バレルと、プランジャと、を備えるシリンジであって、バレルが、非生理的pHの薬学的に許容される溶液を含むように適合された内部容積を有する、シリンジと、
ii)本明細書で定義される針ユニットと、を備える、キットが提供されている。
【0077】
いくつかの実施形態では、プレフィルドシリンジは、本明細書で定義されるセパレータを含む。
【0078】
さらに別の態様では、注射針およびイオン交換材料を備える針ユニットが提供され、イオン交換材料が注射針内に含まれる。
【0079】
針ユニットは、好ましくは、シリンジと流体連通して取り付けられるように適合され、針ユニットは、ヒトまたは動物の体内への薬学的に許容される溶液の注射に適合した注射針と、イオン交換材料と、をさらに含み、針にはイオン交換材が含まれている。
【0080】
針ユニットは、好ましくは、プレフィルドシリンジに取り付けられるように適合されている。イオン交換材料は、好ましくは、針の内部形状に適合し、針の断面積を満たすように、注射針内に含まれる。
【0081】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、薬学的に許容される溶液と接触すると、本明細書に記載されるようにpHを調整するように適合され得る。
【0082】
いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、本明細書に記載されるようなゼオライト材料であってもよい。
【0083】
本発明は、特許請求の範囲に記載された特徴のすべての可能な組み合わせに関することに留意されたい。
【0084】
上記および他の特徴は、以下の図および詳細な説明によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
本発明は、以下の図面に示されるような例示的な実施形態を参照することにより、以下に詳細に説明される。
【
図1a-1b】それぞれが、本発明の実施形態によるプレフィルドシリンジを概略的に示す。
【
図2a-2b】それぞれが、本発明の実施形態によるシリンジを備えるアセンブリを概略的に示す。
【
図3a-3b】それぞれが、本発明の他の実施形態によるシリンジを備えるアセンブリを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0086】
次に、本発明の現在好ましい実施形態が示されている添付の図面を参照して、本発明を以下でより十分に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具現化されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、徹底性および完全性のために提供され、当業者に本発明の範囲を十分に伝える。図に示されているように、層および領域のサイズは、例示の目的で誇張されている場合があり、したがって、本発明の実施形態の一般的な構造を示すために提供されている。同じ要素には同じ番号が付けられる。
【0087】
図1a~1bは、本発明の実施形態によるプレフィルドシリンジ101の考えられる異なる実施形態の概略図である。
図1aでは、プレフィルドシリンジ101は、実質的に円筒形のバレル103およびプランジャ105を有するものとして示されている。この実施形態のプレフィルドシリンジには、バレル103の出口109に固定された注射針107がさらに提供されている。この実施形態では、イオン交換材料111は、プランジャ105とバレル103の出口109との間の出口経路に提供されたバレル103内に含まれる。この実施形態では、イオン交換材料111は、多孔性シリンダの形状を有する。薬学的に許容される溶液113は、バレル103内に含まれる。セパレータ115、例えば、圧力応答性セパレータもまた、バレル103内で、薬学的に許容される溶液113とイオン交換材料111との間に含まれ、シリンジ101から薬学的に許容される溶液111を排出するために、プランジャ105がバレル103の下方に押される前に、薬学的に許容される溶液113がイオン交換材料111に接触するのを防ぐ。イオン交換材料111は、薬学的に許容される溶液が排出されると、シリンジ内に保持されるように配される。
【0088】
イオン交換材料111は、通常、バレル内のセパレータ115の下流に提供されている。イオン交換材111およびセパレータ115は、互いに隣接していてもよい。イオン交換材料111は、セパレータ115よりも大きな質量を有し得る。セパレータ115は、例えば、プランジャ105がバレル103の下方へ押され、かつ/またはセパレータが非アクティブ化されて、その時点で薬学的に許容される溶液113がイオン交換材料111と接触することが可能になるまで、薬学的に許容される溶液とイオン交換材料との時期尚早な接触を防止する限り、任意の形状および形態であってもよい。
【0089】
実施形態では、プレフィルドシリンジ101は、注射針107を備えなくてもよい。代わりに、プレフィルドシリンジ101は、別個に提供されている注射針に接続されるように適合されてもよい。接続部は、好ましくは、出口109で提供され、バヨネットマウントまたはねじマウントなど、当業者に知られている任意の接続部であり得る。
【0090】
バレル103内に含まれる薬学的に許容される溶液113は、一般的に、非経口投与を意図しており、非生理的pH、特に酸性pHを有し得る。溶液113は、その中に含まれる任意の薬物またはタンパク質薬物もしくはペプチド薬物などの活性化合物を含む、溶液113の保存期間を延ばすために、低いpHを有し得る。使用中、医学的訓練を受けた人または患者自身であってもよい操作者は、プランジャ105をバレル103に押し下げて、薬学的に許容される溶液113をバレル103からの排出経路に沿って押して、イオン交換材料111に接触させる。イオン交換材料111は製造業者によって選択され、イオンを薬学的に許容される溶液113と交換して、必要に応じて溶液のpHの増減を提供し、薬学的に許容される溶液113のpHをより生理学的なpH(すなわち、pH7程度)へと調整することができる。したがって、イオン交換材料111と接触すると、薬学的に許容される溶液113の非生理的pHは、より生理的なpHに調整され、シリンジ101から排出され、患者に注射されると、溶液のpHは生理学的pHに近くなる。
【0091】
図1bは、実質的に円筒形のバレル103およびプランジャ105を有するものとして示されている、プレフィルドシリンジ101の代替的な実施形態を示している。この実施形態では、プレフィルドシリンジ101には、バレル103の出口109に固定された注射針107がさらに提供されている。この実施形態では、イオン交換材料111が注射針107内に含まれる。イオン交換材料は、薬学的に許容される溶液が排出されると、針内に保持されるように配された材料として提供されてもよい。シリンジにはさらに、バレル103内に含まれる薬学的に許容される溶液113が提供されている。薬学的に許容される溶液113は、セパレータ115によって針107内のイオン交換材料111と時期尚早に接触することを妨げられる。この実施形態では、セパレータを省略することも可能であり得る。
【0092】
イオン交換材料を含むことができる任意の種類のシリンジが、本発明の範囲内で企図され得る。
【0093】
実施形態では、プランジャが排出経路の方向で下流に押される前に、薬学的に許容される溶液はイオン交換材料と接触しない。これを達成するために、シリンジはセパレータを備え得る。セパレータは、薬学的に許容される溶液がイオン交換材料と接触するのを防ぐ第1の状態と、薬学的に許容される溶液がセパレータを通過するか、または通り過ぎてイオン交換材料と接触することを可能にする第2の加圧状態と、を有することができる。第2の加圧状態は、プランジャが下流に押されてバレルの排出経路に沿って薬学的に許容される溶液を押すときに導入され得る。セパレータは、イオン交換材料が薬学的に許容される溶液のpHを時期尚早に調整することを防ぐ。
【0094】
この状態は、膜の折り畳みによって導入することができる。エアポケットなど、同じ一般的な原理の後に機能する他の圧力応答セパレータも企図され得る。エアポケットは、空気で満たされたバッグまたはバルーンであり得る。バッグまたはバルーンは、内部形状に適合し、バレルの断面積を満たし、断面積を満たし得る。特定の圧力閾値が得られた後、バッグまたはバルーンが壊れ、溶液が通り過ぎてイオン交換材料と接触することを可能にする。また、イオン交換材料が、特定の圧力閾値が得られるまで流体に対して不透過性である疎水性材料などのセパレータ材料でコーティングされている解決策も企図されている。圧力閾値は、プランジャがバレルの下方へ押されているときに取得される。セパレータはまた、シリンジの外部から制御され得るバルブまたはダンパであり得る。
【0095】
イオン交換材料は、好ましくは、薬学的に許容される溶液に対して透過性であるべきである。イオン交換材料はさらに、接触すると、薬学的に調整可能な溶液のpHを調整できなければならない。イオン交換材料は、好ましくは、薬学的に許容される溶液のpHを第1の酸性pHから第2のpHに調整できなければならず、第2のpHは第1のpHよりも高い。実施形態では、第2のpHは少なくとも6.6である。第1の酸性pHは、3~6.6の範囲であってもよく、第2のpHは、7.0~8.0、または7.1~8.0の範囲にあるような、少なくとも6.6、または少なくとも7.0である。
【0096】
pH調整を達成するために、イオン交換材料は、Na+、H+、および/またはCa2+、好ましくはNa+および/またはCa2+のような陽イオンを負荷され得る。他の陽イオンも企図され得る。好ましくは、陽イオンは、+1または+2の価数を有する。pH調整の機構は、通常、イオン交換であってよく、その機構は当業者に知られている。簡単に言えば、イオン交換は、溶液中に存在するH+イオンが、イオン交換材料によってNa+および/またはCa2+などの別のカチオン、またはイオン交換材料中に存在する他のイオンに交換されるという原則に基づいている。したがって、溶液のpHを上げることができる。特に、本発明者は、対イオンとしてCa2+、Na+またはH+を有するゼオライト材料が、薬学的に許容される溶液の望ましいpH変化を生成できることを見出した。
【0097】
薬学的に許容される溶液とイオン交換材料との間の接触の持続時間は、通常の使用中に、プランジャを使用してシリンジから溶液を排出するのにかかる時間に対応し得る。このような接触は、pHを調整するのに十分であるかもしれない。キネレット(登録商標)の典型的な注射の持続時間は、10~80秒、好ましくは20~60秒の範囲のような、10~100秒の範囲である。
【0098】
イオン交換材料は、無機多孔性材料などの多孔性材料であってもよい。いくつかの実施形態では、イオン交換材料は、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩材料であってもよい。
【0099】
ゼオライト材料は、通常、好ましくは1.5~1000の範囲にあるような、1.5を超えるなどの、1を超えるシリカ/アルミナ比を有することができる。また、1.5~500の範囲にあるような、1.5~800の範囲であってもよい。
【0100】
好ましくは、ゼオライト材料は、例えば全ゼオライト重量の、15重量%未満、好ましくは10重量%未満であるような、20重量%未満のナトリウム含有量を有する。
【0101】
ゼオライト材料は、本発明の実施形態では、微孔性ゼオライトであってもよい。マイクロポーラスという用語は、ゼオライト材料の細孔径が2nm未満であることを示している。メソポーラス(2nm~50nmの細孔径)およびマイクロポーラス(50nmより大きい細孔径)などの他の細孔系も企図され得る。
【0102】
Zeoflair、フォージャサイトおよびゼオライトYの名称で市販されているゼオライトなど、いくつかの異なるゼオライトが企図され得る。
【0103】
メソポーラスシリカなどの他のイオン交換材料も企図され得る。メソポーラスシリカは、イオン交換特性を改善するために任意に官能化されてもよい。
【0104】
イオン交換材料は、ポリスチレン材料などのポリマーを含み得る。ポリスチレン材料は、通常、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムまたはポリAMPSなどのスルホン酸基を含む強酸性などの酸性であり得る。ポリスチレン材料はまた、弱酸性であり得、通常、カルボン酸基を含む。
【0105】
いくつかの例では、塩基性ポリスチレンも企図され得る。塩基性ポリスチレンは、第四級アミノ基、例えば、トリメチルアンモニウム基、例えば、ポリAPTAC)を含むポリスチレンのような強塩基性ポリスチレンであり得る。ポリスチレンはまた、弱塩基性であってもよく、通常、特徴的な一級、二級、および/または三級アミノ基、例えばポリエチレンアミン基を含む。
【0106】
イオン交換材料がシリンジのバレルに含まれる実施形態では、イオン交換材料は、プラグの形状などのシリンダの形状を有することができる。シリンダの直径は、通常、プラグがバレルの内周に適合し、バレルの断面積を満たすように選択される。好ましくは、シリンダの直径を含む寸法は、シリンジからの薬学的に許容される溶液の排出中に、薬学的に許容される溶液の実質的にすべてがイオン交換材料を通過するように選択され得る。シリンダの高さは、3~10mmの範囲にあるような、10mm未満などの、15mm未満であり得る。シリンダの高さは、好ましくは、シリンジ内の薬学的に許容される溶液の容量にほぼ比例する。薬理学的に許容できる溶液の量が多い場合は、より高さのあるシリンダが必要になることがある。
【0107】
イオン交換材料シリンダは、放電プラズマ焼結などの焼結によって製造することができる。当業者に知られている他の焼結技術も企図され得る。
【0108】
イオン交換材料は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの多孔性ポリマーマトリックスに含まれていてもよい。
【0109】
本発明の薬学的に許容される溶液は、クエン酸緩衝液などの酸性緩衝液を含み得る。酸性緩衝液を使用する理由は、酸性pHが溶液の安定性、特に溶液に含まれる薬学的活性剤の安定性を改善する可能性があることであり、これは保存期間を延ばすのに有用である。投与中、特に皮下投与中、酸性緩衝液を含む薬学的に許容される溶液は、刺激および痛みを引き起こし得る。注射直前に溶液のpHを調整することにより、患者が経験する痛みおよび/または刺激を劇的に軽減することができる。しかしながら、溶液の安定性は、非生理的pHの緩衝液で提供されていることに依存することが多いため、溶液のpHを時期尚早に調整しないことが重要である。
図1aおよび1bは、溶液が時期尚早にイオン交換材料に接触するのを防ぐ方法の2つの例を示している。
【0110】
薬学的に許容される溶液は、タンパク質薬物またはペプチド薬物などの生物学的薬物を含み得る。いくつかの実施形態では、タンパク質薬物は、アナキンラなどのIL-1受容体拮抗薬(IL-1ra)であり得る。アナキンラは関節リウマチの治療に使用される薬物であり、毎日皮下投与する必要がある。保存期間を延ばすことができるように溶液の安定性を増すために、アナキンラを酸性緩衝液で提供することができる。しかしながら、本発明の実施形態による薬学的に許容される溶液に含まれる薬物は、ステロイドなどの有機小分子などの非タンパク質薬物であり得ることも企図される。したがって、本明細書に記載のシリンジでの使用を目的とする薬物または薬学的活性剤の種類は、非経口投与に適した液体組成物として配合できること、および、(例えば、保存期間の安定性に関して)溶液中の非生理的pHから利益を得ることを除いて、特に限定されない。
【0111】
したがって、本発明のシリンジは、非生理的pHを有する任意の注射可能な薬学的溶液と共に使用されることが意図され得る。
【0112】
本発明によるプレフィルドシリンジは、バレルおよびプランジャを有するシリンジにバレル内の位置にイオン交換材料を提供し、上記バレル内に薬学的に許容される溶液を配置することによって製造することができる。イオン交換材料は、好ましくは、イオン交換材料の前にシリンジ内に配置される。好ましくは、イオン交換材料をシリンジ内に配置し、その後、バレルが薬学的に許容される溶液で満たされる前に、シリンジを滅菌する。イオン交換材料は、薬学的に許容される溶液の下流に配置する必要がある。
【0113】
注射針内にイオン交換材料を配することも企図され得る。イオン交換材料は、溶液がシリンジから排出される前に、薬学的に許容される溶液がイオン交換材料と接触するような任意の方法でシリンジ内に提供されてもよい。好ましくは、イオン交換材料は、針の内部形状に適合する形状に焼結される。
【0114】
図2aは、本発明によるキットの概略図である。キット200は、プレフィルドシリンジ201および針ユニット212(「注射針ユニット(injection needle unit)」とも呼ばれる)を含む。プレフィルドシリンジ201は、バレル203およびプランジャ205を備える。バレル203内には、薬学的に許容される溶液213が含まれる。薬学的に許容される溶液の下流には、イオン交換材料が提供されている。バレル203は、薬学的に許容される溶液213の排出を可能にするように適合された出口209をさらに備える。出口209には、好ましくは、針ユニット212を出口209に取り付けることを可能にする接続部が提供される。バレル203はさらに、薬学的に許容される溶液213とイオン交換材料211との間にセパレータ215を含む。
【0115】
針ユニット212は、注射針207を備える。針ユニット212は、プレフィルドシリンジ201に、好ましくはバレルの出口209の接続部に取り付けられるように適合されている。このような接続部は、当業者に知られており、ねじマウントおよびバヨネットマウントを備える。接続部は、バレル203と針ユニット212との間の流体連通を可能にするはずである。
【0116】
図2bは、本発明によるキットの概略図である。キット200’は、プレフィルドシリンジ201および針ユニット222(「注射針ユニット(injection needle unit)」とも呼ばれる)を備える。プレフィルドシリンジは、バレル203およびプランジャ205を備える。バレル203内には、薬学的に許容される溶液213が含まれる。バレル203は、薬学的に許容される溶液213の排出を可能にするように適合された出口209をさらに備える。出口209は、好ましくは、針ユニット222を出口209に取り付けることを可能にする接続部を備える。バレル203は、出口209と薬学的に許容される溶液213との間にセパレータ215をさらに含む。
【0117】
図2bの針ユニット222は、注射針207およびイオン交換材料221を備える。針ユニット222は、プレフィルドシリンジ201に、好ましくはバレルの出口の接続部に取り付けられるように適合されている。このような接続部は、当業者に知られており、ねじマウントおよびバヨネットマウントを備える。接続部は、バレル203と針ユニット222との間の流体連通を可能にするべきである。イオン交換材料221は好ましくは針207内に含まれ、針207を介して排出されると、薬学的に許容される溶液213の排出時に薬学的に許容される溶液213とイオン交換材料221との間の接触を提供する。イオン交換材料221は、イオン交換材料221と薬学的に許容される溶液213が接触すると、薬学的に許容される溶液213のpHを非生理的pHから生理学的pHに調整できなければならない。
【0118】
プレフィルドシリンジおよび注射針ユニットは、
図1aおよび1bに関連して説明した要素を任意に備えることができる。
【0119】
図3aは、本発明の実施形態によるさらに別のキットを概略的に示す。キット300は、シリンジ301および注射針ユニット312を備える。プレフィルドシリンジは、バレル303およびプランジャ305を備えている。バレル内には、イオン交換材311が提供されている。バレル303は、薬学的に許容される溶液313の排出を可能にするように適合された出口309をさらに備える。出口309は、好ましくは、針ユニット312を出口309に取り付けることを可能にする接続部を備える。
【0120】
注射針ユニット312は、針307を備える。針ユニット307は、シリンジ301に、好ましくはバレルの出口309の接続部に取り付けられるように適合されている。このような接続は、当業者に知られており、ねじマウントおよびバヨネットマウントを備える。接続部は、バレル303と針ユニット307との間の流体連通を可能にするべきである。
【0121】
キットは、すなわち注射針ユニット312をシリンジ301に接続することによって組み立てられるように、かつ薬学的に許容される溶液の注射の直前にバレル303に薬学的に許容される溶液を提供されるように適合される。
【0122】
図3bは、本発明の実施形態による別のキットを概略的に示す。キット300’は、プレフィルドシリンジ301および注射針ユニット322を含む。プレフィルドシリンジは、バレル303およびプランジャ305を備える。バレル203は、出口309をさらに備える。出口309には、好ましくは、針ユニット322を出口309に取り付けることを可能にする接続部が提供される。
【0123】
注射針ユニット322は、針307およびイオン交換材料311を備える。針ユニット322は、シリンジ301に、好ましくはバレル303の出口309の接続部に取り付けられるように適合されている。このような接続部は、当業者に知られており、ねじマウントおよびバヨネットマウントを含む。接続部は、バレル303と針ユニット322との間の流体連通を可能にするべきである。イオン交換材料321は、好ましくは、針307を介して薬学的に許容される溶液が排出されると、薬学的に許容される溶液とイオン交換材料321との間の接触を提供するように、針307内に含まれる。イオン交換材料321は、イオン交換材料311と薬学的に許容される溶液との間で接触すると、薬学的に許容される溶液のpHを非生理的pHから生理学的pHに調整できなければならない。
【0124】
キットは、注射針ユニット312をシリンジ301に接続することによって組み立てられ、薬学的に許容される溶液の注射の直前にバレル303に薬学的に許容される溶液が提供されるように適合される。
【0125】
本発明について様々な例示的な実施形態を参照して説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行い、その要素を同等物で置き換えることができることは当業者には理解されよう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために、多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図される最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されず、本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるすべての実施形態を含むことが意図される。
【0126】
さらに、開示された実施形態に対する変形例は、図面、開示、および添付の特許請求の範囲の研究から、請求された発明を実施する当業者によって理解され、達成され得る。特許請求の範囲において、「備える(comprising)」という語は他の要素またはステップを除外せず、不定冠詞「a」または「an」は複数を除外しない。特定の測定値が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの測定値の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。
【実施例】
【0127】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって例示される。
表1は、本発明を例示するために行われた実施例1~10の実験構成を簡単に要約している。実験の目的は、異なるイオン交換材料と接触したときの薬学的に許容される溶液のpH変化を調査することであった。
【表1】
表2は、実施例1~10で調査された異なるゼオライトを要約している。
【表2】
【0128】
実施例1:pH変化の測定。
試験溶液として、10mMクエン酸ナトリウム、125mM塩化ナトリウム、0.1%(w/v)EDTAから成る水性緩衝溶液を使用した。溶液を、室温でガラスビーカーに10mLずつ分注した。緩衝溶液のpHは、pHメーターで6.50と測定された。
乾燥ゼオライト(ケイ酸アルミニウム)粉末を秤量し、分注した緩衝液に加え、穏やかに撹拌することにより混合した。ゼオライトを0.1グラム/1mLの緩衝液に等しい量で加えた。得られたpHは5分後に8.63であると測定され、pHの正の変化は2.13に記録された。
結論:緩衝水溶液のpHは、ゼオライト粉末と混合することにより上げることができる。
【0129】
実施例2:異なるゼオライトを使用したpH変化の測定
試験溶液として、10mMクエン酸ナトリウム、125mM塩化ナトリウム、0.1%(w/v)EDTAから成る水性緩衝溶液を使用した。溶液を、室温でガラスビーカーに10または4mLずつ分注した。緩衝溶液のpHは、pHメーターで6.25と測定された。
異なる特性を有する乾燥ゼオライト粉末を秤量し、分注した緩衝液に加え、穏やかに撹拌することにより混合した。ゼオライトは等量で加えられた:0.1グラム/1mL緩衝液。得られたpHを5分後に測定し、pH変化を記録した。結果を表3に示す。
【表3】
【0130】
実施例3.pHの経時変化および異なる濃度のイオン交換材料
試験溶液として、10mMクエン酸ナトリウム、125mM塩化ナトリウム、0.1%(w/v)EDTAから成る水性緩衝溶液を使用した。溶液を、室温で、ガラスビーカーに1mLずつ分注した。緩衝溶液のpHは、pHメーターで6.25と測定された。
異なる特性を有する乾燥ゼオライト粉末を秤量し、分注した緩衝液に加え、穏やかに撹拌することにより混合した。ゼオライトは、表2に示されるように様々な量で加えられた。得られたpHをそれぞれ5分後および60分後に測定し、pH変化を記録した。結果を表4に示す。
【表4】
【0131】
pH変化はゼオライト材料の量と相関していると結論付けられた。また、pH変化が速く、5分以内に発生することも分かった。
【0132】
実施例5.アナキンラを含む溶液の経時的なpH変化および異なる濃度のイオン交換材料。
試験溶液として、150mg/mlアナキンラ、10mMクエン酸ナトリウム、125mM塩化ナトリウム、0.1%(w/v)EDTAから成るタンパク質水溶液を使用した。溶液を、室温でガラスビーカーに0.7mLずつ分注した。タンパク質溶液のpHは、pHメーターを使用して6.30と判定された。
【0133】
ゼオライトAの乾燥粉末を70mgに秤量し、分注したタンパク質溶液に加え、穏やかに撹拌することにより混合した。得られたpHは0.5、1、2、3、4、および5分後に測定され、pH変化は各時点で記録された。結果を表5に示す。
【表5】
【0134】
タンパク質溶液の正のpH変化は、実施例2の純粋な緩衝液で観察されたpH変化と同様であり、正のpH変化は速いが、時間と相関すると結論付けられた。
【0135】
実施例6.タンパク質品質測定
試験溶液として、150mg/mlアナキンラ、10mMクエン酸ナトリウム、125mM塩化ナトリウム、0.1%(w/v)EDTAから成るタンパク質水溶液をテスト溶液として使用した。溶液を、室温で、ポリプロピレン試験管に0.7mLずつ分注した。タンパク質溶液のpHは、pHメーターで6.25と測定された。
【0136】
異なる特性を有するゼオライトの乾燥粉末を、50mg/0.7mLの濃度になるように分注したタンパク質溶液に加え、25℃で2時間インキュベートした。タンパク質溶液の1つの分注を、対照としてゼオライトなしでインキュベートした。
【0137】
アナキンラのタンパク質品質およびタンパク質濃度を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)HPLCおよび280nmでの吸光度で判定した。
SEC-HPLCメソッドは、社内の標準プロトコルに従って設定された。TSK-Gel G2000SWXL7.8mm×30cmカラムを使用した。移動相はCSEバッファ、注射量/濃度は100μL/は5mg/mL、波長は280nm、流速は0.5mL/分であった。アナキンラの残りのモノマー含有量はパーセンテージで表示される。
結果を表6に示す。
【表6】
【0138】
薬物アナキンラの品質および濃度はゼオライトの影響を受けないと結論付けられた。
【0139】
実施例7.イオン交換材料を含むシリンジにおけるpH調整。
試験溶液として、150mg/mlアナキンラ、10mMクエン酸ナトリウム、125mM塩化ナトリウム、0.1%(w/v)EDTAから成るタンパク質水溶液を使用した。溶液を、ステンレス鋼針が装着されたシリコン処理ガラス1mLプレフィルドシリンジに0.7mLずつ分注した。シリンジの開放端にブチルゴムプランジャを取り付けることによりシリンジを閉じた。組み立ては室温で行った。タンパク質溶液のpHは、pHメーターで6.34と測定された。
【0140】
乾燥ゼオライトF粉末を秤量し、分注したタンパク質溶液に70mg/0.7mLの濃度まで加え、25℃で3分間インキュベートした。シリンジから排出されたタンパク質溶液のpHを記録し、pH変化を記録した。表7を参照。
【表7】
【0141】
したがって、ゼオライトを含むシリンジからタンパク質溶液を排出すると、タンパク質溶液のpHが上がる。
【0142】
実施例8.焼結イオン交換材料を含むシリンジでのpH調整
試験溶液として、10mMクエン酸ナトリウム、125mM塩化ナトリウム、0.1%(w/v)EDTAから成る水性緩衝溶液を使用した。緩衝溶液のpHはpHメーターで6.59と測定された。
【0143】
乾燥ゼオライト粉末(表8のQ)を100mg分秤量し、2つのステンレス鋼プラグの間に配置した。次に、粉末の圧力を6MPaに上げ、730℃に加熱して、粉末を焼結した。得られた焼結ゼオライト粉末シリンダは、20mmの直径を有していた。ゼオライトプラグを、ポリプロピレンシリンジバレルのバレルの前部までずっと押し込んだ。上記緩衝溶液にシリンジ後端より5mLを満たした。ゴム製プランジャをシリンジに取り付けた。ゴムプランジャに圧力をかけ、緩衝溶液を強制的に粉末プラグに通過させた。シリンジから排出された溶液のpHを記録し、pH変化を表8に示すように計算した。
【表8】
【0144】
したがって、シリンジ内の焼結ゼオライトシリンダを通して緩衝液を排出すると、pHが上がる。
【0145】
実施例9.グリコプレシンのpH調整
1mLのグリコプレシン(Ferring製、1mg/8.5mL)を試験管に分注した。溶液のpHは、pHメーターで3.74と測定された。乾燥ゼオライト粉末(Q)を70mg分秤量し、グリコプレシン溶液に加えた。次に、サンプル溶液のpHを5.92と判定した。
【0146】
グリコプレシンの新しい部分を新しい試験管に1mLずつ分注した。溶液のpHはpHメーターで3.75と測定された。乾燥ゼオライト粉末(Q)を100mg分秤量し、グリコプレシン溶液に加えた。その後、サンプル溶液のpHを6.88であると判定した。
結論:グリコプレシン溶液のpHはゼオライトにより濃度依存的に上がった。
【0147】
実施例10.SomatatropinのpH調整
NovoNordiskによって製造されたSomatatropin(Norditropin Simplex 10mg/1.5mL)0.5mLを試験管に分注した。溶液のpHは、pHメーターで6.15と測定された。乾燥ゼオライト粉末(Q)を50mg分秤量し、Somatropin溶液に加えた。サンプル溶液のpHは、9.07であると判定された。
【0148】
ソマトロピンの新しい部分を新しい試験管に0.5mLずつ分注した。溶液のpHはpHメーターで6.22と測定された。乾燥ゼオライト粉末(Q)を19mg分秤量し、ソマトロピン溶液に加えた。その後、サンプル溶液のpHは7.28であると判定された。
結論:ソマタトロピン溶液のpHは、濃度依存的な方法でゼオライトによって増加した。
【0149】
以下では、仮想例11~18について議論する。
【0150】
例11.針状焼結ゼオライト材料
ゼオライト材料Kは、放電プラグ焼結(SPS)技術を使用して多孔性プラグに圧縮される。ゼオライト粉末を、両端が開いた円筒状の空洞に量り入れる。ゼオライトは、所定の圧力(100~1000MPa)でコンパクトプラグに圧縮され、事前定義された熱(500~1000℃)で焼結されて、機械的に安定した多孔性プラグになる。円筒形の空洞には、プラグ形状に平行なスパイクが含まれ、制御された直径のチャネルが作成されてもよい。得られたプラグは冷却され、ステンレス鋼の針がハブに取り付けられた雌ルアーコーンカニューレハブに取り付けられる。
【0151】
カニューレはシリンジの雄ルアー部品に取り付けられている。シリンジは、溶液のpHが6.0の薬学的溶液で満たされている。シリンジの開口部は、ゴムのプランジャで閉じられている。ゴムのプランジャが前方に押され、薬学的製品溶液がハブのゼオライトマトリックスを介して移動し、針を通じて排出される。針から排出された溶液のpHは7.0である。
結論:焼結ゼオライト材料と接触すると、薬学的溶液のpHが上がる。
【0152】
例12.バレル内の焼結ゼオライト材料
例11の多孔性ゼオライトプラグは、ガラスまたはプラスチックシリンジの前端に取り付けられる。ステンレス鋼の針がシリンジの端に装着されている。シリンジは、溶液のpHが6.0の薬学的溶液で満たされている。シリンジの開口部は、ゴムのプランジャで閉じられている。ゴムのプランジャが前方に押され、薬物溶液がシリンジ内のゼオライトマトリックスを介して移動し、針を通じて排出される。針から排出された溶液のpHは7.0である。
結論:焼結ゼオライト材料と接触すると、薬学的溶液のpHが上がる。
【0153】
例13.針の支持体に固定化されたゼオライト材料
ゼオライト材料Kは、多孔性酸化チタン、アルミニウムまたはムライト担体などに固定化されている。固定化は、ゼオライトを蒸留水に懸濁させ、それを支持体上で核形成させて多孔性膜を作成することによって行われる。
【0154】
得られた膜は、ステンレス鋼の針がハブに取り付けられた雌ルアーコーンカニューレハブに取り付けられている。カニューレはシリンジの雄ルアー部品に取り付けられている。シリンジは、溶液のpHが6.0の薬学的溶液で満たされている。シリンジの開口部は、ゴムのプランジャで閉じられている。ゴムのプランジャが前方に押され、薬学的製品溶液がハブのゼオライトマトリックスを介して移動し、針を通じて排出される。針から排出された溶液のpHは7.0である。
結論:固定化ゼオライト材料と接触すると、薬学的溶液のpHが上がる。
【0155】
実施例14.バレル内のサポートに固定化されたゼオライト材料
実施例13の多孔性ゼオライト膜は、ガラスまたはプラスチックシリンジの前端に取り付けられる。ステンレス針がシリンジの端に取り付けられている。シリンジは、溶液のpHが6.0の薬学的溶液で満たされている。シリンジの開口部は、ゴムのプランジャで閉じている。ゴムのプランジャが前方に押され、薬物溶液がシリンジ内のゼオライトマトリックスを介して移動し、針から排出される。針から排出された溶液のpHは7.0である。
結論:薬学的溶液のpHは、固定化ゼオライト材料と接触すると、薬学的溶液のpHが上がる。
【0156】
実施例15.針内のゼオライト/ポリマー膜
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶媒に溶解して溶液にする。ゼオライト材料Kは、室温で5時間混合することにより、PVDF/NMP溶液に懸濁される。得られた懸濁液をガラス板上に分配する。ガラス板を蒸留水に浸して固化し、膜状にする。得られた膜は、ステンレス鋼の針がハブに取り付けられた雌ルアーコーンカニューレハブに取り付けられている。
【0157】
カニューレは、シリンジの雄ルアー部品に取り付けられている。シリンジは、溶液のpHが6.0の薬学的溶液で満たされている。シリンジの開口部は、ゴムのプランジャで閉じられている。ゴムのプランジャが前方に押され、薬学的製品溶液がハブのゼオライトマトリックスを介して移動し、針を通じて排出される。針から排出された溶液のpHは7.0である。
結論:ゼオライト/ポリマー材料と接触すると、薬学的溶液のpHが上がる。
【0158】
実施例16.バレル内のゼオライト/ポリマー膜
実施例15の多孔性ゼオライト膜は、ガラスまたはプラスチックシリンジの前端に取り付けられる。ステンレス鋼の針がシリンジの端に取り付けられている。シリンジは、溶液のpHが6.0の薬学的溶液で満たされている。シリンジの開口部は、ゴムのプランジャで閉じられている。ゴムのプランジャが前方に押され、薬物溶液がシリンジ内のゼオライトマトリックスを介して移動し、針を通じて排出される。
結論:ゼオライト/ポリマー材料と接触すると、薬学的溶液のpHが上がる。
【0159】
実施例17.針状ゼオライト粉末
ゼオライトKの粉末が円筒容器に含まれる。容器は、シリンダの底部と上部が水を透過するポリマーまたは金属材料でできている。ゼオライト粉末の入った容器は、ステンレス鋼の針がハブに取り付けられた雌ルアーコーンカニューレハブに取り付けられている。
【0160】
カニューレはシリンジの雄ルアー部品に取り付けられている。シリンジは、溶液のpHが6.0の薬学的溶液で満たされている。シリンジの開口部は、ゴムのプランジャで閉じられている。ゴム製のプランジャが前方に押され、薬学的製品溶液は、ゼオライトがハブにある状態で円筒形を通過し、針を通じて排出される。針から排出された溶液のpHは7.0である。
結論:薬学的溶液のpHは、粉末ゼオライト材料と接触すると、薬学的溶液のpHが上がる。
【0161】
実施例18.針内のゼオライト粉末
ゼオライト粉末が入った円筒形の容器は、ガラス製またはプラスチック製のシリンジの前端に取り付けられている。ステンレス鋼の針が装着されている。シリンジは、溶液のpHが6.0の薬学的溶液で満たされている。シリンジの開口部は、ゴムのプランジャで閉じられている。ゴム製のプランジャが前方に押され、薬物溶液がシリンジ内の円筒形の容器を介して転送され、針を通じて排出される。針から排出された溶液のpHは7.0である。
結論:粉末ゼオライト材料と接触すると、薬学的溶液のpHが上がる。