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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】試料を保存するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/31 20060101AFI20230216BHJP
   G01N 29/024 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G01N1/31
G01N29/024
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019533636
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 US2017067811
(87)【国際公開番号】W WO2018119189
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】62/438,152
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/437,962
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507179346
【氏名又は名称】ベンタナ メディカル システムズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】チャフィン,デービッド
(72)【発明者】
【氏名】オッター,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】バウアー,ダニエル
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/097163(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/097166(WO,A1)
【文献】特表2013-521506(JP,A)
【文献】特表2014-505890(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0243626(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬濃度を決定する方法であって、
試薬中に試料を浸漬するステップと、
飛行時間(time-of-flight) を得るステップであって、前記飛行時間が、前記試料が前記試薬中に浸漬された時刻からの経過時間に対する実験によって得られ、前記飛行時間が、前記試薬に浸漬された前記試料を通じて送信された音響波の飛行時間であり、
複数の候補拡散定数を用意するステップと、
第1のモデル飛行時間対前記試料が前記試薬中に浸漬された時刻からの複数の時点にわたる経過時間を生成するように前記試料の中への前記試薬の拡散の空間依存性のシミュレーションを行うステップであって、前記シミュレーションは、前記複数の候補拡散定数ごとに行われるステップと、
前記第1のモデル飛行時間対経過時間を、前記実験によって得られた飛行時間対第1の誤差関数を得るための経過時間と比較するステップであって、前記第1の誤差関数の最小値が前記試料についての拡散定数をもたらすステップと、
複数の候補試料多孔率を用意するステップと、
第2のモデル飛行時間対前記試料が前記試薬に浸漬された時刻からの複数の時点にわたる経過時間を生成するように前記試料の中への前記試薬の拡散の空間依存性のシミュレーションを行うステップであって、前記シミュレーションは、前記複数の候補試料多孔率ごとに行われる、ステップと、
第2の誤差関数を得るように前記第2のモデル飛行時間を前記実験によって得られた飛行時間と比較するステップであって、前記第2の誤差関数の最小値が前記試料の多孔率をもたらすステップと、
前記試料の前記多孔率、及び、前記試料の前記拡散定数を用いて特定の時間における前記試料内の1つまたは複数の特定の空間の点での前記試薬の濃度を計算するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記複数の時点にわたって前記第2のモデル飛行時間対前記試料が前記試薬中に浸漬された時刻からの複数の時点にわたる経過時間を生成するように前記試料の中への拡散の前記空間依存性の前記シミュレーションを行うステップは、前記試料についての前記拡散定数を利用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記特定の時間における前記試料に関する前記1つまたは複数の特定の空間の点での前記試薬の前記濃度を前記計算するステップは、前記拡散定数および時間から前記特定の時間における前記1つまたは複数の特定の空間の点での拡散率を計算するステップと、前記濃度をもたらすために以下の式:
【数1】

において前記拡散率を使用するステップと、
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記試薬は、ホルムアルデヒド、エタノール、キシレン、およびパラフィンからなる群から選択される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
試薬濃度を計算するためのパラフィンの分子量は、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、粘度平均分子量(Mv)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記試薬は、ホルムアルデヒド溶液を含み、前記試料の中心における点での前記ホルムアルデヒド溶液の中のホルムアルデヒドの濃度が少なくとも90mMを超えると、前記試料は、前記試薬から除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
試薬の中に浸漬された組織試料を通じて移動した音響波を検出する音響モニタリングデバイスと、
前記音響モニタリングデバイスに通信可能に結合され、飛行時間に基づいて前記試薬に浸漬された前記組織試料を通じて送信された前記音響波の速さを評価するように構成されるプロセッサと、
前記プロセッサに通信可能に結合されたメモリであって、実行されるときに、
前記組織試料についての複数の候補拡散定数の獲得、
複数の時点に亘る第1のモデル化された飛行時間を生成するための、前記組織試料内への前記試薬の拡散の空間依存性のシミュレーティングであって、前記シミュレーティングが、前記複数の候補拡散定数の各々に対して実行されるもの、
前記第1のモデル化された飛行時間と測定された通過時間対拡散時間の間の第1の誤差の決定であって、前記第1の誤差に基づく誤差関数の最小値が前記組織試料についての拡散定数をもたらす決定、
前記組織試料についての複数の候補試料多孔率の獲得、
複数の時点に対する第2のモデル化された飛行時間を生成するための、前記試薬の前記組織試料への拡散の空間依存性のシミュレーティングであって、前記シミュレーティングが、前記複数の候補試料多孔率の各々に対して実行されるもの、
前記第2のモデル化された飛行時間と、前記測定された通過時間対拡散時間の間の第2の誤差の決定であって、前記第2の誤差の最小値が前記組織試料の多孔率を特定する決定、ならびに
前記組織試料の前記特定された拡散定数および前記特定された多孔率を用いた、前記組織試料内の1つ又は複数の特定の空間点における特定の時間における前記組織試料内の前記試薬の濃度の計算、
を含む各動作を前記プロセッサに実行させる命令を記憶したメモリと、
を備えるシステム。
【請求項8】
前記メモリは、実行されるときに、特定の時間における前記組織試料の中心近傍の点での試薬濃度を出力する命令をさらに備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記メモリは、実行されるときに、前記組織試料の前記中心における前記試薬濃度が予め決定された濃度閾値を超えるときに、前記組織試料内への前記試薬の注入を終了させる命令をさらに備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記試薬がホルムアルデヒドを含有し、前記予め決定された濃度閾値は少なくとも90mMである、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記システムは警報器をさらに備え、前記メモリは、前記プロセッサによって実行されるときに、前記組織試料の前記中心における前記試薬濃度が前記予め決定された閾値を超えると、前記警報器を鳴動させる命令をさらに備える、請求項9または10に記載のシステム。
【請求項12】
前記システムは、前記試薬から前記組織試料を除去する機構をさらに備え、前記メモリは、前記組織試料の前記中心における前記試薬濃度が前記予め決定された閾値を超えるときに、前記機構に前記試薬から前記組織試料を除去させる命令をさらに備える、請求項9または10に記載のシステム。
【請求項13】
前記システムが、ヒータを更に含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
前記メモリが、更に、前記予め決定された濃度閾値に達したときに、前記ヒータに、前記試薬を加熱させる命令を備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記試薬が、ホルムアルデヒドを含み、前記予め決定された濃度閾値が、少なくとも90mMである、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記試薬は、20°C未満の温度を有するホルムアルデヒド溶液であり、前記予め決定された濃度閾値に達したときに、ホルムアルデヒド溶液が、20°Cから55°Cの間の温度まで加熱される、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
請求項1に記載の方法をプロセッサに実行させる命令を記憶した有形の非一時的なコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本開示は、2016年12月22日に出願された米国仮特許出願第62/437,962号の利益、および2016年12月22日に出願された米国仮特許出願第62/438,152号の利益を主張するものであり、その両方は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002]本開示は、一般に、生体試料が分析のために適切に保存されることを確実にするシステムおよび方法に関する。より詳細には、本開示は、細胞試料が組織成分および/または細胞成分の一貫して良好な染色をもたらすように十分に固定されることを確実にするシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003](外科切除などの)生体試料の適切な保存は、続く解析にとってとても重要である。現在、試料を固定することについての標準的な手順は存在せず、この標準化を欠いていることによって続く解析における様々な品質問題をもたらしている。例えば、被験者から組織試料を除去した後、典型的には、試料は、液体の中に配置され、これにより細胞の代謝活動を中断させ、その形態を保存する。このプロセスは、一般に、「固定」と呼ばれ、いくつかの異なるタイプの液体によって達成することができる。しかしながら、続く調製および解析のために試料を保存するのに使用される最も一般的な固定剤は、10%中性緩衝ホルマリン(NBF)である。
【0004】
[0004]10%NBF中の「固定」は、たんぱく質と核酸の架橋によって組織を保存する働きをする。この架橋は、組織構造、細胞構造、分子完全性などの組織の特性を保存する。典型的には、10%NBFを用いた固定は、数時間かかり、別個の2つのステップとして考えられ得る。第1は、組織の中へのホルマリンの拡散ステップである。第2のステップでは、架橋を形成するために、ホルマリン分子が組織中の生体分子と相互作用する。これらの架橋は、組織脱水、洗浄、パラフィンの包理、切断、脱パラフィン、および着色などの続く処理ステップ中に細胞構造を無傷に保つのを助けることができる。
【0005】
[0005]しかしながら、組織が「固定し過ぎ」の場合、拡散の経路を制限する架橋された分子の過度に広いネットワークにより、組織を通じて処理液を拡散させることが難しい可能性がある。これは、続く処理液の浸透が不十分という結果になり得る。処理液が染料である場合、遅い拡散速度によって不均一なおよび一貫しない着色を引き起こし得る。「染料」が比較的大きい分子を含む場合、これらのタイプの問題は、増加し得る。例えば、(抗体または核酸プローブ分子などの)接合した生体分子は、比較的大きいものであり得、しばしば数百キロダルトンの質量を有する場合があり、特に組織が固定され過ぎの場合、それらを固体組織の中にゆっくり拡散させる。固定し過ぎは、広大な抗原およびターゲット賦活化手順によって改善できることもあるが、そのような手順は、特にリン酸化たんぱく質などの不安定なバイオマーカーの賦活化のために、時間がかかり、いつも上手くいくとは限らない。
【0006】
[0006]組織が固定不足の場合、組織は、例えば、自触反応によって劣化する場合があり、組織および細胞形態の損失、ならびに診断的に重要なたんぱく質マーカーおよび核酸マーカーの損失をもたらす。さらに、試料の不完全な固定の後の処理は、診断的に重要な形態学的特徴の損失をもたらし得る。例えば、架橋された分子の十分なネットワークがなしに、細胞、核、および細胞質は、脱水ステップ中に収縮し得る。したがって、固定不足の組織は、試験に適していない場合があり、しばしば廃棄される。
【0007】
[0007]従来の病理学のやり方は、しばしば、試料の寸法(例えば、厚さ)および組織タイプについての処理時間の経験的知識に基づく予め決定された固定の設定に基づいている。この情報なしに組織を適切に染色することはしばしば難しく、したがって、組織は、そのような情報を得るためにしばしば検査される。あいにく、検査は、時間がかかり、試料の重要な部分を壊し、試薬の浪費をもたらす場合がある。例として、IHC/ISH染色について異なる抗原賦活化設定を用いた多数の反復が、未知の固定状態および未知の組織組成に適合しおよび/またはこれを補償するために実行される。繰り返された着色の実行は、さらなる試料材料の消費、および診断の長期化という結果となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明の一実施例は、例えば、試料を保存するシステムおよび方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[0008]試料断面全体にわたっての平均としてではなく、生体試料内の特定の時間における特定の空間の点での(ホルムアルデヒドなどの)試薬の濃度を決定するシステムおよび方法が開示されている。システムおよび方法は、試薬が試料の中に拡散するときに経時的な組織試料内の特定の点における(ホルムアルデヒドなどの)試薬の濃度を再構築するために、拡散モデルと相関する音響飛行時間(TOF)情報に基づいている。
【0010】
[0009]本開示の一態様では、所与の時間で試薬内に浸漬された試料内の特定の位置における試薬濃度を決定する方法が提供され、この方法は、モデル飛行時間を生成するように複数の時点にわたっておよび複数の候補拡散定数ごとに試料の中への拡散の空間依存性をシミュレーションを行うステップと、誤差関数を得るようにモデル飛行時間を経験的な飛行時間と比較するステップとを含み、誤差関数の最小値が試料についての拡散定数をもたらす。この方法は、複数の候補試料多孔率を用意するステップと、拡散定数を用いてモデル飛行時間を生成するようにこれらの候補試料多孔率の各々を使用し、第2の誤差関数を得るようにモデル飛行時間を経験的な飛行時間と比較するステップとをさらに含み、誤差関数の最小値が試料の多孔率をもたらす。決定された拡散定数および試料の多孔率から、特定の時間における試料内の1つまたは複数の特定の点における濃度が計算することができる。
【0011】
[0010]この方法は、組織試料中で(90mMを超えるなどの)約100mMを超えるホルムアルデヒド濃度に到達すると、産業の「ゴールドスタンダード」に対して病理学者の採点によって判断されるときに、分子ターゲットの品質検出(「着色」)および忠実な形態学的な完全性が確実に実現され、モデル化された拡散定数だけについての先の結果よりも、相対的な真陽性対偽陰性のより良い受信機動作特性(ROC:receiver operating characteristic)曲線をもたらすという驚くべき結果をもたらした。さらに、真の試薬濃度および理解できるSI単位の測度に関する空間的情報の追加は、組織試料中の任意の所与の点で高品質の染色が得られることを確実にするのを助けるために、特定のタイプ、サイズ、および形状の試料内でこの閾値ホルムアルデヒド濃度に到達するときを静的と動的のどちらでも(例えば、リアルタイムで)直接決定するように、放射標識されたトレース、中赤技法、または磁気共鳴技法などの他の技法を利用することを可能にする。言い換えると、開示された方法を用いて組織試料(または中心などにおけるその部分)についての固定レベルに到達することが可能であり、これは、固定し過ぎによってさらなる解析を過度に複雑にさせずに、試料内の形態およびバイオマーカーを保存するのに十分である。
【0012】
[0011]代替の実施形態では、試料の特定の空間的部分において信頼できる検出のために1つのバイオマーカーを保存するのに十便な濃度が実現されると、試料は、1つまたは複数のさらなるバイオマーカー検出するのにより適しているより高いまたはより低いホルマリンの濃度を有するように他の部分が選択され得る。さらに別の代替実施形態では、特定の時間の間に特定の形状の特定の試料タイプの固定中に到達した、知られているホルムアルデヒド濃度分布に基づいて、(選択された組織部分などの)試料の選択された部分は、(FoxP3またはRNAなどの不安定なマーカーについての検査などの)特定の検査のための最適なホルムアルデヒド濃度に従って異なる検査のために利用することができる。この固定は、本明細書中に説明されるように室温温度でまたは低温+高温プロトコルを用いて実行することができる。より詳細には、低温ステップ中に、低温+高温プロトコルにおいて、最適なホルムアルデヒド濃度に到達する。
【0013】
[0012]本開示の別の態様では、組織試料を通じて移動した音響波を検出する音響モニタリングデバイスと、音響モニタリングデバイスに通信可能に結合されたコンピューティングデバイスとを備えるシステムであって、コンピューティングデバイスは、飛行時間に基づいて音響波の速さを評価するように構成され、実行されるときに、組織試料についての候補拡散定数の範囲の設定、複数の時点についてのおよび第1の候補拡散点の範囲についての組織試料内の試薬の空間依存性のシミュレーティング、空間依存性に基づくモデル化された飛行時間の決定、複数の拡散定数ごとの空間依存性シミュレーションの繰り返し、および複数の拡散定数についてのモデル化された飛行時間と組織試料についての経験的な飛行時間の誤差の決定を含む各動作を処理システムに実行させる命令を含み、誤差に基づく誤差関数の最小値が組織試料についての拡散定数をもたらす、システムである。このシステムは、実行されるときに、複数の候補多孔率を含む組織試料についての候補多孔率の範囲の設定(例えば、約0.05から約0.50の間、例えば、約0.05から約0.40の間、または約0.05から約0.30の間)、試料の拡散定数および第1の複数の候補多孔率に基づく第2のモデル化された飛行時間の決定および経験的な飛行時間と第2のモデル化された飛行時間の間の第2の誤差の決定、他の複数の候補多孔率についての第2のモデル化された飛行時間および対応する第2の誤差の決定の繰り返しであって、誤差の最小値が試料の多孔率を特定する繰り返しを含む各動作を処理システムに実行させる命令をさらに備える。より特定の実施形態では、このシステムは、実行されるときに、特定の時間における試料内の試薬の空間的な濃度分布をもたらす命令をさらに備える。いっそうさらなる特定の実施形態では、システムは、実行されるときに、特定の時間における試料の中心での試薬濃度を与える命令をさらに備える。さらにいっそうのさらなる特定の実施形態では、そのような試薬濃度は、試料の中心におけるなどの試料内の特定の点または領域で予め決定された濃度に到達するときに、試薬を有する試料の注入を終了させるために利用することができる。
【0014】
[0013]本開示のさらに別の態様では、試料物質についてシミュレートされた飛行時間と試料物質についての経験的な飛行時間との比較、シミュレートされた飛行時間と音響飛行時間の間の誤差関数の最小値に基づく試料物質についての拡散定数の取得、拡散定数を用いて得られる試料物質についての第2のシミュレートされた飛行時間および経験的な減衰定数(タウ)と経験的な飛行時間の比較、第2の誤差関数の最小値に基づく試料物質についての多孔率の取得、および任意選択で試薬の濃度の空間的分布または試料の特定の点または領域における試薬の濃度の計算を含む各動作を実行するようにプロセッサによって実行されるコンピュータ可読コードを記憶する有形の非一時的なコンピュータ可読媒体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】[0014]本主題の開示の例示的な実施形態による最適化された組織固定のための組織処理システム100を示す図である。
図2A】[0015]バイオプシーカプセルからの超音波スキャンパターンおよび標準サイズのカセットからの超音波スキャンパターンをそれぞれ表す図である。
図2B】バイオプシーカプセルからの超音波スキャンパターンおよび標準サイズのカセットからの超音波スキャンパターンをそれぞれ表す図である。
図2C】[0016]本主題の開示の例示的な実施形態についてのタイミング図である。
図3】[0017]組織試料についての拡散係数を得る方法を示す流れ図である。
図4】[0018]組織試料についての拡散係数を得る代替の方法を示す流れ図である。
図5】[0019]図5Aは、実験している間の第1の時点についてのシミュレートされた濃度の傾きを示すグラフである。図5Bは、実験している間のいくつかの時点についてのシミュレートされた濃度の傾きを示すグラフである。
図6】[0020]図6Aは、実験している間の超音波によって検出されるNBF濃度のシミュレートされた量を示すグラフである。図6Bは、実験している間の第1の候補拡散定数についてシミュレートされたTOF信号を示すグラフである。
図7】[0021]全ての潜在的な拡散定数について計算された時間変化するTOF信号を示すグラフである。
図8】[0022]図8Aは、6mm片の人間の扁桃試料から収集された経験的に計算されたTOFの傾向を示すグラフである。図8Bは、6mm片の人間の扁桃試料から収集された空間的に平均化されたTOF信号の傾向を示すグラフである。
図9】[0023]図9Aは、候補拡散定数の関数としてのシミュレートされたTOF信号と経験的に測定されたTOF信号との間の計算された誤差関数のグラフである。図9Bは、この誤差関数の拡大図である。
図10】[0024]経験的なTOFと比べてグラフで描かれたモデル化された拡散定数を用いて計算されたTOF傾向を示すグラフである。
図11】[0025]図11Aは、複数の組織試料について再構築された拡散定数を示すグラフである。図11Bは、複数の組織試料について再構築された拡散定数を示すグラフである。
図12】[0026]図12Aは、位相シフトによってTOFを測定する送信機と受信機のペアを備えたシステムを示す図である。図12Bは、位相シフトによってTOFを測定する送信機と受信機のペアを備えたシステムを示す図である。
図13】[0027]円筒形の組織コアなどの円筒形の対象の中への試薬の拡散のモデルを示すグラフである、
図14】[0028]3時間および5時間に集まっている組織試料の中への試薬の拡散率の典型的な分布を示すグラフである。
図15】[0029]組織試料の中心における拡散率に基づく(感度および特異性に基づく)染色品質の典型的なROC曲線を示すグラフである。
図16】[0030]約3時間の試薬への露出と5約時間の試薬への露出の間の組織試料の中心における拡散率の差の典型的なグラフを示すグラフである。
図17】[0031]開示された1つの実施形態により決定された扁桃組織体積多孔率の生のデータの分布を示すグラフである。
図18】[0032]開示された1つの実施形態により決定された扁桃組織体積多孔率の箱および箱ひげの分布を示すグラフである。
図19】[0033]3時間および5時間で開示された1つの実施形態により決定されるときの組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の典型的な分布を示すグラフである。
図20】[0034]組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度に基づく(感度および特異性に基づく)染色品質の典型的なROC曲線を示すグラフである。
図21】[0035]3時間のNBF溶液中の浸漬と5時間のNBF溶液中の浸漬との間の組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の差の典型的なグラフである。
図22】[0036]開示された1つの実施形態により決定されるときのいくつかの組織タイプについての生の多孔率の分布を示すグラフである。
図23】[0037]開示された1つの実施形態により決定されるときのいくつかの組織タイプについての多孔率の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
図24】[0038]いくつかの組織タイプについての拡散定数の分布を示すグラフである。
図25】[0039]いくつかの組織タイプについての拡散定数の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
図26】[0040]くつかの組織タイプについての3、5、および6時間における組織試料の中心における生の拡散率の分布を示すグラフである。
図27】[0041]いくつかの組織タイプについての3、5、および6時間における組織試料の中心における拡散率の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
図28】[0042]いくつかの組織タイプについての3、5、および6時間における組織試料の中心における生のホルムアルデヒド濃度の分布を示すグラフである。
図29】[0043]いくつかの組織タイプについての3、5、および6時間における組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
図30】[0044]示された浸漬時間の後のいくつかの組織タイプについての組織試料の中心における生のホルムアルデヒド濃度の分布を示すグラフである。
図31】[0045]示された浸漬時間の後のいくつかの組織タイプについての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
図32】[0046]5または6時間の約10%NBF中の浸漬の後の最適な染色をもたらす組織タイプを分ける図31のラベル付きバージョンを示すグラフである。
図33】[0047]6時間の10%NBF中の浸漬の後の全ての組織についての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の生の分布を示すグラフである。
図34】[0048]6時間の10%NBF中の浸漬の後の全ての組織についての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱および箱ひげの分布を示すグラフである。
図35A】[0049]組織試料の中心における拡散係数、多孔率、およびホルムアルデヒド濃度を得る方法を示す図である。
図35B】[0049]組織試料の中心における拡散係数、多孔率、およびホルムアルデヒド濃度を得る方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[0050]2つ以上のステップまたは行為を含む本明細書で権利主張された任意の方法では、逆に明確に示さない限り、その方法のステップまたは行為の順序は、方法のステップまたは行為が列挙された順序に必ずしも限定されるものではないということも理解されたい。
【0017】
[0051]本明細書中に使用されるとき、単数形の用語「a」、「an」、および「」は、文脈上別段明確に示さない限り、複数の指示語を含む。同様に、単語「または(or)」は、文脈上別段明確に示さない限り、「および(and)」を含むことが意図される。用語「含む(includes)」は、「AまたはBを含む」が、A、B,またはAおよびBを含むことを意味するように包括的に定義される。
【0018】
[0052]本明細書中に使用されるとき、本明細書および特許請求の範囲において、「または(or)」は、先に定義した「および/または」と同じ意味を有するものと理解されたい。例えば、リストの中の項目を分けるとき、「または」または「および/または」は、包括的なものとして解釈するものとし、すなわち、いくつかの要素またはリストの要素、および任意選択でさらなる列挙されていない項目のうちの少なくとも1つ(しかし、2つ以上も含む)を含むものとして解釈すべきである。「のうちのただ1つ(only one of)」または「のうちの正確な1つ(exactly one of)」、あるいは特許請求の範囲で使用されるとき「からなる(consisting of)」などの逆に明確に示された用語のみが、いくつかの要素またはリストの要素のうちの正確な1つの要素を含むことを指す。一般に、本明細書中に使用される「または」という用語は、「いずれか(either)」、「のうちの1つ(one of)」、「のうちのただ1つ」、または「のうちの正確に1つ」などの排他的な用語が先行するとき、排他的な選択肢(すなわち、「一方または他方であるが、両方ではない」)を示すものとしてもっぱら解釈されるものとする。特許請求の範囲で使用されるとき、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許法の分野で使用される通常の意味を有するものとする。
【0019】
[0053]用語「備える(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」などは、交換可能に使用され、同じ意味を有する。同様に、「備える(comprises)」、「含む(includes)」、「有する(has)」などは、交換可能に使用され、同じ意味を有する。特に、これらの用語の各々は、「備える(comprising)」に関する一般的な米国特許法の定義と一致して定義され、したがって「少なくとも以下のもの」を意味するオープンターム(open term)であると解釈され、さらなる特徴、限定、態様などを除外しないとやはり解釈される。したがって、例えば、「構成要素a、bおよびcを有するデバイス」は、少なくとも構成要素a、bおよびcを含むデバイスを意味する。同様に、フレーズ:「ステップa、bおよびcを含む方法」は、この方法が少なくともステップa、bおよびcを含むことを意味する。また、ステップおよびプロセスは、特に順序で本明細書に概説され得るが、当業者は、ステップおよび処理の順序は、変わってもよいころを認識しよう。
【0020】
[0054]本明細書中に使用されるとき、本明細書および特許請求の範囲において、1つまたは複数の要素のリストに関して、フレーズ「少なくとも1つの」は、複数の要素からなるリストにおける要素の任意の1つまたは複数から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、要素のリスト内に具体的に挙げられた要素1つ1つのうちの少なく1つを必ずしも含むとは限らないことを意味すると理解されたい。この定義は、具体的に特定されたそれらの要素に関連していても関連していなくても、任意選択で要素が、フレーズ「少なくとも1つの」が指す要素のリスト内で具体的に特定される要素以外に存在してもよいことも可能にする。したがって、非限定の例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、同じ意味合いで、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、または均等に「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、Bは存在せず2つ以上のAを任意選択で含む(およびB以外の要素を任意選択で含む)少なくとも1つを指すことができ、別の実施形態では、Aは存在せず2つ以上のBを任意選択で含む(およびA以外の要素を任意選択で含む)少なくとも1つを指すことができ、さらに別の実施形態では、2つ以上のAを任意選択で含む少なくとも1つ、および2つ以上のBを任意選択で含む(および他の要素を任意選択で含む)少なくとも1つなどを指すことができる。
【0021】
[0055]I.技術的実施
[0056]本開示は、(例えば、組織試料にわたって空間と時間の濃度プロファイルを再構築するために、拡散モデルと相関する音響飛行時間(TOF)ベースの情報の使用によって)試料の(「拡散係数」としても知られている)拡散定数および/または多孔率を計算するシステムおよびコンピュータによって実行される方法を提示する。
【0022】
[0057]いくつかの実施形態では、本明細書中に開示された組織標本システムおよび方法は、予め決定された濃度レベルに到達するまで、組織試料の中への固定剤流体の拡散をモニタするようになされ得る。例えば、ホルマリンが組織に浸透するとき、それは細胞組織間にある流体に取って代わる。この流体交換は、組織体積の組成を少なくとも部分的に変化させ、この変化はモニタすることができる。例として、細胞組織間にある流体およびホルマリンが導入された超音波パルスにそれぞれ異なるように反応する(すなわち、各流体が離散的な「音速」特性を有する)としたら、出力超音波パルスは、より多くの流体交換が生じるにつれて、すなわち、より多くのホルマリンが細胞組織間にある流体に取って代わるのにつれて増加する小さい通過時間微分を蓄積する。これは、組織試料の幾何学的形状に基づく拡散により累積された位相差を決定し、TOFへの拡散の影響をモデル化し、かつ/または後処理アルゴリズムを使用して結果を相関させ、それによって拡散定数を決定することなどの動作を可能にする。また、開示されたTOF計器の感度は、拡散定数および多孔率に関して潜在的により正確な特性を可能にする10パーツ・パー・ミリオン未満の変化を検出することができる。ナノ秒TOFスケールに関して、全ての流体および組織は、離散的な音速を有し、したがって開示された動作は、水の拡散を定量化するだけに限定されず、全ての組織の中への全ての流体の拡散をモニタするために使用することができる。例えば、(段階的なエタノールなどの)脱水用試薬、(キシレンなどの)洗浄剤、および組織試料を包理するために使用されるパラフィンの拡散である。
【0023】
[0058]拡散速度は、ホルマリンに濡れた組織試料の異なる音響特性に基づいて音響プローブのシステムによってモニタすることができる。拡散モニタリングおよび経験的なTOF測定のためのそのようなシステムは、米国特許出願公開第2013/0224791号、第2017/0284969号、第2017/0336363号、第2017/0284920号、および第2017/0284859号においてさらに詳細に記載されており、その各々の開示は、全体として本明細書中に参照により本明細書によって組み込まれる。拡散モニタリングおよび経験的なTOF測定に別の適したシステムは、2015年12月17日に出願されたACCURATELY CALCULATING ACOUSTIC TIME-OF-FLIGHT(音響飛行時間の正確な計算)という名称の国際特許出願にやはり記載されており、その各々の内容は、全体として本明細書中に参照により本明細書によって組み込まれる。
【0024】
[0059]TOFモニタリングに適したシステムおよび方法のさらなる例は、PCT国際公開のWO2016/097163、および米国特許出願公開第2017/0284859号に記載されており、その内容は、本開示と相反しない程度まで参照により本明細書にやはり組み込まれる。参照された出願は、組織試料を通じて移動する液体固定剤と接触させられ、組織試料の厚さほぼ全体にわたって拡散させられ、処理全体を通じて組織試料の状態および条件を評価するために連続的または定期的にモニタされる音響特性に基づいて解析される固体組織試料を説明する。例えば、細胞組織間にある流体より大きいバルクモジュールを有するホルマリンなどの固定剤は、それが細胞組織間にある流体を置き換えるので、TOFをかなり変え得る。得られた情報に基づいて、固定プロトコルは、処理の一貫性を高め、処理時間を減少させ、処理品質を改善するなどのように調整することができる。音響測定は、組織試料を非侵襲的に解析するために使用することができる。組織試料の音響特性は、液体試薬(例えば、液体固定剤)が試料を通じて移動するときに変化し得る。試料の音響特性は、例えば、予浸プロセス(例えば、低温固定剤の拡散)、固定プロセス、色付けプロセスなどの間に変化し得る。固定プロセス(例えば、架橋結合プロセス)では、組織試料はより重く架橋結合されるので、音響エネルギーの伝達の速さは変化し得る。リアルタイムモニタリングは、試料を通じての固定剤の移動を正確に追跡するために使用することができる。例えば、生体試料の拡散または固定のステータスは、音響波の飛行時間(TOF)に基づいてモニタすることができる。測定の他の例には、音響信号振幅、減衰、散乱、吸収、音響波の位相シフト、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
[0060]いくつかの実施形態では、組織試料通じての固定剤の移動は、リアルタイムでモニタすることができる。
[0061]II.システムおよび方法
[0062]本明細書中に使用される「飛行時間」または「TOF」は、例えば、物体、粒子、または音響波、電磁波、もしくは他の波が媒体を通じてある距離移動するのにかかる時間である。このTOFは、例えば、送信機によって発せられた音響信号(「送信された信号」)の位相、流体中に浸漬された物体を通過した受信機によって受信された音響信号(「受信された信号」)および流体のみを通過した音響信号の位相の間の位相差を決定することによって経験的に測定することができる。
【0026】
[0063]本明細書中に使用されるとき、用語「生体試料」、「生体標本」、「組織試料」、「試料」などは、ウィルスを含む任意の有機体から得られる(たんぱく質、ペプチド、核酸、脂質、炭水化物、またはそれらの組み合わせなどの)生体分子を含む任意の試料を指す。有機体の他の例には、(人間;猫、犬、馬、牛、豚などの家畜動物;およびマウス、ラット、霊長類などの実験動物などの)哺乳類、昆虫、環形動物、クモ形類動物、有袋類、爬虫類、両生類、バクテリア、真菌が挙げられる。生体試料には、(組織切片および組織の針生検などの)組織試料、(パップスメアまたは血液塗抹標本、または顕微解剖によって得られた細胞の試料などの細胞学的塗抹標本などの)細胞試料、または(細胞を溶解させ、遠心分離機または別の方法によってそれらの成分を分離することによって得られるなどの)細胞分画、断片、もしくは細胞小器官が挙げられる。生体試料の他の例には、血液、血清、尿、精液、排泄物、脳脊髄液、細胞組織間にある流体、粘液、涙、汗、膿、(例えば、外科生検または針生検によって得られる)生検組織、乳頭吸引液、耳垢、乳汁、膣液、唾液、(口腔スワブなどの)スワブ、または第1の生体試料から得られる生体分子を含む任意の物質が挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書中に使用される用語「生体試料」は、被験者から得られる腫瘍またはその一部から調製される(均質化または液化された試料などの)試料を指す。試料は、例えば組織試料スライド上に封じ込まれ得る。
【0027】
[0064]「多孔率」は、物質中の空隙(すなわち、「空の」)空間の測度であり、0から1の間の対象の全体積についてのもしくは0から100%の間のパーセンテージとしての空隙の体積の割合である。本明細書中に使用される「多孔性物質」は、例えば、0よりも大きい多孔率を有する三次元物体を指す。
【0028】
[0065]本明細書中に使用される「拡散係数」または「拡散定数」は、例えば、分子拡散によるモル流束と拡散が観察される対象の濃度の傾き(または拡散のための駆動力)との間の比例定数である。拡散率は、例えば、フィックの法則の中、および物理化学の数多くの他の式の中で出会う。(ある物質の別の物質に対する)拡散率が高くなるほど、物質は互いにより速く拡散する。典型的には、化合物の拡散定数は、空気中で水中と同じくらいの約10,000×である。空気中の二酸化炭素は、16mm2/sの拡散定数を有し、水中ではその拡散定数は0.0016mm2/sである。
【0029】
[0066]本明細書中に使用される「位相差」は、例えば、同じ周波数を有し同じ時点で参照される2つの波の間の度または時間の単位で表される差である。
[0067]本明細書中に使用される「バイオプシーカプセル」は、例えば、生検組織試料のための容器である。典型的には、バイオプシーカプセルは、試料を保持し液体試薬、例えば緩衝液、固定液、または染色液組織試料を囲みその中に拡散させるためのメッシュを備える。バイオプシーカプセルは、試料を特定の形状に維持することができ、有利には、この形状は、開示された方法によりモデル化するのが算出的により容易である形状を試料に与えることができ、したがって、開示されたシステムにおける使用により適している。本明細書中に使用される「カセット」は、例えば、バイオプシーカプセルのための容器、またはバイオプシーカプセル内に封じ込められていない組織試料を指す。好適には、カセットは、カセットが超音波送信機/受信機ペアのビーム経路に対して自動的に選択され移動させられ、例えば昇降することができるように設計および成形され、カセットに出入りする液体試薬の移動、およびしたがって内部に保持される組織試料のさらなる出入りを可能にする開口部をさらに有する。例えば、この移動は、カセットが装着されるデバイスのロボットアームまたは別の自動化された可動構成部品によって実行することができる。他の実施形態では、カセットはそれだけで組織試料を収容するために使用され、カセットの形状は、組織試料の形状を少なくとも一部決定することができる。例えば、カセットの深さよりもわずかに厚い矩形の組織ブロックをカセットの中に置き、カセット蓋を閉じることによって、カセットの内部空間のより大きい部分を満たすように組織試料を圧縮して広げ、したがって、より大きい高さおよび幅を有するがカセットの深さにおおよそ対応する厚さを有するより薄い一片に変形させることができる。
【0030】
[0068]いくつかの実施形態では、ホルムアルデヒド濃度または他の試薬を計算するシステムが開示され、本明細書に説明されるように、このシステムは、プロセッサとこのプロセッサに結合されたメモリとを含む信号解析器を備え、このメモリは、プロセッサによって実行されるときに、音響データのセットからホルマリン濃度を計算することを含む動作をプロセッサに実行させるコンピュータ実行可能命令を記憶するためのものである。
【0031】
[0069]いくつかの実施形態では、信号解析器に入力されるデータは、音響モニタリングシステムによって生成される音響データセットであり、ただし音響データセットは、音響信号が関心の物質に遭遇するように音響信号を送信し、次いで音響信号が関心の物質に遭遇した後に音響信号を検出することによって生成される。いくつかの実施形態では、本明細書中に開示されたような信号解析器と以下にさらに詳細に述べられる音響モニタリングシステムとを備えたシステムが提供される。それに加えて、または代替として、本明細書中に開示されたような信号解析器と、本明細書中に開示されたような音響モニタリングシステムから得られる音響データセットを含む非一時的なコンピュータ可読媒体とを備えたシステムが提供されてもよい。1つの実施形態では、音響モニタリングシステムによって送受信される音響データは、周波数掃引によって生成される。本明細書中に使用されるとき、用語「周波数掃引」は、最初のセットの音響波が第1の一定の持続期間の間に一定の周波数で媒体を通じて発せられ、後続のセットの音響波が後続の(好ましくは等しい)持続期間の間に一定の周波数間隔で発せされるように、媒体を通じて一定の周波数の間隔で送信される一連の音響波を指すものとする。
【0032】
[0070]いくつかの実施形態では、システムは、多孔性物質の中への流体の拡散をモニタするようになされている。そのような実施形態では、(a)信号解析器、(b)本明細書中に述べられたような音響モニタリングシステムおよび/または音響モニタリングシステムによって生成される音響データセットを含む非一時的なコンピュータ可読媒体、ならびに(c)流体の体積中に浸漬された多孔性物質を保持するための機器を備えるシステムが提供され得る。いくつかの実施形態では、システムは、組織試料の中への固定剤の拡散をモニタするようになされている。
【0033】
[0071]いくつかの実施形態では、ホルマリン濃度または他の試薬濃度は、試薬が多孔性物体に浸透する程度を特徴付けするために決定される。例えば、この方法は、物体、例えば布地、プラスチック、セラミックス、組織、または他のものの染色プロセスをモニタし、固定プロセス、または脱水、洗浄、およびパラフィン包理などの染色プロセスなどの他の組織処理ステップをモニタするために使用することができる。
【0034】
[0072]いくつかの実施形態では、本開示は、音響データセットを収集するための音響モニタリングシステムを提供し、この音響モニタリングシステムは、送信機および受信機を備えており、送信機および受信機は、送信機によって生成される音響信号が受信機によって受信されコンピュータ可読信号に変換されるように配置される。いくつかの実施形態では、システムは、超音波送信機および超音波受信機を備える。本明細書中に使用されるとき、「送信機」は、電気信号を音響エネルギーに変換することができるデバイスを指す。本明細書中に使用されるとき、「超音波送信機」は、電気信号を超音波音響エネルギーに変換することができるデバイスを指す。本明細書中に使用されるとき、「受信機」は、音響波を電気信号に変換することができるデバイスであり、「超音波受信機」は、超音波音響エネルギーを電気信号に変換することができるデバイスである。
【0035】
[0073]いくつかの実施形態では、電気信号から音響エネルギーを生成するのに役立つある種の物質は、音響エネルギーから電気信号を生成するのにも役立つ。いくつかの実施形態では、送信機および受信機は、必ずしも別個の構成部品とする必要はないが、送信機および受信機は、別個の構成部品とすることができる。いくつかの実施形態では、送信機および受信機は、送信された波が関心の物質に遭遇した後に受信機が送信機によって生成された音響波を検出するように配置される。いくつかの実施形態では、受信機は、関心の物質によって反射された音響波を検出するように配置される。他の実施形態では、受信機は、関心の物質を通じて送信された音響波を検出するように配置される。
【0036】
[0074]いくつかの実施形態では、送信機は、変換器に動作可能にリンクされた少なくとも波形発生器を備え、波形発生器は、変換器と通信する電気信号を生成するように構成され、変換器は、電気信号を音響信号に変換するように構成される。いくつかの実施形態では、波形発生器はプログラム可能であり、例えば、開始周波数および/または終了周波数、周波数掃引の周波数の間のステップサイズ、周波数ステップの個数、および/または各周波数を送信する持続期間を含む周波数掃引のいくつかのパラメータを修正することができるようになっている。他の実施形態では、波形発生器は、1つまたは複数の予め決定された周波数掃引パターンを生成するように事前プログラムされる。他の実施形態では、波形発生器は、事前プログラムされた周波数掃引とカスタマイズされた周波数掃引の両方を送信するように構成され得る。送信機は、集束要素を含むこともでき、この集束要素は、変換器によって生成される音響エネルギーが物体の特定のエリアへ予測可能に集束および方向付けされることを可能にする。
【0037】
[0075]いくつかの実施形態では、動作時、送信機は媒体を通じて周波数掃引を送信することができ、次いでこの周波数掃引は受信機によって検出され、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体に記憶されるおよび/または解析のために信号解析器へ送信される音響データセットに変換される。いくつかの実施形態では、音響データセットが送信された音響波と受信された音響波の間の位相差を表すデータを含む場合、音響モニタリングシステムは位相比較器を含むこともできる。いくつかの実施形態では、位相比較器は、送信された音響波と受信された音響波の間の位相差に対応する電気信号を生成する。いくつかの実施形態では、音響モニタリングシステムは、送信機および/または受信機に通信可能にリンクされた位相比較器を備える。いくつかの実施形態では、位相比較器の出力がアナログ信号である場合、音響モニタリングシステムは、位相比較器のアナログ出力をデジタル信号へ変換するアナログ/デジタル変換器を備えることもできる。いくつかの実施形態では、次いで、デジタル信号は、例えば、非一時的なコンピュータ可読媒体に記憶することができ、または解析のために信号解析器へ直接通信することができる。代替として、いくつかの実施形態では、送信機は、特定の周波数で音響エネルギーを送信してもよく、受信機によって検出されたこの信号は、記憶され、そのピーク強度について解析される。
【0038】
[0076]いくつかの実施形態では、プロセッサとこのプロセッサに結合されたメモリとを含む信号解析器が提供され、上述したように、このメモリは、プロセッサによって実行されるときに、音響モニタリングシステムによって生成された音響データセットに少なくとも一部基づいてホルマリン濃度をプロセッサに計算させるコンピュータ実行可能命令を記憶するためのものである。
【0039】
[0077]用語「プロセッサ」は、例として、プログラム可能なマイクロプロセッサ、コンピュータ、システムオンチップ、または複数のもの、あるいは前述のものの組み合わせを含むデータを処理する全ての種類の機器、デバイス、および機械を包含する。機器は、専用論路回路、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)を備えることができる。機器は、ハードウェアに加えて、問題のコンピュータプログラムのための実行環境を生成するコード、例えば、プロセッサファームウェア、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、クロスプラットフォームルーチン環境、仮想マシン、またはそれらのうちの1つまたは複数の組み合わせを構成するコードを含むこともできる。機器および実行環境は、ウェブサービスインフラストラクチャ、分散コンピューティングインフラストラクチャ、グリッドコンピューティングインフラストラクチャなどの様々な異なるコンピューティングモデルインフラストラクチャを実現することができる。
【0040】
[0078](プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、またはコードとしても知られる)コンピュータプログラムは、コンパイルされたまたは解釈された言語、宣言型言語または手続き型言語を含む任意の形態のプログラミング言語で記述することができ、それは、スタンドアローンプログラムとして、またはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、オブジェクト、またはコンピューティング環境における使用に適した他のユニットとしてなどの任意の形態で展開することができる。コンピュータプログラムは、必要ではないが、ファイルシステム中のファイルに対応することができる。プログラムは、他のプログラムまたはデータ(例えば、マークアップ言語ドキュメントに記憶される1つまたは複数のスクリプト)を保持するファイルの一部に、問題のプログラムに専用の単一ファイルに、または複数の座標ファイル(例えば、1つまたは複数のモジュール、サブプログラム、またはコード部分を記憶するファイル)に記憶することができる。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上、または1つにサイトに位置するもしくは複数のサイトにわたって分散し通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0041】
[0079]本明細書中に記載されたプロセスおよび論理の流れは、入力データを演算し出力を生成することによってアクションを実行するように1つまたは複数のコンピュータプログラムを実行する1つまたは複数のプログラム可能なプロセッサによって実行することができる。プロセスおよび論理の流れは、専用論路回路、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)によって実行することもでき、機器は、専用論路回路、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)として実装することもできる。
【0042】
[0080]コンピュータプログラムの実行に適したプロセッサは、例として、汎用マイクロプロセッサと専用マイクロプロセッサの両方、および任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つまたは複数のプロセッサを含む。一般に、プロセッサは、読出し専用メモリもしくはランダムアクセスメモリまたは両方から命令およびデータを受信する。コンピュータの必須の要素は、命令に従ってアクションを実行するプロセッサ、ならびに命令およびデータを記憶する1つまたは複数のメモリデバイスである。一般に、コンピュータは、例えば磁気ディスク、光磁気ディスク、または光ディスクなどのデータを記憶するための1つまたは複数の大容量記憶デバイスも備え、あるいはそれらからデータを受信しもしくはそれらにデータを送信しまたは両方を行うように動作可能に結合される。しかしながら、コンピュータは、そのようなデバイスを有することを必要としない。また、コンピュータは、別のデバイス、例えば、いくつか例を挙げると、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、携帯オーディオまたは動画プレイヤ、ゲーム機、全地球測位システム(GPS)受信機、またはポータブル記憶デバイス(例えば、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュドライブ)に組み込むことができる。コンピュータプログラム命令およびデータを記憶するのに適したデバイスは、全ての形態の不揮発性メモリ、媒体、およびメモリデバイスを含み、例として半導体メモリデバイス、例えば、EPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリデバイス、磁気ディスク、例えば、内蔵ハードディスクまたはリムーバブルディスク、光磁気ディスク、ならびにCD-ROMディスクおよびDVD-ROMディスクが含まれる。プロセッサおよびメモリは、専用論路回路に補足されてもよく、または専用論路回路に組み込まれてもよい。
【0043】
[0081]ユーザとのやり取りを行うために、本明細書中に記載された本主題の各実施形態は、表示デバイス、例えば、ユーザに情報を表示するためのLCD(液晶ディスプレイ)、LED(発光ダイオード)ディスプレイ、またはOLED(有機発光ダイオード)ディスプレイ、ならびにキーボード、およびポインティングデバイス、例えば、マウスまたはトラックボール(これによってユーザはコンピュータに入力を行うことができる)を有するコンピュータ上で実施することができる。いくつかの実施では、タッチスクリーンが、情報を表示するとともにユーザから入力を受け取るために使用され得る。他の種類のデバイスが、同様にユーザとのやり取りを行うために使用されてもよく、例えば、ユーザに送られるフィードバックは、感覚フィードバック、例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または触覚フィードバックの任意の形態とすることができ、ユーザからの入力は、音響入力、音声入力、または触覚入力を含む任意の形態で受け取ることができる。加えて、コンピュータは、ユーザによって使用されるデバイスへドキュメントを送信し、ユーザによって使用されるデバイスからドキュメントを受信することによって、例えば、ウェブブラウザから受信した要求に応じてウェブページをユーザのクライアントデバイス上のウェブブラウザへ送信することによって、ユーザとやり取りすることができる。
【0044】
[0082]本明細書中に記載された本主題の各実施形態は、例えばデータサーバとしてバックエンドコンポーネントを含む、またはミドルウェアコンポーネント、例えばアプリケーションサーバを含む、またはフロントエンドコンポーネント、例えば、ユーザが本明細書中に記載された本主題の実施とのやり取りすることができるグラフィカルユーザインターフェースもしくはウェブブラウザを有するクライアントコンピュータを含む、あるいは1つまたは複数のそうしたバックエンドコンポーネント、ミドルウェアコンポーネント、またはフロントエンドコンポーネントの任意の組み合わせを含むコンピューティングシステムにおいて実施することができる。システムのコンポーネントは、デジタルデータ通信、例えば、通信ネットワークに関する任意の形態または媒体によって相互接続することができる。通信ネットワークの例には、ローカルエリアネットワーク(「LAN」)および広帯域ネットワーク(「WAN」)、相互接続ネットワーク(例えば、インターネット)、ならびにピアツーピアネットワーク(例えば、アドホックピアツーピアネットワーク)が含まれる。
【0045】
[0083]コンピューティングシステムは、任意の個数のクライアントおよびサーバを含むことができる。一般に、クライアントおよびサーバは、互いから遠く離れており、典型的には通信ネットワークを介して総合接続する。クライアントとサーバの関係は、それぞれのコンピュータ上で実行するとともに互いにクライアントサーバ関係を有するコンピュータプログラムによって生じる。いくつかの実施形態では、サーバは、(例えば、クライアントデバイスへデータを表示するために、およびクライアントデバイスとやり取りするユーザからのユーザ入力を受信するために)データ(例えば、HTMLページ)をクライアントデバイスへ送信する。クライアントデバイスで生成されたデータ(例えば、ユーザのやり取りの結果)は、サーバでクライアントデバイスから受信することができる。
【0046】
[0084]いくつかの実施形態では、信号解析器は、試験物質から記録された音響データセットを入力として受け入れる。音響データセットは、周波数掃引が関心の物質に遭遇した後に検出される周波数掃引の少なくも一部を表す。いくつかの実施形態では、検出される周波数掃引の一部は、関心の物質によって反射される音響波を構成する。他の実施形態では、検出される周波数掃引の一部は、関心の物質を通過した音響波を構成する。代替として、音響データセットは、関心の物質を介して反射されるまたは関心の物質を通過した単一周波数の音響エネルギーのバーストを表す。
【0047】
[0085]図1は、本主題の開示の例示的な実施形態による(例えば、最適化された組織固定、脱水、洗浄、または包埋のための)組織処理に役立つシステム100の一実施形態を示す。システム100は、コンピュータ101に結合されたプロセッサ105によって実行される複数の処理モジュールまたは論理命令を記憶するためのメモリ110に通信可能に結合された音響モニタリングデバイス102を備える。音響モニタリングデバイス102は、1つまたは複数の送信機および1つまたは複数の受信機を含む前述の音響プローブを備えることができる。組織試料は、送信機および受信機が音響波の飛行時間(TOF)を検出するために通信している間に、液体固定剤の中に浸漬することができる。
【0048】
[0086]いくつかの実施形態では、システム100は、1つまたは複数のプロセッサ105と少なくとも1つのメモリ110とを用い、この少なくとも1つのメモリ110は、1つまたは複数のプロセッサによる実行によって1つまたは複数のプロセッサに1つまたは複数のモジュール内で命令(または記憶されたデータ)を実行させるための非一時的なコンピュータ可読命令を記憶するものであり、1つまたは複数のモジュールは、ユーザ入力または電子入力によって組織ブロックについての情報を受信し組織の音響速度などの組織特徴を決定する組織解析モジュール111と、時間変化する(「予期された」または「モデル化された」)TOF信号を生成するために様々な時間およびモデルの拡散定数についての相対的な固定剤または試薬濃度の空間依存性をシミュレートしモデル減衰定数を出力するTOFモデリングモジュール112と、組織の実際のTOF信号を決定し、空間的な平均を算出し、組織特徴(例えば、実際の細胞タイプ、細胞密度、細胞サイズ、ならびに試料調製および/または試料染色の効果)ならびに音響モニタリングデバイス102からの入力に依存する経験的な減衰定数を生成するためにTOF測定モジュール113と、相関モジュール114とを備え、この相関モジュール114は、経験的なTOFデータとモデル化されたTOFデータを相関させ(例えば比較し)、相関性の誤差関数の最小値に基づいて組織試料についての拡散定数を決定し、モデリングモジュール112において決定された拡散定数を組織試料についての候補多孔率値と共に使用して第2のモデルTOF信号を生成し、再び相関モジュール114を使用して決定された拡散定数および試料についての候補多孔率に基づく第2のモデルTOF信号と経験的なTOFデータとの間の第2の相関を行い、経験的なTOFデータと決定された拡散定数を用いて生成されたモデルTOF信号との間の第2の相関の誤差関数の最小値に基づいて組織試料の多孔率を決定し、経験的なTOF信号基づいて、決定された拡散定数および決定された多孔率、空間および時間の特定の点における試料内の試薬の濃度を計算する。
【0049】
[0087]これらのモジュールによって実行されるこれらおよび他の動作によって、量的な結果またはグラフィカルな結果はユーザオペレーションコンピュータ101へ出力されることができる。したがって、図1に示されていないが、コンピュータ101は、キーボード、マウス、スタイラス、およびディスプレイ/タッチスクリーンなどのユーザ入出力デバイスも備えることができる。
【0050】
[0088]上述したように、モジュールは、プロセッサ105によって実行される論理を備える。「論理」は、本明細書中に使用されるときおよびこれらの開示全体を通じて、プロセッサの演算に影響を与えるように適用され得る命令信号および/またはデータの形態を有する任意の情報を指す。ソフトウェアは、そのような論理の一例である。プロセッサの例は、コンピュータプロセッサ(処理ユニット)、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、およびマイクロコントローラなどである。論理は、1つの例示的な実施形態では、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、消去可能/電気的消去可能プログラマブル読出し専用メモリ(EPROMS/EEPROMS)、フラッシュメモリなどであり得るメモリ110などのコンピュータ可読媒体に記憶される信号から形成することができる。論理は、デジタルハードウェア回路および/またはアナログハードウェア回路を備えることもでき、例えば、ハードウェア回路は、論理AND、OR、XOR、NAND、NOR、および他の論理演算を備える。論理は、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせから形成されてもよい。ネットワーク上で、論理は、1つのサーバ上または複数のサーバの複合体上にプログラムされてもよい。特定の論理ユニットは、ネットワーク上の単一の論理位置に限定されない。また、モジュールは、いずれかの特定の順序で実行される必要はない。各モジュールは、実行される必要があるときには、別のモジュールを呼び出すことができる。
【0051】
[0089]いくつかの実施形態では、音響モニタリングデバイス102は、Electron Microscopy Sciences(RTM)によるLynx IIなどの市販のディップアンドダンク(dip-and-dunk)組織プロセッサ上へ後付けすることができる。いくつかの実施形態では、Solidworks(登録商標)ソフトウェアを用いて設計された機械的ヘッドは、標準的な試薬キャニスタにぴったり合いそれを封止することができる。封止されると、外部真空システムは、バルク試薬とともに組織を含むカセットの内容についてガス抜きを開始することができる。いくつかの実施形態では、より小さい組織試料のためにCellPath(RTM)によるCellSafe 5などの標準的なサイズの組織学的カセット、またはCellPath(RTM)によるCellSafe Biopsy Capsulesなどのバイオプシーカプセルのいずれかとともに使用されるように設計されたカセットホルダが、利用されてもよい。各ホルダは、実験中に試料が滑るのを防ぐために組織をしっかりと保持する。カセットホルダは、一方向にカセットホルダを滑らせる垂直並進運動アームに取り付けることができる。いくつかの実施形態では、機械的ヘッドは、2つの金属ブラケットを組織カセットの両側に備えて設計することができ、一方のブラケットは5つの送信変換器を収容し、他方のブラケットは5つの受信変換器を収容し、これらはそれらのそれぞれの送信変換器に空間的に並べられている。いくつかの実施形態では、受けブラケットは、他方の変換器の伝搬軸に直交するように向けられた変換器のペアを収容することもできる。各取得後、直交センサは、音速に重大な影響がある流体内の空間と時間のばらつきを検出するために基準TOF値を計算することができる。さらに、各2次元取得の終わりに、カセットは持ち上げることができ、第2の基準の取得が得られる。いくつかの実施形態では、これらの基準TOF値は、環境的に誘起されるホルマリンのばらつきを補償するために使用することができる。環境的に誘起されるホルマリンまたは任意の他の固定剤のばらつきは、例えば、多孔性物質を含む容器内の温度の変動、ばらつきなどであり得る。
【0052】
[0090]図2Aおよび図2Bは、バイオプシーカプセルからの超音波スキャンパターンの例および標準サイズのカセットからの超音波スキャンパターンの例をそれぞれ示す。一組織試料について本明細書中に説明される測定手順およびモデリング手順は、多孔性物質の他の形態に適用することも可能である。したがって本開示は組織試料の内容におけるモデリングを示し得るが、そのような例は、非限定であり、本技法は、任意の多孔性物質などの他の材料に適用されてもよい。
【0053】
[0091]本明細書中に記載されるように、音響モニタリングデバイスにおける音響センサからの測定値は、組織試料を通じての音響信号のTOFの変化および/または変化の速度を追跡するために使用することができる。これは、経時的に拡散を決定するまたは拡散の速度を決定するために、経時的に異なる位置(例えば、複数の異なる位置、例えば、少なくとも2つの異なる位置、例えば、少なくとも3つの異なる位置、例えば、少なくとも4つの異なる位置、例えば、少なくとも8つの異なる位置)で組織試料をモニタすることを含む。
【0054】
[0092]例えば、「異なる位置」は、「候補拡散位置(candidate diffusivity position)」とも呼ばれ、組織試料の表面内または表面上の位置であり得る。いくつかの実施形態によれば、試料は、バイオプシーカプセルおよび音響ビーム経路の相対移動によって異なる「試料位置」に配置することができる。相対移動は、段階的にまたは連続的なやり方で試料上を「スキャニング」するために、受信機および/または変換器を移動させることを含み得る。代替として、カセットは、移動可能なカセットホルダによって位置を移し変えることができる。
【0055】
[0093]図2Aおよび図2Bに示されるように、例えば、カセット内の全ての組織を撮像するために、カセットホルダは、垂直方向に≒1mmだけ連続的に持ち上げることができ、TOF値は、新しい位置ごとに必要とされる。このプロセスは、カセットの開放穴全体を覆うまで繰り返され得る。図2Aを参照すると、バイオプシーカプセル220内の組織を撮像するとき、信号は、5つの変換器ペア全てから計算され、図2Aに示されたスキャンパターンになる。代替として、図2Bに示された標準的なサイズのカセット221内の組織を撮像するとき、第2および第4の変換器ペアはオフにすることができ、TOF値は、標準的なサイズのカセット221の3つの中央区画のそれぞれ中心に位置する第1、第3、および第5の変換器ペアの間で取得される。いくつかの実施形態では、次いで、2つの組織コアは、列ごとに配置することができ、一方は上部にあり、一方は底部にあり、6つの試料(2行×3列)からのTOFトレースが同時に得られることを可能にし、ラン・ツー・ランのばらつきをかなり減少させ、スループットを増加させる。この例示的な実施形態では、超音波ビームの半値全幅は2.2mmである。
【0056】
[0094]いくつかの実施形態では、音響モニタリングデバイスにおける音響センサは、空間的に並べられているCNIRHurricane Tech(Shenzhen)Co.,Ltd.(RTM)によるTA0040104-10などの4NHzの集束変換器のペアを備えることができ、組織試料はそれらの共通の焦点に配置される。1つの変換器、指定された変換器は、結合流体(すなわち、ホルマリン)および組織を横断するとともに受信変換器によって検出される音響パルスを送出することができる。
【0057】
[0095]図2Cは、本主題の開示の1つの例示的な実施形態についてのタイミング図を示す。初めに、送信変換器は、数百マイクロ秒間に正弦波を送信するために、Analog Devices(RTM)によるAD5930などの波形発生器を用いてプログラムされ得る。次いで、そのパルス列は、流体および組織を横断した後に受信変換器によって検出することができる。受信された超音波の正弦波および送信された正弦波は、Analog DevicesによるAF8302などの例えばデジタル位相比較器を用いて比較される。いくつかの実施形態では、位相比較器の出力は、送信されたパルスと受信されたパルスの間に時間的重なりの領域中に有効な読取値をもたらす。位相比較器の出力は、Atmel(RTM)によるATmega2560などのマイクロコントローラ上の統合型アナログ/デジタル変換器で出力が照会される前に、安定することができる。次いで、プロセスは、周波数範囲にわたって入力正弦波と出力正弦波の間の位相関係を構築するために、変換器の帯域幅にわたって複数の音響周波数で繰り返され得る。この音響位相周波数掃引は、音響干渉計に類似しサブナノの第2の精度で通過時間を検出することができる後処理アルゴリズムを用いてTOFを計算するのに直接使用される。
【0058】
[0096]いくつかの実施形態では、特定の時点および特定の候補拡散点について得られた「測定されたTOF」、すなわち、「測定されたTOF値」は、送信された超音波信号と対応する受信された超音波信号との間で測定された位相シフトから算出され、それによって超音波信号のビーム経路は特定の候補拡散点を横切り、それによって位相シフトは特定の時点で測定された。
【0059】
[0097]図3は、本主題の開示の例示的な実施形態による組織試料についての拡散係数を得る方法を示す。本実施形態に関連して開示された動作は、図1のシステムに含まれる任意の電子またはコンピュータベースのシステムによって実行することができる。いくつかの実施形態では、これら動作は、メモリなどのコンピュータ可読媒体上に符号化することができ、プロセッサによって実行され、人間の操作者に提示できるまたは続く動作に使用できる出力になる。また、これらの動作は、本主題の開示の精神が維持されるならば、本明細書中に開示された順序に加えて任意の順序で実行することがでる。
【0060】
[0098]いくつかの実施形態では、この方法は、組織試料についての音響速度の計算を含む(S330)。この動作は、組織試料が内部に浸漬される試薬内の音の速さを計算することを含む。例えば、超音波変換器間の距離dsensor、すなわち、送信変換器と受信変換器の間の距離は、正確に測定することができ、純粋な試薬中の超音波送信機と超音波受信機の間の通過時間treagentが測定され、ここで、試薬中の音の速さrreagentは、
【0061】
【数1】
【0062】
を用いて計算される。
[0099]いくつかの実施形態では、組織の厚さは、測定またはユーザ入力によって得ることもできる。超音波方法、機械的方法、および光学的方法を含む様々な適切な技法が、組織の厚さを得るために利用できる。最後に、音響速度が、
【0063】
【数2】
【0064】
を用いてバルク試薬(例えば固定液)に対して非拡散組織(すなわち、固定液がまだ適用されていない組織試料)から位相遅れを得ることによって決定される(S330)。
[0100]いくつかの実施形態では、特定の式は、組織試料の知られている幾何学的形状に基づいて得られ、一般に、この式は、時間t=0における非拡散組織試料(すなわち、試薬を欠いている、例えば固定液を欠いている組織試料)中の音の速さを表す。実験的な実施形態では、例えば、組織試料の音響速度は、較正されたカリパスを用いるようにして正確に測定される(本明細書中では「センサ」とも呼ばれる)2つの超音波変換器間の距離(dsensor)に基づいてまず試薬中の音の速さを計算することによって計算することができる。この例では、センサの隔離距離は、カリパスを用いて測定され、センサの隔離距離dsensor=22.4mmだった。次に、センサ間の(組織を欠いている)試薬を横断する音響パルスに必要とされる通過時間(treagent)は、適用可能なプログラムで正確に記録することができる。実験的な例では、10%NBF(中性緩衝ホルマリン)のバルク試薬についてtreagent=16.71μsである。次いで、試薬(rreagent)中の音速は、
【0065】
【数3】
【0066】
のように計算することができる。
[0101]この実験では、扁桃の試料片は、正確で標準化された試料厚さ(dtissue=6mm)を確実にするように6mmの組織学的生検コアパンチのコアをなし、TOF差(Δt)は、音響センサ間で、組織が存在する状態(ttissue+reagent)および組織が存在しない状態(treagent)、すなわち、
Δt=ttissue+reagent-treagent
Δt=16921.3-16709.7=211.6ns
で計算された。
【0067】
[0102]時間treagentは、送信変換器から受信変換器までの距離を横断するために超音波信号が必要とする時間であり、それによって信号は、試薬体積を通るが組織試料を通らない。この横断時間は、例えば、組織と同じ直径、例えば6mmを有するバイオプシーカプセルを2つのセンサ間に置き、組織ではなく試薬だけを通る信号についてTOF測定を実行することによって測定することができる。
【0068】
[0103]時間ttissueは、送信変換器から受信変換器までの距離を横断するために超音波信号が必要とする時間であり、それによって信号は、試薬を含まないかつ試薬によって囲まれていない組織試料を通る。上記横断時間は、例えば、試薬をカプセルに加える前に2つのセンサ間にバイオプシーカプセルを置き、組織だけを通る信号についてTOF測定を実行することによって測定することができる。
【0069】
[0104]組織の厚さおよび試薬中の音の速さに加えて組織によって引き起こされる時間差(または「TOF差」)Δtは、試料の知られている幾何学的形状(例えば円筒形形状、立方体形状、箱形状など)から得られる以下の式、すなわち、
【0070】
【数4】
【0071】
を用いて非拡散組織(ttissue(t=0))の音速を計算するために使用することができる。
[0105]その後、モデリングプロセスが、様々な候補拡散定数に関してTOFをモデル化するために実行される。候補拡散定数は、文献から得られた組織特性の知られているまたは従来の知識から選択される定数の範囲を含む(S331)。候補拡散定数は、正確でないが、どんな範囲が観察下の特定の組織または物質についてあり得るのかの大まかな見積りに単に基づいている。これらの評価された候補拡散定数は、モデリングプロセスへ送られ(ステップS332~S335)、組織の真の拡散定数を得るために誤差関数の最小が決定される(S337)。言い換えると、方法は、拡散定数を変えることで経験的に測定されたTOF拡散曲線と一連のモデル化された拡散曲線の間の差を追跡する。
【0072】
[0106]例えば、複数の候補拡散定数のうち1つを選択すると、組織試料中の試薬濃度の空間依存性は、円筒形の対象についての熱方程式
【0073】
【数5】
【0074】
の解を用いて時間および空間の関数として試薬濃度Creagentの計算に基づいてシミュレートされる(S332)。
[0107]ただし、xは組織の深さ方向の空間座標であり、Rは試料の半径であり、Dは候補拡散定数であり、tは時間であり、Jは第1種および0次のベッセル関数であり、J1は第1種および1次のベッセル関数であり、αは0次ベッセル関数のn次ルートの位置であり、cmaxは試薬の最大濃度である。言い換えると、これらのベッセル関数(高次微分方程式)の各々の係数の合計は、空間、時間、および測度の関数としての定数、すなわち拡散定数を与える。この式はこれらの実験的な実施形態に開示された円筒形組織試料に特有であるが、式は形状または境界条件に応じて変化し、任意の形状についての熱方程式の解はその形状についての拡散定数を与えることができる。例えば、球形、立方形、または矩形のブロック形状を有する物体についての熱方程式は、開示された方法においてやはり利用することができる。
【0075】
[0108]いくつかの実施形態では、このステップは、複数の時点について繰り返されて(S333~S334)、(特定の時点における予期された試薬濃度の積分は音の速さの微分を算出するために使用することができるので、予期された試薬濃度に対応する)時間変化するTOFを得る(S335)。例えば、このステップは、少なくとも2つの時点について、少なくとも3つの時点について、少なくとも4つの時点について、または少なくとも8つの時点について用意され得る。例えば、拡散時間が完了したか否かについての判定がなされる。この拡散時間は、使用されるハードウェアまたはシステムのタイプに基づくことができる。時間間隔Tごとに、ステップS333、S334、およびS332は、モデル化された試料濃度が時間変化するTOF信号へ変換されてモデリング時間が完了するまで繰り返される(S335)。
【0076】
[0109]実験的な実施形態では、使用される各候補拡散定数Dcandidateは、以下の値、すなわち
0.01≦Dcandidate≦2μm/ms
の範囲内に含まれる。
【0077】
[0110]いくつかの実施形態では、組織試料は、円筒形生検コアパンチのコアをなし、したがって円筒形によってよく近似され得る。いくつかの実施形態では、次いで、上記熱方程式の解を使用して組織試料中の試薬の予期された濃度(creagent)を計算し、実験の第1の時点について、すなわち、(開示された実験を実行するシステムに使用されるTOF取得間の時間間隔に基づいて)拡散の104秒後、組織の深さ方向の試薬の濃度を表す解は、図5Aに示されている。例えば、特定のシステムは、ここでは「ピクセル」とも呼ばれるいくつかの異なる空間位置ごとに新しいTOF値を規則的に測定することができる。したがって、各「ピクセル」は、例えば104秒ごとに新しいTOF値を割り当てる更新レートを有することができる。
【0078】
[0111]図5Aは、実験的な実施形態における熱方程式から計算される受動的拡散の約104秒後の組織の約6mmの試料の中への10%NBFのシミュレートされた濃度の傾きを示す。また、これらのステップは、実験している間(実験的な実施形態においては8.5時間の長さ)の104秒ごとに繰り返される組織全体を通じての試薬の濃度を決定することが繰り返され、その結果は図5Bに示されている。
【0079】
[0112]図5Bは、組織中(水平方向軸)の全ての位置ならびに全ての時間における(「予期された」、「モデル化された」、または「熱方程式ベースの」)試薬の濃度を表示するcreagent(t,r)のグラフを示す(上向きに移動する曲線)。
【0080】
[0113]図3に戻って参照すると、試薬モデリングステップ(S332~S334)の結果を使用し得、超音波検出機構が組織の深さに関して位相遅れを線形的に構築することに基づいて超音波信号への寄与を予測する。
【0081】
[0114]いくつかの実施形態では、超音波は、深さ方向に、すなわちUSビームの伝搬軸に沿って全ての組織からの積分信号を検出し、したがって深さ方向に流体交換の積算量に影響されやすいので、「積分され予期された」試薬濃度cdetectedは、「検出された試薬濃度」とも呼ばれ、計算され得る。したがって、「検出された試薬濃度」は、経験的に検出された値ではない。むしろ、それは、特定の時点tおよび特定の候補拡散定数について算出された全ての予期された試薬濃度を空間的に積分することによって生成される微分値である。空間的積分は、例えば、組織試料の半径を覆うことができる。
【0082】
[0115]例えば、検出された試薬濃度cdetectedは、
【0083】
【数6】
【0084】
を用いて計算することができる。
[0116]いくつかの実施形態では、統合された試薬濃度(integrated reagent concentration)cdetectedは、特定の時点における試薬の総量を計算するために使用される。例えば、試料のさらなる体積および/または重量の情報は、絶対的な試薬の量を計算するのに使用することができる。代替として、試薬の量は、例えば、試薬によってすでに拡散させられている試料の体積分率[%]を示す、例えば百分率値として、相対的単位で算出される。
【0085】
[0117]シミュレーション(すなわち、熱方程式モデルに基づく算出)の後、所与の候補拡散定数および所与の時点についての試薬の検出された濃度は、次いで、
【0086】
【数7】
【0087】
を用いて非拡散組織と試薬の線形結合としてTOF信号に変換することができる(S335)。
[0118]ただし、rtissue(t=0)は、非拡散組織の音の速さであり、ρは、バルク試薬と流体交換できる組織試料の体積分率を表す組織の気孔率(volume porosity)である。したがって、この式は、2つの別個の音速(組織および試薬)の線形結合として拡散からのTOF信号の変化をモデル化する。一方で純粋な組織および他方で純粋な試薬のそれぞれの音速のTOFは、(例えば、それぞれの位相シフトベースのTOF測定によって)経験的に容易に決定することができるので、特定の時点で試料の中にすでに拡散させられた試薬の量は、容易に決定することができる。
【0088】
[0119]いくつかの実施形態では、(試料緩衝液または組織流体などのバルク流体のTOF寄与がない)純粋な組織試料のTOF寄与は、バルク流体だけで満たされている対応する変換器間距離を横切った超音波信号について測定されたTOF寄与からバルク流体を含むおよび/またはバルク流体によって囲まれる組織試料について測定されたTOF寄与を差し引くことによって得ることができる。
【0089】
[0120]図6Aおよび図6Bは、それぞれ、実験している間の超音波によるシミュレートされた、「検出された」、または「統合された」NBFの濃度のグラフ(図6A)と、第1の候補拡散定数についてシミュレートされた(または「予期された」)TOF信号のグラフ(図6B、ただしD=0.01μm2/ms)とを示す。図6BのTOF信号は、試薬のそれぞれの積分濃度の微分として算出される。
【0090】
[0121]この点で、この方法は、概して、モデル化された(または「シミュレートされた」もしくは「予期された」)TOFを、組織試料内の「候補拡散点」とも呼ばれる異なる空間的な関心領域(ROI:regions of interest)を測定し真の拡散定数を得るために誤差関数の最小値を決定することによって決定された経験的なTOFと相関させる(S336)。この例では、(S322)によって特定された範囲内で選択された特定の拡散定数について各モデル化されたTOFは、経験的なTOFと相関(S336)し、誤差が最小化されるか否かについての決定がされる(S337)。誤差が最小化されない場合、次の拡散定数が選択され(S338)、モデリングプロセスが新しい拡散定数について繰り返される(S332~S335)。誤差が最小化される(S337)ことが相関性(S336)に基づいて決定される場合、真の拡散定数が決定され(S339)、この方法は終わる。
【0091】
[0122]図4は、代替の方法を示しており、それによって全ての候補拡散定数は、まず、ステップS446~S447に基づいてモデリングを実行するために使用され、全ての拡散定数が処理された後、相関性が実行される(S448)。全ての潜在的な拡散定数について計算された時間変化するTOF信号の図が図7に示されている。例えば、図7は、6mmの組織試料について8.5時間の実験に関してシミュレートされたTOFトレースを示しており、拡散定数は0.01から2.0μm2/msの範囲であった。図4の実施形態では、誤差最小化は、真の拡散定数決定ステップS439内で実行される。
【0092】
[0123]いずれにしても、経験的なTOFは、相関性が生じることについて決定されなければならない。いくつかの実施形態では、経験的なTOFは、組織内の異なる空間的な関心領域(ROI)を測定することによって決定することができる。各信号は、組織の中への活性拡散から寄与を分離するために減じられたバックグラウンド試薬からの寄与を有する。個々のTOF傾向は、フィルタリングによって時間的に滑らかにされる。次いで、これらの空間的に別個のTOF傾向は、組織の中への10%NBFの拡散の平均速度を決定するために空間的に平均化される。
【0093】
[0124]図8Aおよび図8Bは、6mm片の人間の扁桃試料から収集された経験的に計算されたTOFの傾向(図8A)、および組織の中への10%NBFの流体交換の平均速度および量を表す空間的に平均化されたTOF信号(図8B)をそれぞれ示す。
【0094】
[0125]組織の中への拡散の平均速度は、(図8Bに破線によって示された)単一の指数信号に非常に相関しており、
【0095】
【数8】
【0096】
によって得られる。
[0126]ただし、Aはナノ秒単位のTOFの振幅(すなわち、拡散されていない組織試料と完全に拡散された組織試料の間のTOF差)であり、τexperimentalは、TOFがその振幅の37%まで減衰するのに必要な時間、すなわち63%減衰されるのに必要な時間を表す試料の減衰定数であり、オフセットは上記の所与の減衰関数の垂直オフセットである。
【0097】
[0127]この63%は、以下の計算、すなわち、
時間t=τにおいて、TOF(τ)=Ae(-tau/tau)=Ae-1=A/e=A/2.72=0.37*A
によって得ることができる。
【0098】
[0128]いくつかの実施形態では、試料中の試薬濃度が増加するにつれてTOFが減少するとここで仮定されるが、この方法は同様に試薬に適用可能であり、これによって試料の中に拡散すると測定されたTOFを増大させる。実験的な実施形態の6mm片の人間の扁桃では、τexperimental=2.83時間である。したがって、複数の連続した時点について経験的に決定された複数のTOFから、組織試料の減衰定数は、例えば、経時的にTOF信号の振幅をグラフで描き、オフセットを特定するグラフを解析し、減衰定数についての上記解を解くことによって算出することができる。
【0099】
[0129]いくつかの実施形態では、誤差相関性(図3のS336、図4のS448)は、モデル化された(「予期された」)TOF対経験的なTOFの誤差を決定するために実行される。計算されたTOF信号、シミュレートされたTOF信号、および経験的なTOF信号を有すると、2つの信号の間の差は、候補拡散定数が2つの信号の間の差を最小化するか否か見るために計算することができる(S337)。
【0100】
[0130]いくつかの実施形態では、誤差関数は、例えば、以下の式、すなわち、
【0101】
【数9】
【0102】
誤差(D)=(τsimulated(D)-τexperimental
を用いて異なるやり方で算出することができる。
[0131]いくつかの実施形態では、第1の誤差関数は、シミュレートされた(「モデル化された」、「予期された」)TOF信号と経験的に測定されたTOF信号との間の差を一つ一つ計算する。
【0103】
[0132]いくつかの実施形態では、第2の誤差関数は、それぞれの減衰定数の間の差の二乗の和を計算することによってシミュレートされたTOF信号とモデル化されたTOF信号との間の拡散の速度を排他的に比較する。いくつかの実施形態では、経験的な減衰定数τexperimentalは、上述したように、経験的に得ることができる。いくつかの実施形態では、「モデル化された」、「予期された」、または「シミュレートされた」減衰定数τsimulatedは、減衰関数にやはり従う連続した時点のモデル化された(「予期された」)TOF信号から類似的に得ることができる。
【0104】
[0133]いくつかの実施形態では、誤差関数の出力に基づいて、真の拡散定数を決定することができる(S339)。いくつかの実施形態では、真の拡散定数は、例えば、
reconstructed=arg min(誤差(D))
のように誤差関数の最小値として計算される。
【0105】
[0134]この式は、経験的データにできる限り近いTOF信号を生成する候補拡散係数の決定を可能にする。
[0135]例えば、図3に示された方法に関して、誤差関数は、誤差が最小化される(S337)まで候補拡散定数ごとに決定することができる。代替として、図4の方法では、経験的なTOFとの相関性は、全ての候補拡散定数が処理された後に実行することができ、これに関し、真の拡散定数の決定(S439)は、誤差関数の最小値を決定することを含む。いくつかの実施形態では、誤差関数の最小値は、理想的にゼロまたは可能な限りゼロの近くである。当業界で知られている何らかの誤差関数を、使用することができ、その目標は本明細書中に開示されたモデル化された係数と経験的な係数の間の誤差を最小化することである。
【0106】
[0136]図9Aおよぶ図9Bは、それぞれ、候補拡散定数の関数として(図9A、ΔD≒10e~5μm/ms)、および誤差関数の拡大図(図9B)としてシミュレートされたTOF信号と経験的に測定されたTOF信号との間の計算された誤差関数のグラフを示す。実験的な実施形態では、誤差関数の最小値は、D=0.1618μm/msにおけるものであるように計算された。再構築された定数の有効性は、試験され、TOF傾向をバックシミュレートする(back-simulate)ために使用される。図10は、この拡散定数を用いて計算されるとともに6mm片の人間の扁桃で測定された経験的なTOFに沿ってグラフで描かれたTOF傾向を示す。図10では、グラフは、10%NBFの6mm片の人間の扁桃から経験的に計算されたTOF傾向(破線)と、Dreconstructed=0.168μm/msについてのモデル化されたTOF傾向(実線)とを示す。この実施形態では、τexperimental=2.830時間およびτsimulated=2.829時間である。
【0107】
[0137]さらに、この同じ手順は、図11Aおよび図11Bに示されるように、全ての試料についてうまく再構築された拡散定数を有する6mmの人間の扁桃試料のいくつかの標本について繰り返された。図11Aは、6mmの人間の扁桃の23個の試料について再構築された拡散定数を示す。線1151は平均を表す。図11Bは、再構築された拡散定数の分布を示す箱および箱ひげ図を示す。線1152は中央値を表し、箱1153は25~75百分位数から延び、箱ひげ1154は5~95百分位数から延びる。全体的に、アルゴリズムで予測された6mmの扁桃試料は、0.1849μm2/msの平均拡散定数を有し、比較的きつく分布しており、標準偏差0.0545μm2/msをもたらす。
【0108】
[0138]図12Aは、本開示の実施形態による超音波信号の飛行時間をモニタするためのシステムを示す。いくつかの実施形態では、超音波ベースの飛行時間(TOF)モニタリングシステムは、超音波信号の位相シフトに基づいて飛行時間の測定を実行するための一対または複数対の変換器(例えば、TA0040104-10、CNIRHurricane Tech)を備えることができる。図12Aに示される実施形態では、システムは、超音波(「US」)送信機902と超音波受信機904とからなる少なくとも1対の変換器を備え、超音波(「US」)送信機902および超音波受信機904は、送信機から受信機までのビーム経路914内に配置される組織試料910が2つの変換器902、904の共通焦点の近くに位置するように、互いに対して空間的に配列される。組織試料910は、例えば、固定液で満たされている試料容器912(例えば、CellPathの「セルセーフ(CellSafe)5」のような標準的な組織カセット、またはCellPathの「セルセーフ・バイオプシー・カプセル(CellSafe Biopsy Capsules)」のようなバイオプシーカプセル)内に収容することができる。位相シフトベースのTOF測定は、バイオプシーカプセル912が固定液で満たされる前後に、この液が試料の中にゆっくりと拡散する間に実行される。送信機として働く一方の変換器は、組織を横断する音響パルスを送出し、受信機として働く他方の変換器によって検出される。送信機受信機変換器ペアを構成する2つの変換器の間の総距離は「L」と呼ばれる。超音波信号が送信機902と受信機904の間の距離を横断するのに必要とする合計時間は、信号の飛行時間と呼ぶことができる。送信機902は、例えば、約4MHzに集中され、約3.7と約4.3MHzの間の周波数掃引範囲をサポートすることができる。
【0109】
[0139]いくつかの実施形態では、距離Lは、少なくとも概算で知られていると仮定される。例えば、変換器の距離は、(例えば、光学的測定技法、超音波ベースの測定技法、または他の測定技法によって)正確に測定することができ、または音響モニタリングシステムの製造業者によって開示することができる。
【0110】
[0140]送信変換器902は、定められた時間間隔、例えば数百マイクロ秒の間に、定められた周波数について正弦波(または「正弦波信号」)を送信するように波形発生器(例えば、Analog DevicesからのAD5930)を用いてプログラム可能である。この信号は、流体および/または組織を横断した後に受信変換器904によって検出される。受信された超音波信号922および発せられた(「送信された」とも呼ばれる)正弦波信号920は、デジタル位相比較器(例えば、AD8302、Analog Devices)を用いて電子的に比較される。
【0111】
[0141]本明細書中に使用される「受信された」「信号」(または波)は、変換器、例えば信号を受信する受信機904によって特定され提供される特性(位相、振幅、および/または周波数など)を有する信号である。したがって、信号特性は、信号が試料または任意の他の種類の物質を通った後に特定される。
【0112】
[0142]本明細書中に使用される「送信された」または「発せられた」「信号」(または波)は、変換器、例えば信号を発する送信機902によって特性される特性(位相、振幅、および/または周波数など)を有する信号を指す。したがって、信号特性は、信号が試料または任意の他の種類の物質を通ってしまう前に特定される。
【0113】
[0143]例えば、送信された信号は、送信変換器によって特定される信号特性によって特徴付けすることができ、受信された信号は、受信変換器によって測定された信号特性よって特徴付けすることができ、そしてそれによって送信変換器および受信変換器は、音響モニタリングシステムの位相比較器に動作可能に結合される。
【0114】
[0144]図12Bは、試料のない純粋な試薬を横切るビーム経路についての音波の速さを推論することができる純粋な試薬についてのTOFの決定を示す。本実施形態では、1つまたは複数の変換器ペア902、904および試料容器912は、互いに対して移動することができる。好適には、システムは、USビームが固定液だけを含むが組織を含まない容器の領域914を横断するように容器912の位置を移し変えることができる容器ホルダを備える。
【0115】
[0145]時間Aにおいて、組織が固定液中にまだ浸漬されていないとき、変換器間の距離を横断する音信号についてのTOFは、図12Aに説明されたように、測定された位相シフトφexpによって得られる。この場合には、ビーム経路は、試薬がない試料を横切る。Lが知られているので、測定されたTOFは、非拡散試料の存在中の距離を横断する音信号の速さを算出するために使用することができる。
【0116】
[0146]時間Bにおいて、組織が固定液中に浸漬されるとき、変換器間の距離を横断する音信号についてのTOFは、測定された位相シフトφexpによって得られる。この場合には、ビーム経路は、試薬だけを含み試料を含まない試料容器を横切る(または、試料がない位置で試料容器を横切る)。Lが知られているので、測定されたTOFは、ビーム経路中に試薬(および試料容器)だけが存在する距離、すなわち、試料が存在しない距離を横切るための音信号の速さを算出するために使用することができる。
【0117】
[0147]時間Aおよび時間Bは、さらなる変換器ペアが並列で2つの測定を実行するように構成されている場合に、同一の時点を表すことができる。
[0148]III.実施例
[0149]試料内の空間および時間にわたっておよび組織試料タイプにわたって試薬濃度を決定する開示された方法の調査が行われた。上述したように、試料はTOFシステムを用いてNBF内で低温浸漬中にモニタされ、経時的に抽出された経験的なTOFデータが得られた。TOF分析の後、試料は、組織を固定するために温められ、次いで試料パラフィンブロックを調製するために組織プロセッサにおいて処理された。このブロックはミクロトーム上でスライスされ、顕微鏡スライド上に装着され、標準プロトコルにより染色され、いくつかの例では染色品質を評価するために適したスライドリーダによって読まれた。
【0118】
[0150]図13は、円筒形の組織コアなどの円筒形の対象の中への試薬の拡散のモデルを示す。見ることができるように、試薬濃度は、まず組織試料の縁で急速に増加し、(そうであるとしても)最初に中心での試薬の濃度が最初ゆっくり増加し、濃度変化の遅れが試料の縁で見られ、次いでゲインを遅くし始める前に後の時点で加速する。このモデルでは、
TOF∝∫c(試薬)
である。
【0119】
[0151]図5Bと比較すると、経時的な濃度の変化は、拡散されたパーセンテージについて見られる変化よりも速度が変わりやすい。これは、拡散率が試料全体にわたって測定された平均であるので、予期されないものではなく、これに対して、濃度変化は、位置固有である。さらに、試料多孔率は、以下の式、すなわち、
【0120】
【数10】
【0121】
のAを用いてスケール変更するので、
[0152]拡散定数が知られると、候補多孔率を使用してシミュレートされたTOF曲線を計算し、経験的なTOF曲線と比較されて誤差を生じさせることができ、この誤差は最小化することができる。誤差関数は、例えば、以下のもの、すなわち、
【0122】
【数11】
【0123】
誤差(D)=(τsimulated(多孔率)-τexperimental
の1つを用いて異なるやり方で算出することができる。
[0153]第1の誤差関数は、シミュレートされた(「モデル化された」、「予期された」)TOF信号と経験的に測定されたTOF信号との間の点ごとの差を計算する。
【0124】
[0154]第2の誤差関数は、それぞれの減衰定数の間の差の二乗の和を計算することによってシミュレートされたTOF信号とモデル化されたTOF信号との間の拡散速度を排他的に比較する。経験的な減衰定数τexperimentalは、上述したように、経験的に得ることができる。「モデル化された」、「予期された」、または「シミュレートされた」減衰定数τsimulatedは、減衰関数にやはり従う連続した時点のモデル化された(「予期された」)TOF信号から類似的に得ることができる。
【0125】
[0155]誤差関数の出力に基づいて、真の拡散定数を決定することができる。真の多孔率は、誤差関数の最小値、例えば、
ρreconstructed=arg min(誤差(多孔率))
[0156]試料の多孔率が決定されると、空間および時間の特定の点における試薬の濃度は、以下の式、すなわち、
【0126】
【数12】
【0127】
を用いて計算することができる。
[0157]図14は、比較のために、3時間および5時間における扁桃組織コア試料(約6mmの円筒形)の中心へのホルマリン溶液の拡散率の典型的な分布を示しており、3時間において、試料の浸漬はまあまあの染色をもたらすのに対して、5時間において、浸漬は「理想的な」染色をもたらす。平均すると、3時間の浸漬を受けた試料は、組織中心で52.6%の拡散率に到達し、5時間の浸漬の浸漬を受けた試料は、拡散された76.9%の平均拡散率に到達する。5時間での95%予測間隔は、病理学者の検査によって判定されるときに、「理想的な」染色を実現するために中心で試料が少なくとも52.45%拡散されることを必要とすることを示す。
【0128】
[0158]図15は、比較のために、組織試料の中心における拡散率に基づく染色品質(感度および特異性)のROC曲線を示す。この例では、組織中心で拡散率を用いることで、染色品質の予測のために、組織中心で、拡散されたパーセンテージの測定値に基づいて、曲線下エリア(AUC:Area Under the Curve)0.8926をもたらす。
【0129】
[0159]図16は、比較のために、試薬への露出約3時間と約5時間の間の組織試料の中心における測定された拡散率の差(その結果、約3時間の拡散と約5時間の拡散の間の平均の差が組織の中心で約24.3%となる)の典型的なグラフを示す。
【0130】
[0160]次に、TOFデータから組織試料内の特定の空間の点で試薬濃度を決定する開示された方法を用いて得られる結果を見ると、図17は、いくつかの試料についての決定された扁桃組織の体積の多孔率の生のデータの分布を示す。図18は、決定された扁桃組織の体積の多孔率についての図17のデータの対応する箱および箱ひげの分布を示す。見ることができるように、扁桃組織は、特に、約0.15の平均多孔率を示す。
【0131】
[0161]図19は、約3時間および約5時間における扁桃組織コア試料(約6mmの円筒形)についての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の典型的な分布を示しており、約3時間の試料の浸漬はまあまあの染色をもたらすのに対して、5時間の浸漬は「理想的な」染色をもたらす。平均すると、約3時間の浸漬を受けた試料は、組織中心で92.3mMのホルムアルデヒド濃度に到達し、5時間の浸漬を受けた試料は、137.5mMの組織中心での平均濃度に到達する。5時間における95%予測間隔は、病理学者の検査によって判定されるときに、「理想的な」染色を実現するために、試料は固定中にホルマリン組織中心で少なくとも91.07mMを実現しているべきであることを示す。
【0132】
[0162]図20は、組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度に基づいて染色品質(感度および特異性)のROC曲線を示す。この場合のAUCは0.9256であり、これは、図15に示したように、染色品質の指標としての組織中心における拡散されたパーセンテージの使用と比較して、染色品質の指標として組織中心でホルムアルデヒド濃度を使用することの優位性を示す(AUC-0.8926)。
【0133】
[0163]同様に、図21は、染色品質の指標としての組織中心における試薬濃度の優位性を示す。それは、NBF溶液中の約3時間の浸漬と約5時間の浸漬との間の組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の差のグラフを示す。全体期には、濃度に見られる平均の差は、45mMである。拡散されたパーセンテージ(24%;図16)の差と比較すると、約3約と約5約の間の組織中心における濃度の差は、組織中心で染色品質に影響を与えることができる浸漬中の後で生じる試薬濃度の差を反映する約33%(45mM/137mM×100%)でより劇的である。やはり、これは、(拡散されたパーセンテージ測定単独の場合におけるように)試料体積全体にわたっての平均測度とは対照的に、試料体積内の特定の位置および時間である測度(この場合は濃度)を与える方法を用いることの利点を示す。
【0134】
[0164]扁桃組織についての多孔率を決定するために開示された方法を使用できることが確立されているので、多孔率は、10個の異なる組織タイプ(80個の試料)について測定され、その結果は、いくつかの組織タイプについての生の多孔率の分布を示す図22に示されている。図23は、いくつかの組織タイプについての多孔率の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。見ることができるように、大部分の組織タイプについて、平均多孔率(箱の線)は、約0.1から約0.2の間であるのに対して、皮膚は、約0.3よりも大きいずっと高い多孔率を有する。
【0135】
[0165]比較のために、図24は、いくつかの組織タイプについての決定された拡散定数の分布を示し、図25は、いくつかの組織タイプについての拡散定数の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。いくつかの組織タイプの間で決定される平均多孔率と比較すると、拡散定数は、より変わりやすい。
【0136】
[0166]図26は、いくつかの組織タイプについて決定され約3、5、および6時間における組織試料の中心での生の拡散率の分布を示し、図27は、いくつかの組織タイプについての3、5、および6時間における組織試料の中心での拡散率の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。図28は、いくつかの組織タイプについての3、5、および6時間における決定された組織試料の中心におけるような生のホルムアルデヒド濃度の分布を示し、図29は、いくつかの組織タイプについての3、5、および6時間における組織試料の中心でのホルムアルデヒド濃度の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。組織の中心での拡散率の測定に基づく生のデータおよび箱および箱ひげの分布と試薬濃度の測定に基づく生のデータおよび箱および箱ひげの分布との比較から、濃度が利用されるときにデータはよりきつく密集する傾向があることが分かり得る。
【0137】
[0167]図30は、示された浸漬時間の後のいくつかの組織タイプについての組織試料の中心における生のホルムアルデヒド濃度の分布を示し、図31は、示された浸漬時間の後のいくつかの組織タイプについての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱および箱ひげの分布のセットを示すグラフである。これらの結果は、より早期の研究が、低温+高温の固定プロトコルの低温ステップにおける少なくとも6時間(扁桃について5時間)の固定により「理想的な」染色を確実にすることを示したので、約90mMを超える(100mMを超えるなど)組織中心のホルムアルデヒド濃度と「理想的な」染色との相関性を裏付ける。この結果は、顕微鏡分析によってさらに裏付けられ、図32に示された組織を決定する、適したリーダーは、示された時間の後に「理想的な(最適な)」染色を実際に示した。
【0138】
[0168]図33は、6時間の10%NBF中の浸漬の後の組織試料の中心における全ての組織タイプにわってのホルムアルデヒド濃度の生の分布を示し、図34は、6時間の10%NBF中の浸漬の後の全ての組織についての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱および箱ひげの分布を示す。「理想的な染色」の実現のための90mM(または100mM)のホルムアルデヒド濃度レベルは、全ての組織タイプにわたって裏付けられる。TOFデータに基づく組織の中心におけるホルムアルデヒド濃度の計算と単に標準固定時間プロトコルを用いた組織の中心におけるホルムアルデヒド濃度の計算との間の差は、6時間の浸漬は、直径6mmよりも大きい試料にとって理想的な染色を実現するには十分でないかもしれないが、組織中心における少なくとも90mM(または100mM)のホルムアルデヒドを実現するのに十分な時間は、試料の「理想的な」染色を確実にするというものである。逆に、6時間の標準固定時間を用いて潜在的に固定され過ぎである可能性があるより小さい試料(例えば、針コア生検)は、単に組織中心における濃度が少なくとも90mMに到達するまで処理されればよく、したがって解析時間全体がより短くなる。
【0139】
[0169]図35は、組織試料の中心における拡散係数、多孔率、およびホルムアルデヒド濃度を得る開示された方法の一実施形態を示す。S430において、試料の音響速度は、図3の内容で前述したように測定される。また、図3の実施形態のように、動作および決定S431、S432、S433、S434、S435、S436、S437、およびS438は、拡散定数を特定するために実行される。S439において拡散定数が決定されると、試料に中への試薬溶液の拡散をモデル化するために使用される多孔率の範囲は、S440で設定される。この範囲は、デフォルトで設定されてもよく、またはユーザによって入力されてもよい。例えば、図22に関して上述した経験的に決定された多孔率の値に基づいて、0.05から0.50(またはより狭い)の範囲までは、全部ではないが、ほとんどの組織タイプをカバーするはずである。組織タイプが前に試験されているとき、より狭い範囲が設定されてもよく、例えば、ユーザは、モデルが探索する適切な値の範囲を与えるように組織タイプを入力することができる。S441、S442、およびS443において、S439からの拡散定数、およびS440で設定された候補多孔率は、一連の時点TからT+nにわたって試薬の空間依存性をモデル化するために使用される。次いで、一連の時点にわたって構築されたこのモデルは、S444において予期されたTOF曲線を生成するために使用され、S445において経験的なTOF曲線と相関される。S446において、予期されたTOF曲線と経験的なTOF曲線との間の誤差は、それが最小であるのか見るために確認され、そうである場合、S448において、候補組織の多孔率は、実際の組織の多孔率であるように決定される。そうでない場合、S447において、プロセスが第2の候補多孔率を用いて繰り返される。拡散定数(S439)と多孔率(S448)の両方が定められると、時間にわたる試薬濃度の空間モデルが、S449において生成可能である。経時的な試薬濃度の空間モデルが確立されると、試料中心における濃度など、特定の時間における試料内の特定の点での濃度は、モデルから抽出することができる。
【0140】
[0170]IV.さらなる実施形態
[0171]さらなる態様では、本開示は、多孔性物質を通じて移動した音響波を検出する音響モニタリングデバイスと、音響モニタリングデバイス102に通信可能に結合されたコンピューティングデバイスとを備えたシステム100に関する。このコンピューティングデバイスは、実行時に、
[0172](i)検出された音響波の測定された音響データから経験的なTOFのセットを算出することであって、各経験的なTOFは複数の時点のうちのそれぞれの時点で多孔性物質の候補拡散点を通じて移動した音響波のTOFを示し、候補拡散点は多孔性物質の表面内または表面に位置する、経験的なTOFのセットを算出することと、
[0173](ii)多孔性物質についての候補拡散定数の範囲を設定することと、
[0174](iii)試薬の予期される濃度が時間、空間、および候補拡散定数の関数であり、候補拡散定数ごとに、複数の時点についておよび候補拡散点について多孔性物質内の試薬の予期される濃度の空間依存性濃度モデルをシミュレートすることと、
[0175](iv)空間依存性濃度モデルを使用して多孔性物質についての空間依存性TOFモデルを算出することであって、TOFモデルは、複数の時点ごとにおよび候補拡散定数ごとに、候補拡散点へ、それぞれモデル化されたTOFを割り当てるものであり、表現「モデル化された」、「シミュレートされた」、および「予期された」は、互いに交換可能に本明細書中に使用され、例えば、「使用」は、空間依存性濃度モデルを空間依存性TOFモデルへ変換することからなり得る、空間依存性濃度モデルを使用することと、
[0176](v)候補拡散点について誤差関数を決定することであって、誤差は、対応する経験的なTOFから候補拡散点へ割り当てられた各モデル化されたTOFの間の(「誤差」ともみなされ得、「誤差」とも呼ばれ得る)距離を示し、経験的なTOFは、その対応するモデル化されたTOFをモデル化するのに使用されるのと同じ時点で音響モニタリングデバイスによって測定される、誤差関数を決定することと、
[0177](iv)対応する経験的なTOFまで最小距離を有する1つまたは複数のモデル化されたTOFを特定するために誤差関数を使用することと、
[0178](vii)1つまたは複数の特定されたモデル化されたTOFの候補拡散定数から多孔性物質について計算された拡散定数を出力することと
[0179](viii)多孔性物質についての候補多孔率の範囲の設定、
[0180](ix)候補多孔率ごとに、複数の時点および出力された拡散定数についての多孔性物質内の試薬の予期される濃度の空間依存性濃度モデルのシミュレーティングであって、試薬の予期される濃度が時間、空間、拡散定数、および候補多孔率の関数であるシミュレーティングと、
[0181](x)候補多孔率についての誤差関数の決定であって、誤差が、対応する経験的なTOFからの前記候補多孔率の点に割り当てられたモデル化された各TOF間の距離を示し(これは、「誤差」とみなすこともでき、そう呼ぶこともあり得る)、この経験的なTOFは、その対応するモデル化されたTOFをモデル化するのに使用されるのと同じ時点で音響モニタリングデバイスによって測定される
を含む動作をコンピューティングデバイスに実行させる命令を含む。
【0141】
[0182]さらなる態様では、本開示は、対応する方法に関する。
[0183]他の実施形態によれば、空間依存性TOFモデルを算出するステップは、多孔性物質について熱方程式を解くことによって各モデル化されたTOFを決定するステップを含む。
【0142】
[0184]特定の実施形態によれば、音響データは、試薬が拡散する前の多孔性物質中の音波の速度と、および/または多孔性物質の中への試薬の拡散中の複数の時点における多孔性物質を通じての音響波の経験的なTOF、および/または経験的な位相シフトデータであって、経験的な位相シフトデータから経験的なTOFを算出するための経験的な位相シフトデータ、および/または多孔性物質がない試薬中の音波の速度、および/または多孔性物質の厚さを含む。例えば、厚さは、各実施形態によれば、パルスエコー超音波を用いて決定される。
【0143】
[0185]他の実施形態によれば、空間依存性TOFモデルの算出は、
[0186](i)複数の候補拡散定数のうちの最初のものを選択するステップと、
[0187](ii)選択された候補拡散定数に依存して複数の時点ごとに多孔性物質中の複数の候補拡散点の各々で予期された試薬濃度(creagent)を計算するステップと、
[0188](iii)多孔性物質の半径にわたって時点および候補拡散定数について計算された予期された試薬濃度(creagent)を積分することによって、複数の時点ごとにおよび候補拡散定数ごとに、統合された試薬濃度(cdetected)を計算するステップと、
[0189](iv)試薬が拡散する前の多孔性物質中の音波の速さと多孔性物質がない試薬中の音波の速さとの線形結合を算出することによって、統合された試薬濃度を空間依存性TOFモデルのそれぞれのモデル化されたTOFへ変換するステップと、および
[0190](v)候補拡散定数の次の候補拡散定数の選択、ならびに試料の拡散定数に到達する終了基準に到達するまでのこのステップおよびこの次に選択した候補拡散定数についての先の3つのステップの繰り返し
[0191](vi)多孔性物質についての複数の候補多孔率のうちの第1の候補多孔率の選択
[0192](vii)上記到達した拡散定数、および複数の候補多孔率のうちの第1の候補多孔率に基づく試料についての第2のモデル化されたTOFの計算
[0193](viii)多孔性物質についての候補多孔率の次の候補多孔率の選択、試料の多孔率に到達する終了基準に到達するまでのこのステップおよび先のステップの繰り返し
[0194](ix)多孔性物質中の候補拡散点ごとの実際の試薬濃度の計算とを含む。
【0144】
[0195]要するに、任意の試料物質についての試薬濃度の決定は、所与の温度、圧力などで試薬中の音の速さを計算し、標準的なパルスエコー超音波を用いて試料の厚さを決定し、超音波の位相遅れによって非拡散試料中の絶対的な音速を決定し、続いて候補拡散定数からモデル化されたTOF傾向を生成し、試料の中への試薬拡散の空間依存性をまずシミュレートし、超音波ビームによって検出された試薬濃度全体を合計し、検出された試薬濃度をTOF差へ変換し、複数の拡散時間の間これらのステップを繰り返すことによって行うことができる。次いで、モデル化されたTOF傾向は、(文献から知られている範囲によって示されるような範囲内で)複数の候補拡散定数についての空間依存性シミュレーションを繰り返し、全ての時間でおよび全ての拡散定数について経験的なTOF差とシミュレートされたTOF差の間の誤差を計算し、経験的なTOFとモデル化されたTOFの間の誤差関数を拡散定数として結果として得ることによって決定される。誤差関数の最小値として真の拡散定数を計算することによって出力を得る。次いで、(予期される組織多孔率の範囲から選択されるような)試料について真の拡散定数および複数の候補多孔率を用いて、第2のモデル化されたTOFの傾向を経時的に生成し、第2のモデル化されたTOFの傾向と経験的なTOFの傾向との間の第2の誤差関数を常に計算し、試料の真の多孔率を第2の誤差関数の最小値として計算し、次いで、この真の多孔率は、拡散プロセス中に試料内の任意の時間における任意の空間の点で試薬濃度を得るために、真の拡散定数と一緒に試薬拡散の空間依存性についてのモデルの中に戻すように入力することができる。代替として、特定の時間における特定の空間の点でのモル濃度の単位の試薬濃度は、特定の時間における拡散の%に基づく以下の式に従う。
【0145】
[0196]試薬濃度=(拡散%)(多孔率)(g試薬/L)(lモル/MWの試薬)
に従う。
[0197]また、本主題の開示は、生物学的内容と非生物学的内容の両方に当てはまり、音響TOF曲線に基づいて任意の物質の拡散定数を再構築する能力を与える。開示された方法は、従来技術の方法に比べてより敏感かつ正確である。開示された演算は、TOF曲線をベッセル関数の和を含む単一の指数関数へフィットすることを行うが、内容に応じて、二重指数関数または二次関数がより適切である場合もある。したがって、式自体は、変更されてもよく、一方、本明細書中に開示された新規な特徴は、当業者によって読まれたときにそれらの発明の精神および範囲を維持することができる。
【0146】
[0198]拡散定数および多孔率計算は、組成解析を含む多くの応用に役立つことが知られている。本システムおよび方法は、拡散定数および多孔率測定を利用する任意のシステムに使用されることが考えられる。1つの特定の実施形態では、本システムおよび方法は、流体が多孔性物質の中へ拡散するのをモニタリングする分野に適用される。
【0147】
[0199]いくつかの実施形態では、多孔性物質は組織試料である。多くの一般的な組織解析法では、組織試料は、流体溶液で拡散される。例えば、Hine(Stain Technol.1981 Mar;56(2):119-23)は、固定後または埋め込みおよび切断前に、ヘマトキシリン溶液およびエオシン溶液の中に組織試料を浸漬することによって組織ブロック全体を色付けする方法を開示する。さらに、固定は、固定されていない組織試料を固定剤溶液の体積の中に浸漬することによってしばしば実行され、固定剤溶液は、組織試料の中に拡散することが許可される。Chafinら(PLoS ONE 8(1):e54138.doi:10.1371/journal.pone. 0054138(2013年))によって示されるように、固定剤が組織の中に十分に拡散したことを確実にすることができないことは、組織試料の完全性を損ない得る。したがって、一実施形態では、本システムおよび方法は、組織試料の中への固定剤の十分な拡散時間を決定するために適用される。そのような方法では、ユーザは、組織試料内の特定の点(組織試料の厚さの中心など)で実現される最小固定剤濃度を選択する。少なくとも組織の厚さ、組織の幾何学的形状、および計算された真の拡散率を知っていれば、組織試料の中心での最小(周囲流体に対して)相対固定剤濃度に到達するための最小時間を決定することができる。したがって、固定剤は、少なくとも最小時間の間に組織試料の中に拡散させることが可能にされる。しかしながら、これをリアルタイムモニタリングに使用することができる方法に拡張するために、本明細書中に開示された組織試料多孔率の決定は、試料の完全性を確実にすることを実現するのに必要な実際の固定剤濃度の決定を可能にする。したがって、本明細書中に開示されたシステムおよび方法に基づいて、放射標識されたトレース、中赤外評価、およびMRIなどの他の技法が、固定剤などの特定の試薬を用いる特定の処理に適切な時間を決定するために使用されてもよい。
【0148】
[0200]いくつかの実施形態では、本明細書中に開示されたシステムおよび方法は、組織試料に対して2つの温度浸漬固定法に関連して使用される。本明細書中に使用されるとき、「2温度固定法」は、第1の期間の間に低温固定剤溶液中に組織がまず浸漬され、続いて第2の期間の間に組織を加熱する固定法である。低温ステップは、架橋結合を実質的に引き起こすことなく、固定剤溶液が組織全体を通じて拡散することを可能にする。次いで、組織が組織全体にわたって十分に拡散されると、加熱ステップは、固定剤によって架橋結合をもたらす。低温拡散、それに続く加熱ステップの組み合わせは、標準的な方法を用いるよりもより完全に固定される組織試料をもたらす。したがって、1つの実施形態では、組織試料は、(1)低温固定剤溶液中に固定されていない組織試料を浸漬するとともに、本明細書中に開示されたようなシステムおよび方法を用いて組織試料におけるTOFをモニタすることによって組織試料の中への固定剤の拡散をモニタする(拡散ステップ)、および(2)閾値TOFが測定された後に、組織試料の温度が上昇することを可能にする(固定ステップ)ことによって固定される。例示的な各実施形態では、拡散ステップは、20℃未満、15℃未満、12℃未満、10℃未満、約0℃から約10℃の範囲内、約0℃から約12℃の範囲内、約0℃から約15℃の範囲内、約2℃から約10℃の範囲内、約2℃から約12℃の範囲内、約2℃から約15℃の範囲内、約5℃から約10℃の範囲内、約5℃から約12℃の範囲内、約5℃から1約5℃の範囲内である固定剤溶液中で実行される。例示的な各実施形態では、組織試料を囲む環境は、固定ステップ中に約20℃から約55℃の範囲内で上昇することが許容される。いくつかの実施形態では、固定剤は、グルタルアルデヒドおよび/またはホルマリン基の溶液などのアルデヒド基の架橋結合固定剤である。浸漬固定にしばしば使用されるアルデヒドの例は、以下に挙げるものである。
【0149】
[0201]ホルムアルデヒド(ほとんどの組織について、標準作用濃度5~10%ホルマリンであるが、いくつかの組織には20%ホルマリンと同程度高さの濃度が使用されている)
[0202]グリオキサール(標準作用濃度17から86mM)
[0203]グルタルアルデヒド(標準作用濃度200mM)
[0204]アルデヒドは、しばしば互いに組み合わされて使用される。標準的なアルデヒドの組み合わせは、10%ホルマリン+1%(w/v)グルタルアルデヒドを含む。典型的なアルデヒドがある特殊化された固定応用に使用されており、フマルアルデヒド、12.5%ヒドロキシアジポアルデヒド(pH7.5)、10%クロトンアルデヒド(pH7.4)、5%ピルビンアルデヒド(pH5.5)、10%アセトアルデヒド(pH7.5)、10%アクロレイン(pH7.6)、および5%メタアクロレイン(pH7.6)を含む。免疫組織化学に使用されるアルデヒド基固定剤溶液の他の特定の例は、表1に記載されている。
【0150】
【表1】
【0151】
[0205]いくつかの実施形態では、固定剤溶液は、表1から選択される。いくつかの実施形態では、使用されるアルデヒド濃度は、上述した標準的な濃度よりも高い。例えば、ほぼ同様の組成を有する免疫組織化学のために選択された組織を固定するために使用される標準的な濃度より少なくとも1.25倍も高いアルデヒド濃度を有する高濃度アルデヒド基固定剤溶液が使用される。いくつかの例では、高濃度アルデヒド基の固定剤溶液は、20%より多いホルマリン、約25%以上のホルマリン、約27.5%以上のホルマリン、約30%以上のホルマリン、約25%から約50%ホルマリン、約27.5%から約50%ホルマリン、30%から約50%ホルマリン、約25%から約40%ホルマリン、約27.5%から約40%ホルマリン、および約30%から約40%ホルマリンから選択される。この文脈で使用されるとき、用語「約」は、Bauerら、Dynamic Subnanosecond Time-of-Flight Detection for Ultra-precise Diffusion Monitoring and Optimization of Biomarker Preservation(生物指標化合物保存の超精密拡散モニタリングおよび最適化のための動的サブナノ秒飛行時間検出)、Proceedings of SPIE,Vol.9040,90400B-1(2014年3月20日)によって測定されるように、4℃における拡散において統計的にかなり大きい差とならない濃度を包含するものとする。
【0152】
[0206]2温度固定プロセスは、例えばリン酸化たんぱく質、DNA、および(miRNAおよびmRNAなどの)RNA分子が含まれる組織試料中のある種の不安定生物指標化合物を検出する方法に特に役立つ。PCT/EP2012/052800(参照により本明細書中に組み込まれる)を参照されたい。いくつかの実施形態では、これらの方法を用いて得られる固定された組織試料は、そのような不安定標識の存在について分析を受けることができる。したがって、1つの実施形態では、試料中の不安定標識を検出する方法が提供され、方法は、本明細書中に開示されたように2温度固定に従って組織を固定し、固定した組織試料をFOXP3などの不安定標識に特に結合することができる分析物結合実体に接触させることを含む。分析物結合実体の例は、標的抗原に結合する抗体および抗体フラグメント(一本鎖抗体を含む)、MHC:抗原複合体に結合するT細胞受容体(単一鎖受容体を含む)、(特定のT細胞受容体に結合する)MHC:ペプチドマルチマー、特定の核酸またはペプチドターゲットに結合するアプタマー、特定の核酸、ペプチド、および他の分子に結合するジンクフィンガー、受容体リガンドに結合する(単一の鎖受容体およびキメラ受容体を含む)受容体複合体、受容体複合体に結合する受容体リガンド、および特定の核酸に混成させる核酸プローブを含む。例えば、組織試料中のリン酸化たんぱく質を検出する免疫組織化学的方法が提供され、この方法は、前述の2温度固定法に従って得られた固定された組織をリン酸化たんぱく質に特有の抗体と接触させ、リン酸化たんぱく質への抗体の結合を検出することを含む。他の実施形態では、核酸分子を検出するin situ混成法が提供され、方法は、前述の2温度固定法に従って得られた固定された組織を関心の核酸に特有の核酸プローブと接触させ、関心の核酸へのプローブの結合を検出することを含む。
【0153】
[0207]本主題の開示の例示的な各実施形態の前述の開示は、例示および記述のために示された。網羅的であることまたは開示された精密な形態に本主題の開示を限定することは意図されていない。本明細書中に記載された実施形態の多くの変形形態および修正形態は、上記の開示の観点で当業者に明らかであろう。本主題の開示の範囲は、本明細書に添付された特許請求の範囲によっておよびその均等物によってのみ定められるものである。
【0154】
[0208]さらに、本主題の開示の説明している代表的な実施形態では、本明細書は、本主題の開示の方法および/またはプロセスを特定の一連のステップとして示すことができる。しかしながら、方法またはプロセスが本明細書中に記載されたステップの特定の順序に頼らない限りにおいては、方法またはプロセスに記載されたステップの特定の順番に限定されるべきではない。当業者は、他の順番のステップも可能であり得ることを理解されよう。したがって、本明細書中に記載されたステップの特定の順序は、特許請求の範囲の限定とみなされるべきではない。加えて、本主題の開示の方法および/またはプロセスに向けられた特許請求の範囲は、記載された順序のステップの実施に限定されるべきではなく、当業者は、順番は変更されてもよく、本主題の開示の精神および範囲内のままであり得ることを容易に理解できよう。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
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図35A
図35B