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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20230215BHJP
   H01T 13/32 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T13/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021531962
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2020042783
(87)【国際公開番号】W WO2021106681
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2019217461
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】関澤 崇
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 智克
(72)【発明者】
【氏名】小野 雄也
(72)【発明者】
【氏名】東松 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄大
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 計良
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-156728(JP,A)
【文献】国際公開第2012/042801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01T 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、
前記中心電極を絶縁保持する主体金具と、
前記主体金具に一端部が接続された母材と、前記母材の他端部に接合されたチップと、を備える接地電極と、を備え、
前記チップは、前記中心電極と火花ギャップを介して対向する放電面を備えるスパークプラグであって、
前記放電面は四角形状であって4辺にはそれぞれ面取りが付されており、
前記4辺のうちの1辺である第1の辺のみにC面が付されているスパークプラグ。
【請求項2】
前記第1の辺に付された面取りの大きさは、前記第1の辺以外の3辺に付された面取りの大きさよりも小さい請求項1記載のスパークプラグ。
【請求項3】
中心電極と、
前記中心電極を絶縁保持する主体金具と、
前記主体金具に一端部が接続された母材と、前記母材の他端部に接合されたチップと、を備える接地電極と、を備え、
前記チップは、前記中心電極と火花ギャップを介して対向する放電面を備えるスパークプラグであって、
前記放電面は四角形状であって4辺にはそれぞれ面取りが付されており、
前記4辺のうち第1の辺を含む2つ以上の辺にC面が付され、
前記C面が付された2つ以上の辺の面取りの大きさを比較したときに、前記第1の辺の面取りの大きさが、他の辺の面取りの大きさよりも小さいスパークプラグ。
【請求項4】
前記第1の辺と相対する第2の辺に付された面取りの大きさは、前記第2の辺以外の3辺に付された面取りの大きさよりも大きい請求項3記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記第1の辺と相対する第2の辺にR面が付されている請求項3又は4に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記第1の辺は、前記第1の辺以外の3辺よりも、前記接地電極の前記他端部の端面の近くに配置されている請求項1から5のいずれかに記載のスパークプラグ。
【請求項7】
前記チップは、溶融部を介して前記母材に接合され、
前記溶融部は、前記他端部の前記端面と同じ方向を向く前記チップの側面から前記チップの反対側の側面へ向かって設けられ、
前記放電面に垂直な方向の前記溶融部の厚さは、前記放電面に沿って前記端面から離れるにつれて薄くなる請求項6記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパークプラグに関し、特に母材にチップが接合された接地電極を備えるスパークプラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
接地電極のチップと中心電極との間に火花ギャップが設けられるスパークプラグにおいて、特許文献1には、放電面が四角形状のチップを用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-156728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術において接地電極と中心電極との間に電位差が生じると、接地電極ではチップの放電面の辺の付近に電界が集中するので、チップの放電点(放電の発生位置)は、放電面の4つの辺の付近に広く分布する。4つの辺に放電点がばらつくと、火炎伝播の中心となる初期火炎核の位置がばらつくので、スパークプラグによる着火性を評価するときの燃焼予測の精度が低下するおそれがある。燃焼予測の精度向上のために、放電点のばらつきの低減が要求されている。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、放電点のばらつきを低減できるスパークプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のスパークプラグは、中心電極と、中心電極を絶縁保持する主体金具と、主体金具に一端部が接続された母材および母材の他端部に接合されたチップを備える接地電極と、を備え、チップは、中心電極と火花ギャップを介して対向する放電面を備える。放電面は四角形状であって4辺にはそれぞれ面取りが付されており、4辺のうちの1辺である第1の辺のみにC面が付されている。
【0007】
本発明のスパークプラグは、中心電極と、中心電極を絶縁保持する主体金具と、主体金具に一端部が接続された母材および母材の他端部に接合されたチップを備える接地電極と、を備え、チップは、中心電極と火花ギャップを介して対向する放電面を備える。放電面は四角形状であって4辺にはそれぞれ面取りが付されている。放電面の4辺のうち第1の辺を含む2つ以上の辺にC面が付され、C面が付された2つ以上の辺の面取りの大きさを比較したときに、第1の辺の面取りの大きさが、他の辺の面取りの大きさよりも小さい。
【発明の効果】
【0008】
第1の態様によれば、チップの放電面の4辺にはそれぞれ面取りが付されており、放電面の4辺のうちの1辺である第1の辺のみにC面が付されている。第1の辺の付近に電界が集中し易くなるので、第1の辺の付近に放電点が生じ易くなる。よって放電点のばらつきを低減できる。
【0009】
第2の態様によれば、第1の辺に付された面取りの大きさは、第1の辺以外の3辺に付された面取りの大きさよりも小さい。第1の辺の付近に電界がさらに集中するので、第1の態様の効果に加え、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0010】
第3の態様によれば、チップの放電面の4辺にはそれぞれ面取りが付されており、放電面の4辺のうち第1の辺を含む2つ以上の辺にC面が付されている。C面が付された2つ以上の辺の面取りの大きさを比較したときに、第1の辺の面取りの大きさが、他の辺の面取りの大きさよりも小さいので、第1の辺の付近に電界が集中し易くなる。第1の辺の付近に放電点が生じ易くなるので、放電点のばらつきを低減できる。
【0011】
第4の態様によれば、第1の辺と相対する第2の辺に付された面取りの大きさは、第2の辺以外の3辺に付された面取りの大きさよりも大きい。第1の辺と相対する第2の辺の付近に電界が集中し難くなるので、第3の態様の効果に加え、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0012】
第5の態様によれば、第1の辺と相対する第2の辺にR面が付されているので、第2の辺にC面が付されている場合に比べ、第2の辺の付近に放電点が生じ難くなる。よって第3又は第4の態様の効果に加え、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0013】
第6の態様によれば、第1の辺は、第1の辺以外の3辺よりも、接地電極の他端部の端面の近くに配置されている。端面の近くに配置された第1の辺の付近の放電によって生じる初期火炎核は、エネルギーが母材に奪われ難い。初期火炎核が成長して火炎伝播が開始され易くなるので、第1から第5の態様のいずれかの効果に加え、着火性を向上できる。
【0014】
第7の態様によれば、母材にチップを接合する溶融部は、母材の他端部の端面から放電面に沿って設けられている。放電面の第1の辺の付近は放電の頻度が高くなり発熱し易くなるので、チップの熱応力が大きくなり易い。放電面に垂直な方向の溶融部の厚さは、放電面に沿って端面から離れるにつれて薄くなる。第1の辺の付近のチップの熱応力は溶融部によって緩和され易くなるので、第6の態様の効果に加え、熱応力に起因する溶融部の破壊やチップの剥離を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施の形態におけるスパークプラグの片側断面図である。
図2】接地電極の平面図である。
図3図2のIII-III線における接地電極の断面図である。
図4図2のIV-IV線における接地電極の断面図である。
図5】第2実施の形態におけるスパークプラグの接地電極の平面図である。
図6図5のVI-VI線における接地電極の断面図である。
図7図5のVII-VII線における接地電極の断面図である。
図8】第3実施の形態におけるスパークプラグの接地電極の平面図である。
図9図8のIX-IX線における接地電極の断面図である。
図10図8のX-X線における接地電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は第1実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Oを境にした片側断面図である。図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という。図1に示すようにスパークプラグ10は、絶縁体11、中心電極15、主体金具20及び接地電極30を備えている。
【0017】
絶縁体11は、高温下の絶縁性や機械的特性に優れるアルミナ等のセラミック製の略円筒状の部材である。絶縁体11には、軸線Oに沿って延びる軸孔12が設けられている。絶縁体11の軸線方向のほぼ中央には、径方向の外側へ向かって張り出す円環状の張出部13が設けられている。絶縁体11は、張出部13よりも先端側に、軸線方向の先端側に向かうにつれて外径が小さくなる段部14が設けられている。絶縁体11の軸孔12の先端側に、中心電極15が配置されている。
【0018】
中心電極15は、軸線Oに沿って絶縁体11に保持される棒状の電極である。中心電極15は、熱伝導性に優れる芯材が母材16に埋設されている。母材16は、Niを主体とする合金またはNiからなる金属材料で形成されている。芯材は、銅または銅を主成分とする合金で形成されている。芯材は省略できる。母材16の先端に、貴金属を含有するチップ17が接合されている。チップ17は省略できる。
【0019】
中心電極15は、絶縁体11の軸孔12の中で端子金具18と電気的に接続されている。端子金具18は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。
【0020】
主体金具20は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された、軸線Oに沿って延びる略円筒状の部材である。主体金具20は、絶縁体11の張出部13よりも先端側の部分を囲む先端部21と、先端部21の後端側に連なる座部23と、座部23の後端側に設けられた工具係合部24と、工具係合部24の後端側に連なる後端部25と、を備えている。先端部21の外周には、先端部21の軸線方向のほぼ全長に亘って、エンジン(図示せず)のねじ穴に螺合するおねじ22が設けられている。先端部21の内周には、軸線方向の先端側に向かうにつれて内径が小さくなる棚部26が設けられている。
【0021】
座部23は、エンジンに対するおねじ22のねじ込み量を規制すると共に、締め付けたおねじ22に軸力を加えるための部位である。工具係合部24は、エンジンのねじ穴におねじ22をねじ込むときに、レンチ等の工具を係合させる部位である。後端部25は、径方向の内側へ向けて屈曲する円環状の部位である。後端部25は、絶縁体11の張出部13よりも後端側に位置する。
【0022】
絶縁体11の張出部13と主体金具20の後端部25との間に、タルク等の粉末が充填されたシール部27が全周に亘って設けられている。絶縁体11の段部14と主体金具20の棚部26との間に、金属製の円環状のパッキン(図示せず)が介在する。主体金具20の先端部21には接地電極30が接続されている。
【0023】
接地電極30は、導電性を有する金属材料(例えばNi基合金等)によって形成された母材31と、母材31に接合されたチップ34と、を備えている。母材31は、主体金具20に接合された一端部32と、チップ34が接合された他端部33と、を備える棒状の部材である。チップ34は、例えばPt,Rh,Ir,Ru等の貴金属のうちの1種または2種以上を含む化学組成を有する。チップ34は、溶融部35を介して母材31に接合されている。接地電極30のチップ34の放電面36と中心電極15との間に火花ギャップ37が設けられる。
【0024】
スパークプラグ10は、例えば以下のような方法によって製造される。まず、中心電極15を絶縁体11の軸孔12に配置する。次いで、中心電極15と端子金具18との導通を確保しながら、絶縁体11の軸孔12に端子金具18を挿入する。次に、予め接地電極30が接続された主体金具20に絶縁体11を挿入し、絶縁体11に主体金具20を組み付ける。主体金具20の棚部26から後端部25までの部分が、絶縁体11の段部14から張出部13までの部分に、シール部27及びパッキン(図示せず)を介して軸線方向の圧縮荷重を加えるので、絶縁体11は主体金具20に保持される。次いで、接地電極30の母材31を屈曲して火花ギャップ37を形成し、スパークプラグ10を得る。
【0025】
図2は接地電極30の平面図である。図2は母材31の他端部33(図1参照)が図示されており、一端部32(図1参照)の図示が省略されている。図3図2のIII-III線における接地電極30の断面図である。図4図2のIV-IV線における接地電極30の断面図である。
【0026】
図2から図4に示すように、母材31の他端部33(図1参照)は、中心電極15の側を向く第1面38と、第1面38に接続され他端部33側から一端部32(図1参照)側へ延びる一対の第2面39と、第1面38及び第2面39に接続される端面40と、第2面39及び端面40に接続される第3面41と、を備えている。第3面41は第1面38の反対側に位置する。
【0027】
母材31の第1面38には、母材31の端面40につながる凹み31aが設けられている。チップ34は凹み31aの中に配置されている。チップ34を母材31に接合する溶融部35は、チップ34の放電面36の裏面34aにおいて、母材31の端面40から放電面36に沿って設けられている。
【0028】
チップ34の放電面36は、4辺に囲まれた四角形状である。放電面36は、チップ34の側面42,43,44,45につながっている。チップ34の側面42は、母材31の端面40と同じ方向を向いている。チップ34の側面43,45は、それぞれ母材31の第2面39と同じ方向を向いている。チップ34の側面44は、チップ34の側面42の反対側に位置する。本実施形態では、チップ34の放電面36の面積は中心電極15の放電面15a(図3参照)の面積よりも大きく、中心電極15の放電面15aの全体が、チップ34の放電面36と軸線方向に対向している。放電面15aは円形である。
【0029】
放電面36の4辺は、チップ34の側面42,43,44,45と放電面36との交線である。側面42と放電面36との交線は、第1の辺46である。第1の辺46に相対する第2の辺47は、側面44と放電面36との交線である。側面43と放電面36との交線は、第3の辺48である。第3の辺48に相対する第4の辺49は、側面45と放電面36との交線である。
【0030】
本実施形態では、第1の辺46は、第1の辺46以外の3つの辺47,48,49よりも、母材31の端面40の近くに配置されている。第1の辺46は、端面40とほぼ平行に配置されている。第2の辺47は、第2の辺47以外の3つの辺46,48,49よりも、母材31の端面40から遠くに配置されている。
【0031】
チップ34の放電面36を囲む全ての辺46,47,48,49には、それぞれ面取りが付されている。放電面36は第1の辺46を含む2つ以上の辺にC面が付されている。本実施形態では第1の辺46と第2の辺47にC面が付されており、第3の辺48と第4の辺49にR面が付されている。第3の辺48や第4の辺49に付したR面に代えて、第3の辺48や第4の辺49にC面を付しても良い。
【0032】
第1の辺46(図3参照)に付されたC面は、放電面36と側面42とをつなぐ角面である。第2の辺47に付されたC面は、放電面36と側面44とをつなぐ角面である。C面は、放電面36や側面42,44に交わる角面の角度が45°であるものに限られない。角面の角度は0°より大きく90°より小さい任意の角度に設定される。
【0033】
第1の辺46に付された面取りの大きさW1(図3参照)は、第2の辺47に付された面取りの大きさW2よりも小さい。C面における面取りの大きさW1,W2は、それぞれ辺46,47に垂直な方向であって放電面36に平行な方向における幅のことをいう。
【0034】
第3の辺48(図4参照)に付されたR面は、放電面36と側面43とをつなぐ丸面または楕円面である。第4の辺49に付されたR面は、放電面36と側面45とをつなぐ丸面または楕円面である。第3の辺48に付された面取りの大きさW3は、第4の辺49に付された面取りの大きさW4とほぼ同じである。R面における面取りの大きさW3,W4は、それぞれR面の曲率半径のことをいう。面取りの大きさW3,W4は異なっていても良い。本実施形態では、第2の辺47に付された面取りの大きさW2は、他の3辺46,48,49に付された面取りの大きさW1,W3,W4よりも大きい。
【0035】
チップ34の放電面36に垂直な方向の溶融部35(図3参照)の厚さは、放電面36に沿って母材31の端面40から離れるにつれて、即ち母材31の一端部32(図1参照)に近づくにつれて、薄くなっている。溶融部35のうちチップ34の側面42に接する部位の厚さは、溶融部35のうちチップ34の側面44に接する部位よりも厚い。
【0036】
溶融部35は、母材31の凹み31aの中にチップ34を配置した後、母材31の端面40の側から放電面36とほぼ平行にレーザ光を照射し、チップ34の側面42の端から端までレーザ光を走査することにより得られる。レーザ媒質はファイバーレーザ、ディスクレーザが例示されるが、これに限られるものではない。溶融部35は、チップ34と母材31とが溶け合ってなる。
【0037】
スパークプラグ10の端子金具18(図1参照)と主体金具20との間に電圧を印加し、中心電極15と接地電極30との間の電位差が放電電圧に達すると、火花ギャップ37に放電が生じ、初期火炎核が形成される。初期火炎核が周囲の混合気を発火温度まで加熱すると火炎伝播が始まり、混合気が燃焼する。
【0038】
接地電極30では、チップ34の放電面36の4辺に電界が集中し易いので、放電面36の辺46,47,48,49の付近に放電点(放電の発生位置)が生じ易い。特に、面取りが付された4つの辺46,47,48,49のうちC面が付された辺は、R面が付された辺よりも放電点が生じ易く、面取りの大きさが小さい辺ほど放電点が生じ易い。
【0039】
スパークプラグ10は第1の辺46と第2の辺47にC面が付されており、第3の辺48と第4の辺49にR面が付されている。C面が付された第1の辺46の面取りの大きさW1と第2の辺47の面取りの大きさW2とを比較すると、第1の辺46の面取りの大きさW1が、第2の辺47の面取りの大きさW2よりも小さいので、第1の辺46の付近に電界が集中し易くなる。第1の辺46の付近に放電点が生じ易くなるので、放電点のばらつきを低減できる。その結果、火炎伝播の中心となる初期火炎核が、第1の辺46の付近に形成され易くなり、初期火炎核の位置のばらつきが低減する。よってスパークプラグ10による着火性を評価するときの燃焼予測の精度を向上できる。
【0040】
第1の辺46に付された面取りの大きさW1は、他の3辺47,48,49に付された面取りの大きさW2,W3,W4よりも小さい。第1の辺46の付近に電界がさらに集中するので、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0041】
第1の辺46と相対する第2の辺47に付された面取りの大きさW2は、第2の辺47以外の3つの辺46,48,49に付された面取りの大きさW1,W3,W4よりも大きい。第1の辺46と相対する第2の辺47の付近に電界が集中し難くなるので、第2の辺47以外の、第1の辺46により近い部位に放電点が生じ易くなる。よって放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0042】
第1の辺46と第2の辺47とをつなぐ第3の辺48及び第4の辺49にR面が付されているので、第3の辺48や第4の辺49にC面が付されている場合に比べ、第3の辺48や第4の辺49の付近に放電点を生じ難くできる。第1の辺46の付近に放電点が生じ易くなるので、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0043】
中心電極15では放電面15aの縁15b(図3参照)に電界が集中し易い。放電面15aの全体が、チップ34の放電面36と軸線方向に対向しており、放電面15aは円形なので、放電面15aの縁15bと第1の辺46との間の距離が最も短い点が、第1の辺46に一意に定まる。第1の辺46のうち、この点の付近に放電点が生じ易くなるので、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0044】
放電面36の第1の辺46は、放電面36の他の3つの辺47,48,49よりも、母材31の端面40の近くに配置されている。面取りが小さい第1の辺46の付近に放電点は生じ易いので、第1の辺46の付近に初期火炎核が形成され易い。母材31の端面40近くに配置された第1の辺46の付近は、他の辺47,48,49の付近に比べて開放されているので、第1の辺46の付近に生じる初期火炎核は、エネルギーが母材31に奪われ難い。初期火炎核が成長して火炎伝播が開始され易くなるので、着火性を向上できる。
【0045】
一方、第1の辺46の付近の放電の頻度が高くなると、第1の辺46の付近が発熱し易くなるので、チップ34の第1の辺46の付近の熱応力が大きくなり易い。放電面36に垂直な方向の溶融部35の厚さは、放電面36に沿って母材31の端面40に近づくにつれて厚くなっているので、チップ34の第1の辺46の付近の熱応力は溶融部35によって緩和され易くなる。従って熱応力に起因する溶融部35の破壊やチップ34の剥離を低減できる。
【0046】
図5から図7を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施形態では、チップ34の放電面36の4つの辺46,47,48,49のうち2つ以上の辺にC面が付されている場合について説明した。これに対し第2実施形態では、チップ51の放電面52の4つの辺53,54,55,56のうち1辺のみにC面が付されている場合について説明する。第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0047】
図5は第2実施の形態におけるスパークプラグの接地電極50の平面図である。図6図5のVI-VI線における接地電極50の断面図である。図7図5のVII-VII線における接地電極50の断面図である。接地電極50は、第1実施形態におけるスパークプラグ10の接地電極30に代えて、主体金具20に接続される。図5は接地電極50の母材31の他端部33(図1参照)が図示されており、一端部32(図1参照)の図示が省略されている。
【0048】
図5から図7に示すように接地電極50のチップ51は、母材31に設けられた凹み31aの中に配置されている。チップ51を母材31に接合する溶融部35は、チップ51の放電面52の裏面51aにおいて、母材31の端面40から放電面52に沿って設けられている。
【0049】
チップ51の放電面52は、4辺に囲まれた四角形状である。放電面52は、チップ51の側面42,43,44,45につながっている。本実施形態では、チップ51の放電面52の面積は中心電極15の放電面15a(図6参照)の面積よりも大きく、中心電極15の放電面15aの全体が、チップ51の放電面52と軸線方向に対向している。
【0050】
放電面52の4辺は、チップ51の側面42,43,44,45と放電面52との交線である。側面42と放電面52との交線は、第1の辺53である。第1の辺53に相対する第2の辺54は、側面44と放電面52との交線である。側面43と放電面52との交線は、第3の辺55である。第3の辺55に相対する第4の辺56は、側面45と放電面52との交線である。本実施形態では、第1の辺53は、第1の辺53以外の3つの辺54,55,56よりも、母材31の端面40の近くに配置されている。
【0051】
放電面52を囲む全ての辺53,54,55,56には、それぞれ面取りが付されている。放電面52は第1の辺53のみにC面が付されており、他の3つの辺54,55,56にはR面が付されている。第1の辺53(図6参照)に付されたC面は、放電面52と側面42とをつなぐ角面である。C面が付された第1の辺53の付近に電界が集中し易くなるので、第1の辺53の付近に放電点が生じ易くなる。よって放電点のばらつきを低減できる。
【0052】
第2の辺54に付されたR面は、放電面52と側面44とをつなぐ丸面または楕円面である。第1の辺53と相対する第2の辺54にR面が付されているので、第2の辺54にC面が付されている場合に比べ、第2の辺54の付近に放電点が生じ難くなる。よって放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0053】
第1の辺53に付された面取りの大きさW1は、第2の辺54に付された面取りの大きさW2よりも小さい。第1の辺53の付近に電界が集中し易くなるので、第1の辺53の付近に放電点が生じ易くなる。よって放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0054】
第3の辺55(図7参照)に付されたR面は、放電面52と側面43とをつなぐ丸面または楕円面である。第4の辺56に付されたR面は、放電面52と側面45とをつなぐ丸面または楕円面である。第3の辺55に付された面取りの大きさW3は、第4の辺56に付された面取りの大きさW4とほぼ同じである。面取りの大きさW3,W4は異なっていても良い。
【0055】
第1の辺53に付された面取りの大きさW1は、他の3辺54,55,56に付された面取りの大きさW2,W3,W4よりも小さい。第1の辺53の付近に電界がさらに集中するので、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0056】
第2の辺54に付された面取りの大きさW2は、他の3辺53,55,56に付された面取りの大きさW1,W3,W4よりも大きい。第2の辺54の付近に電界が集中し難くなるので、第2の辺54以外の、第1の辺53により近い部位に放電点が生じ易くなる。よって放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0057】
円形の放電面15aの全体が、チップ51の放電面52と軸線方向に対向しているので、放電面15aの縁15bと第1の辺53との間の距離が最も短い点が、第1の辺53に一意に定まる。第1の辺53のうち、この点の付近に放電点が生じ易くなるので、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0058】
第1の辺53は、放電面52の他の3辺よりも、母材31の端面40の近くに配置されている。第1の辺53の付近に生じる初期火炎核は、エネルギーが母材31に奪われ難いので、初期火炎核が成長して火炎伝播が開始され易くなる。よって着火性を向上できる。
【0059】
放電面52に垂直な方向の溶融部35の厚さは、放電面52に沿って母材31の端面40に近づくにつれて厚くなっているので、チップ51の第1の辺53の付近の熱応力が溶融部35によって緩和され易くなる。よって熱応力に起因する溶融部35の破壊やチップ51の剥離を低減できる。
【0060】
図8から図10を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施形態では、チップ34の放電面36の4辺のうち対辺にC面が付される場合について説明した。これに対し第3実施形態では、頂点を共有する2辺にC面が付される場合について説明する。第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0061】
図8は第3実施の形態におけるスパークプラグの接地電極60の平面図である。図9図8のIX-IX線における接地電極60の断面図である。図10図8のX-X線における接地電極60の断面図である。接地電極60は、第1実施形態におけるスパークプラグ10の接地電極30に代えて、主体金具20に接続される。図8は接地電極60の母材31の他端部33(図1参照)が図示されており、一端部32(図1参照)の図示が省略されている。
【0062】
図8から図10に示すように接地電極60のチップ61は、母材31に設けられた凹み31aの中に配置されている。チップ61を母材31に接合する溶融部35は、チップ61の放電面62の裏面61aにおいて、母材31の端面40から放電面62に沿って設けられている。
【0063】
チップ61の放電面62は、4辺に囲まれた四角形状である。放電面62は、チップ61の側面42,43,44,45につながっている。本実施形態では、チップ61の放電面62の面積は中心電極15の放電面15a(図9参照)の面積よりも大きく、中心電極15の放電面15aの全体が、チップ61の放電面62と軸線方向に対向している。
【0064】
放電面62の4辺は、チップ61の側面42,43,44,45と放電面62との交線である。側面42と放電面62との交線は、第1の辺63である。第1の辺63に相対する第2の辺64は、側面44と放電面62との交線である。側面43と放電面62との交線は、第3の辺65である。第3の辺65に相対する第4の辺66は、側面45と放電面62との交線である。本実施形態では、第1の辺63は、第1の辺63以外の3つの辺64,65,66よりも、母材31の端面40の近くに配置されている。
【0065】
放電面62を囲む全ての辺63,64,65,66には、それぞれ面取りが付されている。放電面62は第1の辺63を含む2つ以上の辺にC面が付されている。本実施形態では第1の辺63と第4の辺66にC面が付されており、第2の辺64と第3の辺65にR面が付されている。第2の辺64や第3の辺65に付したR面に代えて、第2の辺64や第3の辺65にC面を付しても良い。
【0066】
第1の辺63(図9参照)に付されたC面は、放電面62と側面42とをつなぐ角面である。第2の辺64に付されたR面は、放電面62と側面44とをつなぐ丸面または楕円面である。第1の辺63と相対する第2の辺64にR面が付されているので、第2の辺64にC面が付されている場合に比べ、第2の辺64の付近に放電点が生じ難くなる。第2の辺64以外の、第1の辺63により近い部位に放電点が生じ易くなるので、放電点のばらつきを低減できる。
【0067】
第3の辺65(図10参照)に付されたR面は、放電面62と側面43とをつなぐ丸面または楕円面である。第4の辺66に付されたC面は、放電面62と側面45とをつなぐ角面である。本実施形態では、第3の辺65に付された面取りの大きさW3は、第4の辺66に付された面取りの大きさW4よりも小さい。面取りの大きさW3,W4はほぼ同じでも良いし、W4よりもW3が大きくても良い。
【0068】
C面が付された第1の辺63の面取りの大きさW1は、C面が付された第4の辺66の面取りの大きさW4よりも小さい。よって第1の辺63の付近に電界が集中し易くなる。第1の辺63の付近に放電点が生じ易くなるので、放電点のばらつきを低減できる。
【0069】
第1の辺63に付された面取りの大きさW1は、他の3辺64,65,66に付された面取りの大きさW2,W3,W4よりも小さい。よって第1の辺63の付近に電界が集中し易くなる。第1の辺63の付近に放電点が生じ易くなるので、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0070】
第2の辺64に付された面取りの大きさW2は、他の3辺63,65,66に付された面取りの大きさW1,W3,W4よりも大きい。第1の辺63と相対する第2の辺64の付近に電界が集中し難くなるので、第2の辺64以外の、第1の辺63により近い部位に放電点が生じ易くなる。よって放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0071】
円形の放電面15aの全体が、チップ61の放電面62と軸線方向に対向しているので、放電面15aの縁15bと第1の辺63との間の距離が最も短い点が、第1の辺63に一意に定まる。第1の辺63のうち、この点の付近に放電点が生じ易くなるので、放電点のばらつきをさらに低減できる。
【0072】
第1の辺63は、放電面62の他の3辺よりも、母材31の端面40の近くに配置されている。第1の辺63の付近に生じる初期火炎核は、エネルギーが母材31に奪われ難いので、初期火炎核が成長して火炎伝播が開始され易くなる。よって着火性を向上できる。
【0073】
放電面62に垂直な方向の溶融部35の厚さは、放電面62に沿って母材31の端面40に近づくにつれて厚くなっているので、チップ61の第1の辺63の付近の熱応力が溶融部35によって緩和され易くなる。よって熱応力に起因する溶融部35の破壊やチップ61の剥離を低減できる。
【0074】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0075】
実施形態では、チップ34,51,61の放電面36,52,62が長方形の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。放電面36,52,62を他の四角形にすることは当然可能である。他の四角形は、正方形、平行四辺形、ひし形、台形が例示される。四角形の4つの頂点の少なくとも1つに丸面や角面を設け、角を取っても良い。
【0076】
実施形態では、放電面36,52,62の4辺のうち第1の辺46,53,63が、母材31の端面40の最も近くに配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2の辺47,54,64を端面40の最も近くに配置したり、第3の辺48,55,65を端面40の最も近くに配置したりすることは当然可能である。第4の辺49,56,66を端面40の最も近くに配置することも当然可能である。すなわち第1の辺は、放電面36,52,62の4辺のうちの任意の辺である。
【0077】
実施形態では、放電面36,52,62の4辺のうち端面40に最も近い第1の辺46,53,63が、端面40とほぼ平行に配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。放電面36,52,62の4辺のうち端面40に最も近い辺を、端面40に対して斜めに配置することは当然可能である。
【0078】
実施形態では、放電面36,52,62の第3の辺48,55,65と第4の辺49,56,66が、母材31の第2面39とほぼ平行に配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2面39に対する第3の辺48,55,65や第4の辺49,56,66の傾きは任意に設定できる。
【0079】
実施形態では、接地電極30,50,60の母材31の凹み31aにチップ34,51,61が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。母材31に凹み31aを設けることなく、母材31の第1面38にチップ34,51,61を配置し接合することは当然可能である。
【0080】
実施形態では、接地電極30,50,60の母材31の端面40にレーザ光を照射して溶融部35を形成し、チップ34,51,61を接合する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、母材31の第2面39にレーザ光を照射したり母材31の第3面41にレーザ光を照射したりして溶融部を形成し、チップ34,51,61を母材31に接合することは当然可能である。また、レーザ溶接によって母材31にチップ34,51が接合されるものに限られない。抵抗溶接や拡散接合によって母材31にチップ34,51,61を接合することは当然可能である。
【0081】
実施形態では、チップ34,51,61の放電面36,52,62が中心電極15の放電面15aより大きい場合について説明したが、これに限られるものではない。チップ34,51,61の放電面36,52,62を中心電極15の放電面15aより小さくすることは当然可能である。この場合、中心電極15の放電面15aの一部が、チップ34,51,61の放電面36,52,62と軸線方向に対向する。
【0082】
第3実施形態では、放電面62の第1の辺63と第4の辺66にC面が付される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1の辺63と第3の辺65にC面を付し、第2の辺64と第4の辺66にR面を付しても良い。これに加え、第2の辺64や第4の辺66に付したR面に代えて、第2の辺64や第4の辺66にC面を付しても良い。
【符号の説明】
【0083】
10 スパークプラグ
15 中心電極
20 主体金具
30,50,60 接地電極
31 母材
32 母材の一端部
33 母材の他端部
34,51,61 チップ
35 溶融部
36,52,62 放電面
37 火花ギャップ
40 母材の端面
46,53,63 第1の辺
47,54,64 第2の辺
48,55,65 第3の辺
49,56,66 第4の辺
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10