(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】吸着能増強剤、及び自然土ベースフィルター
(51)【国際特許分類】
B09C 1/08 20060101AFI20230216BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20230216BHJP
C02F 11/143 20190101ALI20230216BHJP
C02F 11/145 20190101ALI20230216BHJP
C09K 17/08 20060101ALI20230216BHJP
C01G 49/02 20060101ALI20230216BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
B09C1/08
B01J20/06 C ZAB
C02F11/143
C02F11/145
C09K17/08 H
C01G49/02 A
C01G49/00 Z
(21)【出願番号】P 2022138154
(22)【出願日】2022-08-31
【審査請求日】2022-09-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511123429
【氏名又は名称】テクニカ合同株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】393003837
【氏名又は名称】株式会社アステック
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 好太
(72)【発明者】
【氏名】和田 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 史朗
(72)【発明者】
【氏名】家永 陽二郎
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-186777(JP,A)
【文献】特許第4187223(JP,B1)
【文献】特開2009-279550(JP,A)
【文献】特開2009-249554(JP,A)
【文献】特開2017-179341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
C02F 11/00-11/20
C09K 17/00-17/52
C01G 49/00-49/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に汚染されていない自然土の重金属類吸着能を増強する吸着能増強剤であって、
酸化水酸化鉄に含まれる鉄の一部がアルミニウムで置換されたアルミニウム置換アカガネアイトを含む重金属類吸着能増強成分を含有
し、
前記自然土からの前記重金属類吸着能増強成分の脱離を防止する脱離防止成分を、前記自然土に予め混合しておくことにより併用する吸着能増強剤。
【請求項2】
前記脱離防止成分は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、並びに酸化物からなる群から選択される少なくとも一つの無機化合物である
請求項1に記載の吸着能増強剤。
【請求項3】
前記脱離防止成分は、炭酸カルシウムである
請求項2に記載の吸着能増強剤。
【請求項4】
前記重金属類吸着能増強成分をAとしたとき、前記脱離防止成分は、前記重金属類吸着能増強成分に対して3~4mol-OH/kg-A使用される
請求項1~3の何れか一項に記載の吸着能増強剤。
【請求項5】
pHが1.0~3.5、比重が1.1~1.5、粘度が6~20mPa・sに調整された液剤として調製される
請求項1~3の何れか一項に記載の吸着能増強剤。
【請求項6】
実質的に汚染されていない自然土と、
請求項1~3の何れか一項に記載の吸着能増強剤と、
の反応物として構成される自然土ベースフィルター。
【請求項7】
厚みが10cm以上であり、透水係数が1.0×10
-7~1.0×10
-4m/sである
請求項6に記載の自然土ベースフィルター。
【請求項8】
前記自然土は、非粘性土である
請求項6に記載の自然土ベースフィルター。
【請求項9】
前記自然土と前記吸着能増強剤とが、99.5:0.5~50:50(質量比)で配合されている
請求項6に記載の自然土ベースフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然土が本来備えている重金属類吸着能を増強する吸着能増強剤、及び当該吸着能増強剤を用いた自然土ベースフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事、シールド工事、建設工事、土壌除染作業等により発生した廃棄土壌や汚泥(これらをまとめて「泥土」と称する)は、一般に、固化処理された後、保管場所に運搬されて保管される又は最終処分場で産業廃棄物として埋め立て廃棄されるか、あるいは盛土、路盤材、埋め戻し土、宅地造成土等の用途に再利用される。ところが、泥土には人体に有害な重金属類が含まれていることがある。ここで、「重金属類」とは、土壌汚染対策法において指定された第二種特定有害物質を指す。このような場合、泥土の保管場所、廃棄場所、再利用現場においては、重金属類の拡散による二次汚染が心配される。従って、泥土を保管、廃棄、又は再利用するにあたっては、泥土から流出した重金属類が周囲に拡散しないように、何らかの対策をとる必要がある。
【0003】
そこで、従来、汚染土壌の下に土壌と混合した浄化材料を敷設することにより、降雨等により汚染土壌から浸出した重金属類が拡散して地下水が汚染されるのを防止することが行われていた(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1に記載の浄化材料は、水との接触によって重金属類を吸着可能な鉄、水酸化鉄、酸化鉄若しくはその水和物、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム若しくはその水和物、炭酸フッ化セリウム、水酸化セリウム、酸化セリウム若しくはその水和物、若しくはこれらを一つ以上含む粉体材料を、平均直径1~1000μm未満の繊維状素材と、繊維状素材/粉体材料=0.33~3の割合で混合したものである。
【0005】
また、汚染残土に汚染物質を不溶化する不溶化材溶液を散布することにより、汚染残土に不溶化材溶液を浸透させ、汚染残土からの汚染物質の流出を防止する技術も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0006】
特許文献2に記載の不溶化処理方法では、不溶化材として、人工ゼオライト、ドロマイト、酸化マグネシウム、火山灰土、ロックウール、セルロースが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4187223号公報
【文献】特開2015-24348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
泥土から流出した重金属類が周囲に拡散することを防止するにあたっては、泥土の周囲又はその近傍に重金属類の吸着層を配置する必要があるが、重金属類に対して十分な吸着能を有するとともに、泥土の保管状況や利用状況を考慮して現場で使い易い態様とすることが求められている。この点に関し、特許文献1及び2の技術では、以下のような問題がある。
【0009】
特許文献1に記載の浄化材料は、重金属類を吸着可能な粉体材料と繊維状素材とを混合する作業が必要となるため、浄化材料の製造そのものや、現場での施工に大きな手間が掛かる。また、同文献の表5のヒ素除去試験結果に示されるように、粉体材料と繊維状素材との配合比によっては重金属類を十分に吸着できない場合がある。事実、無機材料(繊維状素材)と粉体材料との配合比が3の検体については、ヒ素除去率が50%に満たないという結果が示されている。
【0010】
特許文献2に記載の不溶化処理方法は、不溶化材溶液をホースや散水車等により汚染残土の表面に散布する態様であるため、使い勝手の点では考慮されたものと言える。しかしながら、汚染残土に対して不溶化材溶液が均等に散布されなければ、汚染残土からの汚染物質の流出を確実に抑制することはできない。また、汚染残土に対して不溶化材溶液を直接付着させるものであるため、多くの汚染残土を不溶化処理する場合、不溶化材溶液の使用量が莫大なものとなり、処理コストが高額となる。なお、特許文献2においては、不溶化材溶液の施工方法が示されているだけで、汚染物質の流出をどの程度抑えることができるかについては、何らデータは示されていない。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、重金属類を含む泥土を保管、廃棄、又は再利用するにあたり、自然土が本来備えている重金属類吸着能を最大限利用することにより、泥土から重金属類が流出した場合であっても、それらが周囲に拡散することを防止できる吸着能増強剤を提供することを目的とする。また、当該吸着能増強剤を自然土に用いることにより構成される自然土ベースフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明にかかる吸着能増強剤の特徴構成は、
実質的に汚染されていない自然土の重金属類吸着能を増強する吸着能増強剤であって、
酸化水酸化鉄に含まれる鉄の一部がアルミニウムで置換されたアルミニウム置換アカガネアイトを含む重金属類吸着能増強成分を含有することにある。
【0013】
本構成の吸着能増強剤によれば、酸化水酸化鉄に含まれる鉄の一部がアルミニウムで置換されたアルミニウム置換アカガネアイトが重金属類の吸着能を増強する作用があるため、このアルミニウム置換アカガネアイトを実質的に汚染されていない自然土に適用することで、自然土が本来備える重金属類の吸着能を最大限利用し、泥土から重金属類が流出した場合であっても、それらが周囲に拡散することを防止することができる。また、本構成の吸着能増強剤は、自然土に適用できるため、汚泥の保管場所、廃棄場所、再利用現場に存在する土壌(自然土)をそのまま利用することができる。従って、泥土を直接処理して保管場所等に運搬する場合と比べて処理コストや運用コストを低減できるとともに、現場で処理できることから作業者にとって利便性が高いものとなる。
【0014】
本発明にかかる吸着能増強剤において、
前記自然土からの前記重金属類吸着能増強成分の脱離を防止する脱離防止成分を併用することが好ましい。
【0015】
本構成の吸着能増強剤によれば、重金属類吸着能増強成分の脱離を防止する脱離防止成分を併用することで、重金属類吸着能増強成分による自然土の重金属類吸着能の増強効果が持続し、泥土から重金属類が流出し続けた場合であっても、それらが周囲に拡散することを長期に亘って防止することができる。
【0016】
本発明にかかる吸着能増強剤において、
前記脱離防止成分は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、並びに酸化物からなる群から選択される少なくとも一つの無機化合物であることが好ましい。
【0017】
本構成の吸着能増強剤によれば、脱離防止成分として上記の適切な無機化合物を採用することで、自然土の重金属類吸着能の増強効果を十分かつ長期に亘って発揮させることができる。
【0018】
本発明にかかる吸着能増強剤において、
前記脱離防止成分は、炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0019】
本構成の吸着能増強剤によれば、脱離防止成分として炭酸カルシウムを使用することで、自然土の重金属類吸着能の増強効果を十分かつ長期に亘って発揮させることができる。
【0020】
本発明にかかる吸着能増強剤において、
前記重金属類吸着能増強成分をAとしたとき、前記脱離防止成分は、前記重金属類吸着能増強成分に対して3~4mol-OH/kg-A使用されることが好ましい。
【0021】
本構成の吸着能増強剤によれば、重金属類吸着能増強成分に対して、脱離防止成分を3~4mol-OH/kg-A使用することで、自然土の重金属類吸着能の増強効果を十分かつ長期に亘って発揮させることができる。
【0022】
本発明にかかる吸着能増強剤において、
pHが1.0~3.5、比重が1.1~1.5、粘度が6~20mPa・sに調整された液剤として調製されることが好ましい。
【0023】
本構成の吸着能増強剤によれば、pHが1.0~3.5、比重が1.1~1.5、粘度が6~20mPa・sに調整された液剤とすることで、自然土に適用したとき、当該自然土が液剤に浸されて馴染みやすくなるため、自然土を供給する現場での作業性が良好なものとなる。また、自然土を構成する土壌粒子の表面に重金属類吸着能増強剤が十分に行き亘ることで、自然土の重金属類吸着能の増強効果を十分かつ長期に亘って発揮させることができる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明にかかる自然土ベースフィルターの特徴構成は、
実質的に汚染されていない自然土と、
上記の何れか一つに記載の吸着能増強剤と、
の反応物として構成されることにある。
【0025】
本構成の自然土ベースフィルターによれば、自然土に本発明の吸着能増強剤を使用して構成されるフィルターであるため、自然土が本来備える重金属類の吸着能を最大限利用し、泥土から重金属類が流出した場合であっても、それらが周囲に拡散することを防止することができる。また、本構成の自然土ベースフィルターは、自然土に適用できるため、汚泥の保管場所、廃棄場所、再利用現場に存在する土壌(自然土)をそのまま利用することができる。従って、泥土を直接処理する場合と比べて処理コストや運用コストを低減できるとともに、現場で処理できることから作業者にとって利便性が高いものとなる。
【0026】
本発明にかかる自然土ベースフィルターにおいて、
厚みが10cm以上であり、透水係数が1.0×10-7~1.0×10-4m/sであることが好ましい。
【0027】
本構成の自然土ベースフィルターによれば、厚みが10cm以上であり、透水係数が1.0×10-7~1.0×10-4m/sであることにより、実用性の高い重金属類吸着フィルター(重金属類吸着層)として機能することができる。
【0028】
本発明にかかる自然土ベースフィルターにおいて、
前記自然土は、非粘性土であることが好ましい。
【0029】
本構成の自然土ベースフィルターによれば、非粘性土は世界的に見て多くの地域の地盤や地層中に存在しているため、日本のみならず外国においても自然土ベースフィルターを構築することができる。
【0030】
本発明にかかる自然土ベースフィルターにおいて、
前記自然土と前記吸着能増強剤とが、99.5:0.5~50:50(質量比)で配合されていることが好ましい。
【0031】
本構成の自然土ベースフィルターによれば、自然土と吸着能増強剤とが上記の適正な比率で配合されているため、高性能な重金属類吸着フィルター(重金属類吸着層)を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明の吸着能増強剤を自然土に適用することにより構成した自然土ベースフィルターの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明にかかる吸着能増強剤、及び自然土ベースフィルターの実施形態について説明する。ただし、本発明は、以降の説明や図面に限定されることは意図しない。
【0034】
<吸着能増強剤>
日本を初め、世界各国に広くに分布している自然土には様々な機能を有するものがあり、例えば、赤土、黒土、真砂土等の非粘性土は、重金属類を吸着する能力を一定程度有している。本発明は、このような自然土が本来備えている重金属類吸着能を増強するための吸着能増強剤である。吸着能増強剤は、重金属類吸着能増強成分を含み、必要に応じて脱離防止成分をさらに含み得る、又は併用し得る。本発明の吸着能増強剤は、自然土の重金属類吸着能を最大限増強するため、実質的に汚染されていない自然土に対して適用される。ここで、「実質的に汚染されていない」とは、土壌汚染対策法が適用される汚染土に該当しないことを意味する。土壌汚染対策法で定められている第二種特定有害物質の土壌溶出量基準値、及び土壌含有量基準値を表1に示す。
【0035】
【0036】
[重金属類吸着能増強成分]
吸着能増強剤は、有効成分として重金属類吸着能増強成分を含有する。重金属類吸着能増強成分は、アルミニウム置換アカガネアイトを含む。アルミニウム置換アカガネアイトは、化学構造式が[FeO(OH)]xである酸化水酸化鉄(アカガネアイト)に含まれる鉄の一部がアルミニウムで置換された無機高分子化合物であり、トンネルを有する棒状の分子構造を有する。アルミニウム置換アカガネアイトのサイズを例示すると、長さ5~100nm、外径4~10nm、内径(トンネル径)2~8nmとなる。アルミニウム置換アカガネアイトの表面やトンネルの内部には多数の水酸基が存在し、この水酸基に重金属類を含む様々な物質が結合することができる。このような特異な構造を有するアルミニウム置換アカガネアイトについて、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、実質的に汚染されていない自然土にアルミニウム置換アカガネアイトを適用する(接触又は反応させる)と、自然土が本来備えている重金属類吸着能が増強されることを知見した(詳細については、後述の実施例を参照)。この理由については、未だ十分に解明されてはいないが、アカガネアイトに含まれる鉄の一部がアルミニウムで置換されることでアカガネアイトの結晶成長が妨げられ、これにより、アルミニウム置換アカガネアイトは結晶のサイズが小さくなり、その結果、自然土を構成する土壌粒子の表面にアルミニウム置換アカガネアイトが密着又は吸着することでアルミニウム置換アカガネアイトの重金属類吸着能が自然土に付加され、あるいは自然土が本来備えている重金属類吸着能とアルミニウム置換アカガネアイトが有する重金属類吸着能との相乗効果により、自然土の重金属類吸着能が効果的に高められるものと推測される。アルミニウム置換アカガネアイトは、そのままの状態(すなわち、粉体の状態)で使用することも可能であるが、水に分散させた液剤として使用することが好ましい。アルミニウム置換アカガネアイトの剤形を液剤とした場合、自然土に適用したときに当該自然土が液剤に浸されて馴染みやすくなるため、自然土を供給する現場での作業性が良好なものとなる。また、自然土を構成する土壌粒子が水で濡れることでアルミニウム置換アカガネアイトが土壌粒子の表面に十分に行き亘り、その結果、自然土の重金属類吸着能の増強効果を十分かつ長期に亘って発揮させることができる。
【0037】
アルミニウム置換アカガネアイトの剤形を液剤とした場合の性状は、pHが1.0~3.5、比重が1.1~1.5、粘度が6~20mPa・sに調整されることが好ましく、pHが2.0~3.5、比重が1.2~1.3、粘度が8~10mPa・sに調整されることがより好ましい。液剤におけるpH、比重、粘度が上記の範囲であれば、自然土の重金属類吸着能の増強効果を十分かつ長期に亘って発揮させることができる。pHの調整は、アルミニウム置換アカガネアイトの分散液に、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の酸を添加することで行うことができる。比重の調整は、分散媒である水へのアルミニウム置換アカガネアイトへの添加量を調整することで行うことができる。粘度の調整は、水へのアルミニウム置換アカガネアイトへの添加量(含有量)の調整によって行うことができる。なお、pHの調整において、硫酸やリン酸などの粘稠性のある水溶液を使用すれば、pHの調整と同時に粘度の調整も行うことができる。
【0038】
[脱離防止成分]
上記のアルミニウム置換アカガネアイト(重金属類吸着能増強成分)には、脱離防止成分を併用することが好ましい。脱離防止成分は、自然土からのアルミニウム置換アカガネアイトの脱離を防止する機能を有する。脱離防止成分を併用することで、アルミニウム置換アカガネアイトによる自然土の重金属類吸着能の増強効果が持続し、泥土から重金属類が流出し続けた場合であっても、それらが周囲に拡散することを長期に亘って防止することができる。脱離防止成分としては、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、並びに酸化物からなる群から選択される少なくとも一つの無機化合物を用いることができる。このような無機化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。これらのうち、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムが好ましく、炭酸カルシウムがより好ましい。
【0039】
脱離防止成分の使用形態としては、アルミニウム置換アカガネアイトの分散液に脱離防止成分を添加しておいてもよいし、アルミニウム置換アカガネアイト(粉体物)と脱離防止成分との混合粉体としてもよいし、脱離防止成分を自然土に予め混合しておいてもよい。ただし、脱離防止成分は水中ではアルカリ性を示す場合が多いことから、アルミニウム置換アカガネアイトの分散液のpHが低い場合は、自然土に適用する前に液剤が中和されることを防ぐため、脱離防止成分を自然土に予め混合しておくことが好ましい。
【0040】
脱離防止成分の使用量は、重金属類吸着能増強成分をAとしたとき、重金属類吸着能増強成分に対して3~4mol-OH/kg-A使用されることが好ましい。ここで、単位「mol-OH/kg-A」は、1kgの重金属類吸着能増強成分に対して添加する必要のあるOH量(中和に必要なアルカリの量)を意味する。例えば、脱離防止成分が水酸化ナトリウムの場合は、一価のアルカリとして計算することができ、脱離防止成分が炭酸カルシウムである場合は、二価のアルカリと見なして計算することができる。このような使用量とすることで、自然土の重金属類吸着能の増強効果を十分かつ長期に亘って発揮させることができる。
【0041】
<自然土ベースフィルター>
次に、本発明の吸着能増強剤について、土木工事で発生した泥土の保管場所に使用した例について説明する。
図1は、本発明の吸着能増強剤を自然土に適用することにより構成した自然土ベースフィルターの模式図である。
【0042】
吸着能増強剤は、泥土の保管場所に存在する自然土と混合されると、吸着能増強剤に含まれるアルミニウム置換アカガネアイトが自然土の土壌粒子の表面に結合し、自然土が本来備えている重金属類吸着能が増強された反応物が形成される。ここで、自然土が実質的に汚染されていないものであれば、自然土とアルミニウム置換アカガネアイトとの反応物は活性を失っていないので、他の物体から重金属類を吸着可能な自然土ベースフィルター(吸着層)として機能することができる。なお、自然土は、赤土、黒土、真砂土等の非粘性土であることが好ましい。非粘性土は世界的に見て多くの地域の地盤や地層中に存在しているため、日本のみならず外国においても自然土ベースフィルターを構築することができる。
【0043】
例えば、
図1に示すように、地盤2の上に自然土ベースフィルター1を形成し、その上に重金属類Mを含有する泥土を配置して泥土層3を形成し、これらを覆土4で覆ってなる汚染土壌の保管場所10において、降雨などによって泥土層3から重金属類Mが流出したとしても、それらが地盤2や覆土4の周囲に拡散することを防止することができる。このように、本発明の自然土ベースフィルター1は、自然土に適用できるため、汚泥の保管場所、廃棄場所、再利用現場に存在する土壌(自然土)をそのまま利用することができる。従って、泥土を直接処理する場合と比べて処理コストや運用コストを低減できるとともに、現場で処理できることから作業者にとって利便性が高いものとなる。
【0044】
自然土ベースフィルター1は、厚みが10cm以上であり、透水係数が1.0×10-7~1.0×10-4m/sであることが好ましく、1.0×10-6~1.0×10-5m/sであることがより好ましい。また、自然土ベースフィルター1は、自然土と吸着能増強剤とが、99.5:0.5~50:50(質量比)で配合されていることが好ましい。このような構成とすることにより、自然土ベースフィルター1は、実用性の高い重金属類吸着フィルター(重金属類吸着層)として機能することができる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例として、本発明の吸着能増強剤を適用した自然土における重金属類吸着能の増強効果を確認するため、以下に説明する試験1~6を実施した。各試験で使用した材料及び試薬を(1)~(6)に示す。
【0046】
(1)自然土
実質的に汚染されていないことを確認した天然の真砂土を風乾し、団粒化したものを粗砕し、目開きが2mmの篩を通したものを使用した。
(2)吸着能増強剤(重金属類吸着能増強成分)
重金属類吸着能増強成分であるアルミニウム置換アカガネアイトを含む水分散液(外観:褐色液体、pH:約2.0~3.5、比重:1.2~1.3、粘度:8~10mPa・s)を使用した。なお、アルミニウム置換アカガネアイトにおける鉄とアルミニウムとの配合割合は、金属酸化物換算でFe2O3:Al2O3=1:2~2:1(質量比)である。
このアルミニウム置換アカガネアイトを含む水分散液は、次の製造方法により本発明者らが調製したものである。初めに、3.4mol/Lの塩化第二鉄溶液50gを撹拌しながら、アルミニウム濃度6.2mol/Lの多核ヒドロキソアルミニウムイオン(Al(OH)2.5
0.5+)の塩化物溶液2.27mLを加え、12時間反応させた。次いで、この溶液を撹拌しながら、濃度7.6mol/Lの水酸化ナトリウム溶液30.7mLを徐々に添加した。その結果、鉄及びアルミニウムの合計に対するアルミニウムのモル比が0.1であり、鉄及びアルミニウムの合計に対する水酸化物イオンのモル比が2.0であるアルミニウム置換アカガネアイトの水分散液を得た。
(3)脱離防止成分
脱離防止成分として、以下の工業用薬剤を使用した。
・炭酸カルシウム(近江鉱業株式会社製)
・酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ株式会社製)
・水酸化カルシウム(吉澤石灰工業株式会社製)
・水酸化ナトリウム(要薬品株式会社製)
(4)水
カラムに通す水、及び試料調製用の水として、蒸留水を使用した。
(5)重金属類(汚染物質)
重金属類として、以下の試薬を使用した。
・ヒ酸水素二ナトリウム(一級試薬、富士フイルム和光純薬株式会社製)
・フッ化ナトリウム(特級試薬、富士フイルム和光純薬株式会社製)
(6)高分子凝集剤
フッ素吸着試験(泥水)における凝集試験で使用する高分子凝集剤として、テクニカ合同株式会社製の高分子凝集剤(商品名:ウォーターフロックP、品番:A-041、イオン性:アニオン性)を使用した。
【0047】
<試験1>重金属類吸着試験
予め脱離防止成分を混合しておいた自然土に吸着能増強剤を反応させて調製した試料(実施例1~4)をカラムに充填して模擬自然土ベースフィルターを作製し、カラムの上部から蒸留水に汚染物質(重金属類)を溶解させた汚染水を投入し、模擬自然土ベースフィルターを透過した汚染処理水を回収した。そして、回収した汚染処理水を水平振とう機を用いて24時間振とうし、次いで、振とう後の汚染処理水を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液中の重金属類の濃度分析等を行った。また、比較のため、吸着能増強剤を反応させていない自然土のみからなる試料(比較例1)についても、同様の操作及び分析を行った。重金属類吸着試験の試験条件、及び試験結果を表2に示す。
【0048】
【0049】
表2に示されるとおり、予め脱離防止成分を混合しておいた自然土に吸着能増強剤を反応させて調製した試料(実施例1~4)は、吸着能増強剤を反応させていない自然土のみからなる試料(比較例1)に対して、顕著に高いヒ素及びフッ素の吸着能を有することが明らかとなった。
【0050】
<試験2>脱離防止効果確認試験
脱離防止成分による自然土からの重金属類吸着能増強成分の脱離防止効果確認試験を行った。予め脱離防止成分を混合しておいた自然土に吸着能増強剤を反応させた試料(実施例5~7)をカラムに充填して試験1と同様の模擬自然土ベースフィルターを作製し、カラムの上部から蒸留水を投入し、模擬自然土ベースフィルターを透過した水を回収した。そして、回収した水を水平振とう機を用いて24時間振とうし、次いで、振とう後の水を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液中の鉄及びアルミニウムの濃度分析等を行った。あわせて、0.45μmフィルターの着色の程度からろ液に含まれていた浮遊物質(SS)量を判定した。また、脱離防止成分を混合していない自然土に吸着能増強剤を反応させた試料(実施例8)についても、同様の操作及び分析を行った。さらに、比較のため、自然土のみからなる試料(比較例2)について、同様の操作及び分析を行った。脱離防止効果確認試験の試験条件、及び試験結果を表3に示す。
【0051】
【0052】
表3に示されるとおり、予め脱離防止成分を混合しておいた自然土に吸着能増強剤を反応させた試料(実施例5~7)は、鉄及びアルミニウムの脱離が抑えられており、それら濃度は、自然土のみからなる試料(比較例2)と同等であることが明らかとなった。脱離防止成分を混合していない自然土に吸着能増強剤を反応させた試料(実施例8)は、鉄の脱離が抑えられていることが明らかとなった。また、実施例5~8の試料は、比較例2の試料と比べて、浮遊物質(SS)量が抑えられていることも明らかとなった。
【0053】
<試験3>フッ素吸着試験(土壌)
自然土に対して0~2重量%の範囲で段階的に吸着能増強剤を添加した土壌に、フッ化ナトリウム水溶液を添加及び混合した試料について、フッ素溶出量を「平成15年3月6日 環境省告示第18号」に定める方法(JIS K 0102 34.1)に従って測定した。なお、吸着能増強剤を添加していないフッ素汚染土壌(ブランク)のフッ素溶出量は3.2mg/Lであり、pHは6.92(18.6℃)であった。試験結果を表4に示す。
【0054】
【0055】
表4に示されるとおり、自然土に対する吸着能増強剤の添加量を増加させると、フッ素溶出量が減少した。そして、フッ素汚染土壌(ブランク)のフッ素溶出量(3.2mg/L)を土壌汚染対策法で定められているフッ素の溶出量基準値(0.8mg/L)以下にするためには、自然土に対する吸着能増強剤の添加量を約1重量%とする必要があることが判明した。
【0056】
<試験4>フッ素吸着試験(泥水)
泥水シールド工事を想定したフッ素汚染泥水に、吸着能増強剤及び高分子凝集剤を添加し、フロック(泥分)を凝集沈降させた。フッ素汚染泥水に対する吸着能増強剤の添加量は、0mg/L(添加無し)、10000mg/L、20000mg/Lとし、フッ素汚染泥水に対する高分子凝集剤の添加量は、10mg/Lとした。各試料について、上澄みとフロックとを分離し、上澄みにおけるフッ素濃度、及びフロックを脱水して得られたケーキにおけるフッ素溶出量を「平成15年3月6日 環境省告示第18号」に定める方法(JIS K 0102 34.1)に従って測定した。なお、吸着能増強剤及び高分子凝集剤を添加する前のフッ素汚染泥水(ブランク)におけるフッ素濃度は10.6mg/Lであり、pHは9.94(18.5℃)であった。試験結果を表5に示す。
【0057】
【0058】
表5に示されるとおり、フッ素汚染泥水に対する吸着能増強剤の添加量を増加させると、フッ素濃度又はフッ素溶出量が減少した。特に、上澄みに関しては、顕著な効果が確認された。そして、フッ素汚染泥水(ブランク)から得られた上澄みにおけるフッ素濃度(10.58mg/L)、及びケーキにおけるフッ素溶出量(2.90mg/L)を土壌汚染対策法で定められているフッ素の溶出量基準値(0.8mg/L)以下にするためには、上澄みにおいては吸着能増強剤の添加量を10000mg/Lとし、ケーキにおいては吸着能増強剤の添加量を20000mg/Lとすれば、十分な効果が得られることが判明した。
【0059】
<試験5>吸着能長期安定性確認試験
ナイロン-ポリエチレン袋に、自然土に対して吸着能増強剤を10重量%添加した土壌を入れて密封し、一定期間経過後、平衡フッ素濃度を0.8mg/L以下に維持できる土壌のフッ素吸着能を測定した。ここで、平衡フッ素濃度が0.8mg/Lとは、吸着能増強剤を自然土に適用することにより構成した自然土ベースフィルターにおいて、当該自然土ベースフィルターの上方からフッ素濃度が0.8mg/Lを超える汚染水が継続的に自然土ベースフィルターに流入しているとき、自然土ベースフィルターを透過した水のフッ素濃度が0.8mg/Lに達するまで自然土ベースフィルターが吸着可能なフッ素の量を意味する。試験結果を表6に示す。
【0060】
【0061】
表6に示されるとおり、自然土に吸着能増強剤を添加した土壌は、試験開始直後(0日後)のフッ素吸着能が400mg/kgであったが、5日後に390mg/kg、20日後に330mg/kgと落ち込みが少なく、200日後でも200mg/kgを維持していた。このように、本発明の吸着能増強剤は、長期に亘って自然土の重金属類吸着能を増強できるものであることが判明した。
【0062】
<試験6>他の重金属類吸着試験
上記の試験では、重金属類としてフッ素又はヒ素を対象とした吸着試験を行ったが、本発明の吸着能増強剤は、少なくとも鉛、カドミウム、セレンについても自然土の吸着能増強効果があることを確認している(データの提示は省略)。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の吸着能増強剤、及び自然土ベースフィルターは、土木工事、シールド工事、建設工事、土壌除染作業等により発生した泥土が重金属類によって汚染されている場合、当該重金属類を含む泥土を保管、廃棄、又は再利用する場面において利用可能である。
【要約】
【課題】重金属類を含む泥土を保管、廃棄、又は再利用するにあたり、自然土が本来備えている重金属類吸着能を最大限利用することにより、泥土から重金属類が流出した場合であっても、それらが周囲に拡散することを防止できる吸着能増強剤を提供する。
【解決手段】実質的に汚染されていない自然土の重金属類吸着能を増強する吸着能増強剤であって、酸化水酸化鉄に含まれる鉄の一部がアルミニウムで置換されたアルミニウム置換アカガネアイトを含む重金属類吸着能増強成分を含有する吸着能増強剤であり、自然土からの重金属類吸着能増強成分の脱離を防止する脱離防止成分を併用する。
【選択図】なし