(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】急性冠症候群のリスクを推定するための決定木ベースのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230216BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/48 Z
(21)【出願番号】P 2018551197
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(86)【国際出願番号】 US2017025526
(87)【国際公開番号】W WO2017173353
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-31
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391008788
【氏名又は名称】アボット・ラボラトリーズ
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベシリ,アギム
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ,シャオチン
(72)【発明者】
【氏名】ホワン,ジャネル
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0233312(US,A1)
【文献】特表2013-513387(JP,A)
【文献】株式会社リクルートホールディングス,Press Release,日本,2015年11月17日
【文献】B.E.Backus,A prospective validation of the HEART score for chest pain patients at the emergency department,International Journal of Cardiology,Internal Journal of Cardiology,2013年,168,p.2153-2158
【文献】Luis Leite,Chest pain in the emergency department: risk stratification with Manchester triage system and HEART score,MBC Cardiovascular Disorders,BMC Cardiovascular Disorders,2015年,15:48,p.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイプI(急性)の心筋梗塞(AMI)を有すると疑われる対象における
AMIの推定リスクを報告するための方法であって、
a)前記対象の対象値を取得するステップであって、前記対象が
AMIを有すると疑われており、前記対象値が、
i)対象の性別
値及び対象の年齢値の
それぞれ、
ii)前記対象の初期サンプルからの対象の初期の心臓トロポニンI(cTnI)の濃度、並びに
iii)
前記初期サンプルから1時間以内に前記対象
から採取された対応する後続のサンプルから
の後続のcTnIの濃度
を含むステップ、
b)処理システムを用いて、前記対象の
AMIの推定リスクが決定されるように前記対象値を処理するステップ、並びに
c)前記処理システムによって決定された前記対象の前記
AMIの推定リスクを報告するステップを含み、
前記処理システムが、
i)コンピュータプロセッサ並びに
ii)1つ以上のコンピュータプログラム及びデータベースを含む非一時的コンピュータメモリ
を備え、前記1つ以上のコンピュータプログラムは、変化率アルゴリズム及び相加的系統樹アルゴリズムを含み、
前記データベースが、少なくとも
800個の異なる決定木を含み、それぞれの決定木が、少なくとも2つの異なる所定の分割変数及び少なくとも3つの所定の終端ノード値を含み、
前記少なくとも2つの異なる所定の分割変数が、cTnIの変化率値の閾値と、初期のcTnIの濃度値の閾値と、性別
値及び年齢の閾値のうち少なくとも1つとからなる群から選択されたものであり、
前記1つ以上のコンピュータプログラムが、前記コンピュータプロセッサとともに、
A)前記変化率アルゴリズムを適用して、前記対象の初期のcTnIの濃度、及び前記後続のcTnIの濃度から、対象のcTnIの変化率値を決定し、
B)前記対象のcTnIの変化率値、前記対象の初期のcTnIの濃度並びに前記対象の性別
値及び前記年齢値のうち少なくとも1つを前記データベースに適用することにより、
前記少なくとも
800個の異なる決定木の各々の終端ノード値を決定し、そして、
C)前記相加的系統樹アルゴリズムを適用することにより、I)前記少なくとも
800個の異なる決定木のそれぞれの前記終端ノード値から合成値を決定し、II)前記合成値を処理して、前記対象の
AMIの推定リスクを決定する
ように構成されている、方法。
【請求項2】
前記
AMIのリスクが、その個々の対象のリスクの可能性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
d)以下のアクション、すなわち
i)前記
AMIの推定リスクが中等度であることに基づいて、前記対象に対して少なくとも1つの追加の診断試験を遂行すること、
ii)前記
AMIの推定リスクが中等度であることに基づいて、前記対象由来のサンプルを、1つ以上の非トロポニンIのCVDリスクアッセイで試験すること、及び
iii)前記
AMIの推定リスクが中等度であることに基づいて、前記対象に対してストレス試験を遂行すること
のうち少なくとも1つを遂行するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
d)以下のアクション、すなわち
i)前記対象の前記
AMIの推定リスクをユーザに通信すること、
ii)前記対象の前記
AMIの推定リスクを表示すること、
iii)前記
AMIの推定リスクを提供するレポートを生成すること
、並びに
iv)前記
AMIの推定リスクを提供するレポートを用意すること及び/又は伝送することのうち少なくとも1つを遂行するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
対象値を取得する前記ステップが、検査室、前記対象、分析的な試験システム及び/又は携帯用試験デバイス若しくはポイントオブケア試験デバイスから前記対象値を受け取るステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記処理システムが、前記分析的な試験システム及び/又は前記携帯用試験デバイス若しくは前記ポイントオブケア試験デバイスをさらに備える、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対象値を取得する前記ステップが、前記対象値を電子的に受け取るステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
対象値を取得する前記ステップが、cTnIの検出アッセイで、前記初期サンプル、及び/又は前記後続のサンプルを試験するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記処理システムに手動又は自動で前記対象値を入力するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が胸痛を有するヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記a)i)が、前記対象の性別値である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記a)i)が、対象の年齢を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも
800個の異なる決定木が、少なくとも
987個の異なる決定木である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記対象由来の前記初期サンプルが、血液サンプル、血清サンプル又は血漿サンプルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記初期サンプルが、救急室又は緊急医療クリニックにおいて前記対象から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記後続のサンプルが、血液サンプル、血清サンプル又は血漿サンプルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
a)コンピュータプロセッサ並びに
b)1つ以上のコンピュータプログラム及びデータベースを含む非一時的コンピュータメモリを備える処理システムであって、前記1つ以上のコンピュータプログラムが、変化率アルゴリズム及び相加的系統樹アルゴリズムを含み、
前記データベースが、少なくとも
800個の異なる決定木を含み、それぞれの決定木が、少なくとも2つの異なる所定の分割変数及び少なくとも3つの所定の終端ノード値を含み、
前記少なくとも2つの異なる所定の分割変数が、cTnIの変化率値の閾値、初期のcTnIの濃度値の閾値、性別
値及び年齢の閾値からなる群から選択されたものであり、
前記1つ以上のコンピュータプログラムが、前記コンピュータプロセッサとともに、
i)前記変化率アルゴリズムを適用して、対象の初期のcTnIの濃度、及び
前記初期サンプルから1時間以内に採取した対象の後続のcTnIの濃度から、対象のcTnIの変化率値を決定し、
ii)前記対象のcTnIの変化率値、前記対象の初期のcTnIの濃度、並びに対象の性別値
及び年齢
値のうち少なくとも1つを前記データベースに適用することにより、前記少なくとも
800個の異なる決定木の各々の終端ノード値を決定して、
iii)前記相加的系統樹アルゴリズムを適用することにより、a)前記少なくとも
800個の異なる決定木の各々の前記終端ノード値から合成値を決定し、b)前記合成値を処理して前記対象の
タイプI(急性)の心筋梗塞(AMI)の推定リスク
を決
定するように構成されている、処理システム。
【請求項19】
ディスプレイをさらに備えるシステムであって、前記ディスプレイが、前記非一時的なコンピュータメモリに動作可能に関連づけられており、前記対象の前記
AMIのリスクを表示するように構成されている、請求項
18に記載のシステム。
【請求項20】
cTnIの分析的な試験システム並びに/あるいは携帯用若しくはポイントオブケアのcTnIのポイントオブケア試験デバイスをさらに備える、請求項
18に記載のシステム
【請求項21】
グラフィカルユーザインターフェースをさらに含む、請求項
18に記載のシステム。
【請求項22】
前記グラフィカルユーザインターフェースが、デスクトップコンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン及びポイントオブケア分析デバイスから選択されたデバイスの一部分である、請求項
21に記載のシステム。
【請求項23】
サンプル分析器をさらに備え、前記コンピュータメモリの少なくとも一部分が前記サンプル分析器の内部にある、請求項
18に記載のシステム。
【請求項24】
検査室インターフェースシステム(LIM)の少なくとも一部分をさらに備える、請求項
18に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、どちらも参照により全体が本明細書に組み込まれている、2016年3月31日出願の米国仮特許出願第62/316,037号及び2016年5月31日出願の米国仮特許出願第62/343,606号の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、急性冠症候群(ACS)又はACS併発症を有する疑いのある対象のACSのリスクを推定するための、決定木ベースのシステム及び方法を提供するものである。詳細には、ACS又はACS併発症の推定リスクを生成するために、対象の初期の心臓トロポニンI又はT(cTnI又はcTnT)の濃度、対象のcTnI又はcTnTの変化率、及び対象の年齢、対象のECG値、対象の血液パラメータ値及び/又は性別を処理するのに、相加的な決定木ベースのアルゴリズムを採用するシステム及び方法が提供される。そのような重症度分類により、たとえば患者に緊急治療が必要か否かを決定することが可能になる。
【背景技術】
【0003】
ACSの疑いのある患者は、毎年、米国の救急科を受診する患者の最大800万人を構成する。これらの患者のうち20~25%には心臓発作があるが、残りはそうではない。標準的な医療は、現在、トリアージ方式で心臓カテーテル検査室へ回される偽陽性に対処しているが、これはリスクがないわけではない(約1/1000の有害事象、1/10000の死)。加えて、誤診をもたらし得る偽陰性率は、より重大な転帰又は死亡率の増加をもたらす。最後に、この患者母集団の不適当で時機を失した階層化(statification)のために、医療費が発生する。ACS母集団は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)及び不安定狭心症(UA)を有する患者を含み、後の2つのカテゴリが、診断されたACS患者のほとんどを包含する。医療の現在のガイドライン及び標準は、ACSの疑いのある患者を、臨床症状、履歴及び理学的方法に加えて、ECG及びトロポニン測定のような診断法に基づいて扱うものである。STEMIについては、ECGが、ECGにST上昇が反映される組織の障害を有する患者を識別する際の代表的な判断基準である。NSTEMI及びUAについては、トロポニン測定が、これらの患者をMIの適切なリスクカテゴリへ階層化するのを支援し、トリアージ方式で迅速に対処する際の代表的な判断基準である。ガイドラインは、トロポニンを測定して99%の閾値と比較することを推奨している。しかしながら、そのような比較は、患者の特定の特性に関して個別に取り扱われるわけではなく、ACSのリスクに関して偽陰性及び偽陽性をもたらす恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2012/0076803号明細書
【文献】米国特許第8,535,895号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】Torres and Moayedi、2007年、Clin. Geriatr. Med.23(2):307-25、vi
【文献】Liら、Arch Cardiovasc Dis.、2016年3月、109(3):163-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、急性冠症候群(ACS)又はACS併発症を有する疑いのある対象のACS及び/又はACS併発症のリスクを推定するための、決定木ベースのシステム及び方法を提供するものである。詳細には、ACS及び/又はACS併発症の推定リスクを生成するために、対象の初期の心臓トロポニンI又はT(cTnI又はcTnT)の濃度、対象のcTnI又はcTnTの変化率、対象の年齢、対象のECG値、対象の血液パラメータ値(たとえば白血球の平均体積、血小板の母集団データ、及び赤血球の亜母集団データ又は血液分析器によって生成された他の完全血球算定データ)及び/又は性別を処理するのに、相加的な決定木ベースのアルゴリズムを採用するシステム及び方法が提供される。そのような重症度分類により、たとえば患者に緊急治療が必要か否かを決定することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される、(たとえば急性冠症候群(ACS)を有すると疑われる対象の)ACS及び/又は(たとえばACS併発症を有すると疑われる対象の)ACS併発症の予測されたリスクを報告するための方法は、a)対象の対象値を取得するステップであって、対象値が、i)対象の性別値、ECG(心電図)値、血液パラメータ値(たとえば白血球の平均体積、血小板の母集団データ、赤血球の亜母集団データ、血液分析器によって生成された他の完全血球算定データ)及び対象の年齢値のうち少なくとも1つ、ii)対象の初期サンプルからの初期の心臓トロポニンI及び/又はT(cTnI又はcTnT)の濃度、並びにiii)対象の、第1のサンプル及び/又は第2の後続のサンプルからの、対応する第1のcTnI及び/又はcTnTの濃度並びに/あるいは対応する第2の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度を含むステップ、b)処理システムを用いて、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクが決定されるように対象値を処理するステップ、並びにc)処理システムによって決定された対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを報告するステップを含み、処理システムが、i)コンピュータプロセッサ並びにii)1つ以上のコンピュータプログラム及びデータベースを含む非一時的コンピュータメモリ(たとえば単一のメモリ素子又は複数の分散されたメモリ素子)であって、1つ以上のコンピュータプログラムが、変化率アルゴリズム及び相加的系統樹(additive tree)アルゴリズムを含み、データベースが、少なくともM個の決定木(たとえば4...20...50...100...500...800...1000以上の決定木)を含み、それぞれの決定木が、少なくとも2つの所定の分割変数及び少なくとも3つの所定の終端ノード値を含み、少なくとも2つの所定の分割変数が、cTnI及び/又はcTnTの変化率値の閾値、初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度値の閾値並びに性別値、ECG値の閾値、血液パラメータ値の閾値及び年齢の閾値のうち少なくとも1つからなる群から選択され、1つ以上のコンピュータプログラムが、コンピュータプロセッサとともに、A)変化率アルゴリズムを適用して、対象の初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度、第1の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度並びに第2の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度のうち少なくとも2つから、対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値を決定し、B)対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値、対象の初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度、並びに対象の性別値、対象のECG値、対象の血液パラメータ及び/又は年齢値のうち少なくとも1つを、データベースに適用することにより、少なくともM個の決定木の各々の終端ノード値を決定して、C)相加的系統樹アルゴリズムを適用することにより、I)M個の終端ノード値から合成値を決定し、II)合成値を処理して、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを決定するように構成されている、非一時的コンピュータメモリを備える。
【0008】
特定の実施形態では、推定リスクを決定するための、合成値の前記処理は、指標値を決定するステップ及び前記指標値を推定リスク指標値のルックアップ表と比較して推定リスクを決定するステップを含む。特定の実施形態では、ACSはタイプIの心筋梗塞であり、対象は、その指標値が約1.1未満であれば低リスクであると決定され、その指標値が約1.1~約57.0であれば中等度のリスクであると決定され、その値が約57.1超であれば高リスクであると決定される。他の実施形態では、ACSは心筋梗塞であり、対象は、その指標値が約3.0以下であれば低リスクを有すると決定され、その指標値が約3.1~約48.9であれば中等度のリスクであると決定され、その値が約49.0以上であれば高リスクであると決定される。
【0009】
他の実施形態では、本明細書で提供される、(たとえば急性冠症候群(ACS)又はACS併発症を有すると疑われる)対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを報告するための方法は、a)対象の対象値を取得するステップであって、対象値が、i)対象の性別値(たとえば女性の値が男性の値よりも小さい任意の値)、対象の年齢値、対象のECG値及び対象の血液パラメータ値のうち少なくとも1つ、ii)対象の初期サンプルからの初期の心臓トロポニンI又はT(cTnI又はcTnT)の濃度並びにiii)異なる時間において対象から得られた少なくとも2つのサンプルに基づく、対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値を含むステップ、b)処理システムを用いて、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクが決定されるように対象値を処理するステップ、並びにc)特定の実施形態がさらに含むステップであって、処理システムによって決定された対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを報告するステップを含み、処理システムが、i)コンピュータプロセッサ並びにii)1つ以上のコンピュータプログラム及びデータベースを含む非一時的コンピュータメモリであって、1つ以上のコンピュータプログラムが、相加的系統樹アルゴリズムを含み、データベースが、少なくともM個の決定木を含み、それぞれの決定木が、少なくとも2つの所定の分割変数及び少なくとも3つの所定の終端ノード値を含み、少なくとも2つの所定の分割変数が、cTnI及び/又はcTnTの変化率値の閾値、初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度値の閾値、性別値、ECG値の閾値、血液パラメータ値の閾値及び年齢の閾値からなる群から選択され、1つ以上のコンピュータプログラムが、コンピュータプロセッサとともに、A)対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値、対象の初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度及び対象の性別値及び/又は年齢値を、データベースに適用して、少なくともM個の決定木(たとえば4...20...50...100...500...800...1000以上の決定木)の各々の終端ノード値を決定し、B)相加的系統樹アルゴリズムを適用することにより、I)M個の終端ノード値から合成値を決定し、II)合成値を処理して、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを決定するように構成されている、非一時的コンピュータメモリを備える。
【0010】
特定の実施形態では、本明細書で提供される処理システムは、a)コンピュータプロセッサ並びにb)1つ以上のコンピュータプログラム及びデータベースを含む非一時的コンピュータメモリを備え、、1つ以上のコンピュータプログラムが、相加的系統樹アルゴリズムを含み、データベースが、少なくともM個の決定木(たとえば4...20...50...100...500...800...1000以上の決定木)を含み、それぞれの決定木が、少なくとも2つの所定の分割変数及び少なくとも3つの所定の終端ノード値を含み、少なくとも2つの所定の分割変数が、cTnI及び/又はcTnTの変化率値の閾値、初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度値の閾値、性別値、ECG値の閾値、血液パラメータ値の閾値及び年齢の閾値からなる群から選択され、1つ以上のコンピュータプログラムが、コンピュータプロセッサとともに、A)対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値の閾値、対象の初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度値の閾値、並びに対象の性別値、対象の年齢値、対象のECG値及び対象の血液パラメータ値のうち少なくとも1つをデータベースに適用して、少なくともM個の決定木(たとえば4...20...50...100の...500...800...1000以上の決定木)の各々の終端ノード値を決定し、B)相加的系統樹アルゴリズムを適用することにより、I)M個の終端ノード値から合成値を決定し、II)合成値を処理して、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを決定するように構成されている。特定の実施形態では、システムは、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクをもたらすレポートをさらに含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される非一時的コンピュータメモリ素子は、データベースにアクセスするように構成された1つ以上のコンピュータプログラムであって、変化率アルゴリズム及び相加的系統樹アルゴリズムを含む1つ以上のコンピュータプログラムを含み、データベースが、少なくともM個の決定木(たとえば4...20...50...100...500...800...1000以上の決定木)を含み、それぞれの決定木が、少なくとも2つの所定の分割変数及び少なくとも3つの所定の終端ノード値を含み、少なくとも2つの所定の分割変数が、cTnI及び/又はcTnTの変化率値の閾値、初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度値の閾値、性別値、ECG値の閾値、血液パラメータ値の閾値及び年齢の閾値からなる群から選択され、1つ以上のコンピュータプログラムが、コンピュータプロセッサとともに、i)変化率アルゴリズムを適用して、対象の初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度、対象の第1の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度、並びに対象の第2の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度のうち少なくとも2つから、対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値を決定し、ii)対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値、対象の初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度、並びに対象の性別値、対象のECG値、対象の血液パラメータ値及び年齢値のうち少なくとも1つをデータベースに適用することにより、少なくともM個の決定木の各々の終端ノード値を決定して、iii)相加的系統樹アルゴリズムを適用することにより、a)M個の終端ノード値から合成値を決定し、b)合成値を処理して、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを決定するように構成されている。特定の実施形態では、非一時的コンピュータメモリ素子はデータベースをさらに含む。
【0012】
特定の実施形態では、本明細書で提供される非一時的コンピュータメモリ素子は、データベースにアクセスするように構成された1つ以上のコンピュータプログラムを含み、1つ以上のコンピュータプログラムが、相加的系統樹アルゴリズムを含み、データベースが、少なくともM個の決定木(たとえば4...20...50...100...500...800...1000以上の決定木)を含み、それぞれの決定木が、少なくとも2つの所定の分割変数及び少なくとも3つの所定の終端ノード値を含み、少なくとも2つの所定の分割変数が、cTnI及び/又はcTnTの変化率値の閾値、初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度値の閾値、ECG値の閾値、血液パラメータ値の閾値、性別値及び年齢の閾値からなる群から選択され、1つ以上のコンピュータプログラムが、コンピュータプロセッサとともに、A)対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値、対象の初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度、並びに対象の性別値、対象の年齢値、対象のECG値、及び対象の血液パラメータ値のうち少なくとも1つをデータベースに適用することにより、少なくともM個の決定木の各々の終端ノード値を決定して、B)相加的系統樹アルゴリズムを適用することにより、I)M個の終端ノード値から合成値を決定し、II)合成値を処理して、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを決定するように構成されている。特定の実施形態では、非一時的コンピュータメモリ素子は、データベースをさらに備える。
【0013】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される処理システムは、a)コンピュータプロセッサ並びにb)1つ以上のコンピュータプログラム及びデータベースを含む非一時的コンピュータメモリを備え、1つ以上のコンピュータプログラムが、変化率アルゴリズム及び相加的系統樹アルゴリズムを含み、データベースが、少なくともM個の決定木(たとえば4...20...50...100...500...800...1000以上の決定木)を含み、それぞれの決定木が、少なくとも2つの所定の分割変数及び少なくとも3つの所定の終端ノード値を含み、少なくとも2つの所定の分割変数が、以下のもののうち少なくとも1つ:cTnI及び/又はcTnTの変化率値の閾値、初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度値の閾値、性別値、ECGの閾値、血液パラメータの閾値及び年齢の閾値からなる群から選択され、1つ以上のコンピュータプログラムが、コンピュータプロセッサとともに、i)変化率アルゴリズムを適用して、対象の初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度、対象の第1の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度、並びに対象の第2の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度のうち少なくとも2つから、対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値を決定し、ii)対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率値、対象の初期のcTnI及び/又はcTnTの濃度、並びに対象の性別値、対象のECG値、対象の血液パラメータ値及び年齢値のうち少なくとも1つをデータベースに適用することにより、少なくともM個の決定木の各々の終端ノード値を決定して、iii)相加的系統樹アルゴリズムを適用することにより、a)M個の終端ノード値から合成値を決定し、b)合成値を処理して、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを決定するように構成されている。
【0014】
特定の実施形態では、処理システムはディスプレイをさらに備え、ディスプレイは、非一時的コンピュータメモリに対して動作可能に関連づけられており、対象のACS及び/又はACS併発症のリスクを表示するように構成されている。さらなる実施形態では、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクは、高リスク(たとえばACS及び/又はACS併発症を有する可能性が高い)、中等度のリスク(たとえば、対象がACS又はACS併発症を有するかどうか不明瞭なため、より多くの試験が必要とされ得る)又は低リスク(たとえば、対象がACS又はACS併発症を有する可能性が低く、したがって、それ以上の試験又は治療は不要である)として報告される。特定の実施形態では、対象の、ACSの推定リスク及び/又はACS併発症の推定リスクは、その個々の対象に関するリスクの蓋然性である。
【0015】
特定の実施形態では、方法は、d)以下のi)~ix)のアクションのうち少なくとも1つを遂行するステップ(又は、対象には以下のi)~ix)のうち1つが必要であると診断するステップ)をさらに含む。i)ACSの推定リスクが高いことに基づいて、対象に対して冠状動脈のカテーテル挿入又はステント挿入を遂行すること、ii)ACSの推定リスクが高いことに基づいて、対象を心疾患(CVD)治療で治療すること、iii)ACSの推定リスクが高いことに基づいて、対象にCVD治療を処方すること、iv)ACSの推定リスク又はACS併発症の推定リスクが中等度であることに基づいて、対象に対して少なくとも1つの追加の診断試験を遂行すること、v)ACS及び/又はACS併発症の推定リスクが高いことに基づいて、対象が病院又は他の治療施設に受け入れられるように許可すること及び/又は指示すること、vi)ACS及び/又はACS併発症の推定リスクが中等度であることに基づいて、対象からのサンプルを、1つ以上の非トロポニンIのCVDリスク分析評価で試験すること、vii)ACS及び/又はACS併発症の推定リスクが低いことに基づいて、対象を治療施設から退院させること、viii)ACSの推定リスクが中等度であることに基づいて、対象に対してストレス試験を遂行すること、並びにviii)対象の、退院後30日の主要な有害臨床事象(MACE)のリスクの可能性を決定すること。
【0016】
さらなる実施形態では、方法は、d)以下のi)~iv)のアクションのうち少なくとも1つを遂行するステップをさらに含む。i)対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクをユーザに通信すること、ii)対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを表示すること、iii)ACS及び/又はACS併発症の推定リスクを与えるレポートを生成すること、iv)ACS及び/又はACS併発症の推定リスクを与えるレポートを用意すること及び/又は伝送すること。
【0017】
特定の実施形態では、対象値を取得するステップは、検査室、対象、分析的な試験システム及び/又は携帯用試験デバイス若しくはポイントオブケア試験デバイスから、対象値を受け取るステップを含む。他の実施形態では、処理システムは、分析的な試験システム及び/又は携帯用試験デバイス若しくはポイントオブケア試験デバイスをさらに備える。他の実施形態では、処理システムは、より大きなコンピュータシステムのミドルウェアである。追加の実施形態では、対象値を取得するステップは、対象値を電子的に受け取るステップを含む。さらなる実施形態では、対象値を取得するステップは、cTnI及び/又はcTnTの検出分析で、初期サンプル、第1の後続のサンプル及び/又は第2の後続のサンプルを試験するステップを含む。他の実施形態では、cTnI及び/又はcTnTの検出分析は、単一分子の検出分析又はビーズベース(bead-base)の免疫学的検定を含む。特定の実施形態では、ACSは、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、不安定狭心症、タイプIの心筋梗塞、タイプIIの心筋梗塞、胸痛及び3時間以内(たとえば3時間未満、2時間未満又は1時間未満)に医療を受診した胸痛(早期受診患者として知られている)からなる群から選択される。特定の実施形態では、ACS併発症は、心不全、転移性腫瘍、腎臓病(たとえば腎不全)及び糖尿病からなる群から選択される。
【0018】
特定の実施形態では、方法は、処理システムに、対象値を手動又は自動で入力するステップを含む。追加の実施形態では、対象はヒト(たとえば25歳...35歳...45歳...55歳...65歳...75歳...85歳...若しくは95歳の男性又は女性)である。特定の実施形態では、対象は胸痛を有するヒトである。他の実施形態では、対象の性別及び/又は対象の年齢は、対象の性別を含む。特定の実施形態では、以下のもののうち少なくとも1つは、対象の年齢を含む。追加の実施形態では、以下のもののうち少なくとも1つは、対象年齢と対象の性別の両方を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、対象からの初期サンプルは、血液サンプル、血清サンプル又は血漿サンプルを含む。追加の実施形態では、初期サンプルは、救急室又は緊急医療クリニックの診療室において対象から得られる。さらなる実施形態では、第1の後続のサンプル及び/又は第2の後続のサンプルは、血液サンプル、血清サンプル又は血漿サンプルを含む。他の実施形態では、第1の後続のサンプル及び/又は第2の後続のサンプルは、初期サンプルの1~9時間以内に(たとえば1...3...5...7...又は9時間以内に)得られる。追加の実施形態では、第1及び/又は第2の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度は、第1の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度と、第2の後続のcTnI及び/又はcTnTの濃度との両方を含む。特定の実施形態では、対象値は、ECG測定値、対象の血液の血液解析、病歴、健康診断の結果及び現在の薬物療法からなる群から選択された対象測定値をさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、処理システムは、グラフィカルユーザインターフェースをさらに備え、方法は、グラフィカルユーザインターフェースを介して対象値を入力するステップをさらに含む。他の実施形態では、グラフィカルユーザインターフェースは、デスクトップコンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン及びポイントオブケア分析デバイスから選択されたデバイスの一部分である。特定の実施形態では、処理システムはサンプル分析器をさらに備える。いくつかの実施形態では、コンピュータメモリの少なくとも一部分はサンプル分析器の内部にある。特定の実施形態では、処理システムは検査室インターフェースシステム(LIM)をさらに備える。他の実施形態では、コンピュータメモリの少なくとも一部分はLIMの一部分である。いくつかの実施形態では、処理システムは、デスクトップコンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン及びポイントオブケア分析デバイスからなる群から選択された処理デバイスをさらに備える。特定の実施形態では、コンピュータメモリの少なくとも一部分は処理デバイスの内部にある。さらなる実施形態では、処理システムは、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを表示するように構成されたディスプレイ構成要素をさらに備える。他の実施形態では、ディスプレイ構成要素は、コンピュータモニタ、タブレットコンピュータスクリーン、スマートフォンスクリーン及びポイントオブケア分析デバイススクリーンから選択される。
【0021】
追加の実施形態では、変化率アルゴリズムは、第2の時間に得られた第2の対象サンプルからのcTnI及び/又はcTnTの濃度から、第1の時間に得られた第1の対象サンプルからのcTnI及び/又はcTnTの濃度を差し引いて、cTnI及び/又はcTnTの差を生成し、次いで、cTnI及び/又はcTnTの差を、第2の時間から第1の時間を差し引くことによって計算された時間差で割る。特定の実施形態では、時間差は分又は秒で測定される。いくつかの実施形態では、第1の対象サンプルは初期サンプル又は第1の後続のサンプルであり、第2の対象サンプルは第1の後続のサンプル又は第2の後続のサンプルである。
【0022】
特定の実施形態では、少なくともM個の決定木は、少なくとも5つの(たとえば5...10...35...100...250...500....800...1000個以上の)決定木を含む。いくつかの実施形態では、少なくともM個の決定木は、少なくとも800個の決定木を含む。さらなる実施形態では、所定の分割変数及び/又は所定の終端ノード値は、母集団データの分析から実験的に導出される。他の実施形態では、母集団データの分析は、ブーステッド決定木モデルを採用するステップを含む。いくつかの実施形態では、グループとしての少なくともM個の決定木は、少なくとも3つの分割変数を採用する。他の実施形態では、グループとしての少なくともM個の決定木は、少なくとも4つ又は少なくとも5つ又は少なくとも6つの分割変数を採用する。
【0023】
追加の実施形態では、変化率値の閾値は、毎分のcTnI及び/又はcTnTの濃度変化である。他の実施形態では、対象の年齢値は、対象の年齢又は年齢の範囲に基づく設定値のいずれかである。特定の実施形態では、設定値は、0~29歳、30~39歳、40~49歳、50~59歳、60~69歳、70~79歳及び80歳以上といった範囲に基づいて決定される。いくつかの実施形態では、性別値は、男性については1つの数(たとえば1.0)であり、女性についてはより小さい数(たとえば0.1又は0)である。
【0024】
特定の実施形態では、合成値は、非加重合成値又は加重合成値のいずれかである。追加の実施形態では、加重値は、重み値を掛けた終端ノード値のすべての合計である。さらなる実施形態では、M個の終端ノードからの合成値は、次式によって表される加重合成値であり、
【0025】
【数1】
この式で、T
iは個々の決定木を表し、Xは対象値を表し、β
iは少なくとも2つの分割変数を示し、α
iは重み値を表し、
【0026】
【数2】
はM個の決定木のすべての合計を表す。さらなる実施形態では、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを決定するための合成値の処理は、次式を解くステップを含み、
【0027】
【数3】
この式で、p1はACS又はACS併発症の推定リスクを表す。追加の実施形態では、合成評点は次式で表される
【0028】
【数4】
。この式はn=814(木の数)で示される。木の数は、付表Bに示される987のような異なる数又は3~10,000の数(たとえば3...100...1000...5000...10,000)でよい。
【0029】
特定の実施形態では、非一時的コンピュータメモリは、(たとえば表1に示されるような)対象の指標のルックアップ表をさらに含み、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを決定するための合成値の処理は、i)次式に合成値を適用して合計評点(SS)を見いだすステップ
【0030】
【数5】
、ii)次式にSSを適用して最終的な指標(IDX)を見いだすステップ
【0031】
【数6】
及びiii)対象の指標のルックアップ表にIDXを適用して、対象のACS及び/又はACS併発症の推定リスクを決定するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1A】決定木の一例を示す図である。この例示的決定木は、3つの分割変数(cTnI率、初期のcTnIの結果及び年齢に関するものであり、すべて長方形で示されている)、及び特定の患者がどの分割変数(円によって示される)の範囲に入るかということに基づく4つの終端ノードを示すものである。
【
図1B】一連の決定木(1~200)を示す図である。終端ノード値はすべて加算されてから重みづけ値(0.1)を掛けられる。
【
図2】付表Aのデータベース形式で示された815個の木のうちの3つに対応する、実施例2からの815個の決定木のうち3つをグラフィック形式で示す図である。
【
図3】本明細書で説明されたシステム及び方法において情報が入力されて処理され得る様子を示す例示的流れ図である。たとえば、初期のcTnI濃度及び後続のcTnI濃度を決定するために、胸痛を有する対象から、図に示された分析器を使用して複数回採血してもよい。次いで、分析器からの情報に加えて、患者の年齢及び性別が、検査室の情報システム(LIS)に入力される。次いで、急性冠症候群の推定リスクを生成するために、そのような情報が、木構造ベースの分析システムに供給される。このリスクは、治療する医者及び/又は患者に利用され得るように、適切な注釈とともに、レポートとして提供されてよく、LISへフィードバックされてよい。
【
図4】仮想の例示的患者レポートを示す図である。このレポートは、本明細書で説明されたアルゴリズムを用いてこの患者のパラメータ(たとえば初期のトロポニン値、トロポニンの比率、年齢及び性別)を試験した結果が、2.59の指標値、98.8%の感度及び99.73%のNPV(陰性的中率)を生成し得ることを表示している。これらの値から見て、この患者のACSリスクは低い。したがって、この患者は、(たとえば治療する医師又は診療室若しくは病院のスタッフによって)さらなるCVD試験は受けないことを推奨され得、CVD治療が不要であると勧められてよい。
【
図5】実施例3からの2つの決定木を示す図である。
【
図6】解析コホート(a)及び検証コホート(b)におけるタイプ1の心筋梗塞を有する患者の観測された割合を用いる、リスク推定指標の較正を示す図である。それぞれのポイントは、所与のリスク推定指標値の100人の患者のグループにおけるタイプ1の心筋梗塞を有する患者の観測された割合を表す。破線は最適な較正を表す。
【
図7】リスク推定アルゴリズムの、検証コホート(灰色)及び解析コホート(金色)における、その全体の範囲(0~100)にわたる性能を示す図である。黒線はそれぞれの指標値の閾値におけるポイント推定であり、網掛け領域は95%信頼区間である。
【
図8】低リスクの階層化のためのECGを組み込む、臨床応用向けの計画を示す図である。※この分析向けのECG分類を有する対象は10967人のみであったことに留意されたい。
【
図9】リスクを、1.1未満のリスク推定指標を有する低リスクの層に分類するサブグループの動作を示す図である。
【
図10】リスクを、57.1以上のリスク推定指標を有する高リスクの層に分類するサブグループの動作を示す図である。
【
図11】サンプル間の時間及び症状から第1の血液サンプルまでの時間の、それぞれのコホート及びサブグループ(実施例4のもの)に関する指標値の1.1の閾値の感度及びNPVのフォレストプロットである。※BACCコホートデータは、3時間以内と3時間超の2分変数としてしか入手できなかったため、ここには含まれていないことに留意されたい。
【
図12】サンプル間の時間及び症状から第1の血液サンプルまでの時間の、それぞれのコホート及びサブグループ(実施例4のもの)に関する指標値の57.1の閾値のPPV及び特異度のフォレストプロットである。※BACCコホートデータは、3時間以内と3時間超の2分変数としてしか入手できなかったため、ここには含まれていないことに留意されたい。
【
図13】実施例4で論じられた迅速な手法のうち1つ使用して患者のタイプIの心筋梗塞のリスクを推定するための流れ図である。
【
図14】実施例4で論じられた迅速な手法のうち1つ使用して患者のタイプIの心筋梗塞のリスクを推定するための流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
本明細書で使用されるような「急性冠症候群」という用語は、冠動脈における血流の減少のために、心筋の一部分が適切に機能することができないか又は死ぬような状態のグループを指すものである。最も一般的な症状は胸痛であり、しばしば左腕又は顎角に放散し、圧痛様の特徴、悪心と発汗とを伴う。急性冠症候群は、通常、ST上昇型心筋梗塞(STEMI、30%)、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI、25%)又は不安定狭心症(38%)(参照により全体が本明細書に組み込まれている、Torres and Moayedi、2007年、Clin. Geriatr. Med.23(2):307-25、vi)といった3つの問題のうち1つの結果として生じる。これらのタイプは、心電図(ECG/EKG)の様子に応じて、非ST上昇型心筋梗塞及びST上昇型心筋梗塞と名付けられる。急性冠症候群の下で心筋梗塞(MI)がどの形態に分類されるのかということについては、いくらかのバリエーションがあり得る。ACSは、活動中に生じ、休息時に解消する安定狭心症とは、区別されるべきである。安定狭心症とは対照的に、不安定狭心症は、しばしば休息中に、又は最低の活動若しくはその人の以前の狭心症のときよりも軽度の活動で突然生じる(漸増性狭心症)。初発狭心症は、冠状動脈の新規の問題を示唆するので、不安定狭心症とも考えられる。ACSは、通常、冠状動脈血栓症に関連するが、コカイン使用にも関連し得る。心臓性胸痛は、貧血、徐脈(過度に遅い心拍数)又は頻脈(過度の頻拍)によっても促進され得る。心臓への血流が減少することによる主症状は胸痛であり、胸苦しさとして経験され、左腕及び左顎角に放散する。これは、発汗(汗かき)、悪心嘔吐に加えて息切れにも関連し得る。多くの場合、感覚は「異型」であり、様々な痛みが体験され、全く痛みがないこともある(女性患者及び糖尿病を有する患者において、より可能性が高い)。動悸、不安又は差し迫った死(死切迫感)の感覚及び急性の気分悪さを伝える人もいる。胸痛を有する患者は、非常に頻繁に病院の救急室に入る。しかしながら、胸痛は、胃の不快感(たとえば消化不良)、肺性の苦痛、肺塞栓症、呼吸困難、筋骨格系疼痛(肉離れ、打撲傷)、消化不良、気胸、心臓性の非冠状動脈の状態及び急性の虚血性冠不全症候群(ACS)といった多くの原因に由来し得る。前述のように、ACSは、通常、ST上昇型心筋梗塞(30%)、非ST上昇型心筋梗塞(25%)又は不安定狭心症(38%)といった、冠動脈に関する3つの疾患のうちの1つである。これらのタイプは、心電図(ECG/EKG)の様子に応じて、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)及びST上昇型心筋梗塞(STEMI)と名付けられる。ACSは、通常、冠状動脈血栓症に関連するものである。医師は、患者が生命にかかわる虚血性ACSを有するかどうか判断する必要がある。そのような虚血性の心臓性事象の場合には、心筋組織のさらなる喪失を防止するために、閉鎖された冠状動脈を開放することによる迅速な処置が必須である。
【0034】
本明細書で使用されるような「急性冠症候群を有すると疑われる」は、対象が、前述の急性冠症候群の症状(たとえば胸痛又は胸苦しさの感じが左腕及び左顎角に放散すること)のうち少なくとも1つを有することを意味する。
【0035】
本明細書で使用されるような「診断」という用語は、対象における疾患の性質を決定することに加えて、疾患若しくは疾患エピソードの重症度及び起こり得る転帰及び/又は回復の見通し(予後)を決定することを包含し得る。「診断」は、療法の初期の選択、療法の調整(たとえば投与量及び/又は投与計画の調節あるいはライフスタイル変更の推奨)などを含む療法を診断が導く状況である、合理療法の状況における診断も、包含し得る。
【0036】
「個人」、「宿主」、「対象」及び「患者」という用語は、本明細書では相互交換可能に使用され、一般に、それだけではないが、サル及びヒトを含む霊長類、ウマ科の動物(たとえばウマ)、イヌ科の動物(たとえばイヌ)、ネコ科の動物、様々な飼育された家畜(たとえばイノシシ(swine)、ブタ(pig)、ヤギ、ヒツジのような有蹄動物)に加えて、飼育されたペット及び動物園の動物を含む、妊娠する哺乳動物を指す。いくつかの実施形態では、対象は具体的にはヒト対象である。
【0037】
本発明がさらに説明される前に、この発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、無論のこと変化し得るものであることを理解されたい。本明細書に用いられる専門用語は、特定の実施形態を説明するだけのためのものであり、限定するようには意図されていないことも理解されたい。
【0038】
値の範囲が与えられた場合、文脈が明らかに違うことを述べている場合を除き、その範囲の上限と下限との間の下限の大きさの1/10までの単位の介在値、及びその明示された範囲における何らかの他の明示された値若しくは介在値が、本発明の範囲内に包含されることが理解される。この明示された範囲において特に除外された何らかの限定がある場合に、より小さい範囲の上限と下限とが、このより小さい範囲に独立して含まれてよく、本発明の範囲にも包含される。明示された範囲が上限と下限との一方又は両方を含む場合には、これらの含まれる上限と下限との一方又は両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0039】
本明細書で用いられるすべての技術的用語及び科学用語は、別様に定義されなければ、この発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書で説明されたものに類似しているか又は同等であるいかなる方法及び材料も、本発明の実践又は試験において使用され得るが、望ましい方法及び材料が、次に説明される。本明細書で言及されたすべての公刊資料は、その公刊資料が関連づけて引用している方法及び/又は材料を開示して説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される、単数形「1つの(a)」、「及び」、及び「その(the)」は、文脈が明確に別様の指示をしない場合、複数の指示対象を含むことに留意する必要がある。したがって、たとえば「サンプル」への言及は、そのようなサンプルの複数を含み、特定のタンパク質への言及は、当業者に公知の1つ以上の特定のタンパク質及びその等価物などへの言及を含む。
【0041】
発明の詳細な説明
本発明は、急性冠症候群(ACS)及び/又はACS併発症を有する疑いのある対象のACS及び/又はACS併発症のリスクを推定するための、決定木ベースのシステム及び方法を提供するものである。詳細には、ACS及び/又はACS併発症の推定リスクを生成するために、対象の初期の心臓トロポニンI又はT(cTnI又はcTnT)の濃度、対象のcTnI及び/又はcTnTの変化率、並びに対象の年齢及び/又は性別を処理するのに、相加的な決定木ベースのアルゴリズムを採用するシステム及び方法が提供される。そのような重症度分類により、たとえば患者に緊急治療が必要か否かを決定することが可能になる。
【0042】
本明細書では、特定の実施形態において、第1及び第2のトロポニン結果、年齢及び性別の変数の入力を可能にする処理システム及び方法が提供される。これらの変数の入力は、対象が適切なリスクのカテゴリに階層化され得るように、ACS及び/又はACS併発症の推定リスクを提供するために、決定木ベースの統計的計算によって評価される。特定の実施形態では、本明細書のシステム及び方法は、対象からのサンプルの第1の収集と第2の収集の正確な時間又は(たとえば分単位の)ほぼ正確な時間に基づいて、トロポニンの変化率を決定することにより、サンプル収集間のタイミングの変数を扱う。本明細書のシステム及び方法は、特定の実施形態において、患者が分類される年齢の十分位数の影響を決定することによって年齢変数を扱う。本明細書のシステム及び方法は、いくつかの実施形態では、患者を男性のプロファイルと女性のプロファイルに分類することにより、性別の相違を扱う。
【0043】
本明細書のシステム及び方法は、患者の変数を考慮に入れて、患者の適切なリスクカテゴリを決定する。たとえば、本発明の実施形態の開発中に行われた作業では、本明細書のシステム及び方法は、ACSの疑いのある患者のほぼ87パーセントを、安全であるとして心筋梗塞(MI)を有する患者から除外可能にする低リスクのカテゴリへと分類し、また、ACSの疑いのある母集団の8%を、MIを有する高リスクのカテゴリへと適切に分類することにより、患者を、心臓カテーテル検査室へとトリアージ方式で対処する必要があるものとして扱う。これは、受診患者の圧倒的多数を急ぎの状況で扱うのに役立ち、急ぎの設定におけるさらなる精密検査又は観測が必要な患者は、たとえば、4~6%のみとなる。ACSの疑いのある患者のそのような(たとえば急ぎの状況の)重症度分類は、偽陽性及び偽陰性を低減する助けになり、有害転帰を低減するばかりでなく医療費も低減する。
【0044】
I.決定木アルゴリズム
特定の実施形態では、ACS(たとえばMI)又はACS併発症の推定リスクは、相加的系統樹モデルを使用して決定される。そのようなモデルの一例には、ブーステッド決定木モデルがあり(相加的なロジスティックモデルもあり)、これは木ベースの相加的な回帰モデルである。それは、hsトロポニンI又はTの診断の状況で次式のように数学的に表現され得、
【0045】
【数7】
この式で、p1=Prob(MIのような急性冠症候群)であり、T
i(X,β
i)は、パラメータβ
iを特徴とするX=(TnI又はTnTの変化率、性別、年齢、初期のTnI又は初期のTnTの結果)の決定木である。パラメータβ
iは、木T
iの分割変数、分割位置及び終端ノード予測である。
図1AはT
iの一例であり、変数「年齢」は、その影響が比較的軽微なために包含されていない。
【0046】
図1Aにおいて、長方形は分割変数及び対応する分割位置の値であり、円の中には木T
iの終端ノード予測がある。たとえば、TnT変化率=0.6、初期のTnT結果=500、年齢=40、性別が男性という対象については、上記の木による予測値は0.01269(下部左側の円)である。パラメータM及びα
iは、モデルの予測誤差と過剰適合のバランスをとるための正規化パラメータである。実際には、ブーステッド決定木は、複数の異なる決定木の加重総和と考えられ得る。特定の実施形態では、これらの木は独立して成長するのではなく、順次に成長する。たとえば、M=200及びα
i=0.01場合、式(1)の右側(F(X))は、
図1Bの図によって図解され得る。
【0047】
図1Bにおいて、この特定のブーステッド決定木モデルは、200の異なる個々の決定木の、重み0.01を有する加重総和であると理解され得る。
図1Bにおける矢印は、これらの個々の木が順次に成長すること、すなわち後の木は前の木に依拠して成長することを意味する。モデルのすべてのパラメータは、アルゴリズム及びルールによって決定されることに留意されたい。
【0048】
TnI変化率、初期のTnI結果、年齢及び性別に関する情報を有する特定の対象については、それぞれの木から(たとえば近くに数字がある円から)予測値が取得され得る。次いで、F(X)は(0.025-0.007+...+0.01)×0.01によって実際に取得される。この数が0.2であると想定すると、したがって式(1)からp1=0.12となる。p1は0~1の確率値であることに留意されたい。対象の指標は、p1に100を掛けることによって得られる12である。
【0049】
II.生体サンプル
心臓のトロポニンI及び/又はトロポニンTの濃度を決定するために、対象からの生体サンプルが試験される。生体サンプルは、必ずしも限定されないが、血液に関連するサンプル(たとえば全血、血清、血漿及び他の血液由来のサンプル)、尿、脳脊髄液、気管支肺胞洗浄などのような体液を含む。生体サンプルの別の例には組織サンプルがある。生体サンプルは新鮮なものであっても、又は貯蔵されたもの(たとえば血液又は血液分画は血液銀行に保管されている)であってもよい。生体サンプルは、この発明の分析のために特に採取された体液、又は別の目的のために採取されてこの発明の分析のためにサブサンプリングされ得る体液でよい。特定の実施形態では、生体サンプルは全血である。保存血液は、標準的な臨床診断法を使用して対象から採取され得る。他の実施形態では、生体サンプルは血漿である。血漿は、抗凝固処理血液を遠心分離することによって全血サンプルから取得され得る。そのような処理は、白血球成分の軟膜及び血漿の上清をもたらす。特定の実施形態では、生体サンプルは血清である。血清は、抗凝血剤なしのチューブにおいて収集された全血サンプルを遠心分離することによって取得され得る。血液は、遠心分離に先立って凝固しても許される。遠心分離によって取得される、やや黄色の赤みがかった流体が、血清である。別の実施形態では、サンプルは尿である。サンプルは、限定されないが、超遠心分離法、高速液体クロマトグラフィ(FPLC)による分別、若しくは硫酸デキストランを用いるタンパク質含有アポリポ蛋白質Bの沈殿又は他の方法を含む任意数の方法により、必要に応じて適切な緩衝液中に希釈することによって前処理され、ヘパリン処理され、必要なら濃縮され、又は分画されてよい。リン酸エステル、トリスなどのような生理的pHの複数の標準的な水性緩衝液のうち任意のものが使用され得る。
【0050】
III.例示的検出分析
本発明は、心臓のトロポニンI(cTnI)又はトロポニンT(cTnT)を検知するのに使用される分析のタイプによって限定されることはない。特定の実施形態では、トロポニンIを検出するための方法は、U.S. Patent Application Publication 2012/0076803及びU.S. Pat. No. 8,535,895に説明されており、それらの両方が、特に分析設計のために、参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施形態では、トロポニンTを検出するための方法は、Elecsys(登録商標)のトロポニンT高感度(TnT-hs)分析(ROCHE)を採用する(特に高感度トロポニンT検出の説明のために参照により全体が本明細書に組み込まれている、Liら、Arch Cardiovasc Dis.、2016年3月、109(3):163-70を参照されたい)。
【0051】
特定の実施形態では、cTnI及び/又はcTnTを検出するために、免疫測定が採用される。市販のcTnI又はcTnTの分析法を含む、当技術分野で公知の任意の適切な分析法が、使用され得る。そのような分析法の例は、限定されないが、サンドイッチ免疫測定法(たとえば放射性同位元素検出(放射免疫定量法(RIA))及び酵素検出(酵素免疫測定法(EIA)又は酵素結合免疫吸着定量法(ELISA)(たとえばQuantikine ELISA assays, R&D Systems、ミネソタ州ミネアポリス)を含む、単クローン-多クローンのサンドイッチ免疫測定法、(たとえば順方向及び逆方向の)競合的阻害免疫測定法、蛍光偏光免疫測定法(FPIA)、酵素増幅免疫測定法技術(EMIT)、生物発光共鳴エネルギー伝達(BRET)及び均質の化学発光法など、)のような免疫測定法を含む。特定の実施形態では、cTnIは、Singulex社のERENNA検出分析システム又はAbbottのhs TnI STAT ARCHITECT分析法を用いて検出される。
【実施例】
【0052】
以下の実施例は、説明の目的のみを意図しており、特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。
【0053】
[実施例1]
患者母集団の試験
この実施例は、86人が心筋梗塞(MI)を有し、886人が非MI患者であった972人の対象の母集団の試験を説明するものである。この試験により、付表Aに示される815個(M=815)の木データベースに加えて、以下の表1に示される指標参照表の開発が可能になった。
【0054】
【0055】
[実施例2]
患者のACSリスクの決定
この実施例は、患者のACSリスクを決定する例示的方法を説明するものである。患者は胸痛を伴って救急室に来る。関連する患者情報は、患者に質問し、患者からの初期の血液サンプル及び第2の血液サンプルを試験して心臓トロポニンIの濃度を決定することにより、患者から収集する。患者情報を以下の表2に示す。
【0056】
【0057】
TnI率(毎分)は、2つのhs TnI濃度値の間の差を、対象の最初の2つの入手可能な時点からの収集時間(分の単位)の間の対応する差で割ったものを使用して計算される。次に、年齢が、「30歳未満」(1)、「30歳~40歳未満」(2)、「40歳~50歳未満」(3)、「50歳~60歳未満」(3)、「60歳~70歳未満」(4)、「70歳~80歳未満」(6)、「80歳以上」(7)、といった具合に十分位数(1~7)分類される。この患者は86歳で、年齢十分位数の「7」であった。性別は、女性=0、男性=1ということに基づいて割り当てられる。したがって、この女性患者は、性別についてはゼロの値を割り当てられた。
【0058】
次に、この患者に関する表2からの値が、所定の一連の決定木に適用される。この例では、この患者に関する値が、付表Aの815個の決定木(0~814の木)のデータベースに適用される。
図2は、付表Aからの815個の木のうち3つを図式の形態で示すものであり、木0、木215及び木814を含む。木0は、たとえば、分割変数としてcTnI率≦0.17833を示す。0.17833以下であれば左側へ分割し、0.17833以上であれば右側へ分割することになる。この例の患者は0.025の率を有しており、したがって左側へ分割される。左側へ分割すると、≦73.55の初期のcTnI結果の分割変数ボックスがある。この患者は15.3pg/mlの初期濃度を有し、したがって左側の終端ノード-0.008939へ分割し、したがってこれがこの木の値である。
【0059】
付表Aは同一の決定木を有するが、データベースの形態である。付表Aの第1の列は木の番号(0~814)を包含している。第2の列はノードラベル(0~6)を包含している。第3の列は分割変数(0=TnI率(分の単位)、1=初期のTnI結果、2=性別、3=年齢グループ、-1=終端ノード)を包含している。第4の列は、それぞれの分割変数に関するカットオフ値を包含している。カットオフ値以下であれば「左ノード」への行き、カットオフ値よりも大きければ「右ノード」へ行く。「左ノード」の列及び「右ノード」の列は、行くことになる次のノードの数を包含している。
【0060】
データベースは、以下のように働いて、以下のような決定木を形成する。表3は、付表Aの最初の7つの行を示す。これら7つの行は木0とラベルを付けられ、総体として付表Aの815個の決定木のうち1つを形成する。決定木は、上記の表2からの患者情報を使用して以下のように働く。TnI率≦0.178333333の分割変数を示す第1の列から始める。患者がこれに合致する場合には、ノード「1」へ行くように指示する「左ノード」の列を採用する。患者がこの分割変数に合致しない場合には、ノード「5」へ行くように指示する「右ノード」の列を採用する。この患者が0.17833333未満であるので、ノード1へ行くように指示する左ノードの列が使用される。次の行ではノード1が見いだされる。この、次の行の分割変数は、73.55以下の値を有する「初期のTnI結果」である。この患者が初期のTnI値≦73.55を有するので、次に、「2」へ行くように指示する「左ノード」へ行く。そこで、「2」を探して再び「ノード」列を見ると、次の行にある。このとき、分割変数は木の終端ノードに達したことを意味する「終端ノード」であり、そのため、この行の「予測」列の値を読み取ると-0.008939である。したがって、この患者の木0の転帰評点は-0.008939であり、付表Aでは網掛けされている。残りの814個の木を通じて同一の論理を繰り返す。この患者は、これら815個の木から、合計815の転帰評点を得ることになるこれらの転帰は、付表Aではすべて網掛けされている。
【0061】
【0062】
次に、相加的系統樹の式では、たとえば以下のような、個々の木からの値が使用される。この患者の指標評点を見いだすために、次の2つの式が使用され得る。
【0063】
【0064】
【数9】
この特定の患者の数値は、以下のように式に当てはめられ得る。合計評点:
【0065】
【0066】
【数11】
次いで、最終的な指標(3.86)が、確率統計学のために指標参照表(上記の表1、又は下記の表4)と比較される。
【0067】
【0068】
表1を見ると、この患者は、3.86の指標値の状況でACSの中等度のリスクを有すると考えられることになる。
【0069】
[実施例3]
患者のACSリスクの決定
この実施例は、患者のACSリスクを決定する例示的方法を説明するものである。患者は胸痛を伴って救急室に来る。関連する患者情報は、患者に質問し、心臓トロポニンIの濃度を決定するために患者からの初期の血液サンプル及び第2の血液サンプルを試験することにより、患者から収集される。患者情報は以下の表5に示されている。
【0070】
【0071】
TnI率(毎分)は、2つのhs TnI濃度値の間の差を、対象の最初の2つの入手可能な時点からの収集時間(分の単位)の間の対応する差で割ったものを使用して計算される。次に、年齢が、「30歳未満」(1)、「30歳~40歳未満」(2)、「40歳~50歳未満」(3)、「50歳~60歳未満」(4)、「60歳~70歳未満」(5)、「70歳~80歳未満」(6)、「80歳以上」(7)、といった具合に十分位数(1~7)分類される。この患者は86歳で、年齢十分位数の「7」であった。性別は、女性=0、男性=1ということに基づいて割り当てられる。したがって、この女性患者は、性別についてはゼロの値を割り当てられた。
【0072】
次に、この患者に関する表5から値が、
図5に示される所定の一連の2つの決定木に適用される。この患者の値からして、この患者は、
図5におけるこれら2つの木から、合計で2つの転帰評点(-0.008939及び-0.008380)を有することになる。
【0073】
次に、相加的系統樹の式では、たとえば以下のような、個々の木からの値が使用される。この患者の指標評点を見いだすために、次の2つの式が使用され得る。
【0074】
【0075】
【数13】
この特定の患者の数値は、以下のように式に当てはめられ得る。
【0076】
【0077】
【数15】
次いで、最終的な指標(13.42)が、確率統計学のために指標参照表(上記の表1、又は下記の表6)と比較される。
【0078】
【表6】
表1を見ると、この患者は、13.42の指標値の状況で(上記のように2つの木を使用して)ACSの中等度のリスクを有すると考えられることになる。
【0079】
より多くの木がアルゴリズムに追加されたとき、指標評点は、上記の実施例2で説明された815個の木のアルゴリズムからの3.86の指標値へと収斂する。たとえば、10個の木のアルゴリズムは12.67の指標値を与えるが、50個の木のアルゴリズムは9.60の指標値を与える。
【0080】
[実施例4]
心筋梗塞の疑いのある患者の重症度分類
この実施例は、心筋梗塞を有する患者をリスク階層化するためのアルゴリズムを採用する例示的方法を説明するものである。高感度心臓トロポニンIの濃度は、年齢、性別及び時間によって変化するので、心筋梗塞(MI)の疑いのある患者の重症度分類及び診断を改善するために、これらの変数を組み込んだ、リスク推定の決定ツールを採用することが望まれた。タイプ1のMIを予測するために、リスク推定アルゴリズムを適用するのに、心筋梗塞の疑いのある3,013人の患者の解析コホートにおいて機械学習が使用された。アルゴリズムは、年齢、性別及び対の高感度心臓トロポニンIの濃度を組み込んだものである。
【0081】
それぞれの患者の生成されたMI3指標値は、重症度分類のために使用され得る。較正曲線、受信者動作特性曲線下面積(AUC)及びあらかじめ規定された閾値における性能によって、7,998人の患者のコホートにおいて検証が遂行された。低リスクグループへの割当てのための最適な指標閾値(陰性的中率≧99.5%及び感度>99.0%)及び高リスクグループへの割当てのための最適な指標閾値(陽性的中率≧75%及び特異度≧90%)が導出された。
【0082】
解析コホート及び検証コホートにおいて、それぞれ404人(13.4%)及び849人(10.6%)の患者にMIが生じた。検証コホートにおけるリスク推定指標の診断能は、優れた較正及び類似のAUC(0.963[95%CI 0.956~0.971]cf 0.963[0.957~0.968])を有する解析コホートに類似であった。最適な低リスクの閾値(1.1)が51.6%の患者を低リスクとして分類し、最適な高リスクの閾値(57.1)が10.3%の患者を高リスクとして分類した。
【0083】
方法
研究設計
この実施例は、心筋梗塞を疑われる患者の意思決定を促進するためのリスク推定アルゴリズムを導出して検証するために複数のセンタから将来を見越して収集されたデータのレトロスペクティブ分析を提供するものである。このリスク推定アルゴリズムは、年齢、性別、対の高感度心臓トロポニンIの濃度及び心臓トロポニン濃度の変化率を組み込む。これらの変数は、(a)主観的でないこと、(b)電子的な入院記録から自動的に捕捉され得ること、(c)国際的なガイドラインによって推奨されるような順次の心臓トロポニン測定値に基づくものであること、(d)タイプ1の心筋梗塞の診断と関連することが既知であること、を理由として先験的に選択される。
【0084】
リスク推定アルゴリズム
リスク推定アルゴリズムは、ブースティングと称される機械学習技術により、解析コホートを用いて構築され、事象があるものと、その事象がないものを最適に区別するために入力変数に重みづけする複数の決定木を含むものである(実施例4の参考文献20)。このアルゴリズムは、指標の病院の受診中にタイプ1の心筋梗塞と診断される可能性を予測するリスク推定指標(0~100の目盛)を計算する。
【0085】
最終的なモデル(アルゴリズム)の決定木及び重みづけを決定するために、機械学習技術、ブースティング(相加的なロジスティックモデルとも称される(実施例4の参考文献20))が、解析コホートに適用された。入力は、初期のhs-cTnIの濃度、hs-cTnIの変化率(2つの連続したhs-cTnI値の間の差を分の単位の時間差で割ったもの)、性別、年齢((30歳未満(カテゴリ1)、30歳~40歳未満(カテゴリ2)、40歳~50歳未満(カテゴリ3)、50歳~60歳未満(カテゴリ4)、60歳~70歳未満(カテゴリ5)、70歳~80歳未満(カテゴリ6)、80歳以上(カテゴリ7))及びタイプ1の心筋梗塞の状態として分類された。
【0086】
数学的に、モデルは次式で表現され得、
【0087】
【数16】
この式で、p1=タイプ1のMIの可能性であり、T
i(X,β
i)はパラメータβ
iによって特徴づけられるX=(hs-cTnIの変化率,性別,年齢カテゴリ,初期のhs-cTnI)の決定木であり、Mは決定木の数である。α
iはそれぞれの決定木に対する重みづけである。過剰適合に対して抵抗性があるため、ブースティングが選択された(実施例4の参考文献20)。一旦決定木及び重みづけが決定されると、それらは適所に固定される。この実施例は、付表Bに示される合計987個の木を使用している。最適なMは5重の相互検証によって決定され、α
iは0.01に設定された。最終的なアルゴリズムは、それぞれの患者に対して、タイプ1のMIの可能性を反映する指標値(0~100)を返した。
【0088】
解析コホートの範囲内で、患者を、心筋梗塞のリスクが低い人又は心筋梗塞のリスクが高い人としてリスク階層化するためのリスク推定指標の閾値が識別された。以下の表9は指標閾値表を示し、閾値は整数で列記されている。この表は、閾値を0.01刻みで列記することにより、100通りに分けられることが留意される。
【0089】
【0090】
リスク推定アルゴリズムは、第2のコホートにおいて、較正曲線、受信者動作特性曲線下面積及び導出されたリスク推定指標閾値の性能によって検証された。最適な重症度分類のため及び一般化の可能性を改善するための、すべての両方のコホートを使用する閾値の再較正が続いた。
【0091】
参加者及びコホート
診察時及び後の救急科において連続する高感度心臓トロポニンIの測定値が得られた、心筋梗塞を暗示する症状を示す患者が含まれていた。ST上昇型心筋梗塞(STEMI)の患者は除外された。コホートは、連続する高感度心臓トロポニンIの濃度を含むと予期された場合には、包含するものと識別され、最終診断は、心筋梗塞の全般的な定義(実施例4の参考文献4、23)に従って裁定され、倫理的な承認により、患者レベルのデータを共有することが許容された。診断は、虚血症状、新規若しくは推定新規の著しいSTT波動変化又は新規の左脚ブロック、病的なQ波の成長、生存心筋の新規喪失の撮像証拠又は新規の局所壁運動異常、及び/又は血管造影法による冠状動脈内血栓の識別又は検視のうち少なくとも1つとともに、健康人の集団の99パーセンタイルを上回る少なくとも1つの値を伴う心臓トロポニン濃度の上昇及び/又は低下の証拠を用いてなされた(実施例4の参考文献4、23)。このアルゴリズムは、スコットランド及びドイツにおいて募集された患者において導出されたものである(実施例4の参考文献9、24)。検証コホートは、オーストラリア、ドイツ、ニュージーランド、スペイン、スイス及び米国において募集された7つのコホートから出し合われたものである(実施例4の参考文献25~29)。
【0092】
サンプリング及び検査室分析
心臓トロポニン濃度は、Abbot ARCHITECT高感度トロポニンI分析(Abbot diagnostics、イリノイ州シカゴ)によってそれぞれの研究現場において測定された。製造業者は、高感度分析の検出限界(LoD)及び99パーセンタイル参照上限(URL)は、それぞれ1.9ナノグラム/L及び26.2ナノグラム/Lであると報告した。性別に特有の99パーセンタイルURLは、女性については16ナノグラム/Lであり、男性については34ナノグラム/Lである。
【0093】
転帰の定義及び裁定
主要転帰は、初回入院中に、全般的な定義を使用してタイプ1の心筋梗塞であると判定診断されたことであった。診断は、虚血症状、新規若しくは推定新規の著しいSTT波動変化又は新規の左脚ブロック、病的なQ波の成長、生存心筋の新規喪失の撮像証拠又は新規の局所壁運動異常、及び/又は血管造影法による冠状動脈内血栓の識別又は検視のうち少なくとも1つとともに、健康人集団の99パーセンタイルを上回る少なくとも1つの値を伴う心臓トロポニン濃度の上昇及び/又は低下の証拠を用いてなされた(実施例4の参考文献4、23)。
【0094】
統計解析
最終的なリスク推定の決定木及び重みづけを決定するために、解析コホートに対してブースティングが適用された。これらは、一旦決定されると適所に固定され、解析コホート及び検証コホートにおけるリスク推定の指標値を返すように使用されるエクセルのスプレッドシートへとプログラムされた。
【0095】
99.0%以上の感度、99.5%以上の陰性的中率(NPV)、90%以上の特異度及びタイプ1の心筋梗塞の診断の75%以上の陽性的中率(PPV)をもたらす解析コホートからリスク推定指標値の閾値を導出して検証する予定であることが、あらかじめ規定されていた。感度目標は、救急科の医師によって許容リスクと見なされるものの調査(実施例4の参考文献30)に基づいており、NPV対象は、文献における最も一般的なものであった。特異度対象及びPPV対象は、高リスクの層化のために臨床的に合理的なものとして、プロジェクト運営委員会の統一見解によって選択された。これら4つの診断メトリクスに対応するリスク推定指標値の閾値は、解析コホートからブートストラップすることによって決定された95%信頼区間を用いて決定された(1,000個のサンプル)。
【0096】
アルゴリズムの性能は、解析コホート及び検証コホートにおいて、較正曲線及び受信者動作特性曲線(AUC)下面積を用いる識別を用いて評価された。指標閾値は、あらかじめ規定された統計メトリクスにおいて検証されて導出された。患者を、低リスク(99.5%以上の陰性的中率及び99.0%以上の感度)と高リスク(75%以上の陽性的中率及び90%以上の特異度)にリスク階層化する最適性能のために、2つの指標値の閾値が、解析コホートと検証コホートの両方を使用して再較正された。アルゴリズム導出から独立して遂行された検証は、R(Version 3.2.4:The R Foundation for Statistical Computing(実施例4の参考文献31))を使用した。
【0097】
感度、サブグループ及び事後分析
追加のあらかじめ計画されたサブグループ分析は、心電図上に心筋虚血の新規の形跡のない患者における、性別、年齢(65歳以下、65歳超)、併発症(冠動脈疾患の履歴、真性糖尿病、高血圧、現在の喫煙)、症状の発症から最初のサンプル採取までの時間、連続した心臓トロポニン試験の間の時間による比較であった。アルゴリズムの性能は、30日以内のタイプ1の心筋梗塞についても評価された。
【0098】
結果
解析コホートに含まれた3,013人の患者のうち404人(13.4%)が、タイプ1の心筋梗塞を有すると診断された。このコホートは、主に男性であり(63%)、平均年齢は62.4歳であった(表7)。
【0099】
【0100】
検証コホートに含まれた7,998人の患者のうち849人(10.6%)が、タイプ1の心筋梗塞を有すると診断された。検証コホートの患者はより若く、以前にCADがあった可能性は低いが、喫煙、真性糖尿病、高脂血症の可能性、又は解析コホートよりもCADの家族歴を有する可能性が高かった。解析コホートよりもより大きな割合の患者が(38.5%対33.0%、p<0.0001)、症状発症から3時間以内に採血された。サンプル採取間の時間(中央値2.2[IQR 2.0~2.6]時間)は、解析コホートのもの(中央値1.2[IQR 1.0~2.5]時間)よりも長かった(P<0.0001)。
【0101】
相関及び識別
リスク推定指標値は十分に較正され(
図6)、診断メトリクスは、リスク推定指標範囲の全体にわたって同様に遂行されたが、検証コホートのPPV及びNPVが、解析コホートのものと比較してわずかに低かった(
図7)。指標は、解析コホート(AUC 0.963[95%CI 0.956~0.971])及び検証コホート(AUC 0.963[95%CI 0.957~0.968])において、タイプ1の心筋梗塞があるものとないものの間を識別した。
【0102】
診断閾値の性能
あらかじめ規定された診断能基準を満たした解析コホートからのリスク推定指標閾値は、1.6(99.0%以上の感度)、3.1(99.5%以上のNPV)、17.2(90.0%以上の特異度)及び49.7(75%以上のPPV)であった。(表8)。
【0103】
【0104】
導出された閾値において、NPV(99.4%[99.2%~99.6%])及び特異度(91.7%[91.1%~92.3%])は、閾値(99.5%のNPV、90.0%の特異度)を導出するために使用された値に類似していた。感度(97.8%[96.7%~98.7%])及びPPV(71.8%[68.9%~75.0%])は、閾値を導出するために使用された値(99.0%の感度及び75.0%のPPV)よりもわずかに低かった。
【0105】
再較正された最適な診断閾値
最適なMI3リスク推定指標の低リスク閾値は、1.1(感度99.3%[98.8%~99.7%]、NPV 99.8%[99.7%~99.9%])であり、最適なMI3リスク推定指標の高リスク閾値は、57.1(PPV 74.9%[72.5%~77.4%]、特異度97.1%[96.7%~97.4%])であった。11011人の患者のうち、5682人(51.6%)が低リスクとして分類され、1134人(10.3%)が高リスクとして分類された。
【0106】
ECGと組み合わされたリスク推定閾値
1.1未満のリスク推定指標値と心電図に心筋虚血がないことの組合せは、99.9%(99.8%~99.9%)のNPVの状況で99.4%(99.0%~99.8%)の感度を有した。49.0%の患者が低リスクとして識別された(
図8)。
【0107】
サブグループ分析
1.1のリスク推定指標閾値は、初期に3時間未満の症状を示した患者を含むすべてのサブグループにわたって同様に機能した(
図9)。57.1のリスク推定指標も、女性のPPVが男性のものと比較してより低い、性別及び症状発症からの時間、及び症状が3時間未満のグループは、症状が3時間を超えるグループと比較して、より低い有病率を反映したことを例外として、ほとんどのグループにわたって同様に機能した(
図10)。
【0108】
個々のコホートの性能
1.1のMI3指標閾値において、個々のコホートにわたって、43.7%~82.3%の患者が低リスクとして分類された。感度は95.5%から100%まで変化し、NPVは99.6%から100%まで変化した(
図11)。57.1の指標閾値では、PPVは、有病率が最低のコホート(UTROPIA)における41.3%から、有病率が最高のコホート(ADAPT-CH)における96.1%まで変化した(
図11及び
図12)。
【0109】
さらなる感度分析
1.1のリスク推定指標閾値は、サンプル間の時間及び症状から最初の採血までのさらなる層化の時間から独立して、感度及びNPVの高点推定を用いてうまく機能した(
図11)。57.1のリスク推定指標閾値は、症状発症から最初の採血までの時間の増加及びサンプル間の時間の増加に伴って起こり得る性能低下の状況で、PPV及び特異度の増加を示した(
図12)。
【0110】
30日以内のタイプ1の心筋梗塞
30日以内のタイプ1の心筋梗塞を有するすべての患者を含めると、1.1における99.1%(98.6%~99.6%)及び57.1における74.9%の類似のPPV(72.3%~77.2%)で、リスク推定指標の感度がわずかに低下した。
【0111】
迅速な手法
ベースラインMI3(初期のトロポニン値のみに対して計算された)は、連続するサンプルを待つ必要がない迅速な無視をもたらす。これは、低リスク患者の大部分を除外する。ベースラインMI3は、連続するサンプルを待つ必要なく、高リスクの個人も階層化する。そのため、最低リスクの患者及び最高リスクの患者が、すぐにトリアージ方式で対処される。ベースラインMI3が利用するのは、上昇率の計算ではなく、初期のトロポニン結果、年齢及び性別のみである。この手法は
図13に示されている。
【0112】
図14に示される別の迅速な手法は、MI3指標の計算を2ナノグラム/L未満のhsTnI濃度と組み合わせるものであり、非常に低リスクの患者を除外する組み合わされた安全性を増大させる。安全なMI3指標に加えて安全なトロポニン値も組み合わせると、虚血性胸痛のさらなる試験及び再調査から非常に低リスクの患者のみが省略されることを保証する。ベースラインMI3指標の計算が利用するのは、上昇率の計算ではなく、初期のトロポニン結果、年齢及び性別のみである。
【0113】
[実施例5]
トロポニンTを使用する、心筋梗塞の疑いのある患者の重症度分類
この実施例は、トロポニンT(TnT)試験及び心筋梗塞を有する患者をリスク階層化するためのアルゴリズムを採用する例示的方法を説明するものである。分析に含まれていた少なくとも2つのトロポニンT結果を有するBACCコホートの患者は956人存在する。そのうち341人(35.67%)が女性であり、615人(64.33%)が男性である。956人のうち179人がMI患者と裁定されている。次いで、これら956人の患者の最初の2つの有効なトロポニンT値に対してMI3アルゴリズムが適用され、それぞれの患者について指標値が生成された。次いで、0~100のそれぞれの指標値に対して、1.00刻みで、感度、特異度、NPV及びPPVが計算された。指標値を計算するために使用された987個の木が、付表Bに示されている。上記のTnIと同様に、TnT指標値は以下の式を用いて計算された。
【0114】
【0115】
【数18】
それぞれの患者サンプルの番号が、付表Bに示される987個の木に照らして上記の式に当てはめられた。
【0116】
【0117】
TnTに関するこの実施例の結果(同一の処理を使用するTnIも含む)は、最低のMI3指標値から最高のMI3指標値の順で列記されており、付表Cに示される。指標参照表(上記の表10)を使用して、TnTに関して1.1未満の指標値を有する患者は、心筋梗塞のリスクが低いと考えられる。1.1~57.0の患者は、心筋梗塞のリスクが中等度であると考えられる。57.1以上の患者は心筋梗塞のリスクが高い。付表Cは、これらの患者のTnI指標値に加えて、TnIを使用して計算された指標値の、TnTを使用して計算された指標値に対する比較も提供する。
【0118】
【0119】
ほんの少数の例示的実施形態を詳細に説明してきたが、当業者なら、この開示の斬新な教示及び利点から実質的に逸脱することなく、例示的実施形態における多くの修正形態が可能であることを、容易に認識するはずである。それゆえに、すべてのそのような修正形態及び代替形態は、以下の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲内に含まれるように意図されている。当業者なら、そのような修正形態及び同等な構成又は方法は、本開示の精神及び範囲から逸脱するものではなく、また、本開示の精神及び範囲から逸脱せずに、本明細書に、様々な変更、置換及び改変を加え得ることを理解するはずである。
【0120】
【0121】
【0122】