(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】リチウム金属陽極及びその製造方法、リチウム金属陽極を含むリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20230216BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230216BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20230216BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230216BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20230216BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20230216BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/1395
H01M4/66 A
H01M4/80 C
C01B32/194
(21)【出願番号】P 2021130013
(22)【出願日】2021-08-06
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】202110123588.X
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】598098331
【氏名又は名称】ツィンファ ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】500080546
【氏名又は名称】鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HON HAI PRECISION INDUSTRY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】66,Chung Shan Road,Tu-Cheng New Taipei,236(TW)
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 菁
(72)【発明者】
【氏名】王 佳平
(72)【発明者】
【氏名】▲ハン▼ 守善
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-207637(JP,A)
【文献】特開2019-160730(JP,A)
【文献】特表2020-509566(JP,A)
【文献】特表2022-500835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/38
H01M 4/1395
H01M 4/66
H01M 4/80
C01B 32/194
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブスポンジ及びリチウム金属材料を含むリチウム金属
負極であって、
前記カーボンナノチューブスポンジは、炭素堆積層と、複数のカーボンナノチューブと、複数の微孔と、を含み、
前記複数のカーボンナノチューブの表面が前記炭素堆積層によって覆われ、
前記複数の微孔は、表面が前記炭素堆積層によって覆われているカーボンナノチューブが相互に交差して形成され、
前記リチウム金属材料は前記複数の微孔に充填されていることを特徴とするリチウム金属
負極。
【請求項2】
前記複数のカーボンナノチューブは純粋なカーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム金属
負極。
【請求項3】
前記リチウム金属
負極では、前記複数のカーボンナノチューブの質量百分率は6%~10%であり、前記炭素堆積層の質量百分率は0.5%~1%であり、前記リチウム金属材料の質量百分率は85%~95%であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム金属
負極。
【請求項4】
ケーシングと、請求項1~3のいずれかのリチウム金属
負極と、
正極と、電解質と、セパレーターと、を含むリチウムイオン電池であって、
前記リチウム金属
負極と、前記
正極と、前記電解質と、前記セパレーターとは前記ケーシングの内部に設置され、
前記リチウム金属
負極、前記
正極及び前記セパレーターは前記電解質に設置され、
前記セパレーターは前記リチウム金属
負極と前記
正極との間に設置され、前記ケーシングの内部空間は二つの部分に分けられ、
前記リチウム金属
負極と前記セパレーターとが分離され、
前記
正極と前記セパレーターが分離されていることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項5】
カーボンナノチューブ原料を提供する第一ステップであって、前記カーボンナノチューブ原料はカーボンナノチューブアレイから直接に削り取る第一ステップと、
前記カーボンナノチューブ原料を有機溶媒に添加して、超音波で振動させて綿状構造体を形成する第二ステップと、
前記綿状構造体を水で洗浄する第三ステップと、
洗浄した前記綿状構造体を真空で凍結乾燥して、カーボンナノチューブスポンジプリフォームを得る第四ステップと、
前記カーボンナノチューブスポンジプリフォームにカーボンを堆積して、炭素堆積層を形成し、カーボンナノチューブスポンジを得る第五ステップと、
無酸素雰囲気で溶融リチウムを前記カーボンナノチューブスポンジと接触させて、前記カーボンナノチューブスポンジに溶融リチウムを熱的に注入し、冷却してリチウム金属
負極を形成する第六ステップと、
を含むことを特徴とするリチウム金属
負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属陽極及びその製造方法、リチウム金属陽極を含むリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、電気自動車や携帯型電子機器などに広く使用されている。従来のリチウムイオン電池の負極はグラファイトであり、その理論容量が372mAhg-1である。リチウムイオン電池の容量を増やすという需要を満足できない。リチウム金属陽極は3860mAhg-1の高理論容量及び-3.04Vの低酸化還元電位を有するため、次世代充電式電池の「聖杯」電極とされている。
【0003】
しかし、従来のリチウム金属陽極には、その実用化を妨げるいくつかの問題がある。サイクル中のリチウムの堆積は不均一であり、且つ不均一な堆積はリチウムデンドライト結晶の成長を引き起こす。リチウムと液体電解質との間の化学反応は、リチウム金属の表面に固体電解質界面(SEI)を形成する。リチウムデンドライト結晶はSEIに浸透し、SEIの下の新鮮なリチウムは液体電解質と反応して電解質の消耗と副反応を引き起こす。リチウムデンドライト結晶が長すぎると、リチウムデンドライト結晶が壊れてリチウム金属陽極との接触が失われ、「リチウムの枯渇」が発生し、リチウム金属陽極の構造が失われる。そして、これらの問題は、最終的には容量の損失、クーロン効率の低下、及びバッテリー障害という高いリスクを引き起こす。したがって、リチウムデンドライト結晶の問題を解決し、リチウム陽極のクーロン効率と体積効果を改善することが、リチウム陽極またはリチウム金属電池の工業化を促進する方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これによって、上記の欠点を克服できるリチウム陽極を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
カーボンナノチューブスポンジ及びリチウム金属材料を含むリチウム金属陽極であって、前記カーボンナノチューブスポンジは、炭素堆積層と、複数のカーボンナノチューブと、複数の微孔と、を含み、前記複数のカーボンナノチューブの表面が前記炭素堆積層によって覆われ、前記複数の微孔は、表面が炭素堆積層によって覆われているカーボンナノチューブが相互に交差して形成され、前記リチウム金属材料は前記複数の微孔に充填されている。
【0006】
前記複数のカーボンナノチューブは純粋なカーボンナノチューブである。
【0007】
前記リチウム金属陽極では、前記複数のカーボンナノチューブの質量百分率は6%~10%であり、前記炭素堆積層のの質量百分率は0.5%~1%であり、前記リチウム金属材料の質量百分率は85%~95%である。
【0008】
リチウムイオン電池はケーシングと、リチウム金属陽極と、陰極と、電解質と、セパレーターと、を含み、前記リチウム金属陽極と、前記陰極と、前記電解質と、前記セパレーターとは前記ケーシングの内部に設置され、前記リチウムイオン電池では、前記リチウム金属陽極、前記陰極及び前記セパレーターは前記電解質に設置され、前記セパレーターは前記リチウム金属陽極と前記陰極との間に設置され、前記ケーシングの内部空間は二つの部分に分けられ、前記リチウム金属陽極と前記セパレーターとが分離され、前記陰極と前記セパレーターが分離されている。
【0009】
リチウム金属陽極の製造方法は、カーボンナノチューブ原料を提供する第一ステップであって、前記カーボンナノチューブ原料はカーボンナノチューブアレイから直接に削り取る第一ステップと、前記カーボンナノチューブ原料を有機溶媒に添加して、超音波で振動させて綿状構造体を形成する第二ステップと、前記綿状構造体を水で洗浄する第三ステップと、洗浄した前記綿状構造体を真空で凍結乾燥して、カーボンナノチューブスポンジプリフォームを得る第四ステップと、前記カーボンナノチューブスポンジプリフォームにカーボンを堆積して、炭素堆積層を形成し、カーボンナノチューブスポンジを得る第五ステップと、無酸素雰囲気で溶融リチウムを前記カーボンナノチューブスポンジと接触させて、前記カーボンナノチューブスポンジに溶融リチウムを熱的に注入し、冷却してリチウム金属陽極を形成する第六ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
従来技術と比べて、本発明が提供するリチウム金属陽極は、以下の有益効果を有する。炭素堆積層は、カーボンナノチューブの表面を覆い、カーボンナノチューブの機械的強度を向上させ、カーボンナノチューブを分離して、カーボンナノチューブの凝集を防ぐ。カーボンナノチューブスポンジの構造は、安定して多孔を有し、強力な機械的強度を備え、リチウムの再結合を助長する。アモルファスカーボン層はリチウム親和性が高いため、リチウム金属陽極のリチウムが均一に分布し、カーボンナノチューブスポンジの微孔に充填される。同時に、複数の微孔を有するカーボンナノチューブスポンジはリチウムの安定したフレームワークとし、強力なフレームワーク及びリチウムの堆積/剥離のための十分なスペースを提供し、リチウム金属陽極の表面に沿った電流密度を減らし、リチウムデンドライト結晶の形成を抑制し、SEIを完全で安定させる。これはリチウムイオン電池のサイクル寿命を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例のリチウム金属陽極の製造方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の実施例のリチウム金属陽極の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図3】本発明の実施例のリチウム金属陽極の構造を示す概略図と断面図である。
【
図4】本発明の実施例のカーボンナノチューブスポンジの局所構造を示す拡大概略図である。
【
図5】本発明の実施例のリチウムイオン電池の構造を示す概略図である。
【
図6】本発明の実施例1のカーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジの透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【
図7】本発明の実施例1のカーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図8】本発明の実施例1のカーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジのラマンスペクトルである。
【
図9】本発明の実施例1のカーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジののBET等温線である。
【
図10】本発明の実施例1のカーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジの孔径分布を示す図である。
【
図11】本発明の実施例1のカーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジのストレステストプロセスを示す図である。
【
図12】本発明の実施例1のカーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジに電解質を添加する前後の構造を示す図である。
【
図13】本発明の実施例1のカーボンナノチューブスポンジに溶融リチウムを熱注入するプロセスを示す図である。
【
図14】本発明の実施例1のカーボンナノチューブスポンジ、カーボンナノチューブスポンジプリフォーム、アモルファスカーボンがコーティングされるステンレス鋼、オリジナルステンレス鋼のリチウム親和性試験を示す図である。
【
図15】本発明の実施例1のリチウム金属陽極のXPSスペクトルである。
【
図16】本発明の実施例2の純リチウム金属電極を使用した対称電池の電圧-時間曲線を示す図である。
【
図17】本発明の実施例2のリチウム金属陽極を使用した対称電池の電圧-時間曲線を示す図である。
【
図18】本発明の実施例2の純リチウム金属電極を使用した対称電池及びリチウム金属陽極を使用した対称電池が78~80時間にサイクルする電圧-時間曲線を示す図である。
【
図19】本発明の実施例2の純リチウム金属電極を使用した対称電池の電圧-時間曲線を示す図である。
【
図20】本発明の実施例2のリチウム金属陽極を使用した対称電池の電圧-時間曲線を示す図である。
【
図21】本発明の実施例2の純リチウム金属電極を使用した対称電池及びリチウム金属陽極を使用した対称電池がサイクルする前のナイキスト線図である。
【
図22】本発明の実施例2の純リチウム金属電極を使用した対称電池及びリチウム金属陽極を使用した対称電池が20時間サイクルした後のナイキスト線図である。
【
図23】本発明の実施例2の純リチウム金属電極を使用した対称電池を100時間サイクルさせた後の純リチウム金属電極の表面のSEM写真である。
【
図24】本発明の実施例2のリチウム金属陽極を使用した対称電池を100時間サイクルさせた後のリチウム金属陽極の表面のSEM写真である。
【
図25】本発明の実施例2の純リチウム金属電極を使用した対称電池を100時間サイクルさせた後の純リチウム金属電極の断面のSEM写真である。
【
図26】本発明の実施例2のリチウム金属陽極を使用した対称電池を100時間サイクルさせた後のリチウム金属陽極の断面のSEM写真である。
【
図27】本発明の実施例3の純リチウム陽極を含む半電池及びリチウム金属陽極を含む半電池のサイクル性能を示す図である。
【
図28】本発明の実施例3の純リチウム陽極を含む半電池とリチウム金属陽極を含む半電池の速度性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0013】
図1を参照すると、本発明の一実施形態はリチウム金属陽極の製造方法を提供する。リチウム金属陽極の製造方法は、以下のステップを含む。
ステップ(S1)、カーボンナノチューブ原料を提供し、カーボンナノチューブ原料は、カーボンナノチューブアレイから直接に削り取ることによって得られる。
ステップ(S2)、カーボンナノチューブの原料を有機溶媒に添加して、超音波で振動させて綿状構造体を形成する。
ステップ(S3)、綿状構造体を水で洗浄する。
ステップ(S4)、洗浄した綿状構造体を真空環境で凍結乾燥して、カーボンナノチューブスポンジプリフォームを得る。
ステップ(S5)、カーボンナノチューブスポンジプリフォームにカーボンを堆積して、炭素堆積層を形成し、カーボンナノチューブスポンジを得る。
ステップ(S6)、無酸素雰囲気で溶融リチウムをカーボンナノチューブスポンジと接触させて、カーボンナノチューブスポンジに溶融リチウムを熱的に注入し、冷却してリチウム金属陽極を形成する。
【0014】
ステップ(S1)において、カーボンナノチューブ原料は複数のカーボンナノチューブのみからなる。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、または多層カーボンナノチューブであってもよい。カーボンナノチューブの直径は10nm~30nmである。カーボンナノチューブの長さは100ミクロンより長く、好ましくは、カーボンナノチューブの長さは300ミクロンより長い。本実施例において、カーボンナノチューブの直径は10nm~20nmであり、カーボンナノチューブの長さは300マイクロメートルである。好ましくは、カーボンナノチューブは、純粋な表面を有し、不純物及び化学修飾を有さないカーボンナノチューブである。不純物や化学的修復がカーボンナノチューブ間の作用力を破壊できる。カーボンナノチューブ原料の製造方法は、基板にカーボンナノチューブアレイを成長するステップ(S11)と、ブレード或いはほかの工具を用いて基板からカーボンナノチューブアレイを削り取ってカーボンナノチューブ原料を得るステップ(S12)と、を含む。カーボンナノチューブ原料はカーボンナノチューブアレイから直接得られるため、カーボンナノチューブ原料を使用して製造したカーボンナノチューブスポンジの強度が高い。好ましくは、カーボンナノチューブアレイは、超配列カーボンナノチューブアレイ(Superaligned array of carbon nanotubes)である。超配列カーボンナノチューブアレイにおけるカーボンナノチューブの長さが比較的長く、一般にその長さは300ミクロン以上である。超配列カーボンナノチューブアレイにおけるカーボンナノチューブの表面は純粋で、アモルファスカーボンや残留する触媒金属粒子などの不純物をほとんど含まず、カーボンナノチューブの配列方向は基本的に同じである。
【0015】
ステップ(S2)において、カーボンナノチューブの原料を有機溶媒に添加して、一定時間で超音波処理して綿状の構造体を形成する。好ましくは、有機溶媒は良好な濡れ性を有する。有機溶媒は、エタノール、メタノール、アセトン、イソプロパノール、ジクロロエタンまたはクロロホルムである。カーボンナノチューブ原料と有機溶媒の比率は、実際のニーズに応じて選択できる。
【0016】
超音波振動のパワーは、300ワット~1500ワットである。好ましくは、超音波振動のパワーは、500ワット~1200ワットである。超音波処理時間は10分間~60分間である。超音波振動後、カーボンナノチューブ原料におけるカーボンナノチューブは有機溶媒中に均一に分布し、綿状構造体を形成する。カーボンナノチューブ原料は、超配列カーボンナノチューブアレイから直接に削り取られるため、超音波振動プロセスを経ても、カーボンナノチューブ原料におけるカーボンナノチューブが分離することはなく、絡み合って引き寄せられる綿状構造体を維持する。綿状構造体は、複数の孔を有する。有機溶剤はカーボンナノチューブに対する濡れ性に優れているため、カーボンナノチューブ原料を有機溶剤に均一に分散させることができる。本実施例において、カーボンナノチューブ原料をエタノールに添加して、30分間超音波振動させる。
【0017】
ステップ(S3)において、綿状構造体を水で洗浄する。有機溶媒の凝固点は一般に-100℃より低いため、その後の凍結乾燥が難しい。これにより、綿状構造体を水で洗浄した後、綿状構造体の孔を水で満たすことができ、その後の凍結乾燥が容易になる。本実施例において、脱イオン水を使用して綿状構造体を洗浄してエタノールを除去し、綿状構造体の孔が水で満たされる。
【0018】
ステップ(S4)において、洗浄した綿状構造体を真空環境で凍結乾燥して、カーボンナノチューブスポンジプリフォームを獲得する。綿状構造体を凍結乾燥する方法は、綿状構造体を凍結乾燥機に入れて-40℃以下に急冷するステップ(S41)と、真空にして徐々に段階的に温度を室温まで上げ、各段階の温度に達したら1~10時間乾燥するステップ(S42)と、含む。真空凍結乾燥は、カーボンナノチューブスポンジプリフォームが崩壊するのを防ぐことができる。これは、その後のふわふわしたカーボンナノチューブスポンジの形成に有益である。カーボンナノチューブスポンジプリフォームの密度は0.5mg/cm3~100mg/cm3であり、完全に制御可能である。本実施例において、カーボンナノチューブスポンジプリフォームをシリンダー体に切り、その直径は16mmであり、その密度は10mg/cm3である。
【0019】
ステップ(S5)において、カーボンナノチューブスポンジプリフォームへの炭素堆積の方法は限定されず、化学気相蒸着法または電気化学的堆積方法であってもよい。化学気相蒸着法では、メタンやアセチレンなどの炭素源ガスを導入し、アルゴンなどの保護ガスで700℃~1200℃に加熱して炭素源ガスを分解し、炭素堆積層を形成する。炭素堆積層は、各カーボンナノチューブの表面を均一に覆い、且つ炭素堆積層はカーボンナノチューブ間の接合部を一片に接続させ、複数の微孔を形成する。カーボンナノチューブスポンジプリフォームへの炭素堆積の時間は1分間~240分間である。炭素堆積時間が長くなるほど、各カーボンナノチューブの表面に炭素堆積層をより厚く形成できる。炭素堆積層は、結晶炭素層、アモルファスカーボン層、またはそれらの混合物であってもよい。炭素堆積層の厚さは2nm~100nmである。本実施例において、カーボンナノチューブスポンジプリフォームを窒素とアセチレンの混合雰囲気で800℃で10分間加熱して、アモルファスカーボン層を形成し、カーボンナノチューブスポンジを得る。アモルファスカーボン層の厚さは4nmである。
【0020】
ステップ(S6)において、溶融リチウムを無酸素雰囲気でカーボンナノチューブスポンジと接触させて、カーボンナノチューブスポンジに溶融リチウムを熱的に注入し、冷却してリチウム金属陽極を形成する。リチウム片を200℃~300℃に加熱して溶融リチウムを得る。溶融リチウムを無酸素雰囲気でカーボンナノチューブスポンジの一つの表面に設置して、溶融リチウムがゆっくりとカーボンナノチューブスポンジの孔に浸透して且つ充填する。その後に、溶融リチウムが冷却される。本実施例において、純粋なリチウムシートを300℃に加熱して溶融リチウムを得、グローブボックスにアルゴンガスを充填して溶融リチウムをカーボンナノチューブスポンジの表面に設置し、溶融リチウムがゆっくりとカーボンナノチューブスポンジの孔に浸透し、室温で冷却され、リチウム金属陽極が形成される。溶融リチウムの量は、実際のニーズに応じて選択できる。具体的には、形成したいリチウム金属陽極のサイズに応じて選択できる。好ましくは、溶融リチウムの量は、カーボンナノチューブスポンジ全体を覆うことができる。同じ密度または同じ質量のカーボンナノチューブスポンジの内部空間は基本的に同じであるため、溶融リチウムの注入量は基本的に同じである。本実施例において、注入される溶融リチウムの質量は170mg~180mgである。
【0021】
さらに、リチウム金属陽極の製造方法はリチウム金属陽極を切るステップを含むことができる。実際のニーズに応じて、希望なサイズのリチウム金属陽極を切ることができる。さらに、希望な厚さを有するリチウム金属陽極を獲得するために、リチウム金属陽極の製造方法はリチウム金属陽極を圧延するステップを含むことができる。本実施例において、リチウム金属陽極は、圧延機によって600μmの厚さに圧延される。
【0022】
本発明によって提供されるリチウム金属陽極の製造方法は、以下の有益効果を有する。カーボンナノチューブスポンジプリフォームの表面にアモルファスカーボン層を堆積し、溶融リチウムをカーボンナノチューブスポンジと接触させ、且つ単に熱注入して、カーボンナノチューブスポンジを有するリチウム金属陽極を形成できる。リチウム金属陽極の製造プロセスは単純であり、且つ操作が簡単である。同時に、アモルファスカーボンでコーティングされたカーボンナノチューブスポンジは安定した構造を有し、アモルファスカーボンはリチウム親和性が高く、リチウムと相互作用できるため、溶融リチウムがカーボンナノチューブスポンジの微孔に直接拡散することを実現して、リチウム金属陽極を形成する。
【0023】
図2~
図4を参照すると、本発明はリチウム金属陽極の製造方法によって形成されるリチウム金属陽極10を提供する。リチウム金属陽極10は、カーボンナノチューブスポンジ12及びリチウム金属材料14を含む。カーボンナノチューブスポンジ12は、表面が炭素堆積層124によって覆われている複数のカーボンナノチューブ122及び複数の微孔126を含む。複数の微孔126は、その表面が炭素堆積層124によって覆われているカーボンナノチューブ122によって形成される。リチウム金属材料14は複数の微孔126に充填されている。
【0024】
カーボンナノチューブスポンジ12は複数のカーボンナノチューブ122を含む。複数のカーボンナノチューブ122は互いに絡み合ってカーボンナノチューブネットワーク構造体を形成する。複数の絡み合ったカーボンナノチューブ122の間に複数の孔が形成される。炭素堆積層124は、各カーボンナノチューブ122の表面を均一に覆い、且つ炭素堆積層124はカーボンナノチューブ間の接合部で接続されて連続体を形成し、複数の微孔126を形成する。リチウム金属材料14は、炭素堆積層124の表面に付着し、微孔126を充填する。好ましくは、リチウム金属陽極10はカーボンナノチューブスポンジ12及びリチウム金属材料14からなる。カーボンナノチューブスポンジ12は複数のカーボンナノチューブ122及び炭素堆積層124からなる。複数のカーボンナノチューブ122が互いに絡み合ってカーボンナノチューブネットワーク構造体を形成し、複数の絡み合ったカーボンナノチューブ122の間に複数の孔が形成される。炭素堆積層124は各カーボンナノチューブ122の表面を均一に覆い、炭素堆積層124はカーボンナノチューブ間の接合部で接続されて、複数の微孔126を形成する。隣接する2つのカーボンナノチューブ122は交差して、少なくとも一つの接触部を形成する。接触部は炭素堆積層124によって完全に覆われる。炭素堆積層124は、カーボンナノチューブ122が互いに接触するのを妨げない。リチウム金属材料14は、炭素堆積層124の表面を覆い、微孔126を充填する。一つの例において、リチウム金属材料14はすべての微孔126を埋める。リチウム金属材料14は、純粋なリチウム材料である。
【0025】
カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブの直径は10nm~30nmである。カーボンナノチューブの長さは100ミクロンより長い。好ましくは、カーボンナノチューブの長さは300ミクロンより長い。本実施例において、カーボンナノチューブの直径は10nm~20nmであり、カーボンナノチューブの長さは300ミクロンである。カーボンナノチューブは純粋なカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブはその表面が不純物を含まず、化学修飾もされていない純粋なカーボンナノチューブである。すなわち、カーボンナノチューブの表面はアモルファスカーボンなどの不純物を含まず、カーボンナノチューブはヒドロキシル基、カルボキシル基などの官能基によって修飾されない。
【0026】
炭素堆積層124は、結晶炭素、アモルファス炭素、またはそれらの混合物であってもよい。炭素堆積層124の厚さは2nm~100nmである。本実施例において、炭素堆積層124はアモルファス炭素層である。アモルファス炭素層の厚さは4nmである。リチウム金属陽極10において、カーボンナノチューブの質量百分率は6%~10%であり、炭素堆積層124の質量百分率は0.5%~1%であり、金属リチウムの質量百分率は85%~95%である。本実施例において、リチウム金属陽極10において、カーボンナノチューブの質量百分率は7.8%であり、炭素堆積層の質量百分率は0.77%であり、金属リチウムの質量百分率は91.43%である。
【0027】
炭素堆積層124でコーティングされたカーボンナノチューブ122は、カーボンナノチューブワイヤと呼ばれることができる。すなわち、リチウム金属陽極10は、金属リチウムブロックと複数のカーボンナノチューブワイヤとを含む。複数のカーボンナノチューブワイヤが互いに接触して、カーボンナノチューブワイヤネットワーク構造体を形成する。金属リチウムブロックは複数の間隙を含み、各間隙は少なくとも1本のカーボンナノチューブワイヤで満たされている。具体的には、2つのカーボンナノワイヤが互いに交差する場合、2つの隣接するカーボンナノチューブ122が交差して、少なくとも1つの接触部を形成する。接触部は炭素堆積層124によって完全に覆われ、且つ炭素堆積層124はカーボンナノチューブ122が接触部分で互いに直接接触することを妨げない。
【0028】
好ましくは、金属リチウムブロックの複数の間隙はカーボンナノチューブワイヤに充填される。少なくとも1本のカーボンナノチューブワイヤは、純粋なカーボンナノチューブ及び炭素堆積層からなる。
【0029】
本発明により提供されるリチウム金属陽極は、以下の有益効果を有する。アモルファスカーボンはカーボンナノチューブの表面を覆い、カーボンナノチューブの機械的強度を改善し、カーボンナノチューブを分離して、カーボンナノチューブの凝集を防ぎ、カーボンナノチューブスポンジの構造は安定し、複数の孔を有し、その機械的強度が高く、リチウムの再結合を促進する。アモルファスカーボン層はリチウム親和性が高いため、リチウム金属陽極にリチウムを均一に分布させ、カーボンナノチューブスポンジの微孔に充填させる。同時に、多孔質のカーボンナノチューブスポンジはリチウムの安定したフレームワークとし、リチウムの堆積/剥離のための強力なフレームワーク及び十分なスペースを提供し、リチウム金属陽極の表面に沿った電流密度を低減し、リチウムデンドライト結晶の形成を抑制し、SEIを完全で安定させる。これはリチウムイオン電池のサイクル寿命を改善する。
【0030】
図5を参照すると、本発明はリチウム金属陽極10を使用するリチウムイオン電池100を提供する。リチウムイオン電池100は、ケーシング20と、リチウム金属陽極10と、陰極30と、電解質40と、セパレーター50と、を含む。リチウム金属陽極10と、陰極30と、電解質40と、セパレーター50とはケーシング20の内部に設置される。リチウム金属陽極10、陰極30及びセパレーター50は電解質40に設置される。セパレーター50はリチウム金属陽極10と陰極30との間に設置され、ケーシング20の内部空間は2つの部分に分けられる。リチウム金属陽極10とセパレーター50とが分離され、陰極30とセパレーター50が分離されている。
【0031】
リチウム金属陽極10は、カーボンナノチューブスポンジ12及びリチウム金属材料14を含む。リチウム金属陽極10について、ここでは説明を繰り返さない。
【0032】
陰極30は、陰極活物質層及び集電体を含む。陰極活物質層は、均一に混合された陰極活物質、導電剤及びバインダーを含む。陰極活物質は、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどであってもよい。集電体は金属片であり、例えば、白金片であってもよい。
【0033】
セパレーター50は、ポリプロピレン微孔性膜である。電解質40の電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウムまたはホウ酸ビスシュウ酸リチウムなどであってもよい。電解質40の有機溶媒は、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネートまたはジメチルカーボネートなどであってもよい。セパレーター50及び電解質40は他の従来に使用される材料であってもよい。
【0034】
実施例1
超配列カーボンナノチューブアレイを提供する。超配列カーボンナノチューブアレイにおけるカーボンナノチューブの直径は20nmであり、その長さは300ミクロンである。100mgの超配列カーボンナノチューブアレイをこすり取り、100mlのエタノール及び100mlの脱イオン水が形成する混合液に添加し、出力が400ワットである超音波で30分間撹拌して綿状構造体を形成する。綿状構造体を水で洗浄し、洗浄した綿状構造体を凍結乾燥機に入れ、-30℃まで急冷し、12時間凍結する。次に、温度を-10℃に上げ、10Paに真空引き、12時間乾燥した後、真空システムを閉じる。凍結乾燥機の空気入口バルブを開き、サンプルを取り出してカーボンナノチューブスポンジプリフォームを取得する。カーボンナノチューブスポンジプリフォームを反応器に移し、アセチレン(流量10sccm)とアルゴンガスを導入し、800℃に加熱してアセチレンを分解し、カーボンナノチューブスポンジプリフォームに炭素を10分間堆積する。カーボンナノチューブスポンジにおけるアモルファスカーボンの質量百分率は9%であり、アモルファスカーボン層の厚さは4nmである。純粋なリチウムシートを300℃に加熱して液体リチウムを得る。グローブボックスにアルゴンガスを充填して、カーボンナノチューブスポンジの表面に溶融リチウムを設置してリチウム金属陽極を形成する。
【0035】
比較例1
比較例1のサンプルは、実施例1のカーボンナノチューブスポンジプリフォームである。
【0036】
実施例1のカーボンナノチューブスポンジと比較例1のカーボンナノチューブスポンジプリフォームの特性を以下で比較する。
【0037】
透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)によって、カーボンナノチューブスポンジプリフォーム及びカーボンナノチューブスポンジの形態は検出される。
図6(a)はカーボンナノチューブスポンジプリフォームのTEM画像である。
図6(b)はカーボンナノチューブスポンジのTEM画像である。カーボンナノチューブスポンジにおけるカーボンナノチューブ壁の厚さは8.5nmであり、カーボンナノチューブスポンジプリフォームにおけるカーボンナノチューブ壁の厚さは4.5nmである。カーボンナノチューブ壁の表面にアモルファスカーボン層を覆っているため、カーボンナノチューブスポンジのカーボンナノチューブ壁が厚い。
図7(a)はカーボンナノチューブスポンジプリフォームのSEM画像であり、
図7(b)はカーボンナノチューブスポンジのSEM画像である。
図7(a)及び
図7(b)に示すように、カーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジが3D多孔質構造を持っている。これにより、アモルファスカーボンはカーボンナノチューブスポンジの多孔質構造に影響を与えないことがわかる。
【0038】
ラマンテストを使用して、カーボンナノチューブスポンジにおけるアモルファスカーボンをさらに検出する。ラマンスペクトルには、Dバンド(1374cm
-1)とGバンド(1580cm
-1)の2つの特徴的なバンドが含まれている。DバンドとGバンドの強度の比(Id/Ig)は、カーボンナノチューブの欠陥とアモルファスカーボンの濃度を表す。
図8は、カーボンナノチューブスポンジプリフォームのId/Ig比が0.853であることを示す。カーボンナノチューブスポンジでは、Dバンドの強度が増加し、Id/Ig比が1.061に増加する。ラマンスペクトルは、アモルファスカーボンがカーボンナノチューブスポンジに導入されていることを示す。
【0039】
BETテストは、カーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジの比表面積を検出する。
図9は、カーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジのBET等温線である。
図9は、カーボンナノチューブスポンジの比表面積が60.12m
2g
-1であり、カーボンナノチューブスポンジプリフォームの比表面積が86.82m
2g
-1であることを示す。
図10は、カーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジの孔径分布図である。
図10に示すように、カーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジの両方でメソ孔とミクロ孔が観察され、マクロ孔が優勢である。これは、カーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジの両方が多孔質構造を持っていることを示す。カーボンナノチューブスポンジにアモルファスカーボンを導入した後、カーボンナノチューブスポンジの比表面積、メソ孔及びミクロ孔の数は減少するが、カーボンナノチューブスポンジは依然として比較的大きな比表面積を有し、リチウムに十分な空間を提供する。
【0040】
十分な空間に加えて、安定した構造もリチウム金属陽極にとって重要である。これにより、カーボンナノチューブスポンジが安定した構造を有することを検証するための試験を実施する。
図11は、カーボンナノチューブスポンジプリフォーム及びカーボンナノチューブスポンジの圧力試験プロセスを示す図である。
図11(a)及び
図11(b)に示すように、カーボンナノチューブスポンジプリフォームとカーボンナノチューブスポンジに圧力をかけ、カーボンナノチューブスポンジプリフォーム及びカーボンナノチューブスポンジをプレスして薄膜にし、数秒間圧力を取り除く。カーボンナノチューブスポンジプリフォームをプレスした後に復元できず、薄膜状態を維持するが、カーボンナノチューブスポンジは前の状態に戻ることができる。
図12は、カーボンナノチューブスポンジプリフォーム及びカーボンナノチューブスポンジにそれぞれ電解質を添加する前後の構造の比較図である。
図12(a)及び
図12(b)に示すように、カーボンナノチューブスポンジプリフォーム及びカーボンナノチューブスポンジにそれぞれ200μlの電解質を滴下した後、カーボンナノチューブスポンジはふわふわのままであるが、カーボンナノチューブスポンジプリフォームは崩壊する。上記の試験により、カーボンナノチューブスポンジプリフォームは、カーボンナノチューブの表面にアモルファスカーボンを覆うため、カーボンナノチューブの機械的強度を改善し、カーボンナノチューブを分離してカーボンナノチューブが凝集するのを防ぐ。これにより、カーボンナノチューブスポンジは、安定した構造と強力な機械的強度を備え、リチウムの再結合を促進する。
【0041】
リチウム金属陽極におけるリチウムの親和性に関する試験
図13は、カーボンナノチューブスポンジに溶融リチウムを熱注入するプロセスをしめす図である。カーボンナノチューブスポンジを溶融リチウムの上に置き、20分間後に溶融リチウムがカーボンナノチューブスポンジの下部からカーボンナノチューブスポンジに入り始める。さらに20分間後に、溶融リチウムが最終的にカーボンナノチューブスポンジ全体を満たす。
【0042】
図14は、カーボンナノチューブスポンジ、カーボンナノチューブスポンジプリフォーム、アモルファスカーボン層がコーティングされるステンレス鋼、及び元のステンレス鋼のリチウム親和性試験の比較図である。
図14(a)はカーボンナノチューブスポンジのリチウム親和性試験を示す図である。
図14(b)はカーボンナノチューブスポンジプリフォームのリチウム親和性試験を示す図である。
図14(c)はアモルファスカーボン層がコーティングされるステンレス鋼のリチウム親和性試験を示す図である。
図14(d)は、元のステンレス鋼のリチウム親和性を示す図である。
図14に示すように、溶融リチウムは、カーボンナノチューブスポンジ、カーボンナノチューブスポンジプリフォーム、アモルファスカーボン層がコーティングされるステンレス鋼、及び元のステンレス鋼の表面にそれぞれ設置される。40分間後、溶融リチウムをカーボンナノチューブスポンジに注入した。溶融リチウムはカーボンナノチューブスポンジプリフォームに注入できず、球状のリチウムビーズの状態を維持していたが、溶融リチウムとカーボンナノチューブスポンジとの接触角は113°である。これにより、カーボンナノチューブスポンジプリフォームのリチウム親和性が悪いことを示す。元のステンレス鋼の溶融リチウムも球状のリチウムビーズであり、溶融リチウムと元のステンレス鋼との接触角は149°である。元のステンレス鋼をアモルファスカーボンで改質した後、溶融リチウムとアモルファスカーボンがコーティングされるステンレス鋼との接触角は57°である。これにより、アモルファスカーボンがリチウムの親和性を改善できることを示す。リチウムとアモルファスカーボンの関係をさらに理解するために、リチウム金属陽極をXPSでテストする。
図15は、リチウム金属陽極のXPSスペクトルである。
図15に示すように、55.45evにLi-Cピークがある。これにより、リチウム及びアモルファスカーボンが高温で化学的に反応することを示す。リチウム金属陽極の製造プロセスでは、溶融リチウムが最初に表面のアモルファスカーボンと反応し、反応生成物はリチウムに対する親和性を有する。そのため、溶融リチウムはカーボンナノチューブスポンジにゆっくりと注入され、内部のアモルファスカーボンと反応し、最終的に溶融リチウムはカーボンナノチューブスポンジ全体に拡散する。
【0043】
実施例2
対称電池は、アルゴン雰囲気でグローブボックスに組み立てられる。対称電池の作用電極及び対電極はリチウム金属陽極である。EC:DMC:DEC(体積比1:1:1)に2wt%VCを含む1MLiPF6を添加して、電解質を形成する。
【0044】
比較例2
比較例2の対称電池の構造は、実施例2の対称電池の構造は基本的に同じであるが、以下の点は異なる。比較例2の対称電池の作用電極及び対電極が裸の純金属リチウムシート(以下、純リチウム金属電極と呼ぶ)である。
【0045】
対称型電池で定電流サイクル測定を実行して、純リチウム金属電極とリチウム金属陽極の電気化学的性能を評価する。
図16は、純リチウム金属電極を使用した対称電池の電圧-時間グラフである。
図17は、リチウム金属陽極を使用した対称型電池の電圧-時間グラフである。
図16と
図17では、1mAcm
-2の固定電流密度と1mAhcm
-2の堆積/剥離容量の条件で、純リチウム金属電極を使用した対称電池とリチウム金属陽極を使用した対称電池のサイクル性能テストを行う。
図18は、サイクル時間が78~80時間であるとき、純粋リチウム金属電極及びリチウム金属陽極を備えた対称電池の電圧-時間曲線を示すグラフである。
図16-18に示すように、リチウム金属陽極を使用した対称電気の電圧ヒステリシスは0.2V未満であり、500時間のサイクルで変化しない。しかし、純リチウム金属電極を用いた対称電池の電圧ヒステリシスは、サイクルタイムの増加とともに徐々に増加し、90時間のサイクルタイム後に電圧ヒステリシスはが不規則に変動し、250時間のサイクルタイムで電圧が急激に低下する。純リチウム金属電極を使用した対称電池の電圧変動は、リチウムの不均一な堆積と不安定なSEIによって説明できる。電圧が急に低下することは、Li樹状突起の浸透によって引き起こされる内部短絡に起因する可能性がある。上記の比較から、リチウム金属陽極が対称電池の電圧ヒステリシスを効果的に低減し、対称電池のサイクル性能を安定させることが分かる。
図19は、純リチウム金属電極を使用した対称電池の電圧-時間グラフである。
図20は、リチウム金属陽極を使用した対称電池の電圧-時間グラフである。
図19と
図20では、2mAcm
-2の固定電流密度と1mAhcm
-2の堆積/剥離容量の条件で、純リチウム金属電極を使用した対称電池とリチウム金属陽極を使用した対称電池のサイクル性能をテストする。
図19と
図20に示すように、電流密度を2mAcm
-2に増やしても、リチウム金属陽極は電圧ヒステリシスを効果的に低減し、サイクル性能を安定させ、電池寿命を延ばすことができる。
【0046】
図21は、純リチウム金属電極を使用する対称電池とリチウム金属陽極を使用する対称電池のサイクル前のナイキスト図である。
図22は、純リチウム金属電極を使用した対称電池及び金属陽極を使用する対称電池が20時間サイクルした後のナイキストプロットを示す。
図21と
図22では、純リチウム金属電極を使用した対称電池とリチウム金属陽極を使用した対称電池を、それぞれ1mAhcm
-2の堆積/剥離容量の条件で電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって分析する。対称電池には、高周波範囲の半円は、SEIでの界面抵抗とリチウム表面での電荷移動抵抗の指標である。サイクルする前に、純リチウム金属電極を使用した対称電池とリチウム金属陽極を使用した対称電池は、同様の界面抵抗を示し、界面が類似していることを示す。10個サイクル後に、リチウム金属陽極を使用した対称電池の抵抗は、純リチウム金属電極を使用した対称電池の抵抗よりも低くなる。抵抗が小さいということは、リチウム金属陽極の電極安定性とリチウムの堆積/剥離速度が優れていることを示す。これは、リチウム金属陽極を備えた対称電池の安定した電圧-時間曲線と一致している。
【0047】
図23は、純リチウム金属電極を使用した対称電池を100時間サイクルさせた後の純リチウム金属電極の表面のSEM画像である。
図24は、リチウム金属陽極を使用した対称電池を100時間サイクルさせた後のリチウム金属陽極の表面のSEM画像である。
図25は、純リチウム金属電極を使用した対称電池を100時間サイクルさせた後の、純リチウム金属電極の断面のSEM画像である。
図26は、リチウム金属陽極を使用した対称電池を100時間サイクルさせた後のリチウム金属陽極の断面SEM画像である。
図23~
図26において、純リチウム金属電極を使用する対称電池及びリチウム金属陽極を使用する対称電池は、それぞれ1mAhcm
-2の堆積/剥離容量の条件でサイクル試験を行う。
図23に示すように、純リチウム金属電極の表面は粗く、ランダムな亀裂と不均一なリチウムアイランドがある。
図24に示すように、リチウム金属陽極の表面は比較的平坦で、いくつかの小さな穴がある。
図25に示すように、純リチウム金属電極の体積は大きく変化し、純リチウム金属電極の上部に275μmの厚さの「裸のリチウム」層が観察される。
図26に示すように、リチウム金属陽極の体積変化は小さく、「デッドリチウム」層は薄く(118μm)、密度が高い。純リチウム金属電極の緩く(loose)且つ不安定な構造は、不安定なSEIとリチウムデンドライト結晶によるものである。純リチウム金属電極の不均一なリチウムの堆積/剥離は、リチウムデンドライト結晶を引き起こす。リチウムデンドライト結晶は不安定なSEIに浸透し、ランダムな亀裂や表面の不均一性を引き起こす。電解液はSEIを通過して亀裂を通過し、新しいリチウムと反応して新しいSEIを形成する。しかし、新しいSEIも不安定で、電解質が消耗され、SEIが繰り返し形成され且つ壊れ、長いリチウムデンドライト結晶が純リチウム金属電極から脱落し、「壊れたリチウム」の厚い層を形成し、緩い(loose)構造及び電池の故障を引き起こす。リチウム金属陽極のカーボンナノチューブスポンジはリチウム金属陽極のマトリックスとして、リチウムの堆積/剥離のための安定したフレームワークとして機能し、リチウム金属陽極の表面に沿った局所電流密度を低減する。これにより、リチウムを均一に堆積させることができ、リチウムデンドライト結晶の形成が抑制され、SEIは完全で安定している。
【0048】
実施例3
コバルト酸リチウム電極スラリーは、コバルト酸リチウム、super-Pアセチレンブラック及びポリ(フッ化ビニリデン)をN-メチルピロリドン(NMP)に8:1:1の重量比で混合する。コバルト酸リチウム電極スラリーをアルミニウムシートに均一に貼り付けて、コバルト酸リチウム電極を形成する。コバルト酸リチウム電極を陰極として使用し、リチウム金属陽極10を陽極として使用する。EC:DMC:DEC(体積比が1:1:1である)に1MLiPF6(その中2wt%VCを有する)に添加して、電解質を形成し、半電池を形成する。コバルト酸リチウム電極を120℃で24時間乾燥させた後、コバルト酸リチウム電極を直径10mmの円形に切断する。その面密度は10mgcm-2である。リチウム金属陽極10のサイズは、コバルト酸リチウム電極のサイズに対応する。
【0049】
比較例3
比較例3の半電池の構造は、基本的に実施例3の半電池の構造と同じである。異なる点は、半電池の陽極が裸の純粋な金属リチウムシートであるということである。裸の純粋な金属リチウムシートは以下に純リチウム陽極と呼ばれる。
【0050】
Land電池システムによって、実施例3と比較例3の半電池に半電池定電流サイクル測定を行い、カットオフ電圧は3~4.3Vである。
図27は、純リチウム陽極を含む半電池とリチウム金属陽極を含む半電池のサイクル性能を示すグラフである。
図27に示すように、純リチウム陽極を含む半電池とリチウム金属陽極を含む半電池を最初に0.1Cで3回サイクルし、次に1Cでサイクルテストを続ける。0.1Cで3回サイクルした場合、リチウム金属陽極を含む半電池の比容量は152mAhg
-1であり、純リチウム陽極を含む半電池の比容量は145mAhg
-1である。1Cで200回サイクルした後には、リチウム金属陽極を含む半電池の比容量は71mAhg
-1であり、そのクーロン効率は99.3%である。純リチウム陽極を含む半電池が182回サイクルした後に故障する。純リチウム陽極を含む半電池が故障した後、半電池を分解し、次に純リチウム陽極を新しい純リチウム陽極と交換し、新しい半電池を再び組み立てる。
【0051】
図28は、純リチウム陽極を含む半電池とリチウム金属陽極を含む半電池の速度性能を示すグラフである。
図28に示すように、0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、及び5Cでのリチウム金属陽極を含む半電池の比容量は、それぞれ165.4mAhg
-1、152.1mAhg
-1、144.3mAhg
-1、137mAhg
-1、126.9mAhg
-1及び108mAhg
-1である。対照的に、純リチウム陽極を含む半電池は、0.1~5Cでの比容量値が低い。サイクルレートが再び0.1Cに低下すると、純リチウム陽極を含む半電池の比容量は152.1mAhg
-1になり、リチウム金属陽極を含む半電池の比容量は164mAhg
-1になる。これにより、リチウム金属陽極を含む半電池は、より優れた半電池定電流性能を持っていることがわかる。
【符号の説明】
【0052】
10 リチウム金属陽極
12 カーボンナノチューブスポンジ
122 カーボンナノチューブ
124 炭素堆積層
126 微孔
14 リチウム金属材料
100 リチウムイオン電池
20 ケーシング
30 陰極
40 電解質
50 セパレーター