(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】制御回路及びモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230216BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230216BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2019029635
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】織田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小塚 謙一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】大木 正司
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046047(JP,A)
【文献】特開2002-048656(JP,A)
【文献】特開2017-032386(JP,A)
【文献】特開2013-140065(JP,A)
【文献】特開2015-098223(JP,A)
【文献】特開2017-191092(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0086368(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸に連結されるモータを制御する制御装置と接続される制御回路であって、
前記モータの回転角を相対角で検出する回転角センサからの検出信号に基づいて、前記回転軸の回転状態を示す回転数情報を演算する主回路と、
前記主回路の異常の有無を検出し、その検出した検出結果を前記制御装置に出力する検出結果通信部と、
前記制御装置からの擬似異常信号に基づいて前記検出結果を異常ありに設定する擬似異常生成部とを備え、
前記擬似異常生成部は、前記制御装置から前記擬似異常信号を取得した場合、前記検出結果通信部から出力される前記検出結果を異常ありに設定
するように構成され、
前記検出結果通信部は、前記主回路の異常の有無を検出する異常検出回路と、前記異常検出回路の前記検出結果を前記制御装置に出力する通信インターフェースとを有し、
前記擬似異常生成部は、前記制御装置から前記擬似異常信号を取得した場合、前記通信インターフェースに対して前記主回路が異常である旨示す前記検出結果を出力させる制御回路。
【請求項2】
前記主回路は、電源電圧に基づいて他の回路に供給する制御電圧を生成する電源回路であり、
前記異常検出回路は、前記制御電圧が設定された所定電圧範囲内にあるか否かに基づいて前記電源回路の異常を検出する電圧異常検出回路であり、
前記検出結果通信部は、前記制御装置から前記擬似異常信号を取得した場合、前記電圧異常検出回路の検出結果に関係なく、前記通信インターフェースに対して前記主回路が異常である旨示す前記検出結果を出力させるための異常検出結果生成部を有している請求項
1に記載の制御回路。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の制御回路と前記制御装置とを備えるモータ制御装置であって、
前記制御装置は、
前記擬似異常生成部に対して前記擬似異常信号を出力するとともに、前記擬似異常信号を前記擬似異常生成部に出力したことに起因して取得した前記検出結果に基づいて前記検出結果通信部の異常を判定するモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御回路及びモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを駆動源として操舵を補助するためのアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)等の操舵装置には、ステアリングホイールの操舵角を、360度を超える範囲を含む絶対角で検出する回転角検出装置を備えたものがある。こうした回転角検出装置としては、360度の範囲内の相対角で検出されるモータの回転角と、例えばステアリング中立位置からの該モータの回転数とに基づいて操舵角を検出するものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の回転角検出装置では、モータの回転角を検出する回転角センサからの検出信号に基づいて、モータの回転角がその回転範囲を4分割した象限(第1~第4象限)のいずれに位置するかを検出し、該回転角の象限の遷移に基づいてモータの回転方向を検出するとともにモータの回転数を示すカウント値を計数する制御回路を備えている。そして、制御装置(マイコン)は、モータの回転角及びカウント値に基づいて絶対角で示される操舵角を演算する。
【0004】
この文献の回転角検出装置では、例えば最新の演算周期でのカウント値とその前回値との差がモータの回転方向に応じた値となっているか否か等に基づいて、制御回路を構成する各回路に異常が発生しているか否かを検出する異常検出回路を備えている。これにより、各回路に異常が発生した状態で誤って演算されたカウント値に基づいて操舵角を演算することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来の構成では、異常検出回路から出力される検出結果の通信に異常が発生した場合について、何ら考慮されていない。例えば、各回路に異常が発生していることを検出し、その検出結果を通信する場合、通信に異常が発生していると、検出結果をそのまま通信できないことがある。つまり、各回路に異常が発生しているにもかかわらず、通信に異常が発生しているために、制御装置は制御回路の演算するカウント値の異常を検出できないことがあり、その場合には正確な操舵角を演算できないおそれがあった。
【0007】
なお、このような問題は、操舵角を検出する場合に限らず、例えばステアバイワイヤ式の操舵装置において、転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータの駆動源となるモータの回転角に基づいて転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸の回転角を絶対角で検出する場合にも同様に生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する制御回路は、転舵輪の転舵角に換算可能な回転軸に連結されるモータを制御する制御装置と接続される制御回路であって、前記モータの回転角を相対角で検出する回転角センサからの検出信号に基づいて、前記回転軸の回転状態を示す回転数情報を演算する主回路と、前記主回路の異常の有無を検出し、その検出した検出結果を前記制御装置に出力する検出結果通信部と、前記制御装置からの擬似異常信号に基づいて前記検出結果を異常ありに設定する擬似異常生成部とを備え、前記擬似異常生成部は、前記制御装置から前記擬似異常信号を取得した場合、前記検出結果通信部から出力される前記検出結果を異常ありに設定し、当該検出結果を前記制御装置に対して出力する。
【0009】
上記構成によれば、制御装置は、擬似異常生成部に出力する擬似異常信号と、擬似異常信号を擬似異常生成部に対して出力したことに起因して取得した検出結果とに基づいて、検出結果通信部の異常を検出することができる。仮に、検出結果通信部に異常が発生している場合には、制御装置は、擬似異常生成部への擬似異常信号の出力にもかかわらず、主回路に異常なしの検出結果を取得することになるからである。これにより、制御回路は、主回路の異常の有無に関する情報を制御装置に対して正しく出力することができ、制御装置は、その正しい情報に基づいて演算を実行することができるため、制御回路の信頼性を向上させることができる。
【0010】
上記の制御回路において、前記検出結果通信部は、前記主回路の異常の有無を検出する異常検出回路と、前記異常検出回路の前記検出結果を前記制御装置に出力する通信インターフェースとを有し、前記擬似異常生成部は、前記制御装置から前記擬似異常信号を取得した場合、前記異常検出回路に対して前記主回路が異常である旨示す前記検出結果を生成させることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、制御装置は、擬似異常信号を擬似異常生成部に対して出力したことに起因して、異常検出回路において生成された主回路に異常ありの検出結果を取得できるかどうかに基づいて、通信インターフェースの異常を検出することができる。また、制御装置は、擬似異常信号を擬似異常生成部に対して出力したことに起因して主回路に異常ありの検出結果を取得した場合については、通信インターフェースだけでなく異常検出回路についても異常なしであることを把握することができる。
【0012】
上記の制御回路において、前記検出結果通信部は、前記主回路の異常の有無を検出する異常検出回路と、前記異常検出回路の前記検出結果を前記制御装置に出力する通信インターフェースとを有し、前記擬似異常生成部は、前記制御装置から前記擬似異常信号を取得した場合、前記通信インターフェースに対して前記主回路が異常である旨示す前記検出結果を出力させることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、制御装置は、擬似異常信号を擬似異常生成部に対して出力したことに起因して、通信インターフェースから出力された主回路に異常ありの検出結果を取得できるかどうかに基づいて、通信インターフェースの異常を検出することができる。また、異常検出回路には、主回路に異常があるとの検出結果を擬似的に創出することができないものもある。上記の構成によれば、通信インターフェースの異常を判定する際に異常検出回路による主回路の異常の有無の検出結果を擬似的に異常ありに変更する必要がないことから、主回路の異常の有無を検出する際に異常検出回路が用いる閾値等の情報を変更することなく、通信インターフェースの異常を判定することができる。
【0014】
上記の制御回路において、前記主回路は、電源電圧に基づいて他の回路に供給する制御電圧を生成する電源回路であり、前記異常検出回路は、前記制御電圧が設定された所定電圧範囲内にあるか否かに基づいて前記電源回路の異常を検出する電圧異常検出回路であり、前記擬似異常生成部は、前記制御装置から前記擬似異常信号を取得した場合、前記電圧異常検出回路に対して前記所定電圧範囲を規定させる上下限値を変更することで前記電源回路が異常である旨示す前記検出結果を生成させることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、擬似異常生成部が制御装置から擬似異常信号を取得した場合、電圧異常検出回路の所定電圧範囲を規定する上下限値を変更させることで電源回路に異常ありの検出結果を擬似的に生成することができる。この場合、擬似異常生成部は、電圧異常検出回路の上下限値を変更するだけで、容易に検出結果を擬似的に異常とすることができる。
【0016】
上記の制御回路において、前記主回路は、電源電圧に基づいて他の回路に供給する制御電圧を生成する電源回路であり、前記異常検出回路は、前記制御電圧が設定された所定電圧範囲内にあるか否かに基づいて前記電源回路の異常を検出する電圧異常検出回路であり、前記検出結果通信部は、前記制御装置から前記擬似異常信号を取得した場合、前記電圧異常検出回路の検出結果に関係なく、前記通信インターフェースに対して前記主回路が異常である旨示す前記検出結果を出力させるための異常検出結果生成部を有していることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、擬似異常生成部が制御装置から擬似異常信号を取得した場合、通信インターフェースは主回路に異常ありの検出結果を制御装置に対して出力するようにしている。この場合、通信インターフェースは、電圧異常検出回路の検出結果を考慮することなく、検出結果を擬似的に異常とすることができるため、通信インターフェースの構成を簡素化することができる。
【0018】
上記の制御回路は、上記の制御回路と制御装置とを備えるモータ制御装置に好適である。前記制御装置は、前記擬似異常生成部に対して前記擬似異常信号を出力するとともに、前記擬似異常信号を前記擬似異常生成部に出力したことに起因して取得した前記検出結果に基づいて前記検出結果通信部の異常を判定する。
【0019】
制御装置は、主回路の異常の有無に関する情報を正しく取得することができ、その正しい情報に基づいて演算を実行することができるため、モータ制御装置の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、モータ制御装置は、制御回路の異常の有無に関する情報を正しく取得することができ、その正しい情報に基づいて演算を実行することができるため、制御回路及びモータ制御装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ステアリング装置の概略構成を示す概略構成図。
【
図2】第1実施形態において、モータ制御装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図3】第1実施形態において、通信インターフェースの異常の検出方法を示す図。
【
図4】第2実施形態において、モータ制御装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図5】第2実施形態において、通信インターフェースの異常の検出方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)に搭載されたモータ制御装置の第1実施形態について説明する。
【0023】
図1に示すように、EPSは、運転者によるステアリングホイール10の操作に基づいて転舵輪15を転舵させる操舵機構1と、操舵機構1にステアリング操作を補助するための補助力を発生させるモータ20を有するアクチュエータ3と、モータ20の回転角度θを検出するとともにモータ20を制御するモータ制御装置30とを備えている。
【0024】
操舵機構1は、ステアリングホイール10が連結されているステアリング軸11と、ステアリング軸11の回転に応じて軸方向に往復移動するラック軸12とを有している。ステアリング軸11は、ステアリングホイール10と連結されたコラム軸11aと、コラム軸11aの下端部に連結された中間軸11bと、中間軸11bの下端部に連結されたピニオン軸11cとを有している。ラック軸12とピニオン軸11cとは、所定の交差角をもって配置されており、ラック軸12に形成されたラック歯とピニオン軸11cに形成されたピニオン歯とが噛合されることでラックアンドピニオン機構13が構成されている。また、ラック軸12の両端には、タイロッド14が連結されており、タイロッド14の先端は、転舵輪15が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、EPSでは、ステアリング操作に伴うステアリング軸11の回転運動は、ラックアンドピニオン機構13を介してラック軸12の軸方向の往復直線運動に変換される。この軸方向の往復直線運動がタイロッド14を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪15の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0025】
アクチュエータ3は、モータ20及び減速機構21を備えている。モータ20の回転軸20aは、減速機構21を介してコラム軸11aに連結されている。モータ20の回転軸20aは、多回転することができる。減速機構21は、モータ20の回転を減速し、当該減速した回転力をコラム軸11aに伝達する。すなわち、ステアリング軸11にモータ20のトルクが補助力(アシスト力)として付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
【0026】
モータ制御装置30は、車両に設けられた各種のセンサの検出結果に基づいて、モータ20を制御する。各種のセンサとしては、例えばトルクセンサ40及び回転角度センサ41が設けられている。トルクセンサ40は、コラム軸11aに設けられている。トルクセンサ40は、運転者のステアリング操作に伴いステアリング軸11に付与される操舵トルクThを検出する。回転角度センサ41は、モータ20に設けられている。回転角度センサ41は、モータ20の回転軸20aの実際の回転角度θを演算するための検出信号を生成して電圧値として出力する。モータ制御装置30には、モータ20に供給される電力の電力源であるバッテリ50が接続されている。モータ制御装置30は、回転角度センサ41により生成される検出信号に基づいて、モータ20の実際の回転角度θを演算する。回転角度センサ41には、モータ20の回転軸20aの回転に応じて変化する磁気を検出することによって検出信号を生成する磁気センサが採用される。磁気センサとしては、例えばMRセンサ(磁気抵抗効果センサ)が採用されている。回転角度センサ41は、2つの磁気センサ素子からなるブリッジ回路を有しており、これらの磁気センサ素子によりそれぞれ電気信号(電圧)を生成している。一方の磁気センサ素子により生成される電気信号の位相は、他方の磁気センサ素子により生成される電気信号の位相から90度ずれている。そこで、第1実施形態では、一方の磁気センサ素子により生成される電気信号を正弦波信号Ssinとみなし、他方の磁気センサ素子により生成される電気信号を余弦波信号Scosとみなす。これらの正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scosは、回転角度センサ41の検出信号である。モータ制御装置30は、回転角度センサ41により検出された検出信号(正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scos)に基づいて、モータ20のマルチターン(多回転)の回転角度θを演算する。モータ20の回転軸20aの回転角度θは、転舵輪15の転舵角に換算可能な回転軸であるステアリング軸11の操舵角に関連した値となる。また、モータ制御装置30には、車両の駆動源を始動させるための始動スイッチ60が接続されている。モータ制御装置30には、始動スイッチ60のオンオフ状態を示す始動信号Sigが入力される。始動スイッチ60としては、例えばイグニッションスイッチが採用されている。
【0027】
モータ制御装置30は、これら各センサにより検出される各種の状態量に基づいて、モータ20に駆動電力を供給することにより、モータ20の動作を制御する。すなわち、モータ制御装置30は、モータ20の制御を通じてアシスト力を操舵機構1に付与するアシスト制御を実行する。
【0028】
モータ制御装置30の構成について説明する。
図2に示すように、モータ制御装置30は、制御回路31と、モータ制御信号を出力する制御装置としてのマイコン32と、モータ制御信号に基づいてモータ20に駆動電力を供給する駆動回路33とを備えている。
【0029】
制御回路31は、電子回路やフリップフロップ等を組み合わせた論理回路を単一のチップにパッケージ化することにより構成したものである。制御回路31は、いわゆるASIC(application specific integrated circuit:特定用途向け集積回路)である。制御回路31は、特定の入力(ここでは、回転角度センサ41の検出信号)に対して定められた出力を行う。制御回路31は、第1接続線51を介して車両に搭載されたバッテリ50に常時接続されるとともに、途中に電源リレー52が設けられた第2接続線53を介してバッテリ50に接続されている。電源リレー52としては、機械式リレーやFET(電界効果型トランジスタ)等が採用されている。電源リレー52は、始動スイッチ60から出力される始動信号Sigに応じて開閉する。すなわち、始動スイッチ60がオン状態である旨示す始動信号Sigが電源リレー52に入力される場合、バッテリ50と制御回路31との間で電源リレー52を通じて電力が通電される。始動スイッチ60がオフ状態である旨示す始動信号Sigが電源リレー52に入力される場合、バッテリ50と制御回路31との間で電源リレー52を通じて電力が遮断される。また、制御回路31には、回転角度センサ41により検出された検出信号(正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scos)が入力される。制御回路31は、正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scosに基づいて、後述するようにモータ20のマルチターン数(多回転数)を示す回転数情報としてのカウント値Cをマイコン32に出力する。
【0030】
駆動回路33は、途中に駆動リレー55が設けられた電源線54を介してバッテリ50に接続されている。駆動リレー55としては、機械式リレーやFET(電界効果型トランジスタ)等が採用されている。
【0031】
マイコン32は、制御回路31を介してバッテリ50に接続されている。始動スイッチ60がオン状態である旨示す始動信号Sigが電源リレー52に入力される場合に、制御回路31から所定電圧範囲内の制御電圧Vcoが供給されることで動作する。マイコン32は、制御回路31から制御電圧Vcoが供給されることで動作を開始すると、駆動リレー55にリレー信号Srlを出力する。駆動リレー55は、マイコン32から出力されるリレー信号Srlに応じて開閉する。リレー信号Srlに基づいて駆動リレー55が開状態となることにより、モータ20に駆動電力が供給可能な状態となる。
【0032】
マイコン32は、始動スイッチ60がオンされる度に、制御回路31により演算されたカウント値Cを取得する。マイコン32は、始動スイッチ60がオンされてからオフされるまでの期間、始動スイッチ60がオンされた場合に取得したカウント値Cを、回転角度センサ41により生成される検出信号の変化に基づいて、マイコン32自身で所定の演算周期で更新する。また、マイコン32は、回転角度センサ41により生成される検出信号を所定の演算周期で取得する。マイコン32は、取得したカウント値C及び検出信号に基づいて、モータ20のマルチターンの回転角度θを演算する。詳しくは、マイコン32は、回転角度センサ41により生成される2つの検出信号からアークタンジェントを求めることにより、モータ20の回転角度を相対角で演算する。この相対角は、モータ20の回転角度を0~360度の範囲内で表したものである。また、マイコン32は、制御回路31により演算されるカウント値C及び演算した相対角に基づいて、モータ20のマルチターンの回転角度θを演算する。マイコン32は、カウント値Cに基づいて、モータ20の回転軸20aが1周(360度)単位で何周しているかを把握する。マイコン32は、この相対角に対して、カウント値Cに基づいたモータ20の回転軸20aのマルチターン数に360度を乗算した値を加算することにより、モータ20のマルチターンの回転角度θを演算する。マイコン32は、モータ20のステアリング軸11との間に介在される減速機構21の減速比等を考慮すれば、モータ20のマルチターンの回転角度θからステアリングホイール10の操舵角(ピニオン軸11cの転舵角)を絶対角で演算することもできる。モータ制御装置30は、このようにして求められたモータ20のマルチターンの回転角度θ及びトルクセンサ40により検出された操舵トルクThに基づいてモータ制御信号を生成することにより、モータ20に供給する駆動電力を制御する。
【0033】
制御回路31の構成について説明する。
制御回路31は、回転角度センサ41により検出された検出信号に基づいて、モータ20の回転状態を示す回転数情報としてのカウント値Cを演算する主回路100を備えている。主回路100は、バッテリ50の電源電圧を所定電圧範囲内の制御電圧Vcoに降圧する電源回路101を備えている。電源回路101の入力側には、第1接続線51及び第2接続線53が接続されている。電源回路101の出力側は、マイコン接続線を介してマイコン32に接続されるとともに、制御回路31を構成する各回路に接続されている。なお、
図2では、説明の便宜上、電源回路101と制御回路31を構成する各回路とを接続する接続線を省略している。電源回路101は、始動スイッチ60のオン時にのみマイコン32に制御電圧Vcoを供給する一方、始動スイッチ60のオンオフに関係なく制御回路31を構成する各回路に制御電圧Vcoを常時供給する。これにより、制御回路31を構成する各回路は、始動スイッチ60のオン時だけでなく、始動スイッチ60のオフ時においても動作する。
【0034】
主回路100は、カウンタ回路110を備えている。また、制御回路31は、通信インターフェース120を備えている。
カウンタ回路110は、回転角度センサ41により生成される検出信号(正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scos)を電圧値として取得する。カウンタ回路110は、検出信号に基づいて、モータ20のマルチターンの回転角度θを演算するために用いるカウント値Cを演算する。カウント値Cは、モータ20のマルチターン数(多回転数)を示す回転数情報である。第1実施形態では、カウント値Cは、モータ20の回転軸20aの回転位置が始動スイッチ60のオフ時の位置である基準位置に対して何回転しているかを示す情報である。
【0035】
カウンタ回路110は、増幅器111、コンパレータ112、象限判定部113、カウンタ114を備えている。
増幅器111は、回転角度センサ41により生成される検出信号(正弦波信号Ssin及び余弦波信号Scos)を電圧値として取得する。増幅器111は、回転角度センサ41から取得した電圧値を増幅し、コンパレータ112に出力する。
【0036】
コンパレータ112は、回転角度センサ41により生成される電圧値(増幅器111で増幅された電圧値)が、設定された閾値よりも高い値であればHiレベル、低い値であればLoレベルの信号を生成する。この閾値は、例えば「0」に設定される。すなわち、コンパレータ112は、電圧値(増幅器111で増幅された電圧値)が正である場合にはHiレベル、負である場合にはLoレベルの信号を生成する。
【0037】
象限判定部113は、コンパレータ112により生成されるHiレベルの信号とLoレベルの信号とに基づいて、モータ20の回転軸20aの回転位置が存在する象限を示す情報である象限情報を生成する。モータ20の回転軸20aの1回転(360度)は、Hiレベルの信号とLoレベルの信号との組み合わせ、すなわち検出信号の正負の組み合わせから90度ごとに4つの象限に分割されている。象限判定部113は、象限情報が示すモータ20の回転軸20aの回転位置が存在する象限の変化に基づいて、左回転フラグFlあるいは右回転フラグFrを生成する。象限判定部113は、モータ20の回転軸20aの回転位置が存在する象限が隣接する象限に変化するたびに、単位回転量(90度)の回転がなされたものとする。象限判定部113は、モータ20の回転軸20aの回転位置がモータ20の回転の前に存在していた象限とモータ20の回転の後に存在している象限との関係から、モータ20の回転軸20aの回転方向を特定する。
【0038】
カウンタ114は、象限判定部113から取得した左回転フラグFlあるいは右回転フラグFrに基づいて、カウント値Cを演算する。カウンタ114は、フリップフロップ等を組み合わせた論理回路である。カウント値Cは、モータ20の回転軸20aの回転位置が、その基準位置に対して、単位回転量(90度)だけ回転した回数を示している。カウンタ114は、象限判定部113から左回転フラグFlを取得する度にインクリメント(カウント値Cを1加算)し、象限判定部113から右回転フラグFrを取得する度にデクリメント(カウント値Cを1減算)する。このように、カウンタ114は、回転角度センサ41から検出信号が生成される度にカウント値Cを演算し、そのカウント値Cを記憶している。カウンタ114によって演算されたカウント値Cは、通信インターフェース120に出力される。
【0039】
通信インターフェース120は、始動スイッチ60がオンされる度に、カウンタ114に記憶されているカウント値Cをマイコン32に出力する。一方、通信インターフェース120は、始動スイッチ60がオフされている場合、動作しない。
【0040】
制御回路31は、主回路100の異常の有無を検出する異常検出回路130と、異常検出回路130の検出結果をマイコン32に出力する通信インターフェース140とを備えている。本実施形態では、制御回路31は、異常検出回路130として、電源回路101の異常の有無を検出する電圧異常検出回路131を備えている。
【0041】
電圧異常検出回路131は、電源回路101から出力される制御電圧Vcoが所定電圧範囲内にあるか否かに基づいて電源回路101の異常の有無を検出する。具体的には、電圧異常検出回路131は、電源回路101から出力される制御電圧Vcoを検出し、当該制御電圧Vcoが所定電圧範囲の上限値Vhiよりも大きいか否か、及び所定電圧範囲の下限値Vloよりも小さいか否かに基づいて、電源回路101の異常の有無を検出する。電圧異常検出回路131は、制御電圧Vcoが所定電圧範囲の上限値Vhiよりも大きい場合、あるいは所定電圧範囲の下限値Vloよりも小さい場合には、電源回路101に異常ありの検出結果である電圧異常フラグFaを生成する。一方、電圧異常検出回路131は、制御電圧Vcoが所定電圧範囲の上限値Vhi以下、かつ所定電圧範囲の下限値Vlo以上である場合、電源回路101に異常なしの検出結果である電圧正常フラグFnを生成する。電圧異常検出回路131は、電圧異常フラグFaとして例えば「1」を出力し、電圧正常フラグFnとして例えば「0」を出力する。電圧異常検出回路131によって生成された電圧異常フラグFa及び電圧正常フラグFnは、通信インターフェース140に出力される。
【0042】
通信インターフェース140は、電圧異常検出回路131から取得した電圧異常フラグFa及び電圧正常フラグFnをマイコン32に出力する。マイコン32は、電圧異常フラグFaを取得した場合、図示しない警告灯等を通じてその旨を報知するとともに、モータ20のマルチターンの回転角度θの演算を停止する。なお、電圧異常検出回路131及び通信インターフェース140により電源回路101の異常の有無の検出結果を生成する検出結果通信部160が構成されている。
【0043】
通信インターフェース140に異常が発生した場合、電源回路101が異常であってもそのことをマイコン32が認識できないことがある。具体的には、通信インターフェース140に異常が発生した場合、通信インターフェース140は、電圧異常検出回路131により生成された検出結果をそのままマイコン32に対して出力することができず、電圧正常フラグFnのみを出力することがある。このように、通信インターフェース140からマイコン32に出力される検出結果が電圧正常フラグFnとしての「0」に固着する異常が生じることがあり、この場合にはモータ制御装置30の信頼性が低下する。すなわち、電圧異常検出回路131において電源回路101に異常ありの検出結果である電圧異常フラグFaが生成された場合において、通信インターフェース140に異常が生じていると、通信インターフェース140はマイコン32に対して電源回路101に異常なしの検出結果である電圧正常フラグFnを出力することがある。この場合、マイコン32は、通信インターフェース140から取得した電圧正常フラグFnに基づいて、実際には電源回路101に異常が発生しているにもかかわらず、電源回路101に異常が発生していないものと認識することになる。この結果、モータ制御装置30は、誤った情報に基づいて演算を実行するおそれがある。そこで、本実施形態では、マイコン32から擬似異常信号Spを制御回路31に出力するとともに、マイコン32が制御回路31に対して擬似異常信号Spを出力したことに起因して取得した検出結果に基づいて、通信インターフェース140の異常を検出できるようにしている。
【0044】
制御回路31は、マイコン32からの擬似異常信号Spに基づいて電圧異常検出回路131により生成される検出結果を擬似的に異常ありに設定する擬似異常生成部150を備えている。マイコン32は、始動スイッチ60がオンされたときに行われるイニシャルチェック中において、擬似異常信号Spを擬似異常生成部150に出力する。擬似異常生成部150は、電源回路101を診断するいわゆるBIST(Built-in Self-test)回路である。擬似異常生成部150は、擬似異常信号Spを取得した場合、電圧異常検出回路131に対して電源回路101に異常ありの検出結果である電圧異常フラグFaを生成させる。擬似異常信号Spは、BIST回路の動作を指示する信号であって、電圧異常検出回路131から生成される検出結果を常に擬似的に異常あり(電圧異常フラグFa)に設定する信号である。詳しくは、擬似異常生成部150は、擬似異常信号Spを取得した場合、制御電圧Vcoの所定電圧範囲の上限値Vhi及び下限値Vloを変更させるための変更指令Scを電圧異常検出回路131に対して出力する。変更指令Scは、制御電圧Vcoが所定電圧範囲外の値となるように、電圧異常検出回路131で設定されている上限値Vhi及び下限値Vloを本来の所定電圧範囲から外れた値となるように変更させる指令である。このため、電圧異常検出回路131は、電圧異常検出回路131が正常である場合、電圧異常フラグFaを生成する。そして、電圧異常検出回路131により生成された電圧異常フラグFaは、通信インターフェース140に出力される。通信インターフェース140は、電圧異常検出回路131から取得した電圧異常フラグFaをマイコン32に対して出力する。
【0045】
マイコン32は、擬似異常信号Spを擬似異常生成部150に対して出力したことに起因して取得した検出結果に基づいて、通信インターフェース140の異常を検出する。すなわち、マイコン32は、擬似異常信号Spを擬似異常生成部150に対して出力したことに起因して電圧異常フラグFaを取得した場合、通信インターフェース140に異常なしと判定する。また、マイコン32は、擬似異常信号Spを擬似異常生成部150に対して出力したことに起因して電圧正常フラグFnを取得した場合、通信インターフェース140に異常ありと判定する。なお、電圧異常検出回路131は、擬似異常生成部150からの変更指令Scの取得に基づいて上限値Vhi及び下限値Vloを変更した後、所定時間が経過したとき、変更した上限値Vhi及び下限値Vloを元の値に戻す。また、擬似異常生成部150は、擬似異常信号Spを取得してから所定時間の経過後に動作を停止する。
【0046】
通信インターフェース140に異常が発生することだけでなく、電圧異常検出回路131に異常が発生することもある。そこで、例えば、擬似異常生成部150は、BIST回路として、所定の周期で電圧異常検出回路131の異常を診断している。擬似異常生成部150は、上限値Vhi及び下限値Vloを変更した場合に、電圧異常検出回路131が電圧異常フラグFaを生成するか否かに基づいて電圧異常検出回路131の診断を実行する。このように、擬似異常生成部150は、電圧異常検出回路131の異常を診断する。
【0047】
通信インターフェース140の異常の検出方法について
図3を用いて説明する。ここでは、仮に電源回路101及び電圧異常検出回路131に異常はないものとして説明する。
図3に示すように、時間T1は、マイコン32が制御回路31に対して擬似異常信号Spを出力していない通常時である。擬似異常生成部150は、マイコン32から擬似異常信号Spを取得していない場合、電圧異常検出回路131に対して変更指令Scを出力せず、動作を停止している。電圧異常検出回路131は、制御電圧Vcoが通常時の上限値Vhi及び下限値Vloによって規定される所定電圧範囲内にあるか否かを判定する。電源回路101が正常であるため、その制御電圧Vcoは所定電圧範囲内にある。そこで、電圧異常検出回路131は、電圧正常フラグFnを生成する。通信インターフェース140は、電圧異常検出回路131によって生成された電圧正常フラグFnをマイコン32に対して出力する。マイコン32は、通信インターフェース140から取得した検出結果である電圧正常フラグFnに基づいて、電源回路101に異常なしと把握する。
【0048】
時間T2は、マイコン32が制御回路31に対して擬似異常信号Spを出力している擬似異常生成時である。擬似異常生成部150は、マイコン32から擬似異常信号Spを取得した場合に動作を開始して、電圧異常検出回路131に対して変更指令Scを出力する。電圧異常検出回路131は、変更指令Scにより変更された上限値及び下限値によって規定される擬似異常生成時の所定電圧範囲内に制御電圧Vcoがあるか否かを判定する。電源回路101が正常であるため、その制御電圧Vcoは擬似異常生成時の所定電圧範囲からは外れることになる。電圧異常検出回路131は、電圧異常フラグFaを生成する。通信インターフェース140は、電圧異常検出回路131によって生成された電圧異常フラグFaをマイコン32に対して出力する。実線に示すように、通信インターフェース140が正常である場合には、マイコン32は電圧異常フラグFaを取得する。一方、1点鎖線で示すように、通信インターフェース140が異常である場合には、マイコン32は電圧正常フラグFnを取得する。通信インターフェース140が正常である場合、時間T2から時間T3までの間、マイコン32は電圧異常フラグFaを取得し続けることになる。
【0049】
時間T3は、マイコン32が制御回路31に対して擬似異常信号Spを出力してから所定時間が経過したときであって、擬似異常生成時から通常時に切り替わるときである。擬似異常生成部150は、擬似異常信号Spを取得してから所定時間経過後に動作を停止する。また、電圧異常検出回路131も、変更指令Scを取得してから所定時間の経過後に所定電圧範囲を規定する上限値Vhi及び下限値Vloを元の値に戻す。これに伴って、電圧異常検出回路131は、制御電圧Vcoが所定電圧範囲内にあるものとして、電圧正常フラグFnを生成する。通信インターフェース140は、電圧異常検出回路131から電圧正常フラグFnを取得した場合、現在記憶している電圧異常検出回路131の異常の有無の検出結果を消去し、取得した電圧正常フラグFnをマイコン32に対して出力する。マイコン32は、現在記憶している電圧異常検出回路131の検出結果を消去するとともに、通信インターフェース140から取得した電圧異常検出回路131の検出結果である電圧正常フラグFnを記憶する。
【0050】
マイコン32は、時間T1において制御回路31から電圧正常フラグFnが取得できることを確認し、時間T2において擬似異常信号Spを出力したことに起因して制御回路31から電圧異常フラグFaが取得できることを確認し、時間T3において通常時に戻したことに起因して制御回路31から電圧正常フラグFnが取得できることを確認している。すなわち、マイコン32は、時間T2において擬似異常信号Spを出力したことに起因して検出結果が電圧正常フラグFnから電圧異常フラグFaに変化したかどうかを確認することで、通信インターフェース140の異常を検出することができる。このことから、マイコン32は、通信インターフェース140に異常が発生しておらず、通信インターフェース140からマイコン32に出力される検出結果が電圧正常フラグFnに固着していないことを判定することができる。
【0051】
第1実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)マイコン32は、擬似異常生成部150に出力する擬似異常信号Spと、擬似異常信号Spを擬似異常生成部150に対して出力したことに起因して取得した検出結果とに基づいて、検出結果通信部の異常を検出することができる。仮に、通信インターフェース140に異常が発生している場合には、マイコン32は、擬似異常生成部150への擬似異常信号Spの出力にもかかわらず、電源回路101に異常なしの検出結果を取得することになるからである。これにより、制御回路31は、電源回路101の異常の有無に関する情報をマイコン32に対して正しく出力することができ、マイコン32は、その正しい情報に基づいて演算を実行することができるため、制御回路31の信頼性を向上させることができる。
【0052】
(2)マイコン32は、擬似異常信号Spを擬似異常生成部150に対して出力したことに起因して、電圧異常検出回路131において生成された電源回路101に異常ありの検出結果を取得できるかどうかに基づいて、通信インターフェース140の異常を検出することができる。また、マイコン32は、擬似異常信号Spを擬似異常生成部150に対して出力したことに起因して電源回路101に異常ありの検出結果を取得した場合については、通信インターフェース140だけでなく、電圧異常検出回路131についても異常なしであることを把握することができる。
【0053】
(3)擬似異常生成部150がマイコン32から擬似異常信号Spを取得した場合、電圧異常検出回路131の所定電圧範囲を規定する上限値Vhi及び下限値Vloを変更させることで電源回路101に異常ありの検出結果を擬似的に生成することができる。この場合、擬似異常生成部150は、電圧異常検出回路131の上限値Vhi及び下限値Vloを変更するだけで、容易に検出結果を擬似的に異常とすることができる。
【0054】
(4)モータ制御装置30は、電源回路101の異常の有無に関する情報を正しく取得することができ、その正しい情報に基づいて演算を実行することができるため、モータ制御装置30の信頼性を向上させることができる。
【0055】
<第2実施形態>
以下、EPSに搭載されたモータ制御装置の第2実施形態について説明する。ここでは、第1実施形態との違いを中心に説明する。
【0056】
図4に示すように、制御回路31は、マイコン32からの擬似異常信号Spに基づいて通信インターフェース140から出力される検出結果を擬似的に異常ありに設定する擬似異常生成部180を備えている。擬似異常生成部180は、擬似異常信号Spを取得した場合、通信インターフェース140に対して電源回路101に異常ありの検出結果である電圧異常フラグFaを出力させる。擬似異常信号Spは、通信インターフェース140からマイコン32に対して出力される検出結果を常に擬似的に異常あり(電圧異常フラグFa)に設定する信号である。詳しくは、電圧異常検出回路131と通信インターフェース140との間には、異常検出結果生成部としてのOR回路170が設けられている。検出結果通信部160は、OR回路170を有している。擬似異常生成部180は、電圧異常フラグFaあるいは電圧正常フラグFnをOR回路170に対して出力する。擬似異常生成部180は、擬似異常信号Spを取得した場合には電圧異常フラグFaを出力し、擬似異常信号Spを取得していない場合には電圧正常フラグFnを出力する。OR回路170は、電圧異常検出回路131から電圧異常フラグFaあるいは電圧正常フラグFnを取得し、擬似異常生成部180から電圧異常フラグFaあるいは電圧正常フラグFnを取得する。OR回路170は、電圧異常検出回路131及び擬似異常生成部180の両方から電圧正常フラグFnを取得した場合、電圧正常フラグFnを通信インターフェース140に対して出力する。OR回路170は、電圧異常検出回路131及び擬似異常生成部180の少なくとも一方から電圧異常フラグFaを取得した場合、電圧異常フラグFaを通信インターフェース140に対して出力する。このように、通信インターフェース140は、擬似異常生成部180から電圧異常フラグFaを取得した場合、電源回路101の異常の有無を検出する際に電圧異常検出回路131が用いる上限値Vhi及び下限値Vloを変更することなく、マイコン32に対して電圧異常フラグFaを出力する。すなわち、通信インターフェース140は、擬似異常生成部180から電圧異常フラグFaを取得した場合、電圧異常検出回路131から電圧正常フラグFnを取得したとしても、電圧正常フラグFnをマイコン32に対して出力せずに、電圧異常フラグFaをマイコン32に対して出力している。擬似異常生成部180は、擬似異常信号Spを取得してから所定時間が経過するまでの間、電圧異常フラグFaをOR回路170に出力し続ける。擬似異常生成部180は、擬似異常信号Spを取得してから所定時間が経過した後、通信インターフェース140に対して電源回路101に異常ありの検出結果である電圧異常フラグFaの出力を終了する。
【0057】
マイコン32は、擬似異常信号Spを擬似異常生成部180に対して出力したことに起因して取得した検出結果に基づいて、通信インターフェース140の異常を検出する。すなわち、マイコン32は、擬似異常信号Spを擬似異常生成部180に対して出力したことに起因して電圧異常フラグFaを取得した場合、通信インターフェース140に異常が発生していないと判定する。また、マイコン32は、擬似異常信号Spを擬似異常生成部180に対して出力したことに起因して電圧正常フラグFnを取得した場合、通信インターフェース140に異常が発生していると判定する。
【0058】
通信インターフェース140の異常の検出方法について
図5を用いて説明する。ここでは、仮に電源回路101及び電圧異常検出回路131に異常はないものとして説明する。
図5に示すように、時間T1aは、マイコン32が制御回路31に対して擬似異常信号Spを出力していない通常時である。擬似異常生成部180は、マイコン32から擬似異常信号Spを取得していない場合には、OR回路170に対して電圧正常フラグFnを出力する。電源回路101が正常であるため、制御電圧Vcoは所定電圧範囲内にある。そこで、電圧異常検出回路131は、電圧正常フラグFnを生成する。OR回路170は、擬似異常生成部180から電圧正常フラグFnを取得し、電圧異常検出回路131から電圧正常フラグFnを取得していることから、通信インターフェース140に対して電圧正常フラグFnを出力する。そして、通信インターフェース140は、OR回路170から取得した電圧正常フラグFnをマイコン32に対して出力する。マイコン32は、通信インターフェース140から取得した検出結果である電圧正常フラグFnに基づいて、電源回路101に異常なしと把握する。
【0059】
時間T2aは、マイコン32が制御回路31に対して擬似異常信号Spを出力している擬似異常生成時である。擬似異常生成部180は、マイコン32から擬似異常信号Spを取得した場合には、OR回路170に対して電圧異常フラグFaを出力する。電源回路101が正常であるため、時間T1aの場合と同様に、制御電圧Vcoは所定電圧範囲内にある。そこで、電圧異常検出回路131は、電圧正常フラグFnを生成する。OR回路170は、擬似異常生成部180から電圧異常フラグFaを取得し、電圧異常検出回路131から電圧正常フラグFnを取得していることから、通信インターフェース140に対して電圧異常フラグFaを出力する。実線で示すように、通信インターフェース140が正常である場合、マイコン32は電圧異常フラグFaを取得する。一方、1点鎖線で示すように、通信インターフェース140が異常である場合には、マイコン32は電圧正常フラグFnを取得する。通信インターフェース140が正常である場合、時間T2から時間T3までの間、マイコン32は電圧異常フラグFaを取得し続けることになる。
【0060】
時間T3aは、マイコン32が制御回路31に対して擬似異常信号Spを出力してから所定時間が経過したときであって、擬似異常生成時から通常時に切り替わるときである。擬似異常生成部180は、マイコン32から擬似異常信号Spを取得してから所定時間経過後に、OR回路170に対して電圧異常フラグFaの出力を停止し、電圧正常フラグFnの出力を開始する。電源回路101が正常である場合、時間T1aの場合と同様に、制御電圧Vcoは所定電圧範囲内にある。そこで、電圧異常検出回路131は、電圧正常フラグFnを生成する。OR回路170は、擬似異常生成部180から電圧正常フラグFnを取得し、電圧異常検出回路131から電圧正常フラグFnを取得していることから、通信インターフェース140に対して電圧正常フラグFnを出力する。そして、通信インターフェース140は、OR回路170から取得した電圧正常フラグFnをそのままマイコン32に出力する。
【0061】
マイコン32は、時間T1aにおいて制御回路31から電圧正常フラグFnが取得できることを確認し、時間T2aにおいて擬似異常信号Spを出力したことに起因して制御回路31から電圧異常フラグFaが取得できることを確認し、時間T3aにおいて通常時に戻したことに起因して制御回路31から電圧正常フラグFnが取得できることを確認している。このことから、マイコン32は、通信インターフェース140に異常が発生しておらず、通信インターフェース140からマイコン32に出力される検出結果が電圧正常フラグFnに固着していないことを判定することができる。
【0062】
第2実施形態の作用及び効果について説明する。
(5)マイコン32は、擬似異常信号Spを擬似異常生成部180に対して出力したことに起因して、通信インターフェース140から出力された電源回路101に異常ありの検出結果を取得できるかどうかに基づいて、通信インターフェース140の異常を検出することができる。また、電圧異常検出回路131には、電源回路101に異常があるとの検出結果を擬似的に創出することができないものもある。この点、本実施形態によれば、通信インターフェース140の異常を判定する際に電圧異常検出回路131による電源回路101の異常の有無の検出結果を擬似的に異常ありに変更する必要がない。このことから、電源回路101の異常の有無を検出する際に電圧異常検出回路131が用いる上限値Vhi及び下限値Vloを変更することなく、通信インターフェース140の異常を判定することができる。
【0063】
(6)擬似異常生成部180がマイコン32から擬似異常信号Spを取得した場合、通信インターフェース140は電源回路101に異常ありの検出結果をマイコン32に対して出力するようにしている。この場合、通信インターフェース140は、電圧異常検出回路131の検出結果を考慮することなく、検出結果を擬似的に異常とすることができるため、通信インターフェース140の構成を簡素化することができる。
【0064】
なお、各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・各実施形態では、マイコン32は、始動スイッチ60がオンされたときに行われるイニシャルチェック中において、擬似異常信号Spを擬似異常生成部150,180に出力したが、これに限らない。マイコン32は、始動スイッチ60がオンされた期間において、擬似異常信号Spを擬似異常生成部150,180に出力するのであれば、どのようなタイミングで出力してもよい。
【0065】
・第1実施形態において、電圧異常検出回路131は、変更指令Scを取得した場合、制御電圧Vcoの所定電圧範囲の上限値Vhi及び下限値Vloを変更することで電圧異常検出回路131により生成される検出結果を擬似的に異常ありに設定したが、これに限らない。例えば、電圧異常検出回路131は、制御電圧Vcoの所定電圧範囲の上限値Vhi及び下限値Vloの少なくとも一方を変更することで電圧異常検出回路131により生成される検出結果を擬似的に異常ありに設定してもよい。また、電圧異常検出回路131は、上限値Vhi及び下限値Vloにより設定される所定電圧範囲を小さくすることで、制御電圧Vcoが所定電圧範囲外となるようにしてもよい。また、電圧異常検出回路131は、変更指令Scを取得した場合、制御電圧Vcoが所定電圧範囲内にあるかどうかを判定する際に用いられる制御電圧Vcoの値に係数を乗算することによって、電圧異常検出回路131により生成される検出結果を擬似的に異常ありに設定してもよい。
【0066】
・各実施形態では、異常検出回路130は、電源回路101の異常の有無を検出する電圧異常検出回路131であったが、これに限らない。例えば、異常検出回路130は、カウンタ回路110の異常の有無を検出する異常検出回路であってもよいし、象限判定部113により生成される右回転フラグFr及び左回転フラグFlとカウント値Cの変化値との関係の異常の有無を検出する異常検出回路であってもよい。この場合、カウンタ回路110の異常の有無を検出する異常検出回路と通信インターフェース120とにより、検出結果通信部が構成されている。
【0067】
・各実施形態では、マイコン32は、通信インターフェース140からマイコン32に出力される検出結果が電圧正常フラグFnに固着していないことを判定したが、これに限らない。マイコン32は、通信インターフェース140からマイコン32に出力される検出結果が電圧正常フラグFnに固着していないことに加えて、電圧異常フラグFaに固着していないことを判定するようにしてもよい。一例としては、マイコン32は、通信インターフェース140から取得した検出結果が電圧異常フラグFaである状況が所定時間継続した場合に、フェイルセーフを実行するとともに、検出結果が電圧異常フラグFaに固着しているか否かを判定する。マイコン32は、検出結果が電圧異常フラグFaに固着しているか否かを判定する場合、擬似異常生成部150に対して擬似正常信号を出力する。擬似異常生成部150は、擬似正常信号を取得した場合、制御電圧Vcoがどのような値であっても所定電圧範囲内となるように上限値Vhi及び下限値Vloを変更させるための変更指令Scを電圧異常検出回路131に対して出力する。電圧異常検出回路131は、電源回路101が正常である場合、電圧正常フラグFnを生成する。通信インターフェース140は、電圧異常検出回路131から取得した電圧正常フラグFnをマイコン32に対して出力する。マイコン32は、擬似正常信号を擬似異常生成部150に対して出力したことに起因して取得した検出結果に基づいて、通信インターフェース140の異常を検出する。すなわち、マイコン32は、擬似正常信号を擬似異常生成部150に対して出力したことに起因して電圧正常フラグFnを取得した場合、通信インターフェース140に異常なしと判定する。また、マイコン32は、擬似正常信号を擬似異常生成部150に対して出力したことに起因して電圧異常フラグFaを取得した場合、通信インターフェース140に異常ありと判定する。
【0068】
・擬似異常生成部150,180は、マイコン32からの擬似異常信号Spを取得した場合、通信インターフェース140から出力される検出結果を電圧正常フラグFnと電圧異常フラグFaとの間で反転させるようにすることで通信インターフェース140から出力される検出結果を擬似的に異常にしてもよい。一例としては、擬似異常生成部150,180は、電源回路101及び電圧異常検出回路131が正常であり、電圧異常検出回路131が電圧正常フラグFnを出力する場合には通信インターフェース140に電圧異常フラグFaを取得させるようにしてもよい。また、擬似異常生成部150,180は、電源回路101及び電圧異常検出回路131が正常であり、電圧異常検出回路131が電圧異常フラグFaを出力する場合には通信インターフェース140に電圧正常フラグFnを取得させるようにしてもよい。
【0069】
・各実施形態では、制御回路31は、特定の入力に対して定められた演算を実行するASICであったが、これに限らない。例えば制御回路31は、マイクロプロセッシングユニット等からなるマイコンによって実現してもよい。また、制御回路31は、その記憶部に記憶されているプログラムを読み出して当該プログラムに応じた演算を実行するものであってもよい。これらの場合であっても、マルチターンの回転角度θの演算負荷よりも演算負荷の小さいカウント値Cを演算することになる分、制御回路31の構成はマイコン32の構成よりも簡素な構成とすることができる。また、制御回路31をマルチターンの回転角度θの演算等の特定の機能に特化した低消費電力のマイコンによって実現してもよい。この場合であっても、特定の機能に特化している分だけ、制御回路31の構成をマイコン32よりも簡素な構成とすることができる。
【0070】
・回転角度センサ41は、例えばホール素子を用いたセンサであってもよいし、レゾルバを用いたセンサであってもよい。
・回転角度センサ41は、例えばステアリング軸11の回転角度を検出するようにしてもよい。ステアリング軸11の回転角度は、モータ20とステアリング軸11との間に介在される減速機構21の減速比等を考慮すれば、モータ20のマルチターンの回転角度θに換算することができる。
【0071】
・回転角度センサ41は、モータ20に設けられていたが、ステアリングホイール10の回転軸であるステアリング軸11に設けられていてもよい。
・制御回路31は始動スイッチ60がオンされている場合においても、カウント値Cを間欠的に演算したが、始動スイッチ60がオンされている場合には、カウント値Cを演算しないようにしてもよい。この場合、始動スイッチ60がオンからオフへと切り替わると、例えばマイコン32は現在の回転角度θを記憶し、制御回路31は動作を開始してからカウント値Cを間欠的に演算して記憶する。そして、始動スイッチ60がオフからオンに切り替わると、マイコン32は、始動スイッチ60がオフされていた期間に制御回路31が演算したカウント値C及び始動スイッチ60のオフ時に記憶した回転角度θを読み出し、モータ20の回転角度θを演算する。
【0072】
・各実施形態のEPSは、モータ20の回転軸20aとラック軸12の軸線とが平行なEPSに具体化してもよいし、回転軸20aとラック軸12とが同軸に存在するEPSに適用してもよい。また、EPSに限らず、例えばステアバイワイヤ式のステアリング装置に具体化してもよい。
【0073】
・各実施形態のEPSが搭載される車両は、車両駆動源にエンジンを採用するいわゆる内燃機関を有する車両であってもよいし、車両駆動源にモータを採用するいわゆる電動車両であってもよい。なお、電動車両の場合の始動スイッチ60は、車両駆動源としてのモータを始動するスイッチである。
【符号の説明】
【0074】
1…操舵機構、3…アクチュエータ、10…ステアリングホイール、11…ステアリング軸、12…ラック軸、15…転舵輪、20…モータ、20a…回転軸、21…減速機構、30…モータ制御装置、31…制御回路、32…マイコン、33…駆動回路、40…トルクセンサ、41…回転角度センサ、50…バッテリ、51…第1接続線、52…電源リレー、53…第2接続線、54…電源線、55…駆動リレー、60…始動スイッチ、100…主回路、101…電源回路、110…カウンタ回路、111…増幅器、112…コンパレータ、113…象限判定部、114…カウンタ、120…通信インターフェース、130…異常検出回路、131…電圧異常検出回路、140…通信インターフェース、150…擬似異常生成部、160…検出結果通信部、170…OR回路、180…擬似異常生成部、θ…回転角度、C…カウント値、Fa…電圧異常フラグ、Fn…電圧正常フラグ、Fl…左回転フラグ、Fr…右回転フラグ、Sc…変更指令、Sig…始動信号、Srl…リレー信号、Scos…余弦波信号、Ssin…正弦波信号、Th…操舵トルク、Vco…制御電圧、Vhi…上限値、Vlo…下限値。