(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】蓄電素子の充電状態推定値の補正方法、蓄電素子の管理装置、及び、蓄電装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/3828 20190101AFI20230216BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230216BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230216BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20230216BHJP
B60R 16/04 20060101ALI20230216BHJP
G01R 31/374 20190101ALI20230216BHJP
【FI】
G01R31/3828
H02J7/00 M
H01M10/48 301
G01R31/387
B60R16/04 W
H01M10/48 P
G01R31/374
(21)【出願番号】P 2019154494
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成本 悟
(72)【発明者】
【氏名】白石 剛之
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-7564(JP,A)
【文献】特開2013-101072(JP,A)
【文献】特開2017-225225(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0120383(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0035743(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
B60R 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流積算法によって推定された蓄電素子の充電状態推定値の補正方法であって、
前記蓄電素子
を定電圧充電
する充電ステップと、
前記蓄電素子の充電が開始されてから充電電流の電流値が所定の閾値に低下するまでの期間に充電された電気量に基づいて前記充電状態推定値の補正値を決定する決定ステップと、
前記決定ステップで決定した補正値に基づいて前記充電状態推定値を補正する補正ステップと、
を含む、補正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の補正方法であって、
前記蓄電素子は、充電状態の変化量に対する開放電圧の変化量が小さいプラトー領域を有する、補正方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の補正方法であって、
前記蓄電素子の充電が開始されると温度センサによって所定の時間間隔で前記蓄電素子の温度を計測し、計測した温度に応じて前記閾値を更新する更新ステップを含む、補正方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の補正方法であって、
前記決定ステップにおいて、前記蓄電素子の温度と前記電気量とに基づいて前記補正値を決定する、補正方法。
【請求項5】
請求項4に記載の補正方法であって、
前記決定ステップにおいて、前記蓄電素子の温度と前記電気量との組み合わせと固有値[Ah]とが対応付けられている固有値情報から前記蓄電素子の温度と前記電気量との組み合わせに対応する前記固有値を取得し、以下の式1から前記補正値を決定する、補正方法。
補正値[%]=(蓄電素子の実容量[Ah]-固有値[Ah])/蓄電素子の実容量[Ah]×100 ・・・ 式1
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の補正方法であって、
前記蓄電素子は車両のエンジンを始動させるエンジン始動用の蓄電素子であり、
当該補正方法は、前記決定ステップにおいて、最後に前記エンジンが停止されてから前記エンジンが始動されるまでの時間が所定時間以下であった場合は、前回前記エンジンが始動されて前記蓄電素子の充電が開始されてから最後に前記エンジンが停止されるまでの期間に充電された電気量と、今回前記エンジンが始動されて前記蓄電素子の充電が開始されてから充電電流の電流値が前記閾値に低下するまでの期間に充電された電気量との合計値に基づいて前記充電状態推定値の補正値を決定する、補正方法。
【請求項7】
定電圧充電される蓄電素子の管理装置であって、
前記蓄電素子の充放電電流を計測する電流センサと、
管理部と、
を備え、
前記管理部は、
前記電流センサによって前記蓄電素子の充放電電流を計測し、電流積算法によって前記蓄電素子の充電状態を推定する推定処理と、
前記蓄電素子の充電が開始されてから充電電流の電流値が所定の閾値に低下するまでの期間に充電された電気量に基づいて、前記推定処理で推定した充電状態推定値の補正値を決定する決定処理と、
前記決定処理で決定した補正値に基づいて前記充電状態推定値を補正する補正処理と、を実行する、管理装置。
【請求項8】
蓄電素子と、
請求項7に記載の管理装置と、
を備える蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、蓄電素子の充電状態推定値の補正方法、蓄電素子の管理装置、及び、蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの蓄電素子の充電状態(SOC:State Of Charge)を推定する方法として電流積算法が知られている。電流積算法は、蓄電素子の充放電電流の電流値を電流センサによって所定の時間間隔で計測し、計測した電流値を初期値に加減することによってSOC[%]を推定する方法である。
【0003】
電流積算法は時間の経過に伴って誤差(電流センサの計測誤差、蓄電素子を管理する管理装置の消費電流の個体差に起因する誤差、蓄電素子の自己放電の個体差に起因する誤差など)が累積するという課題がある。このため、従来、蓄電素子を満充電し、満充電が完了した時点でSOCを所定の補正値に補正する、所謂「満充電リセット」が行われている。
【0004】
満充電が完了したか否かを判断する方法としては、例えば特許文献1に記載されている方法が知られている。特許文献1に記載の方法では、充電装置から電流値Iccの充電電流Icを供給させることにより定電流充電を実行し、組電池の端子電圧Vtが予め設定された終止電圧Vfに達すると、終止電圧Vfを印加して組電池を充電する定電圧充電に切り替える。特許文献1に記載の方法では、組電池に流れる充電電流Icが充電終止電流値Ia以下になると、組電池が満充電になったものとして充電を終了する。
【0005】
充電電流の電流特性は温度によって異なる。このため、従来、満充電が完了したか否かを判断する閾値を温度に応じて変更することも行われている(例えば、特許文献2参照)。具体的には、特許文献2には、二次電池の温度を測定し、その温度に基づいて、充電を停止する電流値である満充電検出電流値を変更することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-277136号公報(段落0041)
【文献】特開2002-58171号公報(段落0020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の満充電リセットは、SOCの推定値を精度よく補正する上で改善の余地があった。
本明細書では、SOCの推定値を精度よく補正できる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電流積算法によって推定された蓄電素子の充電状態推定値の補正方法は、前記蓄電素子を定電圧充電する充電ステップと、前記蓄電素子の充電が開始されてから充電電流の電流値が所定の閾値に低下するまでの期間に充電された電気量に基づいて前記充電状態推定値の補正値を決定する決定ステップと、前記決定ステップで決定した補正値に基づいて前記充電状態推定値を補正する補正ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、SOCの推定値(充電状態推定値)を精度よく補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】SOCが80%の状態で充電を開始した場合の電流値及び電圧値、並びに、SOCが90%の状態で充電を開始した場合の電流値及び電圧値のグラフ
【
図3】プラトー領域を有する蓄電素子のSOCとOCVとの関係を示すグラフ
【
図5】実施形態1に係る蓄電装置、及び、その蓄電装置が搭載されている自動車の模式図
【
図8】
図6の本体内に蓄電素子を収容した状態を示す斜視図
【
図9】
図8の蓄電素子にバスバーを装着した状態を示す斜視図
【
図11】SOCが50%の状態で充電を開始した場合の電流値及び電圧値のグラフ
【
図13】実施形態3に係る電流値の積算を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本実施形態の概要)
(1)電流積算法によって推定された蓄電素子の充電状態推定値の補正方法であって、前記蓄電素子を定電圧充電する充電ステップと、前記蓄電素子の充電が開始されてから充電電流の電流値が所定の閾値に低下するまでの期間に充電された電気量に基づいて前記充電状態推定値の補正値を決定する決定ステップと、前記決定ステップで決定した補正値に基づいて前記充電状態推定値を補正する補正ステップと、を含む、補正方法。
【0012】
図1を参照して、蓄電素子の充電について説明する。
図1において実線101は電流値、一点鎖線102は電圧値を示している。
図1に示す例では電圧値が3.50V(所定の電圧値の一例)に達するまでは一定の電流値(Constant Current)で定電流充電(CC充電)され、電圧値が3.50Vに達すると一定の電圧値(Constant Voltage)で定電圧充電(CV充電)される場合を示している。定電圧充電に切り替わると充電電流の電流値が徐々に減少し、電流値が所定の閾値I_thrまで低下すると充電が終了する。便宜上、以降の説明では電流値が所定の閾値I_thrまで低下した状態を満充電という。満充電は必ずしもSOCが100%であることを意味しない。
【0013】
上記の補正方法はSOCと充電電流との関係を表す電流特性を利用したものである。例えば
図1に示す電流特性の場合、蓄電素子が満充電されたとき(電流値が閾値I_thrまで低下したとき)のSOCが凡そ99.2%である。このため、蓄電素子が満充電されたときのSOCの推定値(充電状態推定値)を99.2%(補正値に相当)に補正すれば、電流積算法によって累積した誤差を排除できる。
【0014】
上述した電流特性は蓄電素子の温度によって異なることが知られている。本願発明者は、温度以外にも充電を開始したときのSOCによっても電流特性が異なることを見出した。具体的には、
図2に示すように、本願発明者はSOCが80%の状態で充電を開始する実験と、SOCが90%の状態で充電を開始する実験とを行った。
図2において一点鎖線103は80%の状態で充電を開始したときの電圧値の変化を示しており、点線104は電流値の変化を示している。一点鎖線105は90%の状態で充電を開始したときの電圧値の変化を示しており、実線106は電流値の変化を示している。
図2から判るように、この実験では充電を開始したときのSOCが低いほど早く定電圧充電に移行するという結果になった。
【0015】
図2から判るように、早い時点で定電圧充電に移行すると、電流値が閾値I_thrまで低下する時点も早くなる。このため、SOCが低い状態で充電を開始した場合も高い状態で充電を開始した場合も満充電に達したときに同じ補正値でSOCを補正すると、充電を開始したときのSOCによっては補正の精度が低下する。
本願発明者は、鋭意検討の結果、蓄電素子の充電が開始されてから満充電されるまでの期間に充電された電気量と満充電が完了したときのSOCとに相関関係があるという知見を得た。
上記の補正方法によると、蓄電素子の充電が開始されたときから満充電されるまでの期間に充電された電気量に基づいて補正値を決定する。このため、充電を開始したときのSOCによらず、SOCの推定値を精度よく補正できる。
【0016】
(2)前記蓄電素子は、充電状態の変化量に対する開放電圧の変化量が小さいプラトー領域を有してもよい。
【0017】
図3を参照して、プラトー領域について説明する。プラトー領域とは、蓄電素子の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)とSOCとの相関関係を表すSOC-OCVカーブにおいてSOCの変化量に対するOCVの変化量が小さい領域のことをいう。具体的には例えば、SOCの変化量に対するOCVの変化量が2[mV/%]以下の領域をプラトー領域という。プラトー領域を有する蓄電素子としては例えばLFP/Gr系のリチウムイオン二次電池が知られている。プラトー領域を有する蓄電素子の場合、満充電リセットはプラトー領域よりもSOCが高い領域で行われる。
【0018】
前述したように、充電を開始したときのSOCが低いほど早く定電圧充電に移行する。プラトー領域を有する蓄電素子の場合、その理由は次のように推察される。例えばLFP系(鉄系)リチウムイオン二次電池ではプラトー領域が広く、高SOC(例えば90%)になっても直ぐには電圧が上昇しない。ただし、高SOCになるほど充電電流が入りづらい。低SOC(例えば50%)から充電を開始したときには定電圧充電に切り替わるような高SOC(例えば90%)から充電を開始すると、電池の電圧がまだプラトー領域内で低い値であり、且つ、充電電流が電池に入りづらいため、定電圧充電への切り替え電圧に到達するまでに時間がかかる。結果として、充電を開始したときのSOCが低いほど早く定電圧充電に移行する。
【0019】
蓄電素子のSOCを推定する方法としては、電流積算法の他に、蓄電素子のOCVを計測し、計測したOCVに対応するSOCをSOC-OCVカーブから特定する方法が知られている。プラトー領域ではOCVからSOCを精度よく特定することが難しいため、一般にプラトー領域を有する蓄電素子の場合は電流積算法によってSOCを推定している。しかしながら、前述したように電流積算法は誤差が累積するという課題がある。このため、プラトー領域を有する蓄電素子の場合はSOCの推定値を精度よく補正する方法がより求められている。
【0020】
上記の補正方法によると、蓄電素子の充電が開始されたときから満充電されるまでの期間に充電された電気量に基づいて補正値を決定するので、SOCの推定値を精度よく補正できる。このため、プラトー領域を有する蓄電素子の場合に特に有用である。
【0021】
(3)前記蓄電素子の充電が開始されると温度センサによって所定の時間間隔で前記蓄電素子の温度を計測し、計測した温度に応じて前記閾値を更新する更新ステップを含んでもよい。
【0022】
図4において実線107は蓄電素子の温度が25℃のとき(常温時)の電流特性を示しており、一点鎖線108は蓄電素子の温度が-25℃のとき(低温時)の電流特性を示している。
図4に示すように、電流特性は蓄電素子の温度によって異なるため、前述した閾値も温度に応じて設定される。低温時は蓄電素子の内部抵抗が高くなるため、例えば蓄電素子がリチウムイオン二次電池である場合、低SOCから充電する場合であっても定電流充電時に負極へのLi電析を防止するために充電電流を小さくしなければならず、常温時に比べて定電圧充電中の電流特性の傾きが小さくなる。傾きが小さいと電流値が閾値まで低下したか否かを精度よく判断することが難しい。このため、従来は低温時の補正の精度に課題があった。
【0023】
蓄電素子は充電が開始されると温度が徐々に高くなる。電流特性は蓄電素子の温度が高いほど傾きが大きくなるので、蓄電素子の温度が変化した場合は変化後の温度に応じて閾値を更新すると、蓄電素子の温度が高くなるにつれて、電流値が閾値まで低下したか否かの判断がし易くなる。このため、充電を開始した時点の温度に応じた閾値を蓄電素子の温度が変化してもそのまま用いる場合に比べ、低温時の補正の精度が向上する。
【0024】
(4)前記決定ステップにおいて、前記蓄電素子の温度と前記電気量とに基づいて前記補正値を決定してもよい。
【0025】
上記の補正方法によると、温度と充電された電気量とに基づいて補正値を決定するので、充電された電気量だけから補正値を決定する場合に比べてSOCの推定値を精度よく補正できる。
【0026】
(5)前記決定ステップにおいて、前記蓄電素子の温度と前記電気量との組み合わせと固有値[Ah]とが対応付けられている固有値情報から前記蓄電素子の温度と前記電気量との組み合わせに対応する前記固有値を取得し、以下の式1から前記補正値を決定してもよい。
補正値[%]=(蓄電素子の実容量[Ah]-固有値[Ah])/蓄電素子の実容量[Ah]×100 ・・・ 式1
【0027】
蓄電素子は使用に伴って劣化し、充電可能な実容量(所謂「満充電容量」)が低下する。前述した電気量が同じであっても実容量が異なると適切な補正値が異なる。
上記の補正方法によると、予め実験によって蓄電素子の温度と充電された電気量との組み合わせに対応する固有値を決定して固有値情報を作成しておき、式1によって補正値を決定することにより、蓄電素子の劣化に応じて補正値を決定できる。このため、蓄電素子が劣化しても補正値を適切に決定できる。
【0028】
(6)前記蓄電素子は車両のエンジンを始動させるエンジン始動用の蓄電素子であり、当該補正方法は、前記決定ステップにおいて、最後に前記エンジンが停止されてから前記エンジンが始動されるまでの時間が所定時間以下であった場合は、前回前記エンジンが始動されて前記蓄電素子の充電が開始されてから最後に前記エンジンが停止されるまでの期間に充電された電気量と、今回前記エンジンが始動されて前記蓄電素子の充電が開始されてから充電電流の電流値が前記閾値に低下するまでの期間に充電された電気量との合計値に基づいて前記充電状態推定値の補正値を決定してもよい。
【0029】
蓄電素子は電流が流れると分極によって内部抵抗が変化する。分極の解消にはある程度の時間を要するので、エンジンが停止されてから始動されるまでの時間が所定時間以下である場合は分極が解消されていない可能性がある。分極が解消されている場合と解消されていない場合とでは充電電流の電流特性が異なるので、分極が解消されていない場合は分極の影響を考慮しないと補正の精度が低下する可能性がある。
上記の補正方法によると、最後にエンジンが停止されてからエンジンが始動されるまでの時間が所定時間以下であった場合は分極の影響を考慮して補正値を決定できる。このため、分極の影響によって補正の精度が低下することを抑制できる。
【0030】
(7)定電圧充電される蓄電素子の管理装置であって、前記蓄電素子の充放電電流を計測する電流センサと、管理部と、を備え、前記管理部は、前記電流センサによって前記蓄電素子の充放電電流を計測し、電流積算法によって前記蓄電素子の充電状態を推定する推定処理と、前記蓄電素子の充電が開始されてから充電電流の電流値が所定の閾値に低下するまでの期間に充電された電気量に基づいて、前記推定処理で推定した充電状態推定値の補正値を決定する決定処理と、前記決定処理で決定した補正値に基づいて前記充電状態推定値を補正する補正処理と、を実行する、管理装置。
【0031】
上記の管理装置によると、充電を開始したときのSOCによらず、SOCの推定値を精度よく補正できる。
【0032】
(8)蓄電素子と、請求項7に記載の管理装置と、を備える蓄電装置。
【0033】
上記の蓄電装置によると、充電を開始したときのSOCによらず、SOCの推定値を精度よく補正できる。
【0034】
本明細書によって開示される発明は、装置、方法、これらの装置または方法の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の種々の態様で実現できる。
【0035】
<実施形態1>
実施形態1を
図5ないし
図12によって説明する。以降の説明では同一の構成部材には一部を除いて図面の符号を省略している場合がある。
【0036】
図5を参照して、実施形態1に係るバッテリ1(蓄電装置の一例)について説明する。
図5に示す自動車2(車両の一例)はエンジン自動車であり、エンジンを始動させるスタータを備えている。バッテリ1は自動車2に搭載されてスタータに電力を供給するエンジン始動用のバッテリである。バッテリ1はエンジンが始動すると自動車2のオルタネータによって充電される。
図5ではバッテリ1がエンジンルーム2Aに収容されている場合を示しているが、バッテリ1は居室の床下やトランクに収容されてもよい。
【0037】
(1)バッテリの構成
図6に示すように、バッテリ1は外装体10と、外装体10の内部に収容される複数の電池セル12(蓄電素子の一例)とを備える。外装体10は合成樹脂材料からなる本体13と蓋体14とで構成されている。本体13は有底筒状であり、平面視矩形状の底面部15とその4辺から立ち上がって角筒状となる4つの側面部16とで構成される。4つの側面部16によって上端部分に上方開口部17が形成されている。
【0038】
蓋体14は平面視矩形状であり、その4辺から下方に向かって枠体18が延びている。蓋体14は本体13の上方開口部17を閉鎖する。蓋体14の上面には平面視略T字形の突出部19が形成されている。蓋体14の上面には突出部19が形成されていない2箇所のうち一方の隅部に正極外部端子20が固定され、他方の隅部に負極外部端子21が固定されている。
【0039】
電池セル12は繰り返し充電可能な二次電池であり、具体的には例えばリチウムイオン二次電池である。より具体的には、電池セル12はLFP系やGr系のリチウムイオン二次電池であり、前述したプラトー領域を有している。
図7A及び
図7Bに示すように、電池セル12は直方体形状のケース22内に電極体23を非水電解質と共に収容したものである。ケース22はケース本体24と、その上方の開口部を閉鎖するカバー25とで構成されている。
【0040】
電極体23は、詳細については図示しないが、銅箔からなる基材に活物質を塗布した負極要素と、アルミニウム箔からなる基材に活物質を塗布した正極要素との間に多孔性の樹脂フィルムからなるセパレータを配置したものである。これらはいずれも帯状であり、セパレータに対して負極要素と正極要素とを幅方向の反対側にそれぞれ位置をずらした状態で、ケース本体24に収容可能となるように扁平状に巻回されている。
【0041】
正極要素には正極集電体26を介して正極端子27が接続されている。負極要素には負極集電体28を介して負極端子29が接続されている。正極集電体26及び負極集電体28は平板状の台座部30と、台座部30から延びる脚部31とを有している。台座部30には貫通孔が形成されている。脚部31は正極要素又は負極要素に接続されている。正極端子27及び負極端子29は、端子本体部32と、その下面中心部分から下方に突出する軸部33とを有している。そのうち正極端子27の端子本体部32と軸部33とはアルミニウム(単一材料)によって一体成形されている。負極端子29においては、端子本体部32がアルミニウム製であり、軸部33が銅製であり、これらを組み付けたものである。正極端子27及び負極端子29の端子本体部32はカバー25の両端に絶縁材料からなるガスケット34を介して配置され、このガスケット34から外方へ露出されている。
【0042】
図8に示すように、電池セル12は複数個(例えば12個)が幅方向に並設された状態で本体13内に収容されている。ここでは本体13の一端側から他端側(矢印Y1からY2方向)に向かって3つの電池セル12を1組として、同一組では隣り合う電池セル12の端子極性が同じになり、隣り合う組同士では隣り合う電池セル12の端子極性が逆になるように配置されている。最も矢印Y1側に位置する3つの電池セル12(第1組)では矢印X1側が負極、矢印X2側が正極となっている。第1組に隣接する3つの電池セル12(第2組)では矢印X1側が正極、矢印X2側が負極となっている。さらに第2組に隣接する第3組では第1組と同じ配置となっており、第3組に隣接する第4組では第2組と同じ配置となっている。
【0043】
図9に示すように、正極端子27及び負極端子29には導電部材としての端子用バスバー36~40が溶接により接続されている。第1組の矢印X2側では正極端子27群が第1バスバー36によって接続されている。第1組と第2組の間では矢印X1側で第1組の負極端子29群と第2組の正極端子27群とが第2バスバー37によって接続されている。第2組と第3組の間では矢印X2側で第2組の負極端子29群と第3組の正極端子27群とが第3バスバー38によって接続されている。第3組と第4組の間では、矢印X1側で第3組の負極端子29群と第4組の正極端子27群とが第4バスバー39によって接続されている。第4組の矢印X2側では、負極端子29群が第5バスバー40によって接続されている。
【0044】
図6を併せて参照すると、電気の流れの一端に位置する第1バスバー36は第1の電子機器42A(例えばヒューズ)、第2の電子機器42B(例えばリレー)、バスバー43及びバスバーターミナル(図示せず)を介して正極外部端子20に接続されている。電気の流れの他端に位置する第5バスバー40はバスバー44A,44B及び負極バスバーターミナル(図示せず)を介して負極外部端子21に接続されている。これによりそれぞれの電池セル12は正極外部端子20及び負極外部端子21を介して充電と放電とが可能になっている。電子機器42A,42Bと電気部品接続用バスバー43、44A及び44Bとは、積層配置した複数の電池セル12の上部に配置された回路基板ユニット41に取り付けられている。バスバーターミナルは、蓋体14に配置されている。
【0045】
(2)蓄電装置の電気的構成
図10に示すように、バッテリ1は12個の電池セル12(
図10では3つの電池セル12を一つの電池記号で示している)と、それらの電池セル12を管理するBMS(Battery Management System)50とを備えている。BMS50は管理装置の一例である。
【0046】
BMS50は電流センサ51、電圧センサ52、1以上の温度センサ53、及び、管理部55を備えている。
電流センサ51は電池セル12と直列に接続されている。電流センサ51は電池セル12の充放電電流を計測して管理部55に出力する。電圧センサ52は各電池セル12に並列に接続されている。電圧センサ52は各電池セル12の端子電圧を計測して管理部55に出力する。1以上の温度センサ53はそれぞれ互いに異なる電池セル12に設けられており、電池セル12の温度を計測して管理部55に出力する。
【0047】
管理部55はCPU55B、RAM55Cなどが1チップ化されたマイクロコンピュータ55A(所謂マイコン)、ROM55D、通信部55Eなどを備えている。これらは
図6に示す回路基板ユニット41に実装されている。ROM55Dには管理プログラムや各種のデータが記憶されている。管理部55はROM55Dに記憶されている管理プログラムを実行することによって電池セル12を管理する。通信部55Eはマイクロコンピュータ55Aが自動車2側のシステム(例えばECU:Engine Control Unit)と通信するためのものである。
【0048】
(3)管理部によって実行される処理
管理部55によって実行されるSOC推定処理(推定処理の一例)及び満充電リセット処理について説明する。
【0049】
(3-1)SOC推定処理
SOC推定処理は、電流積算法によって電池セル12の充電状態(SOC:State Of Charge)を推定する処理である。電流積算法は、電流センサ51によって電池セル12の充放電電流を所定の時間間隔で計測することで電池セル12に出入りする電力量を計測し、これを初期容量から加減することでSOCを推定する方法である。
【0050】
(3-2)満充電リセット処理
図11を参照して、満充電リセット処理の概略について説明する。
図11に示す例ではSOCが50%の状態で自動車2のエンジンが始動された場合を示している。エンジンが始動されると自動車2のオルタネータによって電池セル12の充電が開始される。
【0051】
図11において一点鎖線109は電圧値、実線110は電流値の変化を示している。電池セル12は、電池セル12の電圧値が所定の電圧値(
図11に示す例では3.50V)に達するまでは定電流充電(CC充電)され、所定の電圧値に達すると定電圧充電(CV充電)される(充電ステップの一例)。
図11に示す例ではSOCが凡そ87%の時点で電圧値が3.50Vに達し、定電圧充電に切り替わっている。
【0052】
管理部55は、電池セル12の充電が開始されると、電流センサ51によって所定の時間間隔で計測される電流値を積算し、電流値が閾値I_thrまで低下すると電池セル12が満充電されたとして積算を終了する。積算された電流値は、電池セル12の充電が開始されてから電池セル12が満充電されるまでの期間に充電された電気量の一例である。
【0053】
前述したように充電電流の電流特性は温度によって異なる。管理部55は電池セル12の充電中に温度センサ53によって電池セル12の温度を計測し、電池セル12の温度が変化すると閾値I_thrを変化後の温度に応じて更新する。
管理部55は、電池セル12が満充電されると、満充電された時点の電池セル12の温度と前述した電気量とに基づいてSOCの推定値(充電状態推定値の一例)の補正値を決定し、決定した補正値でSOCの推定値を補正する。
【0054】
図12を参照して、満充電リセット処理についてより具体的に説明する。満充電リセット処理は、電流積算処理60、閾値設定・更新処理61(更新ステップの一例)、補正値決定処理62(決定ステップ及び決定処理の一例)、及び、補正処理63(補正ステップ及び補正処理の一例)を含む。
【0055】
電流積算処理60は電流値を積算することによって充電された電気量を求める処理である。前述したように、管理部55は自動車2のエンジンが始動されると電流値の積算を開始し、電流値が閾値I_thrまで低下すると積算を終了する。エンジンが始動されたか否かは適宜の方法で判断できる。例えば自動車2のECU(Electronic Control Unit)から通信部55Eを介してエンジン始動信号(イグニションオン信号など)を受信するとエンジンが始動されたと判断してもよい。
【0056】
閾値設定・更新処理61は、電池セル12の温度に応じて閾値I_thrを設定及び更新する処理である。具体的には、管理部55は以下に示す補正値テーブルを参照して閾値I_thrを設定及び更新する。補正値テーブルは本願発明者が実験を行って作成したものである。
【表1】
【0057】
補正値テーブルの第1列は電池セル12の温度である。第2列は温度に対応する閾値である。低温時(例えば―25℃)は常温時(例えば25℃)に比べて電池セル12を充電する電流値が小さくなるため、電池セル12の温度が低いほど小さい閾値が対応付けられている。第3列以降についての説明は後述する。上述した補正値テーブルは一例である。補正値テーブルの各種の数値は上述した値に限定されない。
【0058】
管理部55は、電池セル12の充電が開始されると、その時の電池セル12の温度に対応する閾値を補正値テーブルから取得し、閾値I_thrとして設定する。管理部55は、電池セル12の充電中に電池セル12の温度が変化すると、変化後の温度に対応する閾値を補正値テーブルから取得し、取得した閾値によって閾値I_thrを更新する。
【0059】
補正値決定処理62は、電池セル12の温度と電流積算処理60によって求めた電気量とに基づいてSOCの推定値の補正値を決定する処理である。前述した補正値テーブルの第3列以降はSOCの推定値の補正値である。ここでいう補正値とは現在のSOCの推定値に置き換えられる推定値のことをいい、補正とは現在のSOCの推定値を補正値で上書きすることをいう。補正値テーブルにおいてnは特定の電気量[Ah]を表している。電池セル12が満充電された時点(電流値が閾値I_thrまで低下した時点)のSOCは当該時点の電池セル12の温度及び充電された電気量によって異なる。このため、補正値テーブルには温度毎且つ電気量毎に補正値が対応付けられている。
【0060】
管理部55は、電池セル12が満充電されると、電流積算処理60によって求めた電気量と、電池セル12が満充電された時点の電池セル12の温度とに対応する補正値を補正値テーブルから取得することによって補正値を決定する。例えば電池セル12が満充電された時点の電池セル12の温度が25℃であり、充電された電気量がn+1[Ah]である場合、上述した補正値テーブルでは「99.6%」が補正値として決定される。
【0061】
補正処理63は、SOC推定処理によって推定されている現在のSOCの推定値を、補正値決定処理62で決定した補正値で補正する処理である。具体的には、管理部55は現在のSOCの推定値を補正値決定処理62で決定した補正値で上書きする。
【0062】
(4)実施形態の効果
実施形態1に係る補正方法によると、電池セル12の充電が開始されたときから満充電されるまでの期間に充電された電気量に基づいて補正値を決定する。このため、充電を開始したときのSOCによらず、SOCの推定値を精度よく補正できる。
【0063】
実施形態1に係る補正方法によると、SOCの推定値を精度よく補正できるので、プラトー領域を有する電池セル12(OCVからSOCを精度よく特定することが難しい電池セル12)の場合に特に有用である。
【0064】
実施形態1に係る補正方法によると、電池セル12の温度が変化した場合は変化後の温度に応じて閾値I_thrを更新する。このようにすると、電池セル12の温度が高くなるにつれて、電流値が閾値まで低下したか否かの判断がし易くなる。このため、充電を開始した時点の温度に応じた閾値をそのまま用いる場合に比べ、低温時の補正の精度が向上する。
【0065】
実施形態1に係る補正方法によると、電池セル12の温度と充電された電気量とに基づいて補正値を決定するので、充電された電気量だけから補正値を決定する場合に比べてSOCの推定値を精度よく補正できる。
【0066】
実施形態1に係る管理装置によると、充電を開始したときのSOCによらず、SOCの推定値を精度よく補正できる。
【0067】
実施形態1に係るバッテリ1によると、SOCの推定値を精度よく補正できる。
【0068】
<実施形態2>
実施形態2は実施形態1の変形例である。電池セル12は使用に伴って劣化する。劣化とは充電可能な実容量が低下することをいう。充電された電気量が同じであっても実容量が異なると適切な補正値が異なる。このため、実施形態2では電池セル12の温度及び充電された電気量に加えて電池セル12の劣化も考慮して補正値を決定する。具体的には、実施形態2に係る管理部55は以下の式1によって補正値を決定する。
補正値[%]=(電池セル12の実容量[Ah]-固有値[Ah])/電池セル12の実容量[Ah]×100 ・・・ 式1
【0069】
式1において電池セル12の実容量は電池セル12の現在の実容量である。電池セル12の実容量は適宜の方法で推定できる。例えば、所定時間間隔で(例えば数分おきに)温度、充放電電気量を計測し、それら計測値と管理部が保持している実容量とを用いて、現在の実容量を推定してもよい。代替的に、電池セル12の内部抵抗値と電池セル12の実容量とに相関関係があることを利用し、内部抵抗値から実容量を推定してもよい。あるいは、電池セル12をある電圧V1から当該電圧V1より高い電圧V2まで充電した場合に充電される電気量は電池セル12の実容量によって異なるため、電池セル12を電圧V1から電圧V2まで充電し、その間に充電された電気量から実容量を求めてもよい。
【0070】
固有値[Ah]は、電池セル12が満充電された時点(電流値が閾値I_thrまで低下した時点)における、電池セル12の現在の実容量と電池セル12に充電されている電気量との差である。言い換えると、固有値は、電池セル12が満充電された時点における、SOCが100%になるまでに充電可能な残りの電気量である。
【0071】
固有値(充電可能な残りの電気量)は、電池セル12が満充電された時点における電池セル12の温度や、充電が開始されてから電池セル12が満充電されるまでの期間に充電された電気量によって異なる。このため、管理部55は以下に示す固有値テーブル(固有値情報の一例)を参照して固有値を取得する。固有値テーブルは温度毎且つ電気量毎に固有値が対応付けられているテーブルである。固有値テーブルは本願発明者が実験を行って作成したものである。
【表2】
【0072】
固有値テーブルにおいてn及びa~fはそれぞれ特定の電気量[Ah]を表している。固有値テーブルの第1列は電池セル12の温度である。第2列以降は固有値である。例えば電池セル12が満充電された時点の電池セル12の温度が25℃であり、充電が開始されてから電池セル12が満充電されるまでの期間に充電された電気量がn+1[Ah]である場合、上述した固有値テーブルではe[Ah]が固有値として取得される。
【0073】
例えば劣化していない電池セル12の実容量が1000[Ah]であり、劣化した電池セル12の実容量が900[Ah]であり、どちらの場合も固有値として100[Ah]が取得されたとする。この場合、実容量が1000[Ah]の場合は補正値が90%(=(1000-100)/1000)になり、実容量が900[Ah]の場合は補正値が89%(=(900-100)/900)になる。このため、固有値が同じであっても電池セル12が劣化するほど補正値が小さくなる。
【0074】
実施形態2に係る補正方法によると、予め実験によって固有値テーブルを作成しておき、式1によって補正値を決定することにより、電池セル12の劣化に応じて補正値を決定できる。このため、電池セル12が劣化しても補正値を適切に決定できる。
【0075】
<実施形態3>
実施形態3を
図13によって説明する。実施形態3は実施形態1又は実施形態2の変形例である。
図13において時点T1は前回エンジンが始動された時点、時点T2は最後にエンジンが停止された時点、時点T3は今回エンジンが始動された時点、時点T4は今回エンジンが始動された後に電池セル12が満充電された時点を示している。
【0076】
実施形態3に係る電流積算処理60では、管理部55は自動車2のエンジンが始動されて電池セル12の充電が開始されてから電池セル12が満充電されるまでの期間に充電された電気量に加えて、自動車2のエンジンが始動されて電池セル12の充電が開始されてからエンジンが停止するまでの期間に充電された電気量を更に求める。エンジンが停止されたか否かは適宜の方法で判断できる。例えば自動車2のECUからエンジン停止信号(イグニションオフ信号など)を受信するとエンジンが停止されたと判断してもよい。
【0077】
実施形態3に係る補正値決定処理62では、管理部55は最後にエンジンが停止されたとき(時点T2)から今回エンジンが始動されたとき(時点T3)までの時間Tを計時し、時間Tが所定時間以下であるか否かを判断する。所定時間は分極の解消に要する時間であり、実験によって適宜に決定できる。
時間Tが所定時間より長い場合は、管理部55は実施形態1あるいは実施形態2と同様に、今回エンジンが始動されたとき(時点T3)から電池セル12が満充電されたとき(時点T4)までの期間に充電された電気量E2に基づいてSOCの推定値の補正値を決定する。
【0078】
一方、時間Tが所定時間以下であった場合は、管理部55は前回エンジンが始動されたとき(時点T1)から最後にエンジンが停止されたとき(時点T2)までに充電された電気量E1と、今回エンジンが始動されたとき(時点T3)から電池セル12が満充電されたとき(時点T4)までの期間に充電された電気量E2とを合計する。管理部55は合計値(=E1+E2)に対応する補正値を補正値テーブルから取得することによって補正値を決定する。
【0079】
すなわち、実施形態3では、時間Tが所定時間以下である場合は、前回エンジンが始動されたとき(時点T1)から、今回エンジンが始動されて電池セル12が満充電されたとき(時点T4)までエンジンが継続して運転されていたと見做して補正値が決定される。
【0080】
実施形態3に係る補正方法によると、時間Tが所定時間以下であった場合は分極の影響を考慮して補正値を決定できる。このため、分極の影響によって補正の精度が低下することを抑制できる。
【0081】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができる。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。また、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0082】
(1)上記実施形態では電池セル12の温度に応じて閾値I_thrを設定及び更新する場合を例に説明したが、電池セル12の充電が開始されたときに電池セル12の温度に応じて閾値I_thrを設定した後は、充電中に電池セル12の温度が変化しても閾値I_thrを更新しないようにしてもよい。
【0083】
(2)上記実施形態では電池セル12の温度と充電された電気量とに基づいて補正値を決定する場合を例に説明したが、温度は考慮せず、充電された電気量に基づいて補正値を決定してもよい。
【0084】
(3)上記実施形態1では補正値テーブルを用いて補正値を決定する場合を例に説明したが、温度と充電された電気量とから補正値を計算する関数を用いて補正値を決定してもよい。
【0085】
(4)上記実施形態1では補正値テーブルに電気量が1[Ah]間隔で設定されているが、間隔は適宜に選択可能である。例えば5[Ah]間隔であってもよいし、10[Ah]間隔であってもよい。その場合、間の電気量に対応する補正値は線形補間や曲線補間などによって決定してもよい。
【0086】
(5)上記実施形態2では固有値テーブルを用いて固有値を決定する場合を例に説明したが、温度と充電された電気量とから固有値を計算する関数を用いて固有値を決定してもよい。
【0087】
(6)上記実施形態2では固有値テーブルに電気量が1[Ah]間隔で設定されているが、間隔は適宜に選択可能である。例えば5[Ah]間隔であってもよいし、10[Ah]間隔であってもよい。その場合、間の電気量に対応する固有値は線形補間や曲線補間などによって決定してもよい。
【0088】
(7)上記実施形態ではプラトー領域を有する電池セル12を例に説明したが、電池セル12はプラトー領域を有していないものであってもよい。
【0089】
(8)上記実施形態ではプラトー領域を有する電池セル12としてLFP系やGr系の電池セル12を例に説明したが、プラトー領域を有する電池セル12はLFP系やGr系に限られない。
【0090】
(9)上記実施形態ではエンジン始動用の電池セル12を例に説明したが、電池セル12の用途はこれに限られない。例えば電池セル12は電気自動車やハイブリッド自動車に搭載されて補機類に電力を供給する補機用であってもよいし、電気モータで走行するフォークリフトや無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)などに搭載されて電気モータに電力を供給する移動体用であってもよい。電池セル12は無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)に用いられるものであってもよいし、携帯端末などに用いられるものであってもよい。電池セル12はピークシフトに用いられるものであってもよいし、再生可能エネルギーを蓄電するものであってもよい。
【0091】
(10)上記実施形態では充電を開始したSOCが低いほど早く定電圧充電に移行する電池セル12を例に説明したが、仮に充電を開始したSOCが高いほど早く定電圧充電に移行する電池セル12であっても、補正値テーブルや固有値テーブルを調整することによって対応可能である。
【0092】
(11)上記実施形態1では「決定ステップで決定した補正値に基づいて充電状態推定値を補正する」の例として、補正値が決定されると直ちにその補正値によってSOCの推定値を補正する場合を例に説明した。これに対し、決定ステップで補正値が決定されてからSOCの推定値が補正されるまでに多少のタイムラグがあってもよい。その場合はタイムラグの間に電池セル12が充放電されてSOCが変化する可能性がある。このため、その場合はタイムラグの間に充放電された電気量に基づいて補正値を補正した上でSOCの推定値を補正してもよい。このように、SOCの推定値を補正するタイミングは、決定ステップで補正値が決定された直後のタイミングに限定されず、多少のタイムラグがあってもよい。
【0093】
(12)上記実施形態1では電池セル12としてリチウムイオン電池を例に説明したが、電池セル12はこれに限られない。例えば電池セル12は電気化学反応を伴うキャパシタであってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 バッテリ(蓄電装置の一例)
2 自動車(車両の一例)
12 電池セル(蓄電素子の一例)
50 BMS(管理装置の一例)
51 電流センサ
53 温度センサ
55 管理部