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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】揮発抑制部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/04 20060101AFI20230216BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20230216BHJP
   C23C 4/18 20060101ALI20230216BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20230216BHJP
   B32B 15/06 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C23C28/04
C23C4/11
C23C4/18
C01G25/02
B32B15/06 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018189427
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020056091
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 匠司
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 智明
(72)【発明者】
【氏名】丸子 智弘
(72)【発明者】
【氏名】岩本 祐一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 厚
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-201033(JP,A)
【文献】特開2012-121740(JP,A)
【文献】特開2008-121073(JP,A)
【文献】特開平08-092719(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133107(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/030738(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00-30/00
C23C 4/00-6/00
C01G 25/00-25/06
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属系基材と、該金属系基材の表面の一部又は全体の上に形成された第1層及び該第1層の上に形成された第2層を少なくとも有する積層膜とを有し、
前記第1層は、前記金属系基材と前記第2層との密着層であって平均の空孔率が10%未満の緻密な密着層であり、
前記第2層は前記第1層の保護層であって平均の空孔率が10%以上50%以下の多孔質の保護層であり、
前記第1層の平均粒子径が、前記第2層の平均粒子径よりも大きく、
前記積層膜は、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム若しくはイットリウムのいずれかの元素を主成分とする酸化物又はこれらの複合酸化物で形成されていることを特徴とする揮発抑制部品。
【請求項2】
前記第1層の平均粒子径が2μmよりも大きく20μm以下であり、かつ、前記第2層の平均粒子径が0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の揮発抑制部品。
【請求項3】
前記第1層の平均厚さが50μm以上150μm以下であり、かつ、前記第2層の平均厚さが30μm以上65μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の揮発抑制部品。
【請求項4】
前記金属系基材は、基材の厚さを示す垂直断面において、アンカーを有し、該アンカー1つあたりの平均断面積が300μm以上であることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の揮発抑制部品。
【請求項5】
前記垂直断面において、前記第1層の構成粒子が前記アンカーの断面積の85%以上を占めていることを特徴とする請求項に記載の揮発抑制部品。
【請求項6】
前記第1層及び前記第2層は、同一の酸化物を主成分として含有することを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の揮発抑制部品。
【請求項7】
前記金属系基材の材質は、白金、白金合金、イリジウム又はイリジウム合金であることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の揮発抑制部品。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一つに記載の揮発抑制部品を製造する方法であって、
前記金属系基材の表面に、溶射法によって前記第1層を形成する工程と、
前記第1層の表面に液層を形成し、該液層を乾燥固化することを少なくとも1回行って、前記第2層を形成する工程と、を有することを特徴とする揮発抑制部品の製造方法。
【請求項9】
前記第2層を形成する工程において、前記液層として、コロイド溶液層を少なくとも1回形成することを特徴とする請求項に記載の揮発抑制部品の製造方法。
【請求項10】
前記液層を刷毛塗り又はスプレー塗布によって形成することを特徴とする請求項8又は9に記載の揮発抑制部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、揮発抑制部品及びその製造方法に関し、例えば、コーティング層の剥離及び酸素侵入経路となるクラックの伝播が発生しにくい積層膜を有する揮発抑制部品及び生産性を改善する、揮発抑制部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ用ガラス若しくは光学ガラスなどの高品質ガラス又は酸化物単結晶若しくはハロゲン化物単結晶などの各種単結晶の製造は、1200℃以上の高温域で製造されている。これらの製造で使用する耐熱性部品は、通常、金属又は酸化物で形成されている。
【0003】
耐熱性部品を金属で形成した場合には、高温域で酸素が存在する雰囲気下で前記金属が酸化され、酸化劣化及び酸化揮発によって強度が低下して製品寿命が短くなる。
【0004】
揮発抑制防止として、白金族金属からなる高温装置の外表面に、安定化ジルコニアからなるコーティング層を溶射によって形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。ここで、コーティング層の厚さは、50~500μmである。
【0005】
また、酸化物のコロイド粒子を含有するコロイド溶液の塗布、乾燥及び焼成の各工程を経て、耐熱性部品の基体の表面に酸素バリア膜を形成することによって、揮発抑制防止をする方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。ここで、酸素バリア膜の厚さは、20~800nmである。
【0006】
さらに、半導体分野において、イットリア溶射膜と物理気相成長法(PVD)膜とを耐食膜として形成し、腐食防止を図る方法が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-132071号公報
【文献】特開2015-21144号公報
【文献】特開2005-240171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、昇温・降温のサイクルにおいて、耐熱性部品に相当する高温装置の外表面の金属部分とコーティング層の安定化ジルコニアの熱膨張率の違いにより部分的にコーティング層の剥離及びクラックが発生するといった問題がある。ここでブラスト、洗浄及び薬品処理などの表面処理により高温装置の外表面とコーティング層の固着強度を改善することによって、剥離発生の問題は解決できるものの、クラック発生を防止する方法は現時点で存在しない。クラックによって酸素が高温装置の外表面に達することで、高温装置を形成する金属の酸化劣化及び酸化揮発が発生し、酸素バリア層としての効果が不十分となる。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、酸素バリア膜は、多孔質な膜のため、容易に酸素が侵入し、酸化揮発を抑制するには不十分である。さらに、酸素バリア膜は、多孔質な膜のため、基体との接触面積が小さく、基体の表面と酸素バリア膜の間で容易にクラックが発生し、酸素バリア膜が剥離しやすい。多孔性及び剥離によって酸素が基体の表面に達することで、基体の表面を形成する金属の酸化劣化及び酸化揮発が発生し、酸素バリア膜としての効果が不十分となる。
【0010】
上記課題を解決するには極力緻密な膜を作製しなければならない。この膜を作製する手段として、特許文献3に記載の溶射膜とPVD膜との多重層の形成技術があるが、製造コストが高く、大型製品及び特殊形状への膜作製が困難であり、製造の観点より採用が困難である。このように、コーティング層のクラック及び剥離の防止、該クラック及び剥離に伴う酸化揮発の防止、高い生産性などの課題をすべて解決する手段がなかった。
【0011】
そこで本開示は、コーティング層の剥離及び酸素侵入経路となるクラックの伝播が発生しにくい揮発抑制部品及び生産性を改善した、揮発抑制部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、密着層と保護層の積層膜を形成し、使用時において、保護層が密着層からのクラックの伝播を防止することで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明に係る揮発抑制部品は、金属系基材と、該金属系基材の表面の一部又は全体の上に形成された第1層及び該第1層の上に形成された第2層を少なくとも有する積層膜とを有し、前記第1層は、前記金属系基材と前記第2層との密着層であって平均の空孔率が10%未満の緻密な密着層であり、前記第2層は前記第1層の保護層であって平均の空孔率が10%以上50%以下の多孔質の保護層であり、前記第1層の平均粒子径が、前記第2層の平均粒子径よりも大きく、前記積層膜は、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム若しくはイットリウムのいずれかの元素を主成分とする酸化物又はこれらの複合酸化物で形成されていることを特徴とする。積層膜において、酸素侵入経路が発生しにくくなる。金属系基材と第1層との密着性がさらに向上し、第1層にて生じたクラックが第2層に伝播しにくくなり、第1層の変形が抑制される。また、金属系基材を形成する金属の酸化劣化及び酸化揮発をより抑制することができる。
【0017】
本発明に係る揮発抑制部品では、前記第1層の平均粒子径が2μmよりも大きく20μm以下であり、かつ、前記第2層の平均粒子径が0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。金属系基材と第1層との密着性がさらに向上し、第1層にて生じたクラックが第2層にさらに伝播しにくくなり、第1層の変形がさらに抑制される。
【0018】
本発明に係る揮発抑制部品では、前記第1層の平均厚さが50μm以上150μm以下であり、かつ、前記第2層の平均厚さが30μm以上65μm以下であることが好ましい。積層膜による酸素バリア性が確保され、かつクラック発生数が低減する。
【0019】
本発明に係る揮発抑制部品では、前記金属系基材は、基材の厚さを示す垂直断面において、アンカーを有し、該アンカー1つあたりの平均断面積が300μm以上であることが好ましい。ここでアンカーとは、金属系基材の外表面に形成された凹部のことである。金属系基材のアンカーにコーティング粒子が入り込むことによって、第1層と金属系基材との固着強度が向上する。
【0020】
本発明に係る揮発抑制部品では、前記垂直断面において、前記第1層の構成粒子が前記アンカーの断面積の85%以上を占めていることが好ましい。第1層と金属系基材との固着強度が向上する。
【0022】
本発明に係る揮発抑制部品では、前記第1層及び前記第2層は、同一の酸化物を主成分として含有することが好ましい。第1層及び第2層の熱膨張率が近似となり、クラックの発生や剥離をより抑制することができる。
【0023】
本発明に係る揮発抑制部品では、前記金属系基材の材質は、白金、白金合金、イリジウム又はイリジウム合金であることが好ましい。目的とする製造物の純度及び品質に応じて、金属系基材の材質を選定できる。
【0024】
本発明に係る揮発抑制部品の製造方法は、本発明に係る前記揮発抑制部品を製造する方法であって、前記金属系基材の表面に、溶射法によって前記第1層を形成する工程と、前記第1層の表面に液層を形成し、該液層を乾燥固化することを少なくとも1回行って、前記第2層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0025】
本発明に係る揮発抑制部品の製造方法では、前記第2層を形成する工程において、前記液層として、コロイド溶液層を少なくとも1回形成することが好ましい。製造コストが非常に安価となり、各種形状へと容易に塗布できて、多孔質な保護層である第2層が得られる。
【0026】
本発明に係る揮発抑制部品の製造方法では、前記液層を刷毛塗り又はスプレー塗布によって形成することが好ましい。第1層におけるクラック発生数が低減する。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、コーティング層の剥離及び酸素侵入経路となるクラックの伝播が発生しにくい積層膜を有する揮発抑制部品を提供することができる。また、本開示によれば、生産性を改善した、揮発抑制部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る揮発抑制部品の断面構造の一例を示す断面概略図である。
図2図1における界面領域Bの拡大図である。
図3】界面領域Bにおけるアンカーと、アンカーに入り込んだ第1層とを示す説明図であり、(a)は、第1層がアンカーに入り込んだ状態を示す概略図であり、(b)は、アンカーに入り込んだ第1層の領域を示す説明図であり、(c)は、アンカーの領域を示す説明図である。
図4】本発明に係る揮発抑制部品の使用前における断面構造の一例を示す断面概略図である。
図5】本発明に係る揮発抑制部品の使用後における断面構造の一例を示す断面概略図である。
図6】本実施例に係る揮発抑制部品における各領域を示す上面概略図である。
図7】実施例1で得た揮発抑制部品の引張試験前の表面のマイクロスコープ画像である。
図8】実施例1で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験前の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図9】実施例1で得た揮発抑制部品の引張試験後の表面のマイクロスコープ画像である。
図10】実施例1で得た揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図11】実施例1で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図12】実施例2で得た揮発抑制部品の引張試験前の表面のマイクロスコープ画像である。
図13】実施例2で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験前の断面のSEM画像である。
図14】実施例2で得た揮発抑制部品の引張試験後の表面のマイクロスコープ画像である。
図15】実施例2で得た揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図16】実施例2で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図17】比較例1で得た揮発抑制部品の引張試験前の表面のマイクロスコープ画像である。
図18】比較例1で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験前の断面のSEM画像である。
図19】比較例1で得た揮発抑制部品の引張試験後の表面のマイクロスコープ画像である。
図20】比較例1で得た揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図21】比較例1で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図22】比較例2で得た揮発抑制部品の引張試験前の表面のマイクロスコープ画像である。
図23】比較例2で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験前の断面のSEM画像である。
図24】比較例2で得た揮発抑制部品の引張試験後の表面のマイクロスコープ画像である。
図25】比較例2で得た揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図26】比較例2で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図27】比較例3で得た揮発抑制部品の引張試験前の表面のマイクロスコープ画像である。
図28】比較例3で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験前の断面のSEM画像である。
図29】比較例3で得た揮発抑制部品の引張試験後の表面のマイクロスコープ画像である。
図30】比較例3で得た揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図31】比較例3で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した引張試験後の断面のSEM画像である。
図32】揮発試験の累積時間に対する揮発率及び平均揮発速度の関係を示すグラフである(実施例3、比較例4~比較例6)。
図33】実施例4で得た揮発抑制部品の表面のマイクロスコープ画像である。
図34】実施例4で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した断面のSEM画像である。
図35】比較例7で得た揮発抑制部品の表面のマイクロスコープ画像である。
図36】比較例7で得た揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した断面のSEM画像である。
図37】揮発試験の累積時間に対する揮発率及び平均揮発速度の関係を示すグラフである(実施例4、比較例7~比較例8)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0030】
図1は、本発明に係る揮発抑制部品の断面構造の一例を示す断面概略図である。本実施形態に係る揮発抑制部品100は、金属系基材101と、金属系基材101の表面の一部又は全体の上に形成された第1層102及び第1層102の上に形成された第2層103を少なくとも有する積層膜104とを有し、第1層102は、金属系基材101と第2層103との密着層であり、第2層103は第1層102の保護層である。
【0031】
金属系基材101は、ルツボ、容器、ガラス製造用炉で使用される攪拌部品又はガラス製造用炉の付帯冶具の形状を有してもよく、使用時において、金属系基材101の表面の一部又は全体が酸素に曝されて、酸化劣化及び酸化揮発することがある。
【0032】
金属系基材101の材質は、白金、白金合金、イリジウム又はイリジウム合金であることが好ましい。目的とする製造物の純度及び品質に応じて、金属系基材101の材質を選定できる。本実施形態は、金属系基材101の形状及び用途に限定されない。
【0033】
金属系基材101の材質が、白金合金又はイリジウム合金である形態は、各金属元素に酸化物又は窒化物を分散させた分散強化型合金であってもよい。各金属元素は、純度99.9%以上の純白金又は純度99.9%以上の純イリジウムである。酸化物は、例えば、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムである。窒化物は、例えば、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムである。酸化物又は窒化物は、1種だけ使用するか又は2種以上を併用してもよい。分散強化型合金は、例えば、純度99.9%以上の純白金に酸化物を分散させた分散強化型合金、純度99.9%以上の純白金に窒化物を分散させた分散強化型合金、純度99.9%以上の純イリジウムに酸化物を分散させた分散強化型合金又は純度99.9%以上の純イリジウムに窒化物を分散させた分散強化型合金である。
【0034】
あるいは、金属系基材101の材質が、白金合金又はイリジウム合金である形態は、白金を主成分とする二元以上の合金、例えば二元合金若しくは三元合金、又はイリジウムを主成分とする二元以上の合金、例えば二元合金若しくは三元合金であってもよい。本明細書において、白金を主成分とするとは、合金を構成する金属成分のうち白金の含有量(質量%)が最も多いことをいい、より好ましくは合金中の白金の含有量が50質量%以上である。本明細書では、白金を主成分とする合金を「Pt-M(「「M」は先頭に記載の元素(この場合はPt)以外の金属を示す。)」と表記することもある。また、イリジウムを主成分とする場合についても同様である。合金の好ましい具体例としては、Pt-Ir、Pt-Rh、Pt-Ru、Pt-Re、Pt-Mo、Pt-W、Pt-Pd、Pt-Au、Pt-Ir-Rh、Pt-Rh-Pd、Ir-Pt、Ir-Rh、Ir-Ru、Ir-Re、Ir-Mo、Ir-W、Ir-Pd、Ir-Zr、Ir-Hf、Ir-Pt-Pd、Ir-Rh-Pd、Ir-Pt-Au、Ir-Rh-Au、Ir-Re-Zrである。また、各合金に酸化物又は窒化物を分散させた分散強化型合金であってもよい。
【0035】
金属系基材101の厚さは、特に限定されないが、0.1~10mmであることが好ましく、0.3~5mmであることがより好ましい。
【0036】
図2は、図1における界面領域Bの拡大図である。本実施形態に係る揮発抑制部品100では、金属系基材101は、基材の厚さを示す垂直断面において、アンカー106を有し、アンカー1つあたりの平均断面積が300μm以上であることが好ましく、300μm~1000μmであることがより好ましく、300μm~800μmであることがさらに好ましい。300μm未満であると、第1層102と金属系基材101との固着強度が低下する可能性がある。ここでアンカー106とは、金属系基材101の表面に形成された凹部のことである。アンカー106により、金属系基材101は、外表面が粗くなり、金属系基材101のアンカー106にコーティング粒子が入り込むことによって、第1層102と金属系基材101との固着強度が向上する。アンカー1つあたりの平均断面積は、アンカー106の顕微鏡画像の解析によって計測されてもよい。
【0037】
第1層102は、金属系基材101の表面の一部又は全体の上に形成される。第1層102が金属系基材101の表面の一部に形成される形態は、例えば、高温となりやすく酸化劣化及び酸化揮発が懸念される部分だけを覆う形態である。金属系基材101がルツボ又は容器である場合は、第1層102は、ルツボ又は容器の外表面の一部又は全体に形成されることが好ましい。また、第1層102は、ルツボ又は容器の外表面に加えて、ルツボ又は容器の内表面であって外気が触れる部分に設けてもよい。ルツボ又は容器の内表面であって外気が触れる部分は、例えば、ルツボ又は容器の内表面のうち目的とする製造物又はその原料に接しない部分、ルツボ又は容器の内表面のうち開口部の近傍である。
【0038】
第1層102は、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム若しくはイットリウムのいずれかの元素を主成分とする酸化物又はこれらの複合酸化物で形成されてもよい。本明細書において、ジルコニウムを主成分とするとは、酸化物を構成する金属成分のうちジルコニウムの含有量(質量%)が最も多いことをいい、より好ましくは酸化物中のジルコニウムの含有量が50質量%以上である。シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム若しくはイットリウムのいずれかの元素を主成分とする場合についても同様である。また、複合酸化物は、固溶体を形成していてもよい。これらの酸化物は、耐熱性が高いため、金属系基材101の外表面と外気との接触を効率的に抑制して、金属系基材101を形成する金属の酸化劣化及び酸化揮発をより抑制することができる。第1層102のより好ましい形態としては、酸化物がジルコニアである形態、酸化物がジルコニアに対してイットリア、マグネシア、カルシア、ハフニアからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を安定化剤として3~20質量%含有する安定化ジルコニアである形態である。
【0039】
第1層102の平均粒子径は、2μmよりも大きく20μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。2μm以下であると、第1層102の高温での粒子間の辷りにより、剥離しやすくなる可能性がある。また、20μmを超えると、アンカー106に入り込みにくくなり、金属系基材101と第1層102との密着性が悪くなる可能性がある。平均粒子径は、線分法によって計測されてもよい。
【0040】
図3は、界面領域Bにおけるアンカーと、アンカー106に入り込んだ第1層102とを示す説明図である。垂直断面において、アンカー106の領域S1は、図3(c)に示すように、金属系基材101の表面補助線107と、アンカー106とで囲まれた部分である。アンカー106に入り込んだ第1層102の領域S2は、図3(b)に示すように、金属系基材101の表面補助線107と、第1層102の入り込み曲線部105とで囲まれた部分である。アンカー106に入り込んだ第1層102の領域S2のアンカー106の領域S1に対する面積の割合(S2/S1)が85%~100%であることが好ましく、90%~100%であることがより好ましい。85%未満であると、第1層102と金属系基材101との固着強度が低下する可能性がある。第1層102の構成粒子がアンカー106に入り込んで固着して、鉤の作用を果たすことにより、第1層102と金属系基材101との固着強度が向上する。
【0041】
第1層102の平均の空孔率は、10%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましい。平均の空孔率は、低ければ低いほど好ましい。10%以上であると、アンカー106の金属系基材101の表面補助線107の部分でクラックが発生しやすくなり、金属系基材101と第1層102との密着性が悪くなる可能性がある。平均の空孔率は、第1層102の断面の顕微鏡画像の解析によって計測されてもよい。
【0042】
第1層102の平均厚さは、50μm以上150μm以下であることが好ましく、50μm以上100μm以下であることがより好ましい。50μm未満であると、酸素バリア性が不足する可能性がある。また、150μmを超えると、柔軟性が悪くなり、金属系基材101の材質と第1層102の材質との熱膨張差によるクラックが生じやすくなる可能性がある。平均厚さは、第1層102の断面の顕微鏡画像の解析によって計測されてもよい。
【0043】
第1層102は、金属系基材101を被覆するための密着層であり、金属系基材101と第1層102とが密着することによって、剥離が困難となり、剥離により金属部分が露出した金属系基材101に生じる酸化劣化及び酸化揮発を防止する。
【0044】
第2層103は、第1層102の上に積層して形成され、好ましくは、第1層102の全体の上に積層して形成される。全体の上に積層することにより、第1層102をさらに保護することができる。
【0045】
第2層103は、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム若しくはイットリウムのいずれかの元素を主成分とする酸化物又はこれらの複合酸化物で形成されてもよい。本明細書において、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム若しくはイットリウムのいずれかの元素を主成分とするとは、第1層の場合と同様である。複合酸化物は、固溶体を形成していてもよい。これらの酸化物は、耐熱性が高いため、第1層102と共に金属系基材101の外表面と外気との接触を効率的に抑制して金属系基材101を形成する金属の酸化劣化及び酸化揮発をさらに抑制することができる。第2層103のより好ましい形態としては、第1層102のより好ましい形態と同様である。
【0046】
第2層103の平均粒子径は、0.5μm以上2μm以下であることが好ましく、0.5μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。2μmを超えると、第2層103の高温時での粒子間の辷りが悪くなって、第1層102にて生じたクラックが第2層103に伝播しやすくなり、また第1層102に応力が掛かり変形しやすくなって、第1層102にクラックが生じやすくなる可能性がある。平均粒子径は、線分法によって計測されてもよい。
【0047】
第2層103の平均の空孔率は、10%以上50%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましい。10%未満であると、第2層103の柔軟性が不足して、第1層102にて生じたクラックが第2層103に伝播しやすくなる可能性がある。また、50%を超えると、酸素バリア性が悪くなる可能性がある。平均の空孔率は、第2層103の断面の顕微鏡画像の解析によって計測されてもよい。
【0048】
第2層103の平均厚さは、30μm以上65μm以下であることが好ましく、35μm以上55μm以下であることがより好ましい。30μm未満であると、酸素バリア性が低下する場合がある。また、65μmを超えると、柔軟性が不足して、第1層102にて生じたクラックが第2層103に伝播しやすくなる場合がある。平均厚さは、第2層103の断面の顕微鏡画像から測定してもよい。
【0049】
図4は、本発明に係る揮発抑制部品の使用前における断面構造の一例を示す断面概略図である。図5は、本発明に係る揮発抑制部品の使用後における断面構造の一例を示す断面概略図である。第2層103は、第1層102で生じた、金属系基材101に対して略垂直方向のクラックの伝播を第2層103自体の柔軟性によって抑制する保護層である。揮発抑制部品100を使用することにより、揮発抑制部品100が膨張し、収縮する。使用後、金属系基材101に対して略垂直方向のクラックが、第1層102で生じる。そのうち貫通クラック108のように、一部のクラックが積層膜104の表面まで伝播するが、封孔クラック109のように、クラックが生じたとしても、第2層103が封孔して、クラックが積層膜104の表面まで伝播することを防ぐ。
【0050】
積層膜104は、第1層102及び第2層103を少なくとも有する。本発明の目的とする効果を損ねない範囲で、第2層103の上に、1つ又は複数のコーティング層が設けられてもよい。1つ又は複数のコーティング層が設けられる形態は、例えば、主成分とする元素が、第1層102及び第2層103の主成分とする元素と同一であり、かつ平均の空孔率又は平均粒子径が、第1層102及び第2層103の平均の空孔率又は平均粒子径と異なる第3層が設けられた形態、主成分とする元素が、第1層102及び第2層103の主成分とする元素と異なる金属元素である第3層が設けられた形態である。本明細書において、主成分とする元素とは、各層において、酸化物を構成する金属成分の元素のうち含有量(質量%)が最も多い元素をいい、より好ましくは酸化物中の含有量が50質量%以上の元素である。
【0051】
本実施形態に係る揮発抑制部品100では、第1層102は、金属系基材101と第2層103との密着層であり、第2層103は第1層102の保護層である。金属系基材の上に上記保護層を設け、さらに保護層の上に上記密着層を設けて積層の上下関係を逆にした形態では、金属系基材と保護層との界面での剥離が生じやすくなる。
【0052】
本実施形態に係る揮発抑制部品100では、第1層102が第2層103よりも緻密であることが好ましい。積層膜104において、酸素侵入経路が発生しにくくなる。ここで緻密とは、平均の空孔率が低いことを意味する。第1層102の平均の空孔率が、第2層103の平均の空孔率よりも大きいと、第2層103よりも酸素が容易に侵入しやすい第1層102の上に、第1層102よりもクラックが生じやすい第2層103が積層する構造となるため、積層膜104において、酸素侵入経路が発生しやすくなる可能性がある。第1層102の平均の空孔率が、第2層103の平均の空孔率と同じであると、第1層102と第2層103との層間が連続になることにより、第1層102に生じたクラックが第2層103に伝播しやすくなる可能性がある。
【0053】
本実施形態に係る揮発抑制部品100では、第1層102は平均の空孔率が10%未満の緻密な密着層であり、かつ、第2層103は平均の空孔率が10%以上50%以下の多孔質の保護層であることが好ましい。第1層102の構成粒子が金属系基材101のアンカー106に緻密な状態で入り込むことにより、金属系基材101と第1層102との密着性がさらに向上し、第1層102と第2層103との層間が不連続であり、かつ多孔質の第2層103が柔軟性を有することにより、第1層102に生じたクラックが第2層103にさらに伝播しにくくなる。
【0054】
本実施形態に係る揮発抑制部品100では、第1層102の平均粒子径が、第2層103の平均粒子径よりも大きいことが好ましい。第2層103の構成粒子の高温での粒子間の辷りが良くなって、第1層102に生じたクラックが第2層103に伝播しにくくなる。また、第1層102の変形が抑制されて、第1層102におけるクラック発生数も低減できる。第1層102の平均粒子径が、第2層103の平均粒子径よりも小さいと、第1層102は第2層103よりも多孔質な層となり、密着層としての機能が低減し、第1層102が剥離しやすくなる可能性がある。第1層102の平均粒子径が、第2層103の平均粒径と同じであると、第1層102の変形が抑制されにくくなる可能性がある。
【0055】
本実施形態に係る揮発抑制部品100では、第1層102の平均粒子径が2μmよりも大きく20μm以下であり、かつ、第2層103の平均粒子径が0.5μm以上2μm以下であることが好ましい。第1層102の構成粒子がアンカー106にさらに入り込みやすくなり、金属系基材101と第1層102との密着性がさらに向上し、第2層103の構成粒子の高温での粒子間の辷りが良くなって、第1層102に生じたクラックがさらに伝播しにくくなり、第1層102の変形がさらに抑制されて、第1層102におけるクラック発生数もさらに低減できる。
【0056】
本実施形態に係る揮発抑制部品100では、第1層102の平均厚さが50μm以上150μm以下であり、かつ、第2層103の平均厚さが30μm以上65μm以下であることが好ましい。積層膜104による酸素バリア性が確保され、かつ積層膜104自体の柔軟性の不足により生じるクラック発生数が低減する。
【0057】
積層膜104の好ましい形態としては、第1層102及び第2層103の主成分として含有する酸化物の組合せ((第1層102の主成分として含有する酸化物/第2層103の主成分として含有する酸化物)と表記する)において、第1層102がジルコニア、シリカ、アルミナ、ハフニア、カルシア、マグネシア、ベリリア、トリア、イットリアから選択され、第2層103がジルコニア、シリカ、アルミナ、ハフニア、カルシア、マグネシア、ベリリア、トリア、イットリアから選択された形態、すなわち(ジルコニア/ジルコニア)、(ジルコニア/シリカ)、(ジルコニア/アルミナ)、(ジルコニア/ハフニア)、(ジルコニア/カルシア)、(ジルコニア/マグネシア)、(ジルコニア/ベリリア)、(ジルコニア/トリア)、(ジルコニア/イットリア)、(シリカ/ジルコニア)、(シリカ/シリカ)、(シリカ/アルミナ)、(シリカ/ハフニア)、(シリカ/カルシア)、(シリカ/マグネシア)、(シリカ/ベリリア)、(シリカ/トリア)、(シリカ/イットリア)、(アルミナ/ジルコニア)、(アルミナ/シリカ)、(アルミナ/アルミナ)、(アルミナ/ハフニア)、(アルミナ/カルシア)、(アルミナ/マグネシア)、(アルミナ/ベリリア)、(アルミナ/トリア)、(アルミナ/イットリア)、(ハフニア/ジルコニア)、(ハフニア/シリカ)、(ハフニア/アルミナ)、(ハフニア/ハフニア)、(ハフニア/カルシア)、(ハフニア/マグネシア)、(ハフニア/ベリリア)、(ハフニア/トリア)、(ハフニア/イットリア)、(カルシア/ジルコニア)、(カルシア/シリカ)、(カルシア/アルミナ)、(カルシア/ハフニア)、(カルシア/カルシア)、(カルシア/マグネシア)、(カルシア/ベリリア)、(カルシア/トリア)、(カルシア/イットリア)、(マグネシア/ジルコニア)、(マグネシア/シリカ)、(マグネシア/アルミナ)、(マグネシア/ハフニア)、(マグネシア/カルシア)、(マグネシア/マグネシア)、(マグネシア/ベリリア)、(マグネシア/トリア)、(マグネシア/イットリア)、(ベリリア/ジルコニア)、(ベリリア/シリカ)、(ベリリア/アルミナ)、(ベリリア/ハフニア)、(ベリリア/カルシア)、(ベリリア/マグネシア)、(ベリリア/ベリリア)、(ベリリア/トリア)、(ベリリア/イットリア)、(トリア/ジルコニア)、(トリア/シリカ)、(トリア/アルミナ)、(トリア/ハフニア)、(トリア/カルシア)、(トリア/マグネシア)、(トリア/ベリリア)、(トリア/トリア)、(トリア/イットリア)、(イットリア/ジルコニア)、(イットリア/シリカ)、(イットリア/アルミナ)、(イットリア/ハフニア)、(イットリア/カルシア)、(イットリア/マグネシア)、(イットリア/ベリリア)、(イットリア/トリア)及び(イットリア/イットリア)である。本明細書において、主成分として含有する酸化物とは、第1層102及び第2層103の各層を構成する酸化物成分のうち含有量(質量%)が最も多い酸化物をいい、より好ましくは第1層102及び第2層103の各層を構成する酸化物成分のうち含有量が50質量%以上である酸化物である。また、ジルコニアが例えばイットリア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、カルシア安定化ジルコニア、ハフニア安定化ジルコニアである形態、すなわち(イットリア安定化ジルコニア/イットリア安定化ジルコニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/イットリア安定化ジルコニア)、(カルシア安定化ジルコニア/イットリア安定化ジルコニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/イットリア安定化ジルコニア)、(イットリア安定化ジルコニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(カルシア安定化ジルコニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(イットリア安定化ジルコニア/カルシア安定化ジルコニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/カルシア安定化ジルコニア)、(カルシア安定化ジルコニア/カルシア安定化ジルコニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/カルシア安定化ジルコニア)、(イットリア安定化ジルコニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(カルシア安定化ジルコニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(イットリア安定化ジルコニア/ジルコニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/ジルコニア)、(カルシア安定化ジルコニア/ジルコニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/ジルコニア)、(イットリア安定化ジルコニア/シリカ)、(マグネシア安定化ジルコニア/シリカ)、(カルシア安定化ジルコニア/シリカ)、(ハフニア安定化ジルコニア/シリカ)、(イットリア安定化ジルコニア/アルミナ)、(マグネシア安定化ジルコニア/アルミナ)、(カルシア安定化ジルコニア/アルミナ)、(ハフニア安定化ジルコニア/アルミナ)、(イットリア安定化ジルコニア/ハフニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/ハフニア)、(カルシア安定化ジルコニア/ハフニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/ハフニア)、(イットリア安定化ジルコニア/カルシア)、(マグネシア安定化ジルコニア/カルシア)、(カルシア安定化ジルコニア/カルシア)、(ハフニア安定化ジルコニア/カルシア)、(イットリア安定化ジルコニア/マグネシア)、(マグネシア安定化ジルコニア/マグネシア)、(カルシア安定化ジルコニア/マグネシア)、(ハフニア安定化ジルコニア/マグネシア)、(イットリア安定化ジルコニア/ベリリア)、(マグネシア安定化ジルコニア/ベリリア)、(カルシア安定化ジルコニア/ベリリア)、(ハフニア安定化ジルコニア/ベリリア)、(イットリア安定化ジルコニア/トリア)、(マグネシア安定化ジルコニア/トリア)、(カルシア安定化ジルコニア/トリア)、(ハフニア安定化ジルコニア/トリア)、(イットリア安定化ジルコニア/イットリア)、(マグネシア安定化ジルコニア/イットリア)、(カルシア安定化ジルコニア/イットリア)、(ハフニア安定化ジルコニア/イットリア)、(ジルコニア/イットリア安定化ジルコニア)、(ジルコニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(ジルコニア/カルシア安定化ジルコニア)、(ジルコニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(シリカ/イットリア安定化ジルコニア)、(シリカ/マグネシア安定化ジルコニア)、(シリカ/カルシア安定化ジルコニア)、(シリカ/ハフニア安定化ジルコニア)、(アルミナ/イットリア安定化ジルコニア)、(アルミナ/マグネシア安定化ジルコニア)、(アルミナ/カルシア安定化ジルコニア)、(アルミナ/ハフニア安定化ジルコニア)、(ハフニア/イットリア安定化ジルコニア)、(ハフニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(ハフニア/カルシア安定化ジルコニア)、(ハフニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(カルシア/イットリア安定化ジルコニア)、(カルシア/マグネシア安定化ジルコニア)、(カルシア/カルシア安定化ジルコニア)、(カルシア/ハフニア安定化ジルコニア)、(マグネシア/イットリア安定化ジルコニア)、(マグネシア/マグネシア安定化ジルコニア)、(マグネシア/カルシア安定化ジルコニア)、(マグネシア/ハフニア安定化ジルコニア)、(ベリリア/イットリア安定化ジルコニア)、(ベリリア/マグネシア安定化ジルコニア)、(ベリリア/カルシア安定化ジルコニア)、(ベリリア/ハフニア安定化ジルコニア)、(トリア/イットリア安定化ジルコニア)、(トリア/マグネシア安定化ジルコニア)、(トリア/カルシア安定化ジルコニア)、(トリア/ハフニア安定化ジルコニア)、(イットリア/イットリア安定化ジルコニア)、(イットリア/マグネシア安定化ジルコニア)、(イットリア/カルシア安定化ジルコニア)及び(イットリア/ハフニア安定化ジルコニア)も積層膜104の好ましい形態に含まれる。イットリア安定化ジルコニアとは、ジルコニアに対して酸化イットリウムを安定化剤として3~20質量%含有するジルコニアをいい、マグネシア安定化ジルコニアとは、ジルコニアに対して酸化マグネシウムを安定化剤として3~20質量%含有するジルコニアをいい、カルシア安定化ジルコニアとは、ジルコニアに対して酸化カルシウムを安定化剤として3~20質量%含有するジルコニアをいい、ハフニア安定化ジルコニアとは、ジルコニアに対して酸化ハフニウムを安定化剤として3~20質量%含有するジルコニアをいう。
【0058】
本実施形態に係る揮発抑制部品100では、第1層102及び第2層103は、同一の酸化物を主成分として含有することが好ましい。第1層102及び第2層103の熱膨張率が近似となる。主成分として含有する同一の酸化物のより好ましい形態としては、第1層102及び第2層103の主成分として含有する酸化物の組合せ((第1層102の主成分として含有する酸化物/第2層103の主成分として含有する酸化物)と表記する)において、第1層102と第2層103がジルコニア、シリカ、アルミナ、ハフニア、カルシア、マグネシア、ベリリア、トリア、イットリアから同一の酸化物を選択した形態、すなわち(イットリア安定化ジルコニア/イットリア安定化ジルコニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/イットリア安定化ジルコニア)、(カルシア安定化ジルコニア/イットリア安定化ジルコニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/イットリア安定化ジルコニア)、(イットリア安定化ジルコニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(カルシア安定化ジルコニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/マグネシア安定化ジルコニア)、(イットリア安定化ジルコニア/カルシア安定化ジルコニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/カルシア安定化ジルコニア)、(カルシア安定化ジルコニア/カルシア安定化ジルコニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/カルシア安定化ジルコニア)、(イットリア安定化ジルコニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(マグネシア安定化ジルコニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(カルシア安定化ジルコニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(ハフニア安定化ジルコニア/ハフニア安定化ジルコニア)、(ジルコニア/ジルコニア)、(シリカ/シリカ)、(アルミナ/アルミナ)、(ハフニア/ハフニア)、(カルシア/カルシア)、(マグネシア/マグネシア)、(ベリリア/ベリリア)、(トリア/トリア)及び(イットリア/イットリア)である。
【0059】
積層膜104は、第1層102と第2層103との2層の形態、又は第2層103の上に、1つ若しくは複数のコーティング層が設けられた3層以上の形態があるが、全体として、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム若しくはイットリウムのいずれかの元素を主成分とする酸化物又はこれらの複合酸化物であることが好ましい。本明細書において、ジルコニウムを主成分とするとは、酸化物を構成する金属成分のうちジルコニウムの含有量(質量%)が最も多いことをいい、より好ましくは酸化物中のジルコニウムの含有量が50質量%以上である。シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム又はイットリウムのいずれかの元素を主成分とする場合についても同様である。複合酸化物は、固溶体を形成していてもよい。これらの酸化物は、耐熱性が高いため、金属系基材101を形成する金属の酸化劣化及び酸化揮発をより抑制することができる。
【0060】
本実施形態に係る揮発抑制部品100の製造方法は、本実施形態に係る揮発抑制部品100を製造する方法であって、金属系基材101の表面に、溶射法によって第1層102を形成する工程と、第1層102の表面に液層を形成し、液層を乾燥固化することを少なくとも1回行って、第2層103を形成する工程と、を有する。
【0061】
(第1層形成工程)
溶射は、溶融、又は溶融に近い状態にした構成粒子を金属系基材101に衝突させることで第1層102を形成するため、金属系基材101の表面上のアンカー106に対する第1層102の構成粒子の占める面積の割合を増加させ、形成された第1層102は、空孔率5%以下の緻密層となる。
【0062】
溶射法は、フレーム溶射、プラズマ溶射、アーク溶射又はコールドスプレーであってもよく、好ましくはプラズマ溶射である。これらの溶射法では用いる溶射材の融点を充分に超える温度が得られるので、効率よく溶射を実施することができる。
【0063】
(第2層形成工程)
本実施形態に係る揮発抑制部品100の製造方法は、第1層102の表面に液層を形成し、液層を乾燥固化することを少なくとも1回行って、第2層103を形成する工程を有する。また、液層は、第2層103の構成成分が分散媒に分散している形態、及び第2層103の構成成分が溶媒に溶解している形態を含む。例えば、第2層103を形成する工程は、(i)第1層102の表面に液層を形成し、液層を乾燥固化することを1回行って、第2層103を形成する形態、(ii)第1層102の表面に液層を形成し、液層を乾燥固化することを2回以上行って、第2層103を形成する形態、(iii)第1層102の表面にコロイド溶液層を形成し、コロイド溶液層を乾燥固化して塗工層を形成し、塗工層の表面に溶液層を形成し、溶液層を乾燥固化して、第2層103を形成する形態、及び(iv)(iii)の工程を2回以上繰り返す形態を包含する。(iii)の形態において、第2層は、塗工層と、塗工層の表面に形成した溶液層の乾燥固化物とが一体化した層であり、塗工層と溶液層の乾燥固化物との境界が観察されないことが好ましい。
【0064】
本実施形態に係る揮発抑制部品100の製造方法では、第2層103を形成する工程において、液層として、コロイド溶液層を少なくとも1回形成することが好ましい。製造コストが非常に安価となり、各種形状へと容易に塗布できて、多孔質な保護層である第2層103が得られる。
【0065】
コロイド溶液層としては、(1)第2層103の主成分となる酸化物のコロイド粒子を含有するコロイド溶液層であるか、(2)第2層103の主成分となる酸化物の酸素と結合する元素の単体のコロイド粒子若しくは第2層103の主成分となる酸化物の酸素と結合する元素を含む合金のコロイド粒子を含有するコロイド溶液層であるか、又は(3)第2層103の主成分となる酸化物の酸素と結合する元素を含む水酸化物、アルコキシド化合物、炭酸化合物、塩化物、オキシクロリド化合物及びオキシ硝酸化合物から選ばれる少なくとも1種のコロイド粒子を含有するコロイド溶液層であることがより好ましい。製造コストが非常に安価となり、各種形状へと容易に塗布できて、多孔質な保護層である第2層103をより効率的に形成し、酸素侵入経路であるクラックを抑制できる。本明細書において、第2層103の主成分とは、第2層103を構成する成分のうち含有量(質量%)が最も多い成分をいい、より好ましくは第2層103中の含有量が50質量%以上の成分である。
【0066】
液層が(1)第2層103の主成分となる酸化物のコロイド粒子を含有するコロイド溶液層である形態は、例えば、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム及びイットリウムのうち1種又は2種以上の元素の酸化物の粒子が分散媒に分散している形態である。コロイド溶液中の粒子は、1種であるか、又は2種以上であってもよい。分散媒は、例えば、水である。液層の好ましい具体例は、ジルコニウムの酸化物のコロイド溶液層である。
【0067】
液層が(2)第2層103の主成分となる酸化物の酸素と結合する元素の単体のコロイド粒子又は第2層103の主成分となる酸化物の酸素と結合する元素を含む合金のコロイド粒子を含有するコロイド溶液層である形態は、例えば、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム及びイットリウムのうち1種の元素からなる単体の粒子が分散媒に分散している形態、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム及びイットリウムのうち2種以上の元素からなる合金の粒子が分散媒に分散している形態である。コロイド溶液中の粒子は、1種であるか、又は2種以上であってもよい。分散媒は、例えば、水である。液層の好ましい具体例は、金属ジルコニウムのコロイド溶液層である。
【0068】
液層が(3)第2層103の主成分となる酸化物の酸素と結合する元素を含む水酸化物、炭酸化合物、塩化物、オキシクロリド化合物及びオキシ硝酸化合物から選ばれる少なくとも1種のコロイド粒子を含有するコロイド溶液層である形態は、例えば、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム及びイットリウムのうち1種又は2種以上の元素(以降、構成成分Zということもある。)の水酸化物の粒子が分散媒に分散している形態、構成成分Zのアルコキシド化合物の粒子が分散媒に分散している形態、構成成分Zの炭酸化合物の粒子が分散媒に分散している形態、構成成分Zの塩化物の粒子が分散媒に分散している形態、構成成分Zのオキシクロリド化合物の粒子が分散媒に分散している形態、構成成分Zのオキシ硝酸化合物の粒子が分散媒に分散している形態である。コロイド溶液中の粒子は、1種であるか、又は2種以上であってもよい。分散媒は、例えば、水である。液層の好ましい具体例は、水酸化ジルコニウムのコロイド溶液層である。
【0069】
溶液層としては、液層が、第2層103の主成分となる酸化物の酸素と結合する元素を含む水酸化物、炭酸化合物、塩化物、オキシクロリド化合物及びオキシ硝酸化合物から選ばれる少なくとも1種を含有する溶液層である形態は、例えば、ジルコニウム、シリコン、アルミニウム、ハフニウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、トリウム及びイットリウムのうち1種又は2種以上の元素(以降、構成成分Zということもある。)の水酸化物が溶媒に溶解している形態、構成成分Zのアルコキシド化合物が溶媒に溶解している形態、構成成分Zの炭酸化合物が溶媒に溶解している形態、構成成分Zの塩化物が溶媒に溶解している形態、構成成分Zのオキシクロリド化合物が溶媒に溶解している形態、構成成分Zのオキシ硝酸化合物が溶媒に溶解している形態である。分散媒は、例えば、イソプロパノール、エタノール、n-ブタノールである。溶液層の好ましい具体例は、ケイ素アルコキシド及びジルコニウムアルコキシドを含有した、金属アルコキシド化合物の溶液層である。
【0070】
液層は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、バインダーなどの各種添加材を含有していてもよい。第1層102と第2層103が密着し、剥離やクラックが発生しない良質な積層膜104を施工できる。
【0071】
液層の形成の形態は、特に限定されず、例えば、刷毛塗り、スプレー塗布、ローラ塗布などである。液層の形成の形態は、液層を刷毛塗り又はスプレー塗布によって形成することが好ましい。第1層におけるクラック発生数が低減する。
【0072】
乾燥固化工程において、液層の焼成温度は、液層の成分によって異なり特に限定されないが、例えば液層の成分がジルコニウム系であるとき、100~200℃であることが好ましく、100~180℃であることがより好ましい。液層を乾燥固化することで、第2層103が第1層102の表面に固着する。このとき、第2層103は、十分硬いため、通常の取り扱いが可能である。その後、さらに揮発抑制部品の使用温度近傍において空焼きしてもよい。空焼きのタイミングは、実際の初回の使用の前に行ってもよく、又は実際の初回の使用のときに行われることとなってもよい。
【実施例
【0073】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0074】
<アンカー1つあたりの平均断面積>
揮発抑制部品の断面のうち、金属系基材と第1層との境界面の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(型番JSM-6010PLUS/LA、JEOL製)を用いて倍率2000倍で撮影した画像を5枚選出した。各画像のアンカーのうち、面積が1番目~3番目に大きいアンカーである3箇所、すなわち合計15箇所を選択して測定領域とした。画像寸法計測・粒子計測ソフト(製品名Quick Grain、(株)イノテック製)の粒子計測‐領域測定モードを使用して、図3に示す、アンカーの断面積S1を測定し、平均値を導出した。
【0075】
<アンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合>
揮発抑制部品の断面のうち、金属系基材と第1層との境界面の断面を、SEMを用いて倍率2000倍で撮影した画像を5枚選出した。各画像のアンカーのうち、面積が1番目~3番目に大きいアンカーである3箇所、すなわち合計15箇所を選択して測定領域とした。画像寸法計測・粒子計測ソフトの粒子計測-領域測定モードを使用して、図3に示す、アンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合(S2/S1)を測定した。
【0076】
<層ごとの平均粒子径>
SEMを用いて倍率2000倍で撮影した揮発抑制部品の断面の画像を5枚選出した。各画像の層ごとにおいて5本の線分をランダムに引き、線分法に従って、層ごとの平均粒子径を算出した。
【0077】
<層ごとの平均の空孔率>
SEMを用いて倍率2000倍で撮影した揮発抑制部品の断面の画像を5枚選出した。各画像においてコントラストから空孔部分を選択し、空孔部分の面積を測定領域全体の面積で割って空孔率を測定した。測定は画像寸法計測・粒子計測ソフトの粒子計測-領域測定モードを使用し、層ごとの平均の空孔率を測定した。
【0078】
<層ごとの平均厚さ>
SEMを用いて倍率200倍で撮影した揮発抑制部品の断面の画像を5枚選出した。各画像の測定箇所を5箇所選択して選定し、各層の厚さを測定して、全測定箇所の平均値を導出し、倍率で割って層ごとの平均厚さを算出した。
【0079】
<クラック同士の平均間隔>
第1層に生じた、金属系基材に対して略垂直方向のクラック(図5における貫通クラック108と封孔クラック109を含む)同士の間隔は、図5におけるPに相当する。金属系基材に対して略垂直方向のクラックのうち、積層膜表面まで貫通したクラック(図5では、貫通クラック108を指す)同士の間隔は、図5におけるLに相当する。測定領域における全Pの平均値を、金属系基材に対して略垂直方向のクラック同士の平均間隔Paveとし、測定領域における全Lの平均値を、金属系基材に対して略垂直方向のクラックのうち、積層膜表面まで貫通したクラック(貫通クラック108)同士の間隔Laveとする。SEMを用いて倍率200倍で撮影した揮発抑制部品の断面の画像を5枚選出した。画像は1260~3200μmの幅となるように連結して撮影し、その領域内において図5におけるP及びLに相当するクラック同士の間隔の長さを測定して、平均値を導出してPave及びLaveを算出した。Paveが大きいほど、金属系基材に対して略垂直方向のクラック(貫通クラック108又は封孔クラック109)が少ないといえる。Laveが大きいほど、金属系基材に対して略垂直方向のクラックのうち、積層膜表面まで貫通したクラック(貫通クラック108)が少ないといえる。揮発抑制部品の引張前において、異方性は無いと考えられるため、揮発抑制部品の引張前の観察方向を一方向(図6に示すy方向)のみとした。
【0080】
〔白金製の金属系基材〕
(実施例1)
(金属系基材)
長さ50mm×幅10mm×厚さ1.3mmの短冊状である、白金製の金属系基材((株)フルヤ金属製)を準備した。
(溶射材)
溶射材としては、イットリア安定化ジルコニア(酸化イットリウムを2~8質量%含有、粒径10~75μm)を用いた。
(第1コロイド溶液及び第2溶液)
水を分散媒とし、ジルコニウム化合物70~80質量%及びアルカリ金属ケイ酸塩1~10質量%を含有した、ジルコニウム化合物の分散液(ラスタッフ6110、(株)アクセス製)を第1コロイド溶液とした。また、イソプロパノールを溶媒の主成分とし、ケイ素アルコキシド及びジルコニウムアルコキシドを含有した、金属アルコキシド化合物の溶液(ラスタッフ6120、(株)アクセス製)を第2溶液とした。
(揮発抑制部品の作製)
溶射材をプラズマ溶射装置にて金属系基材の表面全体の上に吹き付けて、第1層を形成した。第1層を形成した金属系基材を室温に冷却した後、手作業にて長手方向に刷毛を用いて、図6に示すような、第1層における長さ30mm×幅10mmの領域Cの上に第1コロイド溶液を塗布して、第1液層を形成した。第1液層を自然乾燥させた後、電気炉を用いて150℃で20分維持した。こうすることによって、第1液層を乾燥固化して、塗工層を形成した。乾燥固化後、手作業にて長手方向に刷毛を用いて、塗工層の表面全体の上に第2溶液を塗布して第2液層を形成した。第2液層を自然乾燥させた後、電気炉を用いて100℃で20分維持した。こうすることによって、第2液層を乾燥固化して、第1層における領域Cの上に第2層を形成し、揮発抑制部品を作製した。第2層は、塗工層と、第2溶液を塗布して形成した第2液層の乾燥固化物とを含んでいる。すなわち、第2層は、第1コロイド溶液の分散媒以外の成分と、第2溶液の溶媒以外の成分とを含有している。その後、評価のため、揮発抑制部品を1300℃で60分空焼きした。電気炉はSiC炉(型番MSFT-1520、ヤマダデンキ製)を使用した。1300℃で空焼きするときは1300℃まで5時間で昇温し、1300℃で1時間保持した後、室温まで5時間で降温してから取り出しを行った。
(揮発抑制部品の表面観察)
マイクロスコープ(型番VHX-1000、キーエンス製)を用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図7に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。
(揮発抑制部品の断面観察)
SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した断面の画像を図8に示す。揮発抑制部品において、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がなく、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがなかった。図8に示すような揮発抑制部品の断面のうち、金属系基材と第1層との境界面の断面を、SEMを用いて倍率2000倍で撮影した画像を5枚用いて解析した結果、アンカー1つあたりの平均断面積は、319.37μmであり、アンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合(S2/S1)は、91%であった。第1層は、平均の空孔率が3.92%であり、平均粒子径が4.92μmであり、平均厚さが100μmであった。第2層は、平均の空孔率が24.56%であり、平均粒子径が1.24μmであり、平均厚さが41μmであった。
(引張試験1)
室温において、図6に示すような、揮発抑制部品の両端の、長さ10mm×幅10mmの領域Dを、万能試験機(型番5581、インストロン製)のチャックに装着して固定し、引張速度を0.2mm/minとし、領域Eで示すように、標点間距離を20mmとして引張試験を実施した。引張方向を図6に示すx方向とし、標点間伸びを、白金を室温から1300℃に上昇した際の白金の熱膨張率に相当する1.4%にしたとき、目視上表面の剥離がなかった。
(引張試験2)
標点間伸びをより過酷な5.1%にして、引張試験1の揮発抑制部品を用いて試験した。x方向及びy方向については図6に示すとおりである。引張試験後では、目視上表面の剥離がなかった。マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図9に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した断面の画像を図10に示し、y方向から観察した断面の画像を図11に示す。揮発抑制部品の、x方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がなく、金属系基材に対して略垂直方向のクラックもなかった。揮発抑制部品の、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離はないが、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがあった。y方向から観察したとき、クラック同士の平均間隔Paveは、129μmであり、クラック同士の平均間隔Laveは、157μmであった。金属系基材と第1層との界面において、剥離がないことから、第1層は、密着性が良好であった。
【0081】
(実施例2)
(金属系基材)
実施例1と同様に、金属系基材を準備した。
(溶射材)
実施例1と同様の溶射材を用いた。
(第1コロイド溶液及び第2溶液)
実施例1と同様の第1コロイド溶液及び第2溶液を用いた。
(揮発抑制部品の作製)
実施例1と同様に、第1層を形成した。第1層を形成した金属系基材を室温に冷却した後、スプレー塗工機(型番W-100、ANEST IWATA製)を用いて、図6に示すような、第1層における長さ30mm×幅10mmの領域Cの上に第1コロイド溶液を塗布して、第1液層を形成した。自然乾燥によって第1液層を乾燥させた後、電気炉を用いて150℃で20分維持して乾燥固化して、塗工層を形成した。乾燥固化後、手作業にて刷毛を用いて、塗工層の表面全体の上に第2溶液を塗布して第2液層を形成した。第2液層を自然乾燥させた後、電気炉を用いて100℃で20分維持して乾燥固化して、第1層における領域Cの上に、第2層を形成し、揮発抑制部品を作製した。第2層は、塗工層と、第2溶液を塗布して形成した第2液層の乾燥固化物とを含んでいる。すなわち、第2層は、第1コロイド溶液の分散媒以外の成分と、第2溶液の溶媒以外の成分とを含有している。その後、評価のため、1300℃で60分空焼きした。電気炉はSiC炉(型番MSFT-1520、ヤマダデンキ製)を使用した。1300℃で空焼きするときは1300℃まで5時間で昇温し、1300℃で1時間保持した後、室温まで5時間で降温してから取り出しを行った。
(揮発抑制部品の表面観察)
マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図12に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。
(揮発抑制部品の断面観察)
SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した断面の画像を図13に示す。揮発抑制部品において、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がなく、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがなかった。図13に示すような揮発抑制部品の断面のうち、金属系基材と第1層との境界面の断面を、SEMを用いて倍率2000倍で撮影した画像を5枚用いて解析した結果、アンカーおよび第1層は実施例1と同様に形成されていた。第2層は、平均の空孔率が17.69%であり、平均粒子径が1.13μmであり、平均厚さが62μmであった。
(引張試験1)
実施例1と同様に、引張試験を実施した。引張方向を図6に示すx方向とし、標点間伸びを、白金を室温から1300℃に上昇した際の白金の熱膨張率に相当する1.4%にしたとき、目視上表面の剥離がなかった。
(引張試験2)
標点間伸びをより過酷な5.1%にして、未引張の揮発抑制部品を用いて試験した。引張方向x及びx方向に垂直なy方向については図6に示すとおりである。引張試験後では、目視上表面の剥離がなかった。マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図14に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した断面の画像を図15に示し、y方向から観察した断面の画像を図16に示す。揮発抑制部品の、x方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がなく、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがなかった。揮発抑制部品の、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がないが、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがあった。y方向から観察したとき、クラック同士の平均間隔Paveは、101μmであり、クラック同士の平均間隔Laveは、167μmであった。金属系基材と第1層との界面において、剥離がないことから、第1層は、密着性が良好であった。この結果、実施例1と実施例2において、第2層の塗布方法の違いによる保護層としての性能の違いは見られなかった。実施例2に対してさらに画像を解析した結果、引張試験後のアンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合(S2/S1)は、x方向から観察して80%、y方向から観察して74%であった。
【0082】
(比較例1)
(金属系基材)
実施例1と同様に、金属系基材を準備した。
(溶射材)
実施例1と同様の溶射材を用いた。
(揮発抑制部品の作製)
実施例1と同様に金属系基材の表面全体の上に第1層を形成し、室温に冷却して揮発抑制部品を作製した。その後、評価のため、揮発抑制部品を1300℃で60分空焼きした。電気炉はSiC炉(型番MSFT-1520、ヤマダデンキ製)を使用した。1300℃で空焼きするときは1300℃まで5時間で昇温し、1300℃で1時間保持した後、室温まで5時間で降温してから取り出しを行った。
(揮発抑制部品の表面観察)
マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図17に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。
(揮発抑制部品の断面観察)
SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した断面の画像を図18に示す。揮発抑制部品において、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がなく、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがなかった。図18に示すような揮発抑制部品の断面のうち、金属系基材と第1層との境界面の断面を、SEMを用いて倍率2000倍で撮影した画像を5枚用いて解析した結果、アンカーおよび第1層は実施例1と同様に形成されていた。
(引張試験1)
実施例1と同様に、引張試験を実施した。引張方向を図6に示すx方向とし、標点間伸びを、白金を室温から1300℃に上昇した際の白金の熱膨張率に相当する1.4%にしたとき、目視上表面の剥離がなかった。
(引張試験2)
標点間伸びをより過酷な5.3%にして、引張試験1の揮発抑制部品を用いて試験した。x方向及びy方向については図6に示すとおりである。引張試験後では、目視上表面の剥離がなかった。マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図19に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した断面の画像を図20に示し、y方向から観察した断面の画像を図21に示す。揮発抑制部品の、x方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がなく、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがほぼなかった。揮発抑制部品の、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がないが、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがあった。y方向から観察したとき、クラック同士の平均間隔Laveは、89μmであった。画像の解析の結果、引張試験後のアンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合(S2/S1)は、x方向から観察して80%、y方向から観察して73%であった。金属系基材と第1層との界面において、剥離がないことから、第1層は、密着性が良好であった。
【0083】
(比較例2)
(金属系基材)
実施例1と同様に、金属系基材を準備した。
(第1コロイド溶液及び第2溶液)
実施例1と同様の第1コロイド溶液及び第2溶液を用いた。
(揮発抑制部品の作製)
手作業にて長手方向に刷毛を用いて、金属系基材の表面全体の上に第1コロイド溶液を塗布して、第1液層を形成した。自然乾燥によって第1液層を乾燥させた後、電気炉を用いて150℃で20分維持して乾燥固化して、塗工層を形成した。乾燥固化後、手作業にて長手方向に刷毛を用いて、塗工層の表面全体の上に第2溶液を塗布して第2液層を形成し、第2液層を自然乾燥させた後、電気炉を用いて100℃で20分維持して乾燥固化して、金属系基材の表面全体の上に、第1層を形成し、揮発抑制部品を作製した。第1層は、塗工層と、第2溶液を塗布して形成した第2液層の乾燥固化物とを含んでいる。すなわち、第1層は、第1コロイド溶液の分散媒以外の成分と、第2溶液の溶媒以外の成分とを含有している。その後、評価のため、実施例1と同様に空焼きした。
(揮発抑制部品の表面観察)
マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図22に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。
(揮発抑制部品の断面観察)
SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した断面の画像を図23に示す。揮発抑制部品において、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がないが、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがあった。y方向から観察したとき、クラック同士の平均間隔Laveは、69μmであった。y方向から観察したとき、図23に示すような揮発抑制部品の断面のうち、金属系基材と第1層との境界面の断面を、SEMを用いて倍率2000倍で撮影した画像を5枚用いて解析した結果、アンカー1つあたりの平均断面積は、38.60μmであり、アンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合(S2/S1)は、80%であった。第1層は、平均の空孔率が24.56%であり、平均粒子径が1.24μmであり、平均厚さが40μmであった。
(引張試験1)
実施例1と同様に、引張試験を実施した。引張方向を図6に示すx方向とし、標点間伸びを、白金を室温から1300℃に上昇した際の白金の熱膨張率に相当する1.4%にしたとき、目視上表面の一部に剥離があった。
(引張試験2)
標点間伸びをより過酷な7.8%にして、未引張の揮発抑制部品を用いて試験した。x方向及びy方向については図6に示すとおりである。引張試験後では、目視上表面の一部に剥離があった。マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図24に示す。揮発抑制部品の表面の一部に剥離があった。SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した断面の画像を図25に示し、y方向から観察した断面の画像を図26に示す。揮発抑制部品の、x方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離があり、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがあった。揮発抑制部品の、y方向から観察した断面にも、金属系基材と第1層との界面での剥離があり、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがあった。x方向から観察したとき、クラック同士の平均間隔Laveは、77μmであった。y方向から観察したとき、クラック同士の平均間隔Laveは、24μmであった。画像の解析の結果、引張試験後のアンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合(S2/S1)は、x方向から観察して48%、y方向から観察して56%であった。金属系基材と第1層との界面において、剥離があることから、第1層は、密着性に劣っていた。
【0084】
(比較例3)
(金属系基材)
実施例1と同様に、金属系基材を準備した。
(第1コロイド溶液及び第2溶液)
実施例1と同様の第1コロイド溶液及び第2溶液を用いた。
(揮発抑制部品の作製)
スプレー塗工機を用いて、金属系基材の表面全体の上に第1コロイド溶液を塗布して、第1液層を形成した。自然乾燥によって第1液層を乾燥させた後、電気炉を用いて150℃で20分維持して乾燥固化して、塗工層を形成した。乾燥固化後、手作業にて刷毛を用いて、塗工層の表面全体の上に第2溶液を塗布して第2液層を形成した。第2液層を自然乾燥させた後、電気炉を用いて100℃で20分維持して乾燥固化して、金属系基材の表面全体の上に、第1層を形成し、揮発抑制部品を作製した。第1層は、塗工層と、第2溶液を塗布して形成した第2液層の乾燥固化物とを含んでいる。すなわち、第1層は、第1コロイド溶液の分散媒以外の成分と、第2溶液の溶媒以外の成分とを含有している。その後、評価のため、実施例1と同様に空焼きした。
(揮発抑制部品の表面観察)
マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図27に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。
(揮発抑制部品の断面観察)
SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した断面の画像を図28に示す。揮発抑制部品において、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面の一部が剥離していて、金属系基材の表面が露出していた。y方向から観察したとき、露出した部分同士の平均間隔Laveは、71μmであった。図28に示すような揮発抑制部品の断面のうち、金属系基材と第1層との境界面の断面を、SEMを用いて倍率2000倍で撮影した画像を5枚用いて解析した結果、アンカー1つあたりの平均断面積は、66.07μmであり、アンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合(S2/S1)は、56.88%であった。第1層は、平均の空孔率が17.69%であり、平均粒子径が1.13μmであり、平均厚さが39μmであった。
(引張試験1)
実施例1と同様に、引張試験を実施した。引張方向を図6に示すx方向とし、標点間伸びを、白金を室温から1300℃に上昇した際の白金の熱膨張率に相当する1.4%にしたとき、目視上表面の剥離がなかった。
(引張試験2)
標点間伸びをより過酷な5.2%にして、引張試験1の揮発抑制部品を用いて試験した。x方向及びy方向については図6に示すとおりである。引張試験後では、目視上表面の剥離がなかった。マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図29に示す。揮発抑制部品の表面の一部に剥離があった。SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるx方向から観察した断面の画像を図30に示し、y方向から観察した断面の画像を図31に示す。揮発抑制部品の、x方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離があり、金属系基材の表面が露出し、第1層が付着している箇所において、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがあった。揮発抑制部品の、y方向から観察した断面にも、金属系基材と第1層との界面での剥離があり、金属系基材の表面が露出し、第1層が付着している箇所において、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがあった。x方向から観察したとき、露出した部分同士の平均間隔Laveは、82μmであった。y方向から観察したとき、露出した部分同士の平均間隔Laveは、54μmであった。画像の解析の結果、引張試験後のアンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合(S2/S1)は、x方向から観察して42%、y方向から観察して46%であった。金属系基材と第1層との界面において、剥離があることから、第1層は、密着性に劣っていた。
【0085】
(X線回折)
実施例1~実施例2の積層膜及び比較例1~比較例3の第1層について、X線回折によって、結晶構造を解析した。実施例1、実施例2及び比較例1の第1層の結晶構造は、イットリア安定化ZrO正方晶であり、実施例1及び実施例2の第2層、並びに比較例2及び比較例3の第1層の結晶構造は、Zr(SiO)正方晶とZrO単射晶であった。
【0086】
揮発抑制部品の表面及び断面の観察の結果から、実施例1~実施例2で得られた揮発抑制部品では、揮発抑制部品の表面の剥離が、密着層である第1層によって防止され、揮発抑制部品の表面まで到達する、金属系基材に対して略垂直方向のクラックの伝播が、保護層である第2層によって良好に抑制されたことが示された。引張試験前において、実施例1及び実施例2のS2/S1が、比較例2及び比較例3のS2/S1よりも高いため、S2/S1が高いということは、金属系基材と第1層との密着性の向上、すなわち揮発抑制部品の表面の剥離の防止の要因の一つとなると考えられる。実施例1と実施例2において、第1層に生じる、金属系基材に対して略垂直方向の平均クラック数に若干の違いはあるが、第2層の保護層としての性能は、その塗布方法によらず同等となった。一方、比較例1では、第1層の上に層が一切存在しないため、クラックの伝播の抑制が良好ではなかった。比較例2では、第1層が密着性に劣るため、揮発抑制部品の表面が剥離し、また第1層の上に層が一切存在しないため、クラックの伝播の抑制が良好ではなかった。比較例3では、第1層がより密着性に劣るため、揮発抑制部品の表面が剥離して、金属系基材の表面が露出し、また第1層の上に層が一切存在しないため、クラックの伝播の抑制が良好ではなかった。
【0087】
(実施例3)
(金属系基材)
長さ20mm×幅20mm×厚さ1.3mmの白金製の金属系基材((株)フルヤ金属製)を準備した。
(溶射材)
実施例1と同様の溶射材を用いた。
(第1コロイド溶液及び第2溶液)
実施例1と同様の第1コロイド溶液及び第2溶液を用いた。
(揮発抑制部品の作製)
実施例2と同様に、第1層を形成した。第1層を形成した金属系基材を室温に冷却した後、第1層における領域Cの上を、第1層全体の上に変更した以外は実施例2と同様に第2層を形成し、揮発抑制部品を作製した。その後、評価のため、実施例1と同様に空焼きした。
【0088】
(比較例4)
(金属系基材)
実施例3と同様の金属系基材を準備した。
(溶射材)
実施例1と同様の溶射材を用いた。
(揮発抑制部品の作製)
実施例1と同様に金属系基材の表面全体の上に第1層を形成し、室温に冷却して揮発抑制部品を作製した。その後、評価のため、実施例1と同様に空焼きした。
【0089】
(比較例5)
(金属系基材)
実施例3と同様の金属系基材を準備した。
(第1コロイド溶液及び第2溶液)
実施例1と同様の第1コロイド溶液及び第2溶液を用いた。
(揮発抑制部品の作製)
スプレー塗工機を用いて、金属系基材の表面全体の上に第1コロイド溶液を塗布して、第1液層を形成した。自然乾燥によって第1液層を乾燥させた後、電気炉を用いて150℃で20分維持して乾燥固化して、塗工層を形成した。乾燥固化後、手作業にて刷毛を用いて、塗工層の表面全体の上に第2溶液を塗布して第2液層を形成した。第2液層を自然乾燥させた後、電気炉を用いて100℃で20分維持して乾燥固化して、金属系基材の表面全体の上に、第1層を形成し、揮発抑制部品を作製した。第1層は、塗工層と、第2溶液を塗布して形成した第2液層の乾燥固化物とを含んでいる。すなわち、第1層は、第1コロイド溶液の分散媒以外の成分と、第2溶液の溶媒以外の成分とを含有している。その後、評価のため、実施例1と同様に空焼きした。
【0090】
(比較例6)
(金属系基材)
実施例3と同様の金属系基材を準備し、コーティング層がない試料とした。
【0091】
(揮発試験)
実施例3及び比較例4~比較例6の揮発抑制部品を各1個準備し、個別に質量を測定した。電気炉はSiC炉(型番MSFT-1520、ヤマダデンキ製)を使用した。炉内は大気雰囲気にして揮発試験を実施した。揮発試験は、まず炉内に実施例3及び比較例4~比較例6の揮発抑制部品を各1個投入し、炉内温度を1500℃まで5時間かけて昇温し、1500℃に到達した時間を試験時間ゼロとした。その後1500℃で100時間保持した後に室温まで5時間かけて降温して実施例3及び比較例4~比較例6の揮発抑制部品を炉内から取り出し、質量を測定した。測定が終了した揮発抑制部品は同様の手順で繰り返し揮発試験を実施し、以降、1500℃で保持している累積時間が300、500、700、1000及び1200時間となるタイミングで同様の測定を繰り返し、1200時間後のサンプルは炉内に再投入せずにそのまま揮発試験を終了した。質量を測定した時点の累積時間がn時間であるときの揮発率を、以下の数1に示す式を用いて算出した。平均揮発速度は、以下の数2に示す式を用いて算出した。1200時間後において、比較例6の金属系基材の揮発率を100%とした場合に対し、実施例3で得られた揮発抑制部品は、62%抑制し、比較例4で得られた揮発抑制部品は、36%抑制し、比較例5で得られた揮発抑制部品は、16%抑制した。
【数1】
【数2】
【0092】
揮発試験時間に対する揮発率及び平均揮発速度の関係を図32に示した。図32において、2重コートは実施例3であり、溶射コートのみは比較例4であり、液コートのみは比較例5であり、コーティングレスは比較例6である。図32の結果より明らかなように、実施例3では、酸化揮発が良好に抑制された。一方、比較例4及び比較例5では、第1層の上に層が一切存在しないため、酸化揮発の抑制が良好ではなかった。比較例6では、コーティング層が一切存在しないため、酸化揮発の抑制が良好ではなかった。
【0093】
〔イリジウム製の金属系基材〕
(実施例4)
(金属系基材)
長さ20mm×幅20mm×厚さ1mmのイリジウム製の金属系基材((株)フルヤ金属製)を準備した。
(溶射材)
溶射材としては、イットリア安定化ジルコニア(酸化イットリウムを2~8質量%含有、粒径10~75μm)を用いた。
(第1コロイド溶液及び第2溶液)
水を分散媒とし、ジルコニウム化合物70~80質量%及びアルカリ金属ケイ酸塩1~10質量%を含有した、ジルコニウム化合物の分散液(ラスタッフ6110、(株)アクセス製)を第1コロイド溶液とした。また、イソプロパノールを溶媒の主成分とし、ケイ素アルコキシド及びジルコニウムアルコキシドを含有した、金属アルコキシド化合物の溶液(ラスタッフ6120、(株)アクセス製)を第2溶液とした。
(揮発抑制部品の作製)
溶射材をプラズマ溶射装置にて金属系基材の表面全体の上に吹き付けて、第1層を形成した。スプレー塗工機(型番W-100、ANEST IWATA製)を用いて、第1層全体の上に第1コロイド溶液を塗布して、第1液層を形成した。第1液層を自然乾燥させた後、電気炉を用いて150℃で20分維持した。こうすることによって、第1液層を乾燥固化して、塗工層を形成した。乾燥固化後、手作業にて長手方向に刷毛を用いて、塗工層の表面全体の上に第2溶液を塗布して第2液層を形成した。第2液層を自然乾燥させた後、電気炉を用いて100℃で20分維持した。こうすることによって、第2液層を乾燥固化して、第1層全体の上に第2層を形成し、揮発抑制部品を作製した。第2層は、塗工層と、第2溶液を塗布して形成した第2液層の乾燥固化物とを含んでいる。すなわち、第2層は、第1コロイド溶液の分散媒以外の成分と、第2溶液の溶媒以外の成分とを含有している。
(揮発抑制部品の表面観察)
マイクロスコープ(型番VHX-1000、キーエンス製)を用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図33に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。
(揮発抑制部品の断面観察)
SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した断面の画像を図34に示す。揮発抑制部品において、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がなく、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがなかった。図34に示すような揮発抑制部品の断面のうち、金属系基材と第1層との境界面の断面を、SEMを用いて倍率2000倍で撮影した画像を5枚用いて解析した結果、アンカー1つあたりの平均断面積は、327.90μmであり、アンカーに対する、アンカーに入り込んだ第1層が占める面積の割合(S2/S1)は、93.5%であった。第1層は、平均の空孔率が3.65%であり、平均粒子径が4.84μmであり、平均厚さが81μmであった。第2層は、平均の空孔率が23.76%であり、平均粒子径が1.06μmであり、平均厚さが51μmであった。
【0094】
(比較例7)
(金属系基材)
実施例4と同様に、金属系基材を準備した。
(溶射材)
実施例4と同様の溶射材を用いた。
(揮発抑制部品の作製)
実施例4と同様に金属系基材の表面全体の上に第1層を形成し、室温に冷却して揮発抑制部品を作製した。
(揮発抑制部品の表面観察)
マイクロスコープを用いて、揮発抑制部品の表面を撮影した。揮発抑制部品の表面の画像を図35に示す。揮発抑制部品の表面の剥離はなかった。
(揮発抑制部品の断面観察)
SEMを用いて、揮発抑制部品の断面を撮影した。揮発抑制部品の、図6におけるy方向から観察した断面の画像を図36に示す。揮発抑制部品において、y方向から観察した断面には、金属系基材と第1層との界面での剥離がなく、金属系基材に対して略垂直方向のクラックがなかった。図36に示すような揮発抑制部品の断面のうち、金属系基材と第1層との境界面の断面を、SEMを用いて倍率2000倍で撮影した画像を5枚用いて解析した結果、アンカーおよび第1層は実施例4と同様に形成されていた。
【0095】
(比較例8)
(金属系基材)
実施例4と同様の金属系基材を準備し、コーティング層がない試料とした。
【0096】
(揮発試験)
実施例4及び比較例7~比較例8の揮発抑制部品を各1個準備し、個別に質量を測定した。電気炉はSiC炉(型番MSFT-1520、ヤマダデンキ製)を使用した。炉内は大気雰囲気にして揮発試験を実施した。揮発試験は、まず炉内温度を1500℃まで2時間かけて昇温し、1500℃に到達したところで、炉内に実施例4及び比較例7~比較例8の揮発抑制部品を各1個投入し、その投入した時間を試験時間ゼロとした。その後1500℃で任意の時間保持した後に炉内から取り出し、室温まで空冷し、質量を測定した。測定が終了した揮発抑制部品は同様の手順で繰り返し揮発試験を実施し、以降、1500℃で保持している累積時間が1000時間となるまで同様の測定を繰り返し、1000時間後のサンプルは炉内に再投入せずにそのまま揮発試験を終了した。質量を測定した時点の累積時間がn時間であるときの揮発率を、数1に示す式を用いて算出した。平均揮発速度は、数2に示す式を用いて算出した。1000時間後において、比較例8の金属系基材の揮発率を100%とした場合に対し、実施例4で得られた揮発抑制部品は、93%抑制し、比較例7で得られた揮発抑制部品は、87%抑制した。
【0097】
揮発試験時間に対する揮発率及び平均揮発速度の関係を図37に示した。図37において、2重コートは実施例4であり、溶射コートのみは比較例7であり、コーティングレスは比較例8である。図37の結果より明らかなように、実施例4では、酸化揮発が良好に抑制された。一方、比較例7では、第1層の上に層が一切存在しないため、酸化揮発の抑制が十分ではなかった。比較例8では、コーティング層が一切存在しないため、酸化揮発の抑制が良好ではなかった。
【符号の説明】
【0098】
100 揮発抑制部品
101 金属系基材
102 第1層
103 第2層
104 積層膜
105 入り込み曲線部
106 アンカー
107 表面補助線
108 貫通クラック
109 封孔クラック

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