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特許7228516金属-空気セルを初期化し、動作させるためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】金属-空気セルを初期化し、動作させるためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/12 20060101AFI20230216BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20230216BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
H01M4/12 D
H01M12/06 D
H01M4/46
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019531389
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 IL2017051347
(87)【国際公開番号】W WO2018109767
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】62/434,457
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513287255
【氏名又は名称】フィナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ヤクポフ イルヤ
(72)【発明者】
【氏名】ヤドガー アヴラハム
(72)【発明者】
【氏名】ダニーノ アヴィエル
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-168558(JP,A)
【文献】特表平04-504329(JP,A)
【文献】特開平02-295072(JP,A)
【文献】特開2012-015025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/12
H01M 12/06
H01M 4/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al-空気セル内のアノード合金アノード上に保護層を形成する方法であって、前記方法は、以下:
前記Al-空気セルに、アルカリまたはアンモニウムオキソアニオン塩添加剤を所定の濃度で含むセル電解質を供給するステップ;
少なくとも2つのパラメータ、すなわち、前記電解質の特定の温度、前記電解質に対する前記アノードの特定の負電位、および前記アノードから引き出される特定の電流密度を制御することを含む、特定の点への前記Al-空気セルの動作条件を制御するステップ;
運転条件パラメータが安定化して、前記Al-空気セルからの引き出された電流密度を第1の低電流密度まで低下させ、それによって、アノード電位を第1の負電圧よりも低く一時的に低下させ、電解質からのHの発生速度を瞬間的に上昇させ、前記H発生速度の急激な低下が続くステップ、
の発生のレベルが低い値で安定化し、H発生速度のレベルが低下した時点から、前記Al-空気セルの運転電流から引き出されるステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記アルカリまたはアンモニウムオキソアニオン塩添加剤の前記濃度が0.001~0.1Mである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリまたはアンモニウムオキソアニオン塩添加剤が、スズ酸塩、亜鉛酸塩、インジウム酸塩、没食子酸塩、鉛酸塩、および水銀酸塩のうちの少なくとも1つである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
安定化された操作条件における前記電解質の温度が、50℃未満であり、H発生の瞬間的な上昇時間の間、50℃~65℃である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記アノードが、低腐食Al-Mg合金から作られる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アノードがアノード合金から作られる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記アノードの前記特定の負電位が、前記電解質に対して-1.6V以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の低電流密度が-50~50mA/cmの範囲である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記引き出された電流密度を低下させた第1の期間は、1~120秒の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
金属-空気セルシステムであって、以下:
金属-空気セル(101);
セル容器(102);
アノード端子(100T1)に電気的に接続されたセルAlアノード(104);
カソード端子(100T2)に電気的に接続されたセルカソード(106);
前記セル容器内に配置された所定の濃度(110)のアルカリまたはアンモニウムオキソアニオン塩添加剤を含み、前記アノードおよび前記カソードがその中に沈められた電解質;を含み、
アノード端子およびカソード端子が制御可能な電気的負荷に接続されるように適合された、
ここで、前記Al-空気セルに、前記アルカリまたはアンモニウムオキソアニオン塩添加剤を所定の濃度で含むセル電解質を供給するステップ;
少なくとも2つのパラメータ、すなわち、前記電解質の特定の温度、前記電解質に対する前記アノードの特定の負電位、および前記アノードから引き出される特定の電流密度を制御することを含む、特定の点への前記Al-空気セルの動作条件を制御するステップ;
運転条件パラメータが安定化して、前記Al-空気セルからの引き出された電流密度を第1の低電流密度まで低下させ、それによって、アノード電位を第1の負電圧よりも低く一時的に低下させ、電解質からのHの発生速度を瞬間的に上昇させ、前記H発生速度の急激な低下が続くステップ、
の発生のレベルが低い値で安定化し、H発生速度のレベルが低下した時点から、前記Al-空気セルの運転電流から引き出されるステップを含み、
前記システム。
【請求項11】
前記アノードと前記カソードとの間に接続された電圧計と、前記セルシステムの負荷回路に直列に接続されるように適合された電流計とをさらに備える、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記アノードが低腐食Al-Mg合金で作られている、請求項10または11に記載のシステム。
【請求項13】
前記アノードがアノード合金で作られている、請求項10または11に記載のシステム。
【請求項14】
前記アルカリまたはアンモニウムオキソアニオン塩添加剤の前記濃度が0.001~0.1Mである、請求項10~13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記アルカリまたはアンモニウムオキソアニオン塩添加剤が、スズ酸塩、亜鉛酸塩、インジウム酸塩、没食子酸塩、鉛酸塩、および水銀酸塩のうちの少なくとも1つである、請求項10~13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記アノード電位を第1の負電圧より低く瞬間的に低下させることを外部電源を使用して行う、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記アノード電位の前記瞬間的な低下は、前記Al-空気セル動作サイクルの総予測持続時間の最初の10%以内に開始する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
発生の瞬間的な上昇時間中の電解質の温度が50℃~65℃である、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
いくつかの電解質が、アルミニウム-空気電池のために使用されてきた:水性アルカリ、水性生理食塩水、およびイオン性塩に基づく各種有機電解質。水性アルカリ電解質(それは、15~45% w/wの範囲の濃度の、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどの強アルカリの水溶液である)は、電力を供給するそれらの能力について最良に知られている。この現象は、上述した種類の電解質内での非常に高いアルミニウム(Al)溶解の速度に起因する。
【0002】
電解質中のAl(またはAl合金)アノードの電気化学的溶解は、Al-空気電池による電気の生成を提供する化学的駆動力である。アルミニウムアノードの電気化学的溶解のための全体的なプロセスは、以下の式によって表すことができる。
4Al+3O+6HO→4Al(OH)+2.71V(式1)
【0003】
このプロセスでは、アルミニウム金属の溶解中に放出される電子が、アノードから空気カソードへの流れを生成し、そこで酸素還元が起こる。反応電子は外部回路を通過し、したがって有用な電気エネルギーを形成する。この反応の理論電位はかなり高く(+2.71V)、水性アルカリ電解質中のAlの高い溶解速度は、高い電流密度(電池の電力密度を規定する2つの因子)を可能にする。
【0004】
しかしながら、水性アルカリ電解質におけるAlの高い化学電位には欠点がある。この欠点は、外部回路に電流を生成することなく、電解質中のAlの直接的なアルミニウム溶解をもたらす。式(1)に示す「電気化学的溶解」の「有用な」プロセスとは逆に、この「寄生」プロセスは、「化学的溶解」または「腐食」と呼ばれ得る。
2Al+6HO→2Al(OH)+3H(式2)
【0005】
式(2)に概説するプロセスは、Al「燃料」の浪費、電解質の望ましくない消費、および水素(H)ガス発生をもたらす。最終的に、これは、効率の低下として観察される。Al-空気電池の作動中、プロセス(1)および(2)は互いに競合している。プロセス(1)および(2)の他にアルカリAl-空気電池におけるアルミニウム消費の他の経路はないので、発電と腐食との間の競合を、アノードによって生成される利用電流と利用電流および腐食電流の和との比である「クーロン効率」として本明細書で示すパラメータによって説明することができる。クーロン効率はまた、電気化学経路(式(1))によって溶解されたアルミニウムの質量の、同じ動作条件下で溶解されたアルミニウムの全質量に対する比として計算され得る。
クーロン効率=Ielectricity/(Ielectricity+Icorrosion)=mAlelectricity/mAltotal(式3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Al-空気電池の性能、すなわち、特に低電流および開回路(OCV)条件において、より高い全体エネルギー密度、より高い制限電流、より高い電力密度、およびより低い腐食を改善する、Alアノードの表面上に保護層を生成するための方法および制御システムを提供する。指名した方法は、アノードが低腐食性アノード合金、すなわちアノード合金で作られ、電解質が金属オキソアニオン添加剤、好ましくはスズ酸ナトリウムまたはカリウム、およびアルミニウムアノードと金属オキソアニオン添加剤との間の特定の化学反応事象を含有する水性アルカリ電解質であるAl-空気電池への動作パラメータの特定の組み合わせの適用を含み、これを、セル動作サイクルの特定の段階中に達成する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、アノードの表面上に保護層を生成する方法を提案し、これは、Al-空気電池の性能を改善し、特に低電流およびOCV条件において、より高い全体エネルギー密度、より高い制限電流、より高い電力密度、およびより低い腐食速度を提供する。この方法は、Arconic Inc.によって開発されたアルミニウム合金組成物などの低腐食性アノード合金から作製されたアノードを含むAl-空気電池に、動作パラメータの特定の組合せを適用し:3重量%未満のMg、400ppm未満のFe、ならびに0.002重量%~0.05重量%の範囲の量のZnおよびGaの少なくとも1つの添加物からなり、残りはアルミニウムおよび不可避的不純物(以下陽極合金)、金属オキソアニオン添加剤、好ましくはスズ酸ナトリウムまたはカリウムを含有するアルカリ電解質であり、こうして改質保護層を形成する。
【0008】
Al-空気電池におけるアルミニウムアノードの腐食抑制は、数十年にわたって広範に研究されてきた。一般に、考慮されるアプローチは、3つの群に分けることができる。
(1)アルミニウムアノード冶金の改善(純度、Mg、Sn、Ga、In、Znのような他の金属との共合金化、特定の合金構造の製造、合金製造後処理);
(2)電解質中に有機防食添加剤及び界面活性剤が存在すること;
(3)電解質中に無機防食添加剤(Sn、In、Zn、Hg、Pbなどの金属のオキソアニオンを含む)が存在すること。
【0009】
腐食防止添加剤の作用機構は、保護層の改質にあると考えられる。いくつかの化学薬品は、電池内のAlアノード動作中にアノード表面の近傍に存在する場合、Al金属の電気化学的溶解とAl金属の腐食との間の競合が最初に有利に変化するように、自然に形成される酸化物/水酸化物層の特性に影響を及ぼし(または変更し)得る。したがって、電気化学的および化学的に耐食性を形成する。
【0010】
Alアノードの反応表面における耐腐食性化学物質の存在は、同等の操作条件下で腐食速度の減少に直接影響する。したがって、より高いアノードクーロン効率(columbic efficiency)で動作し、同じ動作条件下でより少ないHを生成する電池が得られる。加えて、電池動作に対する添加剤の全体的な効果を、電池エネルギー、電力密度、および動作コストなどのパラメータを考慮に入れて、システムレベルで測定することができる。
【0011】
Sn、In、Zn、Pb、Ga、Hg(スズ酸塩、インジウム酸塩、亜鉛酸塩、没食子酸塩、鉛酸塩、水銀酸塩など)などの金属のオキシアニオン塩は、アルミニウム-空気電池の電解質に有効な耐食添加剤であることが報告されている。このタイプの添加剤の作用機構は、報告されているところでは、Alアノードの表面上のオキシアニオンの還元を含む。前記オキソアニオンの還元は、アノードの作用表面を覆う不溶性(または難溶性)金属粒子の堆積をもたらす。前記金属粒子は、アノード上の保護層の特性を変更し、保護層をより腐食しにくくする。この金属改質保護層は、電気化学反応に関与するAlアノードの能力を有意に変化させず、またはAl-空気電池における電気エネルギーの生成に影響を及ぼさない。金属粒子の層は、連続プロセスの一部としてアノード表面上に形成されてもよく、アルミニウムアノードの電気化学的溶解中のアルミニウム表面からの粒子の除去を相殺する。
【0012】
Al-空気セル内のアノード合金アノード上に不動態化層を作製する方法は、所定の濃度のアルカリオキソアニオン塩添加剤を含むAl-空気セル電解質を提供し、特定の点までAl-空気セルの動作条件を制御することを含み、パラメータのうちの少なくとも2つ:電解質の特定の温度、電解質に対するアノードの特定の負電位、およびアノードから引き出される特定の電流密度を制御することを含む方法が開示されている。動作条件パラメータがAl-空気セルから引き出された電流密度を第1の低電流密度に安定化させ、それによってアノード電位を第1の負電圧よりも低く一時的に低下させ、電解質からHの発生速度を一時的に上昇させ、続いて、第1の期間の後、Hの発生速度の急激な低下が続いた際、およびHの発生のレベルが低い値で安定化し、Hの発生速度のレベルが低下した時点から第2の期間より遅くない際、Al-空気電池の動作電流から引き出される。
【0013】
いくつかの実施形態によれば、アルカリオキソアニオン塩添加剤の濃度は、0.001~0.1Mである。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、アルカリオキソアニオン塩添加剤は、スズ酸塩、亜鉛酸塩、インジウム酸塩、没食子酸塩、鉛酸塩、および水銀酸塩のうちの少なくとも1つである。
【0015】
さらなる実施形態によれば、引き出された電流密度が減少する前の安定化された動作条件での電解質の温度は、50℃未満であり、H発生の瞬間的な上昇時間の間、50℃と65℃との間である。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、アノードは、低腐食Al-Mg合金から作製される。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、アノードは、低腐食Al-Mg合金から作製される。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、引き出された電流密度の減少の開始時におけるアノードの負電位は、電解質に対して-1.6V以下である。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、引き出された電流密度は、-50~50mA/cmの電流密度まで減少する。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、アノード電位の瞬間的な低下は、Al-空気電池動作サイクルの総予測持続時間の最初の10%以内に開始する。
【0021】
本発明とみなされる主題を、本明細書の結論部分において特に指摘し、明確に特許請求する。しかし、本発明は、その目的、特徴、および利点と共に、動作の編成および方法の両方に関して、添付の図面とともに読まれるときに、以下の詳細な説明を参照することによって最良に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態による、Al-空気電池電圧およびクーロン効率の電流密度依存性(Phinergy Ltd.のAl-空気電池、400cmで測定)のグラフを示す。
図2図2は、本発明の実施形態による、アルミニウムアノード腐食(Hガス生成速度としての)、および電流密度の関数としての対応するクーロン効率依存性(図1のAl-空気電池、400cm)のグラフを示す。
図3図3は、本発明の実施形態による、陽極半電池(水性KOH30%(w/w)、スズ酸ナトリウム0.004M)で試験したアノード合金における「ピーク事象」を示す。
図4図4は、本発明の実施形態による、本発明の方法に従って不動態化されたアノード合金における電流密度および温度の種々の値での腐食(H発生速度として)対同じ電解質(KOH30%(w/w)、0.004Mスズ酸ナトリウム)および同じ条件における通常の99.99% Al-Mg合金の比較を示す。
図5図5は、本発明の実施形態による、本発明の方法に従って不動態化されたアノード合金における電流密度および温度の種々の値におけるアルミニウムアノードエネルギー対同じ電解質(KOH 30%(w/w)、スズ酸ナトリウム)および同じ条件における99.99% Al-Mg合金を示す。
図6a図6aは、0.004Mスズ酸ナトリウム(半電池)を含むアノード合金および電解質KOH30%(w/w)を含むシステムにおいて開始され、本発明の実施形態による改質された不動態化をもたらす「ピーク事象」のグラフを示す。
図6b図6bは、本発明の実施形態による、図6aの実験の条件における通常の99.99% Al-Mg合金の挙動のグラフを示す。
図7図7は、本発明の実施形態による、改質された保護層をもたらす「ピーク事象」の前(左)および後(右)のアノード合金の作業表面外観を示す。
図8図8は、本発明の実施形態による、Al-空気電池システムのブロック図を示す。
図9a図9aは、本発明の実施形態による、電圧および水素発生速度を示す、実際の電池(アノード合金を有する図1のAl-空気電池)における「ピーク事象」開始の例である。
図9b図9bは、本発明の実施形態による、図10aにおけるような、開始された「ピーク事象」のゾーンの拡大グラフである。
図10図10は、本発明の実施形態による、図1のAl-空気電池のアルミニウムアノードにおけるエネルギー利用の、アルミニウムのアノードを使用した同じセル(グラフ1104)と比較したアノード合金(グラフ1102)との比較を示す。
図11図11は、本発明の実施形態による、電力-電流応答、アノード合金アノードおよびAl-Mg合金のアノード(2.5% Mg、純度99.99%)、電解質30%(w/w)KOHの0.004Mスズ酸ナトリウムとの対比のグラフを示す。
図12図12は、Al-Mg合金(2.5%Mg、99.99%純度)のアノードを有する同じAl-空気電池(グラフ1304)、0.004Mスズ酸ナトリウムを含む電解質30%(w/w)KOHと比較した、アノード合金アノードを有するAl-空気電池システム(グラフ1302)におけるエネルギー密度の改善のグラフを示す(グラフ1302)。
【0023】
説明を簡単かつ明確にするために、図面に示す要素は必ずしも一定の縮尺で描かれていないことが理解されるであろう。例えば、いくつかの要素の寸法は、明確にするために、他の要素に対して誇張されている場合がある。さらに、適切であると考えられる場合、参照符号は、対応するまたは類似の要素を示すために、図面の間で繰り返され得る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
Alアノード表面の電気化学的溶解と腐食との間の競合に影響を与える因子(式(1)および(2)によるプロセス)の一つ、すなわち、アノード利用の効率を確立する因子(式(3))は、Alアノード表面の不動態化である。
【0025】
以下の詳細な説明では、本発明の完全な理解を提供するために多くの具体的な詳細について述べる。特定のパラメータは、従来の電池技術において、当分野の専門家によって知られている。しかし、本発明は、周知の方法、手順、および構成要素を説明することで妥当性を示す。用語「電池」、「セル」、および「電気セル」を、本発明全体を通して互換的に使用する。
【0026】
水性アルカリ電解質と接触するAl金属(またはAl合金)は、化学反応の結果として不動態化を受け、金属酸化物/水酸化物のコーティング層を生成する。
【0027】
式(1)および(2)から分かるように、電池内のAlアノード反応経路の両方は、Al金属(または合金)から始まり、三水酸化アルミニウムで仕上げられる。Al金属(またはAl合金)の酸化は、金属/電解質界面で起こる。酸化プロセスを、アルミニウム金属結晶構造の深さを通る酸素およびヒドロキシル種の表面浸透として可視化することができる。このプロセスの結果として、金属酸化物/水酸化物層が形成し、それは下にある金属を連続反応から保護する。この金属酸化物/水酸化物層は、保護層と呼ばれる。
【0028】
保護層の組成に関して、一般的な説明を提供することができる:前記保護層のより深い部分(金属アルミニウムアノードにより近い)は、未定義の化学量論の酸化アルミニウムからなり、一方、外部部分(電解質に面する)は、ほとんど、完全なアルミニウム酸化(および酸化物水和)の生成物からなり、これを、三水酸化アルミニウムとしても知られるAl(OH))の一般式によって表すことができる。
【0029】
保護層の厚さに関しては、保護層の形成(酸化による)を考慮するだけでなく、電解液中での溶解によって保護層を除去するプロセスも認識しなければならない。溶解/除去プロセスは、それがなければアルミニウムアノードが急速に不動態化し、電池が作動しなくなるので、重要である。しかし、保護層の外部の主要成分である三水酸化アルミニウムは、アルカリ溶液に容易に溶解する。したがって、保護層除去プロセスは、連続的なAl-空気電池動作に不可欠である。
【0030】
したがって、作動中のAl-空気電池におけるAlアノードの表面上の保護層を、動的な金属-電解質界面と考慮することができ、これは、電池動作中に連続的に形成され、除去される。
【0031】
Alアノード上の保護層の組成、形態、および厚さは、Al電池のエネルギー、電力、および経時的サービスプロファイル特性を決定する重要な因子である。
【0032】
第1に、連続的に形成される保護層は、アルカリ電解質中のアルミニウムアノード電位が、Al-空気電池について、-2.31V(対NHE)の理論的標準値を決して達成しない理由である。代わりに、-1.8V~-1.9V(NHE)のより低い電位が、実際に観察される。
【0033】
電流が印加されるか、またはセルから引き出されると、アルミニウムアノード電位は、主に保護層からの電位降下のために、より正になる。
【0034】
Al金属アノードと電解質溶液との間の電荷移動は、保護層から生成される抵抗のために妨げられる。保護層の形成速度および厚さは、アノード電流密度の関数である。さらに、より高い電流密度は、より厚い保護層、より大きな電気抵抗、および全体的により低いセル電位を提供する。したがって、Al-空気電池が+2.71Vの理論電圧と比較して+1.2V~+1.4Vの範囲の公称セル電圧を典型的に示す理由を説明する。
【0035】
Alアノード保護層の現象は、Al-空気電池の電流制限にも寄与する。前述のように、保護層の形成プロセスは、印加された電流および寄与する腐食速度に起因して、電気化学的酸化を受けるアルミニウムアノードの速度に関連する。必要な電流およびAl酸化の変化率が、保護層を溶解する電解質の能力を超える場合、Al-空気電池アノード電位は、保護層が厚すぎるために低下し得る。
【0036】
Al-空気電池の性能に対する保護層の影響に関して、Al保護層は、クーロン効率に影響を及ぼすことが実証されている。腐食速度と電流との間の依存性の一般的な傾向は、逆である。例えば、電池電流が高いほど、動的保護層は厚くなり、寄生腐食速度は低くなる。図1は、クーロン効率が、より高い電流密度で100%(ほぼゼロ腐食)になる傾向があることを示している。しかしながら、全体的な電池のエネルギーおよび電力に関して、これは、より高い電流での低下するAlアノード電位(保護層の厚さの増加に起因する)のために、より高い電流密度が好ましいことを意味しない。一般に、この負の因子(高電流密度でのAlアノード電位の低下)は、クーロン効率に対する高電流密度の正の影響を圧倒する。したがって、最大エネルギーおよび最大電力は、必ずしもクーロン効率が100%に近づく領域にはないことを意味する。
【0037】
より低い電流密度(ゼロ電流に向かう)では、クーロン効率は、式(3)のIelectricity係数の減少のため、および保護層の厚さの減少のために、自然に減少する。さらに、保護層の厚さが減少することにより、腐食の速度(Icorrosion)が増加し、その結果、図2に示すように、H生成が増加する。アルカリ電解質を有するAl-空気電池について、低電流または開回路電圧(Ielectricity=0)でのアノード腐食およびH生成が、既知の問題である。
【0038】
Al-空気電池の主な目的は、電気エネルギーの製造である。したがって、Al-空気電池の陽極材料の品質および性能を特徴付けるための最終的な基準は、Al-空気電池におけるAl電気化学的酸化の反応の理論電圧に対する達成可能な電池電圧の比+2.71V(式(1)参照)を乗じたクーロン効率から計算される「エネルギー効率」である。
【数1】
一方、
C.eff.-クーロン効率;
F-ファラデー定数;
V-電池電圧;
theor-理論的なAl-空気電池電圧、2.71V
【0039】
例えば、90%のクーロン効率および電圧1.3Vで動作する実際の電池は、以下によるアルミニウム金属のエネルギー電位を利用する:
【数2】
【0040】
理論電圧+2.71Vにおける純アルミニウムアノード作用対空気電極層1kgに含まれる電気エネルギーの理論量を、以下の式によって計算することができる。
【数3】
一方:
26.801Ah/eq-ファラデー定数;
26.981*10-3-Alの原子量;
2.71V-Al-空気電池のVtheor
3-酸化された各Al原子について移動した電子のモル数。
【0041】
エネルギー効率(電圧、電流、および水素発生速度の測定による)ならびに純粋なアルミニウムアノード1kg中の電気エネルギーの理論量を知ることによって、アルミニウムアノードについての「エネルギー利用」値を計算することができる。エネルギー利用は、消費されるアノード材料の単位重量当たりに生成される電気エネルギーの量として定義される。式5および6の前の例から続けると、エネルギー利用は以下のようになる:
【数4】
【0042】
式(6)および(7)から分かるように、Al-空気電池においてアノード材料の単位重量が生成し得るエネルギーは、(クーロン効率に影響を及ぼす)腐食速度および(電池電圧に影響を及ぼす)電解質に対してAlアノードが発生するアノード電位に依存する。腐食速度および電位の両方は、Alアノードの作用表面上に残る保護層の特性によって大きく影響される。
【0043】
本出願に記載する本発明の実施形態の発明者らは、以下でアノード合金と示す特定のAl合金(複数可)をアルミニウム-空気電池のためのアノードとして使用し、電池動作条件の特定の組合せ(複数可)(電解質温度、電流密度、およびオキソアニオン塩添加剤の濃度など)が満たされる場合、アノード表面の電解質との特定の相互作用が生じることを見出した。アノード合金を、合金中のMgが1~4重量%の範囲内であり、合金中のFeが0~500ppmの範囲内であり、および以下:0.001~0.06重量%の範囲の量のZnおよびGaのうちの少なくとも1つの添加の特性値範囲によって定義することができる。上記の電池動作条件の結果として、改質された保護層が生成され、電池の動作サイクルの残りの部分の性能向上をもたらす。
【0044】
「ピーク事象」を、図3に示す。2つの異なる電解質:30%(w/w)KOH電解質、および0.004Mスズ酸ナトリウム電解質を含む30%(w/w)KOHを有するアノード半電池で試験したアノード合金について。腐食速度を、H発生の関数として測定した。試験プロフィールは、45秒のステップ持続時間で、各温度ステップで段階的に電流密度を印加して電解質温度を段階的に上昇させることを含む。水素発生を、H流量計によって各電流ステップで測定した。生成された各データ点は、所与の電解質温度および電流にわたって安定化された平均水素発生速度を表す。
【0045】
特に、50℃未満の温度では、スズ酸塩の添加はアノード合金の腐食速度に影響を及ぼさず、2つの線(菱形および三角形のデータマーカー)は非常に類似している。しかし、50℃では、最低の印加/引き出された電流で、スズ酸塩含有電解質中のアノード合金は「事象」を受け、これは「ピーク」様水素発生として現れる(電流ステップ#28での菱形点)。この「事象」が完了した後、スズ酸塩含有電解質中の試験片の腐食速度は低下する。さらに、スズ酸塩含有電解質試料を無添加電解質系中の試験片と比較すると、腐食速度、すなわちH生成も低下する(電流ステップ#31から始まる菱形点)。
【0046】
図3に示す現象を、「ピーク事象」と呼ぶ。この現象がAl-空気電池におけるAlアノード性能に対して及ぼす適用および影響を、さらに開示する。
【0047】
Al-空気電池内では、アノード材料としてアノード合金を使用し、アルカリ金属オキソアニオン塩添加剤(例えば、NaまたはKのスズ酸塩)を含有する電解質を使用しながら、動作パラメータの特定の組合せを適用すると、相互作用が強制され、本明細書で「改質保護層」と示される、アノード表面上の所望の改質保護層をもたらすことが観察された。電解質温度および/またはアノード負電位をあるレベルを超えて上昇させるために、電池の動作条件(電解質温度、電解質に対するアノード電位、およびアノードからの電流密度のうちの少なくとも2つを制御することを含む)の動作点を制御することで、アノードと電解質との間の反応が開始する。この反応は、腐食の急速な増加(例えば、H発生速度によって測定される)を伴う、アノードの表面上の激しい反応として観察され得る。腐食/水素発生速度は増加し、最大に達し、減少し、最終的には、新しい実質的により低いレベルで安定する。
【0048】
この特定の相互作用が起こった後、Alアノードは、異なるAlアノード表面形態を生成する改質された保護層を獲得し、改質前に有していた特性または改質が適用されなかった場合に有していた特性とは対照的な特性を含む。
【0049】
新たに生成された不動態化は、アノードのエネルギーおよび動力特性を劇的に改善し、腐食速度を低下させる。
【0050】
腐食の低減は、低電流密度、近接および/または開回路条件で顕著であり、これは、Alアノードの利用を許容可能なレベルに維持しながら、より広範囲の電池動作条件を可能にすることによって、Al-空気電池用途にかなりの影響を及ぼす。
【0051】
図4および図5は、アノードの異なる試験片の水素発生速度を示す。アノード試料は、アノード合金と「通常の」合金とからなるが、アノード合金は、少なくともGaまたはZnの含有量が「通常の」合金とは異なる。両方の合金は、同じ純度レベル99.99%のAl-Mg(2.5% Mg)である。電解質組成は、60℃(図4)および65℃(図5)の温度でスズ酸ナトリウムを0.004M添加した30%(w/w)KOH電解質であった。両方の合金の性能は、それらの類似の組成のために類似していると予想される。しかし、アノード合金試験片を「ピーク事象」に供した後、「通常の」合金と比較して性能が実質的に改善された。「通常の」合金は、同じ条件で改質された不動態化に対する感受性を示さない。不動態化アノード合金は、同一条件下で腐食速度の低下を示し、より高いエネルギー利用をもたらすことが分かる。
【0052】
本発明の実施形態によれば、Al-空気電池性能において前述した改善を達成するために、以下の3つの条件が満たされるべきである。
(1)-低腐食Al合金(好ましくはアノード合金)からなるアノード;
(2)-0.001~0.1Mの溶解金属オキソアニオン塩添加剤(アルカリ金属またはスズ酸、亜鉛酸、没食子酸、インジウム酸、鉛酸、水銀酸アンモニウム)を含有するアルカリ電解質;
(3)「ピーク事象」または改質された保護層の発生。
【0053】
上記の第3の条件に関して、本発明者らは、(条件#1および#2が存在することを条件として)改質された保護層が生じるために、3つのパラメータが適切な組み合わせであるべきであることを見出した:
a)オキソアニオン添加剤(複数可)濃度;
b)電解質温度;
c)アノード電位対電解質(電流密度)。
異なる組み合わせは、異なる保護層特性をもたらし得る。
【0054】
例えば、図3に示すように、以下のパラメータの値:アノード合金、0.004Mスズ酸ナトリウムを含む電解質30%(w/w)KOH水溶液、電解質温度39℃、および電流密度2.0mA/cm(これは、Hg/HgO基準電極に対してアノード電位1.76Vをもたらす)は、ピーク事象をもたらし、その後、改質された不動態化層生成をもたらす。
【0055】
上述したように、改質された保護層の形成を開始するためには、動作パラメータの特定の組合せが必要である。適切なアノード材料(例えば、アノード合金)および適切な電解質溶液(アルカリ金属またはアンモニウムオキソアニオン塩含有)を用いても、動作温度およびアノード電位(電流密度)の両方が適切な条件にない場合、「ピーク事象」は、電池動作サイクル中に起こらない場合がある。したがって、「ピーク事象」を誘発し、電池動作サイクルにおいて可能な限り早期に改質保護層を形成することは、最大の利用可能なエネルギーおよび電力を抽出するために有益であることが見出される。
【0056】
電池動作サイクルの開始時に改質された保護層の形成を開始することを可能にし、したがって電池性能全体を改善する、Al電池動作の方法を提案する。改質された保護層形成を初期化する方法は、以下の段階を含むことができる:
(1)Al-空気電池を、動作電流(典型的には、80~250mA/cm)のもとで、最初の動作温度(通常、40℃を超える)まで加熱する;
(2)印加された/引き出された電流を、0...50mA/cmの間の値に瞬間的に低下させるか、または-50...0mA/cmの間の範囲の逆(カソード)方向に強制し、したがって、-1.6V~-2.2Vの範囲の値にアノード電位のピークを引き起こす(対Hg/HgO基準);
(3)電位ピークは、アノード合金と電解質中のオキソアニオン添加剤との間の反応を誘発する。この反応は、H発生の急速な増加とそれに続く減少として観察される。
(4)H発生がより低い流量(120秒まで)に安定した後、動作電流が再印加され、電池動作が継続する。
【0057】
このアプローチの例を、図6aに示す。図6bは、一定の温度および電流密度におけるスズ酸塩含有電解質中のアノード合金アノードについての腐食速度のプロットを示す。実験のある瞬間(タイムライン上で「t1」と記す)に、「電位ピーク」をアノードに印加する。短時間のうちに、印加電流(または、電流を供給するセルを動作させるときには、引き出された電流)は、降下する(「t1」と「t2」との間の領域)。「電位ピーク」が達成され、以前の電流値が回復された後、腐食速度は、「電位ピーク」前の腐食速度と比較して著しく低いレベルに安定する。明らかに、電位ピークおよび不動態化「事象」は、アノード表面の不可逆的変化をもたらす。しかしながら、「t1」前と「t2」以降の時間間隔におけるアノードの作動条件は同一(温度、電解質、印加電流の値が同じ)である。改質された保護層(「t2」以降)によって被覆されたアノードは、低い腐食性を示し、全体的な性能を向上させる。
【0058】
さらに、「ピーク」後のH発生速度は、ID1からID3に変化する印加電流の変化に対するH発生速度反応の比較からわかるように、電流の規模に対してより感度が低くなる(図6aの不動態化アノードのHレベルと図6bの通常のアノードのHを比較)。
【0059】
対照的に、同じ試験条件下で、スズ酸塩添加剤が同じアノード合金アノードの電解質中に存在しない場合、「電位ピーク」が生じた後、試験片は不可逆的変化を受けない。図6bは、電位ピークの後(図6b Hグラフの「t2」マークの後)のH発生速度が、「電位ピーク」の前(t1の前)に同じレベルに戻る傾向があることを示している。
【0060】
したがって、アノード合金の挙動の不可逆的変化は、アノード表面上の保護層に形態変化を引き起こす「ピーク事象」の発生の結果であると結論付けられる。この結論は、「ピーク事象」の前および後のアノード表面外観の視覚的に観察可能な変化によっても支持される。図7に見られるように、「ピーク事象」の前のアノード合金の作用表面は、金属光沢に見え、一方「ピーク」の後は、それは灰色がかって鈍くなる。これは、その後、表面上に堆積したスズ粒子によるものであると決定された。
【0061】
ここで、本発明の実施形態による金属-空気セルシステム100の概略ブロック図である図8を参照する。セル101を含むセルシステム100。セル101は、セル容器102、セルアノード104、セルカソード106、および電解質110である。セル101は、電気回路または負荷160が接続され得るアノード端子100T1およびカソード端子100T2をさらに含む。セルシステム100は、端子間の電圧を測定し、測定した電圧の表示を提供するために、セル端子100T1と100T2との間に接続されてもよい電圧計154をさらに備えてもよい。セルシステム100は、セル端子のうちの1つおよび負荷160と直列に接続されて、セル端子間を流れる測定された電流を測定し、その指示を提供することができる電流計152をさらに備えることができる。
【0062】
負荷160は、負荷の電流を電流制限IMINとIMAXとの間で所望通りに設定するために調節可能な負荷とすることができ、制御装置によって制御することができる。
【0063】
セルシステム100は、電圧計154からセル電圧の指示、および電流計152からセル電流の指示を受け取ることができる制御装置ユニット180をさらに含むことができる。制御装置ユニット180はさらに、負荷160に接続され、負荷の電流値を調整し、それによってセルの電流を調整するように適合されてもよい。制御装置ユニット180をさらに、当技術分野で知られているように、セル101へ/から負荷の接続を接続および切断するように適合させることができる(制御接続は図面に示していない)。制御装置ユニット180は、当技術分野で知られているように、マイクロ制御装置プログラマブル論理制御装置(PLC)系・オン・チップ・ユニットなどの任意の適切な制御装置とすることができる。制御装置ユニットは、メモリユニット、入力/出力(I/O)ユニット、CPUなどを備え、メモリユニットに格納されたプログラムのプログラムステップの実行を可能にし、本出願に記載したステップおよび方法を実行することができる。制御装置ユニット180は、格納されたプログラムコードおよび/または格納されたデータをロード/更新/変更することを可能にするユーザインターフェースをさらに備えてもよい。
【0064】
セルシステム100は、以下の特徴:アルカリ濃度、電解質pH、電解質温度、H生成の速度、およびセルシステム100におけるH流量計から、セルシステム100の動作の少なくとも1つの特徴の表示を提供するように適合されたセンサ156をさらに備えてもよい。1つ以上の指示は、制御装置ユニット180に提供されてもよい。
【0065】
本明細書に開示するように、保護層の変更は、電池の動作パラメータを制御することによって開始され得、それによって、Al-空気電池の性能を改善する。
【0066】
保護層の改質をもたらすために、電池動作パラメータ値を制御することによるアノード性能改善の技術が、Al-空気電池動作においてどのように実施されるかの例を、図9aに示す。グラフは、本発明の実施形態による、Al-空気電池(アノード合金製アノード、電極面積400cm、Phinergy Ltd.空気カソード、0.004Mのスズ酸ナトリウムを含む循環KOH電解液)の電圧およびH発生速度のプロフィールを示す。さらに、グラフは、安定した性能条件で6時間続く電池動作中の電池電圧およびH発生を示す。時間軸上の時間マーク0.25~0.5時間の間に、電圧およびH発生の重なり合うピークが見られる。この観察結果をより良好に表示するために、この時間間隔の拡大挿入図を、図9bに示す。
【0067】
図9bに表示するように、プロセスを開始し(電池始動)、徐々に加熱した後、動作電流70Aの目標値(175mA/cmに対応する)、および単一のセルあたりの安定電圧-1.3Vに、約0.3時間で到達した。この時点で、H発生速度(腐食速度および寄生アノード材料損失の指標である)も、約65mL/分の合計値で安定した。0.3~0.4時間の時間間隔では、動作電流は、70Aから10Aに急激に低下した。したがって、1.6Vまでの電圧ピーク(アノード電位ピーク、電池空気カソードに対して測定)を直ちに引き起こす。その後速やかに、H発生速度は約230mL/分まで急速に増加し、アノード上の改質不動態化層形成のために直ちに低下した。印加電流を70Aに戻した後、新しいH発生速度は20mL/分未満に安定化され、したがって、改質保護層が形成し、H発生の3倍の減少に起因することが示される。先に図9aに見られるように、この新たに作製された改質保護層は、プロセス全体にわたる連続的なAl消費にもかかわらず、電池動作の残りの6時間の間、改善されたアノードおよび電池性能を提供する。改質保護層が形成すると、H発生速度によって測定することができるように、その効果および利点は、アノード消費が続くにつれて残ることが明らかである。
【0068】
前述のように、Al-空気電池におけるアノード性能を記述する最も包括的な基準は、Wh/kgで表される「エネルギー利用」数値(式7)であり、1kgの消費されたアノード材料から得ることができる有用な電気エネルギーのワット時間を示す。図10は、同じ試験条件で、アノード合金(グラフ1102)アノードおよび「通常の」合金(Al-Mg)(グラフ1104)を有するAl-空気電池において実際に測定されたエネルギー利用の比較を示す。アノード合金は、試験の前に「不動態化事象」に供され、一方「通常の合金」は、「不動態化事象」に供された場合でさえ、同じ条件で改質された不動態化層を形成しない。このような前処理されたアノード合金から実際に得られるエネルギー利用は、「通常の」合金から得られるエネルギー利用よりも実質的に高い。
【0069】
保護層の改質は、本明細書に記載するように、より低い腐食速度、より高いエネルギー利用、および改善された最大利用可能電力をもたらす。図11に示すように、「不動態化事象」を経験したアノード合金アノードからなるセルは、170W/セルまでの動力出力を可能にし、一方、同様の組成の「通常の」Al-Mg合金は、130W/セルを超える持続可能な電力を生成するためにチャレンジされる(Phinergy Al-空気電池、400cm電極領域)。
【0070】
図12は、セル当たりの平均電力(上記のPhinergy Al-空気電池、400cmの電極面積)と、「システムエネルギー密度」とのグラフを示し、これは、実験中に消費された電解質を含む、システムの重さによって正規化されるシステムによって生成されるエネルギーである。一方、「通常の」アノードは、本発明に従って不動態化された約350Wh/kgのアノード合金に達し、先に詳述したセル条件下で420Wh/kgを超えるまでシステムエネルギー密度を改善する。
【0071】
本発明の特定の特徴を本明細書に例示し、説明してきたが、当業者であれば、多くの修正、置換、変化、および均等物をここで思いつくであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神の範囲内に入るすべてのそのような修正および変更を包含することが意図される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9a
図9b
図10
図11
図12