IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】オレフィン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/00 20060101AFI20230216BHJP
   C08F 4/602 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C08F10/00 510
C08F4/602
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019043723
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020147620
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 達也
(72)【発明者】
【氏名】柳本 泰
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-224188(JP,A)
【文献】特開2003-073412(JP,A)
【文献】特開2004-256602(JP,A)
【文献】特開2011-178682(JP,A)
【文献】特開2004-182963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/00
C08F 4/602
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属錯体と、溶媒に溶解している有機アルミニウム化合物と、溶媒とを接触させて、触媒スラリーを調製する工程1(但し、該工程1は、遷移金属錯体の固体担体への担持工程を含まない)と、
前記触媒スラリーを用いてオレフィンを重合する工程2と、
を含む、オレフィン重合体の製造方法。
【請求項2】
前記工程1において、前記有機アルミニウム化合物および前記遷移金属錯体を、前記有機アルミニウム化合物におけるアルミニウム原子のモル(MAl)と、前記遷移金属錯体の中心金属のモル(MM)との比率(MAl/MM)が、0.1~20.0となる量で用いる、請求項1に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項3】
前記工程1において、前記有機アルミニウム化合物および前記遷移金属錯体を、前記有機アルミニウム化合物におけるアルミニウム原子のモル(MAl)と、前記遷移金属錯体の中心金属のモル(MM)との比率(MAl/MM)が、0.1~10.0となる量で用いる、請求項1に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項4】
前記工程2が溶液重合である、請求項1~3のいずれか1項に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属錯体がイミン基を有する遷移金属錯体である、請求項1~4のいずれか1項に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項6】
前記有機アルミニウム化合物が、トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとを用いて得られる修飾メチルアルミノキサンを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のオレフィン重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレンに代表されるオレフィン重合体は、その製造に係るエネルギーが小さく、軽量かつリサイクル性にも優れることから、各産業界における、循環型社会を形成するための3R(Reduce、Reuse、Recycle)への取り組みのなかで、更に注目が高まっている。このようなオレフィン重合体は、日用雑貨、台所用品、包装用フィルム、家電製品、機械部品、電気部品、自動車部品など、種々の分野で利用されている。
【0003】
前記オレフィン重合体は、従来、Ziegler-Natta系固体触媒を使用し、一般的に、気相重合法、懸濁重合または溶液重合法などの重合法により製造されている。
また、高い重合活性でオレフィン重合体を製造することのできる触媒としてジルコノセンなどのメタロセン化合物と有機アルミニウムオキシ化合物(アルミノキサン)とからなるメタロセン系錯体が知られている。さらに近年、次世代のオレフィン重合用触媒として、様々なポストメタロセン錯体が報告されている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
これらの錯体を用いて溶液重合を実施する際には、通常、溶液状態の錯体を使用する。しかしながら、工業的に使用可能な溶媒に対して、錯体の溶解度が著しく低い場合があり、この場合、大量の溶媒を用いて錯体を溶解させなければならなかった。また、工業的には、重合体の生産量を高めた方がコスト的に有利であるため、このように重合体の生産量を高めるためには、多くの錯体を使用することになるが、この場合、該錯体を溶解させるための溶媒の使用量も膨大になる。このように溶媒を大量に使用することは、生産コスト的にも、設備的にも不利であるため、溶液状体の錯体を使用しない方法が望まれていた。
【0005】
このような方法の一例としては、錯体をそのままの粉末状で用いることが考えられるが、粉末状の錯体は、嵩が高いことに加え、静電気により容器壁や配管等に付着しやすいため、連続的に所定量の錯体を重合器に装入することが困難であり不適であった。
【0006】
また、他の例としては、錯体を溶媒に懸濁させた触媒スラリーを用いることも考えられる。この場合、重合の際には、ポンプや逆支弁などの装置を備えた供給系を通して触媒スラリーを重合器に供給する。ところが、このような触媒スラリーを用いて、長時間重合反応を継続すると、触媒供給系の一部、例えば、ポンプや逆支弁、触媒スラリーを貯蔵していた容器の壁面などに触媒が付着し、これら供給系等を閉塞してしまうことがあった。触媒供給系が閉塞すると、重合器を長時間連続使用することが不可能になるため、一定時間毎に運転を中止し、触媒供給系を洗浄する必要があった。つまり、触媒スラリーを用いる場合も、粉末状の錯体を用いる際と同様に、容器壁や配管等に触媒が付着しやすいため、連続的に所定量の錯体を重合器に装入することが困難であり不適であった。
【0007】
さらに、得られる重合体の粒子性状が良好であることが求められる気相重合法や懸濁重合法では、メタロセン錯体を固体担体に担持し、その後予備重合を行った触媒が使用されている。このような固体担体への担持は、触媒の粒子性状を改良するため、触媒を連続的かつ定量的に装入するのに有効であると考えられたが、前記の触媒スラリーを用いる場合と同様の問題が生じることがあった。
【0008】
このような問題を解決する方法として、特許文献1には、固体に担持した予備重合触媒を含む触媒スラリーを、オレフィンの本重合を行う前に、有機アルミニウム化合物と接触させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-6988号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Chemical Reviews 2003, 103, 283-315.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、触媒の固体担体への担持や、予備重合の実施等には、専用の設備が必要となり、使用する原料、行うべき工程も増えることからコスト的に不利である。さらには、触媒を固体担体に担持すると、触媒活性が低下する場合がある、固体担体の残渣が、得られるオレフィン重合体中に混入する場合がある、予備重合を行った場合には、その予備重合成分もオレフィン重合体中に混入する場合がある、などの問題が生じることがある。
このため、固体担体への触媒の担持や、予備重合を行わなくても、所定の重合を行うことが求められている。
【0012】
本発明は、以上のことに鑑みてなされたものであって、重合系への供給性に優れる触媒スラリーを用い、簡略化した方法で、所望の収量のオレフィン重合体を製造することができるオレフィン重合体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が研究を進めた結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出した。本発明の構成例は、以下の通りである。
【0014】
[1] 遷移金属錯体と、有機アルミニウム化合物と、溶媒とを接触させて、触媒スラリーを調製する工程1と、
前記触媒スラリーを用いてオレフィンを重合する工程2と、
を含む、オレフィン重合体の製造方法。
【0015】
[2] 前記工程1において、前記有機アルミニウム化合物および前記遷移金属錯体を、前記有機アルミニウム化合物におけるアルミニウム原子のモル(MAl)と、前記遷移金属錯体の中心金属のモル(MM)との比率(MAl/MM)が、0.1~20.0となる量で用いる、[1]に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【0016】
[3] 前記工程1において、前記有機アルミニウム化合物および前記遷移金属錯体を、前記有機アルミニウム化合物におけるアルミニウム原子のモル(MAl)と、前記遷移金属錯体の中心金属のモル(MM)との比率(MAl/MM)が、0.1~10.0となる量で用いる、[1]に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【0017】
[4] 前記工程2が溶液重合である、[1]~[3]のいずれかに記載のオレフィン重合体の製造方法。
【0018】
[5] 前記遷移金属錯体がイミン基を有する遷移金属錯体である、[1]~[4]のいずれかに記載のオレフィン重合体の製造方法。
【0019】
[6] 前記有機アルミニウム化合物が、トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとを用いて得られる修飾メチルアルミノキサンを含む、[1]~[5]のいずれかに記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、重合系への供給性に優れる触媒スラリーを得ることができ、該スラリーを用いることで、固体担体への触媒の担持工程、予備重合工程、触媒供給系等に付着した触媒の洗浄工程等の工程を行うことなく簡略化した方法で、遷移金属錯体溶液を用いる場合と同程度の所望の収量のオレフィン重合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪オレフィン重合体の製造方法≫
本発明に係るオレフィン重合体の製造方法(以下「本方法」ともいう。)は、
遷移金属錯体と、有機アルミニウム化合物と、溶媒とを接触させて、触媒スラリーを調製する工程1と、
前記触媒スラリーを用いてオレフィンを重合する工程2と、
を含む。
本発明における「スラリー」とは、遷移金属錯体が溶媒の中に懸濁している流動体のことをいう。なお、重合活性等の点から、有機アルミニウム化合物は、溶媒に溶解していることが好ましい。
【0022】
<工程1>
前記工程1は、遷移金属錯体と、有機アルミニウム化合物と、溶媒とを接触させて、触媒スラリーを調製する工程である。この工程1は、触媒スラリーが得られれば特に制限されない。
工程1で得られる触媒スラリーは、該スラリーを調製するのに用いる容器や、反応器装入時に使用するポンプや逆支弁、ピペットなどの触媒供給系に、遷移金属錯体が付着しにくい、重合系への供給性に優れる触媒スラリーである。従って、このような触媒スラリーを用いることで、該スラリーを重合系に添加する際に、触媒供給系に付着した遷移金属錯体を重合系に洗い流し入れるなどの洗浄工程を行うことなく、また、この付着を見越した、大量の遷移金属錯体を用いることなく、所定量の遷移金属錯体を重合系に添加することができる。従って、本方法によれば、該洗浄工程を省くことができ、また、該洗浄に使用される有機溶媒を削減できる。
【0023】
〈遷移金属錯体〉
前記遷移金属錯体としては特に制限されず、オレフィン重合用触媒に用いられる従来公知の遷移金属錯体が挙げられる。得られるオレフィン重合体の用途等により、用いることができる溶媒が限定される場合があるが、前記遷移金属錯体としては、本発明の効果がより発揮される等の点から、このような溶媒への溶解度が低い錯体であることが好ましい。
なお、工程1に用いられる遷移金属錯体は、固体担体に担持させたものではない。つまり、本方法は、遷移金属錯体の固体担体への担持工程を含まない。
【0024】
オレフィン重合用触媒に用いられる遷移金属錯体としては、例えば、以下の遷移金属錯体(1)~(9)が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより発揮される等の点から、イミン基を有する遷移金属錯体が好ましく、フェノキシイミン構造を有する遷移金属錯体がより好ましく、下記遷移金属錯体(8)~(9)が特に好ましい。
工程1で用いる遷移金属錯体は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0025】
[遷移金属錯体(1)]
遷移金属錯体(1)は、下記式[A1]で表される化合物である。
【0026】
【化1】
【0027】
式[A1]中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、硫黄含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基から選ばれ、同一でも互いに異なっていてもよく、隣接する基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0028】
炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基およびアリールアルキル基が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、ノニル基、ドデシル基およびエイコシル基が挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基およびアダマンチル基が挙げられる。
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基およびシクロヘキセニル基などが挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ビフェニル基、α-またはβ-ナフチル基、メチルナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ベンジルフェニル基、ピレニル基、アセナフチル基、フェナレニル基、アセアントリレニル基、テトラヒドロナフチル基、インダニル基およびビフェニリル基が挙げられる。
アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基およびフェニルプロピル基が挙げられる。
【0029】
式[A1]において、Yは、二つの配位子を結合する二価の基であり、具体的には、二価の基であって、炭素数1~20の炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれる基であり、好ましくは、炭素数1~20の二価の炭化水素基、または二価のケイ素含有基である。
【0030】
二価の炭化水素基としては、アルキレン基、置換アルキレン基およびアルキリデン基が挙げられ、その具体例としては、
メチレン、エチレン、プロピレンおよびブチレンなどのアルキレン基;
イソプロピリデン、ジエチルメチレン、ジプロピルメチレン、ジイソプロピルメチレン、ジブチルメチレン、メチルエチルメチレン、メチルブチルメチレン、メチル-tert-ブチルメチレン、ジヘキシルメチレン、ジシクロヘキシルメチレン、メチルシクロヘキシルメチレン、メチルフェニルメチレン、ジフェニルメチレン、ジトリルメチレン、メチルナフチルメチレン、ジナフチルメチレン、1-メチルエチレン、1,2-ジメチルエチレンおよび1-エチル-2-メチルエチレンなどの置換アルキレン基;
シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、ビシクロ[3.3.1]ノニリデン、ノルボルニリデン、アダマンチリデン、テトラヒドロナフチリデンおよびジヒドロインダニリデンなどのシクロアルキリデン基;
エチリデン、プロピリデンおよびブチリデンなどのアルキリデン基;
が挙げられる。
【0031】
二価のケイ素含有基としては、例えば、
シリレン;ならびに
メチルシリレン、ジメチルシリレン、ジイソプロピルシリレン、ジブチルシリレン、メチルブチルシリレン、メチル-tert-ブチルシリレン、ジシクロヘキシルシリレン、メチルシクロヘキシルシリレン、メチルフェニルシリレン、ジフェニルシリレン、ジトリルシリレン、メチルナフチルシリレン、ジナフチルシリレン、シクロジメチレンシリレン、シクロトリメチレンシリレン、シクロテトラメチレンシリレン、シクロペンタメチレンシリレン、シクロヘキサメチレンシリレンおよびシクロヘプタメチレンシリレンなどのアルキルシリレン基;
が挙げられ、特に好ましくは、ジメチルシリレン基およびジブチルシリレン基などのジアルキルシリレン基が挙げられる。
【0032】
式[A1]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
【0033】
式[A1]において、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基およびリン含有基から選ばれる原子または基であり、好ましくはハロゲン原子または炭化水素基である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられ、特に好ましくは塩素が挙げられる。
【0034】
前記遷移金属錯体(1)の具体例としては、特開2013-224408号公報の[0077]に列挙された化合物が挙げられる。
【0035】
[遷移金属錯体(2)]
遷移金属錯体(2)は、下記式[A2]で表される化合物である。
【0036】
【化2】
【0037】
式[A2]中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R11、R12、R13、R14、R15およびR16は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、硫黄含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれ、同一でも互いに異なっていてもよく、また隣接する2個の基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0038】
炭化水素基としては、前述した式[A1]においてR1~R8として挙げた炭化水素基等が挙げられる。
1~R6およびR11~R16は、それぞれ独立に、好ましくは水素原子または炭化水素基であり、より好ましくは水素原子または炭素数1~20のアルキル基である。
【0039】
式[A2]において、Yは、二つの配位子を結合する二価の基であり、具体的には、二価の基であって、炭素数1~20の炭化水素基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基およびスズ含有基から選ばれる基であり、好ましくは、炭素数1~20の二価の炭化水素基、または二価のケイ素含有基である。
これらの基としては、前述した式[A1]においてYとして挙げた二価の基等が挙げられる。
【0040】
式[A2]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
【0041】
式[A2]において、Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基およびリン含有基から選ばれる原子または基であり、好ましくはハロゲン原子または炭化水素基である。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられ、特に好ましくは塩素が挙げられる。
【0042】
前記遷移金属錯体(2)の具体例としては、特開2013-224408号公報の[0071]に列挙された化合物が挙げられる。
【0043】
[遷移金属錯体(3)]
遷移金属錯体(3)は、下記式[A3]で表される化合物である。
【0044】
【化3】
【0045】
式[A3]中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、R1からR4までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R5からR12までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよく、R13とR14とは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0046】
1からR14における炭化水素基としては、例えば、直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、飽和炭化水素基が有する1または2以上の水素原子が環状不飽和炭化水素基で置換された基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、通常1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10である。
【0047】
直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカニル基等の直鎖状アルキル基;アリル基等の直鎖状アルケニル基が挙げられる。
【0048】
分岐状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、tert-ブチル基、tert-アミル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1-メチル-1-プロピルブチル基、1,1-プロピルブチル基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピル基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピル基等の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0049】
環状飽和炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、メチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ノルボルニル基、アダマンチル基、メチルアダマンチル基等の多環式基が挙げられる。
【0050】
環状不飽和炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基等のアリール基;シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基;5-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エニル基等の多環の不飽和脂環式基が挙げられる。
【0051】
飽和炭化水素基が有する1または2以上の水素原子が環状不飽和炭化水素基で置換された基としては、例えば、ベンジル基、クミル基、1,1-ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基等のアルキル基が有する1または2以上の水素原子がアリール基で置換された基が挙げられる。
【0052】
1からR14におけるヘテロ原子含有炭化水素基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フリル基などの酸素原子含有炭化水素基;N-メチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N-フェニルアミノ基等のアミノ基、ピリル基などの窒素原子含有炭化水素基;チエニル基などの硫黄原子含有炭化水素基が挙げられる。ヘテロ原子含有炭化水素基の炭素数は、通常1~20、好ましくは2~18、より好ましくは2~15である。ただし、ヘテロ原子含有炭化水素基からはケイ素含有基を除く。
【0053】
1からR14におけるケイ素含有基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の式-SiR3(式中、複数あるRはそれぞれ独立に、炭素数1~15のアルキル基またはフェニル基である。)で表される基が挙げられる。
【0054】
1からR14までの置換基のうち、任意の2つの置換基、例えば隣接した2つの置換基(例:R1とR2、R2とR3、R3とR4、R5とR6、R6とR7、R7とR8、R9とR10、R10とR11、R11とR12、R13とR14)は互いに結合して環を形成していてもよい。このような環は、分子中に2箇所以上存在してもよい。
【0055】
本明細書において、2つの置換基が互いに結合して形成された環(付加的な環)としては、例えば、脂環、芳香環、ヘテロ環が挙げられる。具体的には、シクロヘキサン環;ベンゼン環;水素化ベンゼン環;シクロペンテン環;フラン環、チオフェン環等のヘテロ環およびこれに対応する水素化ヘテロ環等が挙げられ、好ましくはシクロヘキサン環;ベンゼン環および水素化ベンゼン環である。また、このような環構造は、環上にアルキル基等の置換基をさらに有していてもよい。
【0056】
5、R8、R9およびR12は、好ましくは水素原子である。
6、R7、R10およびR11は、好ましくは水素原子、炭化水素基、酸素原子含有炭化水素基または窒素原子含有炭化水素基であり、より好ましくは炭化水素基である。R6とR7が互いに結合して環を形成し、かつR10とR11が互いに結合して環を形成していてもよい。
以上のようなフルオレニル基部分の構造としては、例えば、下記式で表される構造が挙げられる。
【0057】
【化4】
【0058】
13およびR14は、好ましくは炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、さらに好ましくはアリール基または置換アリール基(ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基を有するアリール基)である。
【0059】
式[A3]において、Yは炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子またはスズ原子であり、好ましくは炭素原子である。
【0060】
式[A3]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfである。
【0061】
jは1~4の整数であり、好ましくは2である。
【0062】
Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子であり、jが2以上の整数であるとき、Qは同一でもよく、異なっていてもよい。Qは、少なくとも1つがハロゲン原子またはアルキル基であることが好ましい。
【0063】
Qにおけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
Qにおける炭化水素基としては、R1からR14における炭化水素基と同様の基が挙げられ、好ましくは直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基等のアルキル基である。
【0064】
Qにおけるアニオン配位子としては、例えば、メトキシ、tert-ブトキシ等のアルコキシ基;フェノキシ等のアリールオキシ基;アセテート、ベンゾエート等のカルボキシレート基;メシレート、トシレート等のスルホネート基;ジメチルアミド、ジイソプロピルアミド、メチルアニリド、ジフェニルアミド等のアミド基が挙げられる。
【0065】
Qにおける孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン等の有機リン化合物;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテルが挙げられる。
【0066】
前記遷移金属錯体(3)の具体例としては、国際公開第2004/87775号の第29~43頁に列挙された化合物、国際公開第2006/25540号の第9~37頁に列挙された化合物、国際公開第2015/122414号の[0117]に列挙された化合物、国際公開第2015/122415号の[0143]に列挙された化合物が挙げられる。
【0067】
[遷移金属錯体(4)]
遷移金属錯体(4)は、下記式[A4]で表される化合物である。
【0068】
【化5】
【0069】
式[A4]中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15およびR16はそれぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であり、R1からR16までの置換基のうち、任意の2つの置換基は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0070】
1からR16における炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基およびケイ素含有基としては、前述した式[A3]におけるR1~R14として例示した、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基およびケイ素含有基等が挙げられる。
【0071】
1からR16までの置換基のうち、隣接した2つの置換基(例:R1とR2、R2とR3、R4とR6、R4とR7、R5とR6、R5とR7、R6とR8、R7とR8、R9とR10、R10とR11、R11とR12、R13とR14、R14とR15、R15とR16)が互いに結合して環を形成していてもよく、R4およびR5が互いに結合して環を形成していてもよく、R6およびR7が互いに結合して環を形成していてもよく、R1およびR8が互いに結合して環を形成していてもよく、R3およびR4が互いに結合して環を形成していてもよく、R3およびR5が互いに結合して環を形成していてもよい。これらの環は、分子中に2箇所以上存在してもよい。
【0072】
1およびR3は、水素原子であることが好ましい。
2は、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であることが好ましく、炭化水素基であることがさらに好ましく、炭素数1~20の炭化水素基であることがより好ましく、アリール基ではないことがさらに好ましく、直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基または環状飽和炭化水素基であることがとりわけ好ましく、遊離原子価を有する炭素(シクロペンタジエニル環に結合する炭素)が3級炭素である置換基であることが特に好ましい。
【0073】
2としては、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、tert-アミル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-アダマンチル基等が挙げられ、より好ましくはtert-ブチル基、tert-ペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-アダマンチル基等の遊離原子価を有する炭素が3級炭素である置換基であり、特に好ましくは1-アダマンチル基、tert-ブチル基である。
【0074】
4は、前記遷移金属錯体(4)を下記式[A4']で表した場合に、水素原子であることが好ましい形態の一つである。
【0075】
【化6】
【0076】
この場合、前記遷移金属錯体(4)は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、式[A4']で表される遷移金属錯体の全ての鏡像異性体、例えば式[A4'']で表される遷移金属錯体を包含する。
【0077】
【化7】
【0078】
式[A4']および[A4'']の表記において、MQj部分が紙面手前に、架橋部が紙面奥側に存在するものとする。すなわち、これらの遷移金属錯体では、シクロペンタジエン環のα位(架橋部位が置換した炭素原子を基準とする)に、中心金属側に向いた水素原子(R4)が存在する。
【0079】
一方、前述した式[A4]においては、MQj部分および架橋部が紙面手前に存在するのか、紙面奥側に存在するかは特定されていない。すなわち式[A4]で表される遷移金属化合物(4)は、特定の構造の遷移金属化合物とその鏡像異性体とを包含している。
【0080】
4、R5、R6およびR7から選ばれる少なくとも1つは、炭化水素基、ヘテロ原子含有炭化水素基またはケイ素含有基であることが好ましく、R4、R5が水素原子または炭化水素基であることがより好ましく、R5が直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基等のアルキル基、シクロアルキル基またはシクロアルケニル基であることがさらに好ましく、炭素数1~10のアルキル基であることがとりわけ好ましい。また、また、合成上の観点からは、R4、R5が共にアルキル基であることも好ましい形態の一つであり、炭素数1~10のアルキル基が特に好ましい。また同様に合成上の観点からは、R6およびR7は水素原子であることも好ましい。R5およびR7が互いに結合して環を形成していることがより好ましく、当該環がシクロヘキサン環等の6員環であることが特に好ましい。
【0081】
8は、炭化水素基であることが好ましく、メチル基等のアルキル基であることが特に好ましい。
式[A4]において、フルオレン環部分は公知のフルオレン誘導体から得られる構造であれば特に制限されない。R9、R12、R13およびR16は、好ましくは水素原子である。
【0082】
10、R11、R14およびR15は、好ましくは水素原子、炭化水素基、酸素原子含有炭化水素基または窒素原子含有炭化水素基であり、より好ましくは炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数1~20の炭化水素基であり、この場合、フルオレン環部分としては、例えば、2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル基、3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル基、2,7-ジフェニル-3,6-ジ-tert-ブチルフルオレニル基が挙げられ、特に好ましくは2,7-ジ-tert-ブチルフルオレニル基である。
【0083】
10とR11が互いに結合して環を形成し、かつR14とR15が互いに結合して環を形成していてもよい。このような置換フルオレニル基としては、例えば、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、オクタヒドロジベンゾフルオレニル基、1,1,4,4,7,7,10,10-オクタメチル-2,3,4,7,8,9,10,12-オクタヒドロ-1H-ジベンゾ[b,h]フルオレニル基、1,1,3,3,6,6,8,8-オクタメチル-2,3,6,7,8,10-ヘキサヒドロ-1H-ジシクロペンタ[b,h]フルオレニル基、1',1',3',6',8',8'-ヘキサメチル-1'H,8'H-ジシクロペンタ[b,h]フルオレニル基が挙げられ、特に好ましくは1,1,4,4,7,7,10,10-オクタメチル-2,3,4,7,8,9,10,12-オクタヒドロ-1H-ジベンゾ[b,h]フルオレニル基が挙げられる。
【0084】
式[A4]において、Mは、第4族遷移金属であり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、より好ましくはZrまたはHfであり、特に好ましくはZrである。
【0085】
Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子である。
Qにおけるハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子および孤立電子対で配位可能な中性配位子としては、前述した式[A3]におけるハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子および孤立電子対で配位可能な中性配位子として例示したもの等が挙げられる。
【0086】
jは1~4の整数であり、好ましくは2である。jが2以上の整数であるとき、Qは同一でもよく、異なっていてもよい。
【0087】
前記遷移金属錯体(4)の具体例としては、国際公開第2006/68308号の第11~15頁に列挙された化合物、国際公開第2014/50816号の[0075]-[0086]に列挙された化合物、特開2008-045008号公報の[0072]-[0084]に列挙された化合物が挙げられる。
【0088】
[遷移金属錯体(5)]
遷移金属錯体(5)は、特表2000-516228号公報に記載された、下記式[A5]に相当する金属錯体である。
【0089】
【化8】
【0090】
式中、
Mは、元素の周期律表の第3~13族の金属、ランタノイド系金属またはアクチノイド系金属であり、それは+2、+3または+4形式酸化状態にあり、そして5個の置換基、即ちRA、(RBj-T(但し、jは0、1または2である)、RC、RDおよびZ(但し、RA、RB、RCおよびRDはR基である)を有する環状の非局在化π-結合リガンド基である1個のシクロペンタジエニル(Cp)基にπ結合しており、さらに
Tは、jが1または2であるとき、Cp環そしてRBに共有結合しているヘテロ原子であり、さらにjが0のとき、Tは、F、Cl、BrまたはIであり;jが1のとき、Tは、O、S、NまたはPであり、そしてRBはTへの二重結合を有し;jが2のとき、Tは、NまたはPであり、
Bは、それぞれの場合独立して、水素であるか、またはヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリルヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ヒドロカルビルオキシである1~80個の非水素原子を有する基であり、各RBは任意にそれぞれの場合独立して1~20個の非水素原子を有するヒドロカルビルオキシ、ヒドロカルビルシロキシ、ヒドロカルビルシリルアミノ、ジ(ヒドロカルビルシリル)アミノ、ヒドロカルビルアミノ、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ジ(ヒドロカルビル)ホスフィノ、ヒドロカルビルスルフィド、ヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリルまたはヒドロカルビルシリルヒドロカルビルまたは1-20個の非水素原子を有する非干渉基である1個以上の基により置換されていてもよく;そして
A、RCおよびRDのそれぞれは、水素であるか、またはヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル、ヒドロカルビルシリルヒドロカルビルである1~80個の非水素原子を有する基であり、RA、RCおよびRDのそれぞれは、任意にそれぞれの場合独立して1~20個の非水素原子を有するヒドロカルビルオキシ、ヒドロカルビルシロキシ、ヒドロカルビルシリルアミノ、ジ(ヒドロカルビルシリル)アミノ、ヒドロカルビルアミノ、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ジ(ヒドロカルビル)ホスフィノ、ヒドロカルビルスルフィド、ヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリルまたはヒドロカルビルシリルヒドロカルビルであるか、または1~20個の非水素原子を有する非干渉基である1個以上の基により置換されていてもよく;または任意に、RA、RB、RCおよびRDの2個以上は、互いに共有結合してそれぞれのR基について1~80個の非水素原子を有する1個以上の縮合環または環系を形成し、1個以上の縮合環または環系は、置換されていないか、またはそれぞれの場合独立して1~20個の非水素原子を有するヒドロカルビルオキシ、ヒドロカルビルシロキシ、ヒドロカルビルシリルアミノ、ジ(ヒドロカルビルシリル)アミノ、ヒドロカルビルアミノ、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ジ(ヒドロカルビル)ホスフィノ、ヒドロカルビルスルフィド、ヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリルまたはヒドロカルビルシリルヒドロカルビル、または1~20個の非水素原子を有する非干渉基である1個以上の基により置換されており;
Zはσ結合を介してCpおよびMの両者に結合している2価の基であり、Zはホウ素、元素の周期律表の第14族の原子、窒素、リン、硫黄または酸素からなり;
Xは、環状の非局在化π結合リガンド基であるリガンドの群を除く、60個以内の原子を有するアニオン性またはジアニオン性リガンド基であり;
X'は、それぞれの場合独立して20個以内の原子を有する中性のルイス塩基配位結合性化合物残基であり;
pは0、1または2であり、そしてXがアニオン性リガンドであるときMの形式酸化状態より2少なく;Xがジアニオン性リガンドであるとき、pは1であり;
qは0、1または2である。
【0091】
前記遷移金属錯体(5)の具体例としては、特表2000-516228号公報の35~99頁に列挙された化合物が挙げられる。
【0092】
[遷移金属錯体(6)]
遷移金属錯体(6)は、特表2002-522551号公報に記載された、下記式[A6]に相当するアンサビス(μ-置換)周期律表4族金属およびアルミニウム化合物である。
【0093】
【化9】
【0094】
式中、
L'はπ-結合した基であり、
Mは周期律表第4族金属であり、
Jは窒素またはリンであり、
Zは2価の橋かけ結合基であり、
R'は不活性の1価のリガンドであり、
rは1または2であり、
Xはそれぞれの場合独立して、μ-橋かけ結合リガンド基を形成できるルイス塩基性リガンド基であり、所望により2個のX基は互いに結合していてもよく、そして
A'はそれぞれの場合独立して、水素を除いて50個以内の原子のアルミニウム含有ルイス酸化合物残基であり、該化合物はμ-橋かけ結合基により金属錯体との付加物を形成し、所望により2個のA'基は互いに結合して単一の2官能性ルイス酸含有化合物残基を形成してもよい。
【0095】
前記遷移金属錯体(6)の具体例としては、特表2002-522551号公報の[0025]~[0027]に列挙された化合物が挙げられる。
【0096】
[遷移金属錯体(7)]
遷移金属錯体(7)は、特表2003-501433号公報に記載された、下記式[A7-1]、[A7-2]または[A7-3]に相当する金属錯体である。
【0097】
【化10】
【0098】
式中、
Mは、元素の周期律表の第3~13族の金属、ランタノイド系金属またはアクチノイド系金属であり;
Zは、ホウ素、元素の周期律表の第14族の原子、窒素、リン、硫黄または酸素を有する2価の基であり;
Xは、60個以下の原子(水素を算入しない)を有するアニオン性リガンド基であり、所望により2個のX基は互いに結合して、2価のアニオン性リガンド基を形成していてもよく;
X'はそれぞれの場合独立に、20以下の原子を有する中性ルイス塩基リガンドであり;
pは0~5の数であって、Mの形式酸化状態より2少なく;
qは0、1または2であり;
Eはケイ素または炭素であり;
Aはそれぞれの場合独立に、水素またはRBであり;
Bは、BRC 2、ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ジ(ヒドロカルビル)アミノ置換ヒドロカルビル、BRC 2-置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリルヒドロカルビル、ジ(ヒドロカルビル)アミノ、ヒドロカルバジイルアミノ、またはヒドロカルビルオキシ基であり、各RBは水素以外の1~18個の原子を有し、所望により2個のRB基は共有結合して1以上の縮合環を形成していてもよく;
Cはそれぞれの場合独立に、ヒドロカルビル、ハロゲン置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシ置換ヒドロカルビル、ジヒドロカルビルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルバジイルアミノ置換ヒドロカルビル、ヒドロカルビルシリル、ヒドロカルビルシリルヒドロカルビル、またはRDであり;
Dはそれぞれの場合独立に、ジヒドロカルビルアミノまたはヒドロカルビルオキシ基であり、水素以外の1~20個の原子を有し、所望により単一のホウ素上の2個のRD基は互いに結合して、ホウ素に結合した両原子価を有する、ヒドロカルバジイルアミノ-、ヒドロカルバジイルオキシ-、ヒドロカルバジイルジアミノ-、またはヒドロカルバジイルオキシ-基を形成していてもよく;
但し、少なくとも1つのRAはBRC 2、BRC 2-置換ヒドロカルビル基、およびそれらが合体した誘導体から選ばれると共に、少なくとも1つのRCはRDであり;
Fはそれぞれの場合独立に、水素、シリル、ヒドロカルビル、ヒドロカルビルオキシおよびこれらの組合せから選ばれる基であって、該RFは30個以下の炭素またはケイ素原子を有しており;
xは1~8であるか、または、所望により(RF 2E)xが、-T'Z'-または-(T'Z')2-であり、ここでT'はそれぞれの場合独立に、ホウ素またはアルミニウムであり、そしてZ'はそれぞれの場合独立に、下記いずれかの基である。
【0099】
【化11】
(R1はそれぞれの場合独立に、水素、ヒドロカルビル基、トリヒドロカルビルシリル基、またはトリヒドロカルビルシリルヒドロカルビル基であり、該R1基は、20個以下の炭素原子以外の原子を有し、2個のこれらR1基は所望により互いに結合して環構造を形成していてもよく;R5はR1またはN(R12である。)
【0100】
前記遷移金属錯体(7)の具体例としては、特表2003-501433号公報の[0030]に列挙された化合物が挙げられる。
【0101】
[遷移金属錯体(8)]
遷移金属錯体(8)は、下記式[A8]で表される化合物である。
【0102】
【化12】
【0103】
式[A8]中、Mは周期表第4、5族の遷移金属原子を示し、好ましくは4族の遷移金属原子である。具体的には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルなどであり、より好ましくはチタン、ジルコニウム、ハフニウムであり、特に好ましくはチタンまたはジルコニウムである。
式[A8]においてNとMとを繋ぐ点線は、一般的にはNがMに配位していることを示すが、本発明においては配位していてもしていなくてもよい。
【0104】
式[A8]において、mは1~4の整数、好ましくは2~4の整数、さらに好ましくは2を示す。
【0105】
式[A8]において、R1~R5は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよい。
【0106】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
炭化水素基としては、前述した式[A3]におけるR1~R14として例示した炭化水素基等が挙げられ、特に、
メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などの炭素数1~30、好ましくは1~20の直鎖状または分岐状のアルキル基;
フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの炭素数6~30、好ましくは6~20のアリール基;
これらのアルキル基に炭素数6~30、好ましくは6~20のアリール基が置換したアリール基置換アルキル基;
これらのアリール基にハロゲン原子、炭素数1~30、好ましくは1~20のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数6~30、好ましくは6~20のアリール基もしくはアリーロキシ基などの置換基が1~5個置換した置換アリール基;
が好ましい。
【0107】
1としては、オレフィン重合触媒活性の観点および高分子量のオレフィン重合体を容易に得ることができる等の点から、炭素数1~20の直鎖状または分岐状の炭化水素基、炭素数3~20の脂環族炭化水素基、または炭素数6~20の芳香族炭化水素基が好ましい。
【0108】
ヘテロ環式化合物残基としては、例えば、ピロール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、トリアジンなどの含窒素化合物、フラン、ピランなどの含酸素化合物、チオフェンなどの含硫黄化合物等の残基、およびこれらのヘテロ環式化合物残基に、炭素数1~30、好ましくは1~20のアルキル基、アルコキシ基などの置換基がさらに置換した基などが挙げられる。
【0109】
酸素含有基としては、アルコシキ基、アリーロキシ基、エステル基、エーテル基、アシル基、カルボキシル基、カルボナート基、ヒドロキシ基、ペルオキシ基、カルボン酸無水物基などが挙げられる。
【0110】
窒素含有基としては、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、シアン酸エステル基、アミジノ基、ジアゾ基、アミノ基がアンモニウム塩となったものなどが挙げられる。
【0111】
ホウ素含有基としては、ボランジイル基、ボラントリイル基、ジボラニル基などが挙げられる。
【0112】
イオウ含有基としては、メルカプト基、チオエステル基、ジチオエステル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、チオアシル基、チオエーテル基、チオシアン酸エステル基、イソチアン酸エステル基、スルホンエステル基、スルホンアミド基、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、スルホ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルフェニル基などが挙げられる。
【0113】
リン含有基としては、ホスフィド基、ホスホリル基、チオホスホリル基、ホスファト基などが挙げられる。
【0114】
ケイ素含有基としては、シリル基、シロキシ基、炭化水素置換シリル基、炭化水素置換シロキシ基などが挙げられ、より具体的には、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、エチルシリル基、ジエチルシリル基、トリエチルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジメチル-tert-ブチルシリル基、ジメチル(ペンタフルオロフェニル)シリル基などが挙げられる。炭化水素置換シロキシ基としては、トリメチルシロキシ基などが挙げられる。
【0115】
ゲルマニウム含有基およびスズ含有基としては、前記ケイ素含有基のケイ素をゲルマニウムまたはスズに置換した基が挙げられる。
【0116】
式[A8]において、R6は、水素原子、1級または2級炭素のみからなる炭素数1~4の炭化水素基、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基、アリール基置換アルキル基、単環性または二環性の脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン原子から選ばれる。これらのうち、オレフィン重合触媒活性の観点、高分子量のオレフィン重合体を得ることができるという観点および重合時の水素耐性の観点から、炭素数4以上の脂肪族炭化水素基、アリール基置換アルキル基、単環性または二環性の脂環族炭化水素基および芳香族炭化水素基から選ばれる基であることが好ましく、より好ましくはtert-ブチル基などの分岐型炭化水素基;ベンジル基、1-メチル-1-フェニルエチル基(クミル基)、1-メチル-1,1-ジフェニルエチル基、1,1,1-トリフェニルメチル基(トリチル基)などのアリール置換アルキル基;1位に炭化水素基を有するシクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、テトラシクロドデシル基などの炭素数6~15の脂環族または複式環構造を有する脂環族炭化水素基が挙げられる。
【0117】
式[A8]において、nは、Mの価数を満たす数である。
【0118】
式[A8]において、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、またXで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
ハロゲン原子および炭化水素基等の各基としては、前記R1~R5の説明で例示したものと同様のものが挙げられる。これらのうち、好ましくはハロゲン原子や炭化水素基である。
【0119】
[遷移金属錯体(9)]
遷移金属錯体(9)は、下記式[A9]で表される化合物である。
【0120】
【化13】
【0121】
式[A9]中、Mは周期表第4~11族の遷移金属原子を示し、具体的にはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウムなどであり、好ましくは4~7、10族の金属原子であり、具体的にはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケルであり、より好ましくはチタン、ニッケルである。
【0122】
式[A9]においてNとMとを繋ぐ点線は、一般的にはNがMに配位していることを示すが、本発明においては配位していてもしていなくてもよい。
【0123】
式[A9]において、mは、1~4の整数を示し、好ましくは2である。
【0124】
式[A9]において、R1~R5は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、これらのうちの2個以上が互いに連結して環を形成していてもよい。
【0125】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基としては、前述した式[A8]におけるR1~R5として例示した基等が挙げられる。
【0126】
1の好ましい態様は、芳香性を示す基であり、さらに好ましくは下記式[A9-1]で表されるアリール基または置換基を有していてもよいピロール基である。
【0127】
【化14】
【0128】
式[A9-1]において、R1A~R1Eは互いに同一でも異なっていてもよく、また互いに結合して環を形成していてもよく、水素原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基またはスズ含有基である。炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、イオウ含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基としては、前述した式[A9]におけるR1~R5として例示した基等が挙げられる。
【0129】
式[A9]において、R6は、水素原子、1級または2級炭素のみからなる炭素数1~4の炭化水素基、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基、アリール基置換アルキル基、単環性または二環性の脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン原子から選ばれる。
【0130】
6としては、フェニル、ベンジル、ナフチル、アントラニルなどの炭素数6~30、好ましくは6~20のアリール基;
メチル、エチル、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、ネオペンチルなどの炭素数1~30、好ましくは1~20の直鎖状または分岐状(2級)のアルキル基;
シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2-メチルシクロヘキシル、2,6-ジメチルシクロヘキシル、3,5-ジメチルシクロヘキシル、4-tert-ブチルシクロヘキシル、シクロへプチル、シクロオクチル、シクロドデシルなどの炭素数3~30、好ましくは3~20の環状飽和炭化水素基;
が好ましく、R6としては、フェニル、ベンジル、ナフチルなどの芳香族基、およびこれらの水素原子が置換された3,5-ジフルオロフェニル、3,5-ビストリフルオロメチルフェニルなどが特に好ましい。
【0131】
式[A9]において、nは、Mの価数を満たす数であり、具体的には0~5、好ましくは1~4、より好ましくは2である。
【0132】
式[A9]において、Xは、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、またはスズ含有基を示し、nが2以上の場合は、Xで示される複数の基は互いに同一でも異なっていてもよく、また、Xで示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
ハロゲン原子および炭化水素基等の各基としては、前述した式[A8]におけるR1~R5の説明で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0133】
前記遷移金属錯体(9)の具体例としては、特開2011-231291号公報の[0079]~[0088]に列挙された化合物が挙げられる。
【0134】
前記遷移金属錯体は、前述した遷移金属錯体(1)~(9)に限られるものではなく、これら以外にも、例えば、特開2008-163140号公報の[0007]、国際公開第2010/50256号の[0030]~[0051]、特開2010-150246号の[0016]、国際公開第2013/184579号の[0133]、特表2013-534934号公報の[0006]、特表2009-534517号公報の[0001]、特表2001-516776号公報の[0009]~[0017]に記載された遷移金属錯体が挙げられる。
【0135】
〈有機アルミニウム化合物〉
前記有機アルミニウム化合物としては特に制限されないが、例えば、下記式で表される有機アルミニウム化合物が挙げられる。
工程1で用いる有機アルミニウム化合物は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0136】
a mAl(ORb)npq
(式中、RaおよびRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1から15、好ましくは1から4の炭化水素基を示し、
Xはハロゲン原子を示し、
mは0<m≦3、nは0≦n<3、pは0≦p<3、qは0≦q<3の数であり、かつm+n+p+q=3である。)
【0137】
このような化合物としては、例えば、
トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウムなどのトリ-n-アルキルアルミニウム;
トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-sec-ブチルアルミニウム、トリ-tert-ブチルアルミニウム、トリ-2-メチルブチルアルミニウム、トリ-3-メチルヘキシルアルミニウム、トリ-2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリ分岐状アルキルアルミニウム;
トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロオクチルアルミニウムなどのトリシクロアルキルアルミニウム;
トリフェニルアルミニウム、トリ(4-メチルフェニル)アルミニウムなどのトリアリールアルミニウム;
ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソプロピルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのジアルキルアルミニウムハイドライド;
ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド;
式Ra 2.5Al(ORb)0.5などで表される平均組成を有する部分的にアルコキシ化されたアルキルアルミニウム;
ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジエチルアルミニウム(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシド)などのアルキルアルミニウムアリーロキシド;
ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムクロリドなどのジアルキルアルミニウムハライド;
エチルアルミニウムジクロリドなどのアルキルアルミニウムジハライドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム;
エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドなどのアルキルアルミニウムジヒドリドおよびその他の部分的に水素化されたアルキルアルミニウム;
エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドなどの部分的にアルコキシ化およびハロゲン化されたアルキルアルミニウム;
が挙げられる。
【0138】
また、前記式Ra mAl(ORb)npqで表される化合物に類似する化合物も使用することができる。このような化合物としては、例えば、
式(i-C4H9)xAly(C5H10)z(式中、x、y、zは正の数であり、z≦2xである。)で表されるイソプレニルアルミニウムなどのアルケニルアルミニウム;
イソブチルアルミニウムメトキシド、イソブチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド;
エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドなどのアルキルアルミニウムセスキアルコキシド;
エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド;
窒素原子を介して2以上のアルミニウム化合物が結合した有機アルミニウム化合物(例:(C2H5)2AlN(C2H5)Al(C2H5)2);
が挙げられる。
【0139】
これらの中でも、調達の容易さ、安価という観点からは、トリ-n-アルキルアルミニウム、トリ分岐状アルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウム、トリアリールアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハイドライド、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムジハイドライド、アルキルアルミニウムジハライドが好ましく、トリ-n-アルキルアルミニウム、トリ分岐状アルキルアルミニウムがより好ましく、トリ分岐状アルキルアルミニウムがさらに好ましい。
【0140】
また、トリ分岐状アルキルアルミニウムの中でも、アルミニウム化合物の安定性、メタロセン化合物への低変質性という観点からは、トリイソブチルアルミニウムが特に好ましい。
【0141】
[アルミノキサン]
前記有機アルミニウム化合物としては、より高い活性を有する触媒スラリーを容易に得ることができ、また、該スラリーを長期間保存しても活性を維持できる等の点から、アルキルアルミニウムの部分加水分解物であるアルミノキサンであることが好ましい。
アルキルアルミニウムの部分加水分解物であるアルミノキサンは、そのユニット構造を用いて、[-Al(R)-O-]n(R=アルキル基)と簡便に表記できる。該nは、通常1~100であり、好ましくは1~50である。
該アルミノキサンは、通常、アルキルアルミニウムと水とを反応させることで得ることができる。
【0142】
前記アルミノキサンとしては、前記効果により優れる等の点から、修飾メチルアルミノキサン(MMAO)であることが好ましい。このMMAOは、[-Al(Me)-O-]n-[-Al(R)-O-]mと表すことができる。特に、遷移金属錯体として、イミン基を有する遷移金属錯体を用いる場合、MMAOを用いることが好ましい。
【0143】
MMAOは、前記アルキルアルミニウムとして、トリメチルアルミニウム(TMAL)と、1種または2種以上のTMAL以外のアルキルアルミニウム(AAL)とを用いて合成することができる。
なお、TMALとAALとの使用割合は、適宜選択することができる。また、前記反応に用いる各成分の添加の順番は特に制限されず、例えば、AALと水とを反応させた後、TMALを加えて反応させてもよい。
【0144】
AALにおけるアルキル基としては特に制限されず、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基が挙げられる。これらの中でも、イソブチル基が好ましい。
AALは、モノアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウムのうち、いずれも使用可能であるが、好ましくはトリアルキルアルミニウムである。
つまり、前記MMAOは、トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとを用いて得られる修飾メチルアルミノキサンであることが好ましい。
【0145】
前記アルキルアルミニウムと水との反応に使用する水としては特に制限されず、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物等に含まれる結晶水や反応系中に水が生成しうる成分も利用することができる。
【0146】
前記アルキルアルミニウムと水との反応は、通常、不活性炭化水素(溶媒)中で行われる。
該不活性炭化水素としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられ、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が好ましい。
該不活性炭化水素は、2種以上を用いてもよい。
【0147】
前記アルキルアルミニウムと水との反応における水の使用量は、前記アルキルアルミニウム中のAl 1モルに対し、好ましくは0.25~1.2モル、より好ましくは0.5~1モルである。
該反応の反応温度は、通常-70~100℃、好ましくは-20~20℃であり、反応時間は、通常5分~24時間、好まくは10分~5時間の範囲である。
【0148】
アルミノキサンとしては、前述の方法で合成して得たものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。また、アルミノキサンとしては、合成後に得られた溶液や溶液状の市販品をそのまま、または、希釈して用いてもよい。
前記市販品としては、例えば、東ソーファインケム(株)製のトリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムを用いて得られたMMAO-3Aグレードが挙げられる。
【0149】
〈溶媒〉
前記溶媒としては、前記遷移金属錯体をスラリー化できる溶媒が好ましく、有機アルミニウム化合物を溶解できる溶媒がより好ましい。
工程1で用いる溶媒は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0150】
溶媒の具体例としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンジクロリド、クロロベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素、さらには各種のミネラルオイル、グリースが挙げられる。これらの中でも、スラリーを容易に得ることができる等の点から、脂肪族炭化水素が好ましい。
【0151】
より高い活性を有する触媒スラリーを容易に得ることができ、また、該スラリーを長期間保存しても活性を維持できる等の点から、工程1に用いる溶媒として、予め溶媒に活性アルミナ等を接触させて溶媒中の不純物の一部または全部を除去しておくことが好ましい。
【0152】
〈各成分の接触〉
工程1において、各成分を接触させる操作は、各成分を容器に任意の順序で添加することにより行うことができ、たとえば容器に、遷移金属錯体および溶媒を添加し、次いで有機アルミニウム化合物を添加し、必要に応じてさらに溶媒を添加することにより、行うことができる。各成分は、複数回に分けて添加してもよい。
容器内は、各成分を添加する前に、窒素等の不活性ガスで置換しておくことが好ましい。
また、工程1は、必要により、加熱下や冷却下で行ってもよい。
【0153】
工程1における有機アルミニウム化合物および遷移金属錯体の使用割合は、有機アルミニウム化合物におけるアルミニウム原子のモル(MAl)と、遷移金属錯体の中心金属のモル(MM)との比率(MAl/MM)が、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上、とりわけ好ましくは1.0以上、特に好ましくは1.5以上であり、好ましくは20.0以下、より好ましくは15.0以下、さらに好ましくは10.0以下、とりわけ好ましくは8.0以下、特に好ましくは7.0以下となる量である。
Al/MMが前記範囲にあると、より高い活性を有する触媒スラリーを容易に得ることができ、また、該スラリーを長期間保存しても活性を維持できる。
Al/MMが前記範囲の下限を下回ると、得られる触媒スラリーの重合系への供給性が低下する場合があり、前記範囲の上限を上回ると、得られる触媒スラリーの触媒活性が低下する場合がある。
【0154】
工程1で得られる触媒スラリー中の遷移金属錯体の濃度は、該遷移金属錯体中の遷移金属原子の濃度が、通常1×10-10~1×10-1mol/L、好ましくは1×10-8~1×10-2mol/Lとなる濃度である。
【0155】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた触媒スラリーを用いてオレフィンを重合する工程であれば特に制限されない。
なお、この工程2は、工程1で得られた触媒スラリーを用いてオレフィンの本重合を行うということを意味し、工程1で得られた触媒スラリーを用いて予備重合した後、オレフィンの本重合を行うことを含まない。
本明細書において「重合」という語は、単独重合だけでなく、共重合をも包含した意味で用いられることがあり、「重合体」という語は、単独重合体だけでなく、共重合体をも包含した意味で用いられることがある。
工程2で用いる触媒スラリーとしては、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0156】
工程2で用いる、工程1で得られた触媒スラリーは、該触媒スラリーにおける遷移金属錯体の量が、反応容積1リットル当り、通常10-10~10-2mol、好ましくは10-8~10-3molとなるような量で用いられる。
【0157】
工程2は、反応器内に、工程1で得られた触媒スラリーと、さらなる有機アルミニウム化合物(以下「追加の有機アルミニウム化合物」ともいう。)とを添加した溶液の存在下でオレフィンを重合する工程であることが好ましい。この際、さらに溶媒(以下「追加の溶媒」ともいう。)を添加してもよい。また、重合を開始するに先立って反応器内を窒素などの不活性ガスで置換することが望ましい。
このように、工程1で得られた触媒スラリーに加えて、追加の有機アルミニウム化合物を添加することにより、換言すると、有機アルミニウム化合物の添加を工程1および工程2の2段階で行うことにより、より高い触媒活性でオレフィン重合体を製造することができる。
【0158】
前記追加の有機アルミニウム化合物としては、前記工程1の欄で挙げた有機アルミニウム化合物と同様の化合物等が挙げられる。該追加の有機アルミニウム化合物は、工程1で用いた有機アルミニウム化合物と異なっていてもよいが、好ましくは同様の有機アルミニウム化合物である。
【0159】
工程2における、有機アルミニウム化合物(工程1で得られた触媒スラリー中の有機アルミニウム化合物と、必要により用いられる追加の有機アルミニウム化合物との合計)の濃度は、アルミニウム原子換算で、好ましくは0.005mmol/L以上、より好ましくは0.01mmol/L以上であり、例えば、1,000mmol/L以下である。
【0160】
また、工程2は、さらに、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、工程1で得られた触媒スラリー以外の遷移金属錯体(以下「追加の遷移金属錯体」ともいう。)、錯アルキル化物(B-1b)、ジアルキル化合物(B-1c)、有機アルミニウムオキシ化合物(B-2)、遷移金属錯体および/または追加の遷移金属錯体と反応してイオン対を形成する化合物(B-3)、有機化合物成分(C)等のその他の添加剤を用いてもよい。
これらその他の添加剤は、それぞれ1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
なお、これらその他の添加剤の具体例としては、例えば、特開2018-165308号公報に記載の各成分が挙げられる。
【0161】
前記追加の有機アルミニウム、追加の溶媒、および/または、その他の添加剤を用いる場合、これらや、工程1で得られた触媒スラリーを用いる順番は特に制限されず、一度に重合系に添加してもよく、任意の順番で重合器に添加してもよい。
【0162】
工程2において、重合に供されるオレフィンの例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、ビニルシクロヘキサンなどの炭素数3~20の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが挙げられる。
これらのα-オレフィンは1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。従って、例えば、エチレンを単独で用いてもよく、エチレンおよびプロピレンを用いてもよい。
特に本方法は、連続運転が可能であることから、汎用性があり需要の高いエチレン単独重合体、エチレン系共重合体、プロピレン単独重合体およびプロピレン系共重合体の製造に好ましく採用できる。
【0163】
工程2では、極性基含有モノマー、芳香族ビニル化合物、および、環状オレフィンから選択される少なくとも1種の他のモノマーを反応系に共存させて重合を行ってもよい。従って、例えば、エチレンおよびプロピレンと共に環状オレフィンである5-エチリデン-2-ノルボルネンを用いて重合を行ってもよい。
これらの他のモノマーの使用量は、α-オレフィン100質量部に対して、例えば、20質量部以下、好ましくは10質量部以下である。
【0164】
前記極性基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸類、およびこれらのナトリウム塩などの金属塩類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピルなどのα,β-不飽和カルボン酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;(メタ)アクリル酸グリシジルなどの不飽和グリシジル類;塩化ビニル、テトラフルオロエチレン、ビニルエーテル、アクリロニトリルなどのビニル型モノマー類;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン類;1,4-ヘキサジエンなどの非共役ポリエン類;アセチレン、メチルアセチレンなどのアセチレン類;ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類;が挙げられる。
【0165】
前記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、メトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルベンジルアセテート、ヒドロキシスチレン、p-クロロスチレン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、アリルベンゼンが挙げられる。
【0166】
前記環状オレフィンとしては、例えば、シクロペンテン、シクロヘプテン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセンなどの炭素数3~30、好ましくは3~20の環状オレフィン類が挙げられる。
【0167】
前記重合は特に制限されず、溶液重合、懸濁重合等の液相重合法等が挙げられるが、本発明の効果がより発揮される等の点から、溶液重合が好ましい。
該液相重合は、不活性炭化水素媒体を用いて行うことができる。該不活性炭化水素媒体としては、例えば、工程1の欄で挙げた溶媒と同様の化合物が挙げられる。この不活性炭化水素媒体は、工程1で得られた触媒スラリーそのままであってもよく、工程1で得られた触媒スラリーに新たな不活性炭化水素媒体(追加の溶媒)を加えたものでもよい。このように新たに加える不活性炭化水素媒体は、工程1で使用した溶媒と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0168】
重合条件は、オレフィンの種類および共重合割合などによって適宜選択すればよい。
工程2における重合温度は、通常、-50~+200℃、好ましくは0~180℃であり、重合圧力は、通常、常圧~10MPaゲージ圧、好ましくは常圧~5MPaゲージ圧である。
重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに重合を反応条件の異なる二段以上に分けて行うこともできる。
また、得られるオレフィン重合体の分子量を、従来公知の方法、例えば、重合系に水素等を存在させる、重合温度を変化させる、等の方法により調節してもよい。
【実施例
【0169】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれらの実施例になんら制約されない。
【0170】
下記試験例において使用した試薬は以下の通りである。
・トルエンは、GlassContour社製の有機溶媒精製装置を用いて精製して使用した。
・キシレンは、活性アルミナにより不純物を除去して使用した。
・n-ヘプタンは活性アルミナにより不純物を除去して使用した。
・MMAOとしては、10wt%修飾メチルアルミノキサン/ヘキサン溶液であるMMAO-3A(東ソーファインケム(株)製)を、スラリー触媒調製用には0.10mol/Lに、重合用には1.0mol/Lに希釈して用いた。
・遷移金属錯体(1)は、国際公開第2012/098865号の[合成例1]に従って合成した化合物(B-1)を用いた。なお、遷移金属錯体(1)は、下記式で表される。
【0171】
【化15】
【0172】
[予備実験1]
充分に窒素置換した内容積100mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)69.5mgとn-ヘプタン100mLとを25℃で装入し、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒を調製した。
【0173】
得られたスラリー触媒に溶解しているジルコニウム含有量は、(株)島津製作所製のICP発光分光分析装置(ICPS-8100型)を用いて測定した。
具体的には、得られたスラリー触媒を、硫酸および硝酸にて湿式分解した後、定容(必要に応じてろ過および希釈を含む)したものを検液とし、濃度既知の標準試料を用いて作成した検量線から定量を行った。
スラリー触媒に溶解しているZr濃度を測定したところ、0.035mmol/Lであった。
【0174】
[予備実験2]
充分に窒素置換した内容積100mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)69.7mgとn-ヘプタン98mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し2モルの割合で加え(これは、(MAl/MM)=2に相当する)、全量を100mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒を調製した。
予備実験1と同様に、得られたスラリー触媒に溶解しているZr濃度を測定したところ、0.043mmol/Lであった。
【0175】
[予備実験3]
充分に窒素置換した内容積100mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)69.4mgとn-ヘプタン97mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し3モルの割合で加え、全量を100mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒を調製した。
予備実験1と同様に、得られたスラリー触媒に溶解しているZr濃度を測定したところ、0.046mmol/Lであった。
【0176】
[予備実験4]
充分に窒素置換した内容積100mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)69.5mgとn-ヘプタン95mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し5モルの割合で加え、全量を100mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒を調製した。
予備実験1と同様に、得られたスラリー触媒に溶解しているZr濃度を測定したところ、0.050mmol/Lであった。
【0177】
[予備実験5]
充分に窒素置換した内容積100mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)69.9mgとn-ヘプタン90mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し10モルの割合で加え、全量を100mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒を調製した。
予備実験1と同様に、得られたスラリー触媒に溶解しているZr濃度を測定したところ、0.053mmol/Lであった。
【0178】
[実施例1]
〔2当量のMMAO-3Aと接触させたスラリー触媒の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)7.1mgとn-ヘプタン10.0mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し2モルの割合で加え、全量を10.2mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒(A-1)を調製した。
【0179】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
充分に窒素置換した内容積0.5Lのガラス製反応器に、キシレン250mLを装入した後、100℃に昇温した。そこに、エチレン100L/hrを連続的に供給し、液相および気相を飽和させた。引き続きエチレンを連続的に供給した状態で、MMAO-3Aのヘキサン溶液(1.0mol/L)0.25mL(0.25mmol)、および、スラリー触媒(A-1)0.20mLを攪拌しながらピペットを用いて反応器に加え、常圧下、100℃で5分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。
得られた重合反応液を1mLの塩酸を含む1Lのメタノール中に加え、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄後、100℃にて10時間減圧乾燥し、ポリエチレン4.66gを得た。結果を表1に示す。
なお、ガラス製2口フラスコの内壁や、反応器装入時に使用したピペット内壁に、付着物はほとんど見られなかった。
【0180】
[参考例1]
〔遷移金属錯体(1)のトルエン溶液の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)6.6mgとトルエン9.50mLとを25℃で装入し、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるトルエン溶液(B-0)を調製した。
【0181】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
充分に窒素置換した内容積0.5Lのガラス製反応器に、キシレン250mLを装入した後、100℃に昇温した。そこに、エチレン100L/hrを連続的に供給し、液相および気相を飽和させた。引き続きエチレンを連続的に供給した状態で、MMAO-3Aのヘキサン溶液(1.0mol/L)0.25mL(0.25mmol)およびトルエン溶液(B-0)0.20mL(この溶液は、遷移金属錯体(1)を0.0002mmol含む。)をピペットを用いて加え、常圧下、100℃で5分間重合を行った。重合の停止は少量のイソブタノールを添加することにより行った。
得られた重合反応液を1mLの塩酸を含む1Lのメタノール中に加え、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄後、100℃にて10時間減圧乾燥し、ポリエチレン5.10gを得た。結果を表1に示す。
【0182】
[比較例1]
〔MMAO-3Aを含まないスラリー触媒の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)7.2mgとn-ヘプタン10.35mLとを25℃で装入し、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒(A-0)を調製した。
【0183】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
スラリー触媒(A-1)を、スラリー触媒(A-0)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンを得た。得られたポリエチレンは2.94gであった。結果を表1に示す。
なお、ガラス製2口フラスコの内壁や、反応器装入時に使用したピペット内壁に、付着物が認められた。これは、遷移金属錯体(1)の粉末が付着したことによると考えられる。
【0184】
[比較例2]
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
比較例1において、スラリー触媒(A-0)を反応器に加えた後、0.20mLのn-ヘプタンでピペットを共洗いした後、得られた液を反応器に加え、この操作を3回繰り返したこと以外は比較例1と同様にして、ポリエチレンを得た。得られたポリエチレンは2.99gであった。結果を表1に示す。
なお、反応器装入時に使用したピペット内壁には付着物が認められたままであった。
【0185】
[実施例2]
〔3当量のMMAO-3Aと接触させたスラリー触媒の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)7.1mgとn-ヘプタン9.9mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し3モルの割合で加え、全量を10.2mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒(A-2)を調製した。
【0186】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
スラリー触媒(A-1)を、スラリー触媒(A-2)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンを得た。得られたポリエチレンは4.71gであった。結果を表1に示す。
なお、ガラス製2口フラスコの内壁や、反応器装入時に使用したピペット内壁に、付着物はほとんど見られなかった。
【0187】
[実施例3]
〔5当量のMMAO-3Aと接触させたスラリー触媒の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)7.3mgとn-ヘプタン10.0mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し5モルの割合で加え、全量を10.5mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒(A-3)を調製した。
【0188】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
スラリー触媒(A-1)を、スラリー触媒(A-3)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンを得た。得られたポリエチレンは4.80gであった。結果を表1に示す。
なお、ガラス製2口フラスコの内壁や、反応器装入時に使用したピペット内壁に、付着物はほとんど見られなかった。
【0189】
[実施例4]
〔10当量のMMAO-3Aと接触させたスラリー触媒の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)7.3mgとn-ヘプタン9.5mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し10モルの割合で加え、全量を10.5mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lであるスラリー触媒(A-4)を調製した。
【0190】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
スラリー触媒(A-1)を、スラリー触媒(A-4)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンを得た。得られたポリエチレンは4.29gであった。結果を表1に示す。
なお、ガラス製2口フラスコの内壁や、反応器装入時に使用したピペット内壁に、付着物はほとんど見られなかった。
【0191】
[参考例2]
〔2当量のMMAO-3Aと接触させたトルエン溶液の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)7.3mgとトルエン10.3mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し2モルの割合で加え、全量を10.5mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lである溶液(B-1)を調製した。
【0192】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
トルエン溶液(B-0)を、トルエン溶液(B-1)に変更した以外は参考例1と同様にして、ポリエチレンを得た。得られたポリエチレンは5.18gであった。結果を表1に示す。
【0193】
[参考例3]
〔3当量のMMAO-3Aと接触させたトルエン溶液の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)7.1mgとトルエン9.9mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し3モルの割合で加え、全量を10.2mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lである溶液(B-2)を調製した。
【0194】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
トルエン溶液(B-0)を、トルエン溶液(B-2)に変更した以外は参考例1と同様にして、ポリエチレンを得た。得られたポリエチレンは4.94gであった。結果を表1に示す。
【0195】
[参考例4]
〔5当量のMMAO-3Aと接触させたトルエン溶液の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)7.5mgとトルエン10.3mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し5モルの割合で加え、全量を10.8mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lである溶液(B-3)を調製した。
【0196】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
トルエン溶液(B-0)を、トルエン溶液(B-3)に変更した以外は参考例1と同様にして、ポリエチレンを得た。得られたポリエチレンは5.01gであった。結果を表1に示す。
【0197】
[参考例5]
〔10当量のMMAO-3Aと接触させたトルエン溶液の調製〕
充分に窒素置換した内容積20mLのガラス製2口フラスコに、遷移金属錯体(1)7.1mgとトルエン9.2mLとを25℃で装入し、次いでMMAO-3Aを、1モルの遷移金属錯体(1)に対し10モルの割合で加え、全量を10.2mLとし、遷移金属錯体(1)の濃度が1.0mmol/Lである溶液(B-4)を調製した。
【0198】
〔重合工程(ポリエチレンの製造)〕
トルエン溶液(B-0)を、トルエン溶液(B-4)に変更した以外は参考例1と同様にして、ポリエチレンを得た。得られたポリエチレンは4.34gであった。結果を表1に示す。
【0199】
【表1】
【0200】
<参考例1と比較例1、2の対比>
本来合成されるべき重合体量を示す、遷移金属錯体溶液を用いた参考例1に対し、有機アルミニウム化合物を添加していない遷移金属錯体のスラリーを用いた比較例1では、その58%の量の重合体しか合成できなかった。
この一因として、遷移金属錯体の粉末が、ガラス製2口フラスコの内壁や、反応器装入時に使用したピペット内壁に付着しており、参考例1と同量の遷移金属錯体を反応器に装入できていないことが考えられる。
従って、フラスコやピペットに付着した遷移金属錯体を反応器に洗い流し入れることができれば、比較例1の場合でも、参考例1程度の重合体収量が得られる可能性はあるが、比較例2のように、通常の洗浄では、ピペットに付着した錯体を全て反応器に洗い流し入れることができなかった。大量の溶媒を使用することで、洗浄することは可能かもしれないが、この場合には、洗浄工程が加わるため工程数が多くなること、この洗浄に際し、大量の有機溶媒が必要となるため、大量の廃液が発生すること、さらには、洗浄工程や乾燥工程に長時間を要すること等の点で、工業的生産性の観点からは問題となる。
【0201】
<実施例1~4と予備実験1~5との対比>
予備実験1~5から、遷移金属錯体を2~10当量の有機アルミニウム化合物と接触させることで、遷移金属錯体(1)のn-ヘプタンに対する溶解量は僅かに増加していることがわかる。しかし、実施例1~4のスラリー触媒の濃度に比べると、その溶解量の増加は極僅かである。従って、実施例1~4の重合体収量が、比較例1に対し改善したのは、遷移金属錯体の有機アルミニウム化合物との接触による溶解度向上には由来しないと考えられる。
【0202】
<実施例1~4、比較例1、および、参考例1の対比>
遷移金属錯体を2~10当量の有機アルミニウム化合物と接触させたスラリー触媒を用いた実施例1~4では、参考例1で得られる重合体量とほぼ同程度の量の重合体を得ることができており、有機アルミニウム化合物を添加していない遷移金属錯体のスラリーを用いた比較例1に比べ、重合体の収量は大きく改善していることが分かる。
この一因として、ガラス製2口フラスコの内壁や、反応器装入時に使用したピペット内壁に、付着物がほとんど見られず、ほぼ規定量の遷移金属錯体を反応器に装入できていることが考えられる。
【0203】
なお、実施例4は、参考例5と同等の重合体収量であり、参考例1に比べると重合体収量が低い傾向を示している。これは、有機アルミニウム化合物の使用量が過剰傾向であることにより遷移金属錯体が被毒され、活性が低下したことにより重合体収量がやや低下したものと考えられる。
【0204】
<実施例1~4と参考例2~5の対比>
遷移金属錯体を2~5当量の有機アルミニウム化合物と接触させた遷移金属錯体溶液を用いた参考例2~4は、有機アルミニウム化合物を添加していない参考例1と同等の重合体収量であることから、有機アルミニウム化合物の接触により、遷移金属錯体の活性は向上しない。また、遷移金属錯体を10当量の有機アルミニウム化合物と接触させた遷移金属錯体溶液を用いた参考例5は、参考例1よりも重合体収量が低い傾向が認められる。従って、実施例1~4の重合体収量が比較例1より改善している理由は、有機アルミニウム化合物が存在していることによる活性向上とは推定し難い一方で、実施例1~4では、使用した器具への遷移金属錯体の付着の抑制が見られていることから、有機アルミニウム化合物を用いることによる、遷移金属錯体の器具への付着が抑制されたことによると考えられる。