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特許7228521メタクリル酸メチルの酸官能化コポリマー及びこれをベースとするアクリル樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】メタクリル酸メチルの酸官能化コポリマー及びこれをベースとするアクリル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20230216BHJP
   C08F 220/14 20060101ALI20230216BHJP
   C08K 3/014 20180101ALI20230216BHJP
【FI】
C08L33/12
C08F220/14
C08K3/014
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019544926
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 US2018018842
(87)【国際公開番号】W WO2018152541
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】62/461,009
(32)【優先日】2017-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515167791
【氏名又は名称】トリンセオ ユーロップ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジアシン・ジェイ・ゲ
(72)【発明者】
【氏名】ノーア・イー・メイシー
(72)【発明者】
【氏名】フロランス・メルマン
(72)【発明者】
【氏名】エステル・ムーリス・ピエラ
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-512416(JP,A)
【文献】特表2014-513324(JP,A)
【文献】特表2014-506683(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084541(WO,A1)
【文献】特開2010-001344(JP,A)
【文献】特開2009-128638(JP,A)
【文献】特開2011-026563(JP,A)
【文献】特開2004-224813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00 - 33/26
C08F 220/00 - 220/70
C08K 3/00 - 3/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂組成物であって、
メタクリル酸メチルとメタクリル酸と随意としての1種以上の追加のコモノマーとのコポリマーであって、少なくとも60000g/モルの重量平均分子量及び少なくとも115℃のガラス転移温度を有する第1コポリマーと、
メタクリル酸メチルと1種以上のアクリル酸C1~C4アルキルエステルとのコポリマーより成る群から選択される少なくとも1種の追加ポリマーと
を含み、
前記少なくとも1種の追加ポリマーが少なくとも100000g/モルの重量平均分子量を有し、
メタクリル酸メチルが前記第1コポリマーの80~99重量%を占める、
アクリル樹脂組成物。
【請求項2】
少なくとも80000g/モルの重量平均分子量を有する、請求項1に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項3】
少なくとも100000g/モルの重量平均分子量を有する、請求項1に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項4】
少なくとも120℃のガラス転移温度を有する、請求項1~3のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項5】
少なくとも130℃のガラス転移温度を有する、請求項1~4のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項6】
589nmの波長において1.45~1.53の屈折率を有する、請求項1~5のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項7】
前記1種以上の追加のコモノマーがアクリル酸エチル、アクリル酸メチル、スチレン、α-メチルスチレン、環状及び脂肪族不飽和酸無水物、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチル、ビニルエステル類、ネオデカン酸ビニル、ネオノナン酸ビニル及びそれらの組合せより成る群から選択される、請求項1~6のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項8】
前記第1コポリマーは、メタクリル酸メチル/メタクリル酸コポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸エチルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸メチルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸イソボルニルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/スチレンコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/スチレン/無水マレイン酸コポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/無水マレイン酸/α-メチルスチレンコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸エチル/メタクリル酸ベンジルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸ベンジル/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸ベンジル/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸エチル/メタクリル酸t-ブチルコポリマー及びそれらの組合せより成る群から選択される、請求項1~7のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項9】
メタクリル酸が前記第1コポリマーの1~7重量%を構成する、請求項1~8のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項10】
前記第1コポリマーは、メタクリル酸メチル80~99重量%、メタクリル酸1~7重量%及び残部の1種以上の追加のコモノマーから成る、請求項1に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項11】
前記第1コポリマーは、厚さ3.2mmのプラーク上でASTM法D1003によって測定した時に少なくとも88%の光線透過率及び10%未満の曇り度を有する、請求項1~10のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項12】
前記第1コポリマーは、3.8kg下で230℃において0.3~2.5g/10分のメルトフローレートを有する、請求項1~11のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項13】
少なくとも1種の酸化防止剤、少なくとも1種のUV安定剤及び/又は少なくとも1種の強化剤とを含む、請求項1~12のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項14】
前記酸化防止剤がホスファイト酸化防止剤、ホスフェート酸化防止剤、ホスホネート酸化防止剤、ホスフィン酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、トリアジントリオン酸化防止剤及びそれらの組合せより成る群から選択される、請求項13に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項15】
前記UV安定剤がベンゾフェノンUV安定剤、ベンゾトリアゾールUV安定剤、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾールUV安定剤、ヒドロキシフェニルトリアジンUV安定剤、ベンゾオキサジノンUV安定剤及びそれらの組合せより成る群から選択される、請求項13又は14に記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項16】
前記強化剤がブロックコポリマー強化剤及びコア-シェル強化剤より成る群から選択される、請求項13~15のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項17】
前記少なくとも1種の追加ポリマーがメタクリル酸メチルとアクリル酸エチル又はアクリル酸メチルから選択される少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーである、請求項1~16のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項18】
アクリル樹脂がコポリマーと追加ポリマーとの合計重量を基準として25重量%~99.9重量%のコポリマーと0.1重量%~75重量%の追加ポリマーとから構成される、請求項1~17のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項19】
前記少なくとも1種の追加ポリマーが少なくとも120000g/モルの重量平均分子量を有する、請求項1~18のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項20】
酸無水物環を含む、請求項1~19のいずれかに記載のアクリル樹脂組成物。
【請求項21】
13C-NMRによって測定して0.5~2重量%の酸無水物環を含有する、請求項20に記載のアクリル樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性、高い透明性、低い曇り度、調節可能な光学位相差、高い環境安定性及び/又は低い吸湿性を含む望ましい特性の組合せを有する、メタクリル酸メチルの高分子量酸官能化コポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、I2着色PVA(ポリビニルアルコール)吸収偏光子を含有させた積層体には、トリアセテートセルロース(TAC)フィルムが用いられてきた。しかしながら、高温多湿条件(例えば85℃、相対湿度85%)下で必要とされる要件又はより薄い光学偏光子についての要件に適合した光学偏光子含有TAC/PVA-I2/TAC積層フィルムを製造するのは困難であった。さらに、TACフィルムは、厚さ方向及びオフアングル方向に沿って高い固有の有効な負の光学位相差を有しており、このことは、このようなフィルムを、面内スイッチング(IPS)及び/又はフィールドフリンジスイッチング(FFS)液晶ディスプレイ(LCD)用途には適さないものにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、調節可能な複屈折率/光学位相差特性を有する改良型フィルムの製造に用いることができる材料に対する要望が存在する。かかるフィルムは、有機発光ダイオード(OLED)、FFS及びIPS式LCD装置(例えばLED照明ユニットを有するスマートフォン、タブレット、ノートブック型器及びLCDテレビ)用の光学偏光子において、光学保護フィルム、ゼロ-ゼロ位相差フィルム及び光学補償フィルムとして用いることができる。さらに、LED照明パイプ、光ガイドパネル、光学イメージングレンズ及びその他のタイプの製品には、関連アクリル材料を用いることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、高いガラス転移温度(例えば約115~145℃のTg)及び十分に高い分子量(MW)を有していて、光学フィルム、長い光路長の照明パイプ、薄い光ガイド、光学イメージングレンズ等の光学等級物品を製造するのに有用なものにされた酸官能性アクリルコポリマー(ターポリマー及びテトラポリマーを含む)を提供する。高Tgのアクリル材料は、高い耐熱性、高い光線透過率、低い曇り度、より一層低い吸湿性、優れた寸法安定性及び優れた機械的特性といった要件の内の1つ以上を、随意に優れた耐UV性と共に、満たすように設計することができる。かかるアクリルコポリマーは、589nmの波長において1.45~1.53の屈折率を有することができる。該アクリルコポリマーは、塊状重合、溶融重合、乳化重合、溶液重合及びさらには懸濁重合のような方法を用いて合成することができる。該アクリルコポリマーの重量平均分子量は、60000g/モル超、好ましくは80000g/モル超、より一層ましくは90000g/モル超、さらにより一層好ましくは100000g/モル超である。該アクリルコポリマーのTg値は、115℃超、好ましくは120℃超、より一層好ましくは130℃超である。さらに、前記アクリルコポリマーに所定の酸化防止剤を組み合わせることによって、高温(例えば250~280℃)条件に付した時にアクリルコポリマーが有意の黄変や泡立ちを示さないような改善された熱安定性を有するアクリル樹脂組成物を提供することができる。最終樹脂配合物中の酸化防止剤の装填量は、0.01~4重量%の範囲にすることができる。UV安定剤を0.1重量%~5重量%の装填レベルで用いることによって、光学性能を有意に損なうことなくアクリルコポリマーの耐UV性をさらに改善することができる。また、コア-シェル強化剤及び/又はブロックコポリマー強化剤のような強化剤(強靱化剤)を高Tgアクリルコポリマーにブレンドすることによって、改善された機械的強靱性を有するアクリル樹脂組成物を提供することもできる。本発明のアクリルコポリマー及びアクリル樹脂組成物から調製された厚さ3.2mmのプラークは、(ASTM法D1003に従って測定して)89%超(好ましくは91%超)の光線透過率値を有すること及び/又は10%未満(好ましくは2%未満)の光学曇り度値を示すことができる。
【0005】
本発明の様々な非限定的局面を、以下のようにまとめることができる。
【0006】
局面1:メタクリル酸メチルとメタクリル酸と随意としての1種以上の追加のコモノマーとのコポリマーであって、少なくとも60000g/モルの重量平均分子量及び少なくとも115℃のガラス転移温度を有する前記コポリマー。
【0007】
局面2:少なくとも80000g/モルの重量平均分子量を有する、局面1のコポリマー。
【0008】
局面3:少なくとも90000g/モルの重量平均分子量を有する、局面1のコポリマー。
【0009】
局面4:少なくとも100000g/モルの重量平均分子量を有する、局面1のコポリマー。
【0010】
局面5:少なくとも120℃のガラス転移温度を有する、局面1~4のいずれかのコポリマー。
【0011】
局面6:少なくとも130℃のガラス転移温度を有する、局面1~5のいずれかのコポリマー。
【0012】
局面7:589nmの波長において1.45~1.53の屈折率を有する、局面1~6のいずれかのコポリマー。
【0013】
局面8:前記の1種以上の追加のコモノマーがアクリル酸エチル、アクリル酸メチル、スチレン、α-メチルスチレン、環状及び脂肪族不飽和酸無水物、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチル並びにそれらの組合せより成る群から選択される、局面1~7のいずれかのコポリマー。
【0014】
局面9:メタクリル酸メチル/メタクリル酸コポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸エチルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸メチルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸イソボルニルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/スチレンコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/スチレン/無水マレイン酸コポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/無水マレイン酸/α-メチルスチレンコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルコポリマー/メタクリル酸イソボルニルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸イソボルニル/メタクリル酸ベンジルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸ベンジル/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル/メタクリル酸t-ブチルコポリマー及びそれらの組合せより成る群から選択される、局面1~8のいずれかのコポリマー。
【0015】
局面10:メタクリル酸がコポリマーの約1~約7重量%を構成する、局面1~9のいずれかのコポリマー。
【0016】
局面11:メタクリル酸メチルがコポリマーの約70~約99重量%を構成する、局面1~10のいずれかのコポリマー。
【0017】
局面12:メタクリル酸メチル約79~約99重量%、メタクリル酸約1~約7重量%及び1種以上の追加のコモノマー0~約20重量%から成る、局面1~10のいずれかのコポリマー。
【0018】
局面13:厚さ3.2mmのプラーク上でASTM法D1003によって測定した時に少なくとも約88%の光線透過率及び10%未満の曇り度を有する、局面1~12のいずれかのコポリマー。
【0019】
局面14:厚さ3.2mmのプラーク上でASTM法D1003によって測定した時に少なくとも約90%の光線透過率及び5%未満の曇り度を有する、局面1~12のいずれかのコポリマー。
【0020】
局面15:3.8kg下で230℃において約0.3~約2.5g/10分のメルトフローレートを有する、局面1~14のいずれかのコポリマー。
【0021】
局面16:局面1~15のいずれかに従う少なくとも1種のコポリマーと少なくとも1種の酸化防止剤とを含むアクリル樹脂組成物。
【0022】
局面17:局面1~16のいずれかに従う少なくとも1種のコポリマーと、ホスファイト酸化防止剤、ホスフェート酸化防止剤、ホスホネート酸化防止剤、ホスフィン酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、トリアジントリオン酸化防止剤及びそれらの組合せより成る群から選択される少なくとも1種の酸化防止剤とを含むアクリル樹脂組成物。
【0023】
局面18:局面1~17のいずれかに従う少なくとも1種のコポリマーと少なくとも1種のUV安定剤とを含むアクリル樹脂組成物。
【0024】
局面19:局面1~18のいずれかに従う少なくとも1種のコポリマーと、ベンゾフェノンUV安定剤、ベンゾトリアゾールUV安定剤、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾールUV安定剤、ヒドロキシフェニルトリアジンUV安定剤、ベンゾオキサジノンUV安定剤及びそれらの組合せより成る群から選択される少なくとも1種のUV安定剤とを含むアクリル樹脂組成物。
【0025】
局面20:局面1~19のいずれかに従う少なくとも1種のコポリマーと少なくとも1種の強化剤とを含むアクリル樹脂組成物。
【0026】
局面21:前記少なくとも1種の強化剤がブロックコポリマー強化剤(特に、ポリアクリレートソフトブロックと1又は2つのポリメチルメタクリレート及び/又はポリスチレンハードブロックとを含有する2ブロック及び3ブロックコポリマーより成る群から選択されるブロックコポリマー強化剤)並びにコア-シェル強化剤より成る群から選択される少なくとも1種の強化剤を含む、局面20に従うアクリル樹脂組成物。
【0027】
局面22:局面1~21のいずれかに従う少なくとも1種のコポリマー、及びメタクリル酸メチルと1種以上のアクリル酸C1~C4アルキルエステルとのコポリマーより成る群から選択される少なくとも1種の追加ポリマーを含む、アクリル樹脂組成物。
【0028】
局面23:前記少なくとも1種の追加ポリマーがメタクリル酸メチルとアクリル酸エチル又はアクリル酸メチルから選択される少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーである、局面22のアクリル樹脂組成物。
【0029】
局面24:アクリル樹脂がコポリマー及び追加ポリマーの総重量を基準として約25重量%~約99.9重量%のコポリマー及び0.1重量%~約75重量%の追加ポリマーから構成される、局面22又は23のアクリル樹脂組成物。
【0030】
局面25:前記少なくとも1種の追加ポリマーが少なくとも100000g/モルの重量平均分子量を有する、局面22~24のいずれかのアクリル樹脂組成物。
【0031】
局面26:前記少なくとも1種の追加ポリマーが少なくとも120000g/モルの重量平均分子量を有する、局面22~24のいずれかのアクリル樹脂組成物。
【0032】
局面27:局面1~26のいずれかに従う少なくとも1種のコポリマーを含み、酸無水物環構造が存在する、アクリル樹脂組成物。
【0033】
局面28:13C-NMRによって測定して0.5~2重量%の酸無水物環構造を含有する、局面27のアクリル樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の酸官能化アクリルコポリマー(即ち酸官能化されたアクリルコポリマー)は、少なくとも約115℃のTg(別の実施形態においては少なくとも115℃、少なくとも120℃、少なくとも125℃又は少なくとも130℃のTg;ある実施形態において、アクリル樹脂組成物のTgは140℃以下又は135℃以下である)及び少なくとも約60000g/モルの重量平均分子量(別の実施形態においては少なくとも60000g/モル、少なくとも70000g/モル、少なくとも80000g/モル、少なくとも90000g/モル、少なくとも95000g/モル又は少なくとも100000g/モルの重量平均分子量)を有するアクリル樹脂組成物を調製するのに有用である。別の実施形態において、アクリル樹脂組成物は、250000g/モル以下又は200000g/モル以下の重量平均分子量を有する。かかるアクリル樹脂組成物は、a)メタクリル酸メチルとメタクリル酸と随意としての1種以上の追加のコモノマーとの少なくとも1種のコポリマー(以下、「メタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマー」又は「酸官能化アクリルコポリマー」と称する)、及び随意としてのb)メタクリル酸メチルと1種以上のアクリル酸C1~C4アルキルエステルとのコポリマーより成る群から選択される1種以上の追加ポリマー(以下、「随意としての追加ポリマー」と称する)から構成されることができる。この酸官能化アクリルコポリマーを用いて調製されるアクリル樹脂組成物は、少なくとも約88%又は少なくとも約90%の光線透過率及び約10%未満又は約5%未満の曇り度(ASTM法D1003に従って3.2mmの厚さを有するアクリル樹脂組成物のプラークについて測定)を有することができ、光学フィルム、光ガイド等の製造に特に好適である。前記アクリル樹脂組成物は、少なくとも1種の酸化防止剤、例えばホスファイト酸化防止剤、ホスフェート酸化防止剤、ホスホネート酸化防止剤、ホスフィン酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、トリアジントリオン酸化防止剤及びそれらの組合せより成る群から選択される酸化防止剤を追加的に含むことができる。
【0035】
分析試験方法
【0036】
本発明に従うコポリマー及びアクリル樹脂組成物のパラメーター及び特徴、例えばガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量、光線透過率%及び曇り度%を測定するために用いられる試験方法は、実施例に記載する。
【0037】
メタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマー(酸官能化アクリルコポリマー)
【0038】
上で述べたように、本発明の1つの局面は、メタクリル酸メチルとメタクリル酸と随意としての1種以上の追加のコモノマーとの少なくとも1種のコポリマー(以下、「メタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマー」又は「酸官能化アクリルコポリマー」と称する)を提供することである。本発明の好ましい実施形態において、前記のメタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマーは、ランダムコポリマー(統計コポリマー)である。別の好ましい実施形態において、前記のメタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマーは、直鎖状コポリマー(非分岐鎖状コポリマー)である。
【0039】
前記のメタクリル酸メチルとメタクリル酸との少なくとも1種のコポリマーは、例えば、メタクリル酸メチル/メタクリル酸コポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸エチルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸メチルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸イソボルニルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/スチレンコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/スチレン/無水マレイン酸コポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/無水マレイン酸/α-メチルスチレンコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸エチル/メタクリル酸ベンジルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸ベンジル/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルコポリマー/メタクリル酸イソボルニルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸ベンジル/メタクリル酸イソボルニルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/α-メチルスチレン/アクリル酸n-ブチルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/スチレン/α-メチルスチレンコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル/メタクリル酸ベンジルコポリマー、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/メタクリル酸イソボルニル/メタクリル酸t-ブチルコポリマー及びそれらの組合せより成る群から有利に選択することができる。
【0040】
メタクリル酸(即ちメタクリル酸の重合の結果として得られる繰返し単位)は、ある実施形態において、前記コポリマーの少なくとも約0.5重量%且つ/又は前記コポリマーの約10重量%以下、例えば前記コポリマーの約1~約7重量%を占めることができる。別の実施形態に従えば、メタクリル酸メチル(即ち、メタクリル酸メチルの重合の結果として得られる繰返し単位)は、前記コポリマーの少なくとも約50重量%且つ/又は約99.5重量%以下、例えば約80~約99重量%を占めることができる。前記コポリマーは、本発明の様々な実施形態において、メタクリル酸メチル約79~約99重量%、メタクリル酸約1~約7重量%及び1種以上の追加のコモノマー0~約20重量%から成ることができる。
【0041】
前記コポリマーを製造するために用いられる随意としての追加のコモノマー(群)は、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸と共重合することができる任意のコモノマー(群)であることができるが、好ましい実施形態においては、ビニル芳香族モノマー及び/又は(メタ)アクリレートモノマーであり、その非限定的な例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、スチレン、環状及び脂肪族不飽和酸無水物(例えば無水マレイン酸)、α-メチルスチレン、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ベンジル並びにそれらの組合せがある。また、アクリル酸及びその他のα,β-不飽和カルボン酸モノマーを用いることもできる。その他の有用なコモノマーには、ビニルエステル、例えばネオデカン酸ビニル及びネオノナン酸ビニルがある。一般的に言えば、追加のコモノマーとして、重合可能な基(例えば炭素-炭素二重結合)を1分子当たり1個だけ含有するものを用いるのが望ましい。
【0042】
本発明に従う酸官能化アクリルコポリマーの特定的な実例には、以下のコポリマーが包含される:
【0043】
メタクリル酸メチル(92~98.5重量%)とメタクリル酸(1.5~8重量%)とから成るコポリマー。
【0044】
メタクリル酸メチル(70~80重量%)とメタクリル酸(1~3重量%)とα-メチルスチレン(20~25重量%)とアクリル酸n-ブチル(0.5~2重量%)とから成るコポリマー。
【0045】
メタクリル酸メチル(94~98重量%、例えば96重量%)とメタクリル酸(1.0~4.5重量%、例えば3重量%)とメタクリル酸ベンジル(0.5~4重量%、例えば1重量%)とから成るコポリマー。
【0046】
メタクリル酸メチル(84~94重量%)とメタクリル酸(2~6重量%)とスチレン(2~10重量%)とから成るコポリマー。
【0047】
メタクリル酸メチル(92~96重量%、例えば94重量%)とメタクリル酸(2~4重量%、例えば3重量%)とスチレン(1~3重量%)と随意としてのα-メチルスチレン(0~2重量%)とから成るコポリマー。
【0048】
メタクリル酸メチル(92~96重量%、例えば94重量%)とメタクリル酸(2~4重量%、例えば3重量%)と随意としてのアクリル酸エチル(0~1重量%)と随意としてのメタクリル酸イソボルニル(0~5重量%)とから成るコポリマー。
【0049】
メタクリル酸メチル(92~96重量%、例えば94%)、メタクリル酸(1~4重量%、例えば3重量%)と随意としてのアクリル酸エチル(0~1重量%)と随意としてのメタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル(0~5重量%)とから成るコポリマー。
【0050】
メタクリル酸メチル(92~96重量%、例えば94重量%)とメタクリル酸(1~4重量%、例えば3重量%)と随意としてのアクリル酸エチル(0~1重量%)と随意としてのメタクリル酸t-ブチル(0~5重量%)とから成るコポリマー。
【0051】
前記の酸官能化アクリルコポリマーは、アクリル及び他のエチレン性不飽和モノマーの共重合のためのポリマー技術分野において周知の任意の技術(例えば塊状重合、溶融重合、乳化重合、溶液重合及び懸濁重合等)を適合させることによって調製することができる。例えば、塊状共重合においては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸、及びその他の目的酸官能化アクリルコポリマーの一部として組み込まれることが望まれる任意のコモノマーを含有するモノマー混合物を好適な重合容器中に装填し、好適な開始剤又は開始剤の組み合わせ、例えばフリーラジカル開始剤(例えばペルオキシド化合物)を用いて重合を開始させることができる。追加的に1種以上の連鎖移動剤、例えばメルカプタン及び/又はジスルフィドを存在させてもよい。次いで所望の転化度を達成するのに有効な時間及び温度に重合反応混合物を加熱し、未反応モノマーがあれば次いで揮発等の任意の好適な手段によってコポリマー生成物から除去する。
【0052】
得られたコポリマーを押出等の任意の好適な方法を用いて1種以上の他の成分[例えば追加ポリマー、強化剤(例えばブロックコポリマー強化剤、コア-シェル強化剤)、UV安定剤及び/又は酸化防止剤]と配合することによって、アクリル樹脂組成物が得られる。
【0053】
アクリル樹脂組成物
【0054】
上記のメタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマーを含有するアクリル樹脂組成物は、本発明の別の局面を構成する。かかるアクリル樹脂組成物は、前記の1種以上のメタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマーに加えて、追加ポリマー、酸化防止剤、強化剤(例えばブロックコポリマー及びコア-シェル強化剤)並びに/又はUV安定剤のタイプの1種以上の追加の成分を含むことができる。
【0055】
随意としての追加ポリマー(群)
【0056】
上で述べたように、本発明のある実施形態においては、前記酸官能化アクリルコポリマーに加えて、少なくとも1種の追加ポリマーを前記アクリル樹脂組成物中に存在させる。この追加ポリマーは、メタクリル酸メチルと1種以上のアクリル酸C1~C4アルキルエステルとのコポリマーより成る群から選択することができる。この追加ポリマーは、メタクリル酸を含有しないという点で、前記のメタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマーとは相違する。従って、前記追加ポリマーは、メタクリル酸メチル及び1種以上のアクリル酸C1~C4アルキルエステル(C1~C4アルキルアクリレート)の重合した単位から(本質的に)成ることができる。本発明の好ましい実施形態において、前記追加ポリマーは、ランダムコポリマー(統計コポリマー)である。別の好ましい実施形態において、前記追加ポリマーは、直鎖状コポリマー(非分岐鎖状コポリマー)である。
【0057】
例えば、前記少なくとも1種の追加ポリマーは、メタクリル酸メチルとアクリル酸エチル又はアクリル酸メチルから選択される少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーであることができる。
【0058】
本発明の好ましい実施形態において、前記少なくとも1種の追加ポリマーは、少なくとも100000g/モル、少なくとも110000g/モル、少なくとも120000g/モル又は少なくとも130000g/モルの重量平均分子量を有することができる。ある実施形態において、前記少なくとも1種の追加ポリマーの重量平均分子量は、250000g/モル以下又は200000g/モル以下である。
【0059】
前記追加ポリマーは、当技術分野において周知の任意の重合方法、例えば溶融重合、溶液重合、乳化重合及びさらには懸濁重合によって、得ることができる。
【0060】
前記追加ポリマーは、本発明のアクリル樹脂組成物における必須成分ではない。従って、本発明のある実施形態において、アクリル樹脂組成物は、a)及びb)の合計重量を基準としてメタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマー約25重量%~100重量%及び前記追加ポリマー0%~約75重量%から構成される。
【0061】
前記アクリル樹脂組成物中に用いられるポリマー(群)は、好ましい実施形態においては、10kg下で240℃において約3~約25g/10分のメルトフローレートを有するアクリル樹脂組成物を提供するように選択される。
【0062】
本発明のある実施形態においては、前記アクリル樹脂組成物中に酸無水物環構造を存在させる。例えば、前記アクリル樹脂組成物は、13C-NMRによって測定して0.5~2重量%の酸無水物環構造を含有していてよい。かかる酸無水物環構造は、重合の際に1種以上の酸無水物含有コモノマー(特に無水マレイン酸のような炭素-炭素二重結合を含有する酸無水物官能化モノマー)を使用することによって、前記のメタクリル酸メチルとメタクリル酸とのコポリマー又は前記追加ポリマーの内の一方又は両方に、組み込むことができる。酸無水物環構造はまた、グラフトによる後重合や当技術分野において周知のその他のポリマー誘導体化方法において組み込むこともできる。
【0063】
酸化防止剤
【0064】
前記アクリル樹脂組成物は、1種以上の酸化防止剤を含有していてよい。1つの実施形態において、アクリル樹脂組成物のポリマー成分の重量平均分子量が90000g/モル未満である場合、アクリル樹脂組成物中に少なくとも1種の酸化防止剤を存在させる。好適な酸化防止剤には、ホスファイト酸化防止剤、ホスフェート酸化防止剤、ホスホネート酸化防止剤、ホスフィン酸化防止剤、フェノール系酸化防止(特に、立体障害フェノール系酸化防止剤)、トリアジントリオン酸化防止剤及びそれらの組合せより成る群から選択される酸化防止剤がある。
【0065】
好適な立体障害フェノール系酸化防止剤の例には、以下のものがある(が、これらに限定されるわけではない):ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(BASF社よりIrganox(登録商標)1010の製品名で販売)、3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル(BASF社よりIrganox(登録商標)1076の製品名で販売)及びトリエチレングリコールビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート(BASF社よりIrganox(登録商標)245の製品名で販売)。好適なホスファイト酸化防止剤の例には、以下のものがある(が、これらに限定されるわけではない):ペンタエリトリトールジホスファイト、例えば米国特許第5364895号明細書及び同第5438086号明細書(それらそれぞれの開示は、言及することによってすべての目的のためにそっくりそのままここに取り入れられる)に記載されたもの、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノール)ペンタエリトリトールジホスファイト(BASF社よりIrgafos(登録商標)126の製品名で販売)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル) ホスファイト(BASF社よりIrgafos(登録商標)168の製品名で販売)及びビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリトリトールジホスフェート(Dover Chemical社よりDoverPhos(登録商標)S-9228の製品名で販売)。
【0066】
本発明の様々な実施形態において、前記アクリル樹脂組成物は、酸化防止剤を合計で約150ppm~約4500ppm又は約0.015~0.45重量%含む。
【0067】
その他の添加剤
【0068】
前記アクリル樹脂組成物は、上に挙げた様々な成分に加えて、随意に1種以上の添加剤を含むことができる。好適なタイプの追加の随意としての添加剤には、以下のものが含まれる(が、これらに限定されるわけではない):フィラー、着色剤、顔料、潤滑剤、加工助剤、強化剤、帯電防止剤。但し、かかる添加剤は、所望の透明性、清澄性及び耐熱性特徴を有するアクリル樹脂組成物を得る能力を妨害することのない量で存在させるものとする。
【0069】
1つの実施形態において、前記アクリル樹脂組成物は追加的に少なくとも1種のUV安定剤を含む。好適なUV安定剤は、例えば、ベンゾフェノンUV安定剤、ベンゾトリアゾールUV安定剤、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾールUV安定剤、ヒドロキシフェニルトリアジンUV安定剤、ベンゾオキサジノンUV安定剤及びそれらの組合せより成る群から選択することができる。好適なUV安定剤の特定的な例には、以下のものが含まれる(が、これらに限定されるわけではない):2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社よりTinuvin(登録商標)234の製品名で販売)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノール(BASF社よりTinuvin(登録商標)1577の製品名で販売)及び2,2’-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル))フェノール(BASF社よりTinuvin(登録商標)360の製品名で販売)、並びにそれらの組合せ。ある実施形態において、前記アクリル樹脂組成物は、UV安定剤を合計で約0.1重量%~約5重量%含む。
【0070】
別の実施形態において、前記アクリル樹脂組成物は追加的に少なくとも1種の強化剤(耐衝撃性改良剤とも称される)を含む。強化剤の選択には制限はなく、ブロックコポリマー及びコア-シェル強化剤が含まれ得る。好適なブロックコポリマー強化剤には、例えばポリアクリレートソフトブロックと1個又は2個のポリメチルメタクリレート及び/又はポリスチレンハードブロックとを含有する2ブロック及び3ブロックコポリマーより成る群から選択されるブロックコポリマーがある。一般的に、かかるブロックコポリマーは、約20~約40重量%のポリ(ブチルアクリレート)ブロックを含むことができる。本発明において用いるのに好適なブロックコポリマー強化剤は、例えばArkema社から「Nanostrength」の商品名で入手可能である。
【0071】
当技術分野において周知の任意の様々なタイプのコア-シェル強化剤を用いることができる。前記コア-シェル強化剤は、エラストマーのコアと少なくとも1種の熱可塑性シェルとを有する微粒子の形にあることができ、その粒子寸法は一般的に1μm未満、有利には50~500nmの範囲、好ましくは100nm~450nmの範囲である。前記コア-シェル強化剤は一般的に単分散系であっても多分散系であってもよいコポリマーである。コアの例としては、イソプレンホモポリマー又はブタジエンホモポリマー、イソプレンと最大3モル%のビニルモノマーとのコポリマー及びブタジエンと最大35モル%(好ましくは30モル%以下)のビニルモノマーとのコポリマーが挙げられる。前記ビニルモノマーは、スチレン、アルキルスチレン、アクリロニトリル又は(メタ)アクリル酸アルキルであることができる。別のコア類は、(メタ)アクリル酸アルキルのホモポリマー及び(メタ)アクリル酸アルキルと最大35モル%(好ましくは30モル%以下)のビニルモノマーとのコポリマーから成る。(メタ)アクリル酸アルキルは有利にはアクリル酸ブチルである。前記ビニルモノマーは、スチレン、アルキルスチレン、アクリロニトリル、ブタジエン又はイソプレンであることができる。前記コポリマーのコアは、完全に又は部分的に架橋していてもよい。求められることは、コアの調製の際に少なくとも二官能性のモノマーを加えることだけである;これらのモノマーは、ポリオールのポリ(メタ)アクリルエステル、例えばブチレンジ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートから選択することができる。その他の二官能性モノマーは、例えばジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、アクリル酸ビニル及びメタクリル酸ビニルである。前記コアはまた、重合の際に、不飽和官能性モノマー、例えば不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸及び不飽和エポキシドを、コア中に導入することによって、グラフトさせることによって、又はコモノマーとして、架橋させることもできる。例として、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸及びグリシジルメタクリレートを挙げることができる。
【0072】
前記シェルは、例えばスチレンホモポリマー、アルキルスチレンホモポリマー若しくはメタクリル酸メチルホモポリマー、又は上記モノマーの内の1種少なくとも70モル%と上記モノマーの内の残りのモノマー、酢酸ビニル及びアクリロニトリルから選択される少なくとも1種のコモノマーとを含むコポリマーであることができる。前記シェルは、重合の際に、不飽和官能性モノマー、例えば不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸及び不飽和エポキシドを、コア中に導入することによって、グラフトさせることによって、又はコモノマーとして、官能化することもできる。例えば無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸及びグリシジルメタクリレートを挙げることができる。例として、ポリスチレンシェルを有するコア-シェルコポリマー(A)及びPMMAシェルを有するコア-シェルコポリマー(A)を挙げることができる。前記シェルにはまた、様々なポリマー層との分散性及び適合性に役立つように官能基又は疎水性基を含有させることもできる。また、2つのシェルを有し、その一方がポリスチレンから成り、その外側のもう一方がPMMAから成るコア-シェルコポリマー(A)も存在する。有利には、前記コアがコア-シェルポリマーの70~90重量%を占め、前記シェルが30~10重量%を占める。
【0073】
前記アクリル樹脂組成物中に強化剤を含ませる場合、これは、高い光学清澄性、高い耐衝撃性及び/又は高い機械的強靱性/延性を有するアクリル樹脂組成物を提供するものから選択するのが好ましい。
【0074】
酸官能化アクリルコポリマー及びアクリル樹脂組成物の用途
【0075】
前記酸官能化アクリルコポリマー及びかかる酸官能化アクリルコポリマーを含有するアクリル樹脂組成物は一般的に熱可塑性材料を用いる任意の最終用途にとって有用であるが、下により一層詳しく説明するように、それらは特にフィルムの製造に有用である。
【0076】
前記アクリルコポリマー及びアクリル樹脂組成物を用いて製造される物品
【0077】
本発明の酸官能化アクリルコポリマー及びアクリル樹脂組成物は、熱可塑性材料であり、プラスチックの分野において周知の任意の好適な技術によって造形又は成形して、例えばシート、棒材、チューブ、フィルム、成形部品、積層体等を含めた任意の所望の形状寸法の物品にすることができる。
【0078】
本発明の酸官能化アクリルコポリマー及びアクリル樹脂組成物を用いて製造されるフィルムは、少なくとも約88%の光線透過率及び約10%未満の曇り度を有するように配合加工することができる。別の有利な実施形態において、前記フィルムは、少なくとも95%、少なくとも92%又はさらにそれ以上の光線透過率を有する。追加的実施形態において、前記フィルムは、0.5%未満の曇り度又は0.2%未満の曇り度を有する。
【0079】
本発明の酸官能化アクリルコポリマー及びアクリル樹脂組成物を用いて、延伸フィルム、特に二軸及び/又は一軸延伸フィルムを製造することができる。二軸延伸する前に、前記フィルムは例えば約60~約500ミクロンの厚さを有していてよい。二軸延伸した後は、前記フィルムは例えば約10~約200ミクロン又は約15~約80ミクロンの厚さを有していてよい。
【0080】
光学フィルムは、DSCにおいてN2中で10℃/分の加熱速度で測定して、120℃以上のガラス転移温度、又は125℃以上のTgを有することができる。屈折率値は、589nmの波長において1.49~1.53の範囲内に調節することができる。ゼロ-ゼロ位相差フィルムにおける面内及び面外位相差値は、等価100um当たり10nm又はそれより下に制御される。引張強さ及びモジュラスが70MPa及び3GPa超である一方で、引張伸びは好ましくは7%超、より一層好ましくは10%超である。フィルム積層プロセスの間に明らかな応力白化は存在しない。前記光学フィルムは、良好な耐湿性及び環境安定性を有する。さらに、本発明の酸官能化アクリルコポリマー及びアクリル樹脂組成物は、照明パイプ、光学イメージングレンズ、光学補償フィルム等において別の潜在的用途を有する。
【0081】
光学イメージングレンズ及び光パイプは、射出成形ユニット(例えば住友製の射出成形ユニット)で作ることができ、その際、本発明の酸官能化アクリルコポリマー及びアクリル樹脂組成物は、220~260℃のバレル温度で、随意にN2保護下で、加熱される。光ガイドパネルは、高温における溶融押出又は射出成形で製造することができる。溶融加工の前に好ましくは樹脂をデシケーターオーブン中で樹脂のTgより約20℃低い温度において十分乾燥させる。
【0082】
物品の製造方法
【0083】
本発明の組成物を有用な物品に成形するための好適な方法には、以下のものが含まれる(が、これらに限定されるわけではない):押出、射出成形、吹込成形、圧縮成形、真空成形、回転成形、溶液流延等及びそれらの組合せ。
【0084】
本発明のある実施形態において、フィルムは、酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物から、押出(溶融流延)又は溶液流延法によって、加工される。
【0085】
フィルムを形成させるための押出法の最初のステップにおいては、上に記載したアクリル樹脂組成物をミニキャストフィルムラインのような押出機に供給し、装填した材料を固体(例えば顆粒又はペレット)状態から溶融状態に転化させるのに足りる設定ポイント温度、押出機スクリュー速度、押出機ダイ間隔設定及び押出機背圧で操作することができる。前記押出法は一般的に240℃~280℃の範囲の温度で、好ましくは窒素等の不活性ガス下で、実施することができる。より高い加工温度での材料の劣化を避けるために、アクリル樹脂組成物中に1種以上の酸化防止剤を加えるのが賢明だろう。
【0086】
溶融材料は次いで、例えばギアポンプによって、フィルム形成用ダイ(これは「Tダイ」又は「コートハンガーダイ」等の任意の慣用のフィルム形成用ダイであってよい)に移送され、このダイから支持体上に押出される。次いで、支持体上の流延材料が冷却の際に固化することによって、フィルムが形成される。支持体は、化学反応によって劣化したり変形したりすることなく、流延溶融物の温度を維持することができる材料から作られたものが好ましい。フィルムが自立特性を有するものになる点まで固化が進行したら、さらなる加工のためにフィルムを支持体から剥離させることができる。特に、フィルムを続いての後記する条件下で機械的に延伸することによるフィルム配向(延伸)処理に付すのも好ましい。機械的延伸は、フィルム形成性プロセスにおける冷却の完了前又は完了後に実施することができる。
【0087】
押出又は流延の後に、得られたフィルムを一軸延伸又は二軸延伸することができる。例えば、フィルムを延伸ステップに付すことができ、その際、フィルムを一軸式で縦方向(機械方向)又は横方向に延伸してもよく、二軸式で縦方向及び横方向に延伸してもよい。二軸延伸の場合、フィルムは2方向に同時に又は順次(即ち、縦方向の次に横方向に若しくはその逆で)延伸される。単一方向(例えば縦方向)における配向は、一軸配向フィルムをもたらす。同様に、2方向(例えば縦方向及び横方向)における配向は、同時に実施しようが2つの別々のステップとして実施しようが、二軸配向フィルムをもたらす。
【0088】
一軸又は二軸延伸は、慣用のテンター、例えばピンテンター、クリップテンター又は二軸延伸テンターを用いて、実施することができる。フィルムが支持体上にある場合、その支持体は、有効な延伸を可能にするのに十分柔軟であって、壊れることなく機械的延伸操作に耐えるものでなければならない。
【0089】
延伸は、例えばTg-20℃~Tg+40℃の範囲の温度、例えばTg-10℃~Tg+35℃の範囲、又はTg-5℃~Tg+30℃の範囲の温度において実施することができる。ここで、Tgはフィルムが作られる樹脂成分のガラス転移温度である。
【0090】
延伸比は比Ls/L0と定義され、ここで、Lsは延伸後の延伸方向におけるフィルムの長さを表し、L0は延伸前の延伸方向におけるフィルムの長さを規定する。延伸比は好ましくは1.05倍~6.0倍、又は1.1倍~4.0倍、又は1.25倍~3.0倍の範囲であることができる。
【0091】
フィルム延伸速度とは、単位時間当たりの縦方向又は横方向における伸び率(Ls-L0)/L0×100%を指し、例えば0.01%/秒~200%/秒、0.1%/秒~50%/秒、又は0.5%/秒~10%/秒であることができる。
【0092】
延伸は、単一ステップで又は複数ステップで実施することができ、延伸条件はステップ間で同じであっても異なっていてもいいが、いずれの場合にもそれぞれのステップについて上で特定した通りの条件の範囲内にあるものとする。各延伸ステップには随意に、熱硬化ステップ、即ち、延伸フィルムを、例えばコポリマー又はアクリル樹脂組成物のガラス転移温度付近又はそれ以上の温度において、例えば1秒~3分の範囲の時間、張力下に保つステップをさらに含ませることができる。
【0093】
さらに別の実施形態において、フィルムは、溶液流延又はコーティング法によって製造することができる。かかる方法は、比較的薄いフィルム、即ち押出/二軸延伸技術によって容易に達成されるものより薄い厚さを有するフィルムを形成させるのに特に有用である。当技術分野において周知の任意の溶液流延又はコーティング法を、本発明において用いるために適合させることができる。例えば、アクリル樹脂組成物を好適な揮発性溶媒又は揮発性溶媒の組合せに溶解させ、得られた溶液を好適な基材の表面に層として適用することができる。適用した層を次いで、好適な方法、例えば加熱したり且つ/又は真空にしたりすることによって溶媒を除去する乾燥ステップに付すことができる。得られたフィルムは次いで、特定の所望の最終製品にとって適切であることができるように、基材から分離し(且つ随意に上記のように延伸し)てもよく、基材上に残しておいてもよい。
【0094】
成形された物品の用途
【0095】
本発明のコポリマー及びアクリル樹脂組成物を用いて製造される物品は、例えば光学産業、輸送産業、電子産業、機械産業、家電産業、コンテナ産業、建築及び建設産業、医療及びヘルスケア産業、スポーツ及びレジャー産業、ワイヤー及びケーブル産業等を含む多くの産業、特にコポリマー及びアクリル樹脂組成物の様々な特性(例えば、高い耐熱性、高い透明性、低い曇り度、調整可能な光学位相差、高い環境安定性及び/又は低い吸湿性)が望ましい又は有利であると考えられる最終用途のいずれにおいても有用性を見出すことができる。
【0096】
例えば、本発明の酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物から製造されたフィルムは、高い透明度が望まれ且つ広い温度範囲内での機械応力下でそれが維持される光学等級製品の製造に用いることができる。
【0097】
溶液流延、溶融流延又は他の任意のフィルム形成法によって得られる酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物を含むフィルムは、「非延伸フィルム」であるか「延伸フィルム」であるかに拘らず、さらに他の光学フィルムに積層して複合フィルム構造体を形成させることができる。これらのフィルム構造体の特定的な例には、以下のものがある(が、これらに限定されるわけではない):偏光プレート、正及び負の二軸プレート、正及び負のC-プレート、並びに負の波長分散プレート。
【0098】
得られるフィルムは、非晶質であり、透明性が高く、曇り度が低く、調節可能な複屈折/位相差特性、長期間耐久性、良好な機械的安定性、並びに光学素子の製造に通常用いられる他の材料との適合性を示す。従って、これらのフィルムは、光学補償用に、及び光の偏光状態の操作のための光学素子の製造用に、有用であると考えられる。
【0099】
かくして、本発明の酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物から製造されるフィルムは、偏光子及びその両面に配置された2つの透明保護フィルムを含む偏光プレートであって、前記保護フィルムの少なくとも一方が前記酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物を含むフィルムであるものに用いることができる。
【0100】
前記偏光子は、例えば、ヨウ素系偏光子、2色性染料を用いた染料系偏光子又はポリエン系偏光子であることができる。ヨウ素系偏光子及び染料系偏光子は一般的に、PVA系フィルムから製造され、その製造方法は、PVA系フィルムをドーピングし、該フィルムを一軸延伸し、随意に定着処理をし、乾燥させることを含む。PVA系フィルムは一般的に、ビニルエステルモノマーを(場合により他のエチレン性不飽和化合物をコモノマーとして用いて)重合させ、次いでエステル官能基を鹸化させることによって得られたポリマーを含む溶液又は溶融物を流延することによって得られる。フィルムのドーピングは、一軸延伸の前に、その間に又はその後に、実施することができる。ドーピングは、例えばPVA系フィルムをヨウ素-ヨウ化カリウム及び/又は2色性染料を含む溶液中に浸漬してそれらをフィルムに吸収させることによって、又はフィルム流延段階の際にこれらのドーパントをブレンドすることによって、達成することができる。一軸延伸は、上記ドーパントを含む溶液であることができる温水若しくは熱水(30~90℃)浴中でフィルムを延伸する湿式法として、又は空気中若しくは不活性ガス雰囲気中で例えば50~180℃の範囲の温度においてフィルムを延伸する乾式法として、実施することができる。延伸比は一般的に少なくとも4倍である。機械的延伸はヨウ素ドープPVA系フィルムに1方向延伸を付与し、これはフィルムの偏光効果の原因となる。一般的に、偏光子は延伸後に10~40μm又は15~30μmの範囲の厚さを有する。定着処理では、フィルムが作られる材料の架橋が行われる;これは、例えばフィルムをホウ酸溶液と接触させることによって実施することができる。偏光子の乾燥は一般的に、例えば30~150℃の範囲の温度において、達成される。
【0101】
偏光プレートは、本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物を含む光学位相差フィルム以外の透明保護フィルムを含むことができる。これらの別の透明保護フィルムは特に制限されるものではなく、例えば商品として入手できるTACフィルムのようなセルロースアクリレートフィルムであることができる。偏光プレートを形成させるために本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー若しくはアクリル樹脂組成物を含むフィルム及び/又は別の透明保護フィルムを偏光子に適用することができる方法は、特に制限されるものではない。それらは例えば偏光子上に直接積層又は貼付することができる。
【0102】
随意に、前記偏光子と前記保護フィルムの一方若しくは両方との間又は前記保護フィルムの一方若しくは両方の表面に、追加の別の機能性フィルムを適用してもよく、この保護フィルムの一方又は両方は、本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物を含むフィルムであることができる。この別の機能性フィルムには、以下のものが含まれる(が、これらに限定されるわけではない):反射防止フィルム、光散乱フィルム、透明ハードコート、帯電防止フィルム、接着フィルム、UV吸収フィルムまたは偏光フィルム。
【0103】
必要ならば、上記のフィルム、即ち前記偏光子、保護フィルム(これは本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー若しくはアクリル樹脂組成物から構成されるフィルム又は別のタイプの保護フィルムであることができる)及び前記別の機能性フィルムの1種の中の任意の2つの間の結合を促進するために、接着剤(特に感圧接着剤若しくはホットメルト接着剤)又はタイ層を用いることができる。オンラインフィルム積層プロセスの際にPVAフィルムをアクリル光学フィルム上に積層するためには、多官能性アクリルウレタン及びこれと別の多官能性アクリル樹脂(一般的にUV光に曝露することによって反応/重合することができる(メタ)アクリレート官能基を複数含有するもの)とのブレンドを含有するUV硬化性アクリル接着剤を用いるのが好ましい。
【0104】
かかるフィルム、又はかかるフィルムを少なくとも1つ含む偏光プレートは、LCDディスプレイデバイスに用いることができる。従って、1つの局面において、本発明は、上に記載したような本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物から構成されるフィルムを含む液晶ディスプレイ又はイメージングデバイスに関する。かかる液晶ディスプレイは一般的に、液晶セル及び該液晶セルの2つの面のそれぞれの上に配置される2つの偏光プレートを含み、該偏光プレートの少なくとも一方は、本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物から構成される少なくとも1つのフィルムを含む。例えば、本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物を含むフィルムは、偏光プレートの液晶に面する側に使用することができる。アクリル光学位相位相差フィルムには、ゼロ-ゼロ位相差フィルム、C-プレート、四分の一波長プレート及び二分の一波長プレートが含まれる。
【0105】
本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物から構成されるフィルムの別の好適な最終用途には、以下のものが含まれる(が、これらに限定されるわけではない):DVD製造、インサート成形、フラットパネルディスプレイ又はLEDの外層としての用途、メンブレンスイッチ、デカール又は転写フィルム、インストルメントパネル及びスマートカード。1つの実施形態においては、本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物を含むフィルム又は本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物から作られたフィルム上にグラフィックデザインをプリントし、プリントされたフィルムを基材に適用することができる。本発明に従う酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物から構成されるフィルムは、例えば積層によって又は接着剤若しくはタイ層を用いることによって、基材の表面に適用することができる。酸官能化アクリルポリマーを含有するフィルムは、PVA層に対する良好な接着性を提供することができる。
【0106】
本明細書内では、明瞭且つ簡潔な仕様が書かれることを可能にする態様で実施形態を説明してきたが、本発明から逸脱することなく実施形態を様々に組み合わせたり分離したりできることが意図され、認識されるであろう。例えば、本明細書に記載されるすべての好ましい特徴は、本明細書に記載される本発明のすべての局面に適用可能であることが理解されるだろう。
【0107】
ある実施形態において、本発明は、本発明の酸官能化アクリルコポリマー又はアクリル樹脂組成物の基本的特徴及び新規の特徴に著しく影響を及ぼすことのない要素を排除するものと解釈できる。さらに、ある実施形態において、本発明は、ここに特定していない要素を排除するものと解釈できる。
【0108】
特定実施形態を参照して本発明を例示して説明してきたが、本発明は示された詳細に限定されることを意図したものではない。むしろ、特許請求の範囲の均等範囲及び領域内で、本発明から逸脱することなく、詳細に様々な変更を為すことができる。
【実施例
【0109】
試験方法:
【0110】
メルトフローレート(MFR)測定:メルトフローレート測定ではポリマーに対してInstron Ceast MF30装置を用いた。別段の記載がない限り、ダイ温度は230℃に調節し、ロードセル重量は3.8kgとした。乾燥ペレットは、Tgより約20℃低い温度で8時間以上用いた。
【0111】
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC):ポリマー分子量測定を行うために、Waters Alliance 2695及びWaters Differential Refractometer 2410を用いた。カラムは2個のPL Gel mixed Cカラム及びガードカラム(内径7.8mm×30cm、5μm)をベースとするものだった。溶剤としてTHF(HPLCグレード)を選択した。温度は35℃に調節した。10個のポリ(メチルメタクリレート)標準物質をMp(ピーク分子量)550~1677000g/モルの範囲でキャリブレーションに用いた。
【0112】
示差走査熱量分析(DSC):アクリルポリマーのガラス転移温度を、2回目の加熱の際に、TA Instruments Q2000 DSCを用い、N2中で、10℃/分の加熱速度で、測定した。1回目の加熱では、サンプルを10℃/分の加熱速度で170℃に加熱し、次いでサンプルを10℃/分の冷却速度で0℃まで冷ました。サンプル重量は5~10mgに調節した。
【0113】
熱重量分析(TGA):TA instruments Q5000 TGAを用いてN2中で10℃/分の加熱速度で、アクリルポリマーの熱分解温度を測定した。サンプル重量は5~10mgに調節した。サンプルを真空炉中で100℃において16時間予備乾燥させた。TA instruments Q5000 TGAを用いて、N2又は空気中で30~60分等の所定時間で270℃等の選択した等温温度に達するまで毎分10~50℃の加熱速度で等温TGA測定を行った。
【0114】
全光線透過率:Perkin Elmer Lambda 950を150mmの積分球と共に用いて、透過モードで、フィルム及び/又はプラークのサンプルから、全光線透過率を測定した。選択したUV/可視光波長範囲は、UV/可視光領域で200nmから800nmだった。
【0115】
曇り度:BYK HazeGard Plusを用いて、透明フィルム及び/又はプラークの光学曇り度を測定した。
【0116】
引張強さ及び伸長性:Instron Model 4202を用いて5mm/分のクロスヘッド速度で、引張強さ、モジュラス及び引張棒の伸長性を評価した。引張は長さ6”であり、幅は0.50”だった。サンプル厚さは0.125”だった。
【0117】
二軸延伸:0.05%/秒~50%/秒の速度でBrucknerを用いて、4”×4”のサイズのフィルムサンプルを延伸した。採用した二軸延伸温度は、ガラス転移温度Tg-20℃~Tg+35℃付近だった。フィルム厚さは100~500μmに調節した。
【0118】
面内及び面外位相差:光学フィルムからの面内位相差は、透過中にエリプソメーター(J. A. Woollam Co. Inc.)を用いて560nmの選択波長又は全可視波長において測定し、一方、面外位相差は、560nmの選択波長又は全可視波長において得た。
【0119】
例1
【0120】
この例は、メタクリル酸メチルとメタクリル酸との高分子量コポリマー(pMMA-MAA、重量比94/6)の調製を示す。反応器中にN2下で0℃付近において100rpmの機械的撹拌速度で、9260gのメタクリル酸メチル及び700gのメタクリル酸を装填した。追加的に、Luperox(登録商標)531(Arkema社より入手)を開始剤として1.6gの量で用い、一方、38gのn-ドデシルメルカプタン(n-DDM、Aldrich社より入手)を連鎖移動剤として用いた。重合反応を150℃において5時間行った。転化率が55%付近に達した時に、押出の際に排気システムによって残留モノマーを除去した。得られたポリマーを一軸スクリュー押出機に230℃のダイ温度において、バレル温度が230~250℃である間に、通した。ペレット化の前に溶融流を水浴に通した。次いで、ポリマーをペレット化させて長さ3~4mmの樹脂ペレットにし、デシケーターオーブン中で100℃において8時間乾燥させた。ポリマーのメルトフローレートは、3.8kg下で230℃において測定して1.4g/10分だった。得られたポリマーの屈折率は、589nmにおいて測定して1.496だった。
【0121】
得られたポリマーがpMMA/MAA(重量比94/6)の組成を有することが1H-NMRによってわかった。この樹脂のガラス転移温度は、DSCを用いてN2中で10℃/分の加熱速度で測定して127℃だった。この樹脂の重量平均分子量Mwは、GPCを用いて測定して88500g/モルであり、Mw/Mn(多分散度)値は2.0だった。Lambda 950を用いて560nmにおいて測定した光線透過率は91.6%であり、曇り度計(BYK社から入手したHaze Gard Plus)を用いて測定した曇り度は0.6%だった。ポリマーの引張モジュラスは3.4GPaであり、引張強さは76MPaであり、引張伸び率は9%だった。
【0122】
例2
【0123】
この例は、メタクリル酸メチルとメタクリル酸との高分子量コポリマー(pMMA-MAA、重量比98/2)の調製を示す。反応器中にN2下で0℃付近において100rpmの機械的撹拌速度で、9780gのメタクリル酸メチル及び200gのメタクリル酸を装填した。追加的に、Luperox(登録商標)531(Arkema社より入手)を開始剤として1.6gの量で用い、一方、18gのn-ドデシルメルカプタン(n-DDM、Aldrich社より入手)を連鎖移動剤として用いた。重合反応を150℃において5時間行った。転化率が50%に達した時に、押出の際に排気システムによって残留モノマーを除去した。得られたポリマーを一軸スクリュー押出機に230℃のダイ温度において、バレル温度が230~250℃である間に、通した。ペレット化の前に溶融流を水浴に通した。次いで、ポリマーをペレット化させて長さ3~4mmの樹脂ペレットにし、デシケーターオーブン中で100℃において8時間乾燥させた。ポリマーのメルトフローレートは、3.8kg下で230℃において測定して0.46g/10分だった。得られたポリマーの屈折率は、589nmにおいて測定して1.493だった。
【0124】
得られたポリマーがpMMA/MAA(重量比98/2)の組成を有することが1H-NMRによって確認された。この樹脂のガラス転移温度は、DSCを用いてN2中で10℃/分の加熱速度で測定して122℃だった。この樹脂の重量平均分子量Mwは、GPCを用いて測定して145000g/モルであり、Mw/Mn(多分散度)値は2.2だった。Lambda 950を用いて560nmにおいて測定した光線透過率は91.8%であり、曇り度計(BYK社から入手したHaze Gard Plus)を用いて測定した曇り度は0.7%だった。被験サンプルの引張モジュラスは3.1GPaであり、引張強さは71MPaであり、引張伸び率は10%だった。
【0125】
例3
【0126】
この例は、メタクリル酸メチルとメタクリル酸との高分子量コポリマー(pMMA-MAA、重量比98/2)及び酸化防止剤(AO)を含む樹脂の調製を示す。例2に従って製造した3000gのpMMA-MAA樹脂中に、6gのIrganox(登録商標)第1酸化防止剤及び3gのIrgafos(登録商標)第2酸化防止剤を、27mm二軸スクリュー押出機を真空ポンプシステムと共に用いて、230℃のダイ温度及び260℃のバレル温度において、25kg/時間の速度で、混合した。ペレット化の前に溶融流を水浴に通した。乾燥させた樹脂のメルトフローレート(MFR)は、3.8kg下で230℃において測定して0.45g/10分だった。得られたポリマーの屈折率は、589nmにおいて測定して1.493だった。
【0127】
この樹脂のガラス転移温度は、DSCを用いてN2中で10℃/分の加熱速度で測定して121℃だった。この樹脂の重量平均分子量Mwは、GPCを用いて測定して146000g/モルであり、Mw/Mn(多分散度)値は2.3だった。Lambda 950を用いて560nmにおいて測定した光線透過率は91.5%であり、曇り度計(BYK社から入手したHaze Gard Plus)を用いて測定した曇り度は1.1%だった。この樹脂の引張モジュラスは3.2GPaであり、引張強さは74MPaであり、引張伸び率は12%だった。
【0128】
例4
【0129】
この例は、本発明の好ましい実施形態を表し、乳化重合を用いたメタクリル酸メチル、α-メチルスチレン、メタクリル酸及びアクリル酸n-ブチル(pMMA-α-メチルスチレン-MAA-BA)のTg約140℃のコポリマーの調製を示す。
【0130】
440gのα-メチルスチレン、40gのメタクリル酸、20gのアクリル酸n-ブチル、1500gのメタクリル酸メチル及び8gのn-ドデシルメルカプタンの混合物を調製した。次いでこのモノマー混合物中に2gのスルホコハク酸ジオクチルナトリウムを溶解させた。機械的な撹拌を備えた好適な反応釜に、3000gの脱イオン水を3gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと共に加えた。釜の混合物を70℃に加熱し、窒素で30分間ガス抜きした。この反応器に、300gの前記モノマー混合物を装填し、次いで15gの2%ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートを装填した。5分後に、15gの2%t-ブチルヒドロペルオキシドを加えて、種ラテックスを開始させた。
【0131】
この混合物の固形分が8%に到達した後(90%の転化率)に、残りの1710gのモノマー混合物を反応器に4時間かけて供給した。同じ4時間で85.5gの2%t-ブチルヒドロペルオキシド及び85.5gの2%ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートを別々に供給した。モノマーを添加した後にこのラテックスを70℃において1時間硬化させ、次いで冷却し、濾過し、凍結乾燥させた後に、混合した。この混合のために、18mmの二軸スクリュー押出機を230℃のダイ温度において用いた。次いでポリマーをペレット化して長さ3~4mmの樹脂ペレットにし、デシケーターオーブン中で110℃において8時間乾燥させた。このポリマーのメルトフローレートは、3.8kg下で230℃において測定して0.35g/10分だった。得られたポリマーの屈折率は、589nmにおいて測定して1.521だった。
【0132】
得られたポリマーがpMMA/MAA/α-メチルスチレン/BA(重量比75/2/22/1)の組成を有することが1H-NMRによって確認された。この樹脂のガラス転移温度は、DSCを用いてN2中で10℃/分の加熱速度で測定して138℃だった。この樹脂の重量平均分子量Mwは、GPCを用いて測定して144000g/モルであり、Mw/Mn(多分散度)値は2.6だった。Lambda 950を用いて560nmにおいて測定した光線透過率は90.4%であり、曇り度計(BYK社から入手したHaze Gard Plus)を用いて測定した曇り度は1.5%だった。
【0133】
例5
【0134】
耐熱性、機械的特性及び耐湿性をさらに改善するために、4500gのpMMA-MAA(95/5)(97重量%のメタクリル酸メチルと3重量%のアクリル酸エチルとのコポリマーであって、145000~150000g/モルの重量平均分子量Mwを有するもの)と、例4に従って調製した1000gのポリ(MMA/α-メチルスチレン/MAA/BA)及び4500gの高分子量pMMA/EA(97/3)(97重量%のメタクリル酸メチルと3重量%アクリル酸エチルとのコポリマーであって、145000~150000g/モルの重量平均分子量Mwを有するもの)とを、高温におけるホットメルト混合法によってブレンドした。混合は、排気システムを備えた二軸スクリュー押出機を用いて、230℃のダイ温度及び245℃のバレル温度において、25kg/時間の速度で実施した。次いでポリマーをペレット化して長さ3~4mmの樹脂ペレットにし、デシケーターオーブン中で100℃において8時間乾燥させた。このポリマーのメルトフローレートは、3.8kg下で230℃において測定して1.3g/10分だった。得られた樹脂の屈折率は、589nmにおいて測定して1.496だった。
【0135】
ブレンドされた樹脂のガラス転移温度は、DSCを用いてN2中で10℃/分の加熱速度で測定して120℃だった。この樹脂の重量平均分子量Mwは、GPCを用いて測定して108000g/モルであり、Mw/Mn(多分散度)値は2.1だった。Lambda 950を用いて560nmにおいて測定した光線透過率は90.5%であり、曇り度計(BYK社から入手したHaze Gard Plus)を用いて測定した曇り度は0.8%だった。この樹脂の引張モジュラスは3.3GPaであり、引張強さは72MPaであり、引張伸び率は8%だった。