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  • 特許-ダンパの振動試験装置 図1
  • 特許-ダンパの振動試験装置 図2
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  • 特許-ダンパの振動試験装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ダンパの振動試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20230216BHJP
   G01M 13/00 20190101ALI20230216BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G01N3/32 J
G01M13/00
G01M7/02 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018197264
(22)【出願日】2018-10-19
(65)【公開番号】P2020064021
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(72)【発明者】
【氏名】増田 恵太
(72)【発明者】
【氏名】眞田 一志
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠太
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-163254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/32
G01M 13/00
G01M 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレスコピック型のダンパに振動を与えるアクチュエータと、
前記ダンパの伸縮変位、伸縮速度および伸縮加速度の三つの情報のうち90度位相がずれた二つ情報を検知する検知器と、
目標指令を前記検知器で検知した前記二つの情報を一つのニューラルネットワークモデルに入力して前記ダンパの反力を打ち消す補正値を求める補正器を有し、前記補正値で前記目標指令を補正して得た補正指令を前記アクチュエータへ与えて前記アクチュエータを制御するコントローラとを備えた
ダンパの振動試験装置。
【請求項2】
テレスコピック型のダンパに振動を与えるアクチュエータと、
前記ダンパの伸縮変位、伸縮速度および伸縮加速度の三つの情報の全部を検知する検知器と、
目標指令を前記検知器で検知した前記三つの情報を一つのニューラルネットワークモデルに入力して前記ダンパの反力を打ち消す補正値を求める補正器を有し、前記補正値で前記目標指令を補正して得た補正指令を前記アクチュエータへ与えて前記アクチュエータを制御するコントローラとを備えた
ことを特徴とする振動試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパの振動試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラントに対して指令を入力して、プラントの出力を目標波形通りに制御するシステムとしては、プラントの出力を検知して、この出力をフィードバックして目標波形が指示する指示値との偏差を求め、PI補償やPID補償を行ってプラントへ与える指令を求めるものがある。このように、フィードバック制御を行うシステムとしては、たとえば、ダンパに油圧アクチュエータで振動を与えてダンパの疲労耐久性をテストするダンパの振動試験装置がある。
【0003】
ダンパに対して油圧アクチュエータで正弦波振動を与えて振動試験を行う振動試験機における油圧アクチュエータは、内部にピストンで区画される伸側室と圧側室とを有するシリンダと、ピストンに連結されてシリンダ内に挿入されてシリンダに対して軸方向に移動可能なロッドと、伸側室と圧側室を油圧源とタンクとに連通可能なサーボ弁とを備えている。このような、油圧アクチュエータを備えた振動試験装置は、油圧アクチュエータの変位、速度或いは加速度をフィードバックするフィードバック制御を行って、サーボ弁を駆動して油圧アクチュエータのストロークと推力を制御する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-101708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダンパは伸縮すると減衰力と称される反力を発生するため、油圧アクチュエータをフィードバック制御する場合、ダンパが出力する減衰力の影響を加味してやらないとダンパに目標指令通りに振動を与えられない。
【0006】
フィードバック制御によって油圧アクチュエータを制御する場合、ダンパの反力を外乱と看做して、ダンパの反力を伝達関数でモデル化して目標指令から差し引いてやれば、ダンパに目標指令通りに振動を与えられるようにも思える。
【0007】
しかしながら、ダンパ内に充填される作動油には気体が含まれており、ダンパが伸縮する速度に対して出力する減衰力の特性は、図4に示すように、ヒステリシスを持つとともに、速度に対して減衰力が非線形となる特性となる。したがって、伝達関数モデルでは非線形なダンパの減衰力を表現するのは不可能であり、モデル無しでは発生する反力を考慮した制御をすることができないので、目標指令通りにダンパへ振動を与えるのは難しい。
【0008】
非線形特性を学習し得るニューラルネットワークモデルを利用した油圧アクチュエータの動作の学習およびシステム同定では、目標指令の入力から油圧アクチュエータの出力までのモデルの逆モデルを学習し、目標指令から油圧アクチュエータへ与える操作量を得ることも考えられる。しかしながら、油圧アクチュエータの応答には油圧系やサーボ弁由来の大きな時間遅れがあって、単に畳み込み系のニューラルネットワークモデルを利用しただけでは時間遅れに対応できず、やはり、目標指令にダンパの振動を精度よく追従させるのは難しい。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ダンパの振動を目標指令に精度よく一致させ得るダンパの振動試験装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明のダンパの振動試験装置は、テレスコピック型のダンパに振動を与えるアクチュエータと、ダンパの伸縮変位、伸縮速度および伸縮加速度の三つの情報のうち90度位相がずれた二つ情報を検知する検知器と、目標指令を前記検知器で検知した二つの情報を一つのニューラルネットワークモデルに入力してダンパの反力を打ち消す補正値を求める補正器を有し、補正器で目標指令を補正して得た補正指令をアクチュエータへ与えてアクチュエータを制御するコントローラとを備えている。このように構成されたコントローラは、アクチュエータを制御するにあたってダンパの反力を補正器で学習し、ダンパの反力を打ち消す補正値を求め得る。
【0011】
また、ダンパの振動試験装置は、テレスコピック型のダンパに振動を与えるアクチュエータと、ダンパの伸縮変位、伸縮速度および伸縮加速度の三つの情報の全部を検知する検知器と、目標指令を検知器で検知した三つの情報を一つのニューラルネットワークモデルに入力してダンパの反力を打ち消す補正値を求める補正器を有し、補正値で目標指令を補正して得た補正指令をアクチュエータへ与えてアクチュエータを制御するコントローラとを備えてもよい。このように構成されたダンパの振動試験装置によれば、ダンパの反力を精度よく打ち消す補正値を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のダンパの振動試験装置によれば、ダンパの振動を目標指令に精度よく一致させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施の形態におけるダンパの振動試験装置の構成図である。
図2】一実施の形態におけるダンパの振動試験装置のコントローラの制御ブロック図である。
図3】補正器の構成を示した図である。
図4】ダンパの伸縮速度に対する反力である減衰力の特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態におけるダンパの振動試験装置1は、テレスコピック型のダンパDに振動を与えるアクチュエータAと、ダンパDの伸縮変位、伸縮速度および伸縮加速度の三つの情報を検知する検知器Sと、前記三つの情報をフィードバックしてアクチュエータAを制御するコントローラCとを備えている。
【0015】
ダンパDは、テレスコピック型のダンパであって、一端がアクチュエータAに連結されるとともに他端はダンパの振動試験装置1の門型フレームFに対して上下動可能に装着されるクランプ2に連結される。
【0016】
アクチュエータAは、本実施の形態では、図1に示すように、直動型の油圧シリンダとされており、コントローラCからの指令の入力によって、指令が指示する伸縮方向と速度に応じて伸縮する。本実施の形態では、ダンパDの伸縮方向は、アクチュエータAの伸縮方向に一致させており、アクチュエータAが伸縮するとダンパDの同様に伸縮してダンパDに振動が与えられる。なお、本実施の形態では、ダンパDの伸縮方向とアクチュエータAの伸縮方向とを一致させているが、ダンパDとアクチュエータAとを回転可能に連結して、アクチュエータAに対してダンパDを斜めに連結して、ダンパDに伸縮方向の振動の他に横方向の振動を負荷するようにして試験を行ってもよい。
【0017】
検知器Sは、本実施の形態では、ダンパDの伸縮加速度αを検知する加速度センサ3と、加速度センサ3で検知した伸縮加速度αを積分して伸縮速度vを得る積分器4と、伸縮速度vを積分して伸縮変位xを得る積分器5とを備えている。なお、検知器Sは、ダンパDの伸縮変位を検知するストロークセンサと、ストロークセンサで検知したダンパDの伸縮変位xを微分してダンパDの伸縮速度vを得る微分器と、微分器で検知したダンパDの伸縮速度をさらに微分してダンパDの伸縮加速度αを得る微分器とで構成されてもよい。また、検知器Sは、ダンパDの伸縮加速度αを検知する加速度センサ3と、ダンパDの伸縮変位を検知するストロークセンサと、伸縮加速度を積分する積分器或いは伸縮変位を微分する微分器とで構成されてもよい。
【0018】
コントローラCは、図2に示すように、ニューラルネットワークモデルを利用してダンパDの反力を打ち消す指令を補正値Rとして求める補正器6と、入力される目標指令Uから補正値Rを差し引いて補正指令Uを生成する加算器7とを備えて構成されている。
【0019】
補正器6は、目標指令Uと、ダンパDの伸縮変位x、伸縮速度v、伸縮加速度αとの入力を受けて、アクチュエータAによって振動が入力されることによってダンパDが出力する反力である減衰力をニューラルネットワークモデルを利用して学習し、このダンパDの反力を打ち消すための補正値Rを求める。
【0020】
具体的には、補正器6は、図3に示すように、目標指令Uの他、ダンパDの伸縮変位x、伸縮速度v、伸縮加速度αの情報を入力層に入力して、各情報に重みづけ係数W11,W12,・・・W1n,W21,W22,・・・W2n,W31,W32・・・W3nを乗じて重みづけして中間層のn個の情報y1,y2,・・・,ynを得る。さらに、補正器6は、これら中間層の情報y1,y2,・・・ynにそれぞれ重みづけ係数W41,W42,・・・W4nを乗じて重みづけして出力層の補正値Rを得る。なお、中間層における情報の個数は、任意に設定できる。
【0021】
補正器6は、目標指令の入力からアクチュエータAへの操作量が入力される度に、つまり、目標指令に対するダンパDの応答である三つの情報から入力層の情報が得られる度に、出力層の補正値RがダンパDの減衰力に等しくなるように、重みづけ係数W11,W12,・・・W4nを調整して、ダンパDの反力の特性を学習していく。なお、補正器6による学習には、Adamの学習側の他、種々の学習則を利用可能である。
【0022】
このようにして補正器6は、ダンパDの反力である減衰力を学習するので、ダンパDの反力を打ち消す補正値Rを精度よく求め得る。ダンパDの伸縮速度vと伸縮変位xの二つの情報或いは伸縮速度vと伸縮加速度αの二つの情報を利用して補正器6で学習する場合、伸縮変位x或いは伸縮加速度αをダンパDの減衰力のヒステリシスの場合分けの材料として用いることができ、ニューラルネットワークモデルの本来の特性である判別が働き、伸縮速度vに対してヒステリシス特性の結びつけが可能なる。また、本来であればダンパDの反力のヒステリシスの場合分けの材料としては伸縮速度vに対するダンパDの反力の微分もしくは時間微分により成されるが、反力の微分や時間微分を求めるには遅れ特性を持つフィルタを使用する必要があり、制御系に遅れと構成を持つフィルタを利用するとコントローラCの性能低下につながってしまう。これに対して、ダンパDの伸縮速度vと伸縮変位xの二つの情報或いは伸縮速度vと伸縮加速度αの二つの情報を利用する場合、ノイズの影響や計測精度が良好なデータを選択して用いることができ、補正器6は、補正値Rを効率的に求め得る。なお、本実施の形態では、伸縮変位x、伸縮速度vおよび伸縮加速度αの三つの情報を補正器6に入力するようにしているので、補正値Rを得るまでの時間の短縮に加えて、より高精度の補正値Rが得られる。
【0023】
加算器7は、目標指令Uから補正器6で得た補正値Rを差し引いて補正指令Uを求め、補正指令Uを操作量としてアクチュエータAに与える。このようにしてコントローラCは、アクチュエータAを制御するので、ダンパDの反力を打ち消してダンパDに対して目標指令通りに振動を負荷して良好な振動試験を行える。
【0024】
以上のように、本実施の形態のダンパの振動試験装置1は、テレスコピック型のダンパDに振動を与えるアクチュエータAと、ダンパDの伸縮変位x、伸縮速度vおよび伸縮加速度αの三つの情報のうち90度位相がずれた二つ情報を検知する検知器Sと、目標指令Uを前記検知器Sで検知した情報の入力によってニューラルネットワークモデルを利用してダンパDの反力を打ち消す補正値Rを求める補正器6を有し、補正器6で目標指令Uを補正して得た補正指令UをアクチュエータAへ与えてアクチュエータAを制御するコントローラCとを備えている。このように構成されたコントローラCは、システムの非線形写像関係を部分的にニューラルネットワークに学習させることにより既存の伝達関数を用いた逆システムを利用した制御とニューラルネットワークによる補正値Rを推定する機械学習を組み合わせることによってアクチュエータAを制御する。よって、コントローラCは、アクチュエータAを制御するにあたりダンパDの非線形な反力を補正器6で学習してダンパDの反力を打ち消す補正値Rを求め得るので、ダンパDの振動が目標指令に精度良く一致し、良好な振動試験を行える。
【0025】
また、本実施の形態のダンパの振動試験装置1では、検知器Sが伸縮変位x、伸縮速度vおよび伸縮加速度αの三つの情報の全部を検知し、補正器6が伸縮変位x、伸縮速度vおよび伸縮加速度αの三つの情報を利用して目標指令Uを補正する補正値Rを得るので、ダンパDの反力を精度よく打ち消す補正値Rを得ることができる。
【0026】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【符号の説明】
【0027】
1・・・ダンパの振動試験装置、6・・・補正器、A・・・アクチュエータ、C・・・コントローラ、D・・・ダンパ、S・・・検知器
図1
図2
図3
図4