(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】締付工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
B25B21/00 F
(21)【出願番号】P 2019117166
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【氏名又は名称】根本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】川上 謙
(72)【発明者】
【氏名】堀 慶朗
(72)【発明者】
【氏名】千葉 文彦
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-104933(JP,A)
【文献】特開平04-269180(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0001603(US,A1)
【文献】実開昭57-048068(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結物の長孔
が、前記長孔の長手方向の両側の端部に位置する2つの端壁部と、前記長孔の短手方向の両側の側部に位置して前記短手方向において互いに対向する一対の側壁部と、を有するものであり、前記長孔から突出するボルトが座金とナットを挿通する状態で、前記ボルトに螺合する前記ナットを締め付ける締付工具であって、
前記ナットに係合して、前記ナットの締め付け方向に回転するソケット部と、
前記長孔内で前記被締結物に当接する当接部により、前記ナットの締め付け時の反力を受ける反力受け部と、を備え、
前記反力受け部の当接部は、前記長孔の一対の側壁部と対向する一対の側面を有し、前記長孔の一対の側壁部の間に嵌る締付工具。
【請求項2】
請求項1に記載された締付工具において、
前記反力受け部の当接部は、前記長孔の湾曲した端壁部に沿って湾曲する湾曲形状に形成されて前記長孔の端壁部と対向する対向面を有する締付工具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された締付工具において、
前記反力受け部の当接部は、前記反力受け部の先端部に設けられて前記反力受け部の外周部から張り出す締付工具。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された締付工具において、
前記反力受け部は、前記ソケット部を収容する収容部と、前記当接部が設けられて前記収容部に着脱可能に装着される装着部材と、を有する締付工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトに螺合するナットを締め付ける締付工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトとナットにより複数の被締結物を締結するときに、各種の誤差(例えば、製作誤差、取付誤差)に対処するため、被締結物に長孔を形成することがある。ボルトが被締結物の長孔から突出して、ナットがボルトに螺合する。その状態で、被締結物の位置を調整して、ボルトに対してナットを締め付け、ボルトとナットにより複数の被締結物を締結する。また、ナットを適正なトルクで締め付けるため、レバー等の反力受け部を有する締付工具が使用されている。
【0003】
締付工具の反力受け部は、周辺部材(例えば、他のボルト、被締結物の当接可能な部分)に当接して反力を受ける。反力受け部で反力を受けることで、ナットの締め付けに伴い発生するトルクを作業者が負担せずに、締付工具により締め付け作業を行うことができる。しかしながら、反力受け部から周辺部材に力が作用することで、周辺部材に塑性変形が生じる虞がある。また、設計段階から、反力受け部の当接対象を考慮する必要があり、設計上の制約を受けることがある。
【0004】
これに対し、従来、反動受け部の係合軸部を接合部材の係合孔に係合する締付工具が知られている(特許文献1参照)。
ところが、長孔を有する被締結物の締結に、特許文献1に記載された締付工具を用いるためには、長孔に対して所定位置に係合孔を形成する必要があり、設計上の制約を受ける。また、係合孔の形成に手間がかかり、コストも上昇することがある。被締結物の位置を調整したときには、係合軸部を係合孔に係合できず、ナットの締め付けが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、被締結物の長孔を利用して、長孔から突出するボルトに螺合するナットを容易に締め付け、被締結物をボルトとナットにより安定的に締結することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被締結物の長孔が、前記長孔の長手方向の両側の端部に位置する2つの端壁部と、前記長孔の短手方向の両側の側部に位置して前記短手方向において互いに対向する一対の側壁部と、を有するものであり、前記長孔から突出するボルトが座金とナットを挿通する状態で、前記ボルトに螺合する前記ナットを締め付ける締付工具であって、前記ナットに係合して、前記ナットの締め付け方向に回転するソケット部と、前記長孔内で前記被締結物に当接する当接部により、前記ナットの締め付け時の反力を受ける反力受け部と、を備え、前記反力受け部の当接部は、前記長孔の一対の側壁部と対向する一対の側面を有し、前記長孔の一対の側壁部の間に嵌る締付工具である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被締結物の長孔に、反力受け部の当接部に設けた側面が当接することにより、長孔から突出するボルトに螺合するナットを容易に締め付け、被締結物をボルトとナットにより安定的に締結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本実施形態の建物に設けられた被締結物を示す斜視図である。
【
図5】本実施形態の被締結物と締結具を
図3の矢印X1方向からみた平面図である。
【
図6】本実施形態の被締結物、締結具、及び、締付工具の締付部を示す断面図である。
【
図7】本実施形態の被締結物と締結具を示す平面図である。
【
図8】本実施形態の被締結物、締結具、及び、締付工具の締付部を示す断面図である。
【
図9】他の実施形態の締付工具の締付部を示す断面図である。
【
図10】
図9に示す反力受け部の装着部材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の締付工具の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態の締付工具は、電動のナット締付工具(締付装置)であり、ボルトに螺合するナットを締め付ける。ボルト、ナット、及び、座金を含む締結具により、複数の被締結物を締結して互いに接合する。なお、締付工具は、基本的には、ナットの締め付けに用いられる公知の締付工具(レンチ)と同じ構造である。そのため、締付工具の基本的な構造については、簡単に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の締付工具1の側面図であり、締付工具1の内部構成を模式的に鎖線で示している。
図示のように、締付工具1は、ナットを締め付ける締付部2と、締付部2を駆動する駆動部3と、使用者により把持されるグリップ部4を備えている。締付工具1の締付部2は、ナットに装着される回転可能なソケット部10と、ソケット部10を収容する回転可能な反力受け部20を有している。ソケット部10は、筒状のインナースリーブ(ソケットスリーブ)であり、反力受け部20の内側に回転可能に配置されている。反力受け部20は、筒状のアウタースリーブ(反力受けスリーブ)であり、ソケット部10の外側に位置している。ソケット部10と反力受け部20は、駆動部3に接続されて、互いに同心に配置されている。
【0012】
締付工具1の駆動部3は、駆動源であるモータ30と、モータ30の回転動力を締付部2に伝達する伝達機構31を有している。モータ30は、電力により稼働する電動モータであり、伝達機構31は、モータ30の回転軸に連結されている。伝達機構31は、複数の歯車と遊星歯車機構を有しており、モータ30の回転動力を減速して、締付部2のソケット部10と反力受け部20のそれぞれにモータ30の回転動力を伝達する。駆動部3は、モータ30の回転動力により、ソケット部10と反力受け部20を駆動して回転する。
【0013】
モータ30及び駆動部3は、グリップ部4に設けられた操作部材32により操作されて作動する。ナットの締め付けを開始するときには、操作部材32により締付工具1のスイッチをオンにすることで、モータ30が起動して回転し、駆動部3が作動する。ナットの締め付けを終了するときには、操作部材32により締付工具1のスイッチをオフにすることで、モータ30が停止して、駆動部3の作動が停止する。
【0014】
ナットの締め付け時に、締付部2のソケット部10と反力受け部20は、駆動部3により駆動されて、互いに反対方向に連動して回転する。これにより、ソケット部10は、ナットの締め付け方向に回転し、反力受け部20は、ソケット部10の回転方向の反対方向(ナットの締め付け方向の反対方向)に回転する。また、反力受け部20は、軸線方向に突出する当接部21を有しており、被締結物に当接する当接部21により、ナットの締め付け時に反力(反動)を受ける。
【0015】
図2は、本実施形態の建物40に設けられた被締結物50、60を示す斜視図である。
図示のように、締結具5は、ボルト6、座金7、及び、ナット8により、複数の被締結物50、60を重ね合わせて締結する。ここでは、被締結物50、60は、金属(例えば、鋼)製の2つの被締結物(第1被締結物50、第2被締結物60)であり、建物40において用いられている。
【0016】
建物40は、躯体41と、ブラケット(図示せず)が取り付けられたカーテンウォール42を備えている。第1被締結物50は、カーテンウォール42用のL字状のファスナーであり、カーテンウォール42のブラケットは、第1被締結物50に連結されている。第2被締結物60は、板状の取付部材であり、建物40の躯体41に設けられている。第1被締結物50は、第2被締結物60に取り付けられ、第2被締結物60を介して、カーテンウォール42を建物40の躯体41に連結する。なお、第2被締結物60は、建物40の躯体41に固定されていてもよく、建物40の躯体41であってもよい。
【0017】
図3、
図4は、本実施形態の被締結物50、60を示す斜視図であり、締結具5により締結される被締結物50、60を示している。また、
図3は、ナット8から離隔した締付工具1の締付部2を示し、
図4は、ナット8に装着された締付工具1の締付部2を示している。
図示のように、締結具5であるボルト6、座金7、及び、ナット8により締結される被締結物50、60のうち、少なくとも最もナット8側(座金7側)に位置する被締結物に、長孔が形成されている。締結具5のボルト6は、高力ボルト(例えば、溶融亜鉛めっき高力ボルト)であり、ネジ部が形成された軸部6Aを有している。
【0018】
最もナット8側に位置する被締結物は、座金7が当接する被締結物であり、ここでは、第1被締結物50である。第1被締結物50は、2つの長孔51を有しており、第2被締結物60は、1つの長孔61を有している。長孔51、61は、細長いルーズホールであり、それぞれ被締結物50、60を貫通している。2つのボルト6の軸部6Aが、それぞれ長孔51、61を挿通する。
【0019】
ボルト6の軸部6Aは、長孔51、61のそれぞれの延びる方向(長手方向)に移動可能に長孔51、61に挿通している。第1被締結物50の2つの長孔51は、長孔51の長手方向に直交する方向に間隔を開けて、互いに並列して形成されている。第2被締結物60の長孔61は、第1被締結物50の長孔51よりも長く、長孔51の長手方向に直交する方向に延びる。第1被締結物50の長孔51と第2被締結物60の長孔61は、互いに直交して配置されており、長孔51の長手方向の一部は、長孔61の長手方向の一部に重ねて配置される。
【0020】
ボルト6の軸部6Aは、第2被締結物60側から、第2被締結物60の長孔61と第1被締結物50の長孔51を順に挿通して、第1被締結物50の長孔51から突出する。第1被締結物50の長孔51から突出するボルト6(軸部6A)が座金7とナット8を順に挿通する状態で、締付工具1は、ボルト6に螺合するナット8を締め付ける。その際、締付工具1の反力受け部20の当接部21は、第1被締結物50の長孔51に挿入される(
図4参照)。
【0021】
図5は、本実施形態の被締結物50、60と締結具5を
図3の矢印X1方向からみた平面図である。
図5では、第1被締結物50の一部(
図3に示す上方に突出する部分)を省略して、第2被締結物60に締結される第1被締結物50の板状部分を示している。また、
図5では、締付工具1の締付部2(当接部21を除く)を二点鎖線で模式的に示し、反力受け部20の当接部21にハッチングを付している。
図6は、本実施形態の被締結物50、60、締結具5、及び、締付工具1の締付部2を示す断面図であり、
図5のX2-X2線で切断した断面を示している。
【0022】
図示のように、第1被締結物50の長孔51の方向に関して、長手方向は、長孔51の長さ方向であり、短手方向は、長孔51の幅方向である。長孔51の長手方向と短手方向は、互いに直交する。第1被締結物50の長孔51は、短手方向の両側の側部に位置する一対の側壁部52と、長手方向の両側の端部に位置する2つの端壁部53を有している。
【0023】
長孔51の一対の側壁部52は、長孔51の2つの端壁部53の間に位置し、互いに平行に形成されて、長孔51の短手方向において互いに対向する。側壁部52は、平面形状に形成された側壁面であり、長孔51の長手方向に延びる。長孔51の2つの端壁部53は、長孔51の一対の側壁部52の間に位置し、長孔51の短手方向に湾曲して延びる。端壁部53は、湾曲形状に形成された端壁面であり、長孔51の長手方向の外側に向かって凹む円弧形状に形成されている。
【0024】
ボルト6の軸部6Aが座金6Bを挿通する状態で、ボルト6の軸部6Aは、第2被締結物60の長孔61を挿通するとともに、長孔61と重なる第1被締結物50の長孔51を挿通する。座金6Bは、ボルト6の頭部6Cと第2被締結物60の間に挟まれて、ボルト6の頭部6Cと第2被締結物60に当接する。なお、
図5、
図6では、ボルト6は、長孔51の長手方向の中央部に位置している。
【0025】
ボルト6の軸部6Aは、長孔61、51を貫通して、座金7の中心に形成された孔を挿通する。座金7は、ボルト6の軸部6Aを囲む円環状の平座金であり、長孔51の外側で第1被締結物50に重ねて配置される。ナット8は、六角ナットであり、ボルト6の軸部6Aに形成されたネジ部に螺合する。座金7は、ナット8と第1被締結物50の間に挟まれて、ナット8と第1被締結物50に当接する。座金7の直径(外径)は、ナット8の対角距離よりも大きく、座金7は、ナット8の外周部から外側に張り出す。
【0026】
締付工具1のソケット部10は、ナット8に係合する係合部11と、係合部11に開口する逃がし孔12を有している。係合部11は、ソケット部10の先端面に開口する凹部であり、ナット8は、係合部11内に配置される。ナット8から突出するボルト6の軸部6Aは、逃がし孔12内に配置される。ソケット部10は、係合部11でナット8に係合して、ナット8に装着される。その状態で、ソケット部10は、座金7と接触せず、座金7との間に隙間を開けて配置される。締付工具1は、ソケット部10をナット8とともにナット8の締め付け方向に回転する。ソケット部10は、ナット8に回転動力を伝達して、ナット8を締め付け方向に回転し、ボルト6に対してナット8を締め付ける。
【0027】
締付工具1の反力受け部20は、ソケット部10を収容する収容孔22と、締結具5が出入する開口部23を有している。収容孔22は、反力受け部20の先端面に開口して、反力受け部20を軸線方向に貫通している。開口部23は、収容孔22の開口部であり、反力受け部20の先端部24に形成されている。反力受け部20の先端部24は、反力受け部20の第1被締結物50側(開口部23側)の端部である。ソケット部10がナット8に係合した状態で、座金7は、ソケット部10と第1被締結物50の間に位置して、反力受け部20の開口部23(先端部24の内側)に配置される。
【0028】
反力受け部20の当接部21は、ブロック状の突起部であり、第1被締結物50に向かって突出している。また、当接部21は、反力受け部20の先端部24に設けられて、反力受け部20の外周部25から外側(反力受け部20の半径方向の外側)に張り出す。ソケット部10をナット8に係合するときに、当接部21は、第1被締結物50の長孔51の座金7から露出する部分に挿入される。
【0029】
締付工具1は、ソケット部10の回転駆動と同時に、ソケット部10の回転方向の反対方向に反力受け部20を回転駆動する。その際、当接部21は、第1被締結物50の長孔51内で第1被締結物50に当接し、反力受け部20は、当接部21により、ソケット部10によるナット8の締め付け時の反力を受ける。長孔51の外側では、反力受け部20は、第1被締結物50と接触せず、第1被締結物50との間に隙間を開けて配置される。
【0030】
ソケット部10によりナット8が回転して締め付けられるときに、反力受け部20の当接部21は、長孔51の側壁部52に当接して押し付けられる。これにより、第1被締結物50(長孔51の側壁部52)から当接部21に反力が作用して、当接部21が反力を受ける。当接部21は、反力受け部20に設けられた回転止め部であり、ナット8の締め付け時に、反力受け部20の回転を止める。また、反力受け部20は、長孔51内の当接部21により、ナット8の締め付けに伴う反力を受けて、締付工具1の回転を止める。
【0031】
反力受け部20の当接部21は、座金7側面である接触面26と、側壁部52側面である一対の側面27と、端壁部53側面である対向面28を有している。接触面26は、当接部21の第1面部であり、座金7の湾曲した外周部7Aに沿って湾曲する湾曲形状に形成されて、第1被締結物50の長孔51の外側で、座金7の外周部7Aに接触する。座金7の外周部7Aは、凸状の湾曲形状(湾曲した凸形状)に形成されており、接触面26は、座金7の外周部7Aの湾曲形状に対応する凹状の湾曲形状(湾曲した凹形状)に形成されている。ここでは、接触面26は、座金7の円形状の外周部7Aに対応して、当接部21の内側に向かって凹む円弧形状に形成され、座金7の外周部7Aにスライド可能に接触する。
【0032】
ソケット部10をナット8に係合するときに、当接部21の接触面26は、座金7の外周部7Aをスライドして、座金7の外周部7Aによりガイドされる。反力受け部20の当接部21は、座金7の外周部7Aから第1被締結物50の長孔51に向かって移動して、長孔51に挿入される。その際、当接部21は、接触面26が接触する座金7の外周部7Aと長孔51の端壁部53の間で長孔51に挿入されて、長孔51内に配置される。ナット8の締め付け時に、接触面26は、長孔51の外側で、長孔51に重なる座金7の外周部7Aに沿って配置されて、座金7の外周部7Aに接触する。また、接触面26は、座金7から長孔51の内側に向かって突出して、長孔51の内側でボルト6の軸部6Aと対向して配置される。
【0033】
当接部21の一対の側面27は、当接部21の第2面部であり、当接部21の接触面26と対向面28の間に位置して、互いに平行に形成されている。側面27は、第1被締結物50の長孔51の側壁部52に対応して、平面形状に形成されている。当接部21が長孔51に挿入された状態で、一対の側面27は、それぞれ長孔51の側壁部52に沿って配置されて、長孔51の内側で、一対の側壁部52と対向する。当接部21が長孔51の一対の側壁部52の間に嵌って、当接部21の側面27が側壁部52に接触する。当接部21の側面27は、当接部21の反力受け面であり、ナット8の締め付け時に、当接部21は、側壁部52に接触する側面27で反力を受ける。
【0034】
当接部21の対向面28は、当接部21の第3面部であり、長孔51の湾曲した端壁部53に沿って湾曲する湾曲形状に形成されている。長孔51の端壁部53は、凹状の湾曲形状(湾曲した凹形状)に形成されており、対向面28は、端壁部53の湾曲形状に対応する凸状の湾曲形状(湾曲した凸形状)に形成されている。ここでは、対向面28は、長孔51の円弧形状の端壁部53に対応して、当接部21の外側に向かって出っ張る円弧形状に形成されている。対向面28の曲率半径は、端壁部53の曲率半径よりも小さく、対向面28は、端壁部53の内側部分に配置可能である。当接部21が長孔51に挿入された状態で、当接部21の対向面28は、長孔51の内側で、長孔51の端壁部53と対向して配置される。
【0035】
ナット8の締め付け時に、反力受け部20の当接部21は、接触面26で座金7の外周部7Aに接触した状態で、座金7の外周部7Aと長孔51の一方の端壁部53の間で、第1被締結物50の長孔51に嵌め込まれて係合する。長孔51の長手方向におけるボルト6の位置の変化に対応して、長孔51の長手方向における当接部21の位置(挿入位置)が変化する。これに伴い、当接部21の対向面28と長孔51の端壁部53の間の距離が変化する。そのため、当接部21の対向面28は、端壁部53から離隔した状態で端壁部53と対向し、又は、端壁部53に接触する状態で端壁部53と対向する。対向面28が端壁部53に接触したときに、対向面28は、端壁部53に沿って配置されて、長孔51の端壁部53の内側部分に嵌る。
【0036】
図7は、本実施形態の被締結物50、60と締結具5を示す平面図であり、
図5と同様に、締付工具1の締付部2を示している。
図8は、本実施形態の被締結物50、60、締結具5、及び、締付工具1の締付部2を示す断面図であり、
図7のX3-X3線で切断した断面を示している。
図示のように、第1被締結物50を長孔51の長手方向に移動して、第2被締結物60に対して第1被締結物50の位置を調整する。これにより、長孔51の長手方向におけるボルト6の位置、及び、当接部21の長孔51への挿入位置が変化する。ボルト6の位置が長孔51の長手方向の中央部から一方の端壁部53側に変化したときに、反力受け部20の当接部21は、座金7の外周部7Aと他方の端壁部53の間で、長孔51に挿入される。
【0037】
以上説明した締付工具1では、反力受け部20の当接部21は、一対の側面27を長孔51の一対の側壁部52と対向させて、長孔51の一対の側壁部52の間に嵌る。その結果、ナット8の締め付け時に、長孔51内での当接部21の動きを規制して、当接部21を安定させることができる。また、当接部21の側面27が長孔51内で側壁部52と当接することで、側面27と側壁部52が面接触して、ナット8を安定的に締め付けることができる。当接部21の側面27により、反力を安定して受けることもできる。
【0038】
従って、第1被締結物50の長孔51に、反力受け部20の当接部21に設けた側面27が当接することにより、長孔51から突出するボルト6に螺合するナット8を容易に締め付け、被締結物50、60をボルト6とナット8により安定的に締結することができる。また、締付工具1を用いることで、第1被締結物50の長孔51を利用して、ナット8を容易に締め付けることができる。ナット8の締め付け時には、第1被締結物50以外の部材に頼ることなく、長孔51内の当接部21により反力を受けることができる。ナット8の締め付け作業の効率、及び、カーテンウォール42の施工効率を向上することもできる。
【0039】
当接部21の対向面28を湾曲形状に形成することで、対向面28を長孔51の端壁部53に接触して配置可能になり、反力受け部20の当接部21を端壁部53に近接する位置で長孔51に挿入することができる。対向面28が端壁部53に接触するときには、ナット8の締め付け中に、当接部21を長孔51内でより安定させることができる。
【0040】
当接部21が反力受け部20の外周部25から張り出すため、当接部21を長孔51に挿入するときに、当接部21が視認し易く、当接部21の位置を簡単に把握することができる。これにより、長孔51に対する当接部21の位置合わせ、及び、当接部21の長孔51への挿入を容易に行うことができる。
【0041】
ソケット部10をナット8に係合するときには、当接部21の接触面26を座金7の外周部7Aでガイドして、反力受け部20の当接部21を第1被締結物50の長孔51に容易に挿入することができる。また、当接部21は、座金7の外周部7Aにより位置決めされる。これにより、ソケット部10は、ナット8に対して位置決めされて、ナット8に円滑に係合する。当接部21の接触面26が座金7の外周部7Aに接触することで、当接部21及び反力受け部20を安定させることができる。当接部21は、ソケット部10の回転中心に近い座金7側の位置で反力を受ける。そのため、締付工具1を安定させて、締付工具1によるナット8の締め付けをより安定して行うことができる。
【0042】
図9は、他の実施形態の締付工具1の締付部2を示す断面図である。
図示のように、ここでは、反力受け部20は、ソケット部10を収容する収容部70と、収容部70に着脱可能に装着される装着部材80を有している。反力受け部20の当接部21は、装着部材80に一体に形成されて、装着部材80に設けられている。収容部70は、反力受け部20の筒状の本体部(収容スリーブ)であり、反力受け部20の収容孔22は、収容部70に形成されている。
【0043】
装着部材80は、リング状のカバー部材であり、収容部70の先端部71に装着されている。収容部70の先端部71は、収容部70の第1被締結物50側(反力受け部20の開口部23側)の端部である。装着部材80は、固定部材72により収容部70に固定されて、収容部70の先端部71を覆う。固定部材72は、止めネジであり、装着部材80の固定用孔81に取り付けられている。固定用孔81は、装着部材80を貫通するネジ孔である。
【0044】
図10は、
図9に示す反力受け部20の装着部材80を示す図である。
図10Aは、
図9の矢印X4方向からみた装着部材80の正面図であり、
図10Bは、装着部材80の斜視図である。
図示のように、固定用孔81は、装着部材80の周方向に間隔を開けて、装着部材80の複数箇所に形成されており、複数の固定部材72が、それぞれ固定用孔81に螺合している。ここでは、4つの固定用孔81が装着部材80に等間隔で形成されている。固定部材72の先端部(
図9参照)は、収容部70の外周部に形成された凹部内に配置されて、収容部70に押し付けられている。装着部材80は、固定部材72により、収容部70に回転不能に固定されて、収容部70と一体に回転する。
【0045】
装着部材80は、当接部21と、ソケット部10を保持するリング状の保持部82を有している。保持部82は、収容部70の内周面よりも反力受け部20の中心側(ソケット部10側)の位置で、収容部70内のソケット部10の先端面と対向して配置される。装着部材80の保持部82により、ソケット部10が収容部70から抜けるのが防止されて、ソケット部10が収容部70内に保持される。当接部21は、保持部82から突出しており、当接部21の接触面26(
図10A参照)は、保持部82の内周面と面一に形成されている。反力受け部20の開口部23は、装着部材80の保持部82の内側に形成された開口部であり、装着部材80は、開口部23内の座金7を囲む。反力受け部20の先端部24は、装着部材80であり、反力受け部20の外周部25は、装着部材80の外周部である。
【0046】
装着部材80には、様々な当接部21を形成することができる。そのため、装着部材80を交換することで、当接部21を第1被締結物50の長孔51と座金7に対応して容易に変更することができる。例えば、当接部21の寸法を長孔51の寸法と座金7の寸法に対応して変更することができ、当接部21の形状を長孔51の形状と座金7の形状に対応して変更することができる。また、装着部材80を収容部70から取り外すことで、ソケット部10を収容部70内に容易に収容することができ、収容部70に装着した装着部材80により、ソケット部10を収容部70内に保持することもできる。
【0047】
以上のように、当接部21は、収容部70に装着される装着部材80に形成されていてもよく、反力受け部20に一体に形成されていてもよい。当接部21を装着部材80に形成する場合には、当接部21は、装着部材80の外周部から張り出して形成して、反力受け部20の外周部25から張り出すようにしてもよい。
【0048】
カーテンウォール42用の被締結物50、60を例にとり、締付工具1について説明したが、被締結物は、カーテンウォール42用の被締結物50、60に限定されず、その他の被締結物であってもよい。ボルト6とナット8により、3つ以上の被締結物を締結してもよい。また、ボルト6が挿通する長孔は、最もナット8側に位置する被締結物に形成されていればよい。その他の被締結物には、ボルト6が挿通する長孔を形成してもよく、長孔以外のボルト6が挿通する孔(例えば、円形孔)を形成してもよい。
【0049】
以上のとおり、締付工具は、被締結物の長孔から突出するボルトが座金とナットを挿通する状態で、前記ボルトに螺合する前記ナットを締め付ける締付工具であって、
前記ナットに係合して、前記ナットの締め付け方向に回転するソケット部と、
前記長孔内で前記被締結物に当接する当接部により、前記ナットの締め付け時の反力を受ける反力受け部と、を備え、
前記反力受け部の当接部は、前記長孔の一対の側壁部と対向する一対の側面を有し、前記長孔の一対の側壁部の間に嵌る締付工具である。
この締付工具では、被締結物の長孔に、反力受け部の当接部に設けた側面が当接することにより、長孔から突出するボルトに螺合するナットを容易に締め付け、被締結物をボルトとナットにより安定的に締結することができる。
【0050】
前記反力受け部の当接部は、前記長孔の湾曲した端壁部に沿って湾曲する湾曲形状に形成されて前記長孔の端壁部と対向する対向面を有する。
当接部の対向面を長孔の端壁部に接触して配置可能になり、反力受け部の当接部を端壁部に近接する位置で長孔に挿入することができる。対向面が端壁部に接触するときには、ナットの締め付け中に、当接部を長孔内でより安定させることができる。
【0051】
前記反力受け部の当接部は、前記反力受け部の先端部に設けられて前記反力受け部の外周部から張り出す。
当接部を長孔に挿入するときに、当接部が視認し易く、当接部の位置を簡単に把握することができる。これにより、長孔に対する当接部の位置合わせ、及び、当接部の長孔への挿入を容易に行うことができる。
【0052】
前記反力受け部は、前記ソケット部を収容する収容部と、前記当接部が設けられて前記収容部に着脱可能に装着される装着部材と、を有する。
装着部材を交換することで、当接部を被締結物の長孔と座金に対応して容易に変更することができる。
【符号の説明】
【0053】
1・・・締付工具、2・・・締付部、3・・・駆動部、4・・・グリップ部、5・・・締結具、6・・・ボルト、6A・・・軸部、6B・・・座金、6C・・・頭部、7・・・座金、7A・・・外周部、8・・・ナット、10・・・ソケット部、11・・・係合部、12・・・逃がし孔、20・・・反力受け部、21・・・当接部、22・・・収容孔、23・・・開口部、24・・・先端部、25・・・外周部、26・・・接触面、27・・・側面、28・・・対向面、30・・・モータ、31・・・伝達機構、32・・・操作部材、40・・・建物、41・・・躯体、42・・・カーテンウォール、50・・・第1被締結物、51・・・長孔、52・・・側壁部、53・・・端壁部、60・・・第2被締結物、61・・・長孔、70・・・収容部、71・・・先端部、72・・・固定部材、80・・・装着部材、81・・・固定用孔、82・・・保持部。