(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】骨品質を測定する方法及びツール
(51)【国際特許分類】
A61B 17/16 20060101AFI20230215BHJP
A61C 1/12 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
A61B17/16
A61C1/12
(21)【出願番号】P 2021544154
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(86)【国際出願番号】 EP2020052644
(87)【国際公開番号】W WO2020157340
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-07
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517313109
【氏名又は名称】ビエン - エア ホールディング ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニコレット、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ガトー、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】サルチ、ダビデ
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0153466(US,A1)
【文献】特開2018-187377(JP,A)
【文献】特表2019-508276(JP,A)
【文献】特開平02-034151(JP,A)
【文献】特表2005-518834(JP,A)
【文献】特開2014-158981(JP,A)
【文献】特開平11-226035(JP,A)
【文献】特表2016-508754(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0300510(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0245833(US,A1)
【文献】特表2019-527075(JP,A)
【文献】特開2001-025280(JP,A)
【文献】特開2003-235300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/12
A61C 1/00
A61B 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨構造の品質を決定するための装置であって、ドリル・ビットなどの穿孔ツールに運動学的に連結されたモータを制御するための装置を備え、
前記骨構造の品質を決定するための装置は、
穿孔作業中前記モータによって消費された電流導関数値を瞬間的に測定するための測定ユニットであって、前記電流導関数値が前記測定ユニットによって直接的にサンプリングされる、前記測定ユニットと、
前記穿孔作業と同時に前記測定ユニットによって収集されたデータを処理するのに適した処理ユニットと
をさらに備え、前記処理ユニットは同様に、測定された電流導関数値を処理するのに適しており、その処理によって、前記モータによって前記穿孔ツールに加えられたトルクの導関数の値を得、前記得られたトルク導関数値を前記モータの回転速度及び前記穿孔作業中に使用されたドリルのタイプと相関させて、前記相関から、前記得られたトルク導関数値と前記骨構造の深さとの関係を推定するようになっており、前記トルク導関数値は穿孔抵抗に対応し、故に骨品質を規定し、
前記電流導関数値が、直接的にトルク導関数値をもたらし、故に深さの関数として骨品質値をもたらすようになって
おり、
ここで、電流導関数値は、di/dzで定義され、ここで、iは電流、zは深さであり、穿孔ツールの動作部が、骨材料を削ることのできる前記穿孔ツールの部分であるとき、zは0と前記穿孔ツールの動作部長さの間の値であり、
前記測定ユニットが、前記ドリル・ビットの全回転ごとに少なくとも10回の割合で前記電流導関数値をサンプリングするように構成される、骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項2】
所与の深さにわたって一定の電流導関数値が、骨品質のクラスに分類された均一の密度及び硬度の領域を特定することを可能にする、請求項1に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項3】
前記骨構造の品質を決定するための装置がドリル・ビットをさらに備え、前記ドリル・ビットが、最小値と最大値との間の範囲の可変の直径プロファイルを有し、前記最小値と前記最大値との間の比は、少なくとも2に等しい、請求項1又は請求項2に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項4】
前記ドリル・ビットの前記正確な配向を知るために、前記ドリルの
配向決定システムと、前記コントラ-アングルのロータのための角度センサとをさらに備え
、
前記配向決定システムは、モータに対するドリル・ビットの角度位置を決定するべく、ロータに接続されたままステップ・バイ・ステップでドリル・ビットの配向を変えるシステムであり、前記角度センサは、モータの角度位置に対するドリル・ビットの相対的角度位置を測るものである、請求項1から3までのいずれか一項に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項5】
前記ドリル・ビットは、前記穿孔ビットの平均直径より少なくとも20%大きい押出された直径をもたらす非対称セクションのドリル・ビットである、請求項
1から請求項4までのいずれか1項に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項6】
コントラ-アングル・ハンドピース、ドリル・ビット、及び/又はモータに適合された較正及びベンチマーキング・ツールをさらに備え
、ここで前記ベンチマーキング・ツールはドリル装置の一部であって、前記ベンチマーキング・ツールは、硬さの知られている人工骨を模倣するドリルされる材料のセットから構成されている、請求項1から
5までのいずれか一項に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項7】
前記骨構造の品質を決定するための装置がドリル・ビットをさらに備え、前記ドリル・ビットが、コントラ-アングル・ハンドピース上で取り外し可能な形で装着され、前記コントラ-アングル・ハンドピースは、所定のギア比を決定し、複数のタイプの異なるドリルに適合可能である、請求項1から
6までのいずれか一項に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項8】
手術医が使用されるドリルのタイプを決定し、前記モータの回転速度を設定することを可能にするディスプレイ・ユニット及び制御インターフェースを装備したコンソールがさらに設けられる、請求項1から
7までのいずれか一項に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項9】
前記コンソールが、前記穿孔作業後に前記検出された骨品質に関連する結果に基づいて、適切な特有のプログラムを自動的に事前に選択する、請求項
8に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項10】
測定データの伝達のための無線通信インターフェースがさらに設けられる、請求項1から
9までのいずれか一項に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【請求項11】
前記装置が、皮質及び海綿の骨質それぞれの原因となる
電流導関数値における2つの別個の値をもたらし
、皮質
骨から海綿
骨に変わる境界である分離部の深さ
の位置を特定するように構成される、請求項1から
10までのいずれか一項に記載の骨構造の品質を決定するための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科術の分野に関し、より詳細には歯科外科術及びインプラント術の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
骨品質を決定するための方法の文脈において、2つのタイプの評価方法に分類することが可能である。一方では観血法、すなわち品質を評価する骨の穿孔中に得られた経験的データに基づくもの、他方では、たとえばX線又は磁気共鳴画像法(MRI:magnetic resonance imaging)などの医用画像技術を使用する非侵襲性方法がある。
【0003】
インプラントの留置のための部位の準備中に実施される骨品質(すなわち機械的抵抗)の評価の方法が、特許文献の国際公開第2008052367号に説明されている。この文献では、骨内に穴を作り、次いで特有の器具を使用して骨の機械的抵抗の特性を決定することが、明記されている。特徴付けられる特性は、一方では、穴の内部に及ぼされた圧力によって誘発される機械的変形、他方では、穴を機械的に変形させるために穴内に挿入されたツールに加えられるねじりモーメント又はトルクである。
【0004】
大腿骨などの大きな寸法の骨の場合にこのとき採用される類似の方法が、国際公開第2012083468号の文献において開示されており、この文献はまた、この手順に採用されるハンドピースも開示している。この場合、骨の機械的抵抗は、穴の機械的変形を加えられたトルクと相関させるために、穿孔方向とは反対の方向に穿孔ツールを回転させることによって測定される。穿孔ツールは、さらに、対称の形態を有し、これは、このツールが、2つの回転方向、すなわち切断のための第1の方向及び測定のための第2の方向で材料を抽出し得ることを意味する。この理由のために、この方法は歯科インプラントの場合に適さず、その理由は、測定のための反対方向の回転が、骨を破砕するか、又は損傷させるリスクを有するためである。事実上、歯科インプラントの準備のためのすべてのドリル・ビット及びドリルは、螺合方向及び螺合解除方向を有し、螺合解除方向は、骨材料のはがれを生じさせずに穿孔ツールの取り出しを可能にする。
【0005】
米国特許第7878987号は、部分的に、破砕に対する骨全体の抵抗の最小侵襲性評価のための特有の代替の解決策を提案している。この場合、このシステムは、骨の表面に達する前に患者の皮膚及び軟質組織を通過することができる。次いで、非常に細い試験ブレード/プローブを骨の内側(へこみに、プローブを回転させずに)押し込むことによって測定が実施される。骨を貫通し、抜き出されるためにブレード/プローブに加えられた力を測定することにより、骨の破砕のリスクの評価を確立することが可能になる。
【0006】
しかし、骨の品質の評価のために歯科インプラント術特有に採用される方法は、存在していない。
【0007】
現在、この特有の技術的分野では、歯科インプラントのための骨の骨品質の定性的評価のための唯一の認識された方法は、以下に説明するような非侵襲性方法である。
- 特許文献の特開願2000-245736号は、マイクロ波を使用して骨粗しょう症を検出するためのツールを説明している。
- ROSHOLMらの米国特許第6,763,257号は、ラジオグラムを使用する骨品質評価の方法を説明している。
- NI ETらの米国特許出願公開第2003/0057947号は、骨の多孔度を決定するための磁気共鳴に基づく技術を説明している。
【0008】
しかし、これらの非侵襲性方法は、骨品質の定量的測定を提供せず、したがって、これらは骨品質の十分に精密な空間的プロファイルを規定することを可能にしないため、インプラント戦略を規定するために使用するには精度が低すぎると考えられている。
【0009】
したがって、これらの知られている制限を有さない解決策に対する必要性が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2008052367号
【文献】国際公開第2012083468号
【文献】米国特許第7878987号明細書
【文献】特開2000245736号公報
【文献】米国特許第6,763,257号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/0057947号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、より精密でより効果的である、骨品質を決定するための新しい測定装置及び新しい方法を提案することである。
【0012】
より詳細には、本発明の目的は、通常の作業手順に関して追加の測定ステップを必要とせず、又は特有の器具若しくは特有の操作を要求せずに、異なる骨領域の明確な空間的プロファイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本目的は、主要装置の請求項1の特徴によって達成される。
【0014】
提案された解決策の利点は、これが、歯科インプラントの部位の準備のための穿孔中に骨品質を定量的に測定することを可能にする方法を導入することである。この手順により、マイクロモータと、(通常は20:1のギア比を有する)コントラ-アングル・レデューサ(contra-angle reducer)とから構成された標準的なインプラント術キットを、特有の装置を付加する必要なく使用することが可能になる。
【0015】
さらに、そのような方法により、補足的な作業段階を加える必要なく、又は従来の穿孔作業より侵襲的な作業に患者をさらす必要なく、インプラントの準備の全段階中に一連の測定を実施することが可能になる。特に、(国際公開第2008052367号に開示される解決策の文脈において必要とされるような)圧力及び/又はねじり力による変形は、必要ではない。
【0016】
提案された解決策によって提供される別の重要な利点は、提案された定量的測定の精度に関する。換言すれば、この提案された定量的測定により、インプラント部位において骨品質を分類するだけでなく、骨の表面からその深さまでの骨品質の空間的プロファイルを再構築することも可能になる。より詳細には、得られた測定値は、骨の表面から骨の内部に向かって骨品質の精密な空間的プロファイルを提供し、皮質領域、すなわち骨の外側表面近くの最も硬い領域から、骨の内側のより軟質の海綿又は尖端領域までの移行ゾーンを特定する。
【0017】
本発明の好ましい実施例によれば、骨質は、電流を直接的に測定することなく、電流導関数測定値から直接的に導出される。これにより、算出プロセスを簡単にすることが可能になり、トルク値、ひいては骨質をもたらすトルクの導関数を得るために電流信号を後処理する必要がなくなる。
【0018】
本発明の別の好ましい実施例によれば、穿孔ツールは、最小値から最大値までの間の範囲にある可変の直径プロファイルを有し、最小値と最大値との間の比は、少なくとも2に等しい。この場合、電流及びトルクの導関数は、直径の最大値を有する穿孔ツールの部分にのみ依存すると仮定することができる。量LF(又はLf)は、最大直径を有する部分の長さを規定する。最大直径と最小直径との間の比は、電流導関数の空間的挙動が、穿孔ツールの最大直径部分の貫通深さにのみに依存することを保証するために、2以上でなければならない。
【0019】
本発明のさらに別の実施例によれば、骨質を測定するための装置は、さらに、コントラ-アングルのロータの正確な配向を知るためにホールセンサ、磁気センサ、光センサ又は電気センサなどの角度センサと、ドリル・ビットの正確な配向を決定するために配向決定システムとを備える。したがって、穿孔ビットが全回転をなすたびに、たとえば10個程度の十分な測定データが集められることを確実にしながら、骨質の角度分布を付加的に得ることが可能になる。
【0020】
さらに本発明のさらなる実施例によれば、骨質を測定するための装置は、押出された直径がドリル・ビットの中間直径より少なくとも20%大きいことをもたらす、非円形の非対称ドリル・ビットを備える。そのような特殊な穿孔ツールにより、骨質の3D表示を得ることが可能であり、その理由は、骨質のバリエーションを貫通深さの関数としてだけでなく、角度配向の関数として知ることも可能であるためである。
【0021】
本発明の変形の実施例によれば、骨質を測定するための装置は、さらに、較正及びベンチマーキング・ツールを包含して、特有の穿孔ビット、ハンドピース又はモータによる分類基準を規定することを可能にすることができる。
【0022】
本発明は、例として与えられた後続の説明を図を参照して読み取ることにより、より良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の好ましい実施例による測定装置のさまざまな機能的部分の論理的概要図である。
【
図2a】歯科インプラント術の分野で従来的に使用されているドリル・ビットの概略図である。
【
図2b】皮質及び海綿ゾーンを強調する人工骨の断面図である。
【
図3a】時間の関数としての、人工骨の2つの異なるタイプに対する本発明によるモータの電流消費のグラフである。
【
図3b】本発明の実施例による、2つの骨のそれぞれ内の深さの関数としての、モータによって及ぼされたトルクの概要図である。
【
図4a】本発明の文脈において使用することができるドリル・ビットの一タイプの図である。
【
図4b】本発明の文脈において使用することができるドリル・ビットの異なるタイプの図である。
【
図5】本発明の好ましい実施例による、骨質値が電流値の導関数の関数としてどのように直接的にもたらされるかを示す状態図である。
【
図6a】深さの関数としての、
図3A及び3Bで前に示した人工骨の2つの異なるタイプに対する、モータによって消費された電流の電流導関数のグラフである。
【
図6b】さらに2つの骨のそれぞれ内の深さの関数としての、結果として得られた骨質の概要図である。
【
図7a】前の
図4aに示すドリルなどの、最大直径L
fの長さが0.5mmに等しい特殊なドリルによって穿孔作業が実行されるときを示す、
図6Aと同じ図である。
【
図7b】前の
図4aに示すドリルなどの、最大直径L
fの長さが0.5mmに等しい特殊なドリルによって穿孔作業が実行されるときを示す、
図6Bと同じ図である。
【
図8a】骨の皮質領域と海綿領域との間の移行領域の矢状断面図である。
【
図8b】
図8Aに示す水平面A-Aに沿った水平断面図である。
【
図9a】本発明の好ましい実施例による、角度センサを備える、ドリル・ビットが装着されたハンドピースの矢状断面図である。
【
図9b】ハンドピース上に装着されたこの角度センサの拡大図である。
【
図10】非対称の穿孔ビットを備える、本発明の好ましい実施例によるハンドピースの側面図である。
【
図11】本発明の別の好ましい実施例による、較正ツールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本出願の文脈において、「コントラ-アングル」という表現は、施術者、特に歯科医の加工ツールを示す汎用的用語として使用される。同様に、「モータ」という用語は、所定の減速係数を決定する伝動装置を有するコントラ-アングル内に組み込まれた運動学的チェーンによって穿孔ツールに伝達される機械的運動(特に、回転運動であるが、場合によっては線形、振動などの運動)を作り出すことができる装置を一般的な形で示す。「ドリル・ビット」又は「ねじタップ」という表現は、モデル及び寸法特徴に関係なく、骨を穿孔するための任意のツールを示す汎用的用語として使用される。
【0025】
以下に説明するのは、歯科インプラント術の分野に関連する好ましい実施例である。インプラント術のためのモータを制御するためのそのような電子装置は、モータとの接続ボックスと、ユーザ用の周辺装置インターフェースとから構成され(この2つは、ユーザによって、互いに取り外し可能、又は取り外し不能であることができる)、以下の特徴によって特徴付けられる。
1.ユーザによって選択できる機能により、モータによって消費された電流の記録が瞬間的に、すなわちリアルタイムで起動される。
2.このボックス又は周辺装置のメモリ内で、以下で説明する後処理アルゴリズムが、モータによって消費された電流のリアルタイムの信号を、このツールの深さにおける位置の関数としての、穿孔ツールに加えられたトルクの信号に紐付ける。
3.別の電子装置にデータを伝送するためのツールは、WIFIエミッタ又はケーブルを介する通信ゲートである。
【0026】
装置及び測定方法が、
図1に概略図で示され、この図は、モータから骨にあてられた穿孔ツールまでの伝達チェーンと、測定データの戻りとを有する装置を示している。実線の矢印は動きの伝達方向を示し、その反対の方向の破線の矢印は、エネルギー消費に関する情報の伝達方向を示す。この図では、通信インターフェースを介した伝達は、無線(Wi-Fi、UWBなどの任意の適切な技術による通信を示す稲妻)で実施され、この好ましい実施例によれば、モータによって消費された電流を瞬間的に測定するための機能ユニットは、制御装置のボックス内に構造的に組み込まれる。変形形態によれば、このユニットは、小型化してモータ内に組み込むこともできる。
【0027】
歯科インプラント部位の骨品質を測定するための手順中、インプラント術キットのユーザは、最初に、モータの制御コンソールを介してオプションを選択することができ、それによって、インプラント部位の準備に必要な骨の穿孔の少なくとも1つの間、モータによって消費された電流が、モータ接続ボックス又はインターフェースとして使用される周辺装置(たとえばデジタル・タブレット)のメモリ内に記録される。制御コンソール(図示せず)は、好ましくは、メニュー及び/又はプログラムを選択し、手術医によってなされた選択を検証するために、LCDスクリーンの形態のディスプレイ・ユニットと、キー又はホイールとを備える。
【0028】
次いで、モータによって消費された電流のリアルタイムの信号は、モータ接続ボックス又はインターフェースとして使用される周辺装置上に好ましくはインストールされたアルゴリズムによって後処理される。したがって、そのような好ましい実施例では、穿孔作業中に収集されたデータを処理するためのユニットがこのボックス内に組み込まれるが、その必要性によっては、また処理能力に関する制約事項に応じて、遠隔コンピュータ内に位置するプロセッサを使用することもできる。そうではあるが、この場合、データ伝達のためのインターフェースは、制限要因を構成しないように十分速い速度を提供しなければならない。信号処理は、たとえば、局部回帰法、Savitzky-Golay法、移動平均、ガウス・フィルタリング(Gaussian filitering)などを使用することができる。有利な実施例によれば、信号処理はまた、モータの無負荷消費及びユーザによって及ぼされる圧力に関連する定常的寄与を排除することもでき、この定常的寄与は、実際には、「オフセット」、すなわち即時消費曲線の定数分のシフトを構成するにすぎない。
【0029】
モータのそれぞれは、定格電力をワットで有し、この電力は、このモータが生成することができる最大可能電力を構成する。通常、穿孔段階中、電圧自体は一定のままであるために電流値から直接決定することができる使用電力は、この定格電力の10~15%を超えない。その反対に、インプラントの螺合段階中、この定格電力の最大80%、さらにはそれ以上のかなり高い値に達し得る。
【0030】
最初にモータの即時電力と(伝動装置の運動チェーンを介してドリル・ビットによって骨に及ぼされた)即時トルクとの間の関連性を最初に確立する電流の後処理された信号により、第2の段階において、次いで、ドリル・ビットのタイプ及び穿孔速度を使用して、穿孔ツールに加えられたトルクをこのツールの深さにおける位置の関数として表すことが可能になり、この信号は、モータ接続ボックス若しくは周辺装置のメモリ内に記録されるか、又はケーブル若しくはWIFIによって別の電子装置に伝達される。
【0031】
換言すれば、特有のプログラムを介して通常適用され、コンソールによって制御される、典型的には1分あたり100から1000回転(rpm)の間のモータの速度は、穿孔作業中、1%未満の非常にわずかな偏差しか有さない一方で、他方では、このモータ速度は、使用されるコントラ-アングルのギア比(通常20:1)及び穿孔ツールとして使用されるドリル・ビット、特にそのねじ山のタイプと組み合わせられて、穿孔時間を関連する深さとはっきりと相関させることを可能にする。
【0032】
したがって、
図3a及び3bの対応に照らして分かるように、骨品質の決定の提案された方法は、以下からなる入力データを変換することを可能にする:
i.電流の後処理された信号、
ii.使用される穿孔ツールモデル、
iii.モータの作動速度
を特に以下の出力データ:
a.骨の内側の深さの関数としての骨品質の信号、
b.骨の皮質領域と海綿領域との間の移行部の深さ、
c.皮質領域内の平均骨品質、
d.海綿領域内の平均骨品質、
e.皮質領域内の平均骨品質の値に関する、0(低信頼性)と1(高信頼性)との間の数字による信頼性係数。好ましい実施例では、この係数は、皮質領域内のトルクと深さとの間の相関係数、皮質領域内の多項式回帰の残差、及び皮質領域内の信号対ノイズ比の関数である。
f.海綿領域内の平均骨品質の値に関する、0(低信頼性)と1(高信頼性)との間の数字による信頼性係数。好ましい実施例では、この係数は、皮質領域及び海綿領域内のトルクと深さとの間の相関係数、皮質領域及び海綿領域内の多項式回帰の残差、皮質領域及び海綿領域内の信号対ノイズ比の関数である。算出は、2つの領域、すなわち皮質及び海綿内の信号に品質に依存するため、海綿領域内の信頼性は通常低い。しかし、説明する方法により、この領域内の信頼性の程度を数学的に定量化することが可能になる。
【0033】
図2aは、典型的な穿孔ツール(ねじタップ)を示し、この穿孔長さは、約8mmであり、12mmで止まり、一方で
図2bは、(実際の骨の組成と同様の)市販の人工骨を示す。この骨は、4mmのより密度のある硬い領域を、11mmのより軟質の領域と組み合わせて有する。
【0034】
図3a及び3bでは、上記で説明した方法による後処理された測定値の実例が、示される。
【0035】
図3aに示す時間の関数としての消費された電流の信号は、後処理され、上記で述べた入力パラメータ(モータ速度及び穿孔ツールとして使用されるねじタップのタイプ)の関数として
図3bから推測された、穿孔ツールの先端における骨の深さの関数としてのトルクの信号に紐付けられた。これらの
図3a及び3bのそれぞれにおける2つの重ね合わされたグラフに示す別々の測定が、2つのタイプの人工骨についてなされた。
- タイプ1:6mmに等しい皮質領域の厚さ及び高品質の海綿領域。
- タイプ4:1mmに等しい皮質領域の厚さ及び低品質の海綿領域。
【0036】
出力データを説明するパラメータは、グラフ上で直接見ることができる。
- 人工骨1及び人工骨4は、穿孔抵抗rc=25N(曲線の同じ初期スロープ)に対応する皮質の骨品質を有する。
- 人工骨1は、6mmの皮質厚さ(平坦域(plateau)開始の位置)を有し、一方で人工骨4は、1mmの皮質厚さ(平坦域開始)を有する。
- 8mm、換言すれば使用されるねじタップの全長で終了する平坦域の後の負のスロープpt=dC/dzにより、次の関係:rt=rc-|pt|を用いて海綿領域の骨品質を決定することが可能になる。
【0037】
したがって、これらの測定から、人工骨1が穿孔抵抗rt=16.5N(pt=-8.5N)に対応する高い海綿骨品質を有し、その一方で人工骨4が穿孔抵抗rt=10N(pt=-15N)に対応するより低い海綿骨品質を有することを推定することができる。
【0038】
上記の3段階の検出ステップ、すなわち最初の線形上昇、次いで平坦域、最後にここでも線形の傾斜のそれぞれに対して、多項式曲線当てはめを好ましくは達成することができる。
【0039】
本発明の好ましい実施例によれば、インプラント術モータを制御するための電気装置は、さらに、ボックス又は周辺装置のメモリにインストールされた、電流及び使用された穿孔ツールのモデルの後処理された信号を、たとえばBMI(骨密度)又はBMD(骨塩量)タイプの分類に対応する、骨品質を分類するための離散パラメータ(整数)に紐付けるアルゴリズムを含む。これらのタイプの分類は、連続変数によって表されるが、実際にはこれらの値を経験及び異なる「クラス」に分ける統計的結果に基づくカテゴリ/評価に関して査定することによって使用される。
【0040】
したがって、提案された方法によって得られた測定値を、骨品質の離散変数評価(1、2、3、4)に関連付けることが可能であり、それによってインプラント留置に関連付けられたリスクの関数としての、得られた結果の容易な累計論的評価を可能にする(たとえば、抵抗性のあるインプラント/非常にわずかなリスクに対応する品質1、品質2:安定的なインプラント、低リスク、品質3:潜在的に不安定なインプラント、高リスク、品質4:不安定なインプラント、非常に高リスク)。
【0041】
図1の残りの部分に示すように、インプラント術モータを制御するための電子装置の好ましい変形形態によれば、別の電子装置へのデータの転送のためのインターフェースが利用可能であり、転送ツールは、好ましくは、任意の不必要な追加のケーブルを回避するために、WIFIエミッタで構成される。
【0042】
さらに本発明による装置及び方法の好ましい実施の変形形態によれば、手術医が、インターフェース周辺装置、すなわちコンソールを直接介して、「使用される穿孔ツールのモデル」によって構成された入力データを、人の好み又は作動上の制約事項に応じて複数の可能なモデルの中から選択することが可能になる。測定は、事実上、特殊な穿孔ツールによって実施することができ、このツールは、ツールの軸に沿って少なくとも2の係数だけ可変である直径の断面によって特徴付けられ、最大直径は、好ましくは、ツール先端から距離dに位置し、dは、2mmから5mmの間である。このタイプのツールの2つの例が、
図4a及び4bに提示される。
【0043】
図4aは、コントラ-アングルに連結された特殊な穿孔ツールを示し、この穿孔ツールは、「最小-最大-最小」プロファイルを有する可変直径の断面によって特徴付けられ、最大直径によって特徴付けられる部分は、(たとえばこれ以後論じる
図5ではL
Fとも称される)長さL
fを有しており、
図4bは、コントラ-アングルに連結された特殊な穿孔ツールであり、この穿孔ツールは、部分的に、「最小-最大-最小-最大-最小」プロファイルを有する可変直径の断面によって特徴付けられる。
図4bに表す特殊なツールの結果、骨穴の最適なタッピング(すなわち標準の穿孔ツールの場合のねじ付き孔の作成)が確実になり、(
図4aに表すツールのような)皮質-海綿分離部の的確な測定を装備するという追加の利点が得られる。
・(長さL
Fにわたる)最大直径によって特徴付けられる「第1の」部分(すなわち骨に最初に入る部分)は、「プローブ」であり、電流又は電流導関数を測定する役割を有し、したがって骨質を評価し、皮質-海綿分離を特定する。
・(長さL
F2にわたる)最大直径によって特徴付けられる「第2」の部分は、第1の部分が、穴の最適なねじ山を直接作り出すには短すぎる(L
F<<L
F2)場合にタッピング作業を完了するという役割を有する。
【0044】
したがって、
図4bの特殊な穿孔ツールの使用により、その後のインプラントに合わせて最適なねじ山を作り出すための骨穴のタッピングの追加の作業を回避することが、可能になる。明らかなことに、最大直径の第1の部分(すなわち「プローブ」)の進入及び電流導関数(及び/又はトルク導関数)の対応する評価が非常に低い骨質を示唆する場合、最大直径の「第2の」部分が皮質ゾーンに入る前に穿孔及びタッピング作業を即時に停止し、こうして骨病変を最小限に抑えることができる。
【0045】
ドリル・ビットの直径は、不適当な穿孔(過剰な直径における直接的な穿孔は、過熱及び/又は骨の割れ始めを生じさせるリスクがある)のリスクを過度に増大させることなく、穿孔段階の数(したがってアクションの繰り返し、生成される振動及び熱に関連付けられるリスク)を低減するように最適化される。現在、ドリル・ビットの製造業者の大部分は、3段階の穿孔を推奨している。
1.2.2mm直径のドリル・ビットによる穿孔。
2.2.8mm直径のドリル・ビットによる穿孔。
3.3.0又は3.2mm直径のドリル・ビットによる穿孔。
【0046】
穿孔品質は、3つの定性的基準に基づく。
1.穿孔穴を直径方向に横断する骨にひびがないこと。
2.穴の方向が骨表面に実質的に垂直であること。
3.穿孔された領域内の熱レベルが低いこと(パラメータは精密に測定できない)。
【0047】
したがって、異なる可能なドリル・ビット・プロファイル間の選択は、作業プロトコルの選択の最適化に関する柔軟性の向上を手術医に提供する。
【0048】
さらに、好ましい実施例によれば、インプラントを実施しなければならない骨品質の測定及び決定の結果に続き、コンソール上にインストールされた最適化プログラムにより、先に述べたその後の穿孔段階のために、穿孔作業後に検出された骨品質に関連する結果に基づいて特有の最適なプログラムを自動的に事前に選択することが可能になる。これにより、たとえば、後続の穿孔段階に使用されるドリル・ビットのサイズ若しくはモータの速度も調整することが可能になり、又はさらに骨を損傷しないように適用可能なトルクの自動制限を決定することも可能になる。
【0049】
したがって、本発明の枠組み内で開示する装置及び方法により、骨品質のより精密な定量的測定値を得ること、特に骨の皮質領域の局所的厚さを測定することが可能になる。
【0050】
この装置及びこの測定方法は、さらに、多くの市販の穿孔ツールに適しており、モータ及び標準的な市販のコントラ-アングル(較正後)と組み合わせて使用することができるという利点を有する。
【0051】
この装置及びこの方法は、さらに、患者が重症であるとみなされる場合、より高い測定精度を得ることを可能にする(インプラント術キットを設けることができる)特殊な穿孔ツールで使用することもできる。
【0052】
これまでに説明した好ましい実施例によれば、骨構造の品質は、モータによって駆動されるドリル・ビットなどの穿孔ツールを用いて前記骨構造内に穿孔する第1のステップ(A)と、穿孔の第1のステップ(A)中モータによる電流消費を同時測定する第2のステップ(B)と、その後に続く、第2のステップ(B)の後に得られた電流消費信号を処理して、モータによって前記穿孔ツールに加えられたトルクの値を得る第3のステップと、最後の第4のステップ(D)であって、第3のステップ(C)の後に得られたトルク値を、前記モータの回転の速度及び第1のステップ(A)中に使用された前記ドリルのタイプと相関させて、この相関から、得られたトルク値と前記骨構造の深さとの間の関係を推定する、第4のステップとによって決定される。この方法によれば、この第4のステップ(D)の後に得られた、トルク値と骨構造の深さとの間の関係により、前記骨構造の穿孔に対する機械的抵抗を深さの関数として決定することがさらに可能になる。
【0053】
次いで、第4のステップ(D)の後に得られた、トルク値と骨構造の深さとの間の関係により、穿孔に対する実質的に一定の機械的抵抗のゾーン及び関連するレベルの深さを、深さの関数としてのトルク値の導関数を算出することによって特定することがさらに可能になる。この方法は、次いで、トルク導関数(たとえば、皮質及び海綿領域それぞれの穿孔抵抗rc及びrt)に直接応じて、検討される骨構造の離散値による類型学的分類のその後のステップをさらに含むことができる。
【0054】
しかし、本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、別の電流関連値、すなわち電流導関数が入力パラメータとして使用される。この場合、電流値を測定する代わりに、電流導関数値は、測定ユニットによって直接的にサンプリングされる。
【0055】
図5の状態図は、骨質値、すなわち深さzの関数としての骨品質値をもたらすために、モータの回転速度に依存する電流深さz(t)に応じて、電流導関数値をどのように処理するかを説明する。
【0056】
手順は、次のステップによってまとめられる(この詳細な説明では、穿孔ツールの動作部の長さLFは、皮質と海綿の領域間の分離部に対応する深さより長いと考えられる)。
1.骨内の実際の貫通深さを特定する算出された量ztestは、ゼロに初期化される。Di[ztest(0)]もまた、ゼロに初期化される。皮質と海綿の領域間の分離部の横断を示す離散変数fCTもまた、ゼロに初期化される(fCTは、穿孔ツールが皮質と海綿の領域間の分離部を横断するまでゼロである)。
2.骨内の貫通前、電流導関数の値は、主にコントラ-アングル及びモータがもたらすことによるノイズ変動は別にして、ほとんどゼロである。したがって、最初の論理ブロックは、明らかに満たされる(YES)。z(t)は穿孔ツールの動作部の長さ(LF)より小さいため、ztestは、穿孔ツールが骨内に入るまで増分されない。
3.穿孔ツールが骨の皮質領域(すなわち骨の外部領域)に入った瞬間、電流導関数di/dzは正になる。第1の論理ブロックは満たされず(NO)、(電流導関数di/dzは正であるため)第2のブロックも同様に満たされない。したがって、実際の深さztestは、(ツールの実際の速度を考慮に入れながら)増分され、ztestの増分された値に対応する量Diは、値di/dzをとる。
4.穿孔ツール(又はその一部)が皮質領域の内側にある間(すなわち皮質と海綿の領域間の分離部を横断する前)、電流導関数は、ほとんど一定である(信号ノイズによる小さな変動又は皮質領域の内側の骨密度のわずかな増大によるゆっくりとしたわずかな増大を除く)。その理由は、貫通長さ(及び穿孔ツールと皮質材料との間の接触表面)の線形増分は、必要とされるトルク及び電流の線形増分に対応するためである。第1及び第2の論理ブロックは、満たされない(いずれも値「NO」をとる)。したがって、実際の深さztestは増分され、量Diは、一定であるか、又は量Diが前のものよりわずかに大きい場合はdi/dzの新しい値をとる。
5.穿孔ツールが、皮質の領域の内側に完全に係合されることなく、皮質と海綿の領域間の分離部に達すると、電流導関数(及びトルク導関数)は、突然(ゼロ又は前回のものよりかなり小さい正の値)に低下する。骨の内側(すなわち骨の海綿領域)を穿孔ツールがさらに前進するのに、関連する追加の電流供給は必要とされない。第1の論理ブロックは満たされ(YES)、第2の論理ブロックも同様に満たされる(この場合、穿孔ツールは、皮質と海綿の領域間の分離部に対応する深さより長い)。したがって、実際の深さztestは、増分されない。
6.実際の深さは、穿孔ツールの動作部が部分的に骨の外側になるまで(すなわち皮質領域の内側の穿孔ツールの部分が一定となるまで)増分されない。穿孔ツールが完全に骨の内側にあり、皮質領域の内側の穿孔ツールの部分が減少し始めるとき、電流導関数は負になる。追加の海綿材料が穿孔ツールと接触することによる寄与は、穿孔ツールの動作部と接触する皮質材料の量の減少を補償しない。したがって第1の論理ブロックは満たされず(NO)、その一方で第2の論理ブロックは満たされる(YES:電流導関数は負であり、fCTは依然としてゼロである)。実際の深さztestは増大され、その一方で「増分的な電流導関数」Diは(電流導関数di/dzが負であるために)低減される。皮質と海綿の領域間の分離部に達するため、fCTは1に変わる。
7.電流導関数は、穿孔ツールの動作部分が完全に海綿領域の内側になるまで負である。この点から、電流導関数は、(信号ノイズ及びわずかな不均一は別にして)ゼロに近い。fCTは1であるため、第1の論理ブロックと第2の論理ブロックの両方は満たされず、したがって、実際の深さは、測定の終了まで増分される。
【0057】
動作部分が皮質と海綿の領域間の分離部の深さより短い(
図4aのもののような)特殊な穿孔ツールが使用される場合、その手順は、5の項目から変更される。この場合、電
流導関数は、穿孔ツールの動作部分が完全に皮質領域の内側にあるとき(すなわち皮質と海綿の領域間の分離部に達する前)、突然ゼロ又は非常に低い値に低下する。この場合、状態図の右部の第2の論理ブロックは、
電流導関数がゼロであるか、又はゼロに近いときは満たされない。したがって、増分的電流導関数Diは、穿孔ツールの動作部分が皮質領域の内側になるまで一定のままである。また、
図4aのような特殊なツールでは、6及び7の項目は有効なままである。
電流導関数di/dzの負の値の結果、増分的電流導関数Diの低減が生じ、海綿領域の密度及び/又は硬度の減少の原因となる。
【0058】
既説した手順は、皮質及び海綿の骨質それぞれの原因となる2つの値を明確に特定することを可能にする。加えて、これは、皮質と海綿の領域間の分離部の深さを特定することを可能にする。
【0059】
トルク導関数値、したがって骨品質値をもたらすために、電流値の変わりに電流導関数値を入力パラメータとして使用することには次の利点がある。第1に、これにより、電流値をトルク値と最初に相関させるために電流値を後処理し、次いでこれらの値からトルク導関数曲線を導き出す必要が最初にある方法と比較して、計算ステップが大幅に削減される。第2に、トルク値は、寿命及び潤滑状態に応じて経時的に変化し得るハンドピース及びモータ自体の性能によって影響される。したがって、提供される測定値は、骨密度及び硬度、したがってその関連する品質だけに依存しない。第3に、トルク測定は、本質的には、所与の瞬間に骨に挿入された穿孔ツールの全長にわたって空間的に組み込まれた、骨によって穿孔ツールに加えられた機械的抵抗に依存する。したがって、これは、非常にはっきり限定されたスポットにおいて密度及び硬度を局所的に決定することを可能にする局所的測定ではない。
【0060】
故にこの計算方法は、海綿領域及び皮質領域などの均一な密度及び硬度の領域をより容易に特定し、穿孔抵抗rc及びrtをそれぞれ示すことを可能にする。
【0061】
前に
図3Bに示したこれらの穿孔抵抗r
c及びr
tは、さらにより直感的な方法で
図6A及び6Bの図にさらに得ることができ、これらの図は、8mmの長さを有する同じドリル・ビットによって穿孔されたときの同じ人工骨に対する、深さの関数としての電流導関数のグラフを示す。実際、深さ(z)の関数としてのトルクの一定の導関数は、初期スロープから導き出されるのではなく、皮質領域にわたる均一の穿孔抵抗r
cを示す。次いで、深さがドリル・ビットの長さ(すなわち8mm)を超えた後に
電流導関数が負になるとき、値|p
t|=r
c-r
t、ひいては海綿領域r
t内の抵抗を得ることができる。したがって、すべての抵抗値が決定されるため、この測定をこの深さ時点で停止することができ、したがって、P
end_of_measurementを
図6Aに示すように約9mmに設定することができる。
【0062】
図6Bは、骨のタイプ、すなわち人工骨1及び人工骨4のそれぞれについて、増分的な電流導関数値をいかにして穿孔抵抗値に直接マッピングし、したがって、(
図6Bの右側の)骨品質のスケールに非常に簡単にマッピングすることを可能にできるかを示す。この場合、0.34A/mmにほぼ等しいr
c1=r
c4を有し、r
t1=0.22A/mmであり、r
t4=0.14A/mmである。これらの値は、トルクの空間導関数を介して事前に得られた値に対応し、対応する値間の数学的関係は、
xηk
tDi=dc/dz
となり、式中、xは増倍係数(コントラ-アングルが20:1CAである場合は20)であり、ηはCAの収率であり、k
tは、(供給された電流に比例するトルクの値を規定する)モータのトルク定数である。
【0063】
図7A及び7Bは、直径が最大である部分に対応する低減された長さL
fを有する、
図4Aに開示するものなどの特殊なドリルによってさらに得ることができる穿孔抵抗値を示す。これらの値は、穿孔抵抗に対して同じ値をもたらす(事実上、
図6B及び7Bが同一である)が、皮質領域の深さを下回るようになるドリルの低減された長さにより、次の有利な特性を有することが可能になる。ドリル・ビットがこのゾーン内に完全に係合されるとすぐに、
電流導関数はゼロに降下し(
図7Aのz=0.5の降下を参照されたい)、測定を停止できる深さP
end_of_measurementは、このとき、それぞれの皮質領域の終了直後、すなわち人工骨4については約1.5mm、人工骨1については6.5mmであることができる。その結果、全体的な穿孔作業を短くすることができ、この作業はまた、侵襲性をより低くすることができ、摩擦による熱の生成をより小さくすることもできる。
【0064】
電流導関数値を入力値として用いたこの計算方法及びこの特殊なドリルを採用する別の利点は、皮質領域及び海綿領域のそれぞれの抵抗値が、相反する符号の電流導関数値によってもたらされることである。電流導関数の符号の変化によるクロスオーバーにより、測定に対するノイズの影響を低減することが可能になる。
【0065】
しかし、使用されるドリルのタイプに関係なく、電流導関数値を入力値として使用することによって領域間の移行を容易に特定することが可能になることを理解することができ、この場合、電流導関数値は、1つの離散値から別の離散値まで大きくジャンプする。故に、提供された結果は、入力信号の後処理のいかなるものも無しにすると同時に、より的確で、より信頼性の高いものである。
【0066】
本発明の枠組みでは、骨構造の品質の3Dモデルリングに関してより的確な結果を提供することも可能である。実際、
図8A及び8Bに示すように、領域間の移行は、水平面にしたがってはっきりとしておらず、そうではなくいくらかの部分的な垂直の重複が存在することも十分にあり得ることである。
図8Aの矢状断面は、海綿領域と皮質領域の垂直のかみあい部を強調しており、水平面A-Aの断面図は、上に重ねられた海綿領域の角度割合の様子を示す。
【0067】
骨品質をより精密に定量化することができるように、本発明による装置は、好ましくは、ドリル・ビットの全回転ごとに少なくとも10回の割合で電流関連値をサンプリングするように構成される。ハンドピースの減速比が20:1に等しくなるように選択され、モータ速度が約400rpmである場合、装置は、一秒あたり少なくとも5つの測定データを集める。ドリル・ビットは、3秒ごとに全回転を行い、したがって、ドリル・ビットの回転ごとに15の測定データが入手可能である。したがって、骨品質の良好な角度分布を得ることが可能である。ドリル・ビットの全回転にわたるデータの分散により、密度/硬度に影響を及ぼす局所的バリエーションの振幅はさまざまな配向によるものであるという考えが与えられる。
【0068】
骨構造の品質を決定するための装置はまた、好ましくは、コントラ-アングルのロータ、したがってドリル・ビットの正確な配向を知るために、角度センサに基づく
配向決定システムを包含する。
図9a及び9bに示すように、角度センサは、たとえばホールセンサ、磁気センサ、光センサ、又は電気センサであることができる。このようにして、モータの角度位置に対するドリル・ビットの相対的角度配向が常に知られていることを確実にすることにより、骨の内側のドリル・ビットの正確な配向を決定することが可能である。
【0069】
したがって、押出された直径がドリル・ビットの平均直径より少なくとも20%大きいことをもたらす、非円形の非対称ドリル・ビットを備え、骨構造の品質を決定するための装置をさらに提供する場合、骨質の3D図を得ることが可能になり、その理由は、骨質のバリエーションを貫通深さの関数としてだけでなく、角度配向の関数として知ることが可能であるためである。そのような非対称ドリル・ビットの一例が、
図10に示される。
【0070】
本発明の変形の実施例によれば、骨構造の品質を決定するための装置は、較正及びベンチマーキング・ツールをさらに包含して、特有の穿孔ビット、コントラ-アングル・ハンドピース、又はモータによる分類基準を規定することを可能にする。そのような較正システムの一例が
図11に示されており、この場合図の左部は、穿孔される材料の異なるベンチマーク部分を示し、右部では、トルクメータ、加速度計、さらにビデオカメラをモジュールの形で、又はそうではない形で嵌合したコントラ-アングル・ハンドピースの概略図を示す。
【0071】
例として、次の較正手順を実施することができる。
- 歯科ユニット、テーブルトップ制御ユニット、又はモジュール式較正システムに組み込まれたカメラを介して穿孔ビットの画像を集める。ドリル・ビットのテール部が正規化され、次いで画像のスケールを得ること、ひいては穿孔ツールの動作直径及び動作長さを抽出することが容易になる。
- 装着されたドリルによって材料のサンプル(ここでは4つのサンプル、すなわちQ1、Q2、Q3、Q4)内に穿孔するときに電流導関数データを測定する。初期電流導関数値の測定値は、骨品質のパラメータを設定するのに十分なものである。
- 前述の較正ステップの代替策として、ドリル・ビットの先端に加えられたトルクを(ドリルの上部に調整可能な摩擦を加える、樹脂からのスリーブなどのトルクメータを介して)電流導関数データと同時に測定する。そのような場合、トルク値と基準の骨品質との間の相関スケールが確立される場合には、複数の材料のブロックを有する必要はなく、1つで十分である。
- 速度の一貫性をチェックするために穿孔するときに加速度計及びビデオカメラを介して回転速度を制御する。速度が不安定である場合、アフター・サービスの介入が必要とされるか、又はドリル・ビットは適切でないとみなされる。
【0072】
このようにして、この装置に準拠する新しいドリル・ビット、新しいハンドピース、又は新しいモータが市場で販売開始されるときのデータベースの更新及び/又はアフター・サービス力の創案は必要とされない。
【0073】
前述の説明から、これまでに詳述した好ましい実施例の特徴を所望に応じて組み合わせることができ、トルク導関数値、故に骨品質を計算するために使用される入力パラメータに関係なく、特にドリル・ビットに関する特徴を使用できることを理解されよう。