(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】茶の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/06 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
A23F3/06 A
(21)【出願番号】P 2019049023
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】518083434
【氏名又は名称】株式会社起立工商会社
(73)【特許権者】
【識別番号】590003722
【氏名又は名称】佐賀県
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(74)【代理人】
【識別番号】100194984
【氏名又は名称】梶原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊一
(72)【発明者】
【氏名】山口 幸蔵
(72)【発明者】
【氏名】中村 典義
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 直宏
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-510781(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105285191(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101161086(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108402219(CN,A)
【文献】特開2011-223999(JP,A)
【文献】特開2014-054219(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106615303(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107258958(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103385336(CN,A)
【文献】揺青機の試作とそれを利用した半発酵茶の製造,高知県農業技術センターニュース,2016年,第84号,p.5
【文献】煎茶用品種「やぶきた」の二番茶と煎茶製造用機械を活用した紅茶の製造技術,高知の農林業新技術:農業技術センター茶葉試験場,2014年,p.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00-3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉を萎凋する萎凋工程と、
萎凋した後、揺青して茶葉に傷をつける揺青工程と、
揺青した後、茶葉を堆積させて静置する静置工程と、
静置した後、茶葉を乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記萎凋工程は、
茶葉を日光にさらす日光萎凋工程と、
日光にさらした後、室内で茶葉を広げて萎凋する室内萎凋工程を有し、
前記静置工程は、
堆積させた茶葉を樹脂製のシートで包んで静置し、
前記乾燥工程は、よりが入っていない形状の茶葉を乾燥させ、
前記乾燥工程を経た茶葉から抽出した茶飲料は苦渋味が抑制された
茶の製造方法。
【請求項2】
茶葉を萎凋する萎凋工程と、
萎凋した後、揺青して茶葉に傷をつける揺青工程と、
揺青した後、茶葉を堆積させて静置する静置工程と、
静置した後、茶葉を乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記萎凋工程は、
茶葉を日光にさらす日光萎凋工程と、
日光にさらした後、室内で茶葉を広げて萎凋する室内萎凋工程を有し、
前記静置工程は、
堆積させた茶葉を樹脂製のシートで包んで静置し、
前記乾燥工程は、組織構造が保たれた茶葉を乾燥させ、
前記乾燥工程を経た茶葉から抽出した茶飲料は苦渋味が抑制された
茶の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程を経た茶葉を、下記(A)及び(B)の条件で処理して測定した総ポリフェノール類含量が、没食子酸当量で0.50mg/mL以下である
請求項1又は請求項2に記載の茶の製造方法。
(A)茶葉を8号篩で切断し、かつ、14号篩上に篩分ける、又は、茶葉を4号篩で切断する。
(B)上記(A)を経た茶葉3.0gを100℃、140mLの湯で90秒間浸出する。
【請求項4】
前記乾燥工程を経た茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、
ネロリドールのピーク面積の比が、下記の条件(a)を満たし、かつ、ベンゼンアセトアルデヒドのピーク面積の比が、下記の条件(b)を満たす
請求項1又は請求項2に記載の茶の製造方法。
(a)ネロリドール:1.1~3.0、
(b)ベンゼンアセトアルデヒド:6.1~13.8
【請求項5】
前記乾燥工程を経た茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、
ネロリドールのピーク面積の比が、下記の条件(a)を満たし、かつ、2-メチルブチルアルデヒドのピーク面積の比が、下記の条件(b)を満たす
請求項1又は請求項2に記載の茶の製造方法。
(a)ネロリドール:1.1~3.0、
(b)2-メチルブチルアルデヒド:0.7~2.1
【請求項6】
前記乾燥工程を経た茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、
ネロリドールのピーク面積の比が、下記の条件(a)を満たし、ベンゼンアセトアルデヒドのピーク面積の比が、下記の条件(b)を満たし、かつ、2-メチルブチルアルデヒドのピーク面積の比が、下記の条件(c)を満たす
請求項1又は請求項2に記載の茶の製造方法。
(a)ネロリドール:1.1~3.0、
(b)ベンゼンアセトアルデヒド:6.1~13.8
(c)2-メチルブチルアルデヒド:0.7~2.1
【請求項7】
前記乾燥工程を経た茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、
メチルヘプテノンのピーク面積の比が、下記の条件(a)を満たす、
請求項4、請求項5又は請求項6に記載の茶の製造方法。
(a)メチルヘプテノン:0.7~3.6
【請求項8】
前記静置工程は、
1時間~5時間の範囲内で茶葉を静置する
請求項1~7のいずれか1項に記載の茶の製造方法。
【請求項9】
茶葉の品種が、やぶきた、又は、べにふうきである
請求項1~8のいずれか1項に記載の茶の製造方法。
【請求項10】
出開きの茶葉を茶葉原料とする
請求項1~9のいずれか1項に記載の茶の製造方法。
【請求項11】
茶葉は碾茶状の形状を有する
請求項1~10のいずれか1項に記載の茶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は茶の製造方法に関する。詳しくは、簡易な工程で製造することが可能である共に、茶葉から抽出した茶飲料において、すっきりとした味を有し、後味に甘味があり、果実様の香りや焙煎香が感じられ、苦渋味が抑制された茶飲料が得られる茶の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、緑茶及び紅茶をはじめ、複数の茶種の茶葉から抽出した茶飲料が嗜好品として親しまれている。
【0003】
また、代表的な茶種として、緑茶、紅茶、白茶、黄茶、烏龍茶、黒茶等が存在する。各茶種の茶葉の製造工程においては、その種類ごとに異なる工程を経て、茶種ごとに特徴的な味及び香り等が生じる。
【0004】
例えば、緑茶や烏龍茶等では、生茶葉を蒸す又は炒るなどして加熱し、茶葉の酸化作用を抑えるための殺青が行われる。
【0005】
また、緑茶や紅茶等では、機械加工等により茶葉を揉み込む揉捻が行われる。紅茶では、揉捻により、茶葉の酸化発酵が促される。また、緑茶では、茶葉を乾かしながら揉んで形を整える粗揉、中揉、精揉等が行われる。
【0006】
また、茶飲料では、消費者の嗜好に合わせて、甘味や香味のバリエーションが複数存在することが求められている。例えば、特許文献1に記載の紅茶抽出液の製造方法では、健康への配慮や食事の際の飲用を考慮して、甘味及び苦渋味を抑えた紅茶抽出液の製造を試みている。
【0007】
ここで、特許文献1に記載の紅茶抽出液の製造方法では、苦渋味の要因となる紅茶葉由来の揮発性物質を低減するために、一般的な紅茶の製造方法を経た紅茶抽出液に対して、減圧濃縮等の処理を行い、紅茶抽出液を濃縮する工程を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の紅茶抽出液の製造方法では、上述したように、苦渋味を抑えるために、一般的な紅茶の製造方法の工程の後に、さらに、抽出液の濃縮工程が追加されており、製造効率が悪くなる問題があった。
【0010】
また、従前の茶の製造方法においては、種々の工程が存在するが、なるべく工数を減らし、簡易かつ短時間で、茶葉の製造が可能となることが求められている。
【0011】
さらに、従前の茶の製造方法では、殺青や揉捻のように、加工に機械を必要とする場合があり、加工のための製造設備を準備することが、新たに茶の栽培や製造に取り組む際の障壁となることも考えられる。
【0012】
昨今、茶の製造に関する産業人口の減少や、これに伴う耕作放棄地の増加等の現状を考慮すると、より簡易な製造方法で、品質に優れた茶を製造可能な方法を開発することは重要な問題と言える。
【0013】
また、紅茶のみならず他の茶種においても、苦渋味が抑制され、飲みやすい茶飲料とするニーズが存在している。
【0014】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、簡易な工程で製造することが可能である共に、茶葉から抽出した茶飲料において、すっきりとした味を有し、後味に甘味があり、果実様の香りや焙煎香が感じられ、苦渋味が抑制された茶飲料が得られる茶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の茶の製造方法は、茶葉を萎凋する萎凋工程と、萎凋した後、揺青して茶葉に傷をつける揺青工程と、揺青した後、茶葉を堆積させて静置する静置工程と、静置した後、茶葉を乾燥させる乾燥工程と、を備え、前記乾燥工程を経た茶葉から抽出した茶飲料は苦渋味が抑制されたものとなっている。
【0016】
ここで、萎凋工程で、茶葉を萎凋することによって、茶葉に含まれる水分を除去することができる。即ち、畑から採取した原料茶葉に含まれる水分を除いて、茶葉をしおれさせて、次の工程に供することができる。
【0017】
また、揺青工程で、萎凋した後、茶葉を擦りあわせて茶葉に傷をつけることによって、発酵を促進させるとともに、茶葉の香気をさらに発揚させることができる。
【0018】
また、静置工程で、揺青した後、茶葉を堆積させて静置することによって、茶葉の呼吸熱により温度が上昇し、独特の果実様の甘い香りの発生に寄与するものとなる。この静置工程では、茶葉の内部で酵素反応が進み、成分変化が生じるものと推測され、その結果、生葉由来の青臭い香りがなくなり、本茶葉特有の果実様の甘い香りが発揚する。また、茶葉由来の糖分、例えば、生育が進んだ生葉に比較的多く含まれる糖分に対して、茶葉の発酵により青渋味が緩和されることにより、すっきりして後味に甘味がある味に繋がるものと推測される。
【0019】
また、萎凋した後、揺青して茶葉に傷をつける揺青工程と、揺青した後、茶葉を堆積させて静置する静置工程とによって、甘い果実様の香気成分の発生又は増加が促され、茶飲料の甘味を高めることができる。
【0020】
また、乾燥工程で、静置した後、茶葉を乾燥させることによって、茶葉の水分を除去し、安定して保存可能な茶葉にすることができる。このとき、やや高い温度で乾燥することにより、香ばしい焙煎香を発生させ、甘味が増強される。
【0021】
また、揺青した後、茶葉を堆積させて静置する静置工程と、静置した後、茶葉を乾燥させる乾燥工程によって、従来の殺青、揉捻・成形、又は発酵等の工程を経ることなく、苦渋味を抑制しながら、甘く香ばしい香りを維持しやすい茶葉とすることができる。
【0022】
即ち、例えば、従来の緑茶や烏龍茶の製造工程のように殺青を経る場合、蒸すや炒る等の加熱をすることになるが、静置の後、殺青を経ずに、乾燥工程に至ることで、殺青中の加熱により、茶葉の味又は香気が大きく変化することを避けることができる。また、殺青に用いる機械が不要となる。
【0023】
また、例えば、従来の緑茶や紅茶等の製造工程のように揉捻・成形工程を経る場合、茶葉を揉みこむことで、茶葉の細胞壁が壊れ、その形状や成分が変化する。この際、茶葉内部の渋みの由来となる成分が抽出されやすくなり、茶飲料に苦渋味が生じやすくなる。しかし、静置の後、揉捻を経ずに、乾燥工程に至ることで、茶葉の細胞壁が壊れることなく渋みを抑制することが可能となる。また、揉捻に用いる機械が不要となる。
【0024】
また、乾燥工程を経た茶葉を、下記(A)及び(B)の条件で処理して測定した総ポリフェノール類含量が、没食子酸当量で0.50mg/mL以下である場合には、茶飲料における苦渋味が充分に抑制されたものとなる。
(A)茶葉を8号篩で切断し、かつ、14号篩上に篩分ける、又は、茶葉を4号篩で切断する。
(B)上記(A)を経た茶葉3.0gを100℃、140mLの湯で90秒間浸出する。
即ち、カテキン類、プロアントシアニジン等の特有の苦みや渋みの呈味を有する、ポリフェノール類の含有量が少なく、茶飲料全体での苦渋味が抑制されたものとなる。また、茶飲料の呈色に繋がるポリフェノール類の量が少なく、すっきりとした味のある茶飲料とすることができる。なお、ここでいう8号篩、14号篩又は4号篩とは、茶葉の切断や篩分けに用いられる篩のサイズを網の目の数で規定した用語であり、例えば、8号篩は、1寸(3.03cm)の中に網目が8個存在する篩を示している。
【0025】
また、萎凋工程が、茶葉を日光にさらす日光萎凋工程を有する場合には、茶葉を日光で萎(しおれ)させ、脱水ストレスと葉温上昇により、茶葉内部の酵素反応を活性化させることができる。
【0026】
また、萎凋工程が、日光にさらした後、室内で茶葉を広げて萎凋する室内萎凋工程を有する場合には、茶葉の青臭さや雑味を除き、茶葉に発酵作用を継続させることができる。これにより、茶葉に特有の滋味と香りを付与することができる。
【0027】
また、静置工程で、堆積させた茶葉を樹脂製のシートで包んで静置する場合には、茶葉の呼吸熱を逃さずに茶葉内部の水分が蒸発することを抑止することができる。この結果、茶葉の内部での酵素反応をより一層促進させ、独特の甘味と果実様の甘い香りが発生しやすくなる。
【0028】
また、静置工程で、1時間~5時間の範囲内で茶葉を静置する場合には、茶葉に適度な甘味及び果実様の甘い香りを付与し、滋味において甘味が感じられ、バランスが良いものとすることができる。
【0029】
一方で、静置工程において、静置なし(0時間)又は、1時間未満で茶葉を静置する場合には、茶葉の香気及び滋味において、青みが感じられ、甘味がないものとなってしまう。また、5時間を超えて茶葉を静置する場合には、茶葉の香気において、酸化過多の香りとなり、滋味において、風味が抜けたバランスが悪いものとなってしまう。
【0030】
また、上記の目的を達成するために、本発明の茶葉は、茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、ネロリドールのピーク面積の比が、下記の条件(a)を満たし、かつ、ベンゼンアセトアルデヒドのピーク面積の比が、下記の条件(b)を満たすように構成されている。
(a)ネロリドール:1.1~3.0、
(b)ベンゼンアセトアルデヒド:6.1~13.8
なお、内標準として5ppm2-オクタノールを100μl添加し、各香気成分のピーク面積を、内標準のピーク面積値100に対する相対ピーク面積比として算出している。また、茶葉の抽出液は、茶葉3.0gを100℃、140mlの湯で90秒浸出して得た。
【0031】
ここで、茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、ネロリドールのピーク面積の比が1.1~3.0であり、内標準のピーク面積に対する、ベンゼンアセトアルデヒドのピーク面積の比が6.1~13.8である場合には、茶飲料にて、後味に甘味があり、果実様の香味にすることができる。なお、香りの内容として、ネロリドール(nerolidol)は「フローラル」の香りを示し、ベンゼンアセトアルデヒド(Benzeneacetaldehyde)は「フローラル、はちみつ、バラ、甘い」の香りを示す香気成分である。
【0032】
また、上記の目的を達成するために、本発明の茶葉は、茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、ネロリドールのピーク面積の比が、下記の条件(a)を満たし、かつ、2-メチルブチルアルデヒドのピーク面積の比が、下記の条件(b)を満たすように構成されている。
(a)ネロリドール:1.1~3.0、
(b)2-メチルブチルアルデヒド:0.7~2.1
【0033】
ここで、茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、ネロリドールのピーク面積の比が1.1~3.0であり、内標準のピーク面積に対する、2-メチルブチルアルデヒドのピーク面積の比が0.7~2.1である場合には、茶飲料にて、後味に甘味があり、果実様の香味にすることができる。なお、香りの内容として、ネロリドール(nerolidol)は「フローラル」の香りを示し、2-メチルブチルアルデヒド(2-methylbutylaldehyde)は「チョコレート、モルツ、青草様」の香りを示す香気成分である。
【0034】
また、上記の目的を達成するために、本発明の茶葉は、茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、ネロリドールのピーク面積の比が、下記の条件(a)を満たし、ベンゼンアセトアルデヒドのピーク面積の比が、下記の条件(b)を満たし、かつ、2-メチルブチルアルデヒドのピーク面積の比が、下記の条件(c)を満たすように構成されている。
(a)ネロリドール:1.1~3.0、
(b)ベンゼンアセトアルデヒド:6.1~13.8
(c)2-メチルブチルアルデヒド:0.7~2.1
ここで、茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、ネロリドールのピーク面積の比が1.1~3.0であり、内標準のピーク面積に対する、ベンゼンアセトアルデヒドのピーク面積の比が6.1~13.8であり、内標準のピーク面積に対する、2-メチルブチルアルデヒドのピーク面積の比が0.7~2.1である場合には、茶飲料にて、後味に甘味があり、果実様の香味にすることができる。なお、香りの内容として、ネロリドール(nerolidol)は「フローラル」の香りを示し、ベンゼンアセトアルデヒド(Benzeneacetaldehyde)は「フローラル、はちみつ、バラ、甘い」の香りを示し、(2-methylbutylaldehyde)は「チョコレート、モルツ、青草様」の香りを示す香気成分である。
【0035】
また、茶葉を、下記(A)及び(B)の条件で処理して測定した総ポリフェノール類含量が、没食子酸当量で0.50mg/mL以下である場合には、茶飲料における苦渋味が充分に抑制されたものとなる。
(A)茶葉を8号篩で切断し、かつ、14号篩上に篩分ける、又は、茶葉を4号篩で切断する。
(B)上記(A)を経た茶葉3.0gを100℃、140mLの湯で90秒間浸出する。
即ち、カテキン類、プロアントシアニジン等の特有の苦みや渋みの呈味を有する、ポリフェノール類の含有量が少なく、茶飲料全体での苦渋味が抑制されたものとなる。また、茶飲料の呈色に繋がるポリフェノール類の量が少なく、すっきりとした味のある茶飲料とすることができる。
【0036】
また、茶葉から抽出した抽出液の香気成分をガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析した場合に、内標準のピーク面積に対する、メチルヘプテノンのピーク面積の比が0.7~3.6を満たす場合には、より一層、茶飲料にて、後味に甘味があり、果実様の香味にすることができる。なお、香りの内容として、メチルヘプテノン(5-Hepten-one,6-methyl-)は「クロフサスグリ(カシス)、煮た果実、柑橘」の香りを示す香気成分である。
【0037】
また、出開きの茶葉を茶葉原料とする場合には、出開き度が小さい成長途中の茶葉に比べて、茶葉に糖分が多く含まれ、茶飲料に甘味及び焙煎香がより一層生じやすくなる。また、出開き度が小さいタイミングで摘採する必要がなく、茶葉の摘採時期の集中による負担を低減することができる。なお、ここでいう出開きの茶葉とは、芽が完全に開葉して、それ以上伸長しない状態になった茶葉を意味する。
【0038】
また、茶葉は碾茶状の形状を有する場合には、茶葉を揉まずに開いたまま乾燥した形状を有するため、細胞が壊れず、茶飲料にした際に、苦渋味が抑制されたものとなる。また、茶葉の形状を残していることから茶葉中の成分が徐々に抽出されるため、煎が効く茶飲料とすることができる。例えば、4~5煎目でも、茶飲料に香味が充分に出るものとなる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る茶の製造方法は、簡易な工程で製造することが可能である共に、茶葉から抽出した茶飲料において、すっきりとした味を有し、後味に甘味があり、果実様の香りや焙煎香が感じられ、苦渋味が抑制された茶飲料が得られる方法となっている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の実施の形態である茶の製造方法の工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態(以下、「実施の形態」と称する)について図面を参照しながら内容を説明し、本発明の理解に供する。本発明を適用した茶の製造方法に一例である茶の製造方法Aについて説明する。
なお、以下に示す茶の製造方法は本発明の一例であり、本発明の内容がこれに限定されるものではない。
【0042】
図1に示すように、茶の製造方法Aでは、日光萎凋(S1)、室内萎凋(S2)、揺青(S3)、静置(S4)及び乾燥(S5)の工程を有する。
【0043】
茶の製造方法Aでは、茶葉原料の品種として、緑茶品種のやぶきたを用いている。また、茶葉の摘み取り時期として一番茶の茶葉を採用している。
【0044】
日光萎凋(S1)では、茶葉原料をビニール製のシート等の上に広げ、太陽光に茶葉原料をさらす。処理時間は5分~45分程とする。茶葉原料を日光にさらすことで、茶葉を萎れさせ、水分を除去して、脱水ストレスと温度上昇により、茶葉内部の酵素反応を活性化させることができる。
【0045】
次に、日光萎凋を経た後に、茶葉を室内萎凋(S2)の工程に供する。室内萎凋では、常温の室内環境下で、茶葉原料を、棚又はかご等に薄く広げて、萎凋を行う。または茶用の生葉コンテナを用いて行うことも可能である。処理時間は、6時間~30時間程とする。
【0046】
茶葉を室内で萎凋させることで、さらに茶葉を萎れさせ、水分を除去して、茶葉の青臭さを除き、茶葉に酵素反応を継続させることができる。これにより、茶葉に特有の滋味と香りを付与することができる。
【0047】
続いて、室内萎凋を経た後に、茶葉を揺青(S3)の工程に供する。揺青では、ビニール製のシート等の上に茶葉を広げ、手作業で茶葉に振動を与えながら撹拌したり、茶葉を持ち上げて揺り落としたりすることで、茶葉同士を擦りあわせて、茶葉の表面に傷をつける。
【0048】
揺青では、処理時間は5分~15分程とする。これにより、茶葉に、甘味があり、甘い果実様の香気を発揚させることができる。
【0049】
なお、揺青では、手作業による他、揺青機やドラム萎凋機、また同様の機能をもつ機械を用いて行うことも可能である。
【0050】
また、揺青した茶葉を静置(S4)の工程に供する。静置では、茶葉をかご等の上に広げ、茶葉を堆積させて、堆積した茶葉をビニール製のシートで包んで、茶葉からの水分の放出を抑えながら、静置する。処理時間は、6時間~30時間程とする。
【0051】
静置では、処理時間は、1時間~5時間程とする。また、茶葉の堆積厚さは、6cm~30cm程とする。これにより、茶葉の呼吸熱により温度が上昇し、独特の甘味と甘い果実様の香気の発生させることができる。また、上述した揺青と静置の工程を経ることで、甘味と甘い果実様の香気成分を発生させ、又は増加を促すことができる。
【0052】
次に、静置した茶葉を、乾燥機を用いて、乾燥(S5)の工程に供する。乾燥では、一般的に用いられている乾燥機にて、茶葉を熱風で処理して、水分の除去を行う。乾燥の際の熱風の温度は、95℃~110℃程であり、処理時間は60分程度とした。
【0053】
以上の工程を経て、原料茶葉から茶を製造することができる。
【0054】
ここで、茶の製造方法Aでは、揺青の後、茶葉を一定時間、静置の工程に供することが特徴の1つである。この静置の工程を経ることで、上述したように、茶葉の呼吸熱により温度が上昇し、独特の甘味と甘い果実様の香気の発生を促すことができる。
【0055】
また、茶の製造方法Aでは、静置の後に、乾燥の工程に供することが特徴の1つである。即ち、静置の後に、従来の茶の製造方法に見られる、殺青、揉捻・成型、又は、発酵の工程を経ることなく、乾燥して茶葉を製造することが特徴の1つである。
【0056】
これにより、例えば、殺青中の加熱による茶葉の味又は香気の変化を避けることができる。また、揉捻により茶葉の形状が変化して、渋みの由来となる成分、例えば、カテキン類、プロアントシアニジン等の特有の苦みや渋みの呈味を有する、ポリフェノール類が茶葉内部から抽出され、苦渋味が生じやすくなることを避けることができる。
【0057】
この結果、苦渋味が抑制され、甘味や焙煎香を有する茶飲料にすることができる。
【0058】
ここで、必ずしも、茶葉原料の品種として、やぶきたが採用される必要はない。例えば、日本で栽培されている代表的な茶葉の品種である、あさつゆ、やぶきた、べにふうき、やまとみどり、まきのはらわせ、かなやみどり、おくみどり、おおいわせ、おくひかり、めいりょく、さみどり、こまかげ、やまなみ、みねかおり、はつもみじ、紅富貴、紅ほまれ、べにひかり等が採用されてもよい。さらに、本発明においては、これらの品種に限らず、世界中で栽培されているいずれの品種の茶葉も用いることができる。また、茶葉の品種は、緑茶に限らず、例えば、紅茶、白茶、黄茶、烏龍茶、黒茶等、種々の茶葉の品種を用いることができる。
【0059】
また、必ずしも、一番茶の茶葉を用いる必要はなく、茶葉の採取時期は、一番茶、二番茶、三番茶、四番茶又は秋冬番茶のいずれでも良い。また、茶葉は、採取直後に使用しても、採取直後に保存した後のものを使用してもよい。
【0060】
また、日光萎凋(S1)では、必ずしも、茶葉原料をビニール製のシート等の上に広げる必要はなく、太陽光に茶葉原料をさらすことができれば、その方法は特に限定されるものではない。また、日光萎凋の時間は、日照量や気温の影響を考慮して適宜選択することができる。但し、茶葉を過度に日光にさらすと、葉焼け又は香味の欠点が生じることから、過度に日光にさらすことは避けた方がよい。
【0061】
また、日光萎凋の処理時間は、茶葉の重量減の割合及び香気又は滋味を良好にする点から、5分~45分の範囲内の時間が好ましく、10分~30分の範囲内の時間となることが更に好ましい。
【0062】
また、室内萎凋(S2)では、常温の室内環境下で、茶葉の萎凋を行うことができれば、その方法は特に限定されるものではない。また、環境制御が可能な機械等を利用することもできる。室内萎凋の処理時間は、茶葉の重量減の割合及び香気又は滋味を良好にする点から、6時間~30時間の範囲内の時間が好ましく、12時間~30時間の範囲内の時間となることが更に好ましい。
【0063】
また、揺青では、茶葉同士を擦りあわせて、茶葉の表面に傷をつけて、香気を発揚することができれば、その方法は特に限定されるものではない。また、揺青の処理時間は、茶葉の香気又は滋味を良好にする点から、5分~15分の範囲内の時間が好ましく、5分~10分の範囲内の時間となることが更に好ましい。
【0064】
また、静置では、茶葉を堆積させて、茶葉の呼吸熱により温度が上昇させ、一定時間置いておくことができれば、その方法は特に限定されるものではない。また、静置の処理時間は、茶葉に甘い香りを生じさせ、香気又は滋味を良好にする点から、1時間~5時間の範囲内の時間が好ましく、2時間~4時間の範囲内の時間となることが更に好ましい。
【0065】
また、静置では、茶葉の水分の放出を抑制しながら置くことができれば、必ずしも、堆積した茶葉をビニール製のシートで包む必要はなく、その他の方法を採用することができる。例えば、水分透過率の低い樹脂製の袋体の中に、茶葉を堆積させた状態で収容する方法等が考えられる。
【0066】
また、静置では、茶葉の香気又は滋味を良好にする点から、茶葉の堆積厚さは、6cm~30cmの範囲内の堆積厚さになることが好ましく、6cm~20cmの範囲内の堆積厚さになることが更に好ましい。
【0067】
また、乾燥では、茶葉を熱風で処理して、水分の除去を行うことができれば、乾燥に用いる機械等は特に限定されるものではない。また、茶葉の香気又は滋味を良好にする点から、乾燥の処理温度は、95℃~110℃の範囲内であることが好ましく、105℃~110℃の範囲内であることが更に好ましい。
【0068】
以上の茶の製造方法Aを経て、原料茶葉から茶を製造することができる。
【0069】
ここで、茶の製造方法Aでは、揺青の後、茶葉を一定時間、静置の工程に供することが特徴の1つである。この静置の工程を経ることで、上述したように、茶葉の呼吸熱により温度が上昇し、独特の甘味と果実様の香りの発生を促すことができる。
【0070】
また、茶の製造方法Aでは、静置の後に、乾燥の工程に供することが特徴の1つである。即ち、静置の後に、従来の茶の製造方法に見られる、殺青、揉捻・成型、又は、発酵の工程を経ることなく、乾燥して茶葉を製造することが特徴の1つである。
【0071】
これにより、例えば、殺青中の加熱による茶葉の味又は香気の変化を避けることができる。また、揉捻により細胞が壊れ、渋みの由来となる成分、例えば、カテキン類、プロアントシアニジン等の特有の苦みや渋みの呈味を有する、ポリフェノール類が茶葉内部から抽出され、苦渋味が生じやすくなることを避けることができる。
【0072】
この結果、苦渋味が抑制され、甘味や果実様の香り、焙煎香を有する茶飲料にすることができる。
このように、茶の製造方法Aでは、簡易な工程でありながら、甘味と果実様の香り、焙煎香りに優れ、すっきりとした味を有し、苦渋味が抑えられた茶を製造することができる。
【0073】
以上のとおり、本発明に係る茶の製造方法は、簡易な工程で製造することが可能である共に、茶葉から抽出した茶飲料において、すっきりとした味を有し、後味に甘味があり、果実様の香りや焙煎香が感じられ、苦渋味が抑制された茶飲料が得られる方法となっている。
また、本発明に係る茶葉は、簡易な工程で製造することが可能である共に、茶葉から抽出した茶飲料において、すっきりとした味を有し、後味に甘味があり、果実様の香りや焙煎香が感じられ、苦渋味が抑制された茶飲料が得られるものとなっている。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0075】
本発明を適用した茶葉の一例である茶葉の実施例及び比較例の試料を作製し、以下の評価を行った。
【0076】
(1)試料の内容及び日光萎凋の検討
まず、以下の内容で、茶葉の試料を準備して、日光萎凋の有無及び時間について検討を行った。試料となる茶葉は、やぶきたを用いた。茶葉は秋芽を摘採し、以下の製造工程に供した。
日光萎凋(試験区):0分、5分、10分、15分、20分、30分、45分、60分
室内萎凋:21時間、自然萎凋
揺青:10分、揺青機、4rpm
静置:4時間
乾燥:60分、乾燥機、熱風温度105℃
上記の製造工程を経た茶葉3.0gを100℃、140mlの湯で90秒浸出して、5名の試験官の合議制による官能評価を行い、香気及び滋味の各項目を5点満点で点数付けする官能試験を行った。
なお、日光萎凋時間に関して、0分(比較例1)、5分(実施例1)、10分(実施例2)、15分(実施例3)、20分(実施例4)、30分(実施例5)、45分(実施例6)、60分(実施例7)とした。官能試験の審査結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
実施例1~6では、香気及び滋味において4点以上の評価となった。また、実施例2~5では、香気及び滋味の合計得点が10点となり、ほとんどの試料で、滋味につき甘さを示す評価結果となった。
【0079】
(2)試料の内容及び室内萎凋の検討
まず、以下の内容で、茶葉の試料を準備して、室内萎凋の時間について検討を行った。試料となる茶葉は、みやまかおりを用いた。茶葉は秋芽を摘採し、以下の製造工程に供した。
日光萎凋:10分
室内萎凋(試験区):6時間、12時間、18時間、24時間、30時間、36時間、連続送風にさらし、6時間毎に撹拌した。
揺青:10分、揺青機、4rpm
静置:4時間
乾燥:40分、乾燥機、熱風温度105℃
上記の製造工程を経た茶葉に対して、上記(1)と同様の内容で官能試験を行った。
なお、室内萎凋時間に関して、6時間(実施例8)、12時間(実施例9)、18時間(実施例10)、24時間(実施例11)、30時間(実施例12)、36時間(実施例13)とした。官能試験の審査結果を表2に示す。
【0080】
【0081】
実施例8~12では、香気及び滋味において3点以上の評価となった。また、実施例10~12では、香気及び滋味の合計得点が10点を超え、ほとんどの試料で、滋味につき甘さを示す評価結果となった。
【0082】
(3)試料の内容及び揺青の検討
まず、以下の内容で、茶葉の試料を準備して、揺青の有無及び時間について検討を行った。試料となる茶葉は、やぶきたを用いた。茶葉は秋芽を摘採し、以下の製造工程に供した。
温風萎凋:試験時に曇りの天候であったため、日光萎凋の代替として、15分の温風萎凋を行った。
室内萎凋:26時間、自然萎凋
揺青(試験区):0分、5分、10分、15分、30分、揺青機、4rpm
静置:4時間
乾燥:60分、乾燥機、熱風温度105℃
上記の製造工程を経た茶葉に対して、上記(1)と同様の内容で官能試験を行った。
なお、揺青時間に関して、0分(比較例2)、5分(実施例14)、10分(実施例15)、15分(実施例16)、30分(実施例17)とした。官能試験の審査結果を表3に示す。
【0083】
【0084】
実施例14~16では、香気及び滋味の合計得点が8点を超え、滋味につき甘さを示す評価結果となった。
【0085】
(4)試料の内容及び静置の検討
まず、以下の内容で、茶葉の試料を準備して、静置の有無及び時間について検討を行った。試料となる茶葉は、みやまかおりを用いた。茶葉は秋芽を摘採し、以下の製造工程に供した。
日光萎凋:10分
室内萎凋:12時間連続送風にさらし、6時間毎に撹拌した。
揺青:10分、揺青機、4rpm
静置(試験区):0時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、8時間、10時間
乾燥:40分、乾燥機、熱風温度105℃
上記の製造工程を経た茶葉に対して、上記(1)と同様の内容で官能試験を行った。
なお、静置時間に関して、0時間(比較例3)、1時間(実施例18)、2時間(実施例19)、3時間(実施例20)、4時間(実施例21)、5時間(実施例22)、6時間(実施例23)、8時間(実施例24)、10時間(実施例25)とした。官能試験の審査結果を、表4(室内萎凋12時間)に示す。
【0086】
【0087】
実施例18~22では、香気及び滋味の合計得点が6点を超える結果となった。また、実施例18では、香気につき甘さを示す評価結果となった。
【0088】
(5)試料の内容及び静置時の堆積厚さの検討
まず、以下の内容で、茶葉の試料を準備して、静置時の堆積厚さについて検討を行った。試料となる茶葉は、やぶきたを用いた。茶葉は秋芽を摘採し、以下の製造工程に供した。
日光萎凋:30分
室内萎凋:26時間、連続送風にさらした。
揺青:10分、揺青機、4rpm
静置:3時間
静置時の茶葉の堆積厚さ(試験区):3cm、6cm、10cm、20cm、30cm、40cm、50cm
乾燥:60分、乾燥機、熱風温度105℃
上記の製造工程を経た茶葉に対して、上記(1)と同様の内容で官能試験を行った。
なお、静置時の茶葉の堆積厚さに関して、3cm(実施例26)、6cm(実施例27)、10cm(実施例28)、20cm(実施例29)、30cm(実施例30)、40cm(実施例31)、50cm(実施例32)とした。官能試験の審査結果を表5に示す。
【0089】
【0090】
実施例27~30では、香気及び滋味において4点以上の評価となった。また、実施例27~30では、香気及び滋味の合計得点が9点を超える評価結果となった。
【0091】
(6)試料の内容及び乾燥温度の検討
まず、以下の内容で、茶葉の試料を準備して、乾燥温度について検討を行った。試料となる茶葉は、やぶきたを用いた。茶葉は秋芽を摘採し、以下の製造工程に供した。
日光萎凋:30分
室内萎凋:26時間、連続送風にさらした。
揺青:10分、揺青機、4rpm
静置:4時間
乾燥:60分、なお、80℃のみ80分、乾燥機
熱風温度(試験区):80℃、95℃、110℃、125℃
上記の製造工程を経た茶葉に対して、上記(1)と同様の内容で官能試験を行った。
なお、乾燥温度に関して、80℃(実施例33)、95℃(実施例34)、110℃(実施例35)、125℃(実施例36)とした。官能試験の審査結果を表6に示す。
【0092】
【0093】
実施例33~35では、香気及び滋味において3点以上の評価となった。また、実施例34及び35では、香気及び滋味の合計得点が8点を超える評価結果となった。
【0094】
(7)浸出液中の総ポリフェノール類含量について
同一の圃場から茶葉の採取時期が異なる茶葉原料(やぶきた)を準備して、本発明の茶の製造方法である茶の製造方法A、又は、従来の玉緑茶の製造方法に供して、茶を製造し、下記の浸出条件にて、浸出液を調整して、浸出液中の総ポリフェノール類含量を測定した。
また、同様に、茶葉の採取時期が異なる茶葉原料(べにふうき)を準備して、本発明の茶の製造方法である茶の製造方法A、又は、従来の紅茶の製造方法に供して、茶を製造し、下記の浸出条件にて、浸出液を調整して、浸出液中の総ポリフェノール類含量を測定した。
(茶葉の切断条件)
茶葉については、8号篩にて、摘採後の茶葉を細かく切断して、その後、14号篩にかけて、細かい粉末、粒子を除去して、14号篩上の茶葉を、以下の浸出条件にて、浸出液を得た。
(浸出条件)
茶葉3.0gを100℃、140mlの湯で浸出し、一煎目は湯を入れて90秒後の浸出液を総ポリフェノール類含量の測定のための試料とした。また、二煎目は、湯を入れて60秒後の浸出液を総ポリフェノール類含量の測定のための試料とした。
(総ポリフェノール類含量の測定法)
各試料の総ポリフェノール類含量の測定は、既知の比色法(フォーリン・チオカルト法)にて測定した。本測定法では、フォーリン試薬がポリフェノールにより還元されて青色に呈色することを利用して、吸光度を測定して定量を行う。また、定量において、没食子酸(ポリフェノールの一種)で検量線を作成して、各試料の吸光度の測定値と、検量線から、没食子酸当量の値として、総ポリフェノール類含量を数値化した。
総ポリフェノール類含量の測定結果につき、表7には、やぶきたを用いた、茶の製造方法Aと玉緑茶の製造方法の比較の結果を示し、表8には、べにふうきを用いた茶の製造方法Aと紅茶の製造方法の比較の結果を示す。
【0095】
【0096】
【0097】
実施例37~40では、いずれも、総ポリフェノール類含量が0.50(mg/ml)を下回る数値となり、本発明を適用した茶の製造方法Aを経て製造した茶飲料においては、総ポリフェノール類含量が少なくなる結果となった。即ち、従来の玉緑茶(緑茶)の製造方法と比較して、茶飲料において、苦渋味が充分に抑制される製造方法となっていることが明らかとなった。
【0098】
また、実施例41~44においても、いずれも、総ポリフェノール類含量が0.50(mg/ml)を下回る数値となり、本発明を適用した茶の製造方法Aを経て製造した茶飲料においては、総ポリフェノール類含量が少なくなる結果となった。即ち、従来の紅茶の製造方法と比較して、茶飲料において、苦渋味が充分に抑制される製造方法となっていることが明らかとなった。
【0099】
(8)香気成分のガスクロマトグラフィー質量(GC-MS)分析について
同一の圃場から摘採された茶葉原料(やぶきた)を準備して、本発明の茶の製造方法である茶の製造方法A、紅茶、烏龍茶及び緑茶(玉緑茶)の異なる製造方法に供して茶を製造し、下記の分析方法及び分析条件にて、各試料の香気成分のGC-MS分析を行った。表9には、茶の製造方法A(実施例45)、紅茶(比較例14)、烏龍茶(比較例15)及び緑茶(玉緑茶)(比較例16)として結果を示している。また、表10には、茶の製造方法Aにより、採取地、採取時期、品種がことなる茶について、香気成分のGC-MS分析を行った結果を示す。
【0100】
(分析方法)
一般に茶系の香気成分の前処理は、カラム濃縮法等で行われている。ここでは、簡易・迅速な試料の抽出、濃縮、クロマトグラフ導入法として固相マイクロ抽出法で行った。定量は、測定対象である試料に内標準として2-オクタノールを添加しておき、各香気成分のピーク面積を内標準に対する相対ピーク面積比として求めた。
より詳細には、以下の方法で行った。
試料の調整は140mL容量の紅茶用審査器具に、サンプルを3.0g入れ、熱湯を注ぎ90秒間浸出した。この浸出液7.5mLを20mL容量のバイアルに取り、塩化ナトリウムを3.0g、内標準として5ppmの2-オクタノールを100μL加えて密栓した後、70℃で120秒間加熱してバイアル内を安定させた後、捕集管を15分間挿入して、ヘッドスペース中の香気成分をトラップした。
香気成分をトラップした捕集管を250℃に加熱したガスクロマトグラフの注入口に挿入し、香気成分をガスクロマトグラフのカラムに2分間導入して分析を行った。
捕集管はSUPELCO社製のポリジメチルシクロヘキサン/carboxen/ジビニルベンゼンを用いた。
ガスクロマトグラフの分析条件については、カラムはAgilent社製のDB-5(60m×0.25mm、膜厚0.5μm)を使用し、カラム温度は40℃に5分間保持後、250℃まで10℃/分で昇温した。注入口温度は250℃、線速度は50.0cm/sとした。検出器は質量分析(MS)と水素炎イオン化(FID)で行い、MSは化合物同定、FIDは化合物の定量に使用した。各試料の香気成分について、内標準に対する相対ピーク面積比を測定した。また、各香気成分のピーク面積値は、内標準を100とした時の相対面積比の値として算出した。なお、表9及び表10におけるtrは、検出できるが最小面積以下の値であったことを示している。
【0101】
【0102】
【0103】
実施例45~49では、内標準のピーク面積に対する、ネロリドール(nerolidol)のピーク面積の比が1.1~3.0であり、内標準のピーク面積に対する、ベンゼンアセトアルデヒド(Benzeneacetaldehyde)のピーク面積の比が6.1~13.8であり、内標準のピーク面積に対する、2-メチルブチルアルデヒド(2-methylbutylaldehyde)のピーク面積の比が0.7~2.1となる結果を示した。
実施46~49で、ネロリドール(nerolidol)、ベンゼンアセトアルデヒド(Benzeneacetaldehyde)及び2-メチルブチルアルデヒド(2-methylbutylaldehyde)の各香気成分の大きな値が確認された。