(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】残留熱除去設備、その運転方法及び残留熱除去方法
(51)【国際特許分類】
G21C 15/18 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
G21C15/18 Y
G21C15/18 T
(21)【出願番号】P 2019111585
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久島 和夫
(72)【発明者】
【氏名】池尻 智史
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-171394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格納容器に設けられた圧力抑制室に保持されるプール水の水温を計測する温度計と、
相互に並列接続する熱交換器及びバイパス路が設けられる配管回路と、
前記圧力抑制室に保持されているプール水を前記配管回路に流出させるポンプと、
前記配管回路に流出された後に前記格納容器内に放出される前記プール水の全流量値を計測する流量計と、を備え
、
計測した前記水温が閾値を超過する場合に、前記熱交換器に流出させる前記プール水の流量が、前記水温に応じて予め設定された上限値を超えないように調整される残留熱除去設備
であって、
前記バイパス路を閉止して前記プール水を流出させた場合、前記熱交換器の除熱量が限界となる前記水温と前記上限値との第1相関データを保持する第1保持部と、
前記バイパス路を開放して前記プール水を流出させた場合、前記熱交換器の除熱量が限界となる前記水温と前記上限値との第2相関データを保持する第2保持部と、
前記熱交換器及び前記バイパス路よりも上流側又は下流側の前記配管回路に設けられ前記全流量値を調整する調整弁を操作する操作部と、
前記熱交換器に分流する前記プール水を開放/閉止する第1開閉弁及び前記バイパス路に分流する前記プール水を開放/閉止する第2開閉弁の設定を切り替える切替部と、を備え、
前記水温が前記閾値を超過する場合、前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁を共に開放に設定し、
計測した前記水温を前記第2相関データに照合して得た前記上限値が前記全流量値として計測されるように前記調整弁を操作し、
前記全流量値が前記ポンプの定格値に到達した時点の前記水温を前記第1相関データに照合して得た前記上限値が前記全流量値として計測されるように前記調整弁を操作し、
計測される前記水温及び前記全流量値が前記第1相関データに乗った時点で前記第2開閉弁の設定を開放から閉止に切り替え、
計測した前記水温を前記第1相関データに照合して得た前記上限値が前記全流量値として計測されるように前記調整弁を操作し、
前記水温が前記閾値を超過しなくなった時点で、前記全流量値が前記ポンプの定格値に略一致するように前記調整弁を操作する、残留熱除去設備。
【請求項2】
格納容器に設けられた圧力抑制室に保持されるプール水の水温を計測する温度計と、
相互に並列接続する熱交換器及びバイパス路が設けられる配管回路と、
前記圧力抑制室に保持されているプール水を前記配管回路に流出させるポンプと、
前記配管回路に流出された後に前記格納容器内に放出される前記プール水の全流量値を計測する流量計と、を備え
、
計測した前記水温が閾値を超過する場合に、前記熱交換器に流出させる前記プール水の流量が、前記水温に応じて予め設定された上限値を超えないように調整される残留熱除去設備
であって、
前記バイパス路を閉止して前記プール水を流出させた場合、前記熱交換器の除熱量が限界となる前記水温と前記上限値との第1相関データを保持する第1保持部と、
前記熱交換器に分流する前記プール水の分流量値を調整する第1調整弁を操作する第1操作部と、
前記バイパス路に分流する前記プール水の流量を調整する第2調整弁を操作する第2操作部と、を備え、
前記水温が前記閾値を超過する場合、計測した前記水温を前記第1相関データに照合して得た前記上限値が前記分流量値として計測されるように前記第1調整弁を操作し、
前記全流量値が前記ポンプの定格値として計測されるように前記第2調整弁を操作し、
前記水温が前記閾値を超過しなくなった時点で、前記第1調整弁を全開に前記第2調整弁を全閉に操作し、前記分流量値を前記定格値に略一致させる、残留熱除去設備。
【請求項3】
格納容器に設けられた圧力抑制室に保持されるプール水の水温を計測する温度計と、
相互に並列接続する熱交換器及びバイパス路が設けられる配管回路と、
前記圧力抑制室に保持されているプール水を前記配管回路に流出させるポンプと、
前記配管回路に流出された後に前記格納容器内に放出される前記プール水の全流量値を計測する流量計と、を備え
、
計測した前記水温が閾値を超過する場合に、前記熱交換器に流出させる前記プール水の流量が、前記水温に応じて予め設定された上限値を超えないように調整される残留熱除去設備
であって、
前記バイパス路を閉止して前記プール水を流出させた場合、前記熱交換器の除熱量が限界となる前記水温と前記上限値との第1相関データを保持する第1保持部と、
前記熱交換器に分流する前記プール水の流量を調整する第1調整弁を操作する第1操作部と、
前記バイパス路に分流する前記プール水の流量を調整する第2調整弁を操作する第2操作部と、
前記第1調整弁の第1弁開度を検出する第1開度計と、
前記第2調整弁の第2弁開度を検出する第2開度計と、
前記全流量値が前記ポンプの定格値として計測される前記第1弁開度と前記第2弁開度との第3相関データを保持する第3保持部と、を備え、
前記水温が前記閾値を超過する場合、計測した前記水温を前記第1相関データに照合して対応する前記上限値を取得し、
この取得した前記上限値を第3相関データに照合し対応する前記第1弁開度及び前記第2弁開度となるように前記第1調整弁及び前記第2調整弁の各々を操作し、
前記水温が前記閾値を超過しなくなった時点で、前記第1弁開度が100%及び前記第2弁開度が0%となるように前記第1調整弁及び前記第2調整弁の各々を操作する、残留熱除去設備。
【請求項4】
格納容器に設けられた圧力抑制室に保持されるプール水の水温を計測するステップと、
相互に並列接続する熱交換器及びバイパス路が設けられる配管回路に、前記圧力抑制室に保持されているプール水をポンプで流出させるステップと、
前記配管回路に流出された後に前記格納容器内に放出される前記プール水の全流量値を計測するステップと、
計測した前記水温が閾値を超過する場合に、前記熱交換器に流出される前記プール水の流量が、前記水温に応じて予め設定された上限値を超えないように調整するステップと、を含む残留熱除去方法
において、
前記バイパス路を閉止して前記プール水を流出させた場合、前記熱交換器の除熱量が限界となる前記水温と前記上限値との第1相関データを準備するステップと、
前記バイパス路を開放して前記プール水を流出させた場合、前記熱交換器の除熱量が限界となる前記水温と前記上限値との第2相関データを準備するステップと、
前記水温が前記閾値を超過する場合、前記熱交換器に分流する前記プール水を開放/閉止する第1開閉弁及び前記バイパス路に分流する前記プール水を開放/閉止する第2開閉弁を共に開放に設定するステップと、
計測した前記水温を前記第2相関データに照合して得た前記上限値が前記全流量値として計測されるように、前記熱交換器及び前記バイパス路よりも上流側又は下流側の前記配管回路に設けられ前記全流量値を調整する調整弁を操作するステップと、
前記全流量値が前記ポンプの定格値に到達した時点の前記水温を前記第1相関データに照合して得た前記上限値が前記全流量値として計測されるように前記調整弁を操作するステップと、
計測される前記水温及び前記全流量値が前記第1相関データに乗った時点で前記第2開閉弁の設定を開放から閉止に切り替えるステップと、
計測した前記水温を前記第1相関データに照合して得た前記上限値が前記全流量値として計測されるように前記調整弁を操作するステップと、
前記水温が前記閾値を超過しなくなった時点で、前記全流量値が前記ポンプの定格値に略一致するように前記調整弁を操作するステップと、を含む残留熱除去方法。
【請求項5】
格納容器に設けられた圧力抑制室に保持されるプール水の水温を計測するステップと、
相互に並列接続する熱交換器及びバイパス路が設けられる配管回路に、前記圧力抑制室に保持されているプール水をポンプで流出させるステップと、
前記配管回路に流出された後に前記格納容器内に放出される前記プール水の全流量値を計測するステップと、
計測した前記水温が閾値を超過する場合に、前記熱交換器に流出される前記プール水の流量が、前記水温に応じて予め設定された上限値を超えないように調整するステップと、を含む残留熱除去方法
において、
前記バイパス路を閉止して前記プール水を流出させた場合、前記熱交換器の除熱量が前記上限値となる前記水温と前記上限値との第1相関データを準備するステップと、
前記水温が前記閾値を超過する場合、計測した前記水温を前記第1相関データに照合して得た前記上限値が、前記熱交換器に分流する前記プール水の分流量値として計測されるように、この分流量値を調整する第1調整弁を操作するステップと、
前記全流量値が前記ポンプの定格値として計測されるように、前記バイパス路に分流する前記プール水の流量を調整する第2調整弁を操作するステップと、
前記水温が前記閾値を超過しなくなった時点で、前記第1調整弁を全開に前記第2調整弁を全閉に操作し、前記分流量値を前記定格値に略一致させるステップと、を含む残留熱除去方法。
【請求項6】
格納容器に設けられた圧力抑制室に保持されるプール水の水温を計測するステップと、
相互に並列接続する熱交換器及びバイパス路が設けられる配管回路に、前記圧力抑制室に保持されているプール水をポンプで流出させるステップと、
前記配管回路に流出された後に前記格納容器内に放出される前記プール水の全流量値を計測するステップと、
計測した前記水温が閾値を超過する場合に、前記熱交換器に流出される前記プール水の流量が、前記水温に応じて予め設定された上限値を超えないように調整するステップと、を含む残留熱除去方法
において、
前記バイパス路を閉止して前記プール水を流出させた場合、前記熱交換器の除熱量が限界となる前記水温と前記上限値との第1相関データを準備するステップと、
前記全流量値が前記ポンプの定格値として計測される、前記熱交換器に分流する前記プール水の流量を調整する第1調整弁の第1弁開度と前記バイパス路に分流する前記プール水の流量を調整する第2調整弁の第2弁開度との第3相関データを準備するステップと、
前記水温が前記閾値を超過する場合、計測した前記水温を前記第1相関データに照合して対応する前記上限値を取得するステップと、
この取得した前記上限値を第3相関データに照合し対応する前記第1弁開度及び前記第2弁開度となるように前記第1調整弁及び前記第2調整弁の各々を操作するステップと、
前記水温が前記閾値を超過しなくなった時点で、前記第1弁開度が100%及び前記第2弁開度が0%となるように前記第1調整弁及び前記第2調整弁の各々を操作するステップと、を含む残留熱除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子炉プラントの運転を停止した後に発生する崩壊熱を除去する残留熱除去技術に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型軽水炉には、一次系配管が破断し圧力容器内の冷却材が流出する過酷事故が発生した場合であっても、炉心の崩壊熱を適切に除去する仕組みが備わっている。そのような崩壊熱の除去機能を発揮する残留熱除去設備は、(i)低圧注水モード、(ii)格納容器冷却モード、(iii)停止時冷却モード、(iv)圧力抑制室プール水冷却モード、(v)使用済み燃料プール水冷却モードの五つの運転モードを備えている。これらのうち、(i)、(ii)の運転モードは過酷事故等が発生した非常時に実行されるもので、(iii)、(iv)、(v)の運転モードは原子炉が正常状態にある通常時に実行される。
【0003】
そして、残留熱除去設備は、圧力抑制室(サプレッションチェンバ)に収容されるプール水を水源として用い、このプール水を外部循環させる配管と、プール水に循環圧力を付与するポンプと、循環するプール水を除熱する熱交換器と、を備えている。さらにこの熱交換器で回収された排熱は、さらに海水等を冷媒とする原子炉補器冷却設備により外部放出される。
【0004】
これまで残留熱除去設備は、過酷事故が発生した時における圧力抑制室のプール水の到達上限温度を100℃に想定し、設計されていた。つまり、圧力容器に接続する配管のうち最も口径の大きい配管が完全に破断して冷却材が圧力抑制室に流入しても、プール水の水温は100℃を超えないとの想定を行っていた。そして、残留熱除去設備が非常時の運転モードを実施する時に要求される熱交換器の除熱容量は、除熱対象のプール水が100℃以下であるという想定の下で設計されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、東日本大震災後においては、これまで想定していた規模を超える重大事故の発生を考慮する必要性が生じている。このため、圧力抑制室のプール水の到達上限温度を、従来の100℃を超える150℃程度に想定することが検討されている。このようにプール水が当初の想定温度(100℃)を超えてしまうことは、熱交換器の除熱容量をオーバーすることになる。
【0007】
上述した原子炉補器冷却設備は、残留熱除去設備の熱交換器以外にも、その他の種々の設備から排熱を回収する役割を持つ。そして、この熱交換器が除熱容量をオーバーして稼働すると、原子炉補器冷却設備の冷却能力が低下してしまう。その結果、原子炉補器冷却設備から供給される冷却水が定格温度(35℃)を超えてしまい、その他の種々の機器の運転に支障をきたすことが懸念される。
【0008】
本来であれば、これら熱交換器及び原子炉補器冷却設備の設計を見直して、除熱容量及び冷却能力を増加させることが望ましい。しかし、既設の原子炉プラントに対し、そのような改造をすることは、極めて困難である。
【0009】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、現有設備を最大限活用し、重大事故の発生時は熱交換器の除熱容量をオーバーしない範囲で速やかに格納容器の冷却を行える残留熱除去技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態に係る残留熱除去設備は、格納容器に設けられた圧力抑制室に保持されるプール水の水温を計測する温度計と、相互に並列接続する熱交換器及びバイパス路が設けられる配管回路と、前記圧力抑制室に保持されているプール水を前記配管回路に流出させるポンプと、前記配管回路に流出された後に前記格納容器内に放出される前記プール水の全流量値を計測する流量計と、を備える原子力プラントの残留熱除去設備において、計測した前記水温が閾値を超過する場合に、前記熱交換器に流出させる前記プール水の流量が、前記水温に応じて予め設定された上限値を超えないように調整される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態により、現有設備を最大限活用し、過酷事故の発生時は熱交換器の除熱容量をオーバーしない範囲で速やかに格納容器の冷却を行える残留熱除去技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る残留熱除去設備の回路図。
【
図2】第1実施形態に係る残留熱除去設備の制御部のブロック図。
【
図3】第1相関データ及び第2相関データを示すグラフ。
【
図4】第1実施形態に係る残留熱除去設備の動作説明図。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る残留熱除去設備の回路図。
【
図6】第2実施形態に係る残留熱除去設備の制御部のブロック図。
【
図7】第2実施形態及び第3実施形態に係る残留熱除去設備の動作説明図。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る残留熱除去設備の回路図。
【
図9】第3実施形態に係る残留熱除去設備の制御部のブロック図。
【
図11】各実施形態に係る残留熱除去設備の運転方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る残留熱除去設備10A(10)の回路図である。各実施形態の残留熱除去設備10は、格納容器25に設けられた圧力抑制室35に保持されるプール水36の水温T
pを計測する温度計37と、相互に並列接続する熱交換器15及びバイパス路16が設けられる配管回路20と、圧力抑制室35に保持されているプール水36を配管回路20(の上流側20b)に流出させるポンプ17と、配管回路20に流出された後に格納容器25内に放出されるプール水36の全流量値F
aを計測する流量計13と、を備えている。
【0014】
そして、各実施形態の残留熱除去設備10は、計測した水温T
pが閾値T
hを超過する場合(T
h<T
p;
図4,
図7参照)に、熱交換器15に流出させるプール水36の流量が、水温T
pに応じて予め設定された上限値を超えないように調整される。
【0015】
なお各実施形態において、プール水36の水温Tpは、圧力抑制室35に保持されているプール水36の温度を計測したものを採用している。しかし、プール水36の水温Tpの計測位置は、これに限定されることはなく、圧力抑制室35から熱交換器15に至る配管の任意位置で計測されたものを採用することができる。
【0016】
なお残留熱除去設備10は、一系統の配管回路20に一台のポンプ17及び一台の熱交換器15が少なくとも接続されてループが形成されているが、このようなループが複数設けられている。また配管回路20に設けられている各々の弁は、白抜表示が対応する配管を開放状態にしており、黒抜表示が対応する配管を閉止状態にしている。
【0017】
図1に示すように各実施形態の残留熱除去設備10が適用される原子力プラント90は、核燃料の核分裂により発熱する炉心24及び炉水23を密閉収容する圧力容器28と、この圧力容器28及び制御棒駆動機構(図示略)等を密閉収容し放射性物質の放散を防止する格納容器25と、炉心24により炉水23を加熱して発生させた蒸気の熱エネルギーを回転運動エネルギーに変換するタービン(図示略)と、この回転運動エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機(図示略)と、タービンで仕事をした蒸気を冷却し凝縮して復水にする復水器(図示略)と、を有している。
【0018】
圧力抑制室35は、格納容器25の下部に設けられており、圧力容器28の内圧が上昇した時に蒸気を逃がしてその内圧の上昇を抑制する。また過酷事故が発生し、上述した図示略の機器と圧力容器28とを接続する配管が破断したときは、配管の破断口から放出された炉水23は、圧力抑制室35に溜まりプール水36となる。そして、このプール水36は、残留熱除去設備10により圧力容器28の内側又は外側に循環供給され、炉心24を冠水させたり蒸気を冷却・凝縮して圧力上昇を抑制したりする。
【0019】
配管回路20の分岐配管48は、圧力容器28から炉水23が格納容器25に流出する事故が発生した場合、炉心24が気相に露出し過熱することを防止するため、プール水36を圧力容器28の上部から注入するものである。この場合、調整弁18,19を全閉し、分岐配管45,47を閉止して、熱交換器15で除熱を行わずプール水36を圧力容器28に注入する。
【0020】
配管回路20の下流側20a先端は、ドライウェルスプレイスパージャ27が接続されている。圧力容器28から炉水23が格納容器25に流出する事故が発生した場合、この炉水23が蒸気となって格納容器25の内部の温度・圧力を上昇させる。このとき、調整弁18を開放しプール水36をドライウェルスプレイスパージャ27から放出して、ドライウェル空間部26の温度を下げて、蒸気を凝縮し圧力上昇を抑制する。またこのとき、分岐配管46の調整弁18を開放し、プール水36を圧力抑制室スプレイスパージャ44から放出する場合もある。
【0021】
配管回路20の分岐配管45は、圧力抑制室35に保持されるプール水36を冷却するときに使用するものである。通常運転時に圧力容器28の蒸気を圧力抑制室35に逃がして圧力上昇を抑制した場合、過熱したプール水36を冷却する。この場合、調整弁18,19を全閉し、分岐配管47,48を閉止し、さらにバイパス路16に接続する第2開閉弁12を全閉して、プール水36の全量を除熱してから注入する。
【0022】
配管回路20の分岐配管47は、通常運転時の原子炉停止中の崩壊熱の除去に用いるものである。原子炉再循環系(図示略)から炉水23を取水し、熱交換器15で全量を除熱してから、圧力容器28の内部に戻す。この場合、調整弁18,19を全閉し、分岐配管45,48を閉止し、さらにバイパス路16に接続する第2開閉弁12を全閉して、プール水36の全量を除熱してから注入する。
【0023】
原子炉補器冷却設備60は、残留熱除去設備10の熱交換器15を含む、原子力プラント90の種々の設備61(61a,61b,61c)から排熱を回収する。そして、これら熱交換器15や設備61は、冷却水63を循環させる循環路65を介して冷却設備66に接続されている。この冷却設備66は、海水等を冷媒68とし、熱交換器15や設備61(61a,61b,61c)から回収した排熱を海洋等に外部放出する。
【0024】
そして熱交換器15や設備61(61a,61b,61c)の各々に供給される冷却水63は、それぞれに接続され流量調節弁62(62a,62b,62c,62d)を調節することにより供給量が調節される。そして冷却設備66は、初期温度Twが定格温度(35℃)を超えないように、冷却水63を冷却制御する。また循環ポンプ67は、熱交換器15が必要とする流量Fdやその他の設備61が必要とする流量の冷却水63を供給するように、冷却水63を循環させる。
【0025】
図2は、第1実施形態に係る残留熱除去設備10Aの制御部50Aのブロック図であり、
図3は第1相関データD
1及び第2相関データD
2を示すグラフである。このように制御部50Aは、バイパス路16(
図1)を閉止してプール水36を流出させた場合に熱交換器15の除熱量が限界となる水温T
pと上限値Fとの第1相関データD
1を保持する第1保持部51と、バイパス路16を開放してプール水36を流出させた場合に熱交換器15の除熱量が限界となる水温T
pと上限値Fとの第2相関データD
2を保持する第2保持部52と、熱交換器15及びバイパス路16よりも下流側20a(又は上流側20b)の配管回路20に設けられ全流量値F
aを調整する調整弁18を操作する操作部38と、熱交換器15に分流するプール水36を開放/閉止する第1開閉弁11及びバイパス路16に分流するプール水36を開放/閉止する第2開閉弁12の設定を切り替える切替部39と、を備えている。
【0026】
さらに制御部50Aは、温度計37から水温Tpの計測データを受信する水温受信部57と、流量計13から全流量値Faの計測データを受信する全流量値受信部58と、を有している。そして判定部54において上述した操作部38及び切替部39における動作を判定している。
【0027】
第1相関データD
1は、第1開閉弁11を全開にし第2開閉弁12を全閉にして、熱交換器15に流入するプール水36の水温T
pに対し、除熱量が設計上の限界となるような全流量値F
aを、熱交換器15の性能計算で求めている。第2相関データD
2は、第1開閉弁11及び第2開閉弁12を全開にして、熱交換器15に流入するプール水36の水温T
pに対し、除熱量が設計上の限界となるような全流量値F
aを、熱交換器15の性能計算で求めている。なお第1相関データD
1は、
図4に示すように、水温T
pの閾値T
hとポンプ流量値の定格値F
rとの交点座標を通るように設定される。
【0028】
図4は第1実施形態に係る残留熱除去設備10Aの動作説明図である。第1実施形態の制御部50Aは、水温T
pが閾値T
hを超過する場合(T
h<T
p)、第1開閉弁11(
図1)及び第2開閉弁12を共に開放に設定する。そして、計測した水温T
pを第2相関データD
2に照合して得た上限値Fが全流量値F
aとして計測されるように調整弁18を操作する。さらに、この全流量値F
aがポンプ17の定格値F
rに到達した時点P
1の水温T
pを第1相関データD
1に照合して得た上限値Fが全流量値F
aとして計測されるように調整弁18を操作する。
【0029】
さらに、計測される水温Tp及び全流量値Faが第1相関データD1に乗った時点P2で第2開閉弁12の設定を開放から閉止に切り替える。そして、計測した水温Tpを第1相関データD1に照合して得た上限値Fが全流量値Faとして計測されるように調整弁18を操作する。そして、水温Tpが閾値Thを超過しなくなった時点P3(Tp<Th)で、全流量値Faがポンプ17の定格値Frに略一致するように調整弁18を操作する。
【0030】
なお第1実施形態の上述の説明において、全流量値Faの調整に調整弁18のみを操作する運用例を示したが、分岐配管46の調整弁19も併せて操作する運用もある。また調整弁18,19を閉止してスプレーを行わず、分岐配管45の調整弁を調節して熱交換器15及び圧力抑制室35のみでプール水36を循環させる場合もある。
【0031】
また第1実施形態の上述の説明において、水温Tpが閾値Thを超過する場合に、第1開閉弁11及び第2開閉弁12を共に開放に設定する運用例を示した。しかし第1実施形態は、第1開閉弁11を開放に常時設定し、第2開閉弁12を閉止に常時設定する運用も考えられる。この場合、計測した水温Tpを第1相関データD1に照合して得た上限値Fが全流量値Faとして計測されるように調整弁18を操作する。そして、水温Tpが閾値Thを超過しなくなった時点P3(Tp<Th)で、全流量値Faがポンプ17の定格値Frに略一致するように調整弁18を操作する。
【0032】
第1実施形態によれば、第1開閉弁11及び第2開閉弁12を「全開」「全閉」のいずれかに切り替えることで、現有の残留熱除去設備10を改造することなく、過酷事故の発生時に、熱交換器15の除熱容量がオーバーすることを避けながら、格納容器25を速やかに冷却することができる。
【0033】
なお、本実施形態では、熱交換器15おける除熱量が設計上の限界になるように、この熱交換器15に流出させるプール水36の流量を、上限値に調整するものとして説明したが、熱熱交換器の除熱量の観点では、この上限値よりも低ければ一致してなくともよい。プール水36を冷却する観点から、熱交換器15おける除熱量が設計上の限界に略一致することが望ましいものである。
【0034】
(第2実施形態)
次に
図5を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
図5は本発明の第2実施形態に係る残留熱除去設備10Bの回路図である。
図6は第2実施形態に係る残留熱除去設備10Bの制御部50Bのブロック図である。なお、
図5において
図1と共通の構成又は機能もしくは
図6において
図2と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0035】
このように第2実施形態の制御部50Bは、第1実施形態と同様に第1相関データD1を保持する第1保持部51と、熱交換器15に分流するプール水36の分流量値Fbを調整する第1調整弁21を操作する第1操作部31と、バイパス路16に分流するプール水36の流量を調整する第2調整弁22を操作する第2操作部32と、を備えている。
【0036】
さらに制御部50Bは、上述した水温Tpの受信部57及び全流量値Faの受信部58に加え、流量計29から分流量値Fbの計測データを受信する分流量値受信部59を有している。そして判定部54において上述した第1操作部31及び第2操作部32の動作を判定している。
【0037】
図7は第2実施形態に係る残留熱除去設備10Bの動作説明図である。第2実施形態の制御部50Bは、水温T
pが閾値T
hを超過する場合(T
h<T
p)、計測した水温T
pを第1相関データD
1に照合して得た上限値Fが分流量値F
bとして計測されるように第1調整弁21を操作する。そして全流量値F
aが定格値F
rとして計測されるように第2調整弁22を操作する。そして水温T
pが閾値T
hを超過しなくなった時点P
4(T
p<T
h)で、第1調整弁21を全開に第2調整弁22を全閉に操作し、分流量値F
bを定格値F
rに略一致させる。
【0038】
第2実施形態によれば、プール水36の水温Tpにかかわらず、全流量値Faを定格値Frに一致させて、配管回路20にプール水36を循環させることができる。これにより過酷事故の発生時に、熱交換器15の除熱容量がオーバーすることを避けながら、格納容器25を速やかに冷却することができる。
【0039】
(第3実施形態)
次に
図8を参照して本発明における第3実施形態について説明する。
図8は本発明の第3実施形態に係る残留熱除去設備10Cの回路図である。
図9は、第3実施形態に係る残留熱除去設備10Cの制御部50Cのブロック図である。なお、
図8において
図1又は
図5と共通の構成又は機能もしくは
図9において
図2又は
図6と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0040】
このように第3実施形態の残留熱除去設備10Cは、第1調整弁21の第1弁開度A1を検出する第1開度計41と、第2調整弁22の第2弁開度A2を検出する第2開度計42と、をさらに備えている。そして、制御部50Cは、第1実施形態又は第2実施形態と同様に第1相関データを保持する第1保持部51と、熱交換器15に分流するプール水36の流量を調整する第1調整弁21を操作する第1操作部31と、バイパス路16に分流するプール水36の流量を調整する第2調整弁22を操作する第2操作部32と、全流量値Faがポンプ17の定格値Frとして計測される第1弁開度A1と第2弁開度A2との第3相関データD3を保持する第3保持部53と、を備えている。
【0041】
さらに制御部50Cは、上述した水温Tpの受信部57及び全流量値Faの受信部58に加え、第1開度計41及び第2開度計42から各々の第1弁開度A1及び第2弁開度A2の検出データを受信する弁開度情報受信部56を有している。そして判定部54において上述した第1操作部31及び第2操作部32における動作を判定している。
【0042】
図10は第3相関データを示すグラフである。
図7及び
図10を参照して第3実施形態に係る残留熱除去設備10Cの動作を説明する。第3実施形態の制御部50Cは、水温T
pが閾値T
hを超過する場合(T
h<T
p)、計測した水温T
pを第1相関データD
1に照合して対応する上限値Fを取得する。そして、この取得した上限値Fを第3相関データD
3に照合し対応する第1弁開度A
1及び前記第2弁開度A
2となるように第1調整弁21及び第2調整弁22の各々を操作する。そして、水温T
pが閾値T
hを超過しなくなった時点P
4(T
p<T
h)で、第1弁開度A
1が100%及び第2弁開度A
2が0%となるように第1調整弁21及び第2調整弁22の各々を操作する。
【0043】
第3実施形態によれば、配管回路20を改造することなく、プール水36の水温Tpにかかわらず、全流量値Faを定格値Frに一致させて、プール水36を配管回路20に循環させることができる。これにより過酷事故の発生時に、熱交換器15の除熱容量がオーバーすることを避けながら、格納容器25を速やかに冷却することができる。
【0044】
なお、各実施形態の説明において、第1開閉弁11,第2開閉弁12,第1調整弁21、第2調整弁22、調整弁18,19は、制御部50(50A,50B,50C)から自動制御するものを例示した。しかし、これらの弁は、運転員による遠隔手動操作される場合もある。
【0045】
図11のフローチャートに基づいて各実施形態に係る残留熱除去設備10の運転方法を説明する(適宜、
図1参照)。まず、判定を実施するための閾値T
hを取得する(S11)。圧力抑制室35に保持されるプール水36の水温T
pを温度計37で計測する(S12)。
【0046】
そして、計測した水温Tpが閾値Thを超過する場合(S13 Yes)、バイパス路16を開放設定にして(S14)プール水36を分流させ、さらに熱交換器15が設けられる配管回路20を開放設定して(S15)プール水36を分流させ除熱する。
【0047】
この水温Tpが閾値Thを超過する場合(S13 Yes)の具体的な運転動作は、各実施形態において相違し、次の通りである。第1実施形態では、第1相関データD1及び第2相関データD2を参照し、第1開閉弁11及び第2開閉弁12の「全開」「全閉」設定の切替と調整弁18の操作とにより実施する。第2実施形態では、熱交換器15に分流するプール水36の分流量値Fbが第1相関データD1に基づくように、かつ全流量値Faが定格値Frに略一致するように第1調整弁21及び第2調整弁22を調整する。第3実施形態では、プール水36の水温Tpに対応する第1調整弁21及び第2調整弁22の開度を第3相関データD3に基づいて調整し、全流量値Faを定格値Frに略一致させる。
【0048】
さらにプール水36の水温Tpの計測を続け(S16 No,S12)、計測した水温Tpが閾値Thを超過しなくなったところで(S13 No)、バイパス路16を閉止設定にする(S17)。そして、熱交換器15が設けられる配管回路20を開放設定にし(S15)、プール水36の全量を除熱する。そして、格納容器25が十分に冷却したところで、残留熱除去設備10の運転モードを終了させる(S16 Yes、END)。
【0049】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の残留熱除去設備によれば、プール水の水温に従って熱交換器のバイパス路を開放/閉止することにより、現有設備を最大限活用し重大事故の発生時は熱交換器の除熱容量をオーバーしない範囲で速やかに格納容器の冷却を行うことが可能となる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0051】
例えば、オペレータが、水温と流量の計測データを読み取り、予め作成された流量の上限値と水温の関係のデータと照合して、弁の操作を行ってもよい。流量の上限と水温の関係のデータを用いて弁を操作することにより、オペレータが確実に熱交換器15におけるプール水36の除熱量が設計上限値を超えないように制御することができる。また、上限値Fを、熱交換器15の除熱量が設計上の限界と一致するように設定するものとして説明したが、これは、除熱量の設計上の限界から安全性のマージンを考慮した分だけ低い除熱量に対応して上限値Fを設定した場合をも含む。
【符号の説明】
【0052】
10(10A,10B,10C)…残留熱除去設備、11…第1開閉弁、12…第2開閉弁、13…流量計、14…流量計、15…熱交換器、16…バイパス路、17…ポンプ、18…調整弁、20…配管回路、20a…上流側の配管回路、20b…下流側の配管回路、21…第1調整弁、22…第2調整弁、23…炉水、24…炉心、25…格納容器、26…ドライウェル空間部、27…ドライウェルスプレイスパージャ、28…圧力容器、31…第1操作部、32…第2操作部、35…圧力抑制室、36…プール水、37…温度計、38…操作部、39…切替部、41…第1開度計、42…第2開度計、44…圧力抑制室スプレイスパージャ、45,46,47,48…分岐配管、50(50A,50B,50C)…制御部、51…第1保持部、52…第2保持部、53…第3保持部、54…判定部、56…弁開度情報受信部、57…水温受信部、58…全流量値受信部、59…分流量値受信部、60…原子炉補器冷却設備、61(61a,61b,61c)…その他の設備、62…流量調節弁、63…冷却水、65…循環路、66…冷却設備、
67…循環ポンプ、68…冷媒、90…原子力プラント、Tp…水温、Th…閾値、Fa…全流量値、Fb…分流量値、Fr…定格値、D1…第1相関データ、D2…第2相関データ、P(P1,P2,P3,P4)…時点。