(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】インゴット投入装置及び溶融めっき金属帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/00 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
C23C2/00
(21)【出願番号】P 2018190450
(22)【出願日】2018-10-05
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中本 武
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-018394(JP,A)
【文献】特開2004-241639(JP,A)
【文献】特許第4282969(JP,B2)
【文献】実公昭60-023981(JP,Y2)
【文献】韓国公開特許第2013-0039230(KR,A)
【文献】特開平11-050216(JP,A)
【文献】特開2016-169430(JP,A)
【文献】特開2010-174309(JP,A)
【文献】特開昭54-099741(JP,A)
【文献】実開昭52-104611(JP,U)
【文献】実開昭56-115455(JP,U)
【文献】実公昭49-008897(JP,Y1)
【文献】特開昭62-238358(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133205(WO,A1)
【文献】特開平02-152780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯が浸漬される溶融金属浴にインゴットを投入するためのインゴット投入装置であって、
前記インゴットを把持するための把持部と、
前記把持部を昇降させるための昇降部と、
前記把持部の昇降位置を検出するためのセンサと、
前記センサからの信号に基づいて前記昇降部の昇降動作を制御する制御部と
、
前記制御部に指令を入力するための入力部と
を備え、
前記制御部は、前記把持部を降下させて前記インゴットを前記溶融金属浴に投入する際に、前記把持部の昇降位置が
前記インゴットの下端が前記溶融金属浴に接する前の所定の減速位置となった時に前記把持部の降下を減速し、減速された速度で前記インゴットを前記溶融金属浴に投入
し、
前記制御部は、前記入力部からの指令に基づき、減速後の前記把持部の降下速度を決定する、
インゴット投入装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記昇降部に供給する電力を制御するインバータを含む、
請求項1記載のインゴット投入装置。
【請求項3】
前記センサは、
基準位置から前記把持部までの距離を測定することで前記把持部の昇降位置を検出するための第1センサと
、前記把持部の昇降が開始された時からの経過時間を測定することで前記把持部の昇降位置を検出するための第2センサとを含み、
前記制御部が制御に用いる信号は、前記第1センサからの信号と前記第2センサからの信号とで切り替え可能である、
請求項1
又は請求項2に記載のインゴット投入装置。
【請求項4】
前記把持部は、前記インゴットの上面が水平に対して傾斜するように前記インゴットを把持するように構成されている、
請求項1から請求項
3までのいずれか1項に記載のインゴット投入装置。
【請求項5】
前記把持部は、開閉可能に設けられた少なくとも一対の爪を含み、前記少なくとも一対の爪が閉じられた際に前記少なくとも一対の爪により前記インゴットが把持されるように構成されており、
前記爪には、前記インゴットを吊り上げる際に前記インゴットに接触される接触部が設けられており、
前記一対の爪の一方における前記接触部が前記一対の爪の他方における前記接触部よりも下方に配置されている、
請求項
4記載のインゴット投入装置。
【請求項6】
前記爪には、爪基部と、前記爪基部に取り付けられた爪先端部とが設けられており、
前記一方において、前記爪基部と前記爪先端部と
の間に介在物が挿入されていることで、前記一方における前記接触部が前記他方における前記接触部よりも下方に配置されている、
請求項
5記載のインゴット投入装置。
【請求項7】
前記把持部は、開閉可能に設けられた少なくとも一対の爪を含み、前記少なくとも一対の爪が閉じられた際に前記少なくとも一対の爪により前記インゴットが把持されるように構成されており、
前記制御部は、前記インゴットを前記溶融金属浴に浸漬した後であって前記把持部を上昇させる前に、前記少なくとも一対の爪を複数回開閉させる、
請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載のインゴット投入装置。
【請求項8】
前記溶融金属浴は、溶融Zn-Al-Mg系合金浴である、
請求項1から請求項
7までのいずれか1項に記載のインゴット投入装置。
【請求項9】
溶融金属浴に金属帯を浸漬させて溶融めっき金属帯を製造する溶融めっき金属帯の製造方法であって、
請求項1から請求項
8までのいずれか1項に記載のインゴット投入装置により前記溶融金属浴に前記インゴットを投入すること
を含む、溶融めっき金属帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯が浸漬される溶融金属浴にインゴットを投入するためのインゴット投入装置及び溶融めっき金属帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、めっき金属帯の製造設備では、溶融金属浴に金属帯が浸漬された後に、その溶融金属浴から金属帯が引き上げられる。溶融金属浴から引き上げられた金属帯の表面には溶融金属が付着されており、その溶融金属が固化されることで金属帯の表面にめっき層が形成される。
【0003】
上述のように、溶融金属浴から引き上げられた金属帯の表面に溶融金属が付着されるので、溶融金属浴にインゴット(金属塊)を投入して、溶融金属浴を維持することが行われる。従来用いられていたこの種のインゴット投入装置としては、例えば下記の特許文献1等に示されている構成を挙げることができる。すなわち、従来のインゴット投入装置では、把持部がインゴットを把持した状態で、一定速度で把持部を降下させてインゴットを溶融金属浴に投入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来のインゴット投入装置では、一定速度で把持部を降下させてインゴットを溶融金属浴に投入する。このため、把持部の降下速度が速い場合、インゴット投入時に溶融金属浴の湯面が大きく変動する。湯面が大きく変動すると、浴中に浸漬されている設備に付着したドロスが剥離して金属帯に付着する虞がある。金属帯にドロスが付着すると、溶融めっき金属帯に品質異常が生じる。一方、把持部の降下速度が遅い場合、インゴットの投入に要する時間が長くなり、溶融金属浴を維持できなくなる虞がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、溶融金属浴の湯面の変動を抑えることができるとともに、より確実に溶融金属浴を維持できるインゴット投入装置及び溶融めっき金属帯の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインゴット投入装置は、金属帯が浸漬される溶融金属浴にインゴットを投入するためのインゴット投入装置であって、インゴットを把持するための把持部と、把持部を昇降させるための昇降部と、把持部の昇降位置を検出するためのセンサと、センサからの信号に基づいて昇降部の昇降動作を制御する制御部と、制御部に指令を入力するための入力部とを備え、制御部は、把持部を降下させてインゴットを溶融金属浴に投入する際に、把持部の昇降位置がインゴットの下端が溶融金属浴に接する前の所定の減速位置となった時に把持部の降下を減速し、減速された速度でインゴットを溶融金属浴に投入し、制御部は、入力部からの指令に基づき、減速後の把持部の降下速度を決定する。
【0008】
本発明に係る溶融めっき金属帯の製造方法は、溶融金属浴に金属帯を浸漬させて溶融めっき金属帯を製造する溶融めっき金属帯の製造方法であって、上述のインゴット投入装置により溶融金属浴にインゴットを投入することを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインゴット投入装置及び溶融めっき金属帯の製造方法によれば、制御部は、把持部を降下させてインゴットを溶融金属浴に投入する際に、把持部の昇降位置が所定の減速位置となった時に把持部の降下を減速し、減速された速度でインゴットを溶融金属浴に投入するので、溶融金属浴の湯面の変動を抑えることができるとともに、より確実に溶融金属浴を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態による溶融めっき設備を示す正面図である。
【
図3】
図1の制御部によるインゴット投入装置の動作制御を示すフローチャートである。
【
図4】
図3の投入制御において把持部が降下される際の速度プロフィールの一例を示す説明図である。
【
図6】
図5の把持部によるインゴットの把持が解除された状態を示す説明図である。
【
図7】
図1の昇降部をより詳細に示す正面図である。
【
図8】
図7の昇降部により把持部が上昇された状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0012】
図1は本発明の実施の形態による溶融めっき設備を示す正面図であり、
図2は
図1の溶融めっき設備を示す平面図である。
図1及び
図2に示す溶融めっき設備は、金属帯1に溶融めっきを施すことにより溶融めっき金属帯2を製造するための設備である。金属帯1としては、鋼板を用いることができる。但し、金属帯1として鋼板以外の他の金属帯を用いてもよい。
【0013】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態の溶融めっき設備は、溶融金属浴3、シンクロール4及びインゴット投入装置5を有している。
【0014】
溶融金属浴3は、ポット30に貯められた溶融金属である。溶融金属浴3としては、例えば溶融Zn-Al-Mg系合金浴、溶融Zn-Al系合金浴、溶融Zn浴又は溶融Al浴等を用いることができる。シンクロール4は、溶融金属浴3に浸漬されたロールである。金属帯1は、溶融金属浴3に浸漬された後に、シンクロール4によって搬送方向が変えられて溶融金属浴3から引き上げられる。溶融金属浴3から引き上げられた金属帯1の表面には溶融金属が付着されている。金属帯1の表面に付着された溶融金属が固化されることで、表面にめっき層を有する溶融めっき金属帯2が製造される。
【0015】
上述のように溶融金属浴3から引き上げられた金属帯1の表面に溶融金属が付着されるので、溶融金属浴3に金属を随時供給して、溶融金属浴3を維持する必要がある。本実施の形態の溶融めっき設備では、インゴット投入装置5により溶融金属浴3にインゴット6(金属塊)が随時投入されることで、溶融金属浴3が維持される。
【0016】
溶融金属浴3が合金によって構成される場合、インゴット6は、予め成分が整えられた合金塊であってもよいし、溶融金属浴3の合金を構成する各成分の金属塊(例えばZn塊、Al塊及びMg塊)であってもよい。
【0017】
本実施の形態のインゴット投入装置5は、第1搬送部51、第2搬送部52、昇降部53、把持部54、第1センサ55、第2センサ56、制御部57及び入力部58を有している。
【0018】
第1搬送部51は、溶融金属浴3が貯められているポット30の近傍に設けられた準備位置60までインゴット6を搬送するための装置である。第1搬送部51としては、例えばローラコンベア等の装置を用いることができる。
【0019】
第2搬送部52は、準備位置60の上方とポット30の上方との間で昇降部53及び把持部54を搬送するための装置である。第2搬送部52には、準備位置60の上方とポット30の上方との間に延在されたレール520と、レール520に案内されて移動可能な可動体521とが設けられている。
【0020】
昇降部53は、第2搬送部52の可動体521と把持部54との間を接続するとともに、把持部54を昇降するための装置である。
【0021】
把持部54は、インゴット6を把持し吊り上げるための装置である。この把持部54は、昇降部53を介して第2搬送部52に支持されており、昇降部53とともに準備位置60の上方とポット30の上方との間を移動可能とされている。また、把持部54は、昇降部53により昇降可能とされている。
【0022】
図2に特に表れているように、本実施の形態の把持部54は、開閉可能に設けられた二対の爪541,542を有している。二対の爪541,542は、準備位置60に位置されたインゴット6の奥行方向6aに互いに離間して配置されている。各対の爪541,542は、各対の爪541,542の先端がインゴット6の幅方向6bに互いに近づく方向及び離れる方向に回動可能に設けられている。本実施の形態の把持部54は、これら二対の爪541,542が閉じられた際(すなわち、各対の爪541,542の先端がインゴット6の幅方向6bに互いに近づく方向に回動された際)にこれら二対の爪541,542によりインゴット6を把持するように構成されている。
【0023】
第1及び第2センサ55,56は、把持部54の昇降位置を検出するためのものである。本実施の形態の第1及び第2センサ55,56は、互いに異なる物理量を検出する。本実施の形態の第1センサ55は、基準位置から把持部54までの距離を測定する。基準位置から把持部54までの距離は、把持部54の昇降位置に相当する。本実施の形態の第1センサ55は、可動体521に固定された本体55aと、本体55aから延出されるとともに先端が把持部54に取り付けられたワイヤ55bとを有し、本体55aからのワイヤ55bの繰り出し量(可動体521から把持部54までの距離)を測定する。より直接的に把持部54までの距離を測定できるとの観点から、本実施の形態の第1センサ55のように把持部54に機械的に接続されたセンサであることが好ましいが、例えば光学式又は音波式等の非接触式の測距計を第1センサ55として用いてもよい。本実施の形態の第2センサ56は、把持部54の昇降が開始された時からの経過時間を測定する。把持部54の昇降が所定の速度プロフィールに従って行われることから、上述の経過時間に基づいて把持部54の昇降位置を求めることができる。
【0024】
制御部57は、例えばプログラムに基づいて演算処理を行うコンピュータ等により構成されるものであり、インゴット投入装置5の各構成の動作を制御する。
【0025】
入力部58は、例えば操作盤及びキーボード等の機器によって構成されるものであり、操作者(オペレータ)の操作に応じて制御部57に指令を入力する。
【0026】
次に、
図3は、
図1の制御部57によるインゴット投入装置5の動作制御を示すフローチャートである。
図3に示すように、制御部57によるインゴット投入装置5の動作制御が開始されると、制御部57は、準備制御(ステップS1)、搬送制御(ステップS2)及び投入制御(ステップS3)を順に行う。
【0027】
準備制御(ステップS1)では、制御部57は、第1搬送部51の動作を制御して、準備位置60までインゴット6を搬送させる。また、制御部57は、第2搬送部52の動作を制御して、準備位置60の上方まで昇降部53及び把持部54を搬送させる。さらに、制御部57は、昇降部53及び把持部54を準備位置60の上方まで搬送させた後に、第1及び第2センサ55,56からの信号に基づいて昇降部53の昇降動作を制御して、インゴット6の近傍まで把持部54を降下させる。さらにまた、制御部57は、インゴット6の近傍まで把持部54を降下させた後に、爪541,542の開閉を制御して、把持部54にインゴット6を把持させる。
【0028】
搬送制御(ステップS2)では、制御部57は、第2搬送部52の動作を制御して、昇降部53及び把持部54をポット30の上方まで搬送させる。なお、制御部57は、把持部54にインゴット6を把持させた後に、昇降部53の昇降動作を制御して把持部54を上昇させてもよい。
【0029】
投入制御(ステップS3)では、第1及び第2センサ55,56からの信号に基づいて昇降部53の昇降動作を制御して、把持部54を降下させてインゴット6を溶融金属浴3に投入する。
【0030】
制御部57によるインゴット投入装置5の動作制御は、繰り返し行われる。すなわち、制御部57は、投入制御(ステップS3)が終了した後に準備制御(ステップS1)を適宜改めて行う。
【0031】
投入制御(ステップS3)の終了の直後に準備制御(ステップS1)等が必ず行われる必要はなく、投入制御(ステップS3)の終了と準備制御(ステップS1)等との間に休止時間があってもよい。第1搬送部51による準備位置60へのインゴット6の搬送制御は、第2搬送部52、昇降部53及び把持部54の動作制御と並行して実施されてもよい。すなわち、搬送制御(ステップS2)及び投入制御(ステップS3)中に第1搬送部51がインゴット6を準備位置60に搬送してもよい。
【0032】
次に、
図4は、
図3の投入制御において把持部54が降下される際の速度プロフィールの一例を示す説明図である。
図4の横軸は把持部54の昇降位置(降下開始位置から把持部54までの距離)であり、
図4の縦軸は把持部54の降下速度である。
【0033】
本実施の形態の制御部57は、把持部54を降下させてインゴット6を溶融金属浴3に投入する際に、第1及び第2センサ55,56からの信号に基づいて把持部54の昇降位置を監視している。
【0034】
本実施の形態の制御部57は、把持部54を降下させてインゴット6を溶融金属浴3に投入する際に、把持部54の昇降位置が所定の減速位置となった時に把持部54の降下を減速し、減速された速度でインゴット6を溶融金属浴3に投入する。換言すると、本実施の形態の制御部57は、降下開始位置から所定の減速位置(第1減速位置)までは第1速度で把持部54を降下させるとともに、把持部54の昇降位置が所定の減速位置となった際に第1速度よりも遅い第2速度まで把持部54の降下を減速させる。
【0035】
仮に、速い第1速度のまま把持部54を降下させてインゴット6を溶融金属浴3に投入した場合、インゴット6を溶融金属浴3に投入するために要する時間を短くすることができる。しかしながら、第1速度でインゴットを投入した場合、インゴット6の投入時に溶融金属浴3の湯面が大きく変動する虞がある。溶融金属浴3の湯面が大きく変動した場合、浴中に浸漬されている設備に付着したドロスが剥離して金属帯1に付着する虞がある。金属帯1にドロスが付着すると、溶融めっき金属帯2に品質異常が生じる。この品質異常は、溶融金属浴3が溶融Zn-Al-Mg系合金浴の場合に顕著に表れる。
【0036】
一方、降下開始位置から第2速度で把持部54を降下させると、インゴット6の投入時に溶融金属浴3の湯面が大きく変動することを回避できる。しかしながら、降下開始位置から第2速度で把持部54を降下させると、インゴット6を溶融金属浴3に投入するために要する時間が長くなり、溶融金属浴3の維持に支障を来す虞がある。
【0037】
そこで、本実施の形態では、上述のように把持部54の昇降位置が所定の減速位置となるまでは比較的速い速度で把持部54を降下させて、把持部54の昇降位置が所定の減速位置となった時に把持部54の降下を減速し、減速された速度でインゴット6を溶融金属浴3に投入することで、溶融金属浴3の湯面の変動を抑えることができるとともに、より確実に溶融金属浴を維持できるようにしている。この構成は、溶融金属浴3が溶融Zn-Al-Mg系合金浴の場合に特に有用である。
【0038】
なお、減速位置は、把持部54の降下開始位置よりも下方の位置であって、インゴット6の下端が溶融金属浴3に接する前の位置である。また、減速位置と溶融金属浴3の湯面との間の距離は、インゴット6の下端が溶融金属浴3に接する前に把持部54の降下速度を所定速度(第2速度)まで減速できる距離とされ、把持部54の減速度に応じて決定される。
【0039】
後に詳しく説明するように、本実施の形態の昇降部53はモータ538(
図7参照)の駆動力により把持部54を昇降させる。本実施の形態の制御部57は、昇降部53(モータ538)に供給する電力を制御するインバータを含んでおり、インバータによる電力制御によって上述のような把持部54の減速を実施する。但し、把持部54の減速は、例えばブレーキ機構又はモータと他の構成との間に設けられたギアの切り替え等の他の方法によって行われてもよい。
【0040】
本実施の形態の制御部57は、減速後の把持部54の速度(第2速度)を入力部58からの指令に基づいて決定する。具体的には、減速後の把持部54の速度(第2速度)として複数の速度候補が予め設定されており、制御部57は、入力部58からの指令に基づいて、複数の速度候補から減速後の把持部54の速度(第2速度)を決定する。
図4の一点鎖線は、実線の第2速度とは別の第2速度があることを示している。
【0041】
本実施の形態の制御部57が昇降部53の昇降動作の制御に用いる信号は、第1センサ55からの信号と第2センサ56からの信号とで切り替え可能とされている。制御部57は、入力部58からの指令に基づいて、昇降部53の昇降動作の制御に用いる信号を、第1センサ55からの信号と第2センサ56からの信号とのいずれか1つに決定する。但し、第1及び第2センサ55,56の信号に異常が生じているか否かを判定する機能を制御部57が有し、第1及び第2センサ55,56のいずれか一方の信号に異常が生じていると判定した場合に、制御に用いる信号を第1及び第2センサ55,56の他方の信号に制御部57が切り替えてもよい。
【0042】
本実施の形態の制御部57は、把持部54の昇降位置が所定の停止位置(第2減速位置)になった時に把持部54の降下をさらに減速し、把持部54の昇降を停止させる。把持部54の昇降が停止されているとき、インゴット6の上面は溶融金属浴3の湯面の下に位置する。停止位置は、インゴット6の上面が溶融金属浴3の湯面に侵入する前の位置であってもよいし、インゴット6の上面が溶融金属浴3の湯面に侵入した後の位置であってもよい。
【0043】
本実施の形態の制御部57は、把持部54の昇降を停止させた後に、把持部54の昇降を停止した状態(インゴット6を溶融金属浴3に浸漬している状態)を所定時間継続させた上で、昇降部53の昇降動作を制御して把持部54を上昇させる。本実施の形態の制御部57は、インゴット6を溶融金属浴3に投入した後であって把持部54を上昇させる前に、把持部54の二対の爪541,542を複数回開閉させる。二対の爪541,542を複数回開閉することで、インゴット6が爪541,542に引っかかった状態で把持部54が上昇されることを確実に回避することができる。
【0044】
次に、
図5及び
図6を用いて
図1の把持部54についてより詳細に説明する。
図5は、
図1の把持部54を示す正面図であり、把持部54によりインゴット6が把持されている状況を示している。
図6は、
図5の把持部54によるインゴット6の把持が解除された状態を示す説明図である。なお、
図5及び
図6では、二対の爪541,542の内の一対の爪541のみを示している。
【0045】
図5及び
図6に示すように、把持部54は、把持部基体540、一対の爪541、連結板543及びアクチュエータ544を有している。一対の爪541の内の一方を第1爪546と呼び、他方を第2爪547と呼ぶ。
【0046】
把持部基体540は、インゴット6の奥行方向6a及び幅方向6bに延在された構造物である。奥行方向6aに係る把持部基体540の一端側に一対の爪541が配置され、把持部基体540の他端側に他の一対の爪542(
図2参照)が配置されている。
【0047】
第1及び第2爪546,547は、軸体546a,547aを中心に把持部基体540に回動可能に取り付けられている。軸体546a,547aは、把持部基体540の他端側まで把持部基体540を貫通している。把持部基体540の他端側に配置された他の一対の爪542(
図2参照)は、第1及び第2爪546,547と軸体546a,547aを共有しており、第1及び第2爪546,547と一体に回動可能とされている。
【0048】
第1及び第2爪546,547は、爪基体546b,547bと、爪先端部546c,547cとを有している。
【0049】
爪基体546b,547bは、L字状の部材であり、基部546b0,547b0と、この基部546b0,547b0から突出された第1突部546b1,547b1及び第2突部546b2,547b2とを有している。基部546b0,547b0からの第1突部546b1,547b1の突出方向と基部546b0,547b0からの第2突部546b2,547b2の突出方向との間の角度は略90°とされている。
【0050】
基部546b0,547b0と第1突部546b1,547b1の先端との間には、上述の軸体546a,547aが固定されている。第1突部546b1,547b1の先端には、連結板543が回動可能に取り付けられている。第2突部546b2,547b2の先端には、アクチュエータ544が取り付けられている。アクチュエータ544の可動片が進退されることにより、軸体547aを中心に第2爪547が回動される。第2爪547の回動が連結板543を介して第1爪546に伝えられることにより、軸体546aを中心に第1爪546が回動される。アクチュエータ544としては、油圧シリンダ等を用いることができる。
【0051】
爪先端部546c,547cは、爪基体546b,547bの基部546b0,547b0に着脱可能に取り付けられている。爪先端部546c,547cは、インゴット6を溶融金属浴3に投入する際にインゴット6とともに溶融金属浴3に浸される。溶融金属浴3に浸されることにより爪先端部546c,547cが劣化することが有る。本実施の形態のように爪先端部546c,547cが爪基体546b,547bの基部546b0,547b0に着脱可能とされていることで、第1及び第2爪546,547全体ではなく、爪先端部546c,547cのみの交換が可能とされている。
【0052】
爪先端部546c,547cの先端側は、互いに近づくように屈曲されている。爪先端部546c,547cの先端側がインゴット6に設けられた凹部61に進入されることで、インゴット6を吊り上げることが可能とされている。爪先端部546c,547cの先端側の上面は、インゴット6を吊り上げる際にインゴット6に接触される接触部546d,547dを構成している。
【0053】
本実施の形態の把持部54では、第1爪546において、爪基体546bと爪先端部546cとの間にライナー548(介在物)が挿入されている。このため、第1爪546の爪先端部546cと第2爪547の爪先端部547cとが同形状であるにも拘わらず、第1爪546の接触部546dは、第2爪547の接触部547dよりも下方に配置されている。
【0054】
本実施の形態の把持部54は、接触部546d,547dの高さ位置の違いにより、インゴット6の上面62が水平に対して傾斜するようにインゴット6を把持するように構成されている。インゴット6の上面62が水平に対して傾斜していることにより、溶融金属浴3へのインゴット6の投入時にインゴット6の上面62が徐々に溶融金属浴3の湯面に進入していく。このため、インゴット6の上面62全体が一時に溶融金属浴3の湯面に進入する場合と比較して、インゴット6の投入時の溶融金属浴3の湯面変動を抑えることができる。
【0055】
次に、
図7及び
図8を用いて
図1の昇降部53についてより詳細に説明する。
図7は、
図1の昇降部53をより詳細に示す正面図であり、昇降部53により把持部54が降下された状態を示している。
図8は、
図7の昇降部53により把持部54が上昇された状態を示す説明図である。
【0056】
図7及び
図8に示すように、昇降部53は、第1リンク体531、第2リンク体532、第1ガイド部材533、第2ガイド部材534、線状体535、複数の滑車536、巻取車537及びモータ538を有している。
【0057】
第1及び第2リンク体531,532は、互いに交差するように配置された長手状部材である。第1リンク体531の一端531aは、把持部54の把持部基体540に回動可能に連結されている。第1リンク体531の他端531bは、第1ガイド部材533に設けられた長孔533aに沿って変位可能に設けられている。第1ガイド部材533は、第2リンク体532の他端532bの上方において第2搬送部52の可動体521に固定されている。第2リンク体532の一端532aは、第2搬送部52の可動体521に回動可能に連結されている。第2リンク体532の他端532bは、第2ガイド部材534に設けられた長孔534aに沿って変位可能に設けられている。第2ガイド部材534は、第1リンク体531の他端531bの下方において把持部54の把持部基体540に固定されている。
【0058】
線状体535は、例えばワイヤ又はチェーン等により構成されるものである。線状体535の一端は、把持部54の把持部基体540に固定されている。線状体535は、複数の滑車536に巻きかけられて巻取車537まで案内されている。巻取車537には、モータ538が接続されている。
【0059】
モータ538の駆動力により巻取車537が順方向(第1方向)に回転されることで、線状体535が巻取車537に巻き取られる。この巻取車537への線状体535の巻き取りにより、把持部基体540を通して把持部54全体が上昇される。また、モータ538の駆動力により巻取車537が逆方向(第2方向)に回転されることで、線状体535が巻取車537から送り出される。この巻取車537からの線状体535の送り出しにより、把持部54が自重により降下される。本実施の形態の昇降部53では、モータ538の回転速度を制御することにより把持部54の上昇及び降下の速度を制御される。上述のように、本実施の形態の制御部57は、モータ538の回転速度を制御するためにインバータを含んでいる。
【0060】
把持部54が上昇及び降下されるとき、第1及び第2リンク体531,532の他端531b,532bが第1及び第2ガイド部材533,534の長孔533a,534aに沿って変位される。これにより、把持部54の揺れが抑えられる。
【0061】
本実施の形態の溶融めっき金属帯の製造方法は、溶融金属浴3に金属帯1を浸漬させて溶融めっき金属帯2を製造する方法であって、上述のインゴット投入装置5により溶融金属浴3にインゴット6を投入することを含む。
【0062】
次に、実施例を挙げる。本発明者は、鋼板を溶融Zn-Al-Mg系合金浴に浸漬して、Zn-Al-Mg系合金のめっき層を有する溶融めっき金属帯2を製造した。また、溶融Zn-Al-Mg系合金浴にインゴット6を随時投入して溶融Zn-Al-Mg系合金浴を維持した。3.4m/分の降下速度でインゴット6を溶融Zn-Al-Mg系合金浴に投入したところ、インゴット6の投入タイミング毎に溶融めっき金属帯2にめっき層の品質異常が発生した。これに対して、0.54m/分の降下速度まで減速してインゴット6を溶融Zn-Al-Mg系合金浴に投入したところ、品質異常の発生を回避することができた。
【0063】
このようなインゴット投入装置5及び溶融めっき金属帯の製造方法では、制御部57は、把持部54を降下させてインゴット6を溶融金属浴3に投入する際に、把持部54の昇降位置が所定の減速位置となった時に把持部54の降下を減速し、減速された速度でインゴット6を溶融金属浴3に投入するので、溶融金属浴3の湯面の変動を抑えることができるとともに、より確実に溶融金属浴を維持できる。この構成は、溶融金属浴3が溶融Zn-Al-Mg系合金浴の場合に特に有用である。
【0064】
また、制御部57は、昇降部53に供給する電力を制御するインバータを含むので、把持部54の減速を任意に行うことができる。
【0065】
さらに、制御部57は、入力部58からの指令に基づき、減速後の把持部54の降下速度を決定するので、把持部54の降下速度を任意に変更することができる。
【0066】
さらにまた、制御部57が制御に用いる信号は、第1センサ55からの信号と第2センサ56からの信号とで切り替え可能であるので、第1及び第2センサ55,56のいずれか一方に不具合が生じても他方からの信号により制御を実施でき、センサの不具合により溶融めっき金属帯2の生産効率が悪化することを回避することができる。
【0067】
また、把持部54は、インゴット6の上面62が水平に対して傾斜するようにインゴット6を把持するように構成されているので、溶融金属浴3へのインゴット6の投入時にインゴット6の上面62を徐々に溶融金属浴3の湯面に進入させることができる。これにより、インゴット6の上面62全体が一時に溶融金属浴3の湯面に進入する場合と比較して、インゴット6の投入時の溶融金属浴3の湯面変動を抑えることができる。
【0068】
さらに、第1爪546の接触部546dが第2爪547の接触部547dよりも下方に配置されているので、より確実にインゴット6の上面62が水平に対して傾斜するようにインゴット6を把持することができる。
【0069】
さらにまた、第1爪546において、爪基体546bと爪先端部546cとの間にライナー548(介在物)が挿入されているので、第1爪546の爪先端部546cと第2爪547の爪先端部547cとが同形状であっても、第1爪546の接触部546dを第2爪547の接触部547dよりも下方に配置させることができる。
【0070】
また、制御部57は、インゴット6を溶融金属浴3に浸漬した後であって把持部54を上昇させる前に二対の爪541,542を複数回開閉させるので、インゴット6が爪541,542に引っかかった状態で把持部54が上昇されることを確実に回避することができる。
【0071】
なお、実施の形態では、把持部54は二対の爪541,542を有すると説明したが、把持部は、一対の爪を有していてもよいし、三対以上の爪を有していてもよい。
【0072】
また、実施の形態では、第1爪546において爪基体546bと爪先端部546cとの間にライナー548(介在物)を挿入することで、第1爪546の接触部546dを第2爪547の接触部547dよりも下方に配置するように説明したが、第1爪を第2爪よりも長くして、第1爪の接触部を第2爪の接触部よりも下方に配置してもよい。
【0073】
さらに、実施の形態では、第1爪546の接触部546dを第2爪547の接触部547dよりも下方に配置することで、インゴット6の上面62が水平に対して傾斜するようにインゴット6を把持すると説明したが、把持部に把持された際に上面が水平に対して傾斜して延在する形状をインゴットが有していてもよい。
【0074】
さらにまた、第1及び第2センサ55,56が互いに異なる物理量を測定すると説明したが、第1及び第2センサは互いに同じ物理量を測定してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 金属帯
2 溶融めっき金属帯
3 溶融金属浴
5 インゴット投入装置
53 昇降部
54 把持部
541,542 爪
546b,547b 爪基体
546c,547c 爪先端部
546d,547d 接触部
548 ライナー(介在物)
55 第1センサ
56 第2センサ
57 制御部
58 入力部
6 インゴット
62 上面。