(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】用量中断フェイル・セーフを備えた注射デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
A61M5/315 550R
(21)【出願番号】P 2021525365
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 EP2019067347
(87)【国際公開番号】W WO2020015980
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-01-19
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510199605
【氏名又は名称】メドミクス スウィッツァランド アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケイテル、ヨアキム
(72)【発明者】
【氏名】ベックトールト、ヘルベルト
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-507314(JP,A)
【文献】特表2013-511300(JP,A)
【文献】特表2020-526323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半径方向の突出部(145)と第2の半径方向の突出部(146)とを備え、前記第1の半径方向の突出部(145)は、フレキシブル・アーム(145a)上に配置される、スナップ・エレメント(133)と;
用量ノブ(31)と;
フローティング・スプライン(134)であって、フローティング・スプライン(134)は、前記スナップ・エレメント(133)の外側表面の上に位置決めされており、前記スナップ・エレメント(133)が、前記フローティング・スプライン(134)に対して回転することができるようになっているが、前記外側表面の上に軸線方向に固定されている、フローティング・スプライン(134)と;
所定の固定用量設定の有限のセットに対応する用量ストップ(55)を有する内側表面を含む用量セレクター(135、235)であって
、フローティング・スプライン(134)の近位端部は、用量セレクター(135、235)の対応するスロット(135d)に係合する1つ又は複数の半径方向外向きに突出するリブ(134b)を備える、用量セレクター(135、235)と;
突出するリブ(156、256)を含むフェイル・セーフ・メカニズムであって、前記突出するリブ(156、256)は、前記用量セレクター(135、235)の前記内側表面の上に円周方向に位置決めされており、注射の間にユーザーが前記用量ノブ(31)を解除し、前記用量ノブ(31)に働かされる軸線方向の近位力が低減されるときに、圧縮スプリング(91)が、突出するリブ(156、256)を前記スナップ・エレメント(133)の第1の半径方向の突出部(145)に押圧するようになっている、フェイル・セーフ・メカニズムと
を含む、用量設定メカニズム。
【請求項2】
前記突出するリブ(156)は、それぞれの用量ストップ(55)に隣接してカット・アウトを有しており、前記カット・アウトは、前記突出するリブ(156)が前記第1の半径方向の突出部(145)に対して軸線方向に移動することを可能にする、請求項1に記載の用量設定メカニズム。
【請求項3】
前記突出するリブ(256)は、それぞれの用量ストップ(55)に隣接して低減されたセクションを有しており、前記低減されたセクションは、前記突出するリブ(256)が前記第1の半径方向の突出部(145)に対して軸線方向に移動することを可能にする、請求項1に記載の用量設定メカニズム。
【請求項4】
低減されたセクションは、傾斜した表面を含み、前記傾斜した表面は、前記第1の半径方向の突出部(145)に係合し、前記低減されたセクションが用量送達の間に前記第1の半径方向の突出部(145)に対して軸線方向に移動することを可能にする、請求項3に記載の用量設定メカニズム。
【請求項5】
前記突出するリブ(156、256)は、摩擦表面を含む遠位向き表面を有している、請求項1に記載の用量設定メカニズム。
【請求項6】
前記摩擦表面は、複数の溝部を含む、請求項5に記載の用量設定メカニズム。
【請求項7】
前記第1の半径方向の突出部(145)は、前記軸線方向の近位力が低減されるときに前記複数の溝部に係合するクリッカー(145b)を含む、請求項6に記載の用量設定メカニズム。
【請求項8】
前記第1の半径方向の突出部(145)は、遠位向きの面取り(145c)を有している、請求項1に記載の用量設定メカニズム。
【請求項9】
前記フローティング・スプライン(134)は、スプリット・リングとして形状決めされた単一のコンポーネントである、請求項1に記載の用量設定メカニズム。
【請求項10】
用量ノブ(31)と;
用量セレクター(135、235)と;
前記用量セレクター(135、235)の内表面の上に円周方向に位置決めされている半径方向に突出するリブ(156,256)と;
第1の半径方向の突出部(145)及び第2の半径方向の突出部(146)を含むスナップ・エレメント(133)であって、前記第1の半径方向の突出部(145)は、フレキシブル・アーム(145a)上に配置され
且つ前記半径方向に突出するリブ(156、256)の遠位側に位置付けされている歯(154)と係合するクリッカーを備える、スナップ・エレメント(133)と
を含む、用量設定メカニズムであって、
注射の間にユーザーが前記用量ノブ(31)を解除し、圧縮スプリング(91)が、突出するリブ(156、256)の前記第1の半径方向の突出部(145)への押圧を生じるときに、前記第1の半径方向の突出部(145)と前記半径方向に突出するリブ(156、256)との係合は、前記用量セレクター(135、235)の遠位軸線方向の移動を防止する、用量設定メカニズム。
【請求項11】
前記半径方向に突出するリブ(156、256)は、カット・アウト(56a)をさらに含み、前記カット・アウト(56a)は、所定の固定用量設定の有限のセットのうちの1つに対応する用量ストップ(55)とアライメント状態で位置決めされている、請求項10に記載の用量設定メカニズム。
【請求項12】
前記第1の半径方向の突出部(145)は、前記第2の半径方向の突出部(146)と軸線方向のアライメント状態になっている、請求項10に記載の用量設定メカニズム。
【請求項13】
前記半径方向に突出するリブ(156、256)は、前記第2の半径方向の突出部(146)に係合し、前記第1の半径方向の突出部(145)が前記用量ストップ(55)と係合されていないときに、前記用量セレクター(135、235)の近位軸線方向の移動を防止する、請求項11に記載の用量設定メカニズム。
【請求項14】
前記用量セレクター(135、235)は、前記第2の半径方向の突出部(146)が前記半径方向に突出するリブ(156、256)の中のカット・アウトと整合させられているときにのみ、用量送達を開始させるために近位方向に移動する、請求項10に記載の用量設定メカニズム。
【請求項15】
前記半径方向に突出するリブ(156、256)は、複数のカット・アウト(56a)を含み、前記複数のカット・アウト(56a)は、前記用量セレクター(135、235)の内表面の上に位置決めされている複数の用量ストップ(55)に軸線方向に整合させられており、それぞれの用量ストップ(55)は、所定の固定用量設定の有限のセットのうちの1つに対応している、請求項10に記載の用量設定メカニズム。
【請求項16】
前記用量セレクター(135、235)は、前記第2の半径方向の突出部(146)が前記半径方向に突出するリブ(156、256)の前記カット・アウト(56a)と整合させられているときにのみ、用量送達の間に遠位方向に移動することが可能である、請求項10に記載の用量設定メカニズム。
【請求項17】
前記用量ノブ(31)は、前記第1の半径方向の突出部(145)が前記用量セレクター(135、235)の前記用量ストップ(55)のうちの1つと係合されているときにのみ、前記スナップ・エレメント(133)に対して軸線方向に移動することが可能である、請求項15に記載の用量設定メカニズム。
【請求項18】
前記第2の半径方向の突出部(146)は、前記用量ノブ(31)が用量送達の間に解放されている場合には、前記半径方向に突出するリブ(156、256)の近位側部に当接することとなる、請求項10に記載の用量設定メカニズム。
【請求項19】
前記用量セレクター(135、235)は、最大用量ハード・ストップ(55c)をさらに含む、請求項10に記載の用量設定メカニズム。
【請求項20】
前記用量セレクター(135、235)は、ゼロ用量ハード・ストップ(55d)をさらに含む、請求項10に記載の用量設定メカニズム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、注射デバイスに関し、とりわけ、注射デバイスの用量設定メカニズム(dose setting mechanism)に関し、そこでは、ユーザーは、用量設定メカニズムの単一のコンポーネントの設計及び製造の直接的な結果として、1つ又は複数の所定の固定用量設定を選択することが可能である。用量設定メカニズムのこの単一のコンポーネントの設計を変化させることは、特定の投薬レジメのためにカスタムメイドされ得る、及び/又は、用量範囲評価(dose-ranging evaluations)において使用され得る、注射デバイスの効率的な製造を可能にする。
【背景技術】
【0002】
米国特許公開第2011/0098658号公報は、所定の投与量の液剤を注射するための注射装置を開示している。装置は、投与量設定機構の作動に応じて、互いに対して、角度で移動可能なモード設定要素を備えている。モード設置要素は、投与量を設定するための第1の位置と注射のための第2の位置との間の相互の軸方向の移動が、制限された数の相互の角度位置でのみ可能であるように形づくられ、個々の角度位置は、所定の投与量の液剤の設定に対応している。
米国特許公開第2016/0220759号公報は、選択的に固定された、又は可変の投与量の注射装置を示している。
米国特許公開第2012/0157931号公報は、予め設定された回数の投与量を送達するための薬剤送達装置を示す。装置は、投与量の注射をサポートするためのエネルギー貯蔵手段を備える。
自動的に、半自動的に、又は手動で薬剤の用量を送達することができる複数の薬剤送達デバイスが市場に存在している。知られているタイプの送達デバイスのうち、「ペン型」注射器が人気を得ており、再使用可能な設計及び使い捨ての設計の両方で利用可能である。そのようなデバイスは、用量設定メカニズムを備えて構築されており、用量設定メカニズムは、たとえば、用量を設定すること、及び、次いで設定用量を送達することなど、所望の機能を取得するためのさまざまな相互作用するコンポーネントを含む。ほとんどのケースにおいて、これらの薬剤送達デバイスは、1つだけの又は2つの単一固定用量設定又は可変用量設定を有しており、そこでは、それぞれの可能な設定用量は、最も低い可能な設定用量の倍数でなければならない。換言すれば、これらの既存の可変用量注射デバイスは、最も低い可能な用量の分数である用量が設定されることを許容しない。
【0003】
複数のタイプのペン型注射器設計が、デバイスの遠位端部に位置付けされている用量設定メカニズムと、近位端部に位置付けされている薬剤コンテナ(たとえば、カートリッジなど)とを有している。知られている注射器設計は、典型的に、複数の(可変)用量デバイスであり、それは、ユーザーが0と最大の許容可能な設定可能な用量との間で用量を選択(ダイアル)することが可能であるということを意味している。用量ダイアル・スリーブが、典型的にそれぞれの可能なインクリメント用量設定に対応する可能な用量設定の範囲とともにプリントされている。たとえば、注射器が80国際単位(IU)の最大用量設定によって設計及び製造されている場合には、それぞれのインクリメント設定可能な用量は、1IUだけ異なっている。異なる言い方をすれば、60IUの用量を設定するために、ユーザーは、それが60IUを示すまで、それぞれのインクリメント用量を示す用量ダイアル・スリーブ・マーキングを見ながら、60の可能な用量設定を通して用量設定ノブを回転させることとなる。当然のことながら、特に、ユーザーが身体に障害がある場合には、たとえば、低下した視力又は深刻な関節炎の場合には、ユーザーが59IUの過少量投与又は61IUの過剰投与を事故的に設定することを防止するものは何も存在しないこととなる。
【0004】
述べられているように、いくつかの注射デバイスは、いわゆる固定用量設計として製造及び設計されており、用量ダイアル・スリーブは、1つだけの又は2つの用量を表す印刷を含有している。これらのデバイスがユーザーのためにある背景にある設計思想は、固定用量設定のうちの1つが(典型的に、注射器ハウジングのウィンドウの中に)観察されるまで、ユーザーが用量設定ノブを回転させるということである。しかし、そのような注射器設計では、ユーザーは、固定用量設定の印がウィンドウの中に観察されるまで、個々の等しいインクリメント用量設定を通してステップすることを依然として要求される。用量設定メカニズムはそれぞれのインクリメント用量設定を通して物理的にステップすることをユーザーに要求するので、固定用量設定よりも少ないか又は多い用量においてユーザーが停止することを防止するものは何も存在していない。加えて、用量設定メカニズムがそれぞれのインクリメント用量を通してダイアルされ、最終的な用量設定に到着するときに、ユーザーは、触覚的な通知又は可聴通知を経験することとなる。
【0005】
既存の注射器設計の別の欠点は、単一のインクリメント値の倍数ではない固定用量を有することができないということである。換言すれば、注射器が80IUの最大設定可能な用量によって設計されている場合には、典型的にそれぞれのインクリメント用量は、1IUであることとなる。そうであるので、2.3IUの用量を設定することは可能でないこととなる。ユーザーは、2IU又は3IUの用量だけを設定することができるに過ぎない。別の言い方をすれば、端数の用量は、そのような用量設定メカニズムによって設定されることができない。端数の用量を設定する能力は、特に、新たに開発された薬剤に関して、及び/又は既存の薬剤を初めて使用する新しい患者に関して、最適な用量を決定しようとする研究の間に重要である。
【0006】
患者使用のために利用可能な多くの薬物送達デバイスが存在しているが、1つ又は複数の所定の固定用量を送達することができる注射器を利用可能にする必要性が明確に存在しており、そこでは、所定の固定用量のうちの少なくとも1つが、第2の所定の固定用量の端数の量になっている。複数の所定の固定用量のうちの1つではない用量をユーザーが設定及び/又は送達することができないペン型注射器の利用可能性も重要な目標である。そして、所定の固定用量を変更又は変化させるために、用量設定メカニズムの単一の機械的なコンポーネントだけが再設計及び製造されることを必要とする注射器設計を有することが非常に望ましい。これは、特定のユーザーに特別に調整された薬剤の1つ又は複数の効果的な用量の注射を可能にするように、患者にとって容易にカスタマイズされ得る注射デバイスのコスト効率の良い製造を可能にすることとなる。
【0007】
下記に提示されている本開示は、既存の薬剤送達デバイスによって、上述の問題を解決し、上記の述べられているニーズ及び要件を満たす注射器設計を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、1つ又は複数の端数の所定の固定用量設定によって注射デバイスが設定されることを可能にする複数の用量設定メカニズム設計を提示する。また、本設計は、意図しない用量、すなわち、所定の固定用量設定のうちの1つ以外の用量の設定を防止することが可能である。用量設定設計は、注射デバイスを製造するコスト効率の良い方式を提供する。その理由は、1つ又は複数の異なる所定の固定用量を有する完成した注射デバイスを提供するために、単一のコンポーネントだけが再設計及び製造される必要があるからである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの実施例では、用量設定メカニズムは、フローティング・スプラインと、用量ノブと、用量セレクターと、スナップ・エレメントとを含む。フローティング・スプラインは、スナップ・エレメントと回転方向に係合されており、スナップ・エレメントは、スプラインの固定セットを有している。フローティング・スプラインは、用量設定及び用量送達の間に用量セレクターの上のスプラインの対応するセットと係合されている。フローティング・スプラインは、複数の長手方向に延在するスプラインを含み、複数の長手方向に延在するスプラインは、用量送達の間に用量ノブの上のスプラインと係合されているが、用量設定の間にそのように係合されていない。また、フローティング・スプラインは、スナップ・エレメントに対して軸線方向に固定され得る。
【0010】
スナップ・エレメントは、用量設定及び用量送達の両方の間に、フローティング・スプライン及び用量セレクターに対して回転する。これは、用量セレクターの内側表面の上の対応するスプラインを通して、フローティング・スプラインが用量セレクターに回転方向に固定されているということに起因している。用量セレクターは、スプライン接続を通してハウジングに回転方向に固定されているので、フローティング・スプラインと用量セレクターの内側表面の上のスプラインとの係合及び噛み合いは、用量設定及び用量送達の間の本体部に対するフローティング・スプラインの回転を防止する。また、スナップ・エレメントは、フレキシブル・アームを備えて構成されており、フレキシブル・アームは、半径方向に延在する突出部を有しており、半径方向に延在する突出部は、好ましくは、外向きに突出しており、用量セレクターの内側表面の上に位置付けされている複数の用量ストップに係合する。これらの用量ストップは、好ましくは、成形プロセスを通して、互いから半径方向に離れるように間隔を置いて配置されるように設計及び製造されており、それらが有限の所定の固定用量のセットを画定するようになっている。所定の用量のうちの1つの設定の間に、スナップ・エレメントは、用量セレクターに対して回転させられ、スナップ・エレメントの上の突出部が用量ストップのうちの1つと係合してその上をトラベルすることを引き起こす。突出部が用量ストップの上をトラベルし、回転が停止されると、スナップ・エレメントのこの位置は、送達のための薬剤の単一固定用量を画定する。有限の所定の固定用量のセットは、最も低い固定用量及び1つ又は複数のより高い固定用量を含む。
【0011】
用量セレクターの内側表面の上の用量ストップ同士の間の距離は、1つ又は複数のより高い固定用量が最も低い固定用量の偶数倍に等しくならないように設計及び製造され得る。これは、最も低い固定用量の端数の量を含む固定用量設定を結果として生じさせる。別の言い方をすれば、用量ストップ同士の間の距離は、1つ又は複数のより高い固定用量のうちの少なくとも1つが最も低い固定用量に最も低い固定用量の端数の量を加えたものに等しくなるように製造され得る(すなわち、事前に決定される)。これは、現在知られている用量設定メカニズムによっては可能でない。
【0012】
有限の所定の固定用量は、用量ストップの数及び用量ストップ同士の間の相対的な間隔のみによって画定され、それらの用量ストップは、用量設定メカニズムの単一のコンポーネント(すなわち、用量セレクター)の上に独自に位置付けされているので、これは、用量設定メカニズムの任意の他のコンポーネントを製造することなく、有限の所定の固定用量のセットを変化させるために効率的なコスト効率の良い方法を提示する。換言すれば、第2の用量セレクターの製造を結果として生じさせるために、用量セレクターの設計だけが変化させられる必要があり、第2の用量セレクターは、次いで、注射デバイスの組み立ての間にオリジナルの用量セレクターを交換することが可能である。用量設定メカニズムの他のコンポーネントは交換を必要としない。いくつかのケースでは、用量スリーブの上に出現する印刷は変化させられてもよいが、用量スリーブの設計及び製造は同じままである。用量ストップの異なる配置を有する第2の用量セレクターとオリジナルの用量セレクターとの交換は、有限の所定の固定用量の異なるセットを有する用量設定メカニズムを結果として生じさせる。
【0013】
用量セレクターとスナップ・エレメントとの間の空間的な関係は、用量設定と用量送達との間で変化する。スナップ・エレメントと用量セレクターとの間に、第1の固定された相対的な軸線方向の位置が存在しており、それは、用量設定の間に起こり、また、第2の固定された相対的な軸線方向の位置が存在しており、それは、用量送達の間に起こる。第1の固定された位置において、突出部は、用量ストップに係合することが可能である。しかし、第2の固定された位置において、突出部は、用量ストップに係合することができず、第1の固定された相対的な位置は、用量設定の間に実現され、第2の固定された相対的な位置は、用量送達の間に実現される。用量送達の完了時に、突出部は、注射終了バンプと係合してその上をトラベルすることが可能であり、送達が完了したという触覚通知及び/又は可聴通知をユーザーに提供する。
【0014】
上述のように、本開示の用量設定メカニズムは、所定の固定用量のうちの1つ以外の用量(すなわち、いわゆる意図しない用量)をユーザーが設定することを防止する機能的で構造的な特徴を含むことが可能である。本開示のこのフェイル・セーフ特徴は、用量設定手順の間にスナップ・エレメントに逆回転力を働かせる付勢部材を使用することによって、所定の固定用量の有限のセットのうちの1つ以外の用量の設定を防止する。付勢部材は、用量スリーブとの接続を通してスナップ・エレメントに動作可能に接続されているトーション・スプリングであることが可能である。トーション・スプリングが用量設定メカニズムの中に組み込まれているときには、それは、組み立ての間に所定のトルクまで付勢されている。トルクは、スナップ・エレメントに力を働かせ、用量設定の間に、ユーザーが用量ノブをダイアルするか又は回転させることによって、スナップ・エレメントが、ユーザーによって印加される回転力に抵抗するように促されるようになっている。この逆回転トルクは、用量ノブの回転の間にユーザーによって容易に克服されるが、ユーザーが何らかの理由のために用量ノブを解放したとすれば、トルクは、ノブ及びスナップ・エレメントが反対側方向に回転することを引き起こすこととなる。そのような事象において、トルクは、好ましくは、スナップ・エレメントを逆回転させるのに十分になっており、突出部が以前の用量ストップに戻って係合することとなるようになっている。いくつかの場合において、付勢部材を使用することが望ましい可能性があり、付勢部材は、スナップ・エレメントを逆回転させることとなり、突出部がゼロ用量ハード・ストップへトラベルして戻ることとなるようになっている。突出部が以前の用量ストップよりも高い固定用量に対応する次の用量ストップに係合してその上をトラベルするように、ユーザーが用量ノブ及びスナップ・エレメントを十分に回転させない場合には、フェイル・セーフ特徴が作用し始めることとなるだけである。用量ノブが用量設定の間に回転させられ、スナップ・エレメントが連続的な用量ストップに係合するとき、トーション・スプリングによって働かされるトルクが増加する。
【0015】
いくつかの場合において、スナップ・エレメントを次に最も低い用量ストップまで逆回転させるのに十分なトルクだけを働かせる付勢部材を選択することが望ましい可能性がある。そのようなケースでは、付勢部材は、用量送達手順の間に任意の機械的な支援をユーザーに追加しないこととなる。また、用量送達の間に逆回転力を通した機械的な支援が実現され、本質的により少ないトルクを備えた付勢部材を使用して必要とされることとなるよりも少ない軸線方向の力をユーザーが印加する必要があるように、用量設定の間に十分なトルクを発達させる付勢部材を選択及び使用することが望ましい状況が存在している可能性がある。
【0016】
用量ノブは、用量ノブの内側表面の上に位置付けされている1セットのスプラインを通して、スナップ・エレメントに動作可能に接続されている。これらのスプラインは、用量設定の間にスナップ・エレメントの外側表面の上のスプラインの固定セットと係合して噛み合う。用量設定の間の用量ノブの回転は、スナップ・エレメントの回転及び軸線方向の移動を引き起こし、また、用量セレクターの軸線方向の遠位移動だけを引き起こす。スナップ・エレメントは、ハウジングに対して遠位方向に軸線方向に並進する。その理由は、スナップ・エレメントが用量スリーブに回転方向に固定されており、そして、用量スリーブがハウジングの内側表面にネジ式に接続されているからである。用量セレクターは、ハウジングに対して回転しない。その理由は、それがハウジングにスプライン接続されており、それがハウジングに対して軸線方向に移動することができるのみであるからである。用量ノブは、用量セレクターに軸線方向に固定されているが、用量セレクターに対して回転することが可能であり、用量ノブ、用量セレクター、用量スリーブ、及びスナップ・エレメントが、すべて、用量設定及び用量送達の両方の間にハウジングに対して軸線方向に移動するようになっている。
【0017】
スナップ・エレメントは、スナップ・エレメントの外側表面に取り付けられている第2のセットのスプラインを有している。この第2のセットのスプラインの又はフローティング・スプラインは、用量設定メカニズムの別個のコンポーネントであり、スナップ・エレメントの一体パーツではなく、すなわち、それらは、スナップ・エレメントに回転方向に固定されていない。フローティング・スプラインは、好ましくは、フリー・ホイーリングの方式でスナップ・エレメントの外側表面の周りに円周方向に位置付けされており、フローティング・スプラインがハウジングに対して回転方向に固定されているときに、スナップ・エレメントがフローティング・スプラインの中で又はフローティング・スプラインに対して回転することとなるようになっている。フローティング・スプラインは、互いから等しく間隔を離して配置された複数の半径方向の突出する長手方向のスプラインを備えて構成されている。これは、用量セレクターの内側表面の上の用量ストップとは対照的であり、用量セレクターにおいて、用量ストップ同士の間のスペースは等しくなっている必要がない。しかし、用量ストップのそれぞれの間のスペースは、フローティング・スプライン・コンポーネントの半径方向に突出する長手方向のスプラインのそれぞれの間のスペースの倍数になっている。
【0018】
設定用量を送達するために、ユーザーは、ハウジングに対して近位方向に軸線方向の力を用量ノブに働かせることとなる。この軸線方向の力が停止される場合には、中止された用量送達状況が生じる可能性がある。本開示の用量設定メカニズムは、第2のフェイル・セーフ特徴を含有しており、中止された用量送達状況に関連付けられる起こり得る問題を防止する。より詳細に下記に説明されることとなるように、用量送達手順の開始は、最初に、用量ノブ及び用量セレクターの軸線方向の移動を伴い、用量セレクターは、用量ノブに軸線方向に固定されている。また、用量ノブのこの軸線方向の移動は、スナップ・エレメントの上の固定スプラインからの用量ノブの上のスプラインの解除を引き起こす。この解除は、用量設定手順の間に存在する用量ノブとスナップ・エレメントとの間の回転方向に固定された関係を除去する。用量送達手順の開始の間に起こる用量ノブ及び用量セレクターの近位軸線方向の移動は、ハウジングに対するものであり、少なくとも最初は、スナップ・エレメントに対するものである。用量セレクターの軸線方向の近位移動は、スナップ・エレメントの上の突出部との半径方向のアライメント状態から用量ストップが移動することを引き起こす。用量ノブ及び用量セレクターは、第2の付勢部材によってスナップ・エレメントに対して遠位方向に付勢されており、第2の付勢部材は、好ましくは、圧縮スプリングである。用量設定の間に、この第2の付勢部材は、用量ノブの上のスプラインがスナップ・エレメントの上の固定スプラインと係合されることを保証する。しかし、用量送達の間に、第2の付勢部材によって働かされる遠位に方向付けられた付勢力は、用量ノブに対するユーザーの近位に方向付けられた軸線方向の力によって克服され、したがって、スプラインの解除を可能にする。
【0019】
述べられているように、用量送達の間に、ユーザーは、逆向きの軸線方向の力を近位方向に働かせ、用量ノブ及び用量セレクターをスナップ・エレメントに対して軸線方向に移動させる。注射が中止され、近位方向への軸線方向の力が除去されるか又は十分に減少される場合には、第2の付勢部材は、用量セレクターを遠位方向に戻るように促すこととなり、突出部及び用量ストップがアライメント状態に戻ることを引き起こし、及び、用量ノブの上のスプラインがスナップ・エレメントの上の固定スプラインに再係合することを引き起こす。スナップ・エレメントが第1の付勢部材から逆回転力を受けるので、これは、設定用量を意図しない恐らく未知のより低い量まで低減させることとなる方向に、スナップ・エレメント及び用量ノブの両方が回転することを引き起こす傾向があることとなる。別の言い方をすれば、スナップ・エレメントの逆回転は、突出部が回転して次のより低い所定の用量ストップに係合することを引き起こすこととなる。より詳細に下記に説明されることとなるように、スナップ・エレメントの回転は、また、ピストン・ロッドと係合されているナットの回転を引き起こし、ここで、ピストン・ロッドに対するナットの位置は、送達されることとなる薬剤の量に正比例している。中止された注射状況においてスナップ・エレメントの逆回転を可能にすることは、ユーザーによって決定されない可能性のある量によって、意図した以前の設定用量を低減させるように作用し、したがって、投薬状況下において潜在的に危険な状態を結果として生じさせる。
【0020】
本開示の用量設定メカニズムの第2のフェイル・セーフ特徴は、さまざまな設計で実現され得、好ましくは、半径方向に突出する円周方向のリブの使用を伴い、半径方向に突出する円周方向のリブは、スナップ・エレメントの上の第1の突出部又は第2の突出部のいずれかに係合し、第2の突出部が半径方向に突出するリブの中のカット・アウトと整合させられているときにのみ、用量セレクターが押圧され及び近位方向に移動させられ、用量送達を開始させることができるようになっている。用量送達の開始時における用量セレクターのこの軸線方向の近位移動は、第1の位置から第2の位置へ半径方向に突出するリブを移動させ、第1の位置では、第2の突出部が、リブの近位向き側部の上に位置付けされている。第2の位置へ移動する際に、リブは、第2の突出部に対して移動し、カット・アウトが第2の突出部を越えて移動するようになっており、次いで、それがリブの遠位向き側部の上に位置決めされるようになっている。好ましくは、半径方向に突出するリブは、用量ストップのそれぞれに対応する複数のカット・アウトを有している。第2の位置になると、リブは、用量セレクターの遠位軸線方向の移動を阻止することが可能である。その理由は、ユーザーが用量ノブにかかる近位方向付けられた力を解放する場合に用量送達が進行するように、スナップ・エレメントが逆回転し始めるからである。第2の付勢部材が用量セレクターを遠位方向に促し、したがって、第2の突出部とリブの遠位向き表面との当接を引き起こすので、軸線方向のブロッキング特徴が起こる。この当接は、用量セレクターのさらなる移動を防止し、したがって、固定スプラインと用量ノブの内側のスプラインとの再係合を防止する。
【0021】
したがって、第2のフェイル・セーフ特徴は、第2の突出部が半径方向に突出するリブの中のカット・アウトと整合させられているときにのみ、用量セレクターが用量送達の間に遠位方向に移動することを可能にする。リブの中のカット・アウトが用量ストップの位置に対応又は整合しているときに中止された注射が起こる場合には、用量セレクターの遠位軸線方向の移動が起こることとなるが、そのような移動は、第1の突出部を対応する用量ストップと再整合させることとなり、固定スプラインを用量ノブと再係合させることとなる。ここで第1の突出部が用量ストップと再係合されているので、ハウジングに対するスナップ・エレメント及び用量ノブの逆回転が存在しないことが可能であり、したがって、ピストンに対するナットの回転が存在しないことが可能である。その結果は、設定用量の低減が存在しないということである。この第2のフェイル・セーフ特徴の別の利益は、スナップ・エレメントの上の突出部が用量セレクターの用量ストップのうちの1つと係合されているときにのみ、用量ノブがスナップ・エレメントに対して軸線方向に移動することが可能であるということである。同時に近位方向に軸線方向の駆動力を働かせながらユーザーが用量ノブを回転させたとした場合に、これは、意図しない用量送達を防止することとなる。
【0022】
また、スナップ・エレメントは、クリッカー・アームを含むことが可能であり、クリッカー・アームは、用量送達の間に用量セレクターの内側表面の上の半径方向の突出する長手方向のスプラインに係合しており、クリッカー・アームが半径方向の突出する長手方向のスプラインの上をトラベルするときに、スナップ・エレメントの回転が可聴フィードバックを作り出すようになっている。用量設定の間に、スナップ・エレメントのフレキシブル・アームの上の第1の突出部と用量ストップとの係合は、第1の数の触覚通知及び/又は可聴通知を発生させる。用量送達の間に、第2の数の触覚通知及び/又は可聴通知が発生させられ、ここで、通知の第2の数は、第1の数よりも大きい。いくつかの場合において、通知の第2の数は、設定された所定の固定用量に対応するスプラインの合計数に等しい。スプライン又はクリッカー・アームを製作するために使用されるコンポーネント材料の形状及び/又はタイプを変化させることによって、触覚通知の程度及び/又は可聴通知のレベルは変化させられ得る。同様に、用量ストップ及びフレキシブル・アームの上の第1の突出部は、構築体のさまざまな形状又は材料によって構成され、はっきりと知覚できる触覚通知及び/又は可聴通知を発生させることが可能であり、ユーザーが、用量設定/用量キャンセルと用量送達との間の相違を容易に認識することとなるようになっている。
【0023】
また、本開示の用量設定メカニズムは、クラッチを含有することが可能であり、クラッチは、クラッチの遠位端部において用量ノブに動作可能に接続されている。1つの実施例では、クラッチの近位端部は、ナットに回転方向に固定されており、ナットに対して軸線方向にスライド可能である。ナットは、ピストン・ロッドとネジ式に係合され得、ピストン・ロッドは、近位方向に軸線方向にのみ移動するように構成されており、用量送達の間に、ピストン・ロッドが軸線方向の力を働かせるようになっており、薬剤のコンテナの中のプランジャーが近位に移動して薬剤を加圧することを引き起こし、薬剤が薬剤コンテナの中の近位開口部を通して吐出されるようになっている。ピストン・ロッドの好適な形状は、非円形の断面を有し、外表面の上にネジ山を有するものを含む。これらのネジ山のピッチは、薬剤のそれぞれの所定の固定用量に正比例している。非円形の中央開口部を有するピストン・ガイドは、用量設定メカニズムの中に含まれ得、ここで、ピストン・ガイドは、ピストン・ロッドの非円形の断面を受け入れており、ピストン・ガイドは、用量設定及び用量送達の両方の間にピストン・ロッドが回転することを防止するようになっている。
【0024】
用量設定ノブ及びクラッチは、それらが互いに回転方向に固定されるように、動作可能に接続されており、用量設定の間に、用量ノブの回転がクラッチを回転させるようになっており、そして、クラッチはナットを回転させる。ナットの回転は、ナットが、用量設定の間にピストン・ロッドの外側表面の上に位置付けされているネジ山に沿って遠位方向に軸線方向に並進すること、及び、用量キャンセルの間に近位方向に並進することを引き起こす。用量送達の間に、用量ノブは、ハウジングに回転方向に固定されているフローティング・スプラインとの係合に起因して、回転することを防止されている。クラッチは、用量ノブに回転方向に及び軸線方向に固定されているので、クラッチは、同様に回転せず、用量送達の間に近位方向に軸線方向に移動することだけが可能である。そうであるので、ナットは、用量送達の間に回転せず、近位方向に所定の距離だけピストン・ロッドとともに軸線方向に移動するだけである。この距離は、設定用量に正比例している。ナットのこの軸線方向の移動だけが、必ず、ナットとのネジ式の係合に起因して、ピストン・ロッドの軸線方向の移動を引き起こす。上述のように、用量設定の間に、遠位方向へのナットの軸線方向の並進移動は、ピストン・ロッドに対するナットの回転なしにピストン・ロッドが次いで近位に移動させられたとした場合に送達されることとなる薬剤の量に正比例している。
【0025】
また、用量設定ノブは、アンチ・ローリング特徴を含むことが可能であり、アンチ・ローリング特徴は、ユーザーがテーブル面などのような平坦な表面の上にデバイスを放置して置くときに、注射デバイスが転がることを防止する。デバイスが転がること及び表面から落下すること(デバイスが損傷を受ける可能性がある)を防止するために、用量ノブは、半径方向に突出するリブを含むことが可能である。このリブは、デバイスが平坦な表面の上に置かれているときに、注射デバイスが180度よりも大きく転がることを防止する。半径方向に突出するリブは、デバイスの本体部の上の対応する指定を指し示しておらず、又は、それと整合させられていない。換言すれば、用量ノブが用量を設定するために回されるときのリブの相対的な円周方向の位置は、所定の固定用量の有限のセットのいずれとも相関していない。用量を設定するために、ノブは、常に1つの方向に(たとえば、時計回りに)回される。ノブは、注射の間に回らない。したがって、それぞれの注射によって、ノブ、及び、そうであるので、半径方向に突出するリブは、さらに時計回りに回る。そうであるので、リブの半径方向の位置は、ペン本体部のいずれのパーツとも相関することができず、とりわけ、所定の用量と相関することができない。
【0026】
また、本開示は、完成した注射デバイスに方向付けられている。そのような注射デバイスの1つの可能な実施例は、近位端部に取り付けメカニズムを備えた本体部を含み、取り付けメカニズムは、一連の設定用量で患者に送達されることとなる薬剤を含有するコンテナ(好ましくは、カートリッジ)のためのホルダーと接続するように構成されている。上記に説明されているような用量設定メカニズムは、この注射デバイスにおいて使用され得、そこでは、用量セレクターは、1セットの有限の所定の固定用量だけがデバイスのユーザーによって設定されることを可能にするように構成されており、有限の所定の固定用量のセットは、最も低い固定用量及び1つ又は複数のより高い固定用量を含み、1つ又は複数のより高い固定用量のうちの少なくとも1つは、最も低い固定用量に最も低い固定用量の端数の量を足したものに等しい。用量ストップは、用量セレクターの内側表面の上に円周方向に位置決めされており、それぞれの用量ストップとゼロ用量ハード・ストップとの間の円周方向の距離は、それぞれの固定用量に正比例している。
【0027】
本開示の注射デバイスの別の実施例では、デバイスは、近位端部に取り付けメカニズムを備えた本体部を有しており、取り付けメカニズムは、カートリッジ・ホルダーに接続するように構成されており、カートリッジ・ホルダーは、所定の量の薬剤を含有するカートリッジを保持するように設計されており、ここで、薬剤の量は、用量で測定される。デバイスは、本体部に回転可能に固定された用量セレクターを有する用量設定メカニズムをさらに含み、用量セレクターは、用量ストップを含有しており、用量ストップは、用量設定メカニズムを使用して設定され得る所定の固定用量の有限のセットだけを許容するように構成されている。また、用量セレクターに対して回転可能なスナップ・エレメントが存在している。スナップ・エレメントは、スプラインの固定セットを有しており、それは、外側表面に一体的になっており、外側表面の周りに円周方向に配置されている。用量設定メカニズムは、フェイル・セーフ・コンポーネントをさらに含有しており、フェイル・セーフ・コンポーネントは、注射デバイスのユーザーが所定の固定単位用量の有限のセットのうちの1つ以外の用量を設定することを防止するように構成されている。スナップ・エレメントに軸線方向に固定されているフローティング・スプラインは、スナップ・エレメントが用量設定及び用量送達の両方の間にフローティング・スプラインに対して回転することを可能にする。用量設定の間に第1の位置を有し、用量送達の間に第2の位置を有する用量ノブは、ユーザーが所定の固定用量のうちの1つを選択することを可能にし、第1の位置では、用量ノブは、スプラインの固定セットにスプライン接続されているが、フローティング・スプラインにはスプライン接続されておらず、第2の位置にあるときには、用量ノブは、フローティング・スプラインに接続されているが、スプラインの固定セットにはスプライン接続されていない。
【0028】
また、本開示は、用量範囲評価を実施することに基づいて注射デバイスを設計及び製造する方法に関する。これは、用量設定メカニズムの独特な設計に起因して可能であり、そこでは、注射デバイスが所定の固定用量の新しい有限のセット又は単一の所定の効果的な固定用量だけを有するように、単一のコンポーネント(すなわち、用量セレクター)だけが、異なる用量セレクターと交換されることを必要とする。1つのそのような方法は、上記に説明されているようなフローティング・スプライン、用量ノブ、用量セレクター、及びスナップ・エレメントを含む第1の用量設定メカニズムを有する第1の注射デバイスを提供するステップを含む。フローティング・スプラインは、用量設定及び用量送達の間に用量セレクターの上のスプラインの固定セットと係合されている。追加的に、フローティング・スプラインは、用量設定の間にではなく、用量送達の間に、用量ノブの上のスプラインと係合されている。次いで、この第1の注射デバイスは、用量範囲評価試験において使用され、そこでは、薬剤を含有する複数の第1の注射デバイスが、複数の試験患者に分配される。
【0029】
試験患者は、第1の注射デバイスを使用し、所定の用量の薬剤の注射を実施するように指示される。収集された生理学的なデータを分析し、薬剤の効果的な単一の用量を決定するために、生理学的なデータが、注射が実施された後に試験患者から収集され得る。代替的に、試験患者は、単純に、所定の用量の注射の効果を報告することが可能である。分析された又は報告された結果に基づいて、第2の注射デバイスが提供され得、第2の注射デバイスは、第2の用量設定メカニズムを備えて製造されており、そこでは、製造プロセスは、第2の注射デバイスが新しい有限のセットの所定の用量に又は単一の効果的な固定用量に設定され得るように、用量セレクターを再設計することを伴う。第2の用量設定メカニズムの中のフローティング・スプライン、用量ノブ、及びスナップ・エレメントは、第1の用量設定メカニズムの中で使用されるものから設計を変更されていない。換言すれば、用量セレクターだけが、再設計されて新しく製造されなければならない。第2の用量設定メカニズムを組み立てるために使用されるすべての他のコンポーネントは、第1の用量設定メカニズムの中で使用されるものと同一のままである。いくつかのケースでは、用量スリーブの外表面の上にプリントしている印は、再設計されて新しく製造された用量セレクターの新しい所定の用量設定を反映するために変更され得る。しかし、用量スリーブの設計、製造、及び機能性は、変更されないままである。
【0030】
単一のコンポーネントだけが新しいセットの有限の所定の用量設定に影響を与えるために変更される必要があるという事実に関連する、本開示の用量設定メカニズムの別の利点は、完成した注射デバイスの組み立てのために使用される機器、及び、組み立てのための方法論が同じままであるということである。同じ組み立て機器及び方法論を維持することは、新しい注射デバイスに到着するために、用量セレクターの内側の用量ストップの数及び場所だけが変更される必要があるという事実に直接的に関連する。
【0031】
上記に説明されている利点は、最も低い設定用量の端数の用量を含む、ゼロ用量と最大用量との間の任意の可能な数の所定の固定用量設定を実現するための、用量セレクターの設計の固有のフレキシビリティーに直接的に関する。これは、製薬会社にとって重要になり、製薬会社は、新しい薬剤を評価することを望むか、又は、どのように既存の薬剤が異なる病気状態に影響を及ぼすこととなるかということを評価することを望む。特に有益なのは、最も低い固定用量の倍数であるそれぞれの固定用量を有する代わりに、端数の固定された所定の用量を有することを含む、所定の用量の異なる有限のセットをそれぞれ有する異なる用量セレクターを容易に及び効率的に設計する能力である。
【0032】
本開示に開示されているタイプの注射デバイスにおいて、それらのデバイスの製造は、薬物送達デバイスの単一のコンポーネント同士の間に(とりわけ、用量設定メカニズムのコンポーネント同士の間に)回避不可能な公差及び機能的なクリアランスをもたらす可能性がある。結果として、それらのコンポーネント同士の間の(たとえば、ピストン・ロッド・フット部と摺動ピストンとの間などの)ギャップなどのようなクリアランスは、薬物送達デバイスが組み立てられた後でも起こる可能性があり、ピストンがフット部の遠位端部と接触した状態にならない可能性がある。したがって、任意のそのようなギャップ又は製造公差異常を排除することが重要であり、有限の所定の設定用量のうちの1つの最初の設定の前に、用量設定メカニズムがプレストレス状態になるようになっている。これが実現されない場合には、ダイアルされた所定の設定用量が正しくデバイスから正確にディスペンスされない可能性があるということになり得ることとなる。初期の製造クリアランスは、用量の設定をすでに偽る可能性がある。使用のために薬物送達デバイスを調節するために、プライミング・アクションが実行され、ドライブ・メカニズムが正しく調節されることを保証し、たとえば、ピストン・ロッド及び取り付けられているフット部が摺動ピストンと接触した状態になり、正しい量の薬剤がデバイスから排出され得るようになっていることを保証する。これらの調節アクションは、デバイスの製造/組み立て手順において実現され得るか、又は、デバイスの最初の使用の直前に、組み立てられたデバイスのユーザーによって実現され得るかのいずれかである。後者のシナリオでは、ユーザーは、少量の薬剤をディスペンスする必要があることとなり、それは、薬物送達デバイスが使用する準備ができているという視覚的なインディケーションを与えるが、薬剤の浪費も結果として生じさせる。本開示は、両方の可能性をカバーするプライミング手順を説明している。
【0033】
本開示のこれらの及び他の態様、並びに、本開示に伴う利点は、本開示の以下の詳細な説明から、及び、添付の図面から明らかになることとなる。
【0034】
本開示の以下の詳細な説明において、添付の図面が参照されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
発明の範囲内にない、本開示の構造的なコンポーネントを含有する1つの可能な完成した薬剤送達デバイスの斜視図である。
【
図2】キャップが除去されており、カートリッジ・ホルダーへのペン・ニードルの取り付けを可能にする、
図1のデバイスの斜視図である。
【
図4】スナップ・エレメントに回転可能に接続されているフローティング・スプラインを伴っている及び伴っていない、スナップ・エレメントの斜視図である。
【
図5】組み立てられた状態及び組み立て前の状態の両方のフローティング・スプラインの斜視図である。
【
図6】遠位端部及び近位端部の両方からの用量セレクターの斜視図である。
【
図11】用量設定メカニズムのハウジングの斜視図である。
【
図13】用量設定メカニズムの可能な強制的なプライミング特徴を図示する図である。
【
図14A】用量セレクターに対するスナップ・エレメントのさまざまな位置を図示する図である。
【
図14B】用量セレクターに対するスナップ・エレメントのさまざまな位置を図示する図である。
【
図14C】用量セレクターに対するスナップ・エレメントのさまざまな位置を図示する図である。
【
図14D】用量セレクターに対するスナップ・エレメントのさまざまな位置を図示する図である。
【
図14E】用量セレクターに対するスナップ・エレメントのさまざまな位置を図示する図である。
【
図15】
本発明に係るスナップ・エレメントに回転可能に接続されてい
るフローティング・スプラインを伴う及び伴わない
、スナップ・エレメントの斜視図である。
【
図16】
本発明に係るフローティング・スプラインの斜視図である。
【
図17】
本発明に係る遠位端部及び近位端部の両方からの第1
の用量セレクターの斜視図である。
【
図18】
本発明に係る遠位端部及び近位端部の両方からの第2
の用量セレクターの斜視図である。
【
図19】近位端部からの第2
の用量セレクターの断面図である。
【
図20】引き込み用面取りを備えたスナップ・アームを有す
るスナップ・エレメントのセクションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本出願において、「遠位パーツ/遠位端部」という用語は、デバイスのパーツ/端部、又は、そのコンポーネント又は部材のパーツ/端部を指しており、それは、デバイスの使用にしたがって、患者の送達/注射部位から離れて最も遠くに位置付けされている。それに対応して、「近位パーツ/近位端部」という用語は、デバイスのパーツ/端部、又は、その部材のパーツ/端部を指しており、それは、デバイスの使用にしたがって、患者の送達/注射部位の最も近くに位置付けされている。
【0037】
本開示の用量設定メカニズム30(
図3を参照)は、さまざまに設計された複数の完成した注射デバイスの中で使用され得る。完成した注射デバイス10の1つのそのような実施例が、
図1に図示されており、
図1は、ハウジング3のウィンドウ3aを通してゼロを示す印40によって示されるようなゼロ用量状態で示されている。
図2は、キャップ1が除去され、カートリッジ・ホルダー2及び近位ニードル・コネクター7を露出させた状態の、
図1のデバイスを示している。ペン・ニードル4は、ハブ5とのスナップ・フィット、ネジ山、Luer-Lok、又は他の固定アタッチメントを通して、ニードル・コネクター7に取り付けられており、両頭ニードル・カニューレ6が、カートリッジ8の中に含有されている薬剤との流体連通を実現することができるようになっている。カートリッジ8は、近位端部においてセプタム8aによってシールされており、反対側の遠位端部において摺動ピストン9によってシールされている。
【0038】
上記に説明されているように、用量設定メカニズムの単一のコンポーネント(すなわち、用量セレクター35)のみが、最大許容用量範囲内の所定の固定用量の有限のセットを決定することに主に関与するという点において、本開示の用量設定メカニズム30は、他の知られているペン型注射デバイスと比較して独特である。そのうえ、この所定の固定用量の有限のセットは、端数の用量を含有することが可能であり、それは、それぞれの固定用量が他の固定用量の整数倍になっている必要がないということを意味している。たとえば、1つの固定用量設定は、より低い固定用量の整数倍にその整数倍の端数の量を加えたものに等しくなっていることが可能である。
【0039】
用量セレクター35は、近位端面図及び遠位端面図の両方から
図6に示されている。用量セレクターの外側表面は、複数の長手方向の溝部35aを有しており、複数の長手方向の溝部35aは、ハウジング3の内側表面3dの上に位置付けされている長手方向のスプライン3b(
図11を参照)と常に係合されている。この係合は、用量セレクターとハウジングとの間の相対的な回転を防止するが、用量セレクターがハウジングに対して軸線方向に移動することを可能にする。また、用量セレクターの外側表面は、接続用カット・アウト59を有しており、接続用カット・アウト59は、用量ノブ31の上のスナップ・フィット31c(
図12を参照)と恒久的に係合及びロックし、用量ノブが用量セレクター35に軸線方向に固定されるようになっている。これらの恒久的なスナップ・フィット31cは、用量設定及び用量キャンセルの両方の間に、用量ノブが用量セレクターに対して回転することを可能にする。用量セレクター35の内側表面35bの遠位端部には、固定されたスプライン54のセットが存在している。スプライン54の数及びスプライン54同士の間の相対的な間隔は、用量ノブ31の内側近位端部表面の上に位置付けされている固定されたスプライン31aの数及びスプライン31a同士の間の相対的な間隔に等しい。この等値の理由は、より完全に下記に説明されているように、用量ノブがスプラインの1つのセットから解除し、スプラインの別のセットに係合するときに、用量設定手順と用量送達手順の開始との間の滑らかな移行を保証するためである。用量ストップのそれぞれの間のスペースは、フローティング・スプライン34の上の半径方向に突出する長手方向のスプライン52のそれぞれの間のスペースの倍数である。
【0040】
本開示の用量設定メカニズムの1つの実施例では、ノブとスナップ・エレメントとの間に80個の半径方向の位置を可能にするように、等しく間隔を置いて配置されたスプライン52の数が選択される。しかし、人間工学的な理由及び他の理由のために、ゼロ用量ハード・ストップ55d及び選択された最大用量ハード・ストップ55cは、用量設定ノブの使用可能な相対的な回転を270°に限定する。そうであるので、この限定された回転は、効果的に60個の使用可能な半径方向の位置だけが存在しているということを意味している(80スプライン×270°/360°)。1つの実例では、顧客は、0.60mlの最大用量を有する注射デバイスだけを望む可能性がある。次いで、これは、60個の半径方向の位置が0.01mlのラスター(又は、インクリメント)をもたらすこととなるということを意味することとなる。ユーザーは、たとえば、0.20ml又は0.21mlの固定用量を選択することが可能であるが、0.205mlの容量を選択することはできない。ほとんどの用途において、0.01mlのラスターは、任意の実用的な使用に関して十分である。
【0041】
別の可能な実施例において、80個の等しく間隔を置いて配置されたスプライン52を使用して、最大用量が0.30mlになるように選択された場合には、これは、0.005mlのラスターになることとなる。このラスターは、典型的に、必要以上に細かくなっており、この選択された最大用量に関する代替的なアプローチは、80個の代わりに40個の等しく間隔を置いて配置されたスプラインを有することであることとなる。ラスターが細かくなればなるほど、用量ノブの上のスプラインがフローティング・スプライン及びスナップ・エレメント33の固定スプライン44の上のスプラインと係合するときには、バインディング/ブロッキングの問題が起こる可能性が高くなる。好適な許容可能な半径方向のミスマッチは、80個のスプラインが使用されるときには、4.5°を下回るべきである。
【0042】
図6に図示されているように、非連続的な半径方向に突出する円周方向のリブ56が存在しており、リブ56は、また、用量セレクター35の内側表面の上に位置付けされており、リブ56は、用量ストップ55及びプライミング・ストップ55aに対応する円周方向の場所において、複数のカット・アウト56aによって選択的に中断されている。このリブ56及びカット・アウト56aの機能は、より詳細に下記に説明されることとなる。用量ストップ55は、いくつかのケースでは、所定の固定プライミング用量を含む、用量設定メカニズムが設定することができる有限数の所定の固定用量に直接的に対応している。1つ又は複数の用量ストップが、用量セレクター35の内側表面の上に含まれ得る。好ましくは、用量ストップ55は、単一の成形されたコンポーネントとして製造され得る用量セレクター35の内側表面35bとの一体パーツとして形成されている。単一の成形された用量セレクターは、本開示の用量設定メカニズムの重要な属性を促進させ、それは、有限の所定の用量の異なるセットを取得するために、注射デバイスの単一のコンポーネントを変化させる能力である。これは、用量セレクターの内側にある用量ストップの数及び/又は相対的な円周方向の間隔を変化させることによって実現される。
【0043】
また、内側表面35bは、ゼロ用量ハード・ストップ55dを有している。それぞれの用量ストップ55とゼロ用量ハード・ストップ55dとの間の円周方向の間隔は、所定の固定用量の有限のセットのうちの1つに正比例している。上述のように、いくつかのケースでは、固定プライミング用量に対応するプライミング・ストップ55aを含むことが望ましく、それは、最初の注射が試みられる前に、ピストン9の遠位端部表面と当接してピストン・ロッド42のフット部42aをユーザーが最初に位置決めすることを可能にする。このプライミング・ステップは、最初の注射が、所定の固定用量設定のうちの1つに対応する薬剤の用量を正確にディスペンスすることを保証する。より詳細に下記に説明されることとなるように、用量ストップ55及びプライミング・ストップ55aは、用量設定及び用量キャンセルを促進させる形状によって構成されている。
図6は、傾斜した表面55e及び55fを有する用量ストップを示している。これは、ハード・ストップとして構成されているゼロ用量ハード・ストップ55dとは対照的である。
【0044】
また、
図6に示されているように、注射バンプ55bの随意的な端部が、用量セレクターの内表面の上にある。用量送達手順の間に、突出部45が用量セレクターに対してスナップ・エレメントとともに回転するときに、突出部は、スナップ・エレメントがゼロ用量設定に戻るときに、注射バンプ55bの端部に最終的に到着することとなる。突出部は、バンプ55bに乗り上げ及び乗り越えることとなり、注射デバイス10が初期のゼロ用量開始条件に戻ったというユーザーへの通知信号を発生させる。この通知は、設定された用量の薬剤の排出が到達させられたということを必ずしも示しているわけではないが、それは、用量の完全な送達を保証するために、ニードル挿入の推奨される10秒間の保持時間を始めるように、ユーザーに信号を送る。
【0045】
所定の固定用量のうちの1つ又は複数の設定は、スナップ・エレメント33と用量セレクター35との相互作用を通して実現される。
図4は、スナップ・エレメント33の外側表面33aに回転可能に接続されているフローティング・スプライン34を伴っている及び伴っていない、スナップ・エレメント33を示している。スナップ・エレメントは、スプライン48及びスナップ・エレメント48aを通して用量スリーブ38に回転方向に及び軸線方向に接続され得る。突出部45は、フレキシブル・アーム45aの上に配置されており、用量設定及び用量キャンセルの間に、用量ストップ55及びプライミング・ストップ55aに係合するだけである。換言すれば、下記に説明されている理由のために、突出部45は、用量送達の間に用量ストップに係合しない。その理由は、スナップ・エレメントが、用量送達の間に用量セレクターに対して逆回転方向に回転するからである。第2の又はブロッキング突出部46が、スナップ・エレメント33の近位端部において、外側表面33dの上に位置付けされている。このブロッキング突出部の場所は、用量送達が中断されている場合に、それが半径方向に突出するリブ56の遠位向き表面に当接することができるように選択される。下記に説明されているように、用量送達の間に、用量設定メカニズムが2つの所定の固定用量設定の間にあるときに、ユーザーが近位に方向付けられた軸線方向の力を用量ノブに働かせることを停止する場合には、この当接は、用量ノブが遠位方向に軸線方向に移動することを防止することとなる。
【0046】
図14A~
図14Eは、ブロッキング突出部46、突出部45、突出するリブ56、ゼロ用量ハード・ストップ55d、及び最大用量ハード・ストップ55cの相対的な位置を図示している。
図14Aは、初期のゼロ設定用量位置にある用量設定メカニズムを示しており、初期のゼロ設定用量位置では、用量ノブに印加される軸線方向の力は存在しておらず、すなわち、いわゆる解放状態になっている。ここで、ブロッキング突出部は、ゼロ用量ハード・ストップ55dに当接しており、ゼロ用量ハード・ストップ55dは、ゼロ未満の用量にダイアルすること、すなわち、スナップ・エレメント33を時計回り方向にターンさせることを防止する。突出部45は、プライミング・ストップ55aのバック側にある。
図14Bは、用量送達手順を開始させるために用量ノブが押圧される前に設定された有限の所定の設定用量(0.1ml)のうちの1つによって設定された用量設定メカニズムを示している。突出部45は、用量ストップ55のフロント側に位置決めされており、ブロッキング突出部46は、突出するリブ56の近位側に位置決めされているが、カット・アウト56aと軸線方向にアライメント状態になっている。
【0047】
図14Cは、スナップ・エレメント33の回転の開始の前の、
図14Bの設定された0.10ml用量の用量送達の開始を示している。ここで、用量セレクター35は、スナップ・エレメント33に対して近位に移動しており、ブロッキング突出部46が突出するリブ56の遠位側に位置決めされることを引き起こす。カット・アウト56aがブロッキング突出部46と整合させられていることに起因して、この相対的な位置変化だけが可能である。ここで、用量ストップ55は、突出部45との半径方向のアライメントから脱しており、したがって、用量送達手順が継続するにしたがって、スナップ・エレメント33が用量セレクターに対して反時計回りに逆回転することを可能にする。
【0048】
図14Dは、ユーザーが用量送達手順の間に用量ノブにかかる近位に方向付けられた軸線方向の力を解放している(除去している)条件において、ブロッキング突出部46及び突出するリブ56の相対的な位置を示している。突出するリブ56は、ブロッキング突出部46と当接した状態になり、したがって、用量セレクターの遠位軸線方向の移動を防止する。また、これは、用量ノブの上のスプラインがスナップ・エレメントの上の固定スプラインと再係合することを防止する。
図14Eは、ユーザーが最大所定の固定用量設定を越えてダイアルした場合の、最大用量ハード・ストップ55cとブロッキング突出部46との相互作用を図示している。図示されているように、突出部45は、最大所定の固定用量ストップ55の上を乗り越えて移動しており、ブロッキング突出部は、最大用量ハード・ストップ55cと当接しており、最大用量ハード・ストップ55cは、スナップ・エレメント33の任意のさらなる回転を防止している。
【0049】
また、スナップ・エレメント33は、1セットの固定スプライン44を有しており、好ましくは、それらは、スナップ・エレメントの製造の間に、たとえば、成形プロセスの間に、スナップ・エレメントに一体的に形成される。これらの固定スプライン44は、スナップ・エレメントに対して回転せず、又は、スナップ・エレメントに対して軸線方向に移動しない。これらのスプライン44の数及び間隔は、用量セレクターの内側表面の上のスプライン54及び用量ノブの内側の上のスプライン31aのものに等しい。スプライン44の機能は、下記に説明されることとなる。また、スナップ・エレメント33は、クリッカー47を有することが可能であり、クリッカー47は、半径方向に方向付けられたニブを備えたフレキシブル・アームとして、
図4に示されている。クリッカーは、用量送達の間にだけ、用量ノブの上のスプライン31aに係合するように構成されており、クリッカー・ニブが用量ノブ31のスプライン31aの上をトラベルするときに、スナップ・エレメントの回転が、聴覚フィードバック及び/又は触覚フィードバックを作り出すようになっている。用量設定の間に、突出部45と用量ストップ55及びプライミング・ストップ55aとの係合も、触覚通知及び/又は聴覚通知を作り出すが、それは、それぞれの所定の用量設定が到達されたときのみである。用量設定の間の通知の数は、用量送達の間にクリッカー47によって発生させられる通知の数よりも少ない。これは、用量ノブの内表面の上の等しく間隔を置いて配置されたスプラインのそれぞれにクリッカーが係合するからである。
【0050】
また、スナップ・エレメント33は、外側表面33aを有しており、外側表面33aは、フローティング・スプライン34を受け入れて軸線方向に含有する。フローティング・スプラインは、スナップ・エレメントに対するフローティング・スプラインの軸線方向の移動を限定するように軸線方向に含有される。
図4に示されているように、遠位への及び近位への移動を防止するためのフローティング・スプラインの軸線方向の含有は、外側表面33aを画定する半径方向のリブ33b、33cによって実現される。フローティング・スプライン34は、
図5に示されており、
図5において、好適な構成は、表面33aの上への組み立ての後に互いに接続され得る2つの半分体34a、34bである。2つの半分体の接続は、スナップ・フィットを通したものであることが可能であり、スナップ・フィットは、ディテント50a、50bにそれぞれ係合するアーム49、51の組み合わせとして示されている。接続タイプにかかわらず、スナップ・エレメント33との係合は、フローティング・スプライン及びスナップ・エレメントが互いに対して回転することができるようになっているということが重要である。フローティング・スプライン34の上のスプライン52の数及び間隔は、スプライン44のものに等しくなっており、用量セレクターの内側表面の上のスプライン54、及び、用量ノブの内側表面の上のスプライン31aのものに等しくなっている。これは、必要である。その理由は、フローティング・スプライン34が、より詳細に下記に説明されるように、用量送達の間にコネクターとして機能するからであり、用量送達において、用量ノブは、用量セレクター35に対して回転することを防止される。用量設定メカニズムが組み立てられているときには、用量セレクター35の内側表面の上のスプライン54は、スプライン52と完全に係合されるか又は噛み合わされている。スプライン52及び54のこの噛み合いは、フローティング・スプライン34を用量セレクター35に回転方向に固定する。用量セレクター35がハウジング3にスプライン接続され、回転を防止するので、これは、フローティング・スプライン34もハウジング3に回転方向に固定されるということを結果として生じさせる。
【0051】
図5に示されているように、それぞれのスプライン52の末端近位端部52a及び末端遠位端部52bは面取りされており、用量送達の開始の間の用量ノブ3の上のスプライン31aとの滑らかな噛み合いを支援する。用量設定メカニズムが組み立てられているときには、用量ノブ31は、スプライン44及び用量ノブの上のスプライン31aだけの噛み合いを通して、スナップ・エレメント33にスプライン接続されている。スプライン44はスナップ・エレメント33に回転方向に固定されているので、用量ノブ31の回転は、必然的に、スナップ・エレメント33の回転を引き起こし、フローティング・スプライン34の回転方向に固定された内側表面53に対して表面33aが回転するようになっている。用量ノブ及びスナップ・エレメントのこの回転は、用量設定の間に起こり、ハウジング3に対するものである。用量送達手順の開始の間に、用量ノブは、近位方向に押圧され、用量ノブがスナップ・エレメントに対して軸線方向に移動することを引き起こす。この初期移動は、スプライン44からスプライン31aを解除し、スプライン31aが次いでフローティング・スプライン34に係合することを引き起こす。次いで、スプライン31a及び52のこの新しい係合は、用量ノブが用量送達の間にハウジング3に対して回転することを防止する。
【0052】
用量ノブ31の詳細が、
図12に図示されている。用量設定メカニズムの組み立ての間に、用量ノブは、対応するカット・アウト59と係合されているスナップ・エレメント31cを通して、用量セレクター35に軸線方向に固定及び取り付けられている。この接続は、用量ノブが用量セレクターに対して回転することを可能にする。また、用量ノブは、外側表面の上にグリップ表面31dを有しており、半径方向に突出するリブ31bを含み、半径方向に突出するリブ31bは、アンチ・ロール特徴及びてこ特徴(leverage feature)として機能し、用量を設定又はキャンセルする際にユーザーを支援する。
【0053】
図10は、ナット36及びクラッチ32を図示しており、それらは、スプライン接続を通した用量設定メカニズムの組み立ての間に、恒久的に互いにスプライン接続される。スプライン接続は、ナット36の接続エレメント37、及び、クラッチ32の接続エレメント71によって確立される。このスプライン接続は、クラッチ32及びナット36が用量設定及び用量送達の両方の間に互いに回転方向に固定されていることを保証する。また、このスプライン接続は、クラッチ及びナットが互いに対して軸線方向に移動することを可能にする。ピストン・ロッド42の上のネジ山60(
図8を参照)と、用量スリーブ38の上の外側ネジ山39(
図3を参照)と、ドライバー41の上のネジ山67(
図9を参照)との間のピッチ差を補償するために、摺動接続が必要である。摺動接続は、ナットとピストン・ロッドの外側表面との間のネジ山のピッチの差、及び、用量スリーブと本体部との間のネジ山のピッチの差を補償するために必要である。ドライバーとピストン・ガイドとの間のネジ山は、基本的に、ピストン・ロッドとナットとの間のネジ山と同じピッチを有している。
【0054】
ナット36の近位端部は、内部ネジ山70を有しており、内部ネジ山70は、ピストン・ロッド42のネジ山60にマッチしている。クラッチ32の遠位端部は、用量ボタン72として構成されており、コネクター73の係合を通して、用量ノブ31の遠位端部に恒久的に取り付けられており、コネクター73の係合は、また、スナップ・ロック、接着剤、及び/又は音波溶接を含むことが可能である。この接続は、用量設定及び用量送達の両方の間に、クラッチが回転方向及び軸線方向の両方に用量ノブに固定されることを保証する。
【0055】
図8に示されているように、ピストン・ロッド42の外側表面の上のネジ山60に加えて、2つの長手方向の平坦部61も含まれており、2つの長手方向の平坦部61は、ピストン・ロッド42に非円形の断面を与える。コネクター62が末端近位端部にあり、コネクター62は、スナップ・フィットとして示されており、コネクター62は、ディスク又はフット部42a(
図3を参照)と接続する。用量設定メカニズムの最終用量特徴が、ピストン・ロッド42の遠位端部にあり、それは、拡大されたセクション63として図示されている。この拡大されたセクション63は、カートリッジ8の中に残っている薬剤の量が次に最も高い所定の用量設定よりも少ないときに、ネジ山60の周りのナット36の回転を停止させるように設計されている。換言すれば、カートリッジの中に残っている薬剤の量を超える所定の固定用量設定のうちの1つをユーザーが設定しようと試みる場合には、拡大されたセクション63が、ハード・ストップとして作用することとなり、ユーザーが所望の所定の固定用量設定に到達しようと試みるときに、ナットがネジ山60に沿ってさらに回転することを防止する。
【0056】
ピストン・ロッド42は、用量設定及び用量送達の両方の間に、ハウジング3に対して非回転状態で保持されている。その理由は、それが、ピストン・ロッド・ガイド43の中心にある孔64を通る非円形の通路の中に配置されているからである(
図7を参照)。ピストン・ロッド・ガイドは、回転方向及び軸線方向の両方にハウジング3に固定されている。この固定は、ピストン・ロッド・ガイドが図に図示されているようにハウジング3とは別個のコンポーネントであるときに、又は、ピストン・ロッド・ガイドがハウジングと一体的に作製され得るときに、実現され得る。また、ピストン・ロッド・ガイド43は、コネクター65を有しており、コネクター65は、回転付勢部材の近位端部に係合するように構成されており、回転付勢部材は、トーション・スプリング90として
図3に示されており、その機能は、下記に説明されることとなる。ピストン・ロッド・ガイドへの回転付勢部材のこの接続は、ハウジングに対して回転方向に固定された位置に一方の端部をアンカー固定する。
【0057】
回転付勢部材(たとえば、トーション・スプリング90)の遠位端部は、ドライバー41の上のコネクター66(
図9を参照)に接続されている。ドライバー41は、ドライバーの遠位外側表面の上のスプライン69を通して、用量スリーブ38の内側表面と接続されて回転方向に固定されている。ドライバー41の近位端部において、ネジ山67が外側表面の上にあり、ネジ山67は、ピストン・ロッド・ガイド43の内側遠位表面の上のマッチするネジ山と係合される。ドライバーとピストン・ガイドとの間のネジ山は、用量スリーブとハウジングとの間のネジ山とは著しく異なるピッチを有している。ナット及びドライバーは、用量設定及び用量キャンセルの両方の間に一緒に回転し、そうであるので、それらは、本質的に同じ軸線方向の移動を実施する。しかし、この移動は、互いから独立しており、すなわち、ナットは、クラッチによって回され、ピストン・ロッドへのネジ山に起因して軸線方向の移動を実施し、一方、ドライバーは、用量スリーブによって回転させられ、ピストン・ガイドへのネジ山に起因して軸線方向の移動を実施する。ドライバーは、注射の間にも回転しており、したがって、それは、注射の間に近位方向にアクティブに移動する。しかし、ナットは、注射の間に回転せず、そうであるので、アクティブな軸線方向の移動を実施しない。ナットは、それがドライバーによって軸線方向に押されているので、注射の間に近位方向に移動しているだけである。回転しているドライバーが回転していないナットを押すことは、注射を引き起こす。その理由は、ピストン・ロッドが、ナットとのネジ式の係合に起因して前方に押されるからである。
【0058】
たとえば、ナットのネジ山が、ドライバーのネジ山よりも高いピッチを有していたとすれば、ナットは、用量設定の間に遠位方向に自由に移動することはできない。その理由は、それがよりゆっくりと移動するドライバーによって阻止されることとなるからである。そうであるので、これは、薬物が用量設定の間に排出されることを引き起こすこととなる。代替的に、ナットのネジ山がドライバーのネジ山よりも著しく低いピッチを有していたとすれば、ドライバーは、用量設定の間にナットから離れるように移動することとなり、ドライバーは、すでに注射の初めにナットを押すこととなるのではなく、ギャップが閉じられた後にのみそれを行うこととなる。したがって、ドライバーの上のネジ山のピッチは、ナットの上のネジ山のピッチに等しいか又はそれよりもわずかに高いことが好適である。そして、用量スリーブとハウジングとの間のネジ山は、ナット及びピストン・ロッドのネジ山よりも高いピッチを有している。これは、望ましい。その理由は、それが、用量送達プロセスをユーザーにとってより容易なものにする機械的な利点を生み出すからである。たとえば、15mmの距離だけノブを押すときに、ピストン・ロッドは、4.1mmだけ移動する。これは、約3.6:1のギア比を結果として生じさせる。より低いギア比は、ユーザーが注射を完了するために必要とする力の増加を結果として生じさせることとなる。
【0059】
より詳細に下記に説明されることとなるように、トーション・スプリングがドライバー41に取り付けられており、ドライバーが用量スリーブ38に回転方向に固定されているので、次いで、用量設定の間の第1の方向への用量スリーブの回転は、トーション・スプリングを巻くこととなり、それが反対側の第2の方向に用量スリーブに対して逆回転力を働かせるようになっている。この逆回転力は、用量キャンセル方向に回転するように用量スリーブを付勢し、先に述べられた第1のフェイル・セーフ特徴のために必要な力を提供する。
【0060】
ここで、本開示による完成した注射デバイス10及び用量設定メカニズム30の機能が説明されることとなる。注射デバイス10は、薬剤のカートリッジ8がカートリッジ・ホルダー2の中に位置決めされている状態で又はそうでない状態で、ユーザーに提供される。注射デバイス10が再使用可能なデバイスとして構成されている場合には、カートリッジ・ホルダー2が、解放可能で再使用可能な様式で、用量設定メカニズム30のハウジング3に接続される。これは、すべての薬剤がカートリッジから排出又は注射されたときに、ユーザーがカートリッジを新しい満タンのカートリッジと交換することを可能にする。デバイスが使い捨ての注射デバイスとして構成されている場合には、薬剤のカートリッジは交換可能になっていない。その理由は、カートリッジ・ホルダー2とハウジング3との間の接続が恒久的になっているからである。この接続の破壊又は変形を通してのみ、カートリッジは、注射デバイスから除去され得る。そのような使い捨てのデバイスは、薬剤がカートリッジから排出されると、処分されるように設計されている。
【0061】
ユーザーは、最初に、デバイスからキャップ1を除去し、コネクター7を使用してカートリッジ・ホルダー2に適当なペン・ニードル4を据え付ける。デバイスが、デバイス組み立ての間に事前プライミングされていないか、又は、上記に議論されているような自動的な若しくは強制的なプライミング特徴を有していない場合には、ユーザーは、以下の通りにデバイスを手動でプライミングする必要があることとなる。突出部45が第1の用量ストップ(たとえば、プライミング・ストップ55aなど)(それは、所定の小さい固定用量の薬剤に対応する)に係合するように、用量ノブ31が回転させられる。用量ノブの回転は、用量セレクター35に対してスナップ・エレメント33の上の突出部45を回転させる。その理由は、固定スプライン44が、用量ノブの上のスプライン31aと噛み合わされているからである。用量設定の間に、圧縮スプリング91として
図3に示されている軸線方向の付勢部材(それは、スナップ・エレメントと用量ノブとの間に位置付けされている)は、用量ノブに対して遠位方向に軸線方向の力を働かせ、スプライン44及び31aが用量設定の間に係合されていること及び係合されたままになっていることを保証する。
【0062】
また、本開示の注射デバイス10は、いわゆる強制的な又は自動的なプライミング特徴を有することが可能であり、そのうちの1つの実施例が、
図13に図示されており、
図13において、クラッチ32は、最初に用量ノブ31に回転可能に固定されてはいない。摺動ロック80が、クラッチの遠位端部と用量ノブの内表面との間に位置付けされている。用量設定メカニズムを使用する前に、すなわち、ユーザーが所定の固定用量設定のうちの1つにダイアルする前に、摺動ロック80は、それが用量ノブに対して遠位に移動するように、必ず近位方向に押される必要があることとなる。この軸線方向の移動は、スナップ・フィンガー81がクラッチの近位向き表面32dに係合することを引き起こし、用量ノブとクラッチの遠位端部との間に不可逆的なロッキング関係を形成する。また、このロッキング関係は、クラッチ32の歯32c及び摺動ロック80の対応する歯82が噛み合ってインターロックすることを引き起こし、用量ノブ及びクラッチが互いに回転方向に固定されるようになっている。摺動ロック80がクラッチと係合される前に、クラッチは回転させられ得、それは、また、ナットの回転を引き起こし、ピストン・ロッド42がハウジングに対して軸線方向に移動することを引き起こす。ピストン・ロッド42の上に位置付けされているフット部42aが摺動ピストン9の遠位向き表面としっかりと当接しているということを視覚的な観察及び/又は触覚通知が示すまで、クラッチは回転させられる。フット部と摺動ピストンとの間のこの当接は、正確にダイアルされた用量がニードル・カニューレから外へ送達されることとなるということを保証することとなる。クラッチのこの回転は、好ましくは、注射デバイスの組み立ての間に実施され、同様に、フット部と摺動ピストン9との当接を保証した後に、製造プロセスは、摺動ロック80が最終的なロック位置まで押されることを引き起こすこととなる。クラッチの回転を実現するための1つの可能な手段は、クラッチを回すための真空カップを備えたグリッパーを使用することであることとなる。代替的に、スロット又は他のコネクターが、クラッチに係合して回転させるためにマッチング・ツールと協働するクラッチの遠位表面の中へ設計され得る。この随意的なコネクターは、スリット32fとして
図13に示されている。
【0063】
突出部45の回転、及び、プライミング・ストップ55aの一方の側とのその後の接触、又は、さらに言えば、用量セレクターの上の所定の用量ストップのいずれかとのその後の接触は、フレキシブル・アーム45aが半径方向内向きに屈曲することを引き起こすこととなり、突出部45が用量ストップ55a、55に乗り上げ、乗り越え、用量ストップ55a、55の逆側に降りることを可能にする。突出部45のこの移動及び接触は、用量設定手順の間に用量ストップが到達されたという可聴通知及び/又は触覚通知を発生させる。通知のタイプ又はレベルは、突出部45、フレキシブル・アーム45aの設計、及び/又は、用量ストップ55若しくはプライミング・ストップ55aの構成を変化させることによって修正され得る。いくつかのケースでは、所定の用量設定のそれぞれに関して異なる通知を有することが望ましい場合がある。同様に、用量設定の間の通知を、用量送達の間にクリッカー47によって発生させられる通知とは異なるものにすることも望ましい場合がある。
【0064】
プライミング手順に戻ると、プライミング・ストップ55aが到達されると、ユーザーは、プライミング手順をキャンセルする必要がある可能性があり、用量キャンセル手順を使用することによってそれを行うことが可能である。また、このキャンセル手順は、所定の用量設定のいずれにも当てはまる。用量キャンセルは、反対側方向に用量ノブを回すことによって達成され、突出部45が用量ストップ55又はプライミング・ストップ55aに対して反対側方向に逆回転することを引き起こされるようになっている。これは、再び通知を発生させることとなり、通知は、用量設定通知及び/又は用量送達通知と同じであるか又は異なっていることが可能である。スナップ・エレメント33は用量スリーブ38に回転方向に固定されており、用量スリーブは、ハウジング3の内側表面にネジ式に係合されているので、用量設定及び用量キャンセルの間の用量ノブの回転は、用量スリーブとハウジングとの間の相対的な回転を引き起こす。ハウジングと用量スリーブとの間のネジ式の接続は、用量ノブが回転させられるときに、用量スリーブ、スナップ・エレメント、クラッチ、及び用量ノブが軸線方向に並進することを引き起こす。用量キャンセルの間に、これらのコンポーネントは、反対側方向又は近位方向に軸線方向に回転及び並進する。
【0065】
また、用量ノブの回転は、ピストン・ロッド42の外側表面の上のネジ山60の周りでのナット36の回転を引き起こし、それは、上記に説明されているようにネジ山付きのパーツの相対的なピッチ差に起因して回転せず、ハウジング3に対して軸線方向に固定されたままになっている。摺動ピストンとのその接触によって支持されている静止したピストン・ロッドに対するナットの回転は、ナットが遠位方向に並進するか又はピストン・ロッドを登り上がることを引き起こす。用量キャンセルの間の逆回転は、ナットがピストン・ロッドに対して逆方向に並進することを引き起こす。所望の用量設定を実現するためにナットによってトラベルされる距離は、用量送達手順が開始されて完了した場合に排出されることとなる薬剤の量に正比例している。用量スリーブとハウジングとの間のネジ式の接続のピッチがナットの上のネジ山のピッチよりも大きくなっているので、用量スリーブ、スナップ・エレメント、クラッチ、及び用量ノブは、ナットがピストン・ロッドを登り上がるか又は下がるときに、ナットよりも大きい軸線方向の距離をトラベルすることとなる。軸線方向の移動の差は、通常は、用量設定メカニズムを拘束することとなるが、それを行わない。その理由は、ピッチの差が、ナットとクラッチとの間の摺動式のスプライン接続によって補償され、したがって、ナットよりも長手方向に大きい距離をクラッチが軸線方向にトラベルすることを可能にするからである。注射の間に、クラッチは、スナップ・エレメントを押し、そうであるので、用量スリーブを押す。この軸線方向の力は、本体部に対するネジ山に起因して用量スリーブが回ることを引き起こす。ネジ山のピッチが十分に高い場合には、用量スリーブは、それが押されるときにのみ回り始めることとなる。ピッチが低すぎる場合には、押すことが回転を引き起こさないこととなる。その理由は、低いピッチのネジ山がいわゆる「セルフ・ロッキング・ネジ山」になるからである。
【0066】
また、用量ノブの回転は、用量スリーブへの回転方向に固定されたスプライン接続に起因して、ドライバーの回転を引き起こす。トーション・スプリング90が、一方の端部においてドライバーに固定され、他方の端部においてピストン・ロッド・ガイドに固定されているので(そして、それは、軸線方向に及び回転方向にハウジングに固定されている)、トーション・スプリングは、用量設定の間に巻き上げられ、テンションが増加する。上述のように、引張スプリングのトルクは、用量スリーブに対して逆回転力を働かせる。好ましくは、用量設定メカニズムの組み立ての間に、トーション・スプリングは、プリテンションを掛けられ、ゼロ用量条件においても、トーション・スプリングが用量スリーブに対して逆回転力を働かせるようになっている。逆回転力は、用量設定メカニズムの第1のフェイル・セーフ特徴を提供する。この第1のフェイル・セーフ・メカニズムは、所定の用量設定の有限のセットのうちの1つではない用量をユーザーが設定することを防止する。換言すれば、ユーザーが用量ノブを回転させており、突出部45が2つの用量ストップの間にあるか、又は、ゼロ用量ハード・ストップと第1の用量ストップ55又はプライミング・ストップ55aとの間にあり、ユーザーが用量ノブを解放する場合には、トーション・スプリングの逆回転力が、最後に係合された用量ストップまで又はゼロ用量ハード・ストップまで、突出部を戻すこととなる。追加的に、用量キャンセル手順の間に、逆回転力は、次のより低い固定用量設定まで戻すように、又は、場合によっては、はるばるゼロ用量設定まで戻すように、用量ノブを回転させる際に、ユーザーを支援することとなる。
【0067】
用量設定の間に、用量ノブは、ハウジング3の遠位端部から外へ離れるように並進する。用量スリーブが回転及び並進するときに、用量設定(又は、用量キャンセル)の進行は、ハウジング3のウィンドウ3aの中で観察される。その理由は、用量スリーブの上のプリントされた印40がオープン・ウィンドウを越えて移動するからである。所望の所定の用量設定が到達されるときには、その用量に対する印が、ウィンドウの中に出現することとなる。用量ストップ55又はプライミング・ストップ55aが突出部45と係合されているので、トーション・スプリングは、次のより低い固定用量設定まで設定用量を逆回転させるための十分な力を有することとならない。この時点において、注射デバイス10は、プライミング手順の準備ができており、又は、すでにプライミングされている場合には、注射部位への薬剤の送達の準備ができている。いずれのケースにおいても、ゼロ用量ハード・ストップ55dが到達され、ゼロ用量印がウィンドウの中に観察されるまで、ユーザーは、近位方向に用量ノブを押すこととなる。プライミング・ステップの間に、ユーザーは、薬剤がペン・ニードル4のカニューレ6から排出されたかどうかを観察することとなる。薬剤が排出されない場合には、これは、ピストン・フット部42aが摺動ピストン9の遠位表面と当接していないということを意味している。次いで、プライミング・ステップは、薬剤がカニューレを退出することを観察されるまで繰り返される。
【0068】
また、本開示の用量設定メカニズムは、最大用量ハード・ストップ特徴を有することが可能であり、最大用量ハード・ストップ特徴は、最も高い所定の用量設定よりも大きい用量をユーザーが設定することを防止する。これは、最大用量ハード・ストップ55cの使用を通して実現され、最大用量ハード・ストップ55cは、ユーザーが最も高い所定の用量設定に対応する用量ストップを越えてダイアルする(すなわち、用量ノブを回転させる)場合には、第2の突出部46と係合した状態になる(
図4及び
図6を参照)。第2の突出部と最大用量ハード・ストップ55cとの係合は、スナップ・エレメントのさらなる回転を防止することとなる。最大用量ハード・ストップ55cは、第2の突出部46が用量設定メカニズムの1つ又は複数のコンポーネントを変形させるか又は破壊せずにハード・ストップを越えて回転させられることができないような形状によって構成されている。ユーザーが最後の用量ストップを越えてダイアルし、最大用量ハード・ストップ55cを第2の突出部46と係合させる場合には、用量ノブの解放は、トーション・スプリングが用量スリーブ、スナップ・エレメント、及び用量ノブを最後の用量ストップまで逆回転させることを可能にすることとなる。
【0069】
また、用量設定メカニズムは、一般的に最大用量ハード・ストップに対応する偽造防止特徴又は分解防止特徴を有することが可能である。この偽造防止特徴は、ナット36の外表面の上に位置付けされているハード・ストップ又はフック36bとクラッチ32のカット・アウト32aの遠位向き端壁部32bとの間に形成されている(
図10を参照)。上述のように、ピストン・ロッド42のネジ山60と用量スリーブ38の外側ネジ山39との間のピッチの差は、用量設定の間にナット36がピストン・ロッド42を登り上がるときに、クラッチがナット36よりもさらに遠位に並進することを必要とする。一般的に第2の突出部と最大用量ハード・ストップとの係合に対応する所定の位置において、ピストン・ロッドに対するクラッチの軸線方向の並進が停止されるように、カット・アウト32a及び/又はハード・ストップ36bは位置決めされ得る。ハード・ストップ36bと遠位向き壁部32bとの相互作用は、ナットに対するクラッチのさらなる遠位移動を防止することとなり、したがって、用量設定メカニズムの分解を防止することが可能である。典型的に、注射デバイスを分解しようとする試みは、注射デバイスが偽物の新しいデバイスとして販売及び再使用されることを可能にするために、薬剤の排出済みのカートリッジを偽造カートリッジと交換する目的のためのものである。人が用量ノブを引っ張り、それが、クラッチを引っ張り、そして、それが、スナップ・エレメント33及び用量スリーブ38を引っ張る場合には、偽造防止特徴が分解を阻止する。ハウジングの内側への用量スリーブのネジ式の接続は、デバイスが最大用量設定までダイアルされるときには、1次的な分解特徴として働くが、この1次的な分解特徴は、分解を防止するためには十分でない可能性がある。ハード・ストップ36bが上記に説明されているような遠位向き壁部32bに係合している場合に、2次的な分解特徴が、この不十分を補償することが可能である。
【0070】
用量設定メカニズムがプライミングされると、ユーザーは、次いで、適当な用量ストップが突出部45によって係合されるまで、及び、所望の用量値がウィンドウ3aの中に出現するまで、用量ノブがプライミング・ストップ55aを越えて回転させられることとなるということを除いて、プライミングのために使用される同じステップを繰り返すことによって、所望の固定用量を選択及び設定する。いくつかのケースでは、所定の用量設定同士の間でダイアルするときに印がウィンドウの中に示されないようにすることが好適であり、一方、他のケースでは、固定用量設定同士の間の設定不可能な用量位置を示す印をウィンドウの中に示すことが望ましい。
【0071】
所定の用量設定のうちの1つが用量設定メカニズムの上でダイアルされると、ユーザーは、次いで、近位方向に軸線方向の力を働かせ、用量送達手順を開始させることが可能である。ユーザーによって働かされる軸線方向の力が、第2の付勢部材91によって働かされる遠位に方向付けられた力に打ち勝ち、用量ノブ31、クラッチ32、及び用量セレクター35がスナップ・エレメント33及びハウジング3に対して近位方向に軸線方向に移動することを引き起こす。この初期移動は、スプライン44からスプライン31aを解除し、スプライン31aとフローティング・スプライン34との係合を引き起こし、したがって、フローティング・スプライン34とスプライン54との間のスプライン接続を通して、クラッチ及び用量ノブをハウジングに回転方向に固定する。用量セレクター35が用量ノブ31とともにフローティング・スプライン34に対して軸線方向に移動したとしても、スプライン54及びフローティング・スプライン34は、用量設定の間に及び用量送達の間に係合されたままになっている。
【0072】
スナップ・エレメントに対する用量セレクターの初期の軸線方向の移動は、用量ストップが突出部45との半径方向のアライメントから脱することを引き起こし、用量セレクターに対するスナップ・エレメントの回転が、突出部45が用量ストップのいずれも(当然のことながら、注射バンプ55bの端部を除く)と係合することを可能にすることとはならないようになっており、注射バンプ55bの端部は、デバイスの機械的な用量送達手順が完了したという可聴通知及び/又は触覚通知(すなわち、いわゆる注射終了通知)をユーザーに提供する。上述のように、この通知は、また、推奨時間(典型的に、10秒)にわたって注射部位にカニューレを維持するようにユーザーに知らせる。同様に、スナップ・エレメントに対する用量セレクターの初期の軸線方向の移動は、また、半径方向に突出するリブ56を第2の突出部46に対して近位に移動させ、残りの用量送達手順の間に用量セレクターに対するスナップ・エレメントの回転が起こるときに、突出部46が突出するリブ56の遠位側に面するようになっている。突出するリブは、それぞれの用量ストップ55a、55と一致する位置において突出するリブ56の中にあるカット・アウト56aに起因して、第2の突出部46を越えて軸線方向に移動することができる。注射の終わりにおいて、スナップ・エレメントのさらなる回転は、第2の突出部がゼロ用量ハード・ストップ55dに当接することを引き起こすこととなり、それは、スナップ・エレメントの任意のさらなる回転を防止することとなる。
【0073】
上記に説明されている注射終了特徴に加えて、別の注射終了通知特徴が、ドライバー41の一部として組み込まれ得る。また、この代替的な又は追加的な注射終了特徴は、機械的な用量送達手順が完了したときに、触覚通知及び/又は可聴通知をユーザーに提供する。この注射終了特徴の1つの構成が、フレキシブル・アーム68a、68bの組み合わせとして
図9に示されている。フレキシブル・アーム68bは、用量スリーブ38の内側の幾何学形状によって、用量設定の間にロードされる。これは、用量スリーブ38の内側にアーム68bを保持する。その理由は、フレキシブル・アーム68bが右に及び内向きに曲げられ(
図9を参照)、フレキシブル・アーム68aによって適切な場所に保持されるからである。用量送達の後にゼロに到達するときに、フレキシブル・アーム68aは、用量スリーブの幾何学形状によって曲げられ、フレキシブル・アーム68bを解放する。これは、可能である。その理由は、ドライバー41が用量スリーブ38によって回され、両方のコンポーネントが、2つのそれぞれのネジ山39及び67のピッチの差に起因して、互いに対して純粋に線形の移動を有するからである。
【0074】
用量送達手順の継続の間に、ユーザーが、用量ノブ31及び用量ボタン72の両方にかかる軸線方向の力を維持するとき、クラッチ32は、スナップ・エレメントの遠位端部に当接することとなり、スナップ・エレメントが近位方向に軸線方向に移動することを引き起こす。クラッチは、スナップ・エレメントを押す。スナップ・エレメントは、用量スリーブに固定されており、したがって、クラッチは、用量スリーブを押す。用量スリーブは、本体部に対して十分に高いピッチを備えたネジ山を有するので、用量スリーブにかかる軸線方向の力は、用量スリーブ及びそうであるのでスナップ・エレメントが本体部に対して回ることを引き起こすこととなり、本体部に対して回ることによって、それが近位方向に移動する。用量セレクターは、ハウジングの中へスライドするが、スプライン3bと溝部35aとの間のスプライン係合に起因して、ハウジング3に対して回転しない。また、用量スリーブ38の回転は、ピストン・ロッド・ガイド43とのネジ式の接続へのドライバー41の回転を引き起こし、それは、ピストン・ロッドを近位に駆動し、トーション・スプリング90の同時のテンション除去を結果として生じさせる。ドライバーは、ピストン・ロッドを直接的に駆動しない。ドライバーが回転するにつれて、ドライバーは、近位方向に移動し、ナットを前方に押す。ナットは回らないので、ドライバーは、ナット及びピストン・ロッドを前方に押す。
【0075】
ナット36は、クラッチ32との回転方向に固定された関係に起因して、用量送達の間に回転せず、クラッチ32は、用量ノブ、フローティング・スプライン、及びハウジングの回転方向に固定された関係を通して、ハウジングに回転方向に固定されている。したがって、ナットは、軸線方向に移動することだけが可能であり、それとともにピストン・ロッド42を運搬する。その理由は、非円形の開口部64がピストン・ロッドの上の平坦部61と係合されていることによって、ピストン・ロッドが回転することを妨げられるからである。ピストン・ロッドは、ナットが用量設定の間にピストン・ロッドに対して元々並進したのと同じ距離だけ軸線方向に移動させられる。回転なしのこの軸線方向の移動は、ナットのフランジ36aと当接したドライバーの近位端部の回転移動及び軸線方向の移動によって引き起こされる。ピストン・ロッドの軸線方向の移動は、静止したカートリッジ8の内側の壁部に対して摺動ピストン9が軸線方向に移動することも引き起こし、用量設定手順の間に設定された所定の固定用量と同等の量の薬剤をニードル・カニューレ6から押し出す。
【0076】
ユーザーが、用量ノブにかかる軸線方向の力を除去することによって、用量送達手順を停止させる場合には、第2のフェイル・セーフ・メカニズムが活性化させられる。軸線方向の力の除去は、圧縮スプリング91が用量ノブを遠位方向に付勢することを引き起こす。ユーザーが2つの所定の固定用量設定の間で用量送達を中止する場合には、用量ノブ及び軸線方向に固定された用量セレクターが、両方とも近位に移動することを妨げられることとなる。その理由は、第2の突出部46が突出するリブ56の遠位向きの側部と当接した状態になることとなり、それは、用量セレクター及び用量ノブの軸線方向への移動を停止させることとなるからである。突出部46と突出するリブ56とのこの当接がなければ、用量セレクターは、遠位に移動することとなり、スプライン31aがスナップ・エレメントの上のスプライン44と再係合することとなるようになっており、したがって、用量ノブ、クラッチ、及びナットを、スナップ・エレメントと回転係合した状態に戻すこととなる。ドライバーを通してスナップ・エレメントに働かされるトルクは、次いで、ナットを逆回転させ、したがって、未知の量だけ設定用量を低減させることとなる。この逆回転は、次に最も低い所定の固定用量設定が到達されるまで継続することとなり、そこにおいて、対応する用量ストップが逆回転を停止させることとなる。
【0077】
他方では、用量送達がより低い所定の固定用量設定のうちの1つにおいて中止される場合には、突出するリブ56の中のカット・アウト56aは、用量セレクターが遠位に移動することを可能にすることとなり、第2の突出部46がリブ56の近位側に位置決めされるようになっている。また、これは、用量ノブ31のスプライン31aを固定スプライン44と再係合させることとなり、上記に説明されているように、用量ノブ、クラッチ、及びナットを、スナップ・エレメントと回転係合した状態に置くこととなる。しかし、カット・アウト56aが、用量ストップに対応する円周方向の位置にのみ位置付けされているので、スナップ・エレメントひいてはナットの逆回転は存在しないこととなる。その理由は、用量ストップ及び第1の突出部45が係合されているからである。ナットの逆回転が存在しないので、設定用量の未知の低減は存在しないことが可能である。したがって、中止された用量送達手順の再開は、設定用量の任意の未知の減少なしに継続することとなり、したがって、元々設定された所定の用量が送達されることを可能にする。
【0078】
スナップ・エレメント及びフローティング・スプラインの両方の代替的な設計が、
図15~
図16に図示されており、
図15~
図16は、
図5に図示されている2パーツのクラム・シェル設計とは対照的に、単一のコンポーネント・ピースとしてフローティング・スプライン134を示している。スナップ・エレメント133の外側ハウジング133aの上へのフローティング・スプライン134の組み立てを助けるために、長手方向のスリット134aが設けられており、長手方向のスリット134aは、フローティング・スプラインの直径が拡大されることを可能にし、また、外側表面133aを画定する半径方向のリブ133b、133cの間においてスナップ・エレメントの上にフローティング・スプラインがクリップされることを可能にする。換言すれば、フローティング・スプラインは、スプリットC形リングのように形状決めされており、スプリットC形リングは、スリットを開けるために膨張させられ得、それがスナップ・エレメントの外側表面の上に押圧されるか又はスナップされ得るようになっている。フローティング・スプライン134のこの設置は、スナップ・エレメント133に対して遠位及び近位への軸線方向の移動を防止する。デバイス・ハウジングに対するフローティング・スプライン134の回転移動を防止するために、近位端部は、1つ又は複数の半径方向外向きに突出するリブ134bを有しており、1つ又は複数の半径方向外向きに突出するリブ134bは、用量セレクター135の対応するスロット135dに係合する。用量セレクター135は、リブ135aを通してデバイス・ハウジングに回転方向に固定される。上記に議論されている設計と同様に、スナップ・エレメント133は、フローティング・スプライン134に対して回転することが可能である。
【0079】
繰り返しになるが、上記に説明されている設計のように、スナップ・エレメント133は、1セットの固定スプライン144を有しており、1セットの固定スプライン144は、好ましくは、スナップ・エレメントの製造の間にスナップ・エレメントの一体パーツ又はエクステンションとして形成される。しかし、これらの固定スプライン144は、スナップ・エレメント133の遠位端部の外周の周りに離散的なセクションで位置決めされている。これは、
図4に図示されているような、固定セットのスプラインをスナップ・エレメントの周囲の周りに連続的なものにしているのとは対照的である。固定スプライン144は、スナップ・エレメントに対して回転せず、又は、軸線方向に移動しない。これらのスプライン144の間隔は、用量ノブの内側のスプライン31aの間隔に等しくなっており、下記に説明されているスプライン44と同等の様式で機能する。スナップ・エレメント133は、
図15に示されているように、半径方向の突出部145から近位に延在するクリッカー145bを組み込んでいる。クリッカー145bは、代替的な用量セレクター135の突出するリブ156の近位表面の上の溝部又は歯154に係合するように構成されている(
図17を参照)。スナップ・エレメント133のこの代替的な設計において、用量セレクター135が用量ノブ31とともに代替的な設計のフローティング・スプライン134に対して軸線方向に移動したとしても、スプライン134bは、用量設定の間に及び用量送達の間に係合されたままになっている。
【0080】
代替的な用量セレクター135は、代替的な第2のフェイル・セーフ特徴として機能する代替的な設計の突出するリブ156を含む。この代替的な設計において、リブ156は、もはや第2の突出部146と干渉していないが、突出部145(すなわち、フレキシブル・アーム145aの上の突出部)と干渉している。この代替的な設計において、この突出するリブ156の軸線方向の位置は、
図6に示されているようなリブ56に対して変化している。ユーザーが注射を開始すると、用量セレクターは、ユーザーが近位方向への軸線方向の力を除去するときに、ノブ31が遠位方向に飛び出すことができないような様式で、半径方向の突出するリブ156において保持されている。
【0081】
ユーザーがノブを押圧するのを止めたときでも、トーション・スプリング90が注射を維持する(したがって、スナップ・エレメントがノブに対して回転することを引き起こす)のに十分に強力であるように設計されているときには、代替的な突出するリブ設計156が有用である可能性がある。上記に説明されている第1の設計において、圧縮スプリング91は、突出するリブ56を突出部45に押し付け、突出部がリブの上を滑る。しかし、突出部45が突出するリブ56の中のカット・アウト56aに到達するときには、圧縮スプリング91が、遠位方向に用量セレクターを押し、自動的な注射が停止する。トーション・スプリングが注射を維持するのに十分に強力であるとしても、ユーザーがノブの上に親指を維持し、低い力を印加している場合には、ユーザーは、突出部45がカット・アウト56aに到達するときに、不均一な注射力を経験する可能性がある。その理由は、圧縮スプリングが働き始めることができるからである。したがって、フェイル・セーフ・メカニズムの第1の設計は、トーション・スプリングが注射を維持するのに十分に強力であるときには、望まれない効果をもたらす可能性がある。追加的に、トーション・スプリングは、意図的に、自動的な注射にとってわずかに弱すぎる可能性があり、これは、注射を維持するために、ユーザーがノブを押圧することを維持することを必要とすることとなる。これは、ユーザーが非常に低いディスペンス力を経験することを結果として生じさせることとなる。その理由は、スプリングが注射を支援するからである。これは、「スプリング支援式注射」と呼ばれ得る。
【0082】
自動的な注射を上回るスプリング支援式注射の利点は、ユーザーが(手動デバイスと同様に)注射速度に影響を及ぼすことができるということである。純粋に手動の注射を上回るスプリング支援式注射の利点は、(自動的に注射するデバイスと同様に)ユーザーが注射のために高い力を印加する必要がないということである。意図したスプリング支援式注射は、カートリッジから薬物を排出させるために必要とされる力が予想よりも低いときには、又は、ユーザーが予想よりも遅く押圧するときには、自動的な注射になることが可能である(場合によっては、非常に遅いが)。上述のように、第2のフェイル・セーフ・メカニズムの上記に説明されている第1の設計は、デバイスがスプリング支援式注射を有するときには、不均一な注射力をもたらす可能性がある。
【0083】
図15及び
図17に図示されている、自動的な注射を防止するための代替的な第2のフェイル・セーフ設計は、突出部145と突出するリブ156との間に十分な摩擦を含む。注射速度がユーザーによって(トーション・スプリングによってではなく)決定付けられるときには、突出部145は、半径方向の突出するリブ156まで約0.5mmの距離を有している。ユーザーが注射の間にノブを解放するときには、圧縮スプリング91は、リブ156を突出部145に押圧する。トーション・スプリングが注射を維持するのに十分に強力である場合には、突出部はリブの上を滑る。第2のフェイル・セーフ設計の代替例において、目標は、突出部145とリブ156との間に十分な摩擦を導入することである。これは、たとえば、
図17に示されているように、リブ156の遠位側に位置付けされている溝部又は歯154を有することによって引き起こされ得、それは、次いで、突出部145の上の近位に突出する歯145bと相互作用することが可能である。ユーザーがノブを解放すると(又は、トーション・スプリングによって誘導される速度よりも遅い速度でノブを押すと)、摩擦は、スナップ・エレメント133の回転を停止させることとなる。トーション・スプリングが注射を維持するのに十分に強力である場合には、ユーザーは、圧縮スプリングを圧縮するためだけの力を印加することが可能である。このケースでは、突出部は、リブから上述の距離を有しており、注射速度は、トーション・スプリングによって決定される。
【0084】
また、ユーザーは、注射を加速させるために、より高い力を印加することが可能である。このケースでは、ユーザーがノブを解放する場合には、注射が停止する。ユーザーがノブ31を解放するときには、依然として回転しているスナップ・エレメント133の上の歯145bは、回転が中止される前に、リブ156の上の溝部又は歯154に到達する。ユーザーが、親指によってノブに追従することによって、トーション・スプリングによって誘導される速度を維持しようとするが、圧縮スプリングの力よりもわずかに低い力によって押圧する場合には、意図しない副作用が存在する可能性がある。このケースでは、歯が先端部の上をこすり落とす可能性がある。しかし、この意図しない効果は、突出部とリブとの間の摩擦をもたらす適当な幾何学形状を使用することによって回避され得る。
【0085】
上述のように、ノブが所定の用量設定のうちの1つ(そこでは、リブがカット・アウトを有している)において解放されるときに、ノブが飛び出す。それらの位置のうちの正確に1つにおいてノブを解放する可能性は低い。しかし、ユーザーが圧縮スプリングを圧縮するために必要な力だけによってノブを押圧しようとする場合には、ノブは、カット・アウト56aにおいて飛び出す可能性がある。
【0086】
第2のフェイル・セーフ設計のさらに別の代替例が可能であり、
図18~
図19に図示されており、
図18~
図19において、第2の代替的な用量セレクター235が示されており、第2の代替的な用量セレクター235は、所定の用量設定において、突出するリブ256の中にカット・アウトを有していない。
図19Aは、
図19の断面図の拡大されたセクションを示している。これは、以前に説明されている上記の2つの設計とは対照的である。その代わりに、突出するリブ256は、引き込み用面取り256aを備えた縮小された又はインデントされたリブ・セクション256aを有している。また、突出部145は、引き込み用面取り145cを有することが可能である。ノブ31が近位に押圧され、注射を開始させるときには、スナップ・エレメント133の上のスナップ・アーム145a及び突出部145が、低減されたリブ256aを克服するために屈曲しなければならない。これが起こるときには、ユーザーは、「クリック」の形態の触覚フィードバック及び/又は可聴フィードバックを感じる。突出部が低減されたリブ256aを通過すると、圧縮スプリング91は、それ以上遠位位置にノブ31を押圧することができない。その理由は、低減されたリブ256aの面取りされていない側部256dが、突出部145の面取りされていない側部145d(
図20を参照)に押し付けられるからである。
【0087】
トーション・スプリング90が十分に強力である場合には、トーション・スプリングは、注射を維持することが可能である。その理由は、圧縮スプリング91が、より低い所定の固定用量設定のうちの1つにおいて遠位位置にノブを押圧することができないからである。また、第2のフェイル・セーフ特徴のこの第2の代替的な設計は、スプリング支援式注射が滑らかであることを保証することとなる。上記に説明されている設計と同様に、ユーザーは、この設計を使用して注射を加速させることが可能であるが、ユーザーは、注射を中止することができない。
図18及び
図19に図示されているように、リブがゼロ位置においてカット・アウト256bを有している場合には、圧縮スプリング91は、注射の終わりにおいて遠位位置へノブを押圧することとなる。しかし、リブがゼロ位置においてカット・アウトを有していない場合には、ノブはスナップ・エレメントに対して近位位置に留まることとなる。この位置において、ノブは、フローティング・スプライン134を通して用量セレクター235によって線形にガイドされ、回されることはできない。したがって、ゼロ位置においてカット・アウトを備えないリブは、再使用防止特徴を提供する。
【0088】
所定の固定用量設定におけるリブ256の縮小部256a、及び、面取り256bは、注射の始まりにおける触覚クリック及び/又は可聴クリックの強度を調節するために選択され得る。上記に説明されているように、再使用防止特徴を備えたデバイスに関して、初期のクリックは、意図的に強力になるように設計され得、注射の意図しない開始(及び、そうであるので、デバイスの望まれない無効化)を回避するようになっている。いくつかの状況において、上記の2つの代替的な第2のフェイル・セーフ設計を単一の設計に組み合わせることが有益である可能性がある。1つの可能な方法は、上記に説明されている第1の代替例を使用することであることとなり、第1の代替例において、リブ256は、ゼロ位置におけるカット・アウトなしで製造され、再使用防止メカニズムを生成させることとなる。同様に、第2の代替的な第2のフェイル・セーフ設計は、突出部145とリブ256との間の表面154と同様の摩擦表面を含むことが可能である。好適な設計では、摩擦表面は、調節可能なブレークの機能を有することが可能であり、そこでは、ユーザーが圧縮スプリングの力よりも低い力によって押圧する場合には、リブ256が突出部145に押し付けられる。ノブ31にかかる力が低いほど、リブ256と突出部145との間の力は高くなり、摩擦が高くなる。そのような調節可能なブレークは、たとえば、摩擦表面、突出部、又はその両方の上にゴムのような材料を使用することが可能である。この好適な実施例において、ユーザーは、速度を低減させること及び速度を加速させることの両方を行うことができ、それは、トーション・スプリングによって与えられる。当然のことながら、突出するリブの設計がカット・アウトを含む場合には、この調節可能なブレーク特徴は適用可能でないこととなる。
【0089】
上記に説明されている及び図面に示されている実施例は、安全アッセンブリの可能な設計の単なる非限定的な例として見なされるべきであり、そのような設計は、特許請求の範囲の中で多くの方式で修正され得るということが理解されるべきである。