(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】筒型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
H02K41/03 A
(21)【出願番号】P 2018197260
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】袴田 眞一郎
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-243677(JP,A)
【文献】特開2001-086725(JP,A)
【文献】特開2008-245491(JP,A)
【文献】特開2005-237087(JP,A)
【文献】特開2015-171285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のコアと、前記コアの外周に設けられたスロットに装着される巻線とを有する電機子と、
筒状であって内方に前記電機子が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁とを備え、
前記界磁は、
環状であって径方向に着磁された主磁極の永久磁石と
環状であって軸方向に着磁された副磁極の永久磁石とを有し、ハルバッハ配列にて軸方向に前記主磁極の永久磁石と前記副磁極の永久磁石とが交互に並べられて形成される積層磁石体と、前記積層磁石体の外周に配置され磁性体で形成される筒状のバックヨークとを有し、
前記バックヨークは、筒状の複数のヨーク分割体を軸方向に積層して形成されており、
前記ヨーク分割体のうち前記バックヨークの両端以外の軸方向長さは、前記界磁の磁極ピッチの整数倍の長さとされており、
前記ヨーク分割体のうち前記バックヨークの両端以外の前記ヨーク分割体の軸方向の
両端部は主磁極の永久磁石の外周に配置される
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
隣り合う前記ヨーク分割体同士は、前記主磁極の永久磁石の軸方向中央の外周で当接している
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【請求項3】
前記ヨーク分割体は、軸方向両端の内周に面取部を有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筒型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒型リニアモータは、たとえば、軸方向に並べて配置される複数のティースを外周に持つ筒型のコアとティース間のスロットに装着されるU相、V相およびW相の巻線を有する電機子と、電機子の外周に設けられた円筒形のヨークと軸方向にS極とN極とが交互に並ぶようにベースの内周に取付けられた複数の永久磁石とでなる固定子とを備えるものがある。
【0003】
このように構成された筒型リニアモータでは、電機子のU相、V相およびW相の巻線へ適宜通電すると、電機子が永久磁石に吸引されて電機子が可動子として固定子に対して軸方向へ駆動される。
【0004】
このような筒型リニアモータでは、推力を向上するため固定子における永久磁石をハルバッハ配列として、径方向着磁の主磁極の永久磁石と軸方向着磁の副磁極の永久磁石とを交互に並べたものがある。
【0005】
永久磁石をハルバッハ配列とする場合、永久磁石の外周に筒状の磁性体でなるバックヨークを設けると、磁気抵抗を小さくできるので、筒型リニアモータの推力を向上できる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記筒型リニアモータでは、バックヨークを設けて推力向上を図っているが、磁性体で形成されるバックヨークの内側に強い磁力の永久磁石を積層状態で挿入するのは容易ではなく組付性の向上が要望される。
【0008】
そこで、本発明は、推力低下を防止しつつ容易に組立可能な筒型リニアモータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータは、筒状のコアとコアの外周に設けられたスロットに装着される巻線とを有する電機子と、筒状であって内方に電機子が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁とを備え、界磁は、ハルバッハ配列にて軸方向に交互に並べられる環状であって径方向に着磁された主磁極の永久磁石と環状であって軸方向に着磁された副磁極の永久磁石とを有する積層磁石体と、積層磁石体の外周に配置され磁性体で形成される筒状のバックヨークとを有し、バックヨークは、筒状の複数のヨーク分割体を軸方向に積層して形成されており、ヨーク分割体のうちバックヨークの両端以外の軸方向長さは、界磁の磁極ピッチの整数倍の長さとされており、ヨーク分割体のうちバックヨークの両端以外のヨーク分割体の軸方向の両端部は主磁極の永久磁石の外周に配置される。
【0010】
このように構成された筒型リニアモータでは、ヨーク末端のヨーク分割体以外のヨーク分割体の軸方向長さを磁極ピッチの整数倍の長さとされて、ヨーク分割体の軸方向の端部が主磁極の永久磁石の外周に配置されるので、バックヨークを複数のヨーク分割体で構成してもバックヨークの磁気抵抗の増大を押さえつつ磁力線の外部への漏れを抑制できる。そして、バックヨークがバックヨークの軸方向長さよりも軸方向長さが短い複数のヨーク分割体で形成されるので、永久磁石を短いヨーク分割体内に挿入する作業は非常に容易となる。
【0011】
また、隣り合うヨーク分割体同士が主磁極の永久磁石の軸方向中央の外周で当接するように、筒型リニアモータを構成してもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、良好な組付性と推力低下の防止とを両立できる。
【0012】
さらに、筒型リニアモータにおけるヨーク分割体の軸方向両端の内周に面取部を設けてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、永久磁石をヨーク分割体内へ挿入する際に永久磁石が面取部を滑ってヨーク分割体内に導かられるので、より一層組立が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の筒型リニアモータによれば、推力低下を防止しつつ組立を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
【
図2】一実施の形態の筒型リニアモータのティース部分の縦断面図である。
【
図3】一実施の形態の筒型リニアモータの界磁の一部拡大縦断面図である。
【
図4】主磁極の永久磁石の軸方向長さL1で副磁極の永久磁石の軸方向長さL2を割った値と筒型リニアモータの推力との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、
図1に示すように、筒状のコア3とコア3の外周に設けられたスロット4に装着される巻線5とを有する電機子2と、筒状であって内方に電機子2が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6とを備えて構成されている。
【0016】
以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。電機子2は、コア3と巻線5とを備えて構成されている。コア3は、円筒状のヨーク3aと、環状であってヨーク3aの外周に軸方向に間隔を空けて設けられる複数のティース3bとを備えて構成されて可動子とされている。
【0017】
ヨーク3aは、前述の通り円筒状であって、その横断面積は、コア3の軸線J(
図2参照)を中心として円筒でティース3bの内周から外周までのどこを切っても、ティース3bを前記円筒で切断した際にできる断面の面積以上となるように肉厚が確保されている。
【0018】
本実施の形態では、
図1および
図2に示すように、ヨーク3aの外周に10個のティース3bが、軸方向に等間隔に並べて設けられており、ティース3b,3b間に巻線5が装着される空隙でなるスロット4が形成されている。また、各ティース3bは、環状であって、コア3の両端に配置されたティース3bを除いて、軸方向において内周端の幅Wiより外周端の幅Woが狭い等脚台形状とされており、軸方向で両側の側面が外周端に対して等角度で傾斜するテーパ面とされている。そして、末端のティース3bを除いた他のティース3bをコア3の軸線Jを含む面で切断した断面において、ティース3bの側面とコア3の軸線に直交する直交面Oとでなす内角θは、6度から12度の範囲となる角度に設定されている。なお、末端のティース3bは、
図2に示すように、末端のティース3b以外の他のティース3bをコア3の軸線に直交する面で半分に切り落とした断面形状とされている。このように、各ティース3bの断面形状は、内周端の幅より外周端の幅が狭い台形状とされている。
【0019】
また、本実施の形態では、
図1中で隣り合うティース3b,3b同士の間には、空隙でなるスロット4が合計で9個設けられている。そして、このスロット4には、巻線5が巻き回されて装着されている。巻線5は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。9個のスロット4には、
図1中左側から順に、W相、W相、W相およびV相、V相、V相、V相およびU相、U相、U相、U相およびW相の巻線5が装着されている。
【0020】
そして、このように構成された電機子2は、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の外周に装着されている。具体的には、電機子2は、その
図1中で左端と右端とがロッド11に固定される環状のスライダ12,13によって保持されて、ロッド11に固定されている。
【0021】
他方、固定子Sは、本実施の形態では、円筒状の非磁性体で形成されるアウターチューブ7と、アウターチューブ7内に挿入される円筒状の磁性体で形成されるバックヨーク8と、バックヨーク8内に挿入されてバックヨーク8との間に環状隙間を形成する円筒状の非磁性体のインナーチューブ9と、バックヨーク8とインナーチューブ9との間の環状隙間に挿入される筒状の積層磁石体Mとを備えた界磁6とで構成されている。
【0022】
積層磁石体Mは、筒状のバックヨーク8とインナーチューブ9との間の環状隙間に軸方向に交互に積層されて挿入される複数の環状の主磁極となる永久磁石10aと複数の環状の副磁極となる永久磁石10bとを備えて構成されている。なお、
図1中で主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石10aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石10bの着磁方向は軸方向となっている。主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bは、ハルバッハ配列で配置されており、界磁6の内周側では、軸方向にS極とN極が交互に現れるように配置されている。
【0023】
また、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1は、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2よりも長くなっており、本実施の形態では、0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2が設定されている。主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を長くすればコア3との間の主磁極の永久磁石10aとの間の磁気抵抗を小さくできコア3へ作用させる磁界を大きくできるので筒型リニアモータ1の推力を向上できる。
【0024】
また、本発明の筒型リニアモータ1では、永久磁石10a,10bの外周にバックヨーク8を設けている。バックヨーク8を設けない場合、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2が短くなると主磁極の永久磁石10aの軸方向中央部分における磁石外部の磁気抵抗が増大し、界磁磁束が小さくなるため、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を長くする際の筒型リニアモータ1の推力向上度合が小さくなる。これに対して、永久磁石10a,10bの外周にバックヨーク8を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2の短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2よりも長くするとともに永久磁石10a,10bの外周に筒状のバックヨーク8を設けると筒型リニアモータ1の推力を大きく向上させ得る。バックヨーク8の肉厚は、主磁極の永久磁石10aの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。
【0025】
また、バックヨーク8は、
図1に示すように、複数の筒状のヨーク分割体8aを積層して形成されている。具体的には、バックヨーク8の軸方向両端におけるヨーク分割体8a以外のヨーク分割体8aの軸方向長さは、界磁6における磁極ピッチPの長さに設定されている。バックヨーク8の軸方向両端におけるヨーク分割体8aは、全部のヨーク分割体8aを積層した際に、バックヨーク8の全長が界磁6の全長以上となるように設定されるが、バックヨーク8の軸方向両端以外のヨーク分割体8aの全長以下に設定される。
【0026】
界磁6における磁極ピッチPは、
図3に示すように、主磁極の永久磁石10aの中央から副磁極の永久磁石10bを挟んで隣の主磁極の永久磁石10aの中央までとなる。また、磁力線の経路は、主磁極の永久磁石10aの中央から副磁極の永久磁石10bを挟んで隣の主磁極の永久磁石10aの中央までの範囲で主磁極の永久磁石10aから隣の主磁極の永久磁石10aに到るループ状となる。
【0027】
よって、ヨーク分割体8aの軸方向長さを磁極ピッチPとして、少なくともヨーク分割体8aの軸方向の端部eが主磁極の永久磁石10aの外周に配置されるようにすれば、積層磁石体Mの磁力線が複数のヨーク分割体8aを跨いでしまうが、バックヨーク8の磁気抵抗の増大を押さえつつ磁力線の外部への漏れを抑制できる。
【0028】
このように、バックヨーク8が複数のヨーク分割体8aを積層して形成されるので、永久磁石10a,10bを順々にバックヨーク8の全体長さからするとはるかに短いヨーク分割体8a内に挿入する作業は非常に容易となる。よって、バックヨーク8内への永久磁石10a,10bの挿入が容易となるので、筒型リニアモータ1の組立が非常に簡単になる。
【0029】
なお、理想的には、ヨーク分割体8aの軸方向長さを磁極ピッチPのとして、積層磁石体Mにおける主磁極の永久磁石10aの中央から副磁極の永久磁石10bを挟んで隣の主磁極の永久磁石10aの中央までの範囲の外周に装着すれば、磁力線が複数のヨーク分割体8a間のギャップを横切らずに済み、バックヨーク8の磁気抵抗が極小さくなるとともに磁力線の外部への漏れを抑制できる。前述したように、ハルバッハ配列による永久磁石10a,10bの場合、磁力線の経路が前述したように主磁極の永久磁石10aの中央から副磁極の永久磁石10bを挟んで隣の主磁極の永久磁石10aの中央の範囲をループする。そこで、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、ヨーク分割体8aと隣のヨーク分割体8aは、主磁極の永久磁石10aの軸方向中央の外周で当接しており、界磁6の磁力線がヨーク分割体8a,8a間の空隙を跨がずに済むようにして、バックヨーク8を複数のヨーク分割体8aで形成しても筒型リニアモータ1の推力が減少しないように配慮している。このようにすれば、バックヨーク8を複数の筒状のヨーク分割体8aを積層して形成しても、界磁6の内周側への磁界強度は、一つの筒体でなるバックヨークと遜色がない。つまり、ヨーク分割体8aと隣のヨーク分割体8aの当接面が主磁極の永久磁石10aの軸方向中央と同じ高さ位置にくるようにすると、筒型リニアモータ1の良好な組付性と推力低下の防止とを両立できる。
【0030】
なお、ヨーク分割体8aの軸方向長さが短くなればなるほど、永久磁石10a,10bをヨーク分割体8a内の挿入が容易となるが、ヨーク分割体8aの軸方向長さを磁極ピッチPの整数倍の長さとしても、ヨーク分割体8aの両端を主磁極の永久磁石10aの軸方向中央の外周側に配置できるので、このようにしてもよい。
【0031】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、
図3に示すように、ヨーク分割体8aの軸方向両端の内周の縁に面取部Cを設けている。このようにヨーク分割体8aの軸方向両端の内周に面取部Cを設けると、永久磁石10a,10bをヨーク分割体8a内へ挿入する際に永久磁石10a,10bが面取部Cを滑ってヨーク分割体8a内に導かられるので、より一層筒型リニアモータ1の組立が容易となる。
【0032】
なお、副磁極の永久磁石10bは、主磁極の永久磁石10aより高い保磁力を有する永久磁石とされている。永久磁石における残留磁束密度と保磁力は、互いに密接に関係しており、一般的に残留磁束密度を高めると保磁力は低くなり、保磁力を高めると残留磁束密度が低くなるという、互いに背反する関係にある。ハルバッハ配列では、副磁極の永久磁石10bには減磁方向に大きな磁界が印加されるため、副磁極の永久磁石10bの保磁力を高くして減磁を抑制し、大きな磁界をコア3に作用させ得るようにしている。対して、コア3に対して作用する磁界の強さは、主磁極の永久磁石10aの磁力線数に左右される。そのため、主磁極の永久磁石10aに高い残留磁束密度の永久磁石を使用して大きな磁界をコア3に作用させるようにしている。本実施の形態では、副磁極の永久磁石10bを主磁極の永久磁石10aよりも保磁力を高くするのに際して、副磁極の永久磁石10bの材料を主磁極の永久磁石10aの材料よりも保磁力が高い材料としている。よって、材料の選定によって、主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bの組合せを簡単に実現できる。なお、本実施の形態では、主磁極の永久磁石10aは、ネオジム、鉄、ボロンを主成分とする残留磁束密度が高い材料で構成され、副磁極の永久磁石10bは、前記材料にジスプロシウムやテリビウム等の重希土類元素の添加量を増やした減磁しにくい磁石で構成されている。
【0033】
また、固定子Sの内周側には、コア3が挿入されており、界磁6は、コア3に磁界を作用させている。なお、界磁6は、コア3の可動範囲に対して磁界を作用させればよいので、コア3の可動範囲に応じて永久磁石10a,10bの設置範囲を決定すればよい。したがって、アウターチューブ7とインナーチューブ9との環状隙間のうち、コア3に対向し得ない範囲には、永久磁石10a,10bを設置しなくともよい。
【0034】
バックヨーク8の軸方向長さは、積層磁石体Mの全長以上になっていればよく、積層磁石体Mの全長と等しい長さとしてもよい。この場合、ヨーク分割体8aのうちバックヨーク8の末端の両側に配置されるヨーク分割体8aの軸方向長さを他のヨーク分割体8aと異なる長さにして、バックヨーク8の全長を積層磁石体Mの全長と一致させてもよい。また、バックヨーク8の軸方向長さが積層磁石体Mの全長よりも長い場合、積層磁石体Mの末端の磁力線が大気へ洩れず筒型リニアモータ1の推力低下を防止できる。このように、バックヨーク8の軸方向長さを積層磁石体Mの軸方向長さよりも長くするには、積層磁石体Mが永久磁石10a,10bの加工誤差によって採りうる軸方向の最大長さよりもバックヨーク8の軸方向長さを長くしておけばよい。
【0035】
また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図1中左端はキャップ14によって閉塞されており、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の
図1中右端は内周に挿入されるロッド11の軸方向の移動を案内する環状のヘッドキャップ15によって閉塞されている。
【0036】
ヨーク分割体8aは積層されてアウターチューブ7の内周に収容されて、アウターチューブ7の開口端を閉塞するキャップ14とヘッドキャップ15とによって挟持されてアウターチューブ7内で固定される。なお、アウターチューブ7を設けない場合、ヨーク分割体8aの軸方向両端の外周にフランジを設けて隣り合うヨーク分割体8aのフランジ同士を突き合わせてボルトとナットによってヨーク分割体8a同士を固定的に連結してもよい。
【0037】
また、インナーチューブ9の内周には、スライダ12,13が摺接しており、スライダ12,13によって電機子2はロッド11とともに界磁6に対して偏心せずに軸方向へスムーズに移動できる。インナーチューブ9は、コア3の外周と各永久磁石10a,10bの内周との間のギャップを形成するとともに、スライダ12,13と協働してコア3の軸方向移動を案内する役割を果たしている。なお、インナーチューブ9は、非磁性体で形成されればよいが、合成樹脂で形成されると筒型リニアモータ1の推力密度向上効果が高くなる。インナーチューブ9を非磁性体の金属で製造すると、電機子2が軸方向へ移動する際にインナーチューブ9の内部に渦電流が生じて、電機子2の移動を妨げる力が発生してしまう。これに対して、インナーチューブ9を合成樹脂とすれば渦電流が生じないので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できるとともに、筒型リニアモータ1の質量を低減できる。なお、インナーチューブ9を合成樹脂とする場合、フッ素樹脂で製造すればスライダ12,13との間の摩擦および摩耗を低減できる。また、インナーチューブ9を他の合成樹脂で形成してもよく、また、摩擦および摩耗を低減するべく他の合成樹脂で形成されたインナーチューブ9の内周をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0038】
なお、キャップ14には、巻線5に接続されるケーブル16を外部の図示しない電源に接続するコネクタ14aを備えており、外部電源から巻線5へ通電できるようになっている。また、アウターチューブ7、バックヨーク8およびインナーチューブ9の軸方向長さは、コア3の軸方向長さよりも長く、コア3は、界磁6内の軸方向長さの範囲で
図1中左右へストロークできる。
【0039】
そして、たとえば、巻線5の界磁6に対する電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線5の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と電機子2の移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。このように、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子2が可動子であり、界磁6は固定子として振る舞う。また、電機子2と界磁6とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線5への通電、あるいは、巻線5に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0040】
以上のように、本発明の筒型リニアモータ1は、筒状のコア3とコア3の外周に設けられたスロット4に装着される巻線5とを有する電機子2と、筒状であって内方に電機子2が軸方向へ移動自在に挿入されて軸方向にN極とS極とが交互に配置される界磁6とを備え、界磁6は、ハルバッハ配列にて軸方向に交互に並べられる径方向に着磁された主磁極の永久磁石10aと軸方向に着磁された副磁極の永久磁石10bとを有する積層磁石体Mと、積層磁石体Mの外周に配置され磁性体で形成される筒状のバックヨーク8とを有し、バックヨーク8は、筒状であって軸方向長さが界磁6の磁極ピッチPの整数倍の長さの複数のヨーク分割体8aを軸方向に積層して形成されており、ヨーク分割体8aの端部eは主磁極の永久磁石10aの外周に配置されて構成されている。
【0041】
このように構成された筒型リニアモータ1では、ヨーク分割体8aの軸方向長さを磁極ピッチPの整数倍の長さとされて、ヨーク分割体8aの端部eが主磁極の永久磁石10aの外周に配置されるので、バックヨーク8を複数のヨーク分割体8aで構成してもバックヨーク8の磁気抵抗の増大を押さえつつ磁力線の外部への漏れを抑制できる。そして、バックヨーク8がバックヨーク8の軸方向長さよりも軸方向長さが短い複数のヨーク分割体8aで形成されるので、永久磁石10a,10bを短いヨーク分割体8a内に挿入する作業は非常に容易となる。よって、本発明の筒型リニアモータ1によれば、組立が非常に簡単になる。
【0042】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、隣り合うヨーク分割体8a同士は、主磁極の永久磁石10aの軸方向中央の外周で当接している。このように構成された筒型リニアモータ1によれば、良好な組付性と推力低下の防止とを両立できる。
【0043】
さらに、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、ヨーク分割体8aの軸方向両端の内周に面取部Cを設けている。このように構成された筒型リニアモータ1によれば、永久磁石10a,10bをヨーク分割体8a内へ挿入する際に永久磁石10a,10bが面取部Cを滑ってヨーク分割体8a内に導かられるので、より一層組立が容易となる。
【0044】
なお、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、界磁6は、ハルバッハ配列にて軸方向に交互に並べられる径方向に着磁された主磁極の永久磁石10aと軸方向に着磁された副磁極の永久磁石10bと、永久磁石10a,10bの外周に配置される筒状のバックヨーク8とを有し、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1は副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2よりも長い。
【0045】
このように筒型リニアモータ1が構成されると、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を長くして、主磁極の永久磁石10aとコア3との間の磁気抵抗を小さくできるとともに、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2を短くしてもバックヨーク8を設けているので磁気抵抗の増大を抑制でき、コア3へ作用させる磁界を大きくできる。
【0046】
よって、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、副磁極の永久磁石10bの減磁を抑制しつつも主磁極の永久磁石10aとコア3との間の磁気抵抗を小さくでき効果的に推力を向上できる。
【0047】
なお、副磁極の永久磁石10bが主磁極の永久磁石10aよりも高い保磁力を有していれば、大きな磁界が印加される副磁極の永久磁石10bの減磁を抑制しつつも主磁極の永久磁石10aに高い残留磁束密度の永久磁石を利用できる。
【0048】
また、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1を副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2よりも長くすれば、界磁6はコア3に大きな磁界を作用させ得るが、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2に最適な関係がある。
図4に主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1で副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2を割った値と筒型リニアモータ1の推力との関係を示す。発明者らは、鋭意研究した結果、
図4に示すように、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2が0.15≦L2/L1≦0.6を満たすように設定されれば、L2/L1の値を理想的な値に設定した際の推力に対して95%以上の推力を確保できることを知見した。
【0049】
よって、筒型リニアモータ1における主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2を0.15≦L2/L1≦0.6を満たすように設定すれば、推力を一層向上できる。さらに、
図4から理解できるように、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さL1と副磁極の永久磁石10bの軸方向長さL2が0.2≦L2/L1≦0.5を満たすように設定されれば、L2/L1の値を理想的な値に設定した際の推力に対して98%以上の推力を確保できるので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できる。
【0050】
さらに、本実施の形態の筒型リニアモータ1にあっては、ティース3bの断面形状は、内周端の幅より外周端の幅が狭い台形状とされているので、ティース3bの断面形状を矩形とする場合に比較して、内周端における磁路断面積が広くなる。よって、このように構成された筒型リニアモータ1では、大きな磁路断面積を確保しやすくなり、巻線5を通電した際の磁気飽和を抑制でき、より大きな磁場を発生できるからより大きな推力を発生できる。なお、推力の向上のためには、ティース3bの断面形状を台形とする等として、ティース3bの磁路断面積においてボトルネックとなるティース3bの内周端における磁路断面積を広くするのが好ましいが、ティース3bの断面形状を矩形としてもよいし、他の形状としてもよい。
【0051】
なお、発明者らの研究によって、ティース3bの断面における側面と直交面Oとでなす内角θが6度から12度の範囲にあると、良好な質量推力密度が得られることが分かった。ここで、質量推力密度とは、前述の構成の筒型リニアモータ1の最大推力を質量で割った数値であり、質量推力密度が良化すれば、筒型リニアモータ1の質量当たりの推力が大きくなる。よって、ティース3bの断面における側面と直交面Oとでなす内角θが6度から12度の範囲にある筒型リニアモータ1では、大きな推力が得られる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・筒型リニアモータ、2・・・電機子、3・・・コア、4・・・スロット、5・・・巻線、6・・・界磁、8・・・バックヨーク、8a・・・ヨーク分割体、10a・・・主磁極の永久磁石、10b・・・副磁極の永久磁石、M・・・積層磁石体、C・・・面取部、P・・・磁極ピッチ