(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】電動機の界磁位置検出方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/185 20160101AFI20230216BHJP
【FI】
H02P6/185
(21)【出願番号】P 2019106914
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一輝
(72)【発明者】
【氏名】溝口 勝俊
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特許第6284207(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石界磁を有する回転子とデルタ結線された三相コイルを有する固定子を備え、定電圧直流電源を供給して120°矩形波通電により始動する電動機の界磁位置検出方法であって、
三相ハーフブリッジ型インバータ回路を介して二相コイルに通電する出力手段と、
二相コイルに正方向通電及び逆方向通電の合計6通りの通電パターンと各通電パターンに対応する120°通電の励磁切り替え区間を指定する界磁位置情報を記憶し、上位コントローラからの回転指令に応じて前記出力手段をスイッチング制御して励磁状態を切り替える制御手段と、
前記出力手段の接地側端子と接続し、コイル電流値を測定可能なA/Dコンバータ手段と、を備え、
前記二相コイルに対するセンシング通電直前に前記出力手段の出力をすべて遮断しすべてのコイルに蓄積されたコイル蓄積エネルギーを放出させてコイル電流ゼロ状態とする通電オフステップと、
デルタ結線された前記三相コイルのうち二相コイルを測定対象として、前記制御手段は6通りの通電パターンから順次一つを選択し定電圧矩形波パルスを所定のセンシング通電時間だけ印可し、前記A/Dコンバータ手段によりセンシング通電終了直前のピークコイル電流値を測定して測定データとして記憶する測定ステップと、
前記測定対象となる二相コイルに対する正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択し、残る二相コイルについても正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択し合計6通電パターンについて通電オフとセンシング通電によるピークコイル電流値の測定を繰り返し、各センシング通電終了直前のピークコイル電流値を測定して測定データとして記憶するステップと、を含み、
前記制御手段は、6通電パターンの測定データのうち測定値が最大となる通電パターンを選択し、最大通電パターンに対応する前記界磁位置情報から永久磁石界磁位置を特定することを特徴とする電動機の界磁位置検出方法。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ピークコイル電流値が最大となる通電パターンに次いで電流値が大きい通電パターンを特定することで電気角30°単位で永久磁石界磁位置を特定する請求項1記載の電動機の界磁位置検出方法。
【請求項3】
永久磁石界磁を有する回転子が始動した後、現在区間及び回転方向に隣接する区間に対応する2個の通電パターンについてセンシングを行い、双方の測定データの大小比較により次に出現する励磁区間境界点を検出する請求項1又は請求項2記載の電動機の界磁位置検出方法。
【請求項4】
永久磁石界磁を有する回転子が始動した後、現在区間及び正転方向及び逆転方向に隣接する区間に対応する3個の通電パターンについてセンシングを行い、それぞれの測定データの大小比較により次に出現する励磁区間境界点を検出し回転方向も判別する請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項記載の電動機の界磁位置検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサレスモータやリニアアクチュエータなどの電動機の界磁位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型直流モータはブラシ付きDCモータが用いられてきたが、ブラシ音・電気ノイズ・耐久性等に問題がありブラシレスDCモータが登場した。さらに最近では小型軽量化・堅牢化・ローコスト化等の観点から位置センサを持たないセンサレスモータが注目され、まず情報機器分野のハードディスクドライブ等に採用されたがベクトル制御技術の発展により家電・車載分野でも採用され始めた。
【0003】
図1Bに位置センサを備えないセンサレスモータの一例として三相ブラシレス直流(DC)モータの構成を示す。回転子1は回転子軸を中心に回転可能に設けられ、永久磁石界磁として2極の永久磁石2が設けられている。固定子3には120°位相差で極歯4が永久磁石2に対向して配置されている。各極歯4(U相,V相,W相)に巻線u,v,wを設け中性点(コモン)を介してスター結線されている。
【0004】
図8に従来のセンサレス駆動回路例のブロックダイアグラムを示す。MOTORは三相センサレスモータである。MPUはマイクロプロセッサ51(制御手段)である。INVは、3相ハーフブリッジ構成のインバータ回路52(出力手段)である。RSは電流センサ57である。ADCはコイル電流値をデジタル値に変換するA/Dコンバータ54である。なお実際の回路にはこのほかに電源部、位置センサ入力部あるいはゼロクロスコンパレータとダミーコモン生成部、ホストインターフェース部等が必要であるが煩雑化を避けるため省略してある。
【0005】
図9に三相ブラシレスDCモータの駆動方式の代表的な例として120°通電のタイミングチャートを示す。区間1はU相からV相に、区間2はU相からW相に、区間3はV相からW相に、区間4はV相からU相に、区間5はW相からU相に、区間6はW相からV相に、矩形波通電される。破線は誘起電圧波形である。HU~HWはモータに内蔵されるホールセンサの出力波形であり、従来の位置センサ付きブラシレスDCモータはこの信号に基づいて励磁切り替えが行われる。
【0006】
センサレス駆動では誘起電圧から回転子位置を検出するが、零速時は誘起電圧が発生しないため回転子位置が判らず始動できない。静止時の回転子位置を検出するために
図8に示したようにコイル電流センサと電流検出回路を設け、インバータを用いてPWM駆動によりコイルにサイン波状のコイル電流を流して電流応答から位置を推定する方法がある。シンプルなハード及びソフトにより低コスト化を図り、瞬時に永久磁石界磁位置を検出可能な電動機の界磁位置検出方法として以下の特許文献1(特許6284207号公報)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献は、モータ静止状態で、三相コイルに三相センシングパルス(定電圧矩形波パルス)電圧を順次加えて測定対象相に対する正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択し、残る二相についても正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択し合計6通電パターンについて通電オフとセンシング通電によるピークコイル電流値の測定を繰り返し、測定対象相となるコイルへのピークコイル電流を測定することで電気角60°単位で永久磁石界磁の静止位置を特定するものである。
しかしながら、上記検出方法は、モータコイルがスター結線用の界磁位置検出方法である。デルタ結線されたモータに三相コイルに三相センシングパルス(定電圧矩形波パルス)電圧を印加した場合、
図3の丸印に示すように、ピークコイル電流のピーク電流値の判別がし難く、コイルの個体差やノイズなどの影響を受けやすいため、そのまま適用することができない。なお、本願ではスター結線をY結線、デルタ結線をΔ結線と記載している箇所がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、永久磁石界磁を有する回転子とデルタ結線された三相コイルを有する固定子を備えた電動機の永久磁石界磁位置を瞬時に検出可能な電動機の界磁位置検出方法を提供することにある。
【0010】
以下に述べるいくつかの実施形態に関する開示は、少なくとも次の構成を備える。
永久磁石界磁を有する回転子とデルタ結線された三相コイルを有する固定子を備え、定電圧直流電源を供給して120°矩形波通電により始動する電動機の界磁位置検出方法であって、三相ハーフブリッジ型インバータ回路を介して二相コイルに通電する出力手段と、二相コイルに正方向通電及び逆方向通電の合計6通りの通電パターンと各通電パターンに対応する120°通電の励磁切り替え区間を指定する界磁位置情報を記憶し、上位コントローラからの回転指令に応じて前記出力手段をスイッチング制御して励磁状態を切り替える制御手段と、前記出力手段の接地側端子と接続しコイル電流値を測定可能なA/Dコンバータ手段と、を備え、前記二相コイルに対するセンシング通電直前に前記出力手段の出力をすべて遮断しすべてのコイルに蓄積されたコイル蓄積エネルギーを放出させてコイル電流ゼロ状態とする通電オフステップと、デルタ結線された前記三相コイルのうち二相コイルを測定対象として、前記制御手段は6通りの通電パターンから順次一つを選択し定電圧矩形波パルスを所定のセンシング通電時間だけ印可し、前記A/Dコンバータ手段によりセンシング通電終了直前のピークコイル電流値を測定して測定データとして記憶する測定ステップと、前記測定対象となる二相コイルに対する正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択し、残る二相コイルの組み合わせについても正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択し合計6通電パターンについて通電オフとセンシング通電によるピークコイル電流値の測定を繰り返し、各センシング通電終了直前のピークコイル電流値を測定して測定データとして記憶するステップと、前記制御手段は、6通電パターンの測定データのうち測定値が最大となる通電パターンを選択し、最大通電パターンに対応する前記界磁位置情報から永久磁石界磁位置を特定することを特徴とする。
【0011】
これにより、モータ静止状態で、デルタ結線された三相コイルのち二相コイルにセンシングパルス(定電圧矩形波パルス)電圧を順次加えてピークコイル電流を測定することで、ピークコイル電流の判別がし易くなり、コイルの個体差やノイズなどの影響を受け難いため、瞬時に永久磁石界磁の静止位置を特定することができる。また、既存回路への組み込みが容易であり、特にコイル電流測定手段をすでに備えているモータ駆動回路の場合はプログラムの変更だけで組み込むことができる。
【0012】
前記制御手段は、前記ピークコイル電流値が最大となる通電パターンに次いで電流値が大きい通電パターンを特定することで電気角30°単位で永久磁石界磁位置を特定するようにしてもよい。
これにより、最大通電パターンに次ぐ2番目に多く流れた通電パターンを検出することで電気角30°ピッチで回転子位置をより細かく判別することができる。
【0013】
永久磁石界磁を有する回転子が始動した後、現在区間及び回転方向に隣接する区間に対応する2個の通電パターンについてセンシングを行い、双方の測定データの大小比較により次に出現する励磁区間境界点を検出するようにしてもよい。
【0014】
永久磁石界磁を有する回転子が始動した後、現在区間及び正転方向及び逆転方向に隣接する区間に対応する3個の通電パターンについてセンシングを行い、それぞれの測定データの大小比較により次に出現する励磁区間境界点を検出し回転方向も判別するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
電動機の界磁位置検出方法を用いれば、センサレス駆動において閉ループ制御で始動が可能となりセンサレスモータやリニアアクチュエータなど電動機の用途を拡大することができる。また、測定原理が明快で駆動回路もシンプルなことから既存回路への組み込みも容易である。
従来の大電流低周波数のサイン波通電に比べ本案は短時間の矩形波パルスを印可するため、電流波形は鋸波となり投入エネルギーを抑制でき、また急速にエネルギーを放出する期間を設けることとあいまって初期位置検出時間を1ms程度と大幅に短縮することができる。
センシング通電を同一二相コイルにて正方向通電・逆方向通電と連続して行うことでセンシング通電による微振動を打ち消し、それにより測定誤差が低減され高精度測定ができる。
永久磁石界磁極性によるインダクタンス変化を検出することから従来は位置検出が困難であった突極比が小さくリラクタンス変化がほとんどない表面磁石型モータやスロットレスモータでも位置検出でき、各種の幅広い範囲のセンサレスモータあるいはリニアアクチュエータについて、静止時の永久磁石界磁位置を電気角60°または電気角30°単位で特定することができる。
モータ駆動電圧に無関係に数Vの低電圧領域で測定でき、測定回路は低電圧回路で構成でき複雑な位置推定演算も不要である。よってハード・ソフトの両面からローコストな駆動回路を実現できる。
さらに始動時の低速回転域に本案を適用することでクローズドループ制御により誘起電圧を検出可能な回転数まで立ち上げる事ができる。また、過負荷あるいは停止位置にて静止した場合でも励磁を継続でき脱調を防止できる。さらに正逆回転が可能なことから従来のセンサレス駆動では不可能であった突き当て停止を含む往復運動にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】デルタ結線された三相ブラシレスDCモータとスター結線された三相ブラシレスDCモータの説明図である。
【
図2】逆起電圧と電気角の関係を示す波形図である。
【
図3】スター結線及びデルタ結線のされた三相コイルの三相通電による通電波形図である。
【
図4】デルタ結線された三相コイルのうち二相通電の通電波形図である。
【
図5】三相センサレスモータのモータ駆動回路のブロック構成図である。
【
図6】三相コイルに定電圧矩形波パルスを印可したときの電流波形模式図である。
【
図8】従来のモータ駆動回路のブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る電動機の界磁位置検出方法の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本願発明は、電動機の一例として、回転子に永久磁石界磁を備え、固定子に巻き線を120°位相差で配置してデルタ結線し、相間端子がモータ出力手段に接続された三相センサレスモータを用いて説明する。尚、モータによりアクチュエータを往復動させるリニアアクチュエータに用いることも可能である。
【0018】
以下では、一例として三相DCブラシレスモータをセンサレス駆動するセンサレスモータの永久磁石界磁位置検出方法について、センサレスモータ駆動装置の構成と共に説明する。
図1を参照して本発明に係る三相ブラシレスDCモータの一実施例を示す。一例として2極永久磁石ロータと3スロットを設けたステータコアを備えた三相DCブラシレスモータを例示する。モータはインナーロータ型を例示してるがアウターロータ型でもよい。また、永久磁石型界磁としては永久磁石埋め込み型(IPM型)モータや表面永久磁石型(SPM型)モータのいずれであってもよい。
【0019】
図1Aにおいて、回転子1は回転子軸を中心に回転可能に設けられ、永久磁石界磁として2極の永久磁石2が設けられている。固定子3には120°位相差で極歯4が永久磁石2に対向して配置されている。固定子3の各極歯4(U相,V相,W相)には巻線u,v,wを設けてデルタ結線されている。相間にU端子、V端子、W端子が設けられ後述するモータ駆動装置に配線された三相ブラシレスDCモータとなっている。
【0020】
次に、三相センサレスモータのモータ駆動回路の一例を
図5に示す。
始動時の駆動方式としては120°通電バイポーラ矩形波励磁を想定している。
MOTORは三相センサレスモータである。MPUはマイクロプロセッサ51(制御手段)である。MPU51は、三相コイル(U,V,W)に対する6通りの通電パターンと各通電パターンに対応する120°通電の励磁切り替え区間(区間1~区間6)を指定する界磁位置情報を記憶し、上位コントローラ50からの回転指令に応じて出力手段をスイッチング制御して励磁状態を任意に切り替える。
【0021】
インバータ回路52(INV:出力手段)は、三相コイルに通電し、モータトルクを制御するために励磁相切り替えあるいはPWM制御回路53によるスイッチング動作を行う。インバータ回路52は、スイッチング素子に逆並列に接続されるダイオードを備え、正極電源ライン及び接地電源ラインに任意に接続可能なハーフブリッジ型スイッチング回路が三相分設けられている。
【0022】
インバータ回路52の共通接地側端子にはコンパレータ54(COMP:コンパレータ手段)の入力端子に接続されている。コンパレータ54の出力はA/Dコンバータ55(ADC:Analog-to-Digital Converter,アナログ‐デジタル変換回路、A/Dコンバータ手段)へ送出される。A/Dコンバータ55は、コンパレータ54の出力からコイル電流値を測定する。
【0023】
また、センシングパルスの通電時間を測定するMPU51が備える図示しない タイマー56(TMR:タイマー手段)が設けられている。タイマー56は、センシングパルスの所定通電時間tの経過を測定する。A/Dコンバータ55とタイマー56は高性能なものは必要なく、低廉なMPU51に内蔵されるもので実用になる。例えば、12ビット、データアクイジョン時間1us、変換時間20us程度のADCは一般的な汎用MPUマイクロプロセッシングユニットに搭載されており本検出方法の目的に対しては充分である。またタイマー56に関しても10MHz程度の低速のMPUクロックでも使用可能である。以上の構成により三相通電の6通電パターンについてピークコイル電流値測定を行い、最大の測定データから最大パターンを検出し、それに対応するあらかじめMPU51に記憶されている界磁位置情報を回転子位置として特定する。
【0024】
ここで、永久磁石界磁位置の検出原理について説明する。
コイルに定電圧パルスを印可した時の電流は次式で上昇する。
I(t)=(L/R)・(1-e
(-t・R/L))
但し、Iはコイル電流、Lはコイルインダクタンス、Rはコイル抵抗
図6にてコイルに定電圧矩形波パルスを印可したときの電流波形模式図を示す。
ここでコイル抵抗Rは一定でありピーク電流値I(t)を所定値とすれば通電開始t
0からピーク電流値I(t)に到達するまでの到達時間tはインダクタンスLを反映する。或いは、パルス時間tを所定値とすれば、ピーク電流値I(t)はインダクタンスLを反映する。
【0025】
また三相モータの三相通電パターンは以下の表1に示す6種類である。
【表1】
図7に、三相コイルに出力オフ期間を置きコイル電流ゼロ状態として上記6個の三相通電パターンを順次選択して高周波定電圧矩形波パルスを印可した時の電流波形を示す。上記センシングパルスにより回転子位置を検出する方法としては、ピーク電流値を所定の一定値としてパルス時間tを測定する方法と、パルス時間tを所定の一定値としてピーク電流値を測定する方法がある。
【0026】
以下では、パルス時間tを所定値としてピーク電流値を測定する方法について説明する。まず三相コイルすべての通電をオフとしてコイル電流ゼロとなるまで待つ。次に表1に基づいて6通りの通電パターンから順次一つを選択し三相コイルのうち二相コイルに定電圧矩形波パルスを印可してセンシング通電を開始しタイマー56により所定時間待つ。所定時間経過したらA/Dコンバータ55で電流センサ53の出力からコイルピーク電流値を測定し、測定データとして記憶する。再び三相すべての通電をオフとしコイル電流がゼロになるまで待つ。
【0027】
測定対象となる二相コイルに対する正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択し、残る二相コイルについても正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択し表1に示す合計6通電パターンについて通電オフとセンシング通電によるピークコイル電流値の測定を繰り返す。
図4にデルタ結線された三相コイルのうち二相を選択して通電した電流波形を示す。MPU51は、測定された6つのデータからピークコイル電流値が最大値となる通電パターンを選ぶ。
【0028】
次に表2に基づいて最大通電パターンに対応する界磁位置情報を永久磁石界磁位置と特定する。最大通電パターンと次に大きい通電パターンと永久磁石界磁位置情報の関係を以下の表2に示す。なお、通電パターンの表記は例えばW相を正側電源に接続し、U相を接地側(負側)に接続する場合を「W-U」と表記する。また参考までに該当する120°通電方式の励磁パターンを付記した。記載された励磁パターンで二相に通電すれば正転し、通電方向を逆にすれば逆転する。
【表2】
【0029】
表2を用いて回転子位置を特定する具体的な方法を説明する。
図2に示すように、コイル電流がピーク電流値となる最大の通電パターンは120°通電の励磁区間である60°ピッチで切り替わる。従ってピーク電流値となる最大の通電パターンが判れば一義的に回転子位置が決定でき、120°通電にてモータを始動することができる。最大ピーク電流通電パターンと界磁位置情報の関係は表2の最大通電パターンと同一である。
【0030】
静止時に二相コイルに対して6パターンについてそれぞれ一定時間通電しピーク電流値を測定する。通電パターンの順序は表1に準ずる。その結果、例えばU-W通電時のピーク電流値が最大であったとすると、表2より界磁位置は180°~240°の区間に位置していると判る。また、次に大きい通電パターンがU-V通電パターンであるとすると、界磁位置は180°~210°の区間に位置していることが判る。この場合、
図9に示す120°通電方式にてV相を電源+側にW相を接地側に接続するV-W励磁を行えば回転子は正転方向に始動し、逆方向のW-V励磁を行えば回転子が逆転する。
【0031】
これにより、モータ静止状態で、デルタ結線された三相コイルのち二相コイルにセンシングパルス(定電圧矩形波パルス)電圧を順次加えてピークコイル電流を測定することで、
図4に示すようにピークコイル電流の判別がし易くなり、コイルの個体差やノイズなどの影響を受け難いため、瞬時に永久磁石界磁の静止位置を特定することができる。
【0032】
以上の実施例では、タイマー56によるセンシングパルス時間tを一定としてピーク電流値をA/Dコンバータで測定する方法について説明したが、電流閾値を一定として到達時間をタイマー56で測定する方法でも同様の効果が得られ、測定データの大小関係を反転させれば同様の原理で界磁位置検出が可能である。
【0033】
静止時に三相通電の6パターンについてそれぞれ通電し一定電流に到達する時間を測定する。通電パターンの順序は表1に準ずる。その結果例えばU-W通電時の到達時間が最小であったとすると、表2より界磁は電気角180°~240°の区間に位置していると判る。そして、
図9に示す120°矩形波通電方式にてV相を正側電源に接続しW相を接地側に接続するV-W励磁を行えば回転子は正転方向に始動し、逆方向のW-V励磁を行えば回転子は逆転する。このように本案によれば極めて容易に位置検出を行うことが可能となる。
【0034】
タイマー56は、インバータ回路52から出力されたセンシングパルスによる通電開始からコイル電流が電流閾値に到達するまでのパルス幅時間を測定する。タイマー56はMPU51に内蔵されており、センシングパルス通電開始からコイル電流が電流閾値を超えるまでの時間を測定する。計時クロックとしてMPUクロックを利用できるので10nsオーダーの高精度測定ができ、また24ビット以上の広いダイナミックレンジを持つことも容易である。測定データはMPU51のメモリーに送出する。タイマー56で測定されたパルス幅時間は、MPU51からのリセット信号にてリセットされる。
【0035】
MPU51は、タイマー56からの測定対象となる二相コイルの測定データを記憶し、位置検出処理を行う。具体的な位置検出処理例としては、三相コイルのうち二相コイルを測定対象として正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択して通電し、デルタ結線された残りの二相についても同様の通電パターンを繰り返すことで合計6通りの通電パターンについて通電して、通電時間を測定データとして記憶するステップを繰り返す。そして、MPU51は、三相通電の6通電パターンについて到達時間測定を行い、最小の測定データから最小パターンを検出し、それに対応するあらかじめ記憶されている永久磁石界磁位置情報を回転子位置とする。
【0036】
また、本検出方法は静止時のみならず低速回転時の界磁位置検出も可能である。回転時はすでに回転子位置が判っていることから、6パターンについてセンシングする必要はなく、次に出現する励磁切り替え点を検出するだけで回転を継続することができる。励磁切り替え点までは現在の通電状態を続け、励磁切り替え点を検出したら励磁シーケンスを歩進すればよい。
【0037】
さらに3通電パターンについて測定すれば回転方向の判別も可能である。現在区間及び正転方向及び逆転方向に隣接する区間に対応する3個の通電パターンについて周期的にセンシングを行い、それぞれの測定データの大小比較をすることで次に出現する正転方向あるいは逆転方向の励磁区間境界点を検出し、どちらの励磁境界点を先に検出したかにより回転方向も判別することができる。
【0038】
ここで、
図5のモータ駆動回路図及び
図4の電流波形図を参照しながら、MPU51による回転子位置検出手順の一例について説明する。
【0039】
あらかじめ6個の二相コイルへの通電パターンと永久磁石界磁位置情報をメモリーに記憶しておく。センシング時間はタイマー56により設定しておく。上位コントローラ50による回転指令等により位置検出開始する。位置検出を開始するときは、三相コイルのすべての出力をオフし所定時間だけ待つ。これにより、コイル電流がゼロ状態となる(通電オフステップ)。
【0040】
次いで、二相通電の所定パターンにてインバータ回路52から二相コイルに対して定電圧矩形波通電とA/Dコンバータ55による測定を開始する。A/Dコンバータ55によりセンシング通電終了直前のピークコイル電流値を測定して測定データとして記憶する(測定ステップ)。尚、インバータ回路52による三相コイルに対する通電を遮断すると、コイル蓄積エネルギーの放出が始まる。
【0041】
測定対象となる二相コイルに対する正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択して通電し、残る二相についても正方向通電パターンに続いて逆方向通電パターンを選択し合計6通電パターンについて定電圧矩形波通電とA/Dコンバータ55によるピークコイル電流値の測定動作を繰り返す(
図4参照)。MPU51は測定完了すると、6個の測定データから測定値が最大となる通電パターンを選択し、最大通電パターンに対応する界磁位置情報から回転子位置検出を終了する。
【0042】
MPU51は上位コントローラ50からの回転指令に応じてインバータ回路52により三相コイルに対して二相120°矩形波通電で始動開始することができる。インバータ回路52は、PWM制御回路を通じて回転子1の回転方向を付勢するように三相コイルのうち二相を選んで通電する。
【0043】
なお、モータ駆動回路の構成や制御プログラム構成は様々考えられ、本実施例に開示された態様に限定されるものではなく、上述した界磁位置検出方法はその趣旨を逸脱しない範囲で電子回路技術者あるいはプログラマー(当業者)であれば当然なし得る回路構成の変更やプログラム構成の変更も含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1 回転子 2 永久磁石 3 固定子 4 極歯 50 上位コントローラ51 MPU(マイクロプロセッサ) 52 インバータ回路 53 PWM制御回路 54 コンパレータ 55 A/Dコンバータ 56 タイマー 57 電流センサ