(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】解乳化剤
(51)【国際特許分類】
B01D 17/04 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
B01D17/04 501C
(21)【出願番号】P 2019036213
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】木島 哲史
(72)【発明者】
【氏名】金海 吉山
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-064408(JP,A)
【文献】特開昭63-042751(JP,A)
【文献】特開昭51-117973(JP,A)
【文献】米国特許第5868939(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/00-17/12
C02F 1/40
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子および少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物
である、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸またはニトリロトリス(メチレンホスホン酸)の反応生成物であるコンポジット粒子よりなる解乳化剤。
【請求項2】
磁性粒子がマグネタイトである請求項1記載の解乳化剤。
【請求項3】
磁性粒子40~80重量%に対し、ホスホン酸部位含有化合物である1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸または2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸が60~20重量%の割合で用いられる請求項1記載の解乳化剤。
【請求項4】
磁性粒子40~65重量%に対し、ホスホン酸部位含有化合物であるニトリロトリス(メチレンホスホン酸)が60~35重量%の割合で用いられる請求項1記載の解乳化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解乳化剤に関する。さらに詳しくは、エマルジョンの解乳化に有効に用いられる解乳化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油ガス田、化学プラント、ガソリンスタンド、飲食店等から排出される油を含んだ汚染水を処理するために、比重差による分離、微生物処理、化学的処理などで油と水との分離を行っている。
【0003】
また、汚染水の他、水と油のように互いに混ざり合わない2種以上の液体が、洗剤等の界面活性剤の存在下で、一方の液体中が他方の液体中に微粒子状に分散した安定なエマルジョンを形成することがあるため、エマルジョンの破壊である解乳化が必要となることが多い。
【0004】
解乳化方法としては、特定のオキシアルキル化第1脂肪族アミンとジカルボン酸とのエステル化生成物を油中水型の石油エマルジョンに添加する方法(特許文献1)などの化学的方法、容器の外側から電界、好ましくは交流電界を印加することにより、非接触で油中水型エマルジョンの解乳化を行う方法(特許文献2)など等の電気的方法、全くの機械的方法(特許文献3~4)などがあるが、これらは処理時間、コストがかかるなどの問題があり、簡便かつ廉価な解乳化を含む油水分離方法とはいい難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-128558号公報
【文献】特開2008-49267号公報
【文献】特開2018-94530号公報
【文献】WO 2015/156386 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡便かつ廉価に解乳化を含む油水分離方法に有効に用いられる解乳化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、磁性粒子および少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物である、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸またはニトリロトリス(メチレンホスホン酸)の反応生成物であるコンポジット粒子よりなる解乳化剤によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
ホスホン酸部位を有する化合物を用いることによって親水性を得ることができ、またマグネタイト微粒子等の磁性粒子を用いることで、コンポジット粒子に磁性を持たせることができる。
【0009】
このようにコンポジット粒子が親水性と磁性とを持つことにより、コンポジット粒子を水と油からなるエマルジョン溶液に分散させた状態とし、磁石によってコンポジット粒子および水を引き寄せることで、エマルジョンの破壊が可能となり、水と油を分離することができる。
【0010】
すなわち、本発明のコンポジット粒子の親水性によって、コンポジット粒子は界面活性剤によってミセル中の水が安定分散したエマルジョンを破壊する解乳化剤として働き、ミセル中の水を油中に引き込むことでエマルジョンの解乳化が可能となる。
【0011】
解乳化効率は、エマルジョンがどの程度破壊されたかを示す値であり、本発明では、その値は90%以上であり、油中に安定分散したミセル内部からの水の分離性が高いことを示している。しかも、コンポジット粒子を解乳化剤として6回くり返して使用しても、解乳化効率は80%以上を維持している。
【0012】
エマルジョンの解乳化作用を応用することにより、油ガス田、化学プラント、ガソリンスタンド、飲食店から排出される油を含んだ汚染水等のエマルジョンからの水分の有効な回収を図ることができるという効果がもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のコンポジット粒子は、磁性粒子およびホスホン酸部位含有化合物からなる。
【0014】
磁性粒子としては、例えばマグネタイト、フェライト、マグヘマイト、けい素鉄、パーマロイ、アモルファス金属等の微粒子、好ましくはマグネタイトのナノ微粒子等が用いられる。一般に、その平均粒径が約50~200nmのものが用いられる。
【0015】
少なくとも1個のホスホン酸部位を有する化合物
として、
1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸〔HEDP〕
2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)〔NTMP〕
が挙げられ、好ましくは1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸または2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸が用いられる。
【0016】
磁性粒子は、用いられるホスホン酸部位含有化合物の種類に応じて、それぞれ異なった割合で用いられる。1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸または2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸の場合には、それらの約60~20重量%、好ましくは約60~40重量%に対し、磁性粒子が約40~80重量%、好ましくは約40~60重量%の割合で用いられ、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)の場合には、それの約60~35重量%、好ましくは約60~50重量%に対し、磁性粒子が約40~65重量%、好ましくは約40~50重量%の割合で用いられる。
【0017】
コンポジット粒子の調製は、磁性粒子をテトラヒドロフラン中約40℃以下で約3~5時間超音波攪拌した後、ホスホン酸部位含有化合物を加え、同様の条件下で超音波攪拌することにより行われる。
【0018】
溶媒を除去した粗生成物は、一夜テトラヒドロフラン中に分散させた後、磁石により生成物を沈殿させ、分離された生成物を数回テトラヒドロフランで洗浄し、溶媒除去後約50~70℃で減圧乾燥することにより、コンポジット粒子が取得される。
【0019】
得られたコンポジット粒子は、そのままあるいはテトラヒドロフラン分散液として、油中水型あるいは水中油型のエマルジョンに添加し、攪拌される。その添加割合は、油中水型エマルジョンにあっては、1kg当り約1~50g、好ましくは約5~20gである。その際、磁石を用いることが好ましい。
【0020】
本発明のコンポジット粒子は、親水性をもつ親水剤として有効であり、油水の分離用途にも効果的に用いることもできる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0022】
実施例1
容量13.5mlの反応容器に、マグネタイトナノ粒子(戸田工業製品、平均粒径50~200nm)100mgおよびテトラヒドロフラン5mlを仕込み、30℃以下で3時間超音波攪拌した。その後、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸〔HEDP〕(60重量%水溶液)を純分として30mgを加え、さらに3時間超音波攪拌した。
【0023】
超音波攪拌後、85℃、減圧条件下で溶媒を除去し、粗生成物を新たなテトラヒドロフラン中に一夜分散させた。その後、磁石で生成物を沈殿させ、分離された生成物をテトラヒドロフランで数回洗浄した。溶媒除去後に、50℃で減圧乾燥させることにより、コンポジット粒子を得た。
【0024】
実施例2
実施例1において、HEDP量が60mgに変更された。
【0025】
実施例3
実施例1において、HEDP量が90mgに変更された。
【0026】
実施例4
実施例1において、HEDP量が120mgに変更された。
【0027】
実施例5
実施例1において、HEDPの代わりに、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕(50重量%水溶液)が30mg用いられた。
【0028】
実施例6
実施例1において、HEDPの代わりに、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕(50重量%水溶液)が60mg用いられた。
【0029】
実施例7
実施例1において、HEDPの代わりに、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕(50重量%水溶液)が90mg用いられた。
【0030】
実施例8
実施例1において、HEDPの代わりに、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸〔PBTC〕(50重量%水溶液)が120mg用いられた。
【0031】
実施例9
実施例1において、HEDPの代わりに、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)〔NTMP〕(50重量%水溶液)が60mg用いられた。
【0032】
実施例10
実施例1において、HEDPの代わりに、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)〔NTMP〕(50重量%水溶液)が90mg用いられた。
【0033】
実施例11
実施例1において、HEDPの代わりに、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)〔NTMP〕(50重量%水溶液)が120mg用いられた。
【0034】
以上の各実施例で得られたコンポジット粒子について、次のようにして解乳化効率Dを測定した。
(1) n-ドデカン 80重量部、水10重量部およびノニオン系界面活性剤(シグマアルドリッチ製品Span 80)10重量部を混合して、エマルジョン溶液を調製
(2) このエマルジョン溶液を、n-ドデカンで30倍に希釈
(3) 希釈溶液をUV-Visで、500nmにおける吸光度(A0)を測定
(4) 測定後、希釈溶液にコンポジット粒子を20g/Lの濃度になるように添加し、5分間超音波照射して分散させる
(5) 超音波照射後、磁石を近付けてコンポジット粒子と水とを回収し、残った溶液の吸光度(Ae)を測定
(6) 下記式に従って、解乳化効率Dを算出する
D (%) = (A0 - Ae) / A0×100
【0035】
得られた結果は、次の表1に示される。なお、Fe3O4(50~200nm)単独のD値は、45%であった。
表1
実施例 D (%)
1 96
2 99
3 88
4 97
5 97
6 96
7 99
8 98
9 89
10 84
11 90
【0036】
また、120mgのHEDPまたはPBTCが用いられた実施例4または8について、リサイクル性解乳化効率D′が測定された。
(1) 上記解乳化効率Dの測定方法(5)で回収したコンポジット粒子をアセトンで洗浄し、乾燥する
(2) 得られた乾燥コンポジット粒子を用いて、上記解乳化効率Dの測定方法(3)~(6)をくり返す
【0037】
得られた結果は、次の表2に示される。
表2
実施例 くり返し回数(回) D′(%)
4 1 97
2 97
3 93
4 95
5 87
6 93
8 1 95
2 99
3 98
4 90
5 88
6 85