(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】多液型接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 175/04 20060101AFI20230216BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230216BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20230216BHJP
C08G 18/24 20060101ALI20230216BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20230216BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J11/06
C08G18/10
C08G18/24
C08G18/42
C08G18/48
(21)【出願番号】P 2018247948
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000222417
【氏名又は名称】トーヨーポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100148356
【氏名又は名称】西村 英人
(72)【発明者】
【氏名】今田 訓司
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-167389(JP,A)
【文献】特表2011-511106(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0280977(US,A1)
【文献】国際公開第2017/166005(WO,A1)
【文献】特表2022-521658(JP,A)
【文献】特開平03-021676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 175/00-175/16
C08G 18/10、18/42、18/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基末端ウレタンポリマーを含有する第1液と、
1分子内に活性水素を2個以上有する活性水素含有化合物を含有する第2液と、を含み、
前記イソシアネート基末端ウレタンポリマーが、ポリオール成分と、前記ポリオール成分100質量部に対して5質量部以上65質量部以下のポリイソシアネート成分との反応物であり、
前記ポリオール成分が、アルキレンオキシド単位を主鎖に含み、数平均分子量が2500以上10000以下である第1のポリオールと、
エステルポリオールである第2のポリオールと、
アルキレンオキシド単位を主鎖に含み、数平均分子量が1000以上2200以下の第3のポリオールと、を含み、
前記ポリオール成分のうち、前記第2のポリオール以外の成分の総質量を100質量部としたとき、前記第2のポリオールの質量が5質量部以上20質量部以下である、
多液型接着剤組成物。
【請求項2】
前記第1のポリオールが第1のポリアルキレングリコールである、請求項1に記載の多液型接着剤組成物。
【請求項3】
前記第1のポリアルキレングリコールが、1分子内に3つのOH基を有する3官能ポリアルキレングリコールである、請求項2に記載の多液型接着剤組成物。
【請求項4】
前記第1のポリオールと前記第3のポリオールの合計質量に対する前記第3のポリオールの割合が15質量%以上85質量%以下である、請求項
1に記載の多液型接着剤組成物。
【請求項5】
前記第3のポリオールが第2のポリアルキレングリコールである、請求項
1または請求項
4に記載の多液型接着剤組成物。
【請求項6】
前記第2のポリアルキレングリコールが、1分子内に2つのOH基を有する2官能ポリアルキレングリコールである、請求項
5に記載の多液型接着剤組成物。
【請求項7】
前記ポリイソシアネート成分が、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、およびトリレンジイソシアネートからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の多液型接着剤組成物。
【請求項8】
前記第2液が、ウレタン化反応触媒を含有する、請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の多液型接着剤組成物。
【請求項9】
前記ウレタン化反応触媒が、有機スズ系触媒である、請求項
8に記載の多液型接着剤組成物。
【請求項10】
ポリ塩化ビニル製シートを接着するためのポリ塩化ビニル製シート接着用接着剤組成物である、請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載の多液型接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多液型接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接着剤組成物は多種多様な用途において利用されている。接着剤の用途の多様化により、接着剤組成物に対しては、接着性が充分であることに加え、接着される材料の種類や接着剤の用途に応じた特性が求められている。
【0003】
例えばポリ塩化ビニルシートのような接着しにくくかつ柔軟性のある樹脂の被着体を、鋼板やコンクリートなどの硬質の下地材に接着しようとする場合、接着自体が難しいか、一旦接着しても被着体の変形などの影響で容易に剥がれる場合がある。そのような問題を解消することを目的とした接着剤組成物として、特許文献1には、末端に少なくとも2個のエポキシ基を有するポリマーと、アミノ末端アクリロニトリルポリブタジエンポリマーと、ポリアミドアミンとを含有する接着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着しにくくかつ柔軟性のある樹脂の被着体を、硬質の下地材に接着しようとする場合、接着剤組成物の初期接着性の低さと、耐水性や耐熱性などの接着後の接着層の耐久性が課題となる場合がある。例えばポリ塩化ビニルシートのような柔軟性のあるシートやフィルム(以下、これらのシートとフィルムとを便宜上「シート材」と呼ぶ)は、加飾や下地材の表面保護の目的で、シートを下地材の表面に貼り付けることが行われている。この際、シート材の接着には、用途に応じて選択される接着剤組成物が用いられ、接着層として積層される。
【0006】
加飾や下地材の表面保護の目的で使用されるシート材は、外部からの応力を定常的に受けやすい使用環境で使用されることもある。外部からの応力を定常的に受けやすい使用環境においては、接着層の耐久性が問題となる場合がある。外部からの応力を頻繁に受ける場合、時間の経過と共に接着層の接着力が失われ、その結果、シート材が剥がれる場合がある。特に軟質なシート材は、その柔軟性から加工性に優れるものの、硬質の被着体と比べてシート材の剥離が起こりやすい傾向がある。したがって、長期間使用してもシート材が剥がれにくい、耐久性に優れた接着剤組成物、特に外部からの応力に対する耐性(耐応力性)や、変形しやすい被着体に対しても接着性が維持されるという特性(耐変形性)に優れる接着層が形成可能な接着剤組成物が求められていた。
【0007】
例えば上記特許文献1に示すようなエポキシ系の接着剤組成物の場合、接着剤組成物の硬化物である接着層が硬くもろいために、初期接着力は高いものの耐応力性や耐変形性が低く、要求される特性を充分に満足することが困難な場合があった。またエポキシ系接着剤組成物は、被着体が剥離する際に下地材が破壊されてしまう場合があることも問題となっていた。
【0008】
そこで、本願においては、初期接着性が良好で、かつ接着層の耐久性、特に硬化後に形成される接着層の耐応力性や耐変形性に優れ、剥離時においても下地材の破壊が抑制される接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の接着剤組成物は、多液型接着剤組成物であって、イソシアネート基末端ウレタンポリマーを含有する第1液と、1分子内に活性水素を2個以上有する活性水素含有化合物を含有する第2液と、を含む。上記イソシアネート基末端ウレタンポリマーは、ポリオール成分と、上記ポリオール成分100質量部に対して5質量部以上65質量部以下のポリイソシアネート成分との反応物である。また上記ポリオール成分がアルキレンオキシド単位を主鎖に含み、数平均分子量が2500以上10000以下である第1のポリオールと、エステルポリオール(以下、ポリエステルポリオールともいう)である第2のポリオールと、を含む。また上記ポリオール成分のうち、上記第2のポリオール以外の成分の総質量を100質量部としたとき、上記第2のポリオールの質量が5質量部以上20質量部以下である。なお、多液型接着剤組成物とは、一液型以外の接着剤組成物を意味する。例えば多液型接着剤組成物には二液型接着剤組成物、三液型接着剤組成物などが含まれる。
【0010】
本願の多液型接着剤組成物は、良好な初期接着性を有し、かつ多液型接着剤組成物を硬化して得られる接着層は伸びが良く柔軟性が高い、という特徴を有する。また接着層は耐応力性や耐変形性に優れ、外部からの応力を定常的に受けやすい使用環境においても接着性が充分に維持されるという特徴を有する。
【0011】
このような特徴は、主にポリオール成分の組成及び成分比に関する特徴と、多液型接着剤組成物である、という特徴とにより発揮される。具体的には、上記ポリオール成分が、アルキレンオキシド単位を主鎖に含み、数平均分子量が2500以上10000以下である上記第1のポリオールと、エステルポリオールである上記第2のポリオールとの組み合わせを含むことで、充分な初期接着性が得られると共に、硬化後の接着層に柔軟性が付与される。そのため、軟質で変形しやすい被着体を接着する場合にも、被着体の変形による影響を接着層が緩和することができる。その結果、高い耐応力性や耐変形性を有する接着層を得ることができる。
【0012】
また多液型接着剤組成物であることにより、貯蔵安定性に優れるのみならず、気泡の発生が抑制されると共に、伸び率が大きく及び強度の高い接着層を得ることができる。一液型の接着剤組成物の場合には、気泡が生じやすく、その結果接着層内に強度の弱い破断開始点が形成されやすい。そのため充分に伸長する前に破断が起こりやすい。本願の接着剤組成物においては、多液型の接着剤組成物であることにより、このような気泡の発生が抑制され、より耐応力性や耐変形性の高い接着層を得ることができる。
【0013】
上記多液型接着剤組成物において、第1のポリオールが第1のポリアルキレングリコールであってもよい。数平均分子量が2500以上10000以下の(上記第1の)ポリアルキレングリコールは、本願の多液型接着剤組成物の特徴である、硬化後の接着層の高い耐応力性や耐変形性を発揮するのに適した材料の一つである。
【0014】
本願の多液型接着剤組成物において、上記第1のポリオールとしての上記ポリアルキレングリコールが、1分子内に3つのOH基を有する3官能ポリアルキレングリコールであってもよい。上記第1のポリオールとしての上記ポリアルキレングリコールがこのような3官能ポリアルキレングリコールであることで、硬化後の接着層の強度をより向上させることができる。
【0015】
本願の多液型接着剤組成物において、ポリオール成分が、アルキレンオキシド単位を主鎖に含み、数平均分子量が1000以上2200以下の第3のポリオールをさらに含んでもよい。このような第3のポリオールは、上記第1のポリオールに比べて分子量が小さく、上記第1のポリオールに比べて単位質量当たりのOH基の量が多い。OH基の量が多いとウレタン結合が多く生成し、良好な接着性や硬度などポリウレタン本来の特性がより充分に発揮される。上記第3のポリオールをさらに含むことで、充分な接着性や高い耐応力性や耐変形性を維持しつつ、ポリウレタンが本来有する良好な接着性や硬度などの特性を充分に発揮することができる。
【0016】
本願の多液型接着剤組成物において、上記第1のポリオールと上記第3のポリオールの合計質量に対する上記第3のポリオールの割合が15質量%以上85質量%以下であってもよい。上記第3のポリオールの割合がこのような範囲であれば、上述のようなポリウレタン本来の特性をより効果的に発揮するのに充分な量のウレタン結合を形成することができる。
【0017】
本願の多液型接着剤組成物において、上記第3のポリオールが第2のポリアルキレングリコールであってもよい。数平均分子量が1000以上2200以下の(上記第2の)ポリアルキレングリコールは、上記第3のポリオールの機能を発揮するのに適した材料の一つである。
【0018】
本願の多液型接着剤組成物において、上記第3のポリオールとしてのポリアルキレングリコールは、1分子内に2つのOH基を有する2官能ポリアルキレングリコールであってもよい。ポリアルキレングリコールは上記第1のポリオールとの親和性が良いことから、これを上記第3のポリオールとして用いることにより接着層の均一性を高めることができ、その結果、接着層の耐応力性や耐変形性が高いという特徴をより充分に発揮することができる。
【0019】
本願の多液型接着剤組成物において、ポリイソシアネート成分が、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)、およびトリレンジイソシアネート(TDI)からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。ポリイソシアネート成分としてこれらの成分を用いることにより、硬化性に優れると共に、硬化物の弾性に優れた多液型接着剤組成物を得ることができる。
【0020】
本願の多液型接着剤組成物においては、第2液がウレタン化反応触媒を含有してもよい。ウレタン化反応触媒の存在により、ウレタン化をより促進し、接着剤組成物の硬化を早めることができる。
【0021】
本願の多液型接着剤組成物において、上記ウレタン化反応触媒が、有機スズ系触媒であってもよい。有機スズ系触媒はウレタン反応の触媒として特に好適である。
【0022】
本願の多液型接着剤組成物において、ポリ塩化ビニル製シートを接着するためのポリ塩化ビニル製シート接着用接着剤組成物であってもよい。ポリ塩化ビニル製シートは柔軟性があり、外部からの応力によって変形しやすいため、接着層の耐応力性や耐変形性が問題になりやすい基材の一つである。本願の多液型接着剤組成物は、接着層の耐応力性や耐変形性に優れるためポリ塩化ビニル製シート接着用接着剤組成物として好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、初期接着性が良好で、かつ接着層の耐久性、特に硬化後に形成される接着層の耐応力性や耐変形性に優れ、剥離時においても下地材の破壊が抑制される接着剤組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態を列記して説明する。本願の接着剤組成物は、イソシアネート基末端ウレタンポリマーを含有する第1液と、1分子内に活性水素を2個以上有する活性水素含有化合物を含有する第2液と、を含む多液型接着剤組成物である。以下に本願の多液型接着剤組成物について詳しく説明する。
【0025】
[第1液について]
上記第1液はイソシアネート基末端ウレタンポリマーを含有する。イソシアネート基末端ウレタンポリマーは、ポリオール成分と、上記ポリオール成分100質量部に対して5質量%以上65質量%以下のポリイソシアネート成分との反応物である。
【0026】
(ポリオール成分について)
第1液に含まれるポリオール成分は、必須成分として、アルキレンオキシド単位を主鎖に含み、数平均分子量が2500以上10000以下である第1のポリオールと、エステルポリオールである第2のポリオールと、を含む。
【0027】
(第1のポリオール)
第1のポリオールは、アルキレンオキシド単位を主鎖に含むポリオールである。アルキレンオキシド単位は一般式:-(R-O)-(式中、Rはアルキレン基、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基)で表される。アルキレンオキシド基の代表例としてはエチレンオキシド(EO)基、プロピレンオキシド(PO)基などが挙げられる。
【0028】
第1のポリオールは、数平均分子量が2500以上10000以下の高分子量ポリオールである。このような高分子量ポリオールは、上述のアルキレンオキシド単位を含む主鎖が長く、いわゆるソフトセグメントを形成する。このソフトセグメントの存在は、本願の発明の効果の一つである、接着層の耐応力性や耐変形性に優れる、という効果を発揮するのに重要な要素の一つである。そのため、数平均分子量が2500以上の、ソフトセグメントを形成する主鎖の長い高分子ポリオールを第1のポリオールとして用いるのが好ましい。一方、あまりに主鎖が長すぎると、最終的に形成されるポリウレタン中の単位質量当たりのウレタン結合の数が少なくなり、ポリウレタン本来の特性が充分に発揮されない場合もある。そのため数平均分子量は10000以下であり、8000以下、あるいは7000以下、あるいは6000以下であるのが好ましい。
【0029】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において言及する数平均分子量は、ポリアルキレンオキシドのOH基価(OHV、単位はmgKOH/g)に基づき、下記数式を用いて計算した値をいう。
数平均分子量=(56100/OHV)×(1分子あたりのOH基数)
ここで、「OHV」は、JIS K 1557 6.4に準拠して測定される値である。また、「1分子当たりのOH基数」とは、ポリアルキレンオキシドを製造するときに原料として用いた開始剤である活性水素化合物1分子あたりの活性水素原子の数をいう。市販品で開始剤の活性水素原子の数を特定できない場合、カタログ等に記載の公称の官能基数を用いることもできる。
【0030】
第1のポリオールとしては、数平均分子量が2500以上10000以下のポリアルキレングリコール(以下、第1のポリアルキレングリコールとも呼ぶ)が好ましい。ポリアルキレングリコールの中でも、加工性や入手容易性、物性の安定性の観点などからポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールが好ましく、ポリプロピレングリコールがより好ましい。
【0031】
またポリアルキレングリコールの一分子内に含まれるOH基の数は1を越える範囲で必要に応じて適宜設定される。ポリアルキレングリコールの一分子内に含まれるOH基の数は通常2または3である。ポリアルキレングリコールの一分子内に含まれるOH基の数は3であってもよい。この場合、第1のポリオールは1分子内に3つのOH基を有する3官能ポリアルキレングリコールである。なかでも特に、第1のポリオールは1分子内に3つのOH基を有する3官能ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールであってもよい。
【0032】
第1のポリオールの主鎖の構造は、第1のポリオールがアルキレンオキシド単位を含み、第1のポリオールの数平均分子量が2500以上10000以下である限り特に限定されない。例えばアルキレンオキシド単位を含む低分子量のサブブロック構造を鎖伸長剤にて連結することにより最終的に第1のポリオールの数平均分子量が2500以上10000以下となるように第1のポリオールを設計してもよい。鎖伸長剤を使用した場合でも第1のポリオールのソフトセグメントとしての役割は充分に果たされ、その結果、本願発明の効果が充分に発揮される。
【0033】
(第2のポリオール)
第2のポリオールは、エステルポリオールである。エステルポリオールは、二官能の酸(特にジカルボン酸)と、ポリオールとの重縮合によって得られ、一般式-(R1OCOR2COO)n-(R1、R2はそれぞれ独立に2価の有機基を表し、nは正の数を表す)で表される繰り返し単位を含む。エステルポリオールとしては、活性水素基を一分子内に2個以上を有する低分子活性水素化合物(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒマシ油変性ポリオール等のポリオール系化合物、又はビスフェノールA等のポリフェノール系化合物等)と、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸等のジカルボン酸の重縮合物である共重合体などが挙げられる。
【0034】
エステルポリオールの分子量は特に限定されないが、例えば数平均分子量が1000以上3000以下のエステルポリオールを用いるのが好ましい。
【0035】
(第1のポリオールと第2のポリオールの割合について)
柔軟性のある基材に対し、初期接着性が良好で、かつ硬化後に形成される接着層の耐応力性や耐変形性に優れる、という本願発明の効果を充分に発揮するためには、ポリオール成分として上記のような分子量および構造を有する第1のポリオールと、エステルポリオールである第2のポリオールと、を含むものを選択することが重要である。その上で第2のポリオールの含有割合を制御することも重要である。具体的には、ポリオール成分のうち、第2のポリオール以外の成分の総質量を100質量部としたとき、第2のポリオールの質量が5質量部以上20質量部以下であることが重要である。
【0036】
上記「第2のポリオール以外の成分」には第1のポリオールも含まれる。第1のポリオールはソフトセグメントを形成する成分であり、第1のポリオールを使用することで接着層に柔軟性や伸長性を付与する。そのため、基材の変形に対しても接着層が追従することができるようになる。これに対し、エステルポリオールである第2のポリオールは、分子内に極性のあるエステル結合を有するため、主に基材に対する接着性を高める役割を果たす。そのため、第2のポリオール以外の成分の総質量を100質量部としたとき、第2のポリオールの質量を5質量部以上とすることで、接着層が積層された基材が変形した場合でも、基材から接着層が容易に剥離しない程度の接着性を確保することができる。また充分な接着強度をより確実に確保するためには、第2のポリオールの質量は10質量部以上であってもよい。
【0037】
一方、エステルポリオールは加水分解しやすいため、水分により劣化する傾向がある。エステルポリオールの加水分解が起こると同時に接着層の伸長性や柔軟性も損なわれ、その結果として耐応力性や耐変形性などの耐久性も低下する。したがって第2のポリオール以外の成分の総質量を100質量部としたとき、第2のポリオールの質量を20質量部以下とする。
【0038】
(第3のポリオール、および含有可能な他のポリオール)
上記ポリオール成分は、上記第1のポリオールおよび第2のポリオール以外の他のポリオールを含んでよい。例えばポリオール成分が、アルキレンオキシド単位を主鎖に含み、数平均分子量が1000以上2200以下の第3のポリオールをさらに含んでもよい。例えば第3のポリオールは、ポリアルキレングリコール(以下、第2のポリアルキレングリコールとも呼ぶ)であってもよい。
【0039】
上記第1のポリオールは単位質量当たりのOH基含有量が少ない。そのため、単位質量当たりのOH基含有量のより多い第3のポリオールを所定の量添加することで、OH基の量が調整され、ポリウレタン結合の生成が促進される。
【0040】
上記第3のポリオールの数平均分子量は1000以上2200以下である。数平均分子量が高くなりすぎると単位質量当たりのOH基の量を増やすのに不利となる。一方、数平均分子量が低すぎると形成される接着層が硬くなる傾向がある。そのため第3のポリオールの数平均分子量は1000以上2200以下である。第3のポリオールの数平均分子量は1500以上であってもよく、また2000以下であってもよい。
【0041】
第1液が第3のポリオールを含む場合において、第1のポリオールと第3のポリオールの合計質量に対する第3のポリオールの割合は15質量%以上85質量%以下であってもよい。このような割合であれば、耐応力性や耐変形性や接着性に大きな影響を与えることなく、第3のポリオールの添加によるOH基の量の調整効果が充分に発揮される。
【0042】
さらに上記ポリオール成分は、本願の発明の効果を損なわない範囲で他のポリオールを含んでもよい。そのようなポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリテトラメチレングリコールポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ひまし油変性ポリオールなどが挙げられる。
【0043】
(ポリイソシアネート成分)
ポリイソシアネート成分に含まれるポリイソシアネートとしては、2つ以上のイソシアネート基が芳香環に結合している芳香族有機ポリイソシアネートや、2つ以上のイソシアネート基が脂肪族炭化水素に結合している脂肪族有機ポリイソシアネート、あるいは2つ以上のイソシアネート基が脂環式炭化水素に結合している脂環式有機ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0044】
芳香族有機ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、あるいはこれらの混合物等のジフェニルメタンジイソシアネート類(MDI類)、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネートあるいはこれらの混合物等のトリレンジイソシアネート類(TDI類)、ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが挙げられる。
【0045】
脂肪族有機ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネートなどが挙げられる。また脂環式有機ポリイソシアネートとしては、シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0046】
それ以外にも、上記ポリイソシアネートとしては、キシリレンジイソシアネートなど芳香脂肪族式有機ポリイソシアネートが挙げられる。
【0047】
またポリイソシアネート成分に含まれるポリイソシアネートは、上記ジイソシアネートのカルボジイミド変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、多量体(例えば二量体、三量体)、またはポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)などであってもよい。
【0048】
これらのポリイソシアネートは単独または2種以上を組み合わせて配合されてもよく、上記単量体とこれらの変性体や多量体の混合物として配合されてもよい。
【0049】
上記ポリイソシアネートのうち、硬化性と硬化物の弾性に優れている点で、芳香族ポリイソシアネートが好ましく、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)、およびトリレンジイソシアネート(TDI)からなる群から選択される少なくとも一つであるのが好ましい。
【0050】
(イソシアネート基末端ウレタンポリマー)
イソシアネート基末端ウレタンポリマーは、ポリオール成分と、上記ポリオール成分100質量部に対して5質量部以上65質量部以下のポリイソシアネート成分との反応物である。
【0051】
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーは、上述のポリオール成分と、上述のポリイソシアネート成分との反応物である。上記ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分との割合は、ポリオール成分100質量部に対してポリイソシアネート成分の量が5質量部以上65質量部以下である。このような割合とすることで、貯蔵時の貯蔵安定性を維持しつつ、塗工時においては基材の貼り付け作業に適した良好な硬化性と高い作業性を発揮することができる。ポリオール成分100質量部に対するポリイソシアネート成分の量は10質量部以上であってもよく、また50質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよい。
【0052】
イソシアネート基末端ウレタンポリマーは、反応容器中に溶剤を仕込んだ後、または溶剤を仕込まずに(無溶剤で)、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを反応容器中に仕込む一括添加による合成法を用いて合成してもよい。あるいは、必要な成分をそれぞれ順次添加する多段階添加合成法を用いて合成してもよい。またそれらの方法の均等の範囲に含まれる他の製法を採用してもよい。但し、イソシアネート基末端とするためにはプレポリマーの分子中にイソシアネート基を残す必要がある。そのため、ポリオール成分に含まれる総OH基量に対して、ポリイソシアネート成分に含まれる総イソシアネート基の当量を大きくする必要がある。例えばポリオール成分に含まれるOH基1当量当たり、に対する、ポリイソシアネート成分に含まれる総イソシアネート基の当量が1.1~3.0程度であるのが好ましい。このようにして得られるイソシアネート基末端ウレタンポリマーのイソシアネート基含有量は、0.1質量%以上15.0質量%以下であってもよく、0.5質量%以上10.0質量%以下であってもよい。またまた調製後は空気中の水分の影響を受けないよう、乾燥された密封容器内で保存することが好ましい。
【0053】
第1液中におけるイソシアネート基末端ウレタンポリマーは溶剤に溶解または分散されていてもよく、無溶剤であってもよい。上記溶剤としては、イソシアネート基末端ウレタンポリマーを良好に溶解または分散させることができるものが好ましい。そのような溶剤としては極性溶剤が好ましく、非プロトン系極性溶剤がより好ましい。非プロトン系極性溶剤としては、ニトリル系溶剤や、ケトン系溶剤エステル系溶剤等が挙げられる。
【0054】
第1液はさらに、接着剤組成物に通常添加される様々な添加剤を含んでもよい。添加剤の例としては、可塑剤、充填剤、揺変性付与剤、接着性向上剤、増粘剤、脱水剤、発泡抑制剤、着色剤などが挙げられる。これらの添加剤は、用途などに合わせて適宜添加することができる。また必要に応じて溶剤を含んでもよく、無溶剤であってもよい。
【0055】
[第2液について]
次に第2液について説明する。第2液は、1分子内に活性水素を2個以上有する活性水素含有化合物を含有する。1分子内に活性水素を2個以上有する活性水素含有化合物の例としては1分子内に2個以上のOH基を有するジオールなどのポリオール類、ヒドロキシフェノール類、ジアミンなどのポリアミン、水などが挙げられる。またヒマシ油変性ポリオールなどの天然物由来の変性体を利用することもできる。
【0056】
上記ポリオール類としては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオキシアルキレン系ポリオール、炭化水素系ポリオール、ポリ(メタ)アクリレート系ポリオール、動植物系ポリオール、これらのコポリオールなどが挙げられる。またこれらの2種以上の混合物を用いてもよい。なお上記活性水素含有化合物は上述の第1のポリオール、第2のポリオール、または第3のポリオールと同一の成分であってもよい。また上記活性水素含有化合物は上述の第1のポリオール、第2のポリオール、および第3のポリオールとは異なる成分であってもよい。
【0057】
上記ポリオール類の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリテトラメチレングリコールポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ひまし油変性ポリオールなどが挙げられる。
【0058】
ヒドロキシフェノール類としては、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールFなどのビスフェノール類が挙げられる。
【0059】
ポリアミンの例としては、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン等の脂肪族ジアミンやフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0060】
第2液中の上記活性水素含有化合物の量は特に限定されない。但し量が少なすぎると硬化が充分に進行しない場合もあることから、第2液の総質量100質量%に対して30質量%以上、あるいは50質量%以上の上記活性水素含有化合物を第2液が含むのが好ましい。上限は他の添加成分の添加量に応じて相対的に変化し、通常は90質量%以下である。
【0061】
第2液は、ウレタン反応を介在する触媒を含有していてもよい。ウレタン反応を介在する触媒によって硬化時におけるウレタン反応の進行を促進することができる。また活性の高いイソシアネート基末端ウレタンポリマーを含有する第1液ではなく、第2液が触媒を含むことで、より長期に渡って貯蔵安定性を維持することができる。
【0062】
そのような触媒の例としては、有機金属触媒が挙げられる。有機金属触媒の例としては、オクチル酸第一錫、オクテン酸錫などの、亜鉛、錫、鉛、ジルコニウム、ビスマス、コバルト、マンガン、鉄等の金属とオクチル酸、オクテン酸、ナフテン酸等の有機酸との塩、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトナート)などの金属キレート化合物、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属と有機酸との塩、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン等の有機アミンやその塩などの公知のウレタン化触媒が挙げられる。これらのうち、ウレタン化反応の促進効果が大きい点で有機スズ系触媒が好ましく、なかでも刺激臭がなく低臭気なジオクチル錫ジラウレートが好ましい。
【0063】
第2液はさらに、第1液と同様に、接着剤組成物に通常添加される様々な添加剤を含んでもよい。添加剤の例としては、可塑剤、充填剤、揺変性付与剤、接着性向上剤、増粘剤、脱水剤、発泡抑制剤、着色剤などが挙げられる。これらの添加剤は、用途などに合わせて適宜添加することができる。また必要に応じて溶剤を含んでもよく、無溶剤であってもよい。
【0064】
第2液の製造方法は特に限定されず、必要な成分を混練機や攪拌機等で充分に混合することにより調整することができる。また調製後は空気中の水分の影響を受けないよう、乾燥された密封容器内で保存することが好ましい。
【0065】
[接着層の形成]
上述のようにして調製される第1液と第2液は、塗工の現場において初めて混ぜ合わせることにより使用される。本願の接着剤組成物は多液型であることが重要である。第1液と第2液に含まれる成分を一液型の組成物とした場合、貯蔵安定性が損なわれるだけでなく、気泡が生じやすく、その結果接着層内に強度の弱い破断開始点が形成されやすい。多液型の接着剤組成物であることにより、発明の効果の一つである、耐応力性や耐変形性に優れた接着層を得ることが可能となる。
【0066】
本願の多液型接着剤組成物は、第1液と第2液を充分に混合した後、例えば鋼板やコンクリートなどの硬質の下地材上に塗布されて使用される。その後、塗布層の上に被着体(ポリ塩化ビニルなどの樹脂からなるシート)を貼り付け、養生することにより、基材と被着体とが、本願の多液型接着剤組成物の硬化物である接着層を介して接着された積層体が形成される。
【0067】
このようにして形成される接着層は、初期接着性が良好で、かつ耐久性、特に硬化後に形成される接着層の耐応力性や耐変形性に優れる。そのため柔軟性のある被着体であって、外部からの応力を受けやすい箇所に使用される被着体を接着した場合においても容易に剥離が起こらない、という特徴を有する。また被着体の摩耗等により被着体を張り替える必要がある場合にも、被着体の剥離時における下地材の破壊が起こりにくい、という点においても好適に使用することができる。
【0068】
[接着剤組成物の用途]
本願の多液型接着剤組成物は、その特性から、特に軟質の被着体を接着するのに好適に使用することができる。軟質の被着体に対しては、形成される接着層の耐応力性や耐変形性が高いという本願の多液型接着剤組成物の特性を効果的に発揮することができる。軟質の被着体としては、高分子樹脂製の被着体が挙げられる。なかでもポリ塩化ビニル製シートに対しては、高い耐応力性や耐変形性が効果的に発揮される。そのため本願の多液型接着剤組成物は、ポリ塩化ビニル製シート、特に軟質のポリ塩化ビニル製シートを接着するためのポリ塩化ビニル製シート接着用接着剤組成物として特に好適に使用することができる。
【実施例】
【0069】
発明の効果を確認するために以下の実験を行い、特性を評価した。結果を以下に示す。
【0070】
(第1の実施例群)
表1~表3に示す配合に従って第1液A~D、および第2液Aを調整した。次に表4に示すように、第1液A~Dと第2液Aとを、第1液のイソシアネート基と第2液のOH基の当量比が、NCO/OH=1.1になるように接着剤組成物を調整した。このようにして2液型接着剤組成物を得た。一方、比較例として従来の二液型接着剤組成物(比較例1)と一液型接着剤組成物(比較例2)の2種類を準備した。実施例および比較例の各接着剤組成物をそれぞれ下地材に塗布して接着層を形成し、その接着層の物性を評価した。評価結果を表4に示す。なお、表1から表3において、表1の不揮発分(質量%)の項目を除き、単位は質量部である。
【0071】
実施例および比較例において使用された成分は次の通りである(表1~表3参照)。
[第1液]
[ポリオール成分]
(第1のポリオール)
PPG 1A(ポリプロピレングリコール)、3官能、数平均分子量5000
(第2のポリオール)
エステルポリオール、2官能、数平均分子量2000
(第3のポリオール)
PPG 3(ポリプロピレングリコール)、2官能、数平均分子量2000
[ポリイソシアネート成分]
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)
[その他の成分]
(溶剤)
脱水メチルエチルケトン(MEK)
(増粘剤)
シリカ(SiO2)
【0072】
[第2液]
(活性水素含有化合物)
ヒマシ油変性ポリオール(ヒマシ油変性PO)
(添加剤)
触媒:有機スズ系触媒
充填剤:炭酸カルシウム
増粘剤:シリカ
【0073】
また、接着層の物性について、以下のような評価を行った。
【0074】
(90度剥離接着強さ)
モルタルの下地材に接着剤組成物を塗布し、乾燥させて接着層を形成した。その状態でJIS K 5536の方法に準拠して接着層を90度方向に剥離した際の剥離接着強さを測定した。結果を表2に示す。なお接着層は、接着層の形成後そのまま剥離接着強さを測定した場合(「常態」と表記)に加え、耐水性を評価するために温度23±2℃の水中に168時間浸漬した後、剥離接着強さを測定した場合(「耐水」と表記)の2つの状態での剥離接着強さを測定した。
【0075】
なお、剥離の状態を示す記号の意味は以下の通りである。
G:下地材の材料破壊
GA:接着剤と下地材との界面破壊
A:接着剤の凝集破壊
AF:接着剤と被着体との界面破壊
F:被着体の材料破壊
また「破壊部位」の欄に示す数値は接着面積全体に占める上記状態の箇所の割合(%)を示す。
【0076】
(柔軟性評価)
下地材から剥がした接着層を指で円筒状に丸め、その時の状態を確認することで、接着層の柔軟性を評価した。結果を表4に示す。
【0077】
(屈曲試験)
JIS K 6545に従って、下地材から剥がした接着層単独の屈曲性を調べた。結果を表2に示す。なお、屈曲回数1万回を超えるものについてはランク「+」に、2万回を超えるものについてはランク「++」に、3万回を超えるものについてはランク「+++」に、4万回を超えるものについてはランク「++++」にそれぞれ分類した。屈曲回数1万回未満で割れが生じたものについてはランク「-」に分類した。結果を表4に示す。
【0078】
(機械的特性)
接着層を下地材から剥がし、接着層の機械的特性(引張物性)を評価した。評価特性としては、JIS K 7161に準拠して、引張強度(「TS」と表記、単位MPa)、および引張伸び(「EL」と表記、単位%)をそれぞれ測定した。結果を表4に示す。
【0079】
(硬度)
JIS K 6253に準拠したゴム・プラスチック用の硬度計を用いて接着層のショアA硬度(「A硬度」と表記)を測定した。結果を表4に示す。
【0080】
(実施例1~4)
下記表1に示す処方に従って各成分を混練機で混練することによりベース1~ベース4を調製した。調製したベース1~ベース4を用いて表2に示す処方に従って各成分を混練機で混練することにより第1液A~第1液Dを調製した。さらに表3に示す処方に従って各成分を混練機で混練することにより第2液Aを調製した。
【0081】
表1には第1液に使用するベース1~4の処方を示す。ベース1~4は、ポリイソシアネート成分の配合量に違いがある。これにより、単位質量辺りに含まれるイソシアネート基の量も変わる。またポリイソシアネート成分の配合量の増加に伴い、溶剤の量も増えている。また表1にはベース1~4のそれぞれの不揮発分(質量%)と、ポリオール成分100質量部に対する、イソシアネート成分の割合(質量部)とが示されている。
【0082】
【0083】
表2には第1液の処方を示す。表中の数字の単位は質量部を表す。第1液Aは表1のベース1を、第1液Bはベース2を、第1液Cはベース3を、第1液Dは表1のベース4をそれぞれ含む。第1液A~Dは、ベース以外に増粘剤(シリカ)と溶剤(MEK)とを含む。また表3には第2液Aの処方を示す。
【0084】
【0085】
【0086】
調製した第1液と第2液とを混合し、モルタルの下地材に層状に塗り拡げることにより接着層を形成した。得られた接着層について、上述した諸物性を評価した。結果を表4に示す。
【0087】
(比較例1)
市販の二液型エポキシ樹脂系接着剤(セメントEP30、田島ルーフィング株式会社製)を用いて接着層を形成し、実施例1~4と同様に諸物性を評価した。結果を表4に示す。
【0088】
(比較例2)
市販の一液型ウレタン樹脂系接着剤(ルビロンエース、トーヨーポリマー株式会社製)を用いて接着層を形成し、実施例1~4と同様に諸物性を評価した。結果を表4に示す。
【0089】
【0090】
(考察)
表4を参照して、実施例1~4に示す接着剤組成物から得られる接着層は、従来品(比較例1および比較例2)から得られる接着層に比べて耐変形性に優れることが分かる。まず柔軟性の評価結果から分かるように、実施例1~4に示す接着剤から得られる接着層は円筒状に丸めても割れることがなく、しなやかさを有していた。一方、従来品の接着剤から得られる接着層は円筒状に丸めると割れてしまい、柔軟性がなかった。またJIS K 6545に準じて行った屈曲試験においては、実施例1~実施例4においては接着層の屈曲回数がいずれも1万回を越えたのに対し、従来品においては屈曲回数が1万回を越える接着層は得られなかった。
【0091】
また実施例1~4に示す接着剤から得られる接着層の耐変形性が高いことは、機械的特性の評価結果からも分かる。比較例1および2に示すように、従来品の接着剤から得られる接着層は引張強度(TS)が高すぎるが故に引張伸び(EL)が非常に低かった。一方、実施例1~4に示す接着剤から得られる接着層は引張伸びが非常に高かった。そのため、外部からの応力を定常的に受けやすい使用環境において使用された場合でも、応力に対する耐性が高いことが期待される。
【0092】
また実施例1~実施例4の結果から、第1液のベースに配合されるポリイソシアネート成分の量が多いほど、すなわち単位質量辺りに含まれる第1液中のイソシアネート基の量が多いほど、得られる接着層の硬度が高くなることが分かる。但し、接着層の硬度が最も高い実施例4においても引張伸びは160%を越えていた。このように、本願発明の接着剤組成物から得られる接着層は、硬度が高いにも関わらず充分な柔軟性を有している、という特徴を有している。
【0093】
剥離接着強さについては従来品よりも低いものの、接着剤としては充分な強度を有していた。また実施例1~4の接着剤組成物の破壊部位の状態はいずれも「GA」(接着剤と下地との界面破壊)である点も注目すべきである。比較例1の接着剤組成物は、常態での剥離時において被着体が破壊されてしまうという問題があった。また比較例2の接着剤組成物は、常態での剥離時において接着層そのものが破壊され、接着層の強度に問題があった。これに対し、実施例1~4の接着剤組成物の破壊部位の状態はいずれも界面破壊を示す「GA」であり、被着体及び接着剤層の主要部分の破壊が少ない為、外部からの応力を定常的に受けやすい使用環境において使用された場合でも充分な耐性を有していることが分かった。また常態時と耐水試験後の接着強さの差が比較的小さく、従来品と比べて耐水性を有していることも分かった。このように、本願発明によれば、耐変形性のみならず、耐水性にも優れることで、接着層の耐久性が全般的に高い接着剤組成物が得られることが分かった。
【0094】
(第2の実施例群)
第1の実施例群とは組成の異なる多液型接着剤組成物を評価した。第1液Eは、表5に示すベース5をまず調整した後、表6に示す処方にてベース5および増粘剤等を混練することにより調製した。
【0095】
次に表8に示すように、第1液Eと第2液Bとを、第1液のイソシアネート基と第2液のOH基の当量比が、NCO/OH=1.1になるように接着剤組成物を調整した。得られた2液型接着剤組成物を下地材に塗布して接着層を形成し、その接着層の物性を評価した。評価結果を表8に示す。評価項目は第1の実施例群の説明において示したとおりである。なお、表5から表7において、表5の不揮発分(質量%)の項目を除き、単位は質量部である。
【0096】
実施例5において新たに用いられた成分は以下の通りである(表5~6参照)。以下に示すもの以外の成分は、第1の実施例群において使用された成分と同じである。
[第1液]
[ポリオール成分]
(第1のポリオール)
PPG 1B(ポリプロピレングリコール)、3官能、数平均分子量3000
[ポリイソシアネート成分]
トリレンジイソシアネート(TDI)
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとその多量体の混合物(C-MDI)
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
(考察)
表8を参照して、実施例5に示す接着剤組成物から得られる接着層は、実施例1~4の接着剤組成物と同様に、耐変形性に優れることが分かる。外部からの応力を定常的に受けやすい使用環境において使用された場合でも、応力に対する耐性が高いことが期待される。また適度な伸びと強度、接着強さを有していることも表8の結果より確認できる。
【0102】
上記結果から分かるように、本願発明によれば、初期接着性が良好で、かつ接着層の耐久性、特に硬化後に形成される接着層の耐応力性や耐変形性に優れ、剥離時においても下地材の破壊が抑制される接着剤組成物を提供することができる。
【0103】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本願の多液型接着剤組成物は、外部からの応力を定常的に受けやすい使用環境で使用される被着体、特に軟質ポリ塩化ビニル製シートなどの軟質の被着体を長期に渡って固定する必要がある場面において、特に好適に使用され得る。