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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】せん断耐力の算出方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/20 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
E02D5/20 103
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019076460
(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公開番号】P2020172823
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】金本 清臣
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-088533(JP,A)
【文献】特公昭48-001893(JP,B1)
【文献】特開昭48-079409(JP,A)
【文献】特開2017-179734(JP,A)
【文献】特開昭53-036915(JP,A)
【文献】特開平10-237860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に隣接して構築されるコンクリート製の第1エレメントと第2エレメントとの間の継手部がせん断破壊する際のせん断耐力の算出方法において、
前記第1エレメントには、前記第2エレメント側の端面に、前記第1エレメントと前記第2エレメントが隣接する壁長さ方向に突出し、壁長さ方向に直交する水平方向となる壁厚さ方向に延びる第1凸条部と、前記壁長さ方向に凹み、前記壁厚さ方向に延びる第1凹条部と、が交互に配列され、
前記第2エレメントには、前記第1エレメント側の端面に、前記壁長さ方向に突出し、前記壁厚さ方向に延びる第2凸条部と、前記壁長さ方向に凹み、前記壁厚さ方向に延びる第2凹条部と、が交互に配列され、
前記継手部では、前記第1凸条部と前記第2凹条部とが嵌合し、前記第1凹条部と前記第2凸条部とが嵌合し、
前記第1凹条部の角部および前記第2凹条部の角部に生じたひび割れが進展して前記継手部がせん断破壊する際のせん断耐力を下記の式(1)、(2)を満たすように算出することを特長とするせん断耐力の算出方法。

wPs=σt・B・(2L) (1)
L=(W/3-hs)/sinα (2)

ただし、
wPs:前記第1エレメントおよび前記第2エレメントがせん断破壊する際のせん断耐力(N)
σt:前記第1エレメントの割裂強度(σt=0.38√Fc1、Fc1:前記第1エレメントのコンクリート設計基準強度)、および前記第2エレメントのコンクリートの割裂強度(σt=0.38√Fc2、Fc2:前記第2エレメントのコンクリート設計基準強度)のうち、小さい方の強度、すなわち、σt=min(σt、σt)(N/mm
B:前記第1凹条部、前記第1凸条部、前記第2凹条部および前記第2凸条部それぞれの前記壁厚さ方向の長さ寸法(mm)
L:前記第1エレメントと前記第2エレメントとのコンクリート打継ぎ面に沿って片側のエレメントがせん断破壊する際に生じるひび割れの長さ寸法(mm)
W:前記第1エレメントおよび前記第2エレメントの壁高さ方向の長さ寸法(mm)
hs:前記第1凹条部、前記第1凸条部、前記第2凹条部および前記第2凸条部それぞれの深さ寸法(mm)
α:前記第1エレメントと前記第2エレメントとのコンクリート打継ぎ面に沿って、前記第1凹条部および前記第2凹条部の角部から片側のエレメントに生じるひび割れと前記壁高さ方向の垂線とのなす角度(ラジアン)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断耐力の算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RC造の地中連続壁の施工方法として、地中に間隔をあけて先行して先行エレメントを設け、これらの先行エレメントの間に後行エレメントを設けて地中連続壁を構築する方法がある。先行エレメントと後行エレメントとの連結は、互いに荷重(面内せん断力)を伝達可能となるように一体に連結する場合(例えば、特許文献1-3参照)と、互いに接触させるが互いに荷重の伝達をしない状態に連結する場合とがある。
【0003】
先行エレメントと後行エレメントとの間で面内せん断力を伝達できるように両エレメントを互いに連結する場合に、先行エレメントと後行エレメントとの継手部を以下のようにすることが考えられる。
先行エレメントおよび後行エレメントの互いに連結される端面それぞれに水平方向に延びる凸条部および凹条部を上下方向に交互に形成し、先行エレメントの凹条部と後行エレメントの凸条部とを嵌合させ、先行エレメントの凸条部と後行エレメントの凹条部とを嵌合させ、継手部にシアキーを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3982327号公報
【文献】特開2010-242318号公報
【文献】特開2017-179734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、先行エレメントと後行エレメントとの間で伝達される面内せん断力が大きいと、先行エレメントおよび後行エレメントの凹条部の角部にひび割れが生じ、このひび割れが先行エレメントと後行エレメントとのコンクリート打継ぎ面に沿って両エレメント側に進展して先行エレメントと後行エレメントと間の継手部がせん断破壊することが考えられる。このため、地中連続壁の設計に際しては、先行エレメントと後行エレメントとがせん断破壊する際のせん断耐力を事前に把握する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、第1エレメント(先行エレメント)と第2エレメント(後行エレメント)とがせん断破壊する際のせん断耐力の算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るせん断耐力の算出方法は、地盤に隣接して構築されるコンクリート製の第1エレメントと第2エレメントとの間の継手部がせん断破壊する際のせん断耐力の算出方法において、前記第1エレメントには、前記第2エレメント側の端面に、前記第1エレメントと前記第2エレメントが隣接する壁長さ方向に突出し、壁長さ方向に直交する水平方向となる壁厚さ方向に延びる第1凸条部と、前記壁長さ方向に凹み、前記壁厚さ方向に延びる第1凹条部と、が交互に配列され、前記第2エレメントには、前記第1エレメント側の端面に、前記壁長さ方向に突出し、前記壁厚さ方向に延びる第2凸条部と、前記壁長さ方向に凹み、前記壁厚さ方向に延びる第2凹条部と、が交互に配列され、前記継手部では、前記第1凸条部と前記第2凹条部とが嵌合し、前記第1凹条部と前記第2凸条部とが嵌合し、前記第1凹条部の角部および前記第2凹条部の角部に生じたひび割れが進展して前記継手部がせん断破壊する際のせん断耐力を下記の式(1)、(2)を満たすように算出することを特長とする。

wPs=σt・B・(2L) (1)
L=(W/3-hs)/sinα (2)

ただし、
wPs:前記第1エレメントおよび前記第2エレメントがせん断破壊する際のせん断耐力(N)
σt:前記第1エレメントの割裂強度(σt=0.38√Fc1、Fc1:前記第1エレメントのコンクリート設計基準強度)、および前記第2エレメントのコンクリートの割裂強度(σt=0.38√Fc2、Fc2:前記第2エレメントのコンクリート設計基準強度)のうち、小さい方の強度、すなわち、σt=min(σt、σt)(N/mm
B:前記第1凹条部、前記第1凸条部、前記第2凹条部および前記第2凸条部それぞれの前記壁厚さ方向の長さ寸法(mm)
L:前記第1エレメントと前記第2エレメントとのコンクリート打継ぎ面に沿って片側のエレメントがせん断破壊する際に生じるひび割れの長さ寸法(mm)
W:前記第1エレメントおよび前記第2エレメントの壁高さ方向の長さ寸法(mm)
hs:前記第1凹条部、前記第1凸条部、前記第2凹条部および前記第2凸条部それぞれの深さ寸法(mm)
α:前記第1エレメントと前記第2エレメントとのコンクリート打継ぎ面に沿って、前記第1凹条部および前記第2凹条部の角部から片側のエレメントに生じるひび割れと前記壁高さ方向の垂線とのなす角度(ラジアン)
【0008】
本発明では、上記の式(1)、(2)を満たすようにすることで、第1エレメントと第2エレメントとの間の継手部がせん断破壊する際のせん断耐力を算出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1エレメントと第2エレメントとがせん断破壊する際のせん断耐力を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態による地中連続壁の一例を示す図で、図2のA-A線断面に対応する水平断面図である。
図2図1のB-B線断面に対応する地中連続壁の鉛直断面図である。
図3】(a)は試験体No.1の正面図、(b)は試験体No.1の側面図、(c)は試験体No.1の上面図である。
図4】(a)は試験体No.2の正面図、(b)は試験体No.2の側面図、(c)は試験体No.2の上面図である。
図5】(a)は試験体No.3の正面図、(b)は試験体No.3の側面図、(c)は試験体No.3の上面図である。
図6】(a)は試験体No.4の正面図、(b)は試験体No.4の側面図、(c)は試験体No.4の上面図である。
図7】試験装置を示す図である。
図8】加力サイクルを示す図である。
図9】コンクリートの強度試験結果を示す表である。
図10】(a)は試験体No.1の水平変形と水平荷重との関係を示すグラフ、(b)は試験体No.2の水平変形と水平荷重との関係を示すグラフである。
図11】(a)は試験体No.3の水平変形と水平荷重との関係を示すグラフ、(b)は試験体No.4の水平変形と水平荷重との関係を示すグラフである。
図12】(a)は試験体No.1の第1RC壁板部および第2RC壁板部のスリップ破壊(せん断破壊)面を示す図、(b)は試験体No.2の第1RC壁板部および第2RC壁板部のスリップ破壊(せん断破壊)面を示す図、(c)は試験体No.3の第1RC壁板部および第2RC壁板部のスリップ破壊(せん断破壊)面を示す図、(d)は試験体No.4の第1RC壁板部および第2RC壁板部のスリップ破壊(せん断破壊)面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態によるせん断耐力の算出方法について、図1乃至図12に基づいて説明する。
図1(平面図)および図2(断面図)に示すように、本実施形態による地中連続壁1は、複数の壁状のエレメント2,3が継手部4を介して連結されている。地中連続壁1の壁面に直交する水平方向を壁厚さ方向とし、壁面に沿った方向で壁厚さ方向に直交する水平方向を壁長さ方向とし、壁厚さ方向および壁長さ方向に直交する方向を上下方向とする。
地中連続壁1を構成する複数のエレメント2,3は、先行して施工される先行エレメント(第1エレメント)2と、先行エレメント2の後に施工される後行エレメント(第2エレメント)3とから構成され、先行エレメント2と後行エレメント3とが継手部4を介して壁長さ方向に配列されている。
先行エレメント2および後行エレメント3は、いずれも地盤11(図1参照)を掘削して構築されている。
先行エレメント2を構築するために地盤11を掘削して形成した空間を先行掘削部12(図1参照)とし、後行エレメント3を構築するために地盤11を掘削して形成した空間を後行掘削部13(図1参照)とする。先行掘削部12と後行掘削部13とは、壁長さ方向に隣接している。
【0012】
先行エレメント2および後行エレメント3は、それぞれコンクリート21,31に縦筋22,32および横筋23,33が埋設されたRC造の壁体となっている。先行エレメント2と後行エレメント3とは、壁厚さ方向および上下方向の寸法が同じ寸法に設定され、それぞれの壁芯を一致させるように配列されている。先行エレメント2と後行エレメント3とは、それぞれの壁長さ方向の端部を、継手部4を介して突き合わせるように配置されている。
以下では、先行エレメント2と後行エレメント3との連結部分および継手部4の説明において、壁長さ方向のうち先行エレメント2に対して後行エレメント3が配置されている側を前側とし、後行エレメント3に対して先行エレメント2が配置されている側を後側とし、壁長さ方向を前後方向と表記することがある。
【0013】
継手部4は、波形鋼板41と、波形鋼板41の壁厚さ方向の一方側の端部に取り付けられた第1側部材42と、波形鋼板41の壁厚さ方向の他方側の端部に取り付けられた第2側部材43と、を有している。
【0014】
図2に示すように、波形鋼板41は、両面に鋼板凸条部411と鋼板凹条部412とが交互に配列され、断面形状が波形となるように加工されている。波形鋼板41は、板面が壁長さ方向を向き、鋼板凸条部411および鋼板凹条部412が壁厚さ方向に延びて壁長さ方向(前側および後側)に突出したり凹んだりする向きに配置されている。
鋼板凸条部411および鋼板凹条部412には、これらが延びる方向(壁厚さ方向)全体にわたって角部413が形成されている。本実施形態では、1つの鋼板凸条部411および1つの鋼板凹条部412には、それぞれ2つの角部413が形成されている。
【0015】
波形鋼板41における一方の面において鋼板凸条部411が形成されている部分は、他方の面においては鋼板凹条部412が形成され、一方の面において鋼板凹条部412が形成されている部分は、他方の面においては鋼板凸条部411が形成されている。
波形鋼板41は、先行エレメント2および後行エレメント3の上下方向の長さ寸法と同じ長さ寸法に設定されている。波形鋼板41の壁厚さ方向の寸法は、先行エレメント2および後行エレメント3の壁厚さ方向の寸法よりも小さく設定されている。
【0016】
図1に示すように、第1側部材42と、第2側部材43とは、壁長さ材軸方向に対して線対称となるように設けられている。
第1側部材42および第2側部材43は、断面形状がL字形の長尺の型材で、上下方向に延びる向きに配置されている。第1側部材42および第2側部材43は、波形鋼板41の上下方向の長さ寸法と同じ長さ寸法に設定されている。
第1側部材42および第2側部材43の断面形状のL字形を構成する直交して接続される2つの片を前板部421,431および側板部422,432とする。
【0017】
第1側部材42は、前板部421の板面が壁長さ方向を向く鉛直面となり、側板部422が前板部421の壁厚さ方向の他方側の端部(波形鋼板41側の端部)から後側に突出する向きに配置される。
第2側部材43は、前板部431の板面が壁長さ方向を向く鉛直面となり、側板部432が前板部431の壁厚さ方向の一方側の端部(波形鋼板41側の端部)から後側に突出する向きに配置される。
【0018】
第1側部材42および第2側部材43それぞれの前板部421,431は、前面が波形鋼板41の前端部41aと同じ位置、または波形鋼板41の前端部41aよりもやや前側(例えば1~2mm前側)に配置されている。
第1側部材42および第2側部材43それぞれの側板部422,432は、波形鋼板41側の面が波形鋼板41の側部と当接し、波形鋼板41に接合されている。
側板部422,432は、波形鋼板41の前後方向(壁長さ方向)の寸法よりも長く形成され、後端部が波形鋼板41の後端部よりも後側に配置されている。
波形鋼板41の鋼板凹条部412の壁厚さ方向の両端部は、第1側部材42および第2側部材43によって塞がれている。
第1側部材42および第2側部材43は、前板部421,431の前面が先行掘削部12の側面122と当接または近接するように配置されている。
【0019】
継手部4は、波形鋼板41、第1側部材42および第2側部材43の前板部421,431の後側に先行エレメント2のコンクリート21が打設され、波形鋼板41、第1側部材42および第2側部材43の前板部421,431の前側に後行エレメント3のコンクリート31が打設されている。第1側部材42および第2側部材43の側板部422,432は、先行エレメント2のコンクリート21に埋設されている。
【0020】
先行エレメント2のコンクリート21は、波形鋼板41の鋼板凹条部412にも充填され、波形鋼板41、第1側部材42および第2側部材43の前板部421,431それぞれの後面と定着している。先行エレメント2のコンクリート21の部分には、波形鋼板41の鋼板凸条部411および鋼板凹条部412に対応する先行エレメント2のコンクリート凹条部24(第1凹条部)および先行エレメント2のコンクリート凸条部25(第1凸条部)がそれぞれ複数形成されている。
1つの先行エレメント2のコンクリート凹条部24および1つの先行エレメント2のコンクリート凸条部25には、それぞれ1つの鋼板凸条部411および1つの鋼板凹条部412の2つの角部413に対応する2つの角部26が形成されている。
【0021】
後行エレメント3のコンクリート31は、波形鋼板41の鋼板凹条部412にも充填され、波形鋼板41、第1側部材42および第2側部材43の前板部421,431それぞれの前面と定着している。後行エレメント3のコンクリート31の部分には、波形鋼板41の鋼板凸条部411および鋼板凹条部412に対応する後行エレメント3のコンクリート凹条部34(第2凹条部)および後行エレメント3のコンクリート凸条部35(第2凸条部)がそれぞれ複数形成されている。
1つの後行エレメント3のコンクリート凹条部34および1つの後行エレメント3のコンクリート凸条部35には、それぞれ1つの鋼板凸条部411および1つの鋼板凹条部412の2つの角部413に対応する2つの角部36が形成されている。
【0022】
先行エレメント2のコンクリート凹条部24と後行エレメント3のコンクリート凸条部35とは、波形鋼板41を介して噛み合った形状となり、先行エレメント2のコンクリート凸条部25と後行エレメント3のコンクリート凹条部34とは、波形鋼板41を介して噛み合った形状となり、先行エレメント2と後行エレメント3との接合部分にシアキーが形成される。このため、先行エレメント2と後行エレメント3とは、互いに面内せん断力を伝達可能に構成されている。
【0023】
続いて、地中連続壁1における先行エレメント2と後行エレメント3がせん断破壊する際のせん断耐力の算出方法について説明する。
上記の地中連続壁は、先行エレメント2のコンクリート凹条部24と後行エレメント3のコンクリート凸条部35とが波形鋼板41を介して噛み合い、先行エレメント2のコンクリート凸条部25と後行エレメント3のコンクリート凹条部34とが波形鋼板41を介して噛み合っている。以下の地中連続壁では、上記の地中連続壁1と同様に、先行エレメントにコンクリート凹条部24およびコンクリート凸条部25が形成され、後行エレメントにコンクリート凹条部34およびコンクリート凸条部35が形成されているが、先行エレメントと後行エレメントとが波形鋼板41を介さずに直接当接して噛み合った形状であるものとする。
【0024】
地中連続壁の設計においては、先行エレメントのコンクリート凹条部の角部および後行エレメントのコンクリート凹条部の角部から片側のエレメントに生じたひび割れが進展して先行エレメントおよび後行エレメントがせん断破壊する際のせん断耐力を下記の式(1)、(2)を満たすように設定する。
下記の式における壁高さ方向とは、上記の地中連続壁1(図1および図2参照)における上下方向に相当している。
【0025】
wPs=σt・B・(2L) (1)
L=(W/3-hs)/sinα (2)

ただし、
wPs:先行エレメントおよび後行エレメントがせん断破壊する際のせん断耐力(N)
σt:先行エレメントの割裂強度(σt=0.38√Fc1、Fc1:先行エレメントのコンクリート設計基準強度)および後行エレメントのコンクリートの割裂強度(σt=0.38√Fc2、Fc2:後行エレメントのコンクリート設計基準強度)のうち、小さい方の強度、すなわち、σt=min(σt、σt)(N/mm
B:先行エレメントのコンクリート凹条部、先行エレメントのコンクリート凸条部、後行エレメントのコンクリート凹条部および後行エレメントのコンクリート凸条部それぞれの壁厚さ方向の長さ寸法(mm)
L:先行エレメントと後行エレメントとのコンクリート打継ぎ面に沿って片側のエレメントがせん断破壊する際に生じるひび割れの長さ寸法(mm)
W:先行エレメントおよび後行エレメントの壁高さ方向の長さ寸法(mm)
hs:先行エレメントのコンクリート凹条部、先行エレメントのコンクリート凸条部、後行エレメントのコンクリート凹条部および後行エレメントのコンクリート凸条部それぞれの深さ寸法(mm)
α:先行エレメントと後行エレメントとのコンクリート打継ぎ面に沿って、先行エレメントのコンクリート凹条部の角部、および後行エレメントのコンクリート凹条部の角部から片側のエレメントに生じるひび割れと壁高さ方向の垂線とのなす角度(ラジアン)
【0026】
上記の式(1)、(2)の妥当性について、地中連続壁の面内せん断耐力試験を行い確認した。以下では、地中連続壁の面内せん断耐力試験について説明する。
(試験体)
図3に示す試験体No.1、図4に示す試験体No.2、図5に示す試験体No.3、図6に示す試験体No.4は、継手部周りを模擬したものである。各試験体は、先行エレメントに相当する第1RC壁板部51と、後行エレメントに相当する第2RC壁板部61と、第1RC壁板部51に連結され、第1RC壁板部51を試験装置に固定する第1固定部52と、第2RC壁板部61に連結され、第2RC壁板部61を試験装置に固定する第2固定部62と、を有している。
第1RC壁板部51には、先行エレメントのコンクリート凹条部およびコンクリート凸条部に相当するコンクリート凹条部53およびコンクリート凸条部54が複数形成され、第2RC壁板部61には、後行エレメントのコンクリート凹条部およびコンクリート凸条部に相当するコンクリート凹条部63およびコンクリート凸条部64が複数形成されている。
【0027】
同一の試験体では、第1RC壁板部51のコンクリート凹条部53と、第2RC壁板部61のコンクリート凹条部63とは、同じ形状で、第1RC壁板部51のコンクリート凸条部54と、第2RC壁板部61のコンクリート凸条部64とは、同じ形状となっている。
第1RC壁板部51のコンクリート凹条部53と、第2RC壁板部61のコンクリート凸条部64とが互いに嵌合し、第1RC壁板部51のコンクリート凸条部54と、第2RC壁板部61のコンクリート凹条部63とが互いに嵌合し、第1RC壁板部51と第2RC壁板部61との間にシアキー55が形成されている。
【0028】
試験体No.1-No.4では、第1RC壁板部51および第2RC壁板部61のコンクリート凹条部53,63およびコンクリート凸条部54,64が延びる方向、およびコンクリート凹条部53,63とコンクリート凸条部54,64とが交互に配列されている方向がいずれも水平方向となる向きに配置され、上記の地中連続壁1(図1および図2参照)とは異なる向きとなっている。試験体No.1-No.4のコンクリートは、実際の施工と同様、継手部が垂直となる方向に縦打ちとした。
試験体No.1-No.4は、それぞれ異なるシアキー55を有し、これらのシアキー55は、先行エレメントと後行エレメントとの間の垂直打継部に設ける異なる4つのシアキーの形状に対応させている。
【0029】
同一の試験体では、コンクリート凹条部53,63それぞれの深さ寸法、およびコンクリート凸条部54,64それぞれの高さ寸法が同じ値となっている。コンクリート凹条部53,63それぞれの深さ寸法、およびコンクリート凸条部54,64それぞれの高さ寸法をコンクリート凹条部の深さ寸法hsと示す。
同一の試験体では、複数のコンクリート凹条部53,63およびコンクリート凸条部54,64それぞれの配列間隔が同じ値となっている。複数のコンクリート凹条部53,63およびコンクリート凸条部54,64それぞれの配列間隔をコンクリート凹条部の配列間隔wsと示す。
同一の試験体では、複数のコンクリート凹条部53,63それぞれの角部531,631の角度が同じ角度となっている。第1RC壁板部51と第2RC壁板部61との対向方向に直交する面と角部531,631を形成する傾斜面とがなす角度をコンクリート凹条部の傾斜角度α1とする。このコンクリート凹条部の傾斜角度α1と、上記の式における角度αとは、同じ値となるように想定されている。
【0030】
試験体No.1-No.4は、コンクリート凹条部の深さ寸法hs(mm)、コンクリート凹条部の配列間隔ws(mm)、コンクリート凹条部の傾斜角度α1(°)それぞれが互いに異なる値となっている。
試験体No.1は、コンクリート凹条部の深さ寸法hsが100mm、コンクリート凹条部の配列間隔wsが200mm、コンクリート凹条部の傾斜角度α1が45°で、1つのコンクリート凹条部53,63に角部531,631が1つ設けられている。
試験体No.2は、コンクリート凹条部の深さ寸法hsが200mm、コンクリート凹条部の配列間隔wsが400mm、コンクリート凹条部の傾斜角度α1が45°で、1つのコンクリート凹条部53,63に角部531,631が1つ設けられている。
試験体No.3は、コンクリート凹条部の深さ寸法hsが100mm、コンクリート凹条部の配列間隔wsが400mm、コンクリート凹条部の傾斜角度α1が30°で、1つのコンクリート凹条部53,63に角部531,631が1つ設けられている。
試験体No.4は、コンクリート凹条部の深さ寸法hsが100mm、コンクリート凹条部の配列間隔wsが200mm、コンクリート凹条部の傾斜角度α1が45°で、1つのコンクリート凹条部53,63に角部531,631が2つ設けられている。
【0031】
(試験方法および試験装置)
図7に示すように、試験体は継手部が水平になるように試験装置内に設置し、上下スタブを加力フレームにPC鋼棒で固定した。加力時に際しては、鉛直方向に設置した2台の1MN串型ジャッキにより、約10kNの軸力を載荷・保持し、試験体の上下スタブが常に平行を保つように(試験体両側の鉛直方向の変位が等しくなるように)、同2台の1MN串型ジャッキを制御しながら一方向加力を行った。
図8に示すように、試験体への加力サイクルは、コンクリートの長期許容せん断力(=τaAs、コンクリートの長期許容せん断応力度τa=min(σ/30、0.49+σ/100)、せん断面積As=B・D=250×1200=300000mm)レベル(=237kN[σ=30N/mm時])、もしくは、すべり変形δslipが生じた荷重レベルPslipで2回繰り返し)に従った。
【0032】
試験中、1MNロードセルにより水平荷重(せん断力)を測定し、検長さ100mmの高感度変位計で継手部の水平変形および制御用鉛直方向変位を測定した。
【0033】
(試験結果)
図9に示す表にコンクリートの強度試験結果を示す。図10(a)に試験体No.1の荷重-変形関係および最終破壊状況、図10(b)に試験体No.2の荷重-変形関係および最終破壊状況、図11(a)に試験体No.3の荷重-変形関係および最終破壊状況、図11(b)に試験体No.4の荷重-変形関係および最終破壊状況を示す。
いずれの試験体もシアキー55の角部531,631にひび割れが発生した。そして、第1RC壁板部51のコンクリートと第2RC壁板部61のコンクリートが、水平荷重の増大とともに肌別れし、シアキー55の角部531,631からコンクリート打ち継ぎ目んに沿って第1RC壁板部51と第2RC壁板部61に生じたひび割れの進展とともにひび割れ幅が一気に拡幅し、シアキー55を挟む第1RC壁板部51と第2RC壁板部61とがスリップ破壊(せん断破壊)した。
【0034】
各試験体は、以下の荷重で繰返し加力を行った。試験体No.1は、240kN(Paレベル)、試験体No.2は、161kN、試験体No.3は、245kN(Paレベル)、試験体No.4は、292kNとした。
試験体No.1のみPslip以前にPaに達したため、Pslipについては定かではないが、Pmax≒Pslipと考えるとPslip=298kNとなり、試験体No.4と同等以上のすべり耐力を有するものと思われる。
【0035】
(耐力評価)
各試験体の実験値と、上記の式(1)、(2)による計算値を比較した。
試験結果に基づき、各試験体の第1RC壁板部51および第2RC壁板部61のスリップ破壊(せん断破壊)面を図12中に符号「c」で示すように仮定した。図12には、第1RC壁板部51および第2RC壁板部61に生じるせん断ひび割れの長さ寸法Lの値を示した。せん断ひび割れの長さ寸法Lの値は、幾何学的に試験体No.1は212mm、試験体No.2は141mm、試験体No.3は300mm、試験体No.4は173mmとなる。
図10図11には、上記の式(1)による耐力計算結果を破線で示している。
【0036】
各試験体の実験値に対する計算値の割合は、以下のとおりであった。
試験体No.1は1.20、試験体No.2は1.40、試験体No.3は1.04、試験体No.4は1.68であった。試験体No.2、No.4については、計算値の実験値に対する余裕度が大きいものの、第1RC壁板部51および第2RC壁板部61のスリップ破壊(せん断破壊)耐力は全試験体とも(1)、(2)式により概ね評価できることが分かる。
【0037】
地中連続壁における先行エレメントと後行エレメント間の継手部の仕様をパラメータとして、当該部の面内せん断耐力を試験により確認した。
面内せん断試験の結果、いずれの試験体もシアキー55で破壊することはなく、シアキー55の角部531,631からコンクリート打ち継ぎ面に沿って第1RC壁板部51と第2RC壁板部61に生じたひび割れが進展し、先打ち部と後打ち部のコンクリートが肌別れした後、シアキー55の角部531,631に生じたひび割れが進展してシアキー55を挟む第1RC壁板部51と第2RC壁板部61とがスリップ破壊(せん断破壊)した。
試験結果よりスリップ破壊(せん断破壊)面を想定して第1RC壁板部51と第2RC壁板部61とのスリップ破壊(せん断破壊)時の耐力式を提案するとともに、上記の式(1)、(2)によって実験結果を概ね評価できることを示した。
【0038】
次に、上述した本実施形態によるせん断耐力の算出方法の作用・効果について図面を用いて説明する。
上述した本実施形態によるせん断耐力の算出方法では、上記の式(1)、(2)を用いることで、先行エレメントおよび後行エレメントがせん断破壊する際のせん断耐力を算出することができる。
【0039】
以上、本発明によるせん断耐力の算出方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、先行エレメント2のコンクリート凹条部24、コンクリート凸条部25、後行エレメント3のコンクリート凹条部34、コンクリート凸条部35、第1RC壁板部51のコンクリート凹条部53、コンクリート凸条部54、第2RC壁板部61のコンクリート凹条部63、コンクリート凸条部64の形状は、上記の実施形態の形状以外の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 地中連続壁
2 先行エレメント(第1エレメント)
3 後行エレメント(第2エレメント)
4 継手部
11 地盤
21,31 コンクリート
24 先行エレメントのコンクリート凹条部(コンクリート凹条部)
25 先行エレメントのコンクリート凸条部(コンクリート凸条部)
26 角部
34 後行エレメントのコンクリート凹条部(コンクリート凹条部)
35 後行エレメントのコンクリート凸条部(コンクリート凸条部)
36 角部
41 波形鋼板(鋼板)
51 第1RC壁板部
53 コンクリート凹条部
54 コンクリート凸条部
55 シアキー
61 第2RC壁板部
63 コンクリート凹条部
64 コンクリート凸条部
411 鋼板凸条部
412 鋼板凹条部
413 角部
531,631 角部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12