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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】生体機能を制御する新規成分
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/064 20060101AFI20230216BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20230216BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230216BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230216BHJP
   C12N 1/16 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
A61K36/064
A61K36/06 A
A61P35/00
A61P37/04
A61P17/16
A61P43/00 105
A61K8/9728
A61Q19/00
A61Q19/08
C12N1/16
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020568632
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003734
(87)【国際公開番号】W WO2020158930
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2019017296
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519039526
【氏名又は名称】ダ・ヴィンチ ユニバーサル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】300051711
【氏名又は名称】旭酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村中 麻生
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0082481(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0003344(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106722209(CN,A)
【文献】特開2015-119697(JP,A)
【文献】特開2009-029788(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050521(WO,A1)
【文献】渡邊敦光,日本食の素晴らしさ,醤研,Vol.42, No.2,2016年,p.123-133
【文献】峰時俊貴,酵素処理酒粕調味料の特性と活用,月刊フードケミカル,2013年,Vol.2013-1,p.39-46
【文献】YAMASAKI-YASHIKI Shino, et al.,IgA-enhancing effects of membrane vesicles derived from Lactobacillus sakei subsp. sakei NBRC15893,Bioscience of Microbiota, Food and Health,2019年,Vol.38, No.1,p.23-29,Published online November 1, 2018
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/064
A61K 36/06
A61P 35/00
A61P 17/16
A61P 37/04
A61K 8/9728
A61Q 19/00
A61Q 19/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
日本酒の酒母又はもろみに含まれる酵母から抽出されたエクソソームを含有するがん細胞増殖抑制用組成物。
【請求項2】
タンパク質量として500ng/ml以上の前記エクソソームを含有する,請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
タンパク質量として1μg/ml以上の前記エクソソームを含有する,請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
1年以上熟成された味噌に含まれる酵母から抽出されたエクソソームを含有する,がん細胞増殖抑制用組成物。
【請求項5】
3年以上熟成された味噌に含まれる酵母から抽出されたエクソソームを含有する,請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
味噌に含まれる酵母から抽出されたエクソソームを4.7×10 11 個/ml以上含有する請求項4又は請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
味噌に含まれる酵母から抽出されたエクソソームを7.8×10 12 個/ml以上含有する請求項4又は請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
がんが,大腸がん,前立腺がん,又は乳がんである,請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
日本酒の酒母又はもろみに含まれる酵母から抽出されたエクソソームを含有する,NK細胞によるグランザイム発現促進剤。
【請求項10】
1年以上熟成された味噌に含まれる酵母から抽出されたエクソソームを含有する,NK細胞によるグランザイム発現促進剤。
【請求項11】
3年以上熟成された味噌に含まれる酵母から抽出されたエクソソームを含有する,請求項10に記載のグランザイム発現促進剤。
【請求項12】
NK細胞1個あたりおよそ100個の前記エクソソームを接触させるように含有する,請求項9~請求項11のいずれか1項に記載のグランザイム発現促進剤。
【請求項13】
日本酒の酒母又はもろみに含まれる酵母から抽出されたエクソソームを含有する,繊維芽細胞によるコラーゲン及び/又はエラスチン産生促進剤。
【請求項14】
3年以上熟成された味噌に含まれる酵母から抽出されたエクソソームを含有する,コラーゲン及び/又はエラスチン産生促進剤。
【請求項15】
繊維芽細胞1個あたりおよそ100個の前記エクソソームを接触させるように含有する,請求項13又は請求項14に記載のコラーゲン及び/又はエラスチン産生促進剤。
【請求項16】
繊維芽細胞が老化した繊維芽細胞である,請求項13~請求項15のいずれか一項に記載のコラーゲン及び/又はエラスチン産生促進剤。
【請求項17】
化粧用である,請求項13~請求項16のいずれか1項に記載のコラーゲン及び/又はエラスチン産生促進剤。
【請求項18】
エクソソームが以下の製造方法で製造されたことを特徴とする,請求項1~請求項17のいずれか1項に記載のがん細胞増殖抑制用組成物,NK細胞によるグランザイム発現促進剤,又はコラーゲン及び/又はエラスチン産生促進剤:
(a)日本酒の酒母若しくはもろみ又は味噌を10,000~20,000×gで遠心すること,
(b)前記(a)により得られた上清を10,000~210,000×gで超遠心すること,及び
(c)沈殿物をエクソソーム画分として回収することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2019年2月1日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2019-17296号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2019-17296号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は,酵母由来のエクソソームを利用した医療用及び化粧用組成物等に関する。
【背景技術】
【0003】
プロバイオティック乳酸菌には,脂肪蓄積の抑制効果やインスリン抵抗性の改善効果といったメタボリックシンドロームの予防効果が報告されている。そのメカニズムは,経口摂取され腸管から吸収された乳酸菌由来のエクソソームが,脂肪組織や骨格筋といった腸管から遠く離れた組織に作用し,メタボリックシンドローム予防に貢献している事が考えられる。こうした効果は広く多くの人体に良いとされるバクテリアや酵母,さらには経口で摂取する多くの野菜やフルーツからも放出されている可能性が高く,その有用性に期待が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは,日本酒を生み出す元になる酒母は,酵母を大量に純粋培養したものであることから,エクソソームの宝庫である可能性があると考え,日本酒の製造過程の元になる酒母由来の培養液中に存在するエクソソームに初めて注目した。また、本発明者らは、日本酒同様に酵母を含有する味噌、特に1年以上熟成された味噌に含まれるエクソソームに初めて着目した。よって,本発明は,新規の食品由来のエクソソーム組成物を調製することを目的とする。別の側面において,本発明は,新規の有効成分を含有するがんの抑制剤又は組織の弾力低下の予防剤又弾力性向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは,その精製工程について鋭意検討の結果,独自の製法でエクソソームを抽出可能であることを見出した。本発明者らは,酒母ともろみより回収したエクソソームを用いて免疫細胞における細胞内のグランザイムの量の変化を調べたところ,増加することを見出した。サイトカインの分泌に関しては変化が見られなかった一方,線維芽細胞における老化の指標であるベータガラクトシダーゼ染色に関しては違いが見られなかった。もう一つの老化の指標として,老化線維芽細胞におけるコラゲナーゼの発現とエラスチンの発現を評価した結果,コラーゲンとエラスチンの発現量が上昇していることを確認した。これにより,本発明者らは,日本酒の酒母及びもろみ由来のエクソソームが組織の弾力低下の予防及び弾力性の向上効果を奏することを初めて見出した。
【0006】
さらに、本発明者らは、味噌より回収したエクソソームを添加した老化線維芽細胞中の抗老化作用のあるI型コラーゲン及びエラスチンの遺伝子量の変化を調べたところ、増加することを見出した。また、味噌より回収したエクソソームを添加することによりNK細胞の免疫活性が高まることを見出した。
【0007】
よって,本発明は以下の発明に関する:
(1) 酵母から抽出されたエクソソーム。
(2) 酵母が日本酒の酒母又はもろみに含まれる酵母である、(1)に記載のエクソソーム。
(3) 日本酒の酒母又はもろみから抽出されたエクソソーム。
(4) 日本酒の酒母又はもろみを10,000~20,000×gで遠心することにより得られる上清を10,000~210,000×gで超遠心することにより沈殿物として得られる,(2)又は(3)に記載のエクソソーム。
(5) 酵母が味噌に含まれる酵母である、(1)に記載のエクソソーム。
(6) 味噌から抽出されたエクソソーム。
(7) 味噌が1年以上熟成された味噌である、(5)又は(6)に記載のエクソソーム。
(8) 味噌が3年以上熟成された味噌である、(7)に記載のエクソソーム。
(9) (1)~(8)のいずれか1項に記載のエクソソームを含有する組成物。
(10) (1)~(8)のいずれか1項に記載のエクソソームを4×108個/ml以上又はタンパク質量として33ng/ml以上含有する(9)に記載の組成物。
(11) (1)~(8)のいずれか1項に記載のエクソソームを4.7×1011個/ml以上含有する(9)に記載の組成物。
(12) (1)~(8)のいずれか1項に記載のエクソソームを7.8×1012個/ml以上含有する(9)に記載の組成物。
(13) 前記エクソソームを有効成分として含有する、(9)~(12)のいずれか1項に記載の組成物である,がん細胞増殖抑制用組成物。
(14) がん細胞が,大腸がん,前立腺がん,又は乳がんである,(13)に記載の組成物。
(15) 前記エクソソームを有効成分として含有する、(9)~(12)のいずれか1項に記載の組成物である,NK細胞によるグランザイム発現促進剤。
(16) 前記エクソソームを有効成分として含有する,(9)~(12)のいずれか1項に記載の組成物である,がんの治療用又は予防用医薬組成物。
(17) 前記エクソソームを有効成分として含有する,(9)~(12)のいずれか1項に記載の組成物である,コラーゲン及び/又はエラスチン産生促進剤。
(18) 前記エクソソームを有効成分として含有する,(9)~(12)のいずれか1項に記載の組成物である,組織の弾力性喪失予防剤又は組織の弾力性向上剤。
(19) 組織が皮膚である,(18)に記載の組織の弾力性喪失予防剤又は組織の弾力性向上剤。
(20) 化粧用である,(19)に記載の組織の弾力性喪失予防剤又は組織の弾力性向上剤。
(21) (1)~(4)に記載のエクソソームの製造方法であって,
(a)日本酒の酒母又はもろみを10,000~20,000×gで遠心すること,
(b)前記(a)により得られた上清を10,000~210,000×gで超遠心すること,及び
(c)沈殿物をエクソソーム画分として回収することを含む方法。
(23) (5)~(8)に記載のエクソソームの製造方法であって,
(a)味噌を10,000~20,000×gで遠心すること,
(b)前記(a)により得られた上清を10,000~210,000×gで超遠心すること,及び
(c)沈殿物をエクソソーム画分として回収することを含む方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は,免疫系の活性化やアンチエイジング,さらには体内の健康を維持する貴重な成分の抽出に成功したものである。この独自の製法で得たエクソソームを含有する有効成分は,日本酒、味噌の他,他の飲料,食品,化粧品,及び医薬品などのあらゆる形態の健康維持のための製品に応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】獺祭の酒母ともろみを15,000×g,4℃で15分間遠心した結果を示す写真である。この上清をエクソソーム抽出のために使用した。
図2】得られた酒母(A)ともろみ(B)由来のエクソソーム画分について,ナノ粒子解析システムNanoSight(解析条件:Camera Level 14,Detection Threshold 7)にて粒子数の測定を行った結果を示すグラフである。酒母由来のエクソソームにおいては95nm,もろみ由来のエクソソームにおいては109nmに粒子径のピークが認められた。
図3】HCT116細胞に各エクソソームを0.5,1,及び2μg/mLの濃度で添加後の,細胞増殖抑制及びアポトーシスについて評価した結果を示すグラフである。アポトーシスは,カスパーゼ活性の測定結果を示す。また,
図4】大腸がん細胞株HCT116,肺がん細胞株A549,乳がん細胞株MDA-MB-231,及び前立腺がん細胞株PC-3Mについて増殖抑制試験の結果を表すグラフである。縦軸はコントロール(エクソソーム添加なし)の値を1とした場合の相対値を表す。
図5】大腸がん細胞株HCT116,肺がん細胞株A549,乳がん細胞株MDA-MB-231,及び前立腺がん細胞株PC-3M)についてアポトーシス誘導能試験の結果を表すグラフである。縦軸はコントロール(エクソソーム添加なし)の値を1とした場合の相対値を表す。
図6】遊走性試験の結果を表す写真である。中心の線状に白い部分が傷をつけた部分である。
図7図6に示す遊走性試験の結果をグラフで表す。縦軸はコントロール(PBS)の値を1とした場合の相対値を表す。
図8】エクソソームを添加した際の,NK細胞内のグランザイムの発現量を示す。上図は各タンパク質の発現量を示すウェスタンブロッティングの写真である。下図はウェスタンブロッティングによる発現量を定量化したグラフを示す。
図9】NK細胞によるインターフェロンガンマ,インターロイキン17,TNFアルファの3種類のサイトカインの分泌量に対するエクソソームの作用を評価した結果を表すグラフである。
図10】エクソソームの老化抑制能を測定するため,ベータガラクトシダーゼ染色を行った結果を示す写真である。細胞が緑色に染色されているのは細胞が老化していることを示す。
図11】皮下のコラーゲンとして重要なI型コラーゲンとIII型コラーゲン,及びエラスチンの発現量に対するエクソソームの作用を評価した結果を示すグラフである。各群(左から順に,Control(未添加),EtOH,もろみ3μl,もろみ10μl,もろみ30μl,酒母3μl,酒母10μl,酒母30μl)において示された棒グラフは,左から順に,I型コラーゲンα1鎖,I型コラーゲンα2鎖,III型コラーゲン,及びエラスチンの結果を表す。縦軸はコントロールの値を1とした場合の相対値を表す。
図12】エクソソームを添加した際の,NK細胞内のグランザイムの発現量を示す(n=3)。ウェスタンブロッティングによる発現量を定量化し、平均値で表した。
図13】I型コラーゲン及びエラスチンの発現量に対するエクソソームの作用を評価した結果を示すグラフである。各群(左から順に,非熟成,1年熟成,速醸,3年熟成)において示された棒グラフは,左側がI型コラーゲン、右側がエラスチンの結果を表す。縦軸はコントロールの値を1とした場合の相対値を表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.酒母及びもろみ、又は味噌由来のエクソソームの調製
酒母は,日本酒の醸造のために,蒸米・麹・水の混合物に酵母加えた培養したものである。酒母の酵母の発酵が進み,蒸米・麹・水を何回かにわけて,加えたものがもろみである。酒母ももろみも,日本酒製造の業界では通常利用されており,その製造方法も広く知られている。特に,獺祭に使用されている酒母ともろみは旭酒造株式会社(山口県岩国市周東町獺越2167-4)より入手可能である。酒母及びもろみからのエクソソームの抽出は,例えば,(a)日本酒の酒母又はもろみを遠心すること;(b)前記(a)により得られた上清を超遠心で遠心すること;及び(c)前記(b)で得られた沈殿物をエクソソーム画分として回収することにより行うことができる。
【0011】
味噌は大豆に米こうじと塩を混ぜて発酵させたものである。「非熟成味噌」は、熟成加工をしていない味噌を指し、「熟成味噌」は、天然の酵母や乳酸菌が自然発酵する力を利用して静置することにより熟成させた天然醸造によって造られた味噌をいう。熟成味噌は熟成期間に応じて、1年熟成味噌、3年熟成味噌などと呼ばれる。「速熟味噌」は、人工的に一定の温度下に置き加熱処理することで、麹(こうじ)の働きを活発にして強制的に発酵させ、短期間で作り上げた味噌を言い、例えば1ヶ月で熟成した速熟味噌などがある。本明細書における味噌として好ましくは、熟成味噌であり、例えば、1~3年熟成した味噌が挙げられるが、好ましくは1年以上熟成した味噌であり、より好ましくは3年以上熟成した味噌である。味噌からのエクソソームの抽出は,例えば,(a)味噌又は味噌を懸濁液(例えば、味噌を水で溶いたもの)を遠心すること;(b)前記(a)により得られた上清を超遠心で遠心すること;及び(c)前記(b)で得られた沈殿物をエクソソーム画分として回収することにより行うことができる。
【0012】
ステップ(a)における遠心は,10,000~20,000×g,10,000~15,000×g,12,000~17,000×g,又は15,000×gで行うことができる。また,ステップ(a)の遠心は,例えば,5分以上,10分以上,又は15分以上行うことができる。また,ステップ(a)における遠心は,4℃~室温で行うことができる。ステップ(a)により得られた上清をエクソソームの回収に用いる。この上清は,必要に応じてフィルターろ過(例えば,0.65μmフィルターによるろ過)することにより,更に残渣を除くことができる。フィルター濾過は必要に応じて2段階で行うことができる。
【0013】
ステップ(b)における超遠心は,70,000~100,000×g,10,000~210,000×g,50,000~200,000×g,100,000~210,000×gで行うことができる。ステップ(b)の超遠心は,例えば,50分以上,60分以上,又は70分以上,例えば,60分間~4時間行うことができる。また,ステップ(b)における超遠心は,4℃~室温で行うことができる。ステップ(b)により得られた沈殿物をエクソソームとして回収することにより,酒母又はもろみ由来のエクソソームを得ることができる(ステップC)。回収したエクソソームは必要に応じて,PBS等で洗浄することができる。洗浄は沈殿物をPBSに懸濁後,100,000~210,000×gで遠心して上清を除去することにより行うことができる。遠心の条件は,ステップ(b)の遠心に準じて設定することができる。
【0014】
得られたエクソソーム画分にエクソソームが含まれているか否かは,例えば,本願実施例の記載に準じてナノ粒子解析システムNanoSightを用いて粒子数を測定や,含有タンパク質量を測定することにより確認することができる。
【0015】
あるいは,その他の方法を用いてエクソソームを主成分とする分画を取得することもでき,このような他の条件で分離濃縮した場エクソソームも本発明のエクソソームに含まれる。例えば,Total Exosome Isolation試薬(Thermo Fisher Scientific社)などを用いて抽出することもできる。限外濾過,ペレッティング。
【0016】
よって,一態様において,本発明は日本酒の酒母又はもろみから抽出されたエクソソームに関する。本発明のエクソソームは,好ましくは,上述の方法により得られるエクソソームである。エクソソームは,細胞から分泌される脂質二重膜に囲まれた直径30~200nmの膜小胞体であり,通常,mRNA,miRNA等の核酸やタンパク質等を内包している。本発明のエクソソームの平均粒子径として好ましくは、80~200nm、100~180nm、110~160nm、又は118nmとである。また、本発明のエクソソームのピーク径として好ましくは、70~140nm、80~130nm、90~120nm、又は95nmとすることができる。
【0017】
2.エクソソームを含有する組成物
別の態様において,本発明は前記エクソソームを含有する組成物に関する。本発明の組成物におけるエクソソームの含有量は,当該組成物の使用目的が達成できる濃度であれば特に限定されるものではないが,例えば,1質量%以上,2質量%以上,3質量%以上,4質量%以上,5質量%以上,10質量%以上,20質量%以上,30質量%以上,40質量%以上,又は50質量%以上とすることができる。また、本発明の組成物が含有するエクソソームの量は、4×108個/ml以上,5×108個/ml以上,1×109個/ml以上,1×1010個/ml以上,1×1011個/ml以上、又は1×1012個/ml以上とすることができる。あるいは、本発明の組成物が含有するエクソソームの量は、エクソソームが含有するタンパク質量として33ng/ml以上、50ng/ml以上、100ng/ml以上、500ng/ml以上、1μg/ml以上、5μg/ml以上、10μg/ml以上、500μg/ml以上、1mg/ml以上、5mg/ml以上、10mg/ml以上、50mg/ml以上、100mg/ml以上、500mg/ml以上、1g/ml以上、5g/ml以とすることができる。
【0018】
当該組成物におけるエクソソーム以外の成分は,使用の目的に応じて適宜選択することができ,例えば,食品,食品添加物,化粧品原料,化粧品添加物,医薬品添加物などを含有することができる。このようなエクソソーム組成物は,例えば,食品(健康食品や栄養剤を含む),化粧品,又は医薬品とすることができ,これらの原料としてその製造過程において適宜添加することにより製造することができる。よって、本発明の対象には、本発明のエクソソームを添加した食品や化粧品(エクソソームが由来する酒母、もろみ、及び/又は味噌のみが添加された食品や化粧品を除く)が含まれる。
【0019】
本発明の組成物の形状は特に制限されるものではなく,利用形態に応じて適宜選択することができる。例えば,粉末状,粒状,顆粒状,錠状,棒状,板状,液状,飴状,ペースト状,クリーム状,ハードカプセルやソフトカプセルのようなカプセル状,カプレット状,タブレット状,ゲル状,ゼリー状,及びクリーム状などの形態を挙げることができる。
【0020】
本発明のエクソソームはがん細胞増殖抑制作用を有することから,前記エクソソームを含有する組成物は,がん細胞増殖抑制用組成物とすることができる。本明細書において,「がん」は,上皮性悪性腫瘍,脊髄由来の造血器悪性腫瘍などが含み,具体的には,リンパ腫(ホジキン病及び非ホジキンリンパ腫など),多発性骨髄腫等の造血細胞悪性腫瘍;卵巣がん;乳がん;乳腺がん;子宮体がん,子宮頚がんなどの子宮がん;子宮内膜がん;非粘液性卵巣がんなどの卵巣がん;食道がん;胃がん;虫垂がん;大腸がん,直腸がん,結腸がんなどの大腸がん;肝細胞がんなどの肝がん;胆嚢がん;胆管がん;膵臓がん;副腎がん;消化管間質腫瘍;胸膜中皮腫などの中皮腫;喉頭がん,咽喉がん,口腔がん(口腔底がん,歯肉がん,舌がん,頬粘膜がんなど)等の頭頚部がん;上衣腫などの脳がん;唾液腺がん;副鼻腔がん(上顎洞がん,前頭洞がん,篩骨洞がん,蝶型骨洞がんなど);甲状腺がん;肺がん;肺腺がん;骨肉腫;前立腺がん;睾丸絨毛上皮がんなどの精巣腫瘍又は睾丸がん;腎細胞がんなどの腎臓がん;膀胱がん;横紋筋肉腫などの肉腫;皮膚がん;肛門がん;あるいは,慢性骨髄性白血病および急性骨髄性白血病などの血液のがん,又はその転移がんを含む。好ましくは,がんは,大腸がん,前立腺がん,又は乳がんである。
【0021】
また,本発明のエクソソームはNK細胞によるグランザイム発現を促進させる作用を有することから前記エクソソームを含有する組成物は,NK細胞によるグランザイム発現促進用とすることができる。グランザイムは,NK細胞による細胞傷害活性の中心的な役割を果たすセリンプロテアーゼである。よって,本発明のNK細胞によるグランザイム発現促進用組成物は,NK細胞によるがん細胞への障害能を利用したがんの治療用又は予防用医薬組成物として利用できる他,ウイルスもしくは細菌感染,または炎症性疾患の治療用組成物として利用することができる。
【0022】
更に,本発明のエクソソームには,コラーゲン及び/又はエラスチン産生促進作用が確認された。よって,前記エクソソームを含有する組成物は,コラーゲン及び/又はエラスチン産生促進用とすることができる。コラーゲン及びエラスチンなどの繊維成分は,肌や血管などの組織の弾力性に重要な役割を果たすことが知られている。よって,前記コラーゲン及び/又はエラスチン産生促進用組成物は,組織の弾力性喪失を予防し又は組織の弾力性を向上させるための組成物として利用することができる。特に,組織が皮膚である場合には,前記組成物は化粧用としても利用することができる。より具体的には,老化皮膚の外観の改善用,たるみ及び/又はシワ若しくは小ジワの低減用とすることができる。当該化粧用組成物は肌に塗布するものであってもよいし,経口で体内に摂取するものであってもよい。
【0023】
本発明の組成物の使用量又は投与量,及び使用方法又は投与方法は,組成物の形態や目的に応じて適宜設定することができる。例えば,食品として摂取する場合,大人が1日数回,1回につき0.01mg~100gを摂取することができる。
【実施例
【0024】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明はこれのみに限定されるものではない。また,本明細書において引用される文献は全て参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
旭酒造株式会社の獺祭に使用されている酒母ともろみから回収したエクソソームについて,がん細胞,免疫細胞,及び老化細胞に対する影響を評価する目的で,以下の実験を行った。
【0026】
(実施例1)評価用エキソソームサンプルの調製
(1)獺祭の酒母ともろみ(旭酒造株式会社)を15,000×g,4℃で15分間遠心後,その上澄み液を0.65μmフィルターでろ過した(図1)。ろ過後の上澄み液をベックマンコールター社の超遠心機及びSW41Tiローターを用いて,35,000rpm(100,000×g-210,000×g),4℃で70分間超遠心した。遠心後,上澄みを破棄し,洗浄のため,沈殿物をPBSに懸濁後,再度同じ条件で超遠心を行った。サンプル洗浄後,チューブ底面に残ったエクソソーム画分を低吸着チューブに回収した。超遠心後の上澄み液の量は酒母が88mL,もろみは176mLであった。酒母及びもろみの沈殿物は,最終的に,それぞれ170μL及び340μLのPBSに懸濁した。
【0027】
(2)非熟成味噌は、熟成加工をしていない、一般的な味噌を使用した。1年~3年熟成味噌は、人工的に加熱することなく、天然の酵母や乳酸菌が自然発酵する力を利用して1~3年自然に桶のなかで熟成を待つことにより調製した天然醸造によって造られた味噌を使用した。速熟味噌は、人工的に一定の温度下に置き加熱処理することで、麹(こうじ)の働きを活発にし強制的に発酵させ、短期間で味噌を作り上げる速醸法で1ヶ月で熟成したものを使用した。これらの味噌を15,000×g,4℃で15分間遠心後,その上澄み液を0.65μmフィルターでろ過した(図1)。ろ過後の上澄み液をベックマンコールター社の超遠心機及びSW41Tiローターを用いて,35,000rpm(100,000×g-210,000×g),4℃で70分間超遠心した。遠心後,上澄みを破棄し,洗浄のため,沈殿物をPBSに懸濁後,再度同じ条件で超遠心を行った。サンプル洗浄後,チューブ底面に残ったエクソソーム画分を低吸着チューブに回収して使用した。
【0028】
(実施例2)調製したエクソソームの粒子濃度とタンパク質濃度の測定
(1)獺祭の酒母ともろみから回収したエクソソームを,酒母由来エクソソームはPBSで100倍希釈し,もろみ由来エクソソームはPBSで40倍に希釈した。それぞれの希釈溶液をナノ粒子解析システムNanoSight(解析条件:Camera Level 14,Detection Threshold 7)にて粒子数の測定を行った。タンパク質濃度については,エクソソーム溶液20μL使用してQubit Protein Assay Kit(Invitrogen)を用いてタンパク定量を行った。
【0029】
獺祭の酒母ともろみから回収したエクソソームをナノ粒子解析システムを用いた粒子数とタンパク質濃度を以下の表1に示す。また,ナノ粒子解析システムで得られた粒子の粒度分布図を図2に示す。酒母ともろみが含有するエクソソームの量は,酒母が3.8×108個/ml,もろみが0.37×108個/mlであった。また,酒母ともろみが含有するエクソソームのたんぱく質濃度は,酒母が32.1ng/ml,もろみが18.1ng/mlであった。
【0030】
【表1】
【0031】
(2)それぞれの味噌から回収したエクソソーム1gを生理的食塩水で溶解後、NanoSight(解析条件:Camera Level 14,Detection Threshold 7)にて粒子数の測定を行った。
【0032】
測定の結果、非熟成味噌の粒子数は1.2×1010個/ml、1年熟成味噌は4.7×1011個/ml、3年熟成味噌は7.8×1012個/ml、速熟味噌は2.5×1010個/mlであった。
【0033】
(実施例3)HCT116細胞における増殖試験及び細胞死試験
HCT116細胞(ヒト結腸腺癌由来癌細胞)を96wellプレートの各wellに2,000細胞ずつ播種して,翌日,実施例1で調製したエクソソームを0.5,1,及び2μg/mLの濃度で添加した。その3日後に細胞増殖試験を行い,細胞増殖の評価を行った。
【0034】
アポトーシスによる細胞死は,caspase活性を測定することにより評価した。細胞増殖試験が終わった(3)の細胞から培地を除去し,M-PER Mammalian
Protein Extraction Reagent(Thermofischer Scientific社)を100μl加えて細胞を溶解して細胞溶解液を得た。50μlの細胞溶解液と50μlのCaspase-Glo(登録商標)3/7 Reagent(Caspase-Glo(登録商標)3/7 Assay Systems,Promega社)の溶液を混合して,発光によりcaspase活性を測定した。
【0035】
図3に示すとおり,もろみ,並びに酒母由来のエクソソームを0.5,1,2μg/mLの濃度で大腸がん細胞株HCT116に加えたところ,コントロール(PBS)と比較して,もろみでは0.5μg/mL以上で,酒母では1μg/mL以上で増殖抑制活性が見られた。しかしアポトーシスに関して,コントロールと比較して優位な差は見られなかったことから,大腸がん細胞株における酒母,もろみ由来のエクソソームの効果は細胞増殖抑制活性であると考えられた。
【0036】
(実施例4)多様な癌細胞種における増殖試験及び細胞死試験
結腸癌以外の癌細胞においても同様の効果があるか確かめるため,エクソソーム濃度を2μg/mLとした以外は実施例3と同様の方法でより多くのがん細胞種(大腸がん細胞株HCT116,肺がん細胞株A549,乳がん細胞株MDA-MB-231,及び前立腺がん細胞株PC-3M)について増殖抑制試験及びアポトーシス誘導能試験を行った。
【0037】
図4に示すとおり,実施例2と同様に大腸がん細胞株において,増殖抑制効果が再現された。また,大腸がんと同等の効果が,前立腺がん細胞株及び乳がん細胞株においても認められ,肺がんにおいても比較的弱いながらも増殖抑制効果が認められた。
【0038】
アポトーシス測定の結果を図5に示す。PBSと比較した相対量で評価した結果,全ての細胞株で顕著なアポトーシス誘導は見られなかった。そのため,図4で見られた細胞増殖抑制効果についても,細胞死誘導によるものではなく,細胞増殖を抑制することによることが再確認された。
【0039】
(実施例5)がん細胞における遊走性試験
HCT116細胞を24wellプレートに播種し,翌日,プレート内に傷を付け,一部空間を作った。傷をつけた日をDay0として,Day0,Day1,Day2に細胞を撮影し,傷を付けた部分が細胞の遊走により,どれだけ狭まったのかを評価した。
【0040】
遊走性試験の結果を図6(写真)及び図7(グラフ)に示す。遊走能に関しては,もろみと酒母で阻害する傾向は見られたが,顕著な抑制効果は見られなかった。
【0041】
酒母ともろみからそれぞれエクソソーム画分を単離することに成功した。がん細胞における,増殖抑制能及び細胞死誘導能を評価した結果,前立腺がん,大腸がん,及び乳がん細胞株において,増殖抑制作用が,肺がん細胞株において弱い増殖抑制作用が認められた。これらの細胞株への細胞死を誘導していないことが確認されたことから,酒母ともろみ由来のエクソソームは,がん細胞を死に至らしめずに,細胞の増殖だけを抑制する効果を持つことがわかった。また癌細胞の遊走能に関しては,阻害する傾向は見られたものの,顕著な変化は認められなかった。以上より,酒母ともろみ由来のエクソソームはがん細胞の増殖を抑制する効果が認められたが,この効果は抗がん剤のように細胞死を誘導するほどの強い効果ではなく,穏やかにがん細胞の増殖を止める効果であると考察された。
【0042】
【表2】
【0043】
(実施例6)免疫細胞におけるグランザイムの発現解析
(1)長期間培養可能なNK細胞であるNK-92MI細胞を24wellプレートに25,0000細胞ずつ播種し,実施例1で調製したエクソソームを3,10,又は30μ/L(味噌エクソソームの場合、細胞あたりおよそ100個、すなわち1ウエルあたり2x107個の粒子)となるように添加した。その2日後に細胞を回収し,タンパク質抽出を行い,ウェスタンブロッティング法によりタンパク質の発現量を測定した。
【0044】
(2)酒母エクソソームの結果
図8に示すとおり,酒母エクソソームを添加することにより,NK細胞内のグランザイムの発現量の増加が見られた。図8の上図はタンパク質の発現量を評価するウェスタンブロッティングの写真で,下図はその発現量を定量化したものである。以上のことから,酒母エクソソームはNK細胞内のグランザイムの発現を上げることで殺細胞効果に貢献すると考えられる。もろみエクソソームに関しては,グランザイムの発現量に大きな変化は見られなかった。
【0045】
(3)味噌エクソソームの結果
図12に示すとおり,1年及び3年熟成味噌のエクソソームを添加することにより,NK細胞内のグランザイムの発現量の増加が見られた。よって,1年以上熟成した味噌のエクソソームはNK細胞内のグランザイムの発現を上げることで殺細胞効果に貢献すると考えられる。
【0046】
(実施例7)免疫細胞におけるサイトカインの分泌測定
NK細胞のサイトカイン分泌として主要なインターフェロンガンマ,インターロイキン17,TNFアルファの3種類のサイトカインの分泌量を評価した。NK-92MI細胞を24wellプレートに25,0000細胞ずつ播種し,3,10,又は30μ/Lとなるようにエクソソームを添加した。その2日後に培養上清を回収し,300gで3分間遠心して上清を回収した。上清中のインターフェロンガンマ,インターロイキン17,TNFアルファの測定はELISAキット(R&D systems)を用いて行った。
【0047】
結果を図9に示す。いずれのサイトカインにおいても大きな分泌量の上昇は見られなかったが,酒母エクソソームにおいてインターフェロンガンマの分泌量が減少していた。
【0048】
(実施例8)老化細胞におけるベータガラクトシダーゼ染色
老化細胞の評価方法としてベータガラクトシダーゼ染色を行った。ベータガラクトシダーゼ染色は高感度であることが知られているSPiDER-βGal(Dojindo社)を用いた。具体的には,3,10,又は30μ/Lとなるようにエクソソームを加えた線維芽細胞(P8)を60mmディッシュに2×105細胞/ディッシュとなるように播種し,二回継代し,細胞を老化させた。細胞を継代するごとに3,10,又は30μ/Lとなるようにエクソソームを加えた。その後,老化させた線維芽細胞(P10)を35mmガラスベースディッシュに播種した。翌日,培地を吸引除去し,HBSS 2mlで1回洗浄した。培養開始から72時間後に4%パラホルムアルデヒド/PBS溶液2mlを添加し,室温で3分間固定化した。4%パラホルムアルデヒド/PBS溶液2mlを吸引除去し,HBSS 2mlで2回洗浄を行った。SPiDER-βGal working solution 2ml(Dojindo)を加え,37℃で30分間静置した。その後,HBSS 2mlで2回洗浄を行い,共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0049】
結果を図10に示す。コントロール及びエクソソーム添加細胞のいずれの細胞においても細胞が緑色に染色されたことから,もろみ及び酒母由来のエクソソームは細胞の老化を止めることができなかったことが示された。
【0050】
(実施例9)老化細胞におけるコラゲナーゼ,エラスチンの発現量の測定
(1)老化線維芽細胞で活性が減少しているコラーゲンとエラスチンの発現量のエクソソーム添加による変化を評価した。老化させた線維芽細胞(P10)を24wellプレートに100,000細胞播種し,翌日3,10,又は30μ/L(味噌エクソソームの場合、細胞あたりおよそ100個、すなわち1ウエルあたり2x107個の粒子)となるようにエクソソームを添加し,その2日後にQiagen miRNeasy mini
kitを用いてRNA抽出を行った。抽出されたRNAをサンプルとして,High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems社)を用いてRT-PCRを行った。定量的PCRのためにTaqman Universal Master Mix II(Applied Biosystems社の)を使用した。コラゲナーゼとエラスチンの検出用のプライマー/プローブとして,Applied Biosystems社のTaqman法を用いて評価した。I型コラーゲンアルファ1鎖,I型コラーゲンアルファ2鎖,III型コラーゲン,エラスチンのプライマー/プローブを使用した。
【0051】
(2)酒母・もろみエクソソームの結果
皮下のコラーゲンとして重要なI型コラーゲンとIII型コラーゲン,そしてエラスチンの発現量の評価を行った。その結果を図11に示す。酒母エクソソームを加えることでI型コラーゲンとIII型コラーゲンそしてエラスチンの発現量が全て上昇することがわかった。一方,もろみエクソソームを添加した場合,これらの物質の発現量に変化は見られなかった。
【0052】
(3)味噌エクソソームの結果
I型コラーゲンとエラスチンの発現量の評価を行った。その結果を図13に示す。味噌エクソソームを加えることでI型コラーゲンとエラスチンの発現量が全て上昇することがわかった。特に、3年熟成エクソソームを添加した場合,これらの物質の発現量が顕著に高くなった。
【0053】
以上、酒母ともろみ及び味噌からエクソソーム画分を単離し,免疫細胞と老化細胞における機能を評価した。免疫細胞に関してはがん細胞の殺細胞効果を持つNK細胞に注目した。その結果,酒母エクソソームの添加により,殺細胞効果を持つことが知られているグランザイムの細胞内にける量が増加したことがわかった。この結果は,NK細胞が,がん細胞を攻撃する際により効果的に多くのがん細胞を殺すことを示唆している。一方,他の免疫細胞を呼び込むサイトカインの分泌に関しては大きな変化は見られなかった。酒母エクソソームにおけるインターフェロンガンマの分泌量が減っているが,これはグランザイムの発現量と逆相関していることからも,NK細胞が殺細胞活性を高めている段階であると考えることができる。
【0054】
一方,線維芽細胞における老化の評価に関しては,酒母エクソソーム,もろみエクソソームともに線維芽細胞の老化を食い止めることができなかった。一方,酒母エクソソームの添加により老化した線維芽細胞におけるコラーゲンの産生とエラスチンの産生が高まったことから,皮膚の老化により減少するコラーゲンとエラスチンの産生を高める働きがあることが示唆された。
【0055】
以上により,酵母(酒母、もろみ、味噌)由来のエクソソームはNK細胞の殺細胞効果をグランザイムの発現量を増やすことにより高めることがわかった。また老化細胞に関しては,コラーゲンとエラスチンの発現量を高めることから,皮膚における弾力性低下の防止及び弾力性の向上に貢献できると考察される。
【0056】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13