(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】砂防堰堤の補強構造及び補強方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/02 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
E02B7/02 B
(21)【出願番号】P 2021138640
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】521380395
【氏名又は名称】金森建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110434
【氏名又は名称】佐藤 勝
(72)【発明者】
【氏名】金 龍虎
(72)【発明者】
【氏名】永野 和範
(72)【発明者】
【氏名】早川 秀輔
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-138581(JP,A)
【文献】特開2014-234684(JP,A)
【文献】特開2019-214904(JP,A)
【文献】特開平09-316895(JP,A)
【文献】特開昭60-246911(JP,A)
【文献】特開昭58-020809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/10
E02B 3/12
E02B 7/00-7/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下流側の表面に差筋を施した既設堰堤と、
前記既設堰堤の下流側に離間して配され、
縦断面が略平行四辺形形状を有するプレキャストブロックを
複数積み重ねて
斜面を呈するように構成されるプレキャスト集合体と、
前記プレキャストブロックから一部が突設される埋め込み鉄筋と、
前記既設堰堤と前記プレキャスト集合体の間に充填される間詰コンクリートを有し、
前記間詰コンクリートは前記既設堰堤からの差筋と、前記プレキャストブロックからの前記埋め込み鉄筋の突設部を埋設するように形成されることを特徴とする砂防堰堤の補強構造。
【請求項2】
前記埋め込み鉄筋は前記プレキャストブロックのそれぞれに設けられることを特徴とする請求項1記載の砂防堰堤の補強構造。
【請求項3】
前記既設堰堤に施される差筋は略L字状であることを特徴とする請求項1記載の砂防堰堤の補強構造。
【請求項4】
前記プレキャスト集合体は前記既設堰堤の下流側に複数層設けられることを特徴とする請求項1記載の砂防堰堤の補強構造。
【請求項5】
縦断面が略平行四辺形形状を有する複数のプレキャストブロックを各プレキャストブロックから埋め込み鉄筋が突設されるように準備し、
既設堰堤の下流側の表面に差筋を施し、
前記既設堰堤の下流側で前記既設堰堤の下流側表面より離間して前記プレキャストブロックを前記既設堰堤側に前記埋め込み鉄筋が突設されるように積み重ね、
前記既設堰堤の下流側表面と前記プレキャストブロックを積み重ねたプレキャスト集合体との間に間詰コンクリートを打設することを特徴とする砂防堰堤の補強方法。
【請求項6】
前記既設堰堤の下流側表面と積み重ねられる前記プレキャスト集合体の間の離間は、50cm乃至1.0mの距離であることを特徴とする請求項
5記載の砂防堰堤の補強方法。
【請求項7】
前記プレキャストブロックの重量は、1.0トン乃至10.0トンの重量を有することを特徴とする請求項
5記載の砂防堰堤の補強方法。
【請求項8】
前記プレキャストブロックの積み重ね作業は複数回に亘って行われ、前記間詰コンクリートの打設作業も複数回に亘って行われることを特徴とする請求項5記載の砂防堰堤の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は山間部の河川に建設された砂防用の既設堰堤の補強構造及び補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本は地形上その多くが山林や山岳部などの区域であり、数多くの河川が比較的に急峻な斜面を流れるという特徴があり、大量の雨などで発生する土石流による被害を防止するために砂防堰堤あるいは砂防ダムが山間部の河川や谷間などの地域に建設されている。最近の温暖化傾向もあり、土石流災害が多発していることから、砂防堰堤は既設のものに対して補強をする必要が生じており、また土石流で一部破損した堰堤も復旧させると同時に強さを増すことが求められる。現行の工法は既設砂防堰堤の補強する箇所に型枠を組んでコンクリートを現地で打設するため、全ての作業を現地で行っている。
【0003】
また、山間部の河川では積雪などの影響や増水などの影響で、堰堤に関する工事が難工事となるという問題もあり、積雪や増水がない期間での工事を望まれており、1つ1つの堰堤の補強工事は短時間であることが望ましい。さらに既設堰堤の補強構造として、既設堰堤の上流側に補強ユニットの集合体を配置する補強構造も知られている(例えば、特開2014-234684号公報参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、山間部に設けられた既設堰堤の補強工事を目的にしているが、堰堤自体が既設であることから、堰堤の上流側には既に土砂が堆積していることが多く、補強ユニットの集合体を既設堰堤の上流側に設置することは容易ではない。すなわち、台風などの大雨の後では、砂防堰堤が機能していれば、上流側には大雨で流れ着いた土砂などが厚く堆積していたり、流木なども流れ着いた状態である。そこに補強ユニットの集合体を配置する場合には、多少の堆積した土砂を取り除く必要があり、砂防堰堤を新設する場合とは大きく施工の条件が異なっている。また、補強ユニットとして現場で調達する石などを現場でユニット内に入れてから積層することも作業に含まれている。
【0006】
そこで本発明は、上述の技術的な課題に鑑み、短時間での補強工事を実現可能とし、既設堰堤の強度を十分に増加させることのできる砂防堰堤の補強構造及び補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る砂防堰堤の補強構造は、下流側の表面に差筋を施した既設堰堤と、前記既設堰堤の下流側に離間して配され、縦断面が略平行四辺形形状を有するプレキャストブロックを複数積み重ねて斜面を呈するように構成されるプレキャスト集合体と、前記プレキャストブロックから一部が突設される埋め込み鉄筋と、前記既設堰堤と前記プレキャスト集合体の間に充填される間詰コンクリートを有し、前記間詰コンクリートは前記既設堰堤からの差筋と、前記プレキャストブロックからの前記埋め込み鉄筋の突設部を埋設するように形成されることを特徴とする。
【0008】
このような構造においては、前記プレキャストブロックを利用することから、現場での施工時間を短くすることができ、埋め込み鉄筋を有するプレキャストブロックを積み重ねて構成されるプレキャスト集合体と差筋を施した既設堰堤の両方を間詰コンクリートにより一体化し、強度を高めることができる。
【0009】
本発明に係る砂防堰堤の補強構造の一例によれば、前記埋め込み鉄筋は前記プレキャストブロックのそれぞれに設けることができ、前記既設堰堤に施される差筋は略L字状とすることができる。
【0010】
また、本発明に係る砂防堰堤の補強方法は、縦断面が略平行四辺形形状を有する複数のプレキャストブロックを各プレキャストブロックから埋め込み鉄筋が突設されるように準備し、既設堰堤の下流側の表面に差筋を施し、前記既設堰堤の下流側で前記既設堰堤の下流側表面より離間して前記プレキャストブロックを前記既設堰堤側に前記埋め込み鉄筋が突設されるように積み重ね、前記既設堰堤の下流側表面と前記プレキャストブロックを積み重ねたプレキャスト集合体との間に間詰コンクリートを打設することを特徴とする。
【0011】
本発明の実施形態の例によれば、前記既設堰堤の下流側表面と積み重ねられる前記プレキャスト集合体の間の離間は、50cm乃至1.0mの距離とすることができ、好ましくは60cm乃至90cm、より好ましくは70cm乃至80cmの距離を有する。また、前記プレキャストブロックの重量は、1.0トン乃至10.0トンの重量を有するものとすることができ、好ましくは2.0トン乃至8.0トンの重量とすることができ、さらに好ましくは3.0トン乃至5.0トンの重量とすることができる。また、前記プレキャストブロックの積み重ね作業は複数回に亘って行われ、前記間詰コンクリートの打設作業も複数回に亘って行うようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強構造を施工した砂防堰堤の一例の概略斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強構造を既設堰堤と共に示す概略断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強構造におけるプレキャスト集合体の一例を示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強方法におけるプレキャスト集合体の他の例を示す斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強構造に使用されるプレキャストブロックの一例の斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強構造に使用されるプレキャストブロックの一例の断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強構造に使用されるプレキャストブロックの変形例の斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強構造に使用されるプレキャストブロックの変形例の断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強方法を示す工程図であり、作業前の砂防堰堤の断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強方法を示す工程図であり、砂防堰堤の下流側表面に差筋を施した工程における断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強方法を示す工程図であり、プレキャスト集合体の一部を施工した状態を示す断面図である。
【
図12】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強方法を示す工程図であり、
図11に示したプレキャスト集合体の一部と既設堰堤の間に間詰コンクリートを打設する工程を示す断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強方法を示す工程図であり、さらにプレキャスト集合体を積層し、追加の間詰コンクリートを打設する工程を示す断面図である。
【
図14】本発明の他の一実施形態の砂防堰堤の補強構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る砂防堰堤の補強構造及び補強方法について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は実施形態の一例としての補強構造を既設堰堤に対して施工した場合の概略斜視図を示しており、山間部の既設堰堤1に対して補強構造10を付加するように施工して補強をしている。既設堰堤1は本堤2、第1副提3、第2副提4、第3副提5を有しており、それぞれ河川6の両側に上流からの土石流を堰き止める目的で、本堤2、第1副提3、第2副提4、第3副提5が段差を伴って建設されている。それぞれ本堤2、及び副提3~5は中央部に水通しが設けられ、その両側の袖部分に下流側で斜めに立ち上がるような斜面が設けられている。各本堤2、及び副提3~5は地形に沿って設けられており、必ずしも左右は対称ではない。
図1では不透過型の既設堰堤1を示すが、本実施形態により補強される既設堰堤は透過型の砂防堰堤であっても良い。
【0015】
このような既設堰堤1の各本堤2、及び副提3、4の袖部表面の下流側には、それぞれ補強構造をなすプレキャスト集合体12L、12R、13L、13R、14L、14Rが設けられており、それぞれ既設堰堤1を補強する。後述するように、プレキャスト集合体12L,12R、13L、13R、14L、14Rは、それぞれ予め他の場所で製造されたプレキャストブロック20を積み上げて構成されており、それぞれの堰堤のサイズに応じて必要な数を積み上げて構成されている。
【0016】
図2は既設の堰堤26に補強構造を加えてなる堰堤の断面図である。既設の堰堤26は、断面台形状の所要のコンクリート材料で構成されている。既設の堰堤26の下流側の斜面には、複数の差筋24が施されている。差筋24はそれぞれL字状の鉄筋であり、既設の堰堤26に対するアンカーとして機能する。差筋24は一例として直径29mm程度であるが、当該補強構造の規模や強度計算の結果などに応じて異なる直径を有することができる。差筋24の直径だけではなく、その数や位置については、補強構造の強度を維持できるのであれば、特に限定されるものではないが、一例としては、対面に配置される個々のプレキャストブロック20の位置に対応して1つ若しくは複数の差筋24を設けることができる。例えば、後述の間詰コンクリートを80cmの厚みに設定する場合には、L字の一辺が80cm、他辺が75cmの差筋24を使用することができ、例えば上下方向に1m間隔で水平方向にも1m間隔で差筋24を配置することができる。差筋24のL字の一辺は一部埋め込まれるが、一例としては間詰コンクリート内に35cm程度突出しそこから下向きに鉄筋が延長されるように差筋24を配することができ、同時に差筋24の一部は既設の堰堤26に45cm程度埋め込まれるように配することができる。差筋24を岩部アンカー用定着材であるセメントカプセルで既設の堰堤26に対して固定させることができるが、その前にチッピングを施して既存堰堤26の表面を剥がし、新しいコンクリートに馴染む面を作っておいて施工することが望ましい。差筋24は既存堰堤26の下流側表面をドリルで穿孔した後に、鉄筋からなるL字の一辺をその孔に挿入し、セメントカプセルで接着させて固定する。差筋24の形状のL字状は一例であり、例えばT字状やJ字状などの他の形状であっても良い。
【0017】
このように既設の堰堤26の下流側表面をチッピングしてアンカー用の差筋24を配置した後、複数のプレキャストブロック20を既設の堰堤26の下流側表面から離間して積み上げる。この実施形態においては、積層されるプレキャストブロック20は
図2に示すように概ね断面が平行四辺形の形状を有しており、その断面上の長辺同士を重ねる場合に、既存堰堤26の下流側表面と対向する面とその反対側の面の1対の傾斜面が形成されることになる。積層されるプレキャストブロック20には、それぞれ埋め込み鉄筋22が突設するように設けられている。埋め込み鉄筋22は予め作成されたプレキャストブロックに一部が埋設されるものであり、矩形なU字状に延長された鉄筋からなる。埋め込み鉄筋22の直径は計算より決定され、具体的には、例えば25mm程度の直径の鉄筋を曲げて一対の平行な延長部を造り、埋め込まれない側の端部は上下方向に連絡させ、その端部同士の延長方向はプレキャストブロック20の断面の平行四辺形の斜面に平行な方向とされる。プレキャストブロック20に埋め込まれる大きさは例えば70cmであり、30cm突出する構造とされる。平行四辺形の斜面に沿った上下方向の連絡部は、例えば35cmの長さとされる。一対の平行な延長部の下側の棒部分から連絡部への立ち上がり角度は例えば101.3度で、上側の棒部分から連絡部への立ち下がり角度は例えば78.7度である。上側の棒部分はプレキャストブロック20の中央部で60cm下がったところから突出するように構成されている。この埋め込み鉄筋22の形状の矩形なU字状は一例であり、例えばI字状、T字状、L字状やJ字状などの他の形状であっても良い。このように間詰コンクリート28の内部で先に説明した差筋24の先端部と埋め込み鉄筋22の上下方向がそれぞれ斜面に平行に連続することで一体化し、強度を強く保つことができる。
【0018】
プレキャストブロック20を積み重ねる数については、概ね既設の堰堤26の高さと同等の高さまで積み上げられる。本実施形態では、その一例として既設の堰堤26の高さが15mである場合には、1つの高さが1.5mのプレキャストブロック20を使用した場合に、10個積層すれば良い。プレキャストブロック20は、全てのブロックが同じ形状とすることでプレキャスト時の作業や現場での施工における作業効率を高めることができるが、一部は山間の形状や既設堰堤の構造などに合わせて異なる形状のプレキャストブロックを積層することも可能である。プレキャストブロック20は既設堰堤の近くで積み上げられて補強構造を構成する。プレキャストブロック20自体は、集合体を形成するために複数個にわたり積み上げられるが、これらプレキャストブロック20は敷設現場近くで作製することが望ましいが、山間の現場から離れた工場内等の場所で予め作成し、完成したプレキャストブロック20を現場に運ぶようにすることもできる。本実施形態の補強構造では、例えば設置や運搬などの現場の条件に応じてプレキャストブロック20の大きさを理想的なサイズに変えて施工することができる。現場では、プレキャスト工場等で完成された各ブロックを既設堰堤の近くのスペースに仮置きし、そこから各プレキャストブロック20を1つずつそれぞれ所定の場所にクレーンなどによって移動させ、当該補強構造のプレキャスト集合体側を完成させる。工場等でプレキャストブロック20を予め作成する場合には、その作成時点は直前である必要はなく、数か月や将来を見越して冬場などの外での建設工事を進め難い時期にまとめて作成したものであっても良い。プレキャストブロック20の重量としては、1.0トン乃至10.0トンの重量のものを使用することができ、作業効率から2.0トン乃至8.0トンの重量のものを使用することができるが、例えば25トンの吊り下げ能力のあるクレーンを使用する場合では、4.0トン程度の重量があるプレキャストブロック20を作成し、現場で積み上げることが望ましい。また、50トンクラスの吊り下げ能力のあるクレーンを使用することで、8.0トンの重量のプレキャストブロック20を積み上げることができる。プレキャストブロック20を作成した場所から作業現場への運搬に、8トン車を利用する場合には、4トンのプレキャストブロックを2つ運べるが、10トン車で2つの5トンのプレキャストブロックを運ぶこともできる。
【0019】
このようなプレキャストブロック20は、現場での施工に際して、既設堰堤の下流側から離間して配置される。すなわち、プレキャストブロック20を積み重ねたプレキャスト集合体は、既設堰堤の下流側斜面に直接設けられるのではなく、隙間を例えば50cm乃至1.0mの距離、好ましくは60cm乃至90cmの距離を離して配置される。本実施形態においては、一例としてプレキャスト集合体と、既設の堰堤26の下流側斜面の距離は約80cmに設定され、その空隙に間詰コンクリート28が充填される。この厚みは、既設の堰堤26から突出している差筋24の突出している部分の長さと、各プレキャストブロック20から突出している埋め込み鉄筋22の突設部分の長さを考慮して、さらに仮に間詰コンクリート28の厚みが厚い場合には、コンクリートを複数回の打設にて形成する際に、工事期間が長くなることになり、そこで80cm或いはそれ以下となるようにプレキャスト集合体と既設の堰堤26の下流面との距離を設定している。
【0020】
プレキャストブロック20の積層と間詰コンクリート28の充填は、最終的な強度と品質を確保するためには、何回かに分けてプレキャストブロック20を積層し、間詰コンクリート28を充填することを繰り返すような工法にすることができる。例えば、間詰コンクリート28はその時点で積みあがっている高さまでの充填が可能であるが、それ以上の充填はできない。典型的な工法としては、1段のプレキャストブロック20を積み上げて、間詰コンクリート28を充填し、2、3日の間を開けて次の1段の施工をする工法が挙げられる。このような工法は、例示であるが、15mの高さで長さが50mの既設堰堤を補強する場合では、10段のプレキャストブロック20が必要となるが、間詰コンクリートの打設を中2日程度の作業予定で進めれば約1か月程度で完成できることになる。
【0021】
図3と
図4はプレキャストブロック20の積層パターンを示す斜視図である。
図3の例では、既設の堰堤30の下流側面32の手前で、1つのプレキャストブロック20の上には1つのプレキャストブロック20が配置されるように積み上げられる。即ち、
図3の積み上げ方法では、ブロックの垂直方向の分割線は連続するものとされ、そこに伸縮目地を設けることができる。
図4は半ピッチ分ずれて次の段のプレキャストブロック20が積層される構造パターンであり、強度上問題が生じなければ、このような積層方法とすることもできる。
【0022】
図5はプレキャストブロックの一例の斜視図であり、
図6はその断面図である。プレキャストブロック20は、上述のように積層されて既設堰堤の補強構造の一部をなす。典型的なプレキャストブロック20の形状は、容易には転倒しない断面平行四辺形の斜柱体形状であり、高さは50cmから1.5m、好ましくは1.0から1.5mの範囲とされ、前述のように、プレキャストブロック20からは矩形なU字状に延長された埋め込み鉄筋24が突設されており、例えば25mmの直径の鉄筋を曲げて一対の平行な延長部を造り、埋め込まれない側の端部は上下方向に連絡させ、その端部同士の延長方向はプレキャストブロック20の断面の平行四辺形の斜面に平行な方向とされている。また、既設堰堤の下流側表面に対向する面は、95~105度、例えば101.3度の角度で立ち上がって補強構造を構成する。
【0023】
図7及び
図8はプレキャストブロックの他の一例の斜視図及び断面図である。この他の例のプレキャストブロック40は、
図5及び
図6と同様に、容易には転倒しない断面平行四辺形の斜柱体形状であり、高さは50cmから1.5m、好ましくは1.0から1.5mの範囲とされ、前述のように、プレキャストブロック40からは矩形なU字状に延長された埋め込み鉄筋44が突設されている。このプレキャストブロック40の上面には位置決め用の凸部42が形成され、下面には凹部43が形成されており、ブロックの積み上げ時にはこれらの凹部43と凸部42を嵌合させることで水平方向の位置を容易に決めることができる。
【0024】
次に
図9乃至
図13を参照しながら、本発明の一実施形態の砂防堰堤の補強方法について説明する。初めに、既設の堰堤50が
図9に示すように設けられているとすると、
図10に示すように、既設の堰堤50の下流側の表面がチッピングされ、その下流側表面に対して複数の穴を既設の堰堤50の下流側の表面から垂直な方向に設ける。このときの穴の深さは一例として45cm程度であり、上下方向で1.0m程度の間隔で設定される。また、水平方向にも1.0m程度の間隔で格子状に設けられる。複数の穴を開けた後、それぞれ穴にL字状の差筋52の一方の側を埋め込み、セメントカプセルで接着させて差筋52を固定する。ここでは既設の堰堤50の下流面の全面をチッピングして穿孔する例を説明しているが、プレキャストブロックの積み上げ度合いに応じて段階的に差筋52を固定するようにすることも可能である。
【0025】
次に、
図11に示すように、既設の堰堤50の下流面から80cm程度離間した位置にプレキャストブロック60を配置する。このプレキャストブロック60は、現場近くで製作され、或いは現場から離れた所要の工場等で型枠などに生コンクリートを入れて製作され、その工場等からトラックなどにより運搬し、当該既設の堰堤50の周囲のスペースに置かれていたものである。所定の場所にプレキャストブロック60を配置するため、プレキャストブロック60はクレーンなどにより吊り下げられて所定に位置に配置される。プレキャストブロック60は、例えば一番下の1段目のプレキャストブロック60を全部並べ、第1段目を配置した後に、
図12に示すように、第1段目の分の間詰コンクリート64を打設することができる。或いは、目地区間毎に積み上げて行くこともでき、例えば50mや60mの長さの堰堤に対して工事を進める場合は、15~20mの区間を1つの目地区間とし、その範囲の作業を繰り返すようにすることもできる。
【0026】
第1段目のプレキャストブロック60を積層した後に間詰コンクリート64を打設し、養生した後でさらに次の段のプレキャストブロック60を積層し、次いで間詰コンクリート64を打設する。このような次段のプレキャストブロック60の積層と間詰コンクリート64の打設を繰り返して、
図13に示すように、砂防堰堤の補強方法を進めることができる。
【0027】
また、プレキャストブロックの積層方法としては、最下部に比較的に高さの低い土台用のプレキャストブロックを先に並べて施工し、最も低いところの強度を短期間で高めて、その後の工事を進めることもできる。比較的に高さの低い土台用のプレキャストブロックの一例としては、通常のプレキャストブロックの半分の高さのもの等を使用することもできる。
【0028】
図14は既設の砂防堰堤26に複数層として2層のプレキャスト集合体を加えてなる既設堰堤の補強構造の断面図である。既設の堰堤26は、断面台形状の所要のコンクリート材料で構成されている。既設の堰堤26の下流側の斜面には、
図2に示した補強構造と同様なプレキャストブロック20が積層された補強構造が最も外側で下流側であり、その最も下流側の補強構造と既設の堰堤26の間に中間のプレキャストブロック70が積層された構造を有する。中間のプレキャストブロック70の下流側と上流側のそれぞれに間詰コンクリート28が打設されている。またプレキャストブロック70は下流側と上流側のそれぞれに突出する埋め込み鉄筋72を埋め込んでいる。本実施形態では、このような複数層のプレキャスト集合体を配置した補強構造とすることができ、より重量的に増加され強固な補強構造を提供できる。
【0029】
上述の実施形態では、プレキャストブロックの第1段目を既設堰堤の底面と同じ位置から積み上げ開始をしているが、既設堰堤の底部よりも深い位置から初段を配置するようにすることもできる。補強構造は、両袖にそれぞれ配するようにすることもできるが、補強構造を地形に合わせて分割したり、部分的に変形させて左右非対称な形状とすることもでき、水を透過する機能を有するブロックを混ぜるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0030】
1 既設堰堤
2 本堤
3、4、5 副提
6 河川
10 補強構造
20、40、60、70 プレキャストブロック
22、44、62、72 埋め込み鉄筋
24、52 差筋
26、30、50 堰堤
28、64 間詰コンクリート
32 下流側面
【要約】
【目的】短時間での補強工事を実現可能とし、既設堰堤の強度を十分に増加させることのできる砂防堰堤の補強構造及び補強方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の砂防堰堤の補強構造は、下流側の表面に差筋を施した既設堰堤と、前記既設堰堤の下流側に離間して配され、複数のプレキャストブロックを積み重ねて構成されるプレキャスト集合体と、前記プレキャストブロックから一部が突設される埋め込み鉄筋と、前記既設堰堤と前記プレキャスト集合体の間に充填される間詰コンクリートを有し、前記間詰コンクリートは前記既設堰堤からの差筋と、前記プレキャストブロックからの前記埋め込み鉄筋の突設部を埋設するように形成されることを特徴とする。
【選択図】
図2