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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ナノ構造化材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/027 20060101AFI20230216BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230216BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230216BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230216BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230216BHJP
【FI】
C01B33/027
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 B
H01M4/36 D
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020526696
(86)(22)【出願日】2018-07-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 FR2018051904
(87)【国際公開番号】W WO2019020938
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】1757194
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520030040
【氏名又は名称】エンワイアーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルチャーク オルガ
(72)【発明者】
【氏名】ピュエッシュ ローラン
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101901897(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/02
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/134
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシリコン粒子とシリコンナノワイヤーとを含む材料を製造する方法であって、少なくとも以下の工程:
(1)少なくともシリコン粒子と触媒とを反応器のチャンバーに導入する工程であって、前記シリコン粒子と前記触媒とを前記反応器に導入する前に結合させる工程と、
(2)シラン化合物又はシラン化合物の混合物から選ばれるシリコンナノワイヤーの前駆体化合物を少なくとも1種含むシリコンナノワイヤーの前駆体組成物を、前記反応器のチャンバーに導入する工程と、
(3)前記反応器のチャンバー内の酸素分子含量を低減する工程と、
(4)270℃~600℃の範囲の温度で熱処理を適用する工程と、
(5)生成物を回収する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
工程(5)の終了時に得られた生成物を洗浄する工程(6)を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理を350℃~550℃の範囲の温度で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(1)における前記シリコン粒子は酸化ケイ素の層で被覆されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(5)の後、又は、工程(6)の後に以下のサイクル:
(1’)少なくとも、工程(5)又は工程(6)で得られた生成物と触媒とを前記反応器のチャンバーに導入することと、
(2’)シリコンナノワイヤーの前駆体組成物を前記反応器に導入することと、
(3’)前記反応器のチャンバー内の酸素分子含量を低減することと、
(4’)熱処理を適用することと、
(5’)生成物を回収することと、
を少なくとも1回適用することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記サイクルの1回~10回の適用を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
シリコンナノワイヤーとシリコン粒子との最終混合物を炭素源の存在下で熱処理する追加の工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法であって、シリコンナノワイヤーの少なくとも10%が、その末端を介してシリコン粒子の表面と結合していない材を製造する、方法
【請求項9】
シリコンナノワイヤーの少なくとも25%が、その末端を介してシリコン粒子の表面と結合していない材料を製造する、請求項8に記載の方法
【請求項10】
シリコンナノワイヤーの少なくとも50%がシリコン粒子の表面と化学結合していない材料を製造する、請求項8又は9に記載の方法
【請求項11】
シリコンナノワイヤーの少なくとも50%が、厳密に5μmを超える長さを有する材料を製造する、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法
【請求項12】
シリコンナノワイヤーの平均直径に対する平均長さの比が、250~10000である材料を製造する、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法
【請求項13】
シリコン粒子の平均直径に対するシリコンナノワイヤーの平均長さの比が2以上である材料を製造する、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法
【請求項14】
少なくとも以下の工程:
a)請求項1~13のいずれか一項に記載の方法による少なくともシリコン粒子及びシリコンナノワイヤーを含む材料を調製することと、
b)工程a)で得られた材料からインクを調製することと、
c)集電体の表面の少なくとも一部に、インクを堆積させることと、
d)インクを乾燥させることと、
を含む、電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともシリコン粒子とシリコンナノワイヤーとを含む材料を製造する方法に関する。また、本発明は、この方法を実施することによって得ることのできる材料、及びエネルギー貯蔵装置におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、通常の型の場合、アルミニウム集電体を被覆する正極(カソード)と、液体電解質を通すセパレータと、銅集電体を被覆する負極(アノード)とから形成されている。正極は、通常、リチウムイオンを抽出又は挿入可能な活物質、例えば、二酸化リチウムコバルトLiCoO又はリン酸鉄リチウムLiFePOと、カーボンブラック等の電子伝導のための添加剤と、バインダーとからなる。セパレータは、通常、リチウム塩溶液、例えば、六フッ化リン酸リチウムLiPFの有機溶媒溶液である液体電解質に浸漬されており、セパレータ自身は2つの電極と接触している。また、負極は、リチウムイオンを抽出又は挿入可能で、正極の活物質とは著しく異なる電位を示す活物質、例えば、黒鉛と、バインダーとから形成される。
【0003】
現在のリチウムイオン電池の容量及び電力の増加に伴い、通常のカソード材料の代わりに酸化バナジウムV又は硫黄を使用したり、アノードの黒鉛の代わりにシリコンを使用したりと、新規な電極材料が使用されている。特に、シリコンは、黒鉛の単位重量当たりの理論容量のほぼ10倍の理論容量を示す(それぞれ3579mA・h/g及び372mA・h/g)。黒鉛系アノードの代わりにシリコン系アノードを使用することによって、現在のカソード材料を用いてセル容量を2倍にできるのではという提案が度々行われている。
【0004】
しかしながら、シリコンの使用には歯止めがかかっており、その主な要因は、シリコンの体積が充放電サイクル中に大きく変動することである。シリコンにリチウムイオンを挿入する際、体積の膨張が300%超であるという報告が度々なされている。典型的には、バルク材料の場合、これにより、アノード材料の劣化が起こり、固体電解質界面(SEI)の過度な成長、更には電極における電子導通の連続不良にもつながる。SEIが成長すると、カソード由来のリチウムイオンが消費される。これにより、サイクル中に、アノードの容量の低下が起こり、電池の貯蔵性能品質の低下にもつながる。同様に、アノードにおける電子導通の連続不良によって、活物質の一部が孤立し、これによりアノード容量及び電池の性能品質が低下する。
【0005】
この技術的問題に対応して、非特許文献1には、ナノメートル材料、とりわけ、ナノワイヤー形状のシリコンの使用が記載されている。ナノワイヤーは形状因子が高いため、リチオ化中に、その軸に垂直に体積の増加が起きる。ナノワーヤーは、ナノメートル直径、典型的には、数十ナノメートルの直径を有することによって、発生する機械的応力に耐えることができる。さらに、長さ数マイクロメートルにわたって完全性を維持することにより、充放電サイクル中、電子導通の連続が確保される。
【0006】
ナノワイヤーとは異なり、100nm超のサイズを有するシリコン粒子は広く入手でき、サイズ、重量密度、比表面積、ドーピング等の特性をリチウムイオン電池電極への工業的適用に容易に合わせることができる。しかしながら、シリコンの体積が増加するため、シリコン粒子のサイクル性能品質は、依然として限定されている。
【0007】
非特許文献2には、減圧下で熱処理することによる犠牲基材の表面でのシリコンナノワイヤーの成長について記載されている。犠牲基材の除去は行うのが難しく、工業的な方法においては追加の工程を提示する。
【0008】
特許文献1には、導電性炭素系基材の表面でのシリコンナノワイヤーの製造について記載されている。しかしながら、得られた材料(5重量%~10重量%のシリコンナノワイヤー)は、炭素系材料(カーボンブラック、黒鉛)に比べて容量が低いというように、電気化学的性質が限定されている。
【0009】
特許文献2には、コアと、コアから出発した短シリコンロッドとを有するシリコン粒子が開示されている。この材料は、マイクロメートルサイズのシリコン粒子をエッチングすることにより得られる。このエッチング技術は、フッ酸HF槽の使用に基づいており、環境的に許容できるやり方と折り合いをつけるのが難しい。得られた材料は、短ロッドがコアに化学結合した放射状の構造を有している。短ロッドの長さは、出発粒子のサイズによって限定される。
【0010】
特許文献3にも、プラズマ処理によるシリコン粒子表面でのシリコンナノワイヤーの成長について記載されている。特許文献3に記載された方法は、前駆体材料である粒子材料から出発するシリコンナノワイヤーの成長に基づいている。ナノワイヤー/粒子の比は、粒子の崩壊の恐れのあることから、一定の限度を超えることができない。この成長法によって、粒子に化学結合するナノワイヤーの生成が促進される。
【0011】
特許文献4には、シリコンナノワイヤーと、シリコンナノ粒子と、金ナノ粒子とを含む、リチウムイオン電池用の三元組成ナノ材料が記載されている。この材料は、担体と金ナノ粒子とを反応器へ導入することと、シリコンと金の二元共晶を生成することと、それに次いで、シラン型ガスを用いて共晶を400℃で処理することにより、三元材料を生成することとを含む方法によって製造される。得られた材料は、金粒子とシリコンとが溶融することにより連続的な構造を成している。
【0012】
特許文献5には、ナノ構造化シリコンに基づいたアノード材料が記載されている。この材料の製造方法は、シリコンナノ粒子の表面に金属触媒を堆積させることと、900℃~1300℃の範囲の温度で、ナノ粒子の表面からシリコン系ナノ構造を成長させることとを含む。この成長方法によると、その末端を介してナノ粒子に結合したナノワイヤーが生成される。
【0013】
非特許文献3には、極超音速プラズマ粒子堆積法によりシリコンナノ粒子で被覆されたシリコンナノワイヤーの合成が記載されている。各ナノワイヤーは、その末端に、TiSi粒子を担持している。
【0014】
非特許文献4には、プラズマトーチ法で形成したシリコンナノ粒子との複合体からシリコンナノワイヤーを抽出することが記載されている。得られた生成物は、ナノワイヤーがその末端を介してナノ粒子に結合した混合物である。この混合物は、非常に高出力で、非常に長い時間、超音波処理し、次いで、ナノ粒子とナノワイヤーとを分離可能な遠心分離工程に供する。
【0015】
特許文献6には、シリコンナノ粒子を触媒粒子で被覆することと、次いで、共晶を生成するようにこの材料を加熱することとを含む、シリコンナノワイヤーの製造方法が記載されている。溶融混合物は、シリコン源の存在下に非常に高温(900℃~1050℃)で加熱する。最終生成物はシリコンナノ粒子を含まない。
【0016】
特許文献7には、300℃~2000℃の温度で熱処理を適用することによりシリコンナノ粒子又はシリコンマイクロ粒子からナノワイヤーを成長させることを含む、シリコンナノワイヤーの製造方法が記載されている。得られた材料は、残留ナノ粒子を含まない。
【0017】
しかしながら、サイクル後のこれら材料の性能品質は、完全に満足できるものではない。
【0018】
これらの方法のいずれによっても、ナノワイヤーが化学結合の代わりに物理結合によって粒子に結合した材料は生成することができない。
【0019】
これらの方法は全て、シリコンナノワイヤーのかなりの部分が、少なくともその一端を介して、シリコン粒子の表面に結合した材料をもたらしている。
【0020】
そして、これらの方法のいずれによっても、ナノワイヤー/粒子の重量比及び/又は体積比が高い材料を得ることはできない。
【0021】
最終的に、提案された製造方法が原因で、得られたナノワイヤーの長さが制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】国際公開第2016/162540号
【文献】国際公開第2012/175998号
【文献】米国特許出願公開第2008/0261112号
【文献】中国特許出願公開第101901897号
【文献】韓国特許出願公開第20130074826号
【文献】米国特許出願公開第2010/202952号
【文献】米国特許出願公開第2016/285083号
【非特許文献】
【0023】
【文献】C. K. Chan et al., Nat. Nano., 3(1), 31-35, 2008
【文献】J.C. Chan et al., Solid-State Electron, 54(10), 1185-1191, 2010
【文献】Hafiz et al., Journal of Nanoparticle Research, Vol. 8, No. 6, 995-1002
【文献】V. Le Borgne et al., Nanotechnology, Vol. 28, No. 28, p. 285702
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
よって、シリコン粒子及びシリコンナノワイヤーに基づき、ナノワイヤー/粒子の比が高い材料を製造することのできる方法が依然として必要とされている。
【0025】
また、シリコン粒子及びシリコンナノワイヤーに基づき、ナノワイヤーのアスペクト比が高い材料を製造することのできる方法も依然として必要とされている。
【0026】
また、工業的観点から実施が簡易な製造方法を提供することも依然として必要とされている。
【0027】
最終的には、エネルギー貯蔵装置内で使用すると、向上したサイクル性を示す電極の製造において、ベース材料として使用することのできるシリコン系材料を提供することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、少なくともシリコン粒子とシリコンナノワイヤーとを含む材料を製造する方法であって、少なくとも以下の工程:
(1)少なくともシリコン粒子と触媒とを反応器のチャンバーに導入する工程と、
(2)シリコンナノワイヤーの前駆体組成物を、前記反応器のチャンバーに導入する工程と、
(3)前記反応器のチャンバー内の酸素分子含量を低減する工程と、
(4)熱処理を適用する工程と、
(5)生成物を回収する工程と、
を含む、方法に関する。
【0029】
上記熱処理は、270℃~600℃、好ましくは350℃~550℃、より好ましくは400℃~500℃の範囲の温度で行うことが好ましい。
【0030】
工程(2)において、上記シリコンナノワイヤーの前駆体組成物は、シラン化合物又はシラン化合物の混合物から選ばれるシリコンナノワイヤーの前駆体化合物を少なくとも1種含むことが好ましい。
【0031】
一実施の形態によると、本発明による方法は、工程(5)の終了時に得られた生成物を洗浄する工程(6)を更に含む。
【0032】
工程(1)における前記シリコン粒子は酸化ケイ素の層で被覆することが好ましい。
【0033】
一実施の形態によると、本発明による方法は、工程(5)の後、又は、工程(6)の後に、以下のサイクル:
(1’)少なくとも、工程(5)又は工程(6)で得られた生成物と、触媒とを前記反応器のチャンバーに導入することと、
(2’)シリコンナノワイヤーの前駆体組成物を前記反応器に導入することと、
(3’)前記反応器のチャンバー内の酸素分子含量を低減することと、
(4’)熱処理を適用することと、
(5’)生成物を回収することと、
を少なくとも1回適用することを含む。
【0034】
上記熱処理(4’)は、270℃~600℃、好ましくは350℃~550℃、より好ましくは400℃~500℃の範囲の温度で行うことが好ましい。
【0035】
工程(2’)において、上記シリコンナノワイヤーの前駆体組成物は、シラン化合物又はシラン化合物の混合物から選ばれるシリコンナノワイヤーの前駆体化合物を少なくとも1種含むことが好ましい。
【0036】
本発明による方法は、上記サイクルの1回~10回、好ましくは1回~5回、更に好ましくは1回~2回の適用を含むことが好ましい。
【0037】
代替形態によると、方法は、シリコンナノワイヤーとシリコン粒子との最終混合物を炭素源の存在下で熱処理する追加の工程を含む。
【0038】
また、本発明は、本発明による方法を実施することによって得ることのできる材料であって、シリコンナノワイヤーの少なくとも50%が、厳密に5μmを超える、好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上の長さを有する、材料に関する。
【0039】
また、本発明は、本発明による方法を実施することによって得ることのできる材料であって、シリコンナノワイヤーの平均直径に対する平均長さの比が、250~10000、好ましくは500~5000である、材料に関する。
【0040】
また、本発明は、本発明による方法を実施することによって得ることのできる材料であって、シリコンナノワイヤーの少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、更に好ましくは少なくとも50%が、その末端を介してシリコン粒子の表面と結合していない、材料に関する。
【0041】
また、本発明は、本発明による方法を実施することによって得ることのできる材料であって、シリコンナノワイヤーの少なくとも50%がシリコン粒子の表面と化学結合していない、材料に関する。
【0042】
また、本発明は、本発明による方法を実施することによって得ることのできる材料であって、シリコン粒子の平均直径に対するシリコンナノワイヤーの平均長さの比が2以上、好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、有利には20以上である、材料に関する。
【0043】
本発明の別の主題は、エネルギー貯蔵装置で使用することのできる電極であって、少なくとも1つの集電体と活物質層とを含み、前記活物質層は、少なくとも1種のバインダーと本発明による材料とを含む、電極である。
【0044】
最後に本発明は、本発明による電極を少なくとも1つ含む、エネルギー貯蔵装置に関する。
【0045】
本発明の主題は、複数のシリコン粒子上でシリコンナノワイヤーが成長することにより得られるシリコン系活物質からなる。この材料は、電極の活物質として使用すると、向上したサイクル性を示す、つまり、連続したリチオ化/脱リチオ化において高エネルギー容量を保持する。
【0046】
この材料は、複数のシリコンナノワイヤーが、基本的には粒子表面に対して接線方向に結合した、複数のシリコン粒子として提供される。さらに、ナノワイヤーは、化学的に溶接されているのではなく、1つ以上の粒子及び/又は他のナノワイヤーと物理的に接触している。これにより、ナノワイヤー/粒子集合体の操作、とりわけ、リチオ化/脱リチオ化サイクルにおける自由度が大きくなり、シリコンの体積が変化することによる材料の劣化を回避することができる。
【0047】
ナノワイヤーが存在することによる第1の結果は、ナノワイヤーを有しない粒子に対して、活物質の表面積が大幅に拡大することである。そして、ナノワイヤーはその大部分が粒子に対して接線方向にあることから、その表面に対して非常にアクセスしやすくなる。よって、活物質は、非常に拡大した表面を有し、液体電解質に対して非常に高い開口気孔率を示す。
【0048】
第2の結果は、ナノワイヤー同士又はナノワイヤーと粒子とが多重接触することにより、活物質における電子導通が連続することである。この構成により、例えば、カーボンブラック等の導電性添加剤の添加により、集電体と活物質全体との電子導通が可能となる。
【0049】
第3の結果は、連続したリチオ化/脱リチオ化において、電子導通を損なうことなく、活物質の体積が変化できることである。ナノワイヤーの体積がその軸に対して垂直に変化すると、サイクル中その長さにわたって電子導通が維持され、従来技術の方法で得られる材料に存在する強い化学結合とは異なり、ナノワイヤーと粒子との物理的接触によると、機械的応力を緩和し、膨潤に適応することができる。
【0050】
これらの3つのポイントは、サイクル性において以下の利益をもたらす。はじめの2つによって、リチウムイオンの流れ、体積の変化、及び機械的応力を活物質全体において最適に分配することができ、3つ目によって、サイクル中にこの利点を保持することができる。
【0051】
シリコン粒子は、活物質のバルク密度、比表面積、及びコストといういくつかの特性を、活物質における粒子の特性及び比率に従って、変化させることができる。これらの特性によって、とりわけ、活物質の分散性が調整され、それにより、工業的な適用が調整される。最適な導電性を有するドープ(B、P等)シリコン粒子を選択することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】シリコン粒子及び本発明による方法を実施することにより得られる材料に走査電子顕微鏡法(SEM)を行うことにより得られた写真である。図1aは、シリコン粒子のサンプルから得られた写真である。図1bは、本発明による材料Aのサンプルから得られた写真である。図1cは、本発明による材料Bのサンプルから得られた写真である。図1dは、本発明による材料Cのサンプルから得られた写真である。
図2図1dの写真を拡大したものであり、一方は単独のナノワイヤー(図2a)に焦点を当てており、他方はナノワイヤー群(図2b)に焦点を当てている。
図3図1bを拡大したものである。
図4】本発明の方法で使用することのできる反応器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
1つ以上の特性を伴う「基本的に~からなる」という表現は、発明の方法又は材料が、明示の成分又は工程に加えて、発明の性質及び特性を大幅に変化させない成分又は工程を含むことができることを意味する。
【0054】
「XとYとの間」という表現は、特に明示のない限り、限界値を含むものである。そのため、この表現は、対象の区間が、値X、値Y、及びX~Yの範囲の全ての値を含むことを意味する。
【0055】
本発明は、シリコン系ナノ構造化材料の製造方法に関する。
【0056】
「ナノ構造化材料」という用語は、本発明の意味において、凝集体状又は粒塊体状の自由粒子を含む材料であって、材料の全重量に対して少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%の粒子が、その少なくとも1つの外形寸法が1nm~100nmの範囲である、材料を意味するものと理解される。
【0057】
本発明は、より詳細には、少なくともシリコン粒子とシリコンナノワイヤーとを含む材料を製造する方法であって、少なくとも以下の工程:
(1)少なくともシリコン粒子と触媒とを反応器のチャンバーに導入する工程と、
(2)シリコンナノワイヤーの前駆体組成物を、前記反応器のチャンバーに導入する工程と、
(3)前記反応器のチャンバー内の酸素分子含量を低減する工程と、
(4)熱処理を適用する工程と、
(5)生成物を回収する工程と、
を含む、方法に関する。
【0058】
「シリコン粒子」という用語は、本発明の意味において、その少なくとも1つの外形寸法が50nm~50μm、好ましくは0.1μm~10μmであるシリコン粒子を意味するものと理解される。
【0059】
粒子の外形寸法は、篩分け、又は粒子に走査電子顕微鏡法(SEM)を行うことによって得られる写真の分析、又はレーザー回折による既知の方法で評価することができる。
【0060】
「ナノワイヤー」という用語は、本発明の意味において、ワイヤーの形状と類似した形状を有し、ナノメートル直径を有する長尺状の要素を意味するものと理解される。シリコンナノワイヤーは、1nm~100nmの範囲、より好ましくは10nm~100nmの範囲、更に好ましくは10nm~50nmの範囲の直径を有することが好ましい。
【0061】
シリコン粒子
本発明による方法は、反応器のチャンバーにシリコン粒子を導入する工程を含む。
【0062】
「シリコン粒子」という用語は、本発明の意味において、少なくともシリコンを含む材料からなる粒子を意味するものと理解される。
【0063】
一実施形態によると、シリコン粒子は、シリコン以外の元素を含む。
【0064】
上記他の元素は、シリコン粒子内の不純物を構成するものである。この不純物は、とりわけ、酸化ケイ素SiO、硫黄、炭化シリコンSiC等の炭化物、マグネシウムMg、カルシウムCa、ニッケルNi、鉄Fe、銅Cu、スズSn、又はアルミニウムAl等の金属、酸化マグネシウムMgO又は更には酸化カルシウムCaO等のこれら金属の酸化物、及びこれらの混合物である。
【0065】
シリコン粒子は、粒子の全重量に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%のシリコンを含むことが好ましい。
【0066】
好ましい実施形態によると、シリコン粒子は、基本的にシリコンからなり、シリコンのみからなることが更に良い。
【0067】
本発明の方法で用いるシリコン粒子の表面は、通常、自然酸化物(不定の酸素含量)の層で被覆されている。この層は、市販のシリコン粒子等の、大気に曝露されたシリコン粒子の表面全てに存在する。このような粒子は、本発明の意味において、「基本的にシリコンからなる」粒子及び「シリコンのみからなる」粒子の定義に対応する。
【0068】
このシリコン粒子の表面酸化は、とりわけ、D.-Q. Yang et al., Journal of Applied Physics, 97, 024303 (2005)、M. Morita et al., Journal of Applied Physics, 68, 1272 (1990); doi: 10.1063/1.347181、及びB. J. Winters, J Nanopart. Res. (2011), 13, 5473-5484; DOI 10.1007/s11051-011-0535-4に記載されている。
【0069】
代替形態によると、シリコン粒子はドープされている。
【0070】
「ドープシリコン粒子」という用語は、本発明の意味において、「ドープ元素」として知られる1種以上の元素の添加により、導電性が向上したシリコン粒子を意味するものと理解される。
【0071】
この代替形態によると、ドープ元素は、ホウ素B、リンP、窒素N、及びこれらの混合物から選ばれることが好ましい。
【0072】
シリコン粒子は、シリコン粒子の全重量に対して、10-4重量%~10重量%、好ましくは10-4重量%~1重量%、更に好ましくは10-2重量%~1重量%のドープ元素を含むことが好ましい。
【0073】
シリコン粒子は、種々の形状をとることができる。
【0074】
特に、シリコン粒子は、一次元形状、二次元形状、又は三次元形状をとることができ、より詳細には、粒状、ファイバー状、シート状、多孔質固体状等をとることができる。
【0075】
シリコン粒子は粒状であることが好ましい。
【0076】
「粒状の粒子」という用語は、本発明の意味において、球体状の粒子、又は長尺状の粒子、又は望ましい形状に従って構造化された粒子を意味するものと理解される。
【0077】
粒の最大寸法に対する最小寸法の比は、1/4以下であることが好ましい。
【0078】
本発明において使用することのできるシリコン粒子は、50nm~50μm、好ましくは0.1μm~10μmの範囲の寸法を有することが有利である。これは、シリコン粒子の最大寸法が、50nm~50μm、好ましくは0.1μm~10μmであることを意味する。
【0079】
触媒
本発明による方法は、上記反応器のチャンバーに触媒を導入することも含む。
【0080】
触媒により、シリコン粒子の表面に、ナノワイヤーが成長するサイトを作り出すことができる。
【0081】
触媒は、金属、二元金属化合物、金属酸化物、及び金属窒化物から選ばれることが好ましい。
【0082】
二元金属化合物のうち、とりわけ、マンガン-白金MnPtナノ粒子又は更には鉄-白金FePtナノ粒子が挙げられ得る。
【0083】
金属酸化物化合物のうち、とりわけ、酸化第二鉄Feナノ粒子が挙げられ得る。
【0084】
触媒は、金属から選ばれることが好ましい。
【0085】
触媒を形成し得る金属は、成長プロセスの開始時に熱の効果により液化し、次いで、基材から金属小液滴として脱離する金属薄層の形態で導入することができる。また、金属は、成長基材に吸着し、成長プロセスの開始時に水素等の還元性ガスの効果により還元される金属塩の層の形態で導入することもできる。熱分解プロセスでは、金属は、成長の際に分解して、成長基材上にナノ粒子又は液滴の形態で金属を析出する有機金属化合物の形態で導入することができる。
【0086】
触媒は、ナノメートルサイズの固体状又は液滴状であることが好ましい。
【0087】
触媒は、金属ナノ粒子の形態で導入することがより好ましい。
【0088】
触媒は、金属のナノ粒子の形態から選ばれることが好ましく、金、コバルト、ニッケル、ビスマス、スズ、鉄、インジウム、アルミニウム、マンガン、イリジウム、銀、銅、及びこれらの混合物のナノ粒子から選ばれることが更に好ましい。
【0089】
触媒は、金ナノ粒子から選ばれることが更に好ましく、金ナノ粒子からなることが有利である。
【0090】
好ましくは、触媒ナノ粒子は最大寸法が1nm~100nmであり、好ましくは1nm~50nm、更に好ましくは1nm~10nmである。
【0091】
触媒ナノ粒子は、球形であることが有利であり、5nm以下の直径を有することがより有利である。
【0092】
本発明に好適な触媒ナノ粒子としては、とりわけ、M. Brust et al., J. Chemical Society, Chemical Communications, 7(7), 801-802, 1994で合成される金ナノ粒子が挙げられ得る。
【0093】
触媒は、シリコン粒子に対するモル比が、1:70000~1:100、好ましくは1:10000~1:200、更に好ましくは1:2000~1:300の範囲となるように反応器のチャンバーに導入することが好ましい。
【0094】
好ましい実施形態によると、シリコン粒子と触媒とを、反応器に導入する前に結合させる。
【0095】
「結合する」という用語は、本発明の意味において、少なくとも一部の触媒を少なくとも1つのシリコン粒子の表面に固定するか、又は堆積させることに対応する結合工程に、シリコン粒子と触媒とを予め供することを意味するものと理解される。言い換えると、少なくとも1つのシリコン粒子の表面に、例えば、物理結合又は吸着により、触媒を少なくとも部分的に結合させる。
【0096】
少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、更に好ましくは少なくとも90%のシリコン粒子が触媒に結合することが好ましい。
【0097】
触媒をシリコン粒子に結合させると、シリコン粒子の表面に、ナノワイヤーの成長サイトを複数形成することができる。
【0098】
シリコンナノワイヤーの前駆体組成物
本発明による方法は、シリコンナノワイヤーの前駆体組成物を上記反応器のチャンバーに導入することも含む。
【0099】
シリコンナノワイヤーの前駆体組成物は、シリコンナノワイヤーの前駆体化合物を少なくとも1種含む。
【0100】
「シリコンナノワイヤーの前駆体化合物」という用語は、本発明の意味において、本発明による方法を実施することによって、シリコン粒子の表面にシリコンナノワイヤーを形成することのできる化合物を意味するものと理解される。
【0101】
シリコンナノワイヤーの前駆体化合物は、少なくともシリコンを含む化合物である。
【0102】
シリコンナノワイヤーの前駆体化合物は、シラン化合物又はシラン化合物の混合物であることが好ましい。
【0103】
「シラン化合物」という用語は、本発明の意味において、下記式(I)の化合物を意味するものと理解される:
-(SiR-R (I)
(式中、
nは、1~10の範囲の整数であり、
、R、R、及びRは、独立して、水素原子、C~C15アルキル鎖、芳香族環、及び芳香族環とC~C15アルキル鎖とを有するアラルキルから選ばれる)。
【0104】
第1の代替形態によると、シラン化合物は、下記式(II)の単純なシラン化合物である:
Si(2n+2) (II)
(式中、nは、1~10の範囲の整数である)。
【0105】
この代替形態によると、シリコンナノワイヤーの前駆体化合物がシランSiHであることが好ましい。
【0106】
好ましい代替形態によると、シラン化合物は有機シラン化合物である。
【0107】
「有機シラン化合物」という用語は、本発明の意味において、R基、R基、R基、及びR基のうち少なくとも1つが、水素原子以外である、式(I)のシラン化合物を意味するものと理解される。
【0108】
nが1に等しく、シラン化合物が下記式(III)に対応することが好ましい:
【化1】
(式中、R、R、R、及びRは、独立して、水素原子、C~C15アルキル鎖、及びC~C15アルキル鎖で置換されてもよいアリール基から選ばれ、R基、R基、R基、及びR基のうち少なくとも1つは、酸素原子以外である)。
【0109】
鎖、R鎖、R鎖、及びR鎖は、独立して、水素原子、C~C10アルキル鎖、及びC~C10アルキル鎖で置換されてもよいアリール基から選ばれることが好ましい。
【0110】
第1の実施形態によると、シラン化合物は、モノアルキルシラン、ジアルキルシラン、及びトリアルキルシランから選ばれる。
【0111】
好ましい実施形態によると、シラン化合物は、R基、R基、R基、及びR基の少なくとも1つが、C~C10アルキル鎖で置換されてもよいアリール基、好ましくはフェニル基である、式(III)の有機シランから選ばれる。
【0112】
この実施形態によると、シラン化合物は、モノアリールシラン、ジアリールシラン、及びトリアリールシランから選ばれることが好ましい。
【0113】
この実施形態によると、シラン化合物は、モノフェニルシランSi(C)H、ジフェニルシランSi(C、トリフェニルシランSi(CH、及びこれらの混合物から選ばれることがより好ましい。
【0114】
これらの化合物は、空気に対して安定であるため、その取り扱いに際して特段の対策が必要ではないという利点を有する。
【0115】
シリコンナノワイヤーの前駆体化合物がジフェニルシランSi(Cであることが有利である。
【0116】
一実施形態によると、シリコンナノワイヤーの前駆体組成物は、シリコンナノワイヤーの前駆体化合物以外の化合物、例えば、ジフェニルゲルマニウム等の他の有機金属化合物を含む。
【0117】
シリコンナノワイヤーの前駆体組成物は、シリコンナノワイヤーの前駆体組成物の全重量に対して、シリコンナノワイヤーの前駆体化合物を少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、更に好ましくは少なくとも95重量%、更に好ましくは少なくとも99重量%含むことが好ましい。
【0118】
好ましい実施形態によると、シリコンナノワイヤーの前駆体組成物は、基本的に、1種以上のシリコンナノワイヤーの前駆体化合物からなるものであり、又は1種以上のシリコンナノワイヤーの前駆体化合物のみからなることが更に良い。
【0119】
シリコンナノワイヤーの前駆体化合物は、シリコン粒子に対する重量比が1:10~1000:10、好ましくは10:10~500:10、更に好ましくは35:10~200:10の範囲となるように、反応器に導入することが好ましい。
【0120】
ドープ材料
一実施形態によると、本発明による方法は、少なくとも1種のドープ材料を上記反応器に導入することを含む。
【0121】
「ドープ材料」という用語は、本発明の意味において、シリコンの導電性を改善することのできる材料を意味するものと理解される。ドープ材料は、本発明の意味において、例えば、リン原子、ホウ素原子、又は窒素原子にも富む材料である。
【0122】
この実施形態によると、ドープ材料は、ジフェニルホスフィン、トリフェニルボラン、ジフェニルアミン、及びトリフェニルアミンから選ばれる前駆体によって導入することが好ましい。
【0123】
シリコンナノワイヤーの前駆体化合物に対するドープ材料のモル比率は、10-4モル%~10モル%、好ましくは10-2モル%~1モル%であることが好ましい。
【0124】
製造方法
本発明は、少なくともシリコン粒子とシリコンナノワイヤーとを含む材料を製造する方法であって、少なくとも以下の工程:
(1)少なくともシリコン粒子と触媒とを反応器のチャンバーに導入する工程と、
(2)シリコンナノワイヤーの前駆体組成物を、前記反応器のチャンバーに導入する工程と、
(3)前記反応器のチャンバー内の酸素分子含量を低減する工程、
(4)熱処理を適用する工程と、
(5)生成物を回収する工程と、
を含む、方法に関する。
【0125】
第1の代替形態によると、反応器を真空下、好ましくは10-1bar以下の圧力下に置くことによって、反応器のチャンバー内の酸素含量を低下させる。
【0126】
第2の代替形態によると、反応器のチャンバーを不活性ガスで洗浄することにより、反応器のチャンバー内の酸素含量を低下させる。
【0127】
「反応器のチャンバーを不活性ガスで洗浄」という用語は、本発明の意味において、反応器のチャンバー内に不活性ガス流を注入して、注入した不活性ガスによって反応器のチャンバー内に存在するガスを置換することを意味するものと理解される。
【0128】
不活性ガスは、窒素分子N、アルゴンAr、及びこれらの混合物から選ばれることが好ましい。
【0129】
反応器のチャンバーは、少なくとも2回、より好ましくは少なくとも3回洗浄することが好ましい。
【0130】
工程(3)の終了時の反応器のチャンバー内の酸素含量は、反応器のチャンバーの全体積に対して1体積%以下であることが好ましい。
【0131】
好ましい実施形態によると、本発明による方法は、シリコン粒子と触媒とを結合させる前工程を含む。
【0132】
好ましくは、シリコン粒子と触媒とを結合させる工程は、
シリコン粒子と触媒とを溶媒に懸濁させることと、次いで、
溶媒を蒸発させることと、
を含む。
【0133】
好ましい実施形態によると、溶媒を蒸発させる前に、粒子と触媒の接触が促進されるよう、シリコン粒子と触媒とを含む懸濁液を撹拌する。
【0134】
懸濁液は、少なくとも5分間、好ましくは少なくとも10分間、更に好ましくは少なくとも15分間撹拌することが好ましい。
【0135】
触媒とシリコン粒子とを懸濁するのに用いる溶媒は、ヘキサン、トルエン、アセトン、石油エーテル、クロロホルム、及びジクロロメタンから選ばれることが好ましい。
【0136】
溶媒はヘキサンであることが有利である。
【0137】
当業者に既知であり、使用した溶媒の蒸発に好適であれば、どのような溶媒蒸発手順に従って溶媒を蒸発させてもよい。
【0138】
例えば、溶媒がヘキサンの場合には、真空下でロータリーエバポレーターを用いて蒸発させることができる。
【0139】
第1の実施形態によると、シリコン粒子、触媒、及びシリコンナノワイヤーの前駆体組成物は、混合物の形態で反応器に導入される。
【0140】
好ましい実施形態によると、反応器は、少なくとも2つの投入領域、すなわち、シリコンナノワイヤーの前駆体組成物を受け入れることのできる第1の領域と、シリコン粒子と触媒とを受け入れることのできる第2の領域とを有する。
【0141】
第1の代替形態によると、第1の投入領域及び第2の投入領域は、反応器のチャンバーにおいて同じ高さに位置する。
【0142】
好ましい代替形態によると、第2の投入領域は、第1の投入領域よりも高い位置に位置する。
【0143】
図4に、本発明の方法で使用することのできる反応器の図を示す。
【0144】
図4を参照すると、反応器10は、チャンバー12を有する。反応器10のチャンバー12は、第1の投入領域14と第2の投入領域16とを有し、第2の投入領域16は、第1の投入領域14より高い位置に位置している。シリコンナノワイヤーの前駆体組成物18が第1の投入領域14に投入される。シリコン粒子及び触媒20が第2の投入領域16に投入される。10-1barに等しい圧力の真空下に反応器10を置くことにより、反応器10の雰囲気の酸素分子を枯渇させた後、反応器10を熱処理することにより加熱する。これにより、第1の投入領域14にあるシリコンナノワイヤーの前駆体組成物18が蒸発する。ガス状のシリコンナノワイヤーの前駆体組成物18は、チャンバー12を満たし、第2の投入領域16にあるシリコン粒子及び触媒20と接触する。矢印22は、反応器10のチャンバー12の内部におけるガス状のシリコンナノワイヤーの前駆体組成物14の動きを図示すものである。触媒と接触すると、ガス状の前駆体が反応し、シリコンナノワイヤーを形成する。
【0145】
ドープ材料を使用する場合は、ドープ材料の前駆体化合物を第1の投入領域に、好ましくはシリコンナノワイヤーの前駆体組成物との混合物として導入することが好ましい。
【0146】
熱処理は、270℃~600℃、好ましくは350℃~550℃、更に好ましくは400℃~500℃の範囲の温度で行うことが好ましい。
【0147】
この温度範囲では、シリコンナノワイヤーの前駆体組成物が熱分解し、言い換えると、熱により分解し、これにより、熱分解蒸気が生成する。この熱分解蒸気は、触媒と接触すると、シリコン粒子上及びシリコン粒子周辺でナノワイヤーの成長をもたらすものである。
【0148】
処理中、熱処理によって反応器内の圧力が上昇し得る。例えば、10bar~70bar、好ましくは20bar~40barの範囲の圧力まで上昇し得る。この内部圧力は、適用する熱処理によって決まるものであり、必ずしも制御又は管理する必要はない。
【0149】
熱処理は、1分~5時間、好ましくは10分~2時間、更に好ましくは30分~60分の範囲の時間にわたって行うことが好ましい。
【0150】
好ましい実施形態によると、本発明による方法は、工程(5)で得られた生成物を洗浄する追加の工程(6)を含む。
【0151】
工程(5)で得られた生成物は、有機溶媒、好ましくはクロロホルム、エタノール、トルエン、アセトン、ジクロロメタン、石油エーテル、及びこれらの混合物から選ばれる有機溶媒で洗浄することが好ましい。
【0152】
工程(5)で得られた粗生成物は、少なくとも2回、好ましくは少なくとも3回、更に好ましくは少なくとも4回洗浄する。
【0153】
上記の方法は、工程(6)の後、得られた生成物を乾燥する追加の工程を更に含むことが好ましい。
【0154】
乾燥は、例えば、生成物をオーブン、好ましくは50℃超、更に好ましくは70℃超の温度のオーブンに置くことにより行われる。
【0155】
乾燥は、15分~12時間、好ましくは15分~2時間、更に好ましくは15分~60分の範囲の時間にわたって行うことが好ましい。
【0156】
有利な実施形態によると、本発明による方法は、工程(5)の後、又は、工程(6)の後に以下のサイクル:
(1’)少なくとも、工程(5)又は工程(6)で得られた生成物と触媒とを上記反応器のチャンバーに導入することと、
(2’)シリコンナノワイヤーの前駆体組成物を上記反応器のチャンバーに導入することと、
(3’)上記反応器のチャンバー内の酸素分子含量を低減することと、
(4’)熱処理を適用することと、
(5’)生成物を回収することと、
(6’)任意で、得られた生成物を洗浄することと、
を少なくとも1回適用することを含む。
【0157】
この有利な実施形態によると、本発明による方法は、上記サイクルの1回~10回、好ましくは1回~5回、更に好ましくは1回~2回の適用を含むことが好ましい。
【0158】
好ましい実施形態において、工程(1’)、工程(2’)、工程(3’)、工程(4’)、工程(5’)、及び工程(6’)を行う条件は、各々、工程(1)、工程(2)、工程(3)、工程(4)、工程(5)、及び工程(6)を行う条件と同じである。
【0159】
2回目のサイクルからは、反応器に再導入される生成物は、もはや、工程(5)又は工程(6)で得られた生成物ではなく、前のサイクルの終了時に得られた生成物、すなわち、前のサイクルの工程(5’)又は工程(6’)で得られた生成物である。
【0160】
よって、この特定の実施形態によると、本発明による方法は、全く同じシリコン粒子に対して数回行われ、シリコンナノワイヤー/シリコン粒子の重量比が高い材料を得ることが可能となる。
【0161】
代替形態によると、いくつかの反応器を直列に並べて使用することができる。この場合、第1の反応器の出口で得られた材料を回収し、任意で洗浄した後、次の反応器において2回目の処理サイクルを行うことができる。
【0162】
本発明による方法では、反応器のチャンバーにシリコン粒子と触媒とを導入する工程(1)の前に、シリコン粒子を被覆する酸化ケイ素の層を除去する(例えばHFによる)処理をシリコン粒子に行わないことが有利である。
【0163】
任意の機能化
本発明による方法を実施すると、少なくともその表面の一部が有機層によって機能化したシリコンナノワイヤーを含む材料を得ることができる。
【0164】
この有機層は、シリコンナノワイヤーの前駆体化合物として、有機的に機能化されたシランを使用することに由来する。
【0165】
一実施形態によると、本発明による方法は、シリコンナノワイヤーの表面に少なくとも1つの機能層を堆積させることによって、得られた生成物の機能化を行う追加の工程を1つ以上含む。
【0166】
この機能層は、有機層であっても、無機層であってもよい。
【0167】
例えば、この機能層は、挿入材料の電気化学的攻撃に対するパッシベーション層であってもよいし、本発明にかかる材料から得られる電極の表面における電荷の貯蔵のための電気化学的に活性な層であってもよい。とりわけ、この機能層は、シリコンナノワイヤーの全体又は一部を取り囲むように、中間材料を介して又は介さずに、堆積させることができる。
【0168】
例えば、上記方法を、シリコンナノワイヤーと粒子との最終混合物を炭素源の存在下に熱処理して、導電層を形成する追加の工程を含むものとして提供することができる。この層により、最終生成物の電気伝導性が向上し、Liイオン電池におけるより良好な挙動が得られる。このような処理は、当業者にとって既知であり、その例としては、とりわけ、So Yeun Kim et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2016, 8 (19), pp 12109-12117が挙げられる。本発明の方法において、シリコンナノワイヤーと粒子との最終混合物に対する、炭素源の存在下でのかかる熱処理は、500℃~1000℃、更に好ましくは700℃~900℃の範囲の温度で適用することが好ましい。炭素源は、ガス状であっても、液体状であってもよい。
【0169】
炭素源の存在下での熱処理を適用するシリコンナノワイヤーと粒子との最終混合物は、上述のようなサイクルを1回以上適用したことによって得られる混合物である。
【0170】
得られる材料
また、本発明は、上述の方法を実施することにより得ることのできる材料に関する。
【0171】
この材料は、ナノ構造化材料であり、少なくともシリコン粒子とシリコンナノワイヤーとを含む。
【0172】
シリコンナノワイヤーは、シリコン粒子の表面と接触していることが好ましい。
【0173】
この材料は、粉末の形態で得られることが好ましい。
【0174】
ナノ構造化材料は、その表面の少なくとも一部が有機層によって機能化されていることが好ましい。
【0175】
特に、この有機層はシリコン前駆体化合物の分解中に生成するものである。
【0176】
例えば、ナノワイヤーの前駆体化合物がジフェニルシランSi(Cである場合は、有機層はフェニル基を有する。
【0177】
有機層は、ナノワイヤーの全重量に対して、1重量%~50重量%、好ましくは5重量%~25重量%、更に好ましくは5重量%~15重量%であることが好ましい。
【0178】
シリコンナノワイヤーの少なくとも50%が、厳密に5μmを超える、好ましくは厳密に10μmを超える、更に好ましくは厳密に15μmを超える長さを有することが好ましい。
【0179】
シリコンナノワイヤーは、1nm~100nmの範囲、より好ましくは10nm~100nmの範囲、更に好ましくは10nm~50nmの範囲の直径を有することが好ましい。
【0180】
ナノワイヤーは、材料のナノ構造化の特質に少なくとも関与する。
【0181】
シリコンナノワイヤーのサイズ及び直径は、1つ以上のサンプルに対して走査電子顕微鏡法(SEM)を行うことによって得られる写真の分析等、当業者に既知の数々の技術によって求めることができる。
【0182】
シリコンナノワイヤーは、250~10000の範囲、好ましくは500~5000の範囲のアスペクト比を有することが有利である。このアスペクト比は、シリコンナノワイヤーの平均直径に対する平均長さの比であると定義される。
【0183】
シリコン粒子の平均直径に対するシリコンナノワイヤーの平均長さの比は、2以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、有利には20以上であることが好ましい。
【0184】
シリコンナノワイヤーとシリコン粒子とは、物理結合によって結合していることが好ましい。
【0185】
本発明の方法で使用するシリコン粒子の表面は、ナノワイヤーの成長に関与する前は、自然酸化物(不定の酸素含量)の層で被覆されている。この層は、通常、市販のシリコン粒子等の、大気に曝露されたシリコン粒子の表面全てに存在する。
【0186】
本発明による方法では、シリコン粒子を金ナノ粒子と混合する前に、この層を除去するか、又は低減する(例えばHFによる)処理を行わないことが有利である。その結果、この方法によると、金ナノ粒子が自然酸化物の表面に堆積する。成長の際、温度が共晶点(363℃)を超えても、シリコンが自然酸化物層によって被覆され孤立しているため、金とシリコンとの溶融は起こらない。その結果、金ナノ粒子から形成されるシリコンナノワイヤーは、シリコン粒子の表面に対して化学結合しない。
【0187】
シリコンナノワイヤーの少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、更に好ましくは少なくとも50%、より良好には少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%が、その末端を介してシリコン粒子の表面と結合していないことが好ましい。
【0188】
本発明の材料においては、シリコンナノワイヤーの少なくとも50%、より良好には少なくとも90%、更に好ましくは少なくとも95%が、シリコン粒子の表面と化学結合していないことが好ましい。
【0189】
本発明による材料は、シリコン粒子に対するシリコンナノワイヤーの重量比が、1:100~95:100の範囲、好ましくは5:100~80:100の範囲、更に好ましくは10:100~60:100の範囲であることが好ましい。
【0190】
使用
また、本発明は、本発明による方法を実施することにより得られる材料から電極を形成する工程を含む、電極の製造方法に関する。この電極形成工程においては、上述の方法を実施することによって得られた生成物を直接使用してもよいし、或いは、上述の方法を採用してもよい。
【0191】
既知の方法においては、バインダー、本発明による材料、及び任意で炭素系材料からインクを生成する。そのインクを集電体上に堆積させて、次いで、乾燥する。
【0192】
特に、本発明は、少なくとも以下の工程:
本発明による材料を調製することと、
本発明による材料からインクを調製することと、
集電体の表面の少なくとも一部に、インクを堆積させることと、
インクを乾燥させることと、
を含む、電極の製造方法に関する。
【0193】
また、本発明は、エネルギー貯蔵装置において使用することのできる電極であって、電極が、集電体と、集電体の表面の少なくとも一部を被覆する少なくとも1つの活性層とを含み、活性層が、少なくとも1種のバインダーと、本発明による材料と、任意で炭素系材料とを含む、電極に関する。
【0194】
バインダーは、従来技術において既知であり、その例としては、とりわけ、カルボキシメチルセルロース(CMC)を挙げることができる。
【0195】
よって、本発明による材料は、電気化学電池電極、特に、リチウムイオン電池のアノードにおける活物質として使用することができる。本発明による材料は、超コンデンサ電極材料として使用することができる。この意味では、本発明は、また、本発明による電極、とりわけ、アノードを含むエネルギー貯蔵素子に関する。この貯蔵素子は、とりわけ、リチウムイオン電池である。ナノワイヤーの導電相互接続ネットワークが非常に高い比表面積を有していることから、本発明による電極は、活物質全体に対して最適に電荷を分配することができる。この構成によると、電池及びコンデンサの両方において、非常に高い許容電流密度が得られる。電池においては、リチウムイオンの流れが均一に分配され、その挿入/脱離に起因する機械的応力が均一に分配されることから、材料の完全性を維持することができる。その一方で、ナノワイヤー同士が接触するだけではなく、ナノワイヤーと、ナノワイヤーが成長するシリコン粒子とが接触することによっても、電気的な相互接続が確保される。粒子に対するナノワイヤーの前駆体化合物の比が容易に制御されることから、選択したサイクル性を有する材料の合成が可能となる。ナノワイヤーは、その成長中又は成長後にドープすることができると上で述べた。ドープすることによりナノワイヤーの導電性が高くなり、ドープナノワイヤーを形成することができ、その導電性は、極端な場合には、金属の導電性に近くなる。このナノワイヤーの導電性の増加は、リチウムの挿入に対するナノワイヤーの抵抗を大きく低減させることができる点で有利である。このようにして、本発明による電極によって、Chen et al., published in Electrochimica Acta (2011), 56, 5210-5213による最高充電率における容量が向上される。
【0196】
一方、シリコン粒子によって、ナノワイヤーの成長中に触媒の動きを制限することが可能となる。このようにして、触媒粒子はサイズが小さいままとなり、本発明のシリコンナノワイヤーは均一かつ細い径を有する。一方、本発明による材料をリチウムイオン電池のアノード材料として使用する場合には、シリコン粒子によって材料の特性を向上させることが可能となる。例えば、シリコン粒子の表面においてシリコンナノワイヤーを成長させることにより、ナノ粉末に関連するリスク、とりわけ、取り扱い中のリスクを示さないナノ構造化材料の製造が可能となる。
【0197】
より良好な導電性を有するネットワークを提供するためのナノワイヤーに任意の適切なドープ、及び高い化学的長期安定性を有するネットワークを提供するための任意の適切な表面処理に伴い、比表面積が非常に大きくなり、これにより、高エネルギー密度の超コンデンサ、マイクロ超コンデンサ、又は超マイクロ超コンデンサを得ることができる。さらに、ナノワイヤーが非常に細くかつ均一な径を有することにより、リチウムイオン電池におけるリチオ化/脱リチオ化サイクルの際に電極の機械的安定性が高くなり、より耐久性のあるシリコン粒子に基づいたリチウムイオン電池のアノードを得ることが可能となる。これは、好ましくは、シリコンナノワイヤーが、ナノワイヤーの全体において細径、つまり、100nm未満、好ましくは50nm未満の直径を有し、かつ、均一な径、つまり、直径の分布において50%未満の標準偏差を示すことと、10μm超の長い長さを有することによるものである。この品質により、得られる生成物に優れたサイクル性が付与される。ナノワイヤーにおいては、基本的に、その径に沿って体積の変化が起きるが、ナノメートル寸法を有することにより、機械的応力を緩和することができる。この電極を含む電気エネルギー貯蔵素子は、シリコン粒子からなる電極の場合に比べて、サイクル耐久性が高くなる。
【0198】
様々な実施形態及び代替形態、本発明の各主題に対する上述の優先点及び利点は、本発明の全ての主題に対して適用されるものであり、別々に、又は、組み合わせて適用することができる。
【実施例
【0199】
以下の例によって本発明を説明するが、これらに限定されるものではない。
【0200】
以下の例において、部及びパーセントは、特段の指示のない限り、重量基準である。
【0201】
材料
SkySpring Nanomaterials社から市販されている平均サイズ500nmのシリコン粒子(CAS:7440-21-3)、
Sigma-Aldrich社から市販されているジフェニルシランSi(C(CAS:775-12-2)、
Imerys社からTimcal Super C65(商標)の商品名で市販されているカーボンブラック(CAS:1333-86-4)、
Alfa-Aesar社から市販されているカルボキシメチルセルロース(CMC)(CAS:9004-32-4)、
Solvionic社から市販されている、フルオロエチレンカーボネート(FEC、10重量%)及びビニレンカーボネート(VC、2重量%)を添加したエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合物(体積比で1:1)に溶解した六フッ化リン酸リチウムLiPF電解質(1M)。
【0202】
以下の例において、材料は2つの異なる反応器で合成する。以下、その主な特性について説明する。
【0203】
反応器1:反応器1は、底から約5cmの所にくびれのあるパイレックス(登録商標)ガラス製のチューブからなる(外径16mm、ガラスの厚さ1mm)。
【0204】
反応器2:反応器2は、鋼製の反応器である(内部体積1L、直径100mm、高さ125mm)。
【0205】
I-材料の製造
a.金ナノ粒子の合成
金ナノ粒子は、M. Brust et al., J. Chemical Society, Chemical Communications, 7(7), 801-802, 1994に記載の手順に従って合成する。
【0206】
得られた金ナノ粒子の直径は、1nm~4nmである。これら粒子の表面は、ドデカンチオール分子によって被覆されている。
【0207】
上で調製した金ナノ粒子をトルエンに懸濁することによって、50mg/mlの金ナノ粒子母液を調製する。
【0208】
b.シリコン粒子と触媒との結合
シリコン粒子を乾燥ヘキサンに懸濁する(シリコン粒子100mg当たり、ヘキサン10mL)。続いて、上で調製した金ナノ粒子母液を、シリコン粒子の懸濁液に撹拌しながら添加する。得られた混合物を15分間撹拌し、次いで、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を蒸発させる。得られた乾燥固体を反応器へと移す。
【0209】
c.ナノワイヤーの成長
この工程cは、本発明による方法の工程(1)~工程(5)に対応する。
【0210】
ナノワイヤーの成長を行うために、使用した反応器によって2つの異なる手順を使い分ける。
【0211】
c1-反応器1における成長
工程bで得られた乾燥固体をパイレックスガラス製のテストチューブ(直径11mm、長さ75mm)に移す。
【0212】
反応器1の底にジフェニルシランSi(Cを置き、次いで、金ナノ粒子を投入したシリコン粒子を含むテストチューブを置く。続いて、反応器1を真空ラインに置き、真空下で、ブロートーチによって底から約15cmのところで封止する。
【0213】
続いて、反応器を450℃のオーブンに1時間置き、次いで、オーブンから取り出して周辺温度で30分間放冷する。最後に、反応器をガラスナイフにより開放して、粗生成物を取り出す。
【0214】
c2-反応器2での成長
工程bで得られた乾燥固体をパイレックスガラス製の結晶皿(直径80mm、長さ40mm)に移す。
【0215】
ジフェニルシランSi(Cを反応器2の底に置く。次いで、パイレックスガラス製の空ビーカー(直径60mm、高さ60mm)を反応器に置き、金ナノ粒子を投入したシリコン粒子を含む結晶皿をビーカー上に置く。続いて、反応器2を密閉し、ポンプに接続して反応器の内部に真空にする。
【0216】
続いて、反応器の外壁と接触した電気抵抗により、反応器を加熱する。加熱サイクルは、20℃と450℃との間の温度勾配で30分間、450℃で60分間保持し、次いで、加熱を止め、反応器を周辺温度で3時間冷却する。最後に、反応器を開放して粗生成物を回収する。
【0217】
d.得られた生成物の洗浄
この工程は、上述の工程(6)に対応する。
【0218】
続いて、得られた生成物を2gずつ以下の手順に従って洗浄する:
【0219】
生成物を、クロロホルム15mLを添加した45mLのプラスチック遠心分離管に移す。次いで、クロロホルム懸濁液を、超音波槽で5分間分散してから、8000rpm(3500gに相当)で5分間遠心分離する。遠心分離後、溶媒を除去し、新しいクロロホルム(15mL)で置換する。
【0220】
洗浄操作を合計で3回繰り返す。4回目及び最後の洗浄の際には、クロロホルム15mLを、クロロホルム5mLとエタノール15mLとの混合物と置換する。
【0221】
続いて、洗浄した生成物を80℃のオーブンで乾燥して灰色粉末を得る。
【0222】
e.任意の繰り返し
いくつかの代替形態においては、工程dの終了時に得られた生成物を反応器に再導入して、ナノワイヤーの成長を行う追加段階を1回以上行う。この追加段階は、上述の工程b、工程c、及び工程dの繰り返しに相当する。
【0223】
次いで、n回目のサイクルの工程dの終了時に得られた材料をシリコン粒子に置き換えて、次のn+1回目のサイクルの工程bにおいて反応器へと導入する。こうして、全く同一のシリコン粒子に、成長段階を数回行う。
【0224】
f.得られた材料
材料A、材料B、材料C、及び材料Cを以上の手順に従って製造する。
【0225】
採用した方法及び得られた材料の特性を以下の表1に示す:
【0226】
【表1】
【0227】
II-材料の特性評価
得られた材料の微視的トポロジーを、走査電子顕微鏡(SEM)Zeiss Ultra 55を用いて観察する。
【0228】
1/得られた材料の全体外観
走査電子顕微鏡法(SEM)により得られた画像を添付する。
【0229】
図1aは、SEMによってシリコン粒子のサンプルから得られた画像である。
【0230】
図1bは、SEMによって材料Aのサンプルから得られた画像である。
【0231】
図1cは、SEMによって材料Bのサンプルから得られた画像である。
【0232】
図1dは、SEMによって材料Cのサンプルから得られた画像である。
【0233】
図1aにおいては、シリコン粒子はその表面に全くシリコンナノワイヤーを有さないことが観察される。このサンプルはシリコン粒子のみからなる。
【0234】
図1b、図1c、及び図1dにおいては、シリコン粒子の周囲に複数のシリコンナノワイヤーが絡んでおり、それらシリコンナノワイヤーとシリコン粒子とが接触していることが観察される。
【0235】
図1cにおいては、図1bで観察される粒子に対してよりも、より多くのシリコンナノワイヤーがシリコン粒子に絡んでいることも観察される。同様に、図1dにおいては、図1cで観察される粒子に対してよりも、より多くのシリコンナノワイヤーがシリコン粒子に絡んでいることが観察される。
【0236】
これら4つの図から、上で採用した方法によって、シリコン粒子の表面上でシリコンナノワイヤーを成長させることが可能となることがわかる。
【0237】
さらに、全く同一のシリコン粒子に対して成長段階を数回連続して行うことにより、シリコンナノワイヤーの数を増やすことができることがわかる。反応器2を使用することにより、シリコンナノワイヤーを長くすることができることがわかる。
【0238】
2/ナノワイヤーの長さ
シリコンナノワイヤーの長さは、材料Cの画像から求められる。
【0239】
図2a及び図2bは、図1dの画像を拡大したものである。図2aは、単独のナノワイヤーに焦点を当てており、図2bはナノワイヤー群に焦点を当てている。
【0240】
これら2つの図において、破線は、調査したナノワイヤーの特定を可能とするものであり、矢印は、これらのナノワイヤーの可視部の両端の表示を可能とするものである。
【0241】
よって、この破線の長さは、調査したナノワイヤーの最小観察可能長さとみなされる。
【0242】
このようにして、以下の結果が得られる:
図2aから、シリコンナノワイヤーの観察可能長さは6.8μmである。
図2bから、シリコンナノワイヤー群の観察可能長さは6.6μmである。
【0243】
材料中のナノワイヤーの平均観察可能長さは、材料中に存在する約20本のナノワイヤー又は20群のナノワイヤーの長さを測定することにより求められる。
【0244】
3/ナノワイヤーの直径
ナノワイヤーの平均直径は、約100本のナノワイヤーに対する測定から、13.3nm(標準偏差3.1nm)であると推定される。
【0245】
4/粒子とナノワイヤーとの結合
続いて、得られた材料の微視的スケールでの配置、特に、シリコン粒子と合成されたシリコンナノワイヤーとの配置を観察する。
【0246】
図3は、図1bの写真を拡大したものであり、2つの円の中心に両端が位置するシリコンナノワイヤーに焦点を当てている。
【0247】
この写真から、ナノワイヤーの両端はどのシリコン粒子にも結合していないことがわかる。これは、シリコンナノワイヤーが、その中心部によって、シリコン粒子の表面に結合しているからである。
【0248】
III-電気化学的性能品質
続いて、上で製造した材料の1つをアノードが含むセルを製造することにより、上で得られた材料の電気化学的性能品質を評価する。
【0249】
1.セルの製造
得られた各材料を、導電性添加剤であるカーボンブラック、バインダーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)、及び溶媒である蒸留水と乳鉢を用いて混合して、インクを得る。乾燥物質の重量は、50:25:25(Si:C65:CMC)の比とする。添加した蒸留水は、インクの全重量の約90%であり、これにより、インクの粘度を調節することが可能となる。
【0250】
続いて、25μmの厚さの銅シート上にインクをテープキャストすることにより、電極を製造する。50℃のオーブンで乾燥した後、穴あけパンチを用いて、銅シートをカットして、直径15mmのディスクを形成する。続いて、Alfa-Aesar社によって市販されているリチウム金属電極(直径15mm、厚さ0.75mmのディスク)、Whatman(商標)セパレータ(ガラスファイバー、厚さ240μm)、Celgard(商標)セパレータ(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層からなる膜、厚さ25μm)、及び上で合成した材料から製造した電極を積み重ねることにより、ハーフセルを形成する。セパレータは、FEC(10重量%)及びVC(2重量%)を添加したEC:DEC(体積比で1/1)中の1M六フッ化リン酸リチウムLiPF電解質を含浸している。次いで、このデバイスを、ボタンセルに密封する。ボタンセルは、正端子と負端子とを構成するステンレス鋼製の2つのキャップでプレスされており、これらキャップは、直径15mmのスレンレス鋼ディスクとデバイスの面積にわたって均一な圧力を維持するためのスプリングとを有する。
【0251】
このようにして、上で製造した材料A、材料B、及び材料Cから、それぞれ、セルP、セルP、及びセルPC2を製造した。
【0252】
また、改質していないシリコン粒子から参照セルPを製造した。すなわち、セルPは、本発明による材料をシリコン粒子に置き換えたこと以外は、上述の手順と同様の手順に従って製造した。
【0253】
参照セルPの製造においては、本発明の材料の製造に用いたシリコン粒子を用いた。
【0254】
2.電気化学的性質の測定
上で製造したセルP、セルP、セルPC2、及びセルPの性能品質を、2つの電極を各々が有する8ルートを備えたBiologic BCS-805 cyclerを用いて定電流サイクルを行うことにより求める。
【0255】
初回は、C/20に等しい電流レートで、つまり、シリコンの理論容量(3579mA・h/gSi)を有する電極を20時間でリチオ化できる電流で、10mVの電位差が達成されるまで、各セルをリチオ化する。初回の脱リチオ化は、同じC/20に等しい電流レートで、1Vの電位差が達成されるまで行う。以降の定電流サイクルは、1Cで、つまり、シリコンの理論容量を有する電極を1時間でリチオ化/脱リチオ化できる電流で、1Vと10mVとの間で行う。
【0256】
続いて、各セルで使用した材料のサイクル性を、可逆容量、つまり、シリコンの脱リチオ化の際の容量の変化から評価する。可逆容量は、セルPに関しては25サイクル後に最大値で安定し、また、セルP及びセルPC2に関しては2~3サイクル後に最大値で安定するため、初期容量は1Cにおける可逆容量に対応する。参照セルPの容量は安定せず、低下し続けるので、1Cにおける初回サイクルの容量を報告する。初期容量の差の要因は、一部には、単位表面積当たりの電極重量の差によるものであり、また一部には、異なる特質(比表面積、稠密度等)を有する活物質によるものである。
【0257】
可逆容量における変化は、初期容量の値に関連する2つの限界値によって特徴付けられる。サイクル終了時に可逆容量が初期容量の80%未満となったサイクルのサイクル数、及びサイクル終了時に可逆容量が初期容量の50%未満となったサイクルのサイクル数を報告する。
【0258】
各セルに対して得られた結果を、以下の表2に示す:
【0259】
【表2】
【0260】
参照セルPの容量は、充放電サイクルにおいて低下する。5サイクル後には20%低下し、12サイクル後には50%低下した。
【0261】
セルP及びセルPの可逆容量もサイクルにおいて低下するが、参照セルPの容量よりもゆっくりと低下する。99回目の充放電サイクル後に、電池P及び電池Pの可逆容量は、20%しか低下しなかった。以降、セルPの可逆容量は、394サイクル後に50%と、セルPの可逆容量よりも急激に低下する。セルPの可逆容量は、848サイクル後に50%低下する。
【0262】
セルPC2に関しては、その可逆容量は1071サイクル後に20%しか低下しなかった。1800サイクル後でも、初期容量の50%超に留まっている。
【0263】
よって、本発明による方法によると、リチウムイオン電池の活物質として使用することができ、従来技術のシリコン粒子に対してサイクル性が向上した材料を得ることができる。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a)】
図2b)】
図3
図4