(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】地盤の復元方法
(51)【国際特許分類】
E02D 9/00 20060101AFI20230216BHJP
E21B 10/32 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
E02D9/00
E21B10/32
(21)【出願番号】P 2019101835
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】507110707
【氏名又は名称】折戸 清治
(74)【代理人】
【識別番号】110002996
【氏名又は名称】弁理士法人宮田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】折戸 清治
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-061019(JP,A)
【文献】特開2007-162216(JP,A)
【文献】特開2011-214366(JP,A)
【文献】特開2002-212950(JP,A)
【文献】特開2008-169603(JP,A)
【文献】特開2007-120154(JP,A)
【文献】特開2013-019249(JP,A)
【文献】特開2017-025534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 9/00
E21B 10/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状改良部(C)を掘削ドリル(11)で破砕する地盤(G)の復元方法であって、
前記掘削ドリル(11)は、中心軸(15)の側周面を取り囲む螺旋状の刃具(16)を複数備え、該刃具(16)の外周部近傍には棒状の拡径爪(22)を揺動自在に取り付けてあり、
前記拡径爪(22)の一端側は前記刃具(16)で支持され、また他端側は前記中心軸(15)の周方向から半径方向までの範囲で揺動可能としてあり、該中心軸(15)が正転する際、該拡径爪(22)は前記柱状改良部(C)との接触で周方向に倒伏した状態になり、対して該中心軸(15)が逆転する際、該拡径爪(22)は該柱状改良部(C)との接触で半径方向に突出した状態になり、
前記刃具(16)の外周部の直径は、前記柱状改良部(C)の直径よりも小さく、また前記拡径爪(22)が半径方向に突出した際、その外縁の直径は、該柱状改良部(C)の直径よりも大きく、
前記掘削ドリル(11)を正転させて前記地盤(G)中に埋め込む過程では、前記刃具(16)によって前記柱状改良部(C)の中心付近が破砕され、該掘削ドリル(11)を逆転させて引き上げる過程では、前記拡径爪(22)によって該柱状改良部(C)の外縁側を破砕することを特徴とする地盤の復元方法。
【請求項2】
前記中心軸(15)の先端付近には、前記刃具(16)の先端よりも突出した先進軸(31)を設けてあり、該先進軸(31)の端面には、破砕のための先導爪(32)を複数設けてあることを特徴とする請求項1記載の地盤の復元方法。
【請求項3】
前記中心軸(15)および前記先進軸(31)の内部には、前記先導爪(32)の周囲に流体を噴射するための流路(18)を設けてあることを特徴とする請求項2記載の地盤の復元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメントコラム工法による柱状改良部が構築された地盤の復元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地上に建築物や構造物を施工する際は、その沈み込みを防ぐため、あらかじめ杭打ちや地盤改良を行うことが多く、杭については、鉄製や木製やコンクリート製など、様々な種類が存在しており、その埋め込み方法も様々である。また地盤改良についても様々な技術が開発されており、その一つとしてソイルセメントコラム工法が挙げられる。この工法は、セメント系固化材と水を地中に圧入し、これらを既存の土砂類と混ぜ合わせ、ほぼ円断面の柱状改良部(ソイルセメントコラム)を形成するもので、狭い敷地でも無理なく施工可能で、施工時の騒音や振動も少なく、住宅用途を中心に広く普及している。
【0003】
ソイルセメントコラム工法に関する技術開発の例として、後記の特許文献1が挙げられる。この文献では、ソイルセメントコラムの構築、撤去方法が開示されており、構築のほか、撤去も簡単に実施できることを特徴としている。その具体的は、ソイルセメントコラム(以下、コラムと記載)の構築途中において、その中心に鋼管(支持兼ガイド管)を挿入し、これをガイドとして地中に貫入させた攪拌ロッドを回転させながら引き上げると、均一で良質なコラムを構築できる。またコラムの撤去時は、前記の鋼管をガイドとして中空オーガーを埋め込むことで、その先端の切削ビットが逃げることなくコラムを切削し、コラム全体を確実に破壊することができる。
【0004】
次の特許文献2では、ソイルセメント合成杭(ソイルセメントコラム)を造成するための拡幅掘削装置が開示されている。この文献では、ソイルセメント合成杭を造成する際、地盤に拡幅掘削装置と中空管を埋め込んでおり、拡幅掘削装置の先端部を中空管から突出させている。そして拡幅掘削装置から拡径する拡幅掘削翼は、中空管よりも外側に到達し、周辺の地盤を掘削する。また、拡幅掘削装置の先端付近から硬化性注入材を放出し、これを地盤と撹拌することで、ソイルセメント合成杭が順次造成されていく。そして造成後、中空管を残したまま拡幅掘削装置だけを引き上げるため、拡幅掘削翼を縮径させる機能を有している。この縮径は、拡幅掘削翼を揺動軸で支持することで実現しており、揺動軸は、回転軸に対して傾けて取り付けてある。
【0005】
また、ソイルセメントコラムの撤去に関する技術の例として、特許文献3、4が挙げられる。そのうち特許文献3では、柱状改質部(ソイルセメントコラム)が形成された地盤の復元方法が開示されており、柱状改質部の周囲に環状のケーシングを積層するように複数埋め込み、その後、ケーシングの内部にグラブバケットを差し込み、柱状改質部の破砕と排出を繰り返し、その後、砂利などの埋め戻し材の投入と、その突き固めを繰り返し、最後にケーシングを引き上げて地盤を復元する。この方法では、当初のソイルセメントコラムをほぼ全量撤去できるほか、埋め戻し材を突き固めることで、地盤の緩みを抑制できる。
【0006】
そして特許文献4では、地中に埋設された柱状改良杭(ソイルセメントコラム)を容易に破砕することができる掘削ヘッドが開示されている。この掘削ヘッドは、回転軸の側周面に螺旋状の掘削翼を設けた構造で、掘削翼の先端には棒状の小型ビットを取り付けてあるほか、掘削翼の外周部には掘削方向に突出する先行爪を取り付けてある。先行爪は、小型ビットよりも先端側に突出しているほか、先行爪の先端の回転半径は、柱状改良杭の半径よりも大きくしてある。その結果、先行爪は、固まっている柱状改良杭を軸として回転するため、掘削ヘッドの芯ずれを防ぐことができ、柱状改良杭が容易に破砕される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-21310号公報
【文献】特開2005-220512号公報
【文献】特開2017-78261号公報
【文献】特許第6435077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のように柱状改良部は、住宅などの小規模な建築物を中心に普及しており、その破砕に際しても周辺環境を悪化させないよう、騒音や振動をできるだけ抑制する必要がある。また狭隘な場所で破砕作業を行うことも多く、機材の輸送や、作業時の通行障害などにも配慮する必要がある。したがって破砕に用いる機材はできるだけ小型化した上、騒音や振動を抑制可能で、しかもコストダウンの観点から、エネルギー消費を削減できることが望ましい。
【0009】
柱状改良部は、その性質上、固まり具合が不均一になることも多い。そのため破砕時、埋め込まれたドリルなどが硬質の領域を避けるように湾曲して大きな芯ずれを生じてしまい、柱状改良部の一部領域が破砕されることなく残存する恐れがある。このような芯ずれを防ぐには、前記の特許文献3のようにケーシングを用いればよいが、ケーシングは柱状改良部よりも大径になるほか、ケーシングの埋め込みや引き上げに手間が掛かり、作業に用いる機材の大型化が避けられず、コストダウンに関しては不利な面がある。
【0010】
また特許文献4では、柱状改良杭(柱状改良部)を破砕するだけであり、撤去は行わない。そのためケーシングが不要でコストダウンを実現しやすい。ただしこの技術では、柱状改良杭の横断面全体をほぼ同時に破砕するほか、芯ずれを防ぐため、柱状改良杭の直径を上回る大径の先行爪を用いており、作業時には相応のトルクを加える必要があり、機材が大型化しやすい。このような事情から、柱状改良部の破砕には、一度での破砕量を抑制し、機材の小型化やエネルギー消費の削減などを実現可能な技術が待ち望まれている。
【0011】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、ソイルセメントコラム工法による柱状改良部が構築された後、周辺環境に及ぼす影響を抑制しながら、低コストで原状回復を実現可能な地盤の復元方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、柱状改良部を掘削ドリルで破砕する地盤の復元方法であって、前記掘削ドリルは、中心軸の側周面を取り囲む螺旋状の刃具を複数備え、該刃具の外周部近傍には棒状の拡径爪を揺動自在に取り付けてあり、前記拡径爪の一端側は前記刃具で支持され、また他端側は前記中心軸の周方向から半径方向までの範囲で揺動可能としてあり、該中心軸が正転する際、該拡径爪は前記柱状改良部との接触で周方向に倒伏した状態になり、対して該中心軸が逆転する際、該拡径爪は該柱状改良部との接触で半径方向に突出した状態になり、前記刃具の外周部の直径は、前記柱状改良部の直径よりも小さく、また前記拡径爪が半径方向に突出した際、その外縁の直径は、該柱状改良部の直径よりも大きく、前記掘削ドリルを正転させて前記地盤中に埋め込む過程では、前記刃具によって前記柱状改良部の中心付近が破砕され、該掘削ドリルを逆転させて引き上げる過程では、前記拡径爪によって該柱状改良部の外縁側を破砕することを特徴とする地盤の復元方法である。
【0013】
本発明では、比較的小径の掘削ドリルを用いて柱状改良部を破砕することを目的としており、掘削ドリル自体は、従来のアースオーガなどと同様、螺旋状に伸びる刃具が中心軸の側周面を取り囲む構造だが、この刃具は、掘削対象が硬質であることを考慮し、多条ネジのように、複数列で構成される。そして掘削ドリルの先端側は、柱状改良部と向き合うが、その反対側には長尺の駆動軸が接続されており、駆動軸をオーガなどの建設機械で保持することで、掘削ドリルの回転や軸線方向への移動が実現する。なお当然ながら、掘削ドリルを地盤に埋め込む際は、全体を回転させて刃具による掘削を行うが、この回転方向が「正転」となる。
【0014】
拡径爪は、螺旋状に伸びる刃具の外周部近傍に組み込む棒状の刃で、その長辺に沿って鋭利な刃を形成する。この刃は、一本の拡径爪に対して一列だけで、その反対側は刃ではなく峰になる。また拡径爪の一端側は、ピンなどを介して刃具の外周部近傍に取り付け、刃具に対して揺動自在としてある。そしてこの揺動の範囲は、中心軸の回転方向を基準として、拡径爪が周方向に沿う状態と、半径方向に突出する状態と、の間の概ね90度に限定し、これを超える範囲については、拡径爪が周囲の部品と接触し、揺動が規制される。なお拡径爪は、刃具の先端付近ではなく、そこからやや後退した箇所に配置する。
【0015】
拡径爪は、外力によって自在に揺動可能であり、地盤(柱状改良部を含む)との接触によって姿勢が変化する。具体的には、掘削ドリルが正転して刃具による破砕が行われる際、拡径爪は地盤との接触で押し倒され、中心軸の周方向に沿う姿勢になる。そのため拡径爪は、刃具の外周部近傍に収納された状態になり、拡径爪はその機能を発揮することがなく、周囲に破砕物が通過するに過ぎない。
【0016】
刃具が柱状改良部の最下部に到達すると、これまでに刃具が通過した箇所では柱状改良部が小石状に破砕されており、その後、掘削ドリルを円滑に引き上げるため、その回転方向を逆転させる。その際、拡径爪の先端が地盤(柱状改良部を含む)に接触すると、これまでとは逆に拡径爪が引き出されて半径方向に突出するが、その揺動範囲は規制されているため、突出した状態が維持され、まだ破砕されていない柱状改良部に食い込んでいく。
【0017】
螺旋状の刃具の外周部の直径は、その使用が想定される柱状改良部の直径よりも小さくする。したがって、柱状改良部の中心付近に掘削ドリルを配置し、掘削ドリルを徐々に埋め込んでいくと、刃具によって柱状改良部の中心付近だけが破砕されるため、掘削ドリルを駆動するためのトルクを抑制できる。そして掘削ドリルの先端が柱状改良部の最下部に到達すると、掘削ドリルを逆転させながら徐々に引き上げていくが、その際は拡径爪が突出し、刃具よりも外側が破砕される。
【0018】
拡径爪については、地盤との接触で半径方向に突出した際、その外縁の直径が柱状改良部の直径を上回る必要があり、掘削ドリルを逆転させながら引き上げることで、柱状改良部の全体を破砕できる。なお拡径爪は、反力の不均衡による中心軸の屈曲を抑制するため、複数を等角度で配置することが望ましい。そのほか拡径爪は、刃具の先端よりも後退した箇所に配置してある。そのため掘削ドリルを埋め込む際は、柱状改良部の底よりもやや深い位置まで到達させ、柱状改良部の全体を破砕できるようにする。
【0019】
このように、拡径爪などを備えた掘削ドリルを用いることで、その埋め込みと引き上げの二段階に分割して柱状改良部を破砕するため、作業時のトルクが軽減され、機材の各部を小型化できるほか、動力源となるエンジンのダウンサイジングも可能で、エネルギー消費の削減のほか、騒音や振動の低下が実現する。また拡径爪により、刃具の大きさを抑制できるほか、従来のケーシングなども不要で設備を小型化できるため、狭隘な場所においても、輸送や据え付けなどを無理なく実施できる。なお本発明では、柱状改良部の中心付近と外縁側の二段階に分けて破砕を行うが、この破砕は掘削ドリルの上下一往復だけで実現できるため、作業時間が増大することもない。
【0020】
請求項2記載の発明は、掘削ドリルの変位を抑制するためのもので、中心軸の先端付近には、刃具の先端よりも突出した先進軸を設けてあり、該先進軸の端面には、破砕のための先導爪を複数設けてあることを特徴とする。掘削ドリルは、駆動軸を介して地上で保持されており、しかも駆動軸の剛性にも限度があることから、掘削ドリルは、駆動軸の半径方向に容易に変位可能である。そのため柱状改良部の硬さの不均一により、刃具などに作用する反力にも偏りが生じ、やがて掘削ドリルが柱状改良部の中心から大きく変位し、柱状改良部の一部領域を破砕できないことも予想される。これを防ぐため、刃具の先端位置よりも突出した先進軸を設け、それに先導爪を設ける。
【0021】
先進軸は、中心軸の延長に位置しており、中心軸と一体的に形成することもあれば、別途に製造したものを溶接などで中心軸と一体化することもある。さらに先進軸と中心軸は、同径とすることもあれば、先進軸を先細りの円錐状に仕上げ、破砕物の排出を円滑にすることもある。そして先進軸の端面には、実際に地盤を破砕する先導爪を複数設ける。先導爪は、先進軸の端面に配置可能な寸法の棒状または板状で、その根元を先進軸と強固に一体化する。
【0022】
先進軸および先導爪の回転径は、掘削ドリル全体の回転径と比較してはるかに小さい。そのため掘削ドリルの前進時、先進軸および先導爪の周辺で発生する抵抗も小さくなり、柱状改良部の硬さに偏りがあった場合でも、先進軸は、その影響で芯ずれすることなく直進する。その結果、掘削ドリル全体についても、先進軸をガイドとして芯ずれすることなく直進し、掘削ドリルと柱状改良部の双方の中心が常時一致するため、柱状改良部の全体を残すことなく破砕可能である。
【0023】
請求項3記載の発明は、一連の掘削をより円滑化するためのもので、中心軸および先進軸の内部には、先導爪の周囲に流体を噴射するための流路を設けてあることを特徴とする。先導爪や刃具や拡径爪は、柱状改良部などを破砕する際に大きな摩擦が発生し、駆動のためのトルクが増大するほか、発熱によって部品の摩耗や劣化が促進される。そこで、掘削ドリルの先端付近から液体や気体を噴射することで、摩擦や発熱を緩和することが望ましい。なお流路は、原則として中心軸や先進軸の中心に形成するほか、異物が入り込むことを防ぐため、弁などを組み込むこともできる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の発明のように、柱状改良部を破砕する掘削ドリルは、中心軸を取り囲む螺旋状の刃具と、刃具の外周部近傍に取り付ける拡径爪などで構成し、掘削ドリルを埋め込む際は、刃具によって柱状改良部の中心付近を破砕し、掘削ドリルを引き上げる際は、拡径爪によって柱状改良部の外縁側を破砕する。このように柱状改良部を段階的に破砕することで、埋め込み時と引き上げ時のいずれも、掘削ドリルの駆動に必要となるトルクが軽減され、エネルギー消費の削減のほか、騒音や振動の低下が実現する。
【0025】
また拡径爪により、刃具の大きさを抑制できるほか、従来のケーシングなども不要で、用いる機材が少なく、しかも小型化が可能であり、狭隘な場所においても、輸送や据え付けなどを無理なく実施でき、通行障害も回避しやすい。なお本発明では、掘削ドリルの埋め込み時と引き上げ時の二段階に分けて破砕を行うが、従来から、ドリルの埋め込みと引き上げは不可欠であり、作業時間に大きな差は生じない。そのほか拡径爪の揺動は、掘削ドリルの回転と地盤(柱状改良部を含む)との接触だけで実現するため、リンクなどの作動機構は一切不要で、構造や取り扱いが複雑になることもない。
【0026】
請求項2記載の発明のように、中心軸の先端付近には、刃具の先端よりも突出した先進軸を設け、先進軸の端面には、破砕のための先導爪を複数設けることで、掘削ドリルの先端付近では、先進軸と対向する狭い範囲だけを破砕するため、先進軸および先導爪の周辺で発生する抵抗も小さくなり、柱状改良部の硬さに偏りがあった場合でも、先進軸は、その影響で芯ずれすることなく直進する。その結果、掘削ドリル全体についても、先進軸をガイドとして芯ずれすることなく直進し、掘削ドリルと柱状改良部の双方の中心が常時一致するため、柱状改良部の全体を残すことなく破砕可能である。
【0027】
請求項3記載の発明のように、中心軸および先進軸の内部には、先導爪の周囲に流体を噴射するための流路を設け、破砕時に水などを噴射することで、先導爪や刃具や拡径爪の周辺で生じる摩擦や発熱が緩和される。また、掘削ドリルの駆動に必要となるトルクが軽減され、エネルギー消費の削減のほか、騒音や振動の低下も期待できるほか、各部の摩耗が抑制され、長寿命化が実現する。さらに噴射する流体に各種薬剤を添加することで、地中に残留する有害物質を無害化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明による地盤の復元方法の流れを示す図で、図の左側は掘削ドリルが埋め込まれる段階で、図の右側は掘削ドリルが引き上げられる段階である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明による地盤Gの復元方法の流れを示し、地盤Gには柱状改良部Cが形成されている。柱状改良部Cは、一般にソイルセメントコラム工法と呼ばれる技術で形成されたソイルセメントコラムであり、セメント系固化材と既存の土砂類を混ぜ合わせ、円柱状に凝固させたもので、鉄筋や鉄骨などは組み込まれていない。なお柱状改良部Cの外側には、既存の土砂類がそのまま残っている。
【0030】
この柱状改良部Cを破砕するため、掘削ドリル11を用いる。掘削ドリル11は、中心に伸びる丸棒状の中心軸15と、中心軸15の側周面を取り囲む螺旋状の刃具16で構成されるが、刃具16は、三条ネジと同様、同形の三枚を等角度で配置してある。そして刃具16の先端は鋭利に仕上げてあり、そこに円柱状のビット17を一体化してあり、破砕を効率よく行うことができる。ただし刃具16の外周部の直径は、柱状改良部Cの直径よりも小さく、刃具16だけでは柱状改良部Cの破砕を完了することができない。
【0031】
刃具16の外周部近傍には、コの字状のホルダ23を一体化してあり、その中に棒状の拡径爪22が収容されている。拡径爪22の一端側は、ホルダ23に対して揺動自在に取り付けてあり、その揺動範囲は概ね90度である。そのため拡径爪22の他端側は、刃具16の外周部に沿うこともあれば、半径方向に突出することもある。
【0032】
掘削ドリル11の中心軸15の上部は、ジョイント43を介して駆動軸41に接続されている。駆動軸41は、掘削ドリル11を吊り下げるための軸で、駆動軸41の上部は保持具42に差し込んである。そして保持具42には駆動モータ44が組み込まれており、駆動軸41を自在に回転させることができ、さらに保持具42は、各種建設機械(図示は省略)に組み込まれ、上下に移動可能となっており、掘削ドリル11の埋め込みと引き上げを実現している。なおこれらの機材を輸送する際は、ジョイント43で掘削ドリル11と駆動軸41を切り離すほか、保持具42から駆動軸41を抜き取り、占有空間をできるだけ小さくする。
【0033】
中心軸15の先端には、先進軸31が接続されている。この図では、中心軸15と先進軸31が切れ目なく一体化しており、刃具16の先端よりも下方の範囲を先進軸31と称している。さらに先進軸31の端面には、先のビット17と同様、円柱状の先導爪32を溶接で一体化してあり、これが柱状改良部Cの中心を破砕する最前線になる。そして先導爪32で破砕された箇所に先進軸31が嵌まり込むことで、掘削ドリル11の芯ずれが規制される。
【0034】
掘削ドリル11の中心には、トンネル状の流路18が貫通しており、この流路18を用い、先導爪32の近傍に水などの流体Fを噴射することで、破砕時の摩擦や発熱を緩和することができる。そして流体Fは、地上の配管49から供給されるため、駆動軸41の中心にも流路48を形成してあり、駆動軸41の上部には、配管49との接続のため、継手45を組み込んであり、ジョイント43についても内部に流路を確保してある。なお噴射された流体Fは、破砕物の隙間を抜けて刃具16や拡径爪22にも到達し、そこでの摩擦や発熱も緩和される。
【0035】
図1の左側には、掘削ドリル11を埋め込んでいき、柱状改良部Cの中心部を破砕する段階を描いてあり、掘削ドリル11と柱状改良部Cの双方の中心と一致させた後、保持具42によって掘削ドリル11を右回転(正転)させながら、地盤Gに埋め込んでいく。埋め込みの初期段階では、先導爪32だけが柱状改良部Cに接触し、ごく狭い範囲だけが破砕され、そこに先進軸31が嵌まり込むことで掘削ドリル11の芯ずれを防ぎ、その後、刃具16の先端やビット17と接触した範囲が破砕される。なお破砕されて小石状になった柱状改良部Cは、刃具16の上面に載るが、その大半は地上に排出されることなく、地盤G中に残留する。
【0036】
掘削ドリル11を埋め込む際は、周囲との接触により、拡径爪22は周方向に倒伏した状態になる。そのため拡径爪22は、刃具16の外周部から大きく突出することもなく、この段階では破砕に関与しない。ただし、刃具16の先端が柱状改良部Cの最下部を突破した後は、
図1の右側に描くように、これまでとは逆に掘削ドリル11を左回転(逆転)させながら徐々に引き上げていく。その際、拡径爪22が周辺との接触で半径方向に突出し、拡径爪22によって柱状改良部Cの外縁側を破砕していく。突出した拡径爪22の外縁の直径は、柱状改良部Cの直径よりも大きいため、柱状改良部Cを完全に破砕することができる。なお破砕された柱状改良部Cは、小石状になって残留するが、周辺の地盤Gと混ざり合い、原状回復が実現する。
【0037】
図2は、
図1の掘削ドリル11の詳細を示している。中心軸15の上部には、
図1のジョイント43を組み込むため、やや小径のシャンク19を形成してある。また中心軸15のうち、刃具16の先端よりも下の部位を先進軸31と称しており、その端面に三個の先導爪32を取り付けてある。さらに先進軸31の端面の中央には流路18が到達しているが、流路18内への異物の入り込みを防ぐため、弁38を取り付けてある。弁38は、流路18の内圧が上昇した場合に開放されるが、外部の圧力が高まった際は、流路18を閉止する。
【0038】
拡径爪22は棒状で、その対向する側端面のうち一方は、鋭利なクサビ状に仕上げた前面26で、他方の側端面は鋭利ではない背面27としてあり、前面26が刃に相当しており、背面27が峰に相当しており、前面26で地盤Gや柱状改良部Cを破砕する。また刃具16の外周部には、コの字状のホルダ23を一体化してあり、ホルダ23を貫くピン24により、拡径爪22は揺動自在に取り付けられている。加えてホルダ23との関係により、拡径爪22は、刃具16の外周部の後端側に向けて倒伏可能だが、その反対の先端側には倒伏不能である。
【0039】
そのため掘削ドリル11が正転する際は、拡径爪22の背面27が柱状改良部Cなどに接触し、拡径爪22は、刃具16の外周部に沿うように倒伏することから、拡径爪22が柱状改良部Cなどを破砕することはない。対して掘削ドリル11が逆転する際は、拡径爪22の前面26が地盤Gや柱状改良部Cに接触するため、拡径爪22の先端付近が押し出され、ピン24を支点として変位し始めるが、やがて拡径爪22はホルダ23と接触することから、拡径爪22は半径方向に突出した状態を維持する。加えて掘削ドリル11が逆転する際は、拡径爪22の前面26が地盤Gや柱状改良部Cと対向し、これらが破砕されていく。
【符号の説明】
【0040】
11 掘削ドリル
15 中心軸
16 刃具
17 ビット
18 流路
19 シャンク
22 拡径爪
23 ホルダ
24 ピン
26 前面(拡径爪の)
27 背面(拡径爪の)
31 先進軸
32 先導爪
38 弁
41 駆動軸
42 保持具
43 ジョイント
44 駆動モータ
45 継手
48 流路
49 配管
F 流体
C 柱状改良部(ソイルセメントコラム)
G 地盤