(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】密封構造
(51)【国際特許分類】
F16C 33/80 20060101AFI20230215BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20230215BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
F16C33/80
F16J15/447
F16C33/78 Z
(21)【出願番号】P 2021545139
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2020027342
(87)【国際公開番号】W WO2021049159
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2019167193
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂野 祐也
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-089999(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/00
F16J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪部材と、前記外輪部材の端面に相対するフランジ部を有する内輪部材と、前記外輪部材と前記内輪部材との間に設けられる転動部材とを含む軸受装置
において、前記外輪部材と前記内輪部材との間を密封装置により密封する構造であって、
前記密封装置は、
前記外輪部材の内側に固定される円筒部と、
前記円筒部の端部から前記外輪部材の外周面より径方向外方まで延びる延伸部であって、その一部が前記外輪部材の前記端面に当接する前記延伸部と、
前記延伸部の外縁部から前記フランジ部に向かって延びる円環状の第1突起部と、
前記延伸部のうち前記第1突起部より径方向内方の部位から前記フランジ部に向かって延びる円環状の第2突起部と、
を含
み、
前記第1突起部は、先端部が前記フランジ部に対して隙間をあけて相対することで第1ラビリンスシールを構成し、
前記第2突起部は、先端部が前記フランジ部に対して隙間をあけて相対することで第2ラビリンスシールを構成する
密封
構造。
【請求項2】
前記第2突起部は、前記外輪部材の前記外周面より径方向外方に位置している、請求項1に記載の密封
構造。
【請求項3】
前記第2突起部の外周面には、径方向内方に凹む液受部が、周方向の全周に形成されている、請求項1又は2に記載の密封
構造。
【請求項4】
前記液受部の底面のうち前記フランジ部に近い端部における外径は、前記底面のうち前記延伸部に近い端部における外径よりも大きい、請求項3に記載の密封
構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置における密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、自動車の車輪を回転自在に支持する軸受装置に装着される密封装置を開示している。この軸受装置は、いわゆるハブベアリングであり、外輪と内輪とを有している。内輪にはフランジ部が形成されている。この軸受装置の外輪と内輪との間に、密封装置が設けられている。密封装置は、金属製の補強環と、補強環と一体的に成形されるシール本体とを有している。補強環は、筒部と外径フランジ部とを含む。筒部は、外輪のうち内輪のフランジ部に近い部位の内側に圧入される。外径フランジ部は、補強環の筒部の一端部から径方向外方に延びる。シール本体は、ダスト用リップと、グリース用リップと、被覆層とを有している。被覆層には、ラビリンスリップが設けられている。ダスト用リップ及びグリース用リップの先端は内輪に接触する。他方、ラビリンスリップの先端は、内輪のフランジ部に接触していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述の密封装置では、ラビリンスリップによって、外部から軸受装置の内部空間への異物(例えば雨水、泥水または埃)の流入に対する一定程度の密封性を確保することが可能である。しかしながら、この種の密封装置では更なる密封性の向上が要求され得る。
【0005】
そこで、本発明は、密封性の向上を図ることが可能な密封構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、外輪部材と内輪部材と転動部材とを含む軸受装置における密閉構造が提供される。内輪部材は、外輪部材の端面に相対するフランジ部を有する。転動部材は、外輪部材と内輪部材との間に設けられる。密封装置は、円筒部と延伸部と円環状の第1突起部と円環状の第2突起部とを含む。円筒部は、外輪部材の内側に固定される。延伸部は、円筒部の端部から外輪部材の外周面より径方向外方まで延びている。延伸部の一部は、外輪部材の端面に当接している。第1突起は、延伸部の外縁部からフランジ部に向かって延びている。第2突起は、延伸部における第1突起部より径方向内方の部位からフランジ部に向かって延びている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によれば、密封性の向上を図ることが可能な密封構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態における密封装置の断面図である。
【
図2】上記密封装置の要部を拡大した断面図である。
【
図3】上記密封装置における密封作用及び排出作用を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態における密封装置1の断面図である。
図1には密封装置1がハブベアリング100に装着された状態の一例が示されている。
図2は密封装置1の要部を拡大した断面図である。
【0011】
[密封装置の装着対象]
密封装置1は、ハブベアリング100に装着される。ハブベアリング100は、自動車、建築機械または農業機械といった様々な産業機械において、車輪などの回転部材を回転可能に支持する軸受装置として用いられる。なお、以下の説明においては、密封装置1の中心軸Oを中心とする任意の直径の仮想円における円周の方向を「周方向」と表記し、当該仮想円の半径の方向を「径方向」と表記する。また、中心軸Oに平行な方向から観察することを「平面視」と表記し、中心軸Oを含む断面を観察することを「断面視」と表記する。
【0012】
ハブベアリング100は、外輪部材101Aと内輪部材102Aとを有している。外輪部材101Aは、円筒状の外輪本体101を有している。内輪部材102Aは、内輪本体102と、フランジ部103とを有している。内輪本体102は、外輪部材101Aの外輪本体101内に挿入される円筒状の構造体である。フランジ部103は、内輪本体102の一端側に設けられている。フランジ部103は、内輪本体102の外周面から突出する円環状の部分である。
【0013】
外輪部材101Aは、例えば自動車の懸架装置(図示省略)に固定される。外輪部材101Aの外輪本体101は内輪本体102の少なくとも一部をその径方向外側から包囲する。外輪本体101と内輪本体102とは、同心的に配置されている。外輪部材101A(外輪本体101)と内輪部材102A(内輪本体102)との間には、複数の転動部材104が設けられている。各転動部材104は、相互に間隔をあけて周方向に配置される。各転動部材104は、保持器(図示省略)を介して保持されている。
【0014】
フランジ部103は、内輪本体102の一端側から径方向外方に延びており、平面視で概ね円環状に形成されている。このフランジ部103には、車輪のホイール(図示省略)が取り付けられる。フランジ部103におけるフランジ背面103aの一部は、外輪部材101A(外輪本体101)における端面101aに対して隙間をあけて相対している。フランジ背面103aは、車輪のホイールと反対側の面(
図1及び
図2では左側の面)である。端面101aは、外輪本体101におけるフランジ部103側の端面である。以上の例示の通り、フランジ部103は、外輪部材101Aの端面101aに相対している。
【0015】
本実施形態では、フランジ部103の基端部は、フランジ背面103aと内輪本体102の外周面102aとが互いに滑らかに連続するように曲面状に形成されている。フランジ背面103aは、第1背面部103a1と第2背面部103a2とを有する。第1背面部103a1は、フランジ部103の基端部から中心軸Oと直交する方向に延びている。第2背面部103a2は、第1背面部103a1に連続して更に径方向外方に延びている。第1背面部103a1と第2背面部103a2との境界は、例えば、フランジ背面103aにおける外輪本体101の端面101aに対応する径方向の位置に設けられている。第2背面部103a2は、例えば、径方向外方にかけて外輪本体101の端面101aから離れるように湾曲し、更に径方向外方においては、第1背面部103a1と平行に延びている。
【0016】
[密封装置の概略構成]
密封装置1は、ハブベアリング100に用いられ、外輪本体101と内輪本体102との間に充填されるグリースを密封する。密封装置1は、外輪部材101A(詳しくは、外輪本体101)の内周面101bにおける端面101a側の部位と、内輪本体102の外周面102aにおけるフランジ部103側の部位との間に装着されている。
【0017】
密封装置1は、補強環10とシール本体20とを含む。補強環10は、シール本体20を補強する部材である。シール本体20は、概ね補強環10に沿って延び、補強環10の表面に例えば接着により取り付けられている。
【0018】
補強環10は、第1円筒部11と第1円盤部12と第2円筒部13と第2円盤部14とを有する。補強環10は、例えば、金属材からなり、プレス加工によって全体として環状に成形されている。金属材としては、ステンレス鋼、SPCC及びSPHCといった板状の材料群の中から選択された材料が用いられる。
【0019】
第1円筒部11は、円筒状に形成され、外輪本体101における端面101a側の部位の内側に圧入されている。すなわち、第1円筒部11の外周面と外輪本体101の内周面101bとは互いに密着する。第1円筒部11の外径は、外輪本体101の内径よりも圧入代分だけ大きく設定されている。
【0020】
第1円盤部12は、平面視で円盤状に形成されている。具体的には、第1円盤部12は、第1円筒部11におけるフランジ部103側の端部(図では右端部)から径方向外方に延びる。第1円盤部12は、第1円筒部11に連続し、外輪本体101の端面101aとフランジ部103のフランジ背面103aとの間に位置している。本実施形態では、第1円盤部12は第1円筒部11の端部から外輪本体101の外周面101cよりも径方向外側まで延びている。すなわち、第1円盤部12の外周部は、外輪本体101の外周面101cより僅かに径方向外側に突出している。
【0021】
第2円筒部13は、円筒状の部分である。第2円筒部13は、第1円筒部11の径方向内方に、第1円筒部11と同心的に形成されている。第2円筒部13は、第1円筒部11に連続しており、第1円筒部11におけるフランジ部103と反対側の端部(図では左端部)から折り返えされた形状に形成されている。
【0022】
第2円盤部14は、平面視で円盤状の部分である。第2円盤部14は、第2円筒部13のうち第1円筒部11とは反対側の端部から径方向内方に延びている。すなわち、第2円盤部14は、第2円筒部13に連続する。また、第2円盤部14は、外輪本体101の内周面101bと内輪本体102の外周面102aとの間に位置している。
【0023】
シール本体20は、弾性円筒部21とシール基部22とシール延伸部23とを有する。シール本体20は、弾性材から形成されている。弾性材としては、ゴム又は熱可塑性エラストマーといった材料が用いられている。
【0024】
弾性円筒部21は、円筒状に形成され、第1円筒部11と第2円筒部13との間の隙間を埋めている。ここで、補強環10の第1円筒部11及び第2円筒部13とシール本体20の弾性円筒部21とからなる部分(以下「円筒部1A」という)は、全体として円筒状に形成されている。円筒部1Aは、外輪部材101A(外輪本体101)のうち端面101a側の部位の内側に固定されている。すなわち、円筒部1Aが外輪本体101の内部に圧入される。密封装置1は、円筒部1Aの第1円筒部11の外周面11aが外輪本体101の内周面101bに密着することで、ハブベアリング100の外輪部材101Aに固定される。なお、本実施形態における円筒部1Aは、本発明に係る「円筒部」に相当する。
【0025】
シール基部22は、平面視で円盤状に形成されている。具体的には、シール基部22は、弾性円筒部21におけるフランジ部103側の端部から径方向内方に延びている。シール基部22は、補強環10の第2円盤部14のうちフランジ部103側の面に沿って延びている。シール基部22の内周部は、第2円盤部14におけるフランジ部103と反対側の面まで僅かに回り込んでいる。
【0026】
本実施形態では、シール基部22には、グリースリップ部24とサイドリップ部25と中間リップ部26とが形成されている。以下の説明においては、グリースリップ部24とサイドリップ部25と中間リップ部26とを「リップ部」と総称する場合がある。
【0027】
グリースリップ部24は、シール基部22の内周部から延びている。具体的には、グリースリップ部24の基端部は、シール基部22の内周部に接続されている。グリースリップ部24の先端部は、内輪本体102の外周面102aに摺動自在に接触する。グリースリップ部24の先端部は、中心軸Oの方向において、グリースリップ部24の基端部よりもフランジ背面103aから離れた位置にある。すなわち、グリースリップ部24は、その基端部から先端部に向かって縮径するテーパー筒状に形成されている。
【0028】
サイドリップ部25は、シール基部22におけるフランジ部103側の面である側面22aから延びている。サイドリップ部25の基端部は、シール基部22の側面22aに接続されている。サイドリップ部25の先端部は、フランジ背面103aの第1背面部103a1に摺動自在に接触する。サイドリップ部25は、その基端部から先端部に向かって拡径するテーパー筒状に形成されている。
【0029】
中間リップ部26は、シール基部22の側面22aにおける内周部側の端部から延びている。中間リップ部26は、グリースリップ部24とサイドリップ部25との間に位置している。中間リップ部26の先端部は、シール基部22の側面22aに接続されている。中間リップ部26の先端部は、フランジ部103の基端部のうち内輪本体102に連続する曲面状の部位に摺動自在に接触している。中間リップ部26は、その基端部から先端部に向かって拡径するテーパー筒状に形成されている。
【0030】
シール延伸部23は、円筒部1Aにおけるフランジ部103側の端部から径方向外方に延びている。そして、シール延伸部23の一部が、外輪本体101の端面101aに当接している。具体的には、シール延伸部23は、第1延伸部23aと延長部23bと第2延伸部23cとを有する。
【0031】
第1延伸部23aは、平面視で円盤状に形成されている。具体的には、第1延伸部23aは、補強環10の第1円盤部12のうちフランジ部103側の第1側面12aに沿って径方向外方に延びている。延長部23bは、第1延伸部23aと同様に平面視で円盤状に形成されている。具体的には、延長部23bは、第1延伸部23aの外周部から更に径方向外方に向かって延び、補強環10の第1円盤部12の外周部を覆う。第2延伸部23cは、延長部23bの内周部から径方向内方に向かって延びる円盤状の部分である。第2延伸部23cは、補強環10の第1円盤部12のうち第1側面12aとは反対側の第2側面12bに沿って延びている。第2延伸部23cは、延長部23bにおけるフランジ部103と反対側の面に対して段差なく平坦な面を有している。
【0032】
上記のように構成された密封装置1において、補強環10の第1円盤部12とシール本体20のシール延伸部23とは、延伸部1Bを構成する。延伸部1Bは、全体として円筒部1Aの端部から外輪部材101A(外輪本体101)の外周面101cより径方向外方まで延びている。すなわち、延伸部1Bの外周部(詳しくは、延長部23b)は、外輪本体101の外周面101cよりも径方向外方に突出している。また、延伸部1Bの一部は、外輪部材101Aの端面101aに当接している。この延長部23bは、雨水、泥水または埃といった異物が、後述する第1突起部27とフランジ部103との間の隙間に到達する経路を制限する機能を有している。なお、本実施形態において、第1円盤部12とシール延伸部23とにより構成される延伸部1Bが、本発明に係る「延伸部」に相当する。
【0033】
ここで、密封装置1が、ハブベアリング100に装着されることによって、ハブベアリング100内に円環状の内部空間S1が画成される。この装着の過程において、シール延伸部23の第2延伸部23cは、外輪本体101の端面101aに押圧されることで弾性変形する。また、各リップ部(24,25,26)の先端部も、対応する箇所にそれぞれ接触して弾性変形する。なお、
図1では、弾性変形前の状態が示されている。密封装置1の各リップ部(24,25,26)は、グリースが内部空間S1から外部へ漏れ出ることを防止又は抑制する機能と、埃、雨水または泥水といった異物が外部から内部空間S1へ侵入することを防止又は抑制する機能とを有している。
【0034】
[密閉装置の詳細構造]
次に、本実施形態における密封装置1の詳細構造について説明する。
図2は密封装置1の要部を拡大した断面図である。
【0035】
密封装置1の延伸部1Bには、第1突起部27と第2突起部28とが更に設けられている。第1突起部27及び第2突起部28は、それぞれ円環状に形成されている。本実施形態では、第1突起部27及び第2突起部28は、それぞれ、延伸部1Bの一部を構成するシール延伸部23に設けられている。
【0036】
第1突起部27は、シール延伸部23(延伸部1B)における相対面1B1に突設される。相対面1B1は、フランジ部103と相対する面である。第2突起部28は、相対面1B1のうち第1突起部27より径方向内方の部位に突設される。つまり、第2突起部28は、第1突起部27とサイドリップ部25との間に設けられている。
【0037】
第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103a(詳しくは第2背面部103a2)との間には、僅かな隙間が形成される。同様に、第2突起部28の先端部28aとフランジ背面103a(第2背面部103a2)との間にも、僅かな隙間が形成される。そして、第1突起部27と、第2突起部28と、相対面1B1のうち第1突起部27と第2突起部28との間の領域とにより、凹部が形成されている。凹部は、フランジ背面103aに向かって開口した凹状の部分である。この凹部とフランジ背面103aとによって、円環状の第1円環空間S2が区画されている。また、第2突起部28と、サイドリップ部25と、相対面1B1のうち第2突起部28とサイドリップ部25との間の領域と、シール基部22の側面22a(
図1参照)とにより、凹部が形成されている。凹部は、フランジ背面103aに向かって開口した凹状の部分である。そして、この凹部とフランジ背面103aとによって、円環状の第2円環空間S3が区画されている。
【0038】
第1突起部27は、フランジ背面103aと協働して第1のラビリンスシールを構成している。第1のラビリンスシールは、第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103aとの間の隙間を介して、雨水または泥水などの流体(以下「外部液体」という)が第1円環空間S2に流入することを抑制又は防止する機能を有する。つまり、第1突起部27は、第1のラビリンスシールを構成する第1ラビリンスリップ部と呼ぶこともできる。
【0039】
第1突起部27は、シール延伸部23(延伸部1B)の相対面1B1のうち径方向外方の端部(径方向の外周側の端部)に位置している。換言すると、第1突起部27は延伸部1Bの外縁部からフランジ部103に向かって延びている。
【0040】
本実施形態では、第1突起部27は、円筒部1Aと同心的に円環状に突設されている。第1突起部27は、概ね直角三角形の断面形状を有する。詳しくは、第1突起部27の外周面27bは、直角三角形における直交する二辺の一方の辺に相当し、第1突起部27の内周面27cは、直角三角形の斜辺に相当する。第1突起部27の外周面27bは、シール延伸部23の外周面に対して段差なく平坦な面を構成している。具体的には、外周面27bは、例えば、中心軸O(
図1参照)と平行に延びている。第1突起部27の外径は延伸部1B(シール延伸部23)の外径と一致している。第1突起部27の内周面27cは、フランジ部103に近づくにしたがって拡径するように傾斜している。つまり、第1突起部27の内径は、延伸部1B側からフランジ部103側(先端部27a側)に向かうにしたがって大きくなっている。すなわち、内周面27cのうちフランジ部103に近い端部における内径は、当該内周面27cのうち延伸部1Bに近い端部における内径よりも大きい。
【0041】
第2突起部28は、フランジ部103のフランジ背面103aと協働して第2のラビリンスシールを構成している。第2のラビリンスシールは、第1のラビリンスシールよりも径方向内方に位置する。第2のラビリンスシールは、第1円環空間S2に流入した外部液体が第2突起部28の先端部28aとフランジ背面103aとの間の隙間を介して第2円環空間S3に流入することを抑制又は防止する機能を有する。つまり、第2突起部28は、第2のラビリンスシールを構成する第2ラビリンスリップ部と呼ぶこともできる。
【0042】
第2突起部28は、前述したようにシール延伸部23の相対面1B1において第1突起部27よりも径方向内方に位置している。換言すると、第2突起部28は、延伸部1Bのうち第1突起部27よりも径方向内方の部位からフランジ部103に向かって延びている。本実施形態では、第2突起部28は、外輪部材101Aの外周面101cより径方向外方に位置している。
【0043】
本実施形態では、第2突起部28は、円筒部1Aと同心的に円環状に突設されている。第2突起部28は、概ね三角形状の断面形状を有する。本実施形態では、第2突起部28の外周面28bは、後述する液受部29が形成される部位を除いて、フランジ部103に近づくにしたがって縮径するように傾斜している。つまり、円環状の第2突起部28の外径は、延伸部1B側からフランジ部103側(先端部28a側)に向かうにしたがって概ね小さくなっている。すなわち、外周面28bのうちフランジ部103に近い端部における外径は、外周面28bのうち延伸部1Bに近い端部における外径よりも小さい。
【0044】
本実施形態では、第2突起部28の外周面28bには液受部29が形成されている。液受部29は、外周面28bにおいて径方向内方に凹んだ部分であり、周方向の全周に形成されている。液受部29は、第2突起部28の外周面28bのうちフランジ部103側の部位に位置している。例えば、第2突起部28の外周面28bのうち先端部28a側の端部が径方向内方に切り欠かれることによって、液受部29が形成されている。本実施形態では、液受部29の底面29aは、第2突起部28における先端部28aの外周面である。底面29aは、フランジ部103に近づくにしたがって拡径するように傾斜している。つまり、液受部29における円環状の底面29aの外径は、延伸部1B側からフランジ部103側に向かうにしたがって大きくなっている。すなわち、底面29aのうちフランジ部103に近い端部における外径は、当該底面29aのうち延伸部1Bに近い端部における外径よりも大きい。
【0045】
本実施形態では、第2突起部28の外周面28bのうち延伸部1B側(換言すると、第2突起部28の基端部側)の部位に、ガイド面28b1が形成されている。ガイド面28b1は、液受部29に外部液体を導くための面である。具体的には、ガイド面28b1は、外周面28bのうち延伸部1Bに近い端部と、液受部29における凹み始めの部位とにわたる領域である。したがって、本実施形態では、ガイド面28b1はフランジ部103に近づくにしたがって縮径するように傾斜している。すなわち、ガイド面28b1のうちフランジ部103に近い端部における外径は、当該ガイド面28b1のうち延伸部1Bに近い端部における外径よりも小さい。
【0046】
次に、雨水または泥水などの外部液体Mに対する密封装置1の密封作用及び排出作用について
図3を参照して説明する。なお、
図3においては、紙面上側が鉛直方向の上方であり、紙面下側が鉛直方向の下方である。
【0047】
車輪によって地面から飛散した外部液体Mが、ハブベアリング100に付着する場合がある。そして、例えば、フランジ部103のうち鉛直方向の上側領域の周囲では、外輪本体101の周囲からフランジ部103のフランジ背面103aに向かって外部液体Mが飛散する場合がある。この場合、フランジ背面103aに向かう外部液体Mの一部は、延伸部1Bの延長部23bにおける相対面1B1とは反対側の面1B2に衝突する。つまり、延長部23bは、第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103aとの間の隙間に外部液体Mが到達する経路を阻害するスプラッシュガード(堰部)として機能する。
【0048】
ここで、フランジ背面103aに向かう外部液体Mの一部は、延伸部1Bの延長部23bの外縁部(
図3では上端部)を超え得る。しかし、延伸部1Bの外縁部(換言すると、相対面1B1における径方向外方の端部)には第1突起部27が形成されている。したがって、延伸部1Bの延長部23bの外縁部を超えた外部液体Mの大半は、第1突起部27の外周面27bに衝突してはねかえり、その後、例えば地面に向かって落下する。すなわち、外部液体Mは、第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103aとの間の隙間に到達しない。なお、第1突起部27の先端部27aの近傍に外部液体Mが到達してしまった場合でも、第1突起部27とフランジ背面103aとによって構成された第1のラビリンスシールによって、第1円環空間S2への外部液体Mの流入が抑制又は防止される。
【0049】
なお、例えば、外部液体Mが、鉛直方向の上側から第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103aとの間の隙間に到達し、かつ、この隙間を通過する場合がある。この場合であっても、外部液体Mは、円環状の第1円環空間S2における鉛直方向の上側の部分に一時的に貯留される。つまり、第1円環空間S2に流入した外部液体Mは、例えば、第1突起部27の内周面27cを伝って下方に流れ、その後、第2突起部28のガイド面28b1に到達する。ガイド面28b1に到達した外部液体Mは、第2突起部28の先端部28aに向かって流れ得る。しかし、外部液体Mは、先端部28aに到達する前にガイド面28b1によって液受部29に導かれることで液受部29内に受け容れられる。その結果、第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103aとの間の隙間を通過した外部液体Mは、第1円環空間S2に一時的に貯留される。また、第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103aとの間の隙間を通過した外部液体Mは、そのまま下方に落下する場合もあるが、落下した外部液体Mの大半は液受部29内に受け容れられ、上記と同様に第1円環空間S2に一時的に貯留される。
【0050】
また、第1円環空間S2と第2円環空間S3との間には、第2突起部28とフランジ背面103aによって構成された第2のラビリンスシールが設けられている。この第2のラビリンスシールによって、第1円環空間S2から第2円環空間S3への外部液体Mの流入が抑制又は防止される。また、第2のラビリンスシールにより、第1円環空間S2における外部液体Mの貯留性が向上する。第1円環空間S2における外部液体Mの貯留性とは、外部液体Mが第1円環空間S2に貯留され易いことを意味する。
【0051】
そして、第1円環空間S2における鉛直方向の上側の領域において液受部29に受け容れられた外部液体Mの大半又は全部は、その後、液受部29の底面29aを伝って(換言すると、第2突起部28の外周を伝って)鉛直方向の下方に流れ落ちる。そして、外部液体Mは、第1円環空間S2における鉛直方向の下側の領域に貯留される。第1円環空間S2内の外部液体Mは、その後、第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103aとの間の隙間を介して外部(密封装置1の下方)に排出される。このように、第1円環空間S2における鉛直方向の上側の領域の外部液体Mの大半又は全部は、第2突起部28の先端部28aとフランジ背面103aとの間の隙間に到達することなく、外部に排出される。
【0052】
本実施形態による密封装置1によれば、延伸部1Bは、外輪部材101A(外輪本体101)の外周面101cより径方向外方まで延びており、かつ、第1突起部27は、延伸部1Bの外縁部からフランジ部103に向かって延びている。したがって、延伸部1Bの外縁部を超えた外部液体Mの大半は、第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103aとの間の隙間に到達することなく、第1突起部27の外周面27bに衝突し、例えば、地面に向かって落下する。その結果、ハブベアリング100の内部空間S1に対する外部液体M(または埃)の侵入が効果的に抑制又は防止される。このようにして、内部空間S1に対する外部液体Mの流入に対する密封性を向上可能な密封装置1を提供できる。外部液体Mの流入に対する密封性とは、外部液体Mの侵入を抑制する作用を意味する。
【0053】
本実施形態では、第1突起部27の先端部27a及び第2突起部28の先端部28aはいずれもフランジ部103のフランジ背面103aに接触しておらず、それぞれラビリンスシールを構成している。そのため、ハブベアリング100における回転トルクの増大を防止することができる。ひいては、回転トルクを低減しながら、外部液体Mに対する密封性の向上が実現される。また、複数のラビリンスシールが同心的且つ複数段に設けられるため、外部液体Mなどの異物に対する密封性をより効果的に高めることができる。
【0054】
本実施形態では、第1突起部27だけではなく、第2突起部28も外輪部材101A(外輪本体101)の外周面101cより径方向外方に位置している。これにより、第1円環空間S2とハブベアリング100の内部空間S1との間の距離が比較的に長くなる。つまり、第1円環空間S2が内部空間S1から径方向の外方に遠ざけられている。その結果、内部空間S1に対する密封性が向上し得る。
【0055】
本実施形態では、第2突起部28の外周面28bには、径方向内方に凹む液受部29が周方向の全周に形成されている。これにより、第1円環空間S2における外部液体Mの貯留性の向上、及び、外部液体Mの排出性の向上が図られる。なお、外部液体Mの排出性とは、外部液体Mを外部に排出する作用を意味する。また、液受部29は、第2突起部28の外周面28bにおける先端部28a側の端部が径方向内方に切り欠かれることによって形成されている。これにより、液受部29の成型が容易になる。
【0056】
本実施形態では、液受部29の底面29aは、フランジ部103に近づくにしたがって拡径するように傾斜している。これにより、液受部29に受け容れられた外部液体Mが液受部29内に保持され易い。その結果、外部液体Mの排出性がより向上すると共に、液受部29内の外部液体Mが第1突起部27の先端部27aとフランジ背面103aとの間の隙間に到達することがより確実に抑制又は防止される。
【0057】
本実施形態では、液受部29は、第2突起部28の外周面28bにおけるフランジ部103側の部位に位置している。そして、第2突起部28の外周面28bにおける延伸部1B側の部位には、液受部29に外部液体Mを導くためのガイド面28b1が形成されている。以上の構成により、外部液体Mがガイド面28b1によって液受部29により確実に導かれる。本実施形態では、ガイド面28b1はフランジ部103に近づくにしたがって縮径するように傾斜している。これにより、外部液体Mが液受部29により効果的に導かれる。
【0058】
[変形例]
なお、本実施形態では、第1突起部27及び第2突起部28により、二つのラビリンスシールが設けられるものとしたが、ラビリンスシールの個数はこれに限らず、三つ以上であってもよい。この場合、第1突起部27とサイドリップ部25との間に、突起部を更に設ければよい。また、第1突起部27及び第2突起部28は、フランジ部103のフランジ背面103aに接触しないものとしたが、これに限らず、第1突起部27及び第2突起部28の一方又は両方がフランジ背面103aに接触してもよい。
【0059】
本実施形態では、第1突起部27の外周面27bは、中心軸Oと平行に延びているものとした。しかし、例えば、フランジ部103側から外輪本体101側に向かうにしたがって中心軸Oに近づくように傾斜(縮径)してもよい。これにより、第1円環空間S2に対する外部液体Mの流入がより確実に抑制又は防止される。また、液受部29は第2突起部28の外周面28bにおける先端部28a側の端部に形成されたが、これに限らず、第2突起部28の外周面28bのうち延伸部1Bに近い部位に液受部29が形成されてもよい。これにより、底面29aの両端部に側壁を有する液受部29が形成され、外部液体Mの受け容れ保持性、貯留性及び排出性をより高めることができる。
【0060】
密封装置1は補強環10を有するものとしたが、これに限らず、補強環10を有さなくてもよい。この場合、補強環10に相当する部分は、例えば、シール本体20と同材料の部材でシール本体20と一体に形成され得る。また、密封装置1が装着される軸受装置は、ハブベアリング100に限定されない。例えば、外輪部材と、外輪部材の端面に相対するフランジ部を有する内輪部材と、外輪部材と内輪部材との間に設けられる転動部材とを含む任意の構造の軸受装置に、密封装置1が利用される。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態及びその変形例について幾つか説明したが、本発明は上記実施形態及び上記変形例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…密封装置、1A…円筒部、1B…延伸部、1B1…相対面、27…第1突起部、27b…外周面、28…第2突起部、28b…外周面、28b1…ガイド面、29…液受部、29a…液受部の底面、100…ハブベアリング(軸受装置)、101A…外輪部材、101a…外輪部材の端面、101b…外輪部材の内周面、101c…外輪部材の端面側の外周面、102A…内輪部材、103…フランジ部、104…転動部材