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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】耐火被覆構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
E04B1/94 D
E04B1/94 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019075888
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020172808
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-016030(JP,A)
【文献】特開2006-002534(JP,A)
【文献】登録実用新案第3171133(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形鋼の長手方向の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、
異種の耐火被覆材は、形鋼の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火被覆材と、第一の領域に隣接する形鋼の表面の第二の領域に設けられて端部が発泡性の耐火被覆材の表面に重ね合された非発泡性の耐火被覆材とからなり、この非発泡性の耐火被覆材の端部側は、発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を許容可能に構成されており、
形鋼がH形鋼であり、非発泡性の耐火被覆材は布状であり、非発泡性の耐火被覆材の端部は、形鋼のウェブとフランジに沿ってU字状に配置された第一材と、第一材のU字状の凹部においてウェブに向かって見た場合に、第一の領域および第二の領域に向けてそれぞれU字状に開口して背向配置された一対の第二材と、第一材、第二材およびフランジを外側から被覆する第三材とを含んで構成されることを特徴とする耐火被覆構造。
【請求項2】
発泡性の耐火被覆材の端部側には、発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を許容するための切り込みが入れられていることを特徴とする請求項1に記載の耐火被覆構造。
【請求項3】
発泡性の耐火被覆材が耐火塗料であり、非発泡性の耐火被覆材がロックウールであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐火被覆構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の柱や梁の表面を異種の耐火被覆材で被覆した耐火被覆構造に関し、特に、表面の一方側を耐火塗料で被覆し、所定の重ね代を介して他方側を耐熱ロックウールで被覆した耐火被覆構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材からなる建物の柱や梁には、耐火性能を向上させる目的で耐火被覆が施されている。耐火被覆の外観の美しさを確保するために、人目に触れない部位にロックウール被覆等を形成し、人目に触れる部分に発泡性の耐火塗料を塗布することがある。ロックウール被覆等と耐火塗料との境目において十分な耐火被覆が形成できなければ、建物の耐火性能が低下してしまう。こうした問題を解決するための技術として、例えば特許文献1の構造が知られている。
【0003】
特許文献1の構造では、鋼材の表面を、発泡性の耐火塗料からなるA領域と、ロックウール等の非発泡性の耐火材からなるB領域とに境界部を介して分け、この境界部の近傍における耐火塗料の厚みを局所的に厚くしている。こうすることで、耐火塗料が加熱されて発泡したときに、境界部付近での耐火塗料の厚みが薄くなってしまうことを防ぎ、境目の耐火性能を確保するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-002535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、H形鋼からなる鉄骨梁の長手方向の一方側をロックウールで耐火被覆し、他方側を耐火塗料で耐火被覆する構造に対して、上記の従来の特許文献1の技術を適用すると、耐火塗料の塗装作業が煩雑となり、施工コストを押し上げるおそれがある。このため、簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保することのできる構造が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保することのできる耐火被覆構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る耐火被覆構造は、形鋼の長手方向の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、異種の耐火被覆材は、形鋼の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火被覆材と、第一の領域に隣接する形鋼の表面の第二の領域に設けられて端部が発泡性の耐火被覆材の表面に重ね合された非発泡性の耐火被覆材とからなり、この非発泡性の耐火被覆材の端部側は、発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を許容可能に構成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造は、上述した発明において、発泡性の耐火被覆材が耐火塗料であり、非発泡性の耐火被覆材がロックウールであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造は、上述した発明において、形鋼がH形鋼であり、非発泡性の耐火被覆材は布状であり、非発泡性の耐火被覆材の端部は、形鋼のウェブとフランジに沿ってU字状に配置された第一材と、第一材のU字状の凹部においてウェブに向かって見た場合に、第一の領域および第二の領域に向けてそれぞれU字状に開口して背向配置された一対の第二材と、第一材、第二材およびフランジを外側から被覆する第三材とを含んで構成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造は、上述した発明において、発泡性の耐火被覆材の端部側には、発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を許容するための切り込みが入れられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る耐火被覆構造によれば、形鋼の長手方向の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、異種の耐火被覆材は、形鋼の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火被覆材と、第一の領域に隣接する形鋼の表面の第二の領域に設けられて端部が発泡性の耐火被覆材の表面に重ね合された非発泡性の耐火被覆材とからなり、この非発泡性の耐火被覆材の端部側は、発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を許容可能に構成されているので、簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、発泡性の耐火被覆材が耐火塗料であり、非発泡性の耐火被覆材がロックウールであるので、簡易に施工でき、かつ、耐火塗料とロックウールの境界部の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、形鋼がH形鋼であり、非発泡性の耐火被覆材は布状であり、非発泡性の耐火被覆材の端部は、形鋼のウェブとフランジに沿ってU字状に配置された第一材と、第一材のU字状の凹部においてウェブに向かって見た場合に、第一の領域および第二の領域に向けてそれぞれU字状に開口して背向配置された一対の第二材と、第一材、第二材およびフランジを外側から被覆する第三材とを含んで構成されるので、H形鋼を耐火被覆する異種耐火被覆材の境界部を簡易に施工できるとともに、その耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、発泡性の耐火被覆材の端部側には、発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を許容するための切り込みが入れられているので、加熱時の発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を確実にし、その耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す概略図であり、(1)は側面図、(2)はA-A線に沿った断面図である。
図2図2は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す概略図であり、(1)は側面図、(2)はB-B線に沿った断面図である。
図3図3は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す部分分解図であり、(1)は側面図、(2)はA-A線に沿った断面図である。
図4図4は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す部分分解図であり、(1)は側面図、(2)はB-B線に沿った断面図である。
図5図5は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す部分分解図であり、(1)は側面図、(2)はA-A線に沿った断面図である。
図6図6は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す部分分解図であり、(1)は側面図、(2)はB-B線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態では、プレコート部材で架構を構築する際に、接合部や継手部を異種材料で耐火被覆することを想定している。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
図1および図2に示すように、本発明の実施の形態に係る耐火被覆構造10は、H形鋼(形鋼)からなる梁12の長手方向の異なる領域S1(第一の領域)、領域S2(第二の領域)をそれぞれ被覆する耐火塗料14と、耐熱ロックウール16(異種の耐火被覆材)を備える。梁12は、ウェブ18と上フランジ20、下フランジ22を有し、上フランジ20の上面には、床スラブ24が設けられる。
【0018】
耐火塗料14は、加熱により発泡して増厚する発泡性のものであり、ウェブ18と下フランジ22の表面全体と、上フランジ20の小口および下面に塗装等により設けられる。耐熱ロックウール16は、布状に加工された非発泡性のものであり、ピース1(第一材)と、一対のピース2(第二材)と、ピース3(第三材)により構成される。ピース1、ピース2、ピース3は同じ厚さt2で構成されている。図3に示すように、耐火塗料14と耐熱ロックウール16の境界部26においては、耐熱ロックウール16の端部16Aが、耐火塗料14の端部14Aの上に重ね代W1を介して重ね合されている。耐火塗料14の厚さt1は、耐熱ロックウール16の厚さt2に比べて非常に小さく設定されている。
【0019】
ピース1は、図3および図4に示すように、矩形のものをU字状に折り曲げた布状物であり、ウェブ18と上下フランジ20、22で区画形成された凹部28に設けられる。このピース1はウェブ18と上下フランジ20、22に沿って梁12の断面視でU字状に配置され、表面がウェブ18と上下フランジ20、22に密接するとともに、領域S1、S2の境界の折り曲げ部付近が溶接ピン30で梁12に固定されている。溶接ピン30の打込み角度は、図4に示すように、梁12の断面視で斜め45度方向、水平方向、鉛直方向のいずれでも可能である。
【0020】
図3(1)等に示すように、ピース1の領域S1(耐火塗料14)に対する重ね代W1は、例えば150~200mm程度、ピース1の領域S2(梁12)に対する重ね代W2は、例えば150mm程度以上とすることができる。図3(2)等に示すように、ピース1の上下フランジ20、22側の端部は、上下フランジ20、22の小口部からDだけ外側に突出している。突出長Dは、例えば5~20mm程度とすることができる。
【0021】
ピース1の折り曲げ部の端部側には、加熱発泡時の耐火塗料14の面外方向への変形を許容するための切り込み32が入れられている。具体的には、切り込み32は、上フランジ20とウェブ18の隅部に対応する位置と、下フランジ22とウェブ18の隅部に対応する位置に入れられている。この切り込み32の角度は、図3に示すように、梁12の断面視で斜め45度方向、水平方向、鉛直方向のいずれでも可能である。ピース1の端部からの切り込み32の長さL1は、例えば100mm以上、かつ(重ね代W1-50mm)以下とすることが好ましい。
【0022】
ピース2は、図5および図6に示すように、矩形のものをU字状に折り曲げた一対の布状物であり、ピース1の凹部34において領域S1、S2の境界で背向配置される。領域S1側に位置するピース2のU字状の凹部36Aは領域S1側に向けて開口しており、領域S2側に位置するピース2のU字状の凹部36Bは領域S2側に向けて開口している。図5(2)等に示すように、ピース2の縁部2Aは、ピース1の端部と面一となっている。ピース2の折り曲げ部は、ピース1を貫通する溶接ビン38で領域S2のウェブ18に固定されている。領域S1側のピース2の折り曲げられた端部側の長さK1は、溶接ピン38を溶接できる長さ以上、かつ、ピース2の厚さの2.0倍以下であることが好ましい。また、領域S2側のピース2の折り曲げられた端部側の長さK2は、溶接ピン38を溶接できる長さ以上であることが好ましい。
【0023】
ピース3は、図1および図2に示すように、ピース1、2および下フランジ22を外側から被覆する布状物である。ピース3は、ピース1の領域S2に対する重ね代W2よりも長く配置されている。ピース3の端部3Aは、床スラブ24に沿って外側に折り曲げられている。この端部3Aの折り返し長さK3は、ピース3の厚さt2の1.0倍以上、かつ1.5倍以下が好ましい。ピース3は領域S1、S2の境界付近において溶接ピン40で上下フランジ20、22に固定される。
【0024】
ピース3の端部側には、下フランジ22の小口部に沿って、加熱発泡時の耐火塗料14の面外方向への変形を許容するための切り込み42が入れられている。この切り込み42の角度は、図1に示すように、梁12の断面視で斜め45度方向、水平方向、鉛直方向のいずれでも可能である。ピース3の端部からの切り込み42の長さL2は、例えば100mm以上、かつ(重ね代W1-50mm)以下とすることが好ましい。また、この切り込み42には、不織布などの仕上げ材を接着剤で貼り付けて切り込み42を隠すことが好ましい。不織布は、平常時に耐熱ロックウールの垂れ下がりを防ぐとともに見栄えを良くし、火災時に燃焼してなくなるものである。
【0025】
本実施の形態の耐火被覆構造10によれば、境界部26における発泡性の耐火塗料14の厚さを局所的に厚くすることなく、境界部26のみならず全体の耐火性能を確保することができる。したがって、本実施の形態は、上記の従来の構造に比べて簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部26の耐火性能を確保することができる。また、境界部26の見栄えをよくすることができる。本実施の形態は、プレコート部材で架構を構築する際に、接合部や継手部を異種材料で耐火被覆する場合に境界部の耐火性能を確保するのに特に有効である。
【0026】
また、上記の実施の形態では、H形鋼を耐火塗料と耐熱ロックウールで耐火被覆する場合を例にとり説明したが、本発明はH形鋼に限るものではなく、例えば、溝形鋼や山形鋼などを耐火塗料と耐熱ロックウールで耐火被覆する場合にも適用可能である。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0027】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果を検証するために行った実験および結果について説明する。
【0028】
本実験は、本発明に係る耐火被覆構造において、載荷時の異種耐火被覆材の取合い部の耐火性能(2時間耐火性能)を調べたものである。試験体は、耐火塗料と耐熱ロックウールで被覆された鉄骨梁(H形鋼)で構成し、耐火塗料主材厚さ4.8mm、耐熱ロックウールの厚さ25mmとした。また、ピース1と耐火塗料塗装部との重ね代W1を150mm、ピース1と耐火塗料非塗装部との重ね代W2を150mm、ピース1、ピース3に対する切り込みの長さL1、L2を100mmとした。
【0029】
H形鋼は、H-400×200×12×22mm、SN490Bを用いた。耐火塗料は、関西ペイント(株)社製のものを用いた。下塗は、商品名:エスコNBマイルドK(エスコは登録商標)(JIS K 5551:弱溶剤変性エポキシ系樹脂塗料)を用い、膜厚(ドライ)は60μm(目標値)とした。主材は、商品名:耐火テクト(登録商標)(ポリエーテル系樹脂塗料)を用い、膜厚(ドライ)は4800μm(実膜厚測定)とした。中塗は、商品名:耐火テクトE(JIS K 5659:エポキシ系樹脂塗料)を用い、膜厚(ドライ)は30μm(目標値)とした。上塗は、商品名:耐火テクトF(JIS K 5659:フッ素系樹脂塗料)を用い、膜厚(ドライ)は25μm(目標値)とした。耐熱ロックウールは、ニチアス(株)社製の高耐熱ロックウール(商品名:マキベエ(登録商標)、厚さ25mm、高密度タイプ、密度100kg/m以上)を使用した。
【0030】
境界部の耐熱ロックウールは、その厚さが25mmであり、ピース1(第一材)、ピース2(第二材)、ピース3(第三材)で構成した。ピース1は、軸方向断面コの字形のものであり、コの字形の展開長さ520mm×軸方向幅300mm×厚さ25mmである。ピース2は、ウェブ面正対断面コの字形であり、コの字形の展開長さ360mm×幅100mm×厚さ25mmである。ピース3は、梁断面に対して上部に折り返しがあるU字形のものであり、長さ(梁断面周方向)1150mm×幅(軸方向)915mm×厚さ25mmである。
【0031】
梁の上側には、厚さ100mm、幅600mのALC版をスタッドボルトで取り付けて床を模擬した。試験体に対する荷重は3等分2線載荷とし、梁に長期許容曲げモーメント(鉄骨の縁応力度が長期許容引張応力度となる曲げモーメント)を作用させた状態で加熱を行った。加熱は、熱電対によって測定した温度の時間経過がISO834-1の標準加熱温度曲線に沿うように加熱した。加熱時間は120分とし、加熱終了後、鋼材温度が降下過程に入り変位が安定するまで載荷を続けた状態で放冷した。
【0032】
炉内温度・試験体温度・試験体変位・荷重を測定し、梁のたわみ量またはたわみ速度が規定値(最大たわみ量182.25mm、最大たわみ速度8.10mm/min)を超えた場合に、試験体が荷重を支持できなくなったと判定する試験を行った。この試験の結果、加熱前後を通じて、梁のたわみ量またはたわみ速度が規定値を超えることはなかった。これにより、試験体が所定の耐火性能(2時間耐火性能)を有することを確認できた。切り込みがある耐熱ロックウールの端部側は、耐火塗料の膨張力によって拡がることが確認された。また、この異種被覆材の材軸方向の継手部は、耐火塗料の発泡の拘束を緩和し、鋼材の温度上昇を抑制できることが確認された。
【0033】
なお、上記の試験体におけるピース1~3の寸法については適宜調整可能である。例えば、ピース1については、コの字形の上下端部が上フランジ小口面および下フランジ小口面よりも外側に5~20mm程度突出する長さとしてもよい。ピース1の展開長さの目安としては、[展開長さ]=[{(梁成)-(フランジ厚さ)×2-ピース1の厚さ}+{(フランジ幅)-(ウェブ厚さ)-(ピース1の厚さ)}+20mm]以上、かつ+20mm以下に設定してもよい。また、ピース1の軸方向の幅(ウェブ面に正対した時の長さ)については、300mm以上としてもよい。ただし、耐火塗料塗布面側の重ね代は150mm以上、かつ+100mm以下が好ましい。重ね代側端部からの下フランジ部の耐熱ロックウールの切り込み長さは100mm以上、(重ね代長さ-50mm)以下が好ましい。
【0034】
耐火塗料塗装側のピース2については、コの字形の上下端部の折り返しの外法長さが、溶接ピンを溶接できる長さ以上、かつピース2の厚さの2倍以下であることが好ましい。展開長さの目安としては、[展開長さ]=[(梁成)-(フランジ厚さ)×2-(ピース1の厚さ)×2+(ピース2の厚さ)×2]以上、かつ+20mm以下に設定してもよい。また、上フランジ小口面および下フランジ小口面よりも外側に5~20mm程度突出する長さとしてもよい。幅の目安は、[幅]=[{(フランジ幅)-(ウェブ厚さ)}/2-(ピース1の厚さ)}+30mm]以上、かつ+20mm以下としてもよい。
【0035】
耐火塗料非塗装側のピース2については、コの字形の上下端部の折り返しの外法長さが、溶接ピンを溶接できる長さ以上であることが好ましい。展開長さの目安としては、[展開長さ]=[(梁成)-(フランジ厚さ)×2-(ピース1の厚さ)×2+(ピース2の厚さ)×2]以上が好ましい。また、上フランジ小口面および下フランジ小口面よりも外側に5~20mm程度突出する長さとしてもよい。幅の目安は、[幅]=[{(フランジ幅)-(ウェブ厚さ)}/2-(ピース1の厚さ)}+30mm]以上、かつ+20mm以下としてもよい。
【0036】
ピース3については、上フランジ位置の折り返し内法長さがピース3の厚さの1.0倍以上、かつ1.5倍以下が好ましい。展開長さの目安は、[長さ(梁断面周方向)]=[(梁成)×2+(梁幅)+ピース3の厚さ×4]以上、+100mm以下としてもよい。耐火塗料に対する軸方向の重ね代については、耐火塗料塗布面側の重ね代は150mm以上、かつ+100mm以下としてもよい。重ね代側端部からの下フランジ部耐熱ロックウールの切り込み長さは100mm以上、(重ね代長さ-50mm)以下が好ましい。
【0037】
以上説明したように、本発明に係る耐火被覆構造によれば、形鋼の長手方向の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、異種の耐火被覆材は、形鋼の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火被覆材と、第一の領域に隣接する形鋼の表面の第二の領域に設けられて端部が発泡性の耐火被覆材の表面に重ね合された非発泡性の耐火被覆材とからなり、この非発泡性の耐火被覆材の端部側は、発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を許容可能に構成されているので、簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保することができる。
【0038】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、発泡性の耐火被覆材が耐火塗料であり、非発泡性の耐火被覆材がロックウールであるので、簡易に施工でき、かつ、耐火塗料とロックウールの境界部の耐火性能を確保することができる。
【0039】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、形鋼がH形鋼であり、非発泡性の耐火被覆材は布状であり、非発泡性の耐火被覆材の端部は、形鋼のウェブとフランジに沿ってU字状に配置された第一材と、第一材のU字状の凹部においてウェブに向かって見た場合に、第一の領域および第二の領域に向けてそれぞれU字状に開口して背向配置された一対の第二材と、第一材、第二材およびフランジを外側から被覆する第三材とを含んで構成されるので、H形鋼を耐火被覆する異種耐火被覆材の境界部を簡易に施工できるとともに、その耐火性能を確保することができる。
【0040】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、発泡性の耐火被覆材の端部側には、発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を許容するための切り込みが入れられているので、加熱時の発泡性の耐火被覆材の面外方向への変形を確実にし、その耐火性能を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る耐火被覆構造は、例えば、形鋼の長手方向に異なる領域を被覆する耐火塗料と耐熱ロックウールなどの異種耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保するのに有用であり、特に、簡易に施工するのに適している。
【符号の説明】
【0042】
1 ピース(第一材)
2 ピース(第二材)
3 ピース(第三材)
2A 縁部
3A 端部
10 耐火被覆構造
12 梁(形鋼)
14 耐火塗料
16 耐熱ロックウール
14A,16A 端部
18 ウェブ
20 上フランジ
22 下フランジ
24 床スラブ
26 境界部
28,34,36A,36B 凹部
30,38,40 溶接ピン
32,42 切り込み
t1,t2 厚さ
W1,W2 重ね代
S1 領域(第一の領域)
S2 領域(第二の領域)
図1
図2
図3
図4
図5
図6