(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】ポンプ装置、ポンプシステム、およびポンプシステムの運転方法
(51)【国際特許分類】
F04D 7/02 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
F04D7/02 A
(21)【出願番号】P 2022142393
(22)【出願日】2022-09-07
【審査請求日】2022-09-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 康志
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-060103(JP,A)
【文献】特開2001-173598(JP,A)
【文献】特開昭62-159795(JP,A)
【文献】特公昭47-23492(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0343932(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108512360(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16
F04D 17/00-19/02
F04D 21/00-25/16
F04D 29/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体水素と、前記液体水素が気化した水素ガスと、が貯留される貯留タンクに接続され、前記液体水素を送液するポンプ装置であって、
回転軸と、
前記回転軸を回転させるモータと、
前記回転軸の軸方向において、前記回転軸の一端部に取り付けられるインペラと、
前記モータが収容されるモータ室と、前記インペラが収容されるポンプ室と、を有する筐体と、
前記回転軸と前記筐体とに取り付けられ、前記ポンプ室に対して前記モータ室をシールするメカニカルシールと、
を有してなり、
前記モータは、
前記回転軸に取り付けられるロータと、
前記回転軸の径方向において前記ロータに直接対向し、前記ロータを回転させるステータと、
を備え、
前記モータ室には、前記水素ガスが導入される、
ポンプ装置。
【請求項2】
前記筐体は、前記貯留タンクのうち、前記水素ガスが貯留される気相部に接続されるガス経路に接続されるガス導入口を備え、
前記モータ室には、前記ガス導入口を介して、前記水素ガスが導入される、
請求項1に記載のポンプ装置。
【請求項3】
前記筐体は、
前記ポンプ室と前記モータ室それぞれと前記筐体の外部環境とを区画する外壁と、
前記筐体の前記ポンプ室側に配置され、前記貯留タンクからの前記液体水素を前記ポンプ室に吸込む吸込口と、
前記筐体の前記モータ室側に配置され、前記ポンプ室からの前記液体水素を吐出する吐出口と、
前記外壁内に配置され、前記ポンプ室からの前記液体水素を前記吐出口に案内する案内流路と、
を備える、
請求項2に記載のポンプ装置。
【請求項4】
前記ガス経路の一部を構成する熱交換経路を有してなり、
前記熱交換経路は、前記熱交換経路内の前記水素ガスと、前記案内流路内の前記液体水素と、の間で熱交換可能に配置される、
請求項3に記載のポンプ装置。
【請求項5】
前記モータ室に配置されるファンを有してなり、
前記筐体は、前記モータ室に導入された前記水素ガスを前記ガス経路に導出するガス導出口を備え、
前記ファンは、前記ガス導入口から前記モータ室に導入された前記水素ガスを前記ガス導出口に向けて流動させる、
請求項2乃至4のいずれか1項に記載のポンプ装置。
【請求項6】
前記モータは、前記ロータが永久磁石を備える永久磁石界磁型モータであり、
前記ロータを覆い、前記ロータを前記水素ガスから隔離する保護部材を備える、
請求項1に記載のポンプ装置。
【請求項7】
液体水素と、前記液体水素が気化した水素ガスと、が貯留される貯留タンクに接続され、前記液体水素を送液するポンプシステムであって、
前記液体水素を吸込み、吐出するポンプ装置と、
前記貯留タンクのうち、前記水素ガスが貯留される気相部に接続されるガス経路と、
を有してなり、
前記ポンプ装置は、
回転軸と、
前記回転軸を回転させるモータと、
前記回転軸の軸方向において、前記回転軸の一端部に取り付けられるインペラと、
前記モータが収容されるモータ室と、前記インペラが収容されるポンプ室と、を有する筐体と、
前記回転軸と前記筐体とに取り付けられ、前記ポンプ室に対して前記モータ室をシールするメカニカルシールと、
を備え、
前記モータは、
前記回転軸に取り付けられるロータと、
前記回転軸の径方向において前記ロータに直接対向し、前記ロータを回転させるステータと、
を備え、
前記筐体は、前記ガス経路に接続されるガス導入口を備え、
前記モータ室には、前記ガス経路と前記ガス導入口とを介して、前記水素ガスが導入される、
ポンプシステム。
【請求項8】
前記ガス経路は、
前記水素ガスを一時的に貯留するバッファタンクと、
前記バッファタンクと前記気相部とに接続される第1ガス経路と、
前記バッファタンクと前記ガス導入口とに接続される第2ガス経路と、
前記第1ガス経路に接続され、前記第1ガス経路を開閉する開閉弁と、
を備える、
請求項7に記載のポンプシステム。
【請求項9】
前記筐体に備えられ前記ポンプ室からの前記液体水素を吐出する吐出口、に接続される吐出流路と、
前記ガス経路内の前記水素ガスと、前記吐出流路内の前記液体水素と、の間で熱交換させる熱交換器と、
を有してなる、
請求項8に記載のポンプシステム。
【請求項10】
前記吐出流路は、前記吐出流路内を流れる前記液体水素と、前記バッファタンク内の前記水素ガスと、の間で熱交換可能に配置され、
前記バッファタンクは、前記熱交換器として機能する、
請求項9に記載のポンプシステム。
【請求項11】
前記筐体は、
前記ポンプ室と前記モータ室それぞれを区画する外壁と、
前記筐体の前記ポンプ室側に配置され、前記貯留タンクからの前記液体水素を前記ポンプ室に吸込む吸込口と、
前記筐体の前記モータ室側に配置され、前記ポンプ室からの前記液体水素を吐出する吐出口と、
前記外壁内に配置され、前記ポンプ室からの前記液体水素を前記吐出口に案内する案内流路と、
を備える、
請求項7に記載のポンプシステム。
【請求項12】
前記ガス経路は、前記ポンプ装置に取り付けられる熱交換経路を備え、
前記熱交換経路は、前記熱交換経路内の前記水素ガスと、前記案内流路内の前記液体水素と、の間で熱交換可能に配置される、
請求項11に記載のポンプシステム。
【請求項13】
前記モータ室と前記ガス経路との間で前記水素ガスを循環させるファンを有してなり、
前記筐体は、前記モータ室に導入された前記水素ガスを前記ガス経路に導出するガス導出口を備え、
前記ガス経路は、前記ガス導出口に接続される第3ガス経路を備える、
請求項7乃至12のいずれか1項に記載のポンプシステム。
【請求項14】
前記ファンは、前記回転軸に取り付けられ、前記ガス導入口から導入された前記水素ガスを前記ガス導出口に向けて流動させる、
請求項13に記載のポンプシステム。
【請求項15】
前記ファンは、前記軸方向において、前記回転軸の他端部に取り付けられ、
前記筐体は、前記モータが収容される第1モータ室と、前記ファンが収容される第2モータ室と、を区画する隔壁を備え、
前記隔壁は、前記第1モータ室と前記第2モータ室とを連通させる通気孔を備え、
前記ガス導入口は、前記第2モータ室に開口し、
前記ガス導出口は、前記第1モータ室に開口し、前記軸方向において、前記モータよりも前記一端部側に配置される、
請求項14に記載のポンプシステム。
【請求項16】
前記モータ室に導入された前記水素ガスをパージするために用いられるパージガスが貯留されるパージガスタンクと、前記ガス経路と、に接続されるパージガス経路と、
前記モータ室に導入されるガスを前記パージガスと前記水素ガスとの間で切り替える切替部と、
を有してなる、
請求項7に記載のポンプシステム。
【請求項17】
液体水素と、前記液体水素が気化した水素ガスと、が貯留される貯留タンクに接続され、前記液体水素を送液するポンプシステムの運転方法であって、
前記ポンプシステムは、
前記液体水素を吸込み、吐出するポンプ装置と、
前記貯留タンクのうち、前記水素ガスが貯留される気相部に接続されるガス経路と、
を備え、
前記ポンプ装置は、
回転軸と、
前記回転軸を回転させるモータと、
前記回転軸の軸方向において、前記回転軸の一端部に取り付けられるインペラと、
前記モータが収容されるモータ室と、前記インペラが収容されるポンプ室と、を有する筐体と、
前記回転軸と前記筐体とに取り付けられ、前記ポンプ室に対して前記モータ室をシールするメカニカルシールと、
を備え、
前記モータは、
前記回転軸に取り付けられるロータと、
前記回転軸の径方向において前記ロータに直接対向し、前記ロータを回転させるステータと、
を備え、
前記ポンプ装置が送液可能となるまでの準備を行う事前準備ステップと、
前記ポンプ室から前記液体水素を吐出するステップと、
を含み、
前記事前準備ステップは、
前記ポンプ室に前記液体水素を導入するステップと、
前記ガス経路を介して前記モータ室に前記水素ガスを導入するステップと、
を含む、
ポンプシステムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ装置、ポンプシステム、およびポンプシステムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代におけるエネルギーとして、水素エネルギーが注目されている。水素は、燃料電池の燃料として用いられることにより、理論的に高いエネルギー効率で電力に変換可能で、かつ有害な排出物を出さないことから、高効率なクリーンエネルギー源となり得る。水素は、例えば、液体水素として、燃料電池車用の水素ステーションに貯蔵されている。
【0003】
液体水素の送液に、メカニカルシールで区画されたモータ部およびポンプ部を備える遠心ポンプが用いられる場合、メカニカルシール部分から液体水素の微量な漏れが生ずる。漏れた液体水素は、気化して水素ガスとなり、外部環境へ漏洩する。そのため、例えば、ヘリウムガスによる水素ガスのパージ処理が必要となるが、同処理のランニングコストは大きく、同処理のシステムは複雑である。そこで、無漏洩型のキャンドモータポンプを液体水素の送液に用いる手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体水素の比重は約0.07と小さいため、送液に必要な圧力を得るためにはロータの高速回転が必要となる。この場合、ロータを液封している金属キャンを通過する磁束が高速で変化して、金属キャンに渦電流が流れる現象(いわゆる、キャンロス)が発生する。同現象は、モータ部(ロータ)の回転周波数に応じて増加する。また、ロータが液中で回転するため、液体によるロータへの流体摩擦損失がモータ部(ロータ)の回転周波数に応じて増加する。そのため、キャンドモータポンプは、高速回転により液体水素を送液する遠心ポンプとしては適切ではない場合がある。
【0006】
一方、無漏洩型の遠心ポンプとして、モータ部(ロータおよびステータ)が取扱液と共に液封されたポンプが知られている。同ポンプでは、前述された渦電流が流れる現象は発生しないが、液体によるロータへの流体摩擦損失は発生する。また、同ポンプおよびキャンドモータポンプの場合、吐出流量が小さくなると、吐出液の温度上昇が大きくなり易く、ポンプ部の二相流化も生じ易い。同ポンプおよびキャンドモータポンプでは、ポンプ部が二相流化すると、ロータの回転軸の軸受の潤滑が不安定となり、ロータに対する流体加振力が大きくなり、軸受の寿命が早まる。そのため、同ポンプおよびキャンドモータポンプでは、モータ部は常に取扱液で満たされていなければならない。しかしながら、液体水素は沸点が極低温であり、モータ部を常に液体水素で満たすには、専用の設計およびある程度の流量が必要となる。
【0007】
本発明は、液体水素の外部環境への漏洩が無く、ロータが液封されているポンプよりも高速回転に適したポンプ装置、ポンプシステムおよびポンプシステムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様におけるポンプ装置は、液体水素と、前記液体水素が気化した水素ガスと、が貯留される貯留タンクに接続され、前記液体水素を送液するポンプ装置であって、回転軸と、前記回転軸を回転させるモータと、前記回転軸の軸方向において、前記回転軸の一端部に取り付けられるインペラと、前記モータが収容されるモータ室と、前記インペラが収容されるポンプ室と、を有する筐体と、前記回転軸と前記筐体とに取り付けられ、前記ポンプ室に対して前記モータ室をシールするメカニカルシールと、を有してなり、前記モータは、前記回転軸に取り付けられるロータと、前記回転軸の径方向において前記ロータに直接対向し、前記ロータを回転させるステータと、を備え、前記モータ室には、前記水素ガスが導入される、ポンプ装置である。
【0009】
本発明の一実施形態におけるポンプシステムは、液体水素と、前記液体水素が気化した水素ガスと、が貯留される貯留タンクに接続され、前記液体水素を送液するポンプシステムであって、前記液体水素を吸込み、吐出するポンプ装置と、前記貯留タンクのうち、前記水素ガスが貯留される気相部に接続されるガス経路と、を有してなり、前記ポンプ装置は、回転軸と、前記回転軸を回転させるモータと、前記回転軸の軸方向において、前記回転軸の一端部に取り付けられるインペラと、前記モータが収容されるモータ室と、前記インペラが収容されるポンプ室と、を有する筐体と、前記回転軸と前記筐体とに取り付けられ、前記ポンプ室に対して前記モータ室をシールするメカニカルシールと、を備え、前記モータは、前記回転軸に取り付けられるロータと、前記回転軸の径方向において前記ロータに直接対向し、前記ロータを回転させるステータと、を備え、前記筐体は、前記モータ室に開口し、前記ガス経路に接続されるガス導入口を備え、前記モータ室には、前記ガス経路と前記ガス導入口とを介して、前記水素ガスが導入される、ポンプシステムである。
【0010】
本発明の一実施形態におけるポンプシステムの運転方法は、液体水素と、前記液体水素が気化した水素ガスと、が貯留される貯留タンクに接続され、前記液体水素を送液するポンプシステムの運転方法であって、前記ポンプシステムは、前記液体水素を吸込み、吐出するポンプ装置と、前記貯留タンクのうち、前記水素ガスが貯留される気相部に接続されるガス経路と、を備え、前記ポンプ装置は、回転軸と、前記回転軸を回転させるモータと、前記回転軸の軸方向において、前記回転軸の一端部に取り付けられるインペラと、前記モータが収容されるモータ室と、前記インペラが収容されるポンプ室と、を有する筐体と、前記回転軸と前記筐体とに取り付けられ、前記ポンプ室に対して前記モータ室をシールするメカニカルシールと、を備え、前記モータは、前記回転軸に取り付けられるロータと、前記回転軸の径方向において前記ロータに直接対向し、前記ロータを回転させるステータと、を備え、前記ポンプ装置が送液可能となるまでの準備を行う事前準備ステップと、前記ポンプ室から前記液体水素を吐出するステップと、を含み、前記事前準備ステップは、前記ポンプ室に前記液体水素を導入するステップと、前記ガス経路を介して前記モータ室に前記水素ガスを導入するステップと、を含む、ポンプシステムの運転方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体水素および水素ガスの外部環境への漏洩が無く、ロータが液封されているポンプよりも高速回転に適したポンプ装置、ポンプシステムおよびポンプシステムの運転方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るポンプシステムの第1実施形態を示す模式配管図である。
【
図2】本発明に係るポンプ装置の第1実施形態を示す模式断面図である。
【
図3】
図1のポンプシステムの第1変形例を示す模式配管図である。
【
図4】
図1のポンプシステムの第2変形例を示す模式配管図である。
【
図5】本発明に係るポンプシステムの第2実施形態を示す模式配管図である。
【
図6】本発明に係るポンプ装置の第2実施形態を示す模式断面図である。
【
図7】
図5のポンプシステムの第1変形例を示す模式配管図である。
【
図8】
図5のポンプシステムの第2変形例を示す模式配管図である。
【
図9】
図5のポンプシステムの第3変形例を示す模式配管図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るポンプ装置、ポンプシステムおよびポンプシステムの運転方法の実施の形態について説明する。各図において、同一の部材および要素については同一の符号が付され、重複する説明は省略される。また、各要素の寸法比率は、説明の便宜上、誇張されている場合が有り、各図面に図示されている比率に限定されない。
【0014】
●ポンプシステム(1)●
先ず、本発明に係るポンプシステムの実施の形態(以下「第1実施形態」という。)について説明する。
【0015】
●ポンプシステム(1)の構成
図1は、本発明に係るポンプシステムの第1実施形態を示す模式配管図である。
【0016】
ポンプシステム1は、液体水素H2(L)を送液する。ポンプシステム1は、ポンプ装置2、第1貯留タンクT1、第2貯留タンクT2、ガス経路L1、パージガス経路L2、吸込流路L3、吸込弁V11、吐出流路L4、および吐出弁V12を有してなる。
【0017】
ポンプ装置2は、第1貯留タンクT1に接続されて、第1貯留タンクT1に貯留されている液体水素H2(L)を送液する。ポンプ装置2の構成については、後述される。
【0018】
第1貯留タンクT1は、液体水素H2(L)を貯留する、例えば、公知の高圧水素タンクである。第1貯留タンクT1は、本発明における貯留タンクの一例である。第1貯留タンクT1の内部には、液体水素H2(L)が貯留されている液相部T1L、および、液体水素H2(L)が気化した水素ガスH2(G)が貯留されている気相部T1Gが形成されている。気相部T1Gは、液相部T1Lの上方に配置されている。
【0019】
第2貯留タンクT2は、ポンプシステム1において、水素ガスH2(G)のパージガスとして機能するヘリウムガスHe(G)を貯留する、例えば、公知のヘリウムガスボンベである。第2貯留タンクT2は、本発明におけるパージガスタンクの一例である。
【0020】
ガス経路L1は、気相部T1Gと後述されるモータ室36とに接続され、これらの間において水素ガスH2(G)が通される経路である。ガス経路L1は、管体部L11、第1弁V1、および第2弁V2を備える。
【0021】
管体部L11は、気相部T1Gと後述されるモータ室36とに接続される公知の管体である。管体部L11は、例えば、ステンレス鋼製であり、公知の断熱構造(例えば、二重構造による真空断熱構造)を有する。
【0022】
第1弁V1および第2弁V2は、管体部L11に接続され、管体部L11を開閉する公知の弁(例えば、ゲート弁)である。第1弁V1および第2弁V2は、例えば、ステンレス鋼製であり、公知の断熱構造(例えば、二重構造による真空断熱構造)を有する。ガス経路L1において、第2弁V2は、第1弁V1よりも下流側(ポンプ装置2側)に配置されている。第1弁V1は、本発明における開閉弁の一例である。
【0023】
パージガス経路L2は、第2貯留タンクT2とガス経路L1とに接続され、これらの間においてヘリウムガスHe(G)が通される経路である。パージガス経路L2は、管体部L21および第3弁V3を備える。ガス経路L1とパージガス経路L2との接続点は、管体部L11における第1弁V1と第2弁V2との間に配置されている。
【0024】
管体部L21は、第2貯留タンクT2とガス経路L1とに接続される公知の管体である。管体部L21は、例えば、管体部L11と同じ金属製であり、管体部L11と同じ断熱構造を有する。
【0025】
第3弁V3は、パージガス経路L2に接続され、パージガス経路L2を開閉する公知の弁(例えば、ゲート弁)である。第3弁V3は、例えば、第1弁V1と同じ金属製であり、第1弁V1と同じ断熱構造を有する。
【0026】
吸込流路L3は、液相部T1Lと後述される吸込口44aとに接続される公知の管体である。吸込流路L3は、例えば、ステンレス鋼製であり、公知の断熱構造(例えば、二重構造による真空断熱構造)を有する。
【0027】
吸込弁V11は、吸込流路L3に接続され、吸込流路L3を開閉する公知の弁(例えば、ゲート弁)である。吸込弁V11は、例えば、ステンレス鋼製であり、公知の断熱構造(例えば、二重構造による真空断熱構造)を有する。
【0028】
吐出流路L4は、後述される吐出口45aに接続される公知の管体である。吐出流路L4は、例えば、吸込流路L3と同じ金属製であり、吸込流路L3と同じ断熱構造を有する。
【0029】
吐出弁V12は、吐出流路L4に接続され、吐出流路L4を開閉する公知の弁(例えば、ゲート弁)である。吐出弁V12は、例えば、ステンレス鋼製であり、公知の断熱構造(例えば、二重構造による真空断熱構造)を有する。
【0030】
ここで、各管体部L11,L21は、主に後述されるモータ室36内の雰囲気を対応するガス(水素ガスH2(G)、ヘリウムガスHe(G))雰囲気にするために、これらのガスが通される管体である。各管体部L11,L21は、モータ室36の容積に応じて比較的細い管体(細管)で構成されている。一方、吸込流路L3および吐出流路L4は、ポンプ装置2の対応流量に応じて比較的太い管体(太管)で構成されている。
【0031】
なお、各管体、第1~第3弁V1~V3、吸込弁V11、および吐出弁V12が有する断熱構造は、公知の断熱構造であり、本実施の形態において説明された構造に限定されない。すなわち、例えば、ポンプ装置2、ガス経路L1、パージガス経路L2、吸込流路L3、吸込弁V11、吐出流路L4、および吐出弁V12がチャンバーに収容され、チャンバー内の雰囲気が真空雰囲気に維持可能に構成されていてもよい。
【0032】
●ポンプ装置(1)の構成
図2は、本発明に係るポンプ装置の実施の形態(以下「第1実施形態」という。)を示す模式断面図である。同図は、ポンプ装置2に導入される水素ガスH
2(G)の流れを白抜き矢印で例示し、後述される液体水素H
2(L)が気化した水素ガスH
2(G)の流れを黒塗り矢印で例示している。
【0033】
ポンプ装置2は、モータ部3、ポンプ部4、温度センサ5、および圧力センサ6を備える。ポンプ装置2の主な構成は、ポンプ装置2が後述されるロータ34を液封する金属キャンを備えていない点、および、ポンプ装置2が後述されるメカニカルシール42を備える点を除き、公知のキャンドモータポンプの主な構成とほぼ共通している。そのため、以下の説明において、モータ部3およびポンプ部4の構成は、公知のキャンドモータポンプの構成と異なる点を中心に説明され、他の構成の詳細な説明は省略される。
【0034】
以下の説明において、「前方向」はモータ部3に対してポンプ部4が位置する方向であり、「後方向」はポンプ部4に対してモータ部3が位置する方向である。
【0035】
モータ部3は、所定の駆動電圧・駆動周波数で駆動し、後述されるインペラ41を回転させる。モータ部3は、筐体30、回転軸31、軸受32,33、ロータ34、ステータ35、およびモータ室36を備える。ロータ34およびステータ35は、本発明におけるモータの一例であるモータMを構成している。
【0036】
筐体30は、回転軸31、軸受32,33、ロータ34、およびステータ35を収容するモータ室36を区画している。すなわち、筐体30は、モータ室36を有する。筐体30は、ガス導入口30aを備える。筐体30は、例えば、ステンレス鋼製である。
【0037】
ガス導入口30aは、筐体30を貫通する貫通孔である。ガス導入口30aは、例えば、筐体30の後部に配置され、モータ室36に開口している。ガス導入口30aには、ガス経路L1(管体部L11)が接続されている。
【0038】
回転軸31は、ロータ34の回転により回転し、回転動力を後述されるインペラ41に伝達する。回転軸31の形状は、例えば、円柱状である。回転軸31は、ロータ34に挿通されて、ロータ34に固定されている。回転軸31の軸方向において、回転軸31の前端部31aは後述されるポンプ室43内に突出している。回転軸31の軸方向において、回転軸31の前端部31aは本発明における一端部の一例であり、後端部31bは本発明における他端部の一例である。
【0039】
軸受32,33は、筐体30と回転軸31とに取り付けられることにより、回転軸31を回転自在に支持している。軸受32はロータ34の前方に配置され、軸受33はロータ34の後方に配置されている。軸受32,33は、例えば、公知のボールベアリングである。
【0040】
ロータ34は、ステータ35に生じる回転磁界により回転する。ロータ34の形状は、円筒状である。ロータ34は、ステータ35に収容されている。
【0041】
ステータ35は、ロータ34を回転させる回転磁界を生成する。ステータ35は、円筒状のステータコア35a、および複数のモータ巻線35bを備える。回転軸31の径方向において、ステータ35の内周面はロータ34の外周面に直接対向している。すなわち、ロータ34とステータ35との間には公知のキャンドモータポンプが備える金属キャンのような構造物(遮蔽物)は配置されていない。
【0042】
ポンプ部4は、液体水素H2(L)を吸込み、吐出する。ポンプ部4は、筐体40、インペラ41、メカニカルシール42、ポンプ室43、吸込管部44、および吐出管部45を備える。
【0043】
筐体40は、インペラ41およびメカニカルシール42を収容するポンプ室43を区画すると共に、ポンプ室43に吸込まれる液体水素H2(L)の流路である吸込管部44、および、ポンプ室43から吐出される液体水素H2(L)の流路である吐出管部45を形成している。すなわち、筐体40は、ポンプ室43、吸込管部44、および吐出管部45を有する。ポンプ室43は、吸込管部44および吐出管部45に連通している。吸込管部44は、吸込流路L3に接続されている吸込口44aを備える。吐出管部45は、吐出流路L4に接続されている吐出口45aを備える。筐体40は、筐体30と同じ金属製である。筐体40は、筐体30の前方に配置され、筐体30に取り付けられている。筐体40は、筐体30と共に、本発明における筐体を構成している。
【0044】
インペラ41は、回転軸31の前端部31aに取り付けられ、ポンプ室43に収容されている。
【0045】
メカニカルシール42は、回転軸31と筐体40とに取り付けられることにより、ポンプ室43に対してモータ室36をシールしている。回転軸31の軸方向において、メカニカルシール42は、軸受33とインペラ41との間に配置されている。メカニカルシール42は、例えば、筐体40に取り付けられる固定環(不図示)、および、回転軸31に取り付けられる回転環(不図示)を備える公知のメカニカルシールである。
【0046】
温度センサ5は、モータ部3に取り付けられ、モータ室36内の温度を検知する。温度センサ5は、例えば、極低温(例えば、液体水素H2(L)の温度)まで検知可能な公知の温度センサである。
【0047】
圧力センサ6は、モータ部3に取り付けられ、モータ室36内の圧力を検知する。圧力センサ6は、例えば、公知の圧力センサである。
【0048】
●ポンプシステム(1)の動作
次に、ポンプシステム1の動作、すなわち、本発明に係るポンプシステム1の運転方法について、説明する。以下の説明において、
図1および
図2は、適宜参照される。
【0049】
ポンプシステム1の動作の開始前(ポンプ装置2の運転前)、第1弁V1、第3弁V3、吸込弁V11、および吐出弁V12は閉じられている。また、ガス経路L1における第1弁V1より下流側、モータ室36、吸込流路L3における吸込弁V11よりも下流側(ポンプ装置2側)、吸込管部44、ポンプ室43、吐出管部45、および吐出流路L4における吐出弁V12よりも上流側(ポンプ装置2側)内は、例えば、吐出流路L4に接続されている真空ポンプ(不図示。以下同じ。)により真空雰囲気に保たれている。
【0050】
なお、本発明において、ポンプシステム1の動作の開始前、ガス経路L1における第1弁V1より下流側およびモータ室36内は、水素よりも低い融点を有するヘリウムガスに満たされていてもよい。
【0051】
先ず、ポンプ装置2が送液可能となるまでの準備が実行される(事前準備ステップ)。事前準備ステップでは、先ず、吐出流路L4と真空ポンプとの接続が遮断される。次いで、吸込弁V11が開かれ、第1貯留タンクT1の液相部T1Lに貯留されている液体水素H2(L)が吸込流路L3、吸込管部44、ポンプ室43、吐出管部45、および吐出流路L4における吐出弁V12よりも上流側内に導入される(液体水素導入ステップ)。その結果、吸込流路L3、吸込管部44、ポンプ室43、吐出管部45、および吐出流路L4における吐出弁V12よりも上流側内は、液体水素H2(L)で満たされる。その結果、吸込流路L3、吸込管部44、ポンプ室43、吐出管部45、および吐出流路L4における吐出弁V12よりも上流側内は、液体水素H2(L)の温度まで冷却される(流路予冷ステップ)。
【0052】
次いで、第1弁V1および第2弁V2が開けられる。このとき、モータ室36と気相部T1Gとはガス経路L1およびガス導入口30aを介して連通し、気相部T1Gに貯留されている水素ガスH2(G)がガス経路L1およびガス導入口30aを介してモータ室36に導入される(水素ガス導入ステップ)。その結果、モータ室36内は水素ガスH2(G)で満たされ、同水素ガスH2(G)は、回転軸31および筐体30,40を介して、ポンプ室43内の液体水素H2(L)により冷却される。最終的に、ガス経路L1およびモータ室36内の雰囲気は、気相部T1G内の雰囲気と平衡する。すなわち、ガス経路L1およびモータ室36内は、水素ガスH2(G)により極低温に冷却され、安定した水素ガスH2(G)雰囲気となっている。ここで、前述のとおり、水素ガスH2(G)導入前において、ガス経路L1における第1弁V1より下流側およびモータ室36内は、真空雰囲気(または、ヘリウムガス雰囲気)に保たれている。そのため、ガス経路L1およびモータ室36には、導入された極低温の水素ガスH2(G)により凍結し得る他のガス成分(例えば、酸素や窒素など)が存在せず、同ガス成分の凍結による技術的課題(例えば、細管である管体部L11の詰まり、軸受32,33の凍結など)は生じない。
【0053】
なお、事前準備ステップにおいて、水素ガス導入ステップは、液体水素導入ステップと同時に実行されていてもよく、液体水素導入ステップよりも先に実行されていてもよい。後者の場合、水素ガス導入ステップは、モータ室36内の雰囲気が平衡する前に実行されていてもよい。
【0054】
次いで、吐出弁V12が開けられ、ポンプ装置2が動作し、インペラ41が回転することにより、ポンプ室43内の液体水素H2(L)が吐出管部45を介して吐出流路L4に吐出される。その結果、吐出流路L4(主に吐出弁V12よりも下流側)内は、液体水素H2(L)の温度まで冷却される(送液流路予冷ステップ)。このとき、ポンプ装置2による液体水素H2(L)の送液が可能となる(事前準備ステップにおける各動作が完了する)。その後、液体水素H2(L)の送液が開始される(液体水素送液ステップ)。このとき、第1弁V1が閉じられ、モータ室36は気相部T1Gと遮断される。その結果、ガス経路L1における第1弁V1よりも下流側およびモータ室36内の雰囲気は、所定の水素ガスH2(G)雰囲気に維持されている。
【0055】
このとき、軸受32,33は、水素ガスH2(G)により潤滑されている。ここで、水素ガスH2(G)の動粘度は、液体水素H2(L)の動粘度よりも数倍大きい。そのため、ポンプ装置2における軸受32,33の潤滑性は、液体水素H2(L)を軸受32,33の潤滑に用いる場合よりも優れている。
【0056】
前述のとおり、第1弁V1は閉じられているため、ガス経路L1における第1弁V1より下流側およびモータ室36内は、水素ガスH2(G)雰囲気の閉じられた空間(気相空間)となっている。そのため、モータ室36内の水素ガスH2(G)は、筐体30,40および回転軸31を介してポンプ室43内を流れる液体水素H2(L)により冷却され、モータ室36内の水素ガスH2(G)の雰囲気は熱的および圧力的に平衡状態となる。そして、モータ室36内(例えば、軸受32,33やモータM)に局所的に発生する熱は、モータ室36内の極低温の水素ガスH2(G)により吸収される。ここで、気相空間を構成しているガス経路L1およびモータ室36(筐体30)の構成は、ポンプ装置2の通常の運転時に想定される熱および同熱による圧力の変動を許容可能な構成となっている。また、第1弁V1は閉じられているため、モータ室36内の水素ガスH2(G)に吸収された熱は、気相部T1Gには伝達されない。
【0057】
また、前述のとおり、モータ室36内は、取扱液である液体水素H2(L)ではなく、水素ガスH2(G)で満たされている。そのため、ロータ34には、従来の無漏洩型の遠心ポンプ(以下「従来ポンプ」という。)のように、液封されているロータに発生する流体摩擦損失は発生しない。また、ロータ34とステータ35との間に金属キャンが配置されていないため、従来のキャンドモータポンプのような渦電流による損失も発生しない。すなわち、ポンプ装置2では、ロータ34の回転数を上げても、従来ポンプに発生する流体摩擦損失および渦電流による損失は、発生しない。したがって、ポンプ装置2の全体的な効率は従来ポンプよりも向上し、ポンプ装置2は従来ポンプよりも高速回転の運転に適応できる。さらに、ポンプ装置2が低速回転で運転されても、モータ室36内の雰囲気は水素ガスH2(G)雰囲気(一相流)であり、モータ室36内は二相流化しない。したがって、ポンプ装置2は、従来ポンプよりも低速回転の運転にも適応できる。
【0058】
さらに、前述のとおり、モータ室36はメカニカルシール42によりポンプ室43に対してシールされている。そのため、回転軸31の回転に伴い、微量の液体水素H
2(L)がメカニカルシール42を介してモータ室36内に漏れ得る。モータ室36内に漏れた液体水素H
2(L)は気化して水素ガスH
2(G)となるが、同水素ガスH
2(G)はモータ室36内に満たされている水素ガスH
2(G)内に拡散し(
図2の灰色矢印)、モータ室36、ガス経路L1および気相部T1G(第1弁V1が開けられていれば)の外部環境には漏洩しない。すなわち、ポンプシステム1は、メカニカルシール42を用いながら、ポンプシステム1全体で液体水素H
2(L)および水素ガスH
2(G)の無漏洩化を実現している。
【0059】
さらにまた、前述のとおり、モータ室36内は、取扱液である液体水素H2(L)ではなく、水素ガスH2(G)で満たされている。そのため、従来ポンプのように、ポンプシステム1の動作の開始時にモータ部3に液体水素H2(L)を充填する必要がなく、ポンプシステム1の動作の終了時にモータ部3に充填された液体水素H2(L)の排出前に気化させる処理(気化処理)が不要となる。すなわち、ポンプシステム1では、液体水素H2(L)は、ポンプ室43のみに導入される。そのため、液体水素H2(L)の不要な消費が抑えられ、ポンプシステム1の運用上のコストダウンおよび省エネルギー化が実現できる。
【0060】
このように、ポンプシステム1では、水素(液体水素H2(L)および水素ガスH2(G))を外部環境に漏洩させることなく、効率的に液体水素H2(L)を吐出できる。ポンプシステム1の動作中、モータ室36内の状態(温度および圧力)は、温度センサ5および圧力センサ6により検知されている。そのため、モータ室36の内の状態異常は、常時検知可能である。そのため、仮に、メカニカルシール42に不具合が生じ、多量の液体水素H2(L)がモータ室36内に漏れても、モータ室36の内の状態異常が検知されることにより、ポンプシステム1はメカニカルシール42の不具合も検知できる。
【0061】
次に、ポンプシステム1の動作が停止されるとき、先ず、ポンプ装置2の動作が停止され、吸込弁V11および吐出弁V12が閉じられる。その結果、ポンプ室43への液体水素H2(L)の導入およびポンプ装置2の送液は停止される。次いで、第3弁V3が開けられ、第2貯留タンクT2からのヘリウムガスHe(G)が第1弁V1より下流側のガス経路L1およびモータ室36内に導入される。その結果、同ガス経路L1およびモータ室36内の水素ガスH2(G)は、ヘリウムガスHe(G)によりパージされる。パージされるガスは、例えば、ガス経路L1に接続されている排出経路(不図示)を介して排出される。そのため、ポンプ装置2のメンテナンスなどの場面では、可燃性ガスである水素ガスH2(G)が外部環境へ漏洩することなく、安全にポンプ装置2の取外しおよび分解が可能である。次いで、第3弁V3が閉じられ、ガス経路L1における第1弁V1より下流側、モータ室36、吸込流路L3における吸込弁V11よりも下流側、吸込管部44、ポンプ室43、吐出管部45、および吐出流路L4における吐出弁V12よりも上流側内は、真空ポンプにより真空雰囲気に保たれる。
【0062】
このように、第1弁V1が閉じ、第3弁V3が開いているとき、モータ室36にはパージガス(ヘリウムガスHe(G))が導入され、第1弁V1が開き、第3弁V3が閉じられているとき、モータ室36には水素ガスH2(G)が導入される。すなわち、第1弁V1および第3弁V3は、モータ室36内に導入されるガスをパージガスと水素ガスH2(G)との間で切り替える切替部として機能している。
【0063】
●まとめ(1)●
以上説明した実施の形態によれば、ポンプ装置2は、回転軸31、モータM(ロータ34,ステータ35)、インペラ41、筐体30,40、およびメカニカルシール42を有してなる。モータMは、モータ室36に収容され、回転軸31を回転させる。インペラ41は、回転軸31の前端部31aに取り付けられ、ポンプ室43に収容されている。筐体30はモータ室36を区画し、筐体40はポンプ室43を区画している。メカニカルシール42は、回転軸31と筐体40とに取り付けられ、ポンプ室43に対してモータ室36をシールする。回転軸31の径方向において、ロータ34は、ステータ35と直接対向している。ポンプ室43には液相部T1Lからの液体水素H2(L)が導入され、モータ室36には気相部T1Gからの水素ガスH2(G)が導入される。
【0064】
この構成によれば、ポンプ装置2の動作中、モータ室36内は、気相部T1Gから導入された水素ガスH2(G)で満たされている。そのため、メカニカルシール42を介してモータ室36内に漏れた液体水素H2(L)は、気化して、モータ室36内の水素ガスH2(G)内に拡散し、モータ室36の外部環境には漏洩しない。すなわち、ポンプ装置2は、メカニカルシール42を用いながら、水素(液体水素H2(L)および水素ガスH2(G))の無漏洩化を実現している。また、軸受32,33は、液体水素H2(L)よりも大きい動粘度を有する水素ガスH2(G)により潤滑される。そして、モータ室36内に局所的に発生する熱は、モータ室36内の極低温の水素ガスH2(G)により吸収される。さらに、モータ室36内の水素ガスH2(G)は、ポンプ室43内の液体水素H2(L)により冷却され、モータ室36内における水素ガスH2(G)の雰囲気は熱的および圧力的に平衡状態となる。さらにまた、ポンプ装置2では、従来ポンプに発生するような流体摩擦損失や渦電流による損失が発生しない。したがって、従来ポンプと比較して、ポンプ装置2の全体的な効率は従来ポンプよりも向上し、ポンプ装置2は低速回転から高速回転までの運転に適応できる。さらにまた、従来ポンプとは異なり、ポンプ装置2の動作の開始時に、液体水素H2(L)がモータ部3に導入されない。そのため、ポンプ装置2の動作の終了時に、モータ部3に充填された液体水素H2(L)の排除前の気化処理が不要となる。したがって、液体水素H2(L)の不要な消費が抑えられ、ポンプ装置2の運用上のコストダウンおよび省エネルギー化が実現できる。
【0065】
また、以上説明した実施の形態によれば、ポンプシステム1は、ガス経路L1および前述のポンプ装置2を有してなる。ガス経路L1は、第1貯留タンクT1のうち、水素ガスH2(G)が貯留されている気相部T1Gに接続されている。筐体30は、ガス経路L1に接続されているガス導入口30aを備える。モータ室36には、ガス経路L1およびガス導入口30aを介して、気相部T1Gからの水素ガスH2(G)が導入される。この構成によれば、ポンプシステム1の動作中、メカニカルシール42を介してモータ室36内に漏れた液体水素H2(L)は気化して、モータ室36内の水素ガスH2(G)内に拡散する。モータ室36はガス経路L1を介して気相部T1Gに接続されているため、水素ガスH2(G)はポンプシステム1の外部環境には漏洩しない。すなわち、ポンプシステム1は、メカニカルシール42を備えるポンプ装置2を用いながら、水素(液体水素H2(L)および水素ガスH2(G))の無漏洩化を実現している。また、ポンプシステム1は前述されたポンプ装置2を備えるため、従来ポンプに発生するような流体摩擦損失や渦電流による損失が発生せず、低速回転から高速回転までの液体水素H2(L)の運転に適応できる。
【0066】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、ポンプシステム1は、モータ室36に導入された水素ガスH2(G)をパージするために用いられるヘリウムガスHe(G)が貯留される第2貯留タンクT2と、ガス経路L1と、に接続されるパージガス経路L2を有してなる。パージガス経路L2は、管体部L21および第3弁V3を備える。第1弁V1および第3弁V3は、モータ室36に導入されるガスをパージガスと水素ガスH2(G)との間で切り替える切替部として機能している。この構成によれば、第1弁V1が閉じられ、かつ、第3弁V3が開けられることにより、第2貯留タンクT2からのヘリウムガスHe(G)が第1弁V1より下流側のガス経路L1およびモータ室36内に導入される。その結果、同ガス経路L1およびモータ室36内の水素ガスH2(G)は、ヘリウムガスHe(G)によりパージされる。そのため、ポンプ装置2のメンテナンスなどの場面では、可燃性ガスである水素ガスH2(G)が外部環境へ漏洩することなく、安全にポンプ装置2の取外しおよび分解が可能である。
【0067】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、ポンプシステム1の運転方法は、事前準備ステップおよび液体水素送液ステップを含む。事前準備ステップは、液体水素導入ステップ、流路予冷ステップ、水素ガス導入ステップ、および送液流路予冷ステップを含む。この構成によれば、ポンプ装置2が液体水素H2(L)の送液を開始する前に、ガス経路L1およびモータ室36内は極低温の水素ガスH2(G)雰囲気となり、吸込流路L3から吐出流路L4までの流路は液体水素H2(L)により予冷される。したがって、ポンプ装置2が送液を開始してもモータ室36内の水素ガスH2(G)雰囲気は急変せず、ポンプ装置2は液体水素H2(L)を安定して送液できる。
【0068】
●変形例(1)●
次に、ポンプシステム1の変形例が、先に説明した第1実施形態と異なる点を中心に、以下に説明される。以下の変形例の説明において、説明の便宜上、第1実施形態と同じ部材、および、共通している機能を有する部材には、第1実施形態と同じ符号が付されている。以下の変形例において、
図1および
図2は、適宜参照される。
【0069】
●第1変形例
図3は、第1実施形態のポンプシステムの第1変形例を示す模式配管図である。
【0070】
ポンプシステム1Aは、ポンプ装置2、第1貯留タンクT1、第2貯留タンクT2、ガス経路L1、パージガス経路L2、吸込流路L3、吸込弁V11、吐出流路L4、および吐出弁V12を有してなる。ガス経路L1は、管体部L11、第1弁V1、バッファタンクT3、および第2弁V2を備える。
【0071】
管体部L11は、第1管体部L12および第2管体部L13を備える。第1管体部L12は、気相部T1GとバッファタンクT3とに接続される公知の管体である。第2管体部L13は、バッファタンクT3とガス導入口30aとに接続される公知の管体である。第1管体部L12は本発明における第1ガス経路の一例であり、第2管体部L13は本発明における第2ガス経路の一例である。
【0072】
バッファタンクT3は、ガス経路L1において、水素ガスH2(G)を一時的に貯留する。バッファタンクT3の設計圧力(容積)は、ガス経路L1におけるバッファタンクT3より下流側およびモータ室36内の温度変動に基づく圧力変動を吸収可能な程度に大きく設定されている。バッファタンクT3は、管体部L11において、第1弁V1と第2弁V2との間に取り付けられている。
【0073】
この構成によれば、ポンプシステム1Aの動作中、モータ室36内の局所的な熱によりモータ室36内の圧力が変動しても、同変動はバッファタンクT3に貯留されている水素ガスH2(G)により抑制される。その結果、ポンプシステム1Aの動作中、第1弁V1が閉じられて、ガス経路L1における第1弁V1より下流側およびモータ室36内が閉じられた空間となっていても、モータ室36内の圧力は安定する。また、本変形例におけるガス経路L1の容積は、第1実施形態におけるガス経路L1の容積よりもバッファタンクT3の容積分大きい。そのため、仮に、モータ室36内の局所的な熱によりモータ室36内の水素ガスH2(G)の温度が上昇しても、ガス経路L1内の水素ガスH2(G)の温度の上昇は、第1実施形態よりも抑制される。したがって、モータ室36内の圧力および温度の変動は、第1実施形態よりも安定する。したがって、第1変形例において、仮に、第1弁V1が開けられていても、モータ室36内の水素ガスH2(G)の温度上昇は、気相部T1Gへ伝達されない。
【0074】
●第2変形例
図4は、第1実施形態のポンプシステムの第2変形例を示す模式配管図である。
【0075】
ポンプシステム1Bは、ポンプ装置2、第1貯留タンクT1、第2貯留タンクT2、ガス経路L1、パージガス経路L2、吸込流路L3、吸込弁V11、吐出流路L4、および吐出弁V12を有してなる。ガス経路L1は、管体部L11、第1弁V1、バッファタンクT3、および第2弁V2を備える。
【0076】
本変形例において、吐出流路L4の一部は、吐出流路L4内の液体水素H2(L)とバッファタンクT3内の水素ガスH2(G)との間で熱交換されるように、バッファタンクT3に取り付けられている。すなわち、例えば、吐出流路L4の一部は、バッファタンクT3内を蛇行するように、バッファタンクT3に取り付けられている。その結果、バッファタンクT3および吐出流路L4の一部は、ポンプ装置2の吐出液(液体水素H2(L))を冷媒とする熱交換器として機能している。
【0077】
この構成では、バッファタンクT3と熱交換器とが一体に構成されているため、ポンプ装置2の動作中、バッファタンクT3内の水素ガスH2(G)は、常に冷却される。そのため、バッファタンクT3による圧力変動の抑制効果は、第1変形例よりも向上する。また、モータ室36と共に閉じられた空間を形成し、相対的に大きな容積を有するバッファタンクT3内の水素ガスH2(G)が冷却されるため、同空間内の水素ガスH2(G)の冷却効率は良好で、ガス経路L1およびモータ室36内の温度および圧力の上昇も抑制される。さらに、ガス経路L1に別途熱交換器を接続する必要がなく、水素ガスH2(G)の漏洩の要因となり得る接続部の数が最小限に抑えられると共に、省スペース化が実現できる。
【0078】
なお、本変形例において、バッファタンクT3は熱交換器として機能せず、ポンプシステム1Bは、ガス経路L1内の水素ガスH2(G)と、吐出流路L4内の液体水素H2(L)と、の間で熱交換させる熱交換器を別途備えていてもよい。この構成でも、ガス経路L1内の水素ガスH2(G)は常に冷却されるため、モータ室36内の温度および圧力の上昇は、第1変形例よりも抑制される。
【0079】
●ポンプシステム(2)●
次に、ポンプシステムの別の実施の形態(以下「第2実施形態」という。)が、第1実施形態、第1変形例、および第2変形例と異なる点を中心に、以下に説明される。以下の第2実施形態の説明において、説明の便宜上、第1実施形態、第1変形例、および第2変形例と同じ部材、および、共通している機能を有する部材には、第1実施形態、第1変形例、および第2変形例と同じ符号が付されている。また、以下の変形例において、
図1および
図2は、適宜参照される。
【0080】
●ポンプシステム(2)の構成
図5は、ポンプシステムの第2実施形態を示す模式配管図である。
【0081】
ポンプシステム1Cは、液体水素H2(L)を送液する。ポンプシステム1Cは、ポンプ装置2A、第1貯留タンクT1、第2貯留タンクT2、ガス経路L1、パージガス経路L2、吸込流路L3、吸込弁V11、吐出流路L4、および吐出弁V12を有してなる。
【0082】
ポンプ装置2Aは、第1貯留タンクT1に接続されて、第1貯留タンクT1に貯留されている液体水素H2(L)を送液する。ポンプ装置2Aの構成については、後述される。
【0083】
ガス経路L1は、管体部L11、第1弁V1、第2弁V2、第4弁V4、およびバッファタンクT3を備える。
【0084】
管体部L11は、第1管体部L12、第2管体部L13、および第3管体部L14を備える。第3管体部L14は、バッファタンクT3と後述されるガス導出口30bとに接続される公知の管体である。第3管体部L14は、本発明における第3ガス経路の一例である。
【0085】
第4弁V4は、第3管体部L14に接続され、第3管体部L14を開閉する公知の弁(例えば、ゲート弁)である。第4弁V4は、例えば、第1弁V1と同じ金属製であり、第1弁V1と同じ断熱構造を有する。
【0086】
●ポンプ装置(2)の構成
図6は、本発明に係るポンプ装置(すなわち、ポンプ装置2A)の別の実施の形態(以下「第2実施形態」という。)を示す模式断面図である。
【0087】
ポンプ装置2Aは、モータ部3、ポンプ部4、温度センサ5、および圧力センサ6を備える。ポンプ装置2Aの構成は、モータ部3が後述されるファン37、ガス導出口30b、および隔壁30cを備える点を除き、第1実施形態におけるポンプ装置2の構成と共通する。
【0088】
モータ部3は、筐体30、回転軸31、2つの軸受32,33、ロータ34、ステータ35、モータ室36、およびファン37を備える。
【0089】
筐体30は、ガス導入口30a、ガス導出口30b、および隔壁30cを備える。
【0090】
ガス導入口30aは、例えば、筐体30の後部に配置され、後述される第2モータ室36bに開口している。ガス導入口30aには、ガス経路L1(第2管体部L13)が接続されている。回転軸31の軸方向において、ガス導入口30aは、モータMよりも後側(回転軸31の後端部31b側)に配置されている。
【0091】
ガス導出口30bは、筐体30を貫通する貫通孔である。ガス導出口30bは、例えば、筐体30の前部に配置され、後述される第1モータ室36aに開口している。ガス導出口30bには、ガス経路L1(第3管体部L14)が接続されている。回転軸31の軸方向において、ガス導入口30aは、モータMよりも前側(回転軸31の前端部31a側)に配置されている。
【0092】
隔壁30cは、モータ室36を、モータMが収容されている第1モータ室36aと、ファン37が収容されている第2モータ室36bと、に区画する。第1モータ室36aは、第2モータ室36bの前方に配置されている。隔壁30cは、隔壁30cを前後方向に貫通して、第1モータ室36aと第2モータ室36bとを連通させる複数の通気孔30dを備える。
【0093】
ファン37は、モータ室36内の水素ガスH2(G)を流動させることにより、ガス経路L1とモータ室36との間で水素ガスH2(G)を循環させる。ファン37は、例えば、ステンレス鋼製である。ファン37は、第2モータ室36b内に突出している回転軸31の後端部31bに取り付けられ、第2モータ室36bに収容されている。すなわち、ファン37は、モータ室36内に配置されている。ファン37は、回転軸31と共に回転し、水素ガスH2(G)を前方へ流動させるように構成されている。
【0094】
●ポンプシステム(2)の動作
次に、ポンプシステム1Cの動作、すなわち、本発明に係るポンプシステム1Cの別の運転方法について、説明する。以下の説明において、
図1、
図2、
図5、および
図6は、適宜参照される。
【0095】
ポンプシステム1Cの動作の開始前(ポンプ装置2Aの運転前)、第1弁V1、第3弁V3、吸込弁V11、および吐出弁V12は閉じられている。また、ガス経路L1における第1弁V1より下流側、モータ室36、吸込流路L3における吸込弁V11よりも下流側、吸込管部44、ポンプ室43、吐出管部45、および吐出流路L4における吐出弁V12よりも上流側内は、例えば、前述された真空ポンプにより真空雰囲気に保たれている。
【0096】
先ず、第1実施形態と同様に、事前準備ステップのうち、液体水素導入ステップおよび流路予冷ステップが実行される。
【0097】
次いで、第1弁V1、第2弁V2、および第4弁V4が開けられる。このとき、モータ室36と気相部T1Gとはガス経路L1を介して連通し、気相部T1Gに貯留されている水素ガスH2(G)がガス経路L1を介してモータ室36に導入される(水素ガス導入ステップ)。その結果、モータ室36の内部は水素ガスH2(G)で満たされ、最終的に、ガス経路L1およびモータ室36内の雰囲気は、気相部T1G内の雰囲気と平衡状態となる。すなわち、ガス経路L1およびモータ室36内は、水素ガスH2(G)により極低温に冷却され、安定した水素ガスH2(G)雰囲気となっている。
【0098】
次いで、吐出弁V12が開けられ、ポンプ装置2Aが動作し、インペラ41が回転することにより、ポンプ室43内の液体水素H2(L)が吐出管部45を介して吐出流路L4に吐出される。その結果、吐出流路L4(主に吐出弁V12よりも下流側)内は、液体水素H2(L)の温度まで冷却される(送液流路予冷ステップ)。同時に、回転軸31の回転に伴いファン37が回転することにより、第2モータ室36b内の水素ガスH2(G)が第1モータ室36a内へ流動される。その結果、モータ室36内において、ガス導入口30aから第2モータ室36b内へ導入された水素ガスH2(G)が後方から前方へと流動され、ガス導出口30bから第3管体部L14へと流出されることにより、水素ガスH2(G)はモータ室36からバッファタンクT3へ戻される(循環開始ステップ)。このとき、ポンプ装置2Aによる液体水素H2(L)の送液が可能となる(事前準備ステップにおける各動作が完了する)。その後、液体水素H2(L)の送液が開始される(液体水素送液ステップ)。このとき、第1弁V1が閉じられ、モータ室36は気相部T1Gと遮断される。その結果、ガス経路L1における第1弁V1よりも下流側およびモータ室36内の雰囲気は所定の水素ガスH2(G)雰囲気に維持されている。
【0099】
このとき、第1弁V1は閉じられているため、ガス経路L1における第1弁V1より下流側およびモータ室36内は、水素ガスH2(G)雰囲気の閉じられた空間(気相空間)となっている。そして、バッファタンクT3、第2管体部L13、ガス導入口30a、第2モータ室36b、通気孔30d、第1モータ室36a、ガス導出口30b、および第3管体部L14により、水素ガスH2(G)が循環される循環経路LRが構成されている。前述のとおり、循環経路LRにおける水素ガスH2(G)は、ファン37により循環される。この構成では、モータ室36内の水素ガスH2(G)は、筐体30,40および回転軸31を介してポンプ室43内の液体水素H2(L)により冷却され、循環経路LR内を循環されることにより、循環経路LR内における水素ガスH2(G)の雰囲気は熱的および圧力的に平衡状態となる。そのため、モータ室36内の温度は、第1実施形態におけるモータ室36内の温度よりも低温に保たれる。また、ファン37からの風がモータMに直接吹き付けられるため、モータMは、第1実施形態よりも冷却される。
【0100】
なお、第2実施形態において、ポンプシステム1Cは、第1実施形態および第1実施形態の第1変形例におけるポンプシステム1,1Aと共通する構成を有している。そのため、ポンプシステム1,1Aにおいて得られる効果は、ポンプシステム1Cにおいても同様に得られる。
【0101】
●まとめ(2)●
以上説明した実施の形態によれば、ポンプシステム1Cは、第1実施形態におけるポンプシステム1と共通する構成、および、モータ室36とバッファタンクT3との間で水素ガスH2(G)を循環させるファン37を有してなる。筐体30は、モータ室36に導入された水素ガスH2(G)をガス経路L1に導出するガス導出口30bを備える。ガス経路L1は、ガス導出口30bとバッファタンクT3とに接続される第3管体部L14を備える。この構成によれば、ファン37の動作により、ガス導入口30aからモータ室36内に導入された水素ガスH2(G)は、ガス導出口30bから第3管体部L14に導出され、バッファタンクT3に戻され、第2管体部L13およびガス導入口30aを介して再びモータ室36内に導入される。その結果、モータ室36内の水素ガスH2(G)は、ポンプ室43内の液体水素H2(L)により冷却され、モータ室36内に留まることなく、モータ室36とバッファタンクT3との間を循環される。したがって、モータ室36およびバッファタンクT3内の水素ガスH2(G)の雰囲気は第1実施形態よりも熱的および圧力的に平衡し、モータ室36内の温度は第1実施形態よりも低温に保たれる。
【0102】
また、以上説明した実施の形態によれば、ファン37は、回転軸31に取り付けられ、ガス導入口30aから導入された水素ガスH2(G)をガス導出口30bに向けて流動させる。この構成によれば、ファン37の収容および回転のための特別な機構が不要となり、モータ室36内の水素ガスH2(G)の流動が容易となる。
【0103】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、回転軸31の軸方向において、ファン37は、回転軸31の後端部31bに取り付けられている。筐体30は、モータMが収容される第1モータ室36aと、ファン37が収容される第2モータ室36bと、を区画する隔壁30cを備える。隔壁30cは、第1モータ室36aと第2モータ室36bとを連通させる通気孔30dを備える。ガス導入口30aは、第2モータ室36bに開口している。ガス導出口30bは、第1モータ室36aに開口し、回転軸31の軸方向において、モータMよりも前端部31a側に配置されている。この構成によれば、バッファタンクT3、第2管体部L13、ガス導入口30a、第2モータ室36b、通気孔30d、第1モータ室36a、ガス導出口30b、および第3管体部L14により、水素ガスH2(G)が循環される循環経路LRが構成される。モータ室36内の水素ガスH2(G)はポンプ室43内の液体水素H2(L)により冷却され、循環経路LR内を循環されることにより、循環経路LR内の雰囲気は熱的および圧力的に平衡状態となる。そのため、モータ室36内の温度は、第1実施形態よりも低温に保たれる。また、ファン37からの風がモータMに直接吹き付けられるため、モータMは第1実施形態よりも冷却される。
【0104】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、ポンプシステム1Cの運転方法は、事前準備ステップおよび液体水素送液ステップを含む。事前準備ステップは、液体水素導入ステップ、流路予冷ステップ、水素ガス導入ステップ、送液流路予冷ステップ、および循環開始ステップを含む。この構成によれば、ポンプ装置2Aが液体水素H2(L)の送液を開始する前に、ガス経路L1およびモータ室36内は極低温の水素ガスH2(G)雰囲気となり、吸込流路L3から吐出流路L4までの流路は液体水素H2(L)により予冷される。また、モータ室36内の温度は第1実施形態におけるモータ室36内の温度よりも低温に保たれる。したがって、ポンプ装置2Aが送液を開始してもモータ室36内の水素ガスH2(G)雰囲気は急変せず、ポンプ装置2Aは液体水素H2(L)を安定して送液できる。
【0105】
なお、第2実施形態において、ファン37の配置は、回転軸31の後端部31b側に限定されない。すなわち、例えば、ファン37は、モータ室36内における前端部31a側(例えば、回転軸31の軸方向において、モータMと軸受32との間)に配置されていてもよい。また、例えば、ファン37は、回転軸31ではなく、ファン37専用のファン回転軸(不図示)に取り付けられていてもよい。さらに、例えば、ファン37は、ガス経路L1に備えられ、第2管体部L13または第3管体部L14に接続されていてもよい。
【0106】
また、第2実施形態において、筐体30は、隔壁30cを備えていなくてもよい。
【0107】
さらに、第2実施形態において、ガス導入口30aおよびガス導出口30bの位置は、モータ室36とバッファタンクT3との間で水素ガスH2(G)が循環可能な位置であればよく、第2実施形態において説明された位置に限定されない。
【0108】
さらにまた、第2実施形態において、ポンプシステム1Cは、バッファタンクT3を備えていなくてもよい。
【0109】
●変形例(2)●
次に、ポンプシステム1Cの変形例が、先に説明した第2実施形態と異なる点を中心に、以下に説明される。以下の変形例の説明において、説明の便宜上、第2実施形態と同じ部材、および、共通している機能を有する部材には、第2実施形態と同じ符号が付されている。また、以下の変形例において、
図1、
図2、
図5、および
図6は、適宜参照される。
【0110】
●第1変形例
図7は、第2実施形態のポンプシステムの第1変形例を示す模式配管図である。
【0111】
ポンプシステム1Dは、ポンプ装置2A、第1貯留タンクT1、第2貯留タンクT2、ガス経路L1、パージガス経路L2、吸込流路L3、吸込弁V11、吐出流路L4、および吐出弁V12を有してなる。
【0112】
本変形例において、吐出流路L4の一部は、吐出流路L4内の液体水素H2(L)とバッファタンクT3内の水素ガスH2(G)との間で熱交換されるように、バッファタンクT3に取り付けられている。その結果、バッファタンクT3および吐出流路L4の一部は、ポンプ装置2Aの吐出液(液体水素H2(L))を冷媒とする熱交換器として機能している。
【0113】
この構成では、ポンプ装置2Aの動作中、バッファタンクT3内の水素ガスH2(G)は、常に冷却される。そのため、バッファタンクT3による圧力変動の抑制効果は、第2実施形態よりも向上する。また、モータ室36と共に閉じた循環経路LRを構成しているバッファタンクT3内の水素ガスH2(G)が冷却されるため、モータ室36内の温度および圧力の上昇もさらに抑制される。
【0114】
●第2変形例
図8は、第2実施形態のポンプシステムの第2変形例を示す模式配管図である。
【0115】
ポンプシステム1Eは、ポンプ装置2A、第1貯留タンクT1、第2貯留タンクT2、ガス経路L1、パージガス経路L2、吸込流路L3、吸込弁V11、吐出流路L4、吐出弁V12、および熱交換器HEを有してなる。
【0116】
熱交換器HEは、第3管体部L14および吐出流路L4に取り付けられて、第3管体部L14内の水素ガスH2(G)と吐出流路L4内の液体水素H2(L)との間で熱交換を行う。すなわち、熱交換器HEは、ポンプ装置2Aの吐出液(液体水素H2(L))を冷媒として、第3管体部L14内の水素ガスH2(G)を冷却する。
【0117】
この構成では、ポンプ装置2Aの動作中、熱交換器HEが取り付けられている第3管体部L14内の水素ガスH2(G)は常に冷却され、バッファタンクT3に送られる。すなわち、モータ室36からバッファタンクT3に戻される水素ガスH2(G)は常に冷却されている。そのため、第2実施形態の第1変形例におけるバッファタンクT3による圧力変動の抑制効果と同等の効果が得られる。また、モータ室36と共に閉じた循環経路LRを構成している第3管体部L14内の水素ガスH2(G)が冷却されるため、モータ室36内の温度および圧力の上昇も第2実施形態の第1変形例と同様に抑制される。
【0118】
なお、本変形例において、熱交換器HEは、第2管体部L13に取り付けられていてもよい。
【0119】
●第3変形例
図9は、第2実施形態のポンプシステムの第3変形例を示す模式配管図である。
【0120】
ポンプシステム1Fは、ポンプ装置2A、第1貯留タンクT1、第2貯留タンクT2、ガス経路L1、パージガス経路L2、吸込流路L3、吸込弁V11、吐出流路L4、および吐出弁V12を有してなる。
【0121】
筐体30は、ガス導入口30a、ガス導出口30b、隔壁30c、外壁30e、および案内流路30fを備える。
【0122】
外壁30eは、モータ室36を区画する筐体30の外殻部分である。外壁30eの一部は、中空の二重構造であり、案内流路30fを形成している。すなわち、案内流路30fは、外壁30e内に配置されている。また、外壁30eの一部は外側に突出して、吐出管部30gを構成している。すなわち、第3変形例において、吐出管部30gおよび吐出口30hは、モータ部3側に配置されている。吐出管部30gは、案内流路30fと連通している。
【0123】
吸込管部44および吸込口44aは、第1実施形態と同様にポンプ部4側に配置されている。筐体40は、外壁40aおよび案内流路40bを備える。
【0124】
外壁40aは、ポンプ室43を区画する筐体40の外殻部分である。外壁40aの一部は、中空の二重構造であり、案内流路40bを構成している。すなわち、案内流路40bは、外壁40a内に配置されている。案内流路40bは、ポンプ室43と案内流路30fとに連通している。したがって、ポンプ室43内の液体水素H2(L)は、案内流路40b、案内流路30f、吐出管部30g、吐出口30hを介して、吐出流路L4に送液される。
【0125】
第3管体部L14の上流側(ガス導出口30b側)の一部は、第3管体部L14内の水素ガスH2(G)と案内流路30f,40b内の液体水素H2(L)との間で熱交換可能に、筐体30,40に取り付けられている。すなわち、例えば、第3管体部L14の一部は、案内流路30f,40b内を蛇行するように配置されている。その結果、筐体30,40および第3管体部L14(ガス経路L1)の一部は、ポンプ装置2Aの吐出前の液体水素H2(L)を冷媒とする熱交換器として機能している。第3管体部L14(ガス経路L1)の一部は、本発明における熱交換経路の一例である。
【0126】
この構成では、ポンプ装置2Aの動作中、第3管体部L14内の水素ガスH2(G)は第2実施形態の第2変形例と同様に常に冷却され、バッファタンクT3に送られる。すなわち、モータ室36からバッファタンクT3に戻される水素ガスH2(G)は常に冷却されている。そのため、第2実施形態の第1変形例におけるバッファタンクT3による圧力変動の抑制効果と同等の効果が得られる。また、モータ室36と共に閉じた循環経路LRを構成している第3管体部L14内の水素ガスH2(G)が冷却されるため、モータ室36内の温度および圧力の上昇も第2実施形態の第1変形例と同様に抑制される。さらに、ポンプ装置2Aが熱交換器としても機能しているため、別途、熱交換器用の接続および配管が不要となる。
【0127】
なお、本変形例において、第3管体部L14の上流側(ガス導出口30b側)の一部は、第3管体部L14内の水素ガスH2(G)と案内流路30f,40b内の液体水素H2(L)との間で熱交換可能に、筐体30,40に取り付けられていればよく、案内流路30f,40b内に配置されていなくてもよい。すなわち、例えば、第3管体部L14の上流側(ガス導出口30b側)の一部は、案内流路30f,40bを構成している外壁30e,40aの外面に取り付けられていてもよい。
【0128】
また、本変形例において、ガス経路L1は、案内流路30f,40bではない別の位置において、水素ガスH2(G)と液体水素H2(L)との間で熱交換可能に構成されていてもよい。すなわち、例えば、本変形例において、第2実施形態の第1変形例または第2変形例のように、バッファタンクT3または熱交換器HEにおいて、水素ガスH2(G)と液体水素H2(L)との間の熱交換が実行されていてもよい。この場合、案内流路30f,40bは、筐体30(モータ室36内の水素ガスH2(G))の冷却に用いられる。
【0129】
●その他の実施形態●
なお、第1実施形態および第2実施形態において、ポンプシステム1,1Cはポンプ装置2,2Aおよびガス経路L1を備えていればよく、ポンプシステム1,1Cの構成は、第1実施形態および第2実施形態に説明された構成に限定されない。すなわち、例えば、本発明に係るポンプシステムは、第1貯留タンクT1、第2貯留タンクT2、パージガス経路L2、吸込流路L3、および/または、吐出流路L4を備えず、これらを備えている設備に接続されていてもよい。
【0130】
また、第1実施形態および第2実施形態において、ポンプシステム1,1Cは、例えば、ガス経路L1に接続されている真空ポンプおよび排出経路を備えていてもよい。
【0131】
さらに、各変形例において、熱交換器として機能しているバッファタンクT3および熱交換器HEは、ガス経路L1内の水素ガスH2(G)と、吐出流路L4内の液体水素H2(L)と、の間で熱交換可能に構成されていればよく、これらの構成は、各変形例に限定されない。
【0132】
さらにまた、第1実施形態および第2実施形態において、ポンプ装置2,2Aは、インペラ41よりも吸込口44a側に配置されるインデューサを備えていてもよい。
【0133】
さらにまた、第1実施形態および第2実施形態において、第1弁V1は、ポンプ装置2の動作中、モータ室36内の状態(温度および圧力)に基づいて、開けられていてもよく、あるいは、開閉されていてもよい。すなわち、例えば、モータ室36内の温度(圧力)が上昇したとき第1弁V1は開けられ、同温度(圧力)が低下(平衡)したとき第1弁V1は閉じられる。
【0134】
さらにまた、第1実施形態および第2実施形態において、モータMは、ロータ34が永久磁石を備える永久磁石界磁型モータでもよい。この場合、ポンプ装置2,2Aは、ロータ34を覆い、ロータ34を水素ガスH2(G)から隔離する保護部材(例えば、ステンレス鋼製の保護部材)を備える。この構成では、水素ガスH2(G)による永久磁石の脆化が防止される。
【0135】
さらにまた、第1実施形態、第2実施形態、および各変形例において、各管体および各弁の構成は、モータ室36内に気相部T1Gからの水素ガスH2(G)を導入可能、かつ、ポンプ室43内に液相部T1Lからの液体水素H2(L)を導入可能な構成であればよく、第1実施形態、第2実施形態、および各変形例において記載された構成に限定されない。
【0136】
さらにまた、第1実施形態、第2実施形態、および各変形例の構成は、相互に組み合わせられてもよい。
【0137】
●本発明の実施態様●
次に、以上説明した各実施形態から把握される本発明の実施態様について、各実施形態において記載された用語と符号とを援用しつつ、以下に記載する。
【0138】
本発明の第1の実施態様は、液体水素(例えば、液体水素H2(L))と、前記液体水素が気化した水素ガス(例えば、水素ガスH2(G))と、が貯留される貯留タンク(例えば、第1貯留タンクT1)に接続され、前記液体水素を送液するポンプ装置(例えば、ポンプ装置2,2A)であって、回転軸(例えば、回転軸31)と、前記回転軸を回転させるモータ(例えば、モータM)と、前記回転軸の軸方向において、前記回転軸の一端部(例えば、前端部31a)に取り付けられるインペラ(例えば、インペラ41)と、前記モータが収容されるモータ室(例えば、モータ室36)と、前記インペラが収容されるポンプ室(例えば、ポンプ室43)と、を有する筐体(例えば、筐体30,40)と、前記回転軸と前記筐体とに取り付けられ、前記ポンプ室に対して前記モータ室をシールするメカニカルシール(例えば、メカニカルシール42)と、を有してなり、前記モータは、前記回転軸に取り付けられるロータ(例えば、ロータ34)と、前記回転軸の径方向において前記ロータに直接対向し、前記ロータを回転させるステータ(例えば、ステータ35)と、を備え、前記モータ室には、前記水素ガスが導入される。
この構成によれば、ポンプ装置は、メカニカルシールを用いながら、水素(液体水素および水素ガス)の無漏洩化を実現すると共に、低速回転から高速回転までの運転に適応できる。
【0139】
本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様に記載のポンプ装置であって、前記筐体は、前記貯留タンクのうち、前記水素ガスが貯留される気相部(例えば、気相部T1G)に接続されるガス経路(例えば、ガス経路L1)に接続されるガス導入口(例えば、ガス導入口30a)を備え、前記モータ室には、前記ガス導入口を介して、前記水素ガスが導入される。
この構成によれば、モータ室はガス経路を介して気相部に接続されているため、水素ガスはポンプシステムの外部環境には漏洩しない。
【0140】
本発明の第3の実施態様は、第2の実施態様に記載のポンプ装置(例えば、ポンプ装置2A)であって、前記筐体は、前記ポンプ室と前記モータ室それぞれと前記筐体の外部環境とを区画する外壁(例えば、外壁30e,40a)と、前記筐体の前記ポンプ室側に配置され、前記貯留タンクからの前記液体水素を前記ポンプ室に吸込む吸込口(例えば、吸込口44a)と、前記筐体の前記モータ室側に配置され、前記ポンプ室からの前記液体水素を吐出する吐出口(例えば、吐出口45a)と、前記外壁内に配置され、前記ポンプ室からの前記液体水素を前記吐出口に案内する案内流路(例えば、案内流路30f,40b)と、を備える。
この構成によれば、案内流路内を案内される液体水素により、筐体(モータ室内の水素ガス)は冷却される。
【0141】
本発明の第4の実施態様は、第3の実施態様に記載のポンプ装置であって、前記ガス経路の一部を構成する熱交換経路を有してなり、前記熱交換経路は、前記熱交換経路内の前記水素ガスと、前記案内流路内の前記液体水素と、の間で熱交換可能に配置される。
この構成によれば、ポンプ装置の動作中、第3管体部内の水素ガスは常に冷却され、バッファタンクに送られる。そのため、バッファタンクによる圧力変動の抑制効果は向上する。
【0142】
本発明の第5の実施態様は、第2乃至第4のいずれか1の実施態様に記載のポンプ装置であって、前記モータ室に配置されるファン(例えば、ファン37)を有してなり、前記筐体は、前記モータ室に導入された前記水素ガスを前記ガス経路に導出するガス導出口(例えば、ガス導出口30b)を備え、前記ファンは、前記ガス導入口から前記モータ室に導入された前記水素ガスを前記ガス導出口に向けて流動させる。
この構成によれば、モータ室内の水素は、ポンプ室内の液体水素により冷却され、モータ室内に留まることなく循環される。その結果、モータ室およびバッファタンク内の水素ガスは熱的および圧力的に平衡し、モータ室内の温度は低温に保たれる。
【0143】
本発明の第6の実施態様は、第1の実施態様に記載のポンプ装置であって、前記モータは、前記ロータ(例えば、ロータ34)が永久磁石を備える永久磁石界磁型モータであり、前記ロータを覆い、前記ロータを前記水素ガスから隔離する保護部材を備える。
この構成によれば、水素ガスによる永久磁石の脆化が防止される。
【0144】
本発明の第7の実施態様は、液体水素(例えば、液体水素H2(L))と、前記液体水素が気化した水素ガス(例えば、水素ガスH2(G))と、が貯留される貯留タンク(例えば、第1貯留タンクT1)に接続され、前記液体水素を送液するポンプシステム(例えば、ポンプシステム1,1A,1B,1C,1D,1D,1F)であって、前記液体水素を吸込み、吐出するポンプ装置(例えば、ポンプ装置2,2A)と、前記貯留タンクのうち、前記水素ガスが貯留される気相部(例えば、気相部T1G)に接続されるガス経路(例えば、ガス経路L1)と、を有してなり、前記ポンプ装置は、回転軸(例えば、回転軸31)と、前記回転軸を回転させるモータ(例えば、モータM)と、前記回転軸の軸方向において、前記回転軸の一端部(例えば、前端部31a)に取り付けられるインペラ(例えば、インペラ41)と、前記モータが収容されるモータ室(例えば、モータ室36)と、前記インペラが収容されるポンプ室(例えば、ポンプ室43)と、を有する筐体(例えば、筐体30,40)と、前記回転軸と前記筐体とに取り付けられ、前記ポンプ室に対して前記モータ室をシールするメカニカルシール(例えば、メカニカルシール42)と、を備え、前記モータは、前記回転軸に取り付けられるロータ(例えば、ロータ34)と、前記回転軸の径方向において前記ロータに直接対向し、前記ロータを回転させるステータ(例えば、ステータ35)と、を備え、前記筐体は、前記ガス経路に接続されるガス導入口(例えば、ガス導入口30a)を備え、前記モータ室には、前記ガス経路と前記ガス導入口とを介して、前記水素ガスが導入される。
この構成によれば、ポンプシステムは、メカニカルシールを備えるポンプ装置を用いながら、水素の無漏洩化を実現すると共に、低速回転から高速回転までの液体水素の送液に適応できる。
【0145】
本発明の第8の実施態様は、第7の実施態様に記載のポンプシステム(例えば、ポンプシステム1A,1B,1C,1D,1D,1F)であって、前記ガス経路は、前記水素ガスを一時的に貯留するバッファタンク(例えば、バッファタンクT3)と、前記バッファタンクと前記気相部とに接続される第1ガス経路(例えば、第1管体部L12)と、前記バッファタンクと前記ガス導入口とに接続される第2ガス経路(例えば、第2管体部L13)と、前記第1ガス経路に接続され、前記第1ガス経路を開閉する開閉弁(例えば、第1弁V1)と、を備える。
この構成によれば、ポンプシステムの動作中、軸受やステータからの局所的な熱によりモータ室内の圧力が変動しても、同変動はバッファタンクに貯留されている水素ガスにより抑制される。また、局所的な熱によりモータ室内の水素ガスの温度が上昇しても、ガス経路およびモータ室内の水素ガスの温度の上昇は、抑制される。
【0146】
本発明の第9の実施態様は、第8の実施態様に記載のポンプシステム(例えば、ポンプシステム1B,1D,1E,1F)であって、前記筐体に備えられ前記ポンプ室からの前記液体水素を吐出する吐出口(例えば、吐出口45a)、に接続される吐出流路(例えば、吐出流路L4)と、前記ガス経路内の前記水素ガスと、前記吐出流路内の前記液体水素と、の間で熱交換させる熱交換器(例えば、バッファタンクT3、熱交換器HE)と、を有してなる。
この構成によれば、局所的な熱によりモータ室内の水素ガスの温度が上昇しても、ガス経路およびモータ室内の水素ガスの温度の上昇は、抑制される。
【0147】
本発明の第10の実施態様は、第9の実施態様に記載のポンプシステム(例えば、ポンプシステム1B,1D)であって、前記吐出流路は、前記吐出流路内を流れる前記液体水素と、前記バッファタンク内の前記水素ガスと、の間で熱交換可能に配置され、前記バッファタンクは、前記熱交換器として機能する。
この構成によれば、ポンプ装置の動作中、バッファタンク内の水素ガスは、常に冷却される。その結果、ガス経路およびモータ室内の温度および圧力の上昇は、さらに抑制される。
【0148】
本発明の第11の実施態様は、第7の実施態様に記載のポンプシステム(例えば、ポンプシステム1F)であって、前記筐体は、前記ポンプ室と前記モータ室それぞれを区画する外壁(例えば、外壁30e,40a)と、前記筐体の前記ポンプ室側に配置され、前記貯留タンクからの前記液体水素を前記ポンプ室に吸込む吸込口と、前記筐体の前記モータ室側に配置され、前記ポンプ室からの前記液体水素を吐出する吐出口と、前記外壁内に配置され、前記ポンプ室からの前記液体水素を前記吐出口に案内する案内流路(例えば、案内流路30f,40b)と、を備える。
この構成によれば、案内流路内を案内される液体水素により、筐体(モータ室内の水素ガス)は冷却される。
【0149】
本発明の第12の実施態様は、第11の実施態様に記載のポンプシステムであって、前記ガス経路は、前記ポンプ装置に取り付けられる熱交換経路を備え、前記熱交換経路は、前記熱交換経路内の前記水素ガスと、前記案内流路内の前記液体水素と、の間で熱交換可能に配置される。
この構成によれば、ポンプ装置の動作中、第3管体部内の水素ガスは常に冷却され、バッファタンクに送られる。そのため、バッファタンクによる圧力変動の抑制効果は向上する。
【0150】
本発明の第13の実施態様は、第7乃至第12の実施態様のいずれか1に記載のポンプシステムであって、前記モータ室と前記ガス経路との間で前記水素ガスを循環させるファン(例えば、ファン37)を有してなり、前記筐体は、前記モータ室に導入された前記水素ガスを前記ガス経路に導出するガス導出口を備え、前記ガス経路は、前記ガス導出口に接続される第3ガス経路(例えば、第3管体部L14)を備える。
この構成によれば、モータ室内の水素は、ポンプ室内の液体水素により冷却され、モータ室内に留まることなく循環される。その結果、モータ室およびバッファタンク内の水素ガスは熱的および圧力的に平衡し、モータ室内の温度は低温に保たれる。
【0151】
本発明の第14の実施態様は、第13の実施態様に記載のポンプシステムであって、前記ファンは、前記回転軸に取り付けられ、前記ガス導入口から導入された前記水素ガスを前記ガス導出口に向けて流動させる。
この構成によれば、ファンの収容および回転のための特別な機構が不要となり、モータ室内の水素ガスの流動が容易となる。
【0152】
本発明の第15の実施態様は、第14の実施態様に記載のポンプシステムであって、前記ファンは、前記軸方向において、前記回転軸の他端部(例えば、後端部31b)に取り付けられ、前記筐体(例えば、筐体30)は、前記モータが収容される第1モータ室(例えば、第1モータ室36a)と、前記ファンが収容される第2モータ室(例えば、第2モータ室36b)と、を区画する隔壁(例えば、隔壁30c)を備え、前記隔壁は、前記第1モータ室と前記第2モータ室とを連通させる通気孔(例えば、通気孔30d)を備え、前記ガス導入口は、前記第2モータ室に開口し、前記ガス導出口は、前記第1モータ室に開口し、前記軸方向において、前記モータよりも前記一端部側に配置される。
この構成によれば、水素ガスが循環される循環経路が構成される。モータ室内の水素ガスはポンプ室内の液体水素により冷却され、循環経路内を循環されることにより、循環経路内の雰囲気は熱的および圧力的に平衡状態となる。
【0153】
本発明の第16の実施態様は、第7の実施態様に記載のポンプシステムであって、前記モータ室に導入された前記水素ガスをパージするために用いられるパージガス(例えば、ヘリウムガスHe(G))が貯留されるパージガスタンク(例えば、第2貯留タンクT2)と、前記ガス経路と、に接続されるパージガス経路(例えば、パージガス経路L2)と、前記モータ室に導入されるガスを前記パージガスと前記水素ガスとの間で切り替える切替部(例えば、第1弁V1、第2弁V2)と、を有してなる。
この構成によれば、ポンプ装置のメンテナンスなどの場面では、可燃性ガスである水素ガスが外部環境へ漏洩することなく、安全にポンプ装置の取外しおよび分解が可能である。
【0154】
本発明の第17の実施態様は、液体水素(例えば、液体水素)と、前記液体水素が気化した水素ガス(例えば、水素ガス)と、が貯留される貯留タンク(例えば、第1貯留タンクT1)に接続され、前記液体水素を送液するポンプシステム(例えば、ポンプシステム1,1A,1B,1C,1D,1E,1F)の運転方法であって、前記ポンプシステムは、前記液体水素を吸込み、吐出するポンプ装置(例えば、ポンプ装置2,2A)と、前記貯留タンクのうち、前記水素ガスが貯留される気相部(例えば、気相部T1G)に接続されるガス経路(例えば。ガス経路L1)と、を備え、前記ポンプ装置は、回転軸(例えば、回転軸31)と、前記回転軸を回転させるモータ(例えば、モータM)と、前記回転軸の軸方向において、前記回転軸の一端部(例えば、前端部31a)に取り付けられるインペラ(例えば、インペラ41)と、前記モータが収容されるモータ室(例えば、モータ室36)と、前記インペラが収容されるポンプ室(例えば、ポンプ室43)と、を有する筐体(例えば、筐体30,40)と、前記回転軸と前記筐体とに取り付けられ、前記ポンプ室に対して前記モータ室をシールするメカニカルシール(例えば、メカニカルシール42)と、を備え、前記モータは、前記回転軸に取り付けられるロータ(例えば、ロータ34)と、前記回転軸の径方向において前記ロータに直接対向し、前記ロータを回転させるステータ(例えば、ステータ35)と、を備え、前記ポンプ装置が送液可能となるまでの準備を行う事前準備ステップと、前記ポンプ室から前記液体水素を吐出するステップと、を含み、前記事前準備ステップは、前記ポンプ室に前記液体水素を導入するステップと、前記ガス経路を介して前記モータ室に前記水素ガスを導入するステップと、を含む。
この構成によれば、メカニカルシールを備えるポンプ装置において、水素の無漏洩化が実現できると共に、低速回転から高速回転までの液体水素の安定した送液が可能となる。
【符号の説明】
【0155】
1 ポンプシステム(第1実施形態)
1A ポンプシステム(第1実施形態の第1変形例)
1B ポンプシステム(第1実施形態の第2変形例)
1C ポンプシステム(第2実施形態)
1D ポンプシステム(第2実施形態の第1変形例)
1E ポンプシステム(第2実施形態の第2変形例)
1F ポンプシステム(第2実施形態の第3変形例)
2 ポンプ装置(第1実施形態)
2A ポンプ装置(第2実施形態)
3 モータ部
30 筐体
30a ガス導入口
30b ガス導出口
30c 隔壁
30d 通気孔
30e 外壁
30f 案内流路
31 回転軸
31a 前端部(一端部)
31b 後端部(他端部)
34 ロータ
35 ステータ
36 モータ室
36a 第1モータ室
36b 第2モータ室
4 ポンプ部
40 筐体
40a 外壁
40b 案内流路
41 インペラ
42 メカニカルシール
43 ポンプ室
HE 熱交換器
L1 ガス経路
L11 管体部
L12 第1管体部(第1ガス経路)
L13 第2管体部(第2ガス経路)
L14 第3管体部(第3ガス経路)
L2 パージガス経路
L3 吸込流路
L4 吐出流路
T1 第1貯留タンク(貯留タンク)
T1G 気相部
T2 第2貯留タンク(パージガスタンク)
T3 バッファタンク(バッファタンク、熱交換器)
V1 第1弁(開閉弁、切替部)
V3 第3弁(切替部)
【要約】
【課題】液体水素の外部環境への漏洩が無く、ロータが液封されているポンプよりも高速回転に適したポンプ装置、ポンプシステムおよびポンプシステムの運転方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るポンプ装置2,2Aは、液体水素と液体水素が気化した水素ガスとが貯留される貯留タンクT1に接続され液体水素を送液する。ポンプ装置は、回転軸31と、回転軸を回転させるモータMと、回転軸の前端部31aに取り付けられるインペラ41と、モータが収容されるモータ室36とインペラが収容されるポンプ室43とを有する筐体30,40と、回転軸と筐体とに取り付けられポンプ室に対してモータ室をシールするメカニカルシール42と、を有してなる。モータは、回転軸に取り付けられるロータ34と、回転軸の径方向においてロータに直接対向し、ロータを回転させるステータ35と、を備える。モータ室には、水素ガスが導入される。
【選択図】
図2