(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】マーキング装置
(51)【国際特許分類】
G01C 15/02 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
G01C15/02
(21)【出願番号】P 2019091415
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119220
【氏名又は名称】片寄 武彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 登
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-039709(JP,A)
【文献】特開平08-043099(JP,A)
【文献】特開2016-221958(JP,A)
【文献】特開平07-019875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部にマーカーが設けられ、他方の端部にターゲットが設けられた棹部材と、
少なくとも前記ターゲットを露出した状態で、前記棹部材を内蔵する筐体と、
前記筐体の下方部に設けられ、前記筐体を移動させるホイールと、
前記ターゲットに対してレーザー光を照射し、前記ターゲットが反射するレーザー光を受光することで前記ターゲットの位置座標を計測する計測機器から計測位置座標を受信する受信部と、
前記マーカーによってマーキングを行う目標位置座標を記憶する記憶部と、
前記計測位置座標と前記目標位置座標との差分に基づいて、前記ホイールを駆動するホイール駆動機構と、
前記筐体内には、前記棹部材を上方側で支持する上支持部材と、前記棹部材を下方側で支持する下支持部材と、
前記上支持部材を移動させる上支持部材駆動機構と、前記下支持部材を移動させる下支持部材駆動機構と、を有し、
前記上支持部材駆動機構は、
シャフトと、
前記シャフトを上下に摺動する摺動部と、
前記上支持部材と、前記摺動部とをヒンジ機構を介して連結するアームと、を含み、
前記下支持部材駆動機構は、
シャフトと、
前記シャフトを上下に摺動する摺動部と、
前記下支持部材と、前記摺動部とをヒンジ機構を介して連結するアームと、を含むことを特徴とするマーキング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、墨出し作業を含めたマーキング作業を人手によらず自動で行うマーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工事中の躯体に基準となる線などを記す作業である墨出しは、熟練工の技量によるところが大きい。一方、建設工事現場においては熟練工の確保が非常に困難になりつつある。そこで、墨出し作業を、自動化する提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平06-258078号公報)には、自動追尾式トータルステーションで第1基準点及び第2基準点を視準して第1基準点を原点とし第2基準点方向を一軸とするフロア座標を設定し、自走台にロボットマニュプレータを介して設けた墨打ち装置をフロア座標の任意の位置に置き、ロボットマニュプレータに取付けたプリズムをマニュプレータ座標の一軸方向に動かしトータルステーションで視準してマニュプレータ座標と墨打ち装置とのフロア座標における位置を把握し、プリズムをトータルステーションに向けながら自走台を自走して墨打ち点を墨出し装置まで移動し、墨出し点がロボットマニュプレータの作動範囲に入ったら自走台を停止し、プリズムをマニュプレータ座標の一軸方向に動かして再度マニュプレータ座標の確認を行い、マニュプレータで墨出し点の精密位置決めを行って墨打ち装置により墨打ちを行ったのち、前記と同様に自走車を自走して墨打ち装置を次の墨出し点まで移動しながら墨出しを行うことを特徴とする自動墨出し方法が記載されている。
【文献】特開平06-258078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような文献記載の従来の自動墨出し方法に用いる装置は、ロボットマニュプレータなど高価で複雑な構成を要するものであった。このため、一つの建設工事現場に複数台準備することは難しく、結局、人手による方がコストもかからず簡便であるようなこともあり、必ずしも使い勝手のよいものではない、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決するものであって、本発明に係るマーキング装置は、一方の端部にマーカーが設けられ、他方の端部にターゲットが設けられた棹部材と、少なくとも前記ターゲットを露出した状態で、前記棹部材を内蔵する筐体と、前記筐体の下方部に設けられ、前記筐体を移動させるホイールと、前記ターゲットに対してレーザー光を照射し、前記ターゲットが反射するレーザー光を受光することで前記ターゲットの位置座標を計測する計測機器から計測位置座標を受信する受信部と、前記マーカーによってマーキングを行う目標位置座標を記憶する記憶部と、前記計測位置座標と前記目標位置座標との差分に基づいて、前記ホイールを駆動するホイール駆動機構と、前記筐体内には、前記棹部材を上方側で支持する上支持部材と、前記棹部材を下方側で支持する下支持部材と、前記上支持部材を移動させる上支持部材駆動機構と、前記下支持部材を移動させる下支持部材駆動機構と、を有し、前記上支持部材駆動機構は、シャフトと、前記シャフトを上下に摺動する摺動部と、前記上支持部材と、前記摺動部とをヒンジ機構を介して連結するアームと、を含み、前記下支持部材駆動機構は、シャフトと、前記シャフトを上下に摺動する摺動部と、前記下支持部材と、前記摺動部とをヒンジ機構を介して連結するアームと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るマーキング装置は、一方の端部にマーカーが設けられ、他方の端部にターゲットが設けられた棹部材からなる簡便な構成を駆動する機構が採用されており、このようなマーキング装置は、コストをかけることなく量産することが可能であり、建設工事現場への導入も容易となり、墨出し作業などの自動化を推進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るマーキング装置1の外観を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るマーキング装置1の側面カバー10の一つを開けた状態を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るマーキング装置1の主要部品を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るマーキング装置1における各種駆動機構を示す模式図である。
【
図5】上支持部材40と第1上摺動部70、第2上摺動部80、第3上摺動部90の関係を模式的に示す図である。
【
図6】棹部材30に取り付けられている構成を説明する図である。
【
図7】棹部材30と上支持部材40との関係を説明する斜視図である。
【
図8】棹部材30と下支持部材50との関係を説明する斜視図である。
【
図9】下支持部材50の詳細な構成を説明する斜視図である。
【
図10】本発明の実施形態に係るマーキング装置1のブロック図である。
【
図11】本発明の実施形態に係るマーキング装置1による移動処理のフローチャートを示す図である。
【
図12】計測機器200と共にマーキング装置1を利用する形態を説明する図である。
【
図13】本発明の実施形態に係るマーキング装置1によるマーキング処理のフローチャートを示す図である。
【
図14】本発明の実施形態に係るマーキング装置1によるマーキング実行の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1本発明の実施形態に係るマーキング装置1の外観を示す斜視図である。
【0013】
本発明に係るマーキング装置1は、墨出し作業を含めたマーキング作業を人手によらず自動で行い得るように構成したものである。
【0014】
本明細書では「マーキング」という語を、設定された位置に所定の図形・記号・文字などを記したり、示したりするという意味で用い、所謂「墨出し」という語を含む上位の語として定義する。また、「マーキング」には、インクなどを定着することにより図形・記号・文字などを記すことに加え、レーザーなどによりポインタ光を照射することで図形・記号・文字などを照射面に示すことも含まれる。
【0015】
すなわち、本発明に係るマーキング装置1においてマーキングに用いるマーキング手段としては、インクを定着したり、レーザー光などを照射したりする手段が含まれる。前者のインクを定着する手段には、繊維等にインクを染み込ませたペンや、インクを吐出するインクジェット機構なども含まれる。本実施形態においては、このようなマーキング手段としては、ペンなどのマーカー33を想定している。
【0016】
なお、マーカー33などによるマーキング作業によるマーキング対象は、基本的に床面を想定している。しかしながら、本発明に係るマーキング装置1はこれに限定されるものではなく、例えば天井に対するマーキングを行うこともできる。具体的には、ターゲット35の上方に天上面を照射可能なレーザー光源を設けることで、天井に取り付ける電気設備のための墨出し作業の補助に供することなどができる。
【0017】
本発明に係るマーキング装置1は、筐体3を有しており、この筐体3の下部にマーキング装置1の移動手段として3つのオムニホイール(第1オムニホイール19、第2オムニホイール20、第3オムニホイール21)が平面視で正三角形の角部に設けられている。これらの3つのオムニホイールから略均等の距離には、先のマーカー33が駆動機構により移動可能に設けられている。このような駆動機構の動作により、マーカー33によるマーキングが可能となる。
【0018】
なお、本発明に係るマーキング装置1は、平面視で正三角形の角部に位置する3つのオムニホイールで支持される構成を採用している。このように装置が3点で支持される構成であるために、本発明に係る本発明に係るマーキング装置1は、一般的な三脚同様に、安定した接地を行うことができ、マーキングなどの位置精度を向上させることができる。
【0019】
マーキング装置1における3つのオムニホイールのそれぞれの上方部には、3本の鉛直フレーム(第1鉛直フレーム11、第2鉛直フレーム12、第3鉛直フレーム13)が設けられており、これらの鉛直フレームを保護する3つのフレーム部カバー7が設けられている。また、フレーム部カバー7の間の保護のために、3枚の側面カバー10が設けられている。
【0020】
マーキング装置1の天面部には、天部カバー6が設けられている。この天部カバー6の中央部には貫通穴が設けられており、この貫通穴からはターゲット35が露出するように設けられている。なお、上記のような各種カバーは、本発明に係るマーキング装置1を屋内で用いる場合には、必ずしも必要ではない。天部カバー6の一部には、マーキング装置1のユーザーインターフェースとしてタッチパネル部105が設けられている(
図2参照)。ユーザーは、このタッチパネル部105を介して、マーキングを行いたい位置座標情報等を入力することなどができる。
【0021】
本発明に係るマーキング装置1は、その位置座標情報を取得するために、ターゲット追尾機能を有するトータルステーションなどの計測機器200と併用して用いられる。ターゲット35は反射プリズムを有しており、例えば、トータルステーションなどの計測機器200によって出射されたレーザー光が入射される。反射プリズムに入射された光は、反射プリズム内で、入射光と平行な反射光とされ、反射プリズムから出射される。計測機器200は、このような反射光を受光し、ターゲット35、すなわちマーキング装置1の位置座標を計測することが可能となる。
【0022】
なお、ターゲット35としては全方位プリズムを用いることが好ましいが、これは必ずしも必須の要件ではない。
【0023】
本発明に係るマーキング装置1において、3枚の側面カバー10のうち1枚を開けた状態としたものを
図2に示す。マーキング装置1の略中央部において、鉛直方向に長手方向を有する棹部材30が設けられている。棹部材30においては、一方の端部(下方側)にマーカー33が設けられ、他方の端部(上方側)にターゲット35が設けられている。
【0024】
このように本発明に係るマーキング装置1においては、1本の剛性を有する金属製の棹部材30の一方端に、所望とする目標位置にマーキングを行うためのマーカー33を設け、他方端に位置座標の計測基準となるターゲット35を設けるようにしている。本発明においては、このような構造を採用することにより、マーキング装置1をシンプルなものとしている。
【0025】
マーカー33やターゲット35と一体化されてなる棹部材30は、マーキング装置1の内部において、上支持部材40及び下支持部材50によって支えられている。これら上支持部材40及び下支持部材50が駆動機構により移動することで、棹部材30が移動する。これにより、棹部材30の位置を微修正したり、あるいは、棹部材30の先端のマーカー33によりマーキングを実行したりすることができるようになっている。
【0026】
次に、上支持部材40及び下支持部材50の駆動機構について、
図3乃至
図5を参照して説明する。
図3は本発明の実施形態に係るマーキング装置1の主要部品を示す斜視図である。また、
図4は本発明の実施形態に係るマーキング装置1における各種駆動機構を示す模式図である。
図5は上支持部材40と第1上摺動部70、第2上摺動部80、第3上摺動部90の関係を模式的に示す図である。
【0027】
第1鉛直フレーム11の近傍には第1シャフト15の長手方向が鉛直となるように設けられている。同様に、第2鉛直フレーム12の近傍には第2シャフト16が、第3鉛直フレーム13の近傍には第3シャフト17が設けられている。なお、第1シャフト15は図においては2本からなる構成であるが、精度があれば1本でもあってもよいので、以下、単純のために各シャフトは1本であるものとして単純化する。以下、第1シャフト15に関連する構成を代表例として説明する。
【0028】
第1上摺動部70は貫通穴を有しており、当該貫通穴には第1シャフト15が挿通されている。第1シャフト15の上方側においては、第1上摺動部70は第1シャフト15に対してスライド自在とされている。第1上摺動部70などをスライドさせるための駆動源としては、例えば不図示のステッピングモーターを用いることができる。このようなステッピングモーターからベルト(不図示)を介して、第1上摺動部70に駆動力を伝達することができる。
【0029】
第1上摺動部70は、第1上摺動部側ヒンジ機構71を介して所定長を有する第1上アーム73と接続されている。第1上アーム73を構成するアームは実際には2本であるが、第1上アーム73についても模式図においては1本であるものとして単純化する。また、第1上アーム73は、第1上支持部材側ヒンジ機構74を介して上支持部材40と接続されている。
【0030】
第1シャフト15の下部側においても類似の構成を有している。すなわち、第1下摺動部75は貫通穴を有しており、当該貫通穴には第1シャフト15が挿通されている。第1シャフト15の下方側においては、第1下摺動部75は第1シャフト15に対してスライド自在とされている。第1下摺動部75などをスライドさせるための駆動源としては、例えば不図示のステッピングモーターを用いることができる。このようなステッピングモーターからベルト(不図示)を介して、第1下摺動部75に駆動力を伝達することができる。
【0031】
第1下摺動部75は、第1下摺動部側ヒンジ機構76を介して所定長を有する第1下アーム78と接続されている。第1下アーム78を構成するアームは実際には2本であるが、第1下アーム78についても模式図においては1本であるものとして単純化する。また、第1下アーム78は、第1下支持部材側ヒンジ機構79を介して下支持部材50と接続されている。
【0032】
以上のような第1シャフト15に関連する構成は、第2シャフト16、第3シャフト17についても同様のものを有している。
【0033】
上支持部材40は、
図5に示すようにヒンジ機構を介して、第1シャフト15を上下にスライドする第1上摺動部70、及び、第2シャフト16を上下にスライドする第2上摺動部80、及び、第3シャフト17を上下にスライドする第3上摺動部90と接続されている。第1上摺動部70、第2上摺動部80、第3上摺動部90それぞれが独立して上下することで、上支持部材40は、可動域内で任意の位置をとることができるようになっている。また、下支持部材50についても同様に可動域内で任意の位置をとることができる。このような機構は、Rostock型の3Dプリンタと同様のものであり、本発明に係るマーキング装置1を構成する際には、このような3Dプリンタの部品を転用することもできる。
【0034】
次に、上記のような機構で移動の動作する上支持部材40及び下支持部材50に支持される棹部材30のより詳細な構成について
図6を参照して説明する。これまで説明したように、棹部材30においては、一方端にマーキングを行うためのマーカー33が設けられ、他方端に位置座標の計測基準となるターゲット35が設けられている。これに加え、棹部材30においては、一方端側に下側加速度センサー141を設け、他方端側に上側加速度センサー142を設けるようにしている。
【0035】
これらの下側加速度センサー141及び上側加速度センサー142によれば、棹部材30の両端側における重力方向を厳密に検出することができる。これにより、棹部材30の個体差(剛性、曲がり具合など)と、上支持部材40の座標値及び下支持部材50の座標値との関係を把握することができる。なお、下側加速度センサー141及び上側加速度センサー142による棹部材30の個体差の把握は、マーキング装置1の工場出荷時や、キャリブレーション時などに行うものであり、通常の使用時に行うものではない。
【0036】
棹部材30においては、球体状の上ボール38が固着されるようにして棹部材30と一体化されている。そして、この上ボール38と上支持部材40とは、フリーボールベアリングの関係にある。すなわち、物理的形状による規制範囲内で、上ボール38の中心を支点として、ボール38と上支持部材40とは互いに回動自在となっている。上ボール38と上支持部材40とは、フリーボールベアリングの関係にあるので、
図6に示す棹部材30から、上支持部材40を取り外すことはできないようになっている。
【0037】
一方、上ボール38より棹部材30の下方側においては、球体状の下ボール48が固着されるようにして棹部材30と一体化されている。このような下ボール48は、
図8に示すように下支持部材50に載置されるようにして用いられることが想定されている。
【0038】
ここで、
図9を参照して下支持部材50の詳細な構成について説明する。下支持部材50の略中央部には、貫通穴52が設けられている。下支持部材50の一面側における貫通穴52の周縁には、周縁に沿って均等に6つのボール保持部54が設けられている。これらのボール保持部54は、球体に沿うような形状の凹部であり、ステンレス製などの小ボール55が保持することができるようになっている。これらの小ボール55は、ボール保持部54内で回転自在で、かつボール保持部54から脱落しないような寸法とされている。
【0039】
このような下支持部材50に対して棹部材30の下ボール48は、貫通穴52に棹部材30が挿通された状態で、下ボール48が全ての小ボール55と当接するようにして載置されている。このような構成により、下ボール48と下支持部材50とは離間も可能であり、かつ、当接した状態では、摩擦が少ない状態で互いに可動することができるようになっている。
【0040】
なお、上支持部材40、下支持部材50、上ボール38や下ボール48を構成する材料としてはABS樹脂などの機械的強度を有する合成樹脂を用いることが好ましい。
【0041】
次に、以上のように構成される本発明に係るマーキング装置1における電気的な構成について説明する。
図10は本発明の実施形態に係るマーキング装置1のブロック図である。
【0042】
制御部100は、例えば、CPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなどからなる汎用のマイクロコンピューターなどの情報処理装置を用いることができる。このような制御部100は、
図10で接続される各構成とデータ通信を行い、各構成から所定のデータを受信して演算を行ったり、所定のデータを制御指令として出力して駆動機構などを制御したりすることができるようになっている。
【0043】
通信部101は、外部機器と有線や無線などによりデータ通信を行うものである。通信部101は、外部機器から受信したデータを制御部100に転送したり、制御部100からのデータを外部機器に対して送信したりすることができるようになっている。本実施形態においては、このような通信部101により、外部機器であるトータルステーションなどの計測機器200とのデータ通信を想定している。
【0044】
記憶部103は、制御部100から受信したデータを記憶すると共に、記憶しているデータを制御部100に対して送信するものである。このような記憶部103には、不揮発性の記憶素子を用いることが好ましい。
【0045】
タッチパネル部105は、制御部100から受信したデータを表示すると共に、ユーザーによる接触情報を制御部100に対して送信するものである。このようなタッチパネル部105は、例えば、マーキング装置1の天部カバー6に設けることができ、マーキング装置1のユーザーインターフェースとして用いられる。例えば、ユーザーは、このタッチパネル部105を介して、マーキングを行いたい位置座標情報等を入力することなどができる。
【0046】
外部デバイス接続部106は、SDメモリカードやUSBメモリなどとのデータ通信接続を行う構成である。このような外部デバイス接続部106により、制御部100は、マーキングを行う位置座標情報等をSDメモリカードやUSBメモリから受信したり、あるいは、所定情報をSDメモリカードやUSBメモリに書き込んだりすることができる。外部デバイス接続部106の物理的な端子口は、例えば天部カバー6に設けることができる。
【0047】
下側加速度センサー141及び上側加速度センサー142は、棹部材30の両端部側に設けられている加速度センサーであり、これらの加速度センサーによる検出データは制御部100に送信され、さらに記憶部103に転送され、記憶部103において記憶される。下側加速度センサー141及び上側加速度センサー142はそれぞれの位置における重力方向を検出するために用いられる。
【0048】
下側加速度センサー141及び上側加速度センサー142より得られる重力方向のデータにより、棹部材30の個体差(剛性、曲がり具合など)と、上支持部材40の座標値及び下支持部材50の座標値との関係を把握することができる。なお、下側加速度センサー141及び上側加速度センサー142による棹部材30の個体差の把握は、マーキング装置1の工場出荷時や、キャリブレーション時などに行うものであり、平時の使用で用いることはない。
【0049】
移動機構110は、マーキング装置1自体を移動させる構成である。移動機構110における第1オムニホイール駆動機構111は第1オムニホイール19を回転駆動するモーターとモータドライバーICから構成できる。また、移動機構110における第2オムニホイール駆動機構112は第2オムニホイール20を回転駆動するモーターとモータドライバーICから構成できる。また、移動機構110における第3オムニホイール駆動機構113は第3オムニホイール21を回転駆動するモーターとモータドライバーICから構成できる。
【0050】
移動機構110を構成する第1オムニホイール駆動機構111、第2オムニホイール駆動機構112、第3オムニホイール駆動機構113のそれぞれに対しては、制御部100から制御指令が入力され、所望とする位置座標にまでマーキング装置1自体を移動させることができるようになっている。
【0051】
上支持部材駆動機構120における第1上摺動部駆動機構121は第1上摺動部70を第1シャフト15でスライドさせる機構であり、第2上摺動部駆動機構122は第2上摺動部80を第2シャフト16でスライドさせる機構であり、第3上摺動部駆動機構123は第3上摺動部90を第3シャフト17でスライドさせる機構である。
【0052】
それぞれの摺動部駆動機構は、例えば、ステッピングモーターとステッピングモーターを駆動するドライバーICなどの能動素子から構成することができる。
【0053】
各摺動部駆動機構が、制御部100から制御指令を受けて、各摺動部を上下にスライドさせることで、上支持部材駆動機構120全体として、上支持部材40を所望とする位置に移動させることができる。
【0054】
また、下支持部材駆動機構130における第1下摺動部駆動機構131は第1下摺動部75を第1シャフト15でスライドさせる機構であり、第2下摺動部駆動機構132は第2下摺動部85を第2シャフト16でスライドさせる機構であり、第3下摺動部駆動機構133は第3下摺動部95を第3シャフト17でスライドさせる機構である。
【0055】
それぞれの摺動部駆動機構は、例えば、ステッピングモーターとステッピングモーターを駆動するドライバーICなどの能動素子から構成することができる。
【0056】
各摺動部駆動機構が、制御部100から制御指令を受けて、各摺動部を上下にスライドさせることで、下支持部材駆動機構130全体として、下支持部材50を所望とする位置に移動させることができる。
【0057】
次に、以上のように構成される本発明に係るマーキング装置1によるマーキングのための各処理について説明する。マーキングする目標となる位置座標が入力されると、マーキング装置1は自走することで当該目標座標に近接するようにする。まず、このような移動処理について説明する。
【0058】
図11は本発明の実施形態に係るマーキング装置1による移動処理のフローチャートを示す図である。また、
図12は計測機器200と共にマーキング装置1を利用する形態を説明する図である。
図12は、計測機器200による位置座標の計測に基づいたマーキング装置1による目標座標までの自走のイメージ図である。
【0059】
ステップS100で、マーキング装置1による移動処理が開始される。続く、ステップS101 においては、例えば、タッチパネル部105、外部デバイス接続部106などからマーキングを行う目標座標値を取得する。なお、本実施形態においては、このような目標座標に係るデータを、タッチパネル部105、外部デバイス接続部106から取得するようにしたが、これを通信部101などから取得するようにしてもよい。
【0060】
ステップS102では、取得し目標座標値を記憶部103に記憶する。続く、ステップS103においては、通信部101から計測機器200に対して、自らのターゲット35の位置を計測するように指令を送信する。
【0061】
ステップS201で、このような計測開始指令を受信した計測機器200は、以下、ターゲット35を追尾し、その座標を計測するステップS202、及び、計測した座標値をマーキング装置1に送信するステップS203を繰り返す。
【0062】
マーキング装置1においては、上記のような計測機器200による処理に基づいたターゲット35の計測座標値を、通信部101を介してステップS104で受信する。
【0063】
ステップS105においては、記憶部103に記憶する目標座標値と、ステップS104で受信した計測座標値に基づいて、距離DをD=|(目標座標値)-(計測座標値)|により算出する。ここで、距離Dは、マーキング装置1の第1オムニホイール19乃至第3オムニホイール21による移動処理の判定に用いる距離であるので、鉛直方向成分(z成分)については考慮されていない。
【0064】
続いて、ステップS106では、D<Dthを満たすか否かを判定する。ここで、Dthは第1オムニホイール19乃至第3オムニホイール21の移動に基づく精度として期待できるおよその最小値が設定されている。また、Dthの誤差は、マーカー33を備えた棹部材30の移動によりリカバーすることを想定している。そこで、例えば、このような距離Dthとしては5mm程度の距離が設定されている。
【0065】
ステップS107における判定の結果がNOであれば、ステップS107において、オムニホイールの移動機構110(第1オムニホイール駆動機構111、第2オムニホイール駆動機構112、第3オムニホイール駆動機構113)に対してD→Dthとなるように駆動指令を発し、再びステップS104に戻りループする。
【0066】
一方、ステップS107における判定の結果がYESであるときは、オムニホイールの移動機構110に対して駆動を停止するように指令を発し、続いて、ステップS109に進み、マーキング処理のルーチンに移行する。
【0067】
引き続き、
図13を参照して、本発明の実施形態に係るマーキング装置1によるマーキング処理について説明する。
【0068】
ステップS300において、マーキング処理が開始されると、続いて、ステップS301では、 計測機器200から送信されてくる計測座標値を受信する。
【0069】
ステップS302においては、記憶部103に記憶する目標座標値と、ステップS301で受信した計測座標値に基づいて、距離dをd=|(目標座標値)-(計測座標値)|により算出する。(目標座標値)は通常平面上(床面上)の(x、y)座標に基づくものであるので、距離dの算出においても、鉛直方向成分(z成分)については考慮する必要はない。
【0070】
続いて、ステップS303では、d<dthを満たすか否かを判定する。ここで、dthは上支持部材40及び下支持部材50の移動に基づく棹部材30の変位の精度として期待できる最小値が設定されている。ここで、dth<Dthであり、マーキング処理の本フローチャートにおいては、第1オムニホイール19乃至第3オムニホイール21による移動時の誤差を、棹部材30を変位させることで可能な限り、無くすようにしている。
【0071】
ステップS303における判定がNOであるときには、ステップS304に進む。ステップS304では、d→dthとなるように上支持部材40及び下支持部材50を移動させる際に、当該移動には上方への移動を含むか否かが判定される。なお、距離dの判定に鉛直方向成分(z成分)については考慮されていないが、支持部材40及び下支持部材50を移動させる際には、僅かではあるが上下方向の移動が伴う。
【0072】
ステップS304における判定がYESであるとき、すなわち、上方への移動が伴うときには、ステップS305に進み、上支持部材40を移動させる上支持部材駆動機構120の駆動を行った後に、下支持部材50を移動させる下支持部材駆動機構130の駆動を行う。具体的には、上支持部材駆動機構120に対する駆動実行のコマンドを発した後のタイミングに、下支持部材駆動機構130に対する駆動実行のコマンドを発するようにする。
【0073】
上支持部材40及び下支持部材50を上方に移動させる際には、まず上支持部材40の移動動作を実行してから、下支持部材50の移動動作を実行することで、棹部材30に対して不要な応力が加わってしまうことを防止するためである。
【0074】
下支持部材50においては、棹部材30の下ボール48と小ボール55とが離間も可能であるボールベアリング様の機構を採用しているが、このような機構の採用によっても、棹部材30に対する不要な応力の印加を避けるようにしている。
【0075】
ステップS305の処理が実行された後には、ステップS301に戻る。
【0076】
一方、ステップS304における判定がNOであるとき、すなわち、下方への移動が伴うときには、ステップS306に進み、下支持部材50を移動させる下支持部材駆動機構130の駆動を行った後に、上支持部材40を移動させる上支持部材駆動機構120の駆動を行う。具体的には、下支持部材駆動機構130に対する駆動実行のコマンドを発した後のタイミングに、上支持部材駆動機構120に対する駆動実行のコマンドを発するようにする。
【0077】
上支持部材40及び下支持部材50を下方に移動させる際においても、まず下支持部材50の移動動作を実行してから、上支持部材40の移動動作を実行することで、棹部材30に対して不要な応力が加わってしまうことを防止している。
【0078】
下支持部材50においては、棹部材30の下ボール48と小ボール55とが離間も可能であるボールベアリング様の機構を採用しているが、このような機構の採用によっても、棹部材30に対する不要な応力の印加を避けるようにしている。
【0079】
ステップS306の処理が実行された後には、ステップS301に戻る。
【0080】
ステップS303におけるd<dthを満たすか否かの判定の結果がYESであれば、上支持部材40を移動させる上支持部材駆動機構120の駆動を停止すると共に、下支持部材50を移動させる下支持部材駆動機構130の駆動を停止する。d<dthを満たす時には、マーカー33を備えた棹部材30の位置が、目標となる座標値に達したものとみなす。
【0081】
ステップS308では、上支持部材40を移動させる上支持部材駆動機構120及び下支持部材50を移動させる下支持部材駆動機構130によって、棹部材30を移動することで、棹部材30が備えるマーカー33によって、十字のマークを床面上にマーキングする処理を実行する。ここで、当該十字のマークの交点が、先の目標座標値である。
図14は本発明の実施形態に係るマーキング装置1によるマーキング実行の様子を示す図である。
【0082】
以上のように、本発明に係るマーキング装置1は、一方の端部にマーカー33が設けられ、他方の端部にターゲット35が設けられた棹部材30からなる簡便な構成を駆動する機構が採用されており、このようなマーキング装置1は、コストをかけることなく量産することが可能であり、建設工事現場への導入も容易となり、墨出し作業などの自動化を推進することが可能となる。
【符号の説明】
【0083】
1・・・マーキング装置
3・・・筐体
6・・・天部カバー
7・・・フレーム部カバー
10・・・側面カバー
11・・・第1鉛直フレーム
12・・・第2鉛直フレーム
13・・・第3鉛直フレーム
15・・・第1シャフト
16・・・第2シャフト
17・・・第3シャフト
19・・・第1オムニホイール
20・・・第2オムニホイール
21・・・第3オムニホイール
30・・・棹部材
33・・・マーカー
35・・・ターゲット
38・・・上ボール(フリーボールベアリングの一部)
40・・・上支持部材(フリーボールベアリングの一部)
48・・・下ボール
50・・・下支持部材
52・・・貫通穴
54・・・ボール保持部
55・・・小ボール
70・・・第1上摺動部
71・・・第1上摺動部側ヒンジ機構
73・・・第1上アーム
74・・・第1上支持部材側ヒンジ機構
75・・・第1下摺動部
76・・・第1下摺動部側ヒンジ機構
78・・・第1下アーム
79・・・第1下支持部材側ヒンジ機構
80・・・第2上摺動部
81・・・第2上摺動部側ヒンジ機構
83・・・第2上アーム
84・・・第2上支持部材側ヒンジ機構
85・・・第2下摺動部
86・・・第2下摺動部側ヒンジ機構
88・・・第2下アーム
89・・・第2下支持部材側ヒンジ機構
90・・・第3上摺動部
91・・・第3上摺動部側ヒンジ機構
93・・・第3上アーム
94・・・第3上支持部材側ヒンジ機構
95・・・第3下摺動部
96・・・第3下摺動部側ヒンジ機構
98・・・第3下アーム
99・・・第3下支持部材側ヒンジ機構
100・・・制御部
101・・・通信部
103・・・記憶部
105・・・タッチパネル部
106・・・外部デバイス接続部
110・・・移動機構
111・・・第1オムニホイール駆動機構
112・・・第2オムニホイール駆動機構
113・・・第3オムニホイール駆動機構
120・・・上支持部材駆動機構
121・・・第1上摺動部駆動機構
122・・・第2上摺動部駆動機構
123・・・第3上摺動部駆動機構
130・・・下支持部材駆動機構
131・・・第1下摺動部駆動機構
132・・・第2下摺動部駆動機構
133・・・第3下摺動部駆動機構
141・・・下側加速度センサー
142・・・上側加速度センサー
200・・・計測機器