(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】鋳造金属物体における気孔分布予測方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230215BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20230215BHJP
B22D 46/00 20060101ALI20230215BHJP
B22C 9/00 20060101ALI20230215BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20230215BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/23
B22D46/00
B22C9/00 E
G06Q50/04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021158551
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2022-03-25
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506138269
【氏名又は名称】マグマ ギエッセレイテクノロジ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】MAGMA Giessereitechnologie GmbH
【住所又は居所原語表記】Kackertstrasse11 D-52072 Aachen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】グレーヴィチ ヴィタリー
(72)【発明者】
【氏名】シェーファー ヴィルフリート
【審査官】真木 健彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171418(JP,A)
【文献】特開2018-149576(JP,A)
【文献】特開2015-174116(JP,A)
【文献】特開2008-155248(JP,A)
【文献】特開2007-222886(JP,A)
【文献】特開2006-159221(JP,A)
【文献】特開2005-144542(JP,A)
【文献】特開2004-066282(JP,A)
【文献】特開2001-105098(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0232858(US,A1)
【文献】中国特許第103257214(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/20 - 30/28
B22D 46/00
B22C 9/00
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固化による気孔の量及び位置の変化を特定することにより、鋳型の空洞内で金属物体(1)を鋳造する工程を改良するためのコンピュータにより実施される方法であって、
少なくとも鋳造される前記金属物体(1)の幾何学的構造を規定する3Dコンピュータモデル(2)を提供することと、
前記3Dコンピュータモデル(2)に基づいて解領域(4)を離散化して(101)複数の3Dセル(7)を備えた3Dメッシュ(6)を生成することと、
少なくとも前記鋳造に関与する材料の材料特性を含む境界条件を指定する(102)ことと、
工程固有の前記境界条件に基づいて、前記鋳造における前記金属物体の固化工程の少なくとも1つの時間ステップについてシミュレーションを行う(103)ことと、
を含み、
前記シミュレーションは前記固化工程の前記少なくとも1つの時間ステップについて、
前記解領域(4)について前記固化工程の過渡的な物理現象を表現する過渡現象方程式を解く(104)ことと、
前記3Dセル(7)それぞれにおける液状金属部分の比率として規定される液状部分比率(f
l)の分布(F
l)を前記解領域(4)について計算する(105)ことと、
前記液状部分比率分布(F
l)に基づいて前記解領域(4)内で少なくとも1つの供給部(8)を設定すること(106)と、
前記少なくとも1つの供給部(8)それぞれにおける気孔の量及び位置の変化を計算すること(107)と、
を含み、
前記少なくとも1つの供給部(8)を設定することにおいて、前記各供給部(8)が、液状部分比率値がゼロより大きく(f
l>0)液状部分比率勾配値がゼロでない(∇f
l<0又は>0)相互に連結した3Dセル(7)の群として規定され、隣り合う前記供給部(8)が、液状部分比率勾配値がゼロである(∇f
l=0)相互に連結した3Dセル(7)の群として規定される界面域(9)によって分隔される、
方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの供給部(8)それぞれにおける気孔の量及び位置の前記変化を計算すること(107)が、前記各供給部(8)と前記各供給部(8)に隣接する供給部(8)との間における金属の流入分と流出分の総体積を計算する(107A)とともに前記各供給部(8)における金属の収縮を計算する(107B)ことにより、ダルシーの法則とともに連続方程式を使用することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの供給部(8)それぞれにおける気孔の量及び位置の前記変化を計算すること(107)は、前記各供給部(8)について総単位体積V
i及び初期気孔体積V
i
p,0を決定する(1071)ことと、
前記各供給部(8)における気孔体積の過渡的変化を式タイプA
に従って計算する(1072)ことと、
により結合方程式系Mを反復的に解くことを含み、
・ ∂V
i
p/∂tは前記各供給部(8)における気孔体積変化率、
・ ∂V
i/∂tは前記各供給部(8)における冷却と相変態による体積収縮率、
・
は前記各供給部(8)とそれに隣接する全ての前記供給部(8)との間における金属の流入分及び流出分の総体積であり、
前記各供給部(8)における気孔体積V
i
pが、前記初期気孔体積V
i
p,0と気孔体積の前記過渡的変化∂V
i
p/∂tとの和として計算され、
いずれかの前記供給部(8)について計算された気孔体積がゼロより小さい(V
i
p<0)場合、そのような前記供給部(8)について気孔体積にゼロ(V
i
p,0=0)を与える(1073)とともに式タイプAを式タイプB
に置き換えることにより前記方程式系Mが再び解かれ、
・ ∂V
i/∂tは前記各供給部(8)における体積収縮率、
・
は前記隣接する全ての供給部(8)から前記各供給部(8)への金属流入分の総体積、
・
は前記各供給部(8)から前記隣接する全ての供給部(8)への金属流出分の総体積である、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記各供給部(8)とそれに隣接する前記供給部(8)との間における金属の流入分と流出分の総体積を計算する(107A)ことは、
前記隣り合う供給部(8)間の等価経路長l
eq
ijで前記界面域(9)の等価面積A
eq
ijを割ることにより、前記隣り合う供給部間(8)の供給親和性α
ij
を計算すること(1074)であって、
前記界面域(9)の前記等価面積A
eq
ijは、前記液状部分比率f
lの関数である前記隣り合う供給部間(8)の透過度K
aを前記隣り合う供給部(8)を分隔する前記界面域(9)(S)で積分すること
により計算され、
前記等価経路長l
eq
ijは、前記界面域(9)と前記隣り合う供給部(8)それぞれにおける前記液状部分比率の最大値及び実証的液状部分比率臨界値f
l
critのうちの小さいほうの値に対応する場所との間の最短距離の和
として規定される、供給親和性α
ijを計算することと、
前記隣り合う供給部(8)間の圧力差P
ijを式
に従って計算すること(1075)であって、
・ P
i及びP
jは前記隣り合う供給部(8)それぞれにおける等価圧力であって、初期値として前記隣り合う供給部(8)それぞれが外部との境界(空気)に接しているか否かによって、ゼロ又は大気圧の値が与えられる等価圧力、
・ Δh
ijは前記隣り合う供給部(8)間における液状金属の最も高い位置の鉛直方向高低差、
・ ρは金属の密度、
・ gは重力加速度である、圧力差P
ijを計算すること(1075)と、
を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記隣り合う供給部(8)間の前記透過度K
aが、局所的な前記液状部分比率f
lと多孔質媒体に依存する所定の定数K
0との関数
として、コゼニー・カルマンの式に従って計算され、
よって前記界面域(9)の前記等価面積A
eq
ijは、
として計算される、
請求項4に記載の方法
【請求項6】
気孔値が正である前記供給部(8)それぞれにおける気孔の前記変化の前記位置を特定する(108)ことと、
前記供給部(8)における前記液状部分比率の前記最大値f
l,maxと材料依存の液状部分比率値f
l,0とを比較することと、
を更に含み、
f
l,max>f
l,0の場合、気孔の前記変化は前記供給部(8)の最も高い地点(12)に位置付けられ、そうでない場合は、気孔の前記変化は前記供給部(8)のホットスポット(11)の中心に位置付けられ、前記ホットスポット(11)の中心は、前記液状部分比率値が前記最大値f
l,maxである前記3Dセル(7)として設定される、
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記材料依存の液状部分比率値は、20%<f
l,0<95%の範囲を取る、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記液状部分比率分布F
lに基づいて前記解領域(4)内に少なくとも1つの計算領域(5)であって、それぞれが、前記液状部分比率がゼロより大きい(f
l>0)相互連結した前記3Dセル(7)の群であって前記3Dメッシュ(6)における前記液状部分比率がゼロである(f
l=0)前記3Dセル(7)又は非金属境界に囲まれている計算領域(5)を設定する(109)ことと、
各計算領域(5)内に少なくとも1つの前記供給部(8)を設定し、前記各計算領域(5)内の前記少なくとも1つの前記供給部(8)のそれぞれにおける気孔の量及び位置の変化を計算することにより、前記各計算領域(5)における気孔分布の変化を個別に計算する(110)ことと、
とを更に含む請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記過渡現象方程式を解く(104)ことは、エネルギー輸送方程式を用いて前記解領域(4)の温度分布を計算する(1041)ことと、前記温度分布を用いて固化モデル(3)を適用する(1042)ことと、を含み、
冷却による前記各供給部(8)における金属の収縮を計算する(107B)ことは、前記温度分布及び前記固化モデル(3)の少なくとも一方に基づき、
前記解領域(4)について前記液状部分比率分布F
lを計算する(105)ことは、前記固化モデル(3)を使用する、
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記固化工程の少なくとも1つの時間ステップについて、前記各供給部(8)における前記計算された気孔体積V
i
p及び位置のいずれか一方又は両方に基づいて、前記解領域(4)について少なくとも1つのシミュレーション結果(13)を確定する(201)ことと、
前記少なくとも1つのシミュレーション結果(13)をユーザ(15)に提供する(202)ことと、
を更に含み請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記固化工程の前記シミュレーションについて開始時点t
0を設定する(2011)ことと、
前記開始時間t
0後から少なくとも完全な固化に対応する時間ステップまで連続した時間ステップにおいて、反復的な方法で、前記解領域(4)について一続きのシミュレーション結果(13)を確定する(2012)ことと、
前記一続きのシミュレーション結果(13)を、ユーザインタフェース機器(24)を介してユーザ(15)に提供する(202)ことと、
を更に含み、
前記完全な固化に対応する時間ステップは、前記計算された液状部分比率F
lに基づいて、前記解領域(4)全体について前記液状部分比率f
l=0である時間ステップとして設定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのシミュレーション結果(13)は、前記3Dコンピュータモデル(2)上にマッピングされて(203)から、ユーザインタフェース機器(24)を介してユーザ(15)に提供される(202)、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記固化工程の少なくとも1つの時間ステップについて、前記供給部(8)のうち少なくとも1つにおける気孔の量及び位置のいずれか一方又は両方の計算された変化に少なくとも部分的に基づいて、少なくとも1つの気孔欠陥(14)を特定する(204)ことと、
鋳造される前記物体(1)の品質を前記少なくとも1つの気孔欠陥(14)に基づいて予測することと、
を更に含む請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
供給装置(17)及び供給補助要素(18)のいずれか一方又は両方の最適化された位置を特定する(205)ことと、
前記金属鋳造工程で使用される前記境界条件を修正することと、
前記固化工程の少なくとも1つの時間ステップについて前記供給部(8)のうち少なくとも1つにおける気孔の量及び位置のいずれか一方又は両方の前記計算された変化に少なくとも部分的に基づいて、前記気孔を最小化又は除去する又は前記気孔の位置を変更する目的で、前記鋳造金属物体自体の設計を修正することと、
のうちの少なくとも1つを更に含む請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記3Dコンピュータモデル(2)、少なくとも1つの供給装置(17)又は供給補助要素(18)の修正された位置、及び修正された前記境界条件のうち、少なくとも1つの修正された特性を含むユーザ入力(16)を受け取ること(206)と、
前記修正した特性に基づいて再計算された前記各供給部(8)内の気孔の量及び位置のいずれか一方又は両方の変化に基づいて、前記金属鋳造工程について少なくとも1つの更新されたシミュレーション結果(13A)を確定する(201A)ことと、
前記少なくとも1つの更新されたシミュレーション結果(13A)をユーザ(15)に提供する(202A)ことと、
を更に含む請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ユーザインタフェース機器(24)と、
コンピュータプログラム(23)を含むコンピュータ可読記憶装置(22)と、
前記コンピュータプログラム(23)を実行し、前記ユーザインタフェース機器(24)と情報をやり取りし、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法を実施するように動作可能な1つ以上のプロセッサ(21)と、
を備えるシステム(20)。
【請求項17】
装置の1つ又は複数のプロセッサに実行されると、前記装置に、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法を遂行させるように構成されるプログラム命令を備える、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋳型の空洞内で金属物体を鋳造することを伴う工程に関する。本開示は、特に、鋳造される物体の収縮による気孔欠陥をシミュレーションにより予測して鋳造物体の品質改善のために工程条件を変更する手段を提供することにより、そのような金属鋳造工程を改良することに関する。
【背景】
【0002】
鋳造は、内部に所望の形状の空洞を備える鋳型に液状材料を流し込む製造工程である。液状材料は、材料固有の相変態という物理現象に従って、その周囲(例えば、鋳型や空気)との局所的な熱交換により冷却されて固化する。固化した部分は鋳物として知られ、工程の最後に鋳型から排出されるか引き離される。鋳造は、ほとんどの場合、別の方法では作成するのが難しいか不経済であるような複雑な形状を作成するのに使用される。鋳物材料が金属である場合、その金属材料が、いわゆる液相温度より高い鋳込み温度まで加熱されて鋳型に流し込まれる。鋳型は、制御下での充填や鋳物の固化を可能にする湯道や押し湯も備える。その後、金属は鋳型の中で冷却されて固化し、工程及び材料に固有の金属温度又は工程所要時間にて固化した部分(鋳物)が鋳型から取り出される。その後の作業では、鋳造工程で必要とされた余分な材料(湯道や押し湯等)が取り除かれる。
【0003】
金属の鋳造において、欠陥等の望ましくない結果は、従来から、異常とされている。金属鋳物において起こる異常は、許容可能なものもあれば、防ぐ又は少なくとも最小限に抑制することが必要なものもある。そのような異常の1つに、鋳物における金属の収縮による気孔がある。これは、局所的な気孔体積に基づき、粗大孔構造又は微小孔構造として発見される。金属が相変態に伴い収縮して気孔が生じるが、その収縮は、鋳物の収縮領域に、まだ液状の金属が他の領域から供給されたとしても補正不可能である。
【0004】
金属鋳造工程のシミュレーションには多様な技術(例えば、鋳型充填、固化、及び更なる冷却を考慮して鋳造部品の品質を計算する各種数値的方法)を利用してよく、シミュレーションにより鋳造工程全体及び追加処理ステップ(熱処理等)の各時点における鋳物の機械的特性について定量的な推定が提供され得る。そのため、そのようなシミュレーションによって、製造開始前に鋳造部品の品質を把握できる。更に、部品に要求される品質及び特性に対応して鋳物の支持材を設計できる。これにより、鋳造システム全体のレイアウトが高精度である場合であっても、エネルギー、材料、及び工具類を節減する結果となるため、製造前サンプリングの削減以外にも利点がある。また、当該シミュレーションは、部品設計又は鋳造技術を担当する製品設計者が、パターンや鋳型の作成、熱処理、仕上げ等を含む、溶融実施及び鋳造方法を決定する支援となり得る。それにより、鋳物製造手順全体にわたってコスト、資源、及び時間を削減し得る。
【0005】
市販のシミュレーションソフトウェアによる解決策には、鋳造工程における気孔の形成のような異常を予測する手段を提供するものもある。しかしながら、そのような公知のシミュレーションソフトウェアによる解決策では、複雑な幾何学的構造を持つ鋳造金属物体における気孔欠陥の体積及び位置について、要求される正確さで効果的に計算し正確に予測することはいまだ可能になっていない。
【0006】
巨視的規模での計算は、比較的短い計算時間を可能にするが、予測された個々の欠陥に関する情報の詳細度が低い。具体的には、微細液流等の影響は、特に各局所的位置において固化過程で複雑に成長する微細構造を通る流れについて固化過程では詳細に反映されないが、成果物に重大な影響を与え得る。固化、すなわち、液体から固体への相変態において固相が融液中に成長する。通常は、その成長は物理的条件が満たされたいくつかの位置から始まる。局所的な固化が進行している間、成長する固体は、局所的な条件及び固化部分比率の程度に依存して、融液流について所定の透過度を有する。巨視的規模での融液流(例えば、対流による)に加え、この「微細な」融液流は、気孔欠陥の体積及び位置に大きな影響を与え得る。これらの影響の種類を正確に計算するには、関連する影響を反映する適切な物理的モデルと、モデル化に必要な実証済みデータとの両方が入手可能であることに加え、鋳造金属を極めて高分解能で離散化することが必要となろう。そのような高分解能の計算は、通常は膨大なコンピュータ容量及び計算時間を必要とするため、安定した工程を設計して規定の鋳物品質を維持する目的で実際に工程シミュレーションを広範囲で利用している製造会社では使用不可能である。
【摘要】
【0007】
鋳造金属物体において収縮による気孔を特定するための、上記の問題を克服する又は少なくとも抑制する、改良された方法及びシステムを提供することを目的とする。
【0008】
上記やその他の目的は、独立請求項の特徴によって達成される。他の実装形態は、従属請求項、明細書、及び図面から明らかである。
【0009】
第1の態様によれば、固化による気孔の量及び位置の変化を特定することにより、鋳型の空洞内で金属物体を鋳造する工程を改良するためのコンピュータにより実施される方法が提供される。前記方法は、
少なくとも鋳造される前記金属物体の幾何学的構造を規定する3Dコンピュータモデルを提供することと、
前記3Dコンピュータモデルに基づいて解領域を離散化して複数の3Dセルを備えた3Dメッシュを生成することと、
前記鋳造に関与する材料の関連材料特性(熱物性等)を含む境界条件を指定することと、
工程固有の前記境界条件に基づいて、鋳造における前記金属物体の固化工程の少なくとも1つの時間ステップについてシミュレーションを行うことと、
を含み、
前記シミュレーションは前記固化工程の前記少なくとも1つの時間ステップについて、
前記解領域について前記固化工程の過渡的な物理現象を表現する過渡現象方程式を解くことと、
前記3Dセルそれぞれにおける液状金属部分の比率として規定される液状部分比率(fl)の分布(Fl)を前記解領域について計算することと、
前記液状部分比率分布(Fl)に基づいて前記解領域内で少なくとも1つの供給部を設定することと、
前記少なくとも1つの供給部のそれぞれにおける気孔の量及び位置の変化を計算することと、
を含み、前記供給部のそれぞれは、液状部分比率値がゼロより大きく(fl>0)液状部分比率勾配値がゼロでない(∇fl<0又は>0)相互に連結した3Dセルの群として規定され、隣り合う前記供給部が、液状部分比率勾配値がゼロである(∇fl=0)相互に連結した3Dセルの群として規定される界面域によって分隔される。
【0010】
前記解領域の供給部への細分化では、前記物体のグリッドを通常は1~数百個の供給部から成るグラフ状サブグリッドに置き換えることにより気孔の体積及び位置の変化の計算性能を高めることができる。そのことで、特に、幾何学的構造を表現するために数百万個のメッシュ要素が必要とされるエンジンブロック等の幾何学的に複雑な物体では、劇的に計算時間が削減される。計算時間の削減により、シミュレーション処理における鋳物のレイアウト及び境界条件を動的に調整することと、気孔に関連した欠陥を最小限、排除、又は最適化するような最適な鋳物設計及び工程構成を求める多数のシミュレーションを実行することとが可能になる。それにより、鋳造される物体の最終的な品質が効果的に改善される。
【0011】
一実施形態においては、前記少なくとも1つの供給部それぞれにおける気孔の量及び位置の前記変化を計算することは、各供給部と当該供給部に隣接する供給部との間における金属の流入分と流出分の総体積を計算するとともに前記各供給部における金属の収縮を計算することにより、ダルシーの法則とともに連続方程式を用いることを含む。
【0012】
第1の態様において考え得る一実装形態では、前記少なくとも1つの供給部それぞれにおける気孔の量及び位置の前記変化を計算することは、
前記供給部それぞれについて総単位体積V
i及び初期気孔体積V
i
p,0を決定することと、
前記各供給部における気孔体積の過渡的変化を式タイプA
に従って計算することと、
により結合方程式系Mを反復的に解くことを含み、
・ ∂V
i
p/∂tは前記各供給部における気孔体積変化率、
・ ∂V
i/∂tは前記各供給部における冷却と相変態による体積収縮率、
・
は、前記各供給部とそれに隣接する全ての前記供給部との間における金属のやり取り(流入及び流出)分の体積であり、
前記各供給部における気孔体積V
i
pが、前記初期気孔体積V
i
p,0と気孔体積の前記過渡的変化∂V
i
p/∂tとの和
として計算され、
いずれかの前記供給部について計算された気孔体積がゼロより小さい(V
i
p<0)場合、そのような前記供給部について気孔体積にゼロ(V
i
p,0=0)を与えるとともに、式タイプAを式タイプB
に置き換えることにより方程式系の解が再び解かれ、
・ ∂V
i/∂tは前記各供給部における体積収縮率、
・
は前記隣接する全ての供給部から前記各供給部への金属流入分の総体積、
・
は前記各供給部から前記隣接する全ての供給部への金属流出分の総体積である。
【0013】
第1の態様において考え得る別の一実装形態において、ある供給部と当該供給部に隣接する供給部との間における金属のやり取り(流入及び流出)分の総体積を計算することは、
前記隣り合う供給部間の等価経路長l
eq
ijで前記界面域の等価面積A
eq
ijを割ることにより、前記隣り合う供給部間の供給親和性α
ij
を計算することであって、
前記界面域の前記等価面積A
eq
ijは、前記液状部分比率f
lの関数である前記隣り合う供給部間の透過度K
aを前記隣り合う供給部を分隔する前記界面域(S)で積分すること
により計算され、
前記等価経路長l
eq
ijは、前記界面域と前記隣り合う供給部それぞれにおける前記液状部分比率の最大値及び実証的液状部分比率臨界値f
l
critのうちの小さいほうの値に対応する場所との間の最短距離の和
として規定される、供給親和性α
ijを計算することと、
前記隣り合う供給部間の圧力差P
ijを、ダルシーの式
のP
iからP
jまでの積分
によって計算することと、
を含み、
多孔質媒体を通る液流を想定すると、前記圧力差P
ijは
として計算でき、式中、
・ u
ijは前記隣り合う供給部間の液状金属の流速、
・ l
ijは前記隣り合う供給部間の等価経路長、
・ K
aは前記隣り合う供給部間の透過度、
・ P
i及びP
jは前記隣り合う供給部それぞれにおける等価圧力(初期値として、各供給部が外部との境界(空気)に接しているか否かによって、ゼロ又は大気圧の値が与えられる)、
・ Δh
ijは前記隣り合う供給部間における液状金属の最も高い位置の鉛直方向高低差、
・ ρは金属の密度、
・ gは重力加速度である。
【0014】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記隣り合う供給部間の前記透過度K
aは、局所的な前記液状部分比率f
lと多孔質媒体に依存する所定の定数K
0との関数
として、コゼニー・カルマンの式に従って計算され、よって前記界面域の前記等価面積A
eq
ijは、
として計算される。
【0015】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記方法は、気孔値が正である前記供給部それぞれにおける気孔の前記変化の前記位置を、当該供給部における前記液状部分比率の前記最大値fl,maxと材料依存の液状部分比率値fl,0とを比較することにより特定することを更に含み、
fl,max>fl,0の場合、気孔の前記変化は当該供給部の最も高い地点に位置付けられ、そうでない場合は、気孔の前記変化は前記供給部の「ホットスポット」の中心に位置付けられ、前記「ホットスポット」の中心は、前記液状部分比率値が最大液状部分比率値fl,maxである前記3Dセルとして設定される。
【0016】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記材料依存の液状部分比率値は、例えば、材料に共晶黒鉛を含む鋳鉄では、20%<fl,0<95%であり、より好ましくは、85%<fl,0<90%である。
【0017】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記方法は、
前記液状部分比率分布Flに基づいて前記解領域内に少なくとも1つの計算領域であって、それぞれが、前記液状部分比率がゼロより大きい(fl>0)相互連結した前記3Dセルの群(「溶融帯」)であって、前記3Dメッシュにおける前記液状部分比率がゼロである(fl=0)前記3Dセル(完全に固化した金属)又は非金属境界(コア、鋳型、空気等)に囲まれている計算領域を設定することと、
各計算領域内に少なくとも1つの前記供給部を設定し、前記各計算領域内の前記少なくとも1つの前記供給部のそれぞれにおける気孔体積の量及び位置の変化を計算することにより、前記各計算領域における気孔分布の変化を個別に計算することと、
を更に含む。
【0018】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記過渡現象方程式を解くことは、エネルギー輸送(熱伝導等)方程式を用いて前記解領域の温度分布を計算することと、前記温度分布を用いて固化モデルを適用することと、を含み、
冷却による前記供給部における金属の収縮を計算することは、前記温度分布及び前記固化モデルの少なくとも一方に基づき、
前記解領域について前記液状部分比率分布Flを計算することは、前記固化モデルを使用する。
【0019】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記方法は、
前記固化工程の少なくとも1つの時間ステップについて、前記各供給部における前記計算された気孔体積Vi
p(及び位置)に基づいて、前記解領域について少なくとも1つのシミュレーション結果を確定することと、
前記少なくとも1つのシミュレーション結果をユーザに提供することと、
更に含む。
【0020】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記方法は、
前記固化工程の前記シミュレーションについて開始時点t0を設定することと、
任意選択で前記シミュレーションについて時間ステップの増分dtを定めることと、
前記開始時間t0後から少なくとも完全な固化に対応する時間ステップまで連続した時間ステップにおいて、反復的な方法で、前記解領域について一続きのシミュレーション結果を確定することと、
任意選択で、前記鋳造金属物体の更なる冷却工程において、前記完全な固化に対応する時間ステップ後に追加のシミュレーション結果を確定することと、
前記一続きのシミュレーション結果を、ユーザインタフェース機器を介してユーザに提供することと、
を更に含む。前記完全な固化に対応する時間ステップは、前記計算された液状部分比率flの分布に基づいて、前記解領域全体について前記液状部分比率fl=0である時間ステップとして設定される。
【0021】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記少なくとも1つのシミュレーション結果は、前記3Dコンピュータモデル上にマッピングされてから、ユーザインタフェース機器を介してユーザに提供される。
【0022】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記方法は、
前記固化工程の少なくとも1つの時間ステップについて、前記供給部のうち少なくとも1つにおける気孔体積の量及び位置の前記計算された変化に少なくとも部分的に基づいて、少なくとも1つの気孔欠陥を予測し、それにより、鋳造される前記物体の品質を予測することを更に含む。
【0023】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記方法は
供給装置又は供給補助要素(チル、断熱パッド、又は発熱材料等)の最適化された位置及び前記金属鋳造工程で使用される最適化された工程(境界)条件の少なくとも1つを確定すること、又は
前記固化工程の少なくとも1つの時間ステップについて前記供給部のうち少なくとも1つにおける気孔の量及び位置の前記計算された変化に少なくとも部分的に基づいて、前記気孔を最小化又は除去する又は前記気孔の位置を変更する目的で、前記鋳造金属物体自体の設計を修正すること、
を更に含む。
【0024】
第1の態様において考え得る別の一実装形態では、前記方法は、
前記3Dコンピュータモデル、少なくとも1つの供給装置又は供給補助要素(チル、断熱パッド、又は発熱材料等)の位置、又は前記金属鋳造工程で使用される工程(境界)条件のうち少なくとも1つの修正された特性を含むユーザ入力を受け取ることと、
上記修正した特性に基づいて再計算された各供給部内の気孔の量及び位置の変化に基づいて、前記金属鋳造工程について少なくとも1つの更新されたシミュレーション結果を確定することと、
前記少なくとも更新された1つのシミュレーション結果をユーザに提供することと、
を更に含む。
【0025】
第2の態様によれば、
ユーザインタフェース機器と、
プログラム製品を含むコンピュータ可読記憶装置と、
前記プログラム製品を実行し、前記ユーザインタフェース機器と情報をやり取りし、第1の態様において考え得る上記実装形態のいずれか1つの方法に係る動作を行うように動作可能な1つ以上のプロセッサと、
を備えるシステムが提供される。
【0026】
第3の態様によれば、コンピュータ可読記憶装置上の符号化されたプログラム製品であって、1つ以上のプロセッサに第1の態様において考え得る上記実装形態のいずれか1つに係る方法に従って動作を行わせるように動作可能なプログラム製品が提供される。
【0027】
上記態様及びその他の態様は、以下に記載する実施形態から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本開示の以下の記載において、態様、実施形態、及び実装形態は以下の図面に示す例示的実施形態を参照してより詳細に説明される。
【
図1】第1の態様において考え得る一実装形態に係る、金属鋳造工程の所与の時点における気孔の変化を特定する方法を示すフローチャートである。
【
図2】第1の態様において考え得る一実装形態に係る、固化工程における反復シミュレーションステップを示すフローチャートである。
【
図3】第1の態様において考え得る一実装形態に係る、固化工程における主要な計算ステップを示すフローチャートである。
【
図4】鋳造物体の一部における液状部分比率分布に基づいて設定された計算領域5を含む解領域4を示す説明図である。
【
図5】鋳造物体の一部における液状部分比率分布に基づいて計算領域5内において設定された供給部を示す説明図である。
【
図6】金属鋳造工程の所与の時点における複数の計算領域の供給部内の気孔の体積及び位置の変化を特定する方法の詳細なステップを示すフローチャートである。
【
図7】計算領域及び供給部への鋳物の分隔を示す簡略なグラフである。
【
図8】2つの供給部間の等価経路長の決定を示す簡略なグラフである。
【
図9】2つの供給部間の等価経路長の決定を示す3次元図である。
【
図10】液状部分比率分布における勾配に基づく2つの供給部間の界面域(分隔面)を示す概略図である。
【
図11】相互に連結する供給部と、当該供給部間の界面域とを示す3次元図である。
【
図12】前記方法で相互に連結したノードから成るグラフ状サブグリッドとして解釈される、
図11の相互に連結する供給部を示す概略図である。
【
図13A】鋳物の固化において計算領域の数と供給部とが動的に変化する様子を示す。
【
図13B】鋳物の固化において計算領域の数と供給部とが動的に変化する様子を示す。
【
図13C】鋳物の固化において計算領域の数と供給部とが動的に変化する様子を示す。
【
図14】ある供給部において気孔が存在し得る位置を示す3次元図である。
【
図15】特定されて鋳造物体の3Dモデル上にマッピングされた気孔欠陥を示す3次元図である。
【
図16】金属鋳造工程の所与の時点におけるシミュレーション結果を確定してユーザに提供する動作の主要ステップを示すフローチャートである。
【
図17】金属鋳造工程における一続きのシミュレーション結果を確定してユーザに提供する動作の主要ステップを示すフローチャートである。
【
図18】ユーザがシミュレーション結果に基づいて鋳物又は支持材の設計又は鋳造工程のパラメータを調整する動作の主要ステップを示すフローチャートである。
【
図19】特定された気孔欠陥であって、金属鋳造物体の3Dモデルにマッピングされた気孔欠陥を、同じ幾何学的構造を持つ複数の金属物体の試験的な鋳物と比較して示す図である。
【
図20A】気孔の調整、最小化又は除去によって鋳物品質を高めるための供給装置及び供給補助要素の位置に対する調整として考え得る動作を示す。
【
図20B】気孔の調整、最小化又は除去によって鋳物品質を高めるための供給装置及び供給補助要素の位置に対する調整として考え得る動作を示す。
【
図20C】気孔の調整、最小化又は除去によって鋳物品質を高めるための供給装置及び供給補助要素の位置に対する調整として考え得る動作を示す。
【
図21】第2の態様に係るコンピュータベースのシステムであって、鋳造金属物体内の気孔を特定するシステムのハードウェア構成の一例を示す概略ブロック図である。
【詳細説明】
【0029】
以下の詳細説明では、鋳型の空洞内で金属物体1を鋳造する工程を、金属物体1の収縮による気孔を特定することにより改良する方法が記載される。
【0030】
物理的には、本開示に係る方法は、多孔質媒体を通る液流をダルシーの式に従って計算するための従来の手法と、多孔質媒体を通る層流の流圧低下をコゼニー・カルマンの式に従って計算することと、気孔の変化及び金属の収縮による体積変化を反映した連続方程式とを利用する。
【0031】
既存の手法では、解領域の幾何学的構造がグリッドによりメッシュ状に変換され、未知のフィールド値(ダルシーの式の場合、圧力フィールド)が、数値的方法に応じてノード又は要素の中心に位置付けられる。一方、本開示の方法では、通常の数値グリッド上で通常の方法により計算された液状部分比率分布のフィールドを用いて、2次のグラフ状サブグリッドを作成して圧力及び気孔を計算する。このサブグリッドの要素が、いわゆる供給部(FU)である。計算領域(固化工程における実際の各時間ステップと、解領域において設定された計算領域があるかどうかに依存する)のFUへの細分化は、液状部分比率分布フィールド内に最小値を見つけることにより実行される。隣り合う2つのFU間を分隔する面は「界面域」として規定され、界面域により計算領域のFUへの細分化が一意に決定される。以下、例示的な実施形態及び説明図を参照して本方法を詳細に説明する。
【0032】
図1は、金属鋳造工程における物体中の気孔変化を特定するための本開示に係る方法であって、固化工程の少なくとも1つの時間ステップ、好ましくは、鋳造において当該物体が完全に固化するまでの固化工程全体をシミュレーションすることで当該気孔変化を特定する方法の主要ステップを示すフローチャートである。
【0033】
開始ステップでは、少なくとも鋳造される金属物体1の幾何学的構造を規定する3Dコンピュータモデル2が提供される。この3Dコンピュータモデル2は、物体1の3Dモデルと、金属鋳造工程で液状金属が充填されるように設計された空洞の3Dモデルとのいずれか一方又は両方を含むことが可能であり、
図20B、
図20Cに図示する供給装置17及び供給補助要素18(チル又は断熱パッド等)の幾何学的構造及び位置、又は鋳型やコア等その他の部材の幾何学的構造及び位置を含んでもよい。
【0034】
次のステップでは、3Dコンピュータモデル2に基づいて解領域4が離散化され(101)、複数の3Dセル7を備えた3Dメッシュ6が生成される。
【0035】
次のステップ102では、工程固有の境界条件が指定される。このステップで入力される必要不可欠なデータには、鋳物材料及び鋳型材料の特性と、実際の鋳造で採用される工程変数(溶融金属の温度、該溶融金属のガス含有量等)と、解領域4とその近傍との間の環境又は外部境界条件と、離散化された材料間の熱伝達率と、解領域4内の材料の外側面と「仮想材料」(工程には関与するが解領域4には含まれない材料)との間の熱伝達率とが含まれる。
【0036】
上述の準備ステップに続いて、指定された工程固有の境界条件に基づき、鋳造における金属物体1の固化工程の少なくとも1つの時間ステップについてシミュレーション103が実行される。固化工程の2つ以上の時間ステップについては、後述するように、少なくとも解領域4又は解領域4の関心対象部分が完全に固化するまで反復的な方法でシミュレーションが実行される。
【0037】
シミュレーション103の結果として、より詳細に後述するように、解領域4の一部又は全体について気孔体積の変化(更に任意で気孔体積変化の位置)が計算される(107)。
【0038】
図2に示すように、シミュレーション103は、シミュレーションの開始時点t
0(任意選択により、更に時間ステップの増分dt)を設定して、反復的な方法で開始時間t
0後から最後の時間ステップまで連続した時間ステップで解領域4について一続きのシミュレーション結果を確定することにより、固化工程における多数の時間ステップについて実行されてもよい。ここでは、最後の時間ステップは、解領域4が完全に固化した時点の時間ステップとして設定される。しかしながら、一般的には、完全な固化以降(例えば、鋳造物体が所定の温度レベルを下回る温度に冷却されるまで、又は所定の時間が経過するまで)時間ステップを延長して追加的なシミュレーション結果を確定する。計算された液状部分比率分布F
lに基づいて、解領域4全体について液状部分比率f
l=0である場合に、完全に固化したと判断される。この条件が満たされない場合、例えば、設定された時間ステップの増分dtを用いてシミュレーション時間が延長され、t
i+1=t
i+dtについてシミュレーションが再度実行される。
【0039】
図3は、固化工程の1つの時間ステップについて反復されるシミュレーション103の主要ステップを示す。
【0040】
上述した準備ステップに続いて、上記指定された工程固有の境界条件102に基づいてシミュレーション103が実行される。
【0041】
反復されるシミュレーション103の各時間ステップでは、固化工程の過渡的な物理現象を表現する過渡現象方程式の解が、上記指定された境界条件を用いて、少なくとも解領域4の一部分について求められる(104)。これらの過渡現象方程式は、固化における熱交換、巨視的対流、及び相変態等の別々の物理的過程に関連してよい。これらの過渡現象方程式の解を求めた場合の重要な結果として、解領域4の少なくとも一部分について液状部分比率分布Flが計算される(105)。ここでは、各3Dセル7における液状金属の比率として液状部分比率flが規定される。
【0042】
次のステップ106では、上記で特定された液状部分比率分布Flに基づいて、少なくとも1つの供給部8(通常は少なくとも2つの供給部8)が解領域4内に設定される。それにより、相互に連結した3Dセル7であって、対応する液状部分比率がゼロより大きく(fl>0)液状部分比率勾配値がゼロではない(より大きい又は小さい)(∇fl<0又は>0)3Dセル7から成る群のそれぞれが供給部(FU)8として規定される。
【0043】
相互に連結した3Dセル7から成る群であって、各群がいずれかの隣り合う2つの供給部8を仕切り、対応する液状部分比率がゼロより大きく(fl>0)液状部分比率勾配値に対応する値がゼロである(∇fl=0)各群が、界面域9として規定される。また、残りの相互に連結した3Dセル7から成る群であって、各3Dセル7に対応する液状部分比率がゼロである(fl=0)各群が固化域10として規定される。
【0044】
換言すると、
図7に示されてもいるように、界面域9A及び9Bは液状部分比率フィールドにおける極小値であり、当該域では液状部分比率勾配∇f
lの正負符号が変化し(一方側では∇f
l>0、他方側では∇f
l<0)、よって∇f
l=0である。位置が定まったこれらの界面域9A及び9B間と、界面域9A及び9Bそれぞれと液状部分比率値がゼロ(f
l=0)であるフィールド(固化域10又はコア、鋳型、空気等の金属以外の境界)との間に、供給部8A、8B、及び8Cが設定される。
【0045】
固化域10、供給部8、その中間の界面域9が規定された後、次のステップ107では、各供給部8の気孔の体積Vi
p及び位置のうち少なくとも一方の変化が、ダルシーの法則とともに連続方程式を使用して計算される。ここで、より詳細に後述するように、気孔体積Vi
pは、基本的には、ある供給部8とそれに隣接する供給部8間の金属の流入分と流出分の総体積を計算し(107A)、各供給部8における金属の収縮を計算した(107B)結果である。
【0046】
図4は、鋳型の3Dモデル内に示された、鋳造物体の3Dモデル2にマッピングされた液状部分比率分布フィールドを示す3次元図である。この解領域4は、鋳造される物体1の3Dモデルの部分として規定される。この部分は、非金属の境界部(コア、鋳型、空気等)に隣接させることができる。解領域4内の液状部分比率値f
l>0である体積域は、より詳細に後述するように、計算領域5である。
【0047】
図5は、非常に詳細に上述したように、
図4に示すような鋳造物体1の3Dモデル2における液状部分比率分布F
lに基づいて設定された固化域10に囲まれた2つの供給部8A及び8Bと、その間の界面域9とを示す3次元図である。図示のように、供給部8は、(a)他の1つ以上の供給部につながる1つ以上の界面域9、(b)鋳型の壁部、(c)鋳物において完全に固化した固化域10、(d)大気、のうちいずれか1つ以上に囲まれることが可能である。
【0048】
図6は、金属鋳造の固化工程における所与の時点での多数の計算領域5の供給部8における気孔の体積及び位置の変化を特定する方法の詳細なステップを示すフローチャートである。上述された又は図示された対応するステップ及び特徴と同一又は類似のステップ及び特徴には、簡略化のため、上述で使用されたものと同一の符号を付す。
【0049】
上述と同様に、気孔の変化を特定する工程は、鋳造される金属物体1(又はその鋳型)の3Dコンピュータモデル2(これに基づいて解領域4が離散化され(103)、複数の3Dセル7を有する3Dメッシュ6が作成される)を提供して(
図6には不図示)、工程固有の境界条件を指定する(102)ことで開始する。
【0050】
これらの準備ステップに続いて、固化工程における少なくとも1つの時間ステップのシミュレーション(103)が、上述のように反復的な方法で実行される。
【0051】
シミュレーション(103)の最初のステップ(104)では、固化工程の過渡的な物理現象を表現する過渡現象方程式を解くことの一部として、標準的なエネルギー輸送方程式を用いて解領域4の温度分布フィールドが計算でき(1041)、温度分布を用いて固化モデル3を適用できる(1042)。温度分布フィールド及び固化モデル3のいずれか又は両方は、更に、冷却による供給部8における金属の収縮を計算する(107B)ために使用される。
【0052】
解領域4について液状部分比率flの分布フィールドを計算する(105)ことは、固化モデル3を使用することに基づいてもよい。
【0053】
次のステップ109では、液状部分比率分布Flに基づいて鋳物の解領域4を計算領域(DC)5に分割できる。ここで、各計算領域5は、液状部分比率fl>0である相互連結した3Dセル7においてつながった溶融部分により規定され、完全に固化した金属(fl=0)又は非金属境界(コア、鋳型、空気等)に囲まれている。次に、各計算領域5内で少なくとも1つの供給部8を設定してから各計算領域5内の少なくとも1つの供給部8における気孔変化を計算することにより、固化の各時間ステップについて各計算領域5別々に気孔分布の計算が実行される(110)。
【0054】
設定された各計算領域5を供給部8に細分化する次のステップ106が、上述のように、液状部分比率f
lフィールドにおける極小値を求めて、3Dセル7から成る供給部のうち隣り合う2つを分隔する界面域9の位置を定めることにより実行される。各界面域9では、液状部分比率勾配∇f
lがゼロであり、液状部分比率勾配∇f
lの正負符号が変化する(一方側では∇f
l>0、他方側では∇f
l<0)。この条件により、各計算領域5の供給部8への細分化が一意に定まる。
図7は、供給部8A、8B、及び8Cと、それらの間に位置する界面域9A及び9Bとへの計算領域5の細分化を示す簡略なグラフであり、計算領域5は、一方側で固化した金属10と隣接するとともに他方側で鋳物の鋳型と隣接する。
【0055】
次のステップ1071では、各供給部8について値が与えられるか計算される。すなわちViが各FUiの総体積として計算され、Vi
p,tが各FUiの空部分の体積(気孔)(t=0において各供給部8について初期気孔体積Vi
p,0として与えられるか、直前の時間ステップにおける気孔値に基づいて計算される)として規定され、∂Vi/∂tが現時間ステップでの冷却及び相変態による各FUiにおける体積収縮率として規定され、Piが各FUiの等価圧力として規定される。当該圧力は、対応する供給部8が外部との境界(空気)に接しているか否かに応じて、ゼロ又は大気圧に設定されてよい。
【0056】
次のステップ1074では、方法特有の供給親和性α
ijの計算が、2つの隣り合う供給部FU
i及びFU
j間を分隔する面にわたって積分された透過度をこれら2つの供給部8の等価経路長l
eq
ijで除すことにより行われる。「供給親和性」という用語は、2つの供給部8間における互いに対する供給の相対的な「容易さ」を表し、「等価経路長」は、界面域9(当該2つの供給部8間を分隔する面)と各供給部8における液状部分比率最大値と実証的液状部分比率臨界値f
l
l,critとのうちいずれか小さいほうに対応する場所との最短距離のことである。
図8に示す2次元概略図は、等価経路長の計算の背後にある原理を説明しており、供給部8A及び8C内の液状部分比率最大値に対応する「ホットスポット」11A及び11Bを示しており、
図9は、「ホットスポット」11A及び11B並びにこれら供給部8の最も高い地点12と、等価経路長l
eq
ijをl
1とl
2との和として測定することとを示す3次元図である。
図10は、液状部分比率分布F
lにおける勾配に基づく当該2つの供給部8間の界面域9(分隔面)を示す別の概略図である。
【0057】
より具体的には、次の式(1)に従って、隣り合う供給部8間の等価経路長l
eq
ijで界面域の等価面積A
eq
ijを割ることにより前記隣り合う供給部8間の供給親和性α
ijを計算できる。
【0058】
界面域9の等価面積A
eq
ijは、次の式(2)に従って、液状部分比率f
lの関数である隣り合う供給部8間の透過度K
aを当該隣り合う供給部8を分隔する界面域9(S)で積分することにより計算できる。
【0059】
等価経路長l
eq
ijは、次の式(3)に従って、界面域9と供給部8それぞれにおける液状部分比率最大値及び実証的液状部分比率臨界値f
l
critのうちの小さいほうの値に対応する場所との間の最短距離の和として規定できる。
【0060】
次のステップ1075では、次の式(4)に示すダルシーの式に従って、隣り合う供給部間の圧力差P
ijが計算できる。
【0061】
式(4)をP
iからP
jまで積分した結果は、次の式(5)で示される。
【0062】
多孔質媒体を通る液流を想定すると、圧力差P
ijは、次の式(6)に従って計算できる。
式中、
・ u
ijは隣り合う供給部8間の液状金属の流速、
・ l
ijは隣り合う供給部8間の等価経路長、
・ K
aは隣り合う供給部8間の透過度、
・ P
i及びP
jは隣り合う供給部8それぞれにおける等価圧力(初期値として、各供給部8が外部との境界空気に接しているか否かによって、ゼロ又は大気圧の値が与えられる)、
・ Δh
ijは隣り合う供給部8間における液状金属の最も高い位置の鉛直方向高低差、
・ ρは金属の密度、
・ gは重力加速度である。
【0063】
一実施形態では、隣り合う供給部8間の前記透過度K
aは、次の式(7)のとおりに、コゼニー・カルマンの式に従って、局所的な液状部分比率f
lと多孔質媒体に依存する所定の定数K
0との関数として計算できる。
【0064】
よって界面域9の等価面積A
eq
ijは、式(8)に従って計算できる。
【0065】
換言すると、ダルシーの法則の微分定式化において液流は圧力差Pijに透過度Kaを乗じた結果に比例し、この透過度は材料に依存する(より正確には、多孔質媒体に依存する)パラメータであり、低温の金属においては、通常、局所的な液状部分比率値を考慮に入れて実証的なコゼニー・カルマンの式を用いて計算される。
【0066】
しかしながら、本開示に係る方法では、透過度の代わりに親和性αijが使用される。この親和性αijは、連結する供給部8の全ての対について規定される。透過度とは違って、親和性αijは、多孔質媒体に依存するとともに供給部8の幾何学的構成にも依存する。よって、物理的には、親和性αijは2つの供給部8間の連結状態の尺度として解釈できる。親和性は、上述のとおり、2つのFUを分隔する面について積分された透過度を、当該2つの供給部8間の等価経路長で割ることにより計算される。
【0067】
界面域の等価面積Aeq
ijは、ある程度は、当該面にわたって透過度で重み付けした「重み付け」面積と考えることもできる。
【0068】
なお、コゼニー・カルマンの式は、透過度についてのモデルの1つでしかなく、他の透過度関数も使用可能である(また、使用される場合がある)。
【0069】
2つの連結したFU間の高低差Δhijは、各供給部8の最も高い位置(上述のように、液状部分比率は最も高いか、実証的液状部分比率臨界値fl
h,critを超える、いずれか小さいほうの位置)間で測定される。
【0070】
次のいくつかのステップでは、上記の計算された又は与えられた値に基づいて、方程式系Mが作られ各供給部8について解が求められる。本開示に係る方法では、この支配的な方程式系Mは、気孔変化の計算のために2つのタイプの式を含む。
【0071】
すでに気孔を有する供給部8には、式タイプAが使用される。タイプAの式では、気孔成長率∂Vi
p/∂tが未知である。式タイプBは、供給部8がまだ気孔を有していない場合に使用される。この式タイプでは、圧力Piが未知である。
【0072】
様々な供給部8に対してタイプAとタイプBの式を含む方程式系Mが作られ、その解が求められる。解を求めた後、実際の時間ステップにわたって気孔成長率を積分することにより各供給部8の気孔の変化が求められる。
【0073】
したがって、本方法は実質的に反復解法工程であり、初期状態では、全ての供給部8はタイプAに対応すると考えられる。もし、支配的な方程式系を解いて気孔が負となる供給部8がある場合、そのような供給部8に対してはタイプAからタイプBに切り替えられ、この方程式系の解が再び求められる。
【0074】
上述のように、タイプAの式では気孔体積変化率∂V
i
p/∂tは未知である。最初のステップ1072では、各供給部8における気孔体積の変化が、次の式(9)に示す式タイプAに従って計算されるように指定される。
式中、
・ ∂V
i
p/∂tは前記各供給部8における気孔体積変化率、
・ ∂V
i/∂tは前記各供給部8における冷却と相変態による体積収縮率、
・
は、前記各供給部8とそれに隣接する全ての供給部8との間における金属の流入分及び流出分の総体積である。
【0075】
図11は、1つの計算領域5における相互に連結する供給部8A、8B、8C、及び8Dと、それらの間に位置する界面域9A、9B、及び9Cとを示す3次元図であり、
図12は、上記式を指定してその解を求めるために本開示の方法で相互に連結したノードから成るグラフ状サブグリッドとして解釈された上記相互に連結する供給部8A、8B、8C、及び8Dを示す概略図である。
【0076】
次に、各供給部8について方程式Mの解が求められ(107)、初期気孔体積Vi
p,0又は直前の時間ステップにおける空部分の体積Vi
p,t-1に気孔体積変化∂Vi
p/∂tを加えることにより各供給部8における新たな気孔体積Vi
pが計算される。
【0077】
いずれかの供給部8の気孔体積V
i
pの計算結果がゼロより小さい(V
i
p<0)場合、そのような供給部8について気孔体積にゼロ(V
i
p,0=0)を与える(1073)とともに式タイプAを式タイプBに置き換えることにより、再び方程式系Mの解が求められる。式タイプBは、次の式(10)として示す。
式中、
・ ∂V
i/∂tは各供給部8における体積収縮率、
・
は隣接する供給部8全てから各供給部8への金属流入分の総体積、
・
は各供給部8から隣接する供給部8全てへの金属流出分の総体積である。
【0078】
この式タイプBでは、等価圧力P
iが未知と考えられる。換言すると、これら2つの式タイプは、
図6に示すように、ある時間ステップにおける最終的な気孔変化を計算するために共に使用される。
【0079】
図13A~
図13Cは、鋳物が固化する間に計算領域5の数と供給部8とが動的に変化する様子を更に示す。
【0080】
各供給部8の気孔体積V
i
pが計算されると、工程のステップが終了するか、最後のステップ108において、当該供給部8における液状部分比率最大値f
l,maxと経験値として特定された材料依存の液状部分比率値f
l,0とを比較することにより、気孔値が正である各供給部8における気孔変化の位置が判定される。供給部8において最大の液状部分比率がf
l,0より大きい場合、気孔(気孔体積の変化)は、供給部8の最上部(最も高い位置)12に位置付けられる、そうでない場合、ホットスポット11(液状部分比率値f
lが最大である位置)の中心に位置付けられる。材料依存の液状部分比率値は、20%<f
l,0<95%の範囲を取ってよい。例えば、材料に共晶黒鉛を含む鋳鉄では、f
l,0の値は85~90%程度を取る。そのようにして判定された気孔位置の例を、
図14及び15に示す。
【0081】
図16は、上述の方法に係る、金属鋳造工程の任意の時点におけるシミュレーション結果13を確定してユーザ15に提供する動作の主要ステップを示すフローチャートである。
【0082】
最初のステップ201では、解領域4全体について少なくとも1つのシミュレーション結果13が確定されるが、当該結果は、ステップ107及び108について上述したように、各供給部8における気孔体積V
i
pの計算結果を示し、更に任意選択で気孔体積の位置を示してもよい。しかしながら、気孔変化を含まずにユーザ15にとっての有益な情報を示すシミュレーション結果が確定されてよい。シミュレーション結果13は、ユーザ15に数値情報として提供されること、又は3Dコンピュータモデル2にマッピングされて(203)からユーザインタフェース機器24を介してユーザ15に提供される(202)ことが可能である(
図15に示すシミュレーション結果13等)。
【0083】
しかしながら、ほとんどの場合、金属鋳造工程の所与の時点についての1つのシミュレーション結果13は、要求されるシミュレーション出力の一部に過ぎない。金属鋳造工程の結果として気孔欠陥の体積及び位置を効果的に計算し正確に予測するため、また更に、工程で必要になる何らかの調整を決定できるように、鋳造工程の開始から終了までの全体を対象とする時間的に一続きのシミュレーション結果が必要である。
【0084】
図17は、そのような一続きのシミュレーション結果13を確定しユーザ15に提供する動作の主要ステップを示すフローチャートである。
【0085】
最初のステップ2011では、金属鋳造工程のシミュレーションについて開始時点t=t0が定められ、更に任意選択で時間ステップの増分dtが定められる。この時間ステップの増分dtは固定値であってもよいし、シミュレーションの間に動的に調整されてもよい。一旦これらの値が設定されると、上述のようにシミュレーションが実行され、鋳造工程の開始時点t=t0について供給部8における気孔の体積Vi
p及び位置の変化が計算された結果に基づいて解領域4全体についてシミュレーション結果13が確定される。次に、例えば、設定された時間ステップの増分dtを用いて時間がti+1に進み、シミュレーション結果13が、鋳造工程の時間ステップti+1=ti+dtにおける解領域4全体について再度確定される。この時、上述のとおり、空部分の体積(気孔)分布Vp,tは直前の時間ステップのものが使用される。このようにして、解領域4についての一続きのシミュレーション結果13が、開始時点t0から最後の時間ステップまで連続した時間ステップにおいて確定される。いくつかの実施形態では、最後の時間ステップは、計算された液状部分比率flの分布に基づいて、解領域4全体について液状部分比率fl=0である時間ステップとして設定される。また、別のいくつかの実施形態では、完全な固化後、例えば、鋳造物体が所定の温度レベルを下回る温度に冷却されるまで、又は所定の時間が経過するまで時間ステップを延長して追加的なシミュレーション結果が確定される。
【0086】
この一連のシミュレーション結果13は、次に、数値情報としてユーザ15に提供する(202)こと、又は3Dコンピュータモデル2にマッピングされて(203)からユーザインタフェース機器24を介してユーザ15に提供する(202)ことができる。
【0087】
図13A~
図13Cは、そのような例示的な一連のシミュレーション結果13の図示により、鋳物が固化する間に計算領域5の数と供給部8とが動的に変化する様子を示す。
【0088】
図18に示すように、本開示に係る方法の別の考え得る実施形態では、ユーザが上述のシミュレーション処理を調整することにより鋳造工程を最適化するために追加的なステップを含むことができる。
【0089】
考え得る一実施形態では、シミュレーション結果13が算出された後、供給部8のうち少なくとも1つにおける気孔の体積Vi
p及び位置の計算結果に少なくとも部分的に基づいて、収縮による少なくとも1つの気孔欠陥14が特定される(204)。これにより、鋳造される物体1の品質予測が可能となる。
【0090】
図15は、特定されて鋳造物体1の3Dモデル2上にマッピングされた気孔欠陥14を有するそのようなシミュレーション結果13を示し、
図19は、特定されて金属鋳造物体1の3Dモデル2上にマッピングされた、シミュレーション結果13に基づく気孔欠陥14を、同じ幾何学的構造を持つ複数の金属物体1の試験的な鋳物と比較して示す図である。
【0091】
別の考え得る実施形態では、
図20A~20Cに示すように、シミュレーション結果13及び上記気孔欠陥14(
図20A参照)のいずれか一方又は両方を知ることで、気孔の位置を変更する(
図20B参照)又は気孔を最小化若しくは完全に除去する(
図20C参照)目的で、供給部8のうち少なくとも1つにおいて算出された気孔の体積V
i
p及び位置に少なくとも部分的に基づいて、供給装置17及び供給補助要素18(チル、断熱パッド、又は発熱材料等)のいずれか一方又は両方について最適化された少なくとも1つの位置を、シミュレーション処理の一部として、金属鋳造工程で使用されるように特定することができる(205)。
【0092】
別の考え得る実施形態では、シミュレーション結果13及び上記気孔欠陥14のいずれか一方又は両方を知ることで、シミュレーション処理によってユーザ入力16が提供されて受け付けられる(206)。ユーザ入力16は、少なくとも1つの3Dコンピュータモデル2について修正した特性と、金属鋳造工程で使用される少なくとも1つの供給装置17又は供給補助要素18の位置とのいずれか一方を含む。次に、上記修正した特性に基づいて再計算された各供給部8内の気孔の体積Vi
p及び位置に基づく金属鋳造工程について、少なくとも1つの更新されたシミュレーション結果13Aがユーザ入力16に基づいて確定され(201A)、当該更新されたシミュレーション結果13Aがユーザ15に提供されて(202A)、更なる検討に使用される。これらの追加的調整ステップは、気孔欠陥14を最小化又は除去する又は鋳造される金属物体1において気孔欠陥14の位置をより構造的に影響の少ない位置に変更することに帰結する反復的な工程を支援することができる。
【0093】
図21は、本開示に係るコンピュータベースのシステム20であって、鋳造金属物体1内の気孔を特定するシステム20のハードウェア構成の一例を示す概略ブロック図である。
【0094】
コンピュータベースのシステム20は、上記の考え得る実施形態に係る方法を当該コンピュータベースのシステム20に実施させる指示を実行するように構成された1つ以上のプロセッサ(Central Processing Unit:CPU)21を備えてもよい。
【0095】
前記コンピュータベースのシステム20は、CPU21により実行されるプログラム製品23の一部としてソフトウェアベースの指示を格納するコンピュータ可読記憶媒体22を備えてもよい。
【0096】
コンピュータベースのシステム20は、また、アプリケーション及び処理のデータを(一時的に)格納するように構成されたメモリ27を備えてもよい。
【0097】
コンピュータベースのシステム20は、システム20とユーザ15との間に、ユーザ15から入力を受け取る入力インタフェース(キーボード、マウス等)26と、ユーザ15に情報を伝達するための電子表示機器等の出力機器25とを備える、ユーザインタラクション用のユーザインタフェース機器24を更に備えてよい。
【0098】
コンピュータベースのシステム20は、直接的に又はコンピュータネットワークを介して間接的に外部の機器と通信するための通信インタフェースを更に備えてよい。
【0099】
コンピュータベースのシステム20に内蔵される上記のハードウェア要素は、データ通信及びデータ処理動作に対応するように構成された内部バス28を介して互いに接続されてもよい。
【0100】
コンピュータベースのシステム20は、上述のシミュレーションの入力として使用されるデータ(鋳造材料の材料特性、実験データ等)を格納するように構成されたデータベースに接続されてもよく、その場合、以下に説明するように、両者間の接続には直接的又は間接的な形態を採ることができる。コンピュータベースのシステム20と当該データベースとは、内部バス28を介して相互に接続されて同一の物理的装置に含めることができる。あるいは、物理的に異なる機器に含めて、通信インタフェースを介して直接的に、又はコンピュータネットワークを経由して間接的に相互接続することができる。
【0101】
本開示では、実施形態とともに種々の態様及び実装形態を説明した。しかしながら、同業者であれば、請求項に記載の内容を実施する際に図面、本開示、及び添付の請求項を検討することにより開示された実施形態に対するその他の変形を理解して実施できる。請求項では、「含む」という語はその他の要素又はステップを排除するものではなく、「1つの」は複数を排除するのもではない。単体のプロセッサ又は他の機能部が、請求項に記載の複数の項目の機能を実現してよい。所定の手段のそれぞれが異なる従属請求項に記載されているという事実があったとしても、それだけでは、それらの手段の組合せが有利に利用できないことを示すわけではない。コンピュータプログラムは、ハードウェアとともに又はハードウェアに含まれて提供される光学的記憶媒体又はソリッドステート媒体等の好適な媒体上において格納や配布がなされてよく、インターネット又はその他の有線又は無線の遠隔通信システム等を経由する等のその他の形態で配布されてもよい。
【0102】
請求項で使用される符号は、範囲を限定するものと解釈されるべきではない。