(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】防振構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230216BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20230216BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230216BHJP
F16C 17/10 20060101ALI20230216BHJP
E04B 1/98 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F15/04 A
F16F15/023 A
F16F15/02 C
F16C17/10 B
E04B1/98 L
(21)【出願番号】P 2019009373
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-252503(JP,A)
【文献】特公昭49-001402(JP,B1)
【文献】特開平03-287969(JP,A)
【文献】特開2016-023714(JP,A)
【文献】実開平03-069336(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/04
F16F 15/023
F16C 17/10
E04B 1/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体と、
前記構造体に設けられたばね部材と、
前記ばね部材を介して前記構造体に支持された振動体と、を有する防振構造において、
前記振動体は、前記ばね部材のばね軸方向に直交するばね軸直交方向に配列された複数の振動体ブロックから構成され、
前記複数の振動体ブロックは、それぞれ前記ばね部材を介して前記構造体に支持され、
前記ばね軸直交方向に隣り合う前記振動体ブロックは、ピン接合で連結され
、
前記構造体と前記振動体との間に、回転慣性質量ダンパーが前記ばね部材と並列に設けられていることを特徴とする防振構造。
【請求項2】
前記振動体は、前記ばね部材を介して前記構造体の上部に配置され、
前記複数の振動体ブロックは、水平方向に配列され、
水平方向に隣り合う前記振動体ブロックは、それぞれの側面が水平方向に対向し、対向する前記側面は、互いの間隔が上側から下側に向かって漸次大きくなるように形成され、
対向する前記側面における上端部同士がピン接合で連結されていることを特徴とする請求項1に記載の防振構造。
【請求項3】
前記ばね軸直交方向に隣り合う前記振動体ブロックを連結するピン接合部は、
前記ばね軸直交方向に隣り合う前記振動体ブロックの一方に設けられた球面すべり軸受と、
前記ばね軸直交方向に隣り合う前記振動体ブロックの他方と係合するとともに、前記球面すべり軸受に回転可能に支持されるロッドと、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の防振構造。
【請求項4】
前記構造体と前記振動体との前記ばね軸直交方向の相対変位を拘束する変位拘束機構を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
音楽ライブホールやダンススタジオ等の施設では、多人数客が曲に合わせて屈伸運動することによる鉛直振動(いわゆるタテノリ振動)が周辺建物に振動障害を生じることが問題視されている。この問題への対策として当該部分の床を構造体と絶縁した浮き床(通常は厚いRCスラブ)とする防振構造が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
このような防振構造では、構造体を部分的に凹ませ、ここにばね部材に支持された浮き床を設け、加振された浮き床から構造体へ作用する反力を低減させている。
なお、通常の音楽ホール(例えば、観客数2000人以下のライブ施設)に防振構造を採用する場合には、浮き床に1m程度の厚いRCマットスラブが用いられており、浮き床が剛体的に挙動(振動)するように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
観客数がもっと多い、例えば、観客数10000人以上の大規模な音楽ホールでは、浮き床の面積も巨大なものとなる。このような場合、浮き床全体を剛体的に挙動させることが困難であるとともに、浮き床に対して観客が偏在したり、浮き床の上の観客の挙動が部分的に異なったりすると、加振された浮き床から構造体へ作用する反力を効率的に低減できない虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、大規模な施設においても採用することができる防振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る防振構造は、構造体と、前記構造体に設けられたばね部材と、前記ばね部材を介して前記構造体に支持された振動体と、を有する防振構造において、前記振動体は、前記ばね部材のばね軸方向に直交するばね軸直交方向に配列された複数の振動体ブロックから構成され、前記複数の振動体ブロックは、それぞれ前記ばね部材を介して前記構造体に支持され、前記ばね軸直交方向に隣り合う前記振動体ブロックは、ピン接合で連結され、前記構造体と前記振動体との間に、回転慣性質量ダンパーが前記ばね部材と並列に設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、振動体(例えば、浮き床)がそれぞればね部材を介して構造体に支持された複数の振動体ブロックから構成されている。これにより、振動体が部分的に加振されたり、振動体への加振が部分的に異なったりしても、各振動体ブロックが加振状況に合わせてそれぞれ振動することになる。そして、本発明では、各振動体ブロックが振動することにより構造体に作用する反力を振動体ブロックと構造体との間に介在するばね部材によってそれぞれ低減させることができる。
また、隣り合う振動体ブロック同士は、ピン接合で連結されているため、相対的に回動することはあっても、水平面内で互いに大きなズレを生じたり、大きな段差を生じたりするような相対変位を防止することができる。これにより、振動体を構成する複数の振動体ブロックを一体的に利用することができる。
このように、振動体を複数の振動体ブロックを連結して構成することができるため、1つのブロックとすることが困難な巨大な振動体を設ける大規模な施設においても、実用上で問題ない一体的な浮き床などの振動体の防振構造を構築することができる。
また、本発明に係る防振構造では、前記構造体と前記振動体との間に、回転慣性質量ダンパーが前記ばね部材と並列に設けられている。
このような構成とすることにより、慣性質量効果を利用して特定の振動数域において振動体から構造体への反力を大幅に低減させることができる。
【0008】
また、本発明に係る防振構造では、前記振動体は、前記ばね部材を介して前記構造体の上部に配置され、前記複数の振動体ブロックは、水平方向に配列され、水平方向に隣り合う前記振動体ブロックは、それぞれの側面が水平方向に対向し、対向する前記側面は、互いの間隔が上側から下側に向かって漸次大きくなるように形成され、対向する前記側面における上端部同士がピン接合で連結されていてもよい。
このような構成とすることにより、隣り合う振動体ブロックが互いに回動するように相対変位した際に、隣り合う振動体ブロックの下部側同士が接触することを防止することができる。
【0009】
また、本発明に係る防振構造では、前記ばね軸直交方向に隣り合う前記振動体ブロックを連結するピン接合部は、前記ばね軸直交方向に隣り合う前記振動体ブロックの一方に設けられた球面すべり軸受と、前記ばね軸直交方向に隣り合う前記振動体ブロックの他方と係合するとともに、前記球面すべり軸受に回転可能に支持されるロッドと、を有していてもよい。
このような構成とすることにより、高耐力のピン接合部を安価に実現することができる。例えば、球面すべり軸受けおよびロッドを有するピン接合部は、同耐力の蝶番を用いたピン接合部よりもコンパクトで安価に製作することができる。
また、ピン接合部に球面すべり軸受およびロッドを用いることにより、一般的な蝶番機構を用いたピン接合部よりも大きい荷重を容易に処理することができる。
【0010】
また、本発明に係る防振構造では、前記構造体と前記振動体との前記ばね軸直交方向の相対変位を拘束する変位拘束機構を有していてもよい。
このような構成とすることにより、振動体が構造体に対してばね軸方向と異なる方向に変位することを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大規模な施設においても採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態による防振構造の一例を示す平面図である。
【
図3】(a)は
図1のB-B線断面図、(b)は(a)のC-C線断面に対応する図、(c)は(a)のD-D線断面に対応する図である。
【
図5】本発明の第2実施形態による防振構造の一例を示す平面図である。
【
図7】本発明の実施形態による防振構造の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による防振構造について、
図1乃至
図4に基づいて説明する。
図1および
図2に示すように、第1実施形態による防振構造1Aは、上部に開口する凹部21が形成された構造体2と、構造体2の凹部21の内部に設置された浮き床3(振動体)と、浮き床3と構造体2との間に介在するばね部材4、回転慣性質量ダンパー5、およびオイルダンパー6と、を有している。
ばね部材4は、ばね軸方向が上下方向となり、ばね軸に直交するばね軸直交方向が水平方向となる向きに配置されている。
本実施形態による防振構造1Aは、例えば、大規模な音楽ホールなどの建物に採用され、浮き床3の上部で多人数客が曲に合わせて屈伸運動した際に、浮き床3に鉛直振動(いわゆるタテノリ振動)が生じることを想定している。
【0015】
構造体2は、例えばRCなどで構築され、ばね部材4を支持する床板の基礎部22と、基礎部22の周縁部全体から上方に延びる側壁部23と、を有している。
本実施形態では、基礎部22は、平面視形状が長方形に形成されている。凹部21は、基礎部22の上部に形成され、基礎部22の上面22a(
図2参照)が底面となり、周囲の側壁部23の内側の面23aが側面となっている。凹部21は、平面視形状が長方形に形成されている。
基礎部22および凹部21の平面視形状における長方形の辺が延びる水平方向をX方向およびY方向とする。
【0016】
浮き床3は、構造体2に対して上下方向に変位可能に構成されている。
浮き床3は、X方向およびY方向に配列された複数の浮き床ブロック31(振動体ブロック)と、X方向およびY方向に隣り合う浮き床ブロック31を連結するピン接合部32と、と有している。
複数の浮き床ブロック31は、それぞれコンクリート造などで、板面が長方形となる板状に構築され、厚さ方向が上下方向となり板面が水平面となる姿勢に配置されている。複数の浮き床ブロック31は、互いに略同じ形状に構築されている。
本実施形態では、複数の浮き床ブロック31は、それぞれX方向の寸法およびY方向の寸法がともに8000mm、上下方向(厚さ方向)の寸法が1000mmとなるように設定されている。本実施形態では、1つの浮き床ブロック31の仕上を含めた重量を160tоnとして設計している。
【0017】
本実施形態では、6つの浮き床ブロック31がX方向に3つずつ、Y方向に2つずつ配列されている。
6つの浮き床ブロック31は、それぞれが凹部21の底面の上部(基礎部22の上部)に、ばね部材4、回転慣性質量ダンパー5、およびオイルダンパー6を介して設置されている。
6つの浮き床ブロック31と側壁部23の内側の面23aとの間には、隙間23bが形成されている。6つの浮き床ブロック31は、それぞれが構造体2に対して上下方向に変位可能に構成されている。
【0018】
ピン接合部32は、X方向に隣り合う浮き床ブロック31の間、およびY方向に隣り合う浮き床ブロック31の間にそれぞれ設けられている。
図3に示すように、ピン接合部32は、外輪331の内部に内輪332が回転可能に設けられた球面すべり軸受け33と、内輪332に挿通されたロッド34と、球面すべり軸受け33の外輪331が取り付けられるとともにX方向またはY方向に隣り合う浮き床ブロック31の一方の浮き床ブロック31に固定されたハウジング35(軸受収納ケース)と、ロッド34が取り付けられるとともにX方向またはY方向に隣り合う浮き床ブロック31の他方の浮き床ブロック31に固定されたロッド固定冶具36と、を有している。
【0019】
球面すべり軸受33の外輪331は、内周面が球面となる筒状に形成されている。球面すべり軸受33の内輪332は、外周面が球面となる筒状に形成されている。
内輪332は、外輪331の内周面に沿って回転可能に構成されている。内輪332は、外輪331から抜け出ないように外輪331の内部に設けられている。
【0020】
ロッド34は、丸棒状の部材で、長さ方向の一方の端部側が内輪332に嵌合し、他方の端部側が内輪332から突出している。ロッド34は、内輪332とともに、外輪331の内周面に沿って回転可能に構成されている。
ロッド34は、例えば、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼材)で製作されている。
【0021】
ハウジング35は、外輪331が嵌合する孔部35aが形成されている。外輪331は、ハウジング35に対して変位しないように固定されている。外輪331は、その軸線方向が隣り合う浮き床ブロック31が対向する方向となるようにハウジング35を介して一方の浮き床ブロック31に固定されている。
ハウジング35は、アンカーボルトなどで浮き床ブロック31に固定されている。
【0022】
ロッド固定冶具36は、ロッド34の長さ方向の他方側が同軸に挿通される孔部36aが形成されている。孔部36aに挿通されたロッド34は、孔部36aの内部において軸線回りに回転可能であるとともに、軸線方向に変位可能に構成されている。
ロッド固定冶具36の孔部36aの内周面には、グリースが塗布されていて、孔部36aに挿通されたロッド34が孔部36aの内部で回転や変位しやすい構成となっている。
ロッド固定冶具36は、アンカーボルトなどで浮き床ブロック31に固定されている。
【0023】
ロッド固定冶具36は、例えばS45C(機械構造用炭素鋼)などで製作されている。
ロッド固定冶具36は、アンカーボルトなどで浮き床ブロック31に固定されている。
本実施形態では、ロッド固定冶具36は、ロッド34の半径と略同径の半円溝361aが形成された鋼製の2枚の板部材361をそれぞれの半円溝361aが対向するように重ねて製作されている。重なった2つの半円溝361aは、ロッド34が挿通される孔部36aとなっている。
【0024】
ロッド固定冶具36は、その孔部36aが一方の浮き床ブロック31に向かって開口する向きで他方の浮き床ブロック31に固定されている。
ロッド固定冶具36は、例えばS45C(機械構造用炭素鋼)などで製作されている。
本実施形態では、ピン接合部32の1箇所当たりの耐力を90kNとし、長期許容荷重は40kNとしている。
【0025】
ピン接合部32は、隣り合う浮き床ブロック31における上端部近傍に球面すべり軸受け33およびロッド34が配置されるように取り付けられている。これにより、ピン接合部32は、X方向またはY方向に隣り合う浮き床ブロック31の上端部同士を接合している。なお、X方向またはY方向に隣り合う浮き床ブロック31は、それぞれの下端部同士は接合されていない。
【0026】
本実施形態では、X方向およびY方向に隣り合う浮き床ブロック31の間隔31aは、浮き床3が加振されていない通常時では、上下方向全体にわたって同じ寸法で、例えば10mm程度に設定されている。この間隔は、開いたままの状態でもよいし、シール材や耐火帯などで塞がれていてもよい。なお、隣り合う浮き床ブロック31の間にシール材や耐火帯などが設けられた場合でも、隣り合う浮き床ブロック31は相対変位可能に構成されている。
【0027】
図1および
図2に示すように、ばね部材4は、上述したように、ばね軸方向が上下方向となる向きに配置されて、下端部が構造体2の基礎部22に固定され、上端部が浮き床ブロック31に固定されている。ばね部材4は、1つの浮き床ブロック31に対して4台設けられている。本実施形態では、ばね部材4の最大体力を600kN、ばね値を1.7kN/mmと設定している。
【0028】
回転慣性質量ダンパー5は、1つの浮き床ブロック31に対して1台設けられている。本実施形態では、回転慣性質量ダンパー5は、慣性質量を27ton、ストロークを±55mmと設定している。
本実施形態では、1つの浮き床ブロック31の重量を160ton、支持ばね剛性を6.8kN/mmと設定している。これにより、浮き床ブロック31の固有振動数は約1.0Hz、特許文献1にある制御対象振動数(反力を大きく低減させる振動数)は2.5Hzとなる。
オイルダンパー6は、1つの浮き床ブロック31に対して1台設けられている。本実施形態では、オイルダンパー6は、減衰係数C=1000kN/(m/s)と設定し、ストロークを±60mmと設定している。
【0029】
図4に示すように、本実施形態による防振構造1Aでは、浮き床3が上下方向に加振されると、複数の浮き床ブロック31がそれぞれ上下振動するように構成されている。なお、隣り合う浮き床ブロック31は、ピン接合部32で連結されているため、それぞれ他方の浮き床ブロック31にピン接合部32から振動が伝達されることがある。各浮き床ブロック31が加振されたときにばね部材4、回転慣性質量ダンパー5およびオイルダンパー6から構造体2に作用する合計反力は、タテノリ振動が問題となる2~4Hzの範囲において大幅に低減される。
本実施形態では、隣り合う浮き床ブロック31は、互いの上端部近傍がピン接合部32で連結されている。このため、隣り合う浮き床ブロック31の上面31bは互いに上下方向に相対変位することなく、ピン接合部32を介して相対回転するように変位する。
【0030】
次に、上述した第1実施形態による防振構造1Aの作用・効果について図面を用いて説明する。
上述した第1実施形態による防振構造1Aでは、浮き床3がそれぞればね部材4を介して構造体2に支持された複数の浮き床ブロック31から構成されている。これにより、浮き床3が部分的に加振されたり、浮き床3への加振が部分的に異なったりしても、各浮き床ブロック31が加振状況に合わせてそれぞれ振動することになる。そして、本実施形態の防振構造1Aでは、各浮き床ブロック31がそれぞれ振動することにより、浮き床ブロック31と構造体2との間に介在するばね部材4、回転慣性質量ダンパー5およびオイルダンパー6から構造体2に作用する反力をそれぞれ大幅に低減させることができる。
また、隣り合う浮き床ブロック31は、ピン接合部32で連結されているため、相対的に回動することはあっても、水平面内で互いに離散したり、大きな段差を生じたりするような相対変位を防止することができる。これにより、浮き床3を構成する複数の浮き床ブロック31を一体的に利用することができる。
このように、浮き床3を複数の浮き床ブロック31を連結して構成することができるため、1つのブロックとすることが困難な巨大な浮き床3を設ける大規模な施設においても実用上で問題ない一体的な浮き床3の防振構造1Aを構築することができる。
【0031】
また、隣り合う浮き床ブロック31を連結するピン接合部32は、隣り合う浮き床ブロック31の一方に設けられた球面すべり軸受33と、隣り合う浮き床ブロック31の他方と係合し、球面すべり軸受33に回転可能に支持されるロッド34と、を有する構成である。これにより、高耐力のピン接合部32をコンパクトで安価に実現することができる。例えば、本実施形態の球面すべり軸受け33およびロッド34を有するピン接合部32は、同耐力の蝶番機構を用いたピン接合部よりもコンパクトで安価に製作することができる。
また、一般的な蝶番機構では、10kNの荷重を処理するものはないが、本実施形態の球面すべり軸受33およびロッド34を利用すれば40kNの荷重も容易に処理することができる。
【0032】
また、構造体2と浮き床3との間に、回転慣性質量ダンパー5がばね部材4と並列に設けられている。
このような構成とすることにより、慣性質量効果を利用して特定の振動数域において浮き床3から構造体2への反力を大幅に低減させることができる。例えば、浮き床3の上部における屈伸運動によるタテノリ振動が問題となる加振振動数2~4Hzの範囲で反力を大幅に低減(加振力の1/10以下)することができる。
【0033】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
図5および
図6に示すように、第2実施形態による防振構造1Bは、水平方向に隣り合う浮き床ブロック31の構造体2に対する水平方向の変位を拘束する水平変位拘束機構7(変位拘束機構)を有している。
【0034】
タテノリ振動は多人数客の屈伸運動により生じるが、上下方向だけでなく水平方向の加振力を伴う場合もあり、この場合には浮き床に水平方向の加振力が作用する。しかし、第1実施形態の浮き床3では水平方向への抵抗要素がなく、加振力により浮き床3に大きな水平変位を生じてしまうおそれがある。そこで、第2実施形態はこの水平変位を拘束するための水平変位拘束機構7を追加したものである。
【0035】
水平変位拘束機構7は、構造体2の基礎部22から上方に延びる立ち上がり部71と、浮き床ブロック31から下方に延びる立ち下がり部72と、立ち上がり部71と立ち下がり部72とを水平方向の相対変位を拘束し、上下方向の相対変位を許容するように連結する連結部73と、を有している。
【0036】
立ち上がり部71は、構造体2の凹部21の内部に配置され、基礎部22から上方に延びている。立ち上がり部71は、基礎部22と一体に設けられている。
立ち上がり部71は、凹部21の内部に配列された複数の浮き床ブロック31それぞれのX方向の両縁部分におけるY方向の中央部分の下側、およびY方向の両縁部分におけるX方向の中央部分の下側に配置されている。立ち上がり部71は、1つの浮き床ブロック31の下側に4つ設けられている。なお、隣り合う浮き床ブロック31それぞれの下側の立ち上がり部71のうち、X方向またはY方向に隣接する立ち上がり部71は、一体に設けられている。
【0037】
立ち下がり部72は、浮き床ブロック31の平面視における中央部から下側に延びている。立ち下がり部72は、浮き床ブロック31と一体に設けられている。
立ち下がり部72は、1つの浮き床ブロック31に対して1つ設けられている。
立ち上がり部71と立ち下がり部72とはX方向およびY方向に間隔をあけて配置されている。
【0038】
立ち上がり部71の上端部71aは、浮き床ブロック31の下面31cと間隔をあけて配置され、立ち下がり部72の下端部72aは、基礎部22の上面22aと間隔をあけて配置されている。
本実施形態では、浮き床ブロック31の下面31cと基礎部22の上面22aとの間の寸法を1800mmとし、立ち上がり部71および立ち下がり部72の上下寸法をそれぞれ1700mmとし、立ち上がり部71の上端部71aと浮き床ブロック31の下面31cとの間隔、および立ち下がり部72の下端部72aと基礎部22の上面22aと間隔をそれぞれ100mmとしている。
なお、立ち上がり部71および立ち下がり部72の平面視形状は、それぞれ800mm×800mmの正方形に設定されている。
【0039】
連結部73は、棒状の棒部材731と、棒部材731の一方の端部を立ち下がり部72に接合する第1接合部材732と、棒部材731の他方の端部を立ち下がり部72に接合する第2接合部材733と、を有している。
棒部材731は、鋼棒などで、本実施形態では、P-267.4×9.3t(SS400)の鋼管を採用し、最大負担軸力N=1500kNとなるように設定している。
第1接合部材732および第2接合部材733は、それぞれクレビスやボールジョイントなどで、棒部材731と立ち上がり部71または立ち下がり部72とをピン接合で連結している。
【0040】
棒部材731は、1つの立ち下がり部72に対して、X方向の両側およびY方向の両側それぞれ(四方)に上下方向に間隔をあけて2つずつ配置されている。棒部材731を2段に配置することにより、地震時水平力による浮き床の回転(ロッキング)変位を防止することができる。
立ち下がり部72のX方向の両側に配置される棒部材731は、それぞれX方向に延びる姿勢となり、一方の端部が立ち下がり部72に第1接合部材732を介してY方向に延びる軸線回りに回動可能に接合され、他方の端部が立ち上がり部71に第2接合部材733を介してY方向に延びる軸線回りに回動可能に接合されている。これにより、立ち下がり部72のX方向の両側に配置される棒部材731は、両端部が互いに上下方向に相対移動するように変位可能であるが、両端部が互いに水平方向に相対移動することは拘束されている。
【0041】
立ち上がり部71のY方向の両側に配置される棒部材731は、それぞれY方向に延びる姿勢となり、一方の端部が立ち下がり部72に第1接合部材732を介してX方向に延びる軸線回りに回動可能に接合され、他方の端部が立ち上がり部71に第2接合部材733を介してX方向に延びる軸線回りに回動可能に接合されている。これにより、立ち下がり部72のY方向の両側に配置される棒部材731は、両端部が互いに上下方向に相対移動するように変位可能であるが、両端部が互いに水平方向に相対移動することは拘束されている。
本実施形態では、連結部73は、浮き床ブロック31がばね部材4、回転慣性質量ダンパー5およびオイルダンパー6を介して構造体2に支持された後に、立ち下がり部72と立ち上がり部71との間に設置される。
【0042】
立ち下がり部72と立ち上がり部71とは、連結部73に連結されていることにより、上下方向のみ相対変位可能となり、水平方向の相対変位が拘束される。
立ち上がり部71、立ち下がり部72および連結部73は、ばね部材4、回転慣性質量ダンパー5、オイルダンパー6と干渉しない位置に配置される。
【0043】
第2実施形態による防振構造1Bでは、第1実施形態と同様に浮き床3が上下方向に加振されると、すべての浮き床ブロック31がそれぞれ振動する。
このとき、上述したように、立ち下がり部72と立ち上がり部71とは、上下方向のみ相対変位可能となり、水平方向の相対変位が拘束されているため、浮き床ブロック31と基礎部22との水平方向の相対変位が拘束される。
【0044】
上述した第2実施形態による防振構造1Bでは、第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、構造体2と浮き床3との水平方向の相対変位を拘束する水平変位拘束機構7を有していることにより、浮き床3が構造体2に対して水平方向に変位することを防止することができる。
【0045】
また、第2実施形態では、水平変位拘束機構7に両端が立ち上がり部71および立ち下がり部72にピン接合で連結された鋼製の棒部材731を設置している。これにより、リニアガイドや積層ゴムによる水平変位拘束機構を設ける場合と比べて箇所数は増えるが、水平変位拘束機構7を安価に実現することができる。
【0046】
また、浮き床3は、コンクリート造のため500μ程度の乾燥収縮が生じるが、副薄の浮き床ブロック31に分割されていることで、浮き床3の平面長さが小さくなると収縮量もわずかになる。例えば、浮き床3の辺長が80mとすると40mm縮むため水平拘束は難しいが、浮き床ブロック31の辺長が8mであれば、縮み量は4mm程度となるため水平拘束はより容易にできる。さらに、本実施形態のように、立ち下がり部72が設けられている浮き床ブロック31の平面中央部における辺長1m部分であれば、縮み量は0.5mmなのでほぼ無視して水平拘束部材を設計できる。
【0047】
以上、本発明による防振構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、水平方向に隣り合う浮き床ブロック31を連結するピン接合部32は、球面すべり軸受33と、ロッド34と、を有する構造であるが、上記以外の構造のピン接合部であってもよい。例えば、蝶番を用いたピン接合部であってもよい。
また、上記の実施形態では、構造体2と浮き床3との間に、回転慣性質量ダンパー5およびオイルダンパー6がばね部材4と並列に設けられているが、回転慣性質量ダンパー5およびオイルダンパー6のいずれか一方または両方が設けられていなくてもよい。
【0048】
また、上記の実施形態では、本実施形態では、X方向およびY方向に隣り合う浮き床ブロック31の間隔31aは、浮き床3が加振されていない通常時では、上下方向全体にわたって同じ寸法となるように設定されている。これに対し、
図7に示す防振構造1Cのように、X方向およびY方向に隣り合う浮き床ブロック31の間隔31aは、浮き床3が加振されていない通常時において、ピン接合で連結されている上側から連結されていない下側に向かって漸次広くなるように設定されていてもよい。
このような構成とすることにより、隣り合う浮き床ブロック31が相対変位した際に、それぞれの下端部が接触することを抑制することができる。
また、上記の実施形態では、隣り合う浮き床ブロック31の上端部同士がピン接合で連結されているが、上下方向の中間部や下端部同士がピン接合で連結されていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1A,1B,1C 防振構造
2 構造体
3 浮き床(振動体)
4 ばね部材
5 回転慣性質量ダンパー
7 水平変位拘束機構(変位拘束機構)
31 浮き床ブロック(振動体ブロック)
32 ピン接合部
33 球面すべり軸受
34 ロッド