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特許7228309水分散体、この水分散体を含む塗液、この塗液を用いるポリ乳酸フィルムの製造方法及びシート材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】水分散体、この水分散体を含む塗液、この塗液を用いるポリ乳酸フィルムの製造方法及びシート材
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20230216BHJP
   B32B 23/08 20060101ALI20230216BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230216BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20230216BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20230216BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230216BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230216BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230216BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20230216BHJP
   C09D 167/04 20060101ALI20230216BHJP
   C09D 191/06 20060101ALI20230216BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230216BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230216BHJP
   C09J 167/04 20060101ALI20230216BHJP
   C09J 191/06 20060101ALI20230216BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20230216BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
B32B23/08
C08J5/18 CFD
C08L29/04
C08L91/06
C09D5/02
C09D7/63
C09D7/65
C09D129/04
C09D167/04
C09D191/06
C09J11/06
C09J11/08
C09J167/04
C09J191/06
C09K23/52
C08L101/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022544231
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2021040705
(87)【国際公開番号】W WO2022097708
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2020185469
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596000154
【氏名又は名称】中京油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】平松 弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】安倍 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】河村 尚吾
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-176448(JP,A)
【文献】特開2004-168927(JP,A)
【文献】特開昭64-022542(JP,A)
【文献】特表2010-508171(JP,A)
【文献】特開2016-108299(JP,A)
【文献】特開2006-310626(JP,A)
【文献】米国特許第04396673(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/04
C08L 91/06
C08L 29/04
B32B 23/08
C09D 5/02
C09D 167/04
C09D 7/65
C09D 191/06
C09D 7/63
C09D 129/04
C09J 167/04
C09J 11/06
C09J 11/08
C09J 191/06
C08J 5/18
C09K 23/52
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散質として生分解性樹脂とワックスとを含み、該分散質を水系の分散媒に分散してなり、ヒートシールコーティング剤に用いる水分散体であって、
前記生分解性樹脂はポリ乳酸であり、
前記ワックスはカルナバワックスであり、前記ポリ乳酸に対して1~14質量%の前記カルナバワックスが配合されており、ヒートシール剤として120℃でのヒートシール性と、45℃での耐ブロッキング性とを与える、
ここに、前記耐ブロッキング性は紙製基体のヒートシール層同士の耐ブロッキング性及び紙製基体のヒートシール層とその背面の未塗工面との耐ブロッキング性をいう、
水分散体。
【請求項2】
前記カルナバワックスの配合量は2~14質量%である、請求項1に記載の水分散体。
【請求項3】
前記カルナバワックスの配合量は6~14質量%であり、ヒートシール剤として120℃でのヒートシール性と、50℃での耐ブロッキング性とを与える、
ここに、前記耐ブロッキング性は紙製基体のヒートシール層同士の耐ブロッキング性及び紙製基体のヒートシール層とその背面の未塗工面との耐ブロッキング性をいう、
請求項1に記載の水分散体。
【請求項4】
前記カルナバワックスの配合量は6~8質量%であり、ヒートシール剤として110℃でのヒートシール性と、50℃での耐ブロッキング性とを与える、
ここに、前記耐ブロッキング性は紙製基体のヒートシール層同士の耐ブロッキング性及び紙製基体のヒートシール層とその背面の未塗工面との耐ブロッキング性をいう、
請求項1に記載の水分散体。
【請求項5】
前記水分散媒には分散剤として部分ケン化型ポリビニルアルコールが、前記分散質に対して2.0~10.0質量%配合されている、請求項1~4のいずれかに記載の水分散体。
【請求項6】
分散質として生分解性樹脂と可塑剤とワックスとを含み、該分散質を水系の分散媒に分散してなり、ヒートシールコーティング剤に用いる水分散体であって、
前記生分解性樹脂はポリ乳酸であり、
前記可塑剤が、前記ポリ乳酸に対して1~15質量%含まれ、
前記ワックスはカルナバワックスであり、前記ポリ乳酸及び可塑剤の合計に対して1~14質量%の前記カルナバワックスが配合されており、ヒートシール剤として120℃でのヒートシール性と、40℃での耐ブロッキング性とを与える、
ここに、前記耐ブロッキング性は紙製基体のヒートシール層とその背面の未塗工面との耐ブロッキング性をいう、
水分散体。
【請求項7】
前記カルナバワックスの配合量は2~14質量%である、
ここに、前記耐ブロッキング性は紙製基体のヒートシール層同士の耐ブロッキング性及び紙製基体のヒートシール層とその背面の未塗工面との耐ブロッキング性をいう、
請求項6に記載の水分散体。
【請求項8】
前記カルナバワックスの配合量は6~14質量%であり、ヒートシール剤として120℃でのヒートシール性と、50℃での耐ブロッキング性とを与える、
ここに、前記耐ブロッキング性は紙製基体のヒートシール層同士の耐ブロッキング性及び紙製基体のヒートシール層とその背面の未塗工面との耐ブロッキング性をいう、
請求項6に記載の水分散体。
【請求項9】
前記カルナバワックスの配合量は6~10質量%であり、ヒートシール剤として110℃でのヒートシール性と、50℃での耐ブロッキング性とを与える、
ここに、前記耐ブロッキング性は紙製基体のヒートシール層同士の耐ブロッキング性及び紙製基体のヒートシール層とその背面の未塗工面との耐ブロッキング性をいう、
請求項1に記載の水分散体。
【請求項10】
前記水分散媒には分散剤として部分ケン化型ポリビニルアルコールが、前記分散質に対して2.0~10.0質量%配合されている、請求項6~9のいずれかに記載の水分散体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の水分散体を含む、塗液。
【請求項12】
請求項11に記載の塗液を準備するステップと、
該塗液を基体に塗工するステップと、
該塗液を乾燥するステップと、を含む、ポリ乳酸フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸を分散質とする水系分散体の改良に関する。
本発明は、フィルム、紙等にコーティングし、耐ブロッキング性を有するヒートシールコーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品の包装には、袋や容器に加工するために、優れたヒートシール性が求められる。かかる機能は包装材料の基体上にプラスチックフィルムをラミネートすることで満たすものの、昨今のプラスチックによる環境汚染問題のため、包装材料の基体のプラスチックを紙に代替することが提案されている。しかしながら、紙を袋や容器に加工する際には、ヒートシール剤として、ポリエチレンやポリプロピレンが多量に紙基体上にラミネートされて使用される。これらプラスチックのラミネート量は、商品コンセプトによって様々だが、概ね20~50g/mであり、300g/mと多量になる場合もある。従って、プラスチックを紙に代替した包装容器においても、依然としてプラスチックの使用量は十分に低減されないという問題があり、直接的にプラスチックの使用を低減する手段が求められている。
【0003】
そこで、生分解性樹脂水分散体をコーティング、乾燥させることで、ヒートシール層を紙基体上に形成させる検討が進んでいる。生分解性樹脂として、ポリ乳酸を選択した場合、ヒートシール性を発現させる為に、40~60℃のガラス転移点を有するポリ乳酸を使用する必要がある。一般的に、ヒートシール層を紙基体上に形成した後、ロール状に巻き取り、ロール状にして製品として保管される。しかしながら、製品の輸送中や倉庫での保管温度が高温となる夏場に40~50℃に達することで、ヒートシール層とその上に重なった紙基体(ヒートシール層の背面)とがヒートシール(接着)される、いわゆるブロッキングを生じる。
加えて、食品包装用途で用いられる場合、袋状に加工されることから、ヒートシール層同士が接触する。そのため、包装容器へ加工する際や容器として使用される時にもヒートシール層同士のブロッキングが生じるおそれがあるので、そのブロッキング対策が求められてきた。
【0004】
上記のようなロール状態でのブロッキングを防止する方法として、ワックスを添加することが知られている(特許文献1)。特許文献1には、ワックス、ポリオレフィン樹脂からなる耐ブロッキング性を有した水性ヒートシール剤が開示され、特定のワックスの添加によりブロッキングが改良されること、ヒートシール性と耐ブロッキング性が両立できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4615927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記のような課題に対して、耐ブロッキング性が良好であり、しかも優れたヒートシール性を有するポリ乳酸水性分散体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリ乳酸に適したブロッキング防止剤として、カルナバワックスを特定の割合で配合することにより、耐ブロッキング性とヒートシール性の相反する性能を両立できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明の第1の局面は次のように規定される。
分散質として生分解性樹脂とワックスとを含み、該分散質を含む分散質を水系の分散媒に分散してなる水分散体であって、
前記生分解性樹脂はポリ乳酸であり、
前記ワックスはカルナバワックスであり、前記ポリ乳酸に対して1~14質量%の前記カルバナワックスが配合されている、水分散体。
このように規定される第1の局面の水分散体を用いて基体上にフィルムを形成すると、ヒートシール性を確保しつつ優れた耐ブロッキング性が発揮される。
ここに、ポリ乳酸に対するカルバナワックスの配合量が1質量%未満であると、耐ブロッキング性が不十分となる。他方、その配合量が14質量%を超えると、ヒートシール性が低下する。
ポリ乳酸とカルバナワックスとは分散質として、物理的にその全部が分離していてもよいし、又は、全体的に若しくは部分的に連結していてもよい。
【0009】
ポリ乳酸に対するカルバナワックスのより好ましい配合量は2~14質量%である(第2の局面)。この配合割合の水分散体から得られるシートには高い耐水性が得られる。
更に好ましいカルバナワックスの配合量は6~14質量%である(第3の局面)。
かかる範囲の配合量を採用することにより、実用的なヒートシール性を確保しつつ、50℃を超える耐ブロッキング性が得られる。
【0010】
この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち、第1~3のいずれかの局面に規定の水分散体において、前記水分散媒には分散剤として部分ケン化型ポリビニルアルコールが、前記分散質に対して2.0~10.0質量%配合されている。
分散剤として上記配合の部分ケン化ポリビニルアルコールを採用したときに、ヒートシール性と耐ブロッキング性の両立が確認できている。
【0011】
この発明の第5の局面は次のように規定される。
分散質として生分解性樹脂と、可塑剤と、ワックスとを含み、該分散質を水系の分散媒に分散してなる水分散体であって、
前記生分解性樹脂はポリ乳酸であり、
前記可塑剤が、前記ポリ乳酸に対して1~15質量%含まれ、
前記ワックスはカルナバワックスであり、前記ポリ乳酸及び可塑剤の合計に対して1~14質量%の前記カルバナワックスが配合されている、水分散体。
このように規定される第5の局面に規定の水分散体によれば、第1の局面の水分散体と同様に、この水分散体を用いてフィルムを形成すると、ヒートシール性を確保しつつ優れた耐ブロッキング性が発揮される。
分散質としての生分解性樹脂、可塑剤及びワックスは相互に分離していても、又は、全体的に又は部分的に連結していてもよい。
【0012】
ここに、ポリ乳酸及び可塑剤に対するカルバナワックスの配合量が1質量%未満であると、耐ブロッキング性が不十分となる。他方、その配合量が14質量%を超えると、ヒートシール性が低下する。
ポリ乳酸に対する可塑剤の配合量を1~15質量%の範囲に収めることで、水分散体から得られるヒートシール層へ柔軟性を付与できる。可塑剤の配合量が1質量%未満となると、十分な柔軟性を付与できない。他方、可塑剤の配合量が15質量%を超えると、ヒートシール性が低下するので、それぞれ好ましくない。
【0013】
ポリ乳酸に対するカルバナワックスのより好ましい配合量は2~14質量%である(第6の局面)。この配合割合の水分散体から得られるシートには高い耐水性が得られる。
更に好ましいカルバナワックスの配合量は6~14質量%である(第7の局面)。
かかる範囲の配合量を採用することにより、実用的なヒートシール性を確保しつつ、50℃を超える耐ブロッキング性が得られる。
【0014】
この発明の第8の局面は次のように規定される。即ち、第5~7のいずれかの局面に規定の水分散体において、前記水分散媒には分散剤として部分ケン化型ポリビニルアルコールが、前記分散質に対して2.0~10.0質量%配合されている。
分散剤として上記配合の部分ケン化ポリビニルアルコールを採用したときに、ヒートシール性と耐ブロッキング性の両立が確認できている。
【0015】
第1~第8の局面に規定の水分散体はポリ乳酸フィルムを基体上に形成する塗液として利用できる(第9の局面)。
かかる塗液を基体に塗工し、塗液を乾燥することで、基体の表面にポリ乳酸フィルムを形成することができる(第10の局面)。
基体としてセルロース材料製のシート(紙など)を採用することにより、食品包装用等に適したシート材を得ることができる(第11の局面)。セルロース材料からなる基体も含めポリ乳酸もカルナバワックスも生分解性を有しており、堆肥可能な食品包装材料を提供する事ができる。
【0016】
第1~第4の局面に規定の水分散体を用いてシート材に積層されたポリ乳酸フィルムは、ポリ乳酸とカルバナワックスを含み、その配合比は前者に対して後者が1~14質量%である(第12の局面)。
かかる配合のシート材によれば、請求項1と同様な作用が得られる。
シート材におけるポリ乳酸とカルバナワックスとの配合比は2~14質量%とすることが更に好ましい。かかる配合を採用することにより、Cobb吸水度が3.0g/m以下となり、耐水性に優れたものとなる(第13の局面)。
【0017】
シート材におけるポリ乳酸とカルバナワックスの配合比は6~14質量%とすることができる(第14の局面)。
かかる配合を採用することにより、実用的なヒートシール性を維持しつつ高い耐ブロックキング性(50℃以上)を確保できる(第15の局面)。
【0018】
第5~第8の局面に規定の水分散体を用いてシート材に積層されたポリ乳酸フィルムは、ポリ乳酸及び可塑剤とカルバナワックスとを含み、その配合比は前者に対して後者が1~14質量%である(第16の局面)。
かかる配合のシート材によれば、請求項12と同様な作用が得られる。
シート材におけるポリ乳酸及び可塑剤とカルバナワックスとの配合比は2~14質量%とすることが更に好ましい(第17の局面)。かかる配合を採用することにより、Cobb吸水度が3.0g/m以下となり、耐水性に優れたものとなる(第18の局面)。
【0019】
シート材におけるポリ乳酸及び可塑剤とカルバナワックスとの配合比は6~14質量%とすることができる(第19の局面)。
かかる配合を採用することにより、実用的なヒートシール性を維持しつつ高い耐ブロックキング性(50℃以上)を確保できる(第20の局面)。
【0020】
第9の局面で規定の塗液は、また、機能性粒子のコーティング剤としても利用できる。機能性粒子としては農薬や肥料を挙げることができる。かかる機能性粒子をポリ乳酸からなるコーティング剤で被覆することにより、機能性粒子の表面に耐水性を有する生分解性の皮膜を形成することができる。ポリ乳酸に対するカルナバワックスの配合量を調節することにより、ポリ乳酸の加水分解速度を調整ができることから、機能性粒子の成分の徐放速度を調節することができる。
従って、この発明の第21の局面は次のように規定される。
請求項1~8のいずれかに記載の水分散体を準備するステップと、
肥料、農薬その他の機能粒子の表面へ前記水分散体の膜を形成するステップと、
前記水分散体から水を除去するステップと、
を備える徐放性機能粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ヒートシールの主成分として、ポリ乳酸を選択したのは、工業的に実用化が進んでおり、その他の生分解性樹脂と比較し、安価で食品包装用として好ましいためである。尚、紙製基体に積層された生分解性樹脂フィルム層をヒートシール層として適用する場合、L型とD型のポリ乳酸の配合比は6:94~94:6とすることが好ましい。この範囲において優れたヒートシール性が得られる。他方、この範囲を外れると結晶化度と融点が上昇するため、低温でヒートシール性を発揮することが困難となるおそれがある。
また、ポリ乳酸フィルム層は、優れた耐水性および耐油性を有しており、紙製基体に積層することで、耐水紙および耐油紙として活用することができる。
【0022】
カルナバワックスとは、ヤシ科のパーム樹から採取されたカルナバロウを精製した天然系由来のものであり、一般的には高級脂肪酸と高級アルコールからなるワックスエステル80~85質量%、遊離脂肪酸3~4質量%、遊離アルコール10~12質量%および炭化水素1~3部質量%から構成される。この明細書において、上記組成の合成物もカルバナワックスに含まれるものとする。パーム樹由来のカルナバワックスは、食品添加物としても使用されているなど食品安全性が周知されている点でも適している。
カルナバワックスの配合量としては、ポリ乳酸またはポリ乳酸と可塑剤の合計質量に対して、1~14質量%が好ましく、2~14質量%が更に好ましく、6~14質量%が最も好ましい。1質量%未満の場合は、耐ブロッキング性が不十分であり、14質量%を超えると、ヒートシール性が発現しなくなる。
【0023】
可塑剤とは、ポリ乳酸および生分解性樹脂を軟化させる助剤であり、ポリ乳酸から得られるヒートシール層へ柔軟性を付与できる。
可塑剤として次のものが挙げられる。
クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸誘導体、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート等のエーテルエステル誘導体、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート等のグリセリン誘導体、エチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸誘導体、アジピン酸2-(2-メトキシエトキシ)エタノールおよびベンジルアルコールの反応生成物、アジピン酸と1,4-ブタンジオールとの縮合体等のアジピン酸誘導体、アルキルスルホン酸フェニルエステル、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等のポリヒドロキシカルボン酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0024】
可塑剤の配合量はこの水系分散体の用途等に応じて適宜選択されるものであるが、例えば、分散質に対して1~15質量%が好ましく、1~10質量%が更に好ましく、1~5質量%が最も好ましい。配合量が1質量%未満になると、ヒートシール性能の向上が乏しく添加する意味合いが乏しくなり、15質量%を超えると、ヒートシール強度が弱くなるため、実用的ではない。
【0025】
分散質には、上記ポリ乳酸と可塑剤以外に、分散質の改質のために添加する助剤として、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂を配合することができる。
上記において、生分解性樹脂とは、微生物によって完全に消費され自然的副産物のみを生じる材料である。
かかる生分解性樹脂として次のものが挙げられる。
乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類、ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、熱可塑性デンプン、ポリマレート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート、ポリブチレンテレフタレートサクシネート、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリヒドロキシヘキサノエート、ポリエチレンフラノエート等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を併用して用いることができる。
生分解性樹脂の配合量はこの水系分散体の用途等に応じて適宜選択されるものであるが、例えば、ポリ乳酸に対して1.0~50.0質量%とすることができる。
【0026】
分散質には、上記ポリ乳酸と可塑剤以外に、水分散体の経時安定性を向上させるための助剤として、カルボジイミド化合物を配合することができる。
カルボジイミド化合物としては、多価カルボジイミド化合物を用いることが望ましい。更に好ましくは、カルボジイミド変性イソシアネート化合物、カルボジイミド変性イソシアネート化合物のイソシアネート基とシクロヘキシルアミンなどのアミノ基を反応させた誘導体が挙げられる。
カルボジイミド変性イソシアネートとは、イソシアネート化合物の一部をカルボジイミド化させたものであり、カルボジイミド変性イソシアネート化合物としては、次に挙げるイソシアネートをカルボジイミド化したものの重合物を用いることができる。
【0027】
カルボジイミド変性イソシアネートとして次のものが挙げられる。
フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルビフェニレンジイソシアネート、ジメトキシビフェニレンジイソシアネート、テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4’-ジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0028】
多価カルボジイミド化合物を1種又は2種以上を併用して用いることができる。前記分散質における多価カルボジイミド化合物の配合量は、この水系分散体の用途等に応じて適宜選択されるものであるが、例えば、ポリ乳酸に対して0.6~5.5質量%が好ましく、0.6~2.6質量%が最も好ましい。尚、分散質における前記カルボジイミド化合物の配合割合がポリ乳酸に対して質量比で0.6質量%未満となると、ポリ乳酸に対する経時的安定性が十分に発揮されないおそれがある。他方、5.5質量%を超えても使用量に見合う効果は得られず、経済的でなく、それぞれ好ましくない。
【0029】
助剤として次のものが挙げられる。
pH調整剤として、特に限定されないが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、その他の無機塩、アミン類等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、 シュウ酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、塩基性乳酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、アンモニア,メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミンが挙げられる。なお、中和には、1種類の塩基性化合物を単独で用いてもよいし、二種類以上の塩基性化合物を併用してもよい。
pH調整剤を使用することで、ポリ乳酸中の残留酸モノマーおよび、ポリ乳酸が加水分解する際に発生する酸性分解物を中和することができる。酸性物質は加水分解の触媒として作用するため、pH調整剤はポリ乳酸の加水分解抑制に有用である。
助剤の配合量はこの水系分散体の用途等に応じて適宜選択されるものであるが、例えば分散質に対して0.1~1.0質量%とすることができる。
【0030】
生分解性樹脂フィルムの耐油性向上助剤として、スチレン-アクリル共重合体、デンプン、ワックスが挙げられる。
スチレン-アクリル共重合体のスチレン系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-エチルスチレン、α-ブチルスチレン、4-メトキシスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができる。アクリル系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、3-エトキシプロピルアクリレート、3-エトキシブチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル誘導体、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸アリールエステル類およびアクリル酸アラルキルエステル類、ジエチレ ングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンのような多価アルコールのモノアクリル酸エステル類等を挙げることができる。
デンプンとしては、トウモロコシデンプン、ポテトデンプン、タピオカデンプン、酸化デンプン、リン酸デンプン、エーテル化デンプン、ジアルデヒド化デンプン、エステル化デンプン等の変性デンプン等が挙げることができる。
ワックスとしては、天然ワックス、合成ワックス等のワックス類を使用することができる。天然ワックスとしては、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ固体ろう等の植物系天然ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系天然ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系天然ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムワックス等の石油系天然ワックス等が挙げられる。また合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素類、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等の水素化ワックス、12-ヒドロキシステアリン酸、植物油脂及び動物性油脂から得られる高級脂肪酸と高級アルコールから合成されるエステルワックス、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド等が挙げられる。
これらの1種又は2種以上を併用して、ヒートシール性を損ねない範囲で用いることができる。
【0031】
<水系分散媒>
水系分散媒とは、水を主体とした分散媒であり、
この水系分散媒には、分散剤を溶解することができる。
この分散剤は分散質が水中において凝集することを防止するものである。
かかる分散剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、高分子界面活性剤、カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物から、1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0032】
水系分散体から得られた生分解性樹脂フィルムが食品包装用に用いられるとき、好適な分散剤として、ポリビニルアルコールやエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックコポリマーの一種又は混合体を用いることができる。食品安全性が周知されているからである。中でも部分ケン化型ポリビニルアルコールの採用が好ましく、ケン化度は90%以下とすることが好ましい。ケン化度をこの範囲とすることで、ポリビニルアルコールの生分解性を高めることができる。
【0033】
かかる分散剤の配合量は、水系分散体の使用方法、保管条件、得られる生分解性樹脂フィルムの用途等に応じて適宜選択されるものであるが、例えば、分散質に対して2.0~10.0質量%とすることができる。
2.0質量%未満であると、分散質が凝集しやすくなり、10.0質量%を超えるとヒートシール性が低下するため、それぞれ好ましくない。
【0034】
水系分散媒には、上記分散剤に加えて、次の増粘剤を配合することができる。
増粘剤としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉等の澱粉誘導体、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム等の植物ガム、カゼイン、キトサン、キチン等の動物性高分子等、ポリエチレングリコール等のポリアルコキシド系高分子、が挙げられる。
増粘剤の配合量はこの水系分散体の用途等に応じて適宜選択されるものであるが、例えば生分解性樹脂水分散体に対して0.1~1.0質量%とすることができる。
【0035】
<水系分散媒に対する分散質の分散方法>
ポリ乳酸の微粒子を得る方法としては、転相乳化法が好ましく、転相乳化で微粒子を得る場合、大きなせん断力が必要となるため、公知な機械乳化法である、コロイドミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、各種押出機、ニーダールーダー、3軸遊星分散機等の使用が挙げられる。
【0036】
このようにして得られた水系分散体は次のようにして紙製基体の表面に塗工され、そこに生分解性樹脂フィルムを形成する。
水系分散体を紙製基体(日本製紙(株)社製:NPI上質)に塗工量10g/m(乾燥質量)となるようバーコーターを用いて片面塗工し、130℃で60秒間乾燥することでヒートシール層を基体シート上に作製した。尚、コーティング厚み(g/m2)は、コーティング前後の紙基体の重さを量ることで算出した。
【0037】
このようにして得られた紙製基体とポリ乳酸フィルムとの積層体を、フィルムどうしを対向させて、基体側から熱を与えることでフィルムを融解し、ヒートシールをすることができる。
ヒートシールに要する温度および時間は、90~130℃で1~2秒の加熱を行う。
【0038】
農薬や肥料等の機能性粒子の表面へ上記水分散体の被膜を形成し、その後、乾燥して被膜から水を除去することで、機能性粒子の表面を生分解性樹脂膜で被覆することができる。
機能性粒子の表面へ水分散体の被膜を形成する方法は特に限定されないが、例えばスプレー塗布などの周知の方法を採用できる。
水分散体の被膜から水分を除去する方法は、機能性粒子の機能に影響を与えない条件下、任意の方法を採用できる。
【実施例
【0039】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各種の特性については以下の方法によって測定又は評価した。
【0040】
(1)耐ブロッキング性評価
紙製基体のヒートシール層同士(A-A面と称す)を重ね合わせて、10kgf/cmの荷重を掛けた状態で、各保管温度(40、45、50℃)の雰囲気下にて24時間保管した後、その耐ブロッキング性(A-A面)を次の2段階で評価した。
同様にして、ヒートシール層とその背面の未塗工面(A-B面と称す)を重ね合わせて、10kgf/cmの荷重を掛けた状態で、各保管温度(40、45、50℃)の雰囲気下にて24時間保管した後、その耐ブロッキング性(A-B面)を次の2段階で評価した。

〇:上質紙が材破する事なく、剥離する事が出来る。
×:上質紙が材破する程、ブロッキングを生じている。

尚、耐ブロッキング性評価におけるA-A面での評価は、袋状で用いられる食品包装時の耐ブロッキング性を、A-B面での評価は、ロール状での保管時の耐ブロッキング性の効果を示す。
【0041】
(2)ヒートシール性評価
紙製基体のヒートシール層同士をヒートシーラーにより、ヒートシール温度を90、100、110、120、130℃と変更してヒートシールし、ヒートシール温度のみを変更した評価サンプルを作製した。なお、ヒートシール時のプレス圧は0.2MPa、プレス時間は1秒の一定条件を用いた。ヒートシール性評価は、引張試験機にて実施し、下記基準に基づき、ヒートシール性を評価した。なお、引張速度は300mm/min、剥離条件は180度剥離とした。

〇:上質紙が材破する程度の密着力がある。
×:密着力が乏しいため、上質紙が材破せず。
【0042】
(3)耐水性評価
JIS-P8140(1998年)に準じて、コッブ(Cobb)吸水度試験器(商品名:ガーレコブサイズテスター、熊谷理機工業(株)社製)を用いて、紙製基体のヒートシール層の120秒後の吸水度(g/m)を測定した。数値が小さいほど、耐水性に優れることを示す。
【0043】
実施例および比較例で用いたポリ乳酸水性分散体は、下記のようにして作成する。
(4)ポリ乳酸水性分散体Aの作成
ポリ乳酸(トタルコービオン(株)社製PLA LX930 D型乳酸:L型乳酸=10:90)47.2質量部を、ポリビニルアルコール(ケン化度86%、数平均分子量200,000g/mol)2.8質量部を水50質量部に溶解させた水溶液に混合し、一般的な転相乳化法により前者を固体分散質とし、水系分散媒としての後者に分散させて、ポリ乳酸水分散体である50質量%の水分散体Aを得る。その混合配合を表1に示した。
【0044】
(5)可塑剤を配合したポリ乳酸水性分散体Bの作成
ポリ乳酸(トタルコービオン(株)社製PLA LX930 D型乳酸:L型乳酸=10:90)45.0質量部と混基二塩基酸エステル(大八化学工業(株)社製:DAIFATTY-101)2.3質量部を溶融撹拌後、粉砕した粉末を、ポリビニルアルコール(ケン化度86%、数平均分子量200,000g/mol)2.7質量部を水50.0質量部に溶解させた水溶液に混合し、一般的な転相乳化法により前者を固体分散質とし、水系分散媒としての後者に分散させて、可塑剤を含有したポリ乳酸水分散体である50質量%の水分散体Bを得る。その混合配合を表1に示した。なお、表1において、各名称は以下成分を示す。

ポリ乳酸:トタルコービオン(株)社製 Luminy LX930
DAIFATTY-101:大八化学工業(株)社製 混基二塩基酸エステル
【0045】
【表1】
【0046】
種々のワックスを配合し、カルナバワックス以外のワックスでも効果が得られないか確認を行った。尚、実施例および比較例で用いたヒートシール剤は、ポリ乳酸水性分散体Aを用いて、下記のようにして作成した。
【0047】
(6)ヒートシール剤 D-1~ D-6の作成およびそのコーティング層の性能評価
ポリ乳酸水分散体Aに各種ワックス水分散体を、固形分比率でポリ乳酸に対して6質量%となる様に添加して、ヒートシール剤D-2~D-6を作成した。それぞれのヒートシール剤を紙基体にコーティングした後、乾燥してヒートシール層を作成した。それらのヒートシール層の耐ブロッキング性を確認した。それらの配合比率と塗膜性能(耐ブロッキング性とヒートシール性)を確認した結果を表2に併せて示した。なお、表2において、各名称は以下成分を示す。
【0048】
ポリ乳酸:トタルコービオン(株)社製 Luminy LX930
DAIFATTY-101:大八化学工業(株)社製 混基二塩基酸エステル
セロゾール524:中京油脂(株)社製 30質量%カルナバワックスエマルジョン
ハイドリンW-188:中京油脂(株)社製 30質量%パラフィンワックスエマルジョン
ハイドリンJ-538:中京油脂(株)社製 30質量%モンタン酸エステルワックスエマルジョン
ポリロンL-618:中京油脂(株)社製 30質量%ポリエチレンワックスエマルジョン
ハイミクロンL-271:中京油脂(株)社製 25質量%ステアリン酸アマイドエマルジョン
【0049】
【表2】
【0050】
表2の結果から、次のことが分かる。
ポリ乳酸のみの場合(比較例1、ヒートシール剤D-1)、保管温度が45℃以上になると張り付きを生じる。この張り付きは、紙基体が材破する程であった。それに対して、カルナバワックスを配合したヒートシール剤D-2(実施例1)から得られたヒートシール層は、50℃で保管した場合でも優れた耐ブロッキング性を示し、ヒートシール性も有していることが分かる。
比較例2~5(ヒートシール剤D-3~D-6)にて、その他のワックスでも同様にその効果を確認したが、耐ブロッキング性に効果はあるものの、ヒートシール性が発現しなくなる、または、高いヒートシール温度が必要になるなど、耐ブロッキング性とヒートシール性を両立することはないことが分かる。
【0051】
次に、カルナバワックスの配合量の効果を確認した。尚、実施例および比較例で用いたヒートシール剤は、ポリ乳酸水性分散体Aを用いて、下記のようにして作成した。
(6)ヒートシール剤 E-1~ E-9の作成およびそのコーティング層の性能評価
ポリ乳酸水分散体Aにカルナバワックスとして中京油脂(株)社製セロゾール524をそれぞれの配合比率で添加して、ヒートシール剤E-1~E-9を作成した。それぞれのヒートシール剤を紙基体にコーティングした後、乾燥してヒートシール層を作成した。それらのヒートシール層の耐ブロッキング性を確認した。それらの混合配合と塗膜性能(耐ブロッキング性とヒートシール性)を確認した結果を表3に併せて示した。なお、表3において、各名称は以下成分を示す。

ポリ乳酸:トタルコービオン(株)社製 Luminy LX930
セロゾール524:中京油脂(株)社製 30質量%カルナバワックスエマルジョン
【0052】
【表3】
【0053】
表3の結果から次のことが分かる。
実施例2~9および比較例1、6より、ポリ乳酸に対するカルナバワックスの配合量は、1質量%以上、14質量%以下とすることが好ましいことが分かる。ポリ乳酸に対するカルナバワックスの配合量が、1質量%未満の場合、耐ブロッキング性が乏しく、14質量%を超える場合、耐ブロッキング性の向上効果は十分に得られるが、130℃の温度条件下にてヒートシール性が発現せず、加工性が悪いことが分かる。
【0054】
また、実施例2~9および比較例1より、ポリ乳酸に対するカルナバワックスの配合量が2~14質量%の時、Cobb吸水度も3g/m以下となり、比較例1のカルナバワックスを配合しない場合(Cobb吸水度が28.1g/m)と比較して、ヒートシール層へ優れた耐水性もヒートシール性を保ちつつ付与する事が出来ることが分かる。
【0055】
次に、ヒートシール層に柔軟性を付与するために、可塑剤を用いることも出来る。しかしながら、ポリ乳酸単独のガラス転移点は54℃であるが、ポリ乳酸と可塑剤を混合すると、例えば、ポリ乳酸に対して可塑剤(大八化学工業(株)社製 DAYFATTY-101)を5質量%配合した場合44℃、10質量%配合した場合34℃とガラス転移点が低下して行くとともに、ブロッキングが生じる保管温度も低くなることが予想される。そのため、可塑剤をポリ乳酸へ配合した場合でも、カルナバワックスを配合することにより、耐ブロッキング性とヒートシール性を両立出来るか確認した。尚、実施例および比較例で用いたヒートシール剤は、ポリ乳酸水性分散体Bを用いて、下記のようにして作成した。尚、ポリ乳酸水性分散体Bの乾燥固形分のガラス転移点は、44.3℃であった(示差走査熱量測定よりガラス転移点を求めた)。それに対して、ポリ乳酸水性分散体Aの乾燥固形分のガラス転移点は、54.5℃であった。
【0056】
(7)ヒートシール剤 F-1~ F-10の作成およびそのコーティング層の性能評価
ポリ乳酸水分散体Bにカルナバワックスとして中京油脂(株)社製セロゾール524をそれぞれの配合比率で添加して、ヒートシール剤F-2~F-10を作成した。それぞれのヒートシール剤を紙基体にコーティングした後、乾燥してヒートシール層を作成した。それらのヒートシール層の耐ブロッキング性を確認した。それらの混合配合と塗膜性能(耐ブロッキング性とヒートシール性)を確認した結果を表4に併せて示した。なお、表4において、各名称は以下成分を示す。

ポリ乳酸:トタルコービオン(株)社製 Luminy LX930
DAIFATTY-101:大八化学工業(株)社製 混基二塩基酸エステル
セロゾール524:中京油脂(株)社製 30質量%カルナバワックスエマルジョン
【0057】
【表4】
【0058】
表4の結果から次のことが分かる。
比較例1と比較例7より、可塑剤を添加することでブロッキングを生じる温度が45℃から40℃へ低温化していることが分かる。
実施例10~17および比較例7、8より、ポリ乳酸及び可塑剤の合計質量に対するカルナバワックスの配合量は、1質量%以上、14質量%以下とすることが好ましいことが分かる。ポリ乳酸と可塑剤の合計質量に対するカルナバワックスの配合量が、1質量%未満の場合、耐ブロッキング性が乏しい。14質量%を超える場合、耐ブロッキング性の向上効果は十分に得られるが、130℃の温度条件下にてヒートシール性が発現せず、加工性が悪いことが分かる。
【0059】
また、実施例10~17および比較例7より、ポリ乳酸と可塑剤の合計質量に対するカルナバワックスの配合量が2~14質量%の時、Cobb吸水度も3g/m以下となり、比較例6のカルナバワックスを配合しない場合(Cobb吸水度が5.1g/m)と比較して、ヒートシール層へ優れた耐水性もヒートシール性を保ちつつ付与する事が出来ることが分かる。
【0060】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。