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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】プリント配線基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20230216BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20230216BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
C23C18/20 A
H05K3/38 A
H05K3/38 Z
H05K3/18 A
H05K3/18 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019099302
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020193365
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西條 義司
(72)【発明者】
【氏名】山本 久光
(72)【発明者】
【氏名】仲 宣彦
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148076(JP,A)
【文献】国際公開第2018/029990(WO,A1)
【文献】特開2018-080369(JP,A)
【文献】特開2016-113688(JP,A)
【文献】特開2016-003359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板に無電解めっきを行なって、プリント配線基板を製造する方法であって、
前記無電解めっきの前に、下記第1A工程または第1B工程と、下記第2工程を、順次含むことを特徴とするプリント配線基板の製造方法。
第1A工程:前記樹脂基板の表面に350nm以下の紫外線を照射し、表面粗さRaを0.2μm以下とする工程。
第1B工程:前記樹脂基板に膨潤、50~70℃で1~10分間の粗化、中和を順次行い、表面粗さRaを0.2μm以下とする工程。
第2工程:
アミノ基を有するシランカップリング剤と;C49-(OC24)n-OH(n=1~4の整数)で表されるエチレン系グリコールブチルエーテル、および/またはC49-(OC36)n-OH(n=1~4の整数)で表されるプロピレン系グリコールブチルエーテルを用いて、pH3~10にて処理する工程。
加熱処理工程:
前記第2工程の後、無電解めっきの前に、120℃以上で加熱処理する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器類などの分野に汎用されるプリント配線基板は、例えば銅めっきを行なってプリント配線基板を製造する方法を例に挙げると、通常、樹脂基板に膨潤処理、粗化処理(酸化剤を含有する粗化液に浸漬して樹脂基板の表面をエッチング)、粗化処理で発生した酸化物を還元するための還元処理(中和処理)、(必要に応じて超音波処理、清浄化処理)、乾燥、ソフトエッチング、酸洗、触媒付与、無電解銅めっき、電解銅めっきを行なって製造される。上記の粗化液はデスミア液とも呼ばれており、プリント配線基板に設けられる多数の穴部(例えば、複数の導体間を接続するためのブラインドビアやスルーホール、又は回路形成のためのトレンチなど)の形成に伴い、穴部や基板表面に発生する樹脂カス(スミア)を除去するために用いられる。上述した膨潤処理、粗化処理、還元処理などの一連の工程を含む表面処理方法は、デスミア処理方法と呼ばれている。
【0003】
しかしながら、プリント配線基板の高機能化、高集積化に伴い、従来のデスミア処理では樹脂基板とめっき皮膜との密着性(以下、単にめっき密着性と呼ぶ場合がある。)を十分確保できないという問題が生じている。そこで本出願人は、めっき密着性が一層高められたプリント配線基板の製造方法を、特許文献1に開示している。具体的には、還元処理の後、無電解めっきの前に、以下の二段階工程を行なう方法である。
(1)第1の処理工程
CmH(2m+1)-(OC24)n-OH(m=1~4の整数、n=1~4の整数)で表されるエチレン系グリコールエーテル、および/またはCxH(2x+1)-(OC36)y-OH(x=1~4の整数、y=1~3の整数)で表されるプロピレン系グリコールエーテルと、を含み、pHが7以上である第1の処理液で処理する工程。
(2)第2の処理工程
上記第1の処理工程の後、アミン系シランカップリング剤を含み、pHが7.0以上である第2の処理液で処理する工程。
【0004】
更に、プリント配線基板などの表面を処理するために用いられる無電解めっき用前処理液は、樹脂基板への浸透性に優れていることが要求される。そこで、樹脂基板とめっき皮膜との密着性に優れると共に、樹脂基板への浸透性に優れた前処理液として、本出願人は、フッ素化合物と;界面活性剤と;C49-(OC24)n-OH(n=1~4の整数)で表されるエチレン系グリコールブチルエーテル、および/またはC49-(OC36)n-OH(n=1~4の整数)で表されるプロピレン系グリコールブチルエーテルを含有する前処理液を、特許文献2に開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-80369号公報
【文献】特開2015-71821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、プリント配線基板の更なる高機能化、高集積化に伴って樹脂基板の表面粗さ(Ra)が小さくなるにつれ、めっき密着性が低下するという問題が指摘されている。Raが小さいと、凹凸によるアンカー効果が期待できないためである。
【0007】
更に無電解めっき用前処理液は、上記のとおり樹脂基板への浸透性に優れていると共に、使用時の安定性(貯蔵安定性)に優れることも要求されている。
【0008】
そこで、表面粗さが小さな基板を用いた場合でも、これらの特性に優れたプリント配線基板の製造方法の提供が望まれている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂基板の表面粗さ(Ra)が例えば0.2μm以下と低粗度であってもめっき密着性に優れており、しかも使用する処理液が安定であり、当該処理液の樹脂基板への浸透性も良好な新規なプリント配線基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し得た本発明に係るプリント配線基板の製造方法は以下のとおりである。
[1]樹脂基板に無電解めっきを行なって、プリント配線基板を製造する方法であって、
前記無電解めっきの前に、下記第1A工程または第1B工程と、下記第2工程を、順次含むことを特徴とするプリント配線基板の製造方法。
第1A工程:前記樹脂基板の表面に350nm以下の紫外線を照射し、表面粗さRaを0.2μm以下とする工程。
第1B工程:前記樹脂基板に膨潤、50~70℃で1~10分間の粗化、中和を順次行い、表面粗さRaを0.2μm以下とする工程。
第2工程:
アミノ基を有するシランカップリング剤と;C49-(OC24)n-OH(n=1~4の整数)で表されるエチレン系グリコールブチルエーテル、および/またはC49-(OC36)n-OH(n=1~4の整数)で表されるプロピレン系グリコールブチルエーテルを用いて、pH3~10にて処理する工程。
[2]前記第2工程の後、無電解めっきの前に、120℃以上で加熱処理する工程を含む上記[1]に記載のプリント配線基板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂基板の表面粗さ(Ra)が例えば0.2μm以下と低粗度であってもめっき密着性に優れており、しかも使用する処理液が安定であり、当該処理液の樹脂基板への浸透性も良好なプリント配線基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため、検討を行った。その結果、無電解めっきの前に、前記樹脂基板の表面に350nm以下の紫外線を照射する第1A工程、または膨潤、50~70℃で1~10分間の粗化、中和を順次行う第1B工程と;アミノ基を有するシランカップリング剤と、特許文献2に記載の所定のエチレン系グリコールブチルエーテルおよび/またはプロピレン系グリコールブチルエーテルを用いて、pH3~10にて処理する第2工程を順次行うことにより、所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
はじめに、上記第1A工程または第1B工程に到達した経緯について説明する。
【0014】
まず上記第1B工程は、従来のデスミア処理(本明細書では、膨潤処理、粗化処理、および中和処理をまとめてデスミア処理と呼ぶ。)における粗化処理の条件を改変したものである。従来は、例えば特許文献1の実施例の欄に記載されているように粗化処理を80℃で15分で処理して樹脂表面のRaを0.3~0.4μmまで荒らすことによって密着強度を確保してきた。しかし、本発明者らが検討したところ、上記の粗化条件では、Raが0.2μm以下の樹脂表面に対して良好な密着強度を得ることは困難であることが判明した。そこで検討を重ねた結果、50~70℃で1~10分間の粗化処理を含むデスミア処理を行なえば、所望とするRaが確保されることが分った。上記第1B工程では、粗化処理条件を改変した点に特徴があり、膨潤処理および中和処理は従来と同じである。
【0015】
一方、上記第1A工程は、デスミア処理を行なわずに所定の紫外線照射を行う方法である。本発明者らの検討結果によれば、デスミア処理の代わりに所定の紫外線照射を行っても、樹脂表面を荒らすことなく良好な密着性が得られることが判明した。
【0016】
本発明によれば、良好なめっき密着性が得られるため、本発明の製造方法は、例えば無電解めっき方法、或は、基板とめっき皮膜との間の密着性を向上するめっき密着性向上方法と呼ぶこともできる。
【0017】
例えば銅めっきを行なってプリント配線基板を製造する方法を例に挙げて本発明の方法を具体的に説明すると以下のとおりである。
【0018】
まず第1B工程の場合、樹脂基板に膨潤処理、50~70℃で1~10分間の粗化処理、中和処理、[必要に応じて超音波処理、必要に応じて清浄化処理(コンディショニング、クリーニング等とも呼ばれる)]、乾燥、ソフトエッチング、酸洗、触媒付与、無電解銅めっき、電解銅めっきを行なってプリント配線基板を製造する。なお上記中和処理の後、超音波処理、清浄化処理を更に行なう場合は、超音波処理の後、清浄化処理の前に上記工程を行なう。また上記中和処理の後、超音波処理を行なわずに清浄化処理を行なう場合もあるが、その場合は、中和処理の後、清浄化処理の前に上記工程を行なう。
【0019】
一方、第1A工程の場合、樹脂基板の表面に、直ちに350nm以下の紫外線を照射した後、必要に応じて超音波処理、必要に応じて清浄化処理(コンディショニング、クリーニング等とも呼ばれる)、乾燥、ソフトエッチング、酸洗、触媒付与、無電解銅めっき、電解銅めっきを行なってプリント配線基板を製造する。ここでは、第1B工程のようなデスミア処理は不要である。
【0020】
以下、本発明の製造方法について、工程順に説明する。
【0021】
上述したとおり本発明では、無電解めっきの前に、まず、第1A工程または第1B工程を行う。上記工程は、めっき密着性を確保するのに有用である。上記第1A工程または第1B工程により、表面粗さRaが0.2μm以下に制御される。
【0022】
以下では、説明の便宜上、はじめに第1B工程を説明する。
【0023】
(1)第1B工程
第1B工程では、膨潤処理、50~70℃で1~10分間の粗化処理、中和処理を行なう。粗化処理の温度が70℃を超えるとRaが高くなってしまう。また、温度が上記範囲であっても処理時間が長いと、やはりRaが高くなってしまう。好ましくは60℃である。
【0024】
上記粗化処理に用いられるエッチング液は特に限定されず、例えば過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸ナトリウム、クロム酸カリウムなどの酸化剤が挙げられる。
【0025】
上記第1B工程では、デスミア処理における粗化処理の条件を改変した点に特徴があり、それ以外の膨潤処理および中和処理は、本発明の技術分野で通常採用される一般的な方法を採用することができ、特に限定されない。具体的には、例えば、以下のとおりである。
【0026】
膨潤処理は、後工程の粗化処理において基板表面を粗化し易くするために行なわれる。上記膨潤処理に用いられる膨潤液として、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン、エチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。上記膨潤液は、単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。膨潤処理は、上記膨潤液に樹脂基板を、約60~90℃程度の温度で10~30分間、浸漬して行なうことが好ましい。
【0027】
中和処理(還元処理)に用いられる還元剤は、中和処理に通常用いられる還元剤であれば特に限定されず、例えば、過酸化水素、硫酸ヒドロキシルアンモニウム、グリオキシル酸;硫酸ヒドロキシルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸など、種々のアミン系化合物などが挙げられる。上記還元剤は、単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。中和処理は、上記還元剤を含む処理液に樹脂基板を、約20~60℃程度の温度で1~10分間、浸漬して行なうことが好ましい。
【0028】
(2)第1A工程
第1A工程では、樹脂基板の表面に350nm以下の紫外線を照射する。本発明者らの検討結果によれば、350nm超の紫外線を照射すると、めっき密着性が低下することが判明した(後記する実施例を参照)。好ましい上限は300nmである。また、好ましい下限は160nmであり、より好ましくは172nmである。
【0029】
上記紫外線の照射時間は、所望とする作用効果が有効に発揮されるように適宜調整すれば良いが、例えば1~300秒が好ましく、2~20秒がより好ましい。照射時間が短いと所望とする作用が有効に発揮されない。一方、照射時間が長いと、生産効率が低下する。
【0030】
本発明によれば、上記第1A工程または第1B工程の後、第2工程の前における樹脂表面粗さRaが0.2μm以下に制御される。Raが大きくなると、ファインパターン化に不利になるなどの問題がある。好ましくは0.2μm以下であり、より好ましくは0.15μm以下である。
【0031】
ここで上記Raは、プリント配線基板の製造方法において、第2工程の段階において測定されたものである。本発明では後記する実施例に記載のとおり、Bruker社製のレーザー顕微鏡(Contour GT-X)を用いてRaを測定した。
【0032】
(3)第2工程:
上記工程の後、第2工程を行う。この第2工程では、アミノ基を有するシランカップリング剤と;C49-(OC24)n-OH(n=1~4の整数)で表されるエチレン系グリコールブチルエーテル、および/またはC49-(OC36)n-OH(n=1~4の整数)で表されるプロピレン系グリコールブチルエーテルと;を含有する処理液を用いて、pH3~10下にて処理する。
【0033】
このように第2工程では、アミノ基を有するアミン系シランカップリング剤と、上記のエチレン系グリコールブチルエーテル、および/またはプロピレン系グリコールブチルエーテルと、を含む。以下では、本発明の第2工程に用いられるエチレン系またはプロピレン系のグリコールブチルエーテルをまとめて、グリコールブチルエーテルと略記する場合がある。
【0034】
本発明では、上記アミン系シランカップリング剤とグリコールブチルエーテルをまとめて「無電解めっき用前処理液」、または単に「処理液」と呼ぶ場合がある。後記する実施例の欄で実証したとおり、本発明で用いられる処理液は、使用時の安定性(貯蔵安定性)および浸透性の両方に優れている。
【0035】
ここで上記アミン系シランカップリング剤としては、例えば、Y-R-Si-(X)3の一般式で表されるシランカップリング剤、ベンゼン環などの環式化合物を有するシランカップリング剤、窒素などの複素原子を1または2以上含有する複素環式化合物を有するシランカップリング剤などが挙げられる。
【0036】
これらのうち上記一般式で表されるシランカップリング剤において、Xはアルコキシ基、アセトキシ基、クロル原子など;Y=アミノ基を意味する。このアミン系シランカップリング剤は、分子内に有機材料と反応結合する官能基Y(アミノ基)と、無機材料と反応結合する官能基Xを同時に含有し、加水分解により生成されるシラノールが無機材料と反応結合する。
【0037】
上記一般式で表されるシランカップリング剤のうち、好ましい例は、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩などである。
【0038】
上記環式化合物を有するシランカップリング剤としては、例えば、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらを使用する場合は、エチレングリコールなどの溶解助剤を併用する。溶解助剤を使用しない場合、処理液の安定性が低下するからである(後記する実施例を参照)。
【0039】
上記複素環式化合物を有するシランカップリング剤としては、例えば、1-(3-トリエトキシシリルプロピル)-2-イミダゾリンなどが挙げられる。これらを使用する場合は、エチレングリコールなどの溶解助剤を併用する。溶解助剤を使用しない場合、処理液の安定性が低下するからである(後記する実施例を参照)。
【0040】
また、上記のエチレン系グリコールブチルエーテル、および/またはプロピレン系グリコールブチルエーテルのグリコールブチルエーテルは前述した特許文献2に記載のものと同じである。これらの詳細は以下のとおりである。
【0041】
上記のグリコールブチルエーテルは、有機溶剤として使用されるグリコールエーテルの一種である。グリコールエーテルは、例えば塗料、インキなどの溶剤として使用されている。グリコールエーテルには、例えばエチレングリコールをベースとするエチレングリコール系(E.O.系)、プロピレングリコールをベースとするプロピレングリコール系(P.O.系)などが含まれる。上述したE.O.系およびP.O.系のグリコールエーテルのうち、特に、末端の水素がブチル基で置換されたエチレン系グリコールブチルエーテル、およびプロピレン系グリコールブチルエーテルは、浸透性向上効果に優れている。
【0042】
詳細には、後記する実施例に示すように、本発明で規定するグリコールブチルエーテル以外のグリコールエーテルを用いても、所望とする特性を兼備させることはできなかった。例えばE.O.系グリコールエーテルのうち、ブチル基でなくメチル基を有するエチレングリコール-ジメチルエーテルを用いた比較例は、浸透性が低下した。
【0043】
上記エチレン系グリコールブチルエーテルとしては、エチレングリコールブチルエーテル(n=1)、ジエチレングリコールブチルエーテル(n=2)、トリエチレングリコールブチルエーテル(n=3)、テトラエチレングリコールブチルエーテル(n=4)が挙げられる。
また、上記プロピレン系グリコールブチルエーテルとしては、プロピレングリコールブチルエーテル(n=1)、ジプロピレングリコールブチルエーテル(n=2)、トリプロピレングリコールブチルエーテル(n=3)、テトラプロピレングリコールブチルエーテル(n=4)が挙げられる。
【0044】
ここで、グリコールブチルエーテル中のブチルは、直鎖状でも分岐状でも良い。
【0045】
これらのうち、浸透性の更なる向上などを考慮すると、好ましいグリコールブチルエーテルはエチレン系グリコールブチルエーテルであり、より好ましくはジエチレングリコールブチルエーテル(例えば、ジエチレングリコール-モノ-n-ブチルエーテルなど)である。
【0046】
本発明では、上記グリコールブチルエーテルを単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。併用例としては、上記エチレン系グリコールブチルエーテルを二種以上用いる例、上記プロピレン系グリコールブチルエーテルを二種以上用いる例、上記エチレン系グリコールブチルエーテルと上記プロピレン系グリコールブチルエーテルをそれぞれ二種以上用いる例が挙げられる。
【0047】
上記第2工程では、最終的にpHを3~10の範囲に制御することが必要である。後記する実施例の欄で実証したとおり、pHが上記範囲を外れると、所望とするめっき密着性が有効に発揮されない。好ましいpHは3.5~9、より好ましいpHは4.5~5.5である。
【0048】
上記第2工程に用いられる処理液は、上記pHの範囲に調整するため、必要に応じてpH調整剤を含む。本発明に用いられるpH調整剤の種類は、pHを上記範囲に調整できるものであれば特に限定されず、例えば、ジエチレントリアミンなどのアミン化合物;硫酸;NaOHなどのアルカリ溶液が挙げられる。
【0049】
上記第2工程に用いられる処理液は、前述したアミノ基を有するアミン系シランカップリング剤と、上式グリコールブチルエーテルと、必要に応じてpH調整剤を含み、残部:水である。なお、上記処理液は、フッ素化合物、界面活性剤を含有しない。これらを添加しても上記効果は向上しないからである。
【0050】
ここで、上記アミン系シランカップリング剤と、グリコールブチルエーテルと、必要に応じて添加されるpH調整剤と、水の合計量を「処理液全量」としたとき、上記処理液全量に対する上記グリコールブチルエーテルの好ましい含有量(単独で含むときは単独の量であり、二種類以上を含むときは合計量である。)は0.1g/L以上、500g/L以下であり、より好ましくは10g/L以上、300g/L以下である。上記の下限を下回ると、グリコールブチルエーテルの添加効果が有効に発揮されず、浸透性が低下する。一方、上記の上限を超えて添加しても、グリコールブチルエーテルの添加効果は飽和し、経済的に無駄である。
【0051】
また、上記処理液全量に対する上記アミン系シランカップリング剤の好ましい含有量(単独で含むときは単独の量であり、二種類以上を含むときは合計量である。)は3g/L以上、500g/L以下であり、より好ましくは5g/L以上、300g/L以下である。上記の下限を下回ると、アミン系シランカップリング剤の添加効果が有効に発揮されず、めっき密着性が低下する。一方、上記の上限を超えて添加しても、アミン系シランカップリング剤の添加効果は飽和し、経済的に無駄である。
【0052】
また、上記処理液全量に対するpH調整剤の好ましい含有量は、使用するアミン系シランカップリング剤やグリコールブチルエーテルやpH調整剤の種類などによって相違し得るが、例えばpH調整剤として上記ジエチレントリアミンを用いる場合、おおむね、3g/L以上、50g/L以下であり、より好ましくは5g/L以上、30g/L以下である。
【0053】
上記第2工程において「グリコールブチルエーテルを用いて、pH3~10にて処理する」とは、好ましくは、前述した第1A工程または第1B工程で処理された基板を、グリコールブチルエーテルを含む上記処理液に浸漬することを意味する。浸漬条件は、例えば、温度:40~80℃、時間:1~20分で行なうことが好ましい。
【0054】
なお前述した特許文献1では、所定のグリコールエーテル(第1の処理液)で処理した後、所定のアミン系シランカップリング剤(第2の処理液)で処理する二段階処理法を採用しており、この順序で処理しないと所望の効果は得られないことを実証している。これに対し、本発明の第2工程では、グリコールブチルエーテルとアミン系シランカップリング剤を両方含む処理液を用いて、一段階で処理する。
【0055】
(4)必要に応じて、120℃以上の加熱処理
本発明では、上記第2工程の後、無電解めっきの前に、120℃以上の加熱処理を行なっても良い。加熱処理により、めっき密着性が一層向上する。好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上である。また、その上限は、ガラス転移温度などを考慮すると、おおむね180℃以下であることが好ましい。また加熱時間は所望の作用が有効に発揮される限り特に限定されないが、おおむね、5~30分の範囲に制御することが好ましい。
【0056】
本発明では、上記工程を採用した点に特徴があり、それ以外の工程は本発明の技術分野で通常採用される一般的な方法を採用することができ、特に限定されない。具体的には、例えば、以下のとおりである。
【0057】
本発明に用いられる樹脂はデスミア処理などに通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、電気絶縁樹脂として広く用いられているエポキシ樹脂の他、イミド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ノボラック樹脂、メラミン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂、シロキサン樹脂、マレイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホンなどが挙げられる。勿論、これに限定されず、上記のほか、例えば前述した樹脂から選択された2種以上の樹脂を任意な割合で混合して生成した樹脂なども使用可能である。
【0058】
また、上記第1A工程、または第1B工程を行なった後、必要に応じて、超音波処理を行なっても良く、これにより、めっき密着性が一層向上する。超音波の処理条件として、例えば、周波数を20~200kHzの範囲に制御することが好ましい。より好ましくは24~100kHzである。周波数が上記下限を下回る場合、上記効果が有効に発揮されない。一方、周波数が上限を超えると、基板へのダメージが大きくなる。また、超音波の照射時間は、おおむね、10秒~10分の範囲に制御することが好ましい。照射時間が10秒未満の場合、上記効果が有効に発揮されない。一方、照射時間が10分を超えると、内層金属に対して過剰なエッチングが生じる虞がある。
【0059】
その後、清浄化処理を行なっても良い。
【0060】
上記清浄化処理で樹脂基板をクリーニングすることよって、樹脂基板表面のゴミなどが除去されて表面が清浄化すると共に、樹脂基板に水濡れ性が付与されるため、めっき皮膜との密着性が一層向上する。上記清浄化処理に用いられる溶液の種類は特に限定されず、例えば、ノニオン界面活性剤及びカチオン界面活性剤の両方を少なくとも含むクリーナー・コンディショナーなどが用いられる。具体的には、クリーナー・コンディショナー中に、約40℃で5分間、上記の表面処理を施した樹脂基板を浸漬することが好ましい。
【0061】
以上のようにしてめっき前処理を行なった後、めっき処理を施す。めっき処理の方法は特に限定されず、例えばセミアディティブ法、フルアディティブ法など、通常用いられる方法を採用してめっき皮膜を形成する。めっき処理の詳細は、例えば前述した特許文献1や、特開2015-71821号公報の記載などを参照することができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
実施例1
ここでは、表1および表2に示す手順に従って試料を作製し、本発明で規定する第1A工程(紫外線照射)と第2工程の有用性を検討した。
【0064】
味の素ファインテクノ社製の絶縁樹脂(GL102)をラミネートした樹脂基板を用い、表1に示すように紫外線の波長および照射時間を種々変更して紫外線照射を行なった。比較のため、紫外線照射を行わないものも用意した。必要に応じて熱処理(160℃で15分)を行なった。
【0065】
このときの樹脂表面粗さRaを表3に示す。Raは、Bruker社製のレーザー顕微鏡(Contour GT-X)を用いて測定した。
【0066】
なお、第2工程(グリコールエーテルおよびシランカップリング剤、これらをまとめて「処理液」と呼ぶ場合がある。)の詳細は表1に示すとおりであり、種々のタイプのシランカップリング剤を用いた。処理液中のグリコールエーテルおよびシランカップリング剤の濃度を表1に示す。
上記処理液のpHは表1に示すとおりであり、必要に応じて所定のpHとなるように表1に示すpH調整剤を用いた。表1において「pH調整剤」の欄がなしとは、pH調整剤を添加することなしに表1に記載のpHに調整されたことを意味する。
比較のため、グリコールエーテルおよびシランカップリング剤のいずれか一方を添加しなかったものも用意した。
【0067】
次いで、表2に示すようにクリーナー・コンディショナー、ソフトエッチング、酸洗を行なってから、触媒付与プロセス(プレディップ、アクチベーター、レデューサー、アクセレレーター)によりPd触媒を付与した後、無電解銅めっきを行なった後、乾燥、熱処理(150℃30分)を実施した。クリーナー、酸洗を行なってから、2.5A/dm2の条件で電気銅めっきを行ない、厚み25μmの銅めっき皮膜を形成した。その後、変色防止処理、200℃45分の熱処理を行ない、試料を作製した。
【0068】
このようにして作製した試料を用い、めっき皮膜と樹脂基板との密着強度を以下のようして測定した。
【0069】
(めっき皮膜と樹脂基板との密着強度の測定)
上記試料に1cm幅の切り込みを入れ、JIS-C5012「8.5 めっき密着性」に記載の方法に基づき、90°剥離試験を行ない、ピール強度を測定した。ピール強度は、島津製作所製AUTOGRAPH AGS-Xを用いて測定した。
【0070】
更に表1に記載の処理液について、以下のようにして安定性および浸透性を評価した。
【0071】
(安定性の評価)
本実施例では、目視で外観を確認して安定性を評価した。
【0072】
(浸透性の評価)
本実施例では、フェルト沈降法により処理液の浸透性を評価した。浸透性評価のため、縦20mm×横20mm×厚さ3mmのサイズにカットしたフェルト(米島フェルト産業株式会社製JA 3t)を準備した。
【0073】
まず、100mLビーカーに各種処理液を100mL注ぎ、後記する表3に記載の温度(40℃)まで昇温した。次に、処理液の液面より上20~30mmの位置からフェルトを落下させ、フェルトが処理液の液面に接したときから、処理液の液面を離れる(沈降し始める)までの時間を測定した。フェルトに処理液が浸透すると沈降するため、この時間が短いほど、浸透性に優れると評価される。
【0074】
これらの結果を表3に記載する。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
表3より以下のように考察することができる。以下は表3のNo.である。
【0079】
まず、No.1~7は、本発明の方法で製造した本発明例であり、エチレングリコール系(No.1~6)、プロピレングリコール系(No.7)のいずれにおいても、ピール強度は500gf/cm以上となり、めっき皮膜との密着性に優れている。
また上記例で用いたグリコールブチルエーテルはいずれも、安定性および浸透性が良好であった。
【0080】
これに対し、本発明のいずれかの要件を満足しない処理液を用いた下記の比較例は、以下の不具合を抱えている。
【0081】
No.8は第2工程においてグリコールエーテルを全く添加しなかった例、No.9は本発明で規定するグリコールブチルエーテルを添加しなかった例であり、いずれも浸透性が低下した。
【0082】
No.10は、第1A工程および第2工程を全く行わなかった例であり、めっき密着性が低下した。
【0083】
No.11は、第2工程においてアミン系シランカップリング剤を添加しなかった例であり、めっき密着性が低下した。
【0084】
No.12は、第1A工程において、波長の長い紫外線を照射した例であり、めっき密着性が低下した。
【0085】
No.13は、第2工程において、アミン系でなくエポキシ系のシランカップリング剤を添加した例であり、めっき密着性が低下した。
【0086】
No.14は処理液のpHが低い例、No.15は処理液のpHが高い例であり、いずれもめっき密着性が低下した。
【0087】
No.16は、前述したNo.5で用いたアミン系シランカップリング剤の溶解助剤を添加しなかった例であり、建浴後1日目に白濁した。
【0088】
No.17は、前述したNo.6で用いたアミン系シランカップリング剤の溶解助剤エチレングリコールを添加しなかった例であり、建浴後1日目に白濁した。
【0089】
実施例2
ここでは、表4および表5に示す手順に従って試料を作製し、本発明で規定する第1B工程(デスミア処理の改変)と第2工程の有用性を検討した。
【0090】
第1B工程の条件、および第2工程で用いた処理液の詳細を表4に示す。各No.における処理液中のグリコールエーテルおよびシランカップリング剤の濃度を表4に示す。
【0091】
上記処理液のpHは表4に示すとおりであり、pH調整剤は添加しなかった。
比較のため、シランカップリング剤を添加しなかったものも用意した。
【0092】
本実施例では、前述した実施例1において、表5に記載の工程に従って試料を作製したこと以外は上記実施例1と同様にして試料を作製すると共に、各種特性を評価した。
【0093】
これらの結果を表6に記載する。表6に示す樹脂表面粗さRaは、第1B工程の後、第2工程の前に測定したものである。
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
表6より以下のように考察することができる。以下は表6のNo.である。
【0098】
No.1は、本発明の方法で製造した本発明例であり、ピール強度は600gf/cmを超えて、めっき皮膜との密着性に優れている。
また上記例で用いたグリコールブチルエーテルはいずれも、安定性および浸透性が良好であった。
【0099】
これに対し、No.2は、第2工程においてアミン系シランカップリング剤を添加しなかった例であり、めっき密着性が低下した。
【0100】
またNo.3は、第1B工程において、高温且つ長時間のデスミア処理(いわゆる強デスミア)を行った例であり、樹脂表面粗さRaが高くなった。