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特許72285291,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体を含む腎機能障害の改善薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体を含む腎機能障害の改善薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/554 20060101AFI20230216BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 3/12 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
A61K31/554
A61P13/12
A61P3/12
A61P9/04
A61P9/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019559642
(86)(22)【出願日】2018-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2018045416
(87)【国際公開番号】W WO2019117116
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2017236833
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504464667
【氏名又は名称】株式会社アエタスファルマ
(73)【特許権者】
【識別番号】599138320
【氏名又は名称】金子 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】金子 昇
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/017448(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/098080(WO,A1)
【文献】Circulation,2006年,Vol.113,No.2,pp.246-251
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 3/12
A61P 13/12
A61P 9/04
A61P 9/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式[II]
【化2】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。*は光学異性体であることを表す。)
で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる腎機能障害の改善用の医薬組成物であって、腎機能障害の改善が血中クレアチニン値の低下である、医薬組成物
【請求項2】
腎機能障害の改善が尿中へのNa及び/又はK排泄増加である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
腎機能障害の改善が尿量の増加である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
腎機能障害が合併した心不全及び/又は不整脈に対する心機能改善用の請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
不整脈が心房細動及び/又は心房粗動である請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
薬学的に許容される塩が塩酸塩又はクエン酸塩である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
腎機能障害が急性腎臓病である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
腎機能障害が慢性腎臓病である、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
腎機能障害が、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、ショック又は出血に起因する腎機能障害、及び、不整脈又は心不全に合併した腎機能障害からなる群から選択されるものである、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
腎機能障害を有する患者に用いられるものである、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
不整脈又は心不全に合併した腎機能障害を有する患者に用いられるものである、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容しうる塩を含む腎機能障害を改善するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は左右の背側腰部に存在し、成人ヒトでは重量が約130グラム前後の臓器である。腎臓の主たる働きは尿の生成と排出により、1)体内水分量の維持、2)尿素窒素、クレアチニンなどの老廃物の排出、3)ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、リン(P)などの電解質の生体内での恒常性の維持にある。
【0003】
腎臓には毛細血管とほぼ同じ太さの血管が、球状の形態で、毛糸巻状になっている糸球体(ネフロン)と呼ばれる構造物が多数存在する。糸球体は1個の腎臓に約100万個存在し、糸球体内で複雑な吻合を形成し、直径約0.1mmの大きさを有する。
【0004】
糸球体の働きは、血液から水分、クレアチニン、尿素窒素などの老廃物、電解質などを濾過することである。濾過されたこれら物質は、糸球体に連続する近位尿細管、遠位尿細管、集合管において、生体の必要に応じ、水分、電解質等を、再吸収、あるいは再分泌し、生体内で不要な老廃物であるクレアチニン、尿素窒素等を尿として対外に排出する。腎臓はこれら物質の適切な排出によって、生体内での濃度を一定に保ち、生体環境を維持する働きをしている。
【0005】
腎機能障害の原因として、主体となっているのは、糸球体の濾過量の減少で、漏過量の減少は、生体内での血中クレアチニンや尿素窒素の増加、カリウム値の増加をもたらす。
【0006】
腎機能障害は、罹患期間により発症から3か月未満の急性疾患(以下、「急性腎臓病」ともいう。)と、3か月以上経過した慢性疾患(以下、「慢性腎臓病」とも言う。)に分類される。慢性腎臓病は、近年糖尿病患者が増加していることに伴って糖尿病性腎障害(糖尿病性腎症)を原因とするものが最も多くなっている。次に、慢性糸球体腎炎を原因とするものが多い。
【0007】
急性腎臓病はその発生部位からさらに腎前性、腎性、及び腎後性の急性腎臓病に分類される。腎前性の急性腎臓病は、出血や急激な血圧低下(ショックなど)などにより、腎臓への血流量が減少することで発症する腎機能障害である。腎動脈が動脈硬化により狭窄してくると腎虚血による腎機能障害が起こる。また心不全でも臓器にうっ血が起こり、腎機能障害を起こる。腎性の急性腎臓病は、糸球体そのものの障害である。これは急性糸球体腎炎や薬物(例えば抗がん剤や抗生物質)による腎実質の障害で起こる。腎後性の急性腎臓病は、前立腺肥大や尿路閉塞による尿排出阻害から糸球体や尿細管の内圧が上昇し、腎機能障害を起こすものである。
【0008】
腎機能障害を伴う疾患は、その病態や障害部位によって糸球体疾患、腎尿細管間質性疾患、腎不全、腎症、多発性嚢胞腎などとも分類される。糸球体疾患には、急性腎炎症候群、急速進行性腎炎症候群、反復性及び持続性血尿、慢性腎炎症候群、ネフローゼ症候群などの糸球体障害を伴う疾患が含まれる。腎尿細管間質性疾患には、尿細管間質性腎炎(急性、慢性、またはそのいずれとも明示されないもの)などの腎尿細管間質性障害を伴う疾患が含まれる。腎不全には、急性腎不全、及び慢性腎不全が含まれる。腎症には、ウイルス腎症(HBウイルス腎症、HCウイルス腎症、HIV腎症、BKウイルス腎症など)、腎サルコイドーシス、糖尿病性腎症、遺伝性腎症、家族性腎炎、高血圧性腎症、肝腎症候群、NSAID腎症、鎮痛剤性腎症、造影剤腎症、重金属誘発性腎症などが含まれる。
【0009】
腎機能障害が起こると、腎濾過量が低下し、結果として血中クレアチニン、尿素窒素の増加が起こる。腎機能障害がさらに高度になると、血中カリウム(K)の排泄が損なわれ、血中K値が増加する。血中Kの増加は心室細動などの致死的不整脈を惹起させることもある。腎機能障害ではナトリウム(Na)排出も損なわれる。血中Naの増加によって循環血液量が増し、全身に浮腫が起こる。その場合、浮腫を改善させる薬剤として、たとえば尿細管でのNa再吸収を阻害することで、Na排泄を促し、尿量を増加させるループス利尿薬や、サイアザイド利尿薬が使われる。また尿細管でアルドステロンを阻害することで、利尿を促すカリウム保持性利尿薬も臨床で使用される。しかしこれらの薬剤は、クレアチニンや尿素窒素などの老廃物を排出する作用はない。更に、ループス利尿薬やサイアザイド利尿薬は腎機能を改善させる作用がないばかりか、逆に悪化させるため、高度の腎機能障害例では投与できない。
【0010】
心不全患者では男性で60%、女性で90%に腎機能障害を合併していることが報告されている(非特許文献1)。心不全が起こると、全身に浮腫が起こり、浮腫の治療薬としてループス利尿薬や、サイアザイド利尿薬が使われる。しかしながら、これらは腎機能をさらに障害させるため、心不全に合併した腎機能障害が重篤化し、患者予後は不良となる。心不全患者の予後は一般的な「がん」(すい臓がんなどを除く)より悪いことが報告されている(非特許文献2)。このように、心不全患者の予後に腎機能障害を大きく関与しており、腎機能障害を改善させる新たな利尿薬の開発が望まれる。
【0011】
糸球体濾過量を高め、血中クレアチニン等を低下させる薬剤がないため、腎機能障害の治療は、1)過剰な水分摂取の制限、2)食塩(NaCl)の摂取制限、4)カリウム塩(K)の摂取制限、5)蛋白質の摂取制限、6)血圧の安定化(高血圧は糸球体内圧を高める結果、腎障害を助長する)6)脱水を予防するなど、腎臓にできるだけ負担をかけない保存的治療が行われているのが現状である。しかしながら、保存的治療の効果は限定的であり、クレアチニンや尿素窒素などの老廃物を排出することが十分にできないため、最終的に腎不全(後述する腎機能障害G5)となり、人工透析や腎移植を余儀なくされることもある。
【0012】
腎機能障害患者の予後は、急性腎臓病では半数の患者はその原因が除去されれば軽快/治癒する。しかし、慢性腎臓病では、腎機能障害を改善する薬剤がないため、個人差はあるが、多くの場合、時間とともに、悪化していく。さらに加齢に伴う腎動脈硬化も腎機能を悪化させるため、加齢とともに、腎機能障害が徐々に進行しやすくなる。最終的に腎機能障害でG5になると、腎移植を受けない限り、人工透析治療を余儀なくされる。現在、透析患者数は日本で約30万人と考えられている。透析は治療上の問題のみならず、年間で多大な医療費がかかり、人的損失、経済的損失など、大きな社会問題となっている。今後、高齢化や糖尿病患者が増加する中で、腎機能改善薬の開発は喫緊の課題となっている。現在、血清クレアチニンを低下させる薬剤はないため、血清クレアチニンを低下させる薬剤は腎機能障害患者にとって、画期的な薬剤となる。
【0013】
本発明者らは、これまで、4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン及びその誘導体(特許文献1及び特許文献2参照)に関して研究し、報告してきた。また、例えば、制ガン剤に対する効果増強作用を有すること(特許文献3参照)、リアノジン受容体機能の改善及び/又は安定化により、筋小胞体からのCa2+リークを抑制する作用を有すること(特許文献4参照)、筋弛緩促進薬、左室拡張障害の治療薬、狭心症の治療薬、急性肺気腫の治療薬、微小循環系の血流改善薬、高血圧の治療薬、心室性頻拍の治療薬、及びトルサドポアンの治療薬などとして有用であること(特許文献5参照)などを発見し、報告してきた。しかしながら、4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン及びその誘導体である化合物JTV519(K201とも呼ばれ、本明細書の化合物[III]に相当する化合物である)については、完全房室ブロックのイヌで1.2mg/kg体重のJTV519投与を行ったところ、致死性不整脈であるトルサドポアンが発生したことが報告されている(非特許文献3)。それゆえ、JTV519(K201)は直ちにヒトへの臨床応用ができるものではなかった。
【0014】
また、本発明者らは、前記化合物の酸化物の一に相当する4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドに代表される、一般式[I]に示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体についても、心不全や高血圧、拡張障害、狭心症や心筋梗塞、高血圧症、または虚血性心疾患、心不全、心室性不整脈と共に、心房性不整脈において認められる心筋弛緩障害の治療薬または予防薬として有用であることが見いだし、報告してきた(特許文献6参照)。
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表す。)
特許文献6には、心機能の改善作用は記載されているものの、化合物の作用として腎機能改善作用については記載されていない。
【0017】
ところで、一般式[II]で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体は、S-オキサイドの部分における硫黄原子がキラル中心となっており、中心性キラリティーを有している。
【0018】
【化2】
【0019】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。*は光学異性体であることを表す。)
本発明者は、一般式[II]に示される化合物の一つである4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドについて、当該中心性キラリティーにおける立体異性体の分離を試みたところ、40℃においても安定に分離することができ、それぞれの鏡像異性体を分離することに成功した(特許文献7)。本明細書では、特許文献7と同様、本発明者がキラルカラムを用いて分離した2つの鏡像異性体のうちの、先に流出してくる鏡像異性体を第1成分(又は、化合物(A)ということもある。)と称し、次いで流出してくる鏡像異性体を第2成分(又は、化合物(B)ということもある。)と称する。分離された第1成分と第2成分の量の比は、ほぼ1:1であった。続いて、本発明者は、2つの鏡像異性体(以下、光学異性体とも言う)を、それぞれ分取した。
【0020】
そして、両者の薬理活性を検討したところ、光学異性体第1成分(化合物(A))と、第2成分(化合物(B))の性質が相反する作用を有しており、とりわけ心房細動に関して、第1成分のみが高い抗心房細動効果及び催不整脈作用低減効果が期待できる極めて特異な薬理活性を有していることを見出した(特許文献7)。しかしながら、いずれの光学異性体に関してもその作用として腎機能改善作用は記載されていない。なお、結晶構造解析を通じて、前記第1成分は(R)体、前記第2成分は(S)体であることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】WO92/12148
【文献】特開2000-247889号公報
【文献】特開2001-31571号公報
【文献】特開2003-95977号公報
【文献】WO2005/105793
【文献】特許第4808825号
【文献】WO2016/017448
【非特許文献】
【0022】
【文献】Am.Heart J.,2005;149(2):209-216
【文献】BMC Cancer,2010;10:105
【文献】Eur.J.Pharmacol.,2011;672(1-3):126-134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、尿量の増加、尿中ナトリウム量の増加、尿中カリウム量の増加、及び/又は血清クレアチニン量の低下作用を有し、腎機能障害の改善に有用な医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は、一般式[I]に示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の各種薬理作用について鋭意研究を行った。
【0025】
【化1】
【0026】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表す。)
その結果、本発明者は、一般式[II]に示される光学活性1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体であって、光学活性4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドのうちの一の光学異性体(化合物(A))が、腎機能障害の改善作用、すなわち低用量で、尿量を増加させ、Na排泄、K排泄に加えて、血中クレアチニン排泄を促し、血中クレアチニンを低下させるという驚くべき作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
【化2】
【0028】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。*は光学異性体であることを表す。)
【0029】
即ち、本発明は、次の一般式[II]
【0030】
【化2】
【0031】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。*は光学異性体であることを表す。)
で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容しうる塩を含む医薬組成物に関する。より詳細には、前記一般式[II]で表される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体第1成分又はその薬学的に許容しうる塩を含む医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、尿量の増加、尿中ナトリウム量の増加、尿中カリウム量の増加、及び/又は血清クレアチニン量の低下作用を有し、腎機能障害の改善に有用なものであり、腎機能障害を伴う各種疾患の治療に使用できる。
【0032】
本発明をより詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
(1)次の一般式[II]
【0033】
【化2】
【0034】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。*は光学異性体であることを表す。)
で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる腎機能障害の改善用の医薬組成物。
(2)腎機能障害の改善が血中クレアチニン値の低下である、前記(1)に記載の医薬組成物。
(3)腎機能障害の改善が尿中へのNa及び/又はK排泄増加である、前記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(4)腎機能障害の改善が尿量の増加である、前記(1)~(3)のいずれか一に記載の医薬組成物。
(5)腎機能障害が合併した心不全及び/又は不整脈に対する心機能改善用の前記(1)~(4)のいずれか一に記載の医薬組成物。
(6)不整脈が心房細動及び/又は心房粗動である前記(5)に記載の医薬組成物。
(7)薬学的に許容される塩が塩酸塩又はクエン酸塩である、前記(1)~(6)のいずれか一に記載の医薬組成物。
(8)腎機能障害が急性腎臓病である、前記(1)~(7)のいずれか一に記載の医薬組成物。
(9)腎機能障害が慢性腎臓病である前記(1)~(7)のいずれか一に記載の医薬組成物。
(10)腎機能障害が、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、ショック又は出血に起因する腎機能障害、及び、不整脈又は心不全に合併した腎機能障害からなる群から選択されるものである、前記(1)~(7)のいずれか一に記載の医薬組成物。
(11)腎機能障害を有する患者に用いられるものである、前記(1)~(10)のいずれか一に記載の医薬組成物。
(12)不整脈又は心不全に合併した腎機能障害を有する患者に用いられるものである、前記(1)~(11)のいずれか一に記載の医薬組成物。
(13)1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(1)~(12)のいずれか一に記載の医薬組成物。
(14)1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分である、前記(13)に記載の医薬組成物。
【0035】
(15)腎機能障害を有する対象に、有効量の前記一般式[II]で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩を含有してなる医薬組成物を投与する工程を含む、腎機能障害を改善する方法。
(16)対象が腎機能障害が合併した心不全及び/又は不整脈を有する対象である、前記(15)に記載の方法。
(17)不整脈が心房細動及び/又は心房粗動である前記(16)に記載の方法。
(18)薬学的に許容される塩が塩酸塩又はクエン酸塩である、前記(15)~(17)のいずれか一に記載の方法。
(19)前記1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(15)~(18)のいずれか一に記載の方法。
(20)1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分である、前記(19)に記載の方法。
【0036】
(21)腎機能障害の改善又は治療における使用のための、前記一般式[II]で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(22)腎機能障害の改善又は治療、及び、腎機能障害が合併した心不全及び/又は不整脈の改善又は治療における使用のための、前記(21)に記載の1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(23)不整脈が心房細動及び/又は心房粗動である前記(22)に記載の1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(24)薬学的に許容される塩が塩酸塩又はクエン酸塩である、前記(21)~(23)のいずれか一に記載の1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(25)前記1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(21)~(24)のいずれか一に記載の1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
(26)1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分である、前記(25)に記載の1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩。
【0037】
(27)腎機能障害の改善又は治療用の医薬組成物の製造ための、前記一般式[II]で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩の使用。
(28)腎機能障害、並びに腎機能障害に合併した心不全及び/又は不整脈の改善又は治療用の医薬組成物の製造ための、前記(27)に記載の使用。
(29)不整脈が心房細動及び/又は心房粗動である前記(27)に記載の使用。
(30)薬学的に許容される塩が塩酸塩又はクエン酸塩である、前記(27)~(29)のいずれか一に記載の使用。
(31)前記1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が、光学異性体第1成分である、前記(27)~(30)のいずれか一に記載の使用。
(32)1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分である、前記(31)に記載の使用。
【発明の効果】
【0038】
前記一般式[II]で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体の第1成分又はその薬学的に許容される塩は、腎機能障害を改善させる。一般式[II]に示される光学活性1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体であって、光学活性4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドのうちの一の光学異性体(化合物(A))の投与により、後述の実施例3ないし5で具体的に示すように、尿量、Na排泄、及びK排泄の増加に加えて、血中クレアチニン量の低下がもたらされる。しかも、化合物(A)は、完全房室ブロックイヌで有害事象であるトルサドポアンを起こさなかった。トルサドポアンは致死性不整脈を引き起こすところ、医薬化合物が致死性の不整脈を惹起しないことは臨床上有益な性質となる。
化合物(A)を含む医薬組成物の投与によって従来有効な治療方法が提供されていなかった腎機能障害に対して改善が実現されることで、腎機能障害を有する者が腎不全に至ることを防止するか、そこに至るまでの年数を延長させることができる。結果として、人工透析を回避するか、もしくは、人工透析に至るまでの年数を延長させることができる。また、既存のループス利尿薬や、サイアザイド利尿薬は腎機能を改善させる作用はなく、むしろ腎機能を障害させるため、心不全による腎機能障害患者の予後は不良であるが、利尿作用があり、かつ、クレアチニンを低下させる化合物(A)を含む腎機能障害の改善薬は、心不全による、または心不全を合併した腎機能障害患者では福音となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、光学活性4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドを、キラルカラムを用いたクロマトグラフィーにかけたときの溶出パターンを示している。本発明の光学異性体第1成分は、約8.1分で溶出され、その鏡像異性体である光学異性体第2成分は、約11.4分で溶出されており、両者は完全に分離されていることを示す。
図2図2は、分取された本発明の光学異性体第1成分を、分取のときと同じキラルカラムを用いたクロマトグラフィーにかけたときの溶出パターンを示している。
図3図3は、本発明の光学異性体第1成分の鏡像異性体である光学異性体第2成分を、分取のときと同じキラルカラムを用いたクロマトグラフィーにかけたときの溶出パターンを示している。
図4図4は、4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分である(化合物(A))のイヌ尿量に及ぼす影響を示している。化合物(A)は用量依存的に尿量増加作用を示す。図中、**はp<0.01の有意差があることを示す。
図5図5は、化合物(A)のイヌ尿中Na排泄に及ぼす影響を示している。化合物(A)は用量依存的に尿中Na排泄増加作用を示す。図中、*はp<0.05の有意差があることを示す。
図6図6は、化合物(A)のイヌ尿中K排泄に及ぼす影響を示している。化合物(A)は尿中K排泄増加作用を示す。図中、**はp<0.01の有意差があることを示す。
図7図7は、化合物(A)のイヌ血清クレアチニン値に及ぼす影響を示している。化合物(A)は用量依存的に血清クレアチニン値を低下させること示す。図中、*はp<0.05の有意差があることを示す。
図8図8は、化合物(A)のラット虚血再灌流障害実験におけるクレアチニンクリアランスに及ぼす影響を示している。化合物(A)虚血再灌流24-48時間後のクレアチニンクリアランスを有意に改善した。図中、*はp<0.05の有意差があることを示す。
図9図9は、化合物(A)のラット虚血再灌流障害実験における血中クレアチニン値に及ぼす影響を示している。化合物(A)は血清クレアチニン値を有意に低下させること示す。図中、*はp<0.05の有意差があることを示す。
図10図10は、化合物(A)を成人ヒトに投与した場合の血中化合物(A)濃度、及び投与直後から投与8時間後までの尿量を示している。尿量は、バーの高さによって、標準偏差と共に示される。血漿中化合物(A)濃度は◇でプロットされ、標準偏差と共に示される。*はp<0.05の有意差があることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の一態様は、一般式[II]で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる腎機能障害の改善用の医薬組成物である。ここで、1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体の好ましい例として、光学異性体第1成分であることを挙げることができる。また、好ましい光学異性体の第1成分の例は、1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分である。ここで、光学異性体第1成分は、R配置の異性体である。ここで、薬学的に許容される塩の好ましい例として、塩酸塩及びクエン酸塩が挙げられる。
【0041】
本発明の別の一態様は、腎機能障害を有する対象に、有効量の前記一般式[II]で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩を含有してなる医薬組成物を投与する工程を含む、腎機能障害を改善する方法である。ここで、1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体の好ましい例として、光学異性体第1成分であるを挙げることができる。また、好ましい光学異性体の第1成分の例は、1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分である。ここで、光学異性体第1成分は、R配置の異性体である。ここで、薬学的に許容される塩の好ましい例として、塩酸塩及びクエン酸塩が挙げられる。
【0042】
本発明のまた別の一態様は、腎機能障害の改善又は治療における使用のための、前記一般式[II]で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩である。ここで、1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体の好ましい例として、光学異性体第1成分であるを挙げることができる。また、好ましい光学異性体の第1成分の例は、1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分である。ここで、光学異性体第1成分は、R配置の異性体である。ここで、薬学的に許容される塩の好ましい例として、塩酸塩及びクエン酸塩が挙げられる。
【0043】
本発明のまた別の一態様は、腎機能障害の改善又は治療用の医薬組成物の製造ための、前記一般式[II]で示される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体又はその薬学的に許容される塩の使用である。ここで、1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体の好ましい例として、光学異性体第1成分であるを挙げることができる。また、好ましい光学異性体の第1成分の例は、1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体が4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分である。ここで、光学異性体第1成分は、R配置の異性体である。ここで、薬学的に許容される塩の好ましい例として、塩酸塩及びクエン酸塩が挙げられる。
【0044】
上記に例示された各態様の本発明において、腎機能障害は急性腎臓病又は慢性腎臓病であり、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、ショック又は出血に起因する腎機能障害、及び、不整脈又は心不全に合併した腎機能障害が本発明による治療ターゲットとして例示される。本発明において、腎機能障害の改善は、血中クレアチニン値の低下、尿中へのNa及び/又はK排泄増加、又は尿量の増加をもたらすものである。また、本発明の治療対象となるものは、腎機能障害を有するものである。ここで、腎機能障害を有するものには、不整脈又は心不全に合併した腎循環不全を呈するものが含まれる。また、本発明の医薬組成物は、腎機能障害が合併した心不全及び/又は不整脈を有する患者に対する腎機能及び心機能改善用の医薬組成物としても使用される。ここで、不整脈とは心房細動及び/又は心房粗動を含むものである。
【0045】
(1)腎機能の評価する対象
薬物が腎機能に与える影響は、ヒト又は動物を用いて試験することができる。動物はマウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、ブタ、ヤギ、ヒツジなど任意の動物が使用できる。腎機能の評価は、被験者又は被験動物から採尿し、尿量、尿中ナトリウム量、尿中カリウム量などを測定することで行うことができる。また、採血し、血中(血清又は血漿)クレアチニン値を測定することでも腎機能が評価できる。また、腎機能及び腎機能障害の程度は、以下の方法により評価又は分類することができる。
【0046】
(2)腎機能障害の評価
腎機能障害の評価は、糸球体の濾過量(GFR)の大小などで、その程度を評価することができる。糸球体での腎濾過量は時間当たりのクレアチニンの排出量、すなわちクレアチニンクリアランス(Ccr)とほぼ一致するため、Ccr値を測定して腎機能障害の程度を評価することができる。
Ccrを算出する計算式は以下のとおりである。
Ccr(mL/分)=尿中クレアチニン濃度(mg/dL)×尿の流出速度(mL/分)/血清中クレアチニン濃度(mg/dL)
実際には、より簡便な計測方法として、近年、年齢と血清クレアチニン値から、推算糸球体濾過量:eGFR(estimated glomerular filtration rate)が臨床的に汎用されている。
eGFRを算出する計算式は以下のとおりである。
(男性の場合)
eGFR=194xCr(血清クレアチニン値)-1.094×年齢(歳)-0.287
(女性の場合)
eGFR=194xCr-1.094×年齢(歳)-0.287x0.739
(単位はいずれもmL/分/1.73m
ヒトの腎機能障害の重症度は、算出したeGFR値に基づき、以下の表に示される6段階に分類される。
【0047】
【表1】
【0048】
血清クレアチニン値(Cr)を指標として、腎機能障害のおそれがあるかどうか判断するための基準値表も作成されている。
【0049】
【表2】
簡便には、血清クレアチニン値(Cr)の上昇によって腎機能障害の存在やその程度が評価できる。
【0050】
(3)本発明の医薬組成物の有効成分
腎機能障害を改善するための本発明の医薬組成物の有効成分は、一般式[II]で表される1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体である。本発明の一般式[II]で表される光学異性体は、一般式[II]中のRが水素原子である場合の化合物と、Rが水酸基である化合物がある。本発明の医薬組成物の有効成分として好ましい化合物としては、次の式[IV]
【0051】
【化4】
【0052】
(式中、*印はキラル中心を示す。)
で表される4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの光学異性体第1成分、若しくはその薬学的に許容される塩が挙げられる。
【0053】
本発明の化合物において、へテロ環の硫黄(S)と酸素(O)の結合(SO)は、強い電気陰性を示す極性原子団を形成し、配位結合であるから、硫黄と酸素の結合については、配位結合であることを示すために、へテロ環S→Oの矢印で示すことができ、また、この配位接合は、へテロ環S-Oで示すことができる。
一般に、R-S(O)-Rで表されるスルホキサイド化合物において、RとRが異なる基である場合には、硫黄原子がキラル中心となり中心性キラリティーがあることが知られている。即ち、酸素原子が紙面の下側から結合している化合物と、酸素原子が紙面の上側から結合している化合物の2種類の立体異性体が存在していることが知られている。そして、d軌道の関与を無視して、硫黄原子の対電子の部分に原子番号0の仮想原子が結合しているとして、R-S命名法による順位規則にしたがってR配置かS配置であるかを表示することができる。
図1に示されるように、一般式[I]で表される化合物は、温度40℃において、キラルカラムにより約1:1の比で、安定に、かつ明確に分離される2つの化合物を包含していることが明らかになっている。そして、分取された2つの化合物は、機器分析において同じ挙動を示すことから、キラル中心による中心性キラリティーによる2種の立体異性体であると考えられた。そして、本発明の第1成分として命名されている立体異性体は、結晶構造解析を通じてR配置であることが確認されている。
本明細書では、一般式[I]で表される化合物の一つである式[IV]の化合物を、キラムカラム(CHIRALPAK AD-H(ダイセル製)0.46cmI.D.×25cmL.)により、40℃で、移動相としてMeOH/MeCN/DEA=90/10/0.1(v/v)を用い流速1.0mL/分で流出させたとき、7分から9分あたり(リテンションタイムは約8.1分)で溶出されてくる成分を第1成分(又は、単に化合物(A)ということもある。)と称し、次いで10分から13分あたり(リテンションタイムは約11.4分)で流出してくる成分を第2成分(又は、単に化合物(B)ということもある。)と称することとした。前記第1成分及び前記第2成分は、図2及び図3に示されるように分取でき、単離されたことは明らかであるところ、第1成分である化合物(A)は前記のとおり(R)体の異性体であり、第2成分である化合物(B)は(S)体の異性体である。なお、キラル中心に関する考察は特許文献7にも記載されている。
【0054】
(4)本発明の光学活性1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の塩や溶媒和物
本発明の1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体は、塩基性の窒素原子を有しているので、この位置において、酸付加塩を形成させることができる。この酸付加塩を形成させるための酸としては、薬学的に許容されるものであれば特に制限はない。本発明の好ましい酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩又は硝酸塩等の無機酸付加塩;シュウ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩又はアスコルビン酸塩等の有機酸付加塩;アスパラギン酸塩又はグルタミン酸塩等のアミノ酸付加塩などが挙げられる。また、本発明の化合物又はその酸付加塩は、水和物のような溶媒和物であってもよい。
【0055】
(5)本発明の光学活性1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド誘導体の光学異性体第1成分の製造方法
本発明の光学異性体の第1成分の化合物は、一般式[I]で表される化合物をキラルカラムなどを用いた分離方法で分離し、分取することにより製造することができる。
一般式[I]で表される化合物は、特許文献6に記載の方法により一般式[III]で表される化合物を酸化することで製造することができる。
【0056】
【化3】
【0057】
(式中、Rは水素原子又は水酸基を表わす。)
より詳細には、例えば、次の反応式における式[V]で表される化合物を適当な酸化剤で酸化することにより式[Ia]で表されるオキシド体を製造することができる。酸化剤としては、過酸、例えば、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)などを使用することができる。溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などを適宜使用することができる。反応温度はスルホンまでの酸化を防止するために低温、例えば、0℃から5℃程度が好ましい。反応混合物から、抽出操作やクロマトグラフィーや蒸留などの公知の分離精製手段により、目的物を分離精製することができる。
【0058】
【化5】
【0059】
化合物[V]の4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピンのヘテロ環の硫黄を、クロロホルム(CHCl)溶媒中で、酸化剤のメタクロロ過安息香酸(mCPBA)により、酸化することにより製造することができる。
上記の反応経路により、式[V]で示される塩酸塩をクロロホルム溶媒中で、酸化剤のメタクロロ過安息香酸(mCPBA)により酸化することにより製造された化合物[Ia]の4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドは、移動相としてクロロホルム-メタノール混合液を使用して、シリカゲルクロマトグラフィーにより分離し、次いで、分離されたクロロホルム-メタノール共沸溶媒から溶媒を留出し、さらにアルゴン中で残留溶媒を駆出して最終製品とする。このようにして得られた前記式[Ia]で示される化合物は、90%以上の純度を有しており、440.61の分子量を有し、アモルファスであり、室温で酸素及び湿度並びに酸及びアルカリに安定であり、エタノール及びジメチルスルホキシド(DMSO)に易溶であり、皮膚刺激性を有している。また、化合物[Ia]のシュウ酸塩は、530.65の分子量を有し、純度90%以上で、167~168℃の融点を有する結晶であり、水、エタノール及びジメチルスルホキシドに可溶である。H-NMRの室温における測定で、アミド部分における立体異性体が約2:3の割合で存在することが確認されている。
【0060】
また、本発明の一般式[II]で表される化合物のうちの、Rが水酸基である4-{3-[4-(4-ヒドロキシベンジル)ピペリジン-1-イル]プロピオニル}-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシド又はその薬学的に許容される塩は、前記と同様な酸化反応により、必要により水酸基を保護して製造することができる。また、ラット又はイヌに、その母体化合物である1,4-ベンゾチアゼピン誘導体を投与し、得られた尿及び糞に、水を加えてホモジネートし、その上清を、オクタデシル基を化学結合させたシリカゲル(ODS)を用いる逆相カラムを使用して、移動相は、A液として、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)含有の水を用い、B液として、0.1%TFA含有のアセトニトリルを用いて、グラジエント溶離を用いる高速液体クロマトグラフィーにより、保持時間19~22分で成分分離することもできる。分離された成分は、マススペクトロメトリーにより、質量荷電比(m/Z)は457であった。なお、化合物[Ia]も、同様の手法で、グラジエント溶離を用いる高速液体クロマトグラフィーにより、保持時間27~30分で成分分離して得ることができる。
【0061】
また、7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピンを前記同様な方法で酸化して、7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン―1-オキシドとし、これをキラルカラムにより立体異性体を分離して、その一方の鏡像異性体を分取し、これを適当な反応条件でアミド化することにより、本発明の一般式[II]を製造する方法も考えられる。
【0062】
(6)本発明の医薬組成物の投与態様
本発明の一般式[II]で表される化合物の光学異性体第1成分、又はその塩は、尿量の増加、尿中ナトリウム量の増加、尿中カリウム量の増加、及び/又は血清クレアチニン量の低下作用を有し、腎臓機能に対する改善効果を有する。
したがって、本発明の一般式[II]で表される化合物の光学異性体第1成分又はその塩は、医薬組成物の有効成分として使用することができる。本発明の医薬組成物は、経口、経粘膜、経皮、静脈内注射などの経路で投与ができる。
【0063】
(7)本発明の医薬組成物の剤形、製剤化
本発明の医薬組成物を経口投与のための固体組成物にする場合には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤等の剤形が可能である。このような固体組成物においては、一つ又はそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な希釈剤、分散剤又は吸着剤等、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微晶性セルロース、澱粉、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は無水ケイ酸末等と混合され、常法にしたがって製造することができる。
錠剤又は丸剤に調製する場合は、必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシメチルセルロースフタレート等の胃溶性あるいは腸溶性物質のフィルムで皮膜してもよいし、二以上の層で皮膜してもよい。さらに、ゼラチン又はエチルセルロースのような物質のカプセルにしてもよい。
【0064】
経口投与のための液体組成物にする場合は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶解剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等の剤形が可能である。用いる希釈剤としては、例えば精製水、エタノール、植物油又は乳化剤等がある。又、この組成物は希釈剤以外に浸潤剤、懸濁剤、甘味剤、風味剤、芳香剤又は防腐剤等のような補助剤を混合させてもよい。
【0065】
非経口のための注射剤に調製する場合は、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、可溶化剤、懸濁剤または乳化剤を用いる。水性の溶液剤、可溶化剤、懸濁剤としては、例えば注射用水、注射用蒸留水、生理食塩水、シクロデキストリン及びその誘導体、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリエチルアミン等の有機アミン類あるいは無機アルカリ溶液等がある。
水溶性の溶液剤にする場合、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールあるいはオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類等を用いてもよい。又、可溶化剤として、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、蔗糖脂肪酸エステル等の界面活性剤(混合ミセル形成)、又はレシチンあるいは水添レシチン(リポソーム形成)等も用いられる。又、植物油等の非水溶性の溶解剤と、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等からなるエマルジョン製剤にすることもできる。
【0066】
非経口のための剤形として、貼付剤のような経皮吸収剤を採用することもできる。貼付剤のような皮膚外用剤として調製する場合には、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系など任意の形態で調製できる。化合物(A)は水溶性であるので、調製において水に溶解させるか、水に溶解させてから乳化することで好ましく配合させることができるが、調製方法はこれに限定されない。皮膚外用剤は、本発明の効果を損なわない範囲で通常の医薬組成物に配合される成分、例えばアルコール、油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、無機粉末、有機粉末、香料等を任意に配合することができる。また、軟膏のような皮膚外用剤として調製する場合には、親油性、水溶性又はエマルジョンタイプの基剤に化合物(A)を溶解又は分散させることにより調製できる。基剤としては、ワセリン、ラノリン、及びポリエチレングリコールを例として挙げられるが、特に限定されない。
【0067】
投与経路を経粘膜とする場合は、例えば舌下錠等の剤形が可能である。舌下錠の製造は、通常の錠剤を製造する方法において、通常の錠剤よりも低圧で打錠すること等により行うことができる。その他、座剤、腸溶錠、腸溶性カプセル等の経粘膜用の剤形についても、通常の方法による製剤化によって適宜採用することができる。
【0068】
(8)本発明の医薬組成物の投与量
本発明の一般式[II]で表される化合物若しくはその塩は、遊離の化合物として、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、血中濃度10~3000ng/mL、好ましくは20~1500ng/mL、より好ましくは30~1000ng/mLとなるように投与される。投与直後の血中濃度は300ng/mL以上となることが好ましい。このような血中濃度を実現するために、例えば、通常成人一人当たり0.1mg乃至1g、好ましくは1mg乃至1g又は0.1mg乃至0.5gの範囲で、一日一回から数回に分けて経口あるいは非経口投与することができる。本発明の医薬組成物の有効成分である本発明の一般式[II]で表される化合物は、好ましくは一般式[II]で表される化合物の光学異性体第1成分である。さらに好ましくは、光学活性4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドのうちの光学異性体第1成分(化合物(A))である。
【0069】
(9)本発明の医薬組成物の医薬用途
本発明の医薬組成物は、腎機能障害を伴う疾患の症状改善や治療に使用することができる。
腎機能障害を伴う疾患は、その病態や障害部位によって糸球体疾患、腎尿細管間質性疾患、腎不全、腎症、多発性嚢胞腎などとも分類される。糸球体疾患には、急性腎炎症候群、急速進行性腎炎症候群、反復性及び持続性血尿、慢性腎炎症候群、ネフローゼ症候群などの糸球体障害を伴う疾患が含まれる。腎尿細管間質性疾患には、尿細管間質性腎炎(急性、慢性、またはそのいずれとも明示されないもの)などの腎尿細管間質性障害を伴う疾患が含まれる。腎不全には、急性腎不全、及び慢性腎不全が含まれる。腎症には、ウイルス腎症(HBウイルス腎症、HCウイルス腎症、HIV腎症、BKウイルス腎症など)、腎サルコイドーシス、糖尿病性腎症、遺伝性腎症、家族性腎炎、高血圧性腎症、肝腎症候群、NSAID腎症、鎮痛剤性腎症、造影剤腎症、重金属誘発性腎症などが含まれる。これらの疾患はいずれも本発明の医薬組成物の使用対象となり得る。腎機能障害は、急性の疾患であっても、慢性の疾患であっても本発明の医薬組成物の使用対象となる。また、本発明の医薬組成物の好ましい用途として、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、ショック又は出血に起因する腎機能障害、及び、不整脈又は心不全に合併した腎機能障害を例として挙げることができる。
【実施例
【0070】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
式[Ia]で示される化合物の4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン-1-オキシドの製造
反応容器に、30.0gの前記式[V]で示される化合物の4-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピオニル]-7-メトキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1,4-ベンゾチアゼピン塩酸塩を入れ、これに溶媒のクロロホルム(CHCl)800mLを加えて、室温下に攪拌して溶解させる。次いで、反応容器を氷水浴に浸して、容器内温度が0~1℃になるまで冷却した。これに、14.0gのメタクロロ過安息香酸(mCPBA)のクロロホルム(CHCl)600mLの溶液を、反応温度が上昇しないように留意しながら110分の滴下時間で徐々に滴下した。滴下終了後、0~1℃で約20分間攪拌した。
次いで、4.14gのNaSOのHO溶(200mL)を0~5℃で1分間かけて滴下し、滴下終了後、0~5℃で10分間攪拌した。次いで、0~5℃に保冷しながら、1モル/リットルのNaOH水溶液を1分間かけて滴下した。滴下後0~5℃で15~20分間攪拌した。有機層を分液後、水層を600mLのCHClで抽出した。有機層を合わせて、200mLのHOで1回、200mLの飽和食塩水で1回洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥した後、減圧で濃縮した。
濃縮残渣をシリカゲルクロマトグラフィーにより、エタノールで流出させて精製した。目的の化合物は、アモルファス乃至粘性オイル状で13gが得られた。
IR(cm-1) :3452, 2919, 1643, 1594, 1022
H-NMR(CDCl 300MHz): δ
1.1-2.95(17H, m), 3.78(3H, s), 3.86-4.16(2H, m), 4.65(2H, s), 6.8-7.65(8H, m) MS(FD-MS):441(M
【0072】
(実施例2)
本発明の式[IV]で表される化合物の光学異性体第1成分及び第2成分は、次に示す条件で、前記の実施例1で製造した式[Ia]で示される化合物を分離し、分取して製造した。
カラム : CHIRALPAK AD-H(株式会社ダイセル製)
サイズ : 0.46cm I.D. × 25cm L.
移動相 : MeOH/MeCN/DEA=90/10/0.1(v/v)
流速 : 1.0mL/min
温度 : 40℃
検出波長: 245nm
注入量 : 10μL
MeOHはメタノールを、MeCNはアセトニトリルを、DEAはジエチルアミンをそれぞれ示す。
なお、機器としては、
ポンプ : LC-20AD(島津製作所製)
検出器 : SPD-20A(島津製作所製)
オートサンプラー : SIL-20A(島津製作所製)
を用いた。
式[Ia]で示される化合物10gから、各々4gの光学異性体第1成分および第2成分を分取できた。
分取したそれぞれの成分を、前記と同様の条件でカラムクロマトグラフィーにかけた。結果を図2及び図3にそれぞれ示す。
【0073】
(実施例3)
本発明の式[IV]で示される光学異性体第1成分(化合物(A))投与によるイヌ腎機能に対する作用
本発明の化合物(A)の腎機能に及ぼす影響を調べた。
方法:10~12kgビーグル犬(n=4)に、麻酔前投与として、塩酸ケタミン(ケタラール筋注用500mg、50mg/mL、第一三共株式会社)を5mg/kg筋注後、イソフルラン吸入で麻酔した。気管内挿管後、イソフルランを1~5%の範囲で吸入させ、人工換気を実施、気管チューブを挿管して、人工呼吸器に装着した。換気条件10~25mL/kg/strokeおよび10~20stroke/分で行った。下腹部を切開し、両側の尿管にカニュレーションし、持続的に採尿した。排尿が一定化した後、実施例2で得られた光学異性体第1成分である化合物(A)を、生理食塩水に溶解し、0.1mg/kg、0.3mg/kg、1mg/kg、及び3mg/kgと各々、20分間、下肢静脈から累積的に投与した。
採血は化合物[IV]投与開始前、投与終了直後(0分)を起点に、投与終了20分ごとに採血し、また20分ごとに、両側尿管からの尿量、尿中Na 、尿中K、血清クレアチニン値の変化を調べた。1mg/kg、及び3mg/kg投与後の値を対照との比較で有意差が認められるかどうか、paired tで調べた。P<0.05を有意差ありとした。
結果と考察:本発明の式[IV]で表される化合物の光学異性体第1成分である化合物(A)の尿量に及ぼす影響を図4に示す。1mg/kg、及び3mg/kg投与後には、対照と比して、有意な尿量の増加が認められた。また、尿量の増加には用量依存的な傾向が認められた。
本発明の式[IV]で表される化合物の光学異性体第1成分である化合物(A)のナトリウム排泄(尿中ナトリウム量)に及ぼす影響を図5に示す。1mg/kg、及び3mg/kg投与後には、対照と比して、有意なナトリウム排泄量の増加が認められた。また、ナトリウム排泄量の増加には用量依存的な傾向が認められた。
本発明の式[IV]で表される化合物の光学異性体第1成分である化合物(A)のカリウム排泄(尿中カリウム量)に及ぼす影響を図6に示す。1mg/kg、及び3mg/kg投与後には、対照と比して、有意なカリウム排泄量の増加が認められた。
本発明の式[IV]で表される化合物の光学異性体第1成分である化合物(A)の血清クレアチニン値に及ぼす影響を図7に示す。1mg/kg、及び3mg/kg投与後には、対照と比して、有意な血清クレアチニン値の低下が認められた。血清クレアチニン値の低下には用量依存的な傾向が認められた。
【0074】
(実施例4)
本発明の式[IV]で示される光学異性体第1成分(化合物(A))投与によるラット、虚血再灌流障害に対する作用
本発明の化合物(A)の腎臓における虚血再灌流障害に対する作用を調べた。
方法:8週齢、雄SDラット11匹を用い、麻酔下で開腹し、左腎臓、次いで1分後に右腎臓の腎動脈を非外傷性クリップを用いて45分間クランプし、その後再灌流させた。
本発明の式[IV]で示される光学異性体第1成分(化合物(A))塩酸塩を生理食塩水に溶かし、虚血前と再灌流直前後に10分間で、それぞれ4mg/kg(虚血前)、2mg/kg(再灌流前後)、合計で6mg/kgの化合物(A)を投与した。一方、プラセボ群は、化合物(A)塩酸塩の生理食塩水に代えて生理食塩水のみを投与することを除き、全て化合物(A)投与群と同じ処置を行った。第1群(プラセボ群)はn=5、第2群(化合物(A)群)はn=6でそれぞれ実験を行い、結果を群間で比較した。
クレアチニンクリアランス値の算出のため、投与前60分、投与0-8、8-24、及び24-48時間の全尿を各ラットで蓄尿し、尿量及び尿中クレアチニン値を測定した。また、投与前、投与4、8、24及び48時間後に採血し、血漿クレアチニン値を経時的に測定した。これらの測定によって得られた尿量、尿中および血漿クレアチニン値よりクレアチニンクリアランス値を求めた。
統計はDunnett検定によりp<0.05を有意差ありとした。
結果と考察1:化合物(A)のラット虚血再灌流障害実験におけるクレアチニンクリアランスに及ぼす影響を図8に示した。
第1群、第2群の投与前クレアチニンクリアランス値は、それぞれ、54.5±6.9、及び44.2±4.7mL/hrであった。
投与24-48時間後、第1群のクレアチニンクリアランス値は1.6±0.4mL/hrであり、高度な腎機能障害が認められたが、第2群では14.5±5.6mL/hrであり、化合物(A)群ではプラセボ群と比較して有意なクレアチニンクリアランスの改善が認められた。
以上より、化合物(A)は虚血再灌流障害によるクレアチニンクリアランス低下を有意に改善させた。
結果と考察結果2:化合物(A)のラット虚血再灌流障害実験における血漿クレアチニン値に及ぼす影響を図9に示した。
第1群、第2群の投与前血漿クレアチニン値は、それぞれ、0.29±0.01、及び0.27±0.01mg/dLであった。
投与48時間後の血漿クレアチニン値は、第1群で6.07±0.36mg/dL、第2群で3.02±0.82mg/dLであり、化合物(A)群の血漿クレアチン値はプラセボ群のそれと比較して有意に低値であった。また、投与8時間後の血漿クレアチニン値において、化合物(A)群とプラセボ群との間で有意な差が認められた。
以上より、化合物(A)は虚血再灌流障害による血漿クレアチニン値増加を有意に改善させた。
【0075】
(実施例5)
本発明の式[IV]で示される光学異性体第1成分(化合物(A))投与によるヒト腎機能に対する作用
成人(男性)に、化合物(A)投与前に完全排尿させた後、化合物(A)を投与した。試験は2重盲検により行われた。
方法:化合物(A)0mg/kg投与群(プラセボ群:8名)、化合物(A)0.05mg/kg投与群(6名)、及び、化合物(A)0.15mg/kg投与群(6名)からなる3群を構成させた。化合物(A)の塩酸塩を生理食塩水に溶解し、20分間で、2.5mL/分の速度で静脈内投与した。投与直後~投与8時間後までの尿量と、投与直後の最大血漿中濃度を測定した。
結果と考察:投与直後~投与8時間後までの尿量と、投与直後の最大血漿中濃度の測定値を図10に示す。投与0~8時間の総尿量は、プラセボ群 459.8(±184.1)mL、化合物(A)0.05mg/kg投与群 545.2(±362.1)mL、化合物(A)0.15mg/kg投与群 914.2(±431.0)mLであった。化合物(A)0.15mg/kg投与群では、プラセボ群に対して有意(p<0.05)な尿量増加が認められた。化合物(A)0.15mg/kg投与群では、プラセボ群に対して約2倍に尿量が増加していた。
投与直後の化合物(A)の血中濃度は、化合物(A)0.15mg/kg投与群において349.3±93.7ng/mLであった。この結果から、化合物(A)は、ヒトにおいても尿量を増加させることが明らかとなった。
化合物(A)0.05mg/kg投与群では、プラセボ群に対して有意(p<0.05)な尿量増加が認められたことから、化合物(A)は投与直後に300ng/mL以上、より好ましくは300ng/mL以上となるように、たとえば300ng/mL~1500ng/mL、好ましくは350ng/mL~1000ng/mLとなるように投与することが望ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
尿量の増加、尿中ナトリウム量の増加、尿中カリウム量の増加、及び/又は血清クレアチニン量の低下作用を有し、腎機能障害の改善に有用な医薬組成物を提供するものであり、製薬分野や医薬分野において有用であり、産業上の利用可能性を有している。
図1
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