(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】造膜溶液とそれを使用した分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/16 20060101AFI20230216BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20230216BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230216BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20230216BHJP
C08J 9/28 20060101ALI20230216BHJP
D01F 2/28 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
B01D71/16
B01D61/14
B01D69/02
B01D69/08
C08J9/28 101
C08J9/28 CEP
D01F2/28 A
(21)【出願番号】P 2021163232
(22)【出願日】2021-10-04
(62)【分割の表示】P 2017143196の分割
【原出願日】2017-07-25
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ソンイル
(72)【発明者】
【氏名】高尾 翔太
(72)【発明者】
【氏名】浜田 豊三
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-159023(JP,A)
【文献】特開昭62-091543(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208603(WO,A1)
【文献】特開2003-320227(JP,A)
【文献】特開2008-238410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
D01F 1/00 - 6/96
9/00 - 9/04
C08J 9/00 - 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル基置換度が2.7以上である三酢酸セルロース、熱誘起相分離用の良溶剤、および熱誘起相分離用の貧溶剤を含む造膜溶液であって、
前記良溶剤が、前記三酢酸セルロース(固形分濃度25質量%)を150~220℃の範囲で加熱溶解させることができ
るスルホラ
ンであり、
前記貧溶剤が、前記三酢酸セルロース(固形分濃度25質量%)を160℃では溶解させることができない1,3-ブタンジオール
、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールから選ばれるものであり、
前記良溶剤と前記貧溶剤の両方を含むことで、150~220℃の範囲で加熱溶解させた三酢酸セルロース溶液を室温(20~30℃)まで冷却する間に相分離させることができるものであり、
前記良溶剤と前記貧溶剤の合計量中の混合割合が、前記良溶剤が5~40質量%、前記貧溶剤が60~95質量%である、造膜溶液。
【請求項2】
請求項1記載の造膜溶液を使用して分離膜を得る分離膜の製造方法であり、
前記分離膜が、マクロボイド構造を含まず、平均孔径0.01μm~1μmの均一なスポンジ構造を有しているものであり、
前記三酢酸セルロース、前記良溶剤および前記貧溶剤を混合し、150~220℃の範囲で加熱して前記造膜溶液を得る工程、
次に、前記加熱された造膜溶液を室温(20~30℃)まで冷却する間に、前
記貧溶
剤である1,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールから選ばれるものを凝固液として接触させることで相分離させて分離膜を形成させる工程、
次に、前記分離膜を洗浄して前記良溶剤と前記貧溶剤を除去する工程を有している、分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記相分離させて分離膜を形成させる工程が、
前記分離膜が中空糸膜の場合は、二重口金ノズルを使用して前記造膜溶液を吐出するとき、内部凝固液(芯液)は
前記貧溶剤
である1,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールから選ばれるものを使用し、外部凝固液は前
記貧溶剤
である1,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールから選ばれるものまたは水を使用する工程であり、
前記分離膜が平膜の場合は、凝固液としての前
記貧溶剤
である1,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールから選ばれるものの液面、または凝固液としての水の液面の上方から液中に向かって前記造膜溶液を平膜状に吐出させて冷却する工程である、請求項2記載の分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記分離膜が中空糸膜
の場合は、純水透過速度が10~3000L/(m
2・h・0.1MPa)であり、かつ引張強さが4~14MPa
の中空糸膜を得ることができる、請求項
3記載の分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜や平膜の製造用である造膜溶液と、それを使用した分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜や平膜などを使用した分離膜が各種技術分野において汎用されており、膜素材としても親水性のもの、疎水性のものなどが数多く知られている。中でも酢酸セルロースを膜素材とするものは、親水性や耐塩素性が優れ、生分解性であることから、分離膜として非常に優れているものである。
特許文献1には中空繊維ナノ濾過膜の製造方法の発明が記載されており、膜素材の一つとして酢酸セルロースが含まれている。
特許文献2には、酢酸セルロース中空繊維ナノ濾過膜の製造方法の発明が記載されている。
この中で、熱誘起相分離法(TIPS法)の高温溶媒としてサリチル酸メチル、サリチル酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、炭酸ジフェニル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、フェニルアセトン、ベンゾフェノン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3‐プロパンジオール、ベンジルアルコール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルおよびフタル酸ジブチルが示されている。
これらの高温溶媒は、アセチル基置換度が2.7以上である三酢酸セルロースの熱誘起相分離法(TIPS法)の溶剤として用いることはできない。
非特許文献1には、酢酸セルロースの一部をブチリル基で修飾したセルロースアセテートブチレートを膜素材として用い、熱誘起相分離法(TIPS法)により中空糸膜を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】CN 102824859 B
【文献】CN 103831023 B
【非特許文献】
【0004】
【文献】化学工学論文集Vol.35(2009)No.1P117-121(熱誘起相分離法により作製されたセルロースアセテート誘導体中空糸膜の膜特性に及ぼす両親媒性添加剤効果)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱誘起相分離法により造膜できる造膜溶液と、それを使用した分離膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アセチル基置換度が2.7以上である三酢酸セルロースと熱誘起相分離用の良溶剤を含む造膜溶液であって、
前記良溶剤が、前記三酢酸セルロース(固形分濃度25質量%)を加熱溶解させることができ、かつ室温(20~30℃)まで冷却する間に相分離できるものである、造膜溶液と、それを使用した分離膜の製造方法を提供する。
また本発明は、アセチル基置換度が2.7以上である三酢酸セルロース、熱誘起相分離用の良溶剤、および熱誘起相分離用の貧溶剤を含む造膜溶液であって、
前記良溶剤が、前記三酢酸セルロース(固形分濃度25質量%)を加熱溶解させることができるものであり、
前記貧溶剤が、前記三酢酸セルロース(固形分濃度25質量%)を160℃では溶解させることができないものであり、
前記良溶剤と前記貧溶剤の両方を含むことで、加熱溶解させた三酢酸セルロース溶液を室温(20~30℃)まで冷却する間に相分離させることができるものであり、
前記良溶剤と前記貧溶剤の合計量中の混合割合が、前記良溶剤が5~40質量%、前記貧溶剤が60~95質量%である、造膜溶液と、それを使用した分離膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の造膜溶液を使用した熱誘起相分離法により、高強度、高透過性、高阻止性能、耐ファウリング性能に優れた、アセチル基置換度が2.7以上である三酢酸セルロースの液体分離膜、気体分離膜およびそれらを構成する支持体膜や分離機能膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例で使用した中空糸膜の製造装置の概念図。
【
図2】(a)は実施例1で得られた中空糸膜の半径方向断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(60倍)、(b)は(a)の外表面側の拡大SEM写真(50,000倍)、(c)は(a)の内表面側の拡大SEM写真(50,000倍)。
【
図3】(a)は比較例1で得られた中空糸膜の半径方向断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(60倍)、(b)は(a)の外表面側の拡大SEM写真(50,000倍)、(c)は(a)の内表面側の拡大SEM写真(50,000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の造膜溶液>
本発明の第1の造膜溶液は、アセチル基置換度が2.7以上である三酢酸セルロースと熱誘起相分離用の良溶剤を含む造膜溶液であり、貧溶剤は含んでいない。
【0010】
前記良溶剤は、前記三酢酸セルロース(前記良溶剤と前記三酢酸セルロースを混合したときの固形分濃度25質量%)を加熱溶解させることができ、かつ室温(20~30℃)まで冷却する間に相分離できるものである。
前記良溶剤としては、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールなどが好ましい。
【0011】
前記加熱溶解温度は、良溶剤の種類により異なるものであり、前記加熱溶解温度は、150~220℃の範囲が好ましい。
前記良溶剤として1,3-ブタンジオールを使用して三酢酸セルロースを溶解させて造膜溶液を得るときは、少なくとも190℃に加熱することが好ましく、前記良溶剤として2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールを使用して三酢酸セルロースを溶解させて造膜溶液を得るときは、少なくとも170℃に加熱することが好ましい。
【0012】
<第2の造膜溶液>
本発明の第2の造膜溶液は、アセチル基置換度が2.7以上である三酢酸セルロース、熱誘起相分離用の良溶剤、および熱誘起相分離用の貧溶剤を含む造膜溶液である。
【0013】
前記良溶剤は、前記三酢酸セルロース(前記良溶剤と前記三酢酸セルロースを混合したときの固形分濃度25質量%)を加熱溶解させることができるものである。
前記貧溶剤は、前記三酢酸セルロース(前記貧溶剤と前記三酢酸セルロースを混合したときの固形分濃度25質量%)を160℃では溶解させることができないものである。
前記良溶剤と前記貧溶剤の両方を含むことで、加熱溶解させた三酢酸セルロース溶液を室温(20~30℃)まで冷却する間に相分離させることができるものである。
【0014】
前記良溶剤としては、スルホラン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラメチル尿素、テトラヒドロフルフリルアルコール、N-エチルトルエンスルホンアミド、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、コハク酸ジメチルから選ばれるものを挙げることができる。
【0015】
前記貧溶剤としては、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、マレイン酸ジエチル、テトラエチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、プロピレングリコールジアセテート、グリセロールトリアセテート(トリアセチン)、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1,4-ブタンジオールジアセテート、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,3-ブチレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、トリプロピレングリコール、フタル酸ジ-n-ブチル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、α-ターピネオール、フタル酸ジメチル、乳酸エチルアセテート、フマル酸ジ-n-ブチル、メンタノール、セバシン酸ジ-n-ブチル、ジエチレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ターピニルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、トリプロピレングリコール-メチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコール-メチル-n-イソペンチルエーテル、ジプロピレングリコール-メチル-n-プロピルエーテル、フタル酸ジアリル、フタル酸ジエチル、フタル酸ビス(2-メトキシエチル)、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、リン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、o-アセチルクエン酸トリエチル、コハク酸ジエチル、セバシン酸ビス(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソブチルなどを挙げることができる。
【0016】
良溶剤と貧溶剤は、三酢酸セルロース(濃度25質量%)が150~220℃の範囲で加熱溶解でき、かつ加熱溶解させた三酢酸セルロース溶液を室温(20~30℃)まで冷却する間に相分離させることを考慮して組み合わせる。
また、第1の造膜溶液で良溶剤として使用できる1,3-ブタンジオールと2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールを貧溶剤として使用することができる。
1,3-ブタンジオールを貧溶剤として使用するときは、三酢酸セルロースを190℃よりも低い温度、好ましくは180℃以下で加熱溶解できる良溶剤と組み合わせる。
2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールを貧溶剤として使用するときは、三酢酸セルロースを170℃よりも低い温度、好ましくは160℃以下で加熱溶解できる良溶剤と組み合わせる。
【0017】
前記良溶剤と前記貧溶剤の合計量中の混合割合は、前記良溶剤が5~40質量%、前記貧溶剤が60~95質量%が好ましく、前記良溶剤が10~30質量%、前記貧溶剤が70~90質量%がより好ましい。
【0018】
<第1の分離膜の製造方法>
本発明の分離膜の製造方法は、上記した第1の造膜溶液を使用して、熱誘起相分離法により分離膜を得る製造方法である。
第1工程にて、三酢酸セルロースと前記良溶剤を混合し加熱溶解させて、第1の造膜溶液を得る。加熱溶解温度は、使用する良溶剤で三酢酸セルロース(25質量%濃度)を加熱溶解できる温度であり、150~220℃の範囲が好ましい。
【0019】
次に第2工程にて、第1工程で得た加熱状態の第1の造膜溶液を室温(20~30℃)まで冷却する間に、相分離させて分離膜を形成させる。
分離膜が中空糸膜の場合は実施例に記載の方法を適用することができ、内部凝固液(芯液)は貧溶剤を使用することができ、外部凝固液は貧溶剤または水を使用することができる。
分離膜が平膜の場合は、第1の造膜溶液を凝固液(貧溶剤または水)の液面の上方から液中に向かって平膜状に吐出させて冷却する方法を適用することができる。
【0020】
次に第3工程にて、前記分離膜を洗浄して前記良溶剤を除去し、目的とする分離膜を得る。
第1分離膜の製造方法で得られた分離膜は、マクロボイド構造を含まず、平均孔径0.01μm~1μmの均一なスポンジ構造を有しているものである。
【0021】
<第2の分離膜の製造方法>
本発明の分離膜の製造方法は、上記した第2の造膜溶液を使用して、熱誘起相分離法により分離膜を得る製造方法である。
第1工程にて、三酢酸セルロース、前記良溶剤および前記貧溶剤を混合し加熱溶解させて、第2の造膜溶液を得る。加熱溶解温度は、使用する良溶剤および前記貧溶剤を混合した状態で三酢酸セルロース(25質量%濃度)を加熱溶解できる温度であり、150~220℃の範囲が好ましい。
【0022】
次に第2工程にて、第1工程で得た加熱状態の第2の造膜溶液を室温(20~30℃)まで冷却する間に、相分離させて分離膜を形成させる。第2工程は、第1の分離膜の製造方法の第2工程と同様に実施することができる。
【0023】
次に第3工程にて、前記分離膜を洗浄して前記良溶剤と前記貧溶剤を除去し、目的とする分離膜を得る。
第2分離膜の製造方法で得られた分離膜は、マクロボイド構造を含まず、平均孔径0.01~1μmの均一なスポンジ構造を有しているものである。
【0024】
本発明の第1の分離膜の製造方法と第2の分離膜の製造方法により得られた分離膜が液体分離用の中空糸膜であるとき、中空糸膜の純水透過速度は10~3000L/(m2・h・0.1MPa)が好ましく、気体分離用の中空糸膜あるいは中空糸状の支持体膜であるときは、純水透過速度は0~10L/(m2・h・0.1MPa)であることが好ましい。また、これらの中空糸膜の引張強さ(実施例に記載の測定方法)は4~14MPaが好ましい。
【実施例】
【0025】
(1)中空糸膜の純水透水量(純水透過速度)の測定
中空糸膜の片端を封止し、封止部を除いた中空糸膜の外表面積を求め、中空糸膜の他端からP1(=0.1MPa)の圧力をかけ純水を供給し、測定時間内に中空糸膜を透過する純水量と中空糸膜封止側の内部圧力P2を測定した。
純水圧力(P1+P2)/2と測定値から、単位純水圧力(=0.1MPa)、単位時間(=1h)、単位中空糸膜外面積(=1m2)当りの純水透過量(純水透過速度)を算出した。
【0026】
(2)中空糸膜の引張強さの測定
小型卓上試験機(島津製作所製EZ-Test)を用いて、チャック間距離5cmになるようウェット状態の中空糸膜を一本ずつ挟んで、引張り速度20mm/minで測定を実施し、測定値と中空糸膜の断面積から引張強さを求めた。
【0027】
試験例1(中空糸膜耐塩素性試験)
実施例1、比較例1の中空糸膜(内径/外径=0.8/1.3mm,長さ1m)をそれぞれ50本使用した。
有効塩素濃度12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈し、500ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液の試験液に用いた。有効塩素濃度は、柴田科学製ハンディ水質計AQUAB,型式AQ-102を使用し測定した。
50本の中空糸膜を試験液となる液温が約25℃の500ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液1Lを入れた蓋付ポリ容器に完全に浸かるように浸漬した。
また、1~3日毎に10本の中空糸を蓋付ポリ容器から取り出し、水道水で水洗後、水分を拭き取り湿った状態のまま引張強さを測定した。
【0028】
試験例2(「引張強さ」の測定と耐塩素性の判断方法)
小型卓上試験機(島津製作所製EZ‐Test)を用いて、チャック間距離5cmになるようウェット状態の中空糸膜を一本ずつ挟んで、引張り速度20mm/minで測定を実施した。
500ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させていない中空糸膜の「引張強さ」の値を基準として、その値が基準値の90%を下回る際の時間を求めた。
各測定時間の「引張強さ」をプロットし、検量線を作成することで、基準値の90%を下回る際の時間を求めた。
「引張り強さ」は、同じサンプルで10本測定した「引張強さ」の最高値と最低値を除いた8本の平均値とした。
【0029】
実施例1
株式会社ダイセル製の三酢酸セルロース(TAC)(アセチル置換度2.87)20質量%、スルホラン(良溶剤)16質量%、1,3-ブタンジオール(貧溶剤)64質量%を表1に示す温度(180℃)で加熱溶解させて、本発明の造膜溶液に用いた。
【0030】
上記造膜溶液と
図1に示す中空糸膜の製造装置を使用して、熱誘起相分離法により中空糸膜を製造した。
図1に示す装置の定量ポンプ4を用い、容量約500mlのドープタンク3内の表1に示す吐出温度(170℃)に維持された造膜溶液を二重管ノズル6から吐出させると共に、芯液ライン5から芯液(1,3-ブタンジオール)を吐出させた。
その後、20℃の1,3-ブタンジオールの入った凝固槽7に導いて冷却した後、水の入った洗浄槽10で脱溶剤して、中空糸膜を得た。得られた中空糸膜は、外径1.0mm、内径0.66mmであった。
【0031】
図2(a)~(c)に実施例1の中空糸膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株))写真を示した。
中空糸膜の断面は均質的なスポンジ構造であり、外表面層、内表面層、内部層の空孔の平均孔径は0.4μmであった。
実施例1の中空糸膜の純水透過速度は、952L/(m
2・h・0.1MPa)、引張強さは5.3MPa、耐塩素性は160時間であった。
【0032】
実施例2~5
表1に示す成分を表1に示す温度で加熱溶解して得た造膜溶液を用い、表1に記載した紡糸条件で、実施例1と同様にして実施例2~5の中空糸膜を製造した。
それぞれの中空糸膜の純水透過量、引張り強さおよび平均孔径を表2に示した。
【0033】
比較例1
実施例1と同じ三酢酸セルロースを使用し、非溶媒相分離法を用いて中空糸膜(内径/外径=0.8/1.3mm)を製造した。
製膜溶液は、三酢酸セルロース/DMSO=18/82(質量%)を使用した。
製膜方法は、次のとおりである。
製膜溶液を105℃で十分に溶解させ、これを二重菅型紡糸口金の外側から、圧力0.4MPa、吐出温度85℃で吐出させ、内管から内部凝固液として水を吐出させた。
その後、水の入った凝固槽水槽に導き、DMSOを水に溶解させることにより中空糸膜を凝固させ、それを巻き取ることで中空糸膜を得た。
【0034】
得られた中空糸膜は、水分を乾燥させないウェット状態のまま保管し、純水透過量、引張り強さおよび耐塩素性を測定した。
純水透過量は580L/(m
2・h・0.1MPa)、引張り強さは、3.8MPa、耐塩素性は120時間であった。
図4に比較例1の中空糸膜断面のSEM写真を示した。
【0035】
【0036】
【0037】
表1、表2から、実施例の中空糸膜の断面構造は、マクロボイド構造を含まず、平均孔径0.01~0.4μmの範囲の均一なスポンジ構造を有しているものであり、比較例1
の中空糸膜の断面構造との違いは明らかであった。
これらの結果から、本発明の造膜溶液を使用して熱誘起相分離法により分離膜を製造するとき、良溶剤の選択、良溶剤と貧溶剤の選択、加熱溶解温度、吐出温度を調整することで、アセチル基置換度が2.7以上である三酢酸セルロースの液体分離膜または気体分離膜を得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の造膜溶液から得られた分離膜は、浄水施設、汚水処理施設、気体分離施設などの各種分野における液体分離膜、気体分離膜およびそれらを構成する支持体膜や分離機能膜として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 撹拌機
2 液体仕込みライン
3 ドープタンク
4 定量ポンプ
5 芯液ライン
6 二重管ノズル
7 凝固槽
8 中空糸膜
9 ローラーガイド
10 洗浄槽