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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】医療用穿刺装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/14 20060101AFI20230216BHJP
   A61B 1/018 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
A61M5/14 540
A61B1/018 515
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019022452
(22)【出願日】2019-02-12
(65)【公開番号】P2020127683
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 宏人
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-516435(JP,A)
【文献】国際公開第2018/148551(WO,A1)
【文献】実開平03-064653(JP,U)
【文献】特開2015-134117(JP,A)
【文献】特開平05-245102(JP,A)
【文献】特開2018-175057(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0198212(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/14
A61B 1/018
A61B 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠近方向に延在している第1中空部材と、
該第1中空部材の内腔に配置されており前記第1中空部材に対して前記遠近方向に移動可能である第2中空部材と、
該第2中空部材の遠位部においてその内腔内に固定されており該内腔に連通している針管と、
を有する医療用穿刺装置であって、
前記第1中空部材の遠近方向に垂直な面であって、前記針管の出口である開口部を通る面(以下、「開口面」)において、前記針管の先端が前記開口面を通る位置は、前記針管の長軸中心が前記開口面を通る位置よりも前記開口の中心に近く、
前記第1中空部材の遠近方向に垂直な面であって、前記第1中空部材の遠位端から該遠位端より15cm近位側までの区間において前記第1中空部材の断面積が最大となる面(前記第1中空部材の断面積が遠近方向に均一である場合は前記第1中空部材の遠位端を含む面)において、下記(1)および(2)を満たすことを特徴とする医療用穿刺装置。
(1)前記第1中空部材の内接円の中心点Cinは前記第1中空部材の外接円の中心点Coutから偏心した位置にある。
(2)前記中心点Cinを始点とし前記針管の先端から前記面に下ろされた垂線と前記面とが交わる点Pを終点とするベクトルAの方向と、前記中心点Cinを始点とし前記中心点Coutを終点とするベクトルBの方向とが同じである。
【請求項2】
前記第1中空部材は、外側チューブと、該外側チューブの内側面に固定されているスペーサーとを含んでいる請求項1に記載の医療用穿刺装置。
【請求項3】
前記針管は遠位端に傾斜した開口縁を有しており、該開口縁は最遠位部と最近位部とを有しており、前記スペーサーは前記針管の側面のうち前記最遠位部側に存在する請求項2に記載の医療用穿刺装置。
【請求項4】
前記スペーサーにおける前記ベクトルBに平行な方向の厚さは、前記遠近方向にわたって均一である請求項2または3に記載の医療用穿刺装置。
【請求項5】
前記スペーサーの遠位端は、前記第1中空部材の遠位端よりも近位側にある請求項2~4のいずれか一項に記載の医療用穿刺装置。
【請求項6】
前記スペーサーは遠位方向に向かって厚く形成されている区間を有している請求項2または3に記載の医療用穿刺装置。
【請求項7】
前記針管の長軸方向は、前記第1中空部材の遠近方向に対して平行である請求項1~6のいずれか一項に記載の医療用穿刺装置。
【請求項8】
前記針管の長軸方向は、前記第1中空部材の遠近方向に対して傾いている請求項1~6のいずれか一項に記載の医療用穿刺装置。
【請求項9】
前記第1中空部材は、場所により厚さが異なる偏肉形状を有している請求項1に記載の医療用穿刺装置。
【請求項10】
請求項2~6のいずれか一項に記載の医療用穿刺装置の製造方法であって、前記スペーサーを前記外側チューブの内側面に熱溶着または接着剤により固定する工程を有する医療用穿刺装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内管腔の組織部位に液体を注射するための医療用穿刺装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡下で胃壁や腸壁等にできたポリープ下の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸溶液を注射針で注入し、ポリープを隆起させた後、スネアワイヤー等でポリープを捕捉、絞扼し、電気ナイフ等の高周波処置具を用いてポリープを切除することがある。生理食塩水等の注入には、内視鏡の鉗子口から鉗子チャンネルを通って患者の体内管腔の処置対象部位まで送達される穿刺装置が使用される。穿刺装置は、針と、針を保持するインナーチューブ(第2中空部材)と、針およびインナーチューブを処置対象部位まで送達するまで収容するためのアウターチューブ(第1中空部材)から構成される。アウターチューブの遠位側への針とインナーチューブの移動の規制のために、アウターチューブの遠位端部の内径は狭くなっている。しかし、一般に針の先端は針の長軸中心からずれているため、体腔内に配置された内視鏡の屈曲した鉗子チャンネルの中を通過した穿刺装置の針をアウターチューブの遠位側の開口から突出させるときにアウターチューブの内径が狭まっている部分に針が接触して突き刺さり、針がアウターチューブの外に出ないことがある。そこで、アウターチューブからの針の突出をスムーズに行うための方法が検討されている。
【0003】
特許文献1には、内筒管の注射針近傍を、注射針の先端が開口部の略中心に向かう角度に屈曲成形した内視鏡用注射具が開示されている。これにより、内筒管の屈曲する角度を、注射針の先端が常に開口部の略中心に向かう角度に設定することができる。特許文献2には、注射針の先端の鋭角部が注射針の軸芯に位置するように注射針先端を湾曲形成した注射器具が開示されている。特許文献3には、針管の先端部に鋭利な形状の刃部が形成されており、刃部には第1刃面と刃部先端を構成する一対の第2刃面が設けられている穿刺針が開示されている。第2刃面を設けることによって、刃部先端であって第1刃面の先端側裏面に、刃部がシースに突き刺さることを防止する役目を有するバックカット部が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平3-64653号公報
【文献】実開昭63-3801号公報
【文献】特開2005-312828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された注射具は熱加工により内筒管を癖付けするため、内筒管の形状が不必要に変化する恐れがある。特許文献2に記載された注射器具では注射針を湾曲加工しているため、注射した時に湾曲部が組織内に入り込み、組織を押し広げて傷つけるおそれがある。また、内腔が狭い注射針を湾曲させることで針内を通る生理食塩水の流れに乱流が発生し、フロー性能が低下する。特許文献3に記載された穿刺針では、針の肉厚分しか針先端の位置をずらすことができない。そこで、本発明は針管を針管収容用の第1中空部材の外に素早く突出させることができる医療用穿刺装置とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決することができた本発明の医療用穿刺装置の一実施態様は、遠近方向に延在している第1中空部材と、第1中空部材の内腔に配置されており第1中空部材に対して遠近方向に移動可能である第2中空部材と、第2中空部材の遠位部においてその内腔内に固定されており該内腔に連通している針管と、を有する医療用穿刺装置であって、第1中空部材の遠近方向に垂直な面であって、第1中空部材の遠位端から該遠位端より15cm近位側までの区間において第1中空部材の断面積が最大となる面(第1中空部材の断面積が遠近方向に均一である場合は第1中空部材の遠位端を含む面)において、下記(1)および(2)を満たすことを特徴とする。
(1)第1中空部材の内接円の中心点Cinは第1中空部材の外接円の中心点Coutから偏心した位置にある。
(2)中心点Cinを始点とし針管の先端から上記面に下ろされた垂線と上記面とが交わる点Pを終点とするベクトルAの方向と、中心点Cinを始点とし中心点Coutを終点とするベクトルBの方向とが同じである。
【0007】
上記(1)、(2)の要件により、第1中空部材の内腔に配置される針管の長軸中心を第1中空部材の外接円の中心点Coutからずらすことができる。また、針管の先端が、第1中空部材の外接円の中心点Cout寄りに配置されるようになる。そのため、針管を第1中空部材の遠位側の開口から突出させるときに、針管の先端が第1中空部材の遠位端部に接触しにくくなるため、針管を第1中空部材の外に素早く突出させることができる。
【0008】
第1中空部材は、外側チューブと、外側チューブの内側面に固定されているスペーサーとを含んでいることが好ましい。
【0009】
針管は遠位端に傾斜した開口縁を有しており、開口縁は最遠位部と最近位部とを有しており、スペーサーは針管の側面のうち最遠位部側に存在することが好ましい。
【0010】
スペーサーにおけるベクトルBに平行な方向の厚さは、遠近方向にわたって均一であることが好ましい。
【0011】
スペーサーの遠位端は、第1中空部材の遠位端よりも近位側にあることが好ましい。
【0012】
スペーサーは遠位方向に向かって厚く形成されている区間を有していることが好ましい。
【0013】
針管の長軸方向は、第1中空部材の遠近方向に対して平行であることが好ましい。
【0014】
針管の長軸方向は、第1中空部材の遠近方向に対して傾いていることが好ましい。
【0015】
第1中空部材は、場所により厚さが異なる偏肉形状を有していることが好ましい。
【0016】
本発明には医療用穿刺装置の製造方法も含まれる。第1中空部材が、外側チューブと、外側チューブの内側面に固定されているスペーサーとを含んでいる医療用穿刺装置の製造方法の一実施態様は、スペーサーを外側チューブの内側面に熱溶着または接着剤により固定する工程を有するところに特徴を有する。本発明に係る医療用穿刺装置の製造方法によれば、針管を第1中空部材の外に素早く突出させることができる医療用穿刺装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
上記(1)、(2)の要件により、第1中空部材の内腔に配置される針管の長軸中心を第1中空部材の外接円の中心点Coutからずらすことができる。また、針管の先端が、第1中空部材の外接円の中心点Cout寄りに配置されるようになる。そのため、上記のように構成された医療用穿刺装置は、針管を第1中空部材の遠位側の開口から突出させるときに、針管の先端が第1中空部材の遠位端部に接触しにくくなるため、針管を第1中空部材の外に素早く突出させることができる。
また、本発明に係る医療用穿刺装置の製造方法によれば、針管を第1中空部材の外に素早く突出させることができる医療用穿刺装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る医療用穿刺装置の平面図(一部断面図)を表す。
図2図1に示した医療用穿刺装置の遠位端部を拡大した斜視図を表す。
図3図2に示した医療用穿刺装置の遠近方向に沿った断面図を表す。
図4図3のIV-IV線に沿った断面図を表し、医療用穿刺装置における第1面の模式図を示している。
図5図4に示した第1中空部材の第1面の模式図の変形例を表す。
図6図4に示した第1中空部材の第1面の模式図の他の変形例を表す。
図7】本発明の他の実施形態に係る医療用穿刺装置の遠近方向に沿った断面図を表す。
図8図7のVIII-VIII線に沿った断面図を表し、医療用穿刺装置における第1面の模式図を示している。
図9図7に示した医療用穿刺装置の遠近方向に沿った断面図の変形例を表す。
図10図9のX-X線に沿った断面図を表し、医療用穿刺装置における第1面の模式図を示している。
図11図7に示した医療用穿刺装置の遠近方向に沿った断面図の変形例を表す。
図12図7に示した医療用穿刺装置の遠近方向に沿った断面図の変形例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0020】
1.医療用穿刺装置
図1図4を参照して、医療用穿刺装置の基本構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る医療用穿刺装置の平面図(一部断面図)を表し、図2は、図1に示した医療用穿刺装置の遠位端部を拡大した斜視図を表し、図3図2に示した医療用穿刺装置の遠近方向に沿った断面図を表し、図4図3のIV-IV線に沿った断面図を表し、医療用穿刺装置における第1面(詳細は後述する)の模式図を示している。
【0021】
本発明において、医療用穿刺装置は、内視鏡下手術において体腔内の組織部位に液体を注入するために用いられる装置であり、例えば内視鏡の鉗子口を介して体腔内に挿入されるものである。注入する液体としては、生理食塩水やヒアルロン酸溶液の他に、薬剤や細胞を含む液体であってもよい。医療用穿刺装置1は、第1中空部材10と、第2中空部材20と、針管30とを有している。
【0022】
医療用穿刺装置1において、近位側とは第1中空部材10の延在方向に対して使用者、つまり術者の手元側を指し、遠位側とは近位側の反対方向、すなわち処置対象側を指す。また、第1中空部材10の近位側から遠位側への方向、または遠位側から近位側への方向を遠近方向と称する。図1の左側が遠位側、図1の右側が近位側を表している。また、医療用穿刺装置1の内方とは、第1中空部材10の径方向において第1中空部材10の長軸中心に向かう方向を指し、外方とは、内方とは反対方向の放射方向を指す。
【0023】
第1中空部材10は、体内管腔の治療非対象組織部位や内視鏡の鉗子チャンネル内を傷つけないように第2中空部材20および針管30を収納するために中空状に形成された部材である。第1中空部材10は、遠近方向に延在している。
【0024】
図3に示すように、第1中空部材10の内腔11は、遠近方向に延在しており、第1中空部材10の遠位側に設けられている開口12を介して外部と連通している。対象組織に針管30を穿刺する際には、開口12から針管30を突出させる。
【0025】
第1中空部材10の内径は、第1中空部材10の遠位端から該遠位端より15cm近位側までの区間40において内径が小さくなっている小径区間を有している。第1中空部材10の内径は、その小径区間より近位側または遠位側は遠近方向において均一であってもよく、内径が変化している部分があってもよい。第1中空部材10は、小径区間よりも遠位側に、遠位端に向かって内径が小さくなっている区間を有していてもよい。例えば、図1図3に示すように、第1中空部材10は、その遠位端部に遠位端10aに向かって先細りになっているテーパー部13が形成されていることが好ましい。テーパー部13を設けることにより、第2中空部材20および針管30が第1中空部材10の開口12より遠位側へ移動することを規制することができる。テーパー部13の最小内径は、第2中空部材20の遠位端20aの外径よりも小さく、針管30の外径よりも大きいことが好ましい。
【0026】
第2中空部材20は、第1中空部材10の内腔11に配置されており、第1中空部材10に対して遠近方向に移動可能なものである。第2中空部材20の内腔21は、生理食塩水や薬剤等の液体を流すための流路として機能する。第2中空部材20の内腔21は、第2中空部材20の遠位端部において針管30の内腔31と連通している。
【0027】
第1中空部材10および第2中空部材20は、それぞれが全体として筒形状であることが好ましく、例えば、円筒状、楕円筒状、または多角筒状にすることができる。第1中空部材10や第2中空部材20は、1つの部材から構成されていてもよく、複数の部材から構成されていてもよい。図1図4では、第1中空部材10および第2中空部材20が1つの部材から構成されている例を示している。第1中空部材20および第2中空部材20の厚さはそれぞれ均一であってもよく、場所によって厚さが異なっていてもよい。第1中空部材10と第2中空部材20は互いに厚さが同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
図示していないが、第2中空部材20の遠位端部において第2中空部材20と針管30の間に隙間ができる場合、第2中空部材20の遠位端部が封止されていることが好ましい。これにより、第2中空部材20と針管30の隙間が埋められるため、第2中空部材20から液体が漏れることを防ぐことができる。例えば、医療用穿刺装置1には第2中空部材20の遠位端部を封止している先端部材が設けられていることが好ましい。
【0029】
第1中空部材10および第2中空部材20は、樹脂から構成されていることが好ましい。第1中空部材10および第2中空部材20を構成する樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂が好適に用いられる。第1中空部材10と第2中空部材20を構成する樹脂は異なっていても同じであってもよい。
【0030】
針管30は、第2中空部材20の遠位部においてその内腔21内に固定されており、該内腔21内に連通している。針管30は、遠位側に針の先端が位置するように第2中空部材20に固定される。針管30は、内部に生理食塩水等の液体を流すことができるように円管状等の管状に形成されている。針管30を組織の対象部位(例えば、粘膜下層)に穿刺することにより、生理食塩水等の液体を注入することができる。液体が注入された組織は隆起する。隆起した組織をスネアワイヤー等の処置具で捕捉、絞扼し、組織を切除するまたは、電気ナイフ等の高周波処置具を用いて組織を切除することができる。なお、針管30が固定される第2中空部材20の遠位部は、第2中空部材20の遠近方向の中央よりも遠位側であり、第2中空部材20の遠位端20aを含む部分であることが好ましい。
【0031】
針管30の遠位端部は、組織に穿刺しやすいように形成されていれば特に限定されないが、図3に示すように針管30は遠位端に傾斜した開口縁32を有していることが好ましい。
【0032】
針管30の先端30aを組織に穿刺できるように、針管30の先端30a(遠位端)は第2中空部材20の遠位端20aよりも遠位側に配置されている。
【0033】
針管30の内腔31での液体の流れを良好にするために、針管30の長軸方向と垂直な断面の形状は、円形状または楕円形状であることが好ましい。
【0034】
図3に示すように、針管30の長軸方向は、第1中空部材10の遠近方向に対して平行であることが好ましい。針管30が第1中空部材10の遠近方向に沿って動きやすくなるため、針管30を第1中空部材10の遠位側の開口12から突出させるときに、針管30の先端30aが第1中空部材10の遠位端部に接触しにくくなる。
【0035】
針管30を構成する材料としては、第1中空部材10および第2中空部材20の好ましい材料として挙げた樹脂材料のほか、ステンレスやNi-Ti合金などの金属材料を用いることができる。
【0036】
図2図4に示すように、医療用穿刺装置1は、第1中空部材10の遠近方向に垂直な面であって、第1中空部材10の遠位端10aから該遠位端10aより15cm近位側までの区間40において第1中空部材10の断面積が最大となる面41(第1中空部材10の断面積が遠近方向に均一である場合は第1中空部材10の遠位端10aを含む面)(以下、「第1面」ということがある)において、下記(1)および(2)を満たしている。
(1)第1中空部材10の内接円15の中心点Cinは第1中空部材10の外接円16の中心点Coutから偏心した位置にある。
(2)中心点Cinを始点とし針管30の先端30aから面41に下ろされた垂線Lと面41とが交わる点Pを終点とするベクトルAの方向と、中心点Cinを始点とし中心点Coutを終点とするベクトルBの方向とが同じである。
【0037】
本発明において、第1中空部材10の内接円15とは、第1面41において第1中空部材10の内腔11を形成する内壁の少なくとも一部と接触している最も半径が大きい円である。また、(2)の要件中、ベクトルAとベクトルBとが同じ方向であるとは、ベクトルAの方向とベクトルBの方向に30度以内の違いがあることを許容するものとする。なお、図2図3では第1中空部材10の内側面に段差が設けられて内腔11が狭くなっている部分において第1中空部材10の断面積が最大である。このように第1中空部材10の断面積が最大となる区間が存在する場合には、当該区間の最遠位を含む面を第1面とする。以降の態様についても同様に、一義的に第1面を定めることができる。したがって、図2図3では段差が設けられて内腔11が狭くなっている部分の最遠位を含む面を第1面として示している。
【0038】
上記(1)、(2)の要件により、第1中空部材10の内腔11に配置される針管30の長軸中心を第1中空部材10の外接円16の中心点Coutからずらすことができる。また、針管30の先端30aが、第1中空部材10の外接円16の中心点Cout寄りに配置されるようになる。そのため、針管30を第1中空部材10の遠位側の開口12から突出させるときに、針管30の先端30aが第1中空部材10の遠位端部に接触しにくくなるため、針管30を第1中空部材10の外に素早く突出させることができる。
【0039】
本発明においては、ベクトルAの方向とベクトルBの方向に30度以内の違いがあることを許容するものであるが、図2および図4に示すように、第1面41において、ベクトルB上に点Pが位置していることが好ましい。これにより、ベクトルAとベクトルBがなす角度が0度となるため、針管30を第1中空部材10の遠位側の開口12から突出させるときに、針管30の先端30aが第1中空部材10の遠位端部に接触しにくくなる。
【0040】
第1中空部材10の外接円16の中心点Coutと点Pを結ぶ距離は、第1中空部材10の内接円15の中心点Cinと点Pとを結ぶ距離よりも短いことが好ましい。このように針管30の先端30aの位置を設定することによって、針管30の先端30aを第1中空部材10の外接円16の中心点Coutに近付けることができる。針管30の先端30aが、第1中空部材10の外接円16の中心点Coutに近づくことによって、針管30を第1中空部材10の遠位側の開口12から突出させるときに、針管30の先端30aが第1中空部材10の遠位端部に接触しにくくなる。
【0041】
第1中空部材10は、遠近方向と垂直な断面の形状が回転対称性を持たない形状である区間を有していることが好ましく、第1中空部材10の遠位端から該遠位端より15cm近位側までの区間のいずれかの箇所において、遠近方向と垂直な断面の形状が回転対称性を持たない形状であることがより好ましく、例えば真円形状や正多角形状でないことがさらに好ましい。これにより、第1中空部材10の内接円15の中心点Cinが第1中空部材10の外接円16の中心点Coutから偏心した位置に配置されやすくなる。図3図4に示すように、例えば第1中空部材10の内側面に段差が設けられて内腔11が狭くなっている部分において、第1中空部材10の遠近方向と垂直な断面が回転非対称の形状であってもよい。
【0042】
第1中空部材10の遠位端から該遠位端より15cm近位側までの区間のいずれかの箇所では、第1中空部材10の遠近方向と垂直な断面が、楕円形状、多角形状またはこれらを組み合わせた形状であることが好ましい。これにより、第1中空部材10の柔軟性を維持しつつ、第1中空部材10の内接円15の中心点Cinが第1中空部材10の外接円16の中心点Coutから偏心した位置に配置されやすくなる。
【0043】
図2図4に示すように、第1中空部材10は、場所により厚さが異なる偏肉形状を有していてもよい。例えば、第1中空部材10の遠位端から該遠位端より15cm近位側までの区間40において、第1中空部材10は、場所により厚さが異なる偏肉形状を有していてもよい。詳細には、第1面41において第1中空部材10の内腔11を取り囲んでいる部分の厚さは、周方向の位置によって異なっていることが好ましい。このように第1中空部材10の厚さを変えることによって、針管30の先端30aを第1中空部材10の外接円16の中心Coutに近付けることができる。
【0044】
第1中空部材10の内腔11は、第1中空部材10の外接円16の中心Coutよりも半径方向の外側に配置されている区間を有していることが好ましい。このように第1中空部材10の内腔11を配置することで、第1中空部材10を偏肉形状にすることができる。
【0045】
第1面41において第1中空部材10の最も厚い部分の厚さが、針管30の外径よりも大きいことが好ましい。このように第1中空部材10の肉厚を設定することによっても、第1中空部材10を偏肉形状にすることができる。
【0046】
図4図6を用いて、第1中空部材10が偏肉形状を有している例について説明する。図5図6は、偏肉形状を有している第1中空部材10の第1面41の模式図の変形例を表している。図4に示すように、第1面41において第1中空部材10の外形が真円形状であり、第1中空部材10の内形が楕円形状であってもよい。また、図5に示すように第1中空部材10の外形と内形がいずれも真円形状であってもよい。その場合、第1中空部材10の内腔11は、第1中空部材10の外接円16の中心Coutよりも径方向の外方に配置されていることが好ましい。さらに、図6に示すように第1中空部材10の外形が真円形状であり、第1中空部材10の内形が三角形状であってもよい。このように外形と内形を異ならせることによって、偏肉形状を有している第1中空部材10を形成しやすくなる。
【0047】
次に、第1中空部材10が2以上の部材から構成されている例について説明する。図7は他の実施形態に係る医療用穿刺装置1の遠近方向に沿った断面図を表し、図8図7のVIII-VIII線に沿った断面図を表し、医療用穿刺装置1における第1面41の模式図を示している。第1中空部材10は、外側チューブ17と、スペーサー18とを有していてもよい。なお、図7では、第1中空部材10の断面積が、スペーサー18の遠位端18aから区間40の近位端までの間で最大であるため、図8ではスペーサー18の遠位端18aを含む面を第1面41として示している。
【0048】
外側チューブ17は、第1中空部材10の外形を形成する筒状の部材である。外側チューブ17の内方には、第2中空部材20が配置される。外側チューブ17は、遠近方向に沿って延在していることが好ましい。外側チューブ17は、第2中空部材20に対して遠近方向に移動することが好ましい。
【0049】
外側チューブ17の遠近方向と垂直な断面の形状は、円形状または楕円形状であることが好ましい。これにより、内視鏡の鉗子チャンネル内で第1中空部材10を移動させやすくなり、外側チューブ17の製造工程の複雑化を抑えることもできる。
【0050】
スペーサー18は、針管30の先端30aの位置を調整するために設けられる。スペーサー18は、例えば、中実の棒状、円筒、楕円筒、角筒等の筒状、塊状、平板状に形成することができる。厚みが同じまたは異なる複数のスペーサー18が積層されていてもよい。または、複数のスペーサー18が長軸方向に並んで配置されていてもよい。
【0051】
スペーサー18は複数設けられていてもよい。例えば、複数のスペーサー18は遠近方向または周方向において互いに離間するように配置されていてもよい。このようにスペーサー18を分割して設けることにより、第1中空部材10の遠位部での柔軟性を確保しやすくなる。スペーサー18同士の間隔は特に限定されないが、例えば遠近方向においてスペーサー18が複数設けられている場合には、遠近方向におけるスペーサー18の長さ以上の距離にすることができる。
【0052】
スペーサー18の遠近方向の長さは、スペーサー18におけるベクトルBに平行な方向の厚さよりも長いことが好ましい。これにより、スペーサー18によって第2中空部材20を広範囲で支持することができるため、第2中空部材20の遠近方向への移動操作を安定して行うことができる。
【0053】
スペーサー18の遠位端18aは、第1中空部材10の遠位端10aから該遠位端10aより15cm近位側までの区間40の近位端よりも遠位側に配置されていることが好ましい。スペーサー18を区間40内に配置することによって第1中空部材10の断面積が最大となる面41を形成しやすくなる。
【0054】
スペーサー18の近位端18bは、第1中空部材10の遠位端10aから該遠位端10aより15cm近位側までの区間40の近位端よりも近位側に配置されていてもよい。これにより、スペーサー18によって第2中空部材20を広範囲で支持することができるため、第2中空部材20の遠近方向への移動操作を安定して行うことができる。
【0055】
外側チューブ17やスペーサー18を構成する材料は生体適合性を有する限り特に限定されないが、例えば第1中空部材10や第2中空部材20を構成する樹脂と同様の樹脂から構成することができる。
【0056】
外側チューブ17とスペーサー18の接合性を良好にするために、外側チューブ17とスペーサー18が同じ材料から構成されていてもよい。
【0057】
図7図8に示すように、第1中空部材10は、外側チューブ17と、外側チューブ17の内側面に固定されているスペーサー18とを含んでいることが好ましい。このようにスペーサー18を設けることにより、上記(1)および(2)の条件を満たす構成としやすくなる。
【0058】
図7図8に示すように、スペーサー18は、外側チューブ17の内側面の周方向の一部に配置されていることが好ましい。医療用穿刺装置1の製造において、スペーサー18内に針管30を挿入する工程を省略することができる。
【0059】
スペーサー18が、外側チューブ17の内側面の周方向の一部に配置されている場合、スペーサー18の遠近方向と垂直な断面の形状は、円形状または楕円形状であることが好ましい。スペーサー18の外側面が第2中空部材20の外側面と対向するが、スペーサー18の断面をこのように形成することにより、第2中空部材20に対するスペーサー18の摺動性が良好になる。
【0060】
針管30は遠位端に傾斜した開口縁32を有しており、開口縁32は最遠位部32aと最近位部32bとを有しており、スペーサー18は針管30の側面のうち最遠位部32a側に存在することが好ましい。これにより、針管30の先端30aが、第1中空部材10の外接円16の中心点Cout寄りに配置されるようになる。さらに、スペーサー18は、針管30の側面のうち最遠位部32a側に存在し、最近位部32b側に存在していなくてもよい。ここで、スペーサー18が針管30の側面のうち最遠位部32a側に存在するとは、最遠位部32aを含み内角が±30度の範囲に存在していることを許容し、スペーサー18が針管30の側面のうち最近位部32b側に存在するとは、最近位部32bを含み内角が±30度の範囲に存在することを許容する。
【0061】
スペーサー18が、外側チューブ17の内側面の周方向の一部に配置されている場合、スペーサー18の外側面に潤滑剤が塗布されていることが好ましい。これにより、第1中空部材10に対する第2中空部材20の摺動性を高めることができる。
【0062】
外側チューブ17の内側面とスペーサー18の外側面は互いに直接接合されていてもよいし、外側チューブ17の内側面とスペーサー18の外側面は接着層を介して間接的に接合されていてもよい。
【0063】
スペーサー18の遠位端18aは、第1中空部材10の遠位端10aよりも近位側にあることが好ましい。これにより、スペーサー18の遠位端18aよりも遠位側で第1中空部材10の内腔11が広く形成される結果、医療用穿刺装置1の遠位端部に可撓性を付与することができる。
【0064】
遠近方向において、スペーサー18の遠位端18aは、外側チューブ17の遠位端17aと一致していてもよく、外側チューブ17の遠位端17aよりも近位側に配置されていてもよく、外側チューブ17の遠位端17aよりも遠位側に配置されていてもよい。スペーサー18の遠位端18aが外側チューブ17の遠位端17aよりも近位側に配置されている場合、外側チューブ17の遠位端部にテーパー部13が形成されていてもよい。また、スペーサー18の遠位端18aが外側チューブ17の遠位端17aよりも遠位側に配置されている場合、スペーサー18の遠位端部にテーパー部13が形成されていてもよい。
【0065】
スペーサー18は、外側チューブ17の遠近方向の中央よりも遠位側に配置されていることが好ましく、第1中空部材10の遠位端10aから該遠位端10aより15cm近位側までの区間40に配置されていることがより好ましい。これにより針管30が配置されている付近で第2中空部材20を支持することができるため、第2中空部材20の遠近方向への移動操作を安定して行うことができる。
【0066】
スペーサー18は、外側チューブ17の遠近方向の全体にわたって配置されていてもよい。スペーサー18によって第2中空部材20の遠近方向の全体を支持することができるため、第1中空部材10内での第2中空部材20の位置が安定する。
【0067】
図9図7に示した医療用穿刺装置1の遠近方向に沿った断面図の変形例を表し、図10は、図9のX-X線に沿った断面図を表し、医療用穿刺装置1における第1面の模式図を示している。図9図10に示すように、スペーサー18は、外側チューブ17の内側面の周方向の全体にわたって配置されていてもよい。このようにスペーサー18を設けることによっても偏肉形状を有する第1中空部材10を形成することができる。
【0068】
スペーサー18は、第2中空部材20を内包する内腔19を有しており、面41(第1面41)において、スペーサー18の外接円とスペーサー18の内腔19に内接する内接円とが互いに偏心していることが好ましい。このようにスペーサー18の内腔19に第2中空部材20を配置することでも、上記(1)および(2)の条件を満たす構成としやすくなる。
【0069】
スペーサー18が内腔19を有している場合、第2中空部材20の周方向の全体にわたってスペーサー18が配置される構造となる。この場合、スペーサー18は円筒、楕円筒、角筒等の筒状に形成されていることが好ましい。
【0070】
図10に示すように、スペーサー18の内腔19が、第1中空部材10の外接円16の中心Coutよりも径方向の外方に配置されていることが好ましい。これにより、第1中空部材10の内接円15の中心点Cinが、第1中空部材10の外接円16の中心点Coutから偏心した位置に配置されやすくなる。
【0071】
針管30を最も遠位側に移動させたときに、遠近方向において、スペーサー18の遠位端18aが針管30の近位端30bよりも遠位側に配置されていることが好ましい。針管30を最も遠位側に移動させても、スペーサー18で針管30を支持することができるため、針管30の先端30aの位置を安定させることができる。
【0072】
針管30を最も遠位側に移動させたときに、スペーサー18の遠位端18aが針管30の近位端30bよりも近位側に配置されていてもよい。このように針管30とスペーサー18の遠近方向の位置をずらすことによって、針管30が設けられている部分で局所的に剛性が高まることを抑制できる。
【0073】
図7および図9に示すように、スペーサー18においてベクトルBに平行な方向の厚さは、遠近方向にわたって均一であることが好ましい。これにより、針管30の長軸方向を第1中空部材10の遠近方向に対して平行にしやすくなる。なお、図7および図9においてベクトルBに平行な方向は紙面の上から下に向かう方向である。
【0074】
スペーサー18においてベクトルBに平行な方向の厚さが遠近方向にわたって均一である場合、スペーサー18が外側チューブ17の遠近方向全体にわたって配置されていることが好ましい。これにより、第1中空部材10内に配される第2中空部材20が遠近方向全体にわたって偏心しやすくなるため、第1中空部材10内での第2中空部材20の位置がより一層安定する。
【0075】
図11図12は、図7に示した医療用穿刺装置1の遠近方向に沿った断面図の変形例を表す。図11図12に示すように、針管30の長軸方向は、第1中空部材10の遠近方向に対して傾いていることが好ましい。針管30の長軸方向を傾けることによって針管30の先端位置を調整することができ、第1面41において針管30の先端30aを第1中空部材10の中心点Coutに近付けやすくなる。なお、図11図12では遠近方向における第1面41の位置を41aとして表している。
【0076】
針管30は、長軸方向の全体が第1中空部材10の遠近方向に対して傾いていることが好ましい。このように針管30を曲げるのではなく針管30全体を傾けることによって、針管30に対して負荷が掛かりにくいため、針管30の損傷を防ぐことができる。
【0077】
スペーサー18は遠位方向に向かって厚く形成されている区間を有していることが好ましい。このような区間を設けることにより、針管30を傾けることができる。詳細には、針管30が遠位端(先端30a)に傾斜した開口縁32を有しており、開口縁32が最遠位部32aと最近位部32bとを有している場合、針管30の側面のうち開口縁32の最遠位部32a側に存在している部分のベクトルBに平行な方向(図11図12では紙面の上下方向)のスペーサー18の厚さは、近位側に向かって小さくなっていることが好ましい。このようにスペーサー18を形成することによっても針管30を傾けることができる。なお、図12に示すように、針管30の側面のうち開口縁32の最近位部32b側に存在している部分のベクトルBに平行な方向のスペーサー18の厚さは、近位側に向かって大きくなっていてもよい。
【0078】
スペーサー18の遠位方向に向かって厚く形成されている区間は、スペーサー18の遠近方向の全体にわたって設けられていてもよく、遠近方向の一部に設けられていてもよく、第1中空部材10の遠位端10aから該遠位端10aより15cm近位側までの区間40に設けられていてもよい。スペーサー18の遠位方向に向かって厚く形成されている区間の遠位端は、スペーサー18の遠位端18aと一致していてもよく、スペーサー18の遠位端18aよりも近位側に配置されていてもよい。また、スペーサー18の遠位方向に向かって厚く形成されている区間の近位端は、スペーサー18の近位端と一致していてもよく、スペーサー18の近位端よりも遠位側に配置されていてもよい。
【0079】
スペーサー18の遠位方向に向かって厚く形成されている区間の遠近方向の長さは、針管30のうち第2中空部材20内に配置されている部分の遠近方向の長さよりも長いことが好ましい。このように上記区間の長さを設定することにより、針管30を第1中空部材10の遠位側の開口12から突出させるときに、針管30の先端位置を適切にすることができる。
【0080】
針管30の長軸方向は、第1中空部材10の遠近方向に対して3度以上傾いていることが好ましく、5度以上傾いていることがより好ましく、10度以上傾いていることがさらに好ましい。このように傾きを設定することにより、針管30の先端30aと第1中空部材10の遠位端部との接触を回避しやすくなる。第1中空部材10の遠近方向に対する針管30の長軸方向の傾きの角度の上限は特に限定されないが、例えば30度以下とすることができる。針管30の第1中空部材10の遠近方向に対する傾きは、装置に必要な角度、針管30や中空部材のサイズに応じて適宜選択することができる。
【0081】
図11図12に示すように、第2中空部材20は、長軸方向が第1中空部材10の遠近方向に対して傾いている区間を有していてもよい。外側チューブ17にスペーサー18が固定され、第2中空部材20が挿通するときに第2中空部材20の遠位部が曲げられることによって、第2中空部材20に当該区間が形成されていてもよい。
【0082】
医療用穿刺装置1を動かすための手元側の構成について説明する。図1に示すように、第1中空部材10の近位側には第1ハンドル51が接続されている。第1ハンドル51は第2ハンドル52の外側に設けられており、第2ハンドル52は第1ハンドル51に対して長軸方向に移動可能に構成されている。第2中空部材20の近位側には第2ハンドル52が接続されている。第1ハンドル51、第2ハンドル52は、第2中空部材20および針管30を遠近方向に移動させるために術者が把持する部分である。第2ハンドル52は遠近方向に沿って移動可能に構成されている。第2ハンドル52を遠近方向に移動させることで、針管30が第1中空部材10の遠位端部から露出したり、第1中空部材10内に収納される。第2ハンドル52の近位側には液体が収納された容器が接続される。第1ハンドル51と第1中空部材10、第2ハンドル52と第2中空部材20は、熱圧着、接着剤による接着等の方法で接続することができる。第1ハンドル51と第2ハンドル52とは相対的に移動可能であればよく、第2ハンドル52が第1ハンドル51に対して長軸方向に移動可能であってもよく、第1ハンドル51が第2ハンドル52に対して長軸方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0083】
2.医療用穿刺装置の製造方法
医療用穿刺装置の製造方法の一実施態様について説明する。本態様は、第1中空部材10が1つの部材から構成されているか、第1中空部材10が外側チューブ17と、外側チューブ17の内側面に固定されているスペーサー18とを含んでおり、スペーサー18が内腔19を有している医療用穿刺装置1を製造するのに好適である。
【0084】
第1中空部材10と、内腔21内に針管30が固定されている第2中空部材20を準備する(工程1A)。第1中空部材10は、第1面41において第1中空部材10の内接円15の中心点Cinが第1中空部材10の外接円16の中心点Coutから偏心した位置にあるものである。
【0085】
工程1Aにおいて、第1中空部材10は、第1中空部材10の内腔11を形成する芯材の長軸中心を第1中空部材10の外接円16の中心点Coutから偏心した位置となるように固定した状態で押出成形をすることにより製造してもよい(工程1A-1)。これにより1つの部材から構成されている第1中空部材10を製造することができる。芯材の外形を変えることにより、第1中空部材10の内腔形状を変えることができる。
【0086】
工程1A-1において、芯材は棒状に形成されていることが好ましい。芯材を構成する材料としては、ステンレス鋼、Ni-Ti合金等の金属材料が挙げられる。
【0087】
工程1A-1において、芯材の長軸方向と垂直な断面は、円形状、楕円形状、多角形状、またはこれらの組み合わせとすることができる。芯材の上記断面が円形状であれば図5に示すような第1中空部材10を、上記断面が楕円形状であれば図4に示すような第1中空部材10を、上記断面が三角形状であれば図6に示すような第1中空部材10を製造することができる。
【0088】
また、工程1A-1に代えて、筒状体の内腔に芯材を挿入し、芯材に対して径方向の外側から筒状体の長軸中心に向かう方向の外力を加えながら、筒状体の遠位端部を加熱して、芯材周囲の樹脂を軟化することによって第1中空部材10を製造してもよい(工程1A-2)。筒状体の遠位端から該遠位端より15cm近位側までの区間は熱可塑性樹脂で構成されていることが好ましい。加熱工程においては、筒状体の外側に、該筒状体の材質とは異なる材質の熱収縮チューブを配置して加熱してもよい。熱収縮チューブは加熱後に取り外す。このように外力を付与することで、第1中空部材10の内接円15の中心点Cinを第1中空部材10の外接円16の中心点Coutから偏心した位置に配置することができる。ここで筒状体としては公知の樹脂チューブを用いることができる。芯材は工程1A-1と同様のものを用いることができる。なお、加熱中だけなく加熱前後において外力を加えてもよい。
【0089】
以下の方法で、外側チューブ17と、外側チューブ17の内側面に固定されているスペーサー18とを含んでおり、スペーサー18が内腔19を有している第1中空部材10を製造することもできる。
【0090】
工程1Aにおいて、第1中空部材10のスペーサー18は、スペーサー18の内腔19を形成する芯材の長軸中心をスペーサー18の外接円の中心点から偏心した位置となるように固定した状態で押出成形をすることにより製造してもよい(工程1A-3)。芯材の長軸と垂直な断面の形状は、工程1A-1と同様に設定することができる。工程1A-3において芯材の上記断面が円形状の場合、図10に示すような第1中空部材10を製造することができる。
【0091】
また、工程1A-3に代えて、筒状体の内腔に芯材を挿入し、芯材に対して径方向の外側から筒状体の長軸中心に向かう方向の外力を加えながら、筒状体の遠位端部を加熱して、芯材周囲の樹脂を軟化することによってスペーサー18を製造してもよい(工程1A-4)。筒状体の遠位端から該遠位端より15cm近位側までの区間は熱可塑性樹脂で構成されていることが好ましい。加熱工程においては、筒状体の外側に、該筒状体の材質とは異なる材質の熱収縮チューブを配置して加熱してもよい。熱収縮チューブは加熱後に取り外す。なお、加熱中だけなく加熱前後において外力を加えてもよい。
【0092】
工程1Aにおいて、第2中空部材20の内腔21に針管30を挿入し、第2中空部材20に熱収縮性を有するチューブを被せて、熱収縮性チューブを加熱することによって内腔21内に針管30が固定されている第2中空部材20を製造することができる(工程1A-5)。これにより、針管30を第2中空部材20の内腔21内に強固に固定することができるため、針管30の脱落を防ぐことができる。第2中空部材20としては例えば筒状の樹脂チューブを用いることができる。針管30としては例えば金属製または樹脂製の針を用いることができる。
【0093】
工程1Aの後、第1中空部材10の内腔11に、内腔21に針管30が固定されている第2中空部材20を挿入する(工程1B)。これにより、針管30を第1中空部材10の外に素早く突出させることができる医療用穿刺装置1を製造することができる。
【0094】
医療用穿刺装置1の製造方法の他の実施形態について説明する。第1中空部材10が、外側チューブ17と、外側チューブ17の内側面に固定されているスペーサー18とを含んでいる医療用穿刺装置1の製造方法は、スペーサー18を外側チューブ17の内側面に熱溶着または接着剤により固定する工程を有している。
【0095】
外側チューブ17と、外側チューブ17の内方に配置されるスペーサー18を準備する(工程2A)。
【0096】
工程2Aにおいて、外側チューブ17としては公知の樹脂チューブを用いることができる。
【0097】
工程2Aにおいて、スペーサー18は第2中空部材20および針管30を内包する内腔19を有している中空状に形成されていてもよく、中実状に形成されていてもよい。外側チューブ17とスペーサー18により、第1中空部材10を製造することができる。スペーサー18が第2中空部材20および針管30を内包する内腔19を有している場合、スペーサー18の外接円とスペーサー18の内腔19に内接する内接円とが互いに偏心していることが好ましい。
【0098】
スペーサー18を外側チューブ17の内方に配置する(工程2B)。
【0099】
スペーサー18を外側チューブ17の内側面に熱溶着または接着剤により固定する(工程2C)。ここで、外側チューブ17の内側面は、外側チューブ17の内周面を指す。工程2Cにおいて、スペーサー18の外側面の周方向の一部を外側チューブ17の内側面に固定してもよい。これにより、図7図8に示すような第1中空部材10を製造することができる。工程2Cにおいて、スペーサー18の外側面の周方向全体を外側チューブ17の内側面に固定してもよい。これにより、図9図10に示すような第1中空部材10を製造することができる。工程2Cにより、(1)および(2)の要件を満たす医療用穿刺装置1を製造することができる。このような医療用穿刺装置1は、針管30を第1中空部材10の外に素早く突出させることができるものである。
【0100】
工程2Cにおいて部材同士を熱溶着により固定するために、外側チューブ17とスペーサー18の少なくともいずれか一方は樹脂から構成されていることが好ましい。
【0101】
工程2Cで用いられる接着剤としては、ポリウレタン系、エポキシ系、シアノ系、シリコーン系の接着剤が好ましい。
【0102】
第1中空部材10の内腔11に、内腔21内に針管30が固定されている第2中空部材20を配置する(工程2D)。
【符号の説明】
【0103】
1:医療用穿刺装置
10:第1中空部材
10a:第1中空部材の遠位端
11:第1中空部材の内腔
12:開口
13:テーパー部
15:第1中空部材の内接円
16:第1中空部材の外接円
17:外側チューブ
17a:外側チューブの遠位端
18:スペーサー
18a:スペーサーの遠位端
18b:スペーサーの近位端
19:スペーサーの内腔
20:第2中空部材
20a:第2中空部材の遠位端
21:第2中空部材の内腔
30:針管
30a:針管の先端
31:内腔
32:開口縁
32a:開口縁の最遠位部
32b:開口縁の最近位部
40:第1中空部材の遠位端から該遠位端より15cm近位側までの区間
41:面(第1面)
41a:遠近方向における第1面の位置
51:第1ハンドル
52:第2ハンドル
A、B:ベクトル
Cin:第1中空部材の内接円の中心点
Cout:第1中空部材の外接円の中心点
L:針管の先端から面に下ろされた垂線
P:第1中空部材の内接円の中心点を始点とし針管の先端から面に下ろされた垂線と面(第1面)とが交わる点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12