(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230216BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
E04H9/02 331B
F16F15/023 A
(21)【出願番号】P 2019024746
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小槻 祥江
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-114867(JP,A)
【文献】特開2010-281394(JP,A)
【文献】特許第7090006(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00- 9/16
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震対象物の設置面に対する揺れを抑制する免震装置であって、
一端が前記免震対象物側に連結された第1ダンパーと、
一端が前記設置面側に連結された第2ダンパーと、
前記第1ダンパーの他端と前記第2ダンパーの他端とに連結され、前記設置面に対して前記第1ダンパーと前記第2ダンパーとを支持すると共に、前記第1ダンパーのストロークと前記第2ダンパーのストロークとが等長となるように前記ストロークに応じて前記設置面を移動する支持部と、
前記免震対象物と前記第1ダンパーの前記一端とを連結すると共に、前記設置面と平行な平面内において前記第1ダンパーのストローク方向と略直交する方向に前記第1ダンパーを前記免震対象物に対して摺動させる連結部と、を備えることを特徴とする、
免震装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記第1ダンパーの一端と前記第2ダンパーの一端との中点の位置を保持しながら前記設置面を移動することを特徴とする、
請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記支持部は、前記第1ダンパーの径方向の両側において上方に突出して形成された、前記第1ダンパーの水平面方向の移動を規制するためのストッパを備えることを特徴とする、
請求項1または2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記支持部は、
前記第1ダンパーのストロークと前記第2ダンパーのストロークとが等長となるように形成された伸縮自在なリンク機構と、
前記リンク機構を支持する架台と、を備え、
前記リンク機構は、
前記架台に固定された本体部と、
前記本体部の軸方向の両端に設けられた第
1ボールナット及び第2ボールナットと、
一端側が前記免震対象物側に回転自在に連結され、他端側が前記第1ボールナットに螺合する第1ボールネジと、
一端側が設置面側に回転自在に連結され、他端側が前記第2ボールナットに螺合すると共に、前記第1ボールネジと逆ネジで形成された第2ボールネジと、を備えることを特徴とする、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の免震装置。
【請求項5】
前記架台には、前記第1ダンパーの他端と前記第2ダンパーの他端とが連結されていることを特徴とする、
請求項4に記載の免震装置。
【請求項6】
複数の前記第1ダンパーと、前記第1ダンパーと同数の複数の前記第2ダンパーとを備えることを特徴とする、
請求項1から5のうちいずれか1項に記載の免震装置。
【請求項7】
前記設置面において前記ストローク方向に移動自在に前記支持部を支持する移動機構を備えることを特徴とする、
請求項1から6のうちいずれか1項に記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物が受ける振動を抑制する免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長周期地震動(例えば、南海トラフ沿いの巨大地震)や直下型地震動による長周期パルス地震動が発生し、長周期大振幅地震動の危険性が指摘されている。想定以上の長周期大振幅地震動が発生した際には、現在建設されている建物の免震技術では対応が不十分となる虞がある。
【0003】
例えば、長周期大振幅地震動が発生すると、免震構造の免震層が大変形して建物が擁壁へ衝突したり、衝突時に建物に衝撃加速度が入力されることによって建物が損傷したりする虞がある。また、長周期地震動の振動と建物の振動とが共振すること等によって建物に応答増幅が発生し、建物の揺れが増大する虞がある。
【0004】
これらの想定される被害対策として、さまざまな技術が提案されている。例えば、建物の擁壁への衝突に対しては、緩衝材を設置することで衝突時の衝撃を緩和する技術がある(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
また、大変形を抑制する為には大量の減衰装置を設置することが効果的であるが、その場合は減衰力が大きすぎて小地震に対して大きな加速度が建物に入力されてしまうという課題がある。その対策技術として、変位に依存して減衰力を変化させるオイルダンパーも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-77229号公報
【文献】特開2016-199910号公報
【文献】特開2017-26095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1または特許文献2に記載された技術によれば、緩衝材を用いた対策に関しては、擁壁への衝突は免れることができるが、緩衝材への衝突時の衝撃加速度は建物内に入力されることになる。また衝突が発生した後、つぶれた緩衝材を交換するという手間が必要になる。
【0008】
特許文献3に記載された技術によれば、変位に依存したオイルダンパー装置自体のストロークが最大1000[mm]以下であり、クリアランスを1[m]より大きく取る設計に適用できない場合がある。そして、ダンパーの対応可能な最大速度は150[cm/s]までという制約があり、想定外に巨大な地震が発生した場合はダンパー自体が破損してしまう虞がある。
【0009】
しかし、これらの課題を解決するために建物の揺れに対するストロークを確保しようとして、例えば、通常のオイルダンパーを2台直列に連結した装置を用いると、本体の長さが長くなると共に、ダンパーの自重による鉛直荷重とダンパーの軸方向の荷重によりピストンロッドに撓みが生じ、オイルダンパーが座屈しやすくなってしまうという問題がある。更に、建物の揺れは水平面内において一方向とは限らず、2方向に移動する可能性があるため、2方向への変形に装置を対応する必要がある。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、特殊なダンパーを用いることなく、複数のダンパーを連結してもストロークを確保しつつ、複数のダンパーを確実に支持すると共に、水平面内の2方向への移動に対応することができる免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、本発明は、免震対象物の設置面に対する揺れを抑制する免震装置であって、一端が前記免震対象物側に連結された第1ダンパーと、一端が前記設置面側に連結された第2ダンパーと、前記第1ダンパーの他端と前記第2ダンパーの他端とに連結され、前記設置面に対して前記第1ダンパーと前記第2ダンパーとを支持すると共に、前記第1ダンパーのストロークと前記第2ダンパーのストロークとが等長となるように前記ストロークに応じて前記設置面を移動する支持部と、前記免震対象物と前記第1ダンパーの前記一端とを連結すると共に、前記設置面と平行な平面内において前記第1ダンパーのストローク方向と略直交する方向に前記第1ダンパーを前記免震対象物に対して摺動させる連結部と、を備えることを特徴とする、免震装置である。
【0012】
本発明によれば、直列に接続された第1ダンパーと第2ダンパーとの間に各ダンパーのストロークを等長にする支持部が設けられていることにより、各ダンパーの減衰力にばらつきがあっても各ダンパーの伸縮後の残留変位を防止することができる。また、免震対象物と第1ダンパーとの間に設けられた連結部が第1ダンパーを免震対象物に対して摺動させるため、各ダンパーのストローク方向と直交する方向に加わる力を解放し、並置された各ダンパー同士の接触を防止することができる。
【0013】
本発明は、また、前記支持部は、前記第1ダンパーの一端と前記第2ダンパーの一端との中点の位置を保持しながら前記設置面を移動することを特徴とするように構成されていてもよい。
【0014】
本発明によれば、第1ダンパーと第2ダンパーとが伸縮した際に、直列に接続された第1ダンパーと第2ダンパーとの中点を保持するように支持部が移動するため、各ダンパーの減衰力にばらつきがあっても各ダンパーのストローク量を等長にすることができる。
【0015】
本発明は、また、前記支持部が前記第1ダンパーの径方向の両側において上方に突出して形成された、前記第1ダンパーのストローク方向と直交する水平面方向の移動を規制するためのストッパを備えるように構成されていてもよい。
【0016】
本発明によれば、各ダンパーのストローク方向と直交する方向に力が加わり並置された各ダンパーが水平面内で移動した場合であっても、ストッパが第1ダンパーの水平面内での動きを規制するため、並置された各ダンパー同士が接触することを防止することができる。
【0017】
本発明は、また、前記支持部が前記第1ダンパーのストロークと前記第2ダンパーのストロークとが等長となるように形成された伸縮自在なリンク機構と、前記リンク機構を支持する架台と、を備え、前記リンク機構は、前記架台に固定された本体部と、前記本体部の軸方向の両端に設けられた第1ボールナット及び第2ボールナットと、一端側が前記免震対象物側に回転自在に連結され、他端側が前記第1ボールナットに螺合する第1ボールネジと、一端側が設置面側に回転自在に連結され、他端側が前記第2ボールナットに螺合すると共に、前記第1ボールネジと逆ネジで形成された第2ボールネジと、を備えるように構成されていてもよい。
【0018】
本発明によれば、本体部の両端の一対のボールナットに螺合する一対のボールネジが互いに逆ネジに形成されているので、本体部から突出する一対のボールネジにおける両端に軸線方向の力が加わった際に一対のボールネジは、本体部に対して回転しながら伸縮する。そして、本体部は、支持部の架台に固定されているため、一対のボールネジは本体部に対して等長に伸縮することができる。
【0019】
本発明は、また、前記架台には、前記第1ダンパーの他端と前記第2ダンパーの他端とが連結されているように構成されていてもよい。
【0020】
本発明によれば、各ダンパー同士が対向して並置された各ダンパー同士が架台上で連結されているため、架台が各ダンパー同士の重量を支持すると共に、各ダンパーのストローク量を等長にすることができる。
【0021】
本発明は、また、複数の前記第1ダンパーと、前記第1ダンパーと同数の複数の前記第2ダンパーとを備えるように構成されていてもよい。
【0022】
本発明によれば、各ダンパーは、汎用品を用いることができるため、複数のダンパーを接続して減衰力やストローク量を調整することができる。
【0023】
本発明は、また、前記設置面において前記ストローク方向に移動自在に前記支持部を支持する移動機構を備えるように構成されていてもよい。
【0024】
本発明によれば、各ダンパーの伸縮に連動して支持部が移動する際に、移動機構が支持部と設置面との間に生じる摩擦を低減することで、各ダンパーの伸縮時の抵抗を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、各ダンパーのストローク方向と直交する方向に力が加わって並置された各ダンパーが水平面内で移動した場合であっても、ストッパが第1ダンパーの水平面内での動きを規制するため、並置された各ダンパー同士が接触することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る免震装置の構成を模式的に示す側面図である。
【
図5】支持部に設けられたリンク機構の構成を示す平面図である。
【
図6】支持部に設けられたリンク機構の動作状態を示す側面図である。
【
図7】比較例の免震装置の構成を示す平面図である。
【
図8】比較例の免震装置の各ダンパー同士が接触する状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ、本発明の免震装置の実施形態について説明する。
【0028】
図1において模式的に示されるように、例えば、免震装置1は、設置面Eが移動した際に免震対象物に生じる揺れを抑制する装置である。免震対象物とは、例えば、建物2等の免震上部構造であり、設置面Eとは、例えば、地盤面や床面の免震下部構造である。免震装置1は、例えば、建物2の基礎部分に設けられている。建物2は、設置面Eに対して免震支承3を介して支持されている。免震支承3は、例えば、ゴム等の弾性体で形成された板状体と鉄板が交互に積層されて形成されている。
【0029】
地震の発生時には、設置面Eが変位するのに対して建物2が慣性により、その場に留まろうとする。免震支承3は、伸縮自在に建物2を設置面Eに対して支持するため、地震発生時には、設置面Eの変位に対して建物2に設置面Eの揺れが直接伝搬することを防止する。
【0030】
しかし、長周期大振幅地震動が発生した際には免震支承3だけでは、免震できなくなる虞があるため、建物2と設置面Eとの間に免震装置1が設けられる。免震装置1は、建物2の揺れを減衰するための免震部Dと、免震部Dを設置面Eに対して支持する支持部30とを備える。
【0031】
免震部Dは、例えば、一対の第1ダンパー10と一対の第2ダンパー20とを備える。第1ダンパー10と第2ダンパー20とは、例えば、一般的な制震用のオイルダンパーである。第1ダンパー10と第2ダンパー20とは、複数のダンパーが並列で接続されているものであってもよい。第1ダンパー10と第2ダンパー20とは、オイルダンパーだけでなく、粘性ダンパーや慣性質量ダンパーなどの軸抵抗型のダンパーが用いられてもよい。第1ダンパー10と第2ダンパー20とは、揺れに対する必要なストローク量を確保しつつ、一つのダンパーの減衰力と同等にするために直列に連結されている。第1ダンパー10は、円筒形の本体部11と、本体部11の先端から伸縮自在な円柱状のピストンロッド12を備える。
【0032】
第1ダンパー10と第2ダンパー20とは、ピストンロッド12,22が本体部11,21に対して最大ストローク長の中間の位置に短縮された状態で設置される。これにより第1ダンパー10と第2ダンパー20とは、ストローク方向に伸縮自在に設置される。
【0033】
第1ダンパー10の一端11Aは、本体部11の後端であり、第1ダンパー10の他端12Aは、例えば、ピストンロッド12の先端である。第1ダンパー10の他端12Aは、支持部30に連結されている。第1ダンパー10の一端11Aは、建物2の下面に垂下するように設けられた台座4に第1連結部Pを介して連結されている。これにより、第1ダンパー10は、制震対象物である建物2側に連結されている。
【0034】
第1連結部Pは、後述のように第1ダンパー10の一端11Aを台座4に対して回転自在に連結すると共に、設置面Eと平行な平面内において第1ダンパー10のストローク方向と略直交方向に摺動自在に連結する。第1連結部Pの詳細な構成については後述する。
【0035】
第2ダンパー20は、例えば、第1ダンパー10と同一かつ同数のオイルダンパーが用いられる。第2ダンパー20は、円筒形の本体部21と、本体部21の先端から伸縮自在な円柱状のピストンロッド22が設けられている。第2ダンパー20の他端22Aは、例えば、ピストンロッド22の先端であり、第2ダンパー20の一端21Aは、本体部21の後端である。第2ダンパー20の一端21Aは、設置面Eから上方に突出するように設けられた台座5に連結されている。これにより、第2ダンパー20は、設置面E側に連結されている。
【0036】
第2ダンパー20の他端22Aは、例えば、建物2の下面に垂下するように設けられた台座5に第2連結部Qを介して連結されている。第2連結部Qは、第2ダンパー20の他端22Aを台座5に対して回転自在に連結する。第2連結部Qの詳細な構成については後述する。
【0037】
支持部30は、移動機構31を介して設置面Eに載置されている。移動機構31は、支持部30を各ダンパーのストローク方向に摺動自在に支持する。支持部30は、第1ダンパー10の他端12Aと第2ダンパー20の他端22Aとに連結されていることで、設置面Eに対して第1ダンパー10と第2ダンパー20とを支持する。支持部30は、第1ダンパー10と第2ダンパー20とが自重により下方に撓むことを防止すると共に、伸縮時に第1ダンパー10および/または第2ダンパー20が座屈することを防止する。
【0038】
次に免震装置1の詳細な構成について説明する。
図2及び
図3に示されるように、平面視して免震装置1は、一対の第1ダンパー10と一対の第2ダンパー20とが並置されている。第1ダンパー10と第2ダンパー20とは、支持部30を介して支持されている。各ダンパーの間の距離は例えば、数十[cm]程度である。
【0039】
免震装置1が設置される空間の制約により、一対の第1ダンパー10と第2ダンパー20とを直列に連結できない場合、一対の第1ダンパー10と第2ダンパー20とを架台40上で互いに反対向きに平行に並置される。一対の第1ダンパー10と第2ダンパー20とは、架台40を介してクランク状に連結され、直列に連結された状態と同様に伸縮する。
【0040】
第1ダンパー10の他端12Aは、例えば、ピストンロッド12の先端部であり、第1ダンパー10の一端11Aは、本体部11の後端である。第1ダンパー10の他端12Aには、例えば、ピン接合により回転自在な支持部材14(クレビス)が設けられている。支持部材14は、支持部30に固定されている。これにより第1ダンパー10の他端12Aは、支持部30に対して所定角度範囲において水平面方向に回転自在に支持されている。
【0041】
第1ダンパー10の一端11Aには、例えば、ピン接合により回転自在な支持部材13(クレビス)が設けられている。支持部材13は、後述の第1連結部Pを介して台座4に連結されている。これにより第1ダンパー10の一端11Aは、台座4を介して建物2に対して所定角度範囲において水平方向に回転自在に支持されている。上記の支持部材13,14は、ピン接合が2軸回りに回転自在なものであってもよいし、ボールジョイントでもよい。
【0042】
第1連結部Pは、例えば、支持部材13を水平方向(X軸方向)に摺動自在に台座4に連結する。第1連結部Pは、例えば、支持部材13を支持する接続板P1と、接続板P1を摺動自在に支持するリニアガイドP2とを備える。接続板P1は、一面側において支持部材13が固定されている。接続板P1には、例えば、一対の第1ダンパー10の支持部材13が接続される。接続板P1の詳細な構成については後述する。
【0043】
接続板P1は、他面側においてリニアガイドP2が接続されている。リニアガイドP2は、例えば、接続板P1の他面側に固定された上下方向に並置された一対のスライダP3と、一対のスライダP3を摺動自在に支持すると共に、台座4に上下方向に平行に固定された一対のレールP4とを備える。スライダP3は、X軸方向から側面視して断面が「コ」の字の形状に形成されている。スライダP3には、窪みが形成されており、この窪みにはレールP4が嵌め込まれている。スライダP3は、レールP4の長手方向の軸線方向に摺動自在にレールP4に支持されている。
【0044】
スライダP3は、第1ダンパー10のストローク方向に引張される力が加わってもレールP4から脱落しないように形成されている。スライダP3と支持部材13とは、例えば、ボルト及びナットで連結される。支持部材13と第1連結部Pとは、溶接されていてもよい。
【0045】
図3に示されるように、接続板P1には、例えば、両側に一対の支持部材13が4つのボルト及びナットで接続されるように合計8つの貫通孔K1が形成されている。接続板P1の中央部には、後述の第1ボールネジ36Bの一端を接続するための貫通孔K2と、貫通孔K2の周囲に8つの貫通孔K3とが形成されている。貫通孔K1~K3は、上下方向(Z軸方向)が長辺となる略楕円形状(所謂ルーズホール形状)に形成されている。
【0046】
接続板P1には、支持部材13が貫通孔K1の下部にボルトが当接するように取り付けられる。同様に後述の第1ボールネジ36Bの一端は、貫通孔K3の上部にボルトが当接するように取り付けられる。接続板P1は、各ダンパーの軸力(2000[kN])×リニアガイドの摩擦係数(0.005)から計算されるせん断力(10[kN])と軸力を伝えられるようにするため、ボルトとナットにより各ダンパーとリンク機構35とを接続する。
【0047】
建物2は、免震支承3を介して設置面Eに設置されている。免震支承3は、免震ゴム等の弾性体で形成されているので、建物2の荷重が長期的に作用すると弾性変形して下方向に数[mm]~20[mm]程度縮むクリープ歪が生じる。建物2にクリープ歪が生じて台座4が下方に変位した場合に支持部材13の取り付け位置と、後述の第1ボールネジ36Bの一端の取り付け位置を上方向に移動することができる。
【0048】
第2ダンパー20の他端22Aは、例えば、ピストンロッド22の先端部であり、第2ダンパー20の一端21Aは、本体部21の後端である(
図2及び
図3参照)。第2ダンパー20の他端22Aには、例えば、ピン接合により回転自在な支持部材24(クレビス)が設けられている。支持部材24は、支持部30に固定されている。これにより第2ダンパー20の他端22Aは、支持部30に対して所定角度範囲において水平面方向に回転自在に支持されている。
【0049】
第2ダンパー20の一端21Aには、例えば、ピン接合により回転自在な支持部材23(クレビス)が設けられている。支持部材23は、板状の第2連結部Qを介して台座5に連結されている。第2連結部Qは、例えば、矩形に形成された板状体である。第2連結部Qは、例えば、四隅に貫通孔(不図示)が設けられ、貫通孔に挿通されたアンカーボルト(不図示)とナット(不図示)により、支持部材23と台座5との間に挟持されて共締めされる。支持部材23と第2連結部Qとは、溶接されていてもよい。
【0050】
これにより第2ダンパー20の一端21Aは、台座5に対して所定角度範囲において水平方向に回転自在に支持されている。上記の支持部材23,24は、ピン接合が2軸回りに回転自在なものであってもよいし、ボールジョイントでもよい。
【0051】
第1ダンパー10と第2ダンパー20とを連結しただけでは、設置面Eが変位した際に、ダンパーの減衰力のばらつきにより、減衰力が低い方のいずれかのダンパーに負荷が多くかかる。従って、設置面Eが変位した際に、第1ダンパー10と第2ダンパー20とのストロークが等長となり、2つのダンパーが同時に伸縮することが望ましい。そこで、支持部30には、設置面Eがストローク方向に変位した際の第1ダンパー10と第2ダンパー20とのストロークを等長とさせるための支持部30にリンク機構35が設けられる。
【0052】
支持部30は、リンク機構35が設けられた架台40を備える。架台40は、移動機構31により支持されている。移動機構31は、例えば、リニアベアリングである。移動機構31は、ボールやローラーでもよい。移動機構31は、例えば、第1ダンパー10および第2ダンパー20のストローク方向(Y軸方向)に沿って架台40を移動させる。移動機構31は、設置面Eに設置されたレール31Aと、レール31A上を摺動する摺動部31Bとを備える。
【0053】
架台40は、移動機構31により、設置面EにおいてY軸方向の移動自在に支持される。架台40は、矩形に形成された板状の底板40Aを備える。底板40Aの上面には、例えば、一対の第1ダンパー10の他端12A側を支持する第1支持板40Bと、一対の第2ダンパー20の他端22A側を支持する一対の第2支持板40Cとが形成されている。
【0054】
第1支持板40Bは、底板40Aの上面から上方に起立した矩形に形成された板状体である。第1支持板40Bの両側には、一対の支持部材14が複数のボルト及びナットで固定されている。これにより、第1支持板40Bは、一対の第1ダンパー10の他端12Aを支持する。第1支持板40Bの中央部には、後述のリンク機構35を挿通させるための貫通孔H1が形成されている。
【0055】
第2支持板40Cは、底板40Aの上面から上方に起立した矩形に形成された板状体である。第2支持板40Cには、支持部材24が複数のボルト及びナットで固定されている。これにより、一対の第2支持板40Cは、一対の第2ダンパー20の他端22Aを支持する。第1支持板40Bと第2支持板40Cとは、第1ダンパー10と第2ダンパー20とがクランク状に接続されるように配置されている。第1支持板40Bと第2支持板40Cとは、第1ダンパー10と第2ダンパー20とのストローク方向の直交方向にオフセットして対向して配置されている。
【0056】
底板40Aの上面には、更に、第1ダンパー10の横移動を規制するストッパ40Dが形成されている。ストッパ40Dは、底板40Aの上面から上方に突出すると共に、矩形に形成された板状体である。ストッパ40Dは、第1ダンパー10の径方向の両側に本体部11から所定距離離間して第1ダンパー10を挟持するように設けられている。ストッパ40Dは、弾性体で形成されていてもよいし、Z軸方向に回転軸を有するローラーであってもよい。底板40Aの上面には、更に、リンク機構35を固定するための固定部材40Fが設けられている。
【0057】
次に、リンク機構35の詳細な構成について説明する。
【0058】
図5に示されるように、リンク機構35は、パイプ状に形成された本体部36を備える。本体部36の中央部36Tは、底板40Aの中央部に固定部材40Fを介して固定されている。本体部36の台座4側の一端には、第1ボールナット36Aが取り付けられている。第1ボールナット36Aには、本体部36の軸線L1方向に沿って第1ボールねじ36Bの他端側が螺合している。第1ボールネジ36Bの一端側は、第1連結部P及びラジアル軸受B1を介して回転自在に台座4に連結されている。第1ボールナット36Aと第1ボールネジ36Bとは、例えば、右ネジとなるように形成されている。
【0059】
第1ボールネジ36Bに軸線L1方向に力が加わると、第1ボールネジ36Bは、第1ボールナット36Aに対して回転しながら軸線L1方向に沿って伸縮する。これにより、第1ボールネジ36Bは、本体部36に対して伸縮自在となっている。
【0060】
本体部36の台座5側の他端には、第2ボールナット36Cが取り付けられている。第2ボールナット36Cには、本体部36の軸線L1方向に沿って第2ボールネジ36Dの他端側が螺合している。第2ボールネジ36Dの一端側は、支持板R及びラジアル軸受B2を介して回転自在に台座5に連結されている。第2ボールナット36Cと第2ボールネジ36Dとは、例えば、36Aと第1ボールネジ36Bと逆ネジの左ネジとなるように形成されている。第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dとは、互いに逆ネジとなるように形成されていればよい。
【0061】
第2ボールネジ36Dに軸線L1方向に力が加わると、第2ボールネジ36Dは、第2ボールナット36Cに対して回転しながら軸線L1方向に沿って伸縮する。これにより、第2ボールネジ36Dは、本体部36に対して伸縮自在となっている。取り付け時に第1ボールネジ36Bの突出量と第2ボールネジ36Dの突出量とは、等長となるように調整されている。即ち、リンク機構35は、中央部36Tが中心位置となるように配置されている。上記構成により、第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dとは、相対的に伸縮自在となっている。
【0062】
上述したように架台40(支持部30)は、移動機構31を介して設置面Eに載置されているので、台座4と台座5との間が離間するような変位が生じた場合、第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dとは、軸線L1に沿って相対的に伸長する。この時、本体部36の中央部36Tが架台40に固定されているので、第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dとは本体部36に対してストローク量が等長となるように伸長する。
【0063】
台座4と台座5との間が近位するような変位が生じた場合も同様に、第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dとは本体部36に対して等長に短縮する。この時、リンク機構35は、本体部36から中央部36Tと固定部材40Fを介して架台40に変位方向に力を伝搬し、架台40を設置面Eに対して移動させる。
【0064】
次に、支持部30の動作について説明する。
【0065】
図6に模式的に示されるように、設置面Eと建物2とが相対的に変位した場合、支持部30は設置面Eを移動する。変位が生じていない通常の状態から(
図6(1)参照)、設置面Eに設けられた台座5が建物2に設けられた台座4から離間する方向に設置面Eが変位した場合(
図6(2)参照)、第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dとは本体部36に対して等長に伸長する。この時、リンク機構35は、本体部36から中央部36Tと固定部材40Fを介して架台40に変位方向に力を伝搬し、架台40を設置面Eに対して移動させる。
【0066】
設置面Eに設けられた台座5が建物2に設けられた台座4から近位する方向に設置面Eが変位した場合(
図6(3)参照)、上記と同様に架台40が連動して設置面Eに対して移動する。即ち、リンク機構35は、第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dとの中点に設けられた中央部36T(中点)の位置を保持することにより、第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dに対する架台40の位置を保持する。
【0067】
このような構成により、支持部30は、第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dとの架台40に対するストロークを等長とするように、且つ、ストロークに応じて自体が設置面Eを移動する。
【0068】
また、台座4と台座5とが相対的に軸線L1と直交方向(X軸方向)に移動した場合、第1連結部PのスライダP3がレールP4に対して摺動し、リンク機構35は、台座4に対して相対的にX軸方向に摺動する。即ち、台座4と台座5とが相対的にX軸方向に移動した場合、X軸方向にリニアガイドP2が動いて免震装置1のX軸方向に加わる力を解放してリンク機構35には、X軸方向に力が加わらない。
【0069】
次に、免震装置1の動作について説明する。免震装置1において、設置面Eに設けられた台座5が建物2に設けられた台座4から離間または近位する方向に設置面Eが変位した場合、上述したように支持部30のリンク機構35の動作により、支持部30は、第1ボールネジ36Bと第2ボールネジ36Dとの架台40に対するストロークを等長とするようにストロークに応じて自体が設置面Eを移動する。
【0070】
この時、第1ダンパー10のピストンロッド12は、第1ボールネジ36Bの架台40に対するストロークと等距離で伸長または短縮する。同様に、第2ダンパー20のピストンロッド22は、第2ボールネジ36Dの架台40に対するストロークと等距離で伸長または短縮する。従って、支持部30は、リンク機構35の動作により、第1ダンパー10と第2ダンパー20とのストロークとを等長とするようにストロークに応じて、第1ダンパー10の一端11Aと第2ダンパー20の一端21Aとの中点の位置を保持しながら自体が設置面Eを移動する(
図6参照)。
【0071】
免震装置1は、リンク機構35の動作により、第1ダンパー10と第2ダンパー20との変位を常に同じにすることができ、各ダンパーの減衰特性や慣性質量のばらつきがあってもピストンのドリフト(横ずれ)や伸縮後の残留変位を防止することができる。第1ダンパー10と第2ダンパー20とに作用する軸力は、各ダンパーの減衰特性や慣性質量の差(ばらつき)によるものなので、その差はわずかなものである。この各ダンパーのばらつきは、例えば、ダンパー性能の10%以下である。
【0072】
また、台座4と台座5とが相対的にX軸方向に移動した場合、第1連結部PのスライダP3がレールP4に対して摺動し、各ダンパーは、支持部30と共に台座4に対して相対的にX軸方向に摺動する。即ち、台座4と台座5とが相対的にX軸方向に移動した場合、各ダンパーには、X軸方向に力が加わらない。
【0073】
図7及び
図8に示されるように、比較例として第1連結部Pが設けられていない移動装置において、台座4と台座5とが相対的にX軸方向に1[m]変位した場合、架台40はX軸方向にその半分の50[cm]移動する。そうすると、並置された第1ダンパー10と第2ダンパー20とが斜め方向に変位し、第1ダンパー10と第2ダンパー20とが干渉する部分(図の丸部分)が生じる虞がある。
【0074】
これに対して免震装置1は、第1連結部Pが設けられていることにより、各ダンパーのストローク方向と直交方向に加わる力が解放される。これにより、各ダンパーとリンク機構35は、水平面内で回転することが無くなるため、各ダンパー同士の間隔は数[cm]程度離間させて配置すれば各ダンパー同士が衝突することはない。仮に、第1連結部Pの動きが鈍くなり第1ダンパー10と第2ダンパー20とが斜め方向に変位した場合であっても、底板40Aに設けられたストッパ40Dが第1ダンパー10に当接して横方向の動きを規制するので、第1ダンパー10と第2ダンパー20との干渉が防止される。
【0075】
上述した免震装置1を建物に設置する際には、2つの免震装置1を平面視して互いに直交方向に配置することにより、あらゆる平面方向に大振幅かつ高速の揺れが生じた際に、建物を免震することができる。また、支持部30を予め工場で組み立てておけば、現場において支持部30に各ダンパーを設置するだけでよく、現場での施工期間を短縮すると共に、建物を大振幅かつ高速の揺れ(単体ダンパーの2倍)に対応することができる。
【0076】
上述したように免震装置1によれば、オイルダンパーを直列することにより通常のオイルダンパーの2倍のストロークを確保しつつも同等の減衰力を備え、通常のオイルダンパーの入力速度に対応可能な装置となっており、大きなクリアランスを有す建物を設計する際に適用できる。更に、免震装置1によれば、オイルダンパーのストローク方向と直交方向に移動自在とするための第1連結部Pが設けられているため、オイルダンパーのストローク方向と直交方向に加わる力が解放され、各ダンパー同士が衝突することが防止される。また、免震装置1によれば、第1連結部Pの接続板P1にルーズホール形状の貫通孔K1~K3が形成されているため、免震支承3が下方に沈むクリープ歪が生じても免震装置1の高さ方向の取り付け位置の調整をすることができる。
【0077】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、
図9に示されるように、リンク機構35は、ボールネジ及びボールナットだけでなく、一対のラックギヤWと一対のラックギヤWにそれぞれ噛合すると共に、底板40Aの中心で回転自在に設けられたピニオンギヤXとにより構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 免震装置
2 建物
3 免震支承
4 台座
5 台座
10 第1ダンパー
20 第2ダンパー
30 支持部
35 リンク機構
36 本体部
36A 第1ボールナット
36B 第1ボールネジ
36C 第2ボールナット
36D 第2ボールネジ
36T 中央部
40 架台
40A 底板
40D ストッパ
D 免震部
E 設置面
P 第1連結部
Q 第2連結部