IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構の特許一覧

特許7228229プログラム、情報処理装置及び情報処理方法
<>
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図1
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図2
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図3
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図4
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図5
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図6
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図7
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図8
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図9
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図10
  • 特許-プログラム、情報処理装置及び情報処理方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】プログラム、情報処理装置及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 5/00 20060101AFI20230216BHJP
   B64C 13/18 20060101ALI20230216BHJP
   B64F 1/36 20170101ALI20230216BHJP
   B64D 45/00 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G08G5/00 A
B64C13/18 Z
B64F1/36
B64D45/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018237900
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020101879
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】松野 賀宣
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-177120(JP,A)
【文献】特表2017-503272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B64C 13/18
B64F 1/36
B64D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の目標地点への到着時刻に影響する不確定な予測値を、実測値を用いて定量化して前記不確定な予測値の確率分布を算出し、
前記目標地点への到着時刻に影響する移動体への制御入力であって、現在の前記制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布を、前記不確定な予測値の確率分布を用いて算出し、
前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布を用いて、前記現在の制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着要求時刻に対する到着予定時刻の統計量として、前記到着要求時刻の許容範囲内を満たす時間の範囲で確率密度を積分して確率を求め、
前記統計量が閾値外かどうかを判定し、
前記統計量が前記閾値外の場合に、前記到着要求時刻の許容範囲内を満たす時間の範囲で確率密度を積分した確率が最大化するように前記制御入力を決定する
ステップをコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項2】
前記制御入力を決定するステップは、前記統計量が前記閾値外の場合に、前記到着要求時刻の許容範囲内を満たす時間の範囲で確率密度を積分した確率が前記閾値内となりかつ所定のコストを最適化するように前記制御入力を決定する
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記移動体は、航空機であり、
前記不確定な予測値は、気象予測値及び/又は機体特性であり、前記実測値は、前記気象予測値に対しては気象観測値、前記機体特性に対しては機体計測値である
請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記移動体は、航空機であり、
前記航空機への制御入力は、速度、高度、経路角、コストインデックス及び上昇・降下率のうち少なくとも1つである
請求項1~のうちいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項5】
移動体の目標地点への到着時刻に影響する不確定な予測値を、実測値を用いて定量化して前記不確定な予測値の確率分布を算出する不確定性推定部と、
前記目標地点への到着時刻に影響する移動体への制御入力であって、現在の前記制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布を、前記不確定な予測値の確率分布を用いて算出する到着予定時刻推定部と、
前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布を用いて、前記現在の制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着要求時刻に対する到着予定時刻の統計量として、前記到着要求時刻の許容範囲内を満たす時間の範囲で確率密度を積分して確率を求め、前記統計量が閾値外かどうかを判定し、前記統計量が前記閾値外の場合に、前記到着要求時刻の許容範囲内を満たす時間の範囲で確率密度を積分した確率が最大化するように前記制御入力を決定する到着時刻制御部と
を具備する情報処理装置。
【請求項6】
コンピュータにより、移動体の目標地点への到着時刻に影響する不確定な予測値を、実測値を用いて定量化して前記不確定な予測値の確率分布を算出し、
コンピュータにより、前記目標地点への到着時刻に影響する移動体への制御入力であって、現在の前記制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布を、前記不確定な予測値の確率分布を用いて算出し、
コンピュータにより、前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布を用いて、前記現在の制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着要求時刻に対する到着予定時刻の統計量として、前記到着要求時刻の許容範囲内を満たす時間の範囲で確率密度を積分して確率を求め、
コンピュータにより、前記統計量が閾値外かどうかを判定し、
コンピュータにより、前記統計量が前記閾値外の場合に、前記到着要求時刻の許容範囲内を満たす時間の範囲で確率密度を積分した確率が最大化するように前記制御入力を決定する
情報処理方法。
【請求項7】
請求項1に記載のプログラムで算出された複数の移動体の前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布及び各移動体の使用可能速度範囲に基づき、複数の移動体が整然と移動できるように、各移動体の調整可能な到着時刻幅を算出するステップをコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば飛行中の不確定性(気象予測誤差や機体特性誤差等)を考慮し、飛行経路上の任意の目標地点への到着要求時刻を満たす最適な制御入力(速度、高度、経路角、コストインデックス、上昇・降下率等)を決定するプログラム、情報処理装置及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空交通需要の増大に伴い高密度運航を行うためには、時間管理を導入した運航、つまり航空機が目標地点を要求時刻に通過する必要があり、到着予定時刻を予測し到着要求時刻を満たすように飛行速度を制御する到着時刻制御技術が要求される(特許文献1参照)。
【0003】
また、飛行中に生じる気象予測誤差等の不確実性の影響から到着予定時刻を正確に予測することは困難なため、到着時刻の不確実性を定量化し、不確実性を使用した到着時刻制御技術も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第5121325号公報
【文献】米国特許第8150588号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「Nowcasting algorism for wind fields using ensemble forecasting and aircraft flight data」 Ryota Kikuchi et al.2018 Meteorological Aplications
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術では、飛行中の不確実性の影響から速度調整が高頻度化し加減速を繰り返すため、燃費と快適性が悪化する。また、特許文献2に記載された技術でも、事前に定めた最低使用可能速度と最高使用可能速度との切り替えのみを想定したバンバン制御であり、燃費と快適性が悪化する。そのため、特許文献1及び2に記載された技術では、実用性に乏しかった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、速度調整回数等を低減して燃費と快適性の悪化を抑えつつ到着時刻に対する不確定性の影響を抑えることができるプログラム、情報処理装置及び情報処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るプログラムは、移動体の目標地点への到着時刻に影響する不確定な予測値を、実測値を用いて定量化して前記不確定な予測値の確率分布を算出し、前記目標地点への到着時刻に影響する移動体への制御入力であって、現在の前記制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布を、前記不確定な予測値の確率分布を用いて算出し、前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布において、前記現在の制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着要求時刻に対する到着予定時刻の第1の統計量が第1の閾値外かどうかを判定し、前記第1の統計量が前記第1の閾値外の場合に、前記到着要求時刻に対する到着予定時刻の第2の統計量が第2の閾値内となるように前記制御入力を決定するステップをコンピュータに実行させる。
【0009】
本発明では、移動体の目標地点への到着時刻に影響する不確定な予測値、つまり到着時刻に対する不確定性に対してロバストに時間管理を行うことで、速度調整回数等を低減して燃費と快適性の悪化を抑えつつ到着時刻に対する不確定性の影響を抑えることができる。
【0010】
本発明の一形態に係るプログラムでは、前記制御入力を決定するステップは、前記第1の統計量が前記第1の閾値外の場合に、前記第2の統計量が前記第2の閾値内となりかつ所定のコストを最適化するように前記制御入力を決定してもよい。
【0011】
本発明の一形態に係るプログラムでは、前記第1及び第2の統計量は、前記到着要求時刻に対する前記到着予定時刻の確率分布における確率、モーメント及び代表値のうち少なくとも1つであってもよい。
【0012】
本発明の一形態に係るプログラムでは、前記移動体は、航空機であり、前記不確定な予測値は、気象予測値及び/又は機体特性であり、前記実測値は、前記気象予測値に対しては気象観測値、前記機体特性に対しては機体計測値であってもよい。
【0013】
本発明の一形態に係るプログラムでは、前記移動体は、航空機であり、前記航空機への制御入力は、速度、高度、経路角、コストインデックス及び上昇・降下率のうち少なくとも一つであってもよい。
【0014】
本発明の一形態に係る情報処理装置は、移動体の目標地点への到着時刻に影響する不確定な予測値を、実測値を用いて定量化して前記不確定な予測値の確率分布を算出する不確定性推定部と、前記目標地点への到着時刻に影響する移動体への制御入力であって、現在の前記制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布を、前記不確定な予測値の確率分布を用いて算出する到着予定時刻推定部と、前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布において、前記現在の制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着要求時刻に対する到着予定時刻の第1の統計量が第1の閾値外かどうかを判定し、前記第1の統計量が前記第1の閾値外の場合に、前記到着要求時刻に対する到着予定時刻の第2の統計量が第2の閾値内となるように前記制御入力を決定する到着時刻制御部とを具備する。
【0015】
本発明の一形態に係る情報処理方法は、移動体の目標地点への到着時刻に影響する不確定な予測値を、実測値を用いて定量化して前記不確定な予測値の確率分布を算出し、前記目標地点への到着時刻に影響する移動体への制御入力であって、現在の前記制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布を、前記不確定な予測値の確率分布を用いて算出し、前記目標地点までの到着予定時刻の確率分布において、前記現在の制御入力を用いた場合の前記目標地点までの到着要求時刻に対する到着予定時刻の第1の統計量が第1の閾値外かどうかを判定し、前記第1の統計量が前記第1の閾値外の場合に、前記到着要求時刻に対する到着予定時刻の第2の統計量が第2の閾値内となるように前記制御入力を決定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、速度調整回数等を低減して燃費と快適性の悪化を抑えつつ到着時刻に対する不確定性の影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理装置1の構成を示すブロック図である。
図2】不確定要素の確率分布(連続型の確率分布)の一例を示すグラフである。
図3】不確定要素の確率分布(離散型の確率分布)の一例を示すグラフである。
図4】到着予定時刻の確率分布(連続型の確率分布)の一例を示すグラフである。
図5】到着予定時刻の確率分布(離散型の確率分布)の一例を示すグラフである。
図6】到着時刻制御部13による処理の内容(連続型)を説明するための図である。
図7】到着時刻制御部13による処理の内容(離散型)を説明するための図である。
図8】情報処理装置1の動作を示すフローチャートである。
図9】従来技術と本実施形態に係る情報処理装置1の速度変更回数を比較するためのグラフである。
図10】従来技術と本実施形態に係る情報処理装置1の時間管理精度を比較するためのグラフ(その1)である。
図11】従来技術と本実施形態に係る情報処理装置1の時間管理精度を比較するためのグラフ(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置の構成を示すブロック図である。
図1に示す情報処理装置1は、例えば気象予測補正及び誤差生成技術(非特許文献1参照)等により、既存の機上装置もしくはデータリンクを介して飛行中に得られる自機や周辺機の飛行データ等を用いて、飛行中の不確実性を補正すると共に、残留誤差を定量化する。
【0020】
情報処理装置1は、このように飛行中に生成される補正情報及び誤差情報を活用し、定量化された不確実性の影響を考え、到着時刻が目標とする時間管理精度内に収まるように、最適な制御入力(速度、高度、経路角、コストインデックス、上昇・降下率等)を決定する。すなわち、情報処理装置1は、飛行中の不確定性(気象予測誤差や機体特性誤差等)を考慮し、飛行経路上の任意の目標地点への到着要求時刻を満たす最適な制御入力(速度、高度、経路角、コストインデックス、上昇・降下率等)を決定する。
【0021】
最適な制御入力の算出には機上機器を使用し、決定された最適な制御入力は、航空機の制御システムに直接伝達され航空機を自動で誘導制御するか、もしくは、例えば搭載したエレクトロニック・フライト・バッグ(EFB)の表示機器を介してパイロットに伝達し、パイロットの運航判断を支援する。
【0022】
つまり、情報処理装置1は、典型的には、航空機の機上機器のアプリケーションプログラムからなるもの、或いはEFBのアプリケーションプログラムからなるもので、不確定性推定部11と、到着予定時刻推定部12と、到着時刻制御部13とを有する。
【0023】
不確定性推定部11は、航空機の目標地点への到着時刻に影響する飛行中の不確定な予測値を、実測値を用いて定量化して不確定な予測値の確率分布を算出する。
【0024】
ここで、到着時刻に影響する不確定な予測値とは、典型的には、気象予測であり、より詳細には例えば予測される風速や風向、気温であり、実測値とは、例えば気象観測値であり、より詳細には当該航空機で実際に観測された風速や風向、気温である。前記の不確定な予測値は、気象予測値の他、機体特性等もある。機体特性とは、より詳細には、例えば燃料流量やエンジンパラメータ、推力、空気力である。前記の実測値は、前記の機体特性に対する機体計測値である。以下の説明では、予測値として気象予測だけを例にして説明するが、機体特性等との組み合わせ、或いは機体特性等のみを不確定な予測値としてもよい。また、航空機への制御入力とは、典型的には、航空機の飛行速度である。航空機への制御入力は、航空機の飛行速度の他、高度や経路角、コストインデックス、上昇・降下率等がある。また、航空機への制御入力は、これらのうち二つ以上であってもよい。さらに、時変でも時不変であってもよい。
【0025】
図2に不確定な予測値、つまり不確定要素の確率分布の一例を示す。不確定要素の確率分布は、気象予測値と実測値である気象観測値との差である気象予測誤差を定量化して生成される。例えば、気象観測値(x_obs)を用いて、事前に入力されたNパターンの気象予測(x_1,x_2,・・・,x_N)の確率(p(x_1),p(x_2),・・・,p(x_N))を算出する。なお、図2には連続型の確率分布を例示しているが、図3に示すように離散型の確率分布を生成するようにしてもよい。
【0026】
到着予定時刻推定部12は、図2又は図3に示した不確定要素の確率分布を用いて、現在の飛行速度で計画している飛行経路を通った場合の目標地点までの到着予定時刻の確率分布を算出する。
【0027】
図4に到着予定時刻の確率分布の一例を示す。例えば、現在の速度(v)で飛行した場合の到着予定時刻(ETA)を、上記のNパターンの気象予測(x_1,x_2,・・・,x_N)各々の場合で算出し(この算出結果を(ETA_1,ETA_2,・・・,ETA_N)とする)、それらの確率(p'(ETA_1),p'(ETA_2),・・・,p'(ETA_N))を算出する。ここで、気象予測x_1のもと速度vで飛行した場合の到着予定時刻はETA_1であり、その確率p'(ETA_1)は気象予測がx_1となる確率p(x_1)となる。なお、図4には連続型の確率分布を例示しているが、図5に示すように離散型の確率分布を生成するようにしてもよい。
【0028】
到着時刻制御部13は、図4又は図5に示した到着予定時刻の確率分布に基づいて、現在の飛行速度vでの到着要求時刻に対する到着予定時刻の統計量が所定の閾値外かどうかを判定し、統計量が所定の閾値外の場合に、到着要求時刻に対する到着予定時刻の統計量が所定の閾値内となるように飛行速度を決定する。例えば、図6の上図に示すように、到着要求時刻(RTA)に対する到着予定時刻(ETA)の統計量として、到着要求時刻(RTA)の許容範囲内(-tol1~+tol2)を満たす確率Pr(図中の斜線の面積)を用い、その確率Prを閾値判定に用いる。
【0029】
到着時刻制御部13は、その確率Prが所定の閾値以下の場合には、図6の下図に示すように、確率Prが最大化するように、すなわち図中の斜線の面積が最大化するように飛行速度を決定する。なお、図6には連続型の確率分布を例示しているが、図7に示すように離散型の確率分布であっても同様に実施が可能である。
【0030】
到着時刻制御部13は、例えば、飛行速度をv、到着予定時刻をETA、到着要求時刻をRTA、許容範囲を-tol1~+tol2、確率をPr、目標地点までの到着予定時刻の確率分布をp'(ETA)としたとき、確率Prが所定の閾値以下の場合に、確率Prを最大化する設定速度voptを、到着要求時刻に到着したい場合には以下の式(1)で最大化、到着要求時刻までに到着したい場合には以下の式(2)で最大化及び到着要求時刻以降に到着したい場合には以下の式(3)で最大化して決定する。
【0031】
式(1)
【0032】
式(2)
【0033】
式(3)
【0034】
図8はこのように構成された情報処理装置1の動作を示すフローチャートである。
まず、不確定性推定部11が、飛行中の気象観測値や機体計測値を用いて、飛行中の不確定要素(気象予測や機体特性等)の確率分布(図2又は図3参照)を生成する(ステップ801)。
次に、到着予定時刻推定部12が、不確定要素の確率分布(図2又は図3参照)を用いて、現在の制御入力(速度、高度、経路角、コストインデックス、上昇・降下率等)で飛行した場合の目標地点への到着予定時刻の確率分布(図4又は図5参照)を生成する(ステップ802)。
を生成する。
次に、到着時刻制御部13が、現在の制御入力での到着予定時刻の閾値を判定し(ステップ803)、閾値外の場合には、到着要求時刻を許容範囲内で満たす制御入力を最適化する(ステップ804)。
【0035】
図9に示すように、これまで提案された技術(特許文献1、2等参照)では、速度調整回数が高頻度化(図9のa)するため、現実の航空機の運航では使用され難かったが、本実施形態に係る情報処理装置1は、不確定性に対してロバストに時間管理を行うことができるので、速度調整回数を低減し(図9のb)快適性や燃費が改善され、実用性が高くなる。また、本実施形態に係る情報処理装置1は、到着時間誤差においても、図10に示すように、これまで提案された技術(図10のa)と比べて向上する(図10のb)。ちなみに、図11に示すように、これまで提案された技術(図11のa)では、現在速度で飛行を続けると、到着時刻は大きくずれ、時間管理精度内(例えば目標時刻精度±5秒)に収まる確率が低下するが、本実施形態に係る情報処理装置1(図11のb)では、誤差の影響を考慮し、到着時刻が時間管理精度内に収まる確率を最大化するように飛行速度を決定することができる。
【0036】
本発明は、上記の実施形態には限定されず、本発明の技術思想の範囲内で様々な変形や応用による実施が可能であり、その実施の範囲も本発明の技術的範囲に属するものである。
例えば、本発明に係る到着時刻制御部は、到着要求時刻に対する到着予定時刻の第1の統計量が所定の閾値である第1の閾値外の場合に、第1の統計量とは異なる、或いは第1の統計量である到着要求時刻に対する到着予定時刻の第2の統計量が第1の閾値とは異なる、或いは第1の閾値である第2の閾値内となるように制御入力を決定するものである。
【0037】
従って、上記の実施形態では、到着時刻制御部13は、確率Prを最大化するように設定速度を決定していたが、例えば到着時刻制御部13は、その確率Prが所定の閾値以下の場合には、確率Prを所定の閾値内にするという条件下で所定のコストを最適化するように制御入力を決定してもよい。所定のコストを最適化とは、例えば燃料消費量を最小化することが挙げられるが、燃料消費量だけでなく他のコスト要因であってもよく、或いはこれらの組み合わせであってもよい。
【0038】
また、上記の実施形態では、統計量として、到着要求時刻(RTA)の許容範囲内(-tol1~+tol2)を満たす確率Prを用いていたが、統計量としては、確率Pr以外にモーメント(期待値や分散、歪度等)、代表値(中央値、パーセンタイル値、最頻値等)等を用いてもよく、或いはこれらの組み合わせを用いてもよい。例えば、統計量として期待値を用いた場合に、到着時刻制御部は、到着予定時刻(ETA)の期待値E[ETA]が所定の閾値以下の場合に、下記の式(4)に示すように期待値E[ETA]と到着要求時刻RTAとの差の二乗を最小化するように制御入力を決定する。
【0039】
(E[ETA]-RTA) 式(4)
【0040】
到着時刻制御部は、到着予定時刻(ETA)の期待値E[ETA]が所定の閾値以下の場合に、期待値E[ETA]を所定の閾値内にするという条件下で所定のコストを最適化するように制御入力を決定する。例えば、所定のコストとして、目標地点までの燃料消費量を考える。
到着要求時刻に到着したい場合:燃料消費量を最小化
制約条件:RTA-tol1≦E[ETA]≦RTA+tol2
到着要求時刻までに到着したい場合:燃料消費量を最小化
制約条件:E[ETA]≦RTA+tol2
到着要求時刻以降に到着したい場合:燃料消費量を最小化
制約条件:RTA-tol1≦E[ETA]
【0041】
本発明は、航空機上での実施に限らず、地上の航空管制システムへも適用できる。この場合に、地上から機上に対して到着時刻を指定する際、地上で得られる飛行中の不確実性情報及び各機体の使用可能速度範囲をもとに、各機体が調整可能な到着時刻幅を算出することで、実現可能な到着時刻を決定し各機上へ伝達することができる。このように管制情報処理システムを統合することにより、複数の航空機が整然と飛行すると共に、位置や時間の予見を向上し、航空機の間隔を短縮することが可能となり、混雑空域において効率的な降下方式や高密度運航を実現でき、また運航者の希望する自由度の高い飛行機道を実現でき、更に運航前からの協調的な軌道調整により遅延の最小化を図ることができる。
【0042】
また、本発明は、到着時刻が管理される運航であれば、航空機に限らず、船舶や電車、自動車等に適用可能である。例えば、船舶であれば潮流等の不確実性が存在し、自動車であれば渋滞等の不確実性がある。このような運航等における不確実性を考えた上で、本発明を適用し、最適速度を決定することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 :情報処理装置
11 :不確定性推定部
12 :到着予定時刻推定部
13 :到着時刻制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11